白色LEDの製造装置と方法
【課題】 混色により白色となる2色以上の発光部を、単一の発光層内に、任意の面積比率で緻密に形成することができる白色LEDの製造装置と方法を提供する。
【解決手段】 基板上に有機金属気相成長法又は分子線エピタキシー法により結晶を成長させる結晶成膜装置10と、基板表面に加熱用レーザ光21を照射する加熱レーザ照射装置20とを備える。加熱用レーザ光21は、成長基板のバンドギャップより大きいエネルギー範囲の波長を有する。加熱レーザ照射装置20は、加熱用レーザ光21を基板2上で1次元もしくは2次元的に照射するレーザ照射光学装置23を備え、基板上の一部に加熱用レーザ光を局所的に照射し、発光層成膜時に、同一発光層1に混色により白色となる複数の発光部1a,1b,1cを形成する。
【解決手段】 基板上に有機金属気相成長法又は分子線エピタキシー法により結晶を成長させる結晶成膜装置10と、基板表面に加熱用レーザ光21を照射する加熱レーザ照射装置20とを備える。加熱用レーザ光21は、成長基板のバンドギャップより大きいエネルギー範囲の波長を有する。加熱レーザ照射装置20は、加熱用レーザ光21を基板2上で1次元もしくは2次元的に照射するレーザ照射光学装置23を備え、基板上の一部に加熱用レーザ光を局所的に照射し、発光層成膜時に、同一発光層1に混色により白色となる複数の発光部1a,1b,1cを形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一の発光層で白色発光が可能な白色LEDの製造装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白色発光が可能な白色LEDは、ワン・チップ型とマルチ・チップ型に大別することができる。
【0003】
ワン・チップ型白色LEDは、青色LED又は紫外LEDと蛍光体を組み合わせ、青色LED又は紫外LEDを励起用光源として用い、蛍光体を励起して白色光を得るものであり、特許文献1〜3に開示されている。
しかし、ワン・チップ型白色LEDは、自然光に近い演色性に優れた白色光を得られるが、赤、青、緑の3原色からなる白色ではないため、色の再現性が悪く、ディスプレイなどの画像表示機器用の白色光としては性能的に不十分であった。また、LED(発光ダイオード)のほかに蛍光体が必要であり、白色LEDが大型化する。さらに、LEDの発光特性にマッチした蛍光体の製造が困難である、等の問題点があった。
【0004】
一方、マルチ・チップ型白色LEDは、2色以上のLEDを1つのチップに組み込んで同時に発光させ、それらの光を混合して白色光を得るものである。マルチ・チップ型白色LEDは、2色以上から白色光が得られるため、色純度の高い白色光を得ることができる特徴がある。
マルチ・チップ型白色LEDは、例えば、特許文献4〜6に開示されている。
【0005】
特許文献4は、3色LEDの原価低減と小型化を図ることを目的としている。
そのためこの文献では、図10に示すように、3色LED50は、絶縁基板51上に一組の赤色LED素子58a,緑色LED素子58b,青色LED素子58cが近接して形成される。各色のLED素子は基板51上に形成されたIII族元素の窒化物半導体より成るバッファ層55と、その上のpn接合されたIII族元素の窒化物半導体層56,57を有する。pn接合半導体層は各色によってIII族元素の組織化が異なる。例えば赤色素子のpn接合層はInx・Ga(1−x)・N(x=1.0)とされ、緑色素子ではInx・Ga(1−x)・N(x≒0.4)とされ、青色素子ではInx・Ga(1−x)・N(x≒0.1)とされるものである。
【0006】
特許文献5は、単一層領域から異なる発光スペクトルピークを発光可能な発光素子を目的とする。
そのため、この文献では、図11に示すように、p型窒化物半導体67とn型窒化物半導体66との間に少なくともInとGaを含有する窒化物半導体の発光層61を有する発光素子である。特に、発光層61は単一層内でInの組成比が異なる複数の混晶領域を有する発光素子である。
【0007】
特許文献6は、液晶用バックライトや表示関連機器用として性能的に十分な色再現性が良い白色光を発光することができる窒化物半導体発光素子を目的とする。
そのため、この文献では、図12に示すように、基板71上に、窒化物半導体からなるn型層、活性層、及びp型層が積層されてなる窒化物半導体発光素子において、互いにバンドギャップエネルギーの異なる複数の活性層75、77、79の間に、n型ドーパントとp型ドーパントが共にドープされたキャリア発生層76、78を形成する。複数の活性層75、77、79は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)を発光する3つの活性層であり、そのバンドギャップエネルギーは基板71に近いものほど小さくなっている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−127988号公報、「白色発光装置」
【特許文献2】特開2003−306674号公報、「白色LED用蛍光体とそれを用いた白色LED」
【特許文献3】特開2005−8844号公報、「蛍光体及びそれを用いた発光装置」
【特許文献4】特開平11−121811号公報、「3色LEDとそれを用いた表示パネル及び表示装置と製法」
【特許文献5】特許第3511923号公報、「発光素子」
【特許文献6】特開2006−303259号公報、「窒化物半導体発光素子と窒化物半導体の成長方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献4の3色LEDは、各色のpn接合される半導体材料を共通のIII族元素(In,Ga,Al等)の窒化物を用い、その組成比を変えることによってR,G,Bの各色を発光させると共に、絶縁基板にサファイア等を用いて共用化を図っている。
しかし、特許文献4の3色LEDの製造方法は、R,G,Bの各色のLEDをエッチング除去して形成したホールに順次形成するので、エッチング工程と成膜工程を繰り返す必要があり、製造工程が複雑である。また、各色のLEDをエッチングで区分する必要があるため緻密化が困難である問題点があった。
【0010】
特許文献5の発光素子の製造方法は、発光層の成長時に、発光層が、単一層内から混色により白色となる複数の発光スペクトルピークを発光し、且つ、短波長側の発光スペクトルの半値幅が、より長波長側の発光スペクトルの半値幅よりも狭く、且つ、短波長側の発光スペクトルピーク強度が、より長波長側の発光スペクトルピーク強度よりも低いピーク強度比を有するものとなるように、原料ガス中のH2分圧を高くものである。
しかし、この特許文献5の製造方法は、発光層が単一量子井戸構造の場合、組成不安定領域の形成を利用するため、原理的に2色の発光しかできない。また、発光層が多層量子井戸構造の場合には、原理的には3色の発光が可能であるが、各層毎に原料ガス中のH2分圧を変化させてそれぞれ独立した条件で成膜するため、製造工程が複雑になる問題点があった。
【0011】
特許文献6の窒化物半導体の成長方法は、互いにバンドギャップエネルギーの異なる複数の活性層の間に、n型ドーパントとp型ドーパントが共にドープされたキャリア発生層を形成するため、各層毎にそれぞれ独立した条件で成膜するため、製造工程が複雑になる問題点があった。
【0012】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、少ない製造工程で、混色により白色となる2色以上の発光部を、単一の発光層内に、任意の面積比率で緻密に形成することができる白色LEDの製造装置と方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、基板上に有機金属気相成長法又は分子線エピタキシー法により結晶を成長させる結晶成膜装置と、基板表面に加熱用レーザ光を照射する加熱レーザ照射装置とを備え、
前記加熱用レーザ光は、成長基板のバンドギャップより大きいエネルギー範囲の波長を有し、
加熱レーザ照射装置は、前記加熱用レーザ光を基板上で1次元もしくは2次元的に照射するレーザ照射光学装置を備え、
発光層成膜時に、基板上の一部に前記加熱用レーザ光を局所的に照射して、同一発光層に混色により白色となる複数の発光部を形成する、ことを特徴とする白色LEDの製造装置が提供される。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記レーザ照射光学装置は、前記加熱用レーザ光を1次元もしくは2次元的に走査するガルバノミラーからなるレーザ走査ミラーと、基板上に前記加熱用レーザ光を集光するfθレンズとからなる。
また、別の好ましい実施形態によれば、前記レーザ照射光学装置は、前記加熱用レーザ光を1次元もしくは2次元的にスポット状のビーム群を形成する回折光学素子からなる。
【0015】
また、基板表面に表面反応を促進する反応促進用レーザ光を照射する反応促進レーザ照射装置を備え、
該反応促進用レーザ光は、成長表面の反応を促進させるため、成長層が吸収する波長を有し、前駆体を励起・分解して結晶膜を成長させるエネルギーに相当する波長のレーザ光である。
【0016】
また本発明によれば、窒化アルミニウムインジウムガリウムを発光層とする白色LEDの製造方法であって、
単一の発光層を2以上の発光部に区分し、各発光部の組成を、混色により白色となるように設定し、
同一の成膜条件において、前記2以上の発光部を成膜できる複数の処理温度を設定し、
有機金属気相成長法又は分子線エピタキシー法により前記発光層を形成する際に、基板の加熱温度を前記処理温度の最低温度又はそれ以下に設定し、
前記発光部の一部又は全部に、加熱用レーザ光を照射し、局所的に基板の温度を上昇させる、ことを特徴とする白色LEDの製造方法が提供される。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記発光層が吸収する波長を有し、前駆体を励起・分解して結晶膜を成長させるエネルギーに相当する波長の反応促進用レーザ光を、基板に照射し、成長表面の反応を促進させる、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
窒化物半導体の発光層(AlInGaNの組成で形成される)を成長させる場合、後述するように、成長温度を変化させるとInGaN層のInの組成(モル分率)が減少することを、本発明の発明者らは基礎研究において確認している。
すなわち組成が例えば、Inモル分率0.4の場合に赤色を発光し、Inモル分率0.3では緑色が発光する。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0019】
すなわち、上記本発明の装置および方法によれば、
結晶成膜装置により、有機金属気相成長法又は分子線エピタキシー法により前記発光層を形成する際に、基板の加熱温度を前記処理温度の最低温度又はそれ以下に設定し、
加熱レーザ照射装置を用いて、前記発光部の一部又は全部に、加熱用レーザ光を照射し、局所的に基板の温度を上昇させるので、
同一の成膜条件において、同一の発光層内に2以上の発光部を複数の処理温度で区分して成膜でき、各発光部の組成が処理温度に依存した組成となる。
従ってこの装置および方法により、少ない製造工程で、混色により白色となる2色以上の発光部を、単一の発光層内に、任意の面積比率で緻密に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明により製造される白色LEDの模式的断面図である。
この図において、発光層1は、発光層1は、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlxInyGa1−x-yN:0≦x≦1、0≦y≦1)の単一量子井戸構造からなる。
以下、AlxInyGa1−x-yNを単にAlInGaNと記載する。
また、以下、発光層1が窒化インジウムガリウムInGaNである場合について主に説明するが、AlInGaNにも同様に本発明を適用することができる。
【0022】
図1において、単一の発光層1は、2以上の発光部1a,1b,1cに区分され、各部分1a,1b,1cのInモル比率は、混色により白色となるように設定されている。
【0023】
またこの図において、2は基板、3はGaNからなるバッファ層、4はn−GaNからなるn型層、5はp−AlGaNからなるp型クラッド層、6はp−GaNからなるp型コンタクト層、7はn型電極、8はp型電極である。
これらの各層は、有機金属気相成長法(MOCVD)又は分子線エピタキシー法(MBE)により成長形成される。
【0024】
基板2は、好ましくはサファイア基板であるが、他にシリコン、SiC等を用いることができる。また、バッファ層3は、この例ではGaNであるが、他にGaAlN、AlN、AlInN等で構成することができる。
【0025】
p型電極8にはニッケル(Ni)や金(Au)等の金属を用いることができ、n型電極7にはアルミニウム(Al)やチタン(Ti)等の金属を用いることができる。
【0026】
上述した構成により、p型電極8を+、n型電極7を−に印加することにより、単一の発光層1の2以上の発光部1a,1b,1cを異なる波長で発光させ、その混色により白色光を発光させることができる。
【0027】
図2は、AlInGaNのバンドギャップエネルギーを示す図である。
この図における縦軸はバンドギャップエネルギーE(eV)であり、その位置に相当するAlInGaNが発生する光の波長λ(μm)とは、式(1)の関係がある。
E(eV)=1.24/λ(μm)・・・(1)
【0028】
この図から、AlおよびInモル比率を変化させることにより、任意の可視光(例えば赤色、緑色、青色)を発光できることがわかる。
【0029】
図3は、InGaN中のInのモル分率とバンドギャップエネルギーとの関係図である。
この図からも、InGaN中のInのモル分率を変化させることにより、任意の可視光を発光できることがわかる。
【0030】
図4は、InGaNの発光層中のInモル比率と発光波長との関係図である。
この図から、例えば赤色、緑色、青色の波長範囲をそれぞれ0.64〜0.77μm、0.49〜0.55μm、0.43〜0.49μmとすると、Inモル比率をそれぞれ0.4前後、0.3前後、0.2前後にすればよいことがわかる。なおこの比率は一例であり、任意に調整することができる。
【0031】
図5は、ある成膜条件における成膜温度と発光層中のInモル比率との関係図である。
この図から、同一の成膜条件において成膜温度を変化させることにより、発光層中のInモル比率を変えることができることがわかる。
【0032】
図6は、本発明による白色LED製造装置の模式図である。
この図において、本発明の白色LED製造装置は、基板2上に有機金属気相成長法(MOCVD)又は分子線エピタキシー法(MBE)により結晶を成長させる結晶成膜装置10と、基板表面に加熱用レーザ光21を照射する加熱レーザ照射装置20と、基板表面に表面反応を促進する反応促進用レーザ光31を照射する反応促進レーザ照射装置30とを備える。
【0033】
結晶成膜装置10は、反応容器12、基板移動装置14及びガス導入装置16を備える。
【0034】
反応容器12は、内部に基板2を収容し、排気装置(例えば真空ポンプ:図示せず)及びガス導入装置16により内部を所定の圧力及びガス雰囲気に調整できる気密容器である。内部圧力は、成長させる半導体結晶膜に応じて加圧又は減圧するようになっている。
また、反応容器12の一部(この例では上部)に、加熱用レーザ光21と反応促進用レーザ光31を通すレーザ光透過窓13が気密に設けられている。
【0035】
基板移動装置14は、反応容器12の内部において、基板2を保持し、図示しない駆動装置によって基板2を水平移動するようになっている。この例では、複数の基板2が基板移動装置14の上面に水平に載せられ、水平面内において旋回又は平行移動するようになっている。
また、基板2は、反応容器12内で図示しない温度調節手段(例えばヒータ)により所定温度(例えば600℃)に保持される。基板2は好ましくはサファイアであるが、他にSi、SiCであっても良い。
【0036】
ガス導入装置16は、成長させるべき窒化物半導体膜の種類に応じた前駆体を供給する。
InGaNを成長させる場合には、供給するガスは、In(インジウム),Ga(ガリウム),N(窒素)の前駆体である。
GaNを成長させる場合には、供給するガスは、Ga、Nの前駆体である。
AlInGaNを成長させる場合には、供給するガスは、Al、Ga、In、Nの前駆体である。
Inの前駆体としてはTMI(トリメチルインジウム)、Gaの前駆体としてはTMG(トリメチルガリウム)あるいはTEG(トリエチルガリウム)、Nの前駆体としてはアンモニア、N2H2(ヒドラジン)又はTMNH2(トリメチルアミン)を使用することができる。
【0037】
また、p型又はn型の窒化物半導体を成長させる場合には、ガス導入装置16は、上述した窒化物半導体の前駆体とともに、p型ドーパントとn型ドーパントの一方又は双方を反応容器内に供給する。
n型ドーパントにはC、Si、Ge、Te、Seを用いることができ、p型ドーパントにはMg、Be、Zn、Ca、Sr、Cdを用いることができる。
【0038】
加熱レーザ照射装置20は、レーザ発生装置22とレーザ照射光学装置23からなり、基板表面に加熱用レーザ光21を照射する。レーザ照射光学装置23は、この例では、レーザ走査ミラー24とfθレンズ26からなる。
【0039】
レーザ発生装置22は、CW(連続発振)のレーザもしくは高パルスの擬似CWレーザであることが望ましい。かかるレーザ発生装置22としては、He−Neレーザ、Arレーザ、エキシマレーザ等を用いることができる。
また、CWのレーザを音響光学素子や電気光学素子により、パルス状に照射することで、上昇温度を制御してもよい。
【0040】
図7は、本発明によるレーザ照射光学装置23によるレーザ走査説明図である。
この図において、レーザ走査ミラー24は、2台のガルバノミラーからなり、加熱用レーザ光21を基板2に平行な2方向x、yに2次元的に走査するようになっている。
また、fθレンズ26は、基板2における歪曲特性がy=f・θ・・・(2)となっているレンズであり、基板上に加熱用レーザ光21を集光し、かつレーザ走査ミラー24の揺動角度θと焦点距離fの積yを基板2上の変位とすることができる。
かかるfθレンズは2枚のレンズ面の曲率を変えることにより、レンズ周辺部と中心部で走査速度が一定になるように設計されている。
【0041】
上述した加熱レーザ照射装置20の構成により、発光層1の成膜時に、成長基板2(具体的にはn型層4)が吸収する波長を有する加熱用レーザ光21を基板2に照射し、局所的に基板2の温度を上昇させることができる。
なおこの温度上昇は、発光する波長に対応する組成のInGaNが成長するようにレーザの出力、照射時間等を調整する。
【0042】
図6において、反応促進レーザ照射装置30は、レーザ発生装置32及びレーザ走査ミラー34を備え、基板表面に表面反応を促進する反応促進用レーザ光31を照射する。
反応促進用レーザ光31は、エキシマレーザやYAGレーザ等の高出力パルスレーザが好適であるが、成長表面の反応を促進させるため、成長層が吸収する波長を有し、前駆体を励起・分解して結晶膜を成長させることができるエネルギーに相当する波長のレーザ光を出射できるものであればこれに限定されない。
なお、基板全面に均一に反応促進用レーザ光31を照射するため、均一化する光学系などにより均一化されたビームで照射することが望ましい。
【0043】
図8は、ガス組成中のIn/Gaモル比率と発光層中のInモル比率との関係図である。この図において、横軸は発光層成膜時のガス組成中のIn/Gaのモル比率であり、縦軸は発光層中のInモル分率である。また図中の各線は各成膜温度における理論値であり、○●□は実験値である。
この図から、成膜時のガス組成中が一定の場合(例えば図でIn/Gaのモル比率が0.5の場合)でも、成膜温度を変えることにより、発光層中のInモル分率を変化させることができることがわかる。
【0044】
次に、本発明による白色LEDの製造方法を説明する。
本発明の製造方法では、図1に示したように、単一の発光層1を、2以上の発光部1a,1b,1cに区分し、各部分1a,1b,1cのInモル比率を、混色により白色となるように設定する。
例えば、発光部1a,1b,1cがそれぞれ赤色、緑色、青色を発光する場合、図4からInモル比率をそれぞれ0.4前後、0.3前後、0.2前後に設定すればよいことがわかる。
各部分1a,1b,1cの大きさは、レーザ光の走査により実現できる限りで任意であり、直径1μm以下であるのが好ましいが、直径1mm以上であってもよい。
また、各部分1a,1b,1cの面積比率は、各部分の発光強度に応じて、混色により白色となる限りで、任意に設定するのがよい。
【0045】
次に、上記各Inモル比率を成膜できる処理温度を図5又は図8から設定する。
例えば、Inモル比率が0.4前後、0.3前後、0.2前後に対し、図5から発光部1a,1b,1cの処理温度をそれぞれ約650℃、約675℃、約720℃に設定する。
【0046】
有機金属気相成長法(MOCVD)又は分子線エピタキシー法(MBE)により発光層1を形成する際に、基板2の加熱温度を上記処理温度の最低温度(例えば650℃)に設定する。
なお、この最低温度を700℃以上にすると、Inが凝集してドロップレットを形成したり、相分離が起こるため、処理温度の最低温度は700℃以下が望ましい。
この構成により、加熱用レーザ光21が照射されない領域1aは、例えば赤発光のIn組成(Inモル比率が0.4前後)のInGaN層が成長する。
【0047】
なお、基板2の加熱温度を上記処理温度の最低温度(例えば650℃)より低く設定し、加熱用レーザ光21を照射して最低温度に達するようにしてもよい。
【0048】
さらに、本発明の方法では、発光部1a,1b,1cの一部又は全部(例えば、最低温度以外の処理温度部分、すなわち緑色、青色を発光する発光部1b,1c)に、加熱用レーザ光21を照射し、局所的に基板2の温度を上昇させる。
この際、緑色を発光する発光部1bは、約675℃まで加熱して、Inモル比率を0.3前後まで下げる。また、青色を発光する発光部1cは、約720℃まで加熱して、Inモル比率を0.2前後まで下げる。
また、基板2の加熱温度を処理温度の最低温度(例えば650℃)より低く設定した場合には、発光部1aにも加熱用レーザ光21を照射して最低温度に達するようにする。
なおこの温度上昇は、レーザの出力、照射時間等を調整することにより行うことができる。また、レーザ照射により加熱される領域の温度は700℃を超えても、局所的な加熱であるため、上述したドロップレットや相分離を回避することができる。
【0049】
図9は、本発明により製造した白色LEDの発光層におけるInモル分率の分布を示す模式図である。
上述した本発明の装置及び方法によれば、この図に示すように、窒化物半導体の同一の発光層内に例えば赤、緑、青の3色が発光する領域を形成させ、色純度の高い白色光を得ることができる。また、青色、黄色発光領域を同一発光層に形成させれば、演色性の高い白色光を得ることができる。
【0050】
また、本発明による白色LEDの発光層1は、好ましくは赤、緑、青の3色を発光する3つの発光部1a,1b,1cを有するので、これらの発光部1a,1b,1cからの発光の混色により得られる白色光は、色再現性が良く、液晶用バックライトや表示関連機器用として性能的に十分な色再現性をもつ窒化物半導体発光素子が得られる。
【0051】
また、上述した発光層1を形成した後に、さらに、急速熱アニール(RTA:Rapid Thermal Anneal)を行っても良い。このように、発光層1を形成し、かつ、RTAを行うことにより、発光層1の発光プロファイルをブロード化することができ、これにより、一般照明用の白色光に要求されている自然光に近い演色性の良い白色光を発光することができる白色LEDが得られる。
【0052】
上述したように、窒化物半導体の発光層(AlInGaNの組成で形成される)を成長させる場合、成長温度を変化させるとInGaN層のInモル分率が減少する。
この特性を利用して、本発明では、組成の最も高いInGaNを成長させるための成長条件(原料ガス濃度、基板温度)で成長させながら、基板面にCWレーザを局所的(必要な場所)に照射して、照射部分のみを温度上昇させて、In組成を減少させることで、レーザ照射された部分とされない部分において異なる発光波長を有する発光層を形成する。
例えば、青色発光の発光層と黄色発光の発光を形成することにより、白色発光の発光層を同一面内に形成することができる。
【0053】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更の加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、窒化インジウムガリウムについて詳述したが、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlxInyGa1−x-yN:0≦x≦1、0≦y≦1)にも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明により製造される白色LEDの模式的断面図である。
【図2】窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlxInyGa1−x-yN:0≦x≦1、0≦y≦1)の光のエネルギーを示す図である。
【図3】InGaN中のInのモル分率とバンドギャップエネルギーとの関係図である。
【図4】発光層中のInモル比率と発光波長との関係図である。
【図5】成膜温度と発光層中のInモル比率との関係図である。
【図6】本発明による白色LED製造装置の模式図である。
【図7】本発明によるレーザ照射光学装置によるレーザ走査説明図である。
【図8】ガス組成中のIn/Gaモル比率と発光層中のInモル比率との関係図である。
【図9】本発明による白色LEDの発光層におけるInモル分率の分布を示す模式図である。
【図10】特許文献4の3色LEDの模式図である。
【図11】特許文献5の発光素子の模式図である。
【図12】特許文献6の発光素子の模式図である。
【符号の説明】
【0055】
1 発光層、1a,1b,1c 発光部、
2 基板、3 バッファ層、4 n型超格子層、
5 p型クラッド層、6 p型コンタクト層、
7 n型電極、8 p型電極、
10 結晶成膜装置、
12 反応容器、13 レーザ光透過窓、
14 基板移動装置、16 ガス導入装置、
20 加熱レーザ照射装置、
21 加熱用レーザ光、22 レーザ発生装置、
23 レーザ照射光学装置、24 レーザ走査ミラー、
26 fθレンズ、
30 反応促進レーザ照射装置、
31 反応促進用レーザ光、32 レーザ発生装置、
34 レーザ走査ミラー
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一の発光層で白色発光が可能な白色LEDの製造装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白色発光が可能な白色LEDは、ワン・チップ型とマルチ・チップ型に大別することができる。
【0003】
ワン・チップ型白色LEDは、青色LED又は紫外LEDと蛍光体を組み合わせ、青色LED又は紫外LEDを励起用光源として用い、蛍光体を励起して白色光を得るものであり、特許文献1〜3に開示されている。
しかし、ワン・チップ型白色LEDは、自然光に近い演色性に優れた白色光を得られるが、赤、青、緑の3原色からなる白色ではないため、色の再現性が悪く、ディスプレイなどの画像表示機器用の白色光としては性能的に不十分であった。また、LED(発光ダイオード)のほかに蛍光体が必要であり、白色LEDが大型化する。さらに、LEDの発光特性にマッチした蛍光体の製造が困難である、等の問題点があった。
【0004】
一方、マルチ・チップ型白色LEDは、2色以上のLEDを1つのチップに組み込んで同時に発光させ、それらの光を混合して白色光を得るものである。マルチ・チップ型白色LEDは、2色以上から白色光が得られるため、色純度の高い白色光を得ることができる特徴がある。
マルチ・チップ型白色LEDは、例えば、特許文献4〜6に開示されている。
【0005】
特許文献4は、3色LEDの原価低減と小型化を図ることを目的としている。
そのためこの文献では、図10に示すように、3色LED50は、絶縁基板51上に一組の赤色LED素子58a,緑色LED素子58b,青色LED素子58cが近接して形成される。各色のLED素子は基板51上に形成されたIII族元素の窒化物半導体より成るバッファ層55と、その上のpn接合されたIII族元素の窒化物半導体層56,57を有する。pn接合半導体層は各色によってIII族元素の組織化が異なる。例えば赤色素子のpn接合層はInx・Ga(1−x)・N(x=1.0)とされ、緑色素子ではInx・Ga(1−x)・N(x≒0.4)とされ、青色素子ではInx・Ga(1−x)・N(x≒0.1)とされるものである。
【0006】
特許文献5は、単一層領域から異なる発光スペクトルピークを発光可能な発光素子を目的とする。
そのため、この文献では、図11に示すように、p型窒化物半導体67とn型窒化物半導体66との間に少なくともInとGaを含有する窒化物半導体の発光層61を有する発光素子である。特に、発光層61は単一層内でInの組成比が異なる複数の混晶領域を有する発光素子である。
【0007】
特許文献6は、液晶用バックライトや表示関連機器用として性能的に十分な色再現性が良い白色光を発光することができる窒化物半導体発光素子を目的とする。
そのため、この文献では、図12に示すように、基板71上に、窒化物半導体からなるn型層、活性層、及びp型層が積層されてなる窒化物半導体発光素子において、互いにバンドギャップエネルギーの異なる複数の活性層75、77、79の間に、n型ドーパントとp型ドーパントが共にドープされたキャリア発生層76、78を形成する。複数の活性層75、77、79は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)を発光する3つの活性層であり、そのバンドギャップエネルギーは基板71に近いものほど小さくなっている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−127988号公報、「白色発光装置」
【特許文献2】特開2003−306674号公報、「白色LED用蛍光体とそれを用いた白色LED」
【特許文献3】特開2005−8844号公報、「蛍光体及びそれを用いた発光装置」
【特許文献4】特開平11−121811号公報、「3色LEDとそれを用いた表示パネル及び表示装置と製法」
【特許文献5】特許第3511923号公報、「発光素子」
【特許文献6】特開2006−303259号公報、「窒化物半導体発光素子と窒化物半導体の成長方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献4の3色LEDは、各色のpn接合される半導体材料を共通のIII族元素(In,Ga,Al等)の窒化物を用い、その組成比を変えることによってR,G,Bの各色を発光させると共に、絶縁基板にサファイア等を用いて共用化を図っている。
しかし、特許文献4の3色LEDの製造方法は、R,G,Bの各色のLEDをエッチング除去して形成したホールに順次形成するので、エッチング工程と成膜工程を繰り返す必要があり、製造工程が複雑である。また、各色のLEDをエッチングで区分する必要があるため緻密化が困難である問題点があった。
【0010】
特許文献5の発光素子の製造方法は、発光層の成長時に、発光層が、単一層内から混色により白色となる複数の発光スペクトルピークを発光し、且つ、短波長側の発光スペクトルの半値幅が、より長波長側の発光スペクトルの半値幅よりも狭く、且つ、短波長側の発光スペクトルピーク強度が、より長波長側の発光スペクトルピーク強度よりも低いピーク強度比を有するものとなるように、原料ガス中のH2分圧を高くものである。
しかし、この特許文献5の製造方法は、発光層が単一量子井戸構造の場合、組成不安定領域の形成を利用するため、原理的に2色の発光しかできない。また、発光層が多層量子井戸構造の場合には、原理的には3色の発光が可能であるが、各層毎に原料ガス中のH2分圧を変化させてそれぞれ独立した条件で成膜するため、製造工程が複雑になる問題点があった。
【0011】
特許文献6の窒化物半導体の成長方法は、互いにバンドギャップエネルギーの異なる複数の活性層の間に、n型ドーパントとp型ドーパントが共にドープされたキャリア発生層を形成するため、各層毎にそれぞれ独立した条件で成膜するため、製造工程が複雑になる問題点があった。
【0012】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、少ない製造工程で、混色により白色となる2色以上の発光部を、単一の発光層内に、任意の面積比率で緻密に形成することができる白色LEDの製造装置と方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、基板上に有機金属気相成長法又は分子線エピタキシー法により結晶を成長させる結晶成膜装置と、基板表面に加熱用レーザ光を照射する加熱レーザ照射装置とを備え、
前記加熱用レーザ光は、成長基板のバンドギャップより大きいエネルギー範囲の波長を有し、
加熱レーザ照射装置は、前記加熱用レーザ光を基板上で1次元もしくは2次元的に照射するレーザ照射光学装置を備え、
発光層成膜時に、基板上の一部に前記加熱用レーザ光を局所的に照射して、同一発光層に混色により白色となる複数の発光部を形成する、ことを特徴とする白色LEDの製造装置が提供される。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記レーザ照射光学装置は、前記加熱用レーザ光を1次元もしくは2次元的に走査するガルバノミラーからなるレーザ走査ミラーと、基板上に前記加熱用レーザ光を集光するfθレンズとからなる。
また、別の好ましい実施形態によれば、前記レーザ照射光学装置は、前記加熱用レーザ光を1次元もしくは2次元的にスポット状のビーム群を形成する回折光学素子からなる。
【0015】
また、基板表面に表面反応を促進する反応促進用レーザ光を照射する反応促進レーザ照射装置を備え、
該反応促進用レーザ光は、成長表面の反応を促進させるため、成長層が吸収する波長を有し、前駆体を励起・分解して結晶膜を成長させるエネルギーに相当する波長のレーザ光である。
【0016】
また本発明によれば、窒化アルミニウムインジウムガリウムを発光層とする白色LEDの製造方法であって、
単一の発光層を2以上の発光部に区分し、各発光部の組成を、混色により白色となるように設定し、
同一の成膜条件において、前記2以上の発光部を成膜できる複数の処理温度を設定し、
有機金属気相成長法又は分子線エピタキシー法により前記発光層を形成する際に、基板の加熱温度を前記処理温度の最低温度又はそれ以下に設定し、
前記発光部の一部又は全部に、加熱用レーザ光を照射し、局所的に基板の温度を上昇させる、ことを特徴とする白色LEDの製造方法が提供される。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記発光層が吸収する波長を有し、前駆体を励起・分解して結晶膜を成長させるエネルギーに相当する波長の反応促進用レーザ光を、基板に照射し、成長表面の反応を促進させる、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
窒化物半導体の発光層(AlInGaNの組成で形成される)を成長させる場合、後述するように、成長温度を変化させるとInGaN層のInの組成(モル分率)が減少することを、本発明の発明者らは基礎研究において確認している。
すなわち組成が例えば、Inモル分率0.4の場合に赤色を発光し、Inモル分率0.3では緑色が発光する。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0019】
すなわち、上記本発明の装置および方法によれば、
結晶成膜装置により、有機金属気相成長法又は分子線エピタキシー法により前記発光層を形成する際に、基板の加熱温度を前記処理温度の最低温度又はそれ以下に設定し、
加熱レーザ照射装置を用いて、前記発光部の一部又は全部に、加熱用レーザ光を照射し、局所的に基板の温度を上昇させるので、
同一の成膜条件において、同一の発光層内に2以上の発光部を複数の処理温度で区分して成膜でき、各発光部の組成が処理温度に依存した組成となる。
従ってこの装置および方法により、少ない製造工程で、混色により白色となる2色以上の発光部を、単一の発光層内に、任意の面積比率で緻密に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明により製造される白色LEDの模式的断面図である。
この図において、発光層1は、発光層1は、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlxInyGa1−x-yN:0≦x≦1、0≦y≦1)の単一量子井戸構造からなる。
以下、AlxInyGa1−x-yNを単にAlInGaNと記載する。
また、以下、発光層1が窒化インジウムガリウムInGaNである場合について主に説明するが、AlInGaNにも同様に本発明を適用することができる。
【0022】
図1において、単一の発光層1は、2以上の発光部1a,1b,1cに区分され、各部分1a,1b,1cのInモル比率は、混色により白色となるように設定されている。
【0023】
またこの図において、2は基板、3はGaNからなるバッファ層、4はn−GaNからなるn型層、5はp−AlGaNからなるp型クラッド層、6はp−GaNからなるp型コンタクト層、7はn型電極、8はp型電極である。
これらの各層は、有機金属気相成長法(MOCVD)又は分子線エピタキシー法(MBE)により成長形成される。
【0024】
基板2は、好ましくはサファイア基板であるが、他にシリコン、SiC等を用いることができる。また、バッファ層3は、この例ではGaNであるが、他にGaAlN、AlN、AlInN等で構成することができる。
【0025】
p型電極8にはニッケル(Ni)や金(Au)等の金属を用いることができ、n型電極7にはアルミニウム(Al)やチタン(Ti)等の金属を用いることができる。
【0026】
上述した構成により、p型電極8を+、n型電極7を−に印加することにより、単一の発光層1の2以上の発光部1a,1b,1cを異なる波長で発光させ、その混色により白色光を発光させることができる。
【0027】
図2は、AlInGaNのバンドギャップエネルギーを示す図である。
この図における縦軸はバンドギャップエネルギーE(eV)であり、その位置に相当するAlInGaNが発生する光の波長λ(μm)とは、式(1)の関係がある。
E(eV)=1.24/λ(μm)・・・(1)
【0028】
この図から、AlおよびInモル比率を変化させることにより、任意の可視光(例えば赤色、緑色、青色)を発光できることがわかる。
【0029】
図3は、InGaN中のInのモル分率とバンドギャップエネルギーとの関係図である。
この図からも、InGaN中のInのモル分率を変化させることにより、任意の可視光を発光できることがわかる。
【0030】
図4は、InGaNの発光層中のInモル比率と発光波長との関係図である。
この図から、例えば赤色、緑色、青色の波長範囲をそれぞれ0.64〜0.77μm、0.49〜0.55μm、0.43〜0.49μmとすると、Inモル比率をそれぞれ0.4前後、0.3前後、0.2前後にすればよいことがわかる。なおこの比率は一例であり、任意に調整することができる。
【0031】
図5は、ある成膜条件における成膜温度と発光層中のInモル比率との関係図である。
この図から、同一の成膜条件において成膜温度を変化させることにより、発光層中のInモル比率を変えることができることがわかる。
【0032】
図6は、本発明による白色LED製造装置の模式図である。
この図において、本発明の白色LED製造装置は、基板2上に有機金属気相成長法(MOCVD)又は分子線エピタキシー法(MBE)により結晶を成長させる結晶成膜装置10と、基板表面に加熱用レーザ光21を照射する加熱レーザ照射装置20と、基板表面に表面反応を促進する反応促進用レーザ光31を照射する反応促進レーザ照射装置30とを備える。
【0033】
結晶成膜装置10は、反応容器12、基板移動装置14及びガス導入装置16を備える。
【0034】
反応容器12は、内部に基板2を収容し、排気装置(例えば真空ポンプ:図示せず)及びガス導入装置16により内部を所定の圧力及びガス雰囲気に調整できる気密容器である。内部圧力は、成長させる半導体結晶膜に応じて加圧又は減圧するようになっている。
また、反応容器12の一部(この例では上部)に、加熱用レーザ光21と反応促進用レーザ光31を通すレーザ光透過窓13が気密に設けられている。
【0035】
基板移動装置14は、反応容器12の内部において、基板2を保持し、図示しない駆動装置によって基板2を水平移動するようになっている。この例では、複数の基板2が基板移動装置14の上面に水平に載せられ、水平面内において旋回又は平行移動するようになっている。
また、基板2は、反応容器12内で図示しない温度調節手段(例えばヒータ)により所定温度(例えば600℃)に保持される。基板2は好ましくはサファイアであるが、他にSi、SiCであっても良い。
【0036】
ガス導入装置16は、成長させるべき窒化物半導体膜の種類に応じた前駆体を供給する。
InGaNを成長させる場合には、供給するガスは、In(インジウム),Ga(ガリウム),N(窒素)の前駆体である。
GaNを成長させる場合には、供給するガスは、Ga、Nの前駆体である。
AlInGaNを成長させる場合には、供給するガスは、Al、Ga、In、Nの前駆体である。
Inの前駆体としてはTMI(トリメチルインジウム)、Gaの前駆体としてはTMG(トリメチルガリウム)あるいはTEG(トリエチルガリウム)、Nの前駆体としてはアンモニア、N2H2(ヒドラジン)又はTMNH2(トリメチルアミン)を使用することができる。
【0037】
また、p型又はn型の窒化物半導体を成長させる場合には、ガス導入装置16は、上述した窒化物半導体の前駆体とともに、p型ドーパントとn型ドーパントの一方又は双方を反応容器内に供給する。
n型ドーパントにはC、Si、Ge、Te、Seを用いることができ、p型ドーパントにはMg、Be、Zn、Ca、Sr、Cdを用いることができる。
【0038】
加熱レーザ照射装置20は、レーザ発生装置22とレーザ照射光学装置23からなり、基板表面に加熱用レーザ光21を照射する。レーザ照射光学装置23は、この例では、レーザ走査ミラー24とfθレンズ26からなる。
【0039】
レーザ発生装置22は、CW(連続発振)のレーザもしくは高パルスの擬似CWレーザであることが望ましい。かかるレーザ発生装置22としては、He−Neレーザ、Arレーザ、エキシマレーザ等を用いることができる。
また、CWのレーザを音響光学素子や電気光学素子により、パルス状に照射することで、上昇温度を制御してもよい。
【0040】
図7は、本発明によるレーザ照射光学装置23によるレーザ走査説明図である。
この図において、レーザ走査ミラー24は、2台のガルバノミラーからなり、加熱用レーザ光21を基板2に平行な2方向x、yに2次元的に走査するようになっている。
また、fθレンズ26は、基板2における歪曲特性がy=f・θ・・・(2)となっているレンズであり、基板上に加熱用レーザ光21を集光し、かつレーザ走査ミラー24の揺動角度θと焦点距離fの積yを基板2上の変位とすることができる。
かかるfθレンズは2枚のレンズ面の曲率を変えることにより、レンズ周辺部と中心部で走査速度が一定になるように設計されている。
【0041】
上述した加熱レーザ照射装置20の構成により、発光層1の成膜時に、成長基板2(具体的にはn型層4)が吸収する波長を有する加熱用レーザ光21を基板2に照射し、局所的に基板2の温度を上昇させることができる。
なおこの温度上昇は、発光する波長に対応する組成のInGaNが成長するようにレーザの出力、照射時間等を調整する。
【0042】
図6において、反応促進レーザ照射装置30は、レーザ発生装置32及びレーザ走査ミラー34を備え、基板表面に表面反応を促進する反応促進用レーザ光31を照射する。
反応促進用レーザ光31は、エキシマレーザやYAGレーザ等の高出力パルスレーザが好適であるが、成長表面の反応を促進させるため、成長層が吸収する波長を有し、前駆体を励起・分解して結晶膜を成長させることができるエネルギーに相当する波長のレーザ光を出射できるものであればこれに限定されない。
なお、基板全面に均一に反応促進用レーザ光31を照射するため、均一化する光学系などにより均一化されたビームで照射することが望ましい。
【0043】
図8は、ガス組成中のIn/Gaモル比率と発光層中のInモル比率との関係図である。この図において、横軸は発光層成膜時のガス組成中のIn/Gaのモル比率であり、縦軸は発光層中のInモル分率である。また図中の各線は各成膜温度における理論値であり、○●□は実験値である。
この図から、成膜時のガス組成中が一定の場合(例えば図でIn/Gaのモル比率が0.5の場合)でも、成膜温度を変えることにより、発光層中のInモル分率を変化させることができることがわかる。
【0044】
次に、本発明による白色LEDの製造方法を説明する。
本発明の製造方法では、図1に示したように、単一の発光層1を、2以上の発光部1a,1b,1cに区分し、各部分1a,1b,1cのInモル比率を、混色により白色となるように設定する。
例えば、発光部1a,1b,1cがそれぞれ赤色、緑色、青色を発光する場合、図4からInモル比率をそれぞれ0.4前後、0.3前後、0.2前後に設定すればよいことがわかる。
各部分1a,1b,1cの大きさは、レーザ光の走査により実現できる限りで任意であり、直径1μm以下であるのが好ましいが、直径1mm以上であってもよい。
また、各部分1a,1b,1cの面積比率は、各部分の発光強度に応じて、混色により白色となる限りで、任意に設定するのがよい。
【0045】
次に、上記各Inモル比率を成膜できる処理温度を図5又は図8から設定する。
例えば、Inモル比率が0.4前後、0.3前後、0.2前後に対し、図5から発光部1a,1b,1cの処理温度をそれぞれ約650℃、約675℃、約720℃に設定する。
【0046】
有機金属気相成長法(MOCVD)又は分子線エピタキシー法(MBE)により発光層1を形成する際に、基板2の加熱温度を上記処理温度の最低温度(例えば650℃)に設定する。
なお、この最低温度を700℃以上にすると、Inが凝集してドロップレットを形成したり、相分離が起こるため、処理温度の最低温度は700℃以下が望ましい。
この構成により、加熱用レーザ光21が照射されない領域1aは、例えば赤発光のIn組成(Inモル比率が0.4前後)のInGaN層が成長する。
【0047】
なお、基板2の加熱温度を上記処理温度の最低温度(例えば650℃)より低く設定し、加熱用レーザ光21を照射して最低温度に達するようにしてもよい。
【0048】
さらに、本発明の方法では、発光部1a,1b,1cの一部又は全部(例えば、最低温度以外の処理温度部分、すなわち緑色、青色を発光する発光部1b,1c)に、加熱用レーザ光21を照射し、局所的に基板2の温度を上昇させる。
この際、緑色を発光する発光部1bは、約675℃まで加熱して、Inモル比率を0.3前後まで下げる。また、青色を発光する発光部1cは、約720℃まで加熱して、Inモル比率を0.2前後まで下げる。
また、基板2の加熱温度を処理温度の最低温度(例えば650℃)より低く設定した場合には、発光部1aにも加熱用レーザ光21を照射して最低温度に達するようにする。
なおこの温度上昇は、レーザの出力、照射時間等を調整することにより行うことができる。また、レーザ照射により加熱される領域の温度は700℃を超えても、局所的な加熱であるため、上述したドロップレットや相分離を回避することができる。
【0049】
図9は、本発明により製造した白色LEDの発光層におけるInモル分率の分布を示す模式図である。
上述した本発明の装置及び方法によれば、この図に示すように、窒化物半導体の同一の発光層内に例えば赤、緑、青の3色が発光する領域を形成させ、色純度の高い白色光を得ることができる。また、青色、黄色発光領域を同一発光層に形成させれば、演色性の高い白色光を得ることができる。
【0050】
また、本発明による白色LEDの発光層1は、好ましくは赤、緑、青の3色を発光する3つの発光部1a,1b,1cを有するので、これらの発光部1a,1b,1cからの発光の混色により得られる白色光は、色再現性が良く、液晶用バックライトや表示関連機器用として性能的に十分な色再現性をもつ窒化物半導体発光素子が得られる。
【0051】
また、上述した発光層1を形成した後に、さらに、急速熱アニール(RTA:Rapid Thermal Anneal)を行っても良い。このように、発光層1を形成し、かつ、RTAを行うことにより、発光層1の発光プロファイルをブロード化することができ、これにより、一般照明用の白色光に要求されている自然光に近い演色性の良い白色光を発光することができる白色LEDが得られる。
【0052】
上述したように、窒化物半導体の発光層(AlInGaNの組成で形成される)を成長させる場合、成長温度を変化させるとInGaN層のInモル分率が減少する。
この特性を利用して、本発明では、組成の最も高いInGaNを成長させるための成長条件(原料ガス濃度、基板温度)で成長させながら、基板面にCWレーザを局所的(必要な場所)に照射して、照射部分のみを温度上昇させて、In組成を減少させることで、レーザ照射された部分とされない部分において異なる発光波長を有する発光層を形成する。
例えば、青色発光の発光層と黄色発光の発光を形成することにより、白色発光の発光層を同一面内に形成することができる。
【0053】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更の加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、窒化インジウムガリウムについて詳述したが、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlxInyGa1−x-yN:0≦x≦1、0≦y≦1)にも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明により製造される白色LEDの模式的断面図である。
【図2】窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlxInyGa1−x-yN:0≦x≦1、0≦y≦1)の光のエネルギーを示す図である。
【図3】InGaN中のInのモル分率とバンドギャップエネルギーとの関係図である。
【図4】発光層中のInモル比率と発光波長との関係図である。
【図5】成膜温度と発光層中のInモル比率との関係図である。
【図6】本発明による白色LED製造装置の模式図である。
【図7】本発明によるレーザ照射光学装置によるレーザ走査説明図である。
【図8】ガス組成中のIn/Gaモル比率と発光層中のInモル比率との関係図である。
【図9】本発明による白色LEDの発光層におけるInモル分率の分布を示す模式図である。
【図10】特許文献4の3色LEDの模式図である。
【図11】特許文献5の発光素子の模式図である。
【図12】特許文献6の発光素子の模式図である。
【符号の説明】
【0055】
1 発光層、1a,1b,1c 発光部、
2 基板、3 バッファ層、4 n型超格子層、
5 p型クラッド層、6 p型コンタクト層、
7 n型電極、8 p型電極、
10 結晶成膜装置、
12 反応容器、13 レーザ光透過窓、
14 基板移動装置、16 ガス導入装置、
20 加熱レーザ照射装置、
21 加熱用レーザ光、22 レーザ発生装置、
23 レーザ照射光学装置、24 レーザ走査ミラー、
26 fθレンズ、
30 反応促進レーザ照射装置、
31 反応促進用レーザ光、32 レーザ発生装置、
34 レーザ走査ミラー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に有機金属気相成長法又は分子線エピタキシー法により結晶を成長させる結晶成膜装置と、基板表面に加熱用レーザ光を照射する加熱レーザ照射装置とを備え、
前記加熱用レーザ光は、成長基板のバンドギャップより大きいエネルギー範囲の波長を有し、
加熱レーザ照射装置は、前記加熱用レーザ光を基板上で1次元もしくは2次元的に照射するレーザ照射光学装置を備え、
発光層成膜時に、基板上の一部に前記加熱用レーザ光を局所的に照射して、同一発光層に混色により白色となる複数の発光部を形成する、ことを特徴とする白色LEDの製造装置。
【請求項2】
前記レーザ照射光学装置は、前記加熱用レーザ光を1次元もしくは2次元的に走査するガルバノミラーからなるレーザ走査ミラーと、基板上に前記加熱用レーザ光を集光するfθレンズとからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の白色LEDの製造装置。
【請求項3】
前記レーザ照射光学装置は、前記加熱用レーザ光を1次元もしくは2次元的にスポット状のビーム群を形成する回折光学素子からなる、ことを特徴とする請求項1に記載の白色LEDの製造装置。
【請求項4】
基板表面に表面反応を促進する反応促進用レーザ光を照射する反応促進レーザ照射装置を備え、
該反応促進用レーザ光は、成長表面の反応を促進させるため、成長層が吸収する波長を有し、前駆体を励起・分解して結晶膜を成長させるエネルギーに相当する波長のレーザ光である、ことを特徴とする請求項1に記載の白色LEDの製造装置。
【請求項5】
窒化アルミニウムインジウムガリウムを発光層とする白色LEDの製造方法であって、
単一の発光層を2以上の発光部に区分し、各発光部の組成を、混色により白色となるように設定し、
同一の成膜条件において、前記2以上の発光部を成膜できる複数の処理温度を設定し、
有機金属気相成長法又は分子線エピタキシー法により前記発光層を形成する際に、基板の加熱温度を前記処理温度の最低温度又はそれ以下に設定し、
前記発光部の一部又は全部に、加熱用レーザ光を照射し、局所的に基板の温度を上昇させる、ことを特徴とする白色LEDの製造方法。
【請求項6】
前記発光層が吸収する波長を有し、前駆体を励起・分解して結晶膜を成長させるエネルギーに相当する波長の反応促進用レーザ光を、基板に照射し、成長表面の反応を促進させる、ことを特徴とする請求項5に記載の白色LEDの製造方法。
【請求項1】
基板上に有機金属気相成長法又は分子線エピタキシー法により結晶を成長させる結晶成膜装置と、基板表面に加熱用レーザ光を照射する加熱レーザ照射装置とを備え、
前記加熱用レーザ光は、成長基板のバンドギャップより大きいエネルギー範囲の波長を有し、
加熱レーザ照射装置は、前記加熱用レーザ光を基板上で1次元もしくは2次元的に照射するレーザ照射光学装置を備え、
発光層成膜時に、基板上の一部に前記加熱用レーザ光を局所的に照射して、同一発光層に混色により白色となる複数の発光部を形成する、ことを特徴とする白色LEDの製造装置。
【請求項2】
前記レーザ照射光学装置は、前記加熱用レーザ光を1次元もしくは2次元的に走査するガルバノミラーからなるレーザ走査ミラーと、基板上に前記加熱用レーザ光を集光するfθレンズとからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の白色LEDの製造装置。
【請求項3】
前記レーザ照射光学装置は、前記加熱用レーザ光を1次元もしくは2次元的にスポット状のビーム群を形成する回折光学素子からなる、ことを特徴とする請求項1に記載の白色LEDの製造装置。
【請求項4】
基板表面に表面反応を促進する反応促進用レーザ光を照射する反応促進レーザ照射装置を備え、
該反応促進用レーザ光は、成長表面の反応を促進させるため、成長層が吸収する波長を有し、前駆体を励起・分解して結晶膜を成長させるエネルギーに相当する波長のレーザ光である、ことを特徴とする請求項1に記載の白色LEDの製造装置。
【請求項5】
窒化アルミニウムインジウムガリウムを発光層とする白色LEDの製造方法であって、
単一の発光層を2以上の発光部に区分し、各発光部の組成を、混色により白色となるように設定し、
同一の成膜条件において、前記2以上の発光部を成膜できる複数の処理温度を設定し、
有機金属気相成長法又は分子線エピタキシー法により前記発光層を形成する際に、基板の加熱温度を前記処理温度の最低温度又はそれ以下に設定し、
前記発光部の一部又は全部に、加熱用レーザ光を照射し、局所的に基板の温度を上昇させる、ことを特徴とする白色LEDの製造方法。
【請求項6】
前記発光層が吸収する波長を有し、前駆体を励起・分解して結晶膜を成長させるエネルギーに相当する波長の反応促進用レーザ光を、基板に照射し、成長表面の反応を促進させる、ことを特徴とする請求項5に記載の白色LEDの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図4】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−92952(P2010−92952A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259212(P2008−259212)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
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