説明

紫外線照射装置

【課題】不活性ガスの使用量を低減して被照射物の洗浄及び表面改質のコスト削減可能な紫外線照射装置を提供する。
【解決手段】紫外線を放射する光源2と光透過窓3とを有するランプハウス4と、光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sに少なくとも不活性ガスと酸素とが含まれる混合ガスを導入するためのガス導入手段5とを備え、ランプハウス4は、不活性ガスを導入するためのガス導入口7と、不活性ガスを排出するためのガス排出口8とを有しており、ガス排出口8から排出された不活性ガスをガス導入手段5に送る回送流路6が備えられていることを特徴とする紫外線照射装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被照射物の表面を洗浄し又は改質するために使用される紫外線照射装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、紫外線とオゾンの協同作用を利用して、金属、半導体物質、ガラス等の被照射物の表面の洗浄及び改質が行われている。この技術は、一般にUVオゾン法として知られており、このUVオゾン法によれば、被照射物を傷めることなく、その表面に付着した有機汚染物質を除去し、またその表面に酸化膜の層を形成することができるという利点が知られている。
【0003】
近年、より効率の良いUVオゾン洗浄が行える光源としてエキシマランプが用いられている。このエキシマランプの輝線は、ほぼ単一であり、被照射物に対して加熱効果のある赤外線をほとんど放射することがない。また点灯性能にも優れており、数100ミリ秒で放射光強度が安定し、また消灯も同時間で行なうことができる。このため、低圧水銀ランプとは異なり、必要なときに点灯し、必要のないときには消灯しておくことができ、コスト低減を図ることができる。
【0004】
図4は、エキシマランプを用いた従来の紫外線照射装置を示す断面模式図である。図4に示すように、従来の紫外線照射装置100は、被照射物Pを収容可能な処理室102と、この処理室102の中央上部に設けられたランプハウス103とから概略構成されている。このランプハウス103の内部上面には、ランプ支持体104が設けられており、このランプ支持体104にはエキシマランプ105と紫外線を反射させる反射ミラー106とが取り付けられている。また、ランプハウス103の下方には、合成石英ガラスからなる光透過窓107が設けられている。さらに、ランプハウス103には、不活性ガスのガス導入口108とガス排出口109とが設けられており、処理室102には、不活性ガスと酸素との混合ガスのガス流入口110が設けられて構成されている。
【0005】
この紫外線照射装置100のエキシマランプ105から放射された紫外線は、光透過窓107を透過して処理室102内に収容された被照射物Pへ照射される。このとき、ランプハウス103の内部には、常時ガス導入口108から窒素などの不活性ガスが毎分数リットル程度流入されており、これによってエキシマランプ105からの紫外線の減衰が最小限に抑えられている。そして、光透過窓107からランプハウス103外へ出た紫外線は、ガス流入口110から処理室102の内部空間へ導入された酸素を含む雰囲気内で、その光化学反応によってオゾン及び特性酸素種を生成する。これを被照射物Pの表面に接触させ、また直接的にこの紫外線を被照射物Pに照射させて、これらの協同作業によって被照射物Pの表面の洗浄又は改質が達成される。
【0006】
しかしながら、図4に示すような、従来の紫外線照射装置100においては、不活性ガスは上述したようにエキシマランプ105が設置されたランプハウス103に対し、所定流量(例えば、数リットル/分)でガス導入口108から常時流入され続け、そのままガス排出口109から排出されている。また、処理室102の内部であって光透過窓107と被照射物Pとの間の空間Sには、不活性ガスと酸素との混合ガスも紫外線照射装置100の稼動中、常時流され続けている。この結果、多数の被照射物Pを連続して処理する場合、多量の不活性ガス及び酸素などの高価なガスが必要となり、これが紫外線の照射処理のランニングコストを引き上げてしまうという問題があった。特に、被照射物Pが液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイパネル(PDP)等のフラットパネルディスプレイ(FPD:Flat Panel Display)では大型化が進んでいるため、不活性ガスの使用量が毎分数百リットルにもなり、莫大なコストがかかるという問題があった。
【0007】
ところで、紫外線照射装置に係る公知文献として、例えば下記特許文献1〜3が知られている。
このうち、特許文献1には、エキシマレーザ等の紫外線の露光ビームを被照射物に照射して露光を行う露光装置の光学素子を、酸素を含む不活性ガスを供給して該露光ビームを照射して発生させたオゾンと当該露光ビームの照射とによってクリーニングする方法が開示されている。これにより、光学素子に付着した有機化合物を除去することができると記載されている。
一方、特許文献2には、被照射物を密閉筐体内に導入後にこの密閉筐体内に不活性ガスを導入し、不活性ガスの導入を停止した後に紫外線を照射して被照射物の洗浄又は改質を行い、終了後に密閉筐体内の気体を排出する紫外線照射方法が開示されている。これにより、不活性ガスの消費量が削減することができると記載されている。
一方、特許文献3には、ランプハウス内に充填した不活性ガスを光透過窓に設けた開口から被照射物の表面に流出させて、光源と被照射物との間の雰囲気を不活性ガスで満たすことができる紫外線照射装置が開示されている。これにより、光源と被照射物との間での紫外線の減衰を抑制できると記載されている。
【特許文献1】特開平11−224839号公報
【特許文献2】特開2001−217216号公報
【特許文献3】特開2001−300451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1は露光装置に関するものであり、使用用途が異なっている。
一方、特許文献2では、不活性ガスの使用量は低減可能であるが、工程数が増加してスループットが低下してしまうことから生産コストを充分に低減できないという問題があった。
一方、特許文献3では、ランプハウス内で使用した不活性ガスを、光源と被照射物との間の雰囲気に流用することから不活性ガスの低減は可能であるが、被照射物の処理に必要な酸素を被照射物の周辺に供給することが困難であり、結果として洗浄及び表面改質の効果が充分に得られにくいという問題があった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、不活性ガスの使用量を低減して被照射物の洗浄及び表面改質のコスト削減が可能な紫外線照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の紫外線照射装置は、被照射物に対して紫外線を照射して、前記被照射物の洗浄又は改質を行うための紫外線照射装置であって、紫外線を放射する光源と前記紫外線を前記被照射物に対して照射可能にする光透過窓とを有するランプハウスと、前記光透過窓と前記被照射物との間の空間に少なくとも不活性ガスと酸素とが含まれる混合ガスを導入するためのガス導入手段とを備え、前記ランプハウスは、当該ランプハウス内に前記不活性ガスを導入するためのガス導入口と、当該ランプハウス内から前記不活性ガスを排出するためのガス排出口とを有しており、前記ガス排出口から排出された前記不活性ガスを前記ガス導入手段に送る回送流路が備えられていることを特徴とする。
【0011】
本発明の紫外線照射装置によれば、ガス排出口から排出された不活性ガスをガス導入手段に送る回送流路を有している。このため、ランプハウス内から排出された不活性ガスを回収して、回送流路からガス導入口に送ることができる。これにより、回収した不活性ガスを混合ガスの一部として光透過窓と被照射物との間の空間に再度導入することができ、不活性ガスの再利用が可能となる。したがって、不活性ガスの使用量を低減して被照射物の洗浄及び表面改質のコストを削減することができる。
【0012】
また、本発明の紫外線照射装置は、前記空間から前記混合ガスを回収するためのガス回収手段と、前記ガス回収手段から回収された前記混合ガスを前記ガス導入手段に送る回収流路とが備えられていることが好ましい。
【0013】
本発明の紫外線照射装置によれば、上記構成を有しているため、光透過窓と被照射物との間の空間に導入した混合ガスの回収が可能となり、この回収した混合ガスを回収流路からガス導入手段に送ることができる。これにより、回収した混合ガスを光透過窓と被照射物との間の空間に再度導入することができ、混合ガスの再利用が可能となる。したがって、不活性ガス及び酸素の使用量をさらに低減して、被照射物の洗浄及び改質のコストをさらに削減することができる。
【0014】
さらに、本発明の紫外線照射装置は、前記空間から前記混合ガスを強制的に排出する強制排気手段が備えられており、前記酸素が前記強制排気手段により前記空間に引き込まれた外気から供給されることが好ましく、前記強制排気手段が排気量調整機能を有していることが好ましい。
【0015】
本発明の紫外線照射装置によれば、強制排気手段を有しており、この強制排気手段により光透過窓と被照射物との間の空間に引き込まれた外気から酸素を供給する構成となっている。これにより、さらに被照射物の洗浄及び表面改質のコストを低減することができる。
また、本発明の紫外線照射装置によれば、強制排気手段が排気量調整機能を有しているため、光透過窓と被照射物との間の空間に取り込む外気量、すなわち酸素量を調整することができる。これにより、被照射物の洗浄能力及び表面改質レートを容易に調整することができる。
【0016】
更にまた、本発明の紫外線照射装置は、前記ランプハウス内に導入する前記不活性ガスの流量が30〜40L/minの範囲であり、前記空間に導入する前記混合ガスの流量が50〜400L/minの範囲であり、前記空間の酸素濃度が1〜10体積%の範囲であることが好ましい。
【0017】
本発明の紫外線照射装置によれば、ランプハウス内の流量が上記範囲内であれば、ランプハウス内での紫外線の減衰を好適に抑制することができる。また、光透過窓と被照射物との間の空間の混合ガスの流量及び酸素濃度が上記範囲内であれば、光透過窓と被照射物との間の空間の紫外線の減衰を好適に抑制できると共に被照射物の洗浄及び改質を充分にすることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の紫外線照射装置によれば、不活性ガスの使用量を低減して被照射物の洗浄及び表面改質のコスト削減が可能な紫外線照射装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を適用した一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1〜図3は、本発明を適用した紫外線照射装置を示す断面模式図である。なお、以下の図1〜図3は、本発明の実施形態の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の紫外線照射装置の寸法関係とは異なる場合がある。
【0020】
<第1実施形態>
図1は、本発明を適用した第1の実施形態である紫外線照射装置を示す図であり、図1(a)は断面模式図、図1(b)は平面図である。本実施形態の紫外線照射装置1は、図1(a)に示すように、紫外線を放射する光源2と紫外線を被照射物Pに対して照射可能にする光透過窓3とを有するランプハウス4と、光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sに混合ガスを導入するためのガス導入手段5と、回送流路6とから概略構成されている。
なお、被照射物Pには、半導体基板、ガラス基板等を用いることができ、液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイパネル(PDP)等の大型のフラットパネルディスプレイ(FPD:Flat Panel Display)にも用いることができる。
【0021】
光源2は、図1(a)に示すように、ランプハウス4の内部上面に設けられたランプ支持体4aに取り付けられている。また、光源2は、紫外線を照射可能な光源であれば特に限定されるものではないが、波長172nmの紫外線を発生するキセノンエキシマランプであることが好ましい(本実施形態では、以下、エキシマランプ2とする)。また、本実施形態の紫外線照射装置1は、幅が広い被照射物Pに対応するために、図1(b)に示すように、複数のエキシマランプ2を被照射物Pの幅方向に並べた構成としてもよい。
【0022】
光透過窓3は、図1(a)に示すように、ランプハウス4の下面に設けられている。エキシマランプ2から放射される紫外線は、この光透過窓3を透過して、被照射物Pの表面に照射される。なお、光透過窓3の材質には、幅広い波長領域における優れた光透過性を有する有水合成石英ガラスを用いることが好ましい。
【0023】
ランプハウス4は、図1(a)に示すように、その内部に反射ミラー4bを有している。反射ミラー4bには、例えば鏡面加工されたアルミニウム製の板状部材等を用いることができる。この反射ミラー4bにより、エキシマランプ2から照射された紫外線を下方、すなわち被照射物Pへ向けて集光させることができる。
また、ランプハウス4は、略密閉容器であり、その内部には不活性ガスが充填されることが好ましい。ランプハウス4の内部に不活性ガスが充填されることにより、エキシマランプ2から放射された紫外線は、当該ランプハウス4内での減衰が抑制される。
なお、不活性ガスには、光を吸収しにくい窒素、アルゴン、ヘリウムガスなどを用いることができるが、そのコストを考慮した場合には窒素ガスが好適に用いられる。
【0024】
ランプハウス4は、当該ランプハウス4内に不活性ガスを導入するためのガス導入口7と、当該ランプハウス4内から不活性ガスを排出するためのガス排出口8とを有している。
このガス導入口7は、図示略のガスボンベ等の不活性ガス供給源と接続されており、図示略の流量制御装置によって不活性ガス供給源から供給される不活性ガスの流量wが制御されている。なお、ガス導入口7からランプハウス4内に導入される不活性ガスの流量wは、30〜40L/minの範囲であることが好ましい。上記範囲内であれば、ランプハウス4内での紫外線の減衰を効果的に抑制することができるため好ましい。
一方、ガス排出口8は、後述する回送流路6と接続されており、当該ガス排出口8からランプハウス4外に排出される不活性ガスの流量は、前述の流量wに等しい。すなわち、ランプハウス4内に導入した不活性ガスの全量を回収する。
【0025】
本実施形態の紫外線照射装置1は、ランプハウス4の下に、図1(a)及び図1(b)に示すような処理室9を有していることが好ましい。この処理室9の側面には、被照射物Pの搬入口9aと搬出口9bとが設けられている。この搬入口9a及び搬出口9bは、開閉式であっても、常時開口していてもよい。また、処理室9の内部には、被照射物Pを移送可能とする図示略の搬送装置が備えられている。この搬送装置によって、図1(b)に示すように被照射物Pを水平方向に搬送し、エキシマランプ2による紫外線の照射範囲(ランプハウス4の下方領域)を通過させることができる。なお、紫外線照射装置1に処理室9を設けることにより、紫外線の照射により生成されるオゾンガス等のガスの、外部への漏洩を抑制することができる。
【0026】
ガス導入手段5は、光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sに、少なくとも不活性ガスと酸素とが含まれる混合ガスを導入する機能を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、図1(a)に示すように、エアバルブ5を用いることができる。このエアバルブ5は、上記空間Sに近接した位置に設けることが好ましい。エアバルブ5から空間Sに混合ガスを噴出することで、光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sには不活性ガスが導入されるため、エキシマランプ2から放射される紫外線の減衰を抑制することができる。また、不活性ガスと同時に酸素が導入されることから、紫外線の照射によりオゾンガスが生成され、被照射物Pの洗浄及び改質を好適に行うことができる。
【0027】
なお、上述のように、紫外線照射装置1が処理室9を有している場合には、この処理室9の内部に混合ガスを導入可能な位置にエアバルブ5を取り付けても良い。これにより、光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sのみならず、処理室9の内部空間が混合ガス雰囲気になるため、安定した紫外線照射による処理が実現可能となる。さらに、被照射物Pの幅が広い場合には、図1(b)に示すように、複数のエアバルブ5を被照射物Pの幅方向に並べる構成としてもよい。これにより、被照射物Pの幅が広い場合にも空間Sに混合ガスを均等に導入することができる。
【0028】
エアバルブ5は、後述する混合ガス供給装置10と流路13を介して接続されている。また、図示略の流量制御装置によって混合ガス供給装置10から供給される混合ガスの流量wが制御されている。なお、この流量wは、上述の空間Sの大きさに応じて、50〜400L/minの範囲で制御することが好ましい。上記範囲内であれば、光透過窓3と被照射物Pとの間で紫外線の減衰を好適に抑制することができる。
【0029】
回送流路6は、図1(a)に示すように、ガス排出口8から排出された不活性ガスをエアバルブ5に送るためのガス流路であり、ガス排出口8と混合ガス供給装置10との間に設けられている。これにより、ガス排出口8から排出された不活性ガスを、回送流路6と混合ガス供給装置10とを介して、エアバルブ5から混合ガスの一部として再度処理室9の内部空間(すなわち空間S)に導入することができる。
【0030】
混合ガス供給装置10には、回送流路6以外に、不活性ガス供給路11と、酸素供給路12とが接続されており、不活性ガス供給路11及び酸素供給路12には、図示略のガス供給源がそれぞれ接続されている。そして、混合ガス供給装置10は、空間Sに設置された図示略の酸素濃度計から送られてくる信号によって、前述の流量wを構成する回収された不活性ガスの流量wと、不活性ガス供給路11の流量wと、酸素供給路12の流量wとのバランスを調整する。そして、調整された流量wの混合ガスを、流路13を介してエアバルブ5から空間Sに導入することで、当該空間Sの酸素濃度を一定に制御することができる。なお、光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sの酸素濃度は、1〜10体積%の範囲であることが好ましい。上述の範囲であれば、紫外線によってオゾン及び活性酸素種が好適に生成されて被照射物Pの洗浄及び改質を好適に行うことができると共に、酸素による紫外線の減衰を最小限にすることができる。
【0031】
次に、上記の構成を有する本実施形態の紫外線照射装置1を用いて、被照射物Pに紫外線を照射する方法について以下に説明する。
先ず、エキシマランプ2の点灯に先立ち、ガス導入口7からランプハウス4内に不活性ガスを導入すると共に、ランプハウス4に設けられたガス排出口8から排出された不活性ガスを回収し、回送流路6を介して混合ガス供給装置10に送る。そして、混合ガス供給装置10から送られた混合ガスを、エアバルブ5から処理室9内へ導入して、処理室9の内部空間(すなわち空間S)を混合ガスで充填する。
【0032】
次に、被照射物Pを搬送装置によって図中矢印方向に搬送し、搬入口9aから処理室9の内部に搬入する。そして、被照射物Pがランプハウス4の下を通過するタイミングでエキシマランプ2を点灯して、被照射物Pに紫外線を照射する。この際、処理室9の内部空間は混合ガスで充填されているため、光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sも混合ガス雰囲気となっている。次に、被照射物Pへの紫外線の照射処理がおわると、エキシマランプは消灯し、被照射物Pは、搬出口9bから処理室9の外側へ搬出されて処理が完了する。
【0033】
エキシマランプ2の点灯によって発生する紫外線は、被照射物Pの表面に照射される。このとき、照射される紫外線は、ランプハウス4内及び空間Sにおいて不活性ガス又は混合ガス中の不活性ガスによって減衰が抑制されている。このため、紫外線が効率的に被照射物Pの表面に到達して、その表面に付着した有機化合物の化学結合が切断される。また、光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sにおいては、エアバルブ5から導入される混合ガス中の酸素と紫外線とによってオゾンや活性酸素種が生成される。前述したように紫外線の照射によって被照射物Pから切断された有機化合物は、このオゾンや活性酸素種の酸化力によって飛散除去され、効果的に洗浄される。なお、本実施形態では、処理室9が設けられているので、ランプハウス4の下方以外の処理室9の内部においてもオゾン及び活性酸素種が存在しているので、被照射物Pは洗浄される。
【0034】
また、ランプハウス4内に導入する不活性ガスの流量wを30〜40L/minの範囲に、光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sに導入する混合ガスの流量wを50〜400L/minの範囲に、光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sの酸素濃度を1〜10体積%の範囲に制御して、被照射物Pとして素ガラスを処理した場合には、素ガラスの純水に対する接触角度は、紫外線照射処理前が約50°に対して処理後は約5°となり、効果的に表面を改質することができる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態の紫外線照射装置1によれば、ガス排出口8から排出された不活性ガスをエアバルブ5に送る回送流路6を有している。このため、ランプハウス4内から排出された不活性ガスを回収して、回送流路6からエアバルブ5に送ることができる。これにより、回収した不活性ガスを混合ガスの一部として光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sに再度導入することができ、不活性ガスの再利用が可能となる。したがって、不活性ガスの使用量を低減して被照射物Pの洗浄及び表面改質のコストを削減することができる。
【0036】
また、本実施形態の紫外線照射装置1は、ランプハウス4内に導入する不活性ガスの流量が30〜40L/minの範囲であり、光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sに導入する混合ガスの流量が50〜400L/minの範囲であり、光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sの酸素濃度が1〜10体積%の範囲としている。これにより、ランプハウス4内での紫外線の減衰を好適に抑制することができ、光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sの紫外線の減衰を好適に抑制できると共に被照射物Pの洗浄及び改質を充分にすることができる。
【0037】
以上のように、本実施形態の紫外線照射装置1によれば、不活性ガスの使用量を低減して被照射物Pの洗浄及び表面改質のコスト削減が可能な紫外線照射装置1を提供することができる。
【0038】
<第2実施形態>
図2は、本発明を適用した第2の実施形態である紫外線照射装置を示す断面模式図である。また、図2に示す構成要素のうち、図1に示す構成要素と同一の構成要素には、図1と同一の符号を付してその説明を省略、若しくは簡単に説明する。
本実施形態の紫外線照射装置20は、前述した紫外線照射装置1の構成に加えて、光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sから混合ガスを回収するためのガス回収手段21と、回収流路22とを備えている。
【0039】
ガス回収手段21は、光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sに存在する混合ガスを回収する機能を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、図2に示すように、吸引ノズル21を用いることができる。吸引ノズル21は、上記空間Sに近接した位置に設けることが好ましい。この吸引ノズル21から混合ガスを回収して、エアバルブ5に回収したガスを送ることにより、再度混合ガスの一部として空間Sに導入することができる。また、吸引ノズル21によって空間Sから被照射物Pの洗浄及び改質後の混合ガスを回収することで、空間Sには新しい不活性ガスが充填されるため、紫外線照射による処理効率の低下を抑制することができる。なお、紫外線照射装置20が処理室9を有している場合には、この処理室9の内部空間であって混合ガスを回収可能な位置に吸引ノズル21を取り付けても良い。
【0040】
また、吸引ノズル21から回収した混合ガスの流量wは、エアバルブ5から空間S(処理室9)に導入される混合ガスの流量wよりも小さいことが好ましい。導入された混合ガスの全部を回収せずに一部のみを回収することにより、空間Sに充填される混合ガスを充分に更新することができるため、紫外線の減衰の抑制及び被照射物の処理効率の点で好ましい。
【0041】
回収流路22は、図2に示すように、吸引ノズル21から回収された混合ガスをエアバルブ5に送るためのガス流路であり、吸引ノズル21と混合ガス供給装置10との間に設けられている。これにより、吸引ノズル21から回収された混合ガスを、回収流路22と混合ガス供給装置10とを介して、エアバルブ5から混合ガスの一部として再度光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sに導入することができる。また、回収流路22には、除去装置23を設けることが好ましい。この除去装置23により、回収した混合ガスから紫外線の照射処理によって発生したCO、HO、NO等の不純物を除去することができるため、不活性ガス及び未反応の酸素のみを混合ガス供給装置10へ送ることができる。
【0042】
以上のように、混合ガス供給装置10では、回収流路22から不活性ガスと酸素とが流量wで供給されるため、不活性ガス供給路11の流量w及び酸素供給路12の流量wを少なくすることができる。
なお、紫外線照射装置20を用いた被照射物Pに紫外線を照射する方法については、上述の紫外照射装置1と同様であるため、説明を省略する。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の紫外線照射装置20によれば、上述した第1の実施形態の紫外線照射装置1の効果に加えて、以下の効果が得られる。すなわち、本実施形態の紫外線照射装置20によれば、吸引ノズル21を有しているため、空間S(処理室9)に導入した混合ガスの回収が可能となり、この回収した混合ガスを回収流路22からエアバルブ5に送ることができる。これにより、回収した混合ガスを空間Sに再度導入することができ、混合ガスの再利用が可能となる。したがって、不活性ガス及び酸素の使用量をさらに低減して、被照射物Pの洗浄及び改質のコストをさらに削減することができる。
【0044】
<第3実施形態>
図3は、本発明を適用した第3の実施形態である紫外線照射装置を示す断面模式図である。また、図3に示す構成要素のうち、図1及び図2に示す構成要素と同一の構成要素には、図1及び図2と同一の符号を付してその説明を省略、若しくは簡単に説明する。
本実施形態の紫外線照射装置30は、前述した紫外線照射装置20の構成に加えて、空間Sから混合ガスを強制的に排出する強制排気手段31を備えている。一方、紫外線照射装置30は、酸素供給路12を有さない構成となっている。
【0045】
強制排気手段31は、光透過窓3と被照射物Pとの間の空間Sに存在する混合ガスをその空間Sから強制的に排気する機能を有するものであれば特に限定されるものではない。強制排気手段31には、例えば、図3に示すように、強制排気装置31を用いることができる。この強制排気装置31は、吸引口31aと排気口31bとを有しており、吸引口31aと排気口31bとの間には流路32が設けられている。これにより、吸引口31aから吸引された気体が流路32を通って排気口31bから排出することができる。本実施形態では、この吸引口31aを上記空間Sに存在する混合ガスを吸引可能な位置に設けることが好ましい。また、紫外線照射装置30が処理室9を有している場合には、この処理室9に吸引口31aを設けて処理室9の内部空間を充填している混合ガスを強制排気しても良い。これにより、空間Sに存在する混合ガスを処理室9の外部へ流量wで強制的に排気することができる。
【0046】
本実施形態では、強制排気による処理室9の外部への流量wは、混合ガス供給装置10から供給される混合ガスの流量(すなわち、エアバルブ5から処理室9へ供給される混合ガスの流量)wから吸引ノズル21から回収した混合ガスの流量wを引いた流量よりも大きいことが好ましい。このように、流量w>流量w−流量wの関係に制御すると、処理室9の内部空間(すなわち空間S)が処理室9の外部よりも圧力が低い状態となる。この際に、図3に示すように、処理室9に吸気口33が設けられていると、この吸気口33から処理室9の内部へ外気が引き込まれることになる。
【0047】
吸気口33は、上述のように、処理室9に外気を導入する機能を有するものであり、強制排気装置31の吸引口31aから離れた位置に設けられていることが好ましい。また、吸気口33には、空気清浄フィルターを設けることが好ましい。なお、処理室9の搬入口9a及び搬出口9bの一方又は両方が常時解放されている場合には、吸気口33を設けることなくこの搬入口9a及び搬出口9bの一方又は両方から処理室9の内部へ外気を取り込むことができる。
【0048】
このように、本実施形態の紫外線照射装置30では、処理室9の内部に引き込まれた外気から処理室9の内部空間(すなわち空間S)に導入する混合ガスの酸素を供給する。これにより、酸素ガス供給源を必要とせず、ランニングコストを低減することができる。
また、強制排気装置31は、排気量調整機能を有していることが好ましい。強制排気による処理室9の外部への流量wをこの排気量調整機能により調整することで、処理室9の内部に引き込まれる外気の量、すなわち酸素量を調整することができる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の紫外線照射装置30によれば、上述した第1及び第2の実施形態の紫外線照射装置1,20の効果に加えて、以下の効果が得られる。すなわち、本実施形態の紫外線照射装置30によれば、強制排気装置31を有しており、この強制排気装置31により処理室9の内部(すなわち、空間S)に引き込まれた外気から酸素を供給することができる。これにより、酸素の供給コストを低減できるため、さらに被照射物Pの洗浄及び表面改質のコストを低減することができる。
また、強制排気装置31が排気量調整機能を有しているため、処理室9の内部空間に取り込む外気量、すなわち酸素量を調整することができる。これにより、被照射物Pの洗浄能力及び表面改質レートを容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本発明を適用した第1の実施形態である紫外線照射装置を示す図であり、図1(a)は断面模式図、図1(b)は平面図である。
【図2】図2は、本発明を適用した第2の実施形態である紫外線照射装置を示す断面模式図である。
【図3】図3は、本発明を適用した第3の実施形態である紫外線照射装置を示す断面模式図である。
【図4】図4は、エキシマランプを用いた従来の紫外線照射装置を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0051】
1,20,30…紫外線照射装置、2…光源(エキシマランプ)、3…光透過窓、4…ランプハウス、4a…ランプ支持体、4b…反射ミラー、5…ガス導入手段(エアバルブ)、6…回送流路、7…ガス導入口、8…ガス排出口、9…処理室、9a…搬入口、9b…搬出口、10…混合ガス供給装置、11…不活性ガス供給路、12…酸素供給路、13…流路、21…ガス回収手段(吸引ノズル)、22…回収流路、23…除去装置、31…強制排気手段(強制排気装置)、31a…吸引口、31b…排気口、32…流路、33…吸気口、P…被照射物、S…光透過窓と被照射物との間の空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射物に対して紫外線を照射して、前記被照射物の洗浄又は改質を行うための紫外線照射装置であって、
紫外線を放射する光源と前記紫外線を前記被照射物に対して照射可能にする光透過窓とを有するランプハウスと、
前記光透過窓と前記被照射物との間の空間に少なくとも不活性ガスと酸素とが含まれる混合ガスを導入するためのガス導入手段とを備え、
前記ランプハウスは、当該ランプハウス内に前記不活性ガスを導入するためのガス導入口と、当該ランプハウス内から前記不活性ガスを排出するためのガス排出口とを有しており、
前記ガス排出口から排出された前記不活性ガスを前記ガス導入手段に送る回送流路が備えられていることを特徴とする紫外線照射装置。
【請求項2】
前記空間から前記混合ガスを回収するためのガス回収手段と、前記ガス回収手段から回収された前記混合ガスを前記ガス導入手段に送る回収流路とが備えられていることを特徴とする請求項1に記載の紫外線照射装置。
【請求項3】
前記空間から前記混合ガスを強制的に排出する強制排気手段が備えられており、
前記酸素は、前記強制排気手段により前記空間に引き込まれた外気から供給されることを特徴とする請求項1又は2に記載の紫外線照射装置。
【請求項4】
前記強制排気手段は、排気量調整機能を有していることを特徴とする請求項3に記載の紫外線照射装置。
【請求項5】
前記ランプハウス内に導入する前記不活性ガスの流量は、30〜40L/minの範囲であり、前記空間に導入する前記混合ガスの流量は、50〜400L/minの範囲であり、前記空間の酸素濃度は、1〜10体積%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−202138(P2009−202138A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49720(P2008−49720)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】