説明

薄膜形成装置

【課題】ステップ搬送の停止期間中に非成膜ゾーンで発生する張力上昇とそれに伴う応力集中を防止できるステッピングロール方式の薄膜形成装置を提供する。
【解決手段】帯状の可撓性基板1に機能性薄膜を積層形成するための薄膜形成装置で、成膜ユニット5,6,7,8を含む成膜ゾーンZ1,Z2と、成膜ゾーンの上流側および下流側に配設された第1および第2搬送制御ロール16,26と、搬送の停止期間中に各成膜ユニットに密閉空間を画成すべく各成膜ユニットに併設された遮蔽手段53,54,63,64,73,74,83,84と、搬送中に基板の張力を制御する第1張力制御手段16,17,18,19と、成膜ゾーンの下流側に隣接した非成膜ゾーンZ3,Z4とを備え、搬送の停止期間中に、遮蔽手段が基板を挟んで閉じた状態で、非成膜ゾーンにおける基板の張力を制御する第2張力制御手段3,4を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺帯状の可撓性基板上に薄膜太陽電池などの機能性薄膜を形成するための薄膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アモルファスシリコンを主材料とした半導体層(光電変換層)と、その表面側および裏面側に積層された電極層とを含む薄膜太陽電池が公知である。このような薄膜太陽電池の製造方式としては、軽量で取り扱いが容易なプラスチックフィルムなどの長尺帯状の可撓性基板を用いたロールツーロール方式が生産性の点で有利である。
【0003】
ロールツーロール方式の薄膜形成装置としては、基板を所定速度で連続的に搬送しながら成膜する連続成膜方式と、基板をステップ搬送しその停止期間中に成膜を行うステップ成膜方式(ステッピングロール方式)がある。連続成膜方式では膜質の異なる複数の層を同時に形成することはできないが、ステップ成膜方式では、特許文献1に示されるように、各成膜室を開閉式とするとすることで、膜質の異なる複数の層を順次積層形成可能であるという利点がある。
【0004】
また、何れの方式においても、帯状の可撓性基板を、横姿勢で搬送しつつ成膜を行なうタイプと、縦姿勢で横方向に搬送して成膜を行なうタイプがある。後者は、前者に比べて設置面積が小さく、基板表面が汚染されにくい等の利点がある。しかし、成膜室の数が多くなり搬送スパンが長くなると、自重による垂れ下がりや張力皺が発生する問題がある。これらの問題は、プラスチックフィルム基板が各成膜室で加熱されることで顕著になる。そこで、特許文献1では、可撓性基板の自重支持や冷却を目的として、成膜室と成膜室の間に成膜を行わない非成膜ゾーンを設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−188232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の薄膜形成装置では、成膜室群の搬送方向上流側および下流側に張力検出ローラと駆動ローラが配置され、可撓性基板の走行時には、各側の張力値を一定に保つように各駆動ローラが制御される。しかし、成膜時には、停止中の可撓性基板が成膜ユニットの可動枠で挟持されるので、成膜室間の張力は各張力検出ローラで検出できず、制御不能な状態となる。
【0007】
さらに、プラズマCVDなどの化学蒸着を行う各成膜室では、可撓性基板はヒータによる加熱とプラズマ等の熱で100〜400℃に加熱されており、熱膨張した状態で成膜される。そして、成膜完了後に成膜室が開放され、可撓性基板が熱膨張した状態で張力検出されつつ次の停止位置まで搬送され、成膜ゾーンでは再加熱される。しかし、成膜ゾーンの下流側や、成膜室間の非成膜ゾーンでは、可撓性基板が放射冷却により収縮し、その結果、張力が上昇することになる。図4は、成膜室の中間に設定された非成膜ゾーンにおける可撓性基板の温度降下と張力上昇を示している。
【0008】
薄膜太陽電池を形成する可撓性基板には、図5に示されるように、直列接続のための接続孔97や集電孔96が多数穿設され、かつ、光電変換層94および透明電極層95の成膜以前に、下電極層93をセル(9a)毎に分割する一次パターニングライン(98)がレーザースクライブされている。そのため、前記のような張力上昇による応力が、これらの部分(96,97,98)に集中すると、最悪の場合、薄膜に亀裂が生じたり、透明電極層95と下電極層93の短絡を生じたりする虞がある。
【0009】
本発明は、従来技術の上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、帯状の可撓性基板をステップ搬送しその停止期間中に成膜を行うステッピングロール方式の薄膜形成装置において、停止期間中に非成膜ゾーンで発生する張力上昇とそれに伴う応力集中を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、
帯状の可撓性基板(1)に機能性薄膜を積層形成するための薄膜形成装置であって、
所定間隔で配列された複数の成膜ユニット(5,6,7,8)を含み、成膜時に前記基板に熱が加えられる成膜ゾーン(Z1,Z2)と、
前記成膜ゾーンを通して前記基板をステップ搬送すべく前記成膜ゾーンの搬送方向上流側および下流側に配設された第1および第2搬送制御ロール(16,26)と、
前記ステップ搬送の停止期間中に前記各成膜ユニットに密閉空間を画成すべく前記各成膜ユニットに併設されるかまたは前記各成膜ユニットの間に配設された遮蔽手段(53,54,63,64,73,74,83,84)と、
前記基板のステップ搬送中に前記基板の張力を制御する第1張力制御手段(16,17,18,19)と、
前記成膜ゾーンの搬送方向下流側に隣接した非成膜ゾーン(Z3,Z4)と、
前記ステップ搬送の停止期間中に、前記遮蔽手段が前記基板を挟んで閉じた状態で、前記非成膜ゾーンにおける前記基板の張力を制御する第2張力制御手段(3,4)と、を備えた、薄膜形成装置にある。
【0011】
上記構成により、成膜ゾーンで加熱された基板が、搬送方向下流側の非成膜ゾーンで停止中に放射冷却により収縮しても、第2張力制御手段の張力制御により、張力上昇とそれに伴う応力集中が防止され、機能性薄膜への悪影響を防ぐことができる。また、第2張力制御手段は、基板のステップ搬送中に張力制御を行う第1張力制御手段とは独立して設けられているので、基板のステップ搬送中に不作用とすれば、第1張力制御手段による搬送張力の制御との干渉も起こらず、搬送張力が不安定になることもない。
【0012】
本発明において、前記成膜ゾーンは、非成膜ゾーン(Z4)を介して複数の成膜ゾーン(Z1,Z2)に区分されており、前記第2張力制御手段は、前記各成膜ゾーンの搬送方向下流側に隣接した前記各非成膜ゾーン(Z3,Z4)に配設されていることが好適である。
【0013】
形成すべき薄膜の種類にもよるが、通常、機能性薄膜は多くの層を含み、それに応じて成膜ユニットも多数並設される。多数の成膜ユニットが配列された成膜ゾーンが、非成膜ゾーンを介して複数に区分されることで、各成膜ゾーン間の非成膜ゾーンにガイドロールなどの支持体を設置でき、基板の搬送を安定化させることができるとともに、各非成膜ゾーンに配設された第2張力制御手段により、ステップ搬送の停止期間中における基板の張力上昇とそれに伴う応力集中を防止できる。
【0014】
本発明において、前記第2張力制御手段は、積極的駆動または消極的付勢により変位可能な張力制御ロール(31,41)を含み、前記基板のステップ搬送中は、前記張力制御ロールの変位が基準位置に固定されるように構成されていることがさらに好適である。
【0015】
張力制御を行う場合、張力検出センサとアクチュエータを用い、フィードバック制御により、張力制御ロールを積極的に変位させる形態と、バネ等の付勢手段により基板の張力変動に応じて張力制御ロールが消極的に変位する形態があるが、いずれの形態においても、基板のステップ搬送中に張力制御ロールの変位が基準位置に固定されることで、第1張力制御手段による搬送張力への影響を防止できる。後者の消極的付勢による張力付与の形態では、張力制御ロールの変位のロック手段もしくはストッパー手段が必要であるが、張力検出センサやコントローラは省略できる。いずれの場合も、張力制御ロールが基準位置を越えて変位することはない。
【0016】
本発明の好適な態様では、前記第2搬送制御ロール(26)によって、前記基板のステップ搬送時における搬送量が制御され、前記第1張力制御手段は、前記基板のステップ搬送中における張力制御ロールとして機能する前記第1搬送制御ロール(16)を含む。
【0017】
本発明のさらに好適な態様では、前記基板を縦姿勢で横方向にステップ搬送しその停止期間中に成膜を行えるように、前記各成膜ユニット、前記第1および第2搬送制御ロール、前記張力制御ロールが縦方向に配向されており、前記張力制御ロールによって前記基板の自重が支持されるように構成されている。
【0018】
基板を縦姿勢で横方向に搬送する装置構成により、設置面積が小さく、基板表面が汚染されにくい利点があるうえ、非成膜ゾーンに設置された張力制御ロールによって、停止期間中における張力制御と、停止期間およびステップ搬送時における基板の自重支持が可能となり、別途自重支持のためのロール等を設置する必要がない。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように、本発明によれば、帯状の可撓性基板をステップ搬送しその停止期間中に成膜を行うステッピングロール方式の薄膜形成装置において、ステップ搬送の停止期間中に非成膜ゾーンで発生する張力上昇とそれに伴う応力集中を防止でき、ステップ搬送中の搬送張力への影響もないので、長尺帯状の可撓性基板上に薄膜太陽電池などの機能性薄膜を安定した品質で形成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明実施形態の薄膜形成装置のステップ搬送時の動作を示す概略的な平断面図である。
【図2】本発明実施形態の薄膜形成装置のステップ搬送の停止期間における成膜時の動作を示す概略的な平断面図である。
【図3】1つの成膜ユニットの開放状態(a)および閉鎖状態(b)を示す平断面図である。
【図4】薄膜形成装置の非成膜ゾーンにおける基板温度と張力の関係を示すグラフである。
【図5】薄膜太陽電池の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、本発明を、薄膜太陽電池を構成する薄膜の形成装置として実施する場合を例にとり、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
図1および図2において、本発明の実施形態の薄膜形成装置は、帯状の可撓性基板1を縦姿勢すなわち基板1の幅方向を鉛直方向に一致させた姿勢で水平方向にステップ搬送しその停止期間中に、薄膜太陽電池(薄膜光電変換素子)の各層を基板1上に積層形成するステッピングロール方式の薄膜形成装置として構成されており、以下に述べる搬送や張力制御に関わる全てのロール、および、成膜ユニットは縦方向に配向されている。
【0023】
薄膜形成装置は、コア11に巻かれた基板1aを巻出して供給する第1搬送室10と、成膜済みの基板1bをコア21に巻き取る第2搬送室20との間に、第1成膜室50、第2成膜室60、第3成膜室70、第4成膜室80からなる4つの成膜室を備え、さらに、第2成膜室60と第3成膜室70の間に中間室40を備えている。
【0024】
上記各室10〜80は、それぞれがステンレス製の真空容器で構成され、相互に気密に連結されかつ連通されて全体が1つの包括真空室を構成している。また、各室10〜80は、それぞれが図示しない扉を備え、該各扉を開放することにより、基板1の導入やメンテナンス作業を行うことができる。
【0025】
可撓性基板1としては、厚さ数十μm、幅数十ないしは百数十cmのプラスチックフィルムが用いられ、第1搬送室10には、長さ数千mの基板1がコア11に巻かれた巻出しロール1aとしてセットされる。可撓性基板1に用いるプラスチックフィルムとしては、高耐熱性のポリイミドフィルムが好適であるが、他のプラスチックフィルムを用いることもできる。
【0026】
第1搬送室10には、コア11を駆動回転するモータ12、コア11(巻出しロール1a)から巻出される基板1の張力を検出する張力検出ロール13および張力検出センサ14、ニップロール15を備えた第1搬送制御ロール16、第1搬送制御ロール16を駆動回転するモータ17、第1搬送制御ロール16から送出される基板1のライン張力を検出するライン張力検出ロール18およびライン張力検出センサ19が配設されている。
【0027】
ライン張力検出ロール18は、第1成膜室50および第2成膜室60からなる第1成膜ゾーンZ1の搬送方向上流側における基板1のガイドロールを兼ねており、第1成膜ゾーンZ1の搬送方向下流側のガイドロール45は、非成膜ゾーンZ4を構成する中間室40に配設されている。
【0028】
中間室40には、ガイドロール45の他に、第2張力制御手段4を構成する張力制御ロール41および張力検出ロール42が配設され、張力検出ロール42には、張力検出センサ44が接続されている。張力制御ロール41は、搬送ライン上に配置されたガイドロール45と張力検出ロール42の中間においてアクチュエータ43に連結され、搬送ラインと交差する方向に変位可能に設けられ、張力検出センサ44の検出値に基づいてアクチュエータ43で張力制御ロール41の変位を制御することにより、基板1の張力を制御可能である。
【0029】
なお、後述するように、基板1のステップ搬送中は、張力制御ロール41の変位が基準位置に固定されており、その基準位置にある張力制御ロール41によって、基板1がガイドロール45と張力検出ロール42の間で屈曲されることで、基板1の自重に対する支持が可能となる。また、基準位置にある張力制御ロール41による基板1の屈曲分だけ、中間室40の長さは、基板1が直線的に搬送される他の第1〜第4成膜室50〜80の長さより短く設定されている。
【0030】
張力検出ロール42は、第3成膜室70および第4成膜室80からなる第2成膜ゾーンZ2の搬送方向上流側における基板1のガイドロールを兼ねており、第2成膜ゾーンZ2の搬送方向下流側のガイドロール35は、非成膜ゾーンZ3を含む第2搬送室20に配設されている。
【0031】
第2搬送室20には、ガイドロール35の他に、もう1つの第2張力制御手段3を構成する張力制御ロール31および張力検出ロール32が配設され、張力検出ロール32には、張力検出センサ34が接続されている。張力制御ロール31は、搬送ライン上に配置されたガイドロール35と張力検出ロール32の中間において、基板1を屈曲させて案内すべく、搬送ラインとずれた位置でアクチュエータ33に連結され、該アクチュエータ33により、搬送ラインと交差する方向に変位可能である。
【0032】
さらに、張力検出ロール32の搬送方向下流側には、ニップロール25を備えた第2搬送制御ロール26、第2搬送制御ロール26を駆動回転するモータ27、コア21に巻き取られる基板1の張力を検出する張力検出ロール23および張力検出センサ24、コア21を駆動回転するモータ22が配設されている。成膜ユニット5〜8の設置間隔に対応した基板1のステップ搬送時における搬送速度および搬送量は、第2搬送制御ロール26を駆動回転するモータ27の回転速度および回転量によって制御される。
【0033】
各第2張力制御手段3,4の張力制御ロール31,41の支持形態としては、リニアガイドなどで直線的に摺動可能に支持されても良いし、揺動アームを介して曲線的に揺動可能に支持されても良い。また、アクチュエータ33,43としては、真空室内にも設置可能なソレノイドアクチュエータが好適であるが、真空室の外部に設置したエアシリンダなどの流体圧アクチュエータを用いることもできる。
【0034】
4つの成膜室50、60,70,80内には、それぞれ、成膜ユニット5、6,7,8が配設されている。図1および図2(さらにそれらの要部拡大図である図3)に示された各成膜ユニット5、6,7,8は、容量結合型(平行平板型)プラズマCVD装置を構成するものであり、それぞれがカソード(高周波電極)51,61,71,81とアノード(接地電極)52,62,72,82を備えている。カソード51,61,71,81は、前面が開口された半箱状の固定枠53,63,73,83の内部に配設され、アノード52,62,72,82は、前記固定枠と対をなす半箱状の可動枠54,64,74,84の内部に配設されている。
【0035】
可動枠54,64,74,84は、それぞれ、流体圧シリンダ等のアクチュエータを含む開閉機構56,66,76,86によって、固定枠53,63,73,83に対して進退し、接離可能に構成されている。すなわち、図1および図3(a)に示す後退位置では、可動枠54,64,74,84が固定枠53,63,73,83から離反して反応室(53−54,63−64,73−74,83−84)が開かれ、各成膜ユニット5,6,7,8を通って基板1を搬送可能である。一方、図2および図3(b)に示す前進位置では、可動枠54,64,74,84が停止中の基板1を挟んで固定枠53,63,73,83に接合され、密閉された反応室(53−54,63−64,73−74,83−84)を形成可能である。
【0036】
図3は、成膜ユニット5の開放状態(a)および閉鎖状態(b)を示している。図3において、カソード51は、表面に多数のガス噴出孔を有するシャワー電極構造をなしており、ガス導入配管57を通じて外部のガス供給源に接続され、流量制御された成膜ガスを成膜空間55に導入可能であるとともに、固定枠53に接続された真空ポンプ58によりガスを排気可能である。カソード51は、成膜室50の外部に配置された高周波電源59に接続されており、アノード52との間に高周波電圧を印加することで、成膜ガス分子を励起して成膜空間55にプラズマを発生可能である。アノード52にはヒータ52aが内蔵されており、アノード52の表面上の基板1および成膜空間55を加熱可能である。
【0037】
プラズマ化学蒸着を行う成膜ユニット5〜8は、好適には、図5に示す薄膜太陽電池9の光電変換層94を形成する工程で用いられる。薄膜太陽電池として一般的なpin接合構造のアモルファスシリコン半導体膜からなる光電変換層94は、n型半導体層、i型半導体層、p型半導体層の積層構造を基本とし、さらにこれらの層間にn/i界面層やp/i界面層が形成される。このようなpin接合構造を1組含むシングルセルの光電変換層94の場合、薄膜形成装置の4つの成膜ユニット5〜8を、pin接合構造の3層と何れかの界面層に割り当てても良いし、他に比べて膜厚の大きいi型半導体層を2つの成膜ユニットに割り当てることもできる。
【0038】
また、光電変換層94が、pin接合構造を2組含むタンデムセルや3組含むトリプルセルとして構成される場合は、ガス種を適宜変更して複数次の成膜行程を実施しても良いし、さらに多くの成膜ユニットを備えることもできる。その場合、中間室40(非成膜ゾーンZ4)によって区分される各成膜ゾーンZ1,Z2,・・・の成膜ユニット数が同数であることが好ましいが、異なっていても良い。成膜ユニットは、容量結合型プラズマCVDに限定されるものではなく、表面波プラズマCVD(SWP−CVD)、触媒CVD(Cat−CVD)、あるいは、電子サイクロトロン共鳴プラズマCVD(ECR−CVD)を利用したもの等であっても良い。また、成膜ユニットは、化学蒸着装置の他に、スパッタなどの物理蒸着装置として構成されても良く、さらに、成膜方式の異なる成膜ユニットが同一の成膜ライン上に設置されても良い。
【0039】
次に、上記実施形態に基づく作用を薄膜形成プロセスに従って説明する。
【0040】
図5に示す薄膜太陽電池9の光電変換層94を形成する場合、事前に接続孔97や集電孔96が穿設されかつ下電極層93および接続電極層92が形成された基板1を巻出しロール1aとして第1搬送室10に搬入し、そこから巻出した基板1の先端を、第1および第2成膜室50,60、中間室40、第3および第4成膜室70,80に挿通させてから第2搬送室20のコア21に巻き掛け、装置によるステップ搬送を実施可能な状態に準備する。その後、これらの包括真空室は図示しない真空ポンプで1×10−2Pa以下に真空排気される。また、各成膜ユニット5〜8のヒータ52aに通電され、形成すべき膜質に応じて100〜400℃の成膜温度に加熱される。
【0041】
基板1の搬送時には、図1に示されるように、各成膜ユニット5〜8の可動枠54〜84は開放されている。また、それぞれの非成膜ゾーンZ3,Z4に設置された第2張力制御手段3,4は不作用状態にあり、各張力制御ロール31,41は基準位置に固定されている。この状態で、コア11のモータ12、第1搬送制御ロール16のモータ17、第2搬送制御ロール26のモータ27、および、コア21のモータ22が、一斉に駆動回転され、モータ27をマスターとして回転速度および回転量の制御を行い、他のモータ17,12,22をスレーブとしてトルク制御を行うことで、ライン張力および巻出し/巻取り張力を設定値に維持しながら、所定長のステップ搬送を実施可能である。
【0042】
すなわち、第2搬送制御ロール26のモータ27が、所定の回転速度で、成膜ユニット5〜8の設置間隔に対応した1ステップに相当する所定の回転量の駆動回転を行うことによって、基板1は次位置までステップ搬送される。この時、ライン張力検出センサ19に検出される張力値に基づいて、第1搬送制御ロール16のモータ17のトルクがフィードバック制御されることにより、第1搬送制御ロール16から第2搬送制御ロール26に至る搬送区間における基板1のライン張力は設定値に維持される。
【0043】
また、コア11から第1搬送制御ロール16に至る巻出し区間における基板1の巻出し張力は、張力検出センサ14の検出値に基づいて、モータ12のトルクがフィードバック制御されることにより、巻出しロール1aの巻径によらず設定値に維持される。同様に、第2搬送制御ロール26からコア21に至る巻取り区間における基板1の巻取り張力は、張力検出センサ24の検出値に基づいて、モータ22のトルクがフィードバック制御されることにより、巻取りロール1bの巻径によらず設定値に維持される。
【0044】
1ステップの搬送が終了し、基板1が次の成膜位置に停止されると、成膜ゾーンZ1,Z2では、図2に示されるように、各成膜ユニット5〜8の可動枠54〜84が前進し、基板1を挟んだ状態で固定枠53〜83に押し当てられ、反応室(53−54〜83−84)が形成される。この状態において、図示しない圧力制御バルブにより各電極(51−52〜81−82)間の成膜空間の圧力を数十〜数百Paに制御した状態で、各成膜ユニット5〜8の成膜空間に、SiH、H、Ar等の成膜ガスが導入され、カソード51〜81に高周波電圧が印加されることで、成膜ガス分子が励起されてプラズマが発生し、基板1上に薄膜が形成される。
【0045】
各成膜ユニット5〜8における成膜が完了すると、真空ポンプにより反応室(53−54〜83−84)内のガスが排気され、包括真空容器内の圧力と同等の圧力となった後、開閉機構56〜86によって各可動枠54〜84が後退し、反応室(53−54〜83−84)が開放され、次のステップ搬送が実施される。このようなステップ搬送/成膜工程が反復されることで、基板1上の成膜領域は順次下流側の成膜室に搬送され、光電変換層94を構成する各層が積層形成される。
【0046】
一方、1ステップの搬送が終了した時、前の成膜工程で第2成膜室60に位置していた基板1上の成膜領域は非成膜ゾーンZ4(中間室40)に移動し、第4成膜室80に位置していた成膜領域は非成膜ゾーンZ3に移動しており、これらの成膜領域では、成膜は実施されない。そのため、基板1上の他の領域で成膜が行われている間に、非成膜ゾーンZ3,Z4では、前の成膜工程で加熱された基板1が放射により自然冷却され、収縮を生じる。しかし、本発明に係る薄膜形成装置では、1ステップの搬送終了後に各非成膜ゾーンZ3,Z4の第2張力制御手段3,4が作動状態となり、以下に述べる張力制御が実施されることで、これらの非成膜ゾーンZ3,Z4における張力上昇を防止できる。
【0047】
すなわち、第2張力制御手段3,4が作動状態となると、各非成膜ゾーンZ3,Z4において、各張力検出ロール32,42に接続された張力検出センサ34,44が作動状態となり、停止中の基板1の張力の検出を開始するとともに、アクチュエータ33,43が作動状態となり、基板1の搬送中に基準位置に保持されていた張力制御ロール31,41が変位可能となる。張力検出センサ34,44に基板1の張力上昇が検出されると、アクチュエータ33,43が作動し、張力制御ロール31,41が変位することによって基板1の緊張が緩和され、張力上昇が防止される。
【0048】
基板1上の他の領域における成膜工程が終了後、次のステップ搬送が開始されると同時またはそれ以前に、第2張力制御手段3,4は不作用状態に戻り、張力制御ロール31,41は基準位置に固定される。したがって、ステップ搬送時におけるライン張力の制御との干渉も起こらず、制御が不安定になることもない。
【0049】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は上記に限定されるものではなく、上記以外にも本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能である。
【0050】
例えば、上記実施形態では、張力検出センサ34,44とアクチュエータ33,43を用い、フィードバック制御により、張力制御ロール31,41を積極的に変位させる場合について述べたが、張力制御ロール31,41を揺動可能または摺動可能に支持する支持部材にバネなどの弾性力による付勢手段、または、錘などの重力による付勢手段を設け、張力制御ロール31,41が、基板の張力上昇に応じて消極的に変位する形態とすることもできる。
【0051】
これらの場合、ステップ搬送時に、張力制御ロール31,41を基準位置に固定するクランプなどのロック手段、もしくはストッパーを設けることが好ましい。後者の場合、付勢手段の付勢力を搬送張力と同等またはそれ以上に設定しておくことで、ステップ搬送時には付勢手段の付勢力によって基準位置のストッパーに押し当てられ不作用となり、ステップ搬送の停止期間中に搬送張力より大きい張力上昇が生じた場合に、張力制御ロール31,41が変位し、基板1の張力上昇を抑制することができる。
【0052】
また、上記実施形態では、アノード52〜82を収容した可動枠54〜84が、カソード51〜61を収容した固定枠53〜83に対して、開閉機構56〜86により進退可能に設けられる場合を示したが、可動枠や固定枠の代わりに、基板1を挟んで各成膜室50〜80を遮蔽するための開閉可能なシャッタを設けることで、成膜ユニットを構成するカソード51〜61を固定的に配置することもできる。
【0053】
さらに、上記実施形態では、第1搬送室10のコア11から可撓性基板1を巻出し、第2搬送室20のコア21に成膜済みの基板1を巻き取る場合について述べたが、そのような正方向の成膜プロセスの後で、必要に応じて各成膜室50〜80のガス種や成膜条件を変更してから、逆方向の成膜プロセスを実施することもできる。その場合、第1搬送室10を第2搬送室20と同様の構成とし、搬送方向上流側となる搬送室(20)内の張力検出ロール(32)および張力検出センサ(34)を、ライン張力検出ロール(18)およびライン張力検出センサ(19)として使用するようにしても良い。
【0054】
また、上記実施形態では、帯状の可撓性基板1を縦姿勢で水平方向にステップ搬送する薄膜形成装置について述べたが、可撓性基板1の搬送姿勢や搬送方向はこれに限定されるものではない。例えば、平姿勢で横方向や上下方向にステップ搬送しその停止期間中に成膜工程を実施する薄膜形成装置として実施することもでき、その場合、搬送や張力制御に関わる全てのロールは横方向に配向され、成膜ユニットは搬送方向に沿って配設されることになる。
【0055】
本発明に係る薄膜形成装置は、薄膜太陽電池(薄膜光電変換素子)の形成装置に限定されるものではなく、有機EL等の半導体薄膜など、膜厚の異なる複数の層を含む他の機能性薄膜の形成装置として実施することもできる。
【符号の説明】
【0056】
1 可撓性基板
3 第1張力制御手段
4 第2張力制御手段
5,6,7,8 成膜ユニット
10 第1搬送室
11,21 コア
12,22 張力制御モータ
13,23 張力検出ロール
14,24 張力検出センサ
15,25 ニップロール
16,26 搬送制御ロール
17 ライン張力制御モータ
18 ライン張力検出ロール
19 ライン張力検出センサ
20 第2搬送室
27 速度・搬送制御モータ
31,41 張力制御ロール
32,42 張力検出ロール
33,43 アクチュエータ
34,44 張力検出センサ
35,45 ガイドロール
40 中間室
50 第1成膜室
51,61,71,81 カソード(高周波電極)
52,62,72,82 アノード(接地電極)
52a ヒータ
53,63,73,83 可動枠
54,64,74,84 固定枠
55 成膜空間
56,66,76,86 開閉機構
57 ガス導入配管
58 真空ポンプ
59 高周波電源
60 第2成膜室
70 第3成膜室
80 第4成膜室
Z1 第1成膜ゾーン
Z2 第2成膜ゾーン
Z3,Z4 非成膜ゾーン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の可撓性基板に機能性薄膜を積層形成するための薄膜形成装置であって、
所定間隔で配列された複数の成膜ユニットを含み、成膜時に前記基板に熱が加えられる成膜ゾーンと、
前記成膜ゾーンを通して前記基板をステップ搬送すべく前記成膜ゾーンの搬送方向上流側および下流側に配設された第1および第2搬送制御ロールと、
前記ステップ搬送の停止期間中に前記各成膜ユニットに密閉空間を画成すべく前記各成膜ユニットに併設されるかまたは前記各成膜ユニットの間に配設された遮蔽手段と、
前記基板のステップ搬送中に前記基板の張力を制御する第1張力制御手段と、
前記成膜ゾーンの搬送方向下流側に隣接した非成膜ゾーンと、
前記ステップ搬送の停止期間中に、前記遮蔽手段が前記基板を挟んで閉じた状態で、前記非成膜ゾーンにおける前記基板の張力を制御する第2張力制御手段と、
を備えた、薄膜形成装置。
【請求項2】
前記成膜ゾーンは、非成膜ゾーンを介して複数の成膜ゾーンに区分されており、前記第2張力制御手段は、前記各成膜ゾーンの搬送方向下流側に隣接した前記各非成膜ゾーンに配設されている、請求項1記載の薄膜形成装置。
【請求項3】
前記第2張力制御手段は、積極的駆動または消極的付勢により変位可能な張力制御ロールを含み、前記基板のステップ搬送中は、前記張力制御ロールの変位が基準位置に固定されるように構成されている、請求項2記載の薄膜形成装置。
【請求項4】
前記第2搬送制御ロールによって、前記基板のステップ搬送時における搬送量が制御され、前記第1張力制御手段は、前記基板のステップ搬送中における張力制御ロールとして機能する前記第1搬送制御ロールを含む、請求項3記載の薄膜形成装置。
【請求項5】
前記基板を縦姿勢で横方向にステップ搬送しその停止期間中に成膜を行えるように、前記各成膜ユニット、前記第1および第2搬送制御ロール、前記張力制御ロールが縦方向に配向されており、前記張力制御ロールによって前記基板の自重が支持されるように構成されている、請求項4記載の薄膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−1743(P2012−1743A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134881(P2010−134881)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】