説明

車両用駆動装置の制御装置

【課題】エアコンの駆動要求がある場合にもドライバビリティを悪化させずに効率の良い運転が可能な車両用駆動装置の制御装置を提供する。
【解決手段】車両用駆動装置1の制御装置2であって、A/C要求トルクを決定するエアコン要求トルク決定手段2aと、駆動力要求トルクを決定する駆動力要求トルク決定手段2bと、A/C要求トルクと駆動力要求トルクを足し合わせたトータル要求トルクを満たすようにエンジン6とモータ7の運転点を決定する運転点決定手段2cと、を備え、運転点決定手段2cは、エンジン6の運転効率に基づいてエンジン6とモータ7のそれぞれの運転点を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコン用コンプレッサを備えた車両用駆動装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関と、電動機と、車室内の空調を行なうエアコン用コンプレッサと、を備える車両用駆動装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の車両用駆動装置200は、図14に示すように、電動機210に接続されるとともに第1断接手段205によって選択的に内燃機関出力軸204と連結される第1入力軸202aと、第2断接手段206によって選択的に内燃機関出力軸204に連結される第2入力軸202bと、被駆動部に動力を出力する出力軸203と、第1入力軸202a上に配置され第1同期装置230、231を介して第1入力軸202aに選択的に連結される複数のギヤよりなる第1ギヤ群と、第2入力軸202b上に配置され第2同期装置216、217を介して第2入力軸202bに選択的に連結される複数のギヤよりなる第2ギヤ群と、出力軸203上に配置され第1ギヤ群のギヤと第2ギヤ群のギヤと噛合する複数のギヤよりなる第3ギヤ群と、を備えたツインクラッチ式変速機構を備え、電動機210に副装置としてのエアコン用コンプレッサ260がエアコン用クラッチ261を介して連結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−89594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許文献1には、具体的にどのようにエアコン用コンプレッサ260を制御するのか記載されておらず、エアコンの駆動要求がある場合に電動機210と内燃機関の運転点をどのように設定するかは、ドライバビリティを悪化させずに効率の良い運転を行なうことが燃費を向上させる点で極めて重要である。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、その目的は、エアコンの駆動要求がある場合にもドライバビリティを悪化させずに効率の良い運転が可能な車両用駆動装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
内燃機関(例えば、後述の実施形態のエンジン6)と、
電動機(例えば、後述の実施形態のモータ7)と、
前記電動機に接続されるとともに第1断接手段(例えば、後述の実施形態の第1クラッチ41)を介して選択的に前記内燃機関に接続される第1入力軸(例えば、後述の実施形態の第1主軸11)と、第2断接手段(例えば、後述の実施形態の第2クラッチ42)を介して選択的に前記内燃機関に接続される第2入力軸(例えば、後述の実施形態の第2中間軸16)と、第1同期装置(例えば、後述の実施形態のロック機構61、第1変速用シフター51)を介して選択的に前記第1入力軸に接続されるとともに第2同期装置(例えば、後述の実施形態の第2変速用シフター52)を介して選択的に前記第2入力軸に接続される出力軸(例えば、後述の実施形態のカウンタ軸14)と、を備えた変速機構(例えば、後述の実施形態の変速機20)と、
エアコン用クラッチ(例えば、後述の実施形態のエアコン用クラッチ121)を介して前記第1入出力軸に連結されるエアコン用コンプレッサ(例えば、後述の実施形態のエアコン用コンプレッサ112)と、を備えた車両用駆動装置(例えば、後述の実施形態の車両用駆動装置1)の制御装置(例えば、後述の実施形態の制御装置2)であって、
エアコン要求トルク(例えば、後述の実施形態のA/C要求トルク)を決定するエアコン要求トルク決定手段(例えば、後述の実施形態のエアコン要求トルク決定手段2a)と、
駆動力要求トルク(例えば、後述の実施形態の駆動力要求トルク)を決定する駆動力要求トルク決定手段(例えば、後述の実施形態の駆動力要求トルク決定手段2b)と、
前記エアコン要求トルクと前記駆動力要求トルクを足し合わせたトータル要求トルク(例えば、後述の実施形態のトータル要求トルク)を満たすように前記内燃機関と前記電動機の運転点を決定する運転点決定手段(例えば、後述の実施形態の運転点決定手段2c)と、を備え、
前記運転点決定手段は、前記内燃機関の運転効率に基づいて前記内燃機関と前記電動機の運転点を決定することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明の構成に加えて、
前記運転点決定手段は、前記内燃機関の運転効率の効率ピークトルク(例えば、後述の実施形態のエンジン効率ピークトルク)を基準に前記内燃機関と前記電動機の運転点を選定し、
前記トータル要求トルクが前記内燃機関の運転効率の効率ピークトルク以下の場合は、内燃機関トルク(例えば、後述の実施形態のエンジントルク)を前記効率ピークトルクに設定するとともに、前記電動機を回生させて電動機トルク(例えば、後述の実施形態のモータトルク)を前記効率ピークトルクから前記トータル要求トルクを差し引いた偏差トルク(例えば、後述の実施形態の偏差トルク)に設定し、
前記トータル要求トルクが前記内燃機関の運転効率の効率ピークトルクより大きい場合は、前記内燃機関トルクを前記効率ピークトルクに設定するとともに、前記電動機を駆動させて電動機トルクを前記トータル要求トルクから前記効率ピークトルクを差し引いた偏差トルクに設定することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明の構成に加えて、
前記電動機の余裕トルクを監視する余裕トルク監視手段(例えば、後述の実施形態の余裕トルク監視手段2d)をさらに備え、
前記偏差トルクが余裕トルク(例えば、後述の実施形態のモータジェネレート余裕トルク、モータアシスト余裕トルク)を超える場合には、前記電動機トルクをリミットトルクに設定し、前記内燃機関トルクを前記トータル要求トルクから前記電動機トルクを差し引いたトルクに設定することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明の構成に加えて、
前記電動機の余裕トルク(例えば、後述の実施形態のモータジェネレート余裕トルク、モータアシスト余裕トルク)を監視する余裕トルク監視手段(例えば、後述の実施形態の余裕トルク監視手段2d)をさらに備え、
前記運転点決定手段は、前記エアコン用クラッチの断接時に発生するトルク段差(例えば、後述の実施形態の協調トルク)と前記余裕トルクの関係から、前記内燃機関と前記電動機のいずれか一方で前記トルク段差を吸収するように前記内燃機関と前記電動機の運転点の選定を行なうことを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明の構成に加えて、
前記トルク段差が前記余裕トルクより小さいとき、前記内燃機関トルクを前記効率ピークトルクに設定するとともに前記電動機で前記トルク段差を吸収するように前記電動機トルクを設定し、
前記トルク段差が前記余裕トルク以上のとき、前記電動機トルクを変更せずに、前記内燃機関で前記トルク段差を吸収するように前記内燃機関トルクを前記効率ピークトルクから変更することを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項2に記載の発明の構成に加えて、
PWM制御を行なって定常的に前記エアコン用クラッチの断接しているとき、前記エアコン用クラッチの断接するタイミングを予測してフィードフォワード制御により電動機トルクを設定することを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項4に記載の発明の構成に加えて、
前記トルク段差が前記電動機の余裕トルクより大きいとき、前記エアコン要求トルクを考慮して低速ギヤに変速することにより、前記内燃機関の効率ピークトルクを変更させることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の発明の構成に加えて、
前記変速機構は、前記第1入力軸上に配置され前記第1同期装置を介して前記第1入力軸に選択的に連結される複数のギヤ(例えば、後述の実施形態の遊星歯車機構30、第3速用駆動ギヤ23a、第5速用駆動ギヤ25a)よりなる第1ギヤ群と、前記第2入力軸上に配置され前記第2同期装置を介して前記第2入力軸に選択的に連結される複数のギヤ(例えば、後述の実施形態の第2速用駆動ギヤ22a、第4速用駆動ギヤ24a)よりなる第2ギヤ群と、前記出力軸上に配置され前記第1ギヤ群のギヤと前記第2ギヤ群のギヤとが噛合する複数のギヤ(例えば、後述の実施形態の第1共用従動ギヤ23b、第2共用従動ギヤ24b)よりなる第3ギヤ群と、を備え、
前記第2ギヤ群のギヤで内燃機関走行中は、前記第1同期装置を前記第1ギヤ群のギヤのうち低速側のギヤを選択しておくことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の車両用駆動装置の制御装置によれば、運転点決定手段は、内燃機関の運転効率に基づいて内燃機関と電動機の運転点の選定を行なうので、ドライバビリティを悪化させずに効率の良い運転が可能となり燃費を向上させることができる。
【0016】
請求項2の車両用駆動装置の制御装置によれば、内燃機関の運転効率の効率ピークトルクを基準に電動機で偏差トルクを吸収することで、電動機の駆動トルクと回生トルクを利用して効率の良い運転が可能となり燃費を向上させることができる。
【0017】
請求項3の車両用駆動装置の制御装置によれば、電動機の余裕トルクを考慮して内燃機関トルクと電動機トルクを決定するので、効率を重視しながらもドライバビリティの悪化をより確実に防止することができる。
【0018】
請求項4の車両用駆動装置の制御装置によれば、エアコン用クラッチの断接時に発生するトルク段差と余裕トルクの関係から、内燃機関と電動機のいずれか一方でトルク段差を吸収するように内燃機関と電動機の運転点の選定を行なうので、エアコン用クラッチの断接時においても効率の良い運転をしながらドライバビリティの悪化を防止することができる。
【0019】
請求項5の車両用駆動装置の制御装置によれば、エアコン用クラッチの断接時においても効率を重視しながらドライバビリティの悪化をより確実に防止することができる。
【0020】
請求項6の車両用駆動装置の制御装置によれば、PWM制御を行なって定常的にエアコン用クラッチの断接しているときに、エアコン用クラッチの断接するタイミングを予測してフィードフォワード制御により電動機トルクを設定するので、エアコン用クラッチのPWM制御における断接時に発生するショックを抑制することができる。
【0021】
請求項7の車両用駆動装置の制御装置によれば、変速により内燃機関の効率ピークトルクを変更させることにより、内燃機関を効率ピークトルクで運転することが可能となり燃費を向上させることができる。
【0022】
請求項8の車両用駆動装置の制御装置によれば、シフトダウン時に第1断接手段と第2断接手段をつなぎかえるだけでよく変速時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の制御装置を適用可能な車両用駆動装置の一例を示す断面図である。
【図2】図1の車両用駆動装置の概略構成図である。
【図3】図2の車両用駆動装置とその制御装置のブロック図である。
【図4】エンジンとモータの運転点を決定する制御フローを示した図である。
【図5】トータル要求トルクがENG運転効率PEAKトルクより小さい場合における各トルクを説明する図である。
【図6】トータル要求トルクがENG運転効率PEAKトルクより大きい場合における各トルクを説明する図である。
【図7】エアコン用クラッチの断接時における運転点を決定する制御フローを示した図である。
【図8】(a)は、トータル要求トルクがENG運転効率PEAKトルクより小さい場合における各トルクを説明する図であり、(b)は、(a)の状態からエアコン用クラッチをオフにした場合であってトルク段差がモータ余裕トルクより大きい場合における各トルクを説明する図である。
【図9】(a)は、トータル要求トルクがENG運転効率PEAKトルクより小さい場合における各トルクを説明する図であり、(b)は、(a)の状態からエアコン用クラッチをオフにした場合であってトルク段差がモータ余裕トルクより小さい場合における各トルクを説明する図である。
【図10】(a)は、トータル要求トルクがENG運転効率PEAKトルクより大きい場合における各トルクを説明する図であり、(b)は、(a)の状態からエアコン用クラッチをオフにした場合であってトルク段差がモータ余裕トルクより小さい場合における各トルクを説明する図である。
【図11】(a)は、駆動力要求トルクがENG運転効率PEAKトルクより大きい場合における各トルクを説明する図であり、(b)は、(a)の状態からエアコン用クラッチをオンにした場合であってトルク段差がモータ余裕トルクより大きいにおける各トルクを説明する図である。
【図12】第2速走行中であって1速プレシフトアシスト時における図であり、(a)は速度共線図であり、(b)は車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図13】第1速走行中のアシスト時における図であり、(a)は速度共線図であり、(b)は車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図14】特許文献1の車両用駆動装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の制御装置を搭載可能なハイブリッド車両用駆動装置の一実施形態ついて図1及び図2を参照しながら説明する。
本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1(以下、車両用駆動装置と呼ぶ。)は、車両(図示せず)の駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DW(被駆動部)を駆動するためのものであり、駆動源である内燃機関(以下「エンジン」という)6と、電動機(以下「モータ」という)7と、動力を駆動輪DW,DWに伝達するための変速機20と、を備えている。
【0025】
エンジン6は、例えばガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであり、このエンジン6のクランク軸6aには、変速機20の第1クラッチ41(第1断接手段)と第2クラッチ(第2断接手段)が設けられている。
【0026】
モータ7は、3相ブラシレスDCモータであり3n個の電機子71aで構成されたステータ71と、このステータ71に対向するように配置されたロータ72とを有している。各電機子71aは、鉄芯71bと、この鉄芯71bに巻き回されたコイル71cで構成されており、不図示のケーシングに固定され、回転軸を中心に周方向にほぼ等間隔で並んでいる。3n個のコイル71cは、n組のU相、V相,W相の3相コイルを構成している。
【0027】
ロータ72は、鉄芯72aと、回転軸を中心にほぼ等間隔で並んだn個の永久磁石72bを有しており、隣り合う各2つの永久磁石72bの極性は、互いに異なっている。鉄芯72aを固定する固定部72cは、中空円筒状を有し、後述する遊星歯車機構30のリングギヤ35の外周側に配置され、遊星歯車機構30のサンギヤ32に連結されている。これにより、ロータ72は、遊星歯車機構30のサンギヤ32と一体に回転するように構成されている。
【0028】
遊星歯車機構30は、サンギヤ32と、このサンギヤ32と同軸上に配置され、かつ、このサンギヤ32の周囲を取り囲むように配置されたリングギヤ35と、サンギヤ32とリングギヤ35に噛合されたプラネタリギヤ34と、このプラネタリギヤ34を自転可能、かつ、公転可能に支持するキャリア36とを有している。このようにして、サンギヤ32とリングギヤ35とキャリア36が、相互に差動回転自在に構成されている。
【0029】
リングギヤ35には、同期機構(シンクロナイザー機構)を有しリングギヤ35の回転を停止(ロック)可能に構成されたロック機構61(第1同期装置)が設けられている。なお、ロック機構61としてブレーキ、スリーブによる摩擦係合装置を用いてもよい。
【0030】
変速機20は、前述した第1クラッチ41と第2クラッチ42と、遊星歯車機構30と、後述する複数の変速ギヤ群を備えた、いわゆるツインクラッチ式変速機である。なお、ロック機構61の変わりにブレーキ機構を用いてもよい。
【0031】
より具体的に、変速機20は、エンジン6のクランク軸6aと同軸(回転軸線A1)上に配置された第1主軸11(第1の入力軸)と、第2主軸12と、連結軸13と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線B1を中心として回転自在なカウンタ軸14(出力軸)と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線C1を中心として回転自在な第1中間軸15と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線D1を中心として回転自在な第2中間軸16(第2の入力軸)と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線E1を中心として回転自在なリバース軸17を備えている。
【0032】
第1主軸11には、エンジン6側に第1クラッチ41が設けられ、エンジン6側とは反対側に遊星歯車機構30のサンギヤ32とモータ7のロータ72が取り付けられている。従って、第1主軸11は、第1クラッチ41によって選択的にエンジン6のクランク軸6aと連結されるとともにモータ7と直結され、エンジン6及び/又はモータ7の動力がサンギヤ32に伝達されるように構成されている。
【0033】
第2主軸12は、第1主軸11より短く中空に構成されており、第1主軸11のエンジン6側の周囲を覆うように相対回転自在に配置されている。また、第2主軸12には、エンジン6側に第2クラッチ42が設けられ、エンジン6側とは反対側にアイドル駆動ギヤ27aが一体に取り付けられている。従って、第2主軸12は、第2クラッチ42によって選択的にエンジン6のクランク軸6aと連結され、エンジン6の動力がアイドル駆動ギヤ27aへ伝達されるように構成されている。
【0034】
連結軸13は、第1主軸11より短く中空に構成されており、第1主軸11のエンジン6側とは反対側の周囲を覆うように相対回転自在に配置されている。また、連結軸13には、エンジン6側に第3速用駆動ギヤ23aが一体に取り付けられ、エンジン6側とは反対側に遊星歯車機構30のキャリア36が一体に取り付けられている。従って、プラネタリギヤ34の公転により連結軸13に取り付けられたキャリア36と第3速用駆動ギヤ23aが一体に回転するように構成されている。
【0035】
さらに、第1主軸11には、第1主軸11と相対回転自在に第5速用駆動ギヤ25aが設けられるとともに第1主軸11と一体に回転するリバース従動ギヤ28bが取り付けられている。さらに第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aとの間には、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23a又は第5速用駆動ギヤ25aとを連結又は開放する第1変速用シフター51が設けられている。そして、第1変速用シフター51が第3速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23aが連結して一体に回転し、第5速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第5速用駆動ギヤ25aが一体に回転し、第1変速用シフター51がニュートラル位置にあるときには、第1主軸11は第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aに対し相対回転する。なお、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23aが一体に回転するとき、第1主軸11に取り付けられたサンギヤ32と第3速用駆動ギヤ23aに連結軸13で連結されたキャリア36が一体に回転するとともに、リングギヤ35も一体に回転し、遊星歯車機構30が一体となる。この遊星歯車機構30が一体となって回転するとき、後述する第3速走行がなされる。また、第1変速用シフター51がニュートラル位置にあって前述のロック機構61が第1速用接続位置で接続されると、リングギヤ35がロックされ、サンギヤ32の回転が減速されてキャリア36に伝達される。これにより後述する第1速走行がなされる。
【0036】
第1中間軸15には、第2主軸12に取り付けられたアイドル駆動ギヤ27aと噛合する第1アイドル従動ギヤ27bが一体に取り付けられている。
【0037】
第2中間軸16には、第1中間軸15に取り付けられた第1アイドル従動ギヤ27bと噛合する第2アイドル従動ギヤ27cが一体に取り付けられている。第2アイドル従動ギヤ27cは、前述したアイドル駆動ギヤ27aと第1アイドル従動ギヤ27bとともに第1アイドルギヤ列27Aを構成している。また、第2中間軸16には、第1主軸11周りに設けられた第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aと対応する位置にそれぞれ第2中間軸16と相対回転可能な第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aとが設けられている。さらに第2中間軸16には、第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aとの間に、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22a又は第4速用駆動ギヤ24aとを連結又は開放する第2変速用シフター52が設けられている。そして、第2変速用シフター52が第2速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22aとが一体に回転し、第2変速用シフター52が第4速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第4速用駆動ギヤ24aとが一体に回転し、第2変速用シフター52がニュートラル位置にあるときには、第2中間軸16は第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aに対し相対回転する。
【0038】
カウンタ軸14には、エンジン6側とは反対側から順に第1共用従動ギヤ23bと、第2共用従動ギヤ24bと、パーキングギヤ21と、ファイナルギヤ26aとが一体に取り付けられている。
ここで、第1共用従動ギヤ23bは、連結軸13に取り付けられた第3速用駆動ギヤ23aと噛合して第3速用駆動ギヤ23aと共に第3速用ギヤ対23を構成し、第2中間軸16に設けられた第2速用駆動ギヤ22aと噛合して第2速用駆動ギヤ22aと共に第2速用ギヤ対22を構成する。
第2共用従動ギヤ24bは、第1主軸11に設けられた第5速用駆動ギヤ25aと噛合して第5速用駆動ギヤ25aと共に第5速用ギヤ対25を構成し、第2中間軸16に設けられた第4速用駆動ギヤ24aと噛合して第4速用駆動ギヤ24aと共に第4速用ギヤ対24を構成する。
ファイナルギヤ26aは差動ギヤ機構8と噛合して、差動ギヤ機構8は、駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DWに連結されている。従って、カウンタ軸14に伝達された動力はファイナルギヤ26aから差動ギヤ機構8、駆動軸9,9、駆動輪DW,DWへと出力される。
【0039】
リバース軸17には、第1中間軸15に取り付けられた第1アイドル従動ギヤ27bと噛合する第3アイドル従動ギヤ27dが一体に取り付けられている。第3アイドル従動ギヤ27dは、前述したアイドル駆動ギヤ27aと第1アイドル従動ギヤ27bとともに第2アイドルギヤ列27Bを構成している。また、リバース軸17には、第1主軸11に取り付けられた後進用従動ギヤ28bと噛合する後進用駆動ギヤ28aがリバース軸17と相対回転自在に設けられている。後進用駆動ギヤ28aは、後進用従動ギヤ28bとともに後進用ギヤ列28を構成している。さらに後進用駆動ギヤ28aのエンジン6側とは反対側にリバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとを連結又は開放する後進用シフター53が設けられている。そして、後進用シフター53が後進用接続位置でインギヤするときには、リバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとが一体に回転し、後進用シフター53がニュートラル位置にあるときには、リバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとが相対回転する。
【0040】
なお、第1変速用シフター51、第2変速用シフター52、後進用シフター53は、接続する軸とギヤの回転数を一致させる同期機構(シンクロナイザー機構)を有するクラッチ機構を用いている。
【0041】
このように構成された変速機20は、2つの変速軸の一方の変速軸である第1主軸11上に第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aからなる奇数段ギヤ群(第1ギヤ群)が設けられ、2つの変速軸の他方の変速軸である第2中間軸16上に第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aからなる偶数段ギヤ群(第2ギヤ群)が設けられる。
【0042】
また、車両用駆動装置1には、さらにエアコン用コンプレッサ112とオイルポンプ122とが設けられ、オイルポンプ122は、回転軸線A1〜E1と平行に配置されたオイルポンプ用補機軸19上にオイルポンプ用補機軸19と一体回転可能に取り付けられている。オイルポンプ用補機軸19には、後進用駆動ギヤ28aと噛合するオイルポンプ用従動ギヤ28cと、エアコン用駆動ギヤ29aとが一体回転可能に取り付けられて、第1主軸11を回転させるエンジン6及び/又はモータ7の動力が伝達される。また、エアコン用コンプレッサ112は、回転軸線A1〜E1と平行に配置されたエアコン用補機軸18上にエアコン用クラッチ121を介して設けられている。エアコン用補機軸18には、エアコン用駆動ギヤ29aからチェーン29cを介して動力が伝達されるエアコン用従動ギヤ29bがエアコン用補機軸18と一体回転可能に取り付けられて、オイルポンプ用補機軸19からエンジン6及び/又はモータ7の動力がエアコン用駆動ギヤ29a、チェーン29c及びエアコン用従動ギヤ29bで構成されるエアコン用伝達機構29を介して伝達される。なお、エアコン用コンプレッサ112は、不図示のエアコン作動用ソレノイドによりエアコン用クラッチ121を断接することで、動力の伝達が遮断することができるように構成される。
【0043】
以上の構成により、本実施形態の車両用駆動装置1は、以下の第1〜第5の伝達経路を有している。
(1)第1伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第1主軸11、遊星歯車機構30、連結軸13、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。ここで、遊星歯車機構30の減速比は、第1伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達されるエンジントルクが第1速相当となるように設定されている。即ち、遊星歯車機構30の減速比と第3速用ギヤ対23の減速比をかけ合わせた減速比が第1速相当となるように設定されている。
【0044】
(2)第2伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第2主軸12、第1アイドルギヤ列27A(アイドル駆動ギヤ27a、第1アイドル従動ギヤ27b、第2アイドル従動ギヤ27c)、第2中間軸16、第2速用ギヤ対22(第2速用駆動ギヤ22a、第1共用従動ギヤ23b)又は第4速用ギヤ対24(第4速用駆動ギヤ24a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0045】
(3)第3伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第1主軸11、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)又は第5速用ギヤ対25(第5速用駆動ギヤ25a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、遊星歯車機構30を介さずに、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0046】
(4)第4伝達経路は、モータ7が、遊星歯車機構30又は第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)又は第5速用ギヤ対25(第5速用駆動ギヤ25a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0047】
(5)第5伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第2主軸12、第2アイドルギヤ列27B(アイドル駆動ギヤ27a、第1アイドル従動ギヤ27b、第3アイドル従動ギヤ27d)、リバース軸17、後進用ギヤ列28(後進用駆動ギヤ28a、後進用従動ギヤ28b)、遊星歯車機構30、連結軸13、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0048】
また、本実施形態の車両用駆動装置1において、モータ7は、車両全体の各種制御をする制御装置2を介してバッテリ3に接続され、バッテリ3からの電力供給と、バッテリ3へのエネルギー回生が制御装置2を介して行われるようになっている。即ち、モータ7は、バッテリ3から制御装置2を介して供給された電力によって駆動され、また、減速走行時における駆動輪DW,DWの回転やエンジン6の動力により回生発電を行って、バッテリ3の充電(エネルギー回収)を行うことが可能である。さらに、制御装置2は、図3に示すように、エンジン回転数NEや吐出容量からエアコン用コンプレッサ112のA/C要求トルクを決定するエアコン要求トルク決定手段2aと、アクセル開度などから駆動力要求トルクを決定する駆動力要求トルク決定手段2bと、A/C要求トルクと駆動力要求トルクを満たすようにエンジン6とモータ7の運転点を決定する運転点決定手段2cと、モータ7の余裕トルクを監視する余裕トルク監視手段2dと、を少なくとも備え、加速要求、制動要求、エンジン回転数、モータ回転数、モータ温度、第1,第2主軸11、12の回転数、カウンタ軸14等の回転数、車速、シフトポジション、SOC(State of Charge)、エアコン作動・停止要求などが入力される一方、エンジン6を制御する信号、モータ7を制御する信号、バッテリ3における発電状態・充電状態・放電状態などを示す信号、第1,第2変速シフター51、52、後進用シフター53を制御する信号、ロック機構61の接続(ロック)と開放(ニュートラル)を制御する信号、エアコン用クラッチ121をPWM制御する信号などが出力される。
【0049】
このように構成された車両用駆動装置1は、ロック機構61、第1及び第2クラッチ41、42の断接を制御するとともに第1変速用シフター51、第2変速用シフター52および後進用シフター53の接続位置を制御することにより、エンジン6で第1〜第5速走行および後進走行を行うことができる。
【0050】
第1速走行は、第1クラッチ41を締結しロック機構61をロックすることで第1伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。第2速走行は、第2クラッチ42を締結して第2変速用シフター52を第2速用接続位置でインギヤすることで第2伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達され、第3速走行は、第1クラッチ41を締結して第1変速用シフター51を第3速用接続位置でインギヤすることで第3伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。
【0051】
また、第4速走行は、第2変速用シフター52を第4速用接続位置でインギヤすることで第2伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達され、第5速走行は、第1変速用シフター51を第5速用接続位置でインギヤすることで第2伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。さらに、第2クラッチ42を締結して後進用シフター53を接続することで、第5伝達経路を介して後進走行がなされる。
【0052】
また、エンジン走行中にロック機構61をロックしたり、第1及び第2変速用シフター51、52をプレシフトすることでモータ7でアシストしたり回生したり、さらにアイドリング中であってもエンジン6をモータ7で始動したりバッテリ3を充電することもできる。さらに、第1及び第2クラッチ41、42を切断してモータ7でEV走行を行うこともできる。EV走行の走行モードとしては、第1及び第2クラッチ41、42を切断して、ロック機構61をロックすることで第4伝達経路を介して走行する第1速EVモードと、第1変速用シフター51を第3速用接続位置でインギヤすることで第4伝達経路を介して走行する第3速EVモードと、第1変速用シフター51を第5速用接続位置でインギヤすることで第4伝達経路を介して走行する第5速EVモードとが存在する。
【0053】
また、エアコン用コンプレッサ112は第1主軸11に連結されているため、奇数段ギヤで走行中は第1主軸11が必然的に回転するためエアコン用コンプレッサ112を作動させることができるが、偶数段ギヤで走行中にエアコン用コンプレッサ112を作動させるためには、(i)奇数段ギヤをニュートラルにするとともにモータ7で第1主軸11を回転させるか、(ii)ロック機構61又は第1変速用シフター51をプレシフトして第1主軸11を回転させるか、又は(iii)ロック機構61又は第1変速用シフター51をニュートラルにするとともに第1クラッチ41を締結して第1主軸11をエンジン6で回転させる必要がある。
【0054】
従って、エアコンの作動要求があると、奇数段ギヤで走行中であっても偶数段ギヤで走行中であってもエアコン用クラッチ121を締結してエアコン用コンプレッサ112を作動させることができる。エアコン用コンプレッサ112を作動させた場合には、エアコン用クラッチ121の断接に伴う乗員へのショックを抑制するため、エンジントルクとモータトルクを足し合わせた総トルクが駆動力要求トルクとA/C要求トルクを足し合わせたトータル要求トルクと略等しくなるようにエンジン6とモータ7のそれぞれの運転点を決定する。なお、エンジントルクとモータトルクを足し合わせるためには、奇数段走行時であればモータ7が接続された第1主軸11がカウンタ軸14に連結されているためモータ7を駆動又は回生させるだけでよいが、偶数段走行時であればモータ7が接続された第1主軸11をカウンタ軸14に連結させるために予めロック機構61を接続するか又は第1変速用シフターをインギヤ(以下、これらの操作をプレシフトとも呼ぶ。)させる必要がある。
【0055】
ここで本実施形態のエンジン6とモータ7の運転点を決定する制御について図4を参照して説明する。
先ず、エアコンの作動要求があるか否かを検出し(ステップS11)、エアコンの作動要求がなければA/C要求トルクをゼロとし(ステップS12)、エアコンの作動要求があればエンジン回転数NEや吐出容量にてA/C要求トルクMapからA/C要求トルクを決定する(ステップS13)。
【0056】
続いて、アクセル開度などから決定される駆動力要求トルクとステップS12又はステップS13で決定したA/C要求トルクを加えてトータル要求トルクを算出する(ステップS14)。そして、エンジン回転数NEとRON(オクタン価推定値)からエンジンBSFCマップ(正味燃料消費率)に基づいてエンジン効率ピークトルクを決定し(ステップS15)、トータル要求トルクからエンジン効率ピークトルクを差し引いて偏差トルクを算出する(ステップS16)。なお、図5、6及び8〜11に記載のENG運転効率特性は、BSFCマップによって決定されるエンジン6の運転効率である。
【0057】
そして、偏差トルクがゼロ以上であるか否かを検出し(ステップS17)、偏差トルクがゼロより小さければモータ7の発電リミットであるジェネレートリミットチェックを行い(ステップS18)、偏差トルクがゼロ以上であればモータ7の駆動リミットであるアシストリミットチェックを行なう(ステップS19)。
【0058】
その結果、偏差トルクがジェネレートリミット又はアシストリミットを満たす(リミット内)か否かを検出し(ステップS20)、偏差トルクがジェネレートリミット又はアシストリミットを満たすのであれば、モータトルクを偏差トルクに設定し(ステップS21)、エンジントルクをエンジン効率ピークトルクに設定する(ステップS22)。
【0059】
図5は、トータル要求トルクがエンジン効率PEAKトルク(エンジン効率ピークトルク)より小さい場合を示しており、運転点決定手段2cは、エンジントルク(ENGトルク)をエンジン効率ピークトルクとなるようにエンジン6の運転点を決定し、モータトルクをエンジン効率ピークトルクからトータル要求トルクを差し引いた偏差トルクとなるようにモータ7の運転点を決定している。このとき、モータトルクは、エンジントルクと反対方向に作用する回生トルクを示している。
【0060】
図6は、トータル要求トルクがエンジン効率PEAKトルクより大きい場合を示しており、運転点決定手段2cは、エンジントルクをエンジン効率ピークトルクとなるようにエンジン6の運転点を決定し、モータトルクをトータル要求トルクからエンジン効率ピークトルクを差し引いた偏差トルクとなるようにモータ7の運転点を決定している。このとき、モータトルクは、エンジントルクと同方向に作用する駆動トルクを示している。
【0061】
また、ステップS20で偏差トルクがジェネレートリミット又はアシストリミットを満たさないのであれば、モータトルクをリミットトルクに設定し(ステップS23)、エンジントルクをトータル要求トルクからモータトルクを差し引いたトルクに設定する(ステップS24)。
【0062】
続いて、エアコン用クラッチ121の断接時におけるエンジン6とモータ7の運転点を決定する制御について図7を参照して説明する。
先ず、エアコンの切替要求があるか否かを検出し(ステップS31)、エアコンの切替要求がなければ図4に示す要求トルク算出処理を実行し、エアコンの切替要求があればエアコンの作動要求(A/C=On)であるか否かを検出する(ステップS32)。なお、エアコンの切替要求は、乗員によるエアコンのオン・オフ操作に限らず、PWM制御により制御されるエアコン用クラッチ121の断接も含むものであり、エアコン用クラッチ121のPWM制御中は、エアコン用クラッチ121のオン・オフタイミングにあわせて制御することで、エアコン用クラッチ121の断接時におけるショックを抑制することができる。エアコンの作動要求でない場合、即ちエアコンの停止要求である場合、A/C要求トルクをゼロに設定し(ステップS33)、エンジン回転数NEや吐出容量にてA/C要求トルクMapからゼロにする直前のA/C要求トルクを算出し、協調トルクを−1×A/C要求トルクに設定する(ステップS34)。
【0063】
続いて、ジェネレートリミットトルクから現在のモータトルクを差し引いてモータジェネレート余裕トルクを算出する(ステップS35)。ここでジェネレートリミットトルクや回生時におけるモータトルクは、回生トルクであるため負の値を有する。そして、協調トルクの大きさとモータジェネレート余裕トルクの大きさを比較する(ステップS36)。その結果、図8(a)に示すように協調トルクがモータジェネレート余裕トルク以上であれば、図8(b)に示すようにモータトルクを変更せずに(ステップS37)、エンジントルクをエンジン効率PEAKトルクから変更し、駆動力要求トルクからモータトルクを差し引いたトルクに設定する(ステップS38)。
【0064】
ステップS36の結果、図9(a)及び図10(a)に示すように協調トルクがモータジェネレート余裕トルクより小さければ、図9(b)及び図10(b)に示すようにエンジントルクをエンジンPEAK効率トルクから変更せずに(ステップS38)、モータトルクを駆動力要求トルクからエンジントルクを差し引いたトルクに設定する(ステップS39)。
なお、図9も図10も同様に、協調トルクがモータジェネレート余裕トルクより小さい場合を示しているが、図9はモータ7に回生トルクが作用している状況を示し、図10はモータ7に駆動トルクが作用している状況を示している点で相違している。
【0065】
ステップS32で、エアコンの作動要求である場合には、エンジン回転数NEや吐出容量にてA/C要求トルクMapからA/C要求トルクを決定し(ステップS41)、協調トルクをA/C要求トルクに設定する(ステップS42)。
【0066】
続いて、アシストリミットトルクから現在のモータトルクを差し引いてモータアシスト余裕トルクを算出する(ステップS43)。ここでアシストリミットトルクや駆動時におけるモータトルクは、駆動トルクであるため正の値を有する。そして、協調トルクの大きさとモータアシスト余裕トルクの大きさを比較する(ステップS44)。その結果、図11(a)に示すように協調トルクがモータアシスト余裕トルク以上であれば、図11(b)に示すようにモータトルクを変更せずに(ステップS45)、エンジントルクをエンジンPEAK効率トルクから変更し、駆動力要求トルクとA/C要求トルク(協調トルク)を足し合わせたトータル要求トルクからモータトルクを差し引いたトルクに設定する(ステップS46)。
【0067】
ステップS44の結果、協調トルクがモータアシスト余裕トルクより小さければ、エンジントルクをエンジンPEAK効率トルクから変更せずに(ステップS47)、モータトルクを駆動力要求トルクとA/C要求トルク(協調トルク)を足し合わせたトータル要求トルクからエンジンPEAK効率トルクであるエンジントルクを差し引いたトルクに設定する(ステップS48)。
【0068】
なお、上述した説明においては、変速ギヤを固定してエンジン6とモータ7の運転点を決定する方法を説明したが、例えばステップS36やステップS44において協調トルクがモータ余裕トルク以上である場合には、選択中のギヤ段をA/C要求トルクを考慮して適切なギヤへ変速することで、BSFCマップを変更してエンジン6のエンジンPEAK効率トルクを変更させることができる。これにより、エンジン6をエンジンPEAK効率トルクで運転しつつモータトルクで補正することができ、燃費を向上させることができる。
【0069】
例えば、第2変速用シフター52を第2速用接続位置にインギヤして第2クラッチ42を締結した第2速走行中に、図12に示すように、ロック機構61を接続してリングギヤ35をロックする(1速プレシフト)ことで、モータ7が接続された第1主軸11がカウンタ軸14に連結しモータトルクを作用させることができるようになるが、このとき協調トルクがモータ余裕トルク以上である場合には、図13に示すように第1クラッチ41と第2クラッチ42をつなぎかえることで第1速走行にシフトダウンを行なう。シフトダウンによりエンジン6のエンジンPEAK効率トルクが変更するため、エンジントルクを新たなエンジンPEAK効率トルクに設定した場合に、協調トルクが余裕トルク以内であれば、エンジントルクを変更されたエンジンPEAK効率トルクに設定することができ燃費の向上を図ることができる。なお、図13は、第1クラッチ41と第2クラッチ42をつなぎかえた後に第2変速用シフター52をニュートラルにした状態を示している。
【0070】
そして、偶数段走行中に協調トルクがモータ余裕トルク以上であることが予測される場合には、予め走行中のギヤより低速側のギヤにプレシフトしておくことで変速時に第1クラッチ41と第2クラッチ42をつなぎかえるだけでよく変速時間を短縮することができる。
【0071】
以上、説明したように本実施形態によれば、エンジン6と、モータ7と、モータ7に接続されるとともに第1クラッチ41を介して選択的にエンジン6に接続される第1主軸11と、第2クラッチ42を介して選択的にエンジン6に接続される第2中間軸16と、ロック機構61又は第1変速用シフター51を介して選択的に第1主軸11に接続されるとともに第2変速用シフター52を介して選択的に第2中間軸16に接続されるカウンタ軸14と、を備えた変速機20と、エアコン用クラッチ121を介して第1主軸11に連結されるエアコン用コンプレッサ112と、を備えた車両用駆動装置1の制御装置2であって、A/C要求トルクを決定するエアコン要求トルク決定手段2aと、駆動力要求トルクを決定する駆動力要求トルク決定手段2bと、A/C要求トルクと駆動力要求トルクを足し合わせたトータル要求トルクからエンジン6とモータ7の運転点を決定する運転点決定手段2cと、を備え、運転点決定手段2cは、エンジン6の運転効率に基づいてエンジン6とモータ7のそれぞれの運転点を決定するので、ドライバビリティを悪化させずに効率の良い運転が可能となり燃費を向上させることができる。
【0072】
また、本実施形態によれば、運転点決定手段2cは、エンジン6のエンジン効率ピークトルクを基準にエンジン6とモータ7の運転点を選定し、トータル要求トルクがエンジン効率ピークトルク以下の場合は、ENGトルクをエンジン効率ピークトルクに設定するとともに、モータ7を回生させてモータトルクをエンジン効率ピークトルクからトータル要求トルクを差し引いた偏差トルクに設定し、トータル要求トルクがエンジン効率ピークトルクより大きい場合は、エンジントルクをエンジン効率ピークトルクに設定するとともに、モータ7を駆動させてモータトルクをトータル要求トルクからエンジン効率ピークトルクを差し引いた偏差トルクに設定するので、モータ7の駆動トルクと回生トルクを利用して効率の良い運転が可能となり燃費を向上させることができる。
【0073】
また、本実施形態によれば、モータ7の余裕トルクを監視する余裕トルク監視手段2dをさらに備え、偏差トルクがモータジェネレート余裕トルク又はモータアシスト余裕トルクを超える場合には、モータトルクをリミットトルクに設定し、エンジントルクをトータル要求トルクからモータトルクを差し引いたトルクに設定するので、効率を重視しながらもドライバビリティの悪化をより確実に防止することができる。
【0074】
また、本実施形態によれば、モータ7の余裕トルクとしてモータジェネレート余裕トルクとモータアシスト余裕トルクを監視する余裕トルク監視手段2dをさらに備え、運転点決定手段2cは、エアコン用クラッチ121の断接時に発生するエンジン効率ピークトルクからのトルク段差に相当する協調トルクと余裕トルクの関係から、エンジン6とモータ7のいずれか一方でトルク段差を吸収するようにエンジン6とモータ7の運転点の選定を行なうので、エアコン用クラッチ121の断接時においても効率の良い運転をしながらドライバビリティの悪化を防止することができる。
【0075】
また、本実施形態によれば、協調トルクが余裕トルクより小さいとき、エンジントルクをエンジン効率ピークトルクに設定するとともにモータ7でトルク段差を吸収するようにモータトルクを設定し、トルク段差が余裕トルク以上のとき、モータトルクを変更せずに、エンジン6でトルク段差を吸収するようにエンジントルクをエンジン効率ピークトルクから変更するので、エアコン用クラッチ121の断接時においても効率の良い運転をしながらドライバビリティの悪化を防止することができる。
【0076】
また、本実施形態によれば、PWM制御を行なって定常的にエアコン用クラッチ121の断接しているときに、エアコン用クラッチ121の断接するタイミングを予測してフィードフォワード制御によりモータトルクを設定するので、エアコン用クラッチ121のPWM制御における断接時に発生するショックを抑制することができる。
【0077】
また、本実施形態によれば、協調トルクがモータアシスト余裕トルクより大きいとき、A/C要求トルクを考慮して低速ギヤに変速することにより、エンジンPEAK効率トルクを変更させることにより、モータトルクをエンジンPEAK効率トルクで運転することが可能となり燃費を向上させることができる。
【0078】
また、本実施形態によれば、偶数段ギヤでエンジン走行中は、走行中のギヤ段より低速側のギヤを選択しておくことで、シフトダウン時に第1クラッチ41と第2クラッチ42をつなぎかえるだけでよく変速時間を短縮することができる。
【0079】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、車両用駆動装置1は、ツインクラッチ式変速機のモータ7が接続された入力軸である第1主軸11に奇数段ギヤを配置し、モータ7が接続されていない入力軸である第2中間軸16に偶数段ギヤを配置したが、これに限定されず、モータ7が接続された入力軸である第1主軸11に偶数段ギヤを配置し、モータ7が接続されていない入力軸である第2中間軸16に奇数段ギヤを配置してもよい。
【0080】
また、奇数段の変速段として第1速用駆動ギヤとしての遊星歯車機構30と、第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aに加えて、第7、9・・速用駆動ギヤを、偶数段の変速段として第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aに加えて、第6、8・・速用駆動ギヤを設けてもよい。
【0081】
また、カウンタ軸14に取り付けられる従動ギヤを第2速用駆動ギヤ22aと第3速用駆動ギヤ23aと共同して噛合する第1共用従動ギヤ23bと、第4速用駆動ギヤ24aと第5速用駆動ギヤ25aと共同して噛合する第2共用従動ギヤ24bとしたが、これに限らず、それぞれのギヤと噛合する従動ギヤを複数設けてもよい。また、第1速用駆動ギヤとして遊星歯車機構30を例示したが、これに限らず第3速用駆動ギヤ23aなどと同様に第1速用駆動ギヤを設けてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 車両用駆動装置
2 制御装置
2a エアコン要求トルク決定手段
2b 駆動力要求トルク決定手段
2c 運転点決定手段
2d 余裕トルク監視手段
3 バッテリ
6 エンジン(内燃機関)
7 モータ(電動機)
11 第1主軸(第1入力軸)
14 カウンタ軸(出力軸)
16 第2中間軸(第2入力軸)
20 変速機(変速機構)
22a 第2速用駆動ギヤ
23a 第3速用駆動ギヤ
23b 第1共用従動ギヤ
24a 第4速用駆動ギヤ
24b 第2共用従動ギヤ
25a 第5速用駆動ギヤ
30 遊星歯車機構
41 第1クラッチ(第1断接手段)
42 第2クラッチ(第2断接手段)
51 第1変速用シフター(第1同期装置)
52 第2変速用シフター(第2同期装置)
61 ロック機構(第1同期装置)
112 エアコン用コンプレッサ
121 エアコン用クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
電動機と、
前記電動機に接続されるとともに第1断接手段を介して選択的に前記内燃機関に接続される第1入力軸と、第2断接手段を介して選択的に前記内燃機関に接続される第2入力軸と、第1同期装置を介して選択的に前記第1入力軸に接続されるとともに第2同期装置を介して選択的に前記第2入力軸に接続される出力軸と、を備えた変速機構と、
エアコン用クラッチを介して前記第1入力軸に連結されるエアコン用コンプレッサと、を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、
エアコン要求トルクを決定するエアコン要求トルク決定手段と、
駆動力要求トルクを決定する駆動力要求トルク決定手段と、
前記エアコン要求トルクと前記駆動力要求トルクを足し合わせたトータル要求トルクを満たすように前記内燃機関と前記電動機の運転点を決定する運転点決定手段と、を備え、
前記運転点決定手段は、前記内燃機関の運転効率に基づいて前記内燃機関と前記電動機の運転点を決定することを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記運転点決定手段は、前記内燃機関の運転効率の効率ピークトルクを基準に前記内燃機関と前記電動機の運転点を選定し、
前記トータル要求トルクが前記内燃機関の運転効率の効率ピークトルク以下の場合は、内燃機関トルクを前記効率ピークトルクに設定するとともに、前記電動機を回生させて電動機トルクを前記効率ピークトルクから前記トータル要求トルクを差し引いた偏差トルクに設定し、
前記トータル要求トルクが前記内燃機関の運転効率の効率ピークトルクより大きい場合は、前記内燃機関トルクを前記効率ピークトルクに設定するとともに、前記電動機を駆動させて電動機トルクを前記トータル要求トルクから前記効率ピークトルクを差し引いた偏差トルクに設定することを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記電動機の余裕トルクを監視する余裕トルク監視手段をさらに備え、
前記偏差トルクが余裕トルクを超える場合には、前記電動機トルクをリミットトルクに設定し、前記内燃機関トルクを前記トータル要求トルクから前記電動機トルクを差し引いたトルクに設定することを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記電動機の余裕トルクを監視する余裕トルク監視手段をさらに備え、
前記運転点決定手段は、前記エアコン用クラッチの断接時に発生するトルク段差と前記余裕トルクの関係から、前記内燃機関と前記電動機のいずれか一方で前記トルク段差を吸収するように前記内燃機関と前記電動機の運転点の選定を行なうことを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項5】
前記トルク段差が前記余裕トルクより小さいとき、前記内燃機関トルクを前記効率ピークトルクに設定するとともに前記電動機で前記トルク段差を吸収するように前記電動機トルクを設定し、
前記トルク段差が前記余裕トルク以上のとき、前記電動機トルクを変更せずに、前記内燃機関で前記トルク段差を吸収するように前記内燃機関トルクを前記効率ピークトルクから変更することを特徴とする請求項4に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項6】
PWM制御を行なって定常的に前記エアコン用クラッチの断接しているとき、前記エアコン用クラッチの断接するタイミングを予測してフィードフォワード制御により電動機トルクを設定することを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項7】
前記トルク段差が前記電動機の余裕トルクより大きいとき、前記エアコン要求トルクを考慮して低速ギヤに変速することにより、前記内燃機関の効率ピークトルクを変更させることを特徴とする請求項4に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項8】
前記変速機構は、前記第1入力軸上に配置され前記第1同期装置を介して前記第1入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第1ギヤ群と、前記第2入力軸上に配置され前記第2同期装置を介して前記第2入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第2ギヤ群と、前記出力軸上に配置され前記第1ギヤ群のギヤと前記第2ギヤ群のギヤとが噛合する複数のギヤよりなる第3ギヤ群と、を備え、
前記第2ギヤ群のギヤで内燃機関走行中は、前記第1同期装置を前記第1ギヤ群のギヤのうち低速側のギヤを選択しておくことを特徴とする請求項7に記載の車両用駆動装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−213165(P2011−213165A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81011(P2010−81011)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】