説明

窒化膜の形成方法

【課題】バッチ式の縦型炉を用いてプラズマアシストALD法により窒化膜を形成する際、炉底部付近でのローディング効果を抑制する。
【解決手段】反応容器102内に複数段にウエハを載置可能なボート101と、前記反応容器の側面に沿ってRF電極106で挟まれたプラズマ空間105と、該プラズマ空間から前記反応容器内の前記各段のウエハに略均等にガスを供給可能な供給口F1,F2と、を備えたバッチ式の縦型炉100を用いて、窒化すべきガスの導入、吸着、パージ、プラズマ励起された窒化ガスの導入による前記窒化すべき吸着ガスの窒化およびパージ、を1サイクルとして所定の膜厚までサイクルを繰り返すプラズマアシストALD法において、前記窒化すべきガス導入時のキャリアガス量よりも前記窒化ガス導入時のキャリアガス流量を少なくし、特に窒化ガスとしてのNH3とキャリアガスとしてのN2の流量比をNH3の50に対してN2を3以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化膜の形成方法に関し、特にバッチ式縦型のプラズマアシストALD装置を用い、高密度パターンの形成された半導体ウエハ上に窒化膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置において、耐熱性が必要となる部分の配線として、従来から高融点金属であるW(タングステン)が一般的に用いられている。
【0003】
また、多層配線構造を有する半導体装置では、各層の配線間を電気的に絶縁する層間絶縁膜が形成されているが、この層間絶縁膜にはCVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成される酸化シリコン膜が用いられている。
【0004】
上記Wは、酸化シリコン膜形成時の、酸素雰囲気の環境下において、容易に酸化され、Wに比較して大幅に抵抗率の高いWOx(酸化タングステン)が形成される。その結果、配線の抵抗が上昇するとともに、体積膨張による密着性悪化などの問題が発生する。
【0005】
上述した問題を回避するため、W配線の上に直接酸化シリコン膜を形成するのではなく、W層が露出している部分を窒化シリコン膜で被覆し、この窒化シリコン膜を酸化防止膜として機能させ、その上に酸化シリコン膜をCVD法により形成する方法が用いられている。
【0006】
上述した酸化防止膜としての窒化シリコン膜の形成には、ジクロロシラン(SiH2Cl2:以下、DCSと称す)とアンモニア(NH3)を原料ガスとし、630℃〜680℃の温度範囲で成膜する低圧CVD法が用いられる。
【0007】
しかしながら、CVD法で窒化シリコン膜を形成すると、W配線の表面が窒化され、窒化W膜は、導体であるが、Wと比較して10倍程度高抵抗の膜となることから、微細配線において十分に低抵抗な配線を得ることができないという問題がある。
【0008】
そこで、特許文献1では、W配線を形成した後、DCSとプラズマにてラジカル化されたNHとを用いて550℃以下でALD法にて堆積される窒化シリコン膜により、W配線を被覆することで、W配線表面の窒化が抑制され、配線抵抗の上昇が防止できることが示されている。
【0009】
また、W配線に限らず、ALD法による成膜はステップカバレジが良好であることから、高密度の配線(例えば、メモリセルトランジスタのゲート配線)のサイドウォールとしての窒化シリコン膜の形成にも有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−112826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような、プラズマアシストALD窒化膜プロセスにおいては、図1に示すような縦型ALD装置100が用いられている。このバッチ式の縦型炉は、半導体ウエハを石英製のウエハボート101に所定のピッチで多段に支持し、これを円筒状の縦型の処理容器102内に収容している。ウエハボート101は回転機構103により回転自在とされており、成膜時には所定の回転速度で回転される。円筒状の縦型の処理容器102(石英チャンバ)の外周には、加熱機構104が設けられており、処理容器102内を所定温度に加熱することができる。原料ガスは、処理容器102内へ直接供給される経路F1と、ラジカル化のためにRF電極106で挟まれたプラズマ空間105を経由して処理容器内に供給される経路F2とを有している。DCSは経路F1から処理容器102内へ直接供給され、NHは、経路F2からプラズマ空間105を経由してラジカル化されて処理容器102内へ導入される。また、DCSは経路F2からプラズマ空間105を介して、RF電力無印加の状態で供給しても良い。各原料ガス供給経路は、各段の半導体ウエハに均等に原料ガスを供給するため、ガスインジェクタと呼ばれる細孔(不図示)を有している。また、処理容器の排気口107には、排気ポンプ(不図示)が接続されており、成膜空間の圧力調整及び排気ガスの排気を行う。
【0012】
ALD法における窒化シリコン膜の成膜は、まず、シリコン原料であるDCSを含む成膜ガスを処理容器内に供給してシリコン原料の吸着を行い、吸着しなかったDCSをパージした後、プラズマにてラジカル化されたアンモニアを含む窒化ガスを処理容器内に供給して、吸着しているDCSを分解、窒化し、パージする工程を1サイクルとして所望の膜厚までサイクルを繰り返すことで実施される。
【0013】
上記のようなバッチ式の縦型炉を使用する場合、各原料ガスは高さ方向で均等に供給されるように流量等が調整されている。
【0014】
Si原料であるDCSについては、炉内では均一に供給されるものの、窒化ガスであるアンモニアについては、供給量が均一であっても炉内底部と上部とでラジカル化の程度が異なるという問題が発生する。これは、図2に示すように、原料ガスであるアンモニアガス(NH)とキャリアガスである窒素ガス(N)と混合して流路に導入すると、図2(a)に示すように、ガス供給量は炉内の底部でも上部でもほぼ均等であるが、図2(b)に示すように、RF電極で挟まれた空間を通過するアンモニアガスに対するRF印加時間が、炉内底部では短くなり、十分にラジカル化されないまま反応空間に導入されることとなる。アンモニアガスのプラズマ処理時間の減少は、Nラジカルの生成量の減少となる。この結果、Nラジカルの不足に伴い、ウエハ中心部へのNラジカルの到達量が減少し、DCSの窒化が不十分となり、ウエハ中心部の窒化膜の膜厚が減少する。特に、高表面積のパターンではラジカルの消費量が多いため、ウエハ中心部の膜厚が減少(以下、「膜少現象」という)し易く、ウエハ面内膜厚の均一性が悪化(ローディング効果による)する問題があった。また、ローディング効果はウエハ径が大きくなるほど発生しやすくなる。
【0015】
このような問題を解決するには、ボート下部にウエハを載置しない方法が考えられるが、生産性が悪化する問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、バッチ式の縦型炉を用いたプラズマアシストALD法において、炉内底部でもローディング効果によるウエハ内の膜厚均一性が得られる方法について検討したところ、DCS導入時とアンモニア導入時とでキャリアガス流量を異ならしめることで、ローディング効果の影響を抑えることができることを見出した。
【0017】
即ち、本発明の一実施形態によれば、
反応容器内に複数段に半導体ウエハを載置可能なボートと、反応容器の側面に沿ってRF電極で挟まれたプラズマ空間と、プラズマ空間から前記反応容器内の各段の半導体ウエハに略均等にガスを供給可能な供給口を備えたバッチ式の縦型炉を用い、
窒化すべき原料ガスをキャリアガスと共に、前記縦型炉に搭載される各段の半導体ウエハに供給し、窒化すべき原料を半導体ウエハ表面に吸着させる工程、
未吸着の原料ガスをパージする工程、
窒化ガスをキャリアガスと共に、前記プラズマ空間の下から上に向かって導入してラジカルを生成させ、生成したラジカルを含むガスを前記縦型炉に搭載される各段の半導体ウエハに供給し、前記窒化すべき原料を窒化する工程、
窒化ガスをパージする工程、
とを1サイクルとして、所定の膜厚まで前記サイクルを繰り返すプラズマアシストALD法による窒化膜の形成方法であって、
窒化すべき原料ガスと共に供給されるキャリアガス量よりも、窒化ガスと共に供給されるキャリアガス量を少なくしたことを特徴とする窒化膜の形成方法。
特に、本発明では、窒化ガスとしてアンモニアガスを用い、キャリアガスとして窒素ガスを用い、窒化ガス導入時のキャリアガス量を窒化ガスとキャリアガスの流量比で50:3以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、炉底部においても十分なラジカル生成量が得られ、ウエハ中心部でのローディング効果による膜少現象を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】縦型バッチ式のプラズマアシストALD装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の課題を説明する概念図。
【図3】実施例で形成する窒化膜の一例を示す略断面図。
【図4】キャリアガス流量に対する中心部と外周部の膜厚差を示す図。
【図5】従来技術によりウエハ中心での膜少現象を示すSEM写真。
【図6】本発明によりウエハ中心での膜少現象が改善された状態を示すSEM写真。
【図7】キャリアガス流量の違いによる最下層からの段数に対する中心部と外周部の膜厚差を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について実施形態例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施形態例のみに限定されるものではない。
【0021】
以下の実施形態例では、ライン形状に形成したゲート電極、特にDRAMのメモリセルにおける能動素子となるMOSトランジスタのゲート電極となるワード線にシリコン窒化膜を形成する方法について説明する。
【0022】
図3に示したトランジスタ形成領域において、半導体基板表面に、例えば熱酸化法などにより、シリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜(図示しない)が形成されている。
【0023】
このゲート絶縁膜の上にゲート電極1が、例えば多結晶シリコン膜と金属膜との多層膜により形成されており、多結晶シリコン膜はCVD法での成膜時に不純物を導入させて形成するドープト多結晶シリコン膜を用いることができる。金属膜はタングステン(W)や、タングステンシリサイド(WSi)などの高融点金属を用いることができる。ゲート電極1の上に、窒化シリコン膜などの絶縁膜2が形成されており、この絶縁膜2を覆うようにサイドウォール膜となるシリコン窒化膜3をプラズマアシストALD法にて形成する。ここでは、シリコン窒化膜3を25nm厚になるように設定する。ここでは、約30cm径(12インチ)のウエハを用いた。なお、ウエハサイズとしては約20cm径(8インチ)のものでも同様の効果が得られる。
【0024】
図1に示す装置(ボート25段)を用い、ALDサイクルとして、
DCSを2slm(標準状態で1分間に流す量〔リットル〕)の流量で、また、キャリアガスとしてNガスを0.5slmの流量で導入、
成膜空間をNガスを用いてパージ、
パージ後、アンモニアガスを5slmの流量で、キャリアガスとしてNガスを0.1〜0.5slmで変化させて導入、
成膜空間をNガスを用いてパージ、
を1サイクルとして、設定した25nm厚となるまでサイクルを繰り返した。成膜温度は550℃とした。DCSは流路F1から反応容器内に導入し、アンモニアガスは、流路F2からプラズマ空間105を介して反応容器内に導入した。RF電力は100Wとした。
【0025】
図4に、ボート下部(最下層から5〜10段の平均値)におけるアンモニアガス導入時のキャリアガス流量とローディング効果(中心部と外周部の膜厚差)の関係を示す。
【0026】
同図に示すように、アンモニアガス導入時のキャリアガス流量が0.3slmまではローディング効果の影響が余りないが、それを超えるとローディング効果の影響が現れている。このことから、アンモニアガス導入時の流量比がアンモニアガス50に対してN2ガスが3以下であれば、ローディング効果が抑制されることが分かる。
【0027】
参考として、N2ガス流量0.5slmと0.1slmで導入した場合の中心部と外周部の成膜状況を図5、図6にそれぞれ示す。これらの図は、各4方向の外周部と中心部との電子顕微鏡(SEM)下での観察結果を組み合わせている。図5では、明らかにウエハ中心部に膜少現象が発生しているが、図6では膜少現象が改善されていることが分かる。
【0028】
また、N2ガス流量0.5slmと0.1slmで導入した場合の、各段における中心部と外周部の膜厚差を比較したものを図7に示す。
【0029】
図7に示すように、N2ガス流量0.5slmの場合、炉頂部より底部に向かうほど膜少現象が大きくなっているが、0.1slmでは、炉底部において膜少現象が改善されていることが確認される。0.1slmでは炉頂部側のデータを示していないが、ほぼ平行に推移しており、ほとんど差は無かった。
【0030】
なお、DCS、アンモニアガスの流量は特に制限されるものではないが、10slm以下が好ましく、通常は、アンモニアガスをDCSの2倍以上、特に2.5倍の流量とすることが望ましい。キャリアガスであるNガスは、DCS導入時よりもアンモニアガス導入時の方が絶対値で少なくなるように導入することが好ましい。窒化膜形成時の温度は特に制限されるものではないが、通常300〜800℃の範囲から選択できる。Wを含む配線上に窒化膜を形成する場合、Wの窒化を抑制するという観点から550℃以下であることが好ましい。また、形成される窒化膜の膜質、特に保護膜やエッチングストッパー膜としてのエッチングレートを確保するという点から500℃以上が好ましい。プラズマ活性化時の高周波電源のRF出力は50〜300Wの範囲に設定することができ、特に100W近傍が好ましい。
【0031】
以上の説明では、窒化膜としてシリコン窒化膜を形成する場合を挙げているが、これに限定されず、プラズマアシストALD法で形成される他の窒化膜、例えば、窒化チタン膜の場合にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
100 縦型ALD装置
101 ウエハボート
102 処理容器
103 回転機構
104 加熱機構
105 プラズマ空間
106 RF電極
107 排気口
201 ウエハ
F1,F2 導入経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内に複数段に半導体ウエハを載置可能なボートと、反応容器の側面に沿ってRF電極で挟まれたプラズマ空間と、プラズマ空間から前記反応容器内の各段の半導体ウエハに略均等にガスを供給可能な供給口を備えたバッチ式の縦型炉を用い、
窒化すべき原料ガスをキャリアガスと共に、前記縦型炉に搭載される各段の半導体ウエハに供給し、窒化すべき原料を半導体ウエハ表面に吸着させる工程、
未吸着の原料ガスをパージする工程、
窒化ガスをキャリアガスと共に、前記プラズマ空間の下から上に向かって導入してラジカルを生成させ、生成したラジカルを含むガスを前記縦型炉に搭載される各段の半導体ウエハに供給し、前記窒化すべき原料を窒化する工程、
窒化ガスをパージする工程、
とを1サイクルとして、所定の膜厚まで前記サイクルを繰り返すプラズマアシストALD法による窒化膜の形成方法であって、
窒化すべき原料ガスと共に供給されるキャリアガス量よりも、窒化ガスと共に供給されるキャリアガス量を少なくしたことを特徴とする窒化膜の形成方法。
【請求項2】
窒化ガスとしてアンモニアガスを用い、キャリアガスとして窒素ガスを用い、窒化ガス導入時のキャリアガス量を、流量比でアンモニアガス50に対して窒素ガス3以下とする請求項1に記載の窒化膜の形成方法。
【請求項3】
前記窒化膜は、シリコン窒化膜である請求項1又は2に記載の窒化膜の形成方法。
【請求項4】
前記窒化すべき原料ガスとして、ジクロロシランを用いる請求項3に記載の窒化膜の形成方法。
【請求項5】
前記シリコン窒化膜は、基板上に形成されたタングステンを含む配線パターン上に形成される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の窒化膜の形成方法。
【請求項6】
窒化膜の形成を500〜550℃の範囲で実施する請求項5に記載の窒化膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−142386(P2012−142386A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293379(P2010−293379)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(500174247)エルピーダメモリ株式会社 (2,599)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】