説明

真空処理装置

【課題】吸着面に付着した不純物に起因して吸着力が低下した静電チャックを、簡単な構成により不純物を除去して吸着力を再生することができ、安定して真空処理を行うことが可能な真空処理装置を提供する。
【解決手段】本発明の真空処理装置1は、真空チャンバ3と、前記真空チャンバの内部に配され、基板Sを静電気によって吸着する静電チャック用の電極、及び該基板を加熱する加熱機構を有する基板保持手段4と、前記基板保持手段の吸着面に対してUV光を照射し、該吸着面に付着した不純物を除去するUV照射手段90と、を少なくとも備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャックを内蔵した真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空排気される処理室内に設置した基板保持手段上に処理すべきSiウェハまたはSiCウェハ等の基板(被処理体)を載置し、加速することで所定の注入(イオン)エネルギーを持ったイオンを半導体ウェハなどの基板に照射し、基板に対し所定の浸透深さで所定のイオンを打ち込むイオン注入装置が知られている(例えば特許文献1参照)。例えば、半導体の製造工程においては、上記イオン注入装置が、P、As、In、Sbなどイオンをシリコンウェハに形成されたデバイス構造各部に適切な量で不純物導入するために用いられている。
【0003】
このイオン注入装置のような、真空中で基板に対して処理を行う真空処理装置においては、基板温度が処理速度、ひいては得られる膜特性などに大きな影響を与えることから、基板をその全面に亘って略均一な温度に制御することが必要になる。
また、真空処理装置においては、基板保持手段に静電気力を用いた静電チャックを設け、この静電チャックの正負一対の吸着電極に所定の電圧を印加して基板を吸着保持することが一般的である。
【0004】
しかしながら、このような真空処理装置において、静電チャックの寿命(吸着力の低下)はランニングコストを増大させる消耗品になっている。
処理を繰り返すに従い、チャンバ内に存在する物質が静電チャックの吸着面に付着していく。温度によって付着量が多くなること、又は、付着した膜の特性が変化すること等により、静電チャックの表面抵抗が低下し、吸着力の低下を引き起こすものと考えられる。
【0005】
例えば、静電チャックの材料としてPbNを用いた場合、温度400℃で1年以上、500℃以下で1年程度、530℃で3ヶ月程度と、高温になるほど寿命が短くなる傾向がある。
【0006】
本発明者らが、吸着力が低下した静電チャック30の吸着面30aについて表面分析(蛍光X線分析)を行ったところ、Siが検出された。その結果を図3及び図4に示す。吸着面30aの全体からSiが検出されているが、特に、中央部分において多くSiが検出されていることがわかる。
チャンバ内においては、被処理体であるSiウェハまたはSiCウェハ等の基板以外にはSiを用いたものは無いため、処理を繰り返すうちに、前記基板中のSiが静電チャックの吸着面に付着したものと考えられる。
【0007】
このように、静電チャックにおいて吸着力が低下すると、該静電チャックに吸着された基板(被処理体)表面において温度ムラが生じる原因となる。その結果、該基板表面に形成される膜の成長が不安定となり、所望とする膜特性が得られなくなってしまう。
従来、静電チャックの再生(吸着力の復元)は、静電チャックの吸着面を薄く削ることにより行っていた。このため、使用者は静電チャックの予備を用意しておく必要があり、また、部品を交換しながら使用しなければならず、手間とコストがかかっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−070886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、吸着面に付着した不純物に起因して吸着力が低下した静電チャック(基板保持手段)を、簡単な構成により不純物を除去して吸着力を再生することができ、安定して真空処理を行うことが可能な真空処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に記載の真空処理装置は、真空チャンバと、前記真空チャンバの内部に配され、基板を静電気によって吸着する静電チャック用の電極、及び該基板を加熱する加熱機構を有する基板保持手段と、前記基板保持手段の吸着面に対してUV光を照射し、該吸着面に付着した不純物を除去するUV照射手段と、を少なくとも備えたことを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の真空処理装置は、請求項1において、前記UV光照射手段を、前記真空チャンバの外部に備え、該チャンバが有するUV光を通過する窓体を通じて、前記UV光が前記基板保持手段の吸着面に照射されるように構成してなること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、UV照射手段により、前記基板保持手段の吸着面に対してUV光を照射することで、該吸着面に付着した不純物を分解、除去することができる。これにより本発明では、簡単な構成により不純物を除去して吸着力を再生することが可能であり、基板保持手段の寿命を延ばした真空処理装置を提供することができる。このような真空処理装置では、静電チャックの吸着力低下に起因する基板の温度ムラを低減することができる。その結果、安定して真空処理を行うことができ、所望とする特性を有する処理物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の真空処理装置(イオン注入装置)の一構成例を模式的に示す図。
【図2】図1のイオン注入装置において基板保持手段を説明する一部分解斜視図。
【図3】静電チャックの表面分析(蛍光X線分析)の一例を示す図。
【図4】静電チャックの表面分析(蛍光X線分析)の他の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る真空処理装置の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本発明の真空処理装置の一構成例を模式的に示す図である。
なお、以下の説明では本発明を適用した真空処理装置としてイオン注入装置を例に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、スパッタ装置、CVD装置等、静電チャックによる基板保持手段を備えた各種真空処理装置について適用可能である。
本発明の真空処理装置は、真空チャンバと、前記真空チャンバの内部に配され、基板を静電気によって吸着する静電チャック用の電極、及び該基板を加熱する加熱機構を有する基板保持手段と、前記基板保持手段の吸着面に対してUV光を照射し、該吸着面に付着した不純物を除去するUV照射手段と、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明では、UV照射手段により、前記基板保持手段の吸着面に対してUV光を照射することで、該吸着面に付着した不純物を分解、除去することができる。これにより本発明の真空処理装置では、簡単な構成により不純物を除去して吸着力を再生することが可能である。これにより、この真空処理装置では、静電チャックの吸着力低下に起因する基板の温度ムラを低減することができる。その結果、安定して真空処理を行うことができ、所望とする特性を有する処理物を得ることができる。
【0016】
このイオン注入装置(真空処理装置)1は、公知の構造の高電圧ターミナル11を有し、高電圧ターミナル11は、所定の印加電圧に対して十分な耐電圧を有する間隔を置いて遮蔽箱12内に収納されている。高電圧ターミナル11内には公知の構造のイオン源13が設けられ、このイオン源13は、真空配管14aを介して、多種類のイオンの中から必要なイオンを取出す質量分析マグネット15に接続されている。この質量分析マグネット15は、高電圧ターミナル11の外側まで延出する他の真空配管14bを介して、遮蔽箱13内に位置する加速管16に接続されている。
【0017】
高電圧を印加してイオンを加速し、必要な注入エネルギーを与える加速管16の他端は、遮蔽箱12の壁面を貫通して、X−Y走査チャンバ2に接続されている。X−Y走査チャンバ2には真空排気手段P1が接続されている。真空排気手段P1は、ターボ分子ポンプとその背圧側のポンプから構成されている。また、X−Y走査チャンバ2内には、その上流側からイオンビームの整形を行う四極子レンズ21と、例えば高周波を印加してイオンビームをX、Y方向にそれぞれ走査する一対の偏向電極(スキャンプレート)22とが配設され、基板Sに対するイオンビームの照射を制御するイオン照射手段を構成する。X−Y走査チャンバ2の下流側にはイオン注入チャンバ3が接続されている。
【0018】
イオン注入チャンバ(真空チャンバ)3は、X−Y走査チャンバ2からの延長線上に位置する第一部分3aと、当該第一部分3aから略直角に屈曲した方向に延びる第二部分3bとから構成され、上記同様、ターボ分子ポンプとその背圧側のロータリポンプから構成された真空排気手段P2が接続されている。また、イオン注入チャンバ3には、イオンビームが照射されるガラス基板などの矩形の基板Sを保持する基板保持手段4が設けられている。
【0019】
図2に示すように、基板保持手段4は、一面に静電チャック用の正負一対の吸着電極(図示せず)が形成された基台41を有し、当該一面が、電極に通電して基板Sを吸着保持できる基板保持部42を構成する。
【0020】
また、基台42側面中央には、図示しない駆動モータの回転軸5が、イオンビームに対し直交させて固定されている。この駆動モータは筐体6に収納されており、この筐体6にはナット部材61が形成されている。そして、当該ナット部材61が、第二部分3bの長手方向略全長に亘って設けられた送りねじ7に螺合している。
【0021】
駆動モータ8を作動させて送りねじ7を回転させると、イオンビームが照射できる照射位置(図1では、実線で示した上昇位置)と、基板保持部42への基板Sの受け取り、受け渡しが行われる第2部分3bの他端たる基板搬出入位置(図1では、仮想線で示した下降位置)との間で基板保持手段4が移動自在となる。そして、下降位置では、基板保持部42を上側に位置させ、他方で、上昇位置では、基板保持部42で保持された基板Sがイオンビームに対し直角となるように回転軸5の回転角が制御される。送りねじ7や駆動モータ8はケース部材9に収納されており、イオン注入チャンバ3内の真空雰囲気に悪影響を及ぼさないようにしている。
【0022】
なお、基板保持部42への基板Sの受け取り、受け渡しを行うために、第2部分3bの端部に、ゲートバルブを介してロードロックチャンバ(図示せず)を連結し、搬送ロボットにより、下降位置にある基板保持手段4に対し真空雰囲気中で基板Sを受け取りまたは受け渡しができる構成を採用してもよい。また、基台41に、例えば抵抗加熱式のヒータを内蔵し、イオン注入のプロセスに応じて基板Sを所定温度に加熱して保持できる構成を作用してもよい。
【0023】
そして、本発明の真空処理装置(イオン注入装置)では、基板保持手段4の基板保持部(吸着面)42に対してUV光を照射し、該基板保持部42に付着した不純物を除去するUV照射手段90を備えている。
このUV光照射手段90は、前記イオン注入チャンバ3の外部に配され、該イオン注入チャンバ3が有するUV光を通過する窓体3cを通じて、前記UV光が前記基板保持手段4の基板保持部(吸着面)42に照射されるように構成される。
【0024】
また、前記イオン注入チャンバ3の内部に配されたままの状態で、前記基板ステージ2(基板保持手段)の(吸着面)基板保持部42に対してシリコン(Si)量を検出する手段91を備えることが好ましい。この手段91としては特に限定されないが、例えば蛍光X線分析装置等を用いることができる。これにより基板保持部42を監視し、該基板保持部42に付着したSi量に応じてUV照射処理の必要の有無を判断したり、適切なタイミングでUV照射処理を行ったりすることができる。
【0025】
基板保持手段4の基板保持部(吸着面)42に対してUV光を照射することで、該基板保持部42に付着した不純物(この場合、例えばSi)を分解、除去することができる。基板保持部42に付着した不純物を分解、除去することで、静電チャックの吸着力を復元することが可能となる。
これにより、従来のように静電チャックの吸着面を削る必要がなくなり、予備の用意や、部品交換の手間やコストを削減することができる。
【0026】
このように本発明の真空処理装置では、簡単な構成により、基板保持部(吸着面)に付着した不純物を分解、除去して静電チャックの吸着力を再生することが可能である。これにより、この真空処理装置では、静電チャックの吸着力低下に起因する基板の温度ムラを低減することができる。その結果、安定して真空処理を行うことができ、所望とする特性を有する処理物を得ることができる。
【0027】
以上、本発明の真空処理装置について説明してきたが、本発明は上述した例に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、静電チャックを備えた真空処理装置に広く適用可能である。ここでは、イオン注入装置に適用した例を詳述したが、これ以外に、たとえば蒸着法やスパッタ法、CVD法などの各種の成膜装置、あるいはエッチング装置、アッシング装置などにも、本発明に係る静電チャックの吸着力の再生方法は利用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 イオン注入装置、2 X−Y走査チャンバ、3 イオン注入チャンバ(真空チャンバ)、4 基板保持手段、41 基台、42 基板保持部、5 回転軸、7 送りねじ、8 駆動モータ、90 UV照射手段、91 検出手段、P1、P2 真空排気手段、S 基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、
前記真空チャンバの内部に配され、基板を静電気によって吸着する静電チャック用の電極、及び該基板を加熱する加熱機構を有する基板保持手段と、
前記基板保持手段の吸着面に対してUV光を照射し、該吸着面に付着した不純物を除去するUV照射手段と、を少なくとも備えたことを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
前記UV光照射手段を、前記真空チャンバの外部に備え、
該チャンバが有するUV光を通過する窓体を通じて、前記UV光が前記基板保持手段の吸着面に照射されるように構成してなること、を特徴とする請求項1に記載の真空処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−23663(P2011−23663A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169334(P2009−169334)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】