説明

電動車両の制動制御装置

【課題】電気的制動手段と油圧制動手段とを備え、アンチロック制御を行う際に、静粛性を向上することが可能な電動車両の制動制御装置を提供すること。
【解決手段】目標制動トルクを駆動系の共振周波数を含まない第1周波数成分と、駆動系の共振周波数を含む第2周波数成分とに分解し、第1周波数成分により電気的な制動トルクを与える電動モータを制御し、第2周波数成分により車輪に摩擦制動トルクを与える摩擦制動装置を作動させることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータによって車輪に制動トルクを与えることが可能な車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者が踏み込むペダルの踏力の大きさに基づき回生制動力を変化させる電気的制動手段と、運転者が踏み込むペダルの踏力の大きさに基づき油圧制動力を変化させる油圧制動手段とを共に有する電気自動車が知られている。この電気自動車には、制動中の該車輪のロック状態に対応して上記電気的制動手段または油圧制動手段の内、いずれか一方の制動手段が該車輪のロックを防止する電気自動車のアンチロック制御装置を備えた構成が知られている。
例えば、特許文献1に記載の技術では、上記電気的制動手段または上記油圧制動手段の内、一方の制動手段が該車輪のロックを防止するアンチロック制御を開始した時、他方の制動手段(アンチロック制御を実施しない手段)のペダル踏力の大きさに基づく制動力を徐々に減少させて零とするように制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3438242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1に記載の制動制御装置では、例えば油圧制動手段でアンチロック制御を実施し、電気的制動手段の制動力を徐々に減少させて零とする場合、アンチロック制御が要求する制動力を全て油圧制動手段で満足することになり、油圧を制御する際に生じる騒音や振動が発生し、電気的制動手段の静粛性を活かせないおそれがある。
一方、電気的制動手段でアンチロック制御を実施し、油圧制動手段の制動力を徐々に減少させて零とする場合、アンチロック制御が要求する制動力変化が大きいときには、モータ出力軸から車輪の車軸までの間で生じるドライブラインの振動が発生し、アンチロック制御の静粛性が低下するおそれがある。
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、電気的制動手段と油圧制動手段とによりアンチロック制御を行う際に、静粛性を向上することが可能な電動車両の制動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の電動車両の制動制御装置では、目標制動トルクを駆動系の共振周波数を含まない第1周波数成分と、駆動系の共振周波数を含む第2周波数成分とに分解し、第1周波数成分により電気的な制動トルクを与える電動モータ制御を行い、第2周波数成分により車輪に摩擦制動トルクを与える摩擦制動装置を作動させることとした。
【発明の効果】
【0006】
よって、電動モータによる制動力を駆動系の共振周波数以下で使用することができ、静粛性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の電動モータ駆動車両の構成を示す概略図である。
【図2】実施例1の電動モータ駆動車両の制動制御の構成を表す制御ブロック図である。
【図3】実施例1のブレーキペダル操作量と運転者制動トルク指令値の関係を表すマップである。
【図4】モータ回転速度周波数に対するモータ・タイヤ間周波数応答ゲインを表す特性図である。
【図5】実施例1のモータ巻線温度とトルク指令制限値との関係を示す図である。
【図6】実施例1のインバータ素子温度とトルク指令制限値との関係を示す図である。
【図7】実施例1のモータ摩擦制動トルク指令決定部の処理内容を示すフローチャートである。
【図8】実施例1のモータ摩擦制動トルク指令決定部の処理内容を示すフローチャートである。
【図9】実施例1において低車両速度を判断してモータトルクを低下する際の動作例を示すタイムチャートである。
【図10】実施例1において運転者がブレーキペダルへの踏力を低下させてABS制御が終了する際の動作例を示すタイムチャートである。
【図11】実施例1においてABS制御が二輪同一の制動トルク変化量を要求する状態の動作例を示すタイムチャートである。
【図12】実施例1においてABS制御で左右二輪にそれぞれ別々の制動トルク変化量を要求する制御状態から、二輪同一の制動トルク変化量を要求する制御状態へと制御状態が移行する場合の動作例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0008】
図1は本発明の実施例1の電動モータ駆動車両の構成を示す概略図である。尚、本実施例では車両が前進している際に制動するためのトルクを正とする。
電動モータ駆動車両は正負のトルクを発生させることのできる電動モータ100を備えている。電動モータ100には、回転センサとしてのレゾルバ101が接続され、その回転センサの情報を参照してモータコントローラ102がインバータ103に駆動信号を出力し、インバータが電動モータ100に電流を供給することでモータトルクを制御する構成である。電動モータ100にはコイル(モータ巻線)の温度を検出するモータ巻線温度センサが備えられている。また、インバータ103にはインバータ103内に配置された素子の温度を検出するインバータ素子温度センサが備えられている。
電動モータ100の出力軸は減速機104に接続され、ディファレンシャルギア105を介して車軸106にトルクを伝達する。電動モータ100を駆動する電力は高電圧バッテリ107から供給される。また高電圧バッテリ107はバッテリコントローラ108によって充電状態(State Of Charge:以下、SOC)や発熱の程度を監視されている。高電圧バッテリ107にはDC-DCコンバータ109が接続されており、DC-DCコンバータ109で電圧を降圧して低電圧バッテリ110を充電することができる。
【0009】
車両コントローラ111はブレーキペダルやアクセルペダルの踏力もしくはストロークを監視している。車両コントローラ111は、ブレーキペダルやアクセルペダルの踏み込みの程度に応じて正または負のトルク指令を、車内通信ライン112を経由して制動制御装置113に伝達する。
制動制御装置113は、各輪に設けられた車輪速度センサ114のセンサ信号やモータコントローラ102が出力するモータトルクの情報から、駆動スリップ防止制御(TCS制御)や制動スリップ防止制御(ABS制御)のトルク制御内容を演算するコントロールユニット113aと、ポンプや電磁弁を有するハウジングを備えコントロールユニット113aの指令信号に応じて摩擦制動トルクを発生させる液圧制御アクチュエータ113bとから構成されている。制動制御装置113が摩擦制動トルクを制御する場合は、運転者のペダル踏力に応じて制動制御装置113内のポンプを動作させ、対応する電磁弁を開閉制御し、油圧配管115を通してブレーキキャリパ116にブレーキ液を送り、制動トルクを発生する(これら、液圧制御アクチュエータ113b,油圧配管115及びブレーキキャリパ116等を総称して摩擦制動装置と記載する)。制動制御装置113がモータトルクを制御する場合は、車内通信ライン112によってモータコントローラ102にトルク指令を伝え、電動モータ100により制動トルクを発生する。
【0010】
図2は実施例1の電動モータ駆動車両の制動制御の構成を表す制御ブロック図である。
この制御ブロック図は、運転者制動トルク指令算出部200と、ABS制動トルク指令算出部201と、モータトルク指令制限値算出部202と、モータ・摩擦制動トルク指令決定部203(目標制動トルク指令値算出部に相当)と、から構成される。尚、この制御構成は、運転者制動トルク指令算出部200が車両コントローラ111内に設けられ、ABS制動トルク指令算出部201,モータトルク指令制限値算出部202,モータ・摩擦制動トルク指令決定部203が制動制御装置113のコントロールユニット内に設けられている。これら算出部もしくは決定部の各構成は、他のコントローラ内に設けてもよく特に限定しない。
【0011】
運転者制動トルク指令算出部200では、運転者のブレーキペダル踏力もしくはストローク信号から制動トルク指令(Dbs)を算出する。図3は実施例1のブレーキペダル操作量と運転者制動トルク指令値(Dbs)の関係を表すマップである。図3(a)は、ブレーキペダル踏力に対する運転者制動トルク指令値の関係を示し、ブレーキペダル踏力が0から所定値までは遊び分として指令値を0とし、それ以降はブレーキペダル踏力が大きいほど大きな制動トルク指令値(Dbs)を出力する。図3(b)は、ブレーキペダルストロークに対する運転者制動トルク指令値の関係を示し、ブレーキペダルストローク量が0から所定値までは遊び分として指令値を0とし、それ以降はストローク量の増大に対して上に凸の特性で増大する制動トルク指令値(Dbs)を出力する。これらの特性は、両方の特性を用いてもよいし、一方の特性を用いてもよく、特に限定しない。
【0012】
ABS制動トルク指令算出部201では、運転者制動トルク指令算出部200で算出した運転者制動トルク指令値を上限とし、その範囲内において、車輪速度センサ114によって検出した各車輪のスリップ状態に応じて車輪速度を目標車輪速度に一致させるように制動トルク指令(Tbs)を算出する。
ここでABS制御は基本的に各車輪のスリップ率を制御するため、制動トルク指令は各車輪に対して算出される。しかしながら特定の状態を検出した場合は後左右輪の制動トルク指令の変化を同一とする。特定の状態とは、例えばμスプリット路や極低μ路など、車両の安定性が低下する状態のことである。
【0013】
モータトルク指令制限値算出部202では、モータトルク指令の制限値とモータトルク指令変化量の制限値をそれぞれ算出する。図4はモータ回転速度周波数に対するモータ・タイヤ間周波数応答ゲインを表す特性図である。
モータトルク指令変化量の制限値(a, b)は、図4に示すモータ回転速度の周波数に対するタイヤの回転速度の大きさが大きくなる周波数よりも小さい周波数、言い換えると、駆動系の共振周波数を含まない周波数(図4中のα)以下の成分によってモータトルクが変化するように決定する。すなわち、周波数成分分解部に相当するものであり、第1周波数成分に関しては、モータトルクにより達成し、第2周波数成分に関しては摩擦制動トルクにより達成するように構成するものである。
【0014】
仮に、電動モータ100を用いて共振周波数付近の周波数でトルク指令を出力すると、電動モータ100の作動に対する実際のタイヤの動きが追従せず、タイヤとの間のシャフト等に振動的な捩れが生じ、この捩れが異音の原因となるからである。一方、摩擦制動装置はタイヤとほぼ一体として取り付けられているブレーキロータに対してトルクを付与するため、シャフト捩れ等の問題は生じない。
図4に示すモータ・タイヤ間の周波数特性は実験的に、もしくは数学モデルを用いて算出する。例えば最もタイヤの応答が大きくなる周波数が5Hzのときにモータトルク指令変化量はトルク指令の周波数が2Hz(=α)以下になるようにする。このαHz以下の周波数成分を第1周波数成分と定義し、αHzより大きい周波数成分を第2周波数成分と定義する。第1周波数成分は、駆動系の共振周波数を含まない周波数成分であり、第2周波数成分は、駆動系の共振周波数を含む周波数成分である。
【0015】
モータトルク指令の制限値(Th)はバッテリの出力許可値と、モータの巻線温度と、インバータの素子温度と、からそれぞれ制限値が算出され、その最小値を最終的なモータトルク指令の制限値(Th)とする。図5は実施例1のモータ巻線温度とトルク指令制限値(Th)との関係を示す図、図6は実施例1のインバータ素子温度とトルク指令制限値(Th)との関係を示す図である。
バッテリ出力許可値はバッテリコントローラ108から出力され、バッテリの状態(温度や充電の程度)によって決定される。モータトルク指令制限値にはバッテリが出力可能な範囲で達成できるトルクがセットされる。次にモータ巻線とインバータ素子温度からそれぞれ図5及び図6に示すマップによって制限するトルク値を得る。そして上述のトルク指令変化量制限値(a, b)でABS制御が要求する制動トルクを零まで下げるのに許容する時間(例えば30msec)で下げられるトルク値をトルク指令の制限値として設定する。
モータ・摩擦制動トルク指令決定部203では、ABS制動トルク指令算出部201で算出した制限値で制限したモータトルク指令値(Tms)を決定し、ABS制動トルク指令とモータトルク指令の差を摩擦制動トルク指令とする。
【0016】
図7及び図8はモータ摩擦制動トルク指令決定部203の処理内容を示すフローチャートである。
ステップ700では、図2の201に示したABS制動トルク指令算出部で算出したABS制動トルク指令値(Tbs)を読み込む。
ステップ701では、図2の202に示したモータトルク指令変化量の制限値(a, b)を読み込み、次にステップ702でモータトルク指令制限値(Th)を読み込む。
【0017】
[低車速判断によりモータトルクを減少する場合]
ステップ703では、車両の速度が所定値(Vmbd)以下かを判断する。この閾値となる速度は電動モータ100による制動が困難になる車両速度よりも高速に設定する。車両速度が所定値以下である場合にはステップ704に進み、所定値(dTmbd)をモータトルク指令から減少する。ここで減少するモータトルク指令の算出については後述する。
ステップ705では、ABS制御時のモータトルク指令算出のために必要なフラグFLAG A, FLAG B, FLAG Cを全てFalseにセットする。
ステップ706では、ステップ703で更新したモータトルク指令値(Tms)をステップ700で読み込んだABS制動トルク指令値(Tbs)とステップ702で読み込んだモータトルク指令制限値(Th)とで制限する。
ステップ707では、ステップ700で読み込んだABS制動トルク指令値(Tbs)とステップ706で算出したモータトルク指令値(Tms)の差を摩擦制動トルク指令値とする。
【0018】
[ABS非制御の場合]
ステップ703の判断がNO、つまり車両の速度が所定値(Vmbd)よりも高速である場合はステップ708に進み、ABS非制御中であるかを判断する。ABS非制御中であればステップ709に進み、運転者制動トルク指令値算出部200(図2参照)で算出した運転者制動トルク指令値(Dbs)を読み込む。
次にステップ710で運転者制動トルク指令値(Dbs)とモータトルク指令値(Tms)の差を、モータトルク指令変化量の制限値(a, b)で制限したものをモータトルク指令値(Tms)に加算してモータトルク指令値(Tms)を更新する。これはモータトルク指令変化量制限値(a, b)以内のトルク変化量でモータトルク指令値(Tms)を運転者制動トルク指令値(Dbs)に近づけていく処理である。
その後はステップ705に進み、以後はステップ703の判断がYESの場合と同様である。
【0019】
[二輪同一のABS制動トルク変化量要求となる制御状態のとき]
ステップ708の判断がNO、つまりABS制御中である場合はステップ711に進み(図8参照)、左右の車輪に対するABS制動トルク指令変化量を同一にする制御状態かを判断する。判断がYESの場合はステップ712に進みFLAG CをFalseにセットする。
ステップ713ではモータトルク指令値(Tms)がステップ702で読み込んだモータトルク指令制限値(Th)以下の所定値(Th2) (例えばモータトルク指令制限値(Th)の50%)よりも小さいかを判断する。
ステップ713の判断がYESであればステップ714に進み、FLAG AをTrueにセットする。
ステップ715ではFLAG BがFalseであるかを判断し、Falseであればステップ716に進みモータトルク指令値(Tms)に所定値(dTss)を加算する。ここで加算するトルク変化量はモータトルク指令変化量の制限値(a, b)以下であり、かつモータ・摩擦制御それぞれの制御性を考慮してモータ・摩擦制動トルクを合計したトータル制動力に変動が生じないように決定する。その後ステップ706に進み、以後はABS非制御の場合と同様である。
ステップ715でFLAG BがTrueの場合はステップ717に進む。ステップ717ではABS制動トルク指令変化量(dTbs)をモータトルク指令変化量制限値(a, b)で制限した値をモータトルク指令値(Tms)に加算してモータトルク指令値(Tms)を更新する。
その後はステップ706に進み(図7参照)、ステップ715でFLAG BがFalseの場合と同様である。
【0020】
ステップ713の判断がNO、つまりモータトルク指令値(Tms)がモータトルク指令制限値(Th)以下の所定値(Th2)以上のときはステップ718に進みFLAG BをTrueにセットする。
ステップ719ではFLAG AがFalseであるかを判断し、Falseであればステップ720に進みモータトルク指令値(Tms)から所定値(dTss)を減算する。
その後はステップ706に進み、ステップ713の判断がYESの場合と同様である。
ステップ719の判断がNO、つまりFLAG AがTrueのときはステップ717に進み、ステップ715でFLAG BがTrueの場合と同様である。
【0021】
上述の通り、FLAG AおよびFLAG Bの働きによってABS制動トルク指令変化量を同一にする制御状態となった場合、始めはステップ713の判断がYESならばNOになるまでステップ716に従って制動トルク指令値を増加し、ステップ713の判断がNOならばYESになるまでステップ720に従って制動トルク指令値を減少する。そのため、後のABS制動トルク指令(Tbs)の変化量をモータトルク指令で満足する制御状態において、トルク零と制動トルク指令制限値(Th)のどちらからも余裕をもってモータトルクを制御することが可能となる。
【0022】
[二輪別々のABS制動トルク変化量要求となる制御状態のとき]
ステップ711の判断がNO(図8参照)、つまり左右の車輪に対するABS制動トルク指令変化量を独立に算出する制御状態の場合は、ステップ721に進みFLAG AおよびFLAG BをFalseにセットする。
次にステップ722に進みFLAG CがFalseであるかを判断する。FLAG CがFalseのときはステップ723に進み、モータトルク指令値(Tms)がABS制動トルク指令値(Tbs)もしくはABS制動トルク指令値(Tbs)より所定値だけ小さい値以下かを判断する。
ステップ723がYESであればステップ724でFLAG CをTrueにセットする。さらにステップ720に進みモータトルク指令値(Tms)を更新する。
ステップ722でFLAG CがTrueの場合、つまりABS制動トルク指令変化量を左右輪で別々に算出する制御状態になってから一度でもステップ723でYESを判断したことがあるときは、ステップ723の判断を飛ばしてステップ720に進む。
ステップ723がNO、つまりモータトルク指令値(Tms)がABS制動トルク指令値(Tbs)もしくはABS制動トルク指令値(Tbs)より所定値だけ小さい値より大きい場合は、モータトルク指令を変更せずにステップ706に進む。
【0023】
上述の通り、FLAG Cの働きによりABS制動トルク指令変化量が左右輪で異なる制御状態では、モータトルク指令値(Tms)がABS制動トルク指令値(Tbs)もしくはABS制動トルク指令値(Tbs)より所定値だけ小さい値以下になるとステップ720に従ってモータトルク指令値(Tms)を減少し続ける。これによりモータトルク指令値(Tms)を減少する必要の無い(ステップ723がNO)間はモータトルク指令値(Tms)を保持し、減少が必要なときには零になるまで一度に低下させることで、その後はモータ・摩擦制動トルクを同時に変化させることが無いようにできる。
【0024】
次に図7及び図8のタイムチャートの動作例について図9〜11を参照しながら説明する。
図9は、実施例1において低車両速度を判断(図7ステップ703)してモータトルクを低下する(図7ステップ704)際の動作例を示すタイムチャートである。領域800はABS制御中(図7ステップ708がNO)で二輪同一の制動トルク指令変化量とする制御状態を示している。
領域801ではABS制御が低車両速度を検出して制動トルクを運転者制動トルク指令値(Dbs)に一致させるためのトルク増加状態に入るのと同時にモータ制動トルクを減少させている。ここでモータトルク指令減少量はモータによる制動が困難になる車両速度までにモータトルクを零にするように設定する。つまり現在の車両速度と車両減速度から車両速度が電動モータ100による制御が困難になる車両速度に達するまでに要する時間を予測し、現在のモータトルク指令値(Tms)を予測した時間で割ることで単位時間あたりに減少すべきモータトルク指令値(Tms)を得る。摩擦制動トルクは図7のステップ707に従ってABS制御トルク指令とモータトルク指令の差を補うように出力する。
【0025】
図10は、実施例1において運転者がブレーキペダルへの踏力を低下させてABS制御が終了する際の動作例を示すタイムチャートである。領域900は運転者制動トルク指令値(Dbs)が低下してABS制動トルク指令値(Tbs)以下になる場合を示している。ABS制動トルク指令値(Tbs)は運転者制動トルク指令値(Dbs)を上限としているため同様に低下する。このときモータトルク指令値(Tms)は、このトルク低下に応じてモータトルクを低下させることで摩擦制動トルク制御手段が動作しないように制御する。しかしながら、ABS制動トルク指令値(Tbs)が運転者制動トルク指令値(Dbs)と一致してから所定時間後にABS制御状態が解除される(領域901)と、図7のステップ710に従ってモータトルクを運転者制動トルク指令値(Dbs)に一致するように変化させる。
【0026】
図11は、実施例1においてABS制御が二輪同一の制動トルク変化量を要求する状態の動作例を示すタイムチャートである。氷雪路等では、左右各輪において個別に制御するよりも左右各輪の状態を同一にしたほうが、車両安定性を向上できることが知られており、そのような場合に実行されるものである。
領域1000はABS非制御中であり、運転者制動トルク指令値(Dbs)の変化量がモータトルク指令変化量制限値(a, b)以下であるため、運転者制動トルク指令値(Dbs)とABS制動トルク指令値(Tbs)とモータトルク指令値(Tms)が一致している。
領域1001では、図2の202で算出したモータトルク指令変化量の制限値(a, b)およびモータトルク指令制限値(Th)のためにモータトルク指令値(Tms)の増加が制限され、ABS制動トルク指令値(Tbs)との差分が摩擦制動トルク指令値となる。
【0027】
領域1002では、ABS制御が開始され(ABS制御フラグがTrueになる)、ABS制動トルク指令値(Tbs)が減少している。このときモータトルク指令値(Tms)がモータトルク指令制限値(Th)以下の所定値(Th2)よりも大きいため、図8のステップ720に従ってモータトルク指令を減少する。
モータトルク指令の減少は、上記モータトルク指令制限値(Th)以下の所定値(Th2)になるまで実施する。これはモータトルク指令が制限値(Th)付近にあると、その後のABS制御における制動トルクの増加要求にモータトルク制御手段が応じられないためである。このような状態になると、摩擦制動装置が動作する頻度が増加して騒音や振動が発生してしまうからである。
領域1003では、ABS制動トルク指令変化量(dTbs)を、モータトルクの変更によって満足させる。よって摩擦制動装置を動作する必要が無く、摩擦制動装置が動作する際に生じる騒音や振動が発生しない。
【0028】
領域1004では、ABS制動トルク指令変化量(dTbs)が図2の202で算出したモータトルク指令変化量の制限値(a, b)に制限され、摩擦制動トルクがABS制動トルク指令値(Tbs)に対する不足分を補うために増加する。本領域のように、大きなABS制動トルク指令変化量(dTbs)が発生するのは、車両の走行路面が変化した場合などであり、車両の制動トルクも大きく変化する。そのためモータトルク指令が制限される分を摩擦制動装置が補うために動作する際に生じる騒音や振動は許容される。
【0029】
領域1005では、再びABS制動トルク指令変化量(dTbs)がモータトルク指令変化量の制限値(a, b)以下になるため、領域1003と同様にABS制動トルク指令変化量(dTbs)を、モータトルクの変更によって満足させる。
領域1006では、ABS制動トルク指令変化量(dTbs)がモータトルク指令変化量の制限値(a, b)に制限され、摩擦制動トルクがABS制動トルク指令値(Tbs)に対する不足分を補うために減少する。
領域1007では、再び領域1003・1005と同様にABS制動トルク指令変化量(dTbs)をモータトルクの変更によって満足させる。
【0030】
以上のようにモータ制動トルク制御手段および摩擦制動トルク制御手段を動作させることで、路面変化などに起因する大きな制動トルク変化量が要求されない領域では、モータトルクのみでABS制動トルク指令変化量(dTbs)を満足するため、摩擦制動装置の動作する頻度を少なくすることが可能となり、摩擦制動装置が動作する際に生じる騒音や振動の発生頻度も少なくなる。
【0031】
図12は、ABS制御で左右二輪にそれぞれ別々の制動トルク変化量を要求する制御状態から、二輪同一の制動トルク変化量を要求する制御状態へと制御状態が移行する場合の動作例を示すタイムチャートである。
領域1100では、図2のモータトルク指令制限値算出部202で算出したモータトルク指令変化量の制限値(a, b)およびモータトルク指令制限値(Th)の範囲内でモータトルク指令値(Tms)が制限され、ABS制動トルク指令値(Tbs)とモータトルク指令値(Tms)の差を摩擦制動トルク指令値としている。
領域1101では、ABS制御が開始され(ABS制御フラグがTrueになる)、ABS制動トルク指令値(Tbs)が減少するものの、モータトルク指令値(Tms)以下にはならず、図8のステップ723の判断がNOとなり、モータトルク指令値(Tms)は保持され、ABS制動トルク指令変化量(dTbs)は摩擦制動トルクによって満足する。
領域1102では、ABS制動トルク指令値(Tbs)がモータ制動トルク指令値以下になる。よって図8のステップ723の判断がYESとなり、モータトルク指令値(Tms)は図8のステップ720に従って減少する。このとき、モータトルク指令値(Tms)は下げたままとしておく。一旦、モータトルク指令値(Tms)を下げると、その代わりに摩擦制動トルク指令値(Tps)を増大させる。この増大幅が大きいときは、ポンプ駆動量も大きく、音振性能上、不利となる。しかし、一旦増大させた後は、微調整するのみでさほどポンプを駆動する必要も無いため、モータトルク指令値(Tms)を下げたままとすることで、音振性能を向上できる。
領域1103では、ABS制御が二輪同一の制動トルク変化量を要求する制御状態となり、図8のステップ711の判断がYESとなる。その後は図8のステップ717に従ってモータトルク指令を増加し、モータトルク指令制限値(Th)以下の所定値(Th2)以上になった後は、ABS制動トルク指令変化量(dTbs)をモータトルクによって満足する制御状態になる。
【0032】
以上説明したように、実施例1では下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)算出されたモータトルク指令値に基づき駆動系を介して接続された車輪に電気的な制動トルクを与える電動モータ100と、算出された摩擦制動トルク指令値に基づき前記車輪に摩擦制動トルクを与える摩擦制動装置と、車輪の状態もしくは運転者の制動要求に基づいて目標制動トルク指令値を算出するモータ・摩擦制動トルク指令決定部203(目標制動トルク指令値算出部)と、前記目標制動トルク指令値を前記駆動系の共振周波数を含まない第1周波数成分と、前記駆動系の共振周波数を含む前記第1周波数成分以上の第2周波数成分に分解し(周波数成分分解部)と、前記車輪に対して前記第1周波数成分に対応した前記モータトルク指令値に基づき前記電気的な制動トルクを与え、前記第2周波数成分に対応した前記摩擦制動トルク指令値に基づき前記摩擦制動トルクを与える(制動力制御部)。
よって、電動モータ100によるブレーキを駆動系の共振周波数以下で使用するため音振性能を向上できる。すなわち、摩擦制動トルクを付与する場合には、ポンプの駆動や電磁弁の作動を伴うため、その作動量に応じて音や振動が生じる。一方、電動モータ100により制動トルクを付与する場合には、ポンプの駆動や電磁弁の作動を伴わないため、それ自体は音や振動の原因にならないものの、電動モータ100と駆動輪との間を連結するドライブシャフト等が捩れ、この捩れと車輪の回転状態との関係において共振し、振動等の原因となる。これに対し、駆動系の共振周波数を含まない第1周波数成分を電動モータ100により分担させることで、駆動系の振動等を防止する。そして、電動モータ100により分担した制動トルクは摩擦制動トルクで負担する必要が無いため、その分だけポンプの駆動や電磁弁の作動を低減することができるものである。
【0033】
(2)モータ・摩擦制動トルク指令決定部203(目標制動トルク指令値算出部)は、車輪のスリップ状態に応じスリップ状態を抑制するABS制動トルク指令算出部201(アンチロック目標制動トルク指令値算出部)の入力に基づいて決定する。よって、ABS制御時の音振性能を向上することができる。ABS制御時には、路面とタイヤとの間における摩擦力が大きくなる範囲となるように、車輪の回転状態を制御する。すなわち、所定スリップ率を境に車輪速の増減を行う。このように車輪速が振動する場合であっても、音や振動の発生を抑制できる。
【0034】
(3)上記(2)に記載の電動車両の制動制御装置において、第1周波数成分は前記駆動系共振周波数の略半分以下(1〜2Hz)の周波数成分である。よって、駆動系共振周波数に対し余裕を持ってモータブレーキを作動させることができ、モータブレーキが共振領域に入りにくく、音振性能を向上できる。
【0035】
(4)上記(2)に記載の電動車両の制動制御装置において、駆動系は電動モータ100の出力軸に接続するディファレンシャルギア105(差動装置)と、ディファレンシャルギア105と左右一対の車輪を接続する車軸106である。すなわち、一つの電動モータにより複数の車輪を駆動する1モータシステムであっても、摩擦制動装置によって左右を独立に制御できる。また、ギヤを介した駆動系であっても共振しないため、バックラッシに伴う音振性能を向上できる。
【0036】
(5)上記(4)に記載の電動車両の制動制御装置において、ABS制動トルク指令算出部201により算出されたABS制動トルク指令値が左右一対の車輪で異なる場合、左右いずれか一方のABS制動トルク指令値が第1周波数成分に対応したモータトルク指令値以下になるまではモータトルク指令値を保持し、左右いずれか一方のABS制動トルク指令値が第1周波数成分に対応したモータトルク指令値以下になったときはモータトルク指令値を減少させることとした。
よって、一度、ポンプ等によって摩擦制動装置を作動させ、その後は摩擦制動装置を使用することで、過度にポンプ駆動の実行・停止が繰り返されることが無く、左右独立制御時に適用することで、更に音振性能を向上できる。
【0037】
(6)上記(5)に記載の電動車両の制動制御装置において、ABS制動トルク指令値としてモータトルク指令値の減少分に対応して摩擦制動トルク指令値を増加させて生成する。よって、所望のABS制動トルク指令値が得られる。
【0038】
(7)上記(4)に記載の電動車両の制動制御装置において、一対の車輪は自動車の後輪である。このように、リア駆動に適用した場合であっても、車両挙動の安定性をより一層向上できる。
【0039】
(8)上記(1)に記載の電動車両の制動制御装置において、車両に搭載され電動モータ100によって回生された電力を蓄電する高電圧バッテリ107と、高電圧バッテリ107のSOCを検出するバッテリコントローラ108(SOC検出部)と、電動モータ100のコイル及びモータを駆動するインバータの温度を検出するモータ巻線温度センサ及びインバータ素子温度センサ(温度検出部)を有し、モータトルク指令値より、バッテリコントローラ108による検出結果に基づくSOC関連モータトルク指令値または前記温度センサによる検出結果に基づく温度関連モータトルク指令値が小さい場合は、各関連モータトルク指令値のうち最少の指令値によって電気的な制動トルクが与えられる。
よって、構成部品に負荷のかからない適切なモータトルク指令値を得ることができる。
【0040】
(9)算出されたモータトルク指令値に基づき駆動系として少なくとも車軸を介して接続された車輪に電気的な制動トルクを与える電動モータ100と、算出された摩擦制動トルク指令値に基づき車輪に摩擦制動トルクを与える摩擦制動装置と、車輪の状態もしくは運転者の制動要求に基づいて目標制動トルク指令値を算出するモータ・摩擦制動トルク指令決定部203(目標制動トルク指令値算出部)と、駆動系の共振周波数より低い周波数成分の指令値をモータトルク指令値とし、前記目標制動トルク指令値と前記モータトルク指令値の差分を前記摩擦トルク指令値として前記電動モータ及び摩擦制動装置を作動させるコントロールユニットを備えた。
よって、電動モータ100によるブレーキを駆動系の共振周波数以下で使用するため音振性能を向上できる。
【0041】
(10)上記(9)に記載の電動車両の制動制御装置において、モータ・摩擦制動トルク指令決定部203は、車輪のスリップ状態に応じスリップ状態を抑制するABS制動トルク指令算出部201(アンチロック目標制動トルク指令値算出部)の入力に基づいて決定する。よって、ABS制御時の音振性能を向上することができる。
【0042】
(11)上記(10)に記載の電動車両の制動制御装置において、車軸106はディファレンシャルギア105(差動装置)を介して左右一対の車輪を接続している。すなわち、一つの電動モータにより複数の車輪を駆動する1モータシステムであっても、摩擦制動装置によって左右を独立に制御できる。また、ギヤを介した駆動系であっても共振しないため、バックラッシに伴う音振性能を向上できる。
【0043】
(12)上記(11)に記載の電動車両の制動制御装置において、ABS制動トルク指令値算出部201により算出されたABS制動トルク指令値が前記左右一対の車輪で異なる場合、左右いずれか一方のABS制動トルク指令値が前記第1周波数成分に対応したモータトルク指令値以下になるまではモータトルク指令値を保持し、左右いずれか一方のABS制動トルク指令値が前記第1周波数成分に対応した前記モータトルク指令値以下になったときは前記モータトルク指令値を減少させる。
よって、一度、ポンプ等によって摩擦制動装置を作動させ、その後は摩擦制動装置を使用することで、過度にポンプ駆動の実行・停止が繰り返されることが無く、左右独立制御時に適用することで、更に音振性能を向上できる。
【0044】
(13)上記(12)に記載の電動車両の制動制御装置において、ABS制動トルク指令値として前記モータトルク指令値の減少分に対応して前記摩擦制動トルク指令値を増加させて生成する。よって、所望のABS制動トルク指令値が得られる。
【0045】
(14)上記(9)に記載の電動車両の制動制御装置において、前記第1周波数成分は前記駆動系の共振周波数の略半分以下(1〜2Hz)の周波数成分である。よって、駆動系共振周波数に対し余裕を持ってモータブレーキを作動させることができ、モータブレーキが共振領域に入りにくく、音振性能を向上できる。
【0046】
(15)上記(9)に記載の電動車両の制動制御装置において、車両に搭載され前記電動モータ100によって回生された電力を蓄電する高電圧バッテリ107と、高電圧バッテリ107のSOCを検出するバッテリコントローラ108(SOC検出部)と、電動モータ100のコイル及びモータを駆動するインバータの温度を検出するモータ巻線温度センサ及びインバータ素子温度センサ(温度検出部)を有し、モータトルク指令値より、バッテリコントローラ108による検出結果に基づくSOC関連モータトルク指令値または前記温度センサによる検出結果に基づく温度関連モータトルク指令値が小さい場合は、各関連モータトルク指令値のうち最少の指令値によって電気的な制動トルクが与えられる。
よって、構成部品に負荷のかからない適切なモータトルク指令値を得ることができる。
【0047】
(16)電動モータ100の出力軸がディファレンシャルギア105(差動装置)と車軸106を介して接続した左右一対の車輪と、算出されたモータトルク指令値に基づき前記車輪に電気的な制動トルクを与える電動モータ100と、算出された摩擦制動トルク指令値に基づき前記車輪に摩擦制動トルクを与える摩擦制動装置と、前記車輪のスリップ状態を検出して、車輪のスリップを抑制する制動トルクを算出し、車両の状態に応じて前記左右一対の車輪に対し同一の前記制動トルク指令値を算出するABS制動トルク指令算出部201(アンチロック目標制動トルク指令値算出部)と、前記車軸のねじれ共振周波数以下の共振周波数に対応した前記モータトルク指令値を算出するモータトルク指令値算出部と、前記算出されたABS制動トルク指令値(アンチロック目標制動トルク指令値)になるように前記車輪に作用する前記制動トルクを増減させ、ABS制動トルク指令値が前記モータトルク指令値以下のときは前記モータトルク指令値に基づき制動トルクを与え、ABS制動トルク指令値が前記制限されたモータトルク指令値より大きい場合、ABS制動トルク指令値と前記モータトルク指令値との差分の制動トルクを前記摩擦制動トルクとして摩擦制動装置を制御するモータ・摩擦制動トルク指令決定部203(制動力制御部)と、を備えたことを特徴とする電動車両の制動制御装置。
これにより、摩擦制動装置の作動頻度を低減できるために音振性能を向上できる。
【0048】
(17)上記(16)に記載の電動車両の制動制御装置において、前記共振周波数成分は前記駆動系共振周波数の略半分以下(1〜2Hz)の周波数成分である。よって、駆動系共振周波数に対し余裕を持ってモータブレーキを作動させることができ、モータブレーキが共振領域に入りにくく、音振性能を向上できる。
【0049】
(18)上記(17)に記載の電動車両の制動制御装置において、モータ・摩擦制動トルク指令決定部203(制動力制御部)はABS制動トルク指令値算出部201により算出されたABS制動トルク指令値が前記左右一対の車輪で異なる場合、左右いずれか一方のABS制動トルク指令値が前記第1周波数成分に対応した前記モータトルク指令値以下になるまでは前記モータトルク指令値を保持し、左右いずれか一方のABS制動トルク指令値が前記第1周波数成分に対応した前記モータトルク指令値以下になったときは前記モータトルク指令値を減少させる。
よって、一度、ポンプ等によって摩擦制動装置を作動させ、その後は摩擦制動装置を使用することで、過度にポンプ駆動の実行・停止が繰り返されることが無く、左右独立制御時に適用することで、更に音振性能を向上できる。
【0050】
(19)上記(18)に記載の電動車両の制動制御装置において、モータ・摩擦制動トルク指令決定部203はABS制動トルク指令値として前記モータトルク指令値の減少分に対応して前記摩擦制動トルク指令値を増加させて生成する。よって、所望のABS制動トルク指令値が得られる。
【0051】
(20)上記(19)に記載の電動車両の制動制御装置において、車両に搭載され前記電動モータ100によって回生された電力を蓄電する高電圧バッテリ107と、高電圧バッテリ107のSOCを検出するバッテリコントローラ108(SOC検出部)と、電動モータ100のコイル及びモータを駆動するインバータの温度を検出するモータ巻線温度センサ及びインバータ素子温度センサ(温度検出部)を有し、モータトルク指令値より、バッテリコントローラ108による検出結果に基づくSOC関連モータトルク指令値または前記温度センサによる検出結果に基づく温度関連モータトルク指令値が小さい場合は、各関連モータトルク指令値のうち最少の指令値によって電気的な制動トルクが与えられる。
よって、構成部品に負荷のかからない適切なモータトルク指令値を得ることができる。
【符号の説明】
【0052】
100 電動モータ
102 モータコントローラ
104 減速機
105 ディファレンシャルギア
106 車軸
107 高電圧バッテリ
108 バッテリコントローラ
111 車両コントローラ
113 制動制御装置
113a コントロールユニット
113b 液圧制御アクチュエータ
114 車輪速度センサ
115 油圧配管
116 ブレーキキャリパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
算出されたモータトルク指令値に基づき駆動系を介して接続された車輪に電気的な制動トルクを与える電動モータと、
算出された摩擦制動トルク指令値に基づき前記車輪に摩擦制動トルクを与える摩擦制動装置と、
車輪の状態もしくは運転者の制動要求に基づいて目標制動トルク指令値を算出する目標制動トルク指令値算出部と、
前記目標制動トルク指令値を前記駆動系の共振周波数より低い第1周波数成分と、前記第1周波数成分以上の第2周波数成分に分解する周波数成分分解部と、
前記車輪に対して前記第1周波数成分に対応した前記モータトルク指令値に基づき前記電気的な制動トルクを与え、前記第2周波数成分に対応した前記摩擦制動トルク指令値に基づき前記摩擦制動トルクを与えたる制動力制御部と、
を有することを特徴とする電動車両の制動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車両の制動制御装置において、
前記目標制動トルク指令値算出部は、前記車輪のスリップ状態に応じスリップ状態を抑制するアンチロック目標制動トルク指令値算出部を有することを特徴とする電動車両の制動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動車両の制動制御装置において、
前記第1周波数成分は前記駆動系共振周波数の略半分以下の周波数成分であることを特徴とする電動車両の制動力制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電動車両の制動制御装置において、
前記駆動系は前記電動モータの出力軸に接続する差動装置と、前記差動装置と左右一対の前記車輪を接続する車軸であることを特徴とする電動車両の制動制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動車両の制動制御装置において、
前記制動力制御部は前記アンチロック目標制動トルク指令値算出部により算出されたアンチロック目標制動トルク指令値が前記左右一対の車輪で異なる場合、左右いずれか一方のアンチロック目標制動トルク指令値が前記第1周波数成分に対応した前記モータトルク指令値以下になるまでは前記モータトルク指令値を保持し、左右いずれか一方のアンチロック目標制動トルク指令値が前記第1周波数成分に対応した前記モータトルク指令値以下になったときは前記モータトルク指令値を減少させることを特徴とする電動車両の制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−126432(P2011−126432A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287256(P2009−287256)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】