車両のダウンシフト時制御装置
【課題】 アクセルON時のダウンシフト制御に関して、アクセル操作の相違に拘らず学習制御が安定して行われるようにして常に適切な変速制御が行われるようにする。
【解決手段】 自動変速機10をダウンシフトする際の変速過渡時には、エンジン40のスロットル弁開度θTHが、ダウンシフト時学習制御手段122の学習領域が定められた複数の車速領域V1 、V2 、V3 ・・・毎にそれぞれ同じ値となるようにアクセル操作量Accと無関係にスロットル指令値マップ114に設定されたスロットル指令値に従って制御されるため、車速領域V1 、V2 、V3 ・・・が同じであればアクセル操作の相違に拘らずエンジン出力が略一定とされ、且つその車速領域V1 、V2 、V3 ・・・に応じてダウンシフトの学習制御が行われるため、ダウンシフト時学習制御手段122による学習制御が安定して、常に適切な変速制御が行われるようになる。
【解決手段】 自動変速機10をダウンシフトする際の変速過渡時には、エンジン40のスロットル弁開度θTHが、ダウンシフト時学習制御手段122の学習領域が定められた複数の車速領域V1 、V2 、V3 ・・・毎にそれぞれ同じ値となるようにアクセル操作量Accと無関係にスロットル指令値マップ114に設定されたスロットル指令値に従って制御されるため、車速領域V1 、V2 、V3 ・・・が同じであればアクセル操作の相違に拘らずエンジン出力が略一定とされ、且つその車速領域V1 、V2 、V3 ・・・に応じてダウンシフトの学習制御が行われるため、ダウンシフト時学習制御手段122による学習制御が安定して、常に適切な変速制御が行われるようになる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の制御装置に係り、特に、ダウンシフト時のエンジン出力制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 出力を電気的に制御できる車両走行用の駆動力源と、(b) その駆動力源からの動力伝達経路に配設されるとともに、複数の摩擦係合装置の係合、解放状態に応じて変速比が異なる複数の変速段を成立させる自動変速機と、(c) その自動変速機をダウンシフトする際の変速過渡時に、アクセル操作量すなわち運転者の出力要求量の変化に拘らず前記駆動力源の出力制御要素を一定に保持するダウンシフト時出力制御手段と、を有する車両の制御装置が知られている。特許文献1に記載の装置はその一例で、車両走行用の駆動力源としてエンジンを備えているとともに、変速中にアクセル操作量が変化してもエンジンのスロットル弁開度(出力制御要素)を変速直前の一定の値に固定するようになっており、これによりエンジン出力が略一定に維持されて、変速制御が簡略化されるとともに変速ショックの発生が抑制される。
【0003】
【特許文献1】特開平6−330777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、かかる従来の制御装置においては、スロットル弁開度が変速直前の値に固定されるため、アクセル操作量の変化速度が大きいキックダウン時とアクセル操作量の変化速度が小さいパーシャルダウン時とでスロットル弁開度が相違し、それに伴うエンジン出力の変化で変速制御が損なわれる場合があった。すなわち、各部の個体差や経時変化に拘らず適切な変速制御が行われるように、自動変速機をダウンシフトする際に係合または解放される摩擦係合装置の係合力、例えば解放側の初期油圧や係合側の低圧待機圧などを、変速の進行状況やエンジン吹きの程度等に応じて学習することが行われているが、スロットル弁開度の相違に伴ってエンジン出力が変化すると学習制御が不安定となり、変速制御が悪化することがある。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、アクセルON(パワーON)時のダウンシフト制御に関して、アクセル操作の相違に拘らず学習制御が安定して行われるようにして常に適切な変速制御が行われるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 出力を電気的に制御できる車両走行用の駆動力源と、(b) その駆動力源からの動力伝達経路に配設されるとともに、複数の摩擦係合装置の係合、解放状態に応じて変速比が異なる複数の変速段を成立させる自動変速機と、(c) その自動変速機をダウンシフトする際の変速過渡時に、アクセル操作量の変化に拘らず前記駆動力源の出力制御要素を一定に保持するダウンシフト時出力制御手段と、(d) 前記自動変速機をダウンシフトする際に係合または解放される前記摩擦係合装置の係合力を、車速に応じて学習領域が定められた学習値に基づいて制御するダウンシフト時学習制御手段と、を有する車両のダウンシフト時制御装置において、(e) 前記ダウンシフト時出力制御手段は、前記ダウンシフト時学習制御手段の学習領域が定められた複数の車速領域毎にそれぞれ同じ値となるように、前記アクセル操作量と無関係に予め設定された出力指令値に従って前記出力制御要素を制御することを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明の車両のダウンシフト時制御装置において、(a) 前記駆動力源は、スロットル弁開度を電気的に制御できる電子スロットル弁を前記出力制御要素として備えているエンジンで、(b) 前記ダウンシフト時出力制御手段は前記スロットル弁開度を制御するもので、(c) 前記出力指令値は、前記エンジンのトルクが最大となるように定められたスロットル指令値であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このような車両のダウンシフト時制御装置においては、自動変速機をダウンシフトする際の変速過渡時には、ダウンシフト時学習制御手段の学習領域が定められた複数の車速領域毎にそれぞれ同じ値となるように、アクセル操作量すなわち運転者の出力要求量とは無関係に予め設定された出力指令値に従って駆動力源の出力制御要素が制御されるため、車速領域が同じであればアクセル操作の相違に拘らず駆動力源の出力が略一定とされ、且つその車速領域に応じて学習制御が行われるため、ダウンシフト時学習制御手段による学習制御が安定して、常に適切な変速制御が行われるようになる。
【0009】
第2発明は、駆動力源としてエンジンを備えており、そのスロットル弁開度によってエンジン出力を制御する場合で、ダウンシフト時の出力指令値としてエンジントルクが最大となるスロットル指令値が設定されているため、入力回転速度が速やかに上昇させられて変速応答性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
車両走行用の駆動力源としては、燃料の燃焼によって出力を発生する内燃機関等のエンジンが好適に用いられるが、電動モータなどの他の駆動力源を採用することもできる。第2発明では、電子スロットル弁によってエンジン出力を制御するようになっているが、吸排気バルブのリフト量などでエンジン出力を制御することもできるなど、種々の態様が可能である。
【0011】
自動変速機としては、複数の遊星歯車装置を有する遊星歯車式の自動変速機が好適に用いられるが、複数の入力経路を切り換えて変速する平行軸式の自動変速機を用いることもできるなど、複数の摩擦係合装置の係合、解放状態を切り換えて変速する種々の自動変速機を採用できる。摩擦係合装置は、例えば油圧アクチュエータによって摩擦係合させられるクラッチやブレーキ等で、その場合は油圧によって係合力(トルク容量)を制御できるが、電磁力で係合力を制御するものなど他の摩擦係合装置を用いることもできる。
【0012】
自動変速機は、車速やアクセル操作量等の運転状態に応じて自動的に変速段を切り換えるものでも、運転者の変速指令に従って変速段を切り換えるものでも良い。
【0013】
ダウンシフト時学習制御手段は、例えばクラッチツークラッチ変速によってダウンシフトが行われる場合に、係合側の摩擦係合装置の初期油圧(係合力)を、イナーシャ相が開始する滑り出し時間が所定の範囲内となるように学習したり、解放側の摩擦係合装置の低圧待機圧(係合力)を、入力回転速度の吹き量に基づいて学習したりするように構成される。上記初期油圧や低圧待機圧等の所定の係合力の継続時間、或いはその係合力の漸減制御や漸増制御、フィードバック制御等の各種の制御の開始時間などを、学習によって逐次更新したり、漸減制御や漸増制御の変化率等を学習によって更新したりするなど、係合力に関する種々の学習制御が可能である。
【0014】
係合側および解放側の両方を学習制御することもできるが、何れか一方だけ学習制御する場合であっても良い。複数の摩擦係合装置を解放するとともに係合して変速するクラッチツークラッチ変速に限らず、例えば一方向クラッチを有する場合に所定の摩擦係合装置を解放してダウンシフトする際に、その解放側の摩擦係合装置の係合力を学習制御する場合にも本発明は適用され得る。
【0015】
ダウンシフト時出力制御手段の出力指令値は、ダウンシフト時学習制御手段の学習領域が定められた複数の車速領域毎に同じ値であれば良く、必ずしも複数の車速領域毎に異なる出力指令値が設定される必要はなく、例えば車速に拘らず一定の出力指令値が定められても良い。出力指令値や学習値は、車速領域だけでなく、変速の種類毎に定めることが望ましい。
【0016】
出力指令値は、例えば第2発明のように駆動力源のトルクが最大となる値に設定するなど種々の態様が可能であるが、ダウンシフトに伴う入力回転速度の変化幅が小さい低車速領域では、摩擦係合装置の係合、解放制御が間に合わない可能性があるため、そのような低車速領域では比較的小さいトルクを発生するように出力指令値(スロットル指令値など)を設定することが望ましい。すなわち、低車速では小さなトルクを発生し、車速が高くなる程大きなトルクを発生するように出力指令値を設定するのである。第2発明では、少なくとも一部の車速領域(例えば最高車速領域)でエンジントルクが最大となるスロットル指令値が設定されておれば良い。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1の(a) は、本発明が適用された車両用駆動装置の骨子図で、(b) は複数の変速段を成立させる際の係合要素を説明する作動表である。自動変速機10は、FF車両などの横置き用のもので、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体として構成されている第2変速部20とを同軸線上に有し、入力軸22の回転を変速して出力歯車24から出力する。入力軸22は入力部材に相当するもので、走行用駆動力源としてのエンジン40によって回転駆動されるトルクコンバータ42のタービン軸であり、出力歯車24は出力部材に相当するもので、図示しない差動歯車装置を介して左右の駆動輪を回転駆動する。エンジン40は、燃料の燃焼によって出力を発生する内燃機関である。なお、この自動変速機10は中心線に対して略対称的に構成されており、図1(a) では中心線の下半分が省略されている。
【0018】
上記第1変速部14を構成している第1遊星歯車装置12は、サンギヤS1、プラネタリキャリアCA1、およびリングギヤR1の3つの回転要素を備えており、サンギヤS1が入力軸22に連結されて回転駆動されるとともに、リングギヤR1が第3ブレーキB3を介して回転不能にケース26に固定されることにより、プラネタリキャリアCA1が中間出力部材として入力軸22に対して減速回転させられて出力する。また、第2変速部20を構成している第2遊星歯車装置16および第3遊星歯車装置18は、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されており、具体的には、第3遊星歯車装置18のサンギヤS3によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置16のリングギヤR2および第3遊星歯車装置18のリングギヤR3が互いに連結されて第2回転要素RM2が構成され、第2遊星歯車装置16のプラネタリキャリアCA2および第3遊星歯車装置18のプラネタリキャリアCA3が互いに連結されて第3回転要素RM3が構成され、第2遊星歯車装置16のサンギヤS2によって第4回転要素RM4が構成されている。なお、リングギヤR2およびR3、プラネタリキャリアCA2およびCA3は、それぞれ共通の部材にて構成されているとともに、第2遊星歯車装置16のピニオンは第3遊星歯車装置18の第2ピニオン(外側のピニオン)を兼ねている。
【0019】
上記第1回転要素RM1(サンギヤS3)は第1ブレーキB1によって選択的にケース26に連結されて回転停止させられ、第2回転要素RM2(リングギヤR2、R3)は第2ブレーキB2によって選択的にケース26に連結されて回転停止させられ、第4回転要素RM4(サンギヤS2)は第1クラッチC1を介して選択的に前記入力軸22に連結され、第2回転要素RM2(リングギヤR2、R3)は第2クラッチC2を介して選択的に入力軸22に連結され、第1回転要素RM1(サンギヤS3)は中間出力部材である前記第1遊星歯車装置12のプラネタリキャリアCA1に一体的に連結され、第3回転要素RM3(プラネタリキャリアCA2、CA3)は前記出力歯車24に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。
【0020】
上記第1ブレーキB1〜第3ブレーキB3、第1クラッチC1、第2クラッチC2(以下、特に区別しない場合は単にブレーキB、クラッチCという)は、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる多板式の油圧式摩擦係合装置で、油圧制御回路98(図2参照)のソレノイド弁Sol1〜Sol5、およびリニアソレノイド弁SL1、SL2の励磁、非励磁や図示しないマニュアルバルブによって油圧回路が切り換えられることにより、図1(b) に示すように係合、解放状態が切り換えられ、シフトレバー72(図4参照)の操作位置(ポジション)に応じて6つの前進変速段(1st〜6th)および1つの後進変速段が成立させられる。図1(b) の「1st」〜「6th」は前進の第1変速段〜第6変速段を意味しており、第1変速段「1st」から第6変速段「6th」へ向かうに従って変速比(入力軸22の回転速度Nin/出力歯車24の回転速度Nout )は小さくなり、第4変速段「4th」の変速比は1.0である。また、図1(b) において「○」は係合、「×」は解放を表しており、本実施例では総ての前進変速段の切換えに際して、何れか1つの摩擦係合装置を解放するとともに他の1つの摩擦係合装置を係合させるクラッチツークラッチ変速が行われる。
【0021】
図2の油圧制御回路98は、上記変速用のソレノイド弁Sol1〜Sol5、リニアソレノイド弁SL1、SL2の他に、主にロックアップ油圧を制御するリニアソレノイド弁SLU、主にライン油圧PLを制御するリニアソレノイド弁SLTを備えており、油圧制御回路98内の作動油は、トルクコンバータ42のロックアップクラッチへも供給されるとともに、自動変速機10等の各部の潤滑にも使用される。
【0022】
図2は、図1の自動変速機10やエンジン40などを制御するために車両に設けられた制御系統を説明するブロック線図で、アクセルペダル50の操作量Accがアクセル操作量センサ52により検出されるようになっている。アクセルペダル50は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるもので、アクセル操作部材に相当し、アクセル操作量Accは出力要求量に相当する。エンジン40の吸気配管には、スロットルアクチュエータ54によりアクセル操作量Accに応じて開き角(開度)θTHが電気的に制御される電子スロットル弁56が設けられている。この電子スロットル弁56は、エンジン40の出力を制御する出力制御要素に相当する。また、エンジン40の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン40の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、吸入空気の温度TA を検出するための吸入空気温度センサ62、上記電子スロットル弁56の全閉状態(アイドル状態)およびその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットルセンサ64、車速V(出力回転速度Nout に対応)を検出するための車速センサ66、エンジン40の冷却水温TW を検出するための冷却水温センサ68、常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ70、シフトレバー72の操作ポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、タービン回転速度NT(=入力回転速度Nin)を検出するためのタービン回転速度センサ76、油圧制御回路98内の作動油の温度であるAT油温TOIL を検出するためのAT油温センサ78、アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82などが設けられており、それらのセンサやスイッチから、エンジン回転速度NE、吸入空気量Q、吸入空気温度TA 、スロットル弁開度θTH、車速V、エンジン冷却水温TW 、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72の操作ポジションPSH、タービン回転速度NT、AT油温TOIL 、変速レンジのアップ指令RUP、ダウン指令RDN、などを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。
【0023】
電子制御装置90は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、図3に示すエンジン制御手段110および変速制御手段120の各機能を実施するようになっており、必要に応じてエンジン制御用と変速制御用とに分けて構成される。
【0024】
エンジン制御手段110はエンジン40の出力を制御するもので、スロットルアクチュエータ54により電子スロットル弁56を開閉制御する他、燃料噴射量制御のために燃料噴射装置92を制御するとともに、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置94を制御する。電子スロットル弁56の制御は、例えば図5に示す関係(マップ)に従って実際のアクセル操作量Accに基づいてスロットルアクチュエータ54を駆動し、アクセル操作量Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させる。また、エンジン40の始動時には、スタータ(電動モータ)96によってエンジン40のクランク軸をクランキングする。
【0025】
変速制御手段120は自動変速機10の変速段を自動的に切り換えるもので、シフトレバー72の操作ポジションPSHに応じて行われる。シフトレバー72は運転席の近傍に配設され、図4に示す4つの操作ポジション「R(リバース)」、「N(ニュートラル)」、「D(ドライブ)」、または「S(シーケンシャル)」へ手動操作されるようになっている。「R」ポジションは後進走行位置で、「N」ポジションは動力伝達遮断位置で、「D」ポジションは自動変速による前進走行位置で、「S」ポジションは変速可能な高速側の変速段が異なる複数の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行位置であり、シフトレバー72がどの操作ポジションへ操作されているかが前記レバーポジションセンサ74によって検出される。また、操作ポジション「R」、「N」、「D(S)」は車両の前後方向(図4の上方が車両前側)に沿って設けられており、シフトレバー72にケーブルやリンクなどを介して連結された図示しないマニュアルバルブがシフトレバー72の前後操作に伴って機械的に作動させられることにより、油圧回路が切り換えられるようになっており、「R」ポジションではリバース用回路が機械的に成立させられるなどして後進変速段が成立させられ、「N」ポジションではニュートラル回路が機械的に成立させられて総てのクラッチCおよびブレーキBが解放され、動力伝達を遮断するニュートラルが成立させられる。
【0026】
また、前進走行位置である「D」ポジションまたは「S」ポジションへ操作された場合は、同じくシフトレバー72の操作に従ってマニュアルバルブにより油圧回路が切り換えられることにより前進用回路が機械的に成立させられ、前進変速段である第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」で変速しながら前進走行することが可能となる。シフトレバー72が「D」ポジションへ操作された場合は、そのことをレバーポジションセンサ74の信号から判断して自動変速モードを成立させ、第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の総ての前進変速段を用いて変速制御を行う。すなわち、前記ソレノイド弁Sol1〜Sol5、およびリニアソレノイド弁SL1、SL2の励磁、非励磁をそれぞれ制御することにより、油圧回路を切り換えて第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の何れかの前進変速段を成立させるのである。この変速制御は、例えば図6に示すように車速Vおよびアクセル操作量Accをパラメータとして予め記憶された変速マップ(変速条件)に従って行われ、車速Vが低くなったりアクセル操作量Accが大きくなったりするに従って変速比が大きい低速側の変速段を成立させる。なお、スロットル弁開度θTHや吸入空気量Q、路面勾配などに基づいて変速制御を行うなど、種々の態様が可能である。
【0027】
シフトレバー72が「S」ポジションへ操作された場合は、そのことをレバーポジションセンサ74の信号から判断してマニュアル変速モードを成立させる。「S」ポジションは、車両の前後方向において上記「D」ポジションと同じ位置において車両の幅方向に隣接して設けられており、油圧回路は「D」ポジションの時と同じであるが、「D」ポジションで変速可能な変速範囲内すなわち第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の間で定められた複数の変速レンジを任意に選択できるマニュアル変速モードを電気的に成立させるのである。「S」ポジションには、車両の前後方向にアップシフト位置「(+)」、およびダウンシフト位置「(−)」が設けられており、シフトレバー72がそれ等のアップシフト位置「(+)」またはダウンシフト位置「(−)」へ操作されると、そのことが前記アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82によって検出され、アップ指令RUPやダウン指令RDNに従って最高速段すなわち変速比が小さい高速側の変速範囲が異なる複数の変速レンジが電気的に成立させられる。したがって、例えば下り坂などでシフトレバー72をダウンシフト位置「−」へ繰り返し操作すると、変速レンジが切り換えられて最高速段が低下させられることにより、例えば第4変速段「4th」から第3変速段「3rd」、第2変速段「2nd」、第1変速段「1st」へ順次ダウンシフトされて、エンジンブレーキが段階的に増大させられる。
【0028】
上記アップシフト位置「(+)」およびダウンシフト位置「(−)」は何れも不安定で、シフトレバー72はスプリング等の付勢手段により自動的に「S」ポジションへ戻されるようになっており、アップシフト位置「(+)」またはダウンシフト位置「(−)」への操作回数或いは保持時間などに応じて変速レンジが変更される。
【0029】
一方、前進走行時にアクセルペダル50が踏込み操作されることによって行われるダウンシフト、すなわちパワーONダウンシフトに関して、前記変速制御手段120はダウンシフト時学習制御手段122により図7に示すフローチャートに従って係合側および解放側の油圧を学習制御する一方、前記エンジン制御手段110はダウンシフト時スロットル制御手段112により図8に示すフローチャートに従ってスロットル制御を行うようになっている。ダウンシフト時スロットル制御手段122はダウンシフト時出力制御手段に相当する。図11および図12は、上記パワーONダウンシフトの変速過渡時における各部の変化を示すタイムチャートの一例で、図11はアクセルOFFから大きく踏込み操作されたキックダウン変速の場合、図12はアクセルペダル50の緩やかな増し踏みによるパーシャルダウン変速の場合である。
【0030】
図7において、ステップS1では、パワーON時に前記図6に示す変速マップに従ってダウンシフトすべき判断が為されたか否かを判断し、ダウンシフト判断が為された場合には、ステップS2で、逐次書換え可能な記憶装置に記憶されている変速学習値マップ124から変速学習値を読み込む。本実施例では、図9に示すように解放側の初期油圧PA、および係合側の低圧待機圧PB(図11、図12参照)を学習制御するようになっており、何れも車速Vおよび変速の種類に応じて定められた学習領域毎に学習するようになっている。車速Vの学習領域は、例えば10km/h毎など予め定められた車速領域V1 、V2 、V3 ・・・に従って区分されており、初期油圧PA、低圧待機圧PB共に同じ車速領域V1 、V2 、V3 ・・・で区分されている。そして、次のステップS3では、読み込んだ学習値に基づいて初期油圧PA、低圧待機圧PBを制御するとともに、予め定められたに制御条件に従ってフィードバック制御やフィードフォワード制御などを行い、何れか1つの摩擦係合装置を解放するとともに他の1つの摩擦係合装置を係合するクラッチツークラッチ変速を行う。図11、図12の時間t1 は、ダウンシフトのための油圧制御が開始された時間、すなわち変速出力された時間である。なお、初期油圧PAおよび低圧待機圧PBは、学習領域毎に記憶された学習値をそのまま用いて制御されるが、実際の車速Vに応じて直線補間するなどしてきめ細かく制御することもできる。
【0031】
ステップS4では、上記クラッチツークラッチ変速時に、変速出力すなわち油圧制御の開始から、解放側の摩擦係合装置がスリップし始めてイナーシャ相が開始するまでの滑り出し時間A(図11、図12参照)を検出し、ステップS5では、タービン回転速度NTの吹き量積分値B(図11、図12参照)を検出する。滑り出し時間Aは、タービン回転速度NTが変速前の変速段における同期回転速度からずれ始めたか否かを判断することによって検出でき、NT吹き量積分値Bは、タービン回転速度NTが変速後の同期回転速度NTDNよりも上回った分を逐次加算することによって求めることができる。図11、図12の時間t2 は、解放側の摩擦係合装置がスリップし始めてイナーシャ相が開始した時間である。
【0032】
ステップS6では、変速が終了したか否かを、例えばタービン回転速度NTが変速後の同期回転速度NTDNと所定時間以上一致したか否か等によって判断する。図11、図12の時間t4 は変速終了時間で、このように変速が終了したらステップS7を実行し、所定の学習許可条件が成立するか否かを判断する。学習許可条件は、適切な学習制御を行うことができるか否かを判断するためのもので、例えばAT油温TOIL やエンジン冷却水温TW がそれぞれ所定の範囲内であるとともに、車速Vの急な変化や路面μの変化、ABS装置の作動が無いことなどで、本実施例では図8のステップR3以下のスロットル制御が行われることも含んでおり、学習許可条件が成立した場合にはステップS8を実行し、解放側の初期油圧PAについては滑り出し時間Aと予め定められた目標滑り出し時間との偏差に応じて、図9(a) のマップの対応する学習領域の学習値を更新する一方、係合側の低圧待機圧PBについてはNT吹き量積分値Bと予め定められた目標NT吹き量積分値との偏差に応じて、図9(b) のマップの対応する学習領域の学習値を更新する。また、学習許可条件が成立しない場合には、ステップS9を実行して現在の学習値を維持する。
【0033】
一方、前記ダウンシフト時スロットル制御手段112によって実行される図8のステップR1では、パワーONダウンシフトの変速出力が為されたか否か、すなわち図7のステップS3の油圧制御が開始されたか否かを判断し、油圧制御が開始された場合は、ステップR2を実行して制御実施条件が成立するか否かを判断する。この制御実施条件は、前記学習許可条件と同様に例えばAT油温TOIL やエンジン冷却水温TW がそれぞれ所定の範囲内であることなどが定められており、制御実施条件が成立した場合はステップR3以下を実行するが、制御実施条件が成立しない場合にはステップR7を実行し、前記図5に示すマップに従ってアクセル操作量Accに応じてスロットル弁開度θTHを制御する通常のスロットル制御を実施する。
【0034】
ステップR3では、現在の変速段および車速Vに関する情報を取得し、ステップR4では、逐次書換え可能な記憶装置に記憶されているスロットル指令値マップ114から、上記変速段および車速Vに基づいてスロットル指令値を読み込み、そのスロットル指令値に従ってアクセル操作量Accと無関係にスロットル弁開度θTHを一定の値に固定する。スロットル指令値マップ114は、図10に示すように、前記変速学習値マップ124と同様に車速Vおよび変速の種類に応じて定められており、車速領域V1 、V2 、V3 ・・・は変速学習値マップ124と同じである。そして、本実施例では、車速領域V1 、V2 、V3 ・・・毎に異なるスロットル指令値が設定されているとともに、最高車速領域Vn では、ダウンシフトに伴うタービン回転速度NTの変化幅が大きいためエンジントルクが最大となるようにスロットル指令値が全開とされ、車速Vが低くなるに従って変速がゆっくり進行するように、スロットル指令値が小さくされている。このスロットル指令値は出力指令値に相当する。なお、車速領域V1 、V2 、V3 ・・・毎のスロットル指令値をそのまま用いてスロットル弁開度θTHを制御しているが、実際の車速Vに応じて直線補間するなどしてスロットル弁開度θTHをきめ細かく制御することもできる。また、図11、図12のタイムチャートは何れも車速Vが中程度で、スロットル弁開度θTHが中間的な開度に固定されている場合である。図11、図12のスロットル弁開度θTH、エンジントルク、および出力軸トルクのグラフの実線は本実施例の場合で、一点鎖線はアクセル操作量Accに応じてスロットル弁開度θTHが制御された場合である。
【0035】
次のステップR5では、予め定められた所定の設定状態まで変速が進行したか否かを判断し、所定の設定状態まで変速が進行した場合には、ステップR6を実行してスロットル弁開度θTHの復帰制御を行う。所定の設定状態は、変速終了後に速やかにアクセル操作量Accに応じた出力軸トルクが得られるように、具体的はスロットル弁開度θTHを前記図5のマップに従って求められる値までショックを生じることなく復帰させることができるように、ステップR6の復帰制御の内容に応じて、例えばタービン回転速度NTが変速後の同期回転速度NTDNよりも少し低い回転速度(例えば−50rpmなど)に達したか否かによって判断する。ステップR6の復帰制御は、スロットル弁開度θTHを所定の変化率で変化させるもので、その変化率は、例えば図10のマップと同様に車速Vおよび変速の種類に応じて設定される。また、実際のアクセル操作量Accに応じて図5のマップに従って求められる目標スロットル弁開度との偏差に応じて変化率を設定することもできる。図11、図12の時間t3 は、ステップR5の判断がYESとなってスロットル弁開度θTHの復帰制御が開始された時間である。
【0036】
このように、本実施例のダウンシフト時制御装置においては、自動変速機10をダウンシフトする際の変速過渡時には、エンジン40のスロットル弁開度θTHが、ダウンシフト時学習制御手段122の学習領域が定められた複数の車速領域V1 、V2 、V3 ・・・毎にそれぞれ同じ値となるようにアクセル操作量Accと無関係にスロットル指令値マップ114に設定されたスロットル指令値に従って制御されるため、車速領域V1 、V2 、V3 ・・・が同じであればアクセル操作の相違に拘らずエンジン出力が略一定とされ、且つその車速領域V1 、V2 、V3 ・・・に応じてダウンシフトの学習制御が行われるため、ダウンシフト時学習制御手段122による学習制御が安定して、常に適切な変速制御が行われるようになる。
【0037】
また、上記スロットル指令値マップ114は、最高車速領域Vn ではエンジントルクが最大となるようにスロットル指令値が全開とされ、車速Vが低くなるに従ってスロットル指令値が小さくされているため、ダウンシフトに伴うタービン回転速度NTの変化幅が大きい高車速側では、大きなスロットル弁開度θTHによる大きなエンジントルクでタービン回転速度NTが速やかに上昇させられて、変速応答性が向上する一方、ダウンシフトに伴うタービン回転速度NTの変化幅が小さい低車速側では、小さなスロットル弁開度θTHによる小さなエンジントルクでタービン回転速度NTが緩やかに上昇させられるため、変速制御手段120による変速制御(油圧制御)が間に合わなくてエンジン吹き等のショックが生じることが抑制される。
【0038】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明が適用された車両用駆動装置の一例を説明する図で、(a) は骨子図、(b) は複数の変速段を成立させるための係合要素を説明する作動表である。
【図2】図1の車両用駆動装置が備えている制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図3】図1の自動変速機のダウンシフト時の制御に関して図2の電子制御装置が備えている機能を説明するブロック線図である。
【図4】図2のシフトレバーを具体的に示す斜視図である。
【図5】図2の電子スロットル弁のスロットル弁開度とアクセル操作量との関係を示す図である。
【図6】図1の自動変速機の変速段を運転状態に応じて自動的に切り換える変速マップの一例を説明する図である。
【図7】図3のダウンシフト時学習制御手段による信号処理を具体的に説明するフローチャートである。
【図8】図3のダウンシフト時スロットル制御手段による信号処理を具体的に説明するフローチャートである。
【図9】図3の変速学習値マップの一例を説明する図である。
【図10】図3のスロットル指令値マップの一例を説明する図である。
【図11】キックダウン変速時に図7および図8のフローチャートに従ってダウンシフト時の学習制御およびエンジン制御が行われた場合の各部の変化を示すタイムチャートの一例である。
【図12】パーシャルダウン変速時に図7および図8のフローチャートに従ってダウンシフト時の学習制御およびエンジン制御が行われた場合の各部の変化を示すタイムチャートの一例である。
【符号の説明】
【0040】
10:自動変速機 40:エンジン(駆動力源) 56:電子スロットル弁(出力制御要素) 90:電子制御装置 112:ダウンシフト時スロットル制御手段(ダウンシフト時出力制御手段) 122:ダウンシフト時学習制御手段 C1、C2:クラッチ(摩擦係合装置) B1、B2、B3:ブレーキ(摩擦係合装置) V1 、V2 、V3 ・・・:車速領域 θTH:スロットル弁開度 Acc:アクセル操作量
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の制御装置に係り、特に、ダウンシフト時のエンジン出力制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 出力を電気的に制御できる車両走行用の駆動力源と、(b) その駆動力源からの動力伝達経路に配設されるとともに、複数の摩擦係合装置の係合、解放状態に応じて変速比が異なる複数の変速段を成立させる自動変速機と、(c) その自動変速機をダウンシフトする際の変速過渡時に、アクセル操作量すなわち運転者の出力要求量の変化に拘らず前記駆動力源の出力制御要素を一定に保持するダウンシフト時出力制御手段と、を有する車両の制御装置が知られている。特許文献1に記載の装置はその一例で、車両走行用の駆動力源としてエンジンを備えているとともに、変速中にアクセル操作量が変化してもエンジンのスロットル弁開度(出力制御要素)を変速直前の一定の値に固定するようになっており、これによりエンジン出力が略一定に維持されて、変速制御が簡略化されるとともに変速ショックの発生が抑制される。
【0003】
【特許文献1】特開平6−330777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、かかる従来の制御装置においては、スロットル弁開度が変速直前の値に固定されるため、アクセル操作量の変化速度が大きいキックダウン時とアクセル操作量の変化速度が小さいパーシャルダウン時とでスロットル弁開度が相違し、それに伴うエンジン出力の変化で変速制御が損なわれる場合があった。すなわち、各部の個体差や経時変化に拘らず適切な変速制御が行われるように、自動変速機をダウンシフトする際に係合または解放される摩擦係合装置の係合力、例えば解放側の初期油圧や係合側の低圧待機圧などを、変速の進行状況やエンジン吹きの程度等に応じて学習することが行われているが、スロットル弁開度の相違に伴ってエンジン出力が変化すると学習制御が不安定となり、変速制御が悪化することがある。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、アクセルON(パワーON)時のダウンシフト制御に関して、アクセル操作の相違に拘らず学習制御が安定して行われるようにして常に適切な変速制御が行われるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 出力を電気的に制御できる車両走行用の駆動力源と、(b) その駆動力源からの動力伝達経路に配設されるとともに、複数の摩擦係合装置の係合、解放状態に応じて変速比が異なる複数の変速段を成立させる自動変速機と、(c) その自動変速機をダウンシフトする際の変速過渡時に、アクセル操作量の変化に拘らず前記駆動力源の出力制御要素を一定に保持するダウンシフト時出力制御手段と、(d) 前記自動変速機をダウンシフトする際に係合または解放される前記摩擦係合装置の係合力を、車速に応じて学習領域が定められた学習値に基づいて制御するダウンシフト時学習制御手段と、を有する車両のダウンシフト時制御装置において、(e) 前記ダウンシフト時出力制御手段は、前記ダウンシフト時学習制御手段の学習領域が定められた複数の車速領域毎にそれぞれ同じ値となるように、前記アクセル操作量と無関係に予め設定された出力指令値に従って前記出力制御要素を制御することを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明の車両のダウンシフト時制御装置において、(a) 前記駆動力源は、スロットル弁開度を電気的に制御できる電子スロットル弁を前記出力制御要素として備えているエンジンで、(b) 前記ダウンシフト時出力制御手段は前記スロットル弁開度を制御するもので、(c) 前記出力指令値は、前記エンジンのトルクが最大となるように定められたスロットル指令値であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このような車両のダウンシフト時制御装置においては、自動変速機をダウンシフトする際の変速過渡時には、ダウンシフト時学習制御手段の学習領域が定められた複数の車速領域毎にそれぞれ同じ値となるように、アクセル操作量すなわち運転者の出力要求量とは無関係に予め設定された出力指令値に従って駆動力源の出力制御要素が制御されるため、車速領域が同じであればアクセル操作の相違に拘らず駆動力源の出力が略一定とされ、且つその車速領域に応じて学習制御が行われるため、ダウンシフト時学習制御手段による学習制御が安定して、常に適切な変速制御が行われるようになる。
【0009】
第2発明は、駆動力源としてエンジンを備えており、そのスロットル弁開度によってエンジン出力を制御する場合で、ダウンシフト時の出力指令値としてエンジントルクが最大となるスロットル指令値が設定されているため、入力回転速度が速やかに上昇させられて変速応答性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
車両走行用の駆動力源としては、燃料の燃焼によって出力を発生する内燃機関等のエンジンが好適に用いられるが、電動モータなどの他の駆動力源を採用することもできる。第2発明では、電子スロットル弁によってエンジン出力を制御するようになっているが、吸排気バルブのリフト量などでエンジン出力を制御することもできるなど、種々の態様が可能である。
【0011】
自動変速機としては、複数の遊星歯車装置を有する遊星歯車式の自動変速機が好適に用いられるが、複数の入力経路を切り換えて変速する平行軸式の自動変速機を用いることもできるなど、複数の摩擦係合装置の係合、解放状態を切り換えて変速する種々の自動変速機を採用できる。摩擦係合装置は、例えば油圧アクチュエータによって摩擦係合させられるクラッチやブレーキ等で、その場合は油圧によって係合力(トルク容量)を制御できるが、電磁力で係合力を制御するものなど他の摩擦係合装置を用いることもできる。
【0012】
自動変速機は、車速やアクセル操作量等の運転状態に応じて自動的に変速段を切り換えるものでも、運転者の変速指令に従って変速段を切り換えるものでも良い。
【0013】
ダウンシフト時学習制御手段は、例えばクラッチツークラッチ変速によってダウンシフトが行われる場合に、係合側の摩擦係合装置の初期油圧(係合力)を、イナーシャ相が開始する滑り出し時間が所定の範囲内となるように学習したり、解放側の摩擦係合装置の低圧待機圧(係合力)を、入力回転速度の吹き量に基づいて学習したりするように構成される。上記初期油圧や低圧待機圧等の所定の係合力の継続時間、或いはその係合力の漸減制御や漸増制御、フィードバック制御等の各種の制御の開始時間などを、学習によって逐次更新したり、漸減制御や漸増制御の変化率等を学習によって更新したりするなど、係合力に関する種々の学習制御が可能である。
【0014】
係合側および解放側の両方を学習制御することもできるが、何れか一方だけ学習制御する場合であっても良い。複数の摩擦係合装置を解放するとともに係合して変速するクラッチツークラッチ変速に限らず、例えば一方向クラッチを有する場合に所定の摩擦係合装置を解放してダウンシフトする際に、その解放側の摩擦係合装置の係合力を学習制御する場合にも本発明は適用され得る。
【0015】
ダウンシフト時出力制御手段の出力指令値は、ダウンシフト時学習制御手段の学習領域が定められた複数の車速領域毎に同じ値であれば良く、必ずしも複数の車速領域毎に異なる出力指令値が設定される必要はなく、例えば車速に拘らず一定の出力指令値が定められても良い。出力指令値や学習値は、車速領域だけでなく、変速の種類毎に定めることが望ましい。
【0016】
出力指令値は、例えば第2発明のように駆動力源のトルクが最大となる値に設定するなど種々の態様が可能であるが、ダウンシフトに伴う入力回転速度の変化幅が小さい低車速領域では、摩擦係合装置の係合、解放制御が間に合わない可能性があるため、そのような低車速領域では比較的小さいトルクを発生するように出力指令値(スロットル指令値など)を設定することが望ましい。すなわち、低車速では小さなトルクを発生し、車速が高くなる程大きなトルクを発生するように出力指令値を設定するのである。第2発明では、少なくとも一部の車速領域(例えば最高車速領域)でエンジントルクが最大となるスロットル指令値が設定されておれば良い。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1の(a) は、本発明が適用された車両用駆動装置の骨子図で、(b) は複数の変速段を成立させる際の係合要素を説明する作動表である。自動変速機10は、FF車両などの横置き用のもので、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体として構成されている第2変速部20とを同軸線上に有し、入力軸22の回転を変速して出力歯車24から出力する。入力軸22は入力部材に相当するもので、走行用駆動力源としてのエンジン40によって回転駆動されるトルクコンバータ42のタービン軸であり、出力歯車24は出力部材に相当するもので、図示しない差動歯車装置を介して左右の駆動輪を回転駆動する。エンジン40は、燃料の燃焼によって出力を発生する内燃機関である。なお、この自動変速機10は中心線に対して略対称的に構成されており、図1(a) では中心線の下半分が省略されている。
【0018】
上記第1変速部14を構成している第1遊星歯車装置12は、サンギヤS1、プラネタリキャリアCA1、およびリングギヤR1の3つの回転要素を備えており、サンギヤS1が入力軸22に連結されて回転駆動されるとともに、リングギヤR1が第3ブレーキB3を介して回転不能にケース26に固定されることにより、プラネタリキャリアCA1が中間出力部材として入力軸22に対して減速回転させられて出力する。また、第2変速部20を構成している第2遊星歯車装置16および第3遊星歯車装置18は、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されており、具体的には、第3遊星歯車装置18のサンギヤS3によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置16のリングギヤR2および第3遊星歯車装置18のリングギヤR3が互いに連結されて第2回転要素RM2が構成され、第2遊星歯車装置16のプラネタリキャリアCA2および第3遊星歯車装置18のプラネタリキャリアCA3が互いに連結されて第3回転要素RM3が構成され、第2遊星歯車装置16のサンギヤS2によって第4回転要素RM4が構成されている。なお、リングギヤR2およびR3、プラネタリキャリアCA2およびCA3は、それぞれ共通の部材にて構成されているとともに、第2遊星歯車装置16のピニオンは第3遊星歯車装置18の第2ピニオン(外側のピニオン)を兼ねている。
【0019】
上記第1回転要素RM1(サンギヤS3)は第1ブレーキB1によって選択的にケース26に連結されて回転停止させられ、第2回転要素RM2(リングギヤR2、R3)は第2ブレーキB2によって選択的にケース26に連結されて回転停止させられ、第4回転要素RM4(サンギヤS2)は第1クラッチC1を介して選択的に前記入力軸22に連結され、第2回転要素RM2(リングギヤR2、R3)は第2クラッチC2を介して選択的に入力軸22に連結され、第1回転要素RM1(サンギヤS3)は中間出力部材である前記第1遊星歯車装置12のプラネタリキャリアCA1に一体的に連結され、第3回転要素RM3(プラネタリキャリアCA2、CA3)は前記出力歯車24に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。
【0020】
上記第1ブレーキB1〜第3ブレーキB3、第1クラッチC1、第2クラッチC2(以下、特に区別しない場合は単にブレーキB、クラッチCという)は、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる多板式の油圧式摩擦係合装置で、油圧制御回路98(図2参照)のソレノイド弁Sol1〜Sol5、およびリニアソレノイド弁SL1、SL2の励磁、非励磁や図示しないマニュアルバルブによって油圧回路が切り換えられることにより、図1(b) に示すように係合、解放状態が切り換えられ、シフトレバー72(図4参照)の操作位置(ポジション)に応じて6つの前進変速段(1st〜6th)および1つの後進変速段が成立させられる。図1(b) の「1st」〜「6th」は前進の第1変速段〜第6変速段を意味しており、第1変速段「1st」から第6変速段「6th」へ向かうに従って変速比(入力軸22の回転速度Nin/出力歯車24の回転速度Nout )は小さくなり、第4変速段「4th」の変速比は1.0である。また、図1(b) において「○」は係合、「×」は解放を表しており、本実施例では総ての前進変速段の切換えに際して、何れか1つの摩擦係合装置を解放するとともに他の1つの摩擦係合装置を係合させるクラッチツークラッチ変速が行われる。
【0021】
図2の油圧制御回路98は、上記変速用のソレノイド弁Sol1〜Sol5、リニアソレノイド弁SL1、SL2の他に、主にロックアップ油圧を制御するリニアソレノイド弁SLU、主にライン油圧PLを制御するリニアソレノイド弁SLTを備えており、油圧制御回路98内の作動油は、トルクコンバータ42のロックアップクラッチへも供給されるとともに、自動変速機10等の各部の潤滑にも使用される。
【0022】
図2は、図1の自動変速機10やエンジン40などを制御するために車両に設けられた制御系統を説明するブロック線図で、アクセルペダル50の操作量Accがアクセル操作量センサ52により検出されるようになっている。アクセルペダル50は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるもので、アクセル操作部材に相当し、アクセル操作量Accは出力要求量に相当する。エンジン40の吸気配管には、スロットルアクチュエータ54によりアクセル操作量Accに応じて開き角(開度)θTHが電気的に制御される電子スロットル弁56が設けられている。この電子スロットル弁56は、エンジン40の出力を制御する出力制御要素に相当する。また、エンジン40の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン40の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、吸入空気の温度TA を検出するための吸入空気温度センサ62、上記電子スロットル弁56の全閉状態(アイドル状態)およびその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットルセンサ64、車速V(出力回転速度Nout に対応)を検出するための車速センサ66、エンジン40の冷却水温TW を検出するための冷却水温センサ68、常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ70、シフトレバー72の操作ポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、タービン回転速度NT(=入力回転速度Nin)を検出するためのタービン回転速度センサ76、油圧制御回路98内の作動油の温度であるAT油温TOIL を検出するためのAT油温センサ78、アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82などが設けられており、それらのセンサやスイッチから、エンジン回転速度NE、吸入空気量Q、吸入空気温度TA 、スロットル弁開度θTH、車速V、エンジン冷却水温TW 、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72の操作ポジションPSH、タービン回転速度NT、AT油温TOIL 、変速レンジのアップ指令RUP、ダウン指令RDN、などを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。
【0023】
電子制御装置90は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、図3に示すエンジン制御手段110および変速制御手段120の各機能を実施するようになっており、必要に応じてエンジン制御用と変速制御用とに分けて構成される。
【0024】
エンジン制御手段110はエンジン40の出力を制御するもので、スロットルアクチュエータ54により電子スロットル弁56を開閉制御する他、燃料噴射量制御のために燃料噴射装置92を制御するとともに、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置94を制御する。電子スロットル弁56の制御は、例えば図5に示す関係(マップ)に従って実際のアクセル操作量Accに基づいてスロットルアクチュエータ54を駆動し、アクセル操作量Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させる。また、エンジン40の始動時には、スタータ(電動モータ)96によってエンジン40のクランク軸をクランキングする。
【0025】
変速制御手段120は自動変速機10の変速段を自動的に切り換えるもので、シフトレバー72の操作ポジションPSHに応じて行われる。シフトレバー72は運転席の近傍に配設され、図4に示す4つの操作ポジション「R(リバース)」、「N(ニュートラル)」、「D(ドライブ)」、または「S(シーケンシャル)」へ手動操作されるようになっている。「R」ポジションは後進走行位置で、「N」ポジションは動力伝達遮断位置で、「D」ポジションは自動変速による前進走行位置で、「S」ポジションは変速可能な高速側の変速段が異なる複数の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行位置であり、シフトレバー72がどの操作ポジションへ操作されているかが前記レバーポジションセンサ74によって検出される。また、操作ポジション「R」、「N」、「D(S)」は車両の前後方向(図4の上方が車両前側)に沿って設けられており、シフトレバー72にケーブルやリンクなどを介して連結された図示しないマニュアルバルブがシフトレバー72の前後操作に伴って機械的に作動させられることにより、油圧回路が切り換えられるようになっており、「R」ポジションではリバース用回路が機械的に成立させられるなどして後進変速段が成立させられ、「N」ポジションではニュートラル回路が機械的に成立させられて総てのクラッチCおよびブレーキBが解放され、動力伝達を遮断するニュートラルが成立させられる。
【0026】
また、前進走行位置である「D」ポジションまたは「S」ポジションへ操作された場合は、同じくシフトレバー72の操作に従ってマニュアルバルブにより油圧回路が切り換えられることにより前進用回路が機械的に成立させられ、前進変速段である第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」で変速しながら前進走行することが可能となる。シフトレバー72が「D」ポジションへ操作された場合は、そのことをレバーポジションセンサ74の信号から判断して自動変速モードを成立させ、第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の総ての前進変速段を用いて変速制御を行う。すなわち、前記ソレノイド弁Sol1〜Sol5、およびリニアソレノイド弁SL1、SL2の励磁、非励磁をそれぞれ制御することにより、油圧回路を切り換えて第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の何れかの前進変速段を成立させるのである。この変速制御は、例えば図6に示すように車速Vおよびアクセル操作量Accをパラメータとして予め記憶された変速マップ(変速条件)に従って行われ、車速Vが低くなったりアクセル操作量Accが大きくなったりするに従って変速比が大きい低速側の変速段を成立させる。なお、スロットル弁開度θTHや吸入空気量Q、路面勾配などに基づいて変速制御を行うなど、種々の態様が可能である。
【0027】
シフトレバー72が「S」ポジションへ操作された場合は、そのことをレバーポジションセンサ74の信号から判断してマニュアル変速モードを成立させる。「S」ポジションは、車両の前後方向において上記「D」ポジションと同じ位置において車両の幅方向に隣接して設けられており、油圧回路は「D」ポジションの時と同じであるが、「D」ポジションで変速可能な変速範囲内すなわち第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の間で定められた複数の変速レンジを任意に選択できるマニュアル変速モードを電気的に成立させるのである。「S」ポジションには、車両の前後方向にアップシフト位置「(+)」、およびダウンシフト位置「(−)」が設けられており、シフトレバー72がそれ等のアップシフト位置「(+)」またはダウンシフト位置「(−)」へ操作されると、そのことが前記アップシフトスイッチ80、ダウンシフトスイッチ82によって検出され、アップ指令RUPやダウン指令RDNに従って最高速段すなわち変速比が小さい高速側の変速範囲が異なる複数の変速レンジが電気的に成立させられる。したがって、例えば下り坂などでシフトレバー72をダウンシフト位置「−」へ繰り返し操作すると、変速レンジが切り換えられて最高速段が低下させられることにより、例えば第4変速段「4th」から第3変速段「3rd」、第2変速段「2nd」、第1変速段「1st」へ順次ダウンシフトされて、エンジンブレーキが段階的に増大させられる。
【0028】
上記アップシフト位置「(+)」およびダウンシフト位置「(−)」は何れも不安定で、シフトレバー72はスプリング等の付勢手段により自動的に「S」ポジションへ戻されるようになっており、アップシフト位置「(+)」またはダウンシフト位置「(−)」への操作回数或いは保持時間などに応じて変速レンジが変更される。
【0029】
一方、前進走行時にアクセルペダル50が踏込み操作されることによって行われるダウンシフト、すなわちパワーONダウンシフトに関して、前記変速制御手段120はダウンシフト時学習制御手段122により図7に示すフローチャートに従って係合側および解放側の油圧を学習制御する一方、前記エンジン制御手段110はダウンシフト時スロットル制御手段112により図8に示すフローチャートに従ってスロットル制御を行うようになっている。ダウンシフト時スロットル制御手段122はダウンシフト時出力制御手段に相当する。図11および図12は、上記パワーONダウンシフトの変速過渡時における各部の変化を示すタイムチャートの一例で、図11はアクセルOFFから大きく踏込み操作されたキックダウン変速の場合、図12はアクセルペダル50の緩やかな増し踏みによるパーシャルダウン変速の場合である。
【0030】
図7において、ステップS1では、パワーON時に前記図6に示す変速マップに従ってダウンシフトすべき判断が為されたか否かを判断し、ダウンシフト判断が為された場合には、ステップS2で、逐次書換え可能な記憶装置に記憶されている変速学習値マップ124から変速学習値を読み込む。本実施例では、図9に示すように解放側の初期油圧PA、および係合側の低圧待機圧PB(図11、図12参照)を学習制御するようになっており、何れも車速Vおよび変速の種類に応じて定められた学習領域毎に学習するようになっている。車速Vの学習領域は、例えば10km/h毎など予め定められた車速領域V1 、V2 、V3 ・・・に従って区分されており、初期油圧PA、低圧待機圧PB共に同じ車速領域V1 、V2 、V3 ・・・で区分されている。そして、次のステップS3では、読み込んだ学習値に基づいて初期油圧PA、低圧待機圧PBを制御するとともに、予め定められたに制御条件に従ってフィードバック制御やフィードフォワード制御などを行い、何れか1つの摩擦係合装置を解放するとともに他の1つの摩擦係合装置を係合するクラッチツークラッチ変速を行う。図11、図12の時間t1 は、ダウンシフトのための油圧制御が開始された時間、すなわち変速出力された時間である。なお、初期油圧PAおよび低圧待機圧PBは、学習領域毎に記憶された学習値をそのまま用いて制御されるが、実際の車速Vに応じて直線補間するなどしてきめ細かく制御することもできる。
【0031】
ステップS4では、上記クラッチツークラッチ変速時に、変速出力すなわち油圧制御の開始から、解放側の摩擦係合装置がスリップし始めてイナーシャ相が開始するまでの滑り出し時間A(図11、図12参照)を検出し、ステップS5では、タービン回転速度NTの吹き量積分値B(図11、図12参照)を検出する。滑り出し時間Aは、タービン回転速度NTが変速前の変速段における同期回転速度からずれ始めたか否かを判断することによって検出でき、NT吹き量積分値Bは、タービン回転速度NTが変速後の同期回転速度NTDNよりも上回った分を逐次加算することによって求めることができる。図11、図12の時間t2 は、解放側の摩擦係合装置がスリップし始めてイナーシャ相が開始した時間である。
【0032】
ステップS6では、変速が終了したか否かを、例えばタービン回転速度NTが変速後の同期回転速度NTDNと所定時間以上一致したか否か等によって判断する。図11、図12の時間t4 は変速終了時間で、このように変速が終了したらステップS7を実行し、所定の学習許可条件が成立するか否かを判断する。学習許可条件は、適切な学習制御を行うことができるか否かを判断するためのもので、例えばAT油温TOIL やエンジン冷却水温TW がそれぞれ所定の範囲内であるとともに、車速Vの急な変化や路面μの変化、ABS装置の作動が無いことなどで、本実施例では図8のステップR3以下のスロットル制御が行われることも含んでおり、学習許可条件が成立した場合にはステップS8を実行し、解放側の初期油圧PAについては滑り出し時間Aと予め定められた目標滑り出し時間との偏差に応じて、図9(a) のマップの対応する学習領域の学習値を更新する一方、係合側の低圧待機圧PBについてはNT吹き量積分値Bと予め定められた目標NT吹き量積分値との偏差に応じて、図9(b) のマップの対応する学習領域の学習値を更新する。また、学習許可条件が成立しない場合には、ステップS9を実行して現在の学習値を維持する。
【0033】
一方、前記ダウンシフト時スロットル制御手段112によって実行される図8のステップR1では、パワーONダウンシフトの変速出力が為されたか否か、すなわち図7のステップS3の油圧制御が開始されたか否かを判断し、油圧制御が開始された場合は、ステップR2を実行して制御実施条件が成立するか否かを判断する。この制御実施条件は、前記学習許可条件と同様に例えばAT油温TOIL やエンジン冷却水温TW がそれぞれ所定の範囲内であることなどが定められており、制御実施条件が成立した場合はステップR3以下を実行するが、制御実施条件が成立しない場合にはステップR7を実行し、前記図5に示すマップに従ってアクセル操作量Accに応じてスロットル弁開度θTHを制御する通常のスロットル制御を実施する。
【0034】
ステップR3では、現在の変速段および車速Vに関する情報を取得し、ステップR4では、逐次書換え可能な記憶装置に記憶されているスロットル指令値マップ114から、上記変速段および車速Vに基づいてスロットル指令値を読み込み、そのスロットル指令値に従ってアクセル操作量Accと無関係にスロットル弁開度θTHを一定の値に固定する。スロットル指令値マップ114は、図10に示すように、前記変速学習値マップ124と同様に車速Vおよび変速の種類に応じて定められており、車速領域V1 、V2 、V3 ・・・は変速学習値マップ124と同じである。そして、本実施例では、車速領域V1 、V2 、V3 ・・・毎に異なるスロットル指令値が設定されているとともに、最高車速領域Vn では、ダウンシフトに伴うタービン回転速度NTの変化幅が大きいためエンジントルクが最大となるようにスロットル指令値が全開とされ、車速Vが低くなるに従って変速がゆっくり進行するように、スロットル指令値が小さくされている。このスロットル指令値は出力指令値に相当する。なお、車速領域V1 、V2 、V3 ・・・毎のスロットル指令値をそのまま用いてスロットル弁開度θTHを制御しているが、実際の車速Vに応じて直線補間するなどしてスロットル弁開度θTHをきめ細かく制御することもできる。また、図11、図12のタイムチャートは何れも車速Vが中程度で、スロットル弁開度θTHが中間的な開度に固定されている場合である。図11、図12のスロットル弁開度θTH、エンジントルク、および出力軸トルクのグラフの実線は本実施例の場合で、一点鎖線はアクセル操作量Accに応じてスロットル弁開度θTHが制御された場合である。
【0035】
次のステップR5では、予め定められた所定の設定状態まで変速が進行したか否かを判断し、所定の設定状態まで変速が進行した場合には、ステップR6を実行してスロットル弁開度θTHの復帰制御を行う。所定の設定状態は、変速終了後に速やかにアクセル操作量Accに応じた出力軸トルクが得られるように、具体的はスロットル弁開度θTHを前記図5のマップに従って求められる値までショックを生じることなく復帰させることができるように、ステップR6の復帰制御の内容に応じて、例えばタービン回転速度NTが変速後の同期回転速度NTDNよりも少し低い回転速度(例えば−50rpmなど)に達したか否かによって判断する。ステップR6の復帰制御は、スロットル弁開度θTHを所定の変化率で変化させるもので、その変化率は、例えば図10のマップと同様に車速Vおよび変速の種類に応じて設定される。また、実際のアクセル操作量Accに応じて図5のマップに従って求められる目標スロットル弁開度との偏差に応じて変化率を設定することもできる。図11、図12の時間t3 は、ステップR5の判断がYESとなってスロットル弁開度θTHの復帰制御が開始された時間である。
【0036】
このように、本実施例のダウンシフト時制御装置においては、自動変速機10をダウンシフトする際の変速過渡時には、エンジン40のスロットル弁開度θTHが、ダウンシフト時学習制御手段122の学習領域が定められた複数の車速領域V1 、V2 、V3 ・・・毎にそれぞれ同じ値となるようにアクセル操作量Accと無関係にスロットル指令値マップ114に設定されたスロットル指令値に従って制御されるため、車速領域V1 、V2 、V3 ・・・が同じであればアクセル操作の相違に拘らずエンジン出力が略一定とされ、且つその車速領域V1 、V2 、V3 ・・・に応じてダウンシフトの学習制御が行われるため、ダウンシフト時学習制御手段122による学習制御が安定して、常に適切な変速制御が行われるようになる。
【0037】
また、上記スロットル指令値マップ114は、最高車速領域Vn ではエンジントルクが最大となるようにスロットル指令値が全開とされ、車速Vが低くなるに従ってスロットル指令値が小さくされているため、ダウンシフトに伴うタービン回転速度NTの変化幅が大きい高車速側では、大きなスロットル弁開度θTHによる大きなエンジントルクでタービン回転速度NTが速やかに上昇させられて、変速応答性が向上する一方、ダウンシフトに伴うタービン回転速度NTの変化幅が小さい低車速側では、小さなスロットル弁開度θTHによる小さなエンジントルクでタービン回転速度NTが緩やかに上昇させられるため、変速制御手段120による変速制御(油圧制御)が間に合わなくてエンジン吹き等のショックが生じることが抑制される。
【0038】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明が適用された車両用駆動装置の一例を説明する図で、(a) は骨子図、(b) は複数の変速段を成立させるための係合要素を説明する作動表である。
【図2】図1の車両用駆動装置が備えている制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図3】図1の自動変速機のダウンシフト時の制御に関して図2の電子制御装置が備えている機能を説明するブロック線図である。
【図4】図2のシフトレバーを具体的に示す斜視図である。
【図5】図2の電子スロットル弁のスロットル弁開度とアクセル操作量との関係を示す図である。
【図6】図1の自動変速機の変速段を運転状態に応じて自動的に切り換える変速マップの一例を説明する図である。
【図7】図3のダウンシフト時学習制御手段による信号処理を具体的に説明するフローチャートである。
【図8】図3のダウンシフト時スロットル制御手段による信号処理を具体的に説明するフローチャートである。
【図9】図3の変速学習値マップの一例を説明する図である。
【図10】図3のスロットル指令値マップの一例を説明する図である。
【図11】キックダウン変速時に図7および図8のフローチャートに従ってダウンシフト時の学習制御およびエンジン制御が行われた場合の各部の変化を示すタイムチャートの一例である。
【図12】パーシャルダウン変速時に図7および図8のフローチャートに従ってダウンシフト時の学習制御およびエンジン制御が行われた場合の各部の変化を示すタイムチャートの一例である。
【符号の説明】
【0040】
10:自動変速機 40:エンジン(駆動力源) 56:電子スロットル弁(出力制御要素) 90:電子制御装置 112:ダウンシフト時スロットル制御手段(ダウンシフト時出力制御手段) 122:ダウンシフト時学習制御手段 C1、C2:クラッチ(摩擦係合装置) B1、B2、B3:ブレーキ(摩擦係合装置) V1 、V2 、V3 ・・・:車速領域 θTH:スロットル弁開度 Acc:アクセル操作量
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力を電気的に制御できる車両走行用の駆動力源と、
該駆動力源からの動力伝達経路に配設されるとともに、複数の摩擦係合装置の係合、解放状態に応じて変速比が異なる複数の変速段を成立させる自動変速機と、
該自動変速機をダウンシフトする際の変速過渡時に、アクセル操作量の変化に拘らず前記駆動力源の出力制御要素を一定に保持するダウンシフト時出力制御手段と、
前記自動変速機をダウンシフトする際に係合または解放される前記摩擦係合装置の係合力を、車速に応じて学習領域が定められた学習値に基づいて制御するダウンシフト時学習制御手段と、
を有する車両のダウンシフト時制御装置において、
前記ダウンシフト時出力制御手段は、前記ダウンシフト時学習制御手段の学習領域が定められた複数の車速領域毎にそれぞれ同じ値となるように、前記アクセル操作量と無関係に予め設定された出力指令値に従って前記出力制御要素を制御する
ことを特徴とする車両のダウンシフト時制御装置。
【請求項2】
前記駆動力源は、スロットル弁開度を電気的に制御できる電子スロットル弁を前記出力制御要素として備えているエンジンで、
前記ダウンシフト時出力制御手段は前記スロットル弁開度を制御するもので、
前記出力指令値は、前記エンジンのトルクが最大となるように定められたスロットル指令値である
ことを特徴とする請求項1に記載の車両のダウンシフト時制御装置。
【請求項1】
出力を電気的に制御できる車両走行用の駆動力源と、
該駆動力源からの動力伝達経路に配設されるとともに、複数の摩擦係合装置の係合、解放状態に応じて変速比が異なる複数の変速段を成立させる自動変速機と、
該自動変速機をダウンシフトする際の変速過渡時に、アクセル操作量の変化に拘らず前記駆動力源の出力制御要素を一定に保持するダウンシフト時出力制御手段と、
前記自動変速機をダウンシフトする際に係合または解放される前記摩擦係合装置の係合力を、車速に応じて学習領域が定められた学習値に基づいて制御するダウンシフト時学習制御手段と、
を有する車両のダウンシフト時制御装置において、
前記ダウンシフト時出力制御手段は、前記ダウンシフト時学習制御手段の学習領域が定められた複数の車速領域毎にそれぞれ同じ値となるように、前記アクセル操作量と無関係に予め設定された出力指令値に従って前記出力制御要素を制御する
ことを特徴とする車両のダウンシフト時制御装置。
【請求項2】
前記駆動力源は、スロットル弁開度を電気的に制御できる電子スロットル弁を前記出力制御要素として備えているエンジンで、
前記ダウンシフト時出力制御手段は前記スロットル弁開度を制御するもので、
前記出力指令値は、前記エンジンのトルクが最大となるように定められたスロットル指令値である
ことを特徴とする請求項1に記載の車両のダウンシフト時制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−29488(P2006−29488A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210997(P2004−210997)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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