車両の制駆動力制御装置
【課題】 操舵力のヒステリシスを考慮した制御を行うことにより、高速走行時と低速走行時とのいずれにおいても、安定したステアリング性能を得ることができる車両の制駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】 目標ヨーレートr_refとヨーレートセンサ4によって検出されたヨーレートrとの差分であるヨーレート差分Δrがヒステリシスしきい値r_hys以下か否かを判断する。このとき、目標ヒステリシスを実現する目標ヨーモーメントDYM_absを求め、この目標ヨーモーメントDYM_absを達成する左右輪WL,WRに対する制駆動力配分を算出する
【解決手段】 目標ヨーレートr_refとヨーレートセンサ4によって検出されたヨーレートrとの差分であるヨーレート差分Δrがヒステリシスしきい値r_hys以下か否かを判断する。このとき、目標ヒステリシスを実現する目標ヨーモーメントDYM_absを求め、この目標ヨーモーメントDYM_absを達成する左右輪WL,WRに対する制駆動力配分を算出する
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制駆動力制御装置に係り、特に、安定したステアリング性能を有する車両の制駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の制駆動力制御装置として、従来、目標ヨーレートと、実際に検出したヨーレートとの差分に応じて、前後輪の駆動力配分を行うヨー運動制御装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。このヨー運動制御装置では、前輪の舵角および車速に基づいて目標ヨーレートを決定するとともに、車両のヨーレートを検出している。この目標ヨーレートと、検出したヨーレートとを差分に応じて前後輪の駆動量配分比を計算し、この駆動力配分比に基づいて車両の前後輪を制御し、両ヨーレートの差を無くす。こうして、車両のヨー運動が的確に制御されることとなり、車両における所望のステアリング性能が的確に得られることができるようにしている。
【特許文献1】特許第3054265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、車輪を操舵する際における操舵力に、ヒステリシスが付与されていると、車両が高速走行を行う際に、運転者が意図しない操舵トルク変化に対して車両が敏感に反応することが防止される。このため、結果として車両の安定性が向上することとなる。その一方で、高速走行時を考慮したヒステリシスの付与を行うと、その背反として、低速走行時におけるステアリングの戻り性能が低下する問題が生じる。このように、操舵力に付与するヒステリシスは、車両の走行時におけるステアリング性能に影響を及ぼすものとなっている。
【0004】
この点、上記特許文献1に開示されたヨー運動制御装置では、目標ヨーレートと検出したヨーレートとの差分に応じて前後輪の制御を行っているため、所望のステアリング性能を得るものとなっている。しかし、操舵力に付与されるヒステリシスについては考慮されていないため、高速走行時と低速走行時とのいずれにおいても、安定したステアリング性能を得ることは困難であるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明の課題は、操舵力のヒステリシスを考慮した制御を行うことにより、高速走行時と低速走行時とのいずれにおいても、安定したステアリング性能を得ることができる車両の制駆動力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決した本発明に係る車両の制駆動力制御装置は、車両の運転状態に基づいて目標ヨーレートを算出する目標ヨーレート算出手段と、車両の実際のヨーレートである実ヨーレートを検出する実ヨーレート検出手段と、車両における操舵角速度を取得する操舵角速度取得手段と、車両の操舵トルクに対する目標ヒステリシスを取得する目標ヒステリシス取得手段と、操舵角速度取得手段によって取得された操舵角速度に基づいて、目標ヒステリシスを実現するヨーモーメントを算出するヨーモーメント算出手段と、ヨーモーメントを達成する車両の左右輪に対する制駆動力配分を算出する制駆動力配分算出手段と、目標ヨーレートと実ヨーレートとの差分が所定のしきい値以下の場合に、制駆動力配分によって車両の左右輪を制駆動する車輪制駆動手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る制駆動力制御装置においては、目標ヒステリシスを実現するヨーモーメントを算出し、このヨーモーメントを達成する制駆動力配分で車両の左右輪を制駆動している。このため、車両の高速走行時のほか、低速走行時であっても操舵力に所望のヒステリシスを付与することができる。したがって、操舵力のヒステリシスを考慮した制御を行うことにより、高速走行時と低速走行時とのいずれにおいても、安定したステアリング性能を得ることができる。
【0008】
ここで、制駆動力配分算出手段は、車両における前輪における制駆動力配分を算出するにあたり、前輪を支持するフロントサスペンションのキングピンオフセット量を加味する態様とすることができる。
【0009】
このように、車両における前輪における制駆動力配分を算出するにあたり、前輪を支持するフロントサスペンションのキングピンオフセット量を加味することにより、さらに好適にヒステリシスを付与することができ、より安定したステアリング性能を得ることができる。
【0010】
また、車両のステアリングの操作を判断するステアリング操作方向判断手段を備え、ステアリングの操作が切り増し方向への操作である場合には、ヨーモーメントを付与する車輪として前輪を決定し、ステアリングの操作が切り戻し方向への操作である場合には、ヨーモーメントを付与する車輪として後輪を決定する態様とすることができる。
【0011】
このように、ステアリングの操作が切り増し方向への操作であるときに目標ヒステリシスを実現するヨーモーメントを前輪に付与すると、前輪にロールを抑止する方向にモーメントが発生する。同様に、ステアリングの操作が切り戻し方向への操作であるときに前輪にヨーモーメントを後輪に付与すると、後輪に車輪ロールを抑止する方向にモーメントが発生する。このため、本発明によれば、安定したステアリング性能を得ることができるとともに、車両のロール挙動を抑制することもできる。
【0012】
車輪制駆動制御手段が、各車輪に設けられたインホイールモータである態様とすることができる。
【0013】
このように、車輪制駆動制御手段がインホイールモータであることにより、制駆動力制御を容易かつ精度よく行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る車両の制駆動力制御装置によれば、操舵力のヒステリシスを考慮した制御を行うことにより、高速走行時と低速走行時とのいずれにおいても、安定したステアリング性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0016】
図1は本発明の第1の実施形態に係る車両の制駆動力制御装置のブロック構成図である。図1に示すように、車両Mに設けられており、車両制御ECU(Electronic Control Unit)1を備えている。この車両Mには、インバータ2、バッテリ3、およびヨーレートセンサ4が設けられている。
【0017】
さらに、車両Mには、右前輪WFR、左前輪WFL、右後輪WRR、左後輪WRLおよびステアリングSが設けられている。以下、右前輪WFRおよび左前輪WFLを合わせて前輪WF、右後輪WRRおよび左後輪WRLを合わせて後輪WRと呼ぶことがある。
【0018】
また、右前輪WFRには右前輪駆動モータ5FRが設けられている。同様に、左前輪WFLには左前輪駆動モータ5FL、右後輪WRRには右後輪駆動モータ5RR、左後輪WRLには左後輪駆動モータ5RLがそれぞれ設けられている。以下、これらの右前輪駆動モータ5FR、左前輪駆動モータ5FL、右後輪駆動モータ5RR、および左後輪駆動モータ5RLを総称して駆動モータ5と呼ぶことがある。
【0019】
さらに、右前輪WFRには右前車輪速センサ6FRが設けられている。同様に、左前輪WFLには左前車輪速センサ6FL、右後輪WRRには右後車輪速センサ6RR、左後輪WRLには左後車輪速センサ6RLがそれぞれ設けられている。以下、これらの右前車輪速センサ6FR、左前車輪速センサ6FL、右後車輪速センサ6RR、左後車輪速センサ6RLを総称して車輪速センサ6と呼ぶことがある。さらに、ステアリングSには、舵角センサ7が設けられている。
【0020】
車両制御ECU1は、CPU(Central ProcessingUnit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、および入出力ポート等を備える電子制御ユニットであり、車両Mの制駆動力制御を行う。
【0021】
インバータ2は、車両制御ECU1に接続されており、インバータ2にはバッテリ3が接続されている。また、バッテリ3には電気が蓄電されている。インバータ2は、バッテリ3に蓄電された電気を交流に変換し、駆動モータ5に対して供給する。車両制御ECU1は、駆動モータ5における右前輪駆動モータ5FR、左前輪駆動モータ5FL、右後輪駆動モータ5RR、および左後輪駆動モータ5RLの駆動量の配分を算出し、この駆動量の配分に応じた配分信号をインバータ2に出力する。インバータ2は、車両制御ECU1の配分信号に応じた配分の電気を駆動モータ5に対して供給する。
【0022】
ヨーレートセンサ4は、たとえば車体の一部に取り付けられており、車両Mのヨーレートを検出している。ヨーレートセンサ4は、検出したヨーレートを車両制御ECU1に出力している。
【0023】
駆動モータ5は、いわゆるインホイールモータからなり、バッテリ3から供給され、インバータ2で交流変換された電気によって車輪Wを回転させる。車輪速センサ6は、各車輪の車輪速を検出している。車輪速センサ6は、検出した車輪速を車両制御ECU1に出力する。舵角センサ7は、ステアリングSの操舵角SAを検出している。舵角センサ7は検出した操舵角SAを車両制御ECU1に出力している。
【0024】
本実施形態に係る制駆動力制御装置では、車両Mのヨー方向のモーメントであるヨーモーメントと前輪トータル復元トルクとの関係に着目し、左右輪への制駆動力配分を制御することにより、ステアリング性能の安定化を図る。
【0025】
いま、ステアリングSの操舵角速度SVの方向として、車両Mの左旋回を増加させる方向を正方向と定義し、車両Mの左旋回を増加させる方向のヨーモーメントを正と定義する。このとき、車両Mに操舵角速度SVの符号と同符号のヨーモーメント(以下「ダイレクトヨーモーメント」という)DYMが付与されている場合、車両Mの前輪WFは操舵のみの旋回に比較してより小さな横力で旋回する。このため、ダイレクトヨーモーメントDYMが付与されていない場合と比較するとタイヤ位置復元トルクMzfが減少し、その結果、操舵力が軽くなる。逆に、車両Mに操舵角速度SVの符号と逆符号のヨーモーメント(以下「アンチヨーモーメント」という)AYMが付与されている場合には、アンチヨーモーメントAYMが付与されていない場合と比較して操舵力が重くなる。
【0026】
車両MにダイレクトヨーモーメントDYMを付与する場合、横力Fy_fは、下記(1)式によって表すことができる。(1)式から判るように、横力Fy_fはダイレクトヨーモーメントDYMの変化に比例して変化する。また、タイヤ位置復元トルクMzfは、下記(2)式に示すように表すことができ、(2)式から判るように、タイヤ位置復元トルクMzfもダイレクトヨーモーメントDYMの変化に比例して変化する。
【0027】
Fy_f=mf・a−DYM/lt …(1)
Mzf=Fy_f・ξ=ξ・mf・a−(ξ/lt)・DYM …(2)
ここで、Fy_f:前輪トータル横力
mf:前輪荷重
a:旋回横加速度
lt:フロントトレッド
ξ:トレール
【0028】
この関係は、車両MにアンチヨーモーメントAYMを付与する場合も同様であり、ダイレクトヨーモーメントDYMとアンチヨーモーメントAYMとは、絶対値が同一であり、符号が逆となっている関係にある。ダイレクトヨーモーメントDYMおよびアンチヨーモーメントAYMは、左右輪への制駆動力配分によって制御することができる。このことから、本実施形態に係る制駆動力制御装置では、左右輪への制駆動力の配分を制御することにより、前輪トータル復元トルクを調整して、操舵力に所望のヒステリシスを付与する。こうして、ステアリング性能の安定化を図るものである。
【0029】
以下、本実施形態に係る制駆動力制御装置の動作について説明する。図2は、制駆動力制御装置の動作手順を示すフローチャートである。この例では、後輪WRに対してヨーモーメントを付与する制御を行う。
【0030】
図2に示すように、本実施形態に係る制駆動力制御装置では、最初に、車両状態の検出を行う(S1)。車両状態の検出としては、具体的には、ヨーレートセンサ4によって車両Mのヨーレート(実ヨーレート)rを検出する。また、車輪速センサ6によって各車輪Wの車輪速を検出し、各車輪Wの車輪速に基づいて車速Vを算出する。さらに、舵角センサ7によってステアリングSの操舵角SAを検出する。
【0031】
ヨーレートセンサ4、車輪速センサ6、および舵角センサ7は、検出したヨーレート、車輪速、および操舵角SAをそれぞれ車両制御ECU1に出力する。車両制御ECU1においては、車輪速センサ6から出力された各車輪Wの車輪速に基づいて、車両Mの車速を算出する。
【0032】
次に、目標ヨーレートr_refを算出する(S2)。目標ヨーレートr_refは、車両Mの車速Vおよび舵角センサ7から出力された操舵角SAに基づいて算出する。続いて、下記(3)式によってステップS1で検出した実ヨーレートrとステップS2で算出した目標ヨーレートr_refとの差分であるヨーレート差分Δrを算出する(S3)。
【0033】
r−r_ref=Δr …(3)
【0034】
ヨーレート差分Δrを算出した後、操舵トルクのヒステリシス制御を行うか否かを判断する(S4)。ヒステリシス制御を行うか否かを判断は、ヨーレート差分Δrの絶対値が所定のヒステリシスしきい値r_hys以下となっているか否かによって行う。その結果、ヨーレート差分Δrの絶対値がヒステリシスしきい値r_hys以下であり、ヒステリシス制御を行わないと判断した場合には、通常のヨーコントロール制御を行い(S10)、そのまま処理を終了する。
【0035】
一方、ヨーレート差分Δrの絶対値がヒステリシスしきい値r_hys以下となっていない(ヒステリシスしきい値r_hys以上となっている)場合には、以下の手順でヒステリシス制御を行う。ヒステリシス制御を行う際には、操舵トルクにヒステリシスを付与するために、目標ヒステリシスとなる前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysを演算によって求める(S5)。前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysは、たとえば図3に示す前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値算出マップに対して、ステップS1で検出した車速Vを参照することによって算出する。
【0036】
図3に示すマップでは、車速Vが第1所定値以下の場合には、前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysを0とし、第1所定値を超え、第2所定値以下である場合には、車速Vが大きくなるに連れて前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysが大きくなるようにし、第2所定値を超える場合には、前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysを一定値とする。こうして、車速Vが小さい場合には、操舵トルクにヒステリシスを付与しないようにして、車速Vが大きい場合に、所望のヒステリシスを操舵トルクに付与するようにしている。
【0037】
続いて、操舵角速度SVを演算によって算出する(S6)。操舵角速度SVは、ステップS1で検出した操舵角SAを微分することによって算出する。それから、前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysに応じた目標ヨーモーメントDYM_absを算出する(S7)。目標ヨーモーメントDYM_absの向きは、ステアリングSの操作方向によって決定される。ステアリングSを切り戻しする方向に操作している場合には、ヨーモーメントとして、ダイレクトヨーモーメントDYMを発生させることによって操舵力に対してヒステリシスが付与される。一方、ステアリングSを切り増しする方向に操作している場合には、ヨーモーメントとして、アンチヨーモーメントAYMを発生させることによって操舵力に対してヒステリシスが付与される。
【0038】
また、前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysを付与するための目標ヨーモーメントDYM_absは、下記(4)式で表すことができる。この(4)式によって前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysを付与するための目標ヨーモーメントDYM_absを算出する。
【0039】
DYM_Abs=(Mz_hys/2)・(lt/ξ) …(4)
ここで、lt:フロントトレッド
ξ:トレール
【0040】
また、前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysを実現させるダイレクトヨーモーメントDYMは、下記(5)式によって表される。合わせて、(5)式に基づく操舵角速度SVとダイレクトヨーモーメントDYMとの関係を図4に示す。
【0041】
DYM=−DYM_abs・sign(SV) …(5)
【0042】
さらに、左右輪への制駆動力の配分を算出する(S8)。ダイレクトヨーモーメントDYMと1輪への駆動力をFx(制動力は−Fx)との関係は、左右輪に係る駆動力の絶対値が同じで向きが逆となるようにして、下記(6)式によって表される。そこで、下記(6)式に示す演算よって左右輪への制駆動力の配分を算出する。
【0043】
Fx=DYM/lt …(6)
【0044】
こうして、左右輪への制駆動力の配分を算出したら、左右輪に対して駆動力を発生させる(S9)。左右輪に対する駆動力は、駆動モータ5によって発生させられる。車両制御ECU1は、算出した制駆動力の配分に関する配分信号をインバータ2に送信する。インバータ2は、車両制御ECU1から送信された配分信号に基づいて、駆動モータ5における右前輪駆動モータ5FR、左前輪駆動モータ5FL、右後輪駆動モータ5RR、および左後輪駆動モータ5RLへの電力の配分を行う。こうして、制駆動力制御装置による制御を終了する。このような制駆動力配分を行うことにより、操舵トルクにヒステリシスを付与することができる。操舵トルクにヒステリシスを付与することにより、図5に示すように、車両応答性に幅を持たせることができ、その分安定したステアリング性能を得ることができる。
【0045】
また、左右輪に対する制駆動力配分制御を行うにあたり、後輪WRに対する制動力配分を行うと、上記(1)式〜(6)式によって所望の目標ヒステリシスを操舵トルクに付与することができることとなる。また、操舵輪である前輪WFに対して制動力配分を行う際には、フロントサスペンションのキングピンオフセットがあることから、上記(1)式〜(6)式とは異なることとなる。
【0046】
いま、前輪WFを用いた制御時のタイヤ位置復元トルクMzfは、上記(2)式に対して、キングピンオフセットによって操舵トルクが発生するメカニズムに応じた分を加算して、下記(7)式によって表される。
【0047】
Mzf=ξ・mf・a−(ξ/lt)・DYM+KO・(Fx1−Fx2) …(7)
ここで、KO:フロントサスペンションのキングピンオフセット
Fx1:前左輪の駆動力(駆動時が正)
Fx2:前右輪の駆動力(駆動時が正)
【0048】
ダイレクトヨーモーメントDYMは、前左右輪の駆動力Fx1,Fx2を用いて下記(8)式によって表される。
【0049】
DYM=(lt/2)・(Fx2−Fx1) …(8)
【0050】
このため、前輪WFに対して制動力配分を行う際には、上記(2)式で表されたタイヤ位置復元トルクMzfは、下記(9)式として表される。
【0051】
Mzf=ξ・mf・a−{(ξ+2・KO)/lt}・DYM …(9)
【0052】
さらに、上記(4)式で表された目標ヨーモーメントDYM_absは、下記(10)式で表される。
【0053】
DYM_Abs=(Mz_hys/2)・{lt/(ξ+2・KO)} …(10)
【0054】
このように、前輪WFに対してダイレクトヨーモーメントDYMを付与することによって、操舵トルクにヒステリシスを付与することもできる。このとき、前輪WFにおけるフロントサスペンションのキングピンオフセットも加味することにより、さらに好適にヒステリシスを付与することができ、より安定したステアリング性能を得ることができる。
【0055】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態に係る制駆動力制御装置は、上記第1の実施形態に係る制駆動力装置と同様の構成を有しており、その制御態様が異なる。以下、その制御態様について説明する。本実施形態に係る制駆動力制御装置では、サスペンション特性を考慮し、操舵トルクへのヒステリシスの付与と同時に、ロール挙動の減少のために、前輪WFと後輪WRとのいずれかに制駆動力を配分する。
【0056】
操舵トルクにヒステリシスを付与する場合、操舵角SAの切り増しを行っている際にはアンチヨーモーメントAYMを付与し、切り戻し時にはダイレクトヨーモーメントDYMを付与することとなる。一方、制駆動力とサスペンション特性との関係から、制駆動力左右差を付加に伴い、下記(11)式および(12)式に示すロールモーメントRMが発生する。このうち、前輪制駆動力制御を行った場合に発生するロールモーメントRMを(11)式に示し、後輪制駆動力制御を行った場合に発生するロールモーメントRMを(12)式に示す。
【0057】
RM=Anf・DYM …(11)
RM=−Anr・DYM …(12)
ここで、Anf:アンチダイブ係数
Anr:アンチリフト係数
【0058】
上記(11)式におけるアンチダイブ係数は、図6に示すように、車両Mにおける前輪WFの地面との接触点から後方に行くにしたがって上昇する直線と地面となす角を正とする。また、アンチリフト係数は、車両Mにおける後輪WRの地面との接触点から前方に行くにしたがって上昇する直線と地面となす角を正とする。
【0059】
ここで、ダイレクトヨーモーメントDYMとロールモーメントRMは、図7に示す関係にある。なお、図7では、ヨーモーメントについては運転者が操舵した方向にヨーモーメントを増加させる方向を正としている。また、ロールについては旋回外側へのロールを正としている。
【0060】
図7から判るように、操舵トルクに対してヒステリシスを付与するにあたり、アンチヨーモーメントAYMを付与すると、前輪WFにロールを抑制する方向にモーメントが発生し、後輪WRにロールを助長する方向にモーメントが発生する。また、操舵トルクに対してヒステリシスを付与するにあたり、ダイレクトヨーモーメントDYMを付与すると、前輪WFにはロールを助長する方向にモーメントが発生し、後輪WRにはロールを抑制する方向にモーメントが発生する。
【0061】
また、前輪WFのみにダイレクトヨーモーメントDYMを付与する制御を行う場合のロール挙動を図8に示し、後輪WRのみにダイレクトヨーモーメントDYMを付与する制御を行う場合のロール挙動を図9に示す。図8および図9に示すように、いずれの制御においても、切り増し側か切り戻し側かのいずれかの側の片側のロールが大きくなる。
【0062】
この関係を利用して、本実施形態に係る制駆動力制御では、前輪WFおよび後輪WRへの制駆動力配分を行い、操舵力に対してヒステリシスを付与しつつ、車両Mのロール挙動を抑制する制御を行う。以下、本実施形態に係る制駆動力制御の動作手順について説明する。図10は、本実施形態に係る制駆動力制御の動作手順を示すフローチャートである。
【0063】
図10に示すように、本実施形態に係る制駆動力制御では、最初に、車両状態の検出を行い(S11)、次に、目標ヨーレートr_refの算出を行う(S12)。続いて、実ヨーレートrと目標ヨーレートr_refとの差分であるヨーレート差分Δrを算出し(S13)、操舵トルクのヒステリシス制御を行うか否かを判断する(S14)。
【0064】
その結果、操舵トルクのヒステリシス制御を行わないと判断した場合には、通常のヨーコントロール制御を行い(S23)、そのまま処理を終了する。一方、操舵トルクのヒステリシス制御を行うと判断した場合には、前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysを演算によって求め(S15)、操舵角速度SVを演算によって求める(S16)。ここまでは、上記第1の実施形態と同様の手順によって行う。
【0065】
続いて、ステアリングSの操作が切り増し操作であるか否かを判断する(S17)。ステアリングSの操作が切り増し操作であるか否かの判断は、舵角センサ7から送信され、ステップS1において取得され操舵角SAおよびステップS16で算出された操舵角速度SVに基づいて行われる。
【0066】
その結果、ステアリングSの操作が切り増し操作であると判断した場合には、前輪WFにアンチヨーモーメントを付与するアンチヨーモーメント制御を行う(S18)。一方、ステアリングSの操作が切り増し操作でない(切り戻し操作である)と判断した場合には、後輪WRにヨーモーメントを付与するヨーモーメント制御を行う(S19)。このように、ステアリングSの切り増し時には、前輪WFにアンチヨーモーメントを付与す、ステアリングSの切り戻し時には後輪WRにヨーモーメントを付与することにより、図11に示すように、操舵力に対してヒステリシスを付与するとともに、車両Mのロール挙動を抑制することができる。
【0067】
その後は、上記第1の実施形態と同様、目標ヨーモーメントを算出し(S20)、左右輪制駆動力配分を演算によって算出する(S21)。そして、左右輪に駆動力を発生させる制御を行って(S22)、制駆動力制御を終了する。
【0068】
このように、本実施形態に係る制駆動力制御では、上記第1の実施形態と同様、操舵トルクにヒステリシスを付与することができ、安定したステアリング性能を得ることができる。さらに、本実施形態に係る制駆動力制御装置では、車両Mの車輪にヨーモーメントを付与するにあたり、車両Mのロールを抑制する方向、具体的には、ステアリングSの操作が切り増し操作である場合には前輪WFにアンチヨーモーメントを付与し、ステアリングSの操作が切り戻し操作である場合には後輪WRにダイレクトヨーモーメントを付与する。このため、操舵トルクにヒステリシスを付与することができるとともに、車両Mに生じるロールを抑制することができる。
【0069】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記実施形態では、車両Mに制駆動力を付与するために車輪Wに駆動モータ5を取り付けているが、たとえばエンジンの駆動力を車輪に伝えるとともにディファレンシャル装置を用い、ディファレンシャル装置の駆動力配分を調整する制駆動力制御を行うこともできる。
【0070】
また、上記実施形態では、操舵トルクにヒステリシスを付与するにあたって、車輪Wに付与するダイレクトヨーモーメントやアンチヨーモーメントは固定の値としているが、車両状態等に応じた値とすることもできる。たとえば、車速の増加に伴って車輪Wに付与するダイレクトヨーモーメントやアンチヨーモーメントを増加させる制御を行ったり、車両Mにかかる横加速度の増加に伴って車輪Wに付与するダイレクトヨーモーメントやアンチヨーモーメントを増減させる制御を行ったりすることができる。たとえば、車速の増加に伴って車輪Wに付与するダイレクトヨーモーメントやアンチヨーモーメントを増加させる制御を行うことにより、高速域での安定性を確保することができる。また、車両Mにかかる横加速度の増加に伴って車輪Wに付与するダイレクトヨーモーメントやアンチヨーモーメントを増加させる制御を行うことにより、高加速域での舵の据わりを確保することができる。逆に、車両Mにかかる横加速度の増加に伴って車輪Wに付与するダイレクトヨーモーメントやアンチヨーモーメントを減少させる制御を行うことにより、軽快感を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1の実施形態に係る制駆動力制御装置のブロック構成図である。
【図2】第1の実施形態に係る制駆動力制御装置の動作手順を示すフローチャートである。
【図3】前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値算出マップである。
【図4】操舵角速度とダイレクトヨーモーメントとの関係を示すグラフである。
【図5】操舵トルクと車両応答性との関係を示すグラフである。
【図6】アンチダイブ係数とアンチリフト係数を説明する車両の側面図である。
【図7】ロールモーメントとヨーモーメントとの関係を示すグラフである。
【図8】前輪にダイレクトヨーモーメントを付与した場合の操舵角とロール角との関係を示すグラフである。
【図9】後輪にアンチヨーモーメントを付与した場合の操舵角とロール角との関係を示すグラフである。
【図10】第2の実施形態に係る制駆動力制御装置の動作手順を示すフローチャートである。
【図11】前輪にダイレクトヨーモーメントを付与し、または後輪にアンチヨーモーメントを付与した場合の操舵角とロール角との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
1…車両制御ECU、2…インバータ、3…バッテリ、4…ヨーレートセンサ、5…駆動モータ、6…車輪速センサ、7…舵角センサ、M…車両、S…ステアリング、W…車輪。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制駆動力制御装置に係り、特に、安定したステアリング性能を有する車両の制駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の制駆動力制御装置として、従来、目標ヨーレートと、実際に検出したヨーレートとの差分に応じて、前後輪の駆動力配分を行うヨー運動制御装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。このヨー運動制御装置では、前輪の舵角および車速に基づいて目標ヨーレートを決定するとともに、車両のヨーレートを検出している。この目標ヨーレートと、検出したヨーレートとを差分に応じて前後輪の駆動量配分比を計算し、この駆動力配分比に基づいて車両の前後輪を制御し、両ヨーレートの差を無くす。こうして、車両のヨー運動が的確に制御されることとなり、車両における所望のステアリング性能が的確に得られることができるようにしている。
【特許文献1】特許第3054265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、車輪を操舵する際における操舵力に、ヒステリシスが付与されていると、車両が高速走行を行う際に、運転者が意図しない操舵トルク変化に対して車両が敏感に反応することが防止される。このため、結果として車両の安定性が向上することとなる。その一方で、高速走行時を考慮したヒステリシスの付与を行うと、その背反として、低速走行時におけるステアリングの戻り性能が低下する問題が生じる。このように、操舵力に付与するヒステリシスは、車両の走行時におけるステアリング性能に影響を及ぼすものとなっている。
【0004】
この点、上記特許文献1に開示されたヨー運動制御装置では、目標ヨーレートと検出したヨーレートとの差分に応じて前後輪の制御を行っているため、所望のステアリング性能を得るものとなっている。しかし、操舵力に付与されるヒステリシスについては考慮されていないため、高速走行時と低速走行時とのいずれにおいても、安定したステアリング性能を得ることは困難であるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明の課題は、操舵力のヒステリシスを考慮した制御を行うことにより、高速走行時と低速走行時とのいずれにおいても、安定したステアリング性能を得ることができる車両の制駆動力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決した本発明に係る車両の制駆動力制御装置は、車両の運転状態に基づいて目標ヨーレートを算出する目標ヨーレート算出手段と、車両の実際のヨーレートである実ヨーレートを検出する実ヨーレート検出手段と、車両における操舵角速度を取得する操舵角速度取得手段と、車両の操舵トルクに対する目標ヒステリシスを取得する目標ヒステリシス取得手段と、操舵角速度取得手段によって取得された操舵角速度に基づいて、目標ヒステリシスを実現するヨーモーメントを算出するヨーモーメント算出手段と、ヨーモーメントを達成する車両の左右輪に対する制駆動力配分を算出する制駆動力配分算出手段と、目標ヨーレートと実ヨーレートとの差分が所定のしきい値以下の場合に、制駆動力配分によって車両の左右輪を制駆動する車輪制駆動手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る制駆動力制御装置においては、目標ヒステリシスを実現するヨーモーメントを算出し、このヨーモーメントを達成する制駆動力配分で車両の左右輪を制駆動している。このため、車両の高速走行時のほか、低速走行時であっても操舵力に所望のヒステリシスを付与することができる。したがって、操舵力のヒステリシスを考慮した制御を行うことにより、高速走行時と低速走行時とのいずれにおいても、安定したステアリング性能を得ることができる。
【0008】
ここで、制駆動力配分算出手段は、車両における前輪における制駆動力配分を算出するにあたり、前輪を支持するフロントサスペンションのキングピンオフセット量を加味する態様とすることができる。
【0009】
このように、車両における前輪における制駆動力配分を算出するにあたり、前輪を支持するフロントサスペンションのキングピンオフセット量を加味することにより、さらに好適にヒステリシスを付与することができ、より安定したステアリング性能を得ることができる。
【0010】
また、車両のステアリングの操作を判断するステアリング操作方向判断手段を備え、ステアリングの操作が切り増し方向への操作である場合には、ヨーモーメントを付与する車輪として前輪を決定し、ステアリングの操作が切り戻し方向への操作である場合には、ヨーモーメントを付与する車輪として後輪を決定する態様とすることができる。
【0011】
このように、ステアリングの操作が切り増し方向への操作であるときに目標ヒステリシスを実現するヨーモーメントを前輪に付与すると、前輪にロールを抑止する方向にモーメントが発生する。同様に、ステアリングの操作が切り戻し方向への操作であるときに前輪にヨーモーメントを後輪に付与すると、後輪に車輪ロールを抑止する方向にモーメントが発生する。このため、本発明によれば、安定したステアリング性能を得ることができるとともに、車両のロール挙動を抑制することもできる。
【0012】
車輪制駆動制御手段が、各車輪に設けられたインホイールモータである態様とすることができる。
【0013】
このように、車輪制駆動制御手段がインホイールモータであることにより、制駆動力制御を容易かつ精度よく行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る車両の制駆動力制御装置によれば、操舵力のヒステリシスを考慮した制御を行うことにより、高速走行時と低速走行時とのいずれにおいても、安定したステアリング性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0016】
図1は本発明の第1の実施形態に係る車両の制駆動力制御装置のブロック構成図である。図1に示すように、車両Mに設けられており、車両制御ECU(Electronic Control Unit)1を備えている。この車両Mには、インバータ2、バッテリ3、およびヨーレートセンサ4が設けられている。
【0017】
さらに、車両Mには、右前輪WFR、左前輪WFL、右後輪WRR、左後輪WRLおよびステアリングSが設けられている。以下、右前輪WFRおよび左前輪WFLを合わせて前輪WF、右後輪WRRおよび左後輪WRLを合わせて後輪WRと呼ぶことがある。
【0018】
また、右前輪WFRには右前輪駆動モータ5FRが設けられている。同様に、左前輪WFLには左前輪駆動モータ5FL、右後輪WRRには右後輪駆動モータ5RR、左後輪WRLには左後輪駆動モータ5RLがそれぞれ設けられている。以下、これらの右前輪駆動モータ5FR、左前輪駆動モータ5FL、右後輪駆動モータ5RR、および左後輪駆動モータ5RLを総称して駆動モータ5と呼ぶことがある。
【0019】
さらに、右前輪WFRには右前車輪速センサ6FRが設けられている。同様に、左前輪WFLには左前車輪速センサ6FL、右後輪WRRには右後車輪速センサ6RR、左後輪WRLには左後車輪速センサ6RLがそれぞれ設けられている。以下、これらの右前車輪速センサ6FR、左前車輪速センサ6FL、右後車輪速センサ6RR、左後車輪速センサ6RLを総称して車輪速センサ6と呼ぶことがある。さらに、ステアリングSには、舵角センサ7が設けられている。
【0020】
車両制御ECU1は、CPU(Central ProcessingUnit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、および入出力ポート等を備える電子制御ユニットであり、車両Mの制駆動力制御を行う。
【0021】
インバータ2は、車両制御ECU1に接続されており、インバータ2にはバッテリ3が接続されている。また、バッテリ3には電気が蓄電されている。インバータ2は、バッテリ3に蓄電された電気を交流に変換し、駆動モータ5に対して供給する。車両制御ECU1は、駆動モータ5における右前輪駆動モータ5FR、左前輪駆動モータ5FL、右後輪駆動モータ5RR、および左後輪駆動モータ5RLの駆動量の配分を算出し、この駆動量の配分に応じた配分信号をインバータ2に出力する。インバータ2は、車両制御ECU1の配分信号に応じた配分の電気を駆動モータ5に対して供給する。
【0022】
ヨーレートセンサ4は、たとえば車体の一部に取り付けられており、車両Mのヨーレートを検出している。ヨーレートセンサ4は、検出したヨーレートを車両制御ECU1に出力している。
【0023】
駆動モータ5は、いわゆるインホイールモータからなり、バッテリ3から供給され、インバータ2で交流変換された電気によって車輪Wを回転させる。車輪速センサ6は、各車輪の車輪速を検出している。車輪速センサ6は、検出した車輪速を車両制御ECU1に出力する。舵角センサ7は、ステアリングSの操舵角SAを検出している。舵角センサ7は検出した操舵角SAを車両制御ECU1に出力している。
【0024】
本実施形態に係る制駆動力制御装置では、車両Mのヨー方向のモーメントであるヨーモーメントと前輪トータル復元トルクとの関係に着目し、左右輪への制駆動力配分を制御することにより、ステアリング性能の安定化を図る。
【0025】
いま、ステアリングSの操舵角速度SVの方向として、車両Mの左旋回を増加させる方向を正方向と定義し、車両Mの左旋回を増加させる方向のヨーモーメントを正と定義する。このとき、車両Mに操舵角速度SVの符号と同符号のヨーモーメント(以下「ダイレクトヨーモーメント」という)DYMが付与されている場合、車両Mの前輪WFは操舵のみの旋回に比較してより小さな横力で旋回する。このため、ダイレクトヨーモーメントDYMが付与されていない場合と比較するとタイヤ位置復元トルクMzfが減少し、その結果、操舵力が軽くなる。逆に、車両Mに操舵角速度SVの符号と逆符号のヨーモーメント(以下「アンチヨーモーメント」という)AYMが付与されている場合には、アンチヨーモーメントAYMが付与されていない場合と比較して操舵力が重くなる。
【0026】
車両MにダイレクトヨーモーメントDYMを付与する場合、横力Fy_fは、下記(1)式によって表すことができる。(1)式から判るように、横力Fy_fはダイレクトヨーモーメントDYMの変化に比例して変化する。また、タイヤ位置復元トルクMzfは、下記(2)式に示すように表すことができ、(2)式から判るように、タイヤ位置復元トルクMzfもダイレクトヨーモーメントDYMの変化に比例して変化する。
【0027】
Fy_f=mf・a−DYM/lt …(1)
Mzf=Fy_f・ξ=ξ・mf・a−(ξ/lt)・DYM …(2)
ここで、Fy_f:前輪トータル横力
mf:前輪荷重
a:旋回横加速度
lt:フロントトレッド
ξ:トレール
【0028】
この関係は、車両MにアンチヨーモーメントAYMを付与する場合も同様であり、ダイレクトヨーモーメントDYMとアンチヨーモーメントAYMとは、絶対値が同一であり、符号が逆となっている関係にある。ダイレクトヨーモーメントDYMおよびアンチヨーモーメントAYMは、左右輪への制駆動力配分によって制御することができる。このことから、本実施形態に係る制駆動力制御装置では、左右輪への制駆動力の配分を制御することにより、前輪トータル復元トルクを調整して、操舵力に所望のヒステリシスを付与する。こうして、ステアリング性能の安定化を図るものである。
【0029】
以下、本実施形態に係る制駆動力制御装置の動作について説明する。図2は、制駆動力制御装置の動作手順を示すフローチャートである。この例では、後輪WRに対してヨーモーメントを付与する制御を行う。
【0030】
図2に示すように、本実施形態に係る制駆動力制御装置では、最初に、車両状態の検出を行う(S1)。車両状態の検出としては、具体的には、ヨーレートセンサ4によって車両Mのヨーレート(実ヨーレート)rを検出する。また、車輪速センサ6によって各車輪Wの車輪速を検出し、各車輪Wの車輪速に基づいて車速Vを算出する。さらに、舵角センサ7によってステアリングSの操舵角SAを検出する。
【0031】
ヨーレートセンサ4、車輪速センサ6、および舵角センサ7は、検出したヨーレート、車輪速、および操舵角SAをそれぞれ車両制御ECU1に出力する。車両制御ECU1においては、車輪速センサ6から出力された各車輪Wの車輪速に基づいて、車両Mの車速を算出する。
【0032】
次に、目標ヨーレートr_refを算出する(S2)。目標ヨーレートr_refは、車両Mの車速Vおよび舵角センサ7から出力された操舵角SAに基づいて算出する。続いて、下記(3)式によってステップS1で検出した実ヨーレートrとステップS2で算出した目標ヨーレートr_refとの差分であるヨーレート差分Δrを算出する(S3)。
【0033】
r−r_ref=Δr …(3)
【0034】
ヨーレート差分Δrを算出した後、操舵トルクのヒステリシス制御を行うか否かを判断する(S4)。ヒステリシス制御を行うか否かを判断は、ヨーレート差分Δrの絶対値が所定のヒステリシスしきい値r_hys以下となっているか否かによって行う。その結果、ヨーレート差分Δrの絶対値がヒステリシスしきい値r_hys以下であり、ヒステリシス制御を行わないと判断した場合には、通常のヨーコントロール制御を行い(S10)、そのまま処理を終了する。
【0035】
一方、ヨーレート差分Δrの絶対値がヒステリシスしきい値r_hys以下となっていない(ヒステリシスしきい値r_hys以上となっている)場合には、以下の手順でヒステリシス制御を行う。ヒステリシス制御を行う際には、操舵トルクにヒステリシスを付与するために、目標ヒステリシスとなる前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysを演算によって求める(S5)。前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysは、たとえば図3に示す前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値算出マップに対して、ステップS1で検出した車速Vを参照することによって算出する。
【0036】
図3に示すマップでは、車速Vが第1所定値以下の場合には、前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysを0とし、第1所定値を超え、第2所定値以下である場合には、車速Vが大きくなるに連れて前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysが大きくなるようにし、第2所定値を超える場合には、前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysを一定値とする。こうして、車速Vが小さい場合には、操舵トルクにヒステリシスを付与しないようにして、車速Vが大きい場合に、所望のヒステリシスを操舵トルクに付与するようにしている。
【0037】
続いて、操舵角速度SVを演算によって算出する(S6)。操舵角速度SVは、ステップS1で検出した操舵角SAを微分することによって算出する。それから、前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysに応じた目標ヨーモーメントDYM_absを算出する(S7)。目標ヨーモーメントDYM_absの向きは、ステアリングSの操作方向によって決定される。ステアリングSを切り戻しする方向に操作している場合には、ヨーモーメントとして、ダイレクトヨーモーメントDYMを発生させることによって操舵力に対してヒステリシスが付与される。一方、ステアリングSを切り増しする方向に操作している場合には、ヨーモーメントとして、アンチヨーモーメントAYMを発生させることによって操舵力に対してヒステリシスが付与される。
【0038】
また、前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysを付与するための目標ヨーモーメントDYM_absは、下記(4)式で表すことができる。この(4)式によって前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysを付与するための目標ヨーモーメントDYM_absを算出する。
【0039】
DYM_Abs=(Mz_hys/2)・(lt/ξ) …(4)
ここで、lt:フロントトレッド
ξ:トレール
【0040】
また、前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysを実現させるダイレクトヨーモーメントDYMは、下記(5)式によって表される。合わせて、(5)式に基づく操舵角速度SVとダイレクトヨーモーメントDYMとの関係を図4に示す。
【0041】
DYM=−DYM_abs・sign(SV) …(5)
【0042】
さらに、左右輪への制駆動力の配分を算出する(S8)。ダイレクトヨーモーメントDYMと1輪への駆動力をFx(制動力は−Fx)との関係は、左右輪に係る駆動力の絶対値が同じで向きが逆となるようにして、下記(6)式によって表される。そこで、下記(6)式に示す演算よって左右輪への制駆動力の配分を算出する。
【0043】
Fx=DYM/lt …(6)
【0044】
こうして、左右輪への制駆動力の配分を算出したら、左右輪に対して駆動力を発生させる(S9)。左右輪に対する駆動力は、駆動モータ5によって発生させられる。車両制御ECU1は、算出した制駆動力の配分に関する配分信号をインバータ2に送信する。インバータ2は、車両制御ECU1から送信された配分信号に基づいて、駆動モータ5における右前輪駆動モータ5FR、左前輪駆動モータ5FL、右後輪駆動モータ5RR、および左後輪駆動モータ5RLへの電力の配分を行う。こうして、制駆動力制御装置による制御を終了する。このような制駆動力配分を行うことにより、操舵トルクにヒステリシスを付与することができる。操舵トルクにヒステリシスを付与することにより、図5に示すように、車両応答性に幅を持たせることができ、その分安定したステアリング性能を得ることができる。
【0045】
また、左右輪に対する制駆動力配分制御を行うにあたり、後輪WRに対する制動力配分を行うと、上記(1)式〜(6)式によって所望の目標ヒステリシスを操舵トルクに付与することができることとなる。また、操舵輪である前輪WFに対して制動力配分を行う際には、フロントサスペンションのキングピンオフセットがあることから、上記(1)式〜(6)式とは異なることとなる。
【0046】
いま、前輪WFを用いた制御時のタイヤ位置復元トルクMzfは、上記(2)式に対して、キングピンオフセットによって操舵トルクが発生するメカニズムに応じた分を加算して、下記(7)式によって表される。
【0047】
Mzf=ξ・mf・a−(ξ/lt)・DYM+KO・(Fx1−Fx2) …(7)
ここで、KO:フロントサスペンションのキングピンオフセット
Fx1:前左輪の駆動力(駆動時が正)
Fx2:前右輪の駆動力(駆動時が正)
【0048】
ダイレクトヨーモーメントDYMは、前左右輪の駆動力Fx1,Fx2を用いて下記(8)式によって表される。
【0049】
DYM=(lt/2)・(Fx2−Fx1) …(8)
【0050】
このため、前輪WFに対して制動力配分を行う際には、上記(2)式で表されたタイヤ位置復元トルクMzfは、下記(9)式として表される。
【0051】
Mzf=ξ・mf・a−{(ξ+2・KO)/lt}・DYM …(9)
【0052】
さらに、上記(4)式で表された目標ヨーモーメントDYM_absは、下記(10)式で表される。
【0053】
DYM_Abs=(Mz_hys/2)・{lt/(ξ+2・KO)} …(10)
【0054】
このように、前輪WFに対してダイレクトヨーモーメントDYMを付与することによって、操舵トルクにヒステリシスを付与することもできる。このとき、前輪WFにおけるフロントサスペンションのキングピンオフセットも加味することにより、さらに好適にヒステリシスを付与することができ、より安定したステアリング性能を得ることができる。
【0055】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態に係る制駆動力制御装置は、上記第1の実施形態に係る制駆動力装置と同様の構成を有しており、その制御態様が異なる。以下、その制御態様について説明する。本実施形態に係る制駆動力制御装置では、サスペンション特性を考慮し、操舵トルクへのヒステリシスの付与と同時に、ロール挙動の減少のために、前輪WFと後輪WRとのいずれかに制駆動力を配分する。
【0056】
操舵トルクにヒステリシスを付与する場合、操舵角SAの切り増しを行っている際にはアンチヨーモーメントAYMを付与し、切り戻し時にはダイレクトヨーモーメントDYMを付与することとなる。一方、制駆動力とサスペンション特性との関係から、制駆動力左右差を付加に伴い、下記(11)式および(12)式に示すロールモーメントRMが発生する。このうち、前輪制駆動力制御を行った場合に発生するロールモーメントRMを(11)式に示し、後輪制駆動力制御を行った場合に発生するロールモーメントRMを(12)式に示す。
【0057】
RM=Anf・DYM …(11)
RM=−Anr・DYM …(12)
ここで、Anf:アンチダイブ係数
Anr:アンチリフト係数
【0058】
上記(11)式におけるアンチダイブ係数は、図6に示すように、車両Mにおける前輪WFの地面との接触点から後方に行くにしたがって上昇する直線と地面となす角を正とする。また、アンチリフト係数は、車両Mにおける後輪WRの地面との接触点から前方に行くにしたがって上昇する直線と地面となす角を正とする。
【0059】
ここで、ダイレクトヨーモーメントDYMとロールモーメントRMは、図7に示す関係にある。なお、図7では、ヨーモーメントについては運転者が操舵した方向にヨーモーメントを増加させる方向を正としている。また、ロールについては旋回外側へのロールを正としている。
【0060】
図7から判るように、操舵トルクに対してヒステリシスを付与するにあたり、アンチヨーモーメントAYMを付与すると、前輪WFにロールを抑制する方向にモーメントが発生し、後輪WRにロールを助長する方向にモーメントが発生する。また、操舵トルクに対してヒステリシスを付与するにあたり、ダイレクトヨーモーメントDYMを付与すると、前輪WFにはロールを助長する方向にモーメントが発生し、後輪WRにはロールを抑制する方向にモーメントが発生する。
【0061】
また、前輪WFのみにダイレクトヨーモーメントDYMを付与する制御を行う場合のロール挙動を図8に示し、後輪WRのみにダイレクトヨーモーメントDYMを付与する制御を行う場合のロール挙動を図9に示す。図8および図9に示すように、いずれの制御においても、切り増し側か切り戻し側かのいずれかの側の片側のロールが大きくなる。
【0062】
この関係を利用して、本実施形態に係る制駆動力制御では、前輪WFおよび後輪WRへの制駆動力配分を行い、操舵力に対してヒステリシスを付与しつつ、車両Mのロール挙動を抑制する制御を行う。以下、本実施形態に係る制駆動力制御の動作手順について説明する。図10は、本実施形態に係る制駆動力制御の動作手順を示すフローチャートである。
【0063】
図10に示すように、本実施形態に係る制駆動力制御では、最初に、車両状態の検出を行い(S11)、次に、目標ヨーレートr_refの算出を行う(S12)。続いて、実ヨーレートrと目標ヨーレートr_refとの差分であるヨーレート差分Δrを算出し(S13)、操舵トルクのヒステリシス制御を行うか否かを判断する(S14)。
【0064】
その結果、操舵トルクのヒステリシス制御を行わないと判断した場合には、通常のヨーコントロール制御を行い(S23)、そのまま処理を終了する。一方、操舵トルクのヒステリシス制御を行うと判断した場合には、前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値Mz_hysを演算によって求め(S15)、操舵角速度SVを演算によって求める(S16)。ここまでは、上記第1の実施形態と同様の手順によって行う。
【0065】
続いて、ステアリングSの操作が切り増し操作であるか否かを判断する(S17)。ステアリングSの操作が切り増し操作であるか否かの判断は、舵角センサ7から送信され、ステップS1において取得され操舵角SAおよびステップS16で算出された操舵角速度SVに基づいて行われる。
【0066】
その結果、ステアリングSの操作が切り増し操作であると判断した場合には、前輪WFにアンチヨーモーメントを付与するアンチヨーモーメント制御を行う(S18)。一方、ステアリングSの操作が切り増し操作でない(切り戻し操作である)と判断した場合には、後輪WRにヨーモーメントを付与するヨーモーメント制御を行う(S19)。このように、ステアリングSの切り増し時には、前輪WFにアンチヨーモーメントを付与す、ステアリングSの切り戻し時には後輪WRにヨーモーメントを付与することにより、図11に示すように、操舵力に対してヒステリシスを付与するとともに、車両Mのロール挙動を抑制することができる。
【0067】
その後は、上記第1の実施形態と同様、目標ヨーモーメントを算出し(S20)、左右輪制駆動力配分を演算によって算出する(S21)。そして、左右輪に駆動力を発生させる制御を行って(S22)、制駆動力制御を終了する。
【0068】
このように、本実施形態に係る制駆動力制御では、上記第1の実施形態と同様、操舵トルクにヒステリシスを付与することができ、安定したステアリング性能を得ることができる。さらに、本実施形態に係る制駆動力制御装置では、車両Mの車輪にヨーモーメントを付与するにあたり、車両Mのロールを抑制する方向、具体的には、ステアリングSの操作が切り増し操作である場合には前輪WFにアンチヨーモーメントを付与し、ステアリングSの操作が切り戻し操作である場合には後輪WRにダイレクトヨーモーメントを付与する。このため、操舵トルクにヒステリシスを付与することができるとともに、車両Mに生じるロールを抑制することができる。
【0069】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記実施形態では、車両Mに制駆動力を付与するために車輪Wに駆動モータ5を取り付けているが、たとえばエンジンの駆動力を車輪に伝えるとともにディファレンシャル装置を用い、ディファレンシャル装置の駆動力配分を調整する制駆動力制御を行うこともできる。
【0070】
また、上記実施形態では、操舵トルクにヒステリシスを付与するにあたって、車輪Wに付与するダイレクトヨーモーメントやアンチヨーモーメントは固定の値としているが、車両状態等に応じた値とすることもできる。たとえば、車速の増加に伴って車輪Wに付与するダイレクトヨーモーメントやアンチヨーモーメントを増加させる制御を行ったり、車両Mにかかる横加速度の増加に伴って車輪Wに付与するダイレクトヨーモーメントやアンチヨーモーメントを増減させる制御を行ったりすることができる。たとえば、車速の増加に伴って車輪Wに付与するダイレクトヨーモーメントやアンチヨーモーメントを増加させる制御を行うことにより、高速域での安定性を確保することができる。また、車両Mにかかる横加速度の増加に伴って車輪Wに付与するダイレクトヨーモーメントやアンチヨーモーメントを増加させる制御を行うことにより、高加速域での舵の据わりを確保することができる。逆に、車両Mにかかる横加速度の増加に伴って車輪Wに付与するダイレクトヨーモーメントやアンチヨーモーメントを減少させる制御を行うことにより、軽快感を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1の実施形態に係る制駆動力制御装置のブロック構成図である。
【図2】第1の実施形態に係る制駆動力制御装置の動作手順を示すフローチャートである。
【図3】前輪トータル復元トルクヒステリシス目標値算出マップである。
【図4】操舵角速度とダイレクトヨーモーメントとの関係を示すグラフである。
【図5】操舵トルクと車両応答性との関係を示すグラフである。
【図6】アンチダイブ係数とアンチリフト係数を説明する車両の側面図である。
【図7】ロールモーメントとヨーモーメントとの関係を示すグラフである。
【図8】前輪にダイレクトヨーモーメントを付与した場合の操舵角とロール角との関係を示すグラフである。
【図9】後輪にアンチヨーモーメントを付与した場合の操舵角とロール角との関係を示すグラフである。
【図10】第2の実施形態に係る制駆動力制御装置の動作手順を示すフローチャートである。
【図11】前輪にダイレクトヨーモーメントを付与し、または後輪にアンチヨーモーメントを付与した場合の操舵角とロール角との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
1…車両制御ECU、2…インバータ、3…バッテリ、4…ヨーレートセンサ、5…駆動モータ、6…車輪速センサ、7…舵角センサ、M…車両、S…ステアリング、W…車輪。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転状態に基づいて目標ヨーレートを算出する目標ヨーレート算出手段と、
前記車両の実際のヨーレートである実ヨーレートを検出する実ヨーレート検出手段と、
前記車両における操舵角速度を取得する操舵角速度取得手段と、
前記車両の操舵トルクに対する目標ヒステリシスを取得する目標ヒステリシス取得手段と、
前記操舵角速度取得手段によって取得された操舵角速度に基づいて、前記目標ヒステリシスを実現するヨーモーメントを算出するヨーモーメント算出手段と、
前記ヨーモーメントを達成する前記車両の左右輪に対する制駆動力配分を算出する制駆動力配分算出手段と、
前記目標ヨーレートと前記実ヨーレートとの差分が所定のしきい値以下の場合に、前記制駆動力配分によって前記車両の左右輪を制駆動する車輪制駆動手段と、
を備えることを特徴とする車両の制駆動力制御装置。
【請求項2】
前記制駆動力配分算出手段は、車両における前輪における制駆動力配分を算出するにあたり、
前記前輪を支持するフロントサスペンションのキングピンオフセット量を加味する請求項1に記載の車両の制駆動力制御装置。
【請求項3】
前記車両のステアリングの操作を判断するステアリング操作方向判断手段を備え、
前記ステアリングの操作が切り増し方向への操作である場合には、前記ヨーモーメントを付与する車輪として前輪を決定し、前記ステアリングの操作が切り戻し方向への操作である場合には、前記ヨーモーメントを付与する車輪として後輪を決定する請求項1または請求項2に記載の車両の制駆動力制御装置。
【請求項4】
前記車輪制駆動制御手段が、各車輪に設けられたインホイールモータである請求項1〜請求項3のうちのいずれか1項に記載の車両の制駆動力制御装置。
【請求項1】
車両の運転状態に基づいて目標ヨーレートを算出する目標ヨーレート算出手段と、
前記車両の実際のヨーレートである実ヨーレートを検出する実ヨーレート検出手段と、
前記車両における操舵角速度を取得する操舵角速度取得手段と、
前記車両の操舵トルクに対する目標ヒステリシスを取得する目標ヒステリシス取得手段と、
前記操舵角速度取得手段によって取得された操舵角速度に基づいて、前記目標ヒステリシスを実現するヨーモーメントを算出するヨーモーメント算出手段と、
前記ヨーモーメントを達成する前記車両の左右輪に対する制駆動力配分を算出する制駆動力配分算出手段と、
前記目標ヨーレートと前記実ヨーレートとの差分が所定のしきい値以下の場合に、前記制駆動力配分によって前記車両の左右輪を制駆動する車輪制駆動手段と、
を備えることを特徴とする車両の制駆動力制御装置。
【請求項2】
前記制駆動力配分算出手段は、車両における前輪における制駆動力配分を算出するにあたり、
前記前輪を支持するフロントサスペンションのキングピンオフセット量を加味する請求項1に記載の車両の制駆動力制御装置。
【請求項3】
前記車両のステアリングの操作を判断するステアリング操作方向判断手段を備え、
前記ステアリングの操作が切り増し方向への操作である場合には、前記ヨーモーメントを付与する車輪として前輪を決定し、前記ステアリングの操作が切り戻し方向への操作である場合には、前記ヨーモーメントを付与する車輪として後輪を決定する請求項1または請求項2に記載の車両の制駆動力制御装置。
【請求項4】
前記車輪制駆動制御手段が、各車輪に設けられたインホイールモータである請求項1〜請求項3のうちのいずれか1項に記載の車両の制駆動力制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−274528(P2009−274528A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126345(P2008−126345)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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