説明

薄膜トランジスタおよびその製造方法

【課題】製造工程を簡略化しつつソース電極及びドレイン電極の導電性を向上させた薄膜トランジスタ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の薄膜トランジスタの製造方法は、基板101上にゲート電極103を形成する工程と、ゲート電極103上にゲート絶縁層104を形成する工程と、ゲート絶縁層104上にアモルファスシリコン層105を形成する工程と、アモルファスシリコン層105上にアルミニウム層111を形成し、アルミニウム層111上にモリブデンタングステン層112を形成し、アルミニウム層111及びモリブデンタングステン層112を少なくとも含む積層体から構成されるソース電極109及びドレイン電極110を形成する工程と、ソース電極109及びドレイン電極110をマスクとしアモルファスシリコン層105にレーザを照射することでアモルファスシリコン層105の一部を結晶化させチャネル領域を形成する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微結晶シリコン層を有する薄膜トランジスタおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チャネル層として多結晶または微結晶シリコン層を有するボトムゲート型薄膜トランジスタの製造方法として、ゲート電極、ゲート絶縁膜、アモルファスシリコン(a−Si)層、ソース電極、およびドレイン電極を形成後に、ソース電極およびドレイン電極をマスクとしてアモルファスシリコン層に対してレーザ照射を行うことにより、チャネル領域を結晶化する製造方法が提案されている。この製造方法によれば、工程数を削減でき、さらにリーク電流の低減や移動度の向上を図ることができる(例えば特許文献1、2および3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−045354号公報
【特許文献2】特開平07−147259号公報
【特許文献3】特開2008−085091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1等に記載された薄膜トランジスタの製造方法では、マスクとして用いるソース電極およびドレイン電極の材料として、レーザ照射されることを考慮して高融点金属であるモリブデン(Mo)、チタン(Ti)およびクロム(Cr)などを用いている。これらの高融点金属は導電性が低いため、このような薄膜トランジスタを用いた場合には、配線抵抗が大きくなるという問題がある。
【0005】
そこで、本願発明は、かかる問題点に鑑み、製造工程を簡略化しつつ、ソース電極およびドレイン電極の導電性を向上させた薄膜トランジスタおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本願発明の薄膜トランジスタの製造方法は、基板上にゲート電極を形成する工程と、前記ゲート電極上にゲート絶縁層を形成する工程と、前記ゲート絶縁層上にアモルファスシリコン層を形成する工程と、前記アモルファスシリコン層上にアルミニウム層を形成し、前記アルミニウム層上にモリブデンおよびタングステンの少なくとも一方を含む表面層を形成し、前記表面層及び前記アルミニウム層を少なくとも含む積層体から構成されるソース電極およびドレイン電極を形成する工程と、前記ソース電極およびドレイン電極をマスクとして、前記アモルファスシリコン層にレーザを照射することにより、前記アモルファスシリコン層の一部を微結晶化させてチャネル領域を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
ここで、前記ソース電極およびドレイン電極を形成する工程において、前記レーザの照射により前記アルミニウム層の温度が融点に達しない熱容量を持つ前記表面層を形成してもよい。
【0008】
また、前記ソース電極およびドレイン電極を形成する工程において、75nm以上の厚みの前記表面層を形成してもよい。
【0009】
また、前記チャネル領域を形成する工程において、照射エネルギーが0.26〜0.36J/cm2の前記レーザを照射してもよい。
【0010】
これにより、ソース電極およびドレイン電極をマスクとしたレーザ照射によりチャネル層が形成されるので、マスク形成工程を削減して製造工程を簡略化できる。
【0011】
また、ソース電極およびドレイン電極がアルミニウムを含むので、ソース電極およびドレイン電極の導電性を向上させることができる。
【0012】
さらに、ソース電極およびドレイン電極がアルミニウムのみで構成される場合、上部電極(上部配線)に酸化インジウムスズ(ITO)を用いると、アルミニウムとITOとのコンタクト抵抗が高いため、上部電極とソース電極およびドレイン電極とのコンタクト抵抗が高くなる。しかしながら、ソース電極およびドレイン電極のアルミニウムの上にはモリブデンおよびタングステンの少なくとも一方が形成されるので、上部電極にITOを用いる場合でも上部電極とソース電極およびドレイン電極とのコンタクト抵抗を低く抑えることができる。
【0013】
また本発明は、基板と、前記基板上に形成されたゲート電極と、前記ゲート電極上に形成されたゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層上に形成されたアモルファスシリコン層と、前記アモルファスシリコン層上に形成されたソース電極およびドレイン電極とを有し、前記アモルファスシリコン層には、前記ソース電極および前記ドレイン電極をマスクとした該アモルファスシリコン層へのレーザ照射により微結晶化されたチャネル領域が形成されており、前記ソース電極およびドレイン電極は、最表面に配置されたモリブデンおよびタングステンの少なくとも一方を含む表面層と、前記表面層の下に配置されたアルミニウム層とを少なくとも含む積層体から構成されることを特徴とする薄膜トランジスタとすることもできる。
【0014】
ここで、前記表面層の厚みが75nm以上であってもよい。
【0015】
これにより、製造工程を簡略化することができる。また、ソース電極およびドレイン電極の導電性を向上させることができる。さらに、上部電極にITOを用いる場合でも上部電極とソース電極およびドレイン電極とのコンタクト抵抗を低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、製造工程数を削減し、かつ、ソース電極およびドレイン電極の導電性を向上することが可能な薄膜トランジスタおよびその製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。
【図2】同実施の形態に係る薄膜トランジスタの製造工程を説明するための断面図である。
【図3A】薄膜トランジスタの状態を光学顕微鏡で観察した結果である。
【図3B】薄膜トランジスタの状態を光学顕微鏡で観察した結果である。
【図3C】薄膜トランジスタの状態を光学顕微鏡で観察した結果である。
【図4A】表面層の厚みを変化させたときの表面層表面における反射率の変化のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図4B】表面層の厚みを変化させたときの表面層における吸収率の変化のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図4C】表面層の厚みを変化させたときのアルミニウム層における吸収率の変化のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図5A】表面層の厚みを変化させたときの表面層表面における反射率の変化のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図5B】表面層の厚みを変化させたときの表面層における吸収率の変化のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図5C】表面層の厚みを変化させたときのアルミニウム層における吸収率の変化のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図6】表面層表面で反射されるレーザ、表面層表面で吸収されるレーザ、およびアルミニウム層で吸収されるレーザを示す図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。
【図8】同実施の形態に係る薄膜トランジスタの製造工程を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態における薄膜トランジスタおよびその製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
(第1の実施の形態)
図1は、本実施の形態に係る薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。
【0020】
この薄膜トランジスタは、基板101と、基板101上に形成されたゲート電極103と、ゲート電極103上に形成されたゲート絶縁層104と、ゲート絶縁層104上に形成されたアモルファスシリコン層105と、アモルファスシリコン層105上に形成されたソース電極109およびドレイン電極110とを備える。
【0021】
基板101は例えば石英ガラスから構成され、ゲート電極103は例えば膜厚50nmのモリブデンタングステン(MoW)から構成される。また、ゲート絶縁層104は、例えば膜厚170nmの窒化珪素(SiN)膜から構成される。
【0022】
アモルファスシリコン層105には、ソース電極109およびドレイン電極110をマスクとしたアモルファスシリコン層105へのレーザ照射により微結晶化されたチャネル領域が形成されている。アモルファスシリコン層105は、例えば膜厚200nmの真性アモルファスシリコン層から構成される。
【0023】
ソース電極109およびドレイン電極110は、最表面に配置された高融点金属から構成される表面層としてのモリブデンタングステン層112と、モリブデンタングステン層112の下に配置されたアルミニウム(Al)層111とを少なくとも含む積層体からそれぞれ構成される。モリブデンタングステン層112の膜厚は、チャネル領域形成に際して行われるレーザ照射によりアルミニウム層111の温度が融点に達しない熱容量をモリブデンタングステン層112が持ち、該レーザ照射からアルミニウム層111を保護できるように75nm以上が好ましく、またコスト面からは200nm以下が好ましく、例えば75nmとされる。また、アルミニウム層111の膜厚は、電極としての十分な導電性を確保するために500nm以上が好ましく、例えば500nmとされる。この場合、膜厚は、例えば触針式段差計により測定される。
【0024】
図2は本実施の形態に係る薄膜トランジスタの製造方法を模式的に説明するための断面図である。
【0025】
まず、図2(a)に示されるように、基板101上にスパッタ法により例えば膜厚50nmのモリブデンタングステン層を成膜し、これをフォトマスクにてパターニングしてゲート電極103を形成する。
【0026】
次に、図2(b)に示されるように、ゲート電極103上にPCVD(Plasma Chemical Vapor Deposition)法により例えば膜厚170nmの窒化珪素膜を形成し、ゲート絶縁層104を形成する。
【0027】
次に、図2(c)に示されるように、ゲート絶縁層104上にPCVD法により例えば膜厚200nmの真性アモルファスシリコン層を形成し、これにフォトマスクを用いたドライエッチングを行い、アイランド状のアモルファスシリコン層105を形成する。
【0028】
このとき、図2(b)および図2(c)の工程において、ゲート絶縁層104およびアモルファスシリコン層105はいずれもPCVD法で成膜されるので、マルチチャンバ方式を用いて連続成膜されてもよい。
【0029】
次に、図2(d)に示されるように、アモルファスシリコン層105上にスパッタ法により例えば膜厚500nmのアルミニウム層111を形成した後、アルミニウム層111上にスパッタ法により75nm以上例えば膜厚75nmのモリブデンタングステン層112を形成し、これらをフォトマスクにてパターニングする。これにより、最表面のモリブデンタングステン層112と、モリブデンタングステン層112の下に配置されたアルミニウム層111とを少なくとも含む積層体から構成されるソース電極109およびドレイン電極110がアモルファスシリコン層105上に形成される。このとき、アルミニウム層111およびモリブデンタングステン層112のパターニングにおいてアモルファスシリコン層105表面の一部が除去されてもよい。
【0030】
最後に、図2(e)に示されるように、ソース電極109およびドレイン電極110をマスクとして上方からアモルファスシリコン層105にレーザを照射することにより、アモルファスシリコン層105の一部(アモルファスシリコン層105の表面に露出する部分)を微結晶化させてチャネル領域(図2(e)のA部)を形成する。このとき、レーザには例えば波長532nmの固体レーザが用いられ、単位時間当たりの照射エネルギーは0.26〜0.36J/cm2とされる。
【0031】
次に、本実施の形態に係る薄膜トランジスタの特性の評価結果について述べる。
【0032】
まず、ソース電極109およびドレイン電極110のモリブデンタングステン層112の膜厚と、図2(e)で示した工程で照射されるレーザの照射エネルギーとを変化させて、薄膜トランジスタのアルミニウム層111およびアモルファスシリコン層105に与える影響を調べた結果を表1に示す。表1において、「○」はアルミニウム層111の表面に凸凹形状がほとんど表れていないことを示し、「△」はアルミニウム層111の表面に凸凹形状が多少表れていることを示し、「×」はアルミニウム層111の表面に凸凹形状が明確に表れていることを示している。
【0033】
なお、表1を導出する実験において、モリブデンタングステン層112の膜厚は75nmおよび150nmの2段階に変化させ、レーザの照射パワーは0.22〜0.77J/cm2の間で変化させた。また、レーザの照射パワーの値は、パワーメータにより測定されている。
【0034】
【表1】

【0035】
図3Aは、表1の結果において、モリブデンタングステン層112の膜厚を75nmとし、レーザの照射エネルギーを180Wとしたとき(表1の「×」のとき)に得られた薄膜トランジスタの状態(アルミニウム層111の表面状態)を光学顕微鏡で観察した結果である。同様に、図3Bはモリブデンタングステン層112の膜厚を75nm、レーザの照射エネルギーを123Wとしたとき(表1の「△」のとき)の観察結果であり、図3Cはモリブデンタングステン層112の膜厚を75nm、レーザの照射エネルギーを80Wとしたとき(表1の「○」のとき)の観察結果である。
【0036】
表1から、モリブデンタングステン層112の膜厚が75nmの場合には、レーザの照射エネルギーが0.77〜0.48J/cm2の範囲において、ソース電極109およびドレイン電極110の下層のアルミニウム層111に形状変化つまり凸凹形状が観察されることがわかる。また、モリブデンタングステン層112の膜厚が150nmの場合には、レーザの照射エネルギーが0.77〜0.6J/cm2の範囲において、ソース電極109およびドレイン電極110の下層のアルミニウム層111に形状変化が観察されることがわかる。
【0037】
また、表1から、0.48J/cm2で比較すると特に顕著であるが、全体的に、モリブデンタングステン層112の膜厚が75nmの場合の方が、150nmの場合よりも形状変化が起こり易い傾向があることもわかる。
【0038】
このようなアルミニウム層111の形状変化は、モリブデンタングステン層112に照射されたレーザがモリブデンタングステン層112の温度を上昇させ、間接的にアルミニウム層111の温度を上昇させてアルミニウム層111を溶融したことによるものと考えられる。言い換えると、レーザ照射によりモリブデンタングステン層112に蓄積された熱がアルミニウム層111を溶融したことによるものと考えられる。従って、表1におけるモリブデンタングステン層112の膜厚が75nmの場合および150nmの場合の両方でアルミニウム層111に形状変化がほとんど表れない条件(照射エネルギーが0.36〜0.22J/cm2の条件)がある事実より、モリブデンタングステン層112の膜厚が少なくとも75nmあれば、つまり75nm以上であればモリブデンタングステン層112はレーザの照射によりアルミニウム層111の温度が融点に達しない熱容量を持つと考えられる。アルミニウム層111表面に表れる凸凹形状はトランジスタ特性、例えばオン電流の不安定性の原因となることから、凸凹形状がアルミニウム層111表面に形成されないようにモリブデンタングステン層112の膜厚は75nm以上あることが好ましい。
【0039】
表1から、レーザの照射エネルギーが0.22J/cm2よりも小さい場合には、モリブデンタングステン層112の膜厚にかかわらずレーザ照射によるアモルファスシリコン層105の結晶化が行われないことがわかる。同様に、レーザの照射エネルギーが0.48J/cm2よりも大きい場合には、モリブデンタングステン層112の膜厚にかかわらずレーザ照射によりアモルファスシリコン層105がポリシリコン化されることがわかる。すなわち、レーザの照射エネルギーが0.26〜0.36J/cm2の範囲内で微結晶化が行われることが分かる。
【0040】
ここで、モリブデンタングステン層112が設けられず、ソース電極109およびドレイン電極110がアルミニウム層111のみで構成される場合には、レーザの照射エネルギーにかかわらずアルミニウム層111の形状変化は見られない。これは、アルミニウムの反射率が高いため、レーザがアルミニウム層111の表面で反射されて吸収されないためと推察される。しかしながら、ソース電極109およびドレイン電極110をアルミニウム層111の単層とした場合には、上部配線をITOなどで作成したときに上部配線とのコンタクト性が悪いという問題が発生する。よって、レーザ照射後にさらにモリブデン層などからなるキャップ層を形成する必要があり、逆に工程数が増えてしまう。従って、ソース電極109およびドレイン電極110をITOに対してコンタクト抵抗の低いモリブデンタングステン層112とアルミニウム層111の積層体により構成し、モリブデンタングステン層112の膜厚を75nm以上とすることでアルミニウム層111の形状変化、コンタクト抵抗増加および工程数増加の問題を全て解決することができる。
【0041】
次に、表面層としてのモリブデン層の厚みを変化させたときの表面層表面における反射率の変化のシミュレーション結果を図4Aに示す。また、表面層としてのモリブデン層の厚みを変化させたときの表面層における吸収率の変化のシミュレーション結果を図4Bに示す。さらに、表面層としてのモリブデン層の厚みを変化させたときのモリブデン層下のアルミニウム層111における吸収率の変化のシミュレーション結果を図4Cに示す。なお、図4A〜図4Cは、表面層の屈折率が3.79、消衰係数が3.61であり、かつアルミニウム層111の屈折率が0.867、消衰係数が6.42であるとしたシミュレーションにより導出されたものである。
【0042】
同様に、表面層としてのタングステン層の厚みを変化させたときの表面層表面における反射率の変化のシミュレーション結果を図5Aに示す。また、表面層としてのタングステン層の厚みを変化させたときの表面層における吸収率の変化のシミュレーション結果を図5Bに示す。さらに、表面層としてのタングステン層の厚みを変化させたときのタングステン層下のアルミニウム層111における吸収率の変化のシミュレーション結果を図5Cに示す。なお、図5A〜図5Cは、表面層の屈折率が3.48、消衰係数が2.72であり、かつアルミニウム層111の屈折率が0.867、消衰係数が6.42であるとしたシミュレーションにより導出されたものである。
【0043】
ここで、図6に示されるように、表面層表面における反射率とは入射する波長532nmのレーザのうちの表面層で反射されるレーザ(図6におけるレーザD)の割合を示している。同様に、表面層における吸収率とは入射する波長532nmのレーザのうちの表面層で吸収されるレーザ(図6におけるレーザE)の割合を示している。また同様に、アルミニウム層111における吸収率とは入射する波長532nmのレーザのうちのアルミニウム層111で吸収されるレーザ(図6におけるレーザF)の割合を示している。
【0044】
図4A、図4B、図5Aおよび図5Bより、表面層の膜厚が40nm以上で表面層の反射率および吸収率はほぼ飽和しており、レーザ光の46%程度が表面層に吸収されていることがわかる。一方、図4Cおよび図5Cより、アルミニウム層111の吸収率は、表面層の膜厚が40nm以上の場合には、0.01%以下となっており、ほとんど無視できる程度に小さく、75nm以上の場合にはほぼ飽和していることがわかる。従って、アルミニウム層111へのレーザの入射を抑え、アルミニウム層111に直接入ったレーザによるアルミニウム層111の温度上昇つまり溶融を抑えるという意味では、表面層の膜厚は40nm以上、特に75nm以上であることが好ましい。
【0045】
以上のように本実施の形態の薄膜トランジスタおよびその製造方法によれば、ソース電極109およびドレイン電極110をマスクとしたレーザ照射によりチャネル領域を形成できるので、マスク形成工程を削減して製造工程を簡略化できる。
【0046】
また、本実施の形態の薄膜トランジスタおよびその製造方法によれば、ソース電極109およびドレイン電極110がアルミニウム層111を含むので、ソース電極109およびドレイン電極110の導電性を向上させることができる。このとき、アルミニウム層111をモリブデンタングステン層112よりも厚くすることで、ソース電極109およびドレイン電極110の導電性を大きく向上させることもできる。
【0047】
また、本実施の形態の薄膜トランジスタによれば、アモルファスシリコン層105へのレーザの照射エネルギーが0.26〜0.36J/cm2とされる。従って、アモルファスシリコン層105の一部がレーザ照射によって結晶化されてチャネル領域が形成されるため、移動度の高い薄膜トランジスタを得ることができる。
【0048】
また、本実施の形態の薄膜トランジスタによれば、モリブデンタングステン層112の膜厚は75nm以上とされる。従って、レーザ照射によりアルミニウム層111が受けるダメージを抑制しつつ、アモルファスシリコン層105の一部の結晶化を行うことができる。
【0049】
(第2の実施の形態)
図7は、本実施の形態に係る薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。
【0050】
この薄膜トランジスタは、ソース電極およびドレイン電極とアモルファスシリコン層との間にコンタクト層が設けられ、また基板上に下地膜が設けられるという点で第1の実施の形態の薄膜トランジスタと異なる。
【0051】
この薄膜トランジスタは、基板101と、下地膜102と、ゲート電極103と、ゲート絶縁層104と、ゲート絶縁層104上に形成されたアモルファスシリコン層107と、アモルファスシリコン層107の上に形成されたn+型アモルファスシリコン層108と、n+型アモルファスシリコン層108の上に形成されたソース電極109およびドレイン電極110とを備える。
【0052】
下地膜102は、基板101より上方の層及び電極への汚染を抑えるための絶縁層であり、例えば膜厚148nmの窒化珪素膜から構成される。
【0053】
アモルファスシリコン層107には、ソース電極109およびドレイン電極110をマスクとしたアモルファスシリコン層107へのレーザ照射により微結晶化されたチャネル領域が形成されている。アモルファスシリコン層107は、例えば膜厚200nmの真性アモルファスシリコン層から構成される。
【0054】
+型アモルファスシリコン層108は、アモルファスシリコン層107とソース電極109およびドレイン電極110との間のコンタクト抵抗を低減するためのコンタクト層であり、例えば膜厚25nmの高不純物濃度のn型アモルファスシリコン層から構成される。n+型アモルファスシリコン層108は、ゲート電極103上方で分離されており、ソース電極109とアモルファスシリコン層107との間のソース側部分と、ドレイン電極110とアモルファスシリコン層107との間のドレイン側部分の2つの部分から構成される。
【0055】
図8は本実施の形態に係る薄膜トランジスタの製造方法を模式的に説明するための断面図である。
【0056】
まず、図8(a)に示されるように、基板101上にスパッタ法により例えば膜厚148nmの下地膜102および膜厚50nmのモリブデンタングステン層201を成膜する。
【0057】
次に、図8(b)に示されるように、モリブデンタングステン層201をフォトマスクにてパターニングしてゲート電極103を形成する。
【0058】
次に、図8(c)に示されるように、ゲート電極103上にPCVD法により例えば膜厚170nmの窒化珪素膜を形成し、ゲート絶縁層104を形成する。
【0059】
次に、図8(d)に示されるように、ゲート絶縁層104上にPCVD法により例えば膜厚200nmの真性アモルファスシリコン層202を形成する。
【0060】
このとき、図8(c)および図8(d)の工程において、ゲート絶縁層104および真性アモルファスシリコン層202はいずれもPCVD法で成膜されるので、マルチチャンバ方式を用いて連続成膜されてもよい。
【0061】
次に、図8(e)に示されるように、真性アモルファスシリコン層202にフォトマスクを用いたドライエッチングを行い、アイランド状のアモルファスシリコン層107を形成する。
【0062】
次に、図8(f)に示されるように、アモルファスシリコン層107上にPCVD法により例えば膜厚25nmのn+型アモルファスシリコン層203を形成する。膜厚は25nmとした。その後、n+型アモルファスシリコン層203の上にスパッタ法により例えば膜厚500nmのアルミニウム層204、および例えば膜厚75nmのモリブデンタングステン層205を形成する。
【0063】
次に、図8(g)に示されるように、アルミニウム層204およびモリブデンタングステン層205をフォトマスクにてパターニングしてソース電極109およびドレイン電極110を形成する。続けて、フォトマスクを剥離せずに該フォトマスクを用いてn+型アモルファスシリコン層203をドライエッチングにてパターニングしてn+型アモルファスシリコン層108を形成する。
【0064】
最後に、図8(h)に示されるように、ソース電極109およびドレイン電極110をマスクとして上方からアモルファスシリコン層107にレーザを照射することにより、アモルファスシリコン層107の一部(アモルファスシリコン層107の表面に露出する部分)を微結晶化させてチャネル領域(図8(h)のB部)を形成する。このとき、レーザには例えば波長532nmの固体レーザが用いられ、照射エネルギーは0.26〜0.36J/cm2とされる。
【0065】
以上のように本実施の形態の薄膜トランジスタおよびその製造方法によれば、第1の実施の形態と同様の理由により、マスク形成工程を削減して製造工程を簡略化できる。また、ソース電極109およびドレイン電極110の導電性を向上させることができる。また、移動度の高い薄膜トランジスタを得ることができる。レーザ照射によりアルミニウム層111が受けるダメージを抑制しつつ、アモルファスシリコン層107の一部の結晶化を行うことができる。
【0066】
以上、本発明の薄膜トランジスタおよびその製造方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲内で当業者が思いつく各種変形を施したものも本発明の範囲内に含まれる。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、複数の実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0067】
例えば、上記実施の形態において、ソース電極およびドレイン電極を構成する表面層はモリブデンタングステン層から構成されるとした。しかし、表面層がモリブデンおよびタングステンの少なくとも一方を含む層から構成されればアルミニウム層とITOとのコンタクト抵抗を低減できるため、表面層を構成する層はモリブデンタングステン層に特に限定されず、例えばモリブデン層又はタングステン層であってもよい。
【0068】
また、上記実施の形態において、ソース電極およびドレイン電極は、モリブデンタングステン層とアルミニウム層とを含む積層体からそれぞれ構成されるとした。しかし、ソース電極およびドレイン電極はモリブデンタングステン層およびアルミニウム層に加えてアルミニウム層下方のバリア層が設けられた積層体からそれぞれ構成されてもよい。バリア層はアルミニウム層からアモルファスシリコン層へのアルミニウムの拡散を抑える金属層であり、例えば膜厚が38nmのモリブデンタングステン層から構成される。
【0069】
また、上記実施の形態において、ゲート絶縁層およびアモルファスシリコン層は、PCVD法により形成されるとしたが、他の成膜方法、例えば減圧気相法、スパッタ法および光CVD法等により形成されてもよい。
【0070】
また、上記実施の形態において、ソース電極およびドレイン電極は、アルミニウム層及びモリブデンタングステン層の積層体をパターニングすることにより形成されるとした。しかし、異なるパターンが形成された2つのフォトマスクを用いてアルミニウム層及びモリブデンタングステン層の積層体をアモルファスシリコン層上の異なる部分に別々に形成してもよい。
【0071】
また、上記実施の形態において、表面層の膜厚は75nm以上とされるとしたが、チャネル領域形成に際して行われるレーザ照射によりアルミニウム層の温度が融点に達しない熱容量を表面層が持てばこれに限られない。例えば、表面層に不純物が添加されることにより、表面層にこのような熱容量を持たせた場合には、表面層の膜厚は75nm以上とされなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、薄膜トランジスタおよびその製造方法に有用であり、特に有機ELディスプレイの駆動用素子としての薄膜トランジスタおよびその製造方法などに有用である。
【符号の説明】
【0073】
101 基板
102 下地膜
103 ゲート電極
104 ゲート絶縁層
105、107 アモルファスシリコン層
108、203 n+型アモルファスシリコン層
109 ソース電極
110 ドレイン電極
111、204 アルミニウム層
112、201、205 モリブデンタングステン層
202 真性アモルファスシリコン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極上にゲート絶縁層を形成する工程と、
前記ゲート絶縁層上にアモルファスシリコン層を形成する工程と、
前記アモルファスシリコン層上にアルミニウム層を形成し、前記アルミニウム層上にモリブデンおよびタングステンの少なくとも一方を含む表面層を形成し、前記表面層及び前記アルミニウム層を少なくとも含む積層体から構成されるソース電極およびドレイン電極を形成する工程と、
前記ソース電極およびドレイン電極をマスクとして、前記アモルファスシリコン層にレーザを照射することにより、前記アモルファスシリコン層の一部を微結晶化させてチャネル領域を形成する工程とを含む
薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項2】
前記ソース電極およびドレイン電極を形成する工程において、前記レーザの照射により前記アルミニウム層の温度が融点に達しない熱容量を持つ前記表面層を形成する
請求項1に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項3】
前記ソース電極およびドレイン電極を形成する工程において、75nm以上の厚みの前記表面層を形成する
請求項1又は2に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項4】
前記チャネル領域を形成する工程において、照射エネルギーが0.26〜0.36J/cm2の前記レーザを照射する
請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
基板と、
前記基板上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極上に形成されたゲート絶縁層と、
前記ゲート絶縁層上に形成されたアモルファスシリコン層と、
前記アモルファスシリコン層上に形成されたソース電極およびドレイン電極とを有し、
前記アモルファスシリコン層には、前記ソース電極および前記ドレイン電極をマスクとした該アモルファスシリコン層へのレーザ照射により微結晶化されたチャネル領域が形成されており、
前記ソース電極およびドレイン電極は、最表面に配置されたモリブデンおよびタングステンの少なくとも一方を含む表面層と、前記表面層の下に配置されたアルミニウム層とを少なくとも含む積層体から構成される
薄膜トランジスタ。
【請求項6】
前記表面層の厚みが75nm以上である
請求項5に記載の薄膜トランジスタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図4C】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図5C】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate


【公開番号】特開2011−109019(P2011−109019A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265311(P2009−265311)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(506087819)パナソニック液晶ディスプレイ株式会社 (443)
【Fターム(参考)】