説明

複合半導体装置

【課題】HEMTとダイオードとから成る複合半導体装置の小型化が要求されている。
【解決手段】本発明に従うHEMTとダイオードとから成る複合半導体装置は、電子走行層3と電子供給層4とを含む半導体領域5と、この一方の主面上に形成されたソース電極7及びドレイン電極8とゲート電極12とを有し、更に、半導体領域5の一方の主面上におけるゲート電極12とドレイン電極8との間にショットキー電極60を有する。ショットキー電極60は導体60aによってソース電極7に接続されている。ショットキー電極60と半導体領域5とで形成されたショットキーダイオードは、帰還又は回生又は保護ダイオードとして機能する。このショットキーダイオードの電流はゲート電極12に基づく空乏層に妨害されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばMESFET、HEMT等の電界効果半導体素子とショットキーダイオードとの複合半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
3−5族化合物半導体の1種である窒化物半導体を用いたメタル・セミコンダクタ電界効果トランジスタ即ちMESFET(Metal Semiconductor Filed Effect Transistor)や高電子移動度トランジスタ即ちHEMT( High Electron Mobility Transistor)等の半導体デバイスは例えば特開2005−158889号公報(特許文献1)等で公知である。
【0003】
上記特許文献1に開示されているHEMTは、例えば、シリコン基板の上にバッファ層を介して形成されたアンドープGaNから成る電子走行層と、n型AlGaNから成る電子供給層と、電子供給層の上に形成されたソース電極とドレイン電極とゲート電極とを有している。電子走行層と電子供給層とはバンドギャプの異なる異種材料から成り、ヘテロ接合されている。従って、ヘテロ接合面のピエゾ分極と自発分極とに基づいて周知の2次元電子ガス層即ち2DEG層が生じる。2DEG層は周知のようにドレイン電極とソース電極との間の電流通路(チャネル)として利用され、この電流通路を流れる電流はゲート電極に印加されるバイアス電圧で制御される。
【0004】
ところで、HEMT又はMESFET等の電界効果半導体素子に誘導性負荷又は容量性負荷が接続されている時にドレイン電極の電位がソース電極の電位よりも低くなり、電界効果半導体素子に逆方向電圧が印加されることがある。これに対応するために電界効果半導体素子に対して並列に帰還用又は回生用又は保護用ダイオード(以下、付加ダイオードと言う。)が接続される。この付加ダイオードのカソード電極はドレイン電極に接続され、アノード電極はソース電極に接続される。典型的な絶縁ゲート型(MOS型)電界効果トランジスタは上記付加ダイオードを内蔵している。即ち、典型的な絶縁ゲート型電界効果トランジスタでは、ソース電極をソース領域に接続すると共にソース領域を囲むボデイ領域にも接続し、ボデイ領域とドレイン領域との間のpn接合(寄生ダイオード)を付加ダイオードとして使用している。
【0005】
しかし、典型的な絶縁ゲート型電界効果トランジスタの寄生ダイオードの技術を、2次元電子ガス層即ち2DEG層を電流通路として使用するHEMT又はMESFET等の電界効果半導体素子に対してそのまま転用することができない。即ち、ソース電極を基準にしてゲート電極と反対側に付加ダイオード(例えばショットキーダイオード)を配置し、且つこの付加ダイオードの電極をソース電極に接続しても、電界効果半導体素子のオフ期間に2DEG層がゲート電極からの空乏層の広がりによって遮断状態になり、付加ダイオードとドレイン電極との間に電流を流すことができない。従って、HEMT又はMESFET等の電界効果半導体素子に対して付加ダイオードとして個別ダイオードを接続することが必要になる。しかし、個別ダイオードを追加すると電界効果半導体素子を含む回路のサイズが大きくなり且つコストが必然的に高くなる。
【0006】
HEMT又はMESFET等の電界効果半導体素子は、上記の問題の他にノーマリオフ特性を得ることが困難であるという問題も有する。例えば、一般的な構成のHEMTは、ノーマリオン特性を有する。ノーマリオン特性のHEMTをオフ状態にするためにはゲート電極を負電位にするための負電源が必要になり、電気回路が必然的に高価になる。従って、ノーマリオフ特性のHEMTが要求されている。
【0007】
HEMT又はMESFET等の電界効果半導体素子の問題は、2DEG層の代わりに2次元ホールガス層を使用して電流通路を構成する場合にも同様にある。
【特許文献1】特開2005−158889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、HEMT又はMESFET等の電界効果半導体素子と、帰還用ダイオード又は回生ダイオード又は保護ダイオードとして機能する付加ダイオードとの複合半導体装置の小型化又は低コスト化が要求されていることである。また、本発明の別な課題は、ノーマリオフが可能な電界効果半導体素子と、帰還用ダイオード又は回生ダイオード又は保護ダイオードとして機能する付加ダイオードとの複合半導体装置の小型化又は低コスト化が要求されていることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、
互いに対向する一方及び他方の主面を有する半導体領域と、
前記半導体領域の前記一方の主面上に形成されたソース電極及びドレイン電極と、
前記半導体領域の前記一方の主面上に形成され且つ前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に配置されたゲート電極と、
前記半導体領域の一方の主面の上において前記ゲート電極を基準にして前記ソース電極と反対側に配置され且つ前記半導体領域の一方の主面にショットキー接触しているショットキー電極と、
前記ショットキー電極と前記ソース電極との間を接続している接続導体と
を備えていることを特徴とする複合半導体装置に係わるものである。
【0010】
なお、請求項2に示すように、前記ショットキー電極は前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間、又は前記ドレイン電極を基準にして前記ゲート電極と反対側、又は前記ドレイン電極を囲むように設けられていることが望ましい。
また、請求項3に示すように、前記半導体領域は、第1の半導体層と、2次元キャリアガス層を生成するために前記第1の半導体層と異なるバンドギャップを有する半導体材料から成り且つ前記第1の半導体層に隣接配置されている第2の半導体層とを備えていることが望ましい。
また、請求項4に示すように、前記半導体領域は電流通路となることができるように半導体基板上に形成された半導体層から成り、前記ソース電極及びドレイン電極は前記半導体層の上に形成されていることが望ましい。
また、請求項5に示すように、前記ゲート電極は、前記半導体領域の一方の主面にショットキー接触しているショットキー電極であることが望ましい。
また、請求項6に示すように、更に、前記ゲート電極と前記半導体領域との間にゲート絶縁膜を配置することができる。
また、請求項7に示すように、更に、前記半導体領域の前記一方の主面における前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に配置された第1の絶縁膜と、前記第1の絶縁膜の上に配置され且つ前記ソース電極と前記ドレイン電極との間をノーマリオフにするためのキャリアを有しているキャリア蓄積層と、前記キャリア蓄積層の上に配置された第2の絶縁膜とを設け、前記ゲート電極を前記第2の絶縁膜の上に配置することができる。
【発明の効果】
【0011】
本願の各請求項の発明に従う複合半導体装置は、半導体領域の一方の主面の上においてゲート電極を基準にしてソース電極と反対側に配置され且つ半導体領域の一方の主面にショットキー接触しているショットキー電極を有する。このショットキー電極は導体によってソース電極に接続されている。従って、このショットキー電極と半導体領域とで形成されたショットキーダイオードは、帰還用ダイオード又は回生ダイオード又は保護ダイオードとして機能する。従って、HEMT又はMESFET等の電界効果半導体素子と、帰還用ダイオード又は回生ダイオード又は保護ダイオードとして機能する付加ダイオードとの複合半導体装置の小型化又は低コスト化が達成される。
また、請求項7の発明に従う複合半導体装置における、キャリア蓄積層は、電界効果作用によって半導体領域の電流通路(例えば、HEMT型の電界効果半導体素子の2DEG層又は2次元ホールガス層、又はMESFET型の電界効果半導体装置の電流通路)を遮断するように機能する。即ち、キャリア蓄積層は、ゲート電極に所定のバイアス電圧を印加した時と同様に機能し、電流通路を遮断する。この結果、ゲート電極にバイアス電圧を印加しない状態でドレイン電極とソース電極との間をオフ状態にすること、即ちノーマリオフが可能になる。ノーマリオフ特性を有する電界効果半導体装置は、電気回路において使い勝手が良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態を図1〜図10を参照して説明する。
【実施例1】
【0013】
図1に示す実施例1に従う横方向の電流通路を有するHEMTと付加ダイオードとの複合半導体装置は、単結晶シリコン半導体から成る支持基板1と、この支持基板1の一方の主面1aの上にバッファ領域2を介して配置された第1の半導体層としての電子走行層3及び第2の半導体層としての電子供給層4とから成る半導体領域5と、半導体領域5の一方の主面6上に形成されたソース電極7及びドレイン電極8と、半導体領域5の一方の主面6上におけるソース電極7とドレイン電極8との間に形成されたゲート電極12と、支持基板1の他方の主面1bに形成された背面電極13と、本発明に従う付加ダイオードを構成するためのショットキー電極60とを備えている。本発明に従うショットキー電極60は半導体領域5の一方の主面6上に形成され、且つゲート電極12とドレイン電極8との間に配置され、且つ接続導体60aによってソース電極7に接続されている。本発明に従うショットキー電極60に基づく付加ダイオードは、帰還用ダイオード又は回生ダイオード又は保護ダイオードとして機能する。次に、複合半導体装置の各部を詳しく説明する。
【0014】
支持基板1は、半導体領域5をエピタキシャル成長させるための基板としての機能と、半導体領域5を機械的に支持する機能を有する。本実施例では、コストの低減のために支持基板1がシリコンで形成されている。
【0015】
支持基板1の一方の主面1a上のバッファ領域2は、周知のMOCVD法等の気相成長法で形成されている。図1では、図示を簡略化するためにバッファ領域2が1つの層で示されているが、実際には複数の層で形成されている。即ち、このバッファ領域2は、AlN(窒化アルミニウム)から成る第1のサブレイヤ−とGaN(窒化ガリウム)から成る第2のサブレイヤーとが交互に積層された多層構造バッファである。このバッファ領域2はHEMTの動作に直接に関係していないので、これを省くこともできる。また、バッファ領域2の半導体材料をAlN、GaN以外の3−5族化合物半導体に置き換えること、又は単層構造のバッファ層にすることもできる。
【0016】
バッファ領域2の上に形成された電子走行層(第1の半導体層)3は、半導体領域5の一方の主面6に対して平行に延びる電流通路としての2DEG層14(破線で示す)を得るためのものであって、不純物が添加されていないアンドープGaN(窒化ガリウム)から成り、1〜3μmの厚さを有する。なお、この電子走行層3をGaN以外の化合物半導体で形成することもできる。
【0017】
電子走行層3の上に形成された電子供給層(第2の半導体層)4は、好ましくは次式で示される窒化物半導体で形成される。
AlxGa1-XN,
ここで、xは0<x<1を満足する数値であり、好ましくは0.2〜0.4であり、より好ましくは0.3である。
この実施例1の電子供給層4はアンドープのAlGaNから成るが、nライク特性即ちn型半導体特性を示す。このアンドープのAlGaNから成る電子供給層4の代わりにn型(第1導電型)の不純物を添加したAlGaNから成る電子供給層を設けることもできる。
電子供給層4は、電子走行層3よりも薄い20nm程度の厚みに形成されているので、半導体領域5の一方の主面6に対して垂直方向の抵抗は無視できる程小さく、一方の主面6に平行な方向(横方向)の抵抗は垂直方向(縦方向)よりも大きい。また、この実施例では、電子供給層4の表面即ち半導体領域5の一方の主面6は特別な加工が施されていない平坦面である。なお、電子供給層4をAlGaN以外の化合物半導体で形成することもできる。また、電子供給層4の厚みを例えば5〜50nmの範囲で変更することができる。
【0018】
電子供給層4は、この下の電子走行層3よりも大きいバンドギャプを有し且つ異なる格子定数を有する窒化物半導体から成る。従って、電子供給層4と電子走行層3とのヘテロ接合面におけるピエゾ分極に基づいて、図1で点線で示す周知の2DEG層14が電子走行層3内に形成される。なお、図1には、ドレイン電極8とソース電極3との間がオン状態の時の2DEG層14が示されている。
【0019】
ソース電極7及びドレイン電極8は、半導体領域5の一方の主面6上に所定間隔を有して配置され、電子供給層4に低抵抗性接触している。このソース電極7及びドレイン電極4は、例えばチタン(Ti)とアルミニウム(Al)との積層体で形成することができる。
【0020】
ゲート電極12は、電子供給層4にショットキー接触しているショットキー電極から成り、例えばNi(ニッケル)層とAu(金)層との金属積層体、又はロジウム(Rh)層で形成される。この実施例1に従うHEMTはノーマリオン型であるので、ソース電極7よりも低い電位をゲート電極12に与えることによってゲート電極12と半導体領域5との間のショットキー接合が逆方向バイアス状態となり、ゲート電極12から2DEG層14まで延びる空乏層によって2DEG層14の一部が遮断され、ソース電極7とドレイン電極8との間の電流通路がオフ状態になる。また、ゲート電極12に印加する逆方向バイアス電圧を低減するか、又は零にすると、空乏層が狭くなるか、又は消滅し、ソース電極7とドレイン電極8との間の電流通路がオン状態になる。
【0021】
本発明に従う付加ダイオードを構成するためのショットキー電極60は、ゲート電極12と同様に例えばNi(ニッケル)層とAu(金)層との金属積層体、又はロジウム(Rh)層で形成され、半導体領域5の一方の主面6即ちnライクの電子供給層4にショットキー接触している。このショットキー電極60は半導体領域5の一方の主面6において、ゲート電極12を基準にしてソース電極7と反対側に配置されている。更に詳細には、このショットキー電極60はゲート電極12とドレイン電極8との間に配置されている。従って、HEMTのオフ時にゲート電極12の下に形成され空乏層に妨害されずにショットキー電極60とドレイン電極8との間の電流通路が形成される。ショットキー電極60とソース電極7とを接続している接続導体60aは、図1では図示を簡略化するために絶縁膜9から離れて示されているが、絶縁膜9の上に設けることが望ましい。勿論、接続導体60aを絶縁膜9から離れた金属線等の導電部材とすることもできる。ショットキー電極60とドレイン電極8との間の電流は、ソース電極7の電位がドレイン電極8よりも高い時に流れる。
【0022】
半導体領域5の一方の主面6上に保護のための絶縁膜9が形成されている。従って、ソース電極7、ドレイン電極8、ゲート電極12、及びショットキー電極60は絶縁膜9の開口の中に形成されている。また、例えば図2に示すように半導体領域5の一方の主面6上にソース電極7、ゲート電極12、ショットキー電極60、及びドレイン電極8は互いに平行に配置されている。
【0023】
図3は、図1に示すHEMTと付加ダイオードとの複合半導体装置の等価回路を示す。図3の等価回路におけるHEMT61は図1のショットキー電極60を除いた部分に対応し、ショットキーダイオード62はショットキー電極60に対応し、ドレイン端子63はドレイン電極8に対応し、ソース端子64はソース電極7に対応し、ゲート端子65はゲート電極12に対応している。ショットキーダイオード62のアノードはソース端子64に接続され、カソードはドレイン端子63に接続されている。従って、ショットキーダイオード62はHEMT61に対して並列に接続され、帰還用ダイオード又は回生ダイオード又は保護ダイオードとして機能する。
例えば、HEMT61に誘導性負荷又は容量性負荷が接続されている時にドレイン端子63の電位がソース端子64の電位よりも低くなり、HEMT61に逆方向の過電圧が印加されることがある。この時、ショットキーダイオード62は順方向バイアスされ、導通状態になり、HEMT61を逆方向の過電圧から保護すること、又は回生電流即ち帰還電流を流すことが可能になる。
【0024】
図1の実施例1は次の利点を有する。
(1)帰還用ダイオード又は回生ダイオード又は保護ダイオードとして機能するショットキーダイオード62をHEMT61と一体的に構成でき、複合半導体装置の小型化又は低コスト化が達成される。
(2)ドレイン電極8とゲート電極12との間の耐圧を確保するために、ドレイン電極8とゲート電極12との間隔は比較的広く設定されている。本発明に従うショットキー電極60は比較的広いドレイン電極8とゲート電極12との間に配置されているので、ショットキー電極60のために半導体領域5の一方の主面6の寸法を特別に増大させることが不要である。従って、ショットキー電極60を設けたにも拘らず、複合半導体装置が大型にならない。
(3)HEMT61に逆方向の過電圧が印加された時にショットキー電極60からドレイン電極8に向って流れる電流は、ゲート電極12の下の空乏層に妨害されずに低抵抗且つ電子移動度の高い2DEG層14を通って良好に流れるので、帰還用ダイオード又は回生ダイオード又は保護ダイオードとして機能する特性の良いショットキーダイオード62を備えた複合半導体装置を提供することができる。
なお、本実施例では、電子供給層4の表面即ち半導体領域5の一方の主面6は特別な加工が施されていない平坦面とし、ノーマリオン特性のHEMT61を含む複合半導体装置としたが、この代りに、電子供給層4の表面即ち半導体領域5の一方の主面6にリセス(窪み)を設け、このリセスにゲート電極12を配置してノーマリオフ特性のHEMTを構成し、このノーマリオフ特性のHEMTに本発明に従うショットキー電極60を設けることもできる。即ち、本発明をノーマリオン特性のHEMTとノーマリオフ特性のHEMTとのいずれにも適用できる。
【実施例2】
【0025】
HEMT又はMESFET等の電界効果半導体素子は、ノーマリオフ特性を得ることが困難であるという問題も有する。例えば、一般的な構成のHEMTは、ノーマリオン特性を有する。ノーマリオン特性のHEMTをオフ状態にするためにはゲート電極を負電位にするための負電源が必要になり、電気回路が必然的に高価になる。従って、ノーマリオン特性のHEMTは使い勝手がよくない。このため、ノーマリオフ特性のHEMTが要求されている。図4は、この要求に応えたノーマリオフ特性のHEMTを備えた複合半導体装置を示す。図4に示す本発明の実施例2に従う複合半導体装置の大部分は図1と実質的に同一に構成されている。また、後述する更に別の実施例を示す図7〜図8、図10の大部分も図1又は図4と実質的に同一に構成されている。従って、図4及び後述する図7〜図8、図10において図1と実質的に同一の部分、又は図4及び図7〜図8、図10において相互に共通する部分には同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0026】
図4の複合半導体装置は、図1の複合半導体装置の絶縁膜9とゲート電極12の代りに第1及び第2の絶縁膜9´、11と、キャリア蓄積層10と、変形されたゲート電極12´とを設け、更にキャリア蓄積層10に対するキャリアの蓄積を制御する手段を設けた他は、図1の複合半導体装置と同一に構成されている。
【0027】
第1の絶縁膜9´は、半導体領域5の一方の主面6を覆うように形成され、ゲート電極12´に高い電圧を印加した時に、2DEG層14から飛び出した電子(ホットエレクトロン)を周知のトンネル効果によって通過させることが可能な厚みT1(好ましくは1nm〜100nm、より好ましくは8nm〜100nm)を有する。この第1の絶縁膜9´は、例えばポリシリコンを酸化したシリコン酸化物から成り、例えば周知のCVD法によって形成される。なお、第1の絶縁膜9´はキャリア蓄積層10と半導体領域5とを電気的に分離するためのものであるので、図4に示す半導体領域5の一方の主面6の露出部分の全体に形成する代わりに、キャリア蓄積層10と半導体領域5との間に限定的に形成することもできる。
【0028】
キャリア蓄積層10は、半導体領域5の一方の主面6上のソース電極7とドレイン電極8との間において第1の絶縁膜9´の上に配置されている。このキャリア蓄積層10は、HEMTのノーマリオフ状態を得るためのキャリア(電子)を蓄積することができる導体から成り、好ましく導電性を有するポリシリコンで形成される。このキャリア蓄積層10は外部回路、ソース電極7、ドレイン電極8及びゲート電極12´に対して接触していないので、浮遊ゲート電極即ちフローティングゲート電極と呼ぶこともできる。キャリア蓄積層10に対するキャリアの蓄積動作即ち初期化動作後においては、ソース電極7とドレイン電極8との間をノーマリオフにすることができる量のキャリア(電子)がキャリア蓄積層10に蓄積されている。なお、キャリア蓄積層10を金属又は結晶性半導体又は有機半導体等で形成することもできる。
【0029】
第2の絶縁膜11は例えば周知のCVD法で形成されたシリコン酸化物から成り、キャリア蓄積層10を覆うように形成されている。従って、キャリア蓄積層10は第1及び第2の絶縁膜9´,11の中に埋設されている。第2の絶縁膜11の厚みT2は、第1の絶縁膜9´の厚みT1よりも厚いことが望ましく、例えば8nm〜200nmに設定される。勿論、第1及び第2の絶縁膜9´、11の厚みは、ゲート電極12´によって半導体領域5を制御することが可能な範囲に設定される。なお、図1で第2の絶縁膜11が第1の絶縁膜9´の全部をキャリア蓄積層10を介して覆うように形成されているが、この代わりにキャリア蓄積層10のみを覆うように限定的に設けることもできる。
【0030】
ゲート電極12´は、キャリア蓄積層10の上に第2の絶縁膜11を介して形成された例えばAlから成る金属層から成る。図1では、キャリア蓄積層10とゲート電極12´とが同一の寸法に形成され、完全に対向しているが、この代わりに両者を異なるサイズに形成すること、及び互いに対向する部分と対向しない部分とを有するように形成することもできる。ゲート電極12´には外部回路が接続されるので、これをコントロールゲート電極と呼ぶこともできる。本発明の実施例2に従う図4のHEMTのゲート電極12´は、特許文献1に開示されているような典型的な従来のHEMTのショットキー接触するゲート電極と異なる。しかし、図4の複合半導体装置、及び後述する図7の複合半導体装置におけるショットキー電極60を除いた部分は、従来の典型的なHEMTと同様に2DEG層14を使用した電界効果半導体素子であるので、本願ではこれ等をHEMT又はHEMT型の電界効果半導体素子と呼ぶことにする。
図9は図4の複合半導体装置、及び後述する図7、図8、図10の複合半導体装置の等価回路を示す。図9の等価回路におけるHEMT61´は図4、図7、図8、図10のショットキー電極60又は60aを除いた部分に対応し、ショットキーダイオード62はショットキー電極60又は60aに対応し、ドレイン端子63はドレイン電極8に対応し、ソース端子64はソース電極7に対応し、ゲート端子65´はゲート電極12´に対応している。ショットキーダイオード62のアノードはソース端子64に接続され、カソードはドレイン端子63に接続されている。従って、ショットキーダイオード62はHEMT61に対して並列に接続され、帰還用ダイオード又は回生ダイオード又は保護ダイオードとして機能する。
【0031】
図4には、本実施例のHEMTの動作の理解を助けるために、HEMTの電源回路、及び初期化回路の一例が示されている。即ち、ソース電極7とドレイン電極8との間には、負荷15とドレイン電源スイッチ16とを介して直流電源17が接続されている。また、ゲート電極12´とソース電極7との間にゲート制御スイッチ18を介してゲート駆動電源19が接続されている。また、ゲート電極12´とソース電極7との間に初期化回路20が接続されている。初期化回路20は、キャリア蓄積層10に対するキャリア(電子)の蓄積を制御するための信号をゲート電極12に与えるものである。この初期化回路20の詳細は追って説明する。初期化回路20の動作を助けるために電流検出器21が設けられ、この出力ライン21aが初期化回路20に接続されている。電流検出器21はソース電極7に接続されたライン22に電磁結合され、ソース電流の流れ始め即ちHEMTのオン開始を初期化回路20に知らせる。また、初期化回路20は、ゲート制御スイッチ18をオン・オフ制御するためのライン23とドレイン電源スイッチ16をオン・オフ制御するライン24とを有する。また、初期化の動作及びHEMTの主動作を安定化させるためにソース電極7がライン25によって背面電極13に接続され且つ接地されている。
【0032】
初期化回路20は、キャリア蓄積制御回路と呼ぶこともできるものであって、キャリア蓄積層10にキャリア(電子)を蓄積するための電圧をゲート電極12´とソース電極7との間に供給する機能と、HEMTのしきい値電圧Vthを測定する機能と、測定されたしきい値電圧が基準値か否かを判定する機能と、しきい値電圧Vthを基準値に調整する機能とを有する。これ等の機能を得るために初期化回路20は、図5に示すように、制御回路30と、パルス発生器31と、第1及び第2のしきい値電圧発生回路32、33と、オン検出用比較器34と、基準電圧源35と、第1及び第2のサンプルホールド回路36、37とを有している。
【0033】
パルス発生器31は、制御回路30に基づく制御に従ってHEMTの初期化動作時に、HEMTの初期化動作後の通常のオン動作時のゲート・ソース間電圧Vnの最大振幅値よりも十分に高い電圧振幅値を有するパルス電圧を発生する。また、このパルス発生器31は、図6の第1及び第2のパルス電圧Vp1、Vp2のように第1の極性(正極性)を有するパルス電圧を発生する機能の他に、第3のパルス電圧Vp3のように第1の極性(正極性)と逆の第2の極性(負極性)を有するパルス電圧を発生する機能を有し、更に、パルス電圧の電圧振幅値を変える機能を有する。図6のt1〜t18期間は初期化動作期間を示し、t19時点よりも後はノーマリオフのHEMTの初期化動作後の通常動作を示す。図6の例では、図6のt1〜t2、t7〜t8、t13〜t14期間にパルス発生器31から第1のパルス電圧Vp1、第2のパルス電圧Vp2、第3のパルス電圧Vp3が発生している。ドレイン電極8とソース電極7との間に電源17から所定の振幅値を有する電圧Vdを負荷15を介して印加すると同時に、図6のt1〜t2、t7〜t8期間に示すように、ゲート電極12´とソース電極7との間にHEMTの初期化動作後の通常のオン動作時のゲート制御信号Vnの振幅値よりも高い第1及び第2の振幅値を有する第1及び第2のパルス電圧Vp1、Vp2を印加すると、ソース電極7からドレイン電極8に向って2DEG層14を流れる電子に対して第1及び第2のパルス電圧Vp1、Vp2によって運動エネルギーが与えられ、電子が加速される。この電子の加速はゲート電極12´のソース電極7側の端からドレイン電極8側の端に向って増大する。加速された電子が半導体領域5の中の原子と衝突すると、電子と正孔が発生する。これにより発生した高エネルギーの電子即ちホットエレクトロンは、2DEG層14から飛び出し、その一部が電子供給層4と第1の絶縁層9´とをトンネル効果によって通過し、キャリア蓄積層10に至り、ここに蓄積される。観点を変え、このキャリア蓄積層10に対する電子の蓄積は、2DEG層14の電子がゲート電極12の高い電位によってキャリア蓄積層10の方向に引っ張られ、トンネル効果によって第1の絶縁膜9´を通り抜けてキャリア蓄積層10に至ることによって生じると考えることもできる。
なお、図6の第2のパルス電圧Vp2は第1のパルス電圧Vp1よりも高い振幅を有するが、第2のパルス電圧Vp2の振幅を第1のパルス電圧Vp1の振幅と同一にすることもできる。
【0034】
ゲート電極12´とソース電極7との間に通常のオン動作のための比較的低い電圧振幅を有するゲート制御信号Vnが印加されている時には、キャリア蓄積層10に蓄積された電子(キャリア)がほとんど放出されず、長時間保持される。従って、電子が蓄積されたキャリア蓄積層10は、ゲート電極12´に負のバイアス電圧を印加した時と同様な機能を有し、電子走行層3に空乏層を形成する。即ち、ゲート電極12´にバイアス電圧を印加しないノーマル状態において電子走行層3に空乏層が形成され、ソース電極7とドレイン電極8との間の電子の流れが遮断され、ノーマリオフ動作が得られる。
【0035】
もし、図6のt1〜t2の第1のパルス電圧Vp1の印加で目標とする電子をキャリア蓄積層10に蓄積することができれば、これによって初期化動作を終了させることができる。しかし、1回又は所定複数回のパルス電圧の印加で目標とする量の電子(キャリア)がキャリア蓄積層10に蓄積されない場合もある。このため、本実施例では、キャリア蓄積層10に対する電子の蓄積量をHEMTのしきい値電圧Vthによって判断している。第1のしきい値電圧発生回路32は、制御回路30からの指令に従って図6のt3〜t4、t9〜t10、t15〜t16において第1及び第2のパルス電圧Vp1、Vp2よりも十分に低い振幅を有する第1のしきい値電圧Vth1を発生し、これをゲート電極12´に供給する。第2のしきい値電圧発生回路33は、制御回路30の指令に従って図6のt5〜t6、t11〜t12、t17〜t18において第1及び第2のパルス電圧Vp1、Vp2よりも十分に低く且つ第1のしきい値電圧Vth1よりも高い振幅を有する第2のしきい値電圧Vth2を発生し、これをゲート電極12に供給する。第1のしきい値電圧Vth1は目標しきい値電圧の下限を示し、第2のしきい値電圧Vth2は目標しきい値電圧の上限を示している。本実施例では、複数のHEMTにおけるしきい値電圧のバラツキを抑えるために、完成したHEMTのしきい値電圧が第1及び第2のしきい値電圧Vth1、Vth2の間になるようにキャリア蓄積層10のキャリア(電子)の蓄積量が調整される。従って、本実施例のHEMTの初期化動作後の通常のオン動作時のしきい値電圧の基準値(目標値)は第1及び第2のしきい値電圧Vth1、Vth2の間の値である。
【0036】
図5のオン検出用比較器34の一方の入力端子は図4の電流検出器21の出力ライン21aに接続され、他方の入力端子は基準電圧源35に接続されている。基準電圧源35の基準電圧Vrは、HEMTのオン開始時点のソース電流(又はドレイン電流)に対応する値を有する。従って、HEMTのオン期間には、ライン21aの電圧で示される電流検出信号Viが基準電圧Vrよりも高くなり、オン検出用比較器34の出力が高レベル(第1の電圧レベル)になる。逆に、HEMTのオフ期間には、ライン21aの電圧で示される電流検出信号Viが基準電圧Vrよりも低くなり、オン検出用比較器34の出力が低レベル(第2の電圧レベル)になる。
【0037】
第1のサンプルホールド回路36は、制御回路30の指令に従って図3のt3〜t4、t9〜t10、t15〜t16期間中の好ましくは後半においてオン検出用比較器34の出力をサンプリング(抽出)し、このサンプリング時のオン検出用比較器34の出力をホールド(保持)して制御回路30に送る。第2のサンプルホールド回路37は、制御回路30の指令に従って図3のt5〜t6、t11〜t12、t17〜t18期間中の好ましくは後半においてオン検出用比較器34の出力をサンプリングし、このサンプリング時のオン検出用比較器34の出力をホールド(保持)して制御回路30に送る。なお、第1及び第2のサンプルホールド回路36,37にホールドされたデータは、次のサンプリング時点又はホールド時点までに消去される。
【0038】
制御回路30は、初期化回路20の中のパルス発生器31と第1及び第2のしきい値電圧発生回路32、33と第1及び第2のサンプルホールド回路36、37とに接続され、且つ図4のスイッチ16,18、電流検出器21、及びゲート電極12´に接続されており、キャリア蓄積層10にキャリア(電子)を蓄積するための電圧をゲート電極12´とソース電極7との間に供給するための機能と、HEMTのしきい値電圧Vthを測定するための機能と、測定されたしきい値電圧が基準値か否かを判定する機能と、しきい値電圧Vthを基準値に調整する機能とを有する。
この制御回路30は、まず、図示が省略さている初期化指令手段からライン38に与えられた初期化指令に従って図6(A)に示す電圧Vdを負荷15を介してドレイン電極8とソース電極7との間に印加するように図4のドレイン電源スイッチ16をオン制御し、且つ図6(B)のt1〜t2期間に第1のパルス電圧Vp1を発生するようにパルス発生器31を制御する。これによりパルス発生器31から発生した第1のパルス電圧Vp1がゲート電極12´とソース電極7との間に印加され、前述したキャリア蓄積層10に対するキャリア(電子)の蓄積が生じる。
【0039】
次に、制御回路30は、しきい値電圧測定のために図6のt1〜t4時点で第1のしきい値電圧発生回路32から第1のしきい値電圧Vth1を発生させる。図6の例では、t1〜t2の第1のパルス電圧Vp1の印加で所望量のキャリア(電子)をキャリア蓄積層10に蓄積できないと仮定している。このため、t3〜t4で第1のしきい値電圧Vth1をゲート電極12´に印加した時にHEMTがオンになる。この結果、オン検出用比較器34からHEMTがオンであることを示す出力が得られる。制御回路30は、t3〜t4期間(好ましくはt3〜t4期間の後半又はt4時点)でオン検出用比較器34の出力をサンプリングし且つホールドするように第1のサンプルホールド回路36を制御し、且つ第1のサンプルホールド回路36の出力(HEMTのオンを示すデータ)を受け取る。
【0040】
次に、制御回路30は、図6のt5〜t6期間に第2のしきい値電圧発生回路33から第2のしきい値電圧Vth2を発生させる。これにより、ゲート電極12´に第2のしきい値電圧Vth2が印加される。図6の例では、t5〜t6期間の第2のしきい値電圧Vth2の印加時においてもt3〜t4の第1のしきい値電圧Vth1の印加時と同様にHEMTはオン状態に保たれる。従って、t5〜t6期間にはオン検出用比較器34からHEMTがオンであること示す出力が得られる。制御回路30は、t5〜t6期間(好ましくはt5〜t6期間の後半又はt6時点)でオン検出用比較器34の出力をサンプリングし且つホールドするように第2のサンプルホールド回路37を制御し、且つ第2のサンプルホールド回路37の出力(HEMTのオンを示すデータ)を受け取る。なお、第2のしきい値電圧Vth2を第1のしきい値電圧Vth1よりも先に発生させることもできる。
【0041】
制御回路30は、t3〜t4期間の第1のサンプルホールド回路36の出力とt5〜t6期間の第2のサンプルホールド回路37の出力とに基づいてHEMTのしきい値電圧が基準値か否かを判定する。図6のt3〜t4期間、t5〜t6期間に対応する第1及び第2のサンプルホールド回路36,37の出力は共にHEMTがオンであることを示しているので、制御回路30はHEMTのしきい値電圧が基準値よりも低く且つキャリア蓄積層10のキャリア(電子)の蓄積量が不足していると判定し、t7〜t8期間に第1のパルス電圧Vp1と同一又はこれよりも振幅値の高い第2のパルス電圧Vp2を発生させ、且つt9〜t10期間、t11〜t12期間にt3〜t4期間、t5〜t6期間と同様なしきい値電圧測定動作を繰返して生じさせる。もし、t9〜t10期間で第1のしきい値電圧Vth1をゲート電極12´に印加した時にHEMTがオフであることを示すデータが第1のサンプルホールド回路36から制御回路30に送られ、且つt11〜t12期間で第2のしきい値電圧Vth2をゲート電極12´に印加した時にHEMTがオンであることを示すデータが第2のサンプルホールド回路37から制御回路30に送られれば、制御回路30はHEMTのしきい値電圧が基準値であり且つキャリア蓄積層10に所望量のキャリア(電子)が蓄積されたと判定し、キャリア蓄積層10に対するキャリア(電子)の蓄積動作即ち初期化動作を終了させる。また、t9〜t10期間で第1のしきい値電圧Vth1をゲート電極12´に印加した時にHEMTがオンであることを示すデータが第1のサンプルホールド回路36から制御回路30に送られ、且つt11〜t12期間で第2のしきい値電圧Vth2をゲート電極12´に印加した時にHEMTがオンであることを示すデータが第2のサンプルホールド回路37から制御回路30に送られれば、制御回路30はHEMTのしきい値電圧が基準値よりも低いと判定し、第2のパルス電圧Vp2と同一又はこれよりも高い振幅値を有する図示されていないパルス電圧をゲート電極12´に印加するようにパルス発生器31を制御し、キャリア蓄積層10にキャリア(電子)を蓄積させ、t9〜t10期間、t11〜t12期間と同様なしきい値電圧測定動作を繰返して生じさせる。
【0042】
図6のt9〜t10、t11〜t12の期間に第1及び第2のサンプルホールド回路36、37の両方の出力がHEMTのオフを示している時には、キャリア蓄積層10にキャリア(電子)が過剰に蓄積され、目標とするしきい値電圧でHEMTをオンにすることができない。そこで、キャリア蓄積層10の過剰にキャリア(電子)を放出するためにゲート電極12´とソース電極7との間に図6(B)のt13〜t14に示す負極性の第3のパルス電圧Vp3を印加する。第3のパルス電圧Vp3の振幅の絶対値は、第1及び第2のパルス電圧Vp1、Vp2と同様に初期化動作終了後の通常のオン時のゲート制御信号Vnの振幅値よりも高い。図6では第3のパルス電圧Vp3を印加するt13〜t14において、ドレイン電極8とソース電極7との間に電圧Vdが負荷15を介して印加されている。しかし、この代わりにドレイン電極8の電位をソース電極7の電位と同一にすることもできる。ゲート電極12´に第3のパルス電圧Vp3を印加すると、キャリア蓄積層10に蓄積されたキャリア(電子)の一部がトンネル効果によって第1の絶縁膜9´を通って半導体領域5に放出され、キャリア蓄積層10のキャリア(電子)の量が低減する。次に、t15〜t16、t17〜t18においてt3〜t4、t5〜t6と同一の動作を繰返し、目標しきい値電圧が得られたか否かを判定する。もし、t15〜t16でHEMTがオフであることを示す出力が第1のサンプルホールド回路36から得られ、t13〜t18でHEMTがオンであることを示す出力が第2のサンプルホールド回路37から得られた時には、目標しきい値電圧が得られたと判断し、制御回路30によるしきい値電圧の調整が終了する。また、目標しきい値電圧が得られないと時には、t13〜t18又はt1〜t18期間と同様なしきい値電圧の調整を実行する。
【0043】
もし、図6のt18時点で目標しきい値電圧が得られたと仮定すれば、初期化動作が終了し、目標とするノーマリオフのHEMTが得られる。ノーマリオフのHEMTを使用する時には、例えば図6のt18時点以降でゲート電源スイッチ18をオンにする。また、このノーマリオフのHEMTをオン動作させる時には、例えば図6のt19以後に示すゲート制御信号Vnをゲート電極12に供給する。ゲート制御信号Vnの最大電圧振幅値は、初期化動作終了後のHEMTのしきい値電圧以上であり且つ第1及び第2のパルス電圧Vp1,Vp2よりも十分に低い値に設定される。初期化動作終了後のHEMTのしきい値電圧は、既に説明したように第1のしきい値電圧Vth1と第2のしきい値電圧Vth2との間の値を有する。初期化動作終了後のHEMTのゲート電極12´にこれをオンにするためのゲート制御信号Vnを印加すると、キャリア蓄積層10に蓄積された電子に基づく電界が打ち消され、キャリア蓄積層10の電子に基づいて遮断状態(非導通状態)にされていた2DEG層14が非遮断状態(導通状態)に転換し、ソース電極7、電子供給層4、2DEG層14、電子供給層4、及びドレイン電極8の経路で電子が流れる。
また、初期化動作終了後のHEMTをオフ状態にする時には、ゲート電極12´の電圧を図3のt18〜t19に示すように初期化動作終了後のHEMTのしきい値電圧よりも低い値又は零にする。
なお、HEMTをスイッチング素子として使用する時には、例えばゲート電源スイッチ18を半導体スイッチで構成し、これをオン・オフ制御することによってHEMTもオン・オフさせる。
また、HEMTのドレイン電流のレベルを変える時にはゲート電源19の電圧の振幅を変える。
【0044】
キャリア蓄積層10に蓄積されたキャリア(電子)は長時間保持されるので、初期化動作終了後に初期化回路20をHEMTから取り除くことができる。また、再度の初期化が必要な時には、初期化回路20をHEMTと一体的に形成することもできる。
【0045】
本実施例2の複合半導体装置は実施例1の複合半導体装置と同一の効果の他に次の効果も有する。
(1) 電子供給層4を比較的厚く保ち且つ電子供給層4を構成するAlGaNのAlの割合を比較的大きく保ってノーマリオフ特性を得ることができる。従って、ノーマリオフ特性を有しているにも拘わらず電子走行層3に形成される2DEG層14の電子濃度を高く保つことができ、オン抵抗の小さいノーマリオフ型HEMTを提供することができる。
(2) ゲート電極12´に高い電圧を印加することによってキャリア蓄積層10にキャリア(電子)を蓄積することができるので、キャリアの蓄積を容易に達成することができる。
(3) 第1のパルス電圧Vp1を供給した後にしきい値電圧を測定し、必要に応じて第2のパルス電圧Vp2及び第3のパルス電圧Vp3のいずれか一方又は両方を供給するので、所望のしきい値電圧を有するHEMTを容易に形成することができる。従って、同一半導体基板に複数の複合半導体装置を形成する場合、又は複数の個別の複合半導体装置を形成する場合、又は1枚の半導体ウエハに複数の複合半導体装置を形成し、その後に分離する場合における複数のHEMTのしきい値電圧のバラツキを小さくすることができ、HEMTを含む複合半導体装置の製造上の歩留りを改善することができる。
(4)絶縁ゲート型のHEMTであるので、ショットキーゲート型のHEMTよりもゲート・ドレイン間の耐圧が高い。
【実施例3】
【0046】
図7の本発明の実施例3に従う複合半導体装置は、変形された半導体領域5aを設けた他は図4と同一に形成したものである。変形された半導体領域5aは、図4と同一の電子走行層3と、追加されたアンドープAlGaNから成るスペーサー層51と、n型不純物が添加された電子供給層4´とから成る。
【0047】
図7のスペーサー51は電子走行層3と電子供給層4´との間に配置され、例えば2〜5nmの厚さを有し、電子供給層4´の不純物が電子走行層3に拡散することを防ぐ効果を有する。なお、スペーサー層51をAlGaN以外のAlN等の別の3−5族化合物半導体で形成することもできる。
【0048】
この図7の複合半導体装置によっても図4の複合半導体装置と同様な効果を得ることができる。
なお、図7の電子供給層4´及びスペーサー層51を図1の実施例1の複合半導体装置にも設けることができる。
【実施例4】
【0049】
次に、図8を参照して実施例4に従う複合半導体装置を説明する。図8の複合半導体装置は図4の複合半導体装置のHEMTをMESFET型の電界効果半導体素子に変形し、この他は図4と同一に形成したものである。図8では、図4の半導体領域5の代わりに、n型不純物として例えばSiがドープされたn型GaN層3aから成る半導体領域5bが設けられている。即ち、図8において支持基板1、バッファ領域2、ソース電極7、ドレイン電極8、第1及び第2の絶縁膜9´,11、キャリア蓄積層10、ゲート電極12´、及びショットキー電極60は図4で同一符号で示すものと同様に形成されている。電流通路として機能するn型GaN層3aはチャネル層又は活性層とも呼ぶことができるものであり、単結晶シリコン半導体から成る支持基板1上にバッファ領域2を介して配置されている。ソース電極7、ドレイン電極8、キャリア蓄積層10、ゲート電極12´、及びショットキー電極60は半導体領域5bの一方の主面6上に図4と同様に配置されている。
【0050】
図8のMESFET型の電界効果半導体素子を含む複合半導体装置において、もし、キャリア蓄積層10が無い場合には、ノーマリオン動作する。これに対し、電子が蓄積されたキャリア蓄積層10を設けると、これに基づいてn型GaN層3aに空乏層が形成され、ソース電極7とドレイン電極8との間の電流通路が遮断され、ノーマリオフ型の電界効果半導体素子となる。
【0051】
従来の典型的なMESFETのゲート電極は半導体領域にショットキー接触している。また、従来の典型的な絶縁ゲート型FETのゲート電極は、半導体領域の上のゲート絶縁膜の上に直接に配置されている。従って、図8の電界効果半導体素子はゲート構造において従来の典型的なMESFET及び従来の典型的な絶縁ゲート型FETと相違している。しかし、ゲート構造を除いて図8の電界効果半導体素子は、従来の典型的なMESFETと同様に構成され且つ同様に動作するので、図8の電界効果半導体素子を本願ではMESFET型の電界効果半導体素子又はMESFETと呼ぶことにする。
【0052】
ノーマリオフ特性を得るための図8のキャリア蓄積層10に対する電子の蓄積は、図4の実施例2と同一の方法で実行される。
【0053】
この図8の実施例4によれば、キャリア蓄積層10の働きによってノーマリオフ特性を有するMESFETを含む複合半導体装置を提供することができ、図4の実施例2と同様な効果を得ることができる。
なお、図1の半導体領域5を図8の半導体領域5bに置き換えることができる。即ち、ショットキーゲート電極を有する周知のノーマリオン又はノーマリオフのMESFETに本発明に従うショットキー60を設けることができる。
【実施例5】
【0054】
図10の本発明の実施例5に従う複合半導体装置を示す。図10の複合半導体装置は、変形されたショットキー電極60aを除いて図1及び図2と同一に形成されている。変形されたショットキー電極60aは、ゲート電極12を基準にしてソース電極7と反対側に配置され且つドレイン電極8を囲むように形成されている。ショットキー電極60aのパターンを図10に示すように変形しても、実施例1と同様な効果を得ることができる。
また、図10の変形されたショットキー電極60aのゲート電極12とドレイン電極8との間の部分を除き、ドレイン電極8を基準にしてゲート電極12と反対側にショットキー電極を配置することもできる。
また、図10の変形されたショットキー電極60a、及びドレイン電極8を基準にしてゲート電極12と反対側にショットキー電極を配置することを、図4、図7、及び図8の実施例にも適用することができる。
【0055】
本発明は、上述の実施例に限定されるものでなく、例えば、次の変形が可能なものである。
(1) 図1、図4、図7、図8、図10の実施例においてソース電極7及びドレイン電極8のオーミック接触を助けるための半導体層(コンタクト層)を半導体領域5,5a、5bに設けることができる。
(2) 半導体領域5、5a、5bの各層3,3a、4を、GaN、AlGaN以外のInGaN、AllnGaN、AlN、InAlN、AlP、GaP、AllnP、GalnP、AlGaP、AlGaAs、GaAs、AlAs、InAs、InP,InN、GaAsP等の別の3−5族化合物半導体、又はZnO等の2−6族化合物半導体、又は更に別の化合物半導体で形成することができる。
(3)支持基板1をシリコン以外のSiC、サファイア、セラミックス等の半導体又は絶縁体で形成することができる。
(4) インバータ回路又はコンバータ回路等をHEMT又はMESFETを含む複合半導体装置で形成するために、本発明に従う複合半導体装置を同一支持基板上に複数個設けることができる。
(5) ソース電極7及びドレイン電極8を電子供給層4に接続する代わりに電子走行層3に直接に接続することができる。また、ソース電極7及びドレイン電極8の下の電子供給層4を除去し、ソース電極7及びドレイン電極8と電子走行層3との間にオーミックコンタクト層(例えばn型半導体層)を設け、このオーミックコンタクト層にソース電極7及びドレイン電極8を接続することができる。
(6) 図1、図4、図7のHEMTの電子供給層4をp型半導体の正孔供給層に置き換えることができる。また、図8のMESFETの半導体領域5bをp型半導体に置き換えることができる。これらの場合には、2DEG層14に相当する領域に2次元キャリアガス層として2次元正孔ガス層が生じる。この様に2次元キャリアを正孔とする場合には、キャリア蓄積層10に正孔を蓄積させる。
(7)キャリア蓄積層10に所望量のキャリア(例えば電子)が蓄積されたか否かを判定するために、ソース電極7を流れる電流を検出するための第1の電流検出器とドレイン電極8を流れる電流を検出するための第2の電流検出器とを設け、初期化動作中即ちキャリア蓄積動作中において第1の電流検出器で検出された電流量と第2の電流検出器で検出された電流量との差を求め、この差によってキャリア蓄積層10に所望量のキャリア(例えば電子)が蓄積されたか否かを判定することができる。即ち、ソース電極7から流れ出た電子の内でドレイン電極8に到達しなかったものがキャリア蓄積層10に蓄積される。従って、ソース電極7から流れ出た電子量からドレイン電極8に到達した電子量を差し引くと、キャリア蓄積層10におけるキャリア(例えば電子)量が得られる。そこで、初期化動作中即ちキャリア蓄積動作中にキャリア蓄積層10におけるキャリア(例えば電子)量を監視し、キャリア(例えば電子)量が所望量になった時に、初期化動作を終了させることができる。
(8)HEMTのゲート電極12´にパルス電圧Vp1,Vp2を印加してキャリア蓄積層10にキャリア(例えば電子)を蓄積させる代わりに、ゲート電極12´にパルス電圧Vp1,Vp2等の平均値に相当する電圧、即ち直流電圧を連続的に印加してキャリア蓄積層10にキャリア(例えば電子)を蓄積させることもできる。この場合、直流電圧値を初期化動作終了後の通常のオン時のゲート制御信号Vnよりも高くする。
(9)HEMTのゲート電極12´にパルス電圧Vp1,Vp2を印加してキャリア蓄積層10にキャリア(例えば電子)を蓄積させる代わりに、周知のイオン注入法によって電子線又はプロトンをキャリア蓄積層10に投射し、キャリア蓄積層10に電子又は正孔を蓄積させることができる。
(10)図1のゲート電極12と半導体領域5との間にゲート絶縁膜を設けることができる。また、図8のMESFETからキャリア蓄積層10及び第1及び第2の絶縁膜9,11を省き、ゲート電極12´を半導体領域5bにショットキー接触させることができる。
(11)図4、図7、図8において、更に、第2の絶縁膜11の上にフィールドプレート用導電体層を設け、このフィールドプレート用導電体層をゲート電極12´に接続することができる。また、キャリア蓄積層10とドレイン電極8との間から第1及び第2の絶縁膜9´、11を取り除き、この部分にフィールドプレート用絶縁膜を設け、このフィールドプレート用絶縁膜の上にフィールドプレート用導電体層を配置することもできる。
(12)図1のゲート電極12と半導体領域5との間にゲート絶縁膜を配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施例1に従うHEMTを含む複合半導体装置を示す断面図である。
【図2】図1の複合半導体装置の平面図である。
【図3】図1の複合半導体装置の等価回路図である。
【図4】本発明の実施例2に従うHEMTを含む複合半導体装置を示す断面図である。
【図5】図4の初期化回路を詳しく示すブロック図である。
【図6】初期化動作時の図4及び図5の各部の電圧を示す波形図である。
【図7】本発明の実施例3に従うHEMTを含む複合半導体装置を示す断面図である。
【図8】本発明の実施例4に従うMESFETを含む複合半導体装置を示す断面図である。
【図9】図4又は図7又は図8の複合半導体装置の等価回路図である。
【図10】本発明の実施例5に従う複合半導体装置の平面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 支持基板
2 バッファ領域
3 電子走行層
3a n型GaN
4 電子供給層
5,5a,5b 半導体領域
7 ソース電極
8 ドレイン電極
9,11 第1及び第2の絶縁膜
10 キャリア蓄積層
12、12´ ゲート電極
20 初期化回路
60 ショットキー電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する一方及び他方の主面を有する半導体領域と、
前記半導体領域の前記一方の主面上に形成されたソース電極及びドレイン電極と、
前記半導体領域の前記一方の主面上に形成され且つ前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に配置されたゲート電極と、
前記半導体領域の一方の主面の上において前記ゲート電極を基準にして前記ソース電極と反対側に配置され且つ前記半導体領域の一方の主面にショットキー接触しているショットキー電極と、
前記ショットキー電極と前記ソース電極との間を接続している接続導体と
を備えていることを特徴とする複合半導体装置。
【請求項2】
前記ショットキー電極は前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間、又は前記ドレイン電極を基準にして前記ゲート電極と反対側、又は前記ドレイン電極を囲むように設けられていることを特徴とする請求項1記載の複合半導体装置。
【請求項3】
前記半導体領域は、第1の半導体層と、2次元キャリアガス層を生成するために前記第1の半導体層と異なるバンドギャップを有する半導体材料から成り且つ前記第1の半導体層に隣接配置されている第2の半導体層とを備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の複合半導体装置。
【請求項4】
前記半導体領域は電流通路となることができるように半導体基板上に形成された半導体層から成り、前記ソース電極及びドレイン電極は前記半導体層の上に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の複合半導体装置。
【請求項5】
前記ゲート電極は、前記半導体領域の一方の主面にショットキー接触しているショットキー電極であることを特徴とする請求項1又は2又は3又は4記載の複合半導体装置。
【請求項6】
更に、前記ゲート電極と前記半導体領域との間に配置されたゲート絶縁膜を有していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の複合半導体装置。
【請求項7】
更に、前記半導体領域の前記一方の主面における前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に配置された第1の絶縁膜と、
前記第1の絶縁膜の上に配置され且つ前記ソース電極と前記ドレイン電極との間をノーマリオフにするためのキャリアを有しているキャリア蓄積層と、
前記キャリア蓄積層の上に配置された第2の絶縁膜とを有し、
前記ゲート電極は前記第2の絶縁膜の上に配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の複合半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−273795(P2007−273795A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98514(P2006−98514)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】