説明

窒化物半導体光機能素子

【課題】発光領域が小さい光機能素子を低コストで提供する。
【解決手段】基板2上の透明薄膜4中に所定の間隔で所定の大きさの孔を配列したフォトニック結晶31が形成され、フォトニック結晶導波路30はこのフォトニック結晶の一部分に孔を形成しない領域を設けることによって形成されている。この導波路の下部に開口部が形成され、当該開口部が埋まるように窒化物半導体を基板上から透明薄膜の上側まで結晶成長させることによって発光素子10が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、 III族(IUPAC表記では13族:以下同じ)窒化物系化合物半導体を用いた発光素子や受光素子を有する光通信用の窒化物半導体光機能素子に関し、特に、プラスチックオプティカルファイバー(POF)を用いた通信システムの光送受信器に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
プラスチックオプティカルファイバー(POF)を用いた短距離用LAN(local area network)光通信の開発が進んでいる。POFは非常に低コストで作製することができることが特徴であるが、POFの伝送損失の波長依存性はガラス製オプティカルファイバーと異なる。特に、短波長の波長領域、具体的には440nm〜580nmの波長領域、又は660nm付近の波長領域ではPOFの伝送損失は小さい一方、POFは赤外線領域の光を通すことができない。そこで、POFを用いたシステムでは、発光素子として、GaAs系の化合物半導体を用いた発光波長660nmの赤色の発光ダイオードが用いられてきた。この赤色発光ダイオードには、砒素系材料を用いているという問題や、発光波長の温度依存性が高いという問題がある。また、POFの伝送損失自体も660nm付近の波長領域よりも440nm〜580nm付近の波長領域でより小さい。
【0003】
そこで、近年、POF用の光源として、 III族窒化物系化合物半導体を用いた発光波長440nm〜580nmの発光ダイオードが検討されている。しかしながら、従来の III族窒化物系化合物半導体発光ダイオードの問題点の1つとして、応答速度が遅く高域遮断周波数が低いという問題がある。これは、 III族窒化物系化合物半導体がウルツ鉱型の結晶構造を有するため、活性層に内部電界が発生し、その結果として、発光再結合寿命が長くなることに起因する。
【0004】
このような問題に対して、発光ダイオードの光強度を低下させずに応答速度を向上させて高域遮断周波数を高くする方法として、特許文献1のようなLED(light-emitting diode)構造が提案されている。特許文献1によれば、サファイア表面に凹凸形状を形成し、その凹凸上に窒化物半導体を結晶成長させる。これにより、窒化物半導体中の活性層に欠陥が増加し、非発光再結合寿命が短くなるため、応答速度が速くなる一方、欠陥が増加することにより生じる光出力の低下については、凹凸形状による光取り出し向上効果により相殺している。
【0005】
ところで、従来の III族窒化物系化合物半導体発光ダイオードのもう一つの問題点として、発光ダイオードとPOFとのカップリングが低いという問題がある。すなわち、発光ダイオードからの出射光は素子上面に対して±90°の広い範囲に出射されるため、出射光を効率良くPOFに導くための集光技術が必要となる。そこで、従来、発光ダイオードの指向性を向上させたり、又はPOFの端面にレンズを形成して開口数NAを大きくすることによって、POFへの出射光の取り込み効率を向上させてきた。さらに、発光素子の光出射領域を小さくする方法として、非特許文献1のように、ナノワイヤー等の微小発光素子とフォトニック結晶導波路とを組み合わせた光機能素子も提案されている。
【0006】
以下、図14を用いて従来の光機能素子について説明する。図14に示すように、n-GaN/i-InGaN/p-AlGaN/p-GaN の積層構成を有するコア・シェル型ナノワイヤーからなるナノワイヤー光源1010に対して、ナノワイヤー光源1010のp-GaN 層に接続されたp-コンタクト1020と、ナノワイヤー光源1010のn-GaN 層に接続されたn-コンタクト1021とによって電流が注入される。ナノワイヤー光源1010のi-InGaN 層で発光した光は、フォトニック結晶導波路1030により外部に取り出される。図14に示す構造においては、ナノワイヤー光源1010で変換された光をフォトニック結晶導波路1030によって導波し、素子端面におけるナノオーダーの発光領域から光を出射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−096026号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hong-Gyu Park他、A wavelength-selective photonic-crystal waveguide coupled to a nanowire light source、Nature Photonics、Vol.2、2008年10月、p.622-626
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、サファイア基板上に形成した凹凸上に窒化物半導体を結晶成長させた従来の発光素子構造においては、応答速度を向上させるために窒化物半導体中の欠陥を増加させているため、発光素子の信頼性寿命が低下してしまうという問題がある。
【0010】
また、ナノワイヤー光源とフォトニック結晶導波路とを結合させた従来の光機能素子においては、ナノワイヤー光源をフォトニック結晶の所定の位置に配置する必要があるため、製造コストが大幅に増加してしまうという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、発光領域が小さい光機能素子を低コストで提供することを第1の目的とし、光機能素子における発光素子の応答速度を速くすることを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の第1の目的を達成するために、本発明に係る窒化物半導体光機能素子は、基板上に形成された発光素子及び透明薄膜を有する窒化物半導体光機能素子であって、前記透明薄膜中にフォトニック結晶導波路及び開口部が形成されており、前記発光素子は、前記開口部が埋まるように前記基板上から前記透明薄膜の上側まで結晶成長させた窒化物半導体からなる。
【0013】
本発明に係る窒化物半導体光機能素子によると、フォトニック結晶導波路が形成された基板上に窒化物半導体からなる発光素子をモノリシックに形成することができるため、窒化物半導体光機能素子を低コストで製造することができる。また、発光素子により発光した光をフォトニック結晶導波路を用いて出射することができるため、窒化物半導体光機能素子の発光領域を小さくすることができるので、窒化物半導体光機能素子とPOFとの結合効率を高くすることができる。
【0014】
前記の第2の目的を達成するために、本発明に係る窒化物半導体光機能素子において、前記発光素子の発光層の一部又は全部が、前記窒化物半導体の半極性面に形成されていることが好ましい。このようにすると、窒化物半導体の再結合速度を向上させることができる。このため、発光素子の応答速度を速くすることができるので、窒化物半導体光機能素子の駆動速度を高速化することが可能となる。
【0015】
尚、本発明に係る窒化物半導体光機能素子において、前記発光素子の発光層の一部が、前記窒化物半導体の無極性面に形成されていてもよい。
【0016】
本発明に係る窒化物半導体光機能素子において、前記基板はシリコンから構成されていてもよい。このようにすると、基板を低コストで大口径化することができるため、窒化物半導体光機能素子を低コストで製造することが可能となる。
【0017】
本発明に係る窒化物半導体光機能素子において、前記透明薄膜はシリコン窒化物から構成されていてもよい。このようにすると、基板上に低コストで透明薄膜を形成することができるため、窒化物半導体光機能素子を低コストで製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、シリコン基板等のコストが低い基板上に窒化物半導体を結晶成長させることにより発光素子が形成されているため、窒化物半導体光機能素子を低コストで製造することができる。また、発光光をフォトニック結晶導波路によって導波するため、窒化物半導体光機能素子の発光領域を小さくすることができるので、窒化物半導体光機能素子とPOFとの結合効率を高くすることができる。また、例えば発光素子の発光層の少なくとも一部を窒化物半導体の半極性面に形成することによって、発光素子の応答速度を速くすることができるので、窒化物半導体光機能素子の駆動速度を高速化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は実施例1の窒化物半導体光機能素子の構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2(a)は実施例1の窒化物半導体光機能素子における微小発光素子の詳細を示す断面図であり、図2(b)は、実施例1の窒化物半導体光機能素子における微小発光素子の電子顕微鏡写真である。
【図3】図3(a)〜(e)は、実施例1の窒化物半導体光機能素子の発光層で発光された光の微小発光素子内部での強度分布を計算した結果を説明する図である。
【図4】図4(a)は実施例1の窒化物半導体光機能素子におけるフォトニック結晶導波路の設計例を示す上面図であり、図4(b)は当該設計に用いたパラメータの値を示す図である。
【図5】図5は実施例1の窒化物半導体光機能素子のフォトニック結晶導波路において発光光が伝搬する様子を計算した結果を示す図である。
【図6】図6は、実施例1の窒化物半導体光機能素子の発光層をC面に成長させた場合と半極性面に成長させた場合のそれぞれについて、発光再結合寿命及び非発光再結合寿命を測定した結果を示す図である。
【図7】図7(a)〜(f)は実施例1の窒化物半導体光機能素子の製造方法の各工程を示す断面図である。
【図8】図8は実施例2の窒化物半導体光機能素子における微小発光素子の詳細を示す断面図である。
【図9】図9(a)〜(e)は実施例2の窒化物半導体光機能素子の製造方法の各工程を示す断面図である。
【図10】図10は実施例3の窒化物半導体光機能素子の構成を模式的に示す斜視図である。
【図11】図11(a)は実施例3の窒化物半導体光機能素子における微小発光素子の詳細を示す断面図であり、図11(b)は、実施例3の窒化物半導体光機能素子における微小発光素子の電子顕微鏡写真である。
【図12】図12は実施例4の窒化物半導体光機能素子の構成を模式的に示す斜視図である。
【図13】図13は実施例4の窒化物半導体光機能素子における微小発光素子及び微小受光素子の詳細を示す断面図である。
【図14】図14は従来例の窒化物半導体光機能素子の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施例1)
以下、本発明の実施例1の窒化物半導体光機能素子の構造及び製造方法について図面を参照しながら説明する。
【0021】
[実施例1の構成]
図1は、実施例1の窒化物半導体光機能素子の構成を模式的に示す斜視図である。図1に示すように、実施例1の窒化物半導体光機能素子1は主に基板2とフォトニック結晶導波路30と微小発光素子10とから構成される。フォトニック結晶導波路30は、例えば、Si3 N4 、TiO2 、又はSiO2 の単層構造又は積層構造よりなる透明薄膜4に形成されたフォトニック結晶31により構成されている。
【0022】
具体的には、フォトニック結晶31は、透明薄膜4内に所定の間隔で所定の大きさの孔を配列することによって形成されており、フォトニック結晶導波路30は、透明薄膜4におけるフォトニック結晶31が形成されていない領域に形成されている。すなわち、フォトニック結晶31の一部分に、孔を形成しない領域を設けることによって、当該領域がフォトニック結晶導波路30となる。
【0023】
また、透明薄膜4の一部分は、基板2上に形成された例えばSiO2 等からなる犠牲層3によって支持されている。すなわち、フォトニック結晶31及びフォトニック結晶導波路30は、基板2上に中空構造が生じるように保持されている。さらに、透明薄膜4の一部分の上には、フォトニック結晶31を形成するために、例えばSiO2 等からなるカバー層5(図1では記載を省略:図2(a)参照)が形成されている。
【0024】
また、微小発光素子10は、例えば(Al,Ga,In)N 等の III族窒化物化合物半導体の積層構造よりなり、基板2上から、フォトニック結晶導波路30を構成する透明薄膜4を貫通して、透明薄膜4の上側まで形成されている。ここで、微小発光素子10は、フォトニック結晶導波路30の中央部に配置されており、フォトニック結晶導波路30と光学的に結合されている。微小発光素子10の最表面上及び透明薄膜4の一部分の上には、例えばTi、Cr、Pt、Ag、Al及びAu等の中から選ばれた1つ又は複数の金属からなる配線20が形成されている。配線20は、微小発光素子10の最表面上に形成された金属電極20aと、透明薄膜4の一部分の上にカバー層5を介して形成された金属配線20bとを有する。当該配線20及び基板2を通じて微小発光素子10に電力が供給される。このとき、基板2における前述のフォトニック結晶31等の形成面とは反対の面上に金属電極を形成することによって、前述の電力を容易に供給することが可能となる。このようにして微小発光素子10に供給された電力は、微小発光素子10内の発光層において光に変換され、当該光はフォトニック結晶導波路30を伝搬して窒化物半導体光機能素子1の外部に放射される。窒化物半導体光機能素子1から出射された出射光60はPOF50に導波される。
【0025】
次に、図1のA−A’断面線に沿った微小発光素子10近傍の断面構成を示す図2(a)を参照しながら、微小発光素子10の詳細な構造について説明する。
【0026】
図2(a)に示すように、微小発光素子10は、基板2上に、例えばn−AlN層からなるバッファ層10a、例えばn−AlGaN層からなる第1のクラッド層10b、例えばn−GaN層からなる第1の光ガイド層10c、例えばGaN/InGaN多重量子井戸から構成される発光層10d、例えばp−GaN層からなる第2の光ガイド層10e、及び例えばp−AlGaN層からなる第2のクラッド層10fを順次積層することにより構成されている。微小発光素子10の第1の光ガイド層10cは、犠牲層3及び透明薄膜4に形成された開口部6を埋めるようにバッファ層10a及び第1のクラッド層10b上に積層されていると共に、透明薄膜4上では台形形状に形成されている。ここで、当該台形形状の上面は III族窒化物半導体の<1000>面つまり極性面となっており、当該台形形状の斜面は III族窒化物半導体の<112−2>面つまり半極性面となっており、当該極性面及び当該半極性面に発光層10dが形成されている。
【0027】
図2(b)は、窒化物化合物半導体層の形状を確認するために、GaN層を形成したSi基板上にSiO2 層を形成した後、開口幅2.5μmのストライプ状の開口部6を形成し、その後,開口部6内のGaN層から窒化物化合物半導体を結晶成長させた様子を示す電子顕微鏡写真である。図2(b)に示す結果から、窒化物化合物半導体の結晶成長条件及び開口部6の開口部幅を調整することにより、前述の台形形状を調整することが可能であることが分かった。また、透明薄膜4は微小発光素子10を挟むように形成されている。また、犠牲層3の一部は、透明薄膜4と基板2の間に位置する微小発光素子10の表面を覆うように残存する。また、カバー層5の一部は、透明薄膜4と微小発光素子10との間を埋めるように形成されている。尚、犠牲層3及びカバー層5については、後述の製造方法の説明で詳細に述べる。
【0028】
以上に述べた微小発光素子10の構成において、配線20側から供給された電力は、金属電極20a、第2のクラッド層10f及び第2の光ガイド層10eを通じて発光層10dへ正孔として供給される。一方、基板2側から供給された電力は、バッファ層10a、第1のクラッド層10b及び第1の光ガイド層10cを通じて発光層10dへ電子として供給される。発光層10dへ供給された正孔及び電子は、図示しないGaN/InGaN多重量子井戸内で再結合して光を発する。
【0029】
図3(a)〜(e)は、発光層10dにおいて発光された光の微小発光素子10内部での強度分布を計算した結果を示している。図3(a)は、図2(b)に示す本実施例の断面構成に、計算に用いたパラメータを併記したものであり、図3(b)は、当該パラメータの値を示しており、図3(c)は、微小発光素子10内の光強度分布の計算結果を示している。尚、図3(a)において、第2のクラッド層10fの最上面(第2のクラッド層10fと金属電極20aとの界面)に沿った水平軸をX軸、開口部6の中心を通る垂直軸をY軸としている。また、図3(d)は、図3(c)の光強度分布をX=0μmの位置でY軸方向に沿って示した図であり、図3(e)は図3(c)の光強度分布をY=−0.34μmの位置でX軸方向に沿って示した図である。
【0030】
図3(c)に示す計算結果は、発光層10dより発光される光の波長を500nmとして得られたものである。この発光波長は、例えば発光層10dを構成するInGaN量子井戸層のIn比率を調整することによって(具体的にはIn比率を高くすることにより発光波長を長波長化させることによって)調整可能である。図3(c)に示すように、本実施例においては、光分布の中心が透明薄膜4に位置にするため、微小発光素子10で発生した光を透明薄膜4に形成されたフォトニック結晶導波路30に効率よく結合させることができる。
【0031】
尚、本実施例において、フォトニック結晶導波路30を形成するためのフォトニック結晶31は、例えば屈折率2.0のSi3 4 からなる透明薄膜4に、多数の円形状開口部をピッチ230nmの三角格子状に配置することによって構成可能である。ここで、フォトニック結晶導波路30を形成するために透明薄膜4に設けられる円形状開口部の直径は例えば138nmである。
【0032】
続いて、図4(a)、(b)及び図5を参照しながら、本実施例の窒化物半導体光機能素子におけるフォトニック結晶導波路の好ましい設計例について説明する。図4(a)は、本実施例の微小発光素子10に最適なフォトニック結晶導波路30を設計する際に用いた図であり、本実施例の窒化物半導体光機能素子を上面から見た図に相当する。図4(b)は、設計に用いたパラメータの値を示している。
【0033】
図4(a)及び(b)に示すように、フォトニック結晶31の開口部31aのピッチPを230nm、フォトニック結晶導波路30に隣接していない開口部31aの直径a1を138nm、微小発光素子10の幅W1を575nm、フォトニック結晶導波路30と光学的に結合する微小発光素子10の先端がフォトニック結晶導波路30の延びる方向となす角度θを60°とした。また、フォトニック結晶31の屈折率をSi3 4 を想定して2.0、開口部31aの屈折率を空気を想定して1.0、微小発光素子10の屈折率をGaNを想定して2.3とした。以上のような設計においてFinite Differential Time Domain(FDTD)法により発光光の伝搬を計算した。このとき、微小発光素子10内の発光部51より発光光として、波長350〜600nmでガウス分布の発光強度を持つ平面波がフォトニック結晶導波路30方向に出射するとした。発光光は、微小発光素子10内を伝搬し、フォトニック結晶導波路30に結合され、上方向に伝搬し、受光部52に到達する。
【0034】
図5(a)及び(b)は、発光部51より出射し受光部52に到達する光の割合の波長依存性を計算した結果を示している。具体的には、図5(a)は、波長500nmのときの光の伝搬を計算した結果を示している。図5(a)に示すように、微小発光素子10の発光部51より出射した光は、フォトニック結晶導波路30に結合され、当該導波路内を伝搬し、受光部52に到達している。このとき、伝搬光はほとんどロスなく発光部51から受光部52に伝搬されている。図5(b)は、図5(a)で計算した伝搬効率を1とした場合における伝搬効率の波長依存性を示している。図5(b)に示すように、波長420〜530nmの範囲で波長500nmと同程度の低ロスの光伝搬効率が得られている。本発明の目的は、例えば波長440〜580nmの光に対応した窒化物半導体光機能素子を提供することであるが、例えばフォトニック結晶構造を最適化することにより前述の波長範囲全体において伝搬効率の高い窒化物半導体光機能素子を提供することができる。例えば、波長580nm付近において伝搬効率を向上させるためには、フォトニック結晶開口部のピッチを大きくすればよい(例えばピッチを1.1倍にすればよい)。
【0035】
続いて、前述の台形形状の斜面である半極性面(<112−2>面)に形成された発光層10dの機能について、図6を参照しながら説明する。図6は、発光層10dを構成するGaN/InGaN多重量子井戸をC面に成長させた場合と半極性面に成長させた場合のそれぞれについて、発光再結合寿命及び非発光再結合寿命を測定した結果を示している。図6に示すように、GaN/InGaN多重量子井戸をC面に成長させた場合、InGaN井戸層には、結晶の極性が生じることにより発生するピエゾ分極と共に、基板2とバッファ層10a及び第1のクラッド層10bとの間の格子定数差により発生する自発分極が印加される。このピエゾ分極と自発分極とにより発光層10d中のInGaN量子井戸層に内部電界が発生するため、電子及び正孔の分布に差が生じる。この結果、発光再結合寿命が長くなり、ひいては窒化物半導体光機能素子の駆動速度が低下してしまう。一方、発光層10dを半極性面に成長させた場合、前述の結晶の極性を低減させることができるため、発光層10d中のInGaN量子井戸層に生じる内部電界を大幅に低減することができる。従って、発光再結合寿命を大幅に短くすることができ、ひいては窒化物半導体光機能素子の駆動速度を大幅に改善することが可能となる。
【0036】
以上のように、本実施例の構造を用いることにより、駆動速度が速い光通信用の窒化物半導体光機能素子を低コストで提供することができる。
【0037】
また、本実施例によれば、微小発光素子10により発光した光を、フォトニック結晶導波路30を用いて出射することができるため、窒化物半導体光機能素子の発光領域を小さくすることができるので、窒化物半導体光機能素子とPOFとの結合効率を高くすることができる。
【0038】
また、本実施例によれば、微小発光素子10の発光層10dを窒化物半導体の半極性面に形成することにより、微小発光素子10の応答速度を速くすることができるので、窒化物半導体光機能素子の駆動速度を高速化することが可能となる。
【0039】
尚、本実施例において、基板2はシリコンからなることが好ましい。このようにすると、基板2を低コストで大口径化することができるため、窒化物半導体光機能素子を低コストで製造することが可能となる。
【0040】
また、本実施例において、透明薄膜4はシリコン窒化物からなることが好ましい。このようにすると、基板2上に低コストで透明薄膜を形成することができるため、窒化物半導体光機能素子を低コストで製造することが可能となる。
【0041】
[実施例1の製造方法]
続いて、実施例1の窒化物半導体光機能素子の製造方法の一例を図7(a)〜(f)を参照しながら説明する。
【0042】
まず、図7(a)に示すように、例えば面方位が<111>であるSi基板からなる基板2の主面上に、例えば、SiO2 からなる犠牲層3、Si3 4 からなる透明薄膜4、及びSiO2 からなるカバー層5を、例えばスパッタ等により順次成膜する。
【0043】
続いて、図7(b)に示すように、ドライエッチング法により犠牲層3、透明薄膜4及びカバー層5をエッチングして基板2上の所定の位置に開口部6を形成する。
【0044】
続いて、図7(c)に示すように、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法等を用いたエピタキシャル成長により、開口部6内の基板2上から、例えばn−AlN層からなるバッファ層10a、例えばn−AlGaN層からなる第1のクラッド層10b、例えばn−GaN層からなる第1の光ガイド層10c、例えばGaN/InGaN多重量子井戸から構成される発光層10d、例えばp−GaN層からなる第2の光ガイド層10e、及び例えばp−AlGaN層からなる第2のクラッド層10fを順に成膜して微小発光素子10を形成する。このとき、成長条件を調整することにより、第1の光ガイド層10cを、開口部6を埋めると共にカバー層5上では台形形状を有するように形成する。
【0045】
続いて、図7(d)に示すように、犠牲層3、透明薄膜4及びカバー層5の所定の位置に例えば高精細フォトリソグラフィーを用いて複数の孔11を形成することにより、フォトニック結晶31となる構造を形成する。
【0046】
続いて、図7(e)に示すように、微小発光素子10の表面に金属電極20a及び金属配線20bを例えばフォトリソグラフィーやリフトオフを用いて形成する。
【0047】
最後に、図7(f)に示すように、例えばフッ酸等のエッチングにより、犠牲層3及びカバー層5のそれぞれの所定部分を除去してフォトニック結晶31を形成する。このとき、フォトニック結晶31は上下を空気で挟まれた構造となるため、空気に対するフォトニック結晶31の屈折率差が大きくなるので、発光光を透明薄膜4中に閉じ込めることができる。また、犠牲層3及びカバー層5のそれぞれの一部分はエッチングされずに残る。例えば、犠牲層3における微小発光素子10の周辺部及び窒化物半導体光機能素子周縁部が残存し、これにより、透明薄膜4のフォトニック結晶31部分が中空構造を形成するように保持される。また、カバー層5の一部分は、微小発光素子10と透明薄膜4との隙間を埋めるように残存する。
【0048】
以上に説明した本実施例の製造方法を用いることによって、図1等に示す本実施例の窒化物半導体光機能素子と実質的に同じ素子を容易に作製することができる。特に、本実施例では、微小発光素子10をフォトリソグラフィー及び結晶成長技術を用いて作製するため、微小発光素子10を基板2の所定の位置に容易に且つ正確に形成することができる。このため、微小発光素子10とフォトニック結晶導波路30とを精度良く位置合わせしながら窒化物半導体光機能素子を形成することができる。
【0049】
尚、本実施例において、基板2をSi基板としたが、その使用方法や製造コスト等に応じて、面方位が<0001>である6H-SiC基板を用いることができる。また、面方位が<111>であるSi基板や前述の面方位が<0001>である6H-SiC基板上にn−AlN等のバッファ層を介してGaN等の窒化物半導体を結晶成長させた基板を基板2として用いても良い。この場合、例えばバッファ層10aとしてn−AlN層に代えてn−AlGaN層を用いる等のように、微小発光素子10の構成をより柔軟に変更することが可能となる。さらには、面方位が<0001>であるサファイア基板上に前述のGaN等の窒化物半導体を結晶成長させた基板を基板2として用いても良い。この場合、犠牲層3、透明薄膜4及びカバー層5の所定の領域に開口部を設けて当該開口部に電極を形成することによって、本実施例と同様に微小発光素子10に電力を供給することができる。
【0050】
(実施例2)
以下、本発明の実施例2の窒化物半導体光機能素子の構造及び製造方法について図面を参照しながら説明する。尚、本実施例の構成は実施例1とほとんど同じであるので、以下、主に実施例1と異なる部分について説明する。
【0051】
[実施例2の構成]
図8は、本実施例の窒化物半導体光機能素子における微小発光素子近傍の断面構成を示す図である。
【0052】
図8に示すように、本実施例の窒化物半導体光機能素子101は主に基板102とフォトニック結晶131と微小発光素子110とから構成される。基板102としては、微小発光素子110から出射される光の波長に対して透明な材料からなる基板、例えば面方位が<0001>であるサファイア基板等を用いる。また、フォトニック結晶131が形成される透明薄膜104は、例えば、Siをドープしたn型GaNやZnOなどから構成される。本実施例において、透明薄膜104は、実施例1と異なり、基板102上に直接形成されると共に導電性を有している。このとき、基板102としてサファイア基板を用い、透明薄膜104をGaN又はZnOから構成したとすると、波長570nm付近でのサファイア基板、GaN 、ZnOのそれぞれの屈折率は1.7、2.3、2.0であるため、透明薄膜104の屈折率は基板102の屈折率よりも大きくなる。このため、微小発光素子110からの発光光を透明薄膜104内に閉じ込めることができる。
【0053】
また、図8に示すように、微小発光素子110を形成すると共に透明薄膜104に所定の間隔で所定の大きさの孔を配列するために、透明薄膜104上には例えばSiO2 からなるカバー層105が形成されている。微小発光素子110の構成については、後述する本実施例の製造方法で説明する。微小発光素子110の最表面上及びカバー層105上にはそれぞれ、例えばAl等の金属からなる金属電極120a及び金属配線120bが形成されている。また、カバー層105には、微小発光素子110が形成される開口部106とは別に、図示しない開口部が設けられており、当該開口部には、透明薄膜104と電気的に接合されるnコンタクト電極が設けられる。これにより、当該nコンタクト電極及び金属配線120bを通じて微小発光素子110に電力が供給される。
【0054】
[実施例2の製造方法]
続いて、実施例2の窒化物半導体光機能素子の製造方法の一例を図9(a)〜(e)を参照しながら説明する。
【0055】
まず、図9(a)に示すように、例えば面方位が<1000>であるサファイア基板からなる基板102の主面上に、例えばエピタキシャル成長を用いてSiをドープしたn型GaNからなる透明薄膜104を形成した後、例えばスパッタ等によりSiO2 からなるカバー層105を成膜する。ここで、透明薄膜104は、微小発光素子110のうちのバッファ層110a及び第1のクラッド層110bとなる。
【0056】
続いて、図9(b)に示すように、ドライエッチング法又はウエットエッチング法によりカバー層105をエッチングして透明薄膜104上の所定の位置に開口部106を形成する。
【0057】
続いて、図9(c)に示すように、開口部106内の透明薄膜104上から、第1の光ガイド層110c、発光層110d、第2の光ガイド層110e、及び第2のクラッド層110fを順に成膜して微小発光素子110を形成する。このとき、成長条件を調整することにより、第1の光ガイド層110cを、開口部106を埋めると共にカバー層105上では台形形状を有するように形成する。
【0058】
続いて、図9(d)に示すように、透明薄膜104及びカバー層105の所定の位置に例えば高精細フォトリソグラフィーを用いて複数の孔111を形成することにより、フォトニック結晶131となる構造を形成する。
【0059】
続いて、図9(e)に示すように、微小発光素子110の表面に金属電極120a及び金属配線120bを例えばフォトリソグラフィーやリフトオフを用いて形成する。また、カバー層105の図示しない所定の位置に開口部を設け、当該開口部に、例えばCr又はAu等からなり且つ透明薄膜104と接続するnコンタクト電極(図示省略)を形成する。
【0060】
(実施例3)
以下、本発明の実施例3の窒化物半導体光機能素子の構造について、図面を参照しながら説明する。尚、本実施例の構成は実施例1とほとんど同じであるので、以下、主に実施例1と異なる部分について説明する。
【0061】
[実施例3の構成]
図10は、実施例3の窒化物半導体光機能素子の構成を模式的に示す斜視図である。尚、図10において、図1に示す実施例1と同じ構成要素には同じ符号を付すことにより、重複する説明を省略する。
【0062】
図10に示すように、実施例3の窒化物半導体光機能素子201は主に基板2とフォトニック結晶導波路30と微小発光素子210とから構成される。本実施例が実施例1と異なっている点は微小発光素子210の構成である。
【0063】
以下、図10のB−B’断面線に沿った微小発光素子210近傍の断面構成を示す図11(a)を参照しながら、微小発光素子210の詳細な構造について説明する。
【0064】
図11(a)に示すように、微小発光素子210は、実施例1と同様に、例えば(Al,Ga,In)N 等の III族窒化物化合物半導体の積層構造よりなり、具体的には、基板2上に、例えばn−AlN層からなるバッファ層210a、例えばn−AlGaN層からなる第1のクラッド層210b、例えばn−GaN層からなる第1の光ガイド層210c、例えばGaN/InGaN多重量子井戸から構成される発光層210d、例えばp−GaN層からなる第2の光ガイド層210e、及び例えばp−AlGaN層からなる第2のクラッド層210fを順次積層することにより構成されている。微小発光素子210の第1の光ガイド層210cは、犠牲層33及び透明薄膜4に形成された開口部206を埋めるようにバッファ層210a及び第1のクラッド層210b上に積層されていると共に、透明薄膜4上では三角形状に形成されている。ここで、当該三角形状の斜面は III族窒化物半導体の<11−02>面(R面)つまり半極性面となっており、当該半極性面に発光層210dが形成されている。
【0065】
また、図11(a)に示すように、微小発光素子210の最表面上及び透明薄膜4の一部分の上には、例えばTi、Cr、Pt、Ag、Al及びAu等の中から選ばれた1つ又は複数の金属からなる配線220が形成されている。配線220は、微小発光素子210の最表面上に形成された金属電極220aと、透明薄膜4の一部分の上にカバー層5を介して形成された金属配線220bとを有する。当該配線220及び基板2を通じて微小発光素子210に電力が供給される。
【0066】
図11(b)は、窒化物化合物半導体層の形状を確認するために、GaN層を形成したSi基板上にSiO2 層を形成した後、開口幅1.0μmのストライプ形状の開口部206を形成し、その後、当該開口部206内のGaN層から窒化物化合物半導体を結晶成長させた様子を示す電子顕微鏡写真である。図11(b)に示す結果から、窒化物化合物半導体の結晶成長条件及び開口部206の開口部幅を調整することにより、前述の三角形状を調整することが可能であることが分かった。
【0067】
本実施例によると、実施例1と同様の効果に加えて、次のような効果を得ることができる。すなわち、微小発光素子210が三角形状の断面を有しているため、発光層210dの全体が前述の半極性面に形成される。従って、微小発光素子210の応答速度をより速くすることができるので、窒化物半導体光機能素子をより高速で動作させることが可能となる。
【0068】
(実施例4)
以下、本発明の実施例4の窒化物半導体光機能素子の構造について、図面を参照しながら説明する。本実施例は、実施例1の微小発光素子と同様の構成を有する素子を受光素子として機能させた微小受光素子を、実施例3の微小発光素子と併設した受発光モジュールを対象とするが、本実施例の受発光モジュールを構成する微小発光素子及び微小受光素子のそれぞれとして、実施例1〜3のいずれの微小発光素子と同様の構成を有する素子を用いてもよい。
【0069】
[実施例4の構成]
図12は、実施例4の窒化物半導体光機能素子の構成を模式的に示す斜視図である。
【0070】
図12に示すように、実施例4の窒化物半導体光機能素子301は主に基板302とフォトニック結晶導波路330及び340と微小発光素子310と微小受光素子315とから構成される。フォトニック結晶導波路330及び340は、例えば、Si3 N4 、TiO2 、又はSiO2 の単層構造又は積層構造よりなる透明薄膜304に形成されたフォトニック結晶331により構成されている。
【0071】
具体的には、フォトニック結晶331は、透明薄膜304内に所定の間隔で所定の大きさの孔を配列することによって形成されており、フォトニック結晶導波路330及び340はそれぞれ、透明薄膜304におけるフォトニック結晶330が形成されていない領域に形成されている。すなわち、フォトニック結晶331の一部分に、孔を形成しない領域設けることによって、当該領域がフォトニック結晶導波路330及び340となる。
【0072】
また、透明薄膜304の一部分は、基板302上に形成された例えばSiO2 等からなる犠牲層303によって支持されている。すなわち、フォトニック結晶331並びにフォトニック結晶導波路330及び340は、基板302上に中空構造が生じるように保持されている。さらに、透明薄膜304上の一部分の上には、フォトニック結晶331を形成するため、例えば、例えばSiO2 等からなるカバー層305(図12では記載を省略:図13参照)が形成されている。尚、配線320及び325については後述する。
【0073】
以上に述べた構成において、フォトニック結晶導波路330は微小発光素子310と光学的に結合されていると共に、フォトニック結晶導波路340は微小受光素子315と光学的に結合されている。この構成により、微小発光素子310から発した光はフォトニック結晶導波路330を伝搬して素子端部より外部へ放射される。一方、フォトニック結晶導波路340を伝搬する光は微小受光素子315に導かれて電気信号へ変換される。このようにして、窒化物半導体光機能素子301から出射された出射光360はPOF350に導波される。一方、POF350により導波されてきた入射光370はフォトニック結晶導波路340の端部より入射されて、窒化物半導体光機能素子301に受光される。
【0074】
次に、図12のC−C’断面線に沿った微小発光素子310近傍及び微小受光素子315近傍の断面構成を示す図13を参照しながら、微小発光素子310及び微小受光素子315の詳細な構造について説明する。
【0075】
図13に示すように、p型の半導体、例えばp型Siからなる基板302の表面部には、微小発光素子310と微小受光素子315とを電気的に分離するために、例えばn+層である埋め込み層302a及び302bが形成されている。
【0076】
微小発光素子310は、基板302上に、例えばn−AlN層からなるバッファ層310a、例えばn−AlGaN層からなる第1のクラッド層310b、例えばn−GaN層からなる第1の光ガイド層310c、例えばGaN/InGaN多重量子井戸から構成される発光層310d、例えばp−GaN層からなる第2の光ガイド層310e、及び例えばp−AlGaN層からなる第2のクラッド層310fを順次積層することにより構成されている。微小発光素子310の第1の光ガイド層310cは、犠牲層303及び透明薄膜304に形成された開口部306を埋めるようにバッファ層310a及び第1のクラッド層310b上に積層されていると共に、透明薄膜304上では三角形状に形成されている。ここで、当該三角形状の斜面は III族窒化物半導体の<11−02>面つまり半極性面となっており、当該半極性面に発光層310dが形成されている。
【0077】
また、微小発光素子310の最表面上及び透明薄膜304の一部分の上には、例えばTi、Cr、Pt、Ag、Al及びAu等の中から選ばれた1つ又は複数の金属からなる配線320が形成されている。配線320は、微小発光素子310の最表面上に形成された金属電極320aと、透明薄膜304の一部分の上にカバー層305を介して形成された金属配線320bとを有する。ここで、金属電極320aは第2のクラッド層310fと電気的に接続されている。
【0078】
また、基板302の表面上の犠牲層303、透明薄膜304及びカバー層305には、図示しない開口部が形成されており、当該開口部には、埋め込み層302aと電気的に接続する金属電極が形成されている。これにより、配線320及び基板302の埋め込み層302aを通じて微小発光素子310に電力が供給される。具体的には、基板320及び埋め込み層302aをグランド端子に接続して配線320に所定の電圧を印加することにより、発光層320dに電流が流れて光が生成される。
【0079】
一方、微小受光素子315は、基板302上に、微小発光素子310と同様に、バッファ層315a、第1のクラッド層315b、第1の光ガイド層315c、例えばGaN/InGaN多重量子井戸から構成される受光層315d、第2の光ガイド層315e、及び第2のクラッド層315fを順次積層することにより構成されている。尚、微小受光素子315は、微小発光素子310と実質的に同じ積層構造を有するが、微小発光素子310において例えばGaN/InGaN多重量子井戸から構成される発光層310dは、微小受光素子315においては光を受光する受光層315dとなる。
【0080】
また、微小受光素子315が形成される開口部307の開口部幅は、微小発光素子310が形成される開口部306の開口部幅とは異なる。この開口部幅差により、微小発光素子310と微小受光素子315とを互いに異なる形状で形成することが可能となる。具体的には、微小受光素子315の第1の光ガイド層315cは、犠牲層303及び透明薄膜304に形成された開口部307を埋めるようにバッファ層315a及び第1のクラッド層315b上に積層されていると共に、透明薄膜304上では台形形状に形成されている。ここで、当該台形形状の斜面は III族窒化物半導体の<112−2>面つまり半極性面となっており、当該半極性面に受光層315dが形成されている。従って、本実施例においては、発光層310dと受光層315dとが互いに異なる結晶面に形成されるため、発光層310dと受光層315dとは互いに異なるIn組成のInGaN層から構成される。言い換えると、発光層310d及び受光層315dのそれぞれに適したIn組成のInGaN層を形成することができる。
【0081】
また、微小受光素子315の最表面上及び透明薄膜304の一部分の上には、例えばTi、Cr、Pt、Ag、Al及びAu等の中から選ばれた1つ又は複数の金属からなる配線325が形成される。配線315は、微小受光素子315の最表面上に形成された金属電極325aと、透明薄膜304の一部分の上にカバー層305を介して形成された金属配線325bとを有する。ここで、金属電極325aは第2のクラッド層315fと電気的に接続されている。
【0082】
また、基板302の表面の犠牲層303、透明薄膜304及びカバー層305には、図示しない開口部が形成されており、当該開口部には、埋め込み層302bと電気的に接続する金属電極が形成されている。これにより、配線325及び基板302の埋め込み層302bを通じて微小受光素子315に電力が供給される。具体的には、基板320及び埋め込み層302bをグランド端子に接続して配線325に所定のマイナス電圧を印加した状態において受光層315dに光が入射すると、光電流が流れるため、入射光量に応じた電流量を検出することが可能となる。
【0083】
尚、埋め込み層302aと基板320とが電気的に分離されていると共に埋め込み層302bと基板320とが電気的に分離されているため、微小発光素子310と微小受光素子315とは電気的に分離されている。
【0084】
本実施例の窒化物半導体光機能素子を用いることにより、実施例1〜3と同様の効果に加えて、次のような効果を得ることができる。すなわち、発光素子及び受光素子の両方のPOFに対する結合効率を高くすることができる。さらに、1つの基板上に発光素子及び受光素子の両方が形成されているため、POF及び光機能素子を用いた光通信システムを低コストで作製することが可能となる。
【0085】
尚、本実施例において、基板302としてp型Si基板を、埋め込み層302a及び302bとしてn+層を用いたが、これに代えて、p型とn型とを入れ替えた構成、つまり基板302としてn型Si基板を、埋め込み層302a及び302bとしてp+層を用いた構成を採用した場合にも、本実施例と同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る窒化物半導体光機能素子は、例えば波長440〜570nm程度の範囲の光を高い指向性で放射することができるため、光ファイバーを利用した光通信用の光機能素子の他、例えば投影型ディスプレイ等用の可視光光源としても活用可能である。
【符号の説明】
【0087】
1、101、201、301 窒化物半導体光機能素子
2、102、302 基板
3、303 犠牲層
4、304 透明薄膜
5、305 カバー層
6、106、206、306、307 開口部
10、110、210、310 微小発光素子
10a、110a、210a、310a、315a バッファ層
10b、110b、210b、310b、315b 第1のクラッド層
10c、110c、210c、310c、315c 第1の光ガイド層
10d、110d、210d、310d、315d 発光層
10e、110e、210e、310e、315e 第2の光ガイド層
10f、110f、210f、310f、315f 第2のクラッド層
11、111 孔
20、220、320、325 配線
20a、120a、220a、320a、325a 金属電極
20b、120b、220b、320b、325b 金属配線
30、330、340 フォトニック結晶導波路
31、131、331 フォトニック結晶
31a、31b フォトニック結晶の開口部
50、350 POF
51 発光面
52 受光面
60、360 出射光
104 誘電体薄膜
105 誘電体カバー層
302a、302b 埋め込み層
315 微小受光素子
370 入射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された発光素子及び透明薄膜を有する窒化物半導体光機能素子であって、
前記透明薄膜中にフォトニック結晶導波路及び開口部が形成されており、
前記発光素子は、前記開口部が埋まるように前記基板上から前記透明薄膜の上側まで結晶成長させた窒化物半導体からなることを特徴とする窒化物半導体光機能素子。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化物半導体光機能素子において、
前記発光素子の発光層の一部又は全部が、前記窒化物半導体の半極性面に形成されていることを特徴とする窒化物半導体光機能素子。
【請求項3】
請求項1に記載の窒化物半導体光機能素子において、
前記発光素子の発光層の一部が、前記窒化物半導体の無極性面に形成されていることを特徴とする窒化物半導体光機能素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化物半導体光機能素子において、
前記基板はシリコンからなることを特徴とする窒化物半導体光機能素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化物半導体光機能素子において、
前記透明薄膜はシリコン窒化物からなることを特徴とする窒化物半導体光機能素子。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図2】
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【図5】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−96981(P2011−96981A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252203(P2009−252203)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】