説明

誘電体ペースト、コンデンサ及びコンデンサ内蔵多層セラミック基板

【課題】電気容量が大きいコンデンサ及びコンデンサ内蔵多層セラミック基板を与えると共に、900℃以下の温度での同時焼成の際に、収縮挙動に伴う焼成割れや導体剥がれ、反り等を生じさせない誘電体ペーストを提供する。
【解決手段】BaTi1−xZr(式中、x=0〜0.2)で表される誘電体粉末が80重量%以上87.5重量%以下、及び残部が400℃以上500℃以下の軟化温度を有し且つ比誘電率が20以上のBi−ZnO−B系ガラス粉末である無機粉末材料と、結合剤及び可塑剤を含む液体状の有機ビヒクルとを含む誘電体ペーストとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体ペースト、コンデンサ及びコンデンサ内蔵多層セラミック基板に関する。詳細には、情報通信及び自動車等の分野において、マイクロ波やミリ波帯等の高周波特性に優れるコンデンサ及びコンデンサ内蔵多層セラミック基板を与える誘電体ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低温焼成多層セラミック基板では、900℃以下の温度で緻密化するガラス−アルミナ系のグリーンシートが実用化されている。かかるグリーンシートは、銀導体と同時焼成が可能なことから、銀の高い電気伝導性を活用し得るものとして用途が拡大している。このような低温焼成多層セラミック基板の一般的な用途としては、半導体デバイス、抵抗及びコンデンサをセラミック基板上に実装したコンデンサ内蔵多層セラミック基板やセラミックパッケージである。よって、コンデンサや抵抗等を同時焼成プロセスで低温焼成セラミック基板に内蔵することができれば、実装の簡素化や高密度実装を行うことができると共に、低コスト化や軽薄短小化によって製品の市場競争力を強化することができる。また、コンデンサ内蔵多層セラミック基板において、コンデンサ部分を小さくすることができれば、設計の自由度が大きくなって適用範囲が広がり、工業的価値がより高くなる。よって、比誘電率が高い誘電体を有するコンデンサの開発が望まれている。
【0003】
かかるコンデンサ内蔵多層セラミック基板では、一般的に、グリーンシート上に導体ペーストを塗付し、この導体ペースト上に誘電体ペーストを塗付し、この誘電体ペースト上に導体ペーストを塗付した後、その上に別のグリーンシートを積層一体化させて同時焼成することによって、二つの電極の間に誘電体が狭持されたコンデンサをセラミック基板の間に形成させることができる。
かかるコンデンサを作製するために用いられる誘電体ペーストとしては、従来、{(Ba1−xCa)O}(Ti1−yZr)O(但し、0.02≦x≦0.22、0.05≦y≦0.20、1.00≦m≦1.05)で表される誘電体成分と、Bi−SiO系ガラス成分とを含むものがある(例えば、特許文献1参照)。この誘電体ペーストは、比誘電率の高い誘電体を与えることができる。
【0004】
【特許文献1】特開2001−247365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の誘電体ペーストや導体ペーストをグリーンシートの表面に塗付して焼成した場合、誘電体ペーストとグリーンシートとの収縮挙動がそれぞれ異なるために、焼成割れや導体剥がれ、反り等が生じるという同時焼成に特有の問題があった。
このような同時焼成に特有の問題は、コンデンサの比誘電率が高ければ、作製するコンデンサの面積を小さくすることにより、焼成後の寸法差を小さくして抑制することができると考えられる。しかしながら、実際、特許文献1では、同時焼成に特有の問題については認識していない上、かかる同時焼成に特有の問題を工業的に許容し得る程度のコンデンサの形状や面積についても示していない。
そこで、本発明者等は、特許文献1の誘電体ペースト及び導体ペーストを用いて、グリーンシート上に2mm角のパターンを印刷した後、900℃以下の温度で焼成して焼成割れや導体剥がれ、反り等が生じるか否かを実験的に調査した。その結果、特許文献1の誘電体ペーストを用いたコンデンサ内蔵多層セラミック基板では、反りが生じてしまうと共に、コンデンサの電気容量も十分ではなかった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、電気容量が大きいコンデンサ及びコンデンサ内蔵多層セラミック基板を与えると共に、900℃以下の温度での同時焼成の際に、収縮挙動に伴う焼成割れや導体剥がれ、反り等を生じさせない誘電体ペーストを提供することを目的とする。
また、本発明は、900℃以下の温度での同時焼成プロセスによって製造することができる電気容量が大きいコンデンサ及びコンデンサ内蔵多層セラミック基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、導体ペーストと同時焼成可能なグリーンシートと、誘電体ペーストとの焼成収縮量を同程度にすることで、900℃以下の温度での同時焼成の際の収縮挙動に伴う焼成割れや導体剥がれ、反り等を抑制し得るであろうという見地に基づき、特定の無機粉末材料の焼成収縮量及び比誘電率に着目して誘電体ペーストに使用する無機粉末材料の選定を行った。その結果、特定の無機粉末材料を用いる誘電体ペーストが、比誘電率に優れる誘電体を与えると共に、ガラス−アルミナ系のグリーンシートと同程度の焼成収縮量を有することを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、BaTi1−xZr(式中、x=0〜0.2)で表される誘電体粉末が80重量%以上87.5重量%以下、及び残部が400℃以上500℃以下の軟化温度を有し且つ比誘電率が20以上のBi−ZnO−B系ガラス粉末である無機粉末材料と、
結合剤及び可塑剤を含む液体状の有機ビヒクルと
を含むことを特徴とする誘電体ペーストである。
【0009】
また、本発明は、二つの電極の間に挟持された誘電体からなる、セラミック基板上に形成されたコンデンサであって、
前記誘電体が、上記誘電体ペーストを900℃以下の温度で焼成してなるものであることを特徴とするコンデンサである。
【0010】
さらに、本発明は、二つの電極の間に挟持された誘電体からなるコンデンサが、積層された二つのセラミック基板の間に配置されているコンデンサ内蔵多層セラミック基板であって、
前記誘電体が、上記誘電体ペーストを900℃以下の温度で焼成してなるものであることを特徴とするコンデンサ内蔵多層セラミック基板である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電気容量が大きいコンデンサ及びコンデンサ内蔵多層セラミック基板を与えると共に、900℃以下の温度での同時焼成の際に、収縮挙動に伴う焼成割れや導体剥がれ、反り等を生じさせない誘電体ペーストを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
本発明者等は、誘電体ペーストに使用する無機粉末材料の選定を行うために、以下の実験を行った。
低温焼成が可能な誘電体ペーストには、1000℃以下の焼成温度で緻密化が進行することが求められ、特に、良導体である銀を配線パターン(電極等)に用いる場合には、900℃以下の焼成温度で緻密化が進行することが求められる。よって、900℃以下の焼成温度で緻密化が進行するように、軟化温度が低い表1のガラス粉末を無機粉末材料の構成成分として用いた。
【0013】
【表1】

【0014】
また、誘電体粉末としては、BaTiO粉末、SrTiO粉末及びBa1−xSrTiO(式中、x=0.2、0.4、0.6、0.8)粉末を無機粉末材料の構成成分として用いた。
【0015】
表1の各種ガラス粉末A〜Iと、上記各種誘電体粉末とを所定の割合で自動乳鉢を用いて混合し、円板状に圧粉成形した後、所定の温度で焼成して焼結体試料(試料1〜5及び比較試料1〜13)を作製した。また、比較のために、誘電体粉末のみを用いた焼結体試料(比較試料14〜16)も作製した。なお、比較試料14は、850℃で低温焼成を行ったが、ほとんど焼結していない圧粉体状であった。また、比較試料15及び16は焼結させるために、1250℃で焼成した。
このようにして得られた焼結体試料について、焼成に伴う収縮率(ΔD/D)を、焼成前の寸法(D)及び焼成後の寸法変化(ΔD)から求めた。また、焼結体試料の円板面を平行に研磨し、その両面に銀電極を形成した焼結体試料について、インピーダンスメーターを用いて100kHzの測定周波数での静電容量を測定した。このようにして測定した静電容量値から、焼結体試料をコンデンサと考えて比誘電率(ε’)を計算により求めた。これらの結果を表2に示す。
【0016】
【表2】

【0017】
表2では、誘電体粉末として、SrTiO粉末及びBa1−xSrTiO(式中、x=0.2、0.4、0.6、0.8)粉末を用いた焼結体試料の結果について示していないが、これらの試料はいずれも、収縮率(ΔD/D)が2%以下であり、また比誘電率(ε’)が20〜30と小さかった。これに対して、表2に示されているように、誘電体粉末としてBaTiO粉末を用いた焼結体試料はいずれも、SrTiO粉末及びBa1−xSrTiO粉末を用いた焼結体試料よりも比誘電率が大きかった。よって、比誘電率が大きな誘電体を与える誘電体粉末としては、BaTiO粉末が適していると判断した。
【0018】
BaTiO粉末を用いた焼結体試料の中でも、比較試料14は、BaTiO粉末を単独で用いて850℃で低温焼成した試料であるため、かかる試料の比誘電率は、BaTiO粉末とガラス粉末とを用いた焼結体試料の比誘電率の変化の判断基準となる。すなわち、BaTiO粉末とガラス粉末とを用いた焼結体試料の比誘電率が、比較試料14の比誘電率よりも大きければ、比誘電率が改善したと判断することができる。よって、試料1〜5、並びに比較試料7、10及び11のような、BaTiO粉末とガラス粉末との組み合わせによって比誘電率を改善することができると判断した。
【0019】
一般に、誘電体粉末とガラス粉末とからなる圧粉体を低温焼成した際に、ガラス粉末が溶融して誘電体粉末の粒子間の間隙を埋めると考えると、如何なるガラス成分でも比誘電率は1を超えるので、得られる焼結体試料の比誘電率は、誘電体粉末を単独で用いた焼結体試料の比誘電率よりも大きくなると考えられる。
しかし、実際には、誘電体粉末とガラス粉末とを用いた焼結体試料の体積が、誘電体粉末を単独で用いた焼結体試料の体積よりも大きくなることや、低温焼成中に誘電体粉末がガラスに侵食されて体積が小さくなることがある。その結果として、誘電体粉末とガラス粉末とを用いた焼結体試料であっても比誘電率が改善されないことがある。
【0020】
従って、誘電体粉末とガラス粉末とを用いた焼結体試料の比誘電率が、誘電体粉末を単独で用いた焼結体試料の比誘電率を超えるようにするためには、ガラス粉末が、特定の値以上の比誘電率を有すると共に、焼結体試料が、特定の値以上の収縮率を有していることが必要であると考えられる。つまり、試料1〜5、並びに比較試料7、10及び11で用いたガラス粉末A、C、F、G及びIは、大きな比誘電率を有すると共に、焼成温度付近で流動性に優れ、誘電体粉末の粒子間の間隙を速やかに埋めて緻密化することができると考えられる。さらに、かかるガラス粉末は、無機粉末材料におけるガラス粉末の混合量を少なくすることができ、また、比誘電率の減少も抑制することができると考えられる。さらに、これらのガラス粉末は、塩基性の低いガラス粉末であるため、酸化物が塩基性の溶融塩に溶け込みやすいことから類推すれば、誘電体粉末に対する浸食も抑制することができると考えられる。
【0021】
次に、各種合成法(一般的な固相反応法、易焼結性のBaTiO粉末を与えるアルコキシド法、高結晶性のBaTiO粉末を与える水熱合成法)で製造されたBaTiO粉末を用いた焼結体試料の特性を比較してみたところ、水熱合成法で製造されたBaTiO粉末を用いた焼結体粉末は、他の合成法で製造されたBaTiO粉末を用いた焼結体試料よりも比誘電率が大きかった。よって、比誘電率がより大きな誘電体を与える無機粉末材料としては、水熱合成法で製造されたBaTiO粉末が適していると判断した。
【0022】
また、表2を見ると、誘電体粉末とガラス粉末とからなる無機粉末材料を用いた焼結体試料(試料1〜5及び比較試料1〜13)はいずれも収縮しており、850℃の焼成温度で緻密化が進行していることがわかる。よって、これらの無機粉末材料は、850℃での低温焼成が可能であると判断した。
しかしながら、導体ペーストと同時焼成可能なグリーンシートに配線パターン(銀系導体ペーストや誘電体ペースト等)を形成し、これらを900℃以下で同時焼成した際に、配線パターンの反りや剥がれ等を生じなくさせるためには、導体ペーストと同時焼成可能なグリーンシートと、配線パターン(特に、誘電体ペースト)との焼成に伴う収縮率の差が小さいことが要求される。
このような導体ペーストと同時焼成可能なグリーンシートの収縮率は、一般的に約12〜約15%であるため、誘電体ペーストの収縮率もこの範囲の収縮率である必要がある。よって、試料1〜5、並びに比較試料2〜3、5〜6及び13の焼結体試料が、この範囲の収縮率を有しているので、かかる焼結体試料に用いた無機粉末材料が誘電体ペーストの材料として適していると判断した。
【0023】
以上の実験結果から、誘電特性に優れると共に、導体ペーストと同時焼成可能なグリーンシートと同程度の収縮率を有するという条件を満たすものは試料1〜5であり、かかる試料はいずれも、ガラス粉末A(Bi−ZnO−B)又はI(Bi−ZnO−B−SiO)を用いたものであった。かかるガラス粉末A及びIは、表1に示されているように、検討したガラス粉末の中でも比誘電率が大きいと共に軟化温度が低く、他のガラス粉末に比べて低温焼成時の流動性が高いと考えられる。また、ガラス粉末A及びIは、アルカリ酸化物(RO)やアルカリ土類酸化物(R’O)を含まないので、塩基性も低いと考えられる。
なお、ガラス粉末Aの組成比を調整してさらに高誘電率化させたものについては評価していないが、軟化温度が400℃以上500℃以下であれば、本発明のガラス粉末として適することは言うまでもない。
【0024】
次に、試料3について比誘電率の温度依存性について評価した。また、比較として、比較試料16についても同様にして評価した。その結果を図1に示す。
図1において、グラフの縦軸は、試料3と比較試料16とを対比し易いように、測定した比誘電率の値を、室温の比誘電率で規格化した値(ε'r/ε'r(20℃))を用いた。
図1に示されているように、試料3の焼結体試料は、温度変化に関わらず明らかに平坦化されており、一般的な電気部品として用いるのに好ましいことがわかる。これに対して、比較試料16の焼結体試料は、約130℃付近に鋭いピークがある典型的な強誘電体相のふるまいが見られた。
【0025】
本発明者等は、無機粉末材料の選定をより一層進めるため、以下の実験を更に行った。
誘電体粉末としては、各種合成法によって製造されたBaTiO粉末及びBaTi0.8Zr0.2粉末を用い、ガラス粉末としては、上記実験で有効であったガラス粉末A及びIを用いた。表3に示された各種ガラス粉末及び各種誘電体粉末を所定の割合で自動乳鉢を用いて混合し、円板状に圧粉成形した後、所定の温度で焼成して焼結体試料(試料6〜10、比較試料17及び18)を作製した。次に、この焼結体試料の円板面を平行に研磨し、その両面に銀電極を形成した焼結体試料について、インピーダンスメーターを用いて100kHzの測定周波数での静電容量を測定した。このようにして測定した静電容量値から、焼結体試料をコンデンサと考えて比誘電率(ε’)を計算で求めた。その結果を表3に示す。
また、誘電体粉末に関して、ブルカーエイエックス社製のX線回折装置を用い、Cuターゲット、θ/2θ駆動によるX線回折測定を行い、粉末の結晶性の指標となる回折ピークの半値幅の測定を行った。その結果を表3に示す。ここで、かかる回折ピークの半値幅は、小さいほど結晶性が高いことを意味する。また、表3における回折ピークの半値幅には、最も回折ピーク強度の大きい(111)面の回折ピークにおける半値幅の値を用いた。
【0026】
【表3】

【0027】
表3に示されているように、回折ピークの半値幅は、水熱合成法による誘電体粉末が最も小さく、次いで固相反応法による誘電体粉末が小さかった。よって、誘電体粉末の結晶性は、水熱合成法による誘電体粉末が最も高く、次いで固相反応法による誘電体粉末が高いといえる。
表2における比較試料14は、BaTiO粉末を単独で用いて850℃で低温焼成した試料であるため、かかる試料の比誘電率は、BaTiO粉末とガラス粉末とを用いた焼結体試料の比誘電率の変化の判断基準となる。すなわち、BaTiO粉末とガラス粉末とを用いた焼結体試料の比誘電率が、比較試料14の比誘電率よりも大きければ、比誘電率が改善したと判断することができる。そこで、表3におけるBaTiO粉末を用いた試料6、8及び10、並びに比較試料17及び18の比誘電率と、表2における比較試料14の比誘電率とを対比すると、試料6、8及び10の比誘電率が、比較試料14の比誘電率よりも高かった。よって、試料6、8及び10において比誘電率が改善したと判断することができる。この結果から、比誘電率を改善させるには、誘電体粉末の結晶性が高いことが好ましく、誘電体粉末の(111)面の回折ピークにおける半値幅が0.086°以下であることが好ましいと判断した。
【0028】
以上のいくつかの実験結果から、本実施の形態の誘電体ペーストにおける無機粉末材料としては、BaTi1−xZr(式中、x=0〜0.2)で表される誘電体粉末が80重量%以上87.5重量%以下と、20以上の比誘電率及び400℃以上500℃以下の軟化温度を有するBi−ZnO−B系ガラス粉末12.5重量%以上20重量%以下との組み合わせが適していると結論付けた。このような結論を踏まえて、誘電体ペーストの組成等を検討したところ、本実施の形態の誘電体ペーストを開発するに至った。
以下に、本実施の形態の誘電体ペーストについて詳述する。
【0029】
本実施の形態の誘電体ペーストは、所定の無機粉末材料と、結合剤や可塑剤を含む液体状の有機ビヒクルとを含む。
誘電体ペーストに用いられる無機粉末材料は、BaTi1−xZr(式中、x=0〜0.2)で表される誘電体粉末と、Bi−ZnO−B系ガラス粉末とから構成される。
本実施の形態で用いられる誘電体粉末は、特に制限されることはなく、固相反応法、アルコキシド法及び水熱合成法等により合成されたものを用いることができる。中でも、水熱合成法により合成した誘電体粉末は、結晶性が良好であり、コンデンサの電気容量を高めることができるので好ましい。
【0030】
誘電体粉末の平均粒径は、得ようとする誘電体の厚さにあわせて適宜設定すればよく、特に制限されることはない。例えば、15μmの厚さを有する誘電体を形成する場合、誘電体粉末の平均粒径は、一般に0.5μm以上8μm以下であることが好ましい。誘電体粉末の平均粒径が0.5μm未満であると、粉末同士の二次凝集によって該粉末が十分に分散した誘電体ペーストが得られないことがある。一方、誘電体粉末の平均粒径が8μmを超えると、得られるコンデンサの電気特性が安定化しないことがある。
無機粉末材料における誘電体粉末の含有量は、80重量%以上87.5重量%以下である。誘電体粉末の含有量が80重量%未満であると、所望の電気容量を有するコンデンサが得られない。一方、誘電体粉末の含有量が87.5重量%を超えると、所望の収縮挙動が得られず、焼成時に割れや導体剥がれ、反り等が生じてしまう。
【0031】
本実施の形態で用いられるBi−ZnO−B系ガラス粉末は、Bi、ZnO及びBの三成分を含むガラス粉末である。また、Bi−ZnO−B系ガラス粉末は、三成分のみならず、少量のSiOを含んでもよい。この少量のSiOを含むBi−ZnO−B系ガラス粉末を、特にBi−ZnO−B−SiO系ガラス粉末と表す。
かかるガラス粉末は、20以上の比誘電率を有する。比誘電率は大きければ大きいほど、得られるコンデンサの電気容量は高くなるのであり、この点から比誘電率の上限は制限されない。一方、比誘電率が20未満であると、所望の電気容量を有するコンデンサが得られない。また、かかるガラス粉末は、400℃以上500℃以下の軟化温度を有する。軟化温度が400℃未満であると、グリーンシートに含有される有機成分の速やかな脱離を妨げて、気泡、膨れ、剥がれ等を生じさせてしまう。一方、軟化温度が500℃を超えると、低温焼成時の流動性が低すぎてしまい、所望の電気容量を有するコンデンサが得られない。
【0032】
ガラス粉末は、上記のような比誘電率及び軟化温度を有するものであれば、Bi、ZnO、B及び任意のSiOの割合も特に制限されることはない。かかる特性を有するガラス粉末は、従来公知の方法に従い製造することができ、例えば、Bi−ZnO−B系ガラス粉末は、Biと、ZnOと、Bとをそれぞれ等モル量混合して1300℃で溶融した後、その溶融物を金属板上に滴下し、急速に冷却してガラス化させ、粉砕することにより製造することができる。
【0033】
ガラス粉末の平均粒径は、上記誘電体粉末の平均粒径と同じように、得ようとする誘電体の厚さにあわせて適宜設定すればよく、特に制限されることはない。例えば、15μmの厚さを有する誘電体を形成させる場合、ガラス粉末の平均粒径は、一般に0.5μm以上8μm以下であることが好ましい。ガラス粉末の平均粒径が0.5μm未満であると、粉末同士の二次凝集によって該粉末が十分に分散した誘電体ペーストが得られないことがある。一方、ガラス粉末の平均粒径が8μmを超えると、得られるコンデンサの電気特性が安定化しないことがある。
無機粉末材料におけるガラス粉末の含有量は、12.5重量%以上20重量%以下である。ガラス粉末の含有量が12.5重量%未満であると、所望の収縮挙動が得られず、焼成時に割れや導体剥がれ、反り等が生じてしまう。一方、ガラス粉末の含有量が20重量%を超えると、電気容量は急に減少し、工業的に有益な電気容量値を有するコンデンサが得られない。
【0034】
本実施の形態の誘電体ペーストに用いられる有機ビヒクルは、液体状であり、結合剤及び可塑剤を含む。結合剤及び可塑剤としては、特に制限されることはなく、従来公知のものを使用することができる。結合剤の具体例としては、エチルセルロース等を挙げることができ、また可塑剤の具体例としては、フタル酸n−ブチル等を挙げることができる。また、かかる有機ビヒクルは、ポリプロピレングリコール等の潤滑剤や、テルピネオール等の溶剤等を含むこともできる。
【0035】
本実施の形態の誘電体ペーストにおける無機粉末材料と有機ビヒクルとの重量割合については、使用する印刷方法等にあわせて適宜調整すればよく、特に制限されることはない。一般的には、誘電体ペーストにおける無機粉末材料と有機ビヒクルとの重量割合は、7:3〜8:2であることが好ましい。誘電体ペーストにおいて有機ビヒクルの重量割合が多すぎると、印刷がにじんでしまい、所望の誘電体の形状が得られないことがある。一方、誘電体ペーストにおいて有機ビヒクルの重量割合が少なすぎると、印刷がかすれてしまうことがある。
【0036】
本実施の形態の誘電体ペーストは、上記の無機粉末材料及び有機ビヒクルを用い、公知の方法に従って製造することができる。具体的には、無機粉末材料に有機ビヒクルを加えてペースト化させればよい。
【0037】
次に、図面を参照して本発明のコンデンサ及びコンデンサ内蔵多層セラミック基板について説明する。
図2は、本実施形態におけるコンデンサの断面図である。図2において、コンデンサは、二つの電極2の間に挟持された誘電体3から構成され、且つセラミック基板1の表面に形成されている。かかる誘電体3は、本発明の誘電体ペーストを900℃以下の温度で焼成してなるものであり、また、電極2は、導体ペーストを900℃以下の温度で焼成してなるものである。
【0038】
このような本実施の形態のコンデンサは、グリーンシートの表面に導体ペーストを適用し、次いで前記導体ペーストの上に誘電体ペーストを適用し、次いで前記誘電体ペーストの上に導体ペーストを適用した後、900℃以下の温度で同時焼成することにより製造することができる。ここで、導体ペースト及び誘電体ペーストを適用したグリーンシートの反対面に複数枚のグリーンシートを積層して静水圧プレスで圧着一体化した後に、900℃以下の温度で焼成してもよい。
【0039】
上記グリーンシートとしては、導体ペーストと同時焼成可能なグリーンシートである。このようなグリーンシートとしては、一般に、900℃以下の温度での焼成における収縮率が約12〜約15%であるものであり、具体的には、従来公知のガラス−アルミナ系セラミックのグリーンシートを挙げることができる。かかるガラス−アルミナ系セラミックのグリーンシートは、例えば、ホウ酸シリケートやホウ酸アルミナシリケート等のガラス粉末と、アルミナ粉末とを約1:1で混合することによって調製したガラス−アルミナ系セラミック粉末をスラリーとした後、シート状に成形することにより作製することができる。かかる成形方法としては、特に制限されることはなく、所望のグリーンシートの厚さに応じて、ドクターブレード法、押出法、ロールコーター法、印刷法等を用いれば良い。また、かかるグリーンシートの厚さは、特に制限されることはなく、焼成後の厚さを勘案して適宜設定すればよい。
【0040】
ここで、上記スラリーを調製する場合、バインダー、可塑剤及び溶剤をガラス−アルミナ系セラミック粉末に加えて、ボールミル等で混合すればよい。バインダーとしては、ポリビニルブチラールやアクリル系樹脂等を挙げることができる。可塑剤としては、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジn−ブチル及びポリエチレングリコール等を挙げることができる。溶剤としては、トルエンやエタノール等のアルコールを挙げることができる。
【0041】
上記導体ペーストとしては、900℃以下の温度での焼成が可能なものであり、Ag、Ag−Pd及びAg−Pt等の銀系導体ペーストを用いることができる。この中でも、良好な導電性を有するAgペーストが好ましい。
また、上記電極ペーストの適用方法は、特に制限されることはなく、従来公知の方法(例えば、スクリーン印刷等)を用いてグリーンシートの表面に適用することができる。
導体ペーストを900℃以下の温度で焼成してなる電極2の厚さは、所望のコンデンサの大きさに併せて適宜設定すればよく、一般に10μm以上20μm以下であることが好ましい。
また、約10μmの厚さまで誘電体3を薄くする場合には、グリーンシートの表面に形成した導体ペーストの凹凸を低減させるために、導体ペーストを適用した後に、テフロン製のローラー等を押し付けて導体ペーストを平坦化させることが好ましい。そうすることで、二つの電極2の間のショートを防止することができる。
一方、導体ペーストとして、10μm以上の銀粒子を除いて、0.5μm以上5μm以下の銀粒子を含むものを用いれば、上記平坦化工程を導入することなく、約10μmの厚さまで誘電体3を薄くした場合であっても、二つの電極2の間のショートを防止することができる。
【0042】
上記誘電体ペーストの適用方法もまた、特に制限されることはなく、導体ペーストと同様に従来公知の方法(例えば、スクリーン印刷等)を用いて導体ペースト上に適用することができる。かかる誘電体ペーストを900℃以下の温度で焼成してなる誘電体3の厚さは、所望のコンデンサの大きさに併せて適宜設定すればよく、一般に10μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0043】
複数枚のグリーンシートを積層して静水圧プレスする方法も、特に制限されることはなく、従来公知の方法に従い行えばよい。
このように900℃以下の温度での同時焼成プロセスによって製造される本発明のコンデンサは、電気容量が大きいものとなる。
【0044】
本実施の形態のコンデンサ内蔵多層セラミック基板は、二つの電極2の間に挟持された誘電体3からなるコンデンサが、積層された二つのセラミック基板1の間に配置されているコンデンサ内蔵セラミック基板であって、誘電体3が、本実施の形態の誘電体ペーストを900℃以下の温度で焼成してなるものである。
このような構造を有するコンデンサ内蔵多層セラミック基板は、従来公知であるので、本実施の形態の誘電体ペーストを用いることを除けば、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば、本実施の形態のコンデンサ内蔵多層セラミック基板は、グリーンシートの表面に導体ペーストを適用し、次いで前記導体ペーストの上に誘電体ペーストを適用し、次いで前記誘電体ペーストの上に導体ペーストを適用した後、その上に別のグリーンシートをさらに積層させ、次いで900℃以下の温度で同時焼成することにより製造することができる。ここで、グリーンシートには、所望の配線を有するビア導体を設けることも可能である。なお、その他の製造条件は、上記コンデンサの製造方法で記載した条件を使用することが可能である。
このように900℃以下の温度での同時焼成プロセスによって製造される本発明のコンデンサ内蔵多層セラミック基板は、電気容量が大きいものとなる。
【0045】
図3は、本実施の形態におけるコンデンサ内蔵多層セラミック基板の断面図である。図3において、コンデンサ内蔵多層セラミック基板は、積層された二つのセラミック基板1の間に形成されたキャビティ4内に、二つの電極2に狭持された誘電体3からなるコンデンサが配置されている。
このような本実施の形態のコンデンサ内蔵多層セラミック基板は、次のようにして製造することができる。
まず、グリーンシートの表面に導体ペーストを適用し、次いで前記導体ペーストの上に誘電体ペーストを適用し、次いで前記誘電体ペーストの上に導体ペーストを適用し、焼成後にコンデンサとなる部分を表面に有するグリーンシートを作製する。これとは別に、コンデンサが収まる大きさのキャビティ(凹部)を有するグリーンシートを作製する。そして、このキャビティを有するグリーンシートを、焼成後にコンデンサとなる部分を表面に有するグリーンシートの上に積層させた後、静水圧プレスで圧着一体化した後、900℃以下の温度で焼成すればよい。ここで、グリーンシートのキャビティ部は、焼成時において、キャビティ部に起因する陥没や歪みの問題が生じ、その結果としてコンデンサの電気容量が低下することがあるので、極力小さいことが望ましい。なお、その他の製造条件は、上記コンデンサの製造方法で記載した条件を使用することが可能である。
【0046】
一方、本発明者等は、かかる焼成時のキャビティ部に起因する陥没や歪みの問題を抑制する方法を検討したところ、焼成時の変形挙動がグリーンシート等と近似し、且つ焼成時に揮発する材料によってキャビティ部を充填することにより、かかる問題を抑制し得ることを見出した。すなわち、まず、キャビティ部を有するグリーンシートを作製した後、かかるキャビティ部に、焼成時の変形挙動がグリーンシート等と近似し、且つ焼成時に揮発する材料を充填する。かかる材料が充填されたグリーンシートを、焼成後にコンデンサとなる部分を表面に有するグリーンシートの上に積層した後、静水圧プレスで圧着一体化した後、900℃以下の温度にて焼成することにより、焼成時のキャビティ部に起因する陥没や歪みの問題を抑制することができる。
【0047】
グリーンシートのキャビティ部に充填される材料としては、焼成時の変形挙動がグリーンシート等と近似し、且つ焼成時に揮発するものであれば、特に限定されることはない。このような材料としては、例えば、アクリル粉末を、PVAのエタノール溶液に混合して得られたスラリーから形成したシート等を用いることができる。かかるシートは、キャビティ部に充填する際に、キャビティの大きさにあわせて所望の大きさに切断すればよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(誘電体ペーストの作製)
50g(85重量%)のBaTiO粉末(水熱合成法、平均粒径:約1μm)と、8.8g(15重量%)のBi−ZnO−B粉末とを自動乳鉢を用いて十分に混合した後、エチルセルロース、ポリプロピレングリコール、フタル酸ジnブチル、市販の分散剤である花王社製ホモゲノール及びテルピネオールからなる、19.6gの有機ビヒクルを加えてよく練り、誘電体ペーストを作製した。
(グリーンシートの作製)
ホウケイ酸系ガラス粉末50gと、平均粒径2μmのアルミナ粉末(純度99%以上)50gとをボールミルを用いて混合し、低温焼成セラミック組成物を調製した後、かかる組成物に、PVD、フタル酸ジn−ブチル、トリオレイン及びエタノールを適量さらに添加してスラリーを調製した。次に、かかるスラリーを用いて、ドクターブレード法によって約100μmの厚みを有するグリーンシートを作製した。
【0049】
(コンデンサの作製)
コンデンサの試料は、図4のフロー図に従って作製した。
具体的には、まず、上記グリーンシートの表面に、銀ペーストを図5aのパターン形状にスクリーン印刷した(約15μm厚、約5mm角)。この部分はコンデンサの下部電極となる。次に、銀ペースト上に、誘電体ペーストを図5bのパターン形状にスクリーン印刷した(約15μm厚、約4mm角)。この部分はコンデンサの内部を満たす誘電体になる。次に、誘電体ペースト上に、銀ペーストを図5cのパターン形状にスクリーン印刷した(約15μm厚、約0.5、1及び2mm角)。この部分はコンデンサの上部電極となる。なお、電極には、寄生容量を補正するためのリード部分のパターンを脇に設けた。図5dは、印刷した銀ペースト及び誘電体ペーストのパターン形状を上から見た図である。以上の工程により、絶縁された上部電極と下部電極との間に誘電体があるコンデンサ構造が形成できる。なお本試料では、一つの試料に6つのコンデンサを形成している。
次に、銀ペースト及び誘電体ペーストが印刷されたグリーンシートの反対の表面に、別のグリーンシートを5枚積層して静水圧プレスにより圧着一体化した後、850℃で1時間焼成してコンデンサの試料を作製した。
【0050】
[実施例2]
(誘電体ペーストの作製)
BaTiOの代わりにBaTi1−xZr(式中、x=0.1〜0.2)(平均粒径:1μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして誘電体ペーストを作製した。なお、以下では、x=0.1の場合を実施例2−1、x=0.2の場合を実施例2−2として表す。
(グリーンシートの作製)
実施例1と同様にして、グリーンシートを作製した。
(コンデンサの作製)
上記の誘電体ペーストを用いた以外は、実施例1と同様にしてコンデンサの試料を作製した。
【0051】
[実施例3]
(誘電体ペーストの作製)
BaTiOの代わりにBaTi1−xZr(式中、x=0.05)(平均粒径:1μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして誘電体ペーストを作製した。
(グリーンシートの作製)
実施例1と同様にして、グリーンシートを作製した。
(コンデンサの作製)
上記の誘電体ペーストを用いた以外は、実施例1と同様にしてコンデンサの試料を作製した。
【0052】
[比較例1]
(誘電体ペーストの作製)
47g(80重量%)のBaTiO粉末(水熱合成法、平均粒径:約1μm)と、11.8g(20重量%)のZnO−B粉末とを自動乳鉢を用いて十分に混合した後、エチルセルロース、ポリプロピレングリコール、フタル酸ジnブチル、市販の分散剤である花王社製ホモゲノール及びテルピネオールからなる、19.6gの有機溶剤を加えてよく練り、誘電体ペーストを作製した。
(グリーンシートの作製)
実施例1と同様にして、グリーンシートを作製した。
(コンデンサの作製)
上記の誘電体ペーストを用いた以外は、実施例1と同様にしてコンデンサの試料を作製した。
【0053】
このようにして得られた実施例1、2−1、2−2及び3、並びに比較例1のコンデンサについて、反りや剥がれを目視にて評価した。
その結果、実施例1、2−1、2−2及び3、並びに比較例1のコンデンサはいずれも、反りや剥がれがなかった。
【0054】
また、これらのコンデンサにおいて、インピーダンスメーター(YHP社製、4192A)を用い、100kHzの測定周波数での静電容量も評価した。かかる評価では、コンデンサ部分及び寄生容量補正用リード部分の静電容量をそれぞれ測定し、コンデンサ部分の静電容量値から寄生容量補正用リード部分の静電容量値を差し引いた値を上部電極の面積に対して線形近似させ、比例係数を求めることによって、単位面積あたりの静電容量値として表した。かかる静電容量の温度依存性の結果について図6に示す。
その結果、図6に示されているように、実施例1、2−1、2−2及び3のコンデンサは、比較例1のコンデンサに比べて、単位面積あたりの静電容量が大きかった。また、実施例1及び3のコンデンサは、約20℃〜約150℃の温度変化に対する単位面積あたりの静電容量がほぼ一定であり、温度変化に対する静電容量の平坦性を有していた。一方、実施例2−1及び2−2のコンデンサは、約20℃〜約150℃の温度変化に対して単位面積あたりの静電容量がわずかに増減しているものの、実用性を妨げるほどではなく、温度変化に対する静電容量の平坦性がさほど要求されない用途に用いれば、十分に使用可能であると考えられる。
【0055】
さらに、実施例1、2−1、2−2及び3のコンデンサについては、電源及び電流メーターを用いて、直流における耐電圧特性を評価した。かかる評価では、室温にて電源を所定の測定電圧にセットして1分後の電流値を読み、この操作を所定の測定電圧ごとに繰返すことによって行った。また、かかる評価では、電流の最大値を0.1mAとし、この電流値を超えた際の電圧を耐電圧の限界値であるとして評価した。かかる電圧と電流との関係を図7に示す。
その結果、図7に示されているように、実施例1のコンデンサでは、70Vを超えたあたりから電流が急激に増加し、90Vで0.1mAとなった。よって、実施例1のコンデンサにおける0.1mAでの耐電圧は90Vであり、携帯電子機器等に用いられる電圧において使用可能な範囲のものであった。
また、実施例2−1及び2−2のコンデンサでは、70Vを超えても、実施例1のコンデンサのように電流の急激な増加は見られず、本評価の測定限界である100Vでも電流は低かった。このことから、実施例2−1及び2−2のコンデンサにおける0.1mAでの耐電圧は100V以上であると考えられる。
さらに、実施例3のコンデンサでは、80Vを超えたあたりから電流が緩やかに増加しているものの、100Vでも電流は0.001mAと低かった。
【0056】
[実施例4]
約10μm厚の誘電体ペーストをスクリーン印刷したこと以外は、実施例2と同様にしてコンデンサの試料を作製した。
[実施例5]
グリーンシートの表面に銀ペーストをスクリーン印刷した後、その表面をテフロン製のローラーを押し付けて平坦化させ、次いで銀ペーストの表面に、10μmの誘電体ペーストをスクリーン印刷したこと以外は、実施例2と同様にしてコンデンサの試料を作製した。
【0057】
上記実施例4及び5のコンデンサの試料をそれぞれ20個作製し、ショートの発生率を測定した。ショートの発生率は、通常のテスターを用いて、同一コンデンサにおいて上部電極と下部電極との間の導通を調べることにより測定した。導通があればショートと判断する。
その結果、実施例4のコンデンサでは、ショートの発生率が74.2%であったのに対し、実施例5のコンデンサでは、ショートの発生率が7.5%であった。従って、誘電体の厚さが10μm程度のコンデンサを作製する場合には、ショートの発生を防止する観点から、電極を平坦化させる必要があると考えられる。
【0058】
以上の結果からわかるように、本発明の誘電体ペーストは、電気容量が大きいコンデンサ及びコンデンサ内蔵多層セラミック基板を与えると共に、900℃以下の温度での同時焼成の際に、収縮挙動に伴う焼成割れや導体剥がれ、反り等を生じさせない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態1における試料3及び比較試料16における比誘電率の温度依存性についてのグラフである。
【図2】本発明の実施の形態1におけるコンデンサの断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1におけるコンデンサ内蔵多層セラミック基板の断面図である。
【図4】実施例においてコンデンサの試料を作製する際のフロー図である。
【図5a】実施例においてスクリーン印刷した銀ペーストのパターン形状である。
【図5b】実施例においてスクリーン印刷した誘電体ペーストのパターン形状である。
【図5c】実施例においてスクリーン印刷した銀ペーストのパターン形状である。
【図5d】実施例においてスクリーン印刷した銀ペースト及び誘電体ペーストのパターン形状である。
【図6】実施例1、2−1、2−2及び3、並びに比較例1のコンデンサにおける温度と単位面積あたりの容量値との関係を示す図である。
【図7】実施例1、2−1、2−2及び3のコンデンサにおける電圧と電流との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 セラミック基板、2 電極、3 誘電体、4 キャビティ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaTi1−xZr(式中、x=0〜0.2)で表される誘電体粉末が80重量%以上87.5重量%以下、及び残部が400℃以上500℃以下の軟化温度を有し且つ比誘電率が20以上のBi−ZnO−B系ガラス粉末である無機粉末材料と、
結合剤及び可塑剤を含む液体状の有機ビヒクルと
を含むことを特徴とする誘電体ペースト。
【請求項2】
前記ガラス粉末が、Bi−ZnO−B−SiO系ガラス粉末であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体ペースト。
【請求項3】
前記誘電体粉末が、水熱合成法によって製造された誘電体粉末であることを特徴とする請求項1又は2に記載の誘電体ペースト。
【請求項4】
前記誘電体粉末は、(111)面のX線回折ピークにおける半値幅が0.086°以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の誘電体ペースト。
【請求項5】
二つの電極の間に挟持された誘電体からなる、セラミック基板上に形成されたコンデンサであって、
前記誘電体が、請求項1〜4のいずれか一項に記載の誘電体ペーストを900℃以下の温度で焼成してなるものであることを特徴とするコンデンサ。
【請求項6】
前記電極が、導体ペーストを900℃以下の温度で焼成してなるものであり、且つ前記導体ペーストが、0.5μm以上5μm以下の平均粒径を有する銀粒子を含むことを特徴とする請求項5に記載のコンデンサ。
【請求項7】
二つの電極の間に挟持された誘電体からなるコンデンサが、積層された二つのセラミック基板の間に配置されているコンデンサ内蔵多層セラミック基板であって、
前記誘電体が、請求項1〜4のいずれか一項に記載の誘電体ペーストを900℃以下の温度で焼成してなるものであることを特徴とするコンデンサ内蔵多層セラミック基板。
【請求項8】
前記コンデンサが、積層された二つのセラミック基板の間に形成されたキャビティ内に配置されていることを特徴とする請求項7に記載のコンデンサ内蔵多層セラミック基板。
【請求項9】
前記電極が、導体ペーストを900℃以下の温度で焼成してなるものであり、且つ前記導体ペーストが、0.5μm以上5μm以下の平均粒径を有する銀粒子を含むことを特徴とする請求項7又は8に記載のコンデンサ内蔵多層セラミック基板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5a】
image rotate

【図5b】
image rotate

【図5c】
image rotate

【図5d】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−189542(P2008−189542A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325891(P2007−325891)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】