説明

走行制御装置

【課題】フィードバック制御によって車両の走行制御を行う場合により高精度な走行制御を行うことができる走行制御装置を提供することを課題とする。
【解決手段】走行計画に従って走行するようにフィードバック制御によって車両を走行制御する走行制御装置1であって、走行計画における目標軌跡の位置毎に重視する制御項目を決定する制御項目決定手段41と、この決定された重視する制御項目の制御ゲインを他の制御項目より高くする制御ゲイン決定手段41と、この決定された制御ゲインを走行計画に組み込む走行計画補正手段41とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行計画に従って走行するようにフィードバック制御によって車両を走行制御する走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ドライバの負担を軽減するために、ドライバに対して各種運転支援を行うための装置が開発されている。例えば、車両前方を撮像した撮像画像から一対の白線を検出し、その一対の白線からなる車線の中心(目標軌跡)に沿って車両が走行するように操舵アシストトルクをステアリング機構に与える装置がある(特許文献1参照)。この装置における操舵制御では、フィードバック制御を行っており、実際の車両位置が目標軌跡からどの程度ずれているか(すなわち、誤差)を検出し、その誤差が小さくなるように操舵アシストトルクを算出し、その操舵アシストトルクを発生させている。
【特許文献1】特開平11−321690号公報
【特許文献2】特開2000−272592号公報
【特許文献3】特開2000−177428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
車両の走行制御においてフィードバック制御を行う場合、車両の位置だけでなく、速度、加速度、向き、ヨーレートなどの様々な制御項目があり、各制御項目に対してフィードバック制御の制御ゲインが設定されている。従来のフィードバック制御では、これらの各制御項目の制御ゲインが一定であり、各制御項目に対して同程度のレベルで誤差が小さくなるように制御を行っている。また、従来のフィードバック制御では、目標軌跡における各位置(時系列上の各時点)に対する制御ゲインが一定であり、各位置に対して同程度のレベルで誤差が小さくなるように制御を行っている。さらに、このような車両におけるリアルタイムでのフィードバック制御では、処理能力には限りがあり、誤差を解消できる調整能力の総量には限度があるので、各制御項目あるいは各位置においてある程度のレベルまでしか誤差を小さくすることはできない。そのため、例えば、車両の横位置や向きの誤差を極力小さくしたい位置でもある程度の誤差が発生したり、速度を十分に低下させたい位置でも十分に速度を低下できなかったり、あるいは、大きなヨー発生させたい位置でも十分なヨーが発生しない虞がある。
【0004】
そこで、本発明は、フィードバック制御によって車両の走行制御を行う場合により高精度な走行制御を行うことができる走行制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る走行制御装置は、走行計画に従って走行するようにフィードバック制御によって車両を走行制御する走行制御装置であって、フィードバック制御の誤差許容量又はフィードバック制御の制限ゲインの大小関係を走行計画に組み込むことを特徴とする。
【0006】
この走行制御装置では、フィードバック制御の誤差許容量又はフィードバック制御の制限ゲイン(制御目標値に対する車両状態量の誤差を小さくしようとする度合い)の大小関係を走行計画に組み込んでいるので、誤差を小さいしたい車両状態量あるいは誤差を小さくしたい位置などに応じて誤差許容量や制御ゲインを調整することができる。走行制御装置では、このような制御ゲインが調整された走行計画に従って走行するようにフォードバック制御を行うことにより、誤差を小さいしたい車両状態量を他の車両状態量より誤差を小さくできたり、誤差を小さくしたい位置において他の位置より誤差を小さくできる。このように、走行制御装置では、走行上重要視すべき車両状態量や位置などに対する誤差を極力低減できるので、より高精度な走行制御を行うことができる。また、誤差を小さいしたい車両状態量や位置以外の誤差をある程度許容できる車両状態量や位置などについては、相対的に誤差許容量を大きくしたりあるいは制御ゲインを低くできる。そのため、この走行制御装置では、システム全体としての誤差を解消できる調整能力の総量を抑制でき、比較的小さい処理能力でもフィードバック制御が可能である。
【0007】
なお、走行計画は、車両が走行する目標軌跡の他に、目標軌跡の各位置(時系列上の各時点)における車両速度(前後速度、横速度)、車両加速度(前後加速度、横加速度)、車両向き、ヨーレートなどを含む概念である。さらに、本発明では、走行計画に、フィードバック制御の誤差許容量又は制御ゲインを含む概念となる。制御ゲインは、制御目標値に対する車両状態量の誤差を小さくしようとする度合いであり、その値が高くなるほど誤差が小さくなるようにフィードバック制御できる。車両状態量、制御項目としては、例えば、前後位置、横位置、前後速度、横速度、前後加速度、横加速度、ヨー角、ヨーレートがある。制御ゲインとしては、例えば、前後位置に関するゲイン、横位置に関するゲイン、前後速度に関するゲイン、横速度に関するゲイン、前後加速度に関するゲイン、横加速度に関するゲイン、ヨー角に関するゲイン、ヨーレートに関するゲインがある。
【0008】
本発明の上記走行制御装置では、フィードバック制御における制御項目毎に、フィードバック制御の誤差許容量又はフィードバック制御の制限ゲインの大小関係を走行計画に組み込む構成としてもよい。
【0009】
この走行制御装置では、制御項目毎に誤差許容量や制御ゲインが設定されるので、誤差を小さいしたい車両状態量に応じて誤差許容量や制御ゲインを調整することができ、走行上重要視したい車両状態量の誤差を小さくすることができる。
【0010】
本発明の上記走行制御装置では、走行計画における目標軌跡の位置毎に、フィードバック制御の誤差許容量又はフィードバック制御の制限ゲインの大小関係を走行計画に組み込む構成としてもよい。
【0011】
この走行制御装置では、目標軌跡における将来車両を通過させたい位置毎に誤差許容量や制御ゲインが設定されるので、誤差を小さいしたい位置に応じて誤差許容量や制御ゲインを調整することができ、走行上重要視したい位置における誤差を小さくすることができる。なお、走行計画における目標軌跡の位置毎は、目標軌跡における各地点でもよいし、あるいは、目標軌跡における時系列上の各時点(各時間)でもよい。
【0012】
本発明に係る走行制御装置は、走行計画に従って走行するようにフィードバック制御によって車両を走行制御する走行制御装置であって、走行計画における目標軌跡の位置毎に重視する制御項目を決定する制御項目決定手段と、制御項目決定手段で決定された重視する制御項目の制御ゲインを他の制御項目より高くする制御ゲイン決定手段と、制御ゲイン決定手段で決定された制御ゲインを走行計画に組み込む走行計画補正手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
この走行制御装置では、制御項目決定手段により走行計画における目標軌跡の位置毎に重視する制御項目を決定し、制御ゲイン決定手段によりその重視する制御項目の制御ゲインを他の制御項目より高くする。そして、走行制御装置では、走行計画補正手段によりそれぞれ決定された制御ゲインを走行計画に組み込み、この走行計画に従って走行するようにフィードバック制御する。これによって、目標軌跡における将来車両を通過させたい位置毎に、誤差を小さいしたい制御項目(車両状態量)に応じて制御ゲインを調整することができる。その結果、走行制御装置では、誤差を小さいしたい車両状態量を他の車両状態量より誤差を小さくできたり、誤差を小さくしたい位置において他の位置より誤差を小さくできる。このように、走行制御装置では、走行上重要視すべき車両状態量や位置などに対する誤差を極力低減できるので、より高精度な走行制御を行うことができる。また、この走行制御装置では、誤差をある程度許容できる制御項目や位置については相対的に制御ゲインを低くできるので、システム全体としての誤差を解消できる調整能力の総量を抑制でき、比較的小さい処理能力でもフィードバック制御が可能である。
【0014】
なお、重視する制御項目の制御ゲインを他の制御項目より高くするには、重視する制御項目の制御ゲインを優先して高くする場合、あるいは、他の制御項目の制御ゲインを低くできるので、他の制御項目の制御ゲインを重視する制御項目の制御ゲインより低くし、重視する制御項目の制御ゲインが相対的に高くなる場合がある。
【0015】
本発明の上記走行制御装置では、現時点の車両位置から目標軌跡における将来の時間又は距離が近い第1の地点と現時点の車両位置から将来の時間又は距離が第1の地点より遠い第2の地点において、第2の地点における車両位置及び/又は向きが第1の地点の車両位置及び/又は向きよりも重要度が高い場合、制御ゲイン決定手段は、第1の地点での制御ゲインを第2の地点での制御ゲインより相対的に低くする構成としてもよい。
【0016】
この走行制御装置では、目標軌跡における第1の地点より第2の地点(第1の地点より時間や距離的に遠い地点)の方が走行上の重要度が高い場合(例えば、カーブ路を走行する上で他の地点より重要視されるクリッピングポイントが第2の地点の場合)、第2の地点での制御ゲインを高くし、第1の地点での制御ゲインを第2の地点での制御ゲインより相対的に低くする。これによって、第1の地点より、第2の地点での誤差を小さくすることができる。
【0017】
本発明の上記走行制御装置では、車両が緊急回避を行う場合、制御ゲイン決定手段は、緊急回避開始時点から緊急回避終了時点までの時系列における初期段階では高ヨーレート及び/又は低速度に関する制御項目の制御ゲインを他の制御項目よりも高くし、中期段階では高横加速度及び/又は高横速度に関する制御項目の制御ゲインを他の制御項目よりも高くする構成としてもよい。
【0018】
前方に急に障害物が現れた場合などに緊急回避が必要な場合、緊急回避開始時点から緊急回避終了時点までの時系列における初期段階では、障害物にできるだけ接近しないことや障害物を避けるために車両の向きを変えることが重要となるので、できるだけ低速度になることや高いヨーレートを発生させる必要がある。そこで、走行制御装置では、初期段階では高ヨーレートや低速度に関する制御項目の制御ゲインを他の制御項目よりも高くし、車両に高いヨーレートを発生させたり、車両を低速度にする。中期段階では、障害物を確実に避けるために横方向に移動することが重要となるので、高い横加速度や横速度を発生させる必要がある。そこで、走行制御装置では、中期段階では高横加速度や高横速度に関する制御項目の制御ゲインを他の制御項目よりも高くし、車両に高い横加速度や横速度を発生させ、横方向に速く移動させる。
【0019】
本発明の上記走行制御装置では、制御ゲイン決定手段は、緊急回避開始時点から緊急回避終了時点までの時系列における終期段階では適正横位置及び/又は適正速度に関する制御項目の制御ゲインを他の制御項目よりも高くする構成としてもよい。
【0020】
緊急回避開始時点から緊急回避終了時点までの時系列における終期段階では、横方向に移動した後の隣接レーンに沿ってかつ前後の車両との関係や制限速度などに応じた速度で走行することが重要となるので、レーンに沿った適正な横位置や適正な速度になる必要がある。そこで、この走行制御装置では、終期段階では適正横位置や適正速度に関する制御項目の制御ゲインを他の制御項目よりも高くし、車両を移動先のレーンでの適正な横位置や適正な速度で走行させる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、誤差を小さくしたい車両制御量や誤差を小さくしたい位置などに応じてフィードバック制御の誤差許容量や制御ゲインを調整することができるので、より高精度な走行制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明に係る走行制御装置の実施の形態を説明する。
【0023】
本実施の形態には、2つの形態があり、第1の実施の形態が緊急回避装置に適用した形態であり、第2の実施の形態が自動運転装置に適用した形態である。第1の実施の形態に係る緊急回避装置では、ドライバによる手動運転中に自車両の前方に障害物(落下物、事故車両、故障車両など)が急に現れた場合に緊急回避レーンチェンジ用の走行計画を生成し、この走行計画に従って車両が走行するように車両運動制御を行う。第2の実施の形態に係る自動運転装置では、最適な走行計画を生成し、この走行計画に従って車両が走行するように車両運動制御を行う。
【0024】
なお、走行計画には、目標軌跡(時系列上の車両の横位置、前後位置)の他に目標軌跡の各位置や時系列上の各時点における車両速度(前後速度、横速度)、車両加速度(前後加速度、横加速度)、ヨー角、ヨーレートなどの各制御項目及び各制御項目の制御ゲインなどからなる。制御ゲインとしては、前後位置についての前後位置不足ゲインと前後位置超過ゲイン、横位置についての横位置不足ゲインと横位置超過ゲイン、前後速度についての前後速度不足ゲインと前後速度超過ゲイン、横速度についての横速度不足ゲインと横速度超過ゲイン、前後加速度についての前後加速度不足ゲインと前後加速度超過ゲイン、横加速度についての横加速度不足ゲインと横加速度超過ゲイン、ヨー角についてのヨー角不足ゲインとヨー角超過ゲイン、ヨーレートについてのヨーレート不足ゲインとヨーレート超過ゲインなどがある。ちなみに、制御ゲインは、プラス値とマイナス値が均等である必要はない。ちなみに、超過ゲインは、実値が目標値より大きい場合に小さくするためのゲインである。不足ゲインは、実値が目標値より小さい場合に大きくするためのゲインである。
【0025】
図1及び図2を参照して、第1の実施の形態に係る緊急回避装置1について説明する。図1は、第1の実施の形態に係る緊急回避装置の構成図である。図2は、緊急回避時のレーンチェンジ回避目標軌跡の一例である。
【0026】
緊急回避装置1は、ドライバによる手動運転中に自車両の前方に障害物が現れた場合、緊急減速によって回避できないときにはレーンチェンジによる緊急回避を行う。そのために、緊急回避装置1では、走行計画におけるレーンチェンジ回避目標軌跡を生成し、そのレーンチェンジ回避目標軌跡に沿った車両が走行するように車両運動制御を行う。特に、緊急回避装置1では、緊急回避レーンチェンジにおける序盤、中盤、終盤の各状況に応じて重視する制御項目の制御ゲインを他の制御項目より相対的に高くし、これらの各制御項目の制御ゲインに応じてレーンチェンジ回避目標軌跡を再生成する。
【0027】
そのために、緊急回避装置1は、舵角センサ10、ブレーキペダルセンサ11、アクセルペダルセンサ12、ヨーレートセンサ13、Gセンサ14、車輪速センサ15、GPSセンサ16、白線検知センサ17、障害物検知センサ18、ウインカスイッチ19、ナビゲーションシステム20、操舵アクチュエータ30、スロットルアクチュエータ31、ブレーキアクチュエータ32、警報装置33及びECU[Electronic Control Unit]41を備えている。なお、第1の実施の形態では、ECU41のおける各処理が特許請求の範囲に記載する制御項目決定手段、制御ゲイン決定手段、走行計画補正手段に相当する。
【0028】
図2を参照して、緊急回避でレーンチェンジを行う場合の重視する制御項目について説明しておく。ドライバによる手動運転中に、自車両MVの前方に事故などで停止している車両OVが存在する場合、自車両MVは、減速によって回避できないときには、走行中のレーンMLから隣接するレーンNLにレーンチェンジして車両OVを回避する必要がある。
【0029】
レーンチェンジの序盤ES(例えば、レーンチェンジ回避目標軌跡の中の1/3の地点までの期間)では、自車両MVが車両OVにできるだけ近づかないことや自車両MVがレーンチェンジする方向に向きを変えることが重要となる。そこで、序盤ESでは、重視する制御項目として、速度(目標速度、目標減速度よりも低いことを優先して制御)とヨーレート(目標ヨーレートよりも高いことを優先して制御)とする。
【0030】
レーンチェンジの中盤MS(例えば、レーンチェンジ回避目標軌跡の中の1/3〜2/3の期間)では、自車両MVが車両OVを確実に回避するために横方向に移動することが重要となる。そこで、中盤MSでは、重視する制御項目として、横加速度(高いことを優先して制御)と横速度(高いことを優先して制御)とする。
【0031】
レーンチェンジの終盤FS(例えば、レーンチェンジ回避目標軌跡の中の2/3の地点以降の期間)では、自車両MVがレーンチェンジ後のレーンNLに沿って走行することやレーンNLを走行中の他の車両との関係や制御速度などを考慮して適正な速度で走行することが重要となる。そこで、終盤FSでは、重視する制御項目として、速度(レーンNLでの他車両にほぼ等しいあるいは制限速度)と横位置(レーンNLの中心線に沿った位置)とする。
【0032】
なお、重視したい制御項目以外の制御項目は、誤差をある程度許容してもよい制御項目である。これらの制御項目については制御ゲインを低くすることができるので、重視したい制御項目の制御ゲインを高くできる。その結果、緊急回避装置1における誤差を解消できる調整能力の総量を抑制することができる。
【0033】
舵角センサ10は、ドライバによってハンドルから入力された舵角を検出するセンサである。舵角センサ10では、舵角を検出し、その舵角を舵角信号としてECU41に送信する。
【0034】
ブレーキペダルセンサ11は、ドライバよって操作されたブレーキペダルの操作量を検出するセンサである。ブレーキペダルセンサ11では、ブレーキペダルの操作量を検出し、その操作量をブレーキ操作量信号としてECU41に送信する。
【0035】
アクセルペダルセンサ12は、ドライバよって操作されたアクセルペダルの操作量を検出するセンサである。アクセルペダルセンサ12では、アクセルペダルの操作量を検出し、その操作量をアクセル操作量信号としてECU41に送信する。
【0036】
ヨーレートセンサ13は、自車両で発生しているヨーレートを検出するセンサである。ヨーレートセンサ13では、ヨーレートを検出し、そのヨーレートをヨーレート信号としてECU41に送信する。
【0037】
Gセンサ14は、自車両に作用している横加速度や前後加速度を検出するセンサである。Gセンサ14では、自車両に作用している加速度を検出し、その加速度をG信号としてECU41に送信する。なお、検出する加速度毎に、横Gセンサ、前後Gセンサがそれぞれ構成される。
【0038】
車輪速センサ15は、車両の4輪にそれぞれ設けられ、車輪の回転速度(車輪の回転に応じたパルス数)を検出するセンサである。車輪速センサ15では、所定時間毎の車輪の回転パルス数を検出し、その検出した車輪回転パルス数を車輪速信号としてECU41に送信する。ECU41では、各車輪の回転速度から車輪速をそれぞれ算出し、各輪の車輪速から車体速(車速)を算出する。
【0039】
GPSセンサ16は、GPSアンテナや処理装置などを備えており、自車両の位置などを推定するセンサである。GPSセンサ16では、GPSアンテナでGPS衛星からのGPS信号を受信する。そして、GPSセンサ16では、処理装置でそのGPS信号を復調し、その復調された各GPS衛星の位置データに基づいて自車両の位置などを算出する。そして、GPSセンサ16では、自車両の位置などを示すGPS情報信号をECU41に送信する。ちなみに、現在位置を算出するためには3つ以上のGPS衛星の位置データが必要となるで、GPSセンサ16では、異なる3つ以上のGPS衛星からのGPS信号をそれぞれ受信している。
【0040】
白線検知センサ17は、カメラや画像処理装置を備えており、一対の白線(車線)を検知するセンサである。白線検知センサ17では、カメラで自車両の前方の道路を撮像する。そして、白線検知センサ17では、画像処理装置で撮像画像から車両が走行している車線を示す一対の白線を認識する。さらに、認識した一対の白線から車線幅、一対の白線の中心を通る線(すなわち、車線の中心線)、車線の中心の半径(カーブ半径R)、カーブ半径Rからカーブ曲率γ(=1/R)、白線に対する車両の向き(ヨー角)及び車線の中心に対する車両中心の位置(オフセット)などを算出する。そして、白線検知センサ17では、これらの認識した一対の白線の情報や算出した各情報を白線検知信号としてECU41に送信する。
【0041】
障害物検知センサ18は、ミリ波レーダや処理装置を備えており、自車両の前方に存在する障害物(車両など)を検知するセンサである。障害物検知センサ18では、ミリ波レーダで前方にミリ波を照射し、物体に反射して戻ってくるミリ波を受信する。そして、障害物検知センサ18では、処理装置でミリ波の送受信データに基づいて障害物の有無を検知し、障害物を検知できた場合には障害物までの距離などを算出する。障害物検知センサ18では、これらの検知した障害物の情報や算出した各情報を障害物検知信号としてECU41に送信する。
【0042】
ウインカスイッチ19は、ドライバによる方向指示(右方向指示ON、左方向指示ON、OFF)を入力するためのスイッチである。ウインカスイッチ19では、ドライバのウインカ操作情報をウインカ信号としてECU41に送信する。
【0043】
ナビゲーションシステム20は、自車両の現在位置の検出及び目的地までの経路案内などを行うシステムである。特に、ナビゲーションシステム20では、地図データベースから現在走行中の道路の形状情報を読み出し、その道路形状情報をナビ信号としてECU41に送信する。なお、ナビゲーションシステムを備えない車両の場合、少なくとも道路形状情報を少なくとも格納した地図データベースを備える構成としてもよいし、あるいは、路車間通信などを利用して道路形状情報を取得する構成としてもよい。
【0044】
操舵アクチュエータ30は、モータによる回転駆動力を減速機構を介してステアリング機構(ラック、ピニオン、コラムなど)に伝達し、ステアリング機構に操舵アシストトルクを付与するためのアクチュエータである。操舵アクチュエータ30では、ECU41から操舵制御信号を受信すると、操舵制御信号に応じてモータが回転駆動して操舵アシストトルクを発生させる。
【0045】
スロットルアクチュエータ31は、スロットルバルブの開度を調整するアクチュエータである。スロットルアクチュエータ31では、ECU41からのエンジン制御信号を受信すると、エンジン制御信号に応じて作動し、スロットルバルブの開度を調整する。
【0046】
ブレーキアクチュエータ32は、ホイールシリンダのブレーキ油圧を調整するアクチュエータである。ブレーキアクチュエータ32では、ECU41からのブレーキ制御信号を受信すると、ブレーキ制御信号に応じて作動し、ホイールシリンダのブレーキ油圧を調整する。
【0047】
警報装置33は、ドライバに緊急回避レーンチェンジを知らせるための警報音を出力する装置である。警報装置33では、ECU41から警報信号を受信すると、警報信号がON信号の場合には警報音を出力し、警報信号がOFF信号の場合には警報音の出力を停止する。
【0048】
ECU41は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[ReadOnly Memory]、RAM[Random Access Memory]などからなり、緊急回避装置1を統括制御する電子制御ユニットである。ECU41では、一定時間毎に、各センサ10〜18からの信号、ウインカスイッチ19からの信号、ナビゲーションシステム20からの信号を受信する。そして、ECU41では、一定時間毎に、障害物の出現を監視し、障害物が出現した場合には緊急回避ブレーキ又は緊急回避レーンチェンジを行うために、各アクチュエータ30〜32や警報装置33に制御信号を送信する。
【0049】
ECU41では、一定時間毎に、障害物検知センサ18からの障害物検知信号に基づいて、自車両MVの前方の緊急回避必要距離以内に障害物が存在するか否かを判断する。緊急回避必要距離は、障害物に接近し過ぎたために緊急回避が必要な否かを判定するための距離閾値であり、実験などによって予め設定される。この緊急回避必要距離は、自車両のMVの現在車速に応じた可変値とする。
【0050】
緊急回避必要距離以内に障害物が存在する場合、ECU41では、障害物との距離や自車両MVの現在車速などに基づいて、自車両MVの減速によって障害物を回避できるか否か(つまり、障害物の前で安全に停止できるか否か)を判定する。減速によって障害物を回避できると判定した場合、ECU41では、その減速に必要なブレーキ制御信号を生成し、ブレーキ制御信号をブレーキアクチュエータ32に送信する。
【0051】
減速によって障害物を回避できないと判定した場合、ECU41では、緊急回避レーンチェンジが必要と判断し、車両側の制御によって緊急回避レーンチェンジを行うことを知らせるために、警報音を出力するためのON信号を設定した警報信号を警報装置33に送信する。そして、ECU41では、ドライバによるレーンチェンジの意志を確認するために、舵角センサ10からの舵角信号に基づいてレーンチェンジする方向へのステアリング操作あるいはウインカスイッチ19からのウインカ信号に基づいてレーンチェンジする方向へのウインカ操作があったか否かを判定する。レーンチェンジする方向へのステアリング操作あるいはウインカ操作がない場合、ECU41では、再度、警報音を出力するための警報信号を警報装置33に送信する。
【0052】
レーンチェンジする方向へのステアリング操作あるいはウインカ操作がある場合、ECU41では、ドライバがレーンチェンジによる緊急回避の意志を示したと判断し、警報音の出力を停止するためのOFF信号を設定した警報信号を警報装置33に送信する。そして、ECU41では、障害物までの距離や自車両MVの現在車速などに基づいて、基準となるレーンチェンジ回避目標軌跡及びレーンチェンジ中の速度パターンを生成する。この生成方法は、どのような方法で生成してもよく、例えば、ECU41内に予め用意されているレーンチェンジ軌跡を長さ方向に障害物との距離などに応じて拡大縮小して回避可能なレーンチェンジ回避目標軌跡を生成し、さらに、推定された路面摩擦係数からタイヤの摩擦余裕がある場合には減速を行う速度パターンを生成する。図2には、基準となるレーンチェンジ回避目標軌跡BC(一点鎖線)の一例を示しており、このレーンチェンジ回避目標軌跡BCの車両進行方向の全長ASは障害物との距離などによって調整される。
【0053】
次に、ECU41では、レーンチェンジの序盤での各制御項目に対するフィードバック制御の制御ゲインを設定する。高くするゲインとしては、低速度とするための前後速度超過ゲイン、高いヨーレートを発生させるためのヨーレート不足ゲインとする。無視するゲインとしては、前後速度不足ゲイン、横速度超過ゲイン、横加速度超過ゲインとする。低くするゲインとしては、その他のゲインとする。
【0054】
また、ECU41では、レーンチェンジの中盤での各制御項目に対するフィードバック制御の制御ゲインを設定する。高くするゲインとしては、横方向に移動するための横加速度不足ゲインと横速度不足ゲインとする。無視するゲインとしては、前後速度不足ゲインとする。低くするゲインとしては、その他のゲインとする。
【0055】
また、ECU41では、レーンチェンジの終盤での各制御項目に対するフィードバック制御の制御ゲインを設定する。高くするゲインとしては、適正速度(例えば、レーンチェンジ後のレーンの前方車両の速度を目標速度とする)とするための前後速度超過ゲイン及び前後速度不足ゲインと適正横位置(例えば、レーンチェンジ後のレーンの中心線)とするための横位置回避超過ゲイン及び横位置回避不足ゲインとする。低くするゲインとしては、その他のゲインである。
【0056】
なお、制御ゲインの具体的な値は、一般的な通常走行時のゲイン適合値を平均値とする。そして、制御ゲインを高くする場合には、例えば、その2倍の値とする。制御ゲインを低くする場合には、例えば、その1/2倍の値とする。制御ゲインを無視する場合には、例えば、0とする。
【0057】
そして、ECU41では、レーンチェンジ回避目標軌跡の各位置における各制御項目についての制御ゲインに応じて、基準となるレーンチェンジ回避目標軌跡及び速度パターンからレーンチェンジ回避目標軌跡及び速度パターンを再生成する。具体的な例としては、横位置に対する制御ゲインが高くない序盤と中盤においては、自車両MVの横位置誤差が大きくなる可能性が高く、障害物との安全距離を通常よりも大きく設定する。例えば、通常のTTC[Time To Collision]を1秒とした場合、TTCを2秒に変更して再生成する。図2には、基準となるレーンチェンジ回避目標軌跡BCに対して、より安全側に再生した場合のレーンチェンジ回避目標軌跡RC1とより攻める側に再生した場合のレーンチェンジ回避目標軌跡RC2を示している。
【0058】
このような走行計画を生成すると、ECU41では、一定時間毎に、各センサ13〜17からの信号に基づいて、車両状態量(前後位置、横位置、前後速度、横速度、前後加速度、横加速度、ヨー角、ヨーレートなど)を推定する。また、ECU41では、レーンチャンジ回避目標軌跡における自車両MVの前後方向の各位置(自車両MVの進行方向の各位置)に対応する制御目標値を設定する。制御目標値は、車両状態量にそれぞれ対応する値であり、例えば、前後速度について目標前後速度が設定される。
【0059】
そして、ECU41では、式(1)により、前後方向(進行方向)に関する制御ゲイン、車両状態量、制御目標値を用いて、自車両MVの進行方向についての目標進行方向加速力を算出する。
【0060】
【数1】

【0061】
また、ECU41では、式(2)により、横方向に関する制御ゲイン、車両状態量、制御目標値を用いて、自車両MVの横方向についての目標横方向加速力を算出する。
【0062】
【数2】

【0063】
また、ECU41では、式(3)により、ヨーレートに関する制御ゲイン、車両状態量、制御目標値を用いて、自車両MVのヨーレートについての目標ヨーモーメントを算出する。
【0064】
【数3】

【0065】
そして、ECU41では、車両運動制御法により、目標進行方向加速力、目標横方向加速力、目標ヨーモーメントになるための操舵制御信号、エンジン制御信号、ブレーキ制御信号をそれぞれ生成し、各制御信号を操舵アクチュエータ30、スロットルアクチュエータ31、ブレーキアクチュエータ32に送信する。車両運動制御法としては、どのよう制御方法を用いてもよい。
【0066】
なお、上記のフォードバック制御ではP制御を想定して制御ゲインの設定や目標進行方向加速力、目標横方向加速力、目標ヨーモーメントの算出を行う例を示したが、フィードバック制御についてはどのような制御を用いてもよく、例えば、PID制御を用いる。
【0067】
次に、図1及び図2を参照して、緊急回避装置1における動作について説明する。特に、ECU41における処理については図3のフローチャートに沿って説明する。図3は、図1のECUにおける処理の流れを示すフローチャートである。
【0068】
舵角センサ10では、ドライバのステアリング操作による舵角を検出し、舵角信号をECU41に送信している。ブレーキペダルセンサ11では、ドライバのブレーキ操作による操作量を検出し、ブレーキ操作量信号をECU41に送信している。アクセルペダルセンサ12では、ドライバのアクセル操作による操作量を検出し、アクセル操作量信号をECU41に送信している。ヨーレートセンサ13では、自車両MVに発生しているヨーレートを検出し、ヨーレート信号をECU41に送信している。Gセンサ14では、自車両に作用している加速度を検出し、G信号をECU41に送信している。各輪の車輪速センサ15では、車輪の回転パルス数を検出し、車輪速信号をECU41に送信している。GPSセンサ16では、各GPS衛星からのGPS信号を受信し、3つ以上のGPS衛星のGPS信号に基づいて自車両MVの現在位置などを算出し、GPS情報信号をECU41に送信している。白線検知センサ17では、自車両MVの前方を撮像し、その撮像画像に基づいて一対の白線を検知するとともに白線と自車両MVとの関係を示す各情報を算出し、白線検知信号をECU41に送信している。障害物検知センサ18では、ミリ波レーダによってミリ波を送受信し、そのミリ波の送受信データに基づいて障害物の有無を検知するとともに障害物までの距離などを算出し、障害物検知信号をECU41に送信している。ウインカスイッチ19では、ドライバのウインカ操作情報をウインカ信号としてECU41に送信している。ナビゲーションシステム20では、現在走行中の道路の形状情報をナビ信号としてECU41に送信している。
【0069】
ドライバの手動操作による通常走行中、ECU41では、一定時間毎に、障害物検知センサ18による検知結果に基づいて、自車両MVの前方に緊急回避が必要な障害物が存在するか否かを判定する(S10)。S10にて障害物が存在しないと判定した場合、ドライバの手動操作による通常走行が継続される。
【0070】
S10にて障害物が存在すると判定した場合、ECU41では、障害物までの距離や現在速度などに基づいて、その障害物を減速停止して回避することができるか否かを判定する(S11)。S11にて安全に減速停止して回避することができると判定した場合、ECU41では、停止するためのブレーキ制御信号を生成し、そのブレーキ制御信号をブレーキアクチュエータ32に送信する(S12)。このブレーキ制御信号を受信すると、ブレーキアクチュエータ32では、各輪のホイールシリンダにブレーキ制御信号に応じたブレーキ油圧を発生させる。これによって、自車両MVには、所定のブレーキ力が発生して減速し、障害物の手前で停止する。
【0071】
S11にて減速によって回避することができないと判定した場合、ECU41では、警報音を出力するための警報信号を生成し、その警報信号を警報装置33に送信する(S13)。この警報信号を受信すると、警報装置33では、警報音を出力する。ドライバは、この警報音によって、車両側で緊急回避によるレーンチェンジを行おうとしていることに気づく。そして、ドライバは、レーンチェンジする方向へのステアリング操作やウインカ操作によって、レーンチェンジの意志を示す。
【0072】
ECU41では、ブレーキペダルセンサ11での検知結果やウインカスイッチ19に対する操作に基づいて、ドライバがレーンチェンジの意志を示したか否か判定する(S14)。S14にてレーンチェンジの意志を示していないと判定した場合、ECU41では、再度、の警報信号を警報装置33に送信する(S13)。そして、警報装置33では、再度、警報音を出力する。
【0073】
S14にてレーンチェンジの意志を示していると判定した場合、ECU41では、基準となるレーンチェンジ回避目標軌跡及び速度パターンを生成する(S15)。また、ECU41では、低速度と高ヨーレートを優先して制御するためのレーンチェンジ序盤での各制御ゲインをそれぞれ設定する(S16)。また、ECU41では、高横加速度と高横速度を優先して制御するためのレーンチェンジ中盤での各制御ゲインをそれぞれ設定する(S17)。また、ECU41では、適正速度と適正横位置を優先して制御するためのレーンチェンジ終盤での各制御ゲインをそれぞれ設定する(S18)。そして、ECU41では、レーンチェンジでの各位置での各制御ゲインに基づいて、レーンチェンジ回避目標軌跡及び速度パターンを再生成し、走行計画を生成する(S19)。
【0074】
一定時間毎に、ECU41では、各センサ13〜17の各検知結果に基づいて車両状態量をそれぞれ推定する(S20)。また、ECU41では、レーンチャンジ回避目標軌跡における自車両MVの進行方向の各位置に応じた制御目標値をそれぞれ導出する(S21)。そして、ECU41では、式(1)により、進行方向に関する制御ゲイン、車両状態量、制御目標値を用いて進行方向の各位置に応じた目標進行方向加速力を算出する(S22)。また、ECU41では、式(2)により、横方向に関する制御ゲイン、車両状態量、制御目標値を用いて進行方向の各位置に応じた目標横方向加速力を算出する(S23)。また、ECU41では、式(3)により、ヨーレートに関する制御ゲイン、車両状態量、制御目標値を用いて進行方向の各位置に応じた目標ヨーモーメントを算出する(S24)。
【0075】
そして、ECU41では、目標進行方向加速力、目標横方向加速力、目標ヨーモーメントになるための操舵制御信号、エンジン制御信号、ブレーキ制御信号をそれぞれ生成し、各制御信号を操舵アクチュエータ30、スロットルアクチュエータ31、ブレーキアクチュエータ32に送信する(S25)。この操舵制御信号を受信すると、操舵アクチュエータ30では操舵制御信号に応じた操舵アシストトルクをステアリング機構に付与し、転舵輪が転舵する。また、このエンジン制御信号を受信すると、スロットルアクチュエータ31ではエンジン制御信号に応じたスロットルバルブの開度に調整し、エンジン出力が変化する。また、このブレーキ制御信号を受信すると、ブレーキアクチュエータ32では各輪のホイールシリンダにブレーキ制御信号に応じたブレーキ油圧を発生させ、ブレーキ力が変化する。
【0076】
これによって、自車両MVは、ある程度の誤差内でレーンチェンジ回避目標軌跡に沿って走行し、障害物を回避しながらレーンチェンジしてゆく。特に、レーンチェンジの序盤では、自車両MVは、速度が十分に低下するとともに、レーンチェンジする方向への大きなヨーレートが発生する。これによって、自車両MVは、障害物との距離を確保しながら向きを変えることができる。レーンチェンジの中盤では、自車両MVは、レーンチェンジする方向への大きな横速度と横加速度が発生する。これによって、自車両MVは、障害物を回避しながら、隣接レーンに移動してゆく。レーンチェンジの終盤では、自車両MVは、レーンチェンジした後のレーンでの前方車両の速度に応じた適正な速度で走行するとともに、そのレーンの中心に沿った適正な横位置で走行する。
【0077】
この緊急回避装置1によれば、レーンチェンジの進行方向の位置(時系列上の時点)毎に重視(誤差を小さく)したい制御項目に応じて各制御ゲインを調整することにより(つまり、各制御目標値に対しての誤差を小さくするための度合いの重み付けを緊急回避レーンチェンジの状況に応じて行うことにより)、緊急回避レーンチェンジの各状況に応じて誤差を小さくしたい制御項目(車両状態量)の誤差を小さくでき、高性能、高精度な緊急回避レーンチェンジを行うことができる。
【0078】
また、緊急回避装置1によれば、誤差をある程度許容できる制御項目については相対的に制御ゲインを低くするので、システム全体としての誤差を解消できる調整能力の総量を抑制でき、比較的小さい処理能力でもフィードバック制御が可能である。
【0079】
この緊急回避装置1では、レーンチェンジの進行方向の各位置に応じて各制御ゲインを設定することにより、より最適なレーンチェンジ回避目標軌跡や速度パターンに補正することができる。
【0080】
図4及び図5を参照して、第2の実施の形態に係る自動運転装置2について説明する。図4は、第2の実施の形態に係る自動運転装置の構成図である。図5は、カーブ路における制約限界付近点(クリッピングポイント)と目標軌跡の一例である。なお、自動運転装置2では、第1の実施の形態に係る緊急回避装置1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0081】
自動運転装置2は、最適な目標軌跡(走行計画)を生成し、その目標軌跡に沿って走行するように車両運動制御を行う。特に、自動運転装置2では、走行における重視する位置の制御ゲインを他の位置より相対的に高くし、これらの各位置の制御ゲインに応じて車両運動制御を行う。なお、自動運転装置2における車両運動制御では、エンジン制御、ブレーキ制御、操舵制御を行うが、以下では説明を簡単化するために操舵制御についてのみ説明する。
【0082】
そのために、自動運転装置2は、ヨーレートセンサ13、Gセンサ14、車輪速センサ15、GPSセンサ16、白線検知センサ17、障害物検知センサ18、ナビゲーションシステム20、操舵アクチュエータ30、スロットルアクチュエータ31、ブレーキアクチュエータ32及びECU42を備えている。なお、第2の実施の形態では、ECU42のおける各処理が特許請求の範囲に記載する制御項目決定手段、制御ゲイン決定手段、走行計画補正手段に相当する。
【0083】
図5を参照して、制約限界付近点について説明する。制約限界付近点は、最適化処理(最適な制御目標)における制約条件をぎりぎりで満たしている特異点であり、走行中に各車両状態量(特に、位置、向きなど)に対して誤差を極力小さくして通過する必要がある地点である。制約限界付近点としては、例えば、エンジンの最高出力に到達する地点(時点)、フルブレーキをする地点(時点)、道路境界線に接する地点(時点)がある。この制約限界付近点を優先して走行することにより、車両の最大限の性能を引き出すことができ、走行逸脱などの走行上問題のない走行が可能となる。逆、この制約限界付近点で車両位置や向きなどについての誤差が大きくなると、走行逸脱などの走行上の問題が発生する。
【0084】
例えば、カーブ路を走行する場合、熟練したドライバは、アウト−イン−アウトでカーブ路を走行してゆく。この地点は、一般点にクリッピングポイントと呼ばれ、目標軌跡が道路の境界線に接する地点となる。このクリッピングポイントを適切な向きで通過することによりスムーズにカーブ路を走行することができる。図5に示す例の場合、カーブ路の入口でのアウト側のクリッピングポイントCP1、カーブ路の頂点付近でのイン側のクリッピングポイントCP2、カーブ路の出口でのアウト側のクリッピングポイントCP3が示されている。カーブ路では、目標軌跡GC上のこの3つのクリッピングポイントCP1,CP2,CP3での位置精度や車両向きが目標値と合うことが優先事項であり、目標軌跡GC上のその他の地点P1,P2,P3,・・・での位置や向きに関しては目標値に対して誤差が多少発生することを許容できる。ちなみに、目標軌跡GCの左右両側の二点鎖線AC,ACは、走行中の最大許容範囲を示す線である。安全上、目標軌跡GC上のその他の地点P1,P2,P3,・・・についても、この二本の線AC,ACの内側を通過することが最低条件となる。
【0085】
なお、重視する地点以外の地点は、誤差をある程度許容してもよい地点である。これらの地点での各制御項目の制御ゲインについては低くすることができるので、重視したい地点での制御項目の制御ゲインを高くできる。その結果、自動運転装置2における誤差を解消できる調整能力の総量を抑制することができる。
【0086】
ECU42は、CPU、ROM、RAMなどからなり、自動運転装置2を統括制御する電子制御ユニットである。ECU42では、一定時間毎に、各センサ13〜18からの信号、ナビゲーションシステム20からの信号を受信する。そして、ECU42では、最適な走行計画を生成し、走行計画に従って走行するために、各アクチュエータ30〜32に制御信号を送信する。
【0087】
ECU42では、評価関数(例えば、通過時間)が最小になるような最適制御目標(時間に対する目標軌跡(車両位置)、向きなど)を生成する。この生成方法は、どのような方法を用いてもよいが、例えば、最適軌跡生成技術を用いる。最適軌跡生成技術としては、「最短時間コーナリング法に関する理論的研究(第1報4WD−4WS車)」:藤岡、木村著:自動車技術会論文集Vol.23,No.2(1992),pp.75−80を参照。
【0088】
次に、ECU42では、最適制御目標(目標軌跡)の中から制約限界付近点を抽出する。この抽出方法としては、どのような方法を用いてもよい。例えば、道路境界線に対して道路の端を走行する部分(クリッピングポイント)を求める場合、最適化手法において一般的に知られている外点ペナルティ関数法によって求まった最適化計画に対して内点ペナルティ関数法を用いて、その評価値が高い点を制約限界付近点とする。例えば、「最適化とその応用」:ISBN 4−901683−34−9を参照。
【0089】
次に、ECU42では、目標軌跡における制約限界付近点に関しては車両位置や向きなどに対する誤差が極力小さくなるように、車両運動制御(特に、操舵制御)を行う。第2の実施の形態では、説明を簡単化するため、制約限界付近点以外の地点についてはフィードバック制御の制御ゲインを0にする(つまり、これらの地点についてはフィードバック制御を行わない)。また、制約限界付近点の各制御項目の制御ゲインについては、一様にゲインを高くしてもよいが、特に、車両位置と向きの制御ゲインを他の制御ゲインより高くするとよい。
【0090】
具体的には、ECU42では、制約限界付近点だけをフィードバック制御の対象とし、目標軌跡における全ての地点についてフィードフォワード制御を行うとともに、制約限界付近点までの前方注視距離(可変値)に基づく前方注視モデル操舵制御(フィードバック制御)を行う。前方注視モデル操舵制御は、前方注視距離の前方の位置に合わせこむための操舵制御である。
【0091】
まず、フィードフォワード制御を行うために、ECU42では、一定時間毎に、最適制御目標値になるように操舵制御信号を生成し、その操舵制御信号をブレーキアクチュエータ32に送信する。
【0092】
次に、制約限界付近点に対するフィードバック制御を行うために、ECU42では、一定時間毎に、各センサ13〜17からの信号に基づいて、車両状態量を推定する。そして、ECU42では、現在の車両位置から次の制約限界付近点までの距離(前方注視距離)を算出する。さらに、ECU42では、その前方注視距離に基づいて、一般的な前方注視モデル操舵制御によりフィードバック制御を行う。このフィードバック制御では、前方の制約限界付近点と自車両MVの前後方向(進行方向)の延長線上の点との距離を求め、その距離が0になるようにPID制御を行う。この制約限界付近点と延長線上の点との距離は、制約限界付近点での各制御項目(ヨー角、横位置、道路の曲がり具合(曲率)など)についての制御目標値との差が総合的に含まれた値である。
【0093】
次に、図4及び図5を参照して、自動運転装置2における動作について説明する。特に、ECU42における処理については図6のフローチャートに沿って説明する。図6は、図4のECUにおける処理の流れを示すフローチャートである。
【0094】
各センサ13〜18及びナビゲーションシステム20では、第1の実施の形態で説明した同様の動作を行っている。
【0095】
自動運転装置2が起動されると、ECU42では、自動運転の走行計画となる最適制御目標(目標軌跡(車両位置)、向き、速度パターンなど)を生成する(S30)。そして、ECU42では、目標軌跡の中から制約限界付近点を抽出する(S31)。これによって、制御ゲインを高くする地点(時系列上の時点)と制御ゲインを0に地点が決定され、最適制御目標に制御ゲインが組み込まれた走行計画が再生成されたことになる。
【0096】
一定時間毎に、ECU42では、最適制御目標に基づいて操舵制御信号を生成し、その操舵制御信号を操舵アクチュエータ30に送信する(S32)。この操舵制御信号を受信すると、操舵アクチュエータ30では操舵制御信号に応じた操舵アシストトルクをステアリング機構に付与し、転舵輪が転舵する。これによって、自車両MVは、フィードフォワード制御により、各地点の最適制御目標になるように操舵制御される。
【0097】
さらに、ECU42では、各センサ13〜17の各検知結果に基づいて車両状態量をそれぞれ推定する(S33)。そして、ECU42では、現在の車両位置から次の制約限界付近点までの前方注視距離を算出する(S34)。さらに、ECU42では、前方注視距離に基づく前方注視モデル操舵制御により、次の制約限界付近点の車両位置や向きなどの各制御項目の誤差が極力小さくなるように操舵制御信号を生成し、その操舵制御信号を操舵アクチュエータ30に送信する(S35)。この操舵制御信号を受信すると、操舵アクチュエータ30では操舵制御信号に応じた操舵アシストトルクをステアリング機構に付与し、転舵輪が転舵する。
【0098】
これによって、制約限界付近点では車両位置や向きなどの最適制御目標に対する誤差が非常に小さくなり、制約限界付近点以外の地点では車両位置や向きなどの最適制御目標に対する誤差がある程度大きくなる。その結果、自車両MVは、カーブ路などをスムーズにかつ素早く走行してゆく。
【0099】
この自動運転装置2によれば、目標軌跡上で重視したい制約限界付近点に基づいて制御ゲインを調整することにより(制約限界付近地点に対してのみフィードバック制御を行うことにより)、制約限界付近点における誤差を極力小さくでき、車両の持っている性能を最大限生かした最適(最速)な自動運転を行うことができる。
【0100】
また、自動運転装置2によれば、誤差をある程度許容できる地点については相対的に制御ゲインを低く(制御ゲインを0)するので、システム全体としての誤差を解消できる調整能力の総量を抑制でき、比較的小さい処理能力でもフィードバック制御が可能である。
【0101】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0102】
例えば、本実施の形態では1つのECUで構成する形態としたが、操舵制御、エンジン制御、ブレーキ制御などのECUを別体で構成してもよい。
【0103】
また、本実施の形態では車両状態量を推定するために多数のセンサを構成したが、これらのセンサの中の幾つのセンサだけで構成してもよいし、あるいは、他のセンサを用いてもよい。
【0104】
また、第1の実施の形態では手動運転中に障害物が現れた場合に障害物を回避するための緊急回避装置に適用したが、自動運転装置などの他の装置にも適用可能である。また、場面としては、緊急回避以外にも、カーブ路走行などの他の走行場面にも適用可能である。
【0105】
また、第2の実施の形態では自動運転装置に適用したが、自動操舵装置、レーンキープ装置などの他の装置にも適用可能である。
【0106】
また、第2の実施の形態では制約限界付近地点での誤差を小さくするために前方注視距離を用いてフィードバック制御を行う構成としたが、前方注視距離を用いない他のフィードバック制御を行ってもよい。
【0107】
また、第2の実施の形態ではカーブ走行中にはクリッピングポイント以外の地点については制御ゲインを0にする(フィードバック制御を行わない)構成としたが、クリッピングポイント以外の地点の制御ゲインをクリッピングポイントに比べて相対的に小さくする(クリッピングポイント以外の地点についても制御ゲインを小さくてフィードバック制御を行う)構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】第1の実施の形態に係る緊急回避装置の構成図である。
【図2】緊急回避時のレーンチェンジ回避目標軌跡の一例である。
【図3】図1のECUにおける処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】第2の実施の形態に係る自動運転装置の構成図である。
【図5】カーブ路における制約限界付近点(クリッピングポイント)と目標軌跡の一例である。
【図6】図4のECUにおける処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0109】
1…緊急回避装置、2…自動運転装置、10…舵角センサ、11…ブレーキペダルセンサ、12…アクセルペダルセンサ、13…ヨーレートセンサ、14…Gセンサ、15…車輪速センサ、16…GPSセンサ、17…白線検知センサ、18…障害物検知センサ、19…ウインカスイッチ、20…ナビゲーションシステム、30…操舵アクチュエータ、31…スロットルアクチュエータ、32…ブレーキアクチュエータ、33…警報装置、41,42…ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行計画に従って走行するようにフィードバック制御によって車両を走行制御する走行制御装置であって、
フィードバック制御の誤差許容量又はフィードバック制御の制限ゲインの大小関係を走行計画に組み込むことを特徴とする走行制御装置。
【請求項2】
フィードバック制御における制御項目毎に、フィードバック制御の誤差許容量又はフィードバック制御の制限ゲインの大小関係を走行計画に組み込むことを特徴とする請求項1に記載する走行制御装置。
【請求項3】
走行計画における目標軌跡の位置毎に、フィードバック制御の誤差許容量又はフィードバック制御の制限ゲインの大小関係を走行計画に組み込むことを特徴とする請求項1に記載する走行制御装置。
【請求項4】
走行計画に従って走行するようにフィードバック制御によって車両を走行制御する走行制御装置であって、
走行計画における目標軌跡の位置毎に重視する制御項目を決定する制御項目決定手段と、
前記制御項目決定手段で決定された重視する制御項目の制御ゲインを他の制御項目より高くする制御ゲイン決定手段と、
前記制御ゲイン決定手段で決定された制御ゲインを走行計画に組み込む走行計画補正手段と
を備えることを特徴とする走行制御装置。
【請求項5】
現時点の車両位置から目標軌跡における将来の時間又は距離が近い第1の地点と現時点の車両位置から将来の時間又は距離が第1の地点より遠い第2の地点において、第2の地点における車両位置及び/又は向きが第1の地点の車両位置及び/又は向きよりも重要度が高い場合、前記制御ゲイン決定手段は、第1の地点での制御ゲインを第2の地点での制御ゲインより相対的に低くすることを特徴とする請求項4に記載する走行制御装置。
【請求項6】
車両が緊急回避を行う場合、前記制御ゲイン決定手段は、緊急回避開始時点から緊急回避終了時点までの時系列における初期段階では高ヨーレート及び/又は低速度に関する制御項目の制御ゲインを他の制御項目よりも高くし、中期段階では高横加速度及び/又は高横速度に関する制御項目の制御ゲインを他の制御項目よりも高くすることを特徴とする請求項4に記載する走行制御装置。
【請求項7】
前記制御ゲイン決定手段は、緊急回避開始時点から緊急回避終了時点までの時系列における終期段階では適正横位置及び/又は適正速度に関する制御項目の制御ゲインを他の制御項目よりも高くすることを特徴とする請求項6に記載する走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−61878(P2009−61878A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230586(P2007−230586)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】