説明

車載パワーユニットの変速制御装置

【課題】変速装置の変速時における変速ギアのハーフニュートラル状態の頻度を低減し、ハーフニュートラル状態に陥っても空走時間を短縮し、操作感の良好な変速制御装置を供する。
【解決手段】車載パワーユニット1の変速制御装置2において、燃焼制御手段41と、クラッチ作動機構24と、クラッチ作動状態検出手段57と、変速指示手段42、43と、変速段切替機構と35、変速制御手段40とを備え、前記変速制御手段40は、変速指示信号を入力すると、クラッチ作動機構24を駆動し、クラッチ作動状態検出手段57が検出した変速クラッチCの半クラッチ状態の信号が入力されると、燃焼制御手段41により内燃機関Eの燃焼を停止し、変速段切替機構35により変速装置Mの変速段Gの切り替えを開始することを特徴とする車載パワーユニット1の変速制御装置2。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速クラッチを介して動力が伝達される変速装置を備えた車載パワーユニットの変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の変速装置は、変速クラッチを介して動力が伝達され、変速操作の際には、変速クラッチを切断して駆動ギアと被駆動ギアの噛み合わせを変更し、その後変速クラッチを接続する。
このような変速装置では、駆動ギアと被駆動ギアの噛み合わせの変更が、シフトドラムの回動により行われる。シフトドラムのドラム表面にはカム溝が形成され、シフトフォークの突部のそれぞれが、カム溝に噛み合うようになっており、シフトドラムが所定角度回転されると、カム溝に案内されてシフトフォークの突部がシフトドラム軸方向に移動されるので、シフトドラムの回転角度によりシフトフォークのシフトドラムの軸線方向における位置が定められ、所定位置へと移動されるようになっている。
これらのシフトフォークがそれぞれ所定位置へ移動されると、メイン軸にスプライン嵌合された駆動ギア、もしくはカウンタ軸にスプライン嵌合された被駆動ギアが、シフトフォークにより左右方向の所定位置に移動され、該ギアの側面に設けられた係合突起が、隣接するギアに設けられた係合穴に嵌合されることにより、変速段の切換が行われるようになっている。
【0003】
上記した変速装置では、ギアの側面に設けられた係合突起が、隣接するギアの係合穴に嵌合されず、内燃機関の駆動力が伝達されない、いわゆるハーフニュートラル状態が発生していた。
【0004】
このような不都合を解消するために、シフト動作が正常に終了せずにハーフニュートラル状態になった場合に、再びシフト動作を自動的に実行する変速制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−324012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載された変速制御装置は、シフトドラムの回転位置を監視し、シフトドラムが所定の回転位置以外に滞留し、すなわちハーフニュートラル状態になると、再度変速操作を行うようになっているものである。
【0007】
しかし、このような変速制御装置では、クラッチ切断を行った後に、変速操作を行い、その後クラッチを締結させるので、ギアの係合突起が係合せずに再度シフト操作を行うと、動力が伝達されない空走時間が長くなってしまう。
また、変速クラッチのオイルの温度が極低温の場合には、オイル粘度が高くなり、変速クラッチの引きずりが発生してしまうので、変速クラッチの駆動力が抜けずに、ギアの係合突起が係合穴に入らない状態が続いてしまう不都合があった。
さらに、ギアの係合突起が係合しない状態で、再度シフト操作を行うと、その都度空走とシフトチェンジのショックを感じてしまい、シフト操作感が良好でないという不都合があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、変速装置の変速時における変速ギアのハーフニュートラル状態の頻度を低減し、ハーフニュートラル状態に陥った場合でも空走時間を短縮し、操作感の良好な変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決したものであって、請求項1に記載の発明は、内燃機関の動力が、変速クラッチおよび複数の変速段を有する多段の変速装置を介して出力される車載パワーユニットの変速制御装置において、内燃機関の燃焼を制御する燃焼制御手段と、アクチュエータの駆動により前記変速クラッチを作動させるクラッチ作動機構と、前記変速クラッチの作動状態を検出するクラッチ作動状態検出手段と、変速段の切替えを指示する変速指示手段と、前記アクチュエータの駆動により前記変速装置の変速段の切替えを行う変速段切替機構と、前記変速指示手段の変速指示信号と前記クラッチ作動状態検出手段が検出したクラッチ作動状態の信号とを入力し、前記燃焼制御手段と前記クラッチ作動機構と前記変速段切替機構を制御する変速制御手段とを備え、前記変速制御手段は、前記変速指示信号を入力すると、前記クラッチ作動機構を駆動し、前記クラッチ作動状態検出手段が検出した前記変速クラッチの半クラッチ状態の信号が入力されると、燃焼制御手段により前記内燃機関の燃焼を停止し、前記変速段切替機構により前記変速装置の変速段の切り替えを開始することを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車載パワーユニットの変速制御装置において、前記変速クラッチは、オイル雰囲気中に配置された湿式の変速クラッチであって、前記変速制御装置は、前記変速段の切替え状態を検出する変速段切替状態検出手段を備え、前記変速制御手段は、前記変速段切替状態検出手段が検出する変速段切替状態の信号を入力するものであって、前記変速制御手段は、前記変速段切替状態検出手段から前記変速段の切替えが完了した変速段切替完了状態の信号を入力すると前記クラッチ作動機構を駆動して、前記変速クラッチの締結を開始し、前記燃焼制御手段により前記内燃機関の燃焼を開始することを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の車載パワーユニットの変速制御装置において、前記変速制御手段は、前記クラッチ作動状態検出手段から前記変速クラッチの半クラッチ状態の信号が入力される間に、前記変速段切替状態検出手段から前記変速段切替完了状態の信号が検出されない場合には、前記クラッチ作動機構により、前記変速クラッチをクラッチ切断状態とし、燃焼制御手段により、前記内燃機関の燃焼を停止することを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の車載パワーユニットの変速制御装置において、前記変速制御装置は、前記変速クラッチの入力側と出力側の回転数の差であるクラッチ入出力回転数差ΔCnを検出するクラッチ入出力回転数差検出手段を備え、前記変速制御手段は、前記クラッチ状態検出手段が、前記変速クラッチが切断されたクラッチ切断状態であることを検出すると、前記クラッチ入出力回転数差検出手段が検出したクラッチ入出力回転数差ΔCnを入力することを特徴とするものである。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4記載の車載パワーユニットの変速制御装置において、前記変速制御手段は、前記クラッチ作動状態検出手段が、前記クラッチ入出力回転数差ΔCnから導出される値に基づいた状態であることを検出すると、所定時間前記クラッチ作動機構24の変速クラッチCの操作を停止し、前記燃焼制御手段41により、前記内燃機関Eの燃焼を間引するこことを特徴とするものである。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の車載パワーユニットの変速制御装置において、前記クラッチ作動機構は、前記アクチュエータの駆動をシフトスピンドルの回動に伝達し、同シフトスピンドルの回動を前記変速クラッチの作動に変換する機構であり、前記クラッチ作動状態検出手段は、前記シフトスピンドルの回動角度であるシフトスピンドル角度により変速クラッチの作動状態を検出することを特徴とするものである。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項2ないし請求項6のいずれかに記載の車載パワーユニットの変速制御装置において、記変速段切替機構は、前記シフトスピンドルの回動を、シフトドラムの回動に伝達し、同シフトドラムの回動を前記変速段の切替えに変換する機構であり、前記変速段切替状態検出手段は、前記シフトドラムの回動角度であるシフトドラム角度により変速段切替状態を検出することを特徴とするものである。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項1または請求項7のいずれかに記載の車載パワーユニットの変速制御装置において、前記燃焼制御手段は、前記内燃機関の点火停止および燃料噴射停止により、前記内燃機関の燃焼を停止することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の車載パワーユニットの変速制御装置によれば、変速クラッチが完全に切断してから変速段の切り替えを行うのではなく、半クラッチ状態の間に変速段の切り替えを開始し、かつ内燃機関の燃焼を停止するので、変速装置の変速段の切り替えが容易に行うことができるとともに、変速装置の変速時における空走時間を短縮することができ、シフト操作感が向上する。
【0018】
請求項2記載の車載パワーユニットの変速制御装置によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、変速クラッチが半クラッチ状態において、シフトが完了したと判定されると、直ちに変速クラッチの締結が開始されるので、シフト完了後に変速クラッチの切断が行われることがなく、変速装置の変速時における空走時間をさらに短縮することができる。さらに、変速クラッチを半クラッチの状態から締結を開始させるので、シフトの際のギアレシオ差によるシフトショックが低減される。
【0019】
請求項3の車載パワーユニットの変速制御装置によれば、請求項2に記載の発明の効果に加えて、変速クラッチが半クラッチ状態である間に、シフトが完了しない場合には、変速クラッチを切断するとともに、内燃機関の燃焼を停止するので、変速クラッチのオイル粘度が高くクラッチの引きずりが大きい場合でも、変速装置の変速を容易に行うことができる。
【0020】
請求項4の車載パワーユニットの変速制御装置によれば、請求項3に記載の発明の効果に加えて、変速クラッチが切断されている状態において、変速クラッチのクラッチ入出力回転数差ΔCnを検出するので、シフトの際の変速クラッチの引きずり状態を判定することができる。
【0021】
請求項5の車載パワーユニットの変速制御装置によれば、請求項4に記載の発明の効果に加えて、クラッチ切断時のクラッチ入出力回転数差ΔCnより導出される値に基づいた状態において、クラッチの操作を停止し、内燃機関の燃焼を間引きして運転するので、変速クラッチの引きずり状態にあった変速操作を行うことができ、変速段の切替が容易に行うことが可能となる。
【0022】
請求項6の車載パワーユニットの変速制御装置によれば、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の発明の効果に加えて、アクチュエータの駆動によりシフトスピンドルを回動させ変速クラッチ操作を行うので、クラッチ操作を容易に行うことができ、さらにシフトスピンドルの回動角度により変速クラッチの作動状態を検出するので、変速クラッチの状態を容易に検出することが可能となる。
【0023】
請求項7の車載パワーユニットの変速制御装置によれば、請求項2ないし請求項6に記載の発明の効果に加えて、シフトスピンドルの回動によりシフトドラムを回動させ、変速段の切替に変換するので、変速クラッチの操作とともに変速段の切り替えを容易に行うことができる。さらに、シフトドラムの回動角度により変速段の切り替え状態を検出するので、容易にかつ確実に変速段の切り替え状態を検出することができる。
【0024】
請求項8の車載パワーユニットの変速制御装置によれば、請求項1ないし請求項7に記載の発明の効果に加えて、燃焼制御手段は、内燃機関の点火停止および燃料停止によって、内燃機関の燃焼を停止しているので、内燃機関の燃焼制御を確実かつ容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例である車載パワーユニットの変速制御装置の構成を示す図である。
【図2】変速制御装置のタイミングチャートである。
【図3】変速制御装置のタイミングチャートである。
【図4】シフトスピンドル角度と時間によりシフトスピンドル状態を判定するシフトスピンドル判定処理図である。
【図5】シフトスピンドル角度と時間によりシフトスピンドル状態を判定するシフトスピンドル判定処理図である。
【図6】クラッチ入出力回転数差(ΔCn)に基づきひきずりスピンドル角度αhを導出するマップである。
【図7】変速制御装置の主制御を示すフローチャートである。
【図8】センサ情報相互チェック処理を示すフローチャートである。
【図9】ATモードにおけるシフト実施判定を示すフローチャートである。
【図10】MTモードにおけるシフト実施判定を示すフローチャートである。クラッチ切断中処理を示すフローチャートである。
【図11】シフトアップ処理を示すフローチャートである。
【図12】シフト開始処理を示すフローチャートである。
【図13】半クラッチ・シフト処理を示すフローチャートである。
【図14】クラッチ締結中処理を示すフローチャートである。
【図15】シフト終了処理を示すフローチャートである。
【図16】クラッチ切断中処理を示すフローチャートである。
【図17】半クラッチ・ダボ係合処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施例を図1ないし図17を参照して説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施例である車載パワーユニット1および変速制御装置2の構成図である。図1に示した内燃機関Eは、自動二輪車に搭載される4ストローク内燃機関であって、図示されない左右割のシリンダケース、シリンダブロック3、シリンダヘッド4および図示されないヘッドカバーが上下方向に順次重ねられ一体に締結され、シリンダブロック3には上下方向に貫通するシリンダボア5が形成され、該ボア5内にピストン6が嵌合され、該ピストン6は、コンロッド7を介して、クランクケースに回転可能に支持されたクランク軸8のクランクピン7と連結されている。
【0028】
シリンダヘッド4とピストン6の間には燃焼室10が形成されており、シリンダヘッド4には燃焼室10に通じる吸気ポート11および排気ポート12が設けられ、吸気ポート11および排気ポート12を開閉する吸気弁13、排気弁14が配設されている。吸気ポート11および排気ポート12には、それぞれ吸気管15および排気管16が接続され、吸気管15には吸気ポート11に向かって燃料を噴射する噴射弁17が設けられており、吸気ポート11から吸入される空気と噴射弁17から噴射された燃料が混合されて燃焼室内に送られるようになっている。燃焼室10に臨んで、混合気に点火するための点火栓18が、シリンダヘッド4に螺合されている。内燃機関Eの燃焼室10における燃焼エネルギーは、ピストン6の運動エネルギーへと変換されて、ピストン6が上下動される。該ピストン6の上下動によりコンロッド7を介してクランク軸8が回転駆動されるようになっている。
【0029】
クランク軸8、メイン軸20およびカウンタ軸21は、その軸線方向が平行になるように配設され、左右のクランクケース4に設けられた図示されない軸受けによりそれぞれ回転自在に支持されている。クランク軸8の回転駆動力は、クランク軸8が所定の回転数以上のときにクランク軸8の動力をプライマリドリブンギアPdnに伝達する遠心式発進クラッチCsと、断続可能な変速クラッチCを介して、メイン軸20に伝達され、さらに歯車変速機構Gを備えた変速機構Mを介してカウンタ軸21に伝達されるようになっている。
【0030】
該変速機構Mは、メイン軸20およびカウンタ軸21に支持される複数の歯車を備えた歯車変速機構Gを具備し、メイン軸20には駆動ギア22、カウンタ軸21には被駆動ギア23がそれぞれ軸支されている。本歯車変速機構Gは、常時噛み合い式の変速ギア機構であり、対応する駆動ギア22と被駆動ギア23は常時噛み合っている。
【0031】
さらに、メイン軸20とカウンタ軸21の下方には、図示されないシフトフォーク支持軸およびシフトドラム30が左右のクランクケース4により回転自在に架設支持されており、シフトフォーク軸には、前記車変速機構Gの歯車の噛み合いを変更するためのシフトフォーク31が軸方向に摺動自在に支持されている。
【0032】
シフトドラム30のドラム表面には、図示されないカム溝が形成され、前記シフトフォーク31の突部のそれぞれが、カム溝に噛み合うようになっている。シフトドラム30が所定角度回転されると、カム溝に案内されてシフトフォーク31の突部がシフトドラム軸方向に移動されるので、シフトドラム30の回転角度によりシフトフォーク31のシフトドラム30の軸線方向における位置が定められ、所定位置へと移動されるようになっている。
【0033】
これらのシフトフォーク31がシフトフォーク支持軸の軸線方向に沿ってそれぞれ所定位置へ移動されると、メイン軸20にスプライン嵌合された駆動ギア22、もしくはカウンタ軸21にスプライン嵌合された被駆動ギア23が、シフトフォーク31により左右方向の所定位置に移動され、該ギアの側面に設けられた図示されないダボが、隣接するギアに設けられたダボ穴に嵌合されることにより、変速段の切換が行われるようになっている。
【0034】
メイン軸20およびカウンタ軸21に平行に、シフトスピンドル32が、クランクケース4に回動自在に支持されている。シフトスピンドル32と前記シフトドラム30の間にはシフト送り機構33が配設され、シフトスピンドル32の回動によって、シフト送り機構33が操作され、シフトドラム30は所定角度回動されて、変速装置Mの変速段が切替られるようになっている。
【0035】
変速クラッチCは、オイル雰囲気中に配置される湿式の変速クラッチCであって、メイン軸20の右端に配設されており、図示されないクラッチアウタはクランク軸8からギアを介して駆動力が伝達され、図示されないクラッチインナはメイン軸20に嵌着されている。
【0036】
クラッチアウタとクラッチインナの間には、クラッチアウタの内周壁にスプライン嵌合される図示されない摩擦板と、クラッチインナの外周壁にスプライン嵌合される図示されない摩擦板が交互に軸方向に配設され、図示されないバネにより付勢されたプレッシャープレートが、軸方向に沿ってクラッチインナに向かって摩擦板を押圧し、変速クラッチCは接続状態に保持されている。
【0037】
また、前記プレッシャープレートは、前記シフトスピンドル32の回動に伴って作動するクラッチ作動機構24により、軸方向に摩擦板の押圧を解除する方向に移動され、変速クラッチCは切断されるようになっている。
【0038】
前記シフトスピンドル32は、変速制御装置2のT/Mコントロールユニット40により制御されるアクチュエータ34により回動されるものである。図2または図3のタイミングチャートに示されるタイミングで、シフトスピンドル32の回動に伴い、クラッチ容量が変位して変速クラッチCの切断、接続が行われるようになっている。さらに、シフトスピンドル32の回動に伴い前記クラッチ作動機構24が作動され、シフトドラム30が変回動されるようになっている。
【0039】
変速クラッチCが基本状態である場合において、シフトスピンドル32が回動し始めてクラッチCの切断が開始し始めたときのシフトスピンドル32の角度αをクラッチ切断開始角度α1と、クラッチCの切断が終了したときのシフトスピンドル角度をクラッチ切断角度α2と、シフトスピンドル32がそれ以上回動しないシフトスピンドル32の角度をスピンドル停止角度α3とそれぞれ定義する。
【0040】
変速クラッチCの基本状態とは、変速クラッチCの切断接続操作において設定された変速クラッチCの基本的な状態をいい、この基本状態をもとにクラッチの状態の変化に対応して、変速クラッチCの制御が行われるようになっている。
【0041】
変速クラッチCが基本状態にある場合には、αがα1以下の時には、変速クラッチCは接続された状態となり、αがα1以上でα2以下の時には、変速クラッチCは半クラッチ状態となり、αがα2以上であるときにはクラッチが切断された状態となる。
【0042】
さらに車両には、図示されないフロントホイールの回転数を検出するフロントホイール回転数センサ50、内燃機関Eの機関回転数を検出する機関回転数センサ51、スロットル開度θを検出するスロットル開度センサ52、クラッチ入力側回転数を検出するクラッチ入力側回転数検出センサ53、クラッチ出力側回転数を検出するクラッチ出力側回転数検出センサ54、カウンタシャフト回転数を検出するカウンタシャフト回転数センサ55、シフトドラム30の回動角度βを検出するシフトドラムアングルセンサ56、シフトスピンドル32の回動角度αを検出するシフトスピンドルアングルセンサ57、ギアポジションGPを検出するギアポジションセンサ、シフトスイッチ42およびAT/MT切替スイッチ43が設けられている。
【0043】
前記シフトドラムアングルセンサ56がシフトドラム30の回動角度βを検出することにより、シフトが完了したか否かについて検出することができる。すなわち、駆動ギアまたは被駆動ギアのいずれかの側面に設けられたダボが、被駆動ギア又は駆動ギアのいずれかの側面に設けられたダボ穴に嵌合していない状態、いわゆるハーフニュートラル状態になると、シフトドラム30は、シフト完了状態のシフトドラム角度であるダボイン角度β1まで回動することができない。従ってシフトドラムアングルセンサ56がシフトドラム30の回動角度βを検出することで、シフトが完了したか否かについて判断することが可能となる。
【0044】
これらのセンサ51、52、53、54、55、56、57によって検出された値、シフトスイッチ42からシフト状態の信号、およびAT/MT切替スイッチ43から変速状態の信号が、T/Mコントロールユニット40に送られるようになっている。
【0045】
これらの信号に基づき、T/Mコントロールユニット40が、変速装置Mの変速操作、変速クラッチCの作動、および内燃機関Eの燃焼制御について判断し、T/Mコントロールユニット40からアクチュエータ34に制御信号が送られ、変速クラッチCの切断、接続、および変速装置Mの変速段の切替が行われ、さらにT/Mコントロールユニット40か燃焼制御ユニット41に燃焼制御信号が送られ、燃焼制御ユニット41から、内燃機関Eの燃料噴射弁17および点火栓18に信号が送られて、内燃機関Eの燃焼が制御されるようになっている。
【0046】
変速制御装置2のT/Mコントロールユニット40による主制御は、図7のフローチャートによって処理され、本処理は一定周期で実施されるものである。以下図7に基づいて、該主制御の処理について詳細に説明する。
【0047】
ステップS1では、変速制御装置であるT/Mコントロールユニット40が、各種センサの値、例えばスロットル開度センサ52によるスロットル開度θ、機関回転数センサ51による実測機関回転数Nj、クラッチ入力側回転数センサ53およびクラッチ出力側回転数センサ54によるクラッチ入出力回転数差ΔCn、カウンタシャフト回転数センサ55のカウンタシャフト側回転数に基づくカウンタシャフト側車速Vc、フロントホイール回転数センサ50のフロントホイール側回転数に基づくフロントホイール側車速Vf、カウンタシャフト側車速Vcあるいはフロントホイール側車速Vfのいずれかの値である実測車速Vj、シフトドラムアングルセンサ56によるシフトドラム角度β、シフトスピンドルアングルセンサ57によるシフトスピンドル角度α、AT/MT切替スイッチ43による現在のATモードあるいはMTモードの状態、シフトスイッチ42によるシフトアップ指令あるいはシフトダウン指令の状態、ギアポジションGp等を読み込む。
【0048】
ステップS1が終了すると、ステップS2のセンサ情報相互チェック処理へと移行する。センサ情報相互チェック処理では、ステップS1で読み込まれた各種センサ情報に基づいて処理を行い、センサの異常や車輪のロックが発生しているか否かについて判断する。
【0049】
その後ステップS3に移行し、センサ値の異常や車輪のロックが発生している場合には、ステップS4以下の処理を行わず主制御が終了するようになっており、センサ値の異常や車輪のロックが発生していなければ、ステップS4に移行する。
【0050】
ステップS4では、ステップS1で読み込んだATモードあるいはMTモードの情報に基づき判別し、ATモードのときはATモード時シフト実施判定処理(ステップS5)へ移行し、MTモードのときはMTモード時シフト実施判定処理(ステップS6)へ移行する。
【0051】
その後ステップS5またはステップS6で判断されたシフト指令を判別し(ステップS7)、シフトアップ指令が判別されるとシフトアップ処理(ステップS8)に移行し、シフトダウン指令が判別されるとシフトダウン処理(ステップS9)に移行し、シフト指令に基づいてシフト処理が行われ、シフト処理が終了する。またステップS7でシフト指令があるがシフトすることができないと判別されるか、シフト指令が無いと判別されると、ステップS10に移行し、アクチュエータが停止され、シフト処理が終了する。
【0052】
以下、センサ情報相互チェック処理(ステップS2)について、図8のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0053】
実測機関回転数Njが発進用遠心クラッチのIN回転数以上か否か判断し(ステップS11)、すなわち発進用遠心クラッチが接続可能な状態であるか否かを判断し、IN回転数以上ならステップS12に移行し、否ならステップS21へ移行する。
【0054】
ステップS12では現在のギアポジションGPを判断し、GPに基づいて各ステップS13ないしステップS16のいずれかに移行し、予測車速Vyを、実測機関回転数Njにクランク−メインシャフトレシオおよび現在のギアポジションのレシオを乗じて求め、ステップS17へ移行する。
【0055】
ステップS17では、予測車速Vyと、実測車速Vjとの差の絶対値が、規定値V1以上であるか否かを判定し、V1以上であるときにはセンサに異常があると判定し、ステップS18に移行してセンサ値異常フラグFsを1とし、その後ステップS19に移行してワーニングインジケータ表示を行う。予測車速Vyと実測車速Vjとの差の絶対値がV1より小さい場合には、センサに異常はないと判定しステップS19に移行し、Fsを0とする。ステップS19またはステップS20が終了すると、ステップS21に移行する。
【0056】
ステップS21では、カウンタシャフト回転数センサ55により検出されたカウンタシャフト回転数に基づいて算出されたカウンタシャフト側車速Vcと、フロントホイール回転数センサ50により検出されたフロントホイール回転数に基づいて算出されたカウンタシャフト側車速Vfとの差の絶対値が、規定値V2以上であるか否かを判定し、規定値V2以上である場合には車輪のロックがされていると判断して車輪ロックフラグFrを1とし、規定値V2より小さい場合には車輪のロックがされていないと判断されて車輪ロックフラグFrを0とし、センサ情報相互チェック処理は終了する。
【0057】
センサ値に異常があると判断された場合や、車輪のロックがされていると判断された場合には、図7のステップS3から主制御が終了するように制御され、シフト処理が行われることがない。
【0058】
次に、ATモード時シフト実施判定処理(ステップS5)、およびMTモード時シフト実施判定処理(ステップS6)について詳細に説明する。
【0059】
図9は、図7のATモードシフト実施判定(ステップS5)を示すフローチャートである。
【0060】
まず、ステップS1で読み込まれたスロットル開度θおよび車速Vjに基づいて、予め作成されている変速マップにより目標とする目標ギアポジションGPoが検索される(ステップS31)。
【0061】
さらに、目標ギアポジションGPoと現在の変速段に基づいた現在のギアポジションGPを比較し(ステップS32)、現在のギアポジションGPが目標ギアポジションGPoより小さいときには、シフト指令をシフトアップとし(ステップS33)、現在のギアポジションGPが目標ギアポジションGPoより大きいときにはシフト指令をシフトダウンとし(ステップS34)、現在のギアポジションGPが目標ギアポジションGPoと等しいときには、シフト指令をシフトなしとして(ステップS35)、ATモード時シフト実施判定処理は終了する。
【0062】
また、図10は、図7のMTモード時シフト実施判定(ステップS6)を示すフローチャートである。
【0063】
まず、ステップS1で読み込んだシフトスイッチ42の情報に基づき、シフトスイッチ42の状態を判定する(ステップS41)。シフトアップを指令するアップスイッチがオンであれば、新たな目標ギアポジションGPoを現在の目標ギアポジションGPoに1を加算した値として新たに設定し(ステップS42)、その後ステップS44に移行する。シフトダウンを指令するダウンスイッチがオンであれば、新たな目標ギアポジションGPoを現在の目標ギアポジションGPoに1を減算した値として新たに設定し(ステップS43)、その後ステップS44に移行する。また、シフトスイッチ42がオフであれば、現在の目標ギアポジションをその値のままで、ステップS44に移行する。
【0064】
その後、現在のギアポジションGPと目標ギアポジションGPoとを比較し(ステップS44)、現在のギアポジションGPが目標ギアポジションGPoより小さいときには、シフト指令をシフトアップとし(ステップS45)、現在のギアポジションGPが目標ギアポジションGPoより大きいときにはシフト指令をシフトダウンとし(ステップS46)、現在のギアポジションGPが目標ギアポジションGPoと等しいときには、シフト指令をシフトなしとして(ステップS47)、MTモード時シフト実施判定処理は終了する。
【0065】
ATモード時シフト実施判定処理またはMTモード時シフト実施判定によって、ギアポジションGPと目標ギアポジションGPoを比較し、現在のギアポジションGPを目標ギアポジションGPoに近づけるようにシフト指令を出すことができる。
【0066】
さらに、それぞれのシフト実施判定に基づいて(ステップS5、ステップS6)、シフト指令があるか否か、シフト指令がどの状態かについて判定する(ステップS7)。
【0067】
シフトアップ指令であるときは、シフトアップ処理(ステップS8)へ、シフトダウン指令であるときは、シフトダウン処理(ステップS9)へ移行する。さらに、シフト指令はあるがシフトすることが不可能なとき、すなわち最高速ギアの状態であってシフトアップ指令がある場合、あるいは最低速ギアの状態であってシフトダウン指令がある場合には、シフトさせることが不可能であり、このような場合はアクチュエータ34を停止するアクチュエータ停止処理(ステップS10)が行われる。また、シフト指令がない場合も、アクチュエータ停止処理(ステップS10)が行われる。
【0068】
ステップS5の判定によりシフトアップ処理(ステップS8)に移行すると、図11に示したフローチャートに基づいてシフトアップ処理が開始される。以下、シフトアップ処理(ステップS8)について詳細に説明する。
【0069】
シフトアップ処理(ステップS8)では、シフトスピンドル状態およびシフトドラム角度状態を判定し(ステップS51〜ステップS58)、判定した状態に合致した、半クラッチ・シフト処理(ステップS58)、クラッチ切断中処理(ステップS59)、半クラッチ・ダボ係合処理(ステップS60)、クラッチ締結中処理(ステップS61)、シフト開始処理(ステップS62)、シフト終了処理(ステップS63)のいずれかの処理を行う。これらの処理のタイミングチャートは、図2ないし図5に示されている。
【0070】
まず、シフトスピンドル角度αがクラッチ切断開始角度α1より小さいか判定する(ステップS52)。α<α1とは、シフトスピンドル32の回動が開始されていない状態か、シフトスピンドル32の回動は開始されているが、変速クラッチCの切断の開始がされていない状態であり、図4または図5において、シフトアップの開始から開始直後の範囲内であるシフト開始中、シフトアップの終了直前であるシフト終了中のいずれかの範囲内にある。
ステップS52でα<α1と判定されると、シフトアップ処理の開始から開始直後か、シフトアップ処理の終了直前と判定され、ステップS57へ移行する。
【0071】
ステップS57では、アクチュエータ逆転フラグFmrが1か否かを判定する。Fmr≠1ならアクチュエータの回転は正転と判定され、シフトアップ処理の開始から開始直後と判定され、ステップS62に移行し、シフト開始処理を行う。
【0072】
シフト開始処理(ステップS62)は、図12に示されたフローチャートに基づいて処理が行われる。まず、シフトスピンドルが停止されたときのカウンタであるスピンドル停止カウンタjをクリアし(ステップS71)、半クラッチ・シフト処理を行う際のカウンタである半クラッチ・シフトカウンタiをクリアし(ステップS72)、アクチュエータ34を正転駆動させ(ステップS73)、シフト開始処理は終了する。
【0073】
Fmr=1ならアクチュエータ34の回動は逆転と判定され、シフトアップ処理が終了直前と判定され、ステップS63へ移行し、シフト終了処理を行う。
【0074】
図11のステップS52でα<α1でないと判定されるとステップS53に移行し、シフトドラム角度βがダボイン角度β1より小さいか判断する。
【0075】
β<β1でないと判定されると、シフトが完了してないと判定され、ステップS54へ移行し、アクチュエータ逆転フラグFmrが1か否かを判断し、Fmr≠1であればアクチュエータ34が正転であるとされ、ステップS55へ移行し、シフトスピンドル角度αがクラッチ切断角度α2より大きいか判断し、α>α2でなければ、変速クラッチCが半クラッチ状態であると判定し、半クラッチ・シフト処理(ステップS58)へ移行する。
【0076】
半クラッチ・シフト処理(ステップS58)は、図13に示されたフローチャートに基づいて行われる。まず、内燃機関Eの点火栓18の点火、および燃料噴射弁17から燃料の噴射が停止され(ステップS76)、その後アクチュエータ34が正転駆動されて(ステップS77)、変速クラッチCはクラッチの切断が開始され、半クラッチの状態になるとともに、アクチュエータ34の回動に伴い、シフト送り装置33が作動し、シフトドラム30が回動され、変速装置Mの変速操作が開始される。
【0077】
図2で示されるタイミングチャートのように、半クラッチ・シフト処理が継続している間に、シフトドラム角度βがβ1以下になったと判定されると(図11のステップS53)、ドグクラッチのダボとダボ穴とが嵌合して変速装置Mのシフトが完了したものとして、ステップS61のクラッチ締結中処理に移行する。
【0078】
クラッチ締結中処理(ステップS61)は、図14に示されたフローチャートに基づいて処理が行われる。内燃機関Eの点火栓18の点火、および燃料噴射弁17から燃料の噴射が実施され(ステップS81)、その後アクチュエータ34が逆転駆動され(ステップS82)、アクチュエータ逆転フラグFmrを1とし(ステップS83)、クラッチ締結中処理は終了する。
【0079】
クラッチ締結中処理において、アクチュエータ34が逆転されることにより、α<α1となると、ステップS52からステップS57へ移行し、アクチュエータ34が逆転されているのでFmr=1と判定され、ステップS62へ移行しシフト終了処理が開始される。
【0080】
シフト終了処理(ステップS62)は、図15に示されたフローチャートに基づいて処理が行われる。まず、シフトスピンドル角度αが0か否かについて判断される(ステップS91)。α≠0ならシフトが終了途中であるので、ステップS92に移行しアクチュエータ34を逆転駆動させる。また、α=0ならシフトが終了しているので、ステップS93に移行しアクチュエータ34を停止させ、アクチュエータ逆転フラグFmrをクリアし(ステップS94)、シフト終了処理が終わり、変速装置Mの変速が終了する。
【0081】
前述のように半クラッチ・シフト処理(ステップS58)が継続している間に、シフトドラム角度βがβ1以下になってシフト完了が判定されると、図2および図4に示されるように、即座に半クラッチ・シフト処理(ステップS58)からクラッチ締結中処理(ステップS61)へ移行し処理が行われる。すなわち、変速クラッチCは、半クラッチ状態からクラッチの切断を行うことなくクラッチ締結の処理が開始されるので、変速クラッチCの切断時間を短くし、車両の空走時間を短縮することができる。
【0082】
一方、半クラッチ・シフト処理中(ステップS58)に、シフト完了が判定されないと、アクチュエータ34が正転し続けシフトスピンドル角度αが増大していき、図3および図5に示されるように、αがα2より大きくなり、α>α2と判定されると(ステップS55)、クラッチ切断中処理(ステップS59)へ移行する。
【0083】
クラッチ切断中処理(ステップS59)は、図3および図5に示されているように、図16に図示されたフローチャートに基づいて処理が行われる。さらにシフトスピンドル32が正転方向に回動され続けて、αがα2から増加し、シフトスピンドル32が停止されるスピンドル停止角度α3以上になると、所定時間シフトスピンドル32の回動が停止される。シフトスピンドル32が停止されている間に、変速クラッチCの入出力回転数差ΔCnが読み込まれ、ΔCnより図6に示されるマップに基づいてクラッチひきずりスピンドル角度αhが導出される。シフトスピンドル32がシフトスピンドル32の停止が所定時間行われた後は、アクチュエータ34の回動を逆転させ、シフトスピンドル32は逆転方向に回動され、αが前記αh以下と判定されると、半クラッチ・ダボ係合処理へと移行する。
【0084】
前記クラッチ切断中処理(ステップS59)を、図16に示すフローチャートに従って詳細に説明する。
まず、αがα3より小さいか判断し(ステップS101)、αがシフトスピンドル停止角度α3より小さければステップS102へ移行し、アクチュエータ逆転フラグFmrが1か否かを判断し、Fmr≠1なら正転であると判定してステップS103に移行し、アクチュエータ34を正転駆動する(ステップS103)。
【0085】
また、ステップS101で、αがスピンドル停止角度α3より小さくないと判定されると、ステップS105へ移行する。ステップS105では、スピンドル停止カウンタjが、シフトスピンドル34の回動が停止される所定処理回数Jと等しいか判定し、j≠JならステップS92に移行し、アクチュエータ34が停止され、スピンドル停止カウンタjがインクリメントされる(ステップS93)。
【0086】
スピンドル停止カウンタjが所定処理回数Jに等しくなるまでの間はシフトスピンドル32が停止されているが、スピンドル停止カウンタjがJに等しくなると、ステップS105からステップS106へと移行する。
【0087】
ステップS106では、引きずりスピンドル角度設定フラグFtが1か否か判断し、Ft≠1ならステップS107へ移行する。
【0088】
ステップS107では、クラッチ入力側回転数センサ53およびクラッチ出力側回転数センサ54からクラッチ入出力回転数差ΔCnが読み込まれる。
【0089】
クラッチ入出力回転数差ΔCnが読み込まれるのは、クラッチ切断中処理中であり、シフトスピンドル角度αがクラッチ切断開始角度α2以上となっているので、変速クラッチCの作動状態はクラッチが完全に切断された状態である。
変速クラッチCは、オイル雰囲気中に配置される湿式の変速クラッチであるので、変速クラッチCのオイルの温度が低い場合にはオイル粘度が高くなり、変速クラッチCの引きずりの程度が大きくなって、クラッチ入力側回転数とクラッチ出力側回転数の差ΔCnが少なくなる。また、変速クラッチCのオイルの温度が高い場合にはオイル粘度が低くなり、変速クラッチの引きずり程度が小さくなり、ΔCnは大きくなる。
このように変速クラッチCが完全に切断された状態においてΔCnが読み込まれるので、変速クラッチCの引きずりの程度を判別することができる。
【0090】
ΔCnを読み込んだ(ステップS107)後に、ステップS108に移行し、ΔCnより図6の予め設定されたマップに基づいてクラッチシフトスピンドル角度αhを導出し、ステップS109へ移行する。ステップS109では、クラッチ引きずりスピンドル角度設定フラグFtを1とし、ステップS110へ移行し、アクチュエータ逆転フラグFmrを1とし、ステップS111へ移行し、アクチュエータを逆転駆動させる。
【0091】
クラッチ切断中処理で一度クラッチ引きずりスピンドル角度αhが設定されると、Ft=1となるので(ステップS109)、ステップS106からステップS111に移行され、一回のシフト操作中に再度αhが設定されることはない。
【0092】
アクチュエータ34が逆転されてαの値が減少しα<α3となると、ステップS101からステップS102へと移行し、Fmr=1か否かを判断し、アクチュエータ34は逆転しているのでFmr=1と判定され、ステップS104へと移行し、次の変速操作に備えてクラッチ引きずりスピンドル角度設定フラグFtをクリアし、アクチュエータ34が逆転される(ステップS111)。
【0093】
また、前記クラッチ切断中処理(ステップS59)の間であっても、シフトドラム30がダボイン角度β2以下まで回動したことが判定されると(ステップS53)、変速ギアのダボが係合しシフトが完了したとして、クラッチ締結中処理(ステップS61)へ移行し、変速クラッチCの締結が開始される。さらにシフトスピンドルが逆転されてα<α1となると、ステップS57へ移行しFmr=1であるか否か判断され、Fmr=1であることから、ステップS63へ移行しシフト終了処理が行われ、変速装置Mのシフトが完了する。
【0094】
前記クラッチ切断中処理の間に、シフトが完了せずに、シフトスピンドル32が逆転されて、シフトスピンドル角度αが減少し、クラッチ引きずりシフトスピンドル角度αh以下になると(ステップS56)、半クラッチ・ダボ係合処理(ステップS60)へ移行する(図11参照)。
【0095】
半クラッチ・ダボ係合処理は、図17に示されるフローチャートに基づいて処理が行われる。半クラッチ・シフト処理カウンタiが設定処理回数のI以上か否かを判定し(ステップS121)、i≧Iでなければ半クラッチ・シフト処理カウンタiをインクリメントし(ステップS122)、アクチュエータ34の駆動を停止し(ステップS123)、燃料噴射弁17の燃料噴射および点火栓18の点火が間引き運転される(ステップS124)。
【0096】
この半クラッチ・ダボ係合処理(ステップS60)中に、シフトドラム30がダボイン角度β2以下まで回動したことが判定されると(ステップS53)、変速ギアのダボが係合したと判断されて、クラッチ締結中処理(ステップS61)へ移行し、変速クラッチCの締結が開始される。さらにシフトスピンドル32が逆転駆動されてα<α1となると、ステップS57へ移行し、シフトスピンドル32は逆転状態なのでFmr=1となっており、ステップS63へ移行しシフト終了処理が行われ、変速装置Mのシフトが完了する。
【0097】
半クラッチ・ダボ係合処理では、半クラッチ・ダボ係合処理直前のクラッチ切断中処理中に検出したΔCnにより導出したαhの角度でシフトスピンドル32を停止させて、燃料噴射弁17の燃料噴射および点火栓18の点火を間引きして内燃機関Eの燃焼を間引き運転するので、半クラッチ・ダボ係合処理における変速クラッチCの状態の引きずり程度に応じて変速クラッチCを滑らせつつ、内燃機関Eの間引き運転によりメイン軸側の回転速度を変化させるので、駆動ギア22を被駆動ギア23に対して滑らせることが可能となり、ダボとダボ穴の嵌合を容易に行うことができるので、この半クラッチ・ダボ係合処理中に、略ハーフニュートラル状態から脱することができる。
【0098】
半クラッチ・ダボ係合処理(ステップS60)中において、所定時間経過しても、変速ギアのダボが係合されずに、βがβ1以下にならない場合には、半クラッチ・シフト処理カウンタiが、所定処理回数Iより大きくなり、i≧Iと判定され(ステップS121)、ステップS125に移行し、アクチュエータ34が逆転駆動され、ステップS126に移行し、Fmr=1となる。
【0099】
以上、シフトアップ処理(ステップS8)について詳細に述べたが、シフトダウン処理(ステップS9)では、アクチュエータ34により、シフトスピンドルの回動がシフトアップ処理とは反対に逆転方向に回動されてシフト処理が開始され、その後正転方向に回動されてシフト処理の終了に向かうようになっているので、シフトスピンドル32およびアクチュエータ34の回動および判定は、シフトアップ処理と反対方向に行われ、他の処理はシフトアップ処理と同様な処理によって行われる。
【0100】
前記実施例の車載パワーユニット1の変速制御装置Mによれば、変速クラッチCが完全に切断してから変速段の切り替えを行うのではなく、半クラッチ状態の間に変速段の切り替えを開始し、かつ内燃機関Eの燃焼を停止するので、変速装置Mの変速段の切り替えが容易に行うことができるとともに、変速装置Mの変速時における空走時間を短縮することができ、シフト操作感が向上する。
【0101】
また、変速クラッチCが半クラッチ状態において、シフトが完了したと判定されると、シフト完了後に変速クラッチCの切断が行われることがなく直ちに変速クラッチCの締結が開始されるので、変速装置Mの変速時における空走時間をさらに短縮することができる。さらに、変速クラッチを半クラッチの状態から締結を開始させるので、シフトの際のギアレシオ差によるシフトショックが低減される。
【0102】
さらに、変速クラッチCが半クラッチ状態である間に、シフトが完了しない場合には、変速クラッチCを切断するとともに、内燃機関Eの燃焼を停止するので、変速クラッチCのオイル粘度が高くクラッチの引きずりが大きい場合でも、変速装置の変速を容易に行うことができる。
【0103】
さらにまた、変速クラッチCが切断されている状態において、変速クラッチCのクラッチ入出力回転数差ΔCnを検出するので、シフトの際の変速クラッチCの引きずり状態を容易に判定することができる。
【0104】
また、クラッチ切断時のクラッチ入出力回転数差ΔCnより導出される値により判定されたひきずり状態における変速クラッチの作動状態において、変速クラッチの操作を停止し、内燃機関の燃焼を間引きして運転するので、変速クラッチの引きずり状態にあった変速操作を行うことができ、変速段の切替が容易に行うことが可能となる。
【0105】
さらに、アクチュエータ34の駆動によりシフトスピンドル32を回動させ変速クラッチCの操作を行うので、クラッチ操作を容易に行うことができ、さらにシフトスピンドル32の回動角度αにより変速クラッチCの作動状態を検出するので、変速クラッチCの状態を容易に検出することが可能となる。
【0106】
さらにまた、シフトスピンドル32の回動によりシフトドラム30を回動させ、変速段の切替に変換するので、変速クラッチCの操作とともに変速段の切り替えを容易に行うことができる。さらに、シフトドラム30の回動角度βにより変速段の切り替え状態を検出するので、容易にかつ確実に変速段の切り替え状態を検出することができる。
【0107】
また、燃焼制御ユニット41は、内燃機関Eの点火栓18の点火停止および燃料噴射弁17の燃料停止によって、内燃機関Eの燃焼を停止しているので、内燃機関Eの燃焼制御を確実かつ容易に行うことができる。
【0108】
先の実施例では、1つのアクチュエータ34によりシフトスピンドル32を回動させて、変速クラッチCおよび変速装置Mの制御および操作を行っていたが、変速クラッチC、変速装置Mのそれぞれを別々に、制御および操作するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0109】
E…内燃機関、C…変速クラッチ、Cs…発進クラッチ、M…変速装置、G…歯車変速機構、Pdn…プライマリドリブンギア
1…車載パワーユニット、2…変速制御装置、10…燃焼室、17…燃料噴射弁、18…点火栓、20…メイン軸、21…カウンタ軸、22…駆動ギア、23…被駆動ギア、30…シフトドラム、31…シフトフォーク、32…シフトスピンドル、33…シフト送り装置、34…アクチュエータ、40…T/Mコントロールユニット、41…燃焼制御ユニット、42…シフトスイッチ、43…AT/MT切替スイッチ、50…フロントホイール回転数センサ、51…機関回転数センサ、52…スロットル開度センサ、53…クラッチ入力側回転数センサ、54…クラッチ出力側回転数センサ、55…カウンタシャフト回転数センサ、56…シフトドラムアングルセンサ、57…シフトスピンドルアングルセンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(E)の動力が、変速クラッチ(C)および複数の変速段を有する多段の変速装置(M)を介して出力される車載パワーユニット(1)の変速制御装置(2)において、
内燃機関(E)の燃焼を制御する燃焼制御手段(41)と、
アクチュエータ(34)の駆動により前記変速クラッチ(C)を作動させるクラッチ作動機構(24)と、
前記変速クラッチ(C)の作動状態を検出するクラッチ作動状態検出手段(57)と、
変速段の切替えを指示する変速指示手段(42、43)と、
前記アクチュエータ(34)の駆動により前記変速装置(M)の変速段(G)の切替えを行う変速段切替機構と(35)、
前記変速指示手段(42、43)の変速指示信号と前記クラッチ作動状態検出手段(57)が検出したクラッチ作動状態の信号とを入力し、前記燃焼制御手段(41)と前記クラッチ作動機構(24)と前記変速段切替機構(35)を制御する変速制御手段(40)とを備え、
前記変速制御手段(40)は、
前記変速指示信号を入力すると、前記クラッチ作動機構(24)を駆動し、
前記クラッチ作動状態検出手段(57)が検出した前記変速クラッチ(C)の半クラッチ状態の信号が入力されると、燃焼制御手段(41)により前記内燃機関(E)の燃焼を停止し、前記変速段切替機構(35)により前記変速装置(M)の変速段(G)の切り替えを開始することを特徴とする車載パワーユニット(1)の変速制御装置(2)。
【請求項2】
前記変速クラッチ(C)は、オイル雰囲気中に配置された湿式の変速クラッチであって、
前記変速制御装置(2)は、前記変速段(G)の切替え状態を検出する変速段切替状態検出手段(56)を備え、
前記変速制御手段(40)は、前記変速段切替状態検出手段(56)が検出する変速段切替状態の信号を入力するものであって、
前記変速制御手段(40)は、前記変速段切替状態検出手段(56)から前記変速段(G)の切替えが完了した変速段切替完了状態の信号を入力すると
前記クラッチ作動機構(24)を駆動して、前記変速クラッチ(C)の締結を開始し、
前記燃焼制御手段(41)により前記内燃機関(E)の燃焼を開始することを特徴とする請求項1に記載の車載パワーユニット(1)の変速制御装置(2)。
【請求項3】
前記変速制御手段(40)は、前記クラッチ作動状態検出手段(57)から前記変速クラッチ(C)の半クラッチ状態の信号が入力される間に、
前記変速段切替状態検出手段(56)から前記変速段切替完了状態の信号が検出されない場合には、
前記クラッチ作動機構(24)により、前記変速クラッチ(C)をクラッチ切断状態とし、
燃焼制御手段(41)により、前記内燃機関(E)の燃焼を停止することを特徴とする請求項2記載の車載パワーユニット(1)の変速制御装置(2)。
【請求項4】
前記変速制御装置(2)は、前記変速クラッチ(C)の入力側と出力側の回転数の差であるクラッチ入出力回転数差(ΔCn)を検出するクラッチ入出力回転数差検出手段(53、54)を備え、
前記変速制御手段(40)は、前記クラッチ作動状態検出手段(57)が、前記変速クラッチ(C)が切断されたクラッチ切断状態であることを検出すると、
前記クラッチ入出力回転数差検出手段(53、54)が検出したクラッチ入出力回転数差(ΔCn)を入力することを特徴とする請求項3記載の車載パワーユニット(1)の変速制御装置(2)。
【請求項5】
前記変速制御手段(40)は、前記クラッチ作動状態検出手段(57)が、前記クラッチ入出力回転数差(ΔCn)から導出される値に基づいた状態であることを検出すると、
所定時間前記クラッチ作動機構(24)の変速クラッチ(C)の操作を停止し、
前記燃焼制御手段(41)により、前記内燃機関(E)の燃焼を間引することを特徴とする請求項4記載の車載パワーユニット(1)の変速制御装置(2)。
【請求項6】
前記クラッチ作動機構(24)は、前記アクチュエータ(34)の駆動をシフトスピンドル(32)の回動に伝達し、同シフトスピンドル(32)の回動を前記変速クラッチ(C)の作動に変換する機構であり、
前記クラッチ作動状態検出手段(57)は、前記シフトスピンドル(32)の回動角度であるシフトスピンドル角度(α)により変速クラッチ(C)の作動状態を検出することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の車載パワーユニット(1)の変速制御装置(2)。
【請求項7】
前記変速段切替機構(35)は、前記シフトスピンドル(32)の回動を、シフトドラム(30)の回動に伝達し、同シフトドラム(30)の回動を前記変速段(G)の切替えに変換する機構であり、
前記変速段切替状態検出手段(56)は、前記シフトドラム(30)の回動角度であるシフトドラム角度(β)により変速段切替状態を検出することを特徴とする請求項2ないし請求項6いずれかに記載の車載パワーユニット(1)の変速制御装置(2)。
【請求項8】
前記燃焼制御手段は、前記内燃機関(E)の点火停止および燃料噴射停止により、前記内燃機関の燃焼を停止することを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の車載パワーユニット(1)の変速制御装置(2)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−214111(P2012−214111A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80352(P2011−80352)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】