説明

自立基板、およびその製造方法

【課題】充分な電子デバイス特性が得ることのできる高品質な基板用GaN系半導体自立基板を提供する。
【解決手段】GaN系半導体からなる自立基板であって、前記自立基板の表面に直接Niを金属電極としてショットキーダイオードを形成した場合、電流−電圧特性における理想因子n値が1以上1.3以下となることを特徴とする自立基板。好ましくは、前記ショットキーダイオードを形成した場合、逆方向電圧−5V印加時の電流値が、熱電界放出モデルおよび熱電子放出モデルの計算値の和として計算した理論電流値の50倍以下となることを特徴とする自立基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaN系半導体からなる自立基板、およびその製造方法に関するものある。さらに詳しくは、良質なGaN系自立基板として有用な、GaN系半導体からなる自立基板、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車搭載用のインバーターなどに使われる大きな耐圧を必要とするパワーデバイスや高周波デバイス、高温動作デバイス用の材料として炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)が注目されている。これらの材料は、すでに可視光を発光するデバイスに応用されているが、大きな禁制帯幅や絶縁耐圧が注目され電子デバイス用途としても期待されている。これら材料が注目される理由のもう一つの側面は、代表的な半導体材料である珪素(Si)と同様にクラーク数が大きく、毒性のない元素で構成されていることにある。
【0003】
上記したパワーデバイスの一つとして期待されているものがショットキーダイオードである。ショットキーダイオードは、それ自体、高速スイッチングダイオードとして電源回路などにおける重要部品であるが、材料の電子デバイス用途としてのポテンシャルを評価する上で重要なデバイスである。事実、すでに商品化されているSiCを用いたパワーデバイスはショットキーダイオードである。
【0004】
特にGaNは、SiCと比較しても禁制帯幅が広く、かつ電子移動度も高く、加えてAlやInをGaサイトに置換するバンドエンジニアリング可能など諸物性に優れており、パワーデバイス材料として期待されている。
さて、こうしたGaNを代表とする窒化物半導体ショットキーダイオードでは、リーク電流が多い、電流電圧特性における理想因子n値が悪い、耐圧が低い、オン抵抗が高い、素子寿命が短いなどの問題があり、電子デバイス特性の改善が望まれている。
【0005】
特許文献1においてはこの原因に言及し、窒化ガリウム系半導体中の不純物および転位はアクセプタとして働くこと、そして、5×1016cm−3未満の電子濃度の領域では、ドナー濃度に対する不純物および転位の割合が高くなるので、この電子濃度未満の電子濃度を有する窒化ガリウム系半導体を形成する場合には、不純物および転位に起因するアクセプタ濃度がドナー濃度に対して無視できなくなることを指摘している。すなわち、5×1016cm−3未満の電子濃度を有する窒化ガリウム系半導体では、不純物濃度および転位の数を制御しなければ、所望のキャリア濃度の窒化ガリウム系半導体を成長することができず良好なショットキーダイオード特性も得られないことを指摘している。
【0006】
この問題を解決するため、特許文献1では、良好な電子デバイス特性を呈する半導体層は、III族窒化物支持基体と、5×1016cm−3未満の電子キャリア濃度を有してお
り、前記III族窒化物基板上に設けられた第1の窒化ガリウム系エピタキシャル層とを備
え、前記第1の窒化ガリウム系エピタキシャル層にはドナードーパントが添加されており、前記窒化ガリウム系エピタキシャル層は2×1016cm−3未満の炭素濃度を有しており、前記第1 の窒化ガリウム系エピタキシャル層は1×5×10cm−2未満の転
位密度を有する窒化物半導体が開示されている。
【0007】
特許文献1ではIII族窒化物支持基体としてはサファイア基板上に窒化ガリウム領域が
形成されたテンプレート(貫通転位密度は1×10cm−3)とGaNウエハ(貫通転位密度は1×10cm−3)のものを用い、この上に有機金属気相成長(MOCVD)
法でエピタキシャル層を形成したもので良好な電子デバイス特性が得られることが開示されている。例えば上記、エピタキシャル層上に形成されたショットキーダイオードの電流電圧特性における理想因子、いわゆるn値は1.03〜1.05という良い値が提示されており、GaNが電子デバイス用材料としてもポテンシャルの高いものであることが裏付けられている。
【0008】
一方、GaN系材料を、ショットキーダイオードの基板や発光ダイオード(LDやLED)の結晶成長基板など、自立基板として製造する場合は、特許文献1のようなGaNウェハにMOCVD法でさらにエピタキシャル層を形成したものを用いることは、工程の煩雑やコストの面で産業上必ずしも有効ではない。そこで、GaN系半導体からなる自立基板での高品質化が望まれる。
【0009】
特許文献2には、熱伝導率が高く高品質な窒化ガリウム系材料とその製造方法が記載されているが、前述のショットキーダイオードの電子デバイス特性や、発光ダイオードのデバイス特性等を向上し、これらの実用化に寄与するためには、さらなるGaN系半導体自立基板の品質向上が求められていた。
非特許文献1では様々なCMP(Chemical Mechanical Polishing)で処理したGaN自立基板に直接ショットキーダイオードに加工した例が示されているが、n値は1.5以上であり、障壁高さも、本来Ni/GaNから期待される値よりもかなり小さく、結果として極めて大きな逆方向リーク電流を招いている。
【0010】
これは、従来のGaN系半導体からなる自立基板の結晶性、表面状態などが、エピタキシャル成長用の基板としてはある程度の品質に達している一方で、それ自体を電子デバイスに用いるという観点では、まだ不十分であることを示している。自立基板を直接デバイスに用いる場合は、結晶性や表面状態に求められる要請を明らかにし、それに応えうる結晶成長プロセスや、加工プロセス、表面処理プロセスを確立しなければならず、さらなる研究開発が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−149985号公報
【特許文献2】特開2007−277077号公報
【非特許文献1】Applied Surface Science 255(2008)3085頁−3089
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述のように、GaN系半導体は、ショットキーダイオード、発光ダイオード等の電子デバイス用材料として優れたポテンシャルを持っている。しかしながら、半導体材料として90%を越える供給が成されているシリコンでは大部分はエピタキシャル層を用いていないように、従来の電子デバイスは自立基板そのものの上にデバイスが形成されてきており、特許文献1のような、GaNウェハにMOCVD法でさらにエピタキシャル層を形成する方法は、工程の煩雑およびコスト面から改善の余地があった。一方、GaN系半導体自立基板そのものも充分な特性が得られないという問題も有していた。
【0013】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、充分な電子デバイス特性が得ることのできる高品質な基板用GaN系半導体自立基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討の結果、ショットキーダイオードが電子デバイス用途としてのポ
テンシャルを評価する上で重要なデバイスであることに鑑み、ショットキーダイオードの電子デバイス特性をGaN系半導体ウェハーの品質特性の指標とすることに着目した。その上で、前記品質特性が高いGaN系半導体からなる自立基板とその製造方法を見出した。
【0015】
即ち、本発明の要旨は、以下の〔1〕〜〔15〕に存する。
〔1〕GaN系半導体からなる自立基板であって、前記自立基板の表面に直接Niを金属電極としてショットキーダイオードを形成した場合、電流−電圧特性における理想因子n値が1以上1.3以下となることを特徴とする自立基板。
〔2〕前記〔1〕に記載の自立基板であって、前記自立基板の表面に直接Niを金属電極としてショットキーダイオードを形成した場合、逆方向電圧−5V印加時の電流値が、熱電界放出モデルおよび熱電子放出モデルの計算値の和として計算した理論電流値の50倍以下となることを特徴とする自立基板。
【0016】
〔3〕GaN系半導体からなる自立基板であって、前記自立基板の表面に直接Niを金属電極としてショットキーダイオードを形成した場合、逆方向電圧−5V印加時の電流値が、熱電界放出モデルおよび熱電子放出モデルの計算値の和として計算した理論電流値の50倍以下となることを特徴とする自立基板。
〔4〕TEMによる断面格子像観察での格子の乱れを観察することにより測定される表面のダメージ深さが10nm以下である前記〔1〕から〔3〕の自立基板。
【0017】
〔5〕TOF−SIMSにより、一次イオンAu、一次イオン加速電圧25kV、走査領域200μm角、二次イオン積算時間150秒において測定されるSi/Gaのイオン
マススペクトルのピーク強度比が0.01以下である前記〔1〕から〔4〕の自立基板。
〔6〕AFM(Atomic Force Microscopy)により、周辺1mmを除いた領域において測定される、1×1μmにおけるRMS値が1nm以下である前記〔1〕〜〔5〕の自立基板。
【0018】
〔7〕転位密度が5×10cm―2以下である前記〔1〕から〔6〕の自立基板。
〔8〕GaN系半導体がAlInGa(1−x−y)N(但し、0≦x≦1、0≦y≦1、[x+y]<1)からなる前記〔1〕から〔7〕の自立基板。
〔9〕x+y<0.5である前記〔8〕の自立基板。
〔10〕室温での熱伝導率が250(W/m・K)以上である前記〔1〕から〔9〕の自立基板。
【0019】
〔11〕前記〔1〕〜〔10〕の自立基板を製造する方法であって、
(1)GaN系半導体を成長させる成長工程
(2)研磨工程
(3)こすり洗浄工程
を含むことを特徴とする自立基板の製造方法。
【0020】
〔12〕前記〔1〕から〔10〕の自立基板を製造する方法であって、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxial Growth)法によってGaN系半導体を成長させる成長工程を含むことを特徴とする自立基板の製造方法。
〔13〕前記成長工程において、
ガスを含むキャリアガスと、GaClガスと、NHガスとを反応室に供給し、成長温度を900℃以上1200℃以下とし、成長圧力を8.08×10Pa以上1.21×10Pa以下とし、GaClガスの分圧を1.0×10Pa以上1.0×10Pa以下とし、NHガスの分圧を9.1×10Pa以上かつ2.0×10Pa以下とする、前記〔11〕または〔12〕の自立基板の製造方法。
【0021】
〔14〕前記成長工程の後に、研磨レートを1000nm/時間以下とする研磨工程を含む前記〔11〕から〔13〕の自立基板の製造方法。
〔15〕前記成長工程の後に、こすり洗浄工程を含む前記〔12〕から〔14〕に記載の自立基板の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、充分な電子デバイス特性が得ることのできる高品質な基板用GaN系半導体自立基板を提供することができる。例えば、GaN系材料によるショットキーダイオードが実用化可能であるのみならず、ショットキー障壁をゲートとするGaN系材料における電界効果トランジスタなどの実用化が可能となる。特にGaN系材料からなる支持基板上にさらにエピタキシャル成長することを要さず、表面に直接ショットキーダイオードを形成しても優れた特性を示すことができる。また、例えば、LEDやLDなどの半導体発光素子の結晶成長用基板として用いることも可能であり、これによりパワーデバイスとしての半導体発光素子の実用化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】レーザーフラッシュ法の測定原理を説明するための図である。
【図2】本発明においてGaN系厚膜材料よりなる支持基体の製造に用いたHVPE装置の概略構成を示す図である。
【図3】AFMによる表面粗さ測定の結果を示す図である。
【図4】実施例で得られたショットキーダイオードの構造を説明するための断面図である。
【図5】実効ドナー濃度が1×1016atoms/cmである自立GaN結晶基板上に形成された本発明のショットキーダイオードの電流−電圧特性(順方向特性)の例である。2本の実線は、n値がそれぞれ、n=1およびn=2の場合の傾きを、参考として示すものである。
【図6】実効ドナー濃度が1×1016atoms/cmである自立GaN結晶基板上に形成された本発明のショットキーダイオードの電流−電圧特性(逆方向特性)の例である。太い実線は、理論値、すなわち、熱電界放出電流と影像力による障壁低下を考慮した熱電子放出電流の和を示すものである。点線は実測値が理論値の10倍以下になっていることを分かりやすくするため、理論値を10倍したものである。
【図7】実効ドナー濃度が1×1016atoms/cmである自立GaN結晶基板上に形成された本発明のショットキーダイオードのn値と障壁高さの例を示す図である。
【図8】実効ドナー濃度が1×1016atoms/cmである自立GaN結晶基板上に形成された本発明のダイオードについて−200Vまでの逆方向特性の評価を行った結果(電流−電圧特性)を示す図である。太い実線は、理論値、すなわち、熱電界放出電流と影像力による障壁低下を考慮した熱電子放出電流の和を示すものであり、点線は実測値が理論値の10倍以下になっていることを分かりやすくするため、理論値を10倍したものである。
【図9】実線は本発明のショットキーダイオードにつき、逆方向電圧−5Vおよび−50Vにおける、熱電界放出電流と影像力による障壁低下を考慮した熱電子放出電流の和を計算し、実効ドナー濃度Nに対してプロットしたものである。白丸と黒丸はそれぞれ逆方向電圧−5Vおよび−50Vにおける電流値の実測値である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内であれば種々に変更して実施することができる。
[1]GaN系半導体からなる自立基板
本発明を構成するGaN系半導体とは、GaNを主成分とするIII−V族化合物半導体
材料であり、III族元素としては、一般に、Gaを最も多く含み、一部がAlやInによ
って置換されており、V族元素はNである。従って、一般式で表記すれば、AlInGa(1−x−y)N(但し、0≦x≦1、0≦y≦1、[x+y]<1)となる。なお、当該GaN系材料のIII族元素は過半数がGaであること、すなわち、上記x及びyは
、[x+y]<0.5の不等式を満足することが好ましい。また、このようなGaN系材料には、微量の不純物や導電型の調整用に意図的に添加されたp型又はn型の不純物がドーピングされたGaN系材料が含まれることは、言うまでもない。
【0025】
本発明の自立基板は、GaN系半導体からなるものであり、GaN系半導体を支持基板として、さらにエピタキシャル成長した複数の層からなるGaN系半導体からなるものを含まない。すなわち、自立基板とは、下地基板を剥離した厚膜材料層であるもの、または当該厚膜材料層をワイヤーソー等で切り出したウェハー等をいい、その後にエピタキシャル層を行うものを含まない。なお、下地基板を剥離しない厚膜材料層も本発明の効果を奏することができる。この場合、本発明の効果を呈するに必要な材料特性を得るためには下地基板の上に適当な厚さを有する厚膜材料層を形成する必要がある。下地基板の厚さは、通常10μm以上、好ましくは30μm以上、更に好ましくは50μm以上である。
【0026】
[2]ショットキーダイオード特性
ショットキーダイオードのデバイス特性は、言うまでもなく、ショットキー接合が形成される金属と半導体の界面特性に顕著に影響を受ける。そして、デバイス特性が損なされる要因としては、半導体表面の研磨等によるダメージや汚染、或いは凹凸などが考えられる。
【0027】
半導体領域にダメージや汚染に起因する不純物準位が多く存在するショットキーダイオードに順方向電圧を印加すると、金属/半導体界面領域でキャリア再結合が生じる結果、ショットキーダイオードの順方向電流における理想因子(n値)は理想値である1から外れて2に近づき、逆方向電流の飽和電流値も増大する。
また、金属/半導体界面の凹凸は局所的電界集中の原因となり、順方向電流のトンネリング電流成分を増加させるが、当該トンネリング電流成分が大きい場合には、n値は2よりもさらに大きな値となる場合がある。また、電界集中の影響は逆方向電流特性において顕著であり、低電圧印加時においてもトンネリングや局所的ななだれ増倍を発生させるため、逆方向電流を増大させる原因となる。
【0028】
順方向電圧印加時のキャリア再結合やトンネリング電流の発生はダイオード損失の原因となる。また、逆方向電流成分の増大はショットーダイオードの整流特性を損なう原因となる。つまり、良好なデバイス特性のショットキーダイオードを得るためには、半導体表面の高品質化が極めて重要である。
このような原理を応用して、本発明では、GaN系半導体からなる自立基板として、下記の諸特性(表面状態、表面不純物レベル、転位密度、熱伝導率)を有することを特徴とする。
【0029】
すなわち、本発明の自立基板は、表面に直接Niを金属電極としてショットキーダイオードを形成した場合、優れた電子デバイス特性を有する。以下に各特性について詳述する。
なお、下記の値のうち測定値(例えば、後述するショットキーダイオード形成して測定した場合のn値、および電流値等)および、理論値(例えば、熱電界放出モデルの計算値、熱電子放出モデルの計算値、およびこれらの和として計算した理論電流値等)は、自立基板の温度が16℃を想定した場合の数値とする。
【0030】
[2−1]電流−電圧特性における理想因子n値
本発明の自立基板は、表面に直接Niを金属電極としてショットキーダイオードを形成した場合、電流−電圧特性における理想因子n値が、1以上1.3以下となることが特徴である。かかる特性を有することにより、結晶性が優れ、かつ基板用ウェハーとして実用に耐える高品質な自立基板を得ることができる。なお、n値は、1に近い程好ましく、好ましい上限は、1.2以下であり、さらに好ましくは1.1以下である。
【0031】
なお、ショットキーダイオードは以下のように形成する。まず、本発明の自立基板の洗浄を行う。具体的には、例えばシリコン技術で有効なSPM処理、塩酸処理、王水処理、続いてHF処理を行い、純水で充分に洗浄して窒素ガスを吹き付けて前記ウェハーから純水を取り除き乾燥させる。次に、ショットキー電極を形成するに先立ち、まずオーム性電極を形成する。前記自立基板の裏面に、Tiを20nm、Alを200nm蒸着し、これをN中、750℃で3分間熱処理してオーム性電極を作る。
【0032】
次にメタノール中で超音波洗浄してショットキー電極を形成する。全面にショットキー障壁用の金属としてNiを蒸着により形成する。次に通常のフォトリソグラフィープロセスを用いて直径100nmΦのショットキー電極パターンを形成する。レジストでマスクされた電極パターン以外の金属は市販のFeCl水溶液(FeCl3・4H2O:H2O =2:3)を超純水で10倍〜14倍程度に希釈した溶液を用いて室温で選択エッチングする。なお、ショットキー電極の直径を100μmφとしているのは、パターン形成が容易であることと、この中には転位が100個から300個程度存在するため支持基体の平均的情報を得ることができるためである。
【0033】
[2−2]逆方向電圧印加時の電流値
また、本発明の自立基板は、前記特性に加え、または独立して、表面に直接Niを金属電極としてショットキーダイオードを形成した場合、逆方向電圧−5V印加時の電流値が熱電界放出モデルおよび熱電子放出モデルの計算値の和として計算した理論電流値の50倍以下、好ましくは10倍以下であり、さらに好ましくは3倍以下であることが特徴である。かかる特性を有することにより、結晶性が優れ、かつ実用に耐える高品質な自立基板を得ることができる。
【0034】
ショットキーダイオードの形成方法は、[2−1]において前述したものと同じである。
また、本発明の自立基板の更に好ましい態様としては、前述のショットキーダイオードを形成し、逆方向電圧−50V印加時の電流値が熱電界放出モデルおよび熱電子放出モデルの計算値の和として計算した理論電流値の50倍以下、好ましくは10倍以下であり、さらに好ましくは3倍以下であることが特徴である。
【0035】
また、本発明の自立基板の特に好ましい態様としては、逆方向電圧−200V印加時の電流値が熱電界放出モデルおよび熱電子放出モデルの計算値の和として計算した理論電流値の50倍以下、好ましくは10倍以下であり、さらに好ましくは3倍以下であることが特徴である。
かかる特性を有する自立基板がこれまでに存在しなかったことはもとより、かかる評価法をもって自立基板の特性を確認することは、これまで当業者において行われていなかった。本発明において、かかる簡便かつ正確な評価により特性を把握し、これを満たす自立基板を製品化することは、電気的特性に優れる高品質な自立基板を提供する上で、技術的意義が極めて高いものである。
【0036】
[3]その他特性
ショットキーダイオード特性は金属と半導体の界面特性に顕著に影響を受ける。電子
デバイス特性を損なう原因としては、表面の研磨等によるダメージや汚染、凹凸などが考えられる。
半導体領域にダメージや汚染に起因する欠陥準位が多く存在するショットキーダイオードに順方向電圧を印加すると、金属/半導体界面付近で理想状態と異なる電流輸送が生じる結果、ショットキーダイオードの順方向電流における理想因子(n値)は理想値である1から大きく外れ、また、逆方向電流の電流値も増大する。
【0037】
また、金属/半導体界面の凹凸は局所的電界集中の原因となり、順方向電流の局所的トンネリング電流成分を増加させるが、当該トンネリング電流成分が大きい場合には、n値は2よりもさらに大きな値となる場合がある。また、電界集中の影響は逆方向電流特性において顕著であり、低電圧印加時においても局所的トンネリングや局所的ななだれ増倍を発生させるため、逆方向電流を増大させる原因となる。
順方向電圧印加時のn値の増大は、オン抵抗の増加につながり、ダイオード損失の原因となる。また、逆方向電流成分の増大はショットーダイオードの整流特性を損ない、これもまた、ダイオードを使用する回路における損失の原因となる。このため、本発明者らは良好なショットキーダイオードの形成には半導体表面の研磨等によるダメージや汚染、あるいは凹凸などの軽減が重要であることを見出した。
【0038】
そこで、本発明の自立基板においては、表面のダメージ深さ、不純物濃度、表面の微視的形状が下記の特性を有するものが好ましい。
[3−1]表面のダメージ深さ
本発明の自立基板は、表面のダメージ深さが通常10nm以下、好ましくは5nm以下、さらに好ましくは3nm以下である。ダメージ深さは、TEM(透過型電子顕微鏡、Transmission Electron Microscope)による断面格子像観察での格子の乱れを観察することにより測定できる。断面TEM像により観察される基板表層には、完全結晶部分とは明らかに格子配列の異なる、不完全結晶領域と非晶質層が確認できる。この2つの部分の厚みをダメージ層として測定する。
【0039】
表面のダメージが深すぎると、デバイスを形成する際、金属と半導体の界面特性が損なわれる。
また、TEMで観察される格子像の乱れた領域にはダメージと共に研磨や洗浄工程において不純物が取り込まれている可能性が高い。
[3−2]不純物濃度
本発明の自立基板はTOF−SIMS(飛行時間形二次イオン質量分析計、Time of Flight−Secondary Ion Mass Spectrometer)により、一次イオンAu、一次イオン加速電圧25kV、走査領域200μm角、二
次イオン積算時間150秒において測定されるSi/Gaのイオンマススペクトルのピーク強度比が、通常0.01以下、更に好ましくは0.005以下である。すなわち、製造工程において付着しやすいSiなどの不純物濃度が極めて低い。前記Si/Gaの強度比が大きすぎると、電子デバイス特性が顕著に低下する場合がある。また、同様の条件においてSiO/Gaの強度比によっても測定することができる場合があり、その場合は、SiO/Gaのイオンマススペクトルのピーク強度比が、通常0.1以下、更に好ましくは0.05以下である。
【0040】
[3−3]表面の微視的形状
本発明の自立基板は、表面が極めて平坦で凹凸が少なく、AFM(原子間力顕微鏡、Atomic Force Microscopy)により、周辺1mmを除いた領域において測定される、1×1μmにおけるおけるRMS値が、通常1nm以下、好ましくは0.5nm以下、さらに好ましくは0.2nm以下である。
【0041】
表面の凹凸差が大きすぎると、以後の工程における不純物の付着を助長する場合がある。また、製造時における洗浄工程において、付着した不純物の除去が困難になる場合もある。
なお、本発明の自立基板(ウェハー)の周辺1mmを除いた領域においてRMS値を測定するのは、ウェハー周辺は、その他の加工により表面の凹凸差が大きくなる傾向があるためである。
【0042】
[3−4]転位密度
本発明の自立基板は、転位由来の電流漏れ経路や抵抗などを低減し、良好な電気的特性を得る観点から、転位密度が通常1×10cm―2以下、好ましくは5×10cm―2以下、更に好ましくは3×10cm―2以下である。転位密度は、通常CL(カソードルミネッセンス)像で観察されたダークスポットの密度を計算することにより求めることができる。
[3−5]熱伝導率
GaN系の電子デバイスがパワーデバイスとして期待されるものであることは前記したところである。これは禁制帯幅が広く高温での動作が容易なためであるが、デバイスの安定な動作や長寿命化のためには出来る限り、温度上昇なく動作させる必要がある。
【0043】
このためには、GaN系デバイスにおいても、高いパワーで動作させる場合には効率よく熱放散させる必要がある。たとえば本発明で示したようなパワーデバイスの一要素となるショットキーダイオードにおいて理想的な特性を呈するものが得られたとしても、オーム性電極やGaNバルクそのものの電気抵抗による損失があり、高電流動作では熱が発生する。
【0044】
従って、パワーデバイスでは動作領域を極力、ヒートシンク材料に近づける工夫がなされる。動作領域をヒートシンク材料に近づけるためにはデバイス動作領域が形成された半導体基板裏面を削ること、すなわち半導体基板の薄片化が必要になる。この時に10μm厚程度にもなる薄片化はデバイスの製作歩留まりを著しく落とす大きな要因で、パワーデバイスのコスト低減の足枷ともいえるものである。
【0045】
従って、パワーデバイス用半導体材料において、熱伝導率が高い半導体材料を用いれば薄片化は不要となり、デバイスの歩留まりを向上できる。本発明のGaN系半導体からなる自立基板は、熱伝導率の高いパワーデバイス用途に適した材料であることが好ましい。
かかる観点より、本発明の自立基板は、室温(25℃)における熱伝導率が、通常250W/m・K以上、好ましくは300W/m・K以上、更に好ましくは345W/m・K以上のGaN系半導体であることが好ましい。
【0046】
熱伝導率は、レーザーフラッシュ法により評価することができる。一般に、熱伝導率を直接求めるためには大きな試料を準備して長時間をかけて計測を行う必要がある。これに対して、レーザーフラッシュ法では、小さな試料を用いて短時間に熱伝導率を測定することができる。
図1はレーザーフラッシュ法の測定原理を説明するための図で、この手法では、直径10mm、厚さ1〜5mm程度の円板状試料Sの表面を、パルス幅が数百μsのレーザー光により均一に加熱した後の試料Sの裏面温度変化から、熱拡散率を算出する測定法である。具体的には、熱拡散率αをレーザーフラッシュ法により計測し、他の方法により求めた密度p及び比熱容量Cから、下式(1)式により熱伝導率λを算出する。
【0047】
λ=α×ρ×C ・・・(1)
レーザーフラッシュ法は、直径10mm、厚さ1〜5mm程度の円板状試料Sの表面をパルス幅が数百μsのレーザー光により均一に加熱した後の試料Sの裏面温度変化から熱
拡散率を算出する測定法である。断熱条件を仮定した理論解によれば、パルス加熱後の試料Sの裏面温度は上昇し、試料S内の温度分布が均一化されるのに伴って一定値に収束する。レーザーフラッシュ法は、小さい試料を短時間に測定することができ、解析法が簡明であり、室温から200℃以上の高温に至るまでの計測が可能であるため、熱拡散率の標準的かつ実用的計測法として広く用いられる。
【0048】
ここで、(1)式の適用において、GaNの密度を6.15(g/cm)、比熱を40.8(J/mol・K)とする(Barin, I., O. Knaeke, and
O. Kubasehewski, Thermochemical Propertie
s of Inorganic Substrates, Springer−Verlag, Berlin, 1977)。
【0049】
熱拡散率の計測値は、標準試料を使って更正されうる。例えば、財団法人ファインセラミックセンターから入手可能な多結晶アルミナ(直径10mm、厚さ1mm)を標準試料として用いることができる。
試料Sの裏面温度の変化から熱拡散率αを算出するアルゴリズムとしては、t1/2法を使用した。t1/2法では、試料S裏面の過渡温度上昇の半分まで到達するのに要する時間から(2)式にしたがって熱拡散率αを算出する。ここで、dは試料Sの厚さである。
【0050】
α=0.1388d/t1/2 ・・・(2)
上記の熱伝導率を有する本発明のGaN系半導体は、例えば後述の本発明の自立基板の製造方法によって製造することができる。
本発明で用いたGaN系厚膜材料よりなる支持基体の熱伝導率を測定するに際しては、先ず、支持基体の両面を研磨て成形することにより、10mm×10mm×1mmの板状の評価用試料を作製し、次いで、当該評価用試料の両面に200nm程度の金膜を形成し、レーザー照射面側に更にカーボン膜(厚さ1μm弱)を形成して、これを熱伝導率測定試料とした。
【0051】
そして、アルバック理工株式会社製から入手可能な全自動レーザーフラッシュ法熱定数測定装置TC−7000、及び、財団法人ファインセラミックスセンターから入手可能な熱拡散率測定用標準物質TD−ALを使用して、室温における熱伝導率を求めた。
[4]製造方法
本発明の自立基板の製造方法は、
(1)GaN系半導体を成長させる成長工程
を有する。
【0052】
また、好ましくは、前記成長工程の後に
(2)研磨工程
(3)こすり洗浄工程
を有する。
以下、各工程について詳述する。
【0053】
[4−1]成長工程
本発明の自立基板は、HVPE(Hydride Vapor Phase Epita
xial Growth)法、Naフラックス法、ソルボサーマル法などと呼ばれる公知
のGaNバルク成長法により結晶成長を行う成長工程を有する。中でもHVPE法によってGaN系半導体を成長させる成長工程を有するものが好ましい。
【0054】
HVPE法におけるGaN系半導体の成長方法に特に限定はないが、高品質の結晶を得
るという観点から、前述の特許文献1に記載の成長方法も用いるのが好ましい。以下、特許文献1で開示された成長方法を具体例に挙げてHVPE法による成長工程を説明する。
図2は、本発明のGaN系半導体(以下、適宜「GaN系材料」と称する。)の製造方法に好適なHVPE装置の概略構成を示す図である。HVPE装置100は、例えば、縦型のHVPE装置として構成されうる。縦型HVPE装置は、横型HVPE装置に比べて層流を形成しやすいために、高品質かつ高均一のエピタキシャル成長膜を再現性よく形成でき、バッチ処理(多数枚同時成長)に有利であるという特徴を有する。
【0055】
HVPE装置100は、反応室10と、反応室10内に配置された基板支持部30と、ヒータ20とを備えている。反応室10内には、キャリアガス(G1)と、GaClガス(G2)と、NHガス(G3)とが供給できる。キャリアガス(G1)としては、HガスとNガスが供給できるようになっている。また、GaClガス(G2)は、例えば、GaとHClとを反応させて生成される。
GaN系材料を成長させる前記成長工程は、キャリアガスG1と、GaClガスG2と、NHガスG3とを導入室40から反応室10内の下地基板に供給する。
【0056】
下地基板の温度(成長温度)は、通常900℃以上、好ましくは950℃以上、更に好ましくは1000℃以上であり、通常1200℃以下、好ましくは1150℃以下、更に好ましくは1100℃以下である。
反応室10内の圧力(成長圧力)は、通常8.08×10Pa以上、好ましくは9.09×10Pa以上、更に好ましくは9.60×10Pa以上であり、通常1.21×10Pa以下、好ましくは1.11×10Pa以下、更に好ましくは1.06×10Pa以下である。
【0057】
このうち、GaClガス(G2)の分圧は、通常1.0×10以上、好ましくは2.0×10以上、更に好ましくは4.0×10以上であり、通常1.0×10Pa以下、好ましくは5.6×10Pa以下、更に好ましくは4.0×10Pa以下である。
また、NHガス(G3)の分圧は、通常9.1×10以上、好ましくは1.5×10以上、更に好ましくは2.0×10Pa以上であり、通常2.0×10Pa以下、好ましくは1.5×10Pa以下、更に好ましくは1.0×10Paである。
【0058】
さらに、キャリアガス(G1)が、Hガスの他にNガスを更に含む場合において、γ=[Hガスの分圧]/[(Hガスの分圧)+(Nガスの分圧)]と定義すると、例えば、γは、通常0.6以上、好ましくは0.8以上、更に好ましくは0.9以上であり、通常1未満である。
GaN系材料或いは窒化ガリウム材料に導電性を持たせるためには、シリコン(n型の場合)などを意図的にドープすることが好ましい。一方で、高純度材料が必要な場合は、不純物を意図的にドープしない(アンドープ)ことが好ましい。また、不純物を意図的にドープしないサンプルは、意図的に不純物をドープしたサンプルよりも熱伝導率が高い傾向があり好ましい。不純物としては、例えば、酸素、シリコン、炭素、水素等を挙げることができる。意図的にドープしないサンプルの好ましい不純物濃度は、以下の通りである。
【0059】
不純物として酸素を意図的にドープしていないサンプルにおいて、酸素濃度は、1×1017atoms/cm未満であることが好ましく、5×1016atoms/cm未満であることがより好ましく、2×1016atoms/cm未満があることがさらに好ましい。ただし、酸素のSIMS検出下限は、2×1016atoms/cmである。
【0060】
不純物として炭素を意図的にドープしていないサンプルにおいて、炭素濃度は、5×1016atoms/cm未満であることが好ましく、3×1016atoms/cm未満であることがより好ましく、1×1016atoms/cm未満であることがさらに好ましい。ただし、炭素のSIMS検出下限は、1×1016atoms/cmである。
【0061】
不純物として水素を意図的にドープしていないサンプルにおいて、水素濃度は、5×1017atoms/cm以下であることが好ましく、3×1017atoms/cm以下であることがより好ましく、1×1017atoms/cm未満であることがさらに好ましい。ただし、水素のSIMS検出下限は、1×1017atoms/cmである。
【0062】
不純物としてシリコンを意図的にドープしていないサンプルにおいて、シリコン濃度は、1×1017atoms/cm以下であることが好ましく、5×1016atoms/cm以下であることがより好ましく、5×1015atoms/cm以下であることがさらに好ましく、1×1015(atoms/cm)以下であることが最も好ましい。ただし、シリコンのSIMS検出下限は、1×1015atoms/cmである。
【0063】
このような条件で成長させたGaN系厚膜材料の最大の特徴は、25℃での熱伝導率が250W/m・K以上と極めて高いことである。このような高い熱伝導率という特徴については、既に、特許文献2(の優先権の基礎とされた特願2006−067907号の明細書)においても説明がなされているところである。
また、上述の条件で成長させたGaN系厚膜材料をカソードルミネッセンス(CL)で評価したところ、転位密度は1×10cm−2以下であった。さらに、(002)面におけるX線ロッキングカーブの半値幅は300arcsec以下、(102)面におけるX線ロッキングカーブの半値幅は500arcsec以下であり、結晶性は良好であった。
【0064】
二次イオン質量分析法(SIMS)により残留不純物濃度を測定したところ、意図的に不純物を添加していない試料について、酸素濃度が5×1017atoms/cm未満、シリコン濃度が5×1017atoms/cm以下、炭素濃度が1×1017atoms/cm未満、水素濃度が1×1018atoms/cm未満であった。なお、このSIMS測定条件における各元素の検出下限は、酸素が2×1016atoms/cm、シリコンが1×1015atoms/cm、炭素が1×1016atoms/cm、水素が1×1017atoms/cmである。
【0065】
成長工程では、前述のようにHVPE法によってGaN系材料を下地基板上に成長させる。下地基板としては、半導体基板及び誘電体基板のいずれの使用も可能であるが、半導体基板を用いることが好ましい。例えば、下地基板は、その上に成長させようとするGaN系材料の結晶層と格子定数が近接したものが好ましく、格子定数がa軸方向に0.30nm〜0.36nmであり、c軸方向に0.48nm〜0.58nmである化合物半導体基板を用いることが特に好ましい。
【0066】
また、下地基板は、立方晶系又は六方晶系に属する結晶構造を有する基板が好ましい。立方晶系の基板としては、Si、GaAs、InGaAs、GaP、InP、ZnSe、ZnTe、CdTd等を用いることができ、六方晶系の基板としては、サファイア、SiC、GaN、スピネル、ZnO等を用いることができる。
下地基板としては、オフ基板を使用することもできる。例えば、サファイア基板であれば、その窒化物半導体結晶層を成長させる面が(ABCD)面又は(ABCD)面から微傾斜した面である基板を用いることができる。ここで、A、B、C、Dは自然数を示す。
この微傾斜の角度は、通常0°〜10°、好ましくは0°〜0.5°、より好ましくは0°〜0.2°である。例えば、(0001)面からm軸方向に微傾斜しているサファイア基板を好ましく用いることができる。この他に、例えばa(11−20)面、r(1−102)面、m(1−100)面、これらの面と等価な面及びこれらの面から微傾斜した面も用いることができる。ここで、等価な面とは、立方晶系では90°、六方晶系では60°回転させると結晶学的に原子の配列が同じになる面のことをいう。
【0067】
下地基板の上には、直接に本発明にしたがってGaN系材料を成長させてもよいが、下地基板上に下地層を形成した後に、その下地層の上に本発明にしたがってGaN系材料を成長させてもよい。
下地層は、例えば、分子線エピタキシー法(MBE法)、有機金属気相成長法(MOCVD法)、PLD法(Pulsed Laser Deposition; J. Cryst. Growth, 237/239 (2002) 1153)、HVPE法等によって形成することができる。これらのうち、好ましいのはMBE法、MOCVD法及びPLD法であり、特に好ましいのはMBE法とMOCVD法である。
【0068】
このような下地層を形成することにより、その上に成長させるGaN系材料からなる層の結晶状態や表面状態を良好なものとすることができる。
以下に、サファイアの下地基板上に下地層を介してGaN系材料層を形成する手順を例示的に説明する。先ず、サファイア基板上に、MBE法、MOCVD法、PLD法、HVPE法等により下地層を形成する。次に、下地層上に上述した手順でHVPE法によりGaN系厚膜材料層を形成する。Gaは、HClと反応させてGaClガスとして反応室10内に供給し、窒素原料はNHガスとして反応室10内に供給する。GaとHClとを反応させてGaClを生成する反応温度は、例えば、約850℃とする。
【0069】
このようにして得られたGaN系材料層をサファイア下地基板から剥離する場合には、レーザーリフトオフを用いてもよい。具体的には、GaN系材料層の成長後に下地基板とGaN系材料層との界面にレーザーを照射して界面を高温に曝すとV族成分(N成分)が抜けて界面にIII族成分(Ga成分)が残る。このIII族成分(Ga成分)を塩酸等で除去すると、簡単に下地基板を除去することができる。別の手法として、成長装置内で、結晶成長後の降温中にGaN系材料層と下地基板との間に生じる応力を利用して剥離させることも可能である。
【0070】
GaN系材料層を成長させた後にこのGaN系材料層をサファイア下地基板から剥離すれば、全体がGaN系材料よりなるバルク基板が得られる。また、例えば数〜十数mm程度の厚みで成長させたGaN系材料層を支持基体から剥離し、これを厚さ0.2〜0.3mm程度の基板として切り出せば自立基板が得られる。
本発明においては、かかる成長工程の後、任意に公知の機械研削、ラッピング加工により表面を適度に平坦化する。
【0071】
[4−2]研磨工程
前述の成長工程の後、表面の凹凸や機械的損傷による結晶性の乱れを低減すべく、研磨処理が行われる。研磨処理は通常、前述の機械研削、ラッピング加工後に、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法により行うのが好適である。
【0072】
研磨工程の具体例を以下に示す。まず、表面の平坦な円板状の研磨ブロックに、前記工程で得られたGaN系半導体をワックスで貼付け、研磨液をかけながら、回転する研磨定盤に前記GaN系半導体を押付けて研磨することにより行われる。前記研磨定盤の表面には、研磨布と呼ばれる、不織布や、発泡性樹脂が設置されている。
ここで、本発明において、研磨レートは、通常1000nm/時間以下、好ましくは500nm/時間以下、更に好ましくは100nm/時間以下である。研磨レートが早すぎると、研磨による表面のダメージが大きくなり、表面の凹凸差が大きくなる。この表面の凹凸差は、以後の工程における不純物の付着を助長する場合がある。また、後述のこすり洗浄工程において、付着した不純物の除去が困難になる場合もある。
【0073】
また、研磨における条件として、好ましい研磨速度を得るため、酸性条件で行うのが好ましく、pHが通常0.5以上好ましくは0.8以上であり、通常2以下、好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.2以下である。pHが低すぎても、高すぎても、好ましい研磨速度を得ることができない。また、研磨粒子としては、シリカを用いるのが好ましいが、特に酸性コロイダルシリカを用いるのが好ましい。研磨粒子の粒径は通常10nm以上、好ましくは20nm以上であり、通常200nm以下、好ましくは150nm以下、更に好ましくは100nm以下である。また、前記pHに関する記載と同様に、好ましい研磨速度を得るため、前記研磨粒子のスラリーに酸化剤を含有するのが好ましい。酸化剤としては、過酸化水素水、硝酸、過酢酸などが挙げられるが、実験結果から、経験的に過酸化水素水が好ましい。酸化剤の含有量は、研磨液全体に対して、通常1重量%以上、好ましくは3重量%以上、更に好ましくは5重量%以上であり、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、更に好ましくは30重量%以下である。酸化剤の含有量が多すぎても、少な過ぎても、好ましい研磨速度を得ることができない。
【0074】
[4−3]こすり洗浄工程
本発明の自立基板の製造方法では、前述の成長工程や研磨工程により付着したGaN系半導体ウェハー表面の不純物を除去すべく、洗浄工程を行うのが好ましい。特に、前記研磨工程により付着しやすい研磨粒子がSiを含むものである場合は、電子デバイス特性に影響を与えやすいため、当該Si不純物の濃度を低減するため、こすり洗浄を行うことが好ましい。
【0075】
こすり洗浄は、前記研磨工程に引き続き、研磨液の代わりに、洗浄液を供給し、物理的に付着物をこすり落とす方法である。
洗浄液は、除去対象物や、自立基板の表面の結晶性に応じて最適なものが選択される。
通常、界面活性剤等の付着物の除去効果のある薬液を用いるが、例えば、Siを含む研磨粒子を除去対象とする場合は、アルカリ溶液が好ましく、特にKOH水溶液が好ましい。KOHの濃度は、通常1重量%以上、好ましくは3重量%以上、更に好ましくは5重量%であり、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、更に好ましくは30重量%以下である。アルカリ濃度が高すぎるとエッチング作用により表面粗度が悪化する可能性があり、低すぎると十分な洗浄効果が得られない。
【0076】
また、除去対象物により洗浄液を変え、数段階のコスリ洗浄を行うとさらに不純物の低減が図られるため、好ましい。
こすり洗浄は、通常、前述の研磨工程に引き続き行われるものであるため、研磨布は、不織布や、発泡性樹脂が用いられる。
[4−4]後工程
こすり洗浄工程後、仕上げ工程として、任意にワックス洗浄、純水洗浄、乾燥などの工程を経て製品としての自立基板を得ることができる。
【0077】
ワックス洗浄は、前記研磨工程、こすり洗浄工程において自立基板を装置へ固定するために使用し表面に付着したワックスを除去する工程である。通常、有機溶剤に浸漬することによる洗浄が挙げられる。有機溶剤としては通常アルコールを用いることができ、例えば、ワックスの性状に合わせ、イソプロピルアルコールを使用することができる。
純水洗浄は、不純物を最終的に除去する工程である。通常、純水を用いて流水洗浄する

【0078】
乾燥は、自立基板に付着した純水などの液体を最終的に除去するものであるが、均一乾燥の観点から、スピン乾燥を行うのが好ましい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、それらは本発明の説明を目的とするものであって、本発明をこれらの態様に限定することを意図したものではない。
[1]参考例1
下地基板として表面が(0001)面からなる厚さ430μm、直径2インチのサファイア基板を用意し、これを前処理として有機溶剤で洗浄した。その後、MOCVD装置により下地基板の上に厚さ2μmの下地GaN層を成長させた。
【0080】
次いで、下地GaN層を成長させた基板をHVPE装置の反応室内に配置して、反応温度を1070℃に昇温した後、GaN層上に、実質的にHのみからなるキャリアガスG1と、GaとHClの反応生成物であるGaClガスG2と、NHガスG3とを供給しながら、下地GaN層上にGaN層を45時間にわたって成長させた。この成長工程において、成長圧力を1.01×10Paとし、GaClガスG2の分圧を7.33×10Paとし、NHガスG3の分圧を4.67×10Paとした。
【0081】
次いで、GaN層を成長させた基板からサファイア基板を取り除き、厚さが約1470μmの自立GaN単結晶基板が得られた。
下地基板より分離して得られたGaN結晶の表面をAFMにて観察したところ、100nmを越えるような凹凸のある粗面であった。
前記GaN結晶の表面を、c面に平行な方向に、機械研削、ラッピング加工し、略平板状のGaN基板(ウェハー)を得た。次に、基板のGa面側表面を研磨液により研磨した。研磨液は、平均粒径80nmの酸性シリカスラリーに、10重量%の酸化剤(H)を混合し、研磨速度が50nm/時間となるように調整を行ったものを使用した。
【0082】
研磨により得られた表面のRSM粗さは、1×1μm面積内で、0.1nm未満に低減されていた。また、TEMによる断面格子像観察の結果、加工変質層厚さは3nmであった。
[2]参考例2
実施例1の成長方法と同様の条件で厚さが約1470μmの自立GaN単結晶基板を得た後、上記研磨液の組成を変更し、研磨速度が2000nm/時間となる条件で研磨した。得られた表面のRMS粗さは、1×1μm面積内で0.2nm未満であったが、TEM観察による加工変質層の厚さは、100nmであった。
【0083】
参考例1と2の結果より、研磨工程を経ることにより、断面格子像での格子の乱れに起因する加工変質層の厚さを低減できたことが確認された。
[3]実施例1
下地基板として表面が(0001)面からなる厚さ430μm、直径2インチのサファイア基板を用意し、これを前処理として有機溶剤で洗浄した。その後、MOCVD装置により下地基板の上に厚さ2μmの下地GaN層を成長させた。
【0084】
次いで、下地GaN層を成長させた基板をHVPE装置の反応室内に配置して、反応温度を1070℃に昇温した後、GaN層上に、実質的にHのみからなるキャリアガスG1と、GaとHClの反応生成物であるGaClガスG2と、NHガスG3とを供給しながら、下地GaN層上にGaN層を45時間にわたって成長させた。この成長工程において、成長圧力を1.01×10Paとし、GaClガスG2の分圧を7.06×10
Paとし、NHガスG3の分圧を4.35×10Paとした。
【0085】
次いで、GaN層を成長させた基板からサファイア基板を取り除き、厚さが約1370μmの自立GaN単結晶基板が得られた。
下地基板より分離して得られた結晶の表面を、c面に平行な方向に、機械研削、ラッピング加工した。次に、基板のGa面側表面を研磨液により研磨した。研磨液は、平均粒径80nmの酸性シリカスラリーに、10重量%の酸化剤(H)を混合し、研磨速度が50nm/時間となるように調整を行ったものを使用した。
【0086】
次に、前記GaN基板表面に、洗浄液として、酸、アルカリ、界面活性剤を供給しながら、研磨布を擦り付けるこすり洗浄を行い、研磨剤等の残留物を除去した。表面に残留した不純物は低減し、TOF−SIMS(一次イオンAu、一次イオン加速電圧25kV、走査領域200μm角、二次イオン積算時間150秒)による表面のSi/Gaのイオン
マススペクトルのピーク強度比は、0.001であった。また、同様の条件におけるSiO/Gaのピーク強度比は0.04であった。
【0087】
なお、この自立GaN単結晶基板は、ショットキーダイオードの容量-電圧測定より、
導電型はn型、実効ドナー濃度は1×1016atoms/cmであることが確認された。なお、同様の製造方法により得られた別の自立GaN単結晶基板において同様の測定をした結果、導電型はn型、実効ドナー濃度は8×1016atoms/cmおよび1.5×1017atoms/cmであった。
得られた自立GaN単結晶基板の周辺3mmを除いた場所で、残留不純物濃度評価、転位密度測定、結晶性評価、および、熱伝導率測定を行った。酸素、炭素および水素の不純物濃度は何れもSIMS測定の検出限界以下であった。この自立GaN単結晶基板の実効ドナー濃度は、残留不純物であるSiに由来していることを確認した。また、カソードルミネッセンス(CL)法およびAFMによる評価により、転位面密度は3×10cm−2であることが確認された。
【0088】
さらに、上述の表面処理後の支持基体の表面品質を評価するため、AFMによる表面粗さ測定と、断面TEM法による格子像観察を行った。
図3はAFMによる表面粗さ測定の結果を示す図で、支持基体表面の凹凸が±1nmの範囲にあることがわかる。
また、断面TEM法により撮影した格子像を解析した結果、少なくとも、支持基体の最表面から2原子層目の結晶格子には乱れ(歪)は認められなかった。
【0089】
[4]参考例3
実施例1の成長方法と同様の条件で厚さが約1370μmの自立GaN単結晶基板を得た後、、研磨布を擦り付けることなく、洗浄液として、酸、アルカリ、界面活性剤による洗浄を行い、表面に残留した不純物を測定したところ、TOF−SIMS(加速電圧25Kv、150秒積算)による表面のSi/Gaの強度比は、0.02であった。また、同様の条件におけるSiO/Gaのピーク強度比は0.16であった。
【0090】
実施例1と参考例3の結果より、こすり洗浄工程を経ることにより、製造工程において付着しやすいSiなどの不純物を低減できたことが確認された。
[5]ショットキー電極の形成
実施例1の表面処理を施した自立基板(以下、「支持基体」と称する。)の表面(主面)に、直接、ショットキー電極を形成した。
【0091】
まず、支持基体の洗浄を行った。具体的には、硫酸・過酸化水素水混合液(SPM)処理、塩酸処理、王水処理を行い、続いてHF処理を行った。その後、純水で充分に洗浄し
て窒素ガスを吹き付けて支持基体表面の純水を取り除き乾燥させた。なお、洗浄手順は、プロセス前のウエハーの保存環境などを考えて、汚染や表面の変質が心配されない場合には、一部を省略することも可能である。
ショットキー電極を形成するに先立ち、まずオーム性電極を形成する。本実施例の支持基体は自立GaN単結晶基板であるため、裏面にオーム性電極を形成した。当該電極は、Tiを20nm、Alを200nm蒸着したものを、N中で、約750℃で3分間熱処理してオーム性電極とした。なお、下地基板がついたままの支持基体の場合には、上記オーム性電極は、GaN系自立基板よりなる主面の一部に形成すればよい。
【0092】
次に、メタノール中で超音波洗浄した後、ショットキー電極を形成した。まず、ショットキー障壁用の金属としてNiを用い、支持基体の全面にメタルマスクを用いて円形状のショットキー電極を蒸着により形成した。
図4は、上述の手順により得られたショットキーダイオードの構造を説明するための断面図で、支持基体であるn−GaN(40)の裏面にTi/Alのオーム性電極(50)が、表面に直径100〜300μmの複数のNiのショットキー電極(60)が、直接形成されている。なお、ショットキー電極の直径は100〜300μmである必要はないが、パターン形成が容易であることと、当該範囲内に存在することとなる転位の数(電極のサイズに応じて100〜2700程度)から、支持基体の平均的情報を得るために直径100〜300μmとした。
【0093】
[5−1]ショットキーダイオードの特性
上述のショットキー電極を備えたショットキーダイオードの特性を評価した。
図5および図6は、実効ドナー濃度が1×1016atoms/cmである自立GaN結晶基板上に作製した多数のショットキーダイオードについて測定した電流−電圧特性を説明するための図で、図5は順方向特性であり、図6は逆方向特性である。なお、作製後、簡易スクリーニング検査を実施し、プロセスの不具合などにより生じた不良ダイオード数個はデータから除外している。
なお、前記不良ダイオードのうち、いくつかのダイオードは逆方向リーク電流が増大し破壊に至る特性を示した。CL像観察により、これらのダイオードすべてにおいて、c面に平行な積層欠陥と考えられる細いダークラインが観察された。このことから、積層欠陥は逆方向リーク電流に寄与するという結果が得られた。
また、前記不良ダイオードのうち、別のいくつかのダイオードは順方向特性においてledge(階段状の電流−電圧特性)が観察され、かつ逆方向においてはリーク電流が著しく大きいという特性を示した。CL像観察によりこれらのダイオードにも細いダークラインが観察された。このことから、積層欠陥が順方向特性においてledgeを生じさせる原因となっている可能性が示唆された。よって、本発明の自立基板としては、前記積層欠陥または前記ダークラインが少ないか、ないことが好ましい。これらのダイオードのデータは以下の議論では除外した。
【0094】
表1は、実効ドナー濃度が1×1016atoms/cmである自立GaN結晶基板上に形成されたショットキーダイオードについて実験データから求めた理想因子n値、障壁高さ、および−5V、−50Vにおける逆方向電流の実測値の一例を纏めた結果である。この表1には、後述の、逆方向電流の計算値も記載している。
【0095】
【表1】

【0096】
表1に示すように順方向の電流電圧特性から求められる理想因子(n値)は、1.02〜1.04であり、ショットキーダイオードの全てにおいて、理想値の1に極めて近いn値が得られている。また、順方向電流電圧特性より求めたショットキー障壁高さは、0.92〜0.94eVとパワーデバイス応用に必要な高さが得られた。
【0097】
図7は、実効ドナー濃度が1×1016atoms/cmである自立GaN結晶基板上に作製したショットキーダイオードのn値とショットキー障壁高さの分布を示す図である。
逆方向電流電圧特性について述べる。欠陥や遷移層などの存在しない、理想的なショットキーダイオードの逆方向電流の電流輸送機構としては、熱電子放出(TE)、熱電界放出(TFE)の2つの機構が存在する。電流値は、この2つの機構の合計となるが障壁高さや、ドーピング密度、印加電圧などによって、どちらか一方が支配的になる。今回議論する範囲では、熱電界放出(TFE)が支配的となる。
【0098】
図6および表1に示したように、作製したダイオードの逆方向漏れ電流は極めて小さい。また、逆方向の漏れ電流値は、順方向の実測値から求めたショットキー障壁高さのみを用いて、その他のフィッティングパラメーターを何ら用いることなく、熱電子放出モデルと熱電界放出モデルの合計として計算した理論電流値とほぼ一致している。すなわち、順方向特性および逆方向特性が、統一的かつ定量的に、理想的モデルに一致する状況が達成された。しかも、このときのショットキー障壁高さは0.93eVと大きな値であり、これは実際のデバイスで使用し得るに十分な値である。
【0099】
図6および表1に示した結果から、逆方向電圧は、少なくとも−50Vの条件下においては、熱電界放出電流と影像力による障壁低下を考慮した熱電子放出電流の計算値の和の10倍以下に収まっていることがわかる。
なお、実測の電流値とモデル計算により得られた電流値の差の程度は、ダイオード毎に異なっている。この事実を考慮すると、実測の電流値がモデル計算よりも大きくなる原因としては、まだ完全には除去できていない表面の汚染、欠陥、結晶に含まれる貫通転位などの欠陥などが主な要因であると考えられる。従って、作製プロセスをさらに最適化すれば、少なくともバラツキを抑え、現在得られているもっとも電流値が小さいデバイスに全体を収束させることが可能であると考えられる。しかし、実用上は、理論値の50倍以下、好ましくは10倍以下に収まっていれば十分であり、今回のデバイスで実用上の要求は果たせていると考えられる。
【0100】
実測の電流値がモデル計算により得られた電流値を僅かに下回っているダイオードもあるが、これは、計算に用いた式が近似式であり、特に、低電圧では誤差が大きくなりやすいこと、計算に用いた有効質量などの物性値に多少の誤差があること、が理由として考えられる。
次に、ダイオードの順方向電流の理論計算式について述べる。理想的なショットキー接合における順方向の電流−電圧特性は、下式(1)で与えられる。
【0101】
【数1】

【0102】
ここで、Jは飽和電流密度であり下式(2)で与えられる。また、Aは下式(3)で定義される有効リチャードソン(Richardson)定数であり、GaNの場合、電子の有効質量(m=0.23mn0)より、A=28.9A・cm−2・K−1で与えられ
る。なお、eは素電荷、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、hはプランク定数である。
【0103】
【数2】

【0104】
【数3】

【0105】
理想的なショットキーダイオードの順方向の電流−電圧特性は上式(1)で与えられるが、実際の素子の順方向特性は、実験的には理想因子(n:ideality factor)を用いて
、下式(4)で与えられる。
【0106】
【数4】

【0107】
理想因子nは、最も理想的な素子では、n=1である。ショットキー障壁をトンネル現象で透過する電子による電流や、表面欠陥を介したトンネル電流などがあると、n値は1よりも大きくなる。
【0108】
障壁高さφBは、上式(2)を用いて、下式(5)から求まる。
【0109】
【数5】

【0110】
また、飽和電流密度Jは、実験的には、測定したI-V特性を片対数グラフにおいてV=0まで外挿することで得られる。
【0111】
次に、逆方向電流の理論計算式を以下に説明する。熱電子放出(TE)による逆方向電流は、印加電圧をVとすると、下式(6)で与えられる。これは、熱エネルギーによって障壁を越える電子による電流である。
【0112】
【数6】

【0113】
ショットキー界面に於ける半導体の電界が大きい場合には、影像力によるショットキー障壁の低下も考慮しなければならない。これを考慮した熱電子放出(TE)を記述する式が下式(7)である(T. Hatakemaya 他、Materials Science Forum Vols.389-393 (2002) pp.1169-1172.を参照)。
【0114】
【数7】

【0115】
なお、ショットキー接合界面の電界強度Eは、下式(8)で表される。
【0116】
【数8】

【0117】
ここで、Ndは実効ドナー濃度、εは真空の誘電率、εは比誘電率、Vdは拡散電位である。
本発明においては、熱電子放出(TE)に関する理論計算は、ショットキーバリア障壁の低下を考慮した上式(7)を用いた。
【0118】
一方、熱電界放出(TFE)モデルに基づけば、熱エネルギーによりフェルミ準位より高エネルギー側に分布した電子も考慮して、電子が障壁をトンネル効果により通過する電子による電流密度(TEF電流密度:JTEF)の近似式は、印加電圧をV、ショットキー接合界面の電界強度をE、有効リチャードソン定数をAとして、下式(9)で与えられる(T. Hatakemaya 他、Materials Science Forum Vols.389-393 (2002) pp.1169-1172.を参照)。
【0119】
【数9】

【0120】
但し、
【0121】
【数10】

【0122】
なお、ショットキー接合界面の電界強度Eは、上式(8)で表される。
【0123】
ドーピング密度が非常に高い場合は、ショットキー界面に形成されるポテンシャル障壁が非常に薄くなり、ほぼフェルミ準位の電子がトンネルする状況になる。これは電界放出と呼ばれているが、物理現象としては熱電界放出の特殊な状況の一つに過ぎず、熱電界放出に包含される。ただ、この状況では、近似式として上記式の精度は高くなく、むしろ、次の式(10)を使って求めることが望ましい(T. Hatakemaya 他、Materials Science Forum Vols.389-393 (2002) pp.1169-1172.を参照)。
【0124】
【数11】

【0125】
熱電界放出電流については、(9)式と(10)式で計算を行い、値の大きい方を採用すればよい。
【0126】
今回作製したデバイスのドーピング密度およびショットキー障壁高さの場合、電界放出電流は極めて小さく、他の電流成分に対して無視できる程度の電流量である。
また、計算に必要なGaNの物性定数としては、現時点である程度信頼されている値を用いた。具体的には、電子の有効質量として0.23m(ここで、mは電子の質量)、比誘電率として10.4、拡散電位の計算に必要な伝導帯実効状態密度として2.74×1018cm−3を、それぞれ用いた。
【0127】
以下に、計算の手順の詳細を記す。
ショットキーダイオードの電流−電圧特性(順方向特性)の実測例(順方向の電流−電圧特性)を示す図5の片対数プロットにおいて、直列抵抗が無視できる直線領域でフィッティングを行なってn値を求め、また、直線を電流軸に外挿した切片からショットキー障壁高さを求める。今回は、電圧0.15V〜0.45Vの領域がほぼ完全に直線となっているので、この領域を用いた。
【0128】
次に、実効ドナー濃度の正確な値を測定するために、このダイオードの容量−電圧特性を測定する。今回用いたGaNは大型結晶から切り出されたものであり、厚さ方向についてのドーピング均一性は極めて優れている。均一なドーピングを反映して、1/C−Vプロットでは、きれいな直線が得られる。この直線の−5V〜0V領域の傾きから実効ドナー濃度Nを算定した。拡散電位Vは、この直線を外挿してグラフから求めることもできるが、外挿による誤差がやや大きいので、実効状態密度を用いて計算により求める。
計算により求めた結果は、もちろん、外挿により得た値とほぼ一致している。
【0129】
実測値のショットキー高さと実効ドナー濃度を用いて、上述のGaNの基礎物性定数と共に、影像力による障壁低下を考慮した熱電子放出電流、および、熱電界放出電流を計算し、両者の和を、理想的なショットキーダイオードの逆方向電流値とする。なお、上記熱電子放出電流は、上式(7)から求める。また、上記熱電界放出電流は、上式(9)と上式(10)で求められる値のうちの大きい方を採用する。本実施例においては、逆方向電流の計算値として、式(7)と式(9)による計算値の和を採用した。なお、電流値は温度に大きく依存する。ダイオード測定時のウエハーステージの温度を記録し、計算には当該ウエハーステージの温度を使用した。標準的な測定は室温付近で行っているが、デバイス応用に応じて、−100℃〜600℃などの温度で行ってもよい。本実施例に示す測定結果は、一例として、ウエハーステージ(自立基板)の温度が16℃で行ったものを示す。
【0130】
図8は、実効ドナー濃度が1×1016atoms/cmである自立GaN結晶基板上に形成されたいくつかのダイオードについて、−200Vまでの逆方向特性の評価を行った結果(電流−電圧特性)を示す図である。
−50Vまでの低電圧に比べると理論値からの差が若干増大しているものの、−200Vにおいても、TFEモデルで求められた電流値の10倍以内に収まっている。逆方向で徐々に電流値が理論値から離れる理由であるが、いくつか理由が考えられる。第1の理由は、僅かではあるが、衝突電離が生じている可能性である。これは欠陥とは関係のないGaN本来の現象なので、実験結果と比較すべき理論値計算に組み入れるべきであるが、衝突電離係数の電界依存性の正確な値が計算には必要であり、まだ、信頼できる報告は少ない。第2の理由は、上記したデバイス内に含まれる数百個の転位の影響が考えられる。第3の理由は、作製したショットキーダイオードはガードリングを設けていないことから、電極周辺での電界集中による電流の寄与が考えられる。
【0131】
研究開発や試作において支持基体の品質や作製プロセスの適切さを評価するには、−5Vや−50Vといったような比較的低電圧条件下で、理論値と実測値を比べる方法が簡便かつ実際的である。
なお、本実施例における上述の電気的特性は、キャリア濃度が1×1016atoms/cmの自立GaN単結晶基板に直接形成されたショットキーダイオードで得られたものであるが、同様の結果は、キャリア濃度が8×1016atoms/cmや1.5×1017atoms/cmの自立GaN単結晶基板に直接形成されたショットキーダイオードにおいても得られることを確認している。
【0132】
つまり、本発明の、主面がGaN系自立基板よりなる支持基体の主面に直接形成されたショットキーダイオードにおいては、理想因子n値が1.0以上であり、1.3以下、好ましくは1.2以下、更に好ましくは1.1以下で、逆方向電圧−5V印加時の電流値が、熱電界放出モデルおよび熱電子放出モデルの計算値の和として計算した理論電流値の50倍以下、好ましくは10倍以下、更に好ましくは3倍以下である。
【0133】
好ましくは、逆方向電圧−50V印加時の電流値が、熱電界放出モデルおよび熱電子放出モデルの計算値の和として計算した理論電流値の50倍以下、好ましくは10倍以下、更に好ましくは3倍以下である。
更に好ましくは、逆方向電圧−200V印加時の電流値が、熱電界放出モデルおよび熱電子放出モデルの計算値の和として計算した理論電流値の50倍以下、好ましくは10倍以下、更に好ましくは3倍以下である。
【0134】
図9は、本発明のショットキーダイオードにつき、理論モデルで計算した逆方向電圧−
5Vおよび−50Vにおける電流値を、実効ドナー濃度Nに対してプロットした図で、ショットキー障壁高さが0.93eVの場合の逆方向の、印加電圧−5Vおよび−50Vにおける理論電流値を実線で示している。なお、図中に示した白丸および黒丸は、それぞれの逆方向電圧条件下での実測値である。図9に示した結果から、本発明のショットキーダイオードにおいては、逆方向電圧−5V印加時の電流値がモデルで計算した電流値とほぼ等しく、極めて良好なショットキー障壁が形成されていることが分かる。
【0135】
逆方向の理論電流値は、ショットキー障壁高さおよび実効ドナー濃度に大きく依存する。実効ドナー濃度増大に伴い、熱電界放出成分がより大きくなり、逆方向電流は増加する。特に、逆バイアス電圧が大きいとトンネル確率が大きくなるので、−5Vにくらべ−50Vでは値が急増する。実効ドナー濃度が1015cm−3以下の領域では、熱電子放出が支配的になり、電流値は逆バイアス電圧に対して緩やかな依存性を持つ。
【0136】
今回作製したダイオードの逆バイアス電圧−5Vおよび−50Vにおける電流実測値(白丸および黒丸)を図9中に示したように、すべての実測値が理論計算値の10倍以内に収まっており、ショットキー障壁は極めて良好であることが分かる。
なお、下地基板の上にMOCVDやMBEでエピタキシャル成長させたたGaN系厚膜の表面に直接ショットキー電極を形成したダイオードにおいても、そのデバイス特性は良好であり、電流−電圧特性における理想因子n値は1.0〜1.1であり、逆方向電圧−5V印加時の電流値は、熱電界放出モデルおよび熱電子放出モデルの計算値の和として計算した理論電流値の50倍以下、好ましくは10倍以下、更に好ましくは3倍以下である。
【産業上の利用可能性】
【0137】
従来、GaN系半導体からなる自立基板表面(主面)の上に直接デバイス領域を形成した場合には好ましいデバイス特性を得ることができないと考えられてきたが、本発明の自立基板は、表面(主面)の上にエピタキシャル層を形成することなく直接ショットキーダイオードを形成しても、理想因子(n値)が1に近く、高いショットキー障壁高さと低いリーク電流特性を有する品質を有する。従って、高品質なGaN系半導体からなる自立基板を用いる産業分野、例えば、ショットキーダイオード分野のみならず、ショットキー障壁をゲートとするGaN系材料における電界効果トランジスタの分野、LEDやLDなどの半導体発光素子の結晶成長用基板としての分野等において、その利用可能性は極めて高い。
【符号の説明】
【0138】
100 HVPE装置
10 反応室
20 ヒータ
30 基板支持部
40 n−GaN
50 Ti/Alのオーム性電極
60 Cu/Niのショットキー電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaN系半導体からなる自立基板であって、前記自立基板の表面に直接Niを金属電極としてショットキーダイオードを形成した場合、電流−電圧特性における理想因子n値が1以上1.3以下となることを特徴とする自立基板。
【請求項2】
請求項1に記載の自立基板であって、前記自立基板の表面に直接Niを金属電極としてショットキーダイオードを形成した場合、逆方向電圧−5V印加時の電流値が、熱電界放出モデルおよび熱電子放出モデルの計算値の和として計算した理論電流値の50倍以下となることを特徴とする自立基板。
【請求項3】
GaN系半導体からなる自立基板であって、前記自立基板の表面に直接Niを金属電極としてショットキーダイオードを形成した場合、逆方向電圧−5V印加時の電流値が、熱電界放出モデルおよび熱電子放出モデルの計算値の和として計算した理論電流値の50倍以下となることを特徴とする自立基板。
【請求項4】
TEMによる断面格子像観察での格子の乱れを観察することにより測定される表面のダメージ深さが10nm以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の自立基板。
【請求項5】
TOF−SIMSにより、一次イオンAu、一次イオン加速電圧25kV、走査領域200μm角、二次イオン積算時間150秒において測定されるSi/Gaのイオンマスス
ペクトルのピーク強度比が0.01以下である請求項1から4のいずれか1項に記載の自立基板。
【請求項6】
AFM(Atomic Force Microscopy)により、周辺1mmを除いた領域において測定される、1×1μmにおけるRMS値が1nm以下である請求項1から5のいずれか1項に記載の自立基板。
【請求項7】
転位密度が1×10cm―2以下である請求項1から6のいずれか1項に記載の自立基板。
【請求項8】
GaN系半導体がAlInGa(1−x−y)N(但し、0≦x≦1、0≦y≦1、[x+y]<1)からなる請求項1から7のいずれか1項に記載の自立基板。
【請求項9】
x+y<0.5である請求項8の自立基板。
【請求項10】
室温での熱伝導率が250(W/m・K)以上である請求項1から9のいずれか1項に記載の自立基板。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の自立基板を製造する方法であって、
(1)GaN系半導体を成長させる成長工程
(2)研磨工程
(3)こすり洗浄工程
を含むことを特徴とする自立基板の製造方法。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか1項に記載の自立基板を製造する方法であって、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxial Growth)法によってGaN系半導体を成長させる成長工程を含むことを特徴とする自立基板の製造方法。
【請求項13】
前記成長工程において、
ガスを含むキャリアガスと、GaClガスと、NHガスとを反応室に供給し、成長温度を900℃以上1200℃以下とし、
成長圧力を8.08×10Pa以上1.21×10Pa以下とし、
GaClガスの分圧を1.0×10Pa以上1.0×10Pa以下とし、
NHガスの分圧を9.1×10Pa以上かつ2.0×10Pa以下とする、
請求項11または12に記載の自立基板の製造方法。
【請求項14】
前記成長工程の後に、研磨レートを1000nm/時間以下とする研磨工程を含む請求項11から13のいずれか1項に記載の自立基板の製造方法。
【請求項15】
前記成長工程の後に、こすり洗浄工程を含む請求項12から14のいずれか1項に記載の自立基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−180111(P2010−180111A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26575(P2009−26575)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】