説明

粒子の衝突回避の予約方法および装置

【課題】従来の衝突回避方法には、▲1▼衝突判断や評価方法が曖昧、▲2▼対象を単独または少数に限って個別に扱うため多数の対象と同時に衝突回避できない、▲3▼側方や後方、障害物の陰、上下から接近する対象を無視している、▲4▼相手の速度や重量など、物理的情報を想定または無視しているなどの問題がある。また、▲5▼操縦者に警告するのみで過大な責任を求めたり、逆に、操縦感覚と無関係に自動減速・停止するなど、操縦者の存在が軽視されている。
【解決手段】車両などと対象を粒子群で表し、運動状態に比例して安全に制動および回転可能な3次元的な空間を粒子に与え、この空間と相手粒子との仮想衝突計算を3次元仮想空間で行い、仮想衝突反力を自らにのみ加えて制動および回転行動を取るよう粒子運動を制御する方法と、制御信号を制御系と操縦系に与える中間力覚制御により、機械系と操縦者の双方を制御しながら常時・動的に衝突を回避するシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子に仮想衝突計算を行わせて衝突回避を予約する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両などにおける衝突回避の手段は、先行車両などの対象物を少数に限定し、これらをレーダや音波による探査、何らかの通信手段を用いて検出、認識し、距離と速度の関係を用いて接近や衝突の可能性を判断して、機械系の制御や情報系の通信、表示を行い、減速や警告などを行う方法が大半を占めている(例えば、特許文献1などを参照)。
【0003】
対象物の数については、これを限定せず、対象物との相対速度を正確に計算することで多くの対象物との衝突を回避しようとするものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
対象物の検出手段には、前記の手段以外にも赤外線、GPS、画像など様々なものがある。通信手段についても車車間通信、車道路間通信、車センター間通信など様々なものがあり(例えば、特許文献3参照)、なかには、車両が自分の位置を放送し、相互通信リンクを開いて情報を伝達する提案もある(例えば、特許文献4参照)。これらに鑑みると、衝突回避の対象物の検出と通信手段については、インフラストラクチャの整備などを経て急速に充実していくものと考えられる。
【0005】
衝突の可能性の判断方法には、交錯性などを評価するもの(例えば、特許文献5参照)、3次元幾何モデルの干渉チェック(例えば、特許文献6参照)を行うものもある。しかし、多くは曖昧に記述されており(例えば、特許文献1参照)、一般に、速度から制動距離を割り出して前方距離と比較するなどの単純なものが多いと考えられ、衝突回避の手段として最も多く提案されているものも、機械系の制御や情報系の通信、表示など、操縦者の運転支援や情報提供に留まるものがほとんどである。
【0006】
先進的な車両運行方式の一つに隊列走行や追従走行がある。この発展形として、障害物を検出して交錯性がある値を越えると隊列を解いて個別に走行し、障害物がないことを確認して再び隊列走行に戻るといった方式で、交通容量を最大にしようとする試みも行われている(例えば、特許文献5参照)。
【0007】
また、航空機に関しても衝突回避を行う方法が提案されている(特許文献7)。
【0008】
多数の移動体が互いに、かつ他の障害物と衝突しないようにするため、相互接近度で反発力を発生する人為的力フィールドモデルから衝突回避信号を導き出すものもある(特許文献8)。この提案では物体を分離するのに必要な反発力を求め、これに対応する制御信号を出している。
【0009】
オブジェクトの衝突回避を提案したものもある。ただしセルの占有で重複を避ける考えであり、動的な衝突回避には使えない(特許文献9)。
【特許文献1】 特許公開2004−155303(解決手段)
【特許文献2】 特許公開平10−143245(解決手段)
【特許文献3】 特許公開2005−44167(解決手段)
【特許文献4】 特許公開平10−188199(解決手段)
【特許文献5】 特許公開2004−276732(解決手段)
【特許文献6】 特許公開2004−1217(解決手段)
【特許文献7】 特許公開2004−93538(解決手段)
【特許文献8】 特許公開平10−97316(解決手段)
【特許文献9】 特許公開平8−241437(解決手段)
【発明の開示】

【技術が解決しようとしている課題】
【0010】
背景技術で述べた従来手法の問題点は、衝突可能性の判断方法や評価方法が曖昧であること、衝突回避の対象を少数に限定していること、衝突回避というタスク処理が個別的であること、衝突危険性が明らかになった段階での機械系の制御または操縦者への情報系を介した警告が主体であって、事前の衝突回避を保証したものではないこと、対象物の探査や検出機能は常時・動的に作動しているものの、事前の衝突回避を常時・動的に計算している訳ではないこと、自分および対象物の持つ運動エネルギーまたは慣性力の大きさを比較して相応の減速または旋回距離を取るようになっていないこと、探査もしくは検出可能な視界が狭く、視界と衝突回避すべき対象物の範囲との関係が定かでない、すなわち衝突回避を限定してとらえていること、側方や後方、見えない障害物の陰、上方および下方からの対象物の存在や接近、衝突の可能性などを十分に考慮していないこと、どのような場面であっても衝突回避が可能となるように考慮されていないこと、車両だけでなく車両・航空機・船舶・潜水艦・人間・ロボット・機械・構造物その他のすべてのオブジェクトあるいは魚類や鳥類などの衝突回避を含めて統一表現できる衝突回避計算や制御になっていないこと、超高速・超多重性がないこと、などである。
【0011】
例えば、先進的な車両運行方式の一つとして隊列走行や障害物を検出して隊列を解いて個別に走行し、障害物がないことを確認して再び隊列走行に戻るといった方式で、交通容量を理論上、最大にしようとする試みが既に行われているが、隊列に対して側方から割り込もうとする車両が現れたとき、あるいは上方から飛来物が接近したような場面で、安全に隊列走行を継続または離脱して個別走行に戻す手段はない。
【0012】
その原因は、衝突する可能性のある対象物を狭い範囲でとらえていること、および、衝突に対して制動および操舵の可能性を十分残している時点で衝突可能性を知り、操縦者の判断に頼ることなく衝突回避の予備行動または本行動を躊躇なく実行する手段を欠いているからである。
【0013】
もし、衝突する可能性のある対象物を広い範囲でとらえているにもかかわらず、衝突可能性の判断と行動によって衝突が避けられないなら、それはインフラストラクチャの不備、操縦者の法令違反または技能の不足、衝突回避の手段の不足、もしくは不可抗力によるものとなる。
【0014】
例えば、地震や津波などはこれを防ぐことは不可能であり、これらの発生は不可抗力によるものとみなされる。しかし、地震や津波によって生じる被災については、これを不可抗力とすることは妥当ではなく、インフラストラクチャの不備、設計者または行政などの技能と規制の不足、被災防止手段の不足というべきである。車両・航空機・船舶・潜水艦・人間・ロボット・機械・構造物その他のすべてのオブジェクトの衝突も同様である。
【0015】
以上の議論から、車両・航空機・船舶・潜水艦・人間・ロボット・機械・構造物その他のすべてのオブジェクトの衝突を回避するために、これらを粒子に置き換えたときの粒子の確実な事前衝突回避の方法があれば、これを有効に用いることによって車両・航空機・船舶・潜水艦・人間・ロボット・機械・構造物その他のすべてのオブジェクトの衝突回避が可能となるものと考えられる。
【0016】
こうした車両などの衝突回避に必要な要件は、衝突回避をどのような環境で考えるかという視野によって大きく異なる。詰まるところは衝突回避の保証でなければならない。すなわち、衝突回避の要件を次のようにまとめることができる。
・対象物の数、速度、制御可能か否かによらず衝突回避する。
・見えない対象物、隠れた対象物にも対処する。
・衝突回避の最終手段は機械制御である。警告や情報の表示は中間力覚制御によって伝達するに留め、制御の最終判断を操縦者の人的技能に拠らないで、ABS(Anti lock Braking System)と同様に秘匿機能とする。
・車両に留まらず、航空機・船舶・潜水艦・人間・ロボット・機械・構造物その他のすべてのオブジェクトに適応を持つ統一的な手段を持つ。
【0017】
この意味で、「多数の移動体」が「互いに、かつ他の障害物」と衝突しないようにするため、「相互接近度で反発力を発生する人為的力フィールドモデル」から「衝突回避信号」を導き出し、「物体を分離するのに必要な反発力」を求め、これに対応する「制御信号」を出すという趣旨の特許文献8は注目に値する。ただし、遠方や高速で運動する対象物は考えられていないから、衝突回避すべき対象物にごく接近しないと反発力が発生しないのが最大の弱点である。また、衝突しようとする対象物を分離するだけの反発力が計算され得たとしても、ごく接近した状態で計算されるため、その制御信号で制動もしくは停止可能な対象物は限られ、しかも衝突を回避して迂回する時間的余裕も考えも含まれていない。
【0018】
一方、魚類や鳥類が群れを形成して飛行するとき、魚類や鳥類は互いに衝突することがない。また、外敵を避けるために群れとして一斉に方向を転換し、捕食者から逃げようとするが、それでも互いに衝突することはない。これは、各々が広い視界を持っており、周辺の仲間の行動を知って互いに接触、衝突しないように方向を変え、速度を増減しているからである。また、外敵が視界に入った場合、外敵から逃れるために、やはり同様に方向を変え、速度を増減するため、群れの外縁部にいる魚類および鳥類が衝突回避行動を取ろうとするだけで、群れの内部にいる魚類および鳥類は視界にある同類の行動に反応するのみで、群れも個体も捕食者との衝突を回避することができる。すなわち、外敵の認知、それを遠方で可能にする広い視界、どう逃げるかの決定、行動、その行動を同類に視界を妨げられている個体が知ることが常に行われ、以上により群れと個体の安全が保たれている。車両・航空機・船舶・潜水艦・人間・ロボット・機械・構造物その他のすべてのオブジェクトが互いに衝突を回避するためには、魚類や鳥類と同様の十分な視界と識別能力、および逃げるのに十分な時間的余裕と退避行動、さらに、制動、操舵、加減速などの退避行動を行っている間も、近接する対象物との間で常に衝突回避をし続けていなければならない。
【0019】
本発明は、任意の車両・航空機・船舶・潜水艦・人間・ロボット・機械・構造物その他のすべてのオブジェクトを粒子または粒子群に置き換えることを想定し、粒子の衝突回避の手段として粒子に仮想衝突計算を行わせ、衝突回避を予約する方法と装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
仮想空間において、着目している粒子(以下、着目粒子という)の周囲および運動方向に広がる拡大縮小が可能な3次元空間であって、着目粒子の位置、速度、加速度、質量、運動エネルギー、運動経路からもたらされる摩擦などの抵抗(以下、運動パラメータという)によって決まる空間で、制動および操舵によって着目粒子が必要な減速または停止に至るのに要する仮想空間、および着目粒子周辺の任意の占有空間との双方を包絡した空間(以下、空間予約領域という)を持つ粒子を扱うこと(請求項1)。
【0021】
前記の空間予約領域に侵入する可能性のある他の粒子を、何らかの方法で単位時間ごとに任意の範囲にわたって調べることにより、現在地点から単位時間が経過するまでの間に空間予約領域の境界と衝突する可能性のあるすべての粒子を探索し、それらの属性を調べ、探索範囲から離脱するまで監視可能な状態に置くこと(請求項2)。
【0022】
前記の空間予約領域の境界に仮想の障壁を与え、空間予約領域の境界と空間予約領域に侵入しようとする粒子との間で仮想の衝突を計算可能とすること(請求項3)。
【0023】
前記手段により探索された一つまたは複数の衝突の可能性のある粒子と空間予約領域の境界との間で仮想の衝突点を求め、相手粒子の運動パラメータなどの属性を知って衝突点における一般的な衝突計算を行い、仮想の反発方向と衝突反力を求める計算(以下、仮想衝突計算という)を行うこと(請求項4)。
【0024】
前記の仮想衝突計算によって得られた衝突反力のうち、着目粒子の空間予約領域に侵入した相手粒子には衝突反力を与えず、着目粒子にのみ衝突反力を与えること(請求項5)。
【0025】
前記の着目粒子にのみ与えられた衝突反力により着目粒子に制動力と操舵力を与え、着目粒子の運動方程式を解いて運動パラメータを修正し、修正された運動パラメータにより着目粒子の空間予約領域を縮小および回転すること(請求項6)。
【0026】
前記衝突の可能性のある粒子と空間予約領域の境界との仮想衝突計算によって修正された運動パラメータおよび空間予約領域を、着目粒子の有する運動エネルギーおよび粒子の属性に記録されている運動の目的や条件に基いて増減速、拡大縮小すること(請求項7)。
【0027】
前記の粒子が結合して群を成して運動しているとき(以下、粒子群という)、粒子群を構成するおのおのの着目粒子が前記仮想衝突計算により制動力と操舵力を受け、粒子群以外の粒子または粒子群に何ら影響を与えることなく自らにのみ制動と操舵を加えることにより粒子群の運動の方向と姿勢を変更して、他の粒子または粒子群との衝突を可能な範囲で回避しようとすること(請求項8)。
【0028】
前記の衝突回避において粒子の属性を参照することにより、同じ粒子群を構成している粒子間では仮想衝突計算を行わないこと(請求項9)。
【0029】
前記の仮想衝突計算および一方的な衝突回避において、相手粒子群を構成する粒子もまた空間予約領域を持って仮想衝突計算および衝突回避を行う属性を有している場合は、双方の粒子群で前記の仮想衝突計算が行われ、可能な範囲で双方が衝突を回避しようとすること(請求項10)。
【0030】
以上の計算方法およびそれを記録した任意の媒体および装置(請求項11)。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、粒子が衝突する十分以前に空間予約領域の境界における仮想衝突計算を行うことにより仮想の衝突反力が計算され、その衝突反力を自らにのみ与え、かつ対象粒子に与えないことにより、対象粒子の衝突回避を伴うことなく、自らの能動的な制動と操舵のみによって能動的な事前衝突回避ができる。
【0032】
対象粒子が空間予約領域を持ち、仮想衝突計算を行って衝突回避する属性を持っている場合は、互いに仮想衝突計算を行い、衝突回避することができる。
【0033】
対象粒子がその属性とともに何らかの手段で仮想空間に登録されている限り、粒子の通常の視界では探索不可能な位置に対象粒子が存在していても、必ず探索可能となり、さらに対象粒子の属性から仮想衝突計算のために必要な運動エネルギーや運動パラメータを知ることができ、対象粒子の質量が大きく、かつ高速で運動していても、十分な視界さえあれば衝突回避が可能となる。
【0034】
着目粒子の視界が通常の範囲に限られる場合でも、魚類や鳥類の衝突回避と同様に、最小限の衝突回避ができる。ただし、視界が十分でないために十分な時間的余裕を持って衝突回避に着手できない場合、または衝突回避に着手していても制動と操舵が不足するときは衝突が回避できない。このような場合は他のどの手段をもってしても衝突は避けられない。
【0035】
単位時間ごとに対象粒子の探索と仮想衝突計算ほかを繰り返すため、動的に衝突回避できる。
【0036】
仮想衝突計算の対象となる粒子が多数に及んでも、仮想衝突計算ほかが高速で行われる限り衝突回避でき、課題は通信速度と計算速度のみとなる。
【0037】
対象粒子が高速で運動していても、仮想衝突計算ほかが十分に高速で行われる限り衝突回避でき、課題は通信速度と計算速度のみとなる。
【0038】
着目粒子が複数の対象粒子によって囲まれているとき、空間予約領域のうち着目粒子の周囲に広がる3次元空間を任意に拡大縮小することにより、対象粒子との衝突回避の結果、着目粒子を周囲の対象粒子の成す空間の中央に移動することができる。これにより、例えば、周囲の対象粒子が複数の部品を構成していて、それらの部品が成す空間に着目粒子が構成する部品が位置しているとき、この部品を周囲の部品の成す空間と接触、衝突することなく、その空間の中央に移動させることができる。
【0039】
粒子が構成する部品が複数集まって空間を成して特定の形状の隙間を成しており、着目粒子の所属する部品もまた特定の形状を持つ場合、後者は前者の中央に周囲の部品と接触、衝突しないように位置しようとし、姿勢を回転させることになる。すなわち、部品間に非接触の原則を与え、かつ、部品が成す空間の隙間に合うように姿勢を制御しながら運動させることが可能となる。
【0040】
もし、部品が成す空間の隙間が着目粒子の所属する部品の通過が可能な形状および面積を有していれば、着目粒子の所属する部品の仮想衝突計算による制動と操舵が間に合う限り、必要な制動および粒子の持つ運動エネルギーに基づく加速、そして姿勢制御によって、この隙間を通過することができる。
【0041】
すなわち、本発明により、粒子または粒子が構成する任意の車両・航空機・船舶・潜水艦・人間・ロボット・機械・構造物その他のすべてのオブジェクトの運動を扱うと、物理的に可能な範囲かつ非接触の原則のもとで、これらを任意に運動させることが可能となる。
【0042】
本発明を利用して、仮想衝突計算の結果を現実の制御システムとの間でリアルタイムまたは先行して通信・連動し、中間力覚制御などを介して機械制御系を制御し、同時に操縦者に力覚を伝えると、現実空間における衝突回避の制御と操縦者への警告が同時にでき、操縦者の判断ミスなどによる衝突の危険性が根本的に減少する。
【0043】
航空機や船舶など、慣性力が大きく容易に制動または操舵することができない対象物においても、例えば、隊列走行の状態と隊列走行から離脱した状態とで取り扱い上の原理的な違いがまったくないため、扱いが容易かつ単純となり、航路の交差が生じかけたとしても各々の制動と操舵により衝突が回避され、対象物への衝突危険性を大きく損なうことがなくなって、航路を単独占有もしくは安全に共同占有することができる。
【0044】
同様のことが車両・航空機・船舶・潜水艦・人間・ロボット・機械・構造物その他のすべてのオブジェクトについて言える。例えば、仮想衝突計算の結果を何らかの個別通信手段を介して個人に伝達することにより、弱者救済・保護・警告・安全誘導システムとなる。
【0045】
建物や道路などが衝突回避の対象となる場合は、構築物の形状が既知であり、かつ固定されているなら、予め粒子化して仮想空間に登録しておくことにより、同様に扱うことで構築物との衝突回避も可能となる。また、構築物の新設、変更などを知るために定期的に調査して粒子化し、仮想空間に登録、更新を繰り返すだけで、構築物との衝突回避が可能となる。
【0046】
同様に、車両・航空機・船舶・潜水艦・人間・ロボット・機械・構造物その他のすべてのオブジェクトの状態を検出し、仮想空間に登録、更新を繰り返すことにより、これらの間での衝突回避が可能となる。
【0047】
本発明を利用させることにより、衝突事故防止シミュレータ、渋滞とその解消方法を探索するシミュレータ、ロボットハンドが把持した部品の高速・多重分解・組立シミュレータ、およびこれらに基づく現実世界における問題解決のためのシミュレーションと制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の最良の実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0049】
図1は、本発明にかかる空間予約領域を平面に投影して模式化したものである。
【0050】
図2は、空間予約領域の境界における仮想の衝突を平面に投影して示した模式図である。
【0051】
図1に示すように、空間予約領域は、粒子の周囲に広がる空間と、粒子の運動パラメータに関連した大きさと広がりを持つ空間とから成る。これらの空間を単独また組み合わせた空間予約領域を考えることにより、静的な状態にあるときは粒子の周囲に広がる空間のみ、動的な状態にある場合はこれに運動パラメータに関連した大きさと広がりを持つ空間を加えて、静的な場合と動的な場合の空間予約領域を連続して扱うことが可能となる。
【0052】
仮想空間に、粒子とその属性を登録する。粒子とその属性を知る手段は問わない。
【0053】
着目粒子を選び、その運動パラメータに関連して空間予約領域を設定する。
【0054】
空間予約領域を含む相当に広い範囲を任意に設定し、仮想空間に登録されている粒子およびその属性を探索する。探索の手段は問わない。
【0055】
探索された粒子の運動パラメータから、次の単位時間内に空間予約領域の境界を横切る可能性のある対象粒子を選び出す。選び出す手段は問わない。
【0056】
図2に示すように、着目粒子の空間予約領域の境界を横切る可能性のある対象粒子について、各々の空間予約領域の境界との衝突点を計算し、その衝突点において、空間予約領域の境界が有する障壁との間で仮想衝突計算を行う。衝突計算は一般的な方法を用い、衝突後の運動方向および衝突反力を精度よく計算すればよい。
【0057】
衝突後の衝突反力を相手粒子には与えず、着目粒子自らにのみ衝突反力を与える。
【0058】
着目粒子は衝突反力を用いて自らに制動および操舵を施す。衝突反力による制動と操舵は、衝突反力の作用する方向と衝突反力を着目粒子の運動方程式の荷重項に加えて解けば得られる。
【0059】
制動と操舵により着目粒子の運動パラメータが変化するので、空間予約領域もこれに合わせて修正を加える。
【0060】
対象粒子はそのまま運動を継続しようとするので、対象粒子と着目粒子の空間予約領域はその後も仮想衝突を続ける可能性がある。仮想衝突計算と衝突反力による制動と操舵は、次の単位時間を経るまでの間、繰り返され、衝突可能性がなくなるまで衝突可能性のある対象粒子が進めないようにするので、この間、衝突可能性のある対象粒子が通り過ぎることはない。この他の対象粒子との間でも同様の仮想衝突計算を行い、いずれの衝突反力も前記のように着目粒子の運動方程式に組み入れて新たに運動パラメータを決めてゆく。これに伴い、着目粒子は制動と操舵を繰り返し、徐々に運動の方向、空間予約領域を変化させることになる。
【0061】
以上により、空間予約領域が維持されている限り着目粒子本体が衝突するはなく、対象粒子との衝突を回避しながら運動することが可能となる。着目粒子の属性に任意の運動を行うよう命令が書き込まれており、かつそれに相当する十分な運動エネルギーが付与されている場合、対象粒子との衝突を回避しながら、目的を達成するべく着目粒子は運動しようとする。
【0062】
以上により、そのまま運動を継続していると衝突が避けられない場合に、制動と操舵によって障害物を迂回できる可能性が出てくる。制動距離が不足する場合は、操舵に重点を置くことにより、迂回による障害物の回り込みで衝突を回避することになる。制動と操舵にどのように重点を置くかは、粒子の属性による。
【0063】
着目粒子が他の粒子と結合して粒子群となり、何らかの形状を成している場合、この粒子群は、他の同様の粒子群または孤立粒子との間で、それらと実際に衝突する以前から次々に小さな仮想衝突回避を行って、徐々に運動の方向と速度を変化させ、衝突回避行動を取ろうとする。
【0064】
粒子群が空間予約領域と仮想衝突計算によって運動の方向と速度を変化させることにより、粒子群の姿勢も変化することになる。姿勢変化の方向は、対象粒子または粒子群との衝突を回避する方向であり、それらから平均して離間距離を取る方向となるから、粒子群は姿勢を制御して周囲の粒子群の成す空間形状に沿うようになる。
【0065】
以上により、仮想空間で他の部品が成している隙間が物理的に通過可能であれば、この隙間に沿って粒子が構成する部品が姿勢を制御し、通過する。
【実施例】
【0066】
図2の2aは着目粒子である。矢印は着目粒子の運動ベクトルを意味している。2bは着目粒子が有している運動方向の空間予約領域である。着目粒子の周囲に広がる空間は、図1の符号の説明で述べたように、粒子の属性に応じて任意に範囲を変更可能な粒子周辺に対する空間予約領域の一部である。
【0067】
図2の2cは、着目粒子が仮想空間の内部で探索した着目粒子の空間予約領域の境界と衝突する可能性のある粒子およびその運動ベクトルである。
【0068】
衝突可能性のある粒子は着目粒子の空間予約領域と交差するので、この空間予約領域の境界で仮想の衝突をする。この衝突点が2eである。
【0069】
衝突点において仮想衝突計算を行うと、衝突後の運動方向と衝突反力が求められる。
【0070】
衝突反力のうち、相手粒子に本来作用するものを相手粒子には与えず、着目粒子にのみ与えると、図2が示すように、着目粒子に対して空間予約領域を押し留め、かつ回転させるように作用する。これに伴い、着目粒子の速度は減少し、方向を変え、同時に空間予約領域を縮小しようとする。
【0071】
着目粒子の空間予約領域は、着目粒子の属性に基づいてその運動エネルギーによって再び増速しようとするが、衝突可能性のある粒子が継続して着目粒子の空間予約領域に対して衝突反力を加え続けるとそのまま進むことができず、この仮想衝突計算を繰り返し行うことによって、仮想衝突なしに進むことができるようになるまで、時間きざみは次に進められないまま維持される。
【0072】
空間予約領域が十分に縮小して回転すると、着目粒子は減速し、運動方向を変えるから、仮想衝突計算の対象となっていた衝突可能性のある粒子が進むことができるようになると、この衝突可能性のある粒子と着目粒子は衝突することがなくなって、互いに自由に運動することができるようになる。
【0073】
着目粒子の属性に基づいて着目粒子が特定の方向や目標に対して運動しようとしているときは、着目粒子は元の運動状態に戻り、次に衝突可能性のある粒子を探査するまで、本来の方向や目標に対して運動を継続することが可能となる。
【0074】
粒子で構成された車両・航空機・船舶・潜水艦・人間・ロボット・機械・構造物その他のすべてのオブジェクトなどに適用すると、これらは他の同様の粒子との間で仮想衝突計算を行い、実際に衝突する以前に衝突回避を開始することができる。
【産業上の利用可能性】
【図面の簡単な説明】
【図1】 空間予約領域を平面に投影して示した模式図である。
【図2】 空間予約領域の境界における仮想の衝突を示した模式図である。
【符号の説明】
【0075】
図1
1a:着目粒子
1b:運動ベクトル
1c:周囲の空間予約領域
1d:運動方向の空間予約領域
1e:制動距離
1f:操舵距離の例
1g:操舵距離の例
1h:操舵可能範囲
【0076】
図2
2a:着目粒子
2b:運動方向の空間予約領域
2c:衝突可能性のある粒子
2d:次の予測位置
2e:仮想の衝突点
2f:衝突反力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮想空間において、着目している粒子(以下、着目粒子という)の周囲および運動方向に広がる拡大縮小が可能な3次元空間であって、着目粒子の位置、速度、加速度、質量、運動エネルギー、運動経路からもたらされる摩擦などの抵抗(以下、運動パラメータという)によって決まる空間で、制動および操舵によって着目粒子が必要な減速または停止に至るのに要する仮想空間、および着目粒子周辺の任意の占有空間との双方を包絡した空間(以下、空間予約領域という)を持つ粒子を扱うこと。
【請求項2】
前記の空間予約領域に侵入する可能性のある他の粒子を、何らかの方法で単位時間ごとに任意の範囲にわたって調べることにより、現在地点から単位時間が経過するまでの間に空間予約領域の境界と衝突する可能性のあるすべての粒子を探索し、それらの属性を調べ、探索範囲から離脱するまで監視可能な状態に置くこと。
【請求項3】
前記の空間予約領域の境界に仮想の障壁を与え、空間予約領域の境界と空間予約領域に侵入しようとする粒子との間で仮想の衝突を計算可能とすること。
【請求項4】
前記手段により探索された一つまたは複数の衝突の可能性のある粒子と空間予約領域の境界との間で仮想の衝突点を求め、相手粒子の運動パラメータなどの属性を知って衝突点における一般的な衝突計算を行い、仮想の反発方向と衝突反力を求める計算(以下、仮想衝突計算という)を行うこと。
【請求項5】
前記の仮想衝突計算によって得られた衝突反力のうち、着目粒子の空間予約領域に侵入した相手粒子には衝突反力を与えず、着目粒子にのみ衝突反力を与えること。
【請求項6】
前記の着目粒子にのみ与えられた衝突反力により着目粒子に制動力と操舵力を与え、着目粒子の運動方程式を解いて運動パラメータを修正し、修正された運動パラメータにより着目粒子の空間予約領域を縮小および回転すること。
【請求項7】
前記衝突の可能性のある粒子と空間予約領域の境界との仮想衝突計算によって修正された運動パラメータおよび空間予約領域を、着目粒子の有する運動エネルギーおよび粒子の属性に記録されている運動の目的や条件に基いて増減速、拡大縮小すること。
【請求項8】
前記の粒子が結合して群を成して運動しているとき(以下、粒子群という)、粒子群を構成するおのおのの着目粒子が前記仮想衝突計算により制動力と操舵力を受け、粒子群以外の粒子または粒子群に何ら影響を与えることなく自らにのみ制動と操舵を加えることにより粒子群の運動の方向と姿勢を変更して、他の粒子または粒子群との衝突を可能な範囲で回避しようとすること。
【請求項9】
前記の衝突回避において粒子の属性を参照することにより、同じ粒子群を構成している粒子間では仮想衝突計算を行わないこと。
【請求項10】
前記の仮想衝突計算および一方的な衝突回避において、相手粒子群を構成する粒子もまた空間予約領域を持って仮想衝突計算および衝突回避を行う属性を有している場合は、双方の粒子群で前記の仮想衝突計算が行われ、可能な範囲で双方が衝突を回避しようとすること。
【請求項11】
以上の計算方法およびそれを記録した任意の媒体および装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−285925(P2006−285925A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−130335(P2005−130335)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(505159674)
【Fターム(参考)】