説明

Ag系スパッタリングターゲット

【課題】面内均一性に極めて優れたAg系薄膜を形成するのに有用なAg系スパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】Ag系スパッタリングターゲットのスパッタリング面の平均結晶粒径daveを下記手順(1)〜(3)によって測定したとき、平均結晶粒径daveは10μm以下を満足する。(手順1)スパッタリング面の面内に任意に複数箇所を選択し、選択した各箇所の顕微鏡写真(倍率:40〜2000倍)を撮影する。(手順2)各顕微鏡写真について、井桁状または放射線状に4本以上の直線を引き、直線上にある結晶粒界の数nを調べ、各直線ごとに下式に基づいて結晶粒径dを算出する。d=L/n/m式中、Lは直線の長さ、nは直線上の結晶粒界の数、mは顕微鏡写真の倍率を示す。(手順3)全選択箇所の結晶粒径dの平均値をスパッタリング面の平均結晶粒径daveとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング法によってAg系薄膜を形成するのに有用なAg系スパッタリングターゲット、および上記のAg系スパッタリングターゲットを用いて得られるAg系薄膜に関し、詳細には、面内均一性に極めて優れたAg系薄膜を形成することが可能なAg系スパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
純AgやAg合金などのAg系薄膜は、反射率や透過率が高く消衰係数が低いなど光学的特性に優れており、熱伝導率が高く熱的特性にも優れ、電気抵抗率が低く電気的特性にも優れ、さらには優れた表面平滑性も有する。そのため、Ag系薄膜は、例えば、光情報記録媒体(光ディスク)の反射膜、半透過反射膜、熱拡散膜;フラットパネルディスプレイの反射膜、反射電極膜、配線膜;熱線反射/遮断窓ガラスなどのLow−E(低放射率)膜;電磁波シールドの遮蔽膜;自動車ヘッドランプや照明器具の反射膜;光学部品や発光ダイオードの反射膜や反射電極膜、などに広く適用されている。特に、Ag系薄膜は、次世代光ディスクで用いられる青紫色レーザーに対しても充分高い反射率を有し、追記型/書き換え型の光ディスクに求められる高い熱伝導率も有していることから、これらの用途にも好適に用いられている。
【0003】
上記のAg系薄膜は、純AgまたはAg合金からなるスパッタリングターゲット(Ag系スパッタリングターゲット)をスパッタリングするスパッタリング法によって形成することが好ましい。スパッタリング法とは、真空引き後にArを導入したスパッタリングチャンバー内において、基板とスパッタリングターゲット(以後、ターゲットと称する場合がある。)との間でプラズマ放電を形成し、該プラズマ放電によりイオン化させたArをターゲットに衝突させて、該ターゲットの原子をたたき出し、基板上に堆積させて薄膜を作製する方法である。スパッタリング法で形成された薄膜は、イオンプレーティング法や真空蒸着法、電子ビーム蒸着法で形成された薄膜に比べ、膜面方向(膜面内)における成分組成や膜厚などの面内均一性に優れている。また、スパッタリング法は、真空蒸着法とは異なり、ターゲットと同じ成分組成の薄膜を形成できるというメリットを有している。
【0004】
このような高品質の薄膜を形成できるように、ターゲットの結晶粒は、スパッタリング面方向(スパッタリング面内)においてできるだけ均一微細化されていることが要求される。粗大な結晶粒がスパッタリング面内に存在するターゲットを用いて得られた薄膜は、膜面内の成分組成や膜厚などのばらつきが大きくなるため、反射率などの特性のばらつきを招き、反射膜などとしての性能が著しく低下するからである。
【0005】
ターゲット結晶粒の微小化を図った技術として、例えば、特許文献1〜特許文献5のAg系スパッタリングターゲットが挙げられる。これらのAg系スパッタリングターゲットは、いずれも、溶解・鋳造法によって製造されている。また、これらの実施例を見ると、平均結晶粒径が最も小さいもので、特許文献1で30μm、特許文献2で15μm、特許文献3で15.6μm、特許文献4で42μm、特許文献5で20μmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−43868号公報
【特許文献2】特開2004−84065号公報
【特許文献3】特開2005−36291号公報
【特許文献4】特開2005−314717号公報
【特許文献5】特開2005−330549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、Ag系薄膜は種々の用途に適用されるが、なかでも、現世代や次世代の光ディスクの半透過反射膜、熱線反射/遮断窓ガラスのLow−E膜、電磁波シールドの遮蔽膜のように膜厚が約20〜200Å(=2〜20nm)と非常に薄い極薄膜の用途に適用される場合、膜面内の成分組成や膜厚の面内均一性に対する要求は一層過酷なものになる。膜厚の極く僅かな変化に対し、反射率や透過率等の光学的特性(薄膜特性)は鋭敏に変化するためである。
【0008】
そのため、上記の極薄膜用途にも好適に適用できるように、従来よりも、面内均一性に極めて優れたAg系薄膜の提供が切望されている。具体的な目標基準としては、目標膜厚200Åに対して±4Åの範囲内にあること、すなわち、目標膜厚に対して±2%の範囲内となるように膜厚分布の均一性(膜厚の面内均一性)に優れていることが要求される。しかしながら、前述した特許文献1〜5に記載のスパッタリングターゲットでは、いずれも、ターゲットの平均結晶粒径が15μmを超えており、上記の要求特性を満足させることはできない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、面内均一性に極めて優れた薄膜を形成するのに有用なAg系スパッタリングターゲット、および当該Ag系スパッタリングターゲットを用いたAg系薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決することができた本発明のAg系スパッタリングターゲットは、純AgまたはAg合金からなるAg系スパッタリングターゲットのスパッタリング面の平均結晶粒径daveを下記手順(1)〜(3)によって測定したとき、前記平均結晶粒径daveは10μm以下であることを特徴とする。
(手順1)スパッタリング面と平行する面の面内に任意に複数箇所を選択し、選択した各箇所の顕微鏡写真(倍率:40〜2000倍)を撮影する。
(手順2)すべての顕微鏡写真に観察される結晶粒径d(単位:μm)を算出する。まず、各顕微鏡写真について、井桁状または放射線状に4本以上の直線を引き、前記直線上にある結晶粒界の数nを調べる。次に、各直線ごとに、下式(1)に基づいて結晶粒径dを算出する。
d=L/n/m・・・ (1)
(式中、Lは直線の長さ(単位:μm)を示し、
nは直線上の結晶粒界の数を示し、
mは顕微鏡写真の倍率を示す。)
(手順3)上記のようにして得られた全選択箇所の結晶粒径dの平均値を、スパッタリング面の平均結晶粒径daveとする。
【0011】
好ましい実施形態において、前記手順(1)〜(3)によって得られた全選択箇所の結晶粒径dと平均結晶粒径daveを用い、下記の値A及び値Bを下式(2)および下式(3)に基づいて算出したとき、値A及び値Bのうち大きい方を結晶粒径のばらつきとすると、前記結晶粒径のばらつきが10%以下である。
値A=(dmax−dave)/dave×100(%) ・・・ (2)
値B=(dave−dmin)/dave×100(%) ・・・ (3)
(式中、dmaxは全選択箇所の結晶粒径dの最大値を示し、
minは全選択箇所の結晶粒径dの最小値を示す。)
【0012】
好ましい実施形態において、上記Ag合金は、Nd、Bi、Au、およびCuよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有する。
【0013】
本発明には、上記のいずれかに記載のAg系スパッタリングターゲットを用いて得られるAg系薄膜も包含される。
【0014】
好ましい実施形態において、上記Ag系薄膜の膜厚は2〜20nmである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スパッタリング面内に存在する平均結晶粒径が10μm以下と非常に小さく、好ましくは、上記結晶粒径のばらつきも非常に小さいAg系スパッタリングターゲットが得られる。
【0016】
本発明のAg系スパッタリングターゲットを用いれば、膜厚が(Ag合金の場合には成分組成も)膜面方向で極めて均一なAg系薄膜を形成することができる。従って、本発明のAg系スパッタリングターゲットは、特に、膜厚が約20〜200Å(=2〜20nm)と非常に薄い技術分野、例えば、現世代や次世代の光ディスクの半透過反射膜、熱線反射/遮断窓ガラスのLow−E膜、電磁波シールドの遮蔽膜などの用途に用いられるAg系薄膜を形成するのに極めて好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、Ag系スパッタリングターゲットの結晶粒径の測定を行うための直線の引き方(井桁状)を示す概略図である。
【図2】図2は、Ag系スパッタリングターゲットの結晶粒径の測定を行うための直線の引き方(放射線状)を示す概略図である。
【図3】図3は、実施例におけるAg系薄膜の膜厚の測定箇所A,B,C,D,Eを示す説明図である。
【図4】図4は、Ag系プリフォームの製造に用いられる装置の一例を部分的に示す断面図である。
【図5】図5は、図4中、Xの要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者は、膜厚が非常に薄い用途にも充分適用可能な、スパッタリング面の平均結晶粒径が著しく微小化されたAg系スパッタリングターゲットを提供するため、検討を重ねてきた。その結果、(ア)Ag系スパッタリングターゲットを製造するに当たり、前述した特許文献1〜特許文献5に代表されるような溶解・鋳造法を採用するのではなく、従来採用されていなかったスプレイフォーミング法(SF法)を採用し、且つ、所望のAg系スパッタリングターゲットが得られるようにSF法を適切に制御すると、ターゲットの平均結晶粒径を著しく微小化することができ、好ましくは、結晶粒径のばらつきも一層小さく抑えられること、(イ)本発明のAg系スパッタリングターゲットを用いれば、Ag系薄膜の膜厚の面内均一性は格段に向上し、前述した目標基準、すなわち、目標膜厚200ű4Å(目標膜厚に対して±2%)を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
本明細書において、Ag系スパッタリングターゲットとは、純AgまたはAg合金のターゲットを意味する。本発明に用いられるAg合金は、例えば、後記する実施例に示すように、Nd、Bi、Au、またはCuが挙げられる。これらは単独で含有しても良いし、2種以上を併用しても良い。これら合金元素の合計量は、おおむね、0.05原子%以上10原子%以下であることが好ましく、0.1原子%以上8原子%以下であることがより好ましい。
【0020】
また、本明細書において、「Ag系薄膜が面内均一性に優れている」とは、膜厚が(Ag合金の場合には成分組成も)膜面方向で均一であることを意味する。すなわち、膜面内において膜厚分布が均一であること、Ag合金の場合には更に成分組成が均一であることを意味する。具体的には、後記する実施例に示す方法で膜厚を測定したとき、200ű4Å(目標膜厚に対して±2%)を満足するものを「面内均一性に優れている」と評価している。
【0021】
以下、本発明のAg系スパッタリングターゲットについて詳しく説明する。
【0022】
前述したように、本発明のAg系スパッタリングターゲットのスパッタリング面の平均結晶粒径daveは10μm以下であることを特徴とする。これにより、スパッタリングガスのArイオンによってスパッタリングされるAgおよび合金元素の原子の出射が均一になり、基板上に形成されるAg系薄膜の膜厚が面内において均一化されるようになる。平均結晶粒径daveは小さいほど良く、これにより、薄膜における膜厚や成分組成の分布の均一性(面内均一性)をさらに高めることができる。具体的には、平均結晶粒径daveは、例えば、8μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましい。
【0023】
本発明において、平均結晶粒径daveは、下記手順(1)〜(3)によって測定される。
【0024】
(手順1)
まず、測定対象となるスパッタリング面を用意する。ここでは、平均結晶粒径daveを測定し易いように、必要に応じて、Ag系スパッタリングターゲットをスパッタリング面と平行する面で切断し、測定対象となるスパッタリング面を露出させてもよい。測定対象は、ターゲット表面近傍、好ましくはターゲット最表面の切断面を測定対象とする。ただし、本発明の製造方法(詳細は後述する。)によれば、ターゲットの結晶粒径は、板面(ターゲットの平面)方向のみならず板厚(ターゲットの厚さ)方向にも均一に揃っていることを実験によって確認しており、ターゲットの任意の厚さにおけるスパッタリング面を測定対象とすることもできる。
【0025】
上記スパッタリング面の面内に含まれる結晶粒を顕微鏡観察する。顕微鏡観察は、例えば、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)、走査型イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscopy:SIM)を用いて行う。光学顕微鏡観察や走査型電子顕微鏡観察により結晶粒を測定するときは、明確な結晶粒を得るために、ターゲット面に適切なエッチングを施すことが好ましい。一方、走査型イオン顕微鏡観察により結晶粒を測定するときは、通常、エッチングを行なわないが、必要に応じて、エッチングを行なってもよい。
【0026】
スパッタリング面の選択箇所は、複数の箇所を任意に選ぶことができるが、できるだけ多く選択した方が、より正確な平均結晶粒径を求めることができる。本発明では、例えば、スパッタリング面10000mm2当たり5〜9箇所程度を選択することが好ましい。
【0027】
次に、選択した複数箇所のそれぞれについて顕微鏡写真を撮影する。顕微鏡観察の倍率は結晶粒径に合わせて適宜設定すればよい。最適な倍率については後述するが、倍率は、通常、40〜2000倍程度に設定する。また、顕微鏡観察は、前述したように、光学顕微鏡観察、SEM観察、SIM観察のいずれを用いてもよい。なお、光学顕微鏡写真の撮影に当たり、明確な結晶粒を得る目的で観察・写真撮影時に偏光をかけるなどの処理を行ってもよい。
【0028】
(手順2)
上記のようにしてすべての選択箇所について顕微鏡写真を撮影し、それぞれの顕微鏡写真で観察される結晶粒径d(単位:μm)を算出する。
【0029】
具体的には、まず、各顕微鏡写真について、井桁状(図1を参照)または放射線状(図2を参照)に4本以上の直線を、各顕微鏡写真の端から端まで引き、各直線上にある結晶粒界の数nを調べる。直線の引き方は、井桁状および放射線状のいずれを採用しても良い。また、直線の数は、できるだけ多い方が良く、これにより、より正確な平均結晶粒径を算出することができる。
【0030】
次に、各直線ごとに、下式(1)に基づいて結晶粒径dを算出する。
d=L/n/m ・・・ (1)
式中、Lは直線の長さ(単位:μm)を示し、nは直線上の結晶粒界の数を示し、mは顕微鏡写真の倍率を示す。
【0031】
なお最適な顕微鏡倍率は、以下の条件を満足するものである。すなわち上記手順(3)のようにして顕微鏡写真に直線を引き、この直線上にある結晶粒界の数nを調べたときに、直線長さL=100mmあたりの結晶粒界の数nが約20個程度となるような顕微鏡倍率を設定するのが最適である。例えば平均結晶粒径daveが約10μm程度であれば最適な顕微鏡倍率は約200〜800倍程度であり、平均結晶粒径daveが約20μm程度であれば最適な顕微鏡倍率は約100〜500倍程度であり、平均結晶粒径daveが約100μm程度であれば最適な顕微鏡倍率は約50〜100倍程度である。平均結晶粒径daveが100μm程度を超える場合には、顕微鏡倍率は50倍程度とすればよい。
【0032】
(手順3)
上記のようにして全選択箇所の結晶粒径dを算出し、これらの平均値を、スパッタリング面の平均結晶粒径daveとする。
【0033】
更に、本発明では、上記手順(1)〜(3)によって得られた全選択箇所の結晶粒径dと平均結晶粒径daveを用い、下記の値A及び値Bを下式(2)および下式(3)に基づいて算出したとき、値A及び値Bのうち大きい方を結晶粒径のばらつきとすると、結晶粒径のばらつきが10%以下であることが好ましい。
値A=(dmax−dave)/dave×100(%) ・・・ (2)
値B=(dave−dmin)/dave×100(%) ・・・ (3)
式中、dmaxは全選択箇所の結晶粒径dの最大値を示し、
minは全選択箇所の結晶粒径dの最小値を示す。)
【0034】
上記のように結晶粒径のばらつきを10%以下に抑えることにより、スパッタリングされるAgおよび合金元素の原子の出射が均一化され、Ag系薄膜の膜面内の膜厚分布が一層均一化されるようになる。結晶粒径のばらつきは小さい方が良く、これにより、薄膜における膜厚や成分組成の分布の均一性(面内均一性)をさらに高めることができる。具体的には、結晶粒径のばらつきは、例えば、8%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましい。
【0035】
本発明のAg系スパッタリングターゲットの厚さは特に限定されないが、例えば、1〜50mm程度であり、5〜40mm程度であることが多い。
【0036】
また、Ag系スパッタリングターゲットの形状は特に限定されず、公知の種々の形状のものに加工することができるが、円板形状であるのが特に好ましい。このような円板形状のスパッタリングターゲットは、結晶粒径が円板面(スパッタリング面)方向に均一に揃うこととなる。円板面方向に結晶粒径が揃っていると、スパッタリングされるAgの(及びAg合金の場合には合金元素も)出射分布が均一となり、基板上に形成されるAg系薄膜の膜厚の(及びAg合金の場合には成分組成も)膜面方向の均一性が良好となる。しかも、本発明の製造方法を用いれば、板厚方向においても結晶粒径が均一に揃うようになるため、Ag系スパッタリングターゲットの使用開始から終了に至るまで、継続して、膜厚の(及びAg合金の場合には成分組成も)膜面方向均一性に優れたAg系薄膜を安定して形成することができる。
【0037】
次に、本発明のAg系スパッタリングターゲットの製造方法を説明する。
【0038】
前述したように、本発明の製造方法は、Ag系スパッタリングターゲットの製造に当たり、これまで採用されていなかったSF法を採用したところに特徴があり、これにより、平均結晶粒径が従来よりも著しく微小化されたターゲットが得られる。
【0039】
ここで、SF法について説明する。
SF法は、各種の溶融金属をガスによってアトマイズし、溶融状態・半凝固状態・凝固状態に急冷させた粒子を堆積させ、所定形状の素形材(最終的な緻密体を得る前の中間体、以下、「プリフォーム」と呼ぶ。)を得る方法である。この方法によれば、溶解・鋳造法や粉末焼結法などでは得ることが困難な大型のプリフォームを単一の工程で得られる、などの利点がある。また、SF法によれば、結晶粒を微細化することができ、その均一性も大幅に改善することができる。
【0040】
これまで、SF法を用いてAl系合金スパッタリングターゲットを製造した例は多数開示されている(例えば、特開平9−248665号公報、特開平11−315373号公報、特開2005−82855号公報、特開2000−225412号公報など)。しかしながら、SF法を用いてAg系スパッタリングターゲットを製造する試みは、これまで全くなされていなかった。というのも、Al系スパッタリングターゲットの場合は、スパッタリング時に微細な溶融粒子(スプラッシュ)が発生するなどし、SF法を用いてスプラッシュの発生を防止する必要があったのに対し、Ag系スパッタリングターゲットでは、そのような問題点は特になく、従来のように溶解・鋳造法を用いて製造しても、特別な不都合はなかったからである。
【0041】
しかしながら、特に、約2〜20nmといった非常に薄い極薄膜の用途に好ましく適用可能なAg系薄膜を提供するに当たっては、例えば、前述した特許文献1〜特許文献5に示すように従来の溶解・鋳造法でAg系ターゲットを製造しても、所望とする面内均一性に極めて優れたAg系薄膜を得ることはできず、目標基準を達成することができなかった(後記する実施例を参照)。一方、従来の溶解・鋳造法ではなくSF法を採用し、且つ、Ag系ターゲットの製造用に好ましく改変されたSF法を採用すれば、本発明で規定するようにAg系ターゲットの平均結晶粒径が従来にない程に小さくなり、好ましくは、結晶粒径のばらつきも非常に小さく制御されたAg系ターゲットの提供が可能となった(後記する実施例を参照)。
【0042】
本発明に係るAg系ターゲットの製造方法は、SF法を用いてAg系プリフォームを得る工程と、このAg系プリフォームを熱間静水圧プレス(Hot Isostatic Press:HIP)などの緻密化手段によって緻密化する工程と、得られたAg系緻密体に鍛造や圧延の塑性加工を行う工程と、これが所定形状となるように機械加工を行ってAg系ターゲットを製造する工程と、に大別される。
【0043】
ここで、ターゲットの結晶粒径の微小化や結晶粒径のばらつき抑制に特に効果があるのは、Ag系溶湯調製時における純AgまたはAg合金の溶解温度、ノズル径、アトマイズのガス種、アトマイズのガス圧、ガス/メタル比(=ガス流出量[Nm3]/溶湯流出量[kg])である。具体的には、以下に詳述するように、純AgまたはAg合金の溶解温度を約1050〜1100℃、ノズル径を約5.0〜5.5mm、アトマイズのガス種を窒素(N2)ガス、アトマイズのガス圧を約6.0〜9.0kgf/cm2、ガス/メタル比を約0.4Nm3/kg以上、とすることが好ましい。
【0044】
(Ag系合金プリフォームの製造)
図4および図5を参照しながら、純AgまたはAg合金プリフォームの製造工程を詳細に説明する。図4は、本発明に用いられるプリフォームを製造するのに用いられる装置の一例を部分的に示す断面図である。図5は、図4中、Xの要部拡大図である。
【0045】
図4に示す装置は、純AgまたはAg合金を溶解するための誘導溶解炉1と、誘導溶解炉1の下方に設置されたガスアトマイザー3a、3bと、プリフォームを堆積するためのコレクター5とを備えている。誘導溶解炉1は、純AgまたはAg合金の溶湯2を落下させるノズル6を有している。また、ガスアトマイザー3a、3bは、それぞれ、ガスをアトマイズするためのボビンのガス穴4a、4bを有している。コレクター5は、プリフォームの製造が進行してもプリフォーム堆積面の高さが一定となるよう、コレクター5を下降させるべく、ステッピングモータなどの駆動手段(不図示)を有している。
【0046】
なお、図5には、ボビンのガス穴4a、4bは、ガスアトマイザー3a、3bのそれぞれに対して1個ずつ設けられた例を示しているが、これに限定されない。通常、ボビンの穴は、所望するガス量に合わせて複数個設けている。
【0047】
まず、純AgまたはAg合金を誘導溶解炉1に投入した後、好ましくは、真空中、不活性ガス雰囲気中、または窒素ガス雰囲気中で純AgまたはAg合金を溶解して純AgまたはAg合金の溶湯2を得る(Ag系合金の溶湯調製工程)。
【0048】
上記工程では、特に、純AgまたはAg合金の溶解温度を約1050〜1100℃の範囲内に制御することが好ましい。純AgまたはAg合金の溶解温度は、ガスアトマイズによって得られる微粒子(液滴)の温度及びサイズに大きな影響を及ぼす要素のひとつであり、最終的に、緻密体の組織の微細化にも影響を及ぼすからである。
【0049】
ここで、純AgまたはAg合金の溶解温度が1050℃未満の場合、溶湯2がノズルを通過するときに凝固してしまい、ノズルが閉塞する恐れがある。一方、純AgまたはAg合金の溶解温度が1100℃を超えると、プリフォームから得られる緻密体の組織が粗大化し、歩留りが低下する。上記のほか、溶湯の酸化、耐火物の寿命、エネルギーロスなどを総合的に勘案すると、純AgまたはAg合金の溶解温度は、おおむね、1065〜1085℃の範囲内であることが好ましい。
【0050】
なお、純AgまたはAg合金の溶解は、上記のように真空中、不活性ガス雰囲気中または窒素ガス雰囲気中で行なうことが好ましく、これにより、上記純AgまたはAg合金の溶湯への不純物混入が抑えられる。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガスなどが挙げられる。
【0051】
次に、上記のようにして得られた純AgまたはAg合金の溶湯2を、ノズル6を介して窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気のチャンバー内(不図示)を落下させる(ガスアトマイズ工程)。チャンバー内では、ガスアトマイザー3a、3bに設置されたボビンのガス穴4a、4bから高圧のガスジェット流が純AgまたはAg合金の溶湯2に吹き付けられ、これにより、純AgまたはAg合金の溶湯は微粒化される。
【0052】
ガスアトマイズは、上記のように窒素ガスまたは不活性ガスを用いて行なうことが好ましく、これにより、溶湯への不純物混入が抑えられる。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガスなどが挙げられる。
【0053】
また、ノズル径は約5.0〜5.5mm、アトマイズのガス圧は約6.0〜9.0kgf/cmの範囲内に制御することが好ましい。
【0054】
また、ガス/メタル比については、冷却速度を高くするために、おおむね、0.4Nm3/kg以上とすることが好ましく、0.5Nm/kg以上とすることがより好ましい。ガス/メタル比は、ガス流出量/溶湯流出量の比で表される。本願明細書において、ガス流出量とは、純AgまたはAg合金の溶湯をガスアトマイズするために、ボビンのガス穴4a、4bから流出されるガスの総量(最終的に使用した総量)を意味する。本願明細書において、溶湯流出量とは、純AgまたはAg合金の溶湯が入った容器(誘導溶解炉1)の溶湯流出口(ノズル6)から流出される溶湯の総量(最終的に流出した総量)を意味する。
【0055】
ガス/メタル比は、ノズル径、アトマイズのガス圧、およびアトマイザーの種類(具体的には,ガスを噴射する穴の総面積)によって適宜調節することができる。
【0056】
上述したノズル径、ガスアトマイズのガス種やガス圧、ガス/メタル比も、前述した純AgまたはAg合金の溶解温度と同様、液滴のサイズに影響を及ぼす要素の一つであり、液滴の冷却速度にも大きく影響している。例えば、ガス/メタル比を0.4Nm3/kg以上に制御すると、液滴サイズの変化は少なくなって一定の値に近づくようになる。これに対し、ガス/メタル比が0.4Nm3/kg未満の場合、液滴サイズが大きくなり、プリフォームの歩留まりが低下してしまう。
【0057】
上記観点からすれば、ガス/メタル比は大きい程良く、上述したように、例えば、0.5Nm3/kg以上であることがより好ましい。なお、その上限は特に限定されない。
【0058】
次いで、上記のようにして微粒化させた純AgまたはAg合金の微粒子(液滴)をコレクター5に堆積し、プリフォームを得る。上記プリフォームの形状は、例えば、円柱状である。
【0059】
(Ag系合金緻密体の製造)
次に、上記のプリフォームに緻密化手段を施すことによってAg系緻密体を得る。緻密体を得るのは、上記のようにして得られたプリフォームが多孔質状であるからである。
【0060】
緻密化手段とは、プリフォームの密度(平均相対密度50〜65%)を向上させるための手段を意味する。ここでは、プリフォームを略等方的に加圧する方法、特に熱間で加圧するHIPを行うことが好ましい。具体的には、80MPa以上の圧力下、400〜600℃の温度でHIPを行うことが好ましく、これにより、所望の緻密体を85%以上の高歩留まりで得ることができる。上記の条件でHIPを行うと、緻密体の変形が最小限に抑えられ、変形部分を機械加工によって取り除くときに生じる重量の損失を最小限に抑えられるからである。
【0061】
HIPの温度が400℃未満、およびHIPの圧力が80MPa未満では、緻密体の密度を充分高めることができず、内部に欠陥などが生じるようになる。一方、HIPの温度が600℃を超えると、緻密体の組織が粗大化する。好ましくは、100MPa以上の圧力下、500〜550℃の温度でHIPを行う。HIPの時間は、おおむね、1〜10時間の範囲内とすることが好ましい。
【0062】
(スパッタリングターゲットの製造)
次いで、上記のAg系緻密体を用いてAg系スパッタリングターゲットを得る。
【0063】
スパッタリングターゲットの製造条件は、特に限定されず、一般的な方法を採用することができる。例えば、上記の緻密体を鍛造してスラブを得た後、圧延を行なう、といった鍛造および/または圧延の塑性加工を行った後、塑性加工時の歪を除去するための熱処理を施し、更に、所定の形状に機械加工を行ってスパッタリングターゲットを得ることができる。
【0064】
上記の例において、HIP後に行なわれる緻密体の塑性加工は必須工程でなく、塑性加工を行わずに機械加工を行ってもよい。このように塑性加工を行わない場合は、前述した歪除去のための熱処理は不要である。このような製造方法の一例として、例えば、緻密体の直径をスパッタリングターゲットの直径に対して、おおむね、+10〜+30mmとなるように制御し、HIP後の緻密体をそのままスパッタリングターゲットの所定形状となるように機械加工を行う、などの方法が挙げられる。
【0065】
また、塑性加工後の熱処理は,前述したように、塑性加工時に生じた歪を除去するために実施するものであるが、従来の熱処理温度(おおむね、500〜600℃であり、好ましくは520℃〜580℃)よりも低温で行うことが好ましい。熱処理温度が高過ぎると結晶粒が粗大化する恐れがあり、一方、熱処理温度が低過ぎると歪が残留して機械加工時に変形する恐れがあるからである。好ましい熱処理温度は、約450〜550℃であり、より好ましくは約470〜530℃である。
【0066】
上記のスパッタリングターゲットの製造工程は、具体的には、スパッタリングターゲットの形状に応じて適切な製造方法を選択することが好ましい。例えば、スパッタリングターゲットの形状が円板形状であり、その直径が例えば180mm以下と小さい場合、HIP後に鍛造を行うことによって直径を合わせることが歩留まりの観点から好ましい。
【0067】
一方、板形状のスパッタリングターゲットでは、鍛造によって角形に加工した後,圧延によってスパッタリングターゲットの所定形状に近い寸法に加工し、最後に機械加工を行うことが好ましい。
【0068】
なお、上記スパッタリングターゲットの製造工程では、ECAP(Equal−Channel Angular Pressing)法を採用することも有効である。ECAP法は、断面積を変えずに材料の角度を変えて押出しすることによって材料に強せん断加工を与え、その後、再結晶させる方法である。ECAP法を採用すれば、材料の大きさを変えることなく、大きな歪を与えることができるため、結晶粒の超微細化を容易に実現できる。そのため、ECAP法は、本発明のような平均結晶粒径が著しく微細化されるAg系スパッタリングターゲットの製造に好適に用いることができる。ECAP法は、これまで、Al系スパッタリングターゲットの製造に採用されることはあったが、本発明のようなAg系スパッタリングターゲットの製造において適用される実例はなかった。
【0069】
ECAP法は、例えば、上記のようにしてHIPを行なった後に、必要に応じて実施することができる。
【0070】
このようにして得られたスパッタリングターゲットは、例えば、バッキングプレートにろう材を用いてボンディングして使用される。
【0071】
本発明のAg系スパッタリングターゲットは、例えばDCスパッタリング法、RFスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、反応性スパッタリング法等のいずれのスパッタリング法にも適用でき、厚さ約2〜500nmのAg系薄膜を形成するのに有効である。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0073】
(1)スパッタリングターゲットの製造
本発明の製造条件に基づき、表2に示す試料No.1〜5のAg合金スパッタリングターゲット(本発明例)を製造した。詳細には、表1に示す種々の組成のAg合金(名称a〜f)を用い、表2に示すSF工程およびHIP工程、並びに表3に示す塑性加工工程(塑性加工の加工温度は加工開始時の温度を示す)および熱処理工程を行った後、機械加工を施して本発明例のAg合金スパッタリングターゲットを製造した。このうち、試料No.5は、鍛造→圧延の塑性加工を行った例である。このようにして得られたスパッタリングターゲット試料No.1〜5の形状は円板形状で、直径101.6mm、厚さ5mmであった。
【0074】
また、比較のため、従来の製造方法に基づき、表4に示す試料No.6、7のAg合金スパッタリングターゲット(比較例)を製造した。詳細には、表1に示す組成のAg合金(名称a、f)を用い、表4に示すように、溶解鋳造工程、熱間塑性加工工程(圧延または鍛造、熱間塑性加工の加工温度は加工開始時の温度を示す)、冷間塑性加工工程(圧延)、および熱処理工程を行なった後、機械加工を施して比較例のAg合金スパッタリングターゲットを製造した。このようにして得られたスパッタリングターゲット試料No.6〜7の形状は円板形状で、直径101.6mm,厚さ5mmであった。
【0075】
(2)スパッタリングターゲットの評価
次に、上記のようにして得られた本発明例のAg合金スパッタリングターゲット(試料No.1〜5)と、比較例のAg合金スパッタリングターゲット(試料No.6、7)の平均結晶粒径および結晶粒径のばらつきを、前述した方法に基づいて測定した。具体的には、光学顕微鏡写真(倍率:1000倍)を用い、井桁状に4本の直線を引き、結晶粒径dを算出した。
【0076】
これらの結果を表5に記載する。表5には、参考のため、各試料No.に用いた合金の種類(表1の名称)を併記している。
【0077】
(3)Ag合金薄膜の形成および評価
更に、上記の本発明例および比較例のAg合金スパッタリングターゲットを用い、DCマグネトロンスパッタリング法によってガラス基板(円板形状、直径50.8mm、厚さ0.7mm)上にAg合金薄膜(目標膜厚200Å)をそれぞれ成膜した。ここで、DCマグネトロンスパッタリングの条件は、到達真空度0.27×103Pa以下、Arガス圧:0.27Pa、スパッタリングパワー:200W、極間距離:55mm、基板温度:室温とした。
【0078】
このようにして得られた各Ag合金薄膜の膜厚を、図3に示す測定箇所A、B、C、D、E(合計5箇所)について、それぞれ測定した。詳細には、図3に示すように,任意の直径上の中心を測定箇所Cとし、測定箇所Cから左側へ10mm離れた直線上の測定箇所をBとし、測定箇所Bから更に10mm左側へ離れた直線上の測定箇所をAとする。また、上記の測定箇所Cから右側へ10mm離れた直線上の測定箇所をDとし、測定箇所Dから更に10mm右側へ離れた直線上の測定箇所をEとする。そして、これらA、B、C、D、Eの合計5箇所の膜厚を触針式膜厚計によって測定した。
【0079】
次いで、このようにして得られた各測定箇所の膜厚を用い、下記基準に従ってAg合金薄膜の膜厚の面内均一性を評価した。
膜厚の面内均一性に優れる(○)
:すべての測定箇所において、200ű4Åの範囲内にある
(目標膜厚に対して±2%の範囲内に制御されている)
膜厚の面内均一性に劣る(×)
:いずれか一箇所でも、200ű4Åの範囲を超えている
(目標膜厚に対して±2%の範囲を超えている)
【0080】
表5に、これらの測定結果および評価結果を併記する。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
【表5】

【0086】
表5より、本発明の条件で製造した試料No.1〜5のAg合金スパッタリングターゲット(本発明例)は、いずれも、平均結晶粒径が著しく微細化されており、且つ、結晶粒径のばらつきも小さく抑えられているため、これらのスパッタリングターゲットを用いて得られたAg合金薄膜は、膜厚の面内均一性に優れている。
【0087】
これに対し、従来の条件で製造した試料No.6、7のAg合金スパッタリングターゲット(比較例)は、いずれも、平均結晶粒径および結晶粒径のばらつきの両方が本発明の範囲を外れており、これらのスパッタリングターゲットを用いて得られたAg合金薄膜は、膜厚の面内均一性に劣っていた。
【符号の説明】
【0088】
1 誘導溶解炉
2 純AgまたはAg合金の溶湯
3a、3b ガスアトマイザー
4a、4b ボビンのガス穴
5 コレクター
6 ノズル
6a、6b ガスアトマイズノズル中心軸
A スプレイ軸
A1 ノズル6の先端
A2 コレクター5の中心
A3 コレクター5の中心A2の水平線がスプレイ軸Aと交差する点
L スプレイ距離
α ガスアトマイズ出口角度
β コレクター角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純AgまたはAg合金からなるAg系スパッタリングターゲットのスパッタリング面の平均結晶粒径daveを下記手順(1)〜(3)によって測定したとき、前記平均結晶粒径daveは10μm以下であることを特徴とするAg系スパッタリングターゲット。
(手順1)スパッタリング面の面内に任意に複数箇所を選択し、選択した各箇所の顕微鏡写真(倍率:40〜2000倍)を撮影する。
(手順2)すべての顕微鏡写真に観察される結晶粒径d(単位:μm)を算出する。まず、各顕微鏡写真について、井桁状または放射線状に4本以上の直線を引き、前記直線上にある結晶粒界の数nを調べる。次に、各直線ごとに、下式(1)に基づいて結晶粒径dを算出する。
d=L/n/m・・・ (1)
(式中、Lは直線の長さ(単位:μm)を示し、
nは直線上の結晶粒界の数を示し、
mは顕微鏡写真の倍率を示す。)
(手順3)上記のようにして得られた全選択箇所の結晶粒径dの平均値を、スパッタリング面の平均結晶粒径daveとする。
【請求項2】
前記手順(1)〜(3)によって得られた全選択箇所の結晶粒径dと平均結晶粒径daveを用い、下記の値A及び値Bを下式(2)および下式(3)に基づいて算出したとき、値A及び値Bのうち大きい方を結晶粒径のばらつきとすると、前記結晶粒径のばらつきが10%以下である請求項1に記載のAg系スパッタリングターゲット。
値A=(dmax−dave)/dave×100(%) ・・・ (2)
値B=(dave−dmin)/dave×100(%) ・・・ (3)
(式中、dmaxは全選択箇所の結晶粒径dの最大値を示し、
minは全選択箇所の結晶粒径dの最小値を示す。)
【請求項3】
前記Ag合金は、Nd、Bi、Au、およびCuよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有するものである請求項1または2に記載のAg系スパッタリングターゲット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のAg系スパッタリングターゲットを用いて得られるAg系薄膜。
【請求項5】
膜厚は2〜20nmである請求項4に記載のAg系薄膜。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−7237(P2012−7237A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123536(P2011−123536)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【分割の表示】特願2007−309248(P2007−309248)の分割
【原出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000130259)株式会社コベルコ科研 (174)
【Fターム(参考)】