説明

酸化物薄膜トランジスタ、その製造方法、及び酸化物薄膜トランジスタを用いたディスプレイ

【課題】加熱処理を施した後も安定したトランジスタ特性を有する酸化物薄膜トランジスタ、その製造方法及び酸化物薄膜トランジスタを用いたディスプレイを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の第1実施形態の酸化物薄膜トランジスタ1は、酸化物半導体層9上面に積層するゲート絶縁層5を、PVPおよびフッ素系界面活性剤を含む構成とすることにより、良好かつ安定した特性を有するとともに、デバイス形成時に加熱処理を行った場合にも、特性の変化が殆どない酸化物薄膜トランジスタ1を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物薄膜トランジスタ、その製造方法、及び酸化物薄膜トランジスタを用いたディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機EL、フィルム液晶、電子ペーパ等のフレキシブルディスプレイの各画素には、薄膜トランジスタを備えたアクティブ駆動回路が埋め込まれている。近年、薄膜トランジスタの半導体層の材質として、酸化物を用いる酸化物薄膜トランジスタの開発が行われている。酸化物半導体層は低温で製膜が可能であり、高い電界効果移動度をもつことが知られている。しかも、酸化物半導体のなかには、透明な酸化物半導体もあり、透明酸化物半導体と、周知の透明基板材料などとを材料として選択すれば、透明な薄膜トランジスタが形成できるなど、従来にはなかった特性が期待できる。
【0003】
ところで、酸化物半導体層の上面に形成される絶縁層は、スパッタリング法やプラズマCVD法のような真空プロセスにより形成されるのが一般的である。しかしながら、これらの方法は、装置が大掛かりとなってしまい、製造コストがかかってしまう上、製造工程が煩雑であるという問題点があった。その上、これらの方法で絶縁層が形成される場合には、形成過程で装置から発生するプラズマイオンが、酸化物半導体層などにダメージを与えてしまうという問題点があった。
【0004】
そこで、例えば、酸化物半導体層上面の絶縁層の材質として、有機高分子を採用した半導体デバイスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この半導体デバイス(本願における酸化物薄膜トランジスタ)では、酸化物半導体層上面の絶縁層の材質として高分子樹脂を採用したため、絶縁層を塗布法によって形成することができる。これにより、酸化物半導体層にダメージを与えることなく、絶縁層を形成することができる。
【0005】
その中でも、有機高分子としてポリビニルフェノール(PVP)を使用したものは、低コストで、かつトランジスタ特性を損なうことなく絶縁層を形成することができる(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−158147号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Appl. Phys. Lett. 88, 023504 (2006), "Probing the work function of a gate metal with a top-gate ZnO-thin-film transistor with a polymer dielectric"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この半導体デバイスでも、以下の問題点があった。酸化物半導体層を形成し、さらに絶縁層を形成した上面に、ゲート電極や画素電極等の電極を形成することで、トランジスタ等のデバイスとして使用できるようになるが、これら電極の形成の際に、フォトリソグラフィ法やエッチング法等のウエットな形成方法がとられることが多い。この形成方法をとった際に、残留する水分を取り除くために、150℃程度に加熱乾燥することが行われるが、この加熱処理を施す際に、酸化物半導体のトランジスタ特性が不安定になってしまい、トランジスタ特性が失われる可能性があるという問題点があった。
【0009】
また、形成したゲート電極の上面に層間絶縁膜を形成することも一般的に行われるが、この層間絶縁膜の形成を行う際にも加熱処理が行われることが多く、この場合もトランジスタ特性が失われてしまう可能性がある。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、加熱処理を施した後も安定したトランジスタ特性を有する酸化物薄膜トランジスタ、その製造方法及びそれが使用されているフレキシブルディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明の酸化物薄膜トランジスタは、第1の絶縁層と、前記第1の絶縁層の上面において、酸化物半導体にて構成されるチャネル部と、前記チャネル部を介して互いに離間して設けられているソース電極及びドレイン電極と、前記チャネル部の上面に設けられた第2の絶縁層とを備え、前記第2の絶縁層は、少なくともポリビニルフェノールを含有し、フッ素系界面活性剤を添加してなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項2に係る発明の酸化物薄膜トランジスタは、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記チャネル部を構成する酸化物半導体は、In、Ga、Znの少なくともいずれか1種の元素を含む酸化物により形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項3に係る発明の酸化物薄膜トランジスタは、請求項1乃至2に記載の発明の構成に加え、前記酸化物薄膜トランジスタはトップゲート型であって、前記第1の絶縁層は基板であり、前記第2の絶縁層の上面には、ゲート電極が設けられることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項4に係る発明の酸化物薄膜トランジスタは、請求項1乃至2に記載の発明の構成に加え、前記酸化物薄膜トランジスタはボトムゲート型であって、前記第1の絶縁層はゲート絶縁層であり、前記第2の絶縁層の上面に電極が設けられていることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項5に係る発明の酸化物薄膜トランジスタの製造方法は、第1の絶縁層の上面に酸化物半導体にて構成されるチャネル部を形成させるチャネル部形成工程と、前記チャネル部を介して互いに離間するソース電極及びドレイン電極を形成させるソース・ドレイン電極形成工程と、前記チャネル部の上面に、少なくともポリビニルフェノールを含有し、フッ素系界面活性剤を添加してなる第2の絶縁層を形成させる第2絶縁層形成工程とからなることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項6に係る発明の酸化物薄膜トランジスタの製造方法は、請求項5に記載の発明の構成に加え、前記酸化物薄膜トランジスタはトップゲート型であって、前記第1の絶縁層は基板であり、前記第2の絶縁層の上面にゲート電極を形成させるゲート電極形成工程を、さらに備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項7に係る発明の酸化物薄膜トランジスタの製造方法は、請求項5に記載の発明の構成に加え、前記酸化物薄膜トランジスタはボトムゲート型であって、基板上にゲート電極を形成させるゲート電極形成工程と、前記ゲート電極上面に、前記第1の絶縁層を形成させる第1絶縁層形成工程と、前記第2の絶縁層の上面に電極を形成させる電極形成工程とを、さらに備えることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項8に係る発明のディスプレイは、請求項1乃至4に記載の酸化物薄膜トランジスタが使用されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明の酸化物薄膜トランジスタは、第1の絶縁層と、前記第1の絶縁層の上面において、酸化物半導体にて構成されるチャネル部と、前記チャネル部を介して互いに離間して設けられているソース電極及びドレイン電極と、前記チャネル部の上面に設けられた第2の絶縁層とを備え、前記第2の絶縁層は、少なくともポリビニルフェノールを含有し、フッ素系界面活性剤を添加されている。前記第2の絶縁層が、ポリビニルフェノールを含有し、フッ素系界面活性剤が添加されていることにより、この酸化物薄膜トランジスタに対してさらに層間絶縁膜や画素電極等を加熱処理にて形成する工程を経て得られた半導体デバイス中においても、良好かつ安定した特性を有している酸化物薄膜トランジスタを得ることができる。
【0020】
また、請求項2に係る発明の酸化物薄膜トランジスタでは、請求項1に記載の発明の効果に加え、チャネル部を構成している酸化物半導体は、In、Ga、Znの少なくともいずれか1種の元素を含む酸化物により形成されているため、良好な特性を有する酸化物薄膜トランジスタを提供することができる。
【0021】
また、請求項3に係る発明の酸化物薄膜トランジスタでは、請求項1乃至2のいずれかに記載の発明の効果に加え、ポリビニルフェノールを含有し、フッ素系界面活性剤を添加されている第2の絶縁層が、ゲート絶縁層として機能する。このことにより、ゲート絶縁層やゲート電極の上面に層間絶縁膜や画素電極等を加熱処理にて形成する工程を経て得られた半導体デバイス中においても、良好かつ安定した特性を有している酸化物薄膜トランジスタを得ることができる。
【0022】
また、請求項4に係る発明の酸化物薄膜トランジスタでは、請求項1乃至2のいずれかに記載の発明の効果に加え、ポリビニルフェノールを含有し、非フッ素系界面活性剤を添加されている第2の絶縁層が、層間絶縁膜として機能する。このことにより、さらに上面に画素電極を加熱処理にて形成する工程を経ても、良好かつ安定した特性を有している酸化物薄膜トランジスタを得ることができる。
【0023】
請求項5に係る発明の酸化物薄膜トランジスタの製造方法では、酸化物半導体層形成工程において、第1の絶縁層の上面に酸化物半導体層が形成され、ソース・ドレイン電極形成工程において、酸化物半導体層により形成されるチャネル部を介して互いに離間するソース電極及びドレイン電極が形成され、第2絶縁層形成工程において、酸化物半導体層の上面に、ポリビニルフェノールを含有し、フッ素系界面活性剤が添加されている第2の絶縁層が形成される。前記第2の絶縁層が、ポリビニルフェノールおよびフッ素系界面活性剤を含有していることにより、この酸化物薄膜トランジスタに対してさらに層間絶縁膜や画素電極等を加熱処理にて形成する工程を経て得られた半導体デバイス中においても、良好かつ安定した特性を有している酸化物薄膜トランジスタを得ることができる。
【0024】
また、請求項6記載の酸化物薄膜トランジスタの製造方法では、請求項5に記載の発明の効果に加え、酸化物薄膜トランジスタはトップゲート型であって、第2の絶縁層の上面にゲート電極を形成させるゲート電極形成工程をさらに備えている。ポリビニルフェノールを含有し、フッ素系界面活性剤が添加されている前記第2の絶縁層がゲート絶縁膜として機能することにより、この酸化物薄膜トランジスタに対してさらに層間絶縁膜や画素電極等を加熱処理にて形成する工程を経て得られた半導体デバイス中においても、良好かつ安定した特性を有している酸化物薄膜トランジスタを得ることができる。
【0025】
また、請求項7記載の酸化物薄膜トランジスタの製造方法では、請求項5に記載の発明の効果に加え、酸化物薄膜トランジスタはボトムゲート型であって、第2の絶縁層の上面に画素電極を形成させる画素電極形成工程をさらに備えている。ポリビニルフェノールを含有し、非フッ素系界面活性剤を添加されている第2の絶縁層が、層間絶縁膜として機能することにより、さらに上面に画素電極を加熱処理にて形成する工程を経ても、良好かつ安定した特性を有している酸化物薄膜トランジスタを得ることができる。
【0026】
請求項8記載のフレキシブルディスプレイは、請求項1乃至4に記載されている酸化物薄膜トランジスタを使用していることにより、その製造工程に加熱処理がある場合でも、良好かつ安定して表示を行うことが可能なフレキシブルディスプレイを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1実施形態の酸化物薄膜トランジスタの縦断面図である。
【図2】第1実施形態の酸化物薄膜トランジスタの製造工程を示すフローチャートである。
【図3】基板2の上面にソース電極3とドレイン電極4とが形成された状態の縦断面図である。
【図4】図3に示すソース電極3とドレイン電極4との間にチャネル部9が形成された状態を示す縦断面図である。
【図5】図4に示す基板2とソース電極3とドレイン電極4とチャネル部9の上面にゲート絶縁膜5が形成された状態を示す縦断面図である。
【図6】比較例1の酸化物薄膜トランジスタの縦断面図である。
【図7】第1実施形態の酸化物薄膜トランジスタの電圧−電流特性を示す図である。
【図8】比較例1の酸化物薄膜トランジスタの電圧−電流特性を示す図である。
【図9】第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタの縦断面図である。
【図10】第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタの製造工程を示すフローチャートである。
【図11】基板102の上面にゲート電極106が形成された状態の縦断面図である。
【図12】基板102、ゲート電極106の上面に第2実施形態のゲート絶縁層110が形成された状態を示す縦断面図である。
【図13】第2実施形態のゲート絶縁層110の上面にソース電極103とドレイン電極104とが形成された状態の縦断面図である。
【図14】ソース電極103とドレイン電極104との間にチャネル部109が形成された状態を示す縦断面図である。
【図15】基板102とソース電極103とドレイン電極104とチャネル部109の上面に層間絶縁層105が形成された状態を示す縦断面図である。
【図16】層間絶縁層105を貫通するコンタクトホール111が形成された状態の縦断面図である。
【図17】比較例2の酸化物薄膜トランジスタの縦断面図である。
【図18】第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタの電圧−電流特性を示す図である。
【図19】比較例2の酸化物薄膜トランジスタの電圧−電流特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態である酸化物薄膜トランジスタ1について説明する。はじめに、酸化物薄膜トランジスタ1の断面構造について、図1を参照して説明する。図1は、酸化物薄膜トランジスタ1の縦断面図である。なお、以降の説明では、図面上側を上方、その反対方向を下方と定義して説明する。
【0029】
酸化物薄膜トランジスタ1は、板状の基板2を有し、基板2の上面にはソース電極3及びドレイン電極4が離間して設けられている。ソース電極3の上面及びドレイン電極4の上面と、ソース電極3及びドレイン電極4に挟まれる基板2の上面とには、酸化物半導体層9が連続して設けられている。そして、酸化物半導体層9とソース電極3とドレイン電極4と基板2とを覆うように、ゲート絶縁層5が設けられている。そして、ゲート絶縁層5の上面の、酸化物半導体層9と対向する位置に、ゲート電極6が設けられている。なお、第一実施形態においては、基板2が本発明の第1の絶縁層に相当し、ゲート絶縁層5が本発明の第2の絶縁層に相当する。また、酸化物半導体層9が本発明のチャネル部に相当する。
【0030】
基板2は、表面が平坦である板状部材である。基板2の材質としては、各種材質が適用可能であるが、導電性の材質が採用される場合には、基板2の表面に絶縁膜が設けられる必要がある。基板2の材質として絶縁性の材質が用いられる場合には、ガラス基板や熱酸化膜付シリコン基板のほか、プラスチック基板が用いられる。基板2に可撓性を付与したい場合には、特に、基板2の材質としてプラスチックが採用される。プラスチックの材質としては、例えば、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。基板2の耐水性を向上させる場合には、基板2の表面にSiOやSiNxなどからなるガラスバリア膜が形成される。本実施形態では、基板2としてガラス基板が用いられる。
【0031】
基板2の上面には、ソース電極3及びドレイン電極4が、所定のチャネル長の離間幅をもって各々設けられている。このソース電極3及びドレイン電極4の材質には、Au、Ag、Ni、Cu、Pd、Al、Mo、Cr、Ti、Ta、Pt、W(タングステン)等の金属単体、または少なくともいずれかの金属を含む複合体、酸化インジウムスズ(ITO)などの導電性酸化物、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等の導電性ポリマーが適用可能である。本実施形態のソース電極3及びドレイン電極4は、Niよりなる。
【0032】
ソース電極3、ドレイン電極4の各上面及びソース電極3及びドレイン電極4に挟まれる基板2の上面には、酸化物半導体層9が連続して設けられている。酸化物半導体層9の材質は公知の酸化物半導体材料が採用可能であり、好ましくは、In、Ga、Znの少なくともいずれか1種の元素を含む酸化物半導体材料が採用される。In、Ga、Znの少なくともいずれか1種の元素を含む酸化物半導体材料としては、具体的には、InGaZnO、ZnO、ZnInO、Inが挙げられる。本実施形態の酸化物半導体層9は、InGaZnOからなる。
【0033】
酸化物半導体層9、ソース電極3、ドレイン電極4、基板2の各上面はゲート絶縁層5によって覆われている。ゲート絶縁層5には、ポリビニルフェノール(PVP)がメラミン樹脂により架橋されてなる架橋PVPに、フッ素系界面活性剤を添加することで形成される。
【0034】
本発明で使用されるフッ素系界面活性剤は、ノニオン性のものを使用することが好ましく、例えば、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物(例えば、メガファックF−444(DIC社製))、パーフルオロアルキル基・親油性基含有オリゴマー(例えば、メガファックF−482(DIC社製))、パーフルオロアルキル基・親水性基・親油性基含有オリゴマー(例えば、メガファックMCF−350SF(DIC社製))が挙げられる。
【0035】
ゲート絶縁層5の上面には、酸化物半導体層9に対向する位置に、ゲート電極6が設けられている。ゲート電極6の材質には、Au、Ag、Cu、Pd、Ni、Al、Mo、Cr、Ti、Ta、Pt、W(タングステン)等の金属単体、または少なくともいずれかの金属を含む複合体、酸化インジウムスズ(ITO)などの導電性酸化物、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等の導電性ポリマーが適用可能である。本実施形態のゲート電極6は、Niよりなる。
【0036】
次に、上記構造の酸化物薄膜トランジスタ1の製造工程について、図2乃至図5を参照して説明する。図2は、酸化物薄膜トランジスタ1の製造工程を示すフローチャートである。また、図3は、基板2の上面にソース電極3とドレイン電極4とが形成された状態の縦断面図であり、図4は、図3に示すソース電極3とドレイン電極4との間に酸化物半導体層9が形成された状態の縦断面図である。また、図5は、ソース電極3とドレイン電極4と酸化物半導体層9との上面に、ゲート絶縁層5が形成された状態の縦断面図である。
【0037】
酸化物薄膜トランジスタ1の製造工程は、図2に示すように、基板2の上面にソース電極3及びドレイン電極4を各々形成するソース・ドレイン電極形成工程(S11)と、ソース電極3及びドレイン電極4の間の基板2上面に酸化物半導体層9を形成する半導体層形成工程(S12)と、少なくとも酸化物半導体層9の上面にゲート絶縁層5を形成するゲート絶縁層形成工程(S13)と、ゲート絶縁層5の上面にゲート電極6を形成するゲート電極形成工程(S14)とから構成されている。
【0038】
はじめに、S1のソース・ドレイン電極形成工程が行われる。このソース・ドレイン電極形成工程(S1)では、図3に示すように、基板2の上面にソース電極3、ドレイン電極4が形成される。ソース電極3、ドレイン電極4の形成方法は、特に限定されない。基板2の上面に、電極を形成する材質の薄膜を形成した後、パターニングして不要部分を除去する方法が一般的であるが、製膜方法、パターニング方法に関しても、各種方法を適用可能である。具体的には、製膜方法としては、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、めっき法などが適用可能であるし、パターニング法としては、フォトリソグラフィ法やスクリーン印刷法などが適用可能である。
【0039】
本実施形態では、ガラスからなる基板2を洗浄後、基板2の上面にNi薄膜を形成した。そして、形成したNi薄膜のパターニングを行い、不要部分を除去することにより、ソース電極3、ドレイン電極4を形成した。Ni薄膜の製膜は、スパッタリング法により行った。このときのターゲットとしてはNiを使用し、装置としてはDCスパッタ装置を用いた。形成されたNi薄膜の上面に、フォトリソグラフィ法を用いてレジストパターンを形成した後、エッチング法を用いてNi薄膜をエッチングした。不要となったフォトレジストは、アセトン洗浄により除去した。こうして、図3に示すように、基板2の上面に、Niからなるソース電極3及びドレイン電極4を形成させた。形成されたソース電極3及びドレイン電極4の厚さは、100nmであった。
【0040】
次に、S12の半導体層形成工程が行われる。半導体層形成工程(S12)では、図4に示すように、ソース電極3及びドレイン電極4の間の基板2上面、及びソース電極3とドレイン電極4との上面に酸化物半導体層9が連続して形成される。酸化物半導体層9の形成方法は、半導体薄膜を形成した後、パターニングして不要部分を除去する方法が一般的である。製膜方法としてはスパッタリング法が好適であるが、これに制限されるものではない。パターニング法としては、フォトリソグラフィ法やスクリーン印刷法等を用いることができる。
【0041】
本実施形態では、図3に示すソース電極3の上面、ドレイン電極4の上面、及び基板2の上面のうちのソース電極3、ドレイン電極4の設けられていない部位を覆うように、InGaZnO膜を形成した後、InGaZnO膜をパターニングして不要部分を除去することにより、InGaZnOからなる酸化物半導体層9を形成する。InGaZnO膜の製膜は、スパッタリング法により行われ、ターゲットとしてInGaZnOが用いられるとともに、ArとOとの混合ガスを流しながら行われる。InGaZnO膜を形成した後、フォトリソグラフィ法によりレジストパターンを形成し、有機酸系のITOエッチャントを用いて、エッチング法によりInGaZnO膜をエッチングする。不要となったフォトレジストは、アセトン洗浄により除去する。こうして、図4に示すように、ソース電極3及びドレイン電極4の間の基板2上面、ソース電極3の上面、ドレイン電極4の上面に、InGaZnOからなる酸化物半導体層9を連続して形成させることができる。形成された酸化物半導体層9の厚さは、30nmであった。
【0042】
次に、S13のゲート絶縁層形成工程が行われる。ゲート絶縁層形成工程(S13)では、図5に示すように、ソース電極3、ドレイン電極4、酸化物半導体層9の各上面、及び基板2の上面のうちのソース電極3、ドレイン電極4、酸化物半導体層9が設けられていない部位を覆うように、ゲート絶縁層5が形成される。ゲート絶縁層5の形成方法に関しては特に限定するものではないが、塗布法を用いることがコストの面から好ましい。塗布法としては、各種方法が適用可能であり、具体的には、スピンコート法、スリットコート法、ディップコート法、スプレー法、ロールコート法、カーテンコート法、印刷法、液滴吐出法等のいずれをも用いることができる。
【0043】
本実施形態では、ゲート絶縁層形成用溶液を、スピンコート法により、図4に示す酸化物半導体層9、ソース電極3、ドレイン電極4の各上面、及び基板2の上面のうちの酸化物半導体層9、ソース電極3、ドレイン電極4の設けられていない部位を覆うように塗布した後、熱処理を行った。ゲート絶縁層用溶液は、PVP、メラミン−ホルムアルデヒド、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、フッ素系界面活性剤(メガファックF−482(DIC社製))の混合溶液である。ゲート絶縁層用溶液は、まず、フッ素系界面活性剤を除く各材料を採取して30分間混合した後、フッ素系界面活性剤を添加してさらに30分間混合することで得られた。各材料の重量比は、PVP:メラミン−ホルムアルデヒド:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート:フッ素系界面活性剤=1:2:10:0.01である。塗布後の熱処理は、ホットプレートを用いて行い、70℃で5分間加熱した後、120℃で10分間加熱し、最後に150℃で2時間加熱することにより行った。熱処理後のゲート絶縁層5の厚さは、700nmであった。
【0044】
次に、S14のゲート電極形成工程が行われる。ゲート電極形成工程(S14)では、図1に示すように、ゲート絶縁層5の上面に、ゲート電極6が形成される。ゲート電極6の形成方法は、特に限定されない。ゲート電極6を形成する材質の薄膜を形成した後、パターニングして不要部分を除去する方法が一般的であるが、製膜方法、パターニング方法に関しても、各種方法を適用可能である。具体的には、製膜方法としては、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法、めっき法などが適用可能であるし、パターニング法としては、フォトリソグラフィ法やスクリーン印刷法などが適用可能である。
【0045】
本実施形態では、Ni薄膜を形成した後、Ni薄膜のパターニングを行い、不要部分を除去することにより、Niからなるゲート電極6を形成した。Ni薄膜の形成は、真空蒸着法により行った。Ni薄膜が形成された後、フォトリソグラフィ法により、レジストパターンを形成し、エッチング法により、Ni薄膜をエッチングした。不要となったフォトレジストは、アセトン洗浄により除去した。こうして、図1に示すように、ゲート絶縁層5の上面に、Niからなるゲート電極6を形成した。形成されたゲート電極6の厚さは、100nmであった。
【0046】
次に、上述の製造方法によって形成された酸化物薄膜トランジスタ1の効果を確認するため、酸化物薄膜トランジスタ1の性能評価を行った。この性能評価では、比較例1として、ゲート絶縁層5を、フッ素系界面活性剤を添加せずに構成した酸化物薄膜トランジスタ1aについても、性能評価を行った。以下、この性能評価について説明する。
【0047】
はじめに、比較例1の酸化物薄膜トランジスタ1aの断面構造について、図6を参照して説明する。図6は、比較例1の酸化物薄膜トランジスタ1aの縦断面図である。
【0048】
図6に示す比較例1の酸化物薄膜トランジスタ1aの構成は、ゲート絶縁層5を、フッ素系界面活性剤を添加せずに構成したゲート絶縁層5aとした以外は、酸化物薄膜トランジスタ1と同様である。酸化物薄膜トランジスタ1aは、第一実施形態の酸化物薄膜トランジスタ1の製造工程のうち、ゲート絶縁層形成工程(S13)にて、フッ素系界面活性剤の添加を省いて製造することにより得られる。
【0049】
次に、性能評価の方法および性能評価の結果について、図7乃至図8を参照して説明する。図7は、酸化物薄膜トランジスタ1のソース・ドレイン間に所定の電圧を印加して、ゲート電圧を変化させた際のソース・ドレイン間に流れる電流のグラフ(以下、電圧−電流特性という)である。図8は、酸化物薄膜トランジスタ1aの電圧−電流特性である。なお、図7乃至図8において、曲線aは、加熱処理前の酸化物薄膜トランジスタ1、1aの電圧−電流特性を示し、曲線bは、加熱処理後の酸化物薄膜トランジスタ1、1aの電圧−電流特性を示す。
【0050】
性能評価は、図7乃至図8に示す電圧−電流特性より求められる酸化物薄膜トランジスタの電界効果移動度と、ターンオン電圧とを指標として行った。電界効果移動度は、下記の式を用いて算出される。
(数1)Ids=μCinW(Vg−Vth)2/2L
ただし、μは電界効果移動度、Idsは飽和領域においてソース・ドレイン間に流れる電流(以下、ドレイン電流)、Cinはゲート絶縁膜の単位面積当たりのキャパシタンス、Wはチャネル幅、Vgはゲート電圧、Vthは閾値電圧、Lはチャネル長である。また、ターンオン電圧は、酸化物薄膜トランジスタにおいて、オフ状態からオン状態になるときの境界となるゲート電圧である。ソース電極3、ドレイン電極4間に所定の電圧を印加して、ゲート電圧を変化させた際にソース電極3、ドレイン電極4間に流れる電流を測定し、得られた値から、電界効果移動度とターンオン電圧とを算出した。
【0051】
また、性能評価は、形成後の酸化物薄膜トランジスタ1、1a、および形成後さらに熱処理が行われた酸化物薄膜トランジスタ1、1aを対象として行った。加熱処理は、形成後の酸化物薄膜トランジスタ1、1aを、ホットプレートを用いて、200℃で5分間加熱することにより行った。
【0052】
はじめに、酸化物薄膜トランジスタ1における熱処理前後の電界効果移動度およびターンオン電圧について評価した。図7に示す酸化物薄膜トランジスタ1の電圧−電流特性に基づき、電界効果移動度およびターンオン電圧を求めると、加熱処理前は、電界効果移動度が3.1cm/Vs、ターンオン電圧が−6Vであった(曲線a)。また、加熱処理後には、電界効果移動度が4.2cm/Vs、ターンオン電圧が−9Vであった(曲線b)。これにより、第1実施形態の酸化物薄膜トランジスタ1では、加熱処理を行うことにより、電界効果移動度がやや向上することが判明した。また、加熱処理前後で、ターンオン電圧はほとんど変化しないことが判明した。これにより、高い電界効果移動度を有し、かつ加熱処理によるターンオン電圧の変動のない安定した特性を有する酸化物薄膜トランジスタ1が得られることが示された。
【0053】
なお、酸化物薄膜トランジスタ1について、同様の実験を複数回行い、電界効果移動度、およびターンオン電圧を求めたところ、再現性の良い結果が得られた。これにより、酸化物薄膜トランジスタ1は、安定したトランジスタ特性を有することが確認された。
【0054】
次に、酸化物薄膜トランジスタ1aにおける加熱処理前後の電界効果移動度およびターンオン電圧について評価した。図8に示す酸化物薄膜トランジスタ1aの電圧−電流特性に基づき、電界効果移動度およびターンオン電圧を求めると、加熱処理前は、電界効果移動度が3.9cm/Vs、ターンオン電圧が−9Vであった(曲線a)。また、加熱処理後には、電界効果移動度が9.4cm/Vs、ターンオン電圧が−104V以下であった(曲線b)。これにより、比較例1の酸化物薄膜トランジスタ1aでは、加熱処理を行うことにより、ターンオン電圧が大幅に負にシフトすることが示された。トランジスタの駆動電圧を低くするためには、ターンオン電圧の絶対値を小さくする必要があるが、酸化物薄膜トランジスタ1aでは、加熱処理を行うことにより、ターンオン電圧の絶対値が大きくなってしまう場合があることが示された。
【0055】
なお、酸化物薄膜トランジスタ1aについて、同様の実験を複数回行い、電界効果移動度、およびターンオン電圧を求めたところ、加熱処理前、加熱処理後ともに、結果に再現性が得られなかった。これにより、酸化物薄膜トランジスタ1aのトランジスタ特性は、安定していないことが確認された。
【0056】
一方、第1実施形態の酸化物薄膜トランジスタ1では、ゲート絶縁層5が、PVPをメラニン樹脂にて架橋し、フッ素系界面活性剤を添加した架橋PVPで構成されているため、ターンオン電圧の絶対値を小さくすることができたものと推測される。
【0057】
以上説明したように、第1実施形態の酸化物薄膜トランジスタ1は、酸化物半導体層9上面に積層するゲート絶縁層5を、PVPおよびフッ素系界面活性剤を含む構成とすることにより、良好かつ安定した特性を有するとともに、加熱処理を行った場合にも、特性の変化が殆どない酸化物薄膜トランジスタ1が得られる。
【0058】
また、PVPは、塗布法により、低温形成することが可能である。そのため、大がかりな装置を用いることなく、簡単、且つ安価に、ゲート絶縁層5を形成することが可能である。さらに、耐熱性の低い可撓性プラスチック基板を基板として採用することができ、その場合には可撓性を備える酸化物薄膜トランジスタの製造が可能となる。
【0059】
しかも、PVPは酸化物半導体に対する反応性が低いため、下面側に形成された酸化物半導体層9にダメージを与えることなく、ゲート絶縁層5を形成させることが可能である。よって、ゲート絶縁層5の形成過程において、酸化物半導体層9はダメージを受けることがない。そのため、酸化物半導体層9の半導体特性を維持することができ、良好な特性を有する酸化物薄膜トランジスタ1を形成することができる。
【0060】
その上、酸化物半導体層9の材料として、InGaZnOを採用しているため、半導体層形成工程(S2)における製膜は、室温で行うことが可能である。そのため、可撓性を有するプラスチック基板を基板として採用することができ、その場合には可撓性を備える酸化物薄膜トランジスタの製造が可能となる。しかも、高い電界効果移動度を持つ酸化物薄膜トランジスタを実現できる。
【0061】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100について説明する。第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100は、第1実施形態とは異なり、ゲート電極106がソース電極103やドレイン電極104より下側に位置する、所謂「ボトムゲート型」の酸化物薄膜トランジスタである。第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100は、ボトムゲート型であることの他、層間絶縁層105がポリビニルフェノールおよびフッ素系界面活性剤を含有していることに特徴を有する。また、層間絶縁層105を貫通するコンタクトホール111が設けられている点、画素電極112が設けられている点で第1実施形態と異なる。なお、第1実施形態と同一部分の説明については省略する。
【0062】
はじめに、酸化物薄膜トランジスタ100の断面構造について、図9を参照して説明する。図9は、第2実施形態である酸化物薄膜トランジスタ100の縦断面図である。酸化物薄膜トランジスタ100は、板状の基板102を有し、基板102上にゲート電極106が設けられている。そして、基板102とゲート電極106とを覆うように、第2実施形態におけるゲート絶縁層110が設けられている。第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面には、ソース電極103とドレイン電極104とが離間して設けられている。また、ソース電極103とドレイン電極104との間の第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面、ソース電極103の上面、ドレイン電極104の上面には、酸化物半導体層109が連続して設けられている。
【0063】
そして、酸化物半導体層109の上面と、ソース電極103及びドレイン電極104の各上面と、第三実施形態におけるゲート絶縁層110の上面とは、層間絶縁層105により覆われている。層間絶縁層105の上面には画素電極112が設けられている。また、画素電極112とドレイン電極104との間には、層間絶縁層105を貫通するコンタクトホール111が設けられている。なお、第2実施形態におけるゲート絶縁層110が本発明の第1の絶縁層に相当し、層間絶縁層105が本発明の第2の絶縁層に相当する。また、酸化物半導体層109が、本発明のチャネル部に相当する。また、画素電極112は、液晶表示装置等の制御に用いるもので、本発明の電極に相当する。
【0064】
基板102の材質は、第1実施形態の基板2の材質と同様である。基板102の上面に形成されたゲート電極106の材質は、第一実施形態のゲート電極6の材質と同様である。
【0065】
基板102の上面、およびゲート電極106の上面を覆うように設けられた第2実施形態におけるゲート絶縁層110は、一層からなり、絶縁物質により形成されている。絶縁物質として無機絶縁物質を採用する場合は、Al、SiO、SiN、TiO等が適用可能である。また、絶縁物質として有機絶縁物質を採用する場合は、ポリイミド(PI)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリパラビニルフェノール等が適用可能である。なお、第2実施形態におけるゲート絶縁層110の材質としては、絶縁性能、耐性の観点から、無機絶縁物質を採用する方がより好ましい。
【0066】
第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面に離間して設けられたソース電極103、ドレイン電極104の材質は、第一実施形態のソース電極3、ドレイン電極4の材質と同様である。ソース電極103とドレイン電極104との間の第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面、ソース電極103の上面、ドレイン電極104の上面に設けられた酸化物半導体層109の材質は、第1実施形態の酸化物半導体層9の材質と同様である。
【0067】
基板102、ソース電極103、ドレイン電極104、酸化物半導体層109の上面に設けられた層間絶縁層105は、第一実施形態におけるゲート絶縁層5と同様の構成である。
【0068】
層間絶縁層105の上面に形成される画素電極112は、ITO(酸化インジウムスズ)により形成される。
【0069】
次に、酸化物薄膜トランジスタ100の製造方法について、図10乃至図16を参照して説明する。図10は、酸化物薄膜トランジスタ100の製造工程を示すフローチャートであり、図11は、基板102の上面にゲート電極106が形成された状態の縦断面図である。また、図12は、図11に示す基板102、ゲート電極106の上面に、第2実施形態におけるゲート絶縁層110が形成された状態の縦断面図であり、図13は、第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面に、ソース電極103、ドレイン電極104が形成された状態の縦断面図である。
【0070】
また、図14は、ソース電極103の上面、ドレイン電極104の上面、及びソース電極103とドレイン電極104との間の、第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面に酸化物半導体層109が形成された状態の縦断面図である。また、図15は、ソース電極103、ドレイン電極104、酸化物半導体層109、及び第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面に、層間絶縁層105が形成された状態の縦断面図である。図16は、層間絶縁層105を貫通するコンタクトホール111が形成された状態の縦断面図である。
【0071】
酸化物薄膜トランジスタ100の製造工程は、図10に示すように、ゲート電極形成工程(S101)と、ゲート絶縁層形成工程(S102)と、ソース・ドレイン電極形成工程(S103)と、半導体層形成工程(S104)と、層間絶縁層形成工程(S105)と、コンタクトホール形成工程(S106)と、画素電極形成工程(S107)とを備えている。以下、各工程について具体的に説明する。
【0072】
初めに、ゲート電極形成工程(S101)が行われる。ゲート電極形成工程(S101)では、基板102の上面にゲート電極106が形成される。具体的には、まず、基板102を洗浄し、基板102の上面に、Ni薄膜が形成される。Ni薄膜の形成は、スパッタリング法により行われる。このときのターゲットとしてはNiが使用され、装置としてはDCスパッタ装置が用いられる。形成されたNi薄膜の上面に、フォトリソグラフィ法により、レジストパターンが形成され、エッチング法により、Ni薄膜がエッチングされる。最後に、不要となったフォトレジストを、アセトン洗浄により除去する。こうして、図11に示すように、基板102の上面に、Niからなるゲート電極106を形成させることができる。
【0073】
次に、ゲート絶縁層形成工程が行われる(S102)。ゲート絶縁層形成工程(S102)では、図11に示すゲート電極106の上面、及び基板102の上面のうちのゲート電極106が設けられていない部位に、SiO膜が形成される。SiO膜の製膜は、スパッタリング法により行われ、ターゲットとしてはSiOが使用されるとともに、ArとOとの混合ガスを流しながら行われる。こうして、図12に示すように、ゲート電極106の上面、及び基板102の上面のうちのゲート電極106が設けられていない部位に、SiOからなる第2実施形態におけるゲート絶縁層110が形成される。
【0074】
次に、ソース・ドレイン電極形成工程(S103)が行われる。ソース・ドレイン電極形成工程(S103)では、図12に示す第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面に、Ni薄膜を製膜し、パターニングして不要部分を除去することにより、図13に示すように、ソース電極103およびドレイン電極104を形成する。形成条件は、ゲート電極106と同様であるため、説明を省略する。
【0075】
次に、半導体層形成工程(S104)が行われる。半導体層形成工程(S104)では、図14に示すように、ソース電極103及びドレイン電極104の間の、第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面、ソース電極103の上面、ドレイン電極104の上面に、酸化物半導体層109が連続して形成される。半導体層形成工程(S104)では、初めに、図13に示すソース電極103の上面と、ドレイン電極104の上面と、第三実施形態におけるゲート絶縁層110の上面のうちのソース電極103、ドレイン電極104が設けられていない部位とを覆うように、InGaZnO膜を形成する。その後、InGaZnO膜をパターニングして不要部分を除去することにより、InGaZnOからなる酸化物半導体層109を形成する。InGaZnO膜の形成は、スパッタリング法により行われ、ターゲットとしてInGaZnOが用いられるとともに、ArとOとの混合ガスを流しながら行われる。InGaZnO膜を形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてレジストパターンを形成し、InGaZnO膜をエッチングする。最後に、不要となったフォトレジストを、アセトン洗浄により除去する。こうして、図14に示すように、ソース電極103及びドレイン電極104の間の第三実施形態におけるゲート絶縁層110の上面、ソース電極103の上面、ドレイン電極104の上面に、InGaZnOからなる酸化物半導体層109を連続して形成させることができる。
【0076】
次に、層間絶縁層形成工程(S105)が行われる。層間絶縁層形成工程(S105)では、図15に示すように、酸化物半導体層109、ソース電極103、ドレイン電極104の各上面、及び第2実施形態におけるゲート絶縁層110の上面のうち酸化物半導体層109、ソース電極103、ドレイン電極104の設けられていない部位を覆うように、層間絶縁層105が形成される。層間絶縁層105の形成方法に関しては特に限定するものではないが、塗布法を用いることがコストの面から好ましい。塗布法としては、各種方法が適用可能であり、具体的には、スピンコート法、スリットコート法、ディップコート法、スプレー法、ロールコート法、カーテンコート法、印刷法、液滴吐出法等のいずれをも用いることができる。
【0077】
本実施形態では、層間絶縁層形成用溶液を、スピンコート法により、図14に示す酸化物半導体層109、ソース電極103、ドレイン電極104の各上面、及び基板102の上面のうちの酸化物半導体層109、ソース電極103、ドレイン電極104の設けられていない部位を覆うように塗布した後、熱処理を行った。層間絶縁層用溶液は、PVP、メラミン−ホルムアルデヒド、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、フッ素系界面活性剤(メガファックF−482(DIC社製))の混合溶液である。層間絶縁層用溶液は、まず、フッ素系界面活性剤を除く各材料を採取して30分間混合した後、フッ素系界面活性剤を添加してさらに30分間混合することで得られた。各材料の重量比は、PVP:メラミン−ホルムアルデヒド:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート:フッ素系界面活性剤=1:2:10:0.01である。塗布後の熱処理は、ホットプレートを用いて行い、70℃で5分間加熱した後、120℃で10分間加熱し、最後に150℃で2時間加熱することにより行った。熱処理後の層間絶縁層105の厚さは、700nmであった。
【0078】
次に、コンタクトホール形成工程(S106)が行われる。コンタクトホール形成工程(S106)では、層間絶縁層105を貫通するコンタクトホール111が形成される。コンタクトホール形成工程(S106)では、初めに、コンタクトホール111に対応する箇所に開口部を備えたレジストマスクを、図15に示す層間絶縁層105の上面に形成させる。そして、ドライエッチング法により、層間絶縁層105をエッチングする。エッチングガスは酸素が用いられる。こうして、図16に示すように、コンタクトホール111を形成させることができる。
【0079】
次に、画素電極形成工程が行われる(S107)。画素電極形成工程(S107)では、層間絶縁層105の上面及びコンタクトホール111の周縁部に、ITO薄膜が形成された後、パターニングして不要部分が除去されることにより、ITOからなる画素電極112が形成される。ITO膜の形成は、スパッタリング法により行われる。ITO膜形成後、レジストパターンを形成し、ITO膜をエッチングする。そして、不要となったフォトレジストを、アセトン洗浄により除去する。こうして、図9に示すように、層間絶縁層105の上面に画素電極112を形成させることができる。
【0080】
次に、上述の製造方法によって形成された酸化物薄膜トランジスタ100の効果を確認するため、酸化物薄膜トランジスタ100の性能評価を行った。この性能評価では、比較例2として、層間絶縁層105を、フッ素系界面活性剤を添加せずに構成した酸化物薄膜トランジスタ100aについても、性能評価を行った。以下、この性能評価について説明する。
【0081】
はじめに、比較例2の酸化物薄膜トランジスタ100aの断面構造について、図17を参照して説明する。図17は、比較例1の酸化物薄膜トランジスタ100aの縦断面図である。
【0082】
図17に示す比較例2の酸化物薄膜トランジスタ100aの構成は、層間絶縁層105を、フッ素家界面活性剤を添加せずに構成した層間絶縁層105aとした以外は、第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100と同様である。酸化物薄膜トランジスタ100aは、第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100の製造工程のうち、層間絶縁層形成工程(S105)にて、フッ素系界面活性剤の添加を省いて製造することにより得られる。
【0083】
次に、性能評価の方法および性能評価の結果について、図18乃至図19を参照して説明する。図18は、第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100のソース・ドレイン間に所定の電圧を印加して、ゲート電圧を変化させた際のソース・ドレイン間に流れる電流のグラフ(以下、電圧−電流特性という)である。図19は、酸化物薄膜トランジスタ100aの電圧−電流特性である。なお、図18乃至図19において、曲線aは、加熱処理前の酸化物薄膜トランジスタ100、100aの電圧−電流特性を示し、曲線bは、加熱処理後の酸化物薄膜トランジスタ100、100aの電圧−電流特性を示す。
【0084】
性能評価は、図18乃至図19に示す電圧−電流特性より求められる酸化物薄膜トランジスタの電界効果移動度と、ターンオン電圧とを指標として行った。評価方法については、第1実施形態の酸化物薄膜トランジスタ1およびその比較例1の酸化膜トランジスタ1aの評価方法と同じであるので、説明は省略する。
【0085】
まず、第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100における熱処理前後の電界効果移動度およびターンオン電圧について評価した。図18に示す第2の実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100の電圧−電流特性に基づき、電界効果移動度およびターンオン電圧を求めると、加熱処理前は、電界効果移動度が4.3cm/Vs、ターンオン電圧が−13Vであった(曲線a)。また、加熱処理後には、電界効果移動度が3.6cm/Vs、ターンオン電圧が−12Vであった(曲線b)。これにより、第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100では、加熱処理を行っても、電界効果移動度がほとんど変化しないことが判明した。また、加熱処理前後で、ターンオン電圧はほとんど変化しないことが判明した。これにより、高い電界効果移動度を有し、かつ加熱処理によるターンオン電圧の変動のない安定した特性を有する酸化物薄膜トランジスタ1が得られることが示された。
【0086】
なお、第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100について、同様の実験を複数回行い、電界効果移動度、およびターンオン電圧を求めたところ、再現性の良い結果が得られた。これにより、第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100は、安定したトランジスタ特性を有することが確認された。
【0087】
次に、比較例2の酸化物薄膜トランジスタ100aにおける加熱処理前後の電界効果移動度およびターンオン電圧について評価した。図19に示す酸化物薄膜トランジスタ100aの電圧−電流特性に基づき、電界効果移動度およびターンオン電圧を求めると、加熱処理前は、電界効果移動度が8.5cm/Vs、ターンオン電圧が−16Vであった(曲線a)。また、加熱処理後には、電界効果移動度が7.5cm/Vs、ターンオン電圧が−105Vであった(曲線b)。これにより、比較例2の酸化物薄膜トランジスタ100aでは、加熱処理を行うことにより、ターンオン電圧が大幅に負にシフトすることが示された。トランジスタの駆動電圧を低くするためには、ターンオン電圧の絶対値を小さくする必要があるが、酸化物薄膜トランジスタ100aでは、加熱処理を行うことにより、ターンオン電圧の絶対値が大きくなってしまう場合があることが示された。
【0088】
なお、酸化物薄膜トランジスタ100aについて、同様の実験を複数回行い、電界効果移動度、およびターンオン電圧を求めたところ、加熱処理前、加熱処理後ともに、結果に再現性が得られなかった。これにより、酸化物薄膜トランジスタ100aのトランジスタ特性は、安定していないことが確認された。
【0089】
一方、第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100では、層間絶縁層105が、PVPをメラニン樹脂にて架橋し、フッ素系界面活性剤を添加した架橋PVPで構成されているため、ターンオン電圧の絶対値を小さくすることができたものと推測される。
【0090】
以上説明したように、第2実施形態の酸化物薄膜トランジスタ100は、酸化物半導体層109上面に積層するゲート絶縁層105を、PVPおよびフッ素系界面活性剤を含む構成とすることにより、良好かつ安定した特性を有するとともに、加熱処理を行った場合にも、特性の変化が殆どない酸化物薄膜トランジスタ100が得られる。
【0091】
また、PVPは、塗布法により、低温形成することが可能である。そのため、大がかりな装置を用いることなく、簡単、且つ安価に、層間絶縁層105を形成することが可能である。さらに、耐熱性の低い可撓性プラスチック基板を基板として採用することができ、その場合には可撓性を備える酸化物薄膜トランジスタの製造が可能となる。
【0092】
しかも、PVPは酸化物半導体に対する反応性が低いため、下面側に形成された酸化物半導体層109にダメージを与えることなく、層間絶縁層105を形成させることが可能である。よって、層間絶縁層105の形成過程において、酸化物半導体層109はダメージを受けることがない。そのため、酸化物半導体層109の半導体特性を維持することができ、良好な特性を有する酸化物薄膜トランジスタ100を形成することができる。
【0093】
その上、酸化物半導体層109の材料として、InGaZnOを採用しているため、半導体層形成工程(S2)における製膜は、室温で行うことが可能である。そのため、可撓性を有するプラスチック基板を基板として採用することができ、その場合には可撓性を備える酸化物薄膜トランジスタの製造が可能となる。しかも、高い電界効果移動度を持つ酸化物薄膜トランジスタを実現できる。
【0094】
尚、本発明は、詳述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、酸化物薄膜トランジスタを構成する基板、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、ゲート絶縁層、酸化物半導体層の材料、大きさ、形状は実施形態の場合に限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能である。
【0095】
例えば、第1実施形態〜第2実施形態では、ソース電極とドレイン電極とを形成させた後に酸化物半導体層を形成させたが、酸化物半導体層を形成させた後にソース電極とドレイン電極とを形成させてもよい。この場合には、酸化物半導体層の形成過程で、ソース電極、ドレイン電極が酸化されることがないので、ソース電極とドレイン電極との材料を選択する際の選択の幅を広げることができる。
【符号の説明】
【0096】
1 酸化物薄膜トランジスタ
2 基板
3 ソース電極
4 ドレイン電極
5 ゲート絶縁層
6 ゲート電極
9 酸化物半導体層
100 (第2実施形態の)酸化物薄膜トランジスタ
102 基板
103 ソース電極
104 ドレイン電極
105 層間絶縁層
106 ゲート電極
109 酸化物半導体層
110 (第2実施形態の)ゲート絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の絶縁層と、
前記第1の絶縁層の上面において、酸化物半導体にて構成されるチャネル部と、
前記チャネル部を介して互いに離間して設けられているソース電極及びドレイン電極と、
前記チャネル部の上面に設けられた第2の絶縁層と
を備え、
前記第2の絶縁層は、少なくともポリビニルフェノールを含有し、フッ素系界面活性剤を添加してなることを特徴とする酸化物薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記チャネル部を構成する酸化物半導体は、In、Ga、Znの少なくともいずれか1種の元素を含む酸化物により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の酸化物薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記酸化物薄膜トランジスタはトップゲート型であって、
前記第1の絶縁層は基板であり、前記第2の絶縁層の上面には、ゲート電極が設けられることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の酸化物薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記酸化物薄膜トランジスタはボトムゲート型であって、
前記第1の絶縁層はゲート絶縁層であり、前記第2の絶縁層の上面に電極が設けられていることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の酸化物薄膜トランジスタ。
【請求項5】
第1の絶縁層の上面に酸化物半導体にて構成されるチャネル部を形成させるチャネル部形成工程と、
前記チャネル部を介して互いに離間するソース電極及びドレイン電極を形成させるソース・ドレイン電極形成工程と、
前記チャネル部の上面に、少なくともポリビニルフェノールを含有し、フッ素系界面活性剤を添加してなる第2の絶縁層を形成させる第2絶縁層形成工程と
からなることを特徴とする酸化物薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
前記酸化物薄膜トランジスタはトップゲート型であって、
前記第1の絶縁層は基板であり、
前記第2の絶縁層の上面にゲート電極を形成させるゲート電極形成工程を、さらに備えることを特徴とする請求項5に記載の酸化物薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項7】
前記酸化物薄膜トランジスタはボトムゲート型であって、
基板上にゲート電極を形成させるゲート電極形成工程と、
前記ゲート電極上面に、前記第1の絶縁層を形成させる第1絶縁層形成工程と、
前記第2の絶縁層の上面に、画素電極を形成させる画素電極形成工程とを
さらに備えることを特徴とする請求項5に記載の酸化物薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至4に記載の酸化物薄膜トランジスタが使用されていることを特徴とするディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−66269(P2011−66269A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216631(P2009−216631)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】