説明

スイッチング電源装置

【課題】 過電流の際に,その原因に応じて,過剰にならない適切な対処ができるようにしたスイッチング電源装置を提供すること。
【解決手段】 元電源1からの電流供給を出力トランジスタ2でスイッチングし,コイル3およびコンデンサ4で平滑化して負荷5,6に供給するスイッチング電源装置において,出力トランジスタ2の出力電流による検出電圧を,コンパレータ11,12で2水準の基準値と比較することとした。そして,検出電圧が第1の基準値に達してから第2の基準値に達するまでの間に限り,カウンタ22でカウントすることとした。そして,カウンタ22が第1の基準時間に達しないうちに検出電圧が第2の基準値に達した場合には,電流供給を停止することとした。また,検出電圧が第2の基準値に達しないうちにカウンタ22が第2の基準時間に達した場合には,デューティ比の低下および負荷6の遮断を行うこととした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,スイッチング素子を介して負荷に電力を供給するスイッチング電源装置に関する。さらに詳細には,過電流に対する保護機能を備えたスイッチング電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,この種の電源装置においては短絡等による過電流時に備えて保護機能を備えるようにしているものがある。過電流が流れると負荷を破壊させたりあるいは電源装置自身の内部の部品が破壊したりするからである。そのために例えば特許文献1に記載されている装置では,短絡状態検出用の素子を備えている。そして,短絡信号が検出される状態が所定時間以上継続した場合に,短絡と判定し,短絡処理として回路の停止を行うこととしている。これにより,短絡による過電流からの保護を図っている。
【特許文献1】実公平7−46981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら,前記した従来の電源装置には,次のような問題点があった。すなわち,短絡判定がなされた場合には,その原因を問わず一律に回路が停止の内容の短絡処理が行われることになる。その一方,短絡判定の原因には色々あるので,原因によっては過剰な保護となってしまう。例えば,並列に接続された複数の負荷の一部に短絡が生じたような場合には,短絡していない正常な負荷に対する電力供給までも停止されてしまう。
【0004】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,過電流の際に,その原因に応じて,過剰にならない適切な対処ができるようにしたスイッチング電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題の解決を目的としてなされた本発明のスイッチング電源装置は,パルス信号に応じて電流供給をスイッチングするスイッチング素子と,スイッチング素子によりスイッチングされる電流経路上のコイルとを備えたものであって,スイッチング素子の過電流を,第1の基準値との比較により検知する第1過電流検知手段と,スイッチング素子の過電流を,第1の基準値に対応する電流より大きい電流に対応する第2の基準値との比較により検知する第2過電流検知手段と,第1過電流検知手段および第2過電流検知手段による過電流検知の時間差に応じて2種類以上の異常信号のいずれかを出力する異常判別部と,異常判別部の異常信号に応じて異なる保護動作を行う保護部とを有している。
【0006】
このスイッチング電源装置では,スイッチング素子により負荷へ供給される電流が,第1過電流検知手段および第2過電流検知手段により監視されている。電流が通常より増大して第1の基準値に対応する電流に達すると,またはこれを超えると,第1過電流検知手段が過電流を検知する。電流がさらに増大して第2の基準値に対応する電流に達すると,またはこれを超えると,第2過電流検知手段が過電流を検知する。ここで,両検知手段による過電流検知の時間差によって,異常判別部が2種類以上の異常信号のいずれかを出力する。すると保護部では,この異常信号に応じた保護動作を行う。
【0007】
このように過電流検知の時間差によって保護動作の内容を変更するのは,過電流の原因によって,行うべき保護動作の内容が異なるからである。そして,過電流の原因によって,過電流検知の時間差が異なるからである。例えば,負荷に短絡が発生したことにより電流が増大する場合を考える。この場合には,スイッチング素子の電流経路上に設けられているコイルのインダクタンスがなお存在する。よって,電流の増大に時間が掛かるので時間差が大きい。この場合には,比較的軽い保護動作で十分である。一方,当該コイル自体が短絡した場合を考える。この場合にはコイルのインダクタンスがもはや存在しない。よって,速やかに電流が増大するので時間差が小さい。この場合には過電流による影響も大きくなりがちなので,保護動作の内容もそれに適したものである必要がある。
【0008】
ここにおいて,異常判別部は,時間差が第1の基準時間より短い場合に異常信号を出力する第1異常信号出力部と,第1過電流検知手段による過電流の検出後,第1の基準時間より短くない第2の基準時間が経過しても第2過電流検知手段が過電流を検知しない場合に異常信号を出力する第2異常信号出力部とを有することが望ましい。この場合に保護部は,第1異常信号出力部の異常信号によりスイッチング素子をオフさせる出力停止操作部を有することが望ましい。さらに,第2異常信号出力部の異常信号によりスイッチング素子へのパルス信号のデューティ比を低下させるデューティ低下操作部と,第2異常信号出力部の異常信号により少なくとも一部の負荷への電流供給を遮断する負荷切り離し操作部との少なくとも一方を有することが望ましい。
【0009】
このようにすると,コイルに短絡が発生した場合のように急速な過電流の場合には,両検知手段による過電流検知の時間差が第1の基準時間より短い。このため異常判別部では,第1異常信号出力部により異常信号が出力される。これにより保護部では,出力停止操作部により,スイッチング素子をオフさせる処理が行われる。かくして,急速な過電流に対する適切な保護が働く。
【0010】
一方,負荷に短絡が発生した場合のように緩やかな過電流の場合には,両検知手段による過電流検知の時間差が第2の基準時間より長い。このため異常判別部では,第2異常信号出力部により異常信号が出力される。これにより保護部では,デューティ低下操作部または負荷切り離し操作部による処理が行われる。すなわち,スイッチング素子へのパルス信号のデューティ比が低下させられるか,または,少なくとも一部の負荷への電流供給が遮断される。もしくはその両方の処理がなされる。かくして,緩やかな過電流に対する過剰でない適切な保護が働く。
【0011】
ここで,第2の基準時間が第1の基準時間より長いこととするとよい。このようにすると,異常判別部に,時間差が第1の基準時間より長く第2の基準時間より短い場合に異常信号を出力する第3異常信号出力部を備えることができる。これにより,両検知手段による過電流検知の時間差を3段階に分類し,それぞれに適した処理を行うことができる。
【0012】
本発明のスイッチング電源装置においては,第1過電流検知手段による過電流の検知から第2過電流検知手段による過電流の検知までカウントを行うカウンタを有することが望ましい。このカウンタを有することにより,第1異常信号出力部は,カウンタのカウント値が第1の基準時間に相当する値に達する前に第2過電流検知手段が過電流を検知すると,異常信号を出力することができる。また,第2異常信号出力部は,カウンタのカウント値が第2の基準時間に相当する値に達すると,異常信号を出力することができる。カウント値が第2の基準時間に相当する値に達したということは,第2の基準時間が経過しても,未だ第2過電流検知手段が過電流を検知していないということだからである。さらに,第3異常信号出力部は,カウンタのカウント値が第1の基準時間に相当する値に達してから第2の基準時間に相当する値に達するまでの間に第2過電流検知手段が過電流を検知すると,異常信号を出力することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,過電流の際に,その原因に応じて,過剰にならない適切な対処ができるようにしたスイッチング電源装置が提供されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下,本発明を具体化した最良の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態に係るスイッチング電源装置は,図1の回路図に示すように構成されている。すなわち本形態のスイッチング電源装置100は,元電源1と,出力トランジスタ2と,コイル3と,コンデンサ4とを有している。これにより本形態のスイッチング電源装置は基本的に,元電源1からの電流供給を出力トランジスタ2でスイッチングし,コイル3およびコンデンサ4で平滑化して負荷5,6に供給するものである。このため本形態のスイッチング電源装置は,さらに以下の各要素を備えている。
【0015】
まず,出力トランジスタ2をデューティ制御するための,コンパレータ7およびレベルシフタ8を有している。コンパレータ7の負入力端子には三角波が,正入力端子にはエラーアンプ出力が,それぞれ入力されるようになっている。エラーアンプ出力のレベルは,通常の動作状態では三角波のピーク−ピーク間にある。これにより,エラーアンプ出力のレベルに応じたデューティ比のパルス信号を,出力トランジスタ2のゲート電極に入力するようになっている。本形態のスイッチング電源装置にはさらに,逆流バイパス用ダイオード9が設けられている。
【0016】
本形態に係るスイッチング電源装置ではこれらの他に,過電流に対処するための構成が設けられている。まず,過電流を検知するたるめのものとして,抵抗10,コンパレータ11,12がある。抵抗10は,元電源1と出力トランジスタ2との間に設けられている。抵抗10と出力トランジスタ2との間のノードの電圧は,出力トランジスタ2の出力電流による。以下,この電圧を検出電圧と呼ぶこととする。コンパレータ11,12はそれぞれ,検出電圧を所定の基準値と比較するものである。これにより,出力電流がそれぞれの基準値に対応する電流を上回ったときに,コンパレータ11,12の出力が反転するようになっている。そして,コンパレータ12の基準値である第2の基準値は,コンパレータ11の基準値である第1の基準値と比較して,より大きな電流に対応する値とされている。
【0017】
さらに,コンパレータ11,12の出力に応じて,過電流の種類を判別する異常判別部13が設けられている。異常判別部13は,動作停止信号101,負荷遮断信号102,最大デューティ低下信号103の3種類の異常信号を出力するようになっている。そして,動作停止信号101によってオンする動作停止用トランジスタ14,負荷遮断信号102によってオフする負荷遮断用トランジスタ15,最大デューティ低下信号103によって動作する最大デューティ低下操作部16が設けられている。動作停止用トランジスタ14は,出力トランジスタ2と接地との間に設けられている。負荷遮断用トランジスタ15は,コイル3と負荷6との間に設けられている。負荷遮断用トランジスタ15のゲート電極にはレベルシフタ17が付設されている。最大デューティ低下操作部16は,コンパレータ7の正入力端子に接続されている。動作停止用トランジスタ14,負荷遮断用トランジスタ15,および最大デューティ低下操作部16は,異常判別部13での異常検知に応じて保護動作を行うものである。
【0018】
異常判別部13は,図2の回路図に示すように構成されている。コンパレータ11,12の出力を受ける異常判別部13には,SRフリップフロップ21が設けられている。そのセット端子にはコンパレータ11の出力信号が,リセット端子にはコンパレータ12の出力信号が,それぞれ入力されるようになっている。そして異常判別部13には,カウンタ22が設けられている。カウンタ22のイネーブル端子にSRフリップフロップ21の出力信号が入力されるようになっている。カウンタ22のクロック端子には,異常判別部13の動作クロックが入力されるようになっている。これによりカウンタ22は,SRフリップフロップ21の出力がハイである間に限り,動作クロックのパルス数を計数するのである。カウンタ22は複数の出力端子Q1,Q2,……を有している。各出力端子の出力により,カウンタ値が2進法で表されるようになっている。なお,カウンタ22のクリア端子には,後述するアンドゲート31の反転出力が入力されるようになっている。
【0019】
異常判別部13にはさらに,オアゲート23が設けられている。その一方の入力端子は,カウンタ22の出力端子Qnと接続されている。異常判別部13にはまた,Dフリップフロップ24が設けられている。そのD端子には,オアゲート23の出力信号が入力されている。そのクロック端子には動作クロックが入力されている。その出力端子Qの出力信号は,オアゲート23の他方の入力端子に入力されている。そして異常判別部13には,アンドゲート25が設けられている。その一方の入力端子には,Dフリップフロップ24の出力端子Qの出力信号が反転入力されるようになっている。そのもう一方の入力端子には,コンパレータ12の出力信号が入力されるようになっている。さらに異常判別部13には,オアゲート26が設けられている。その一方の入力端子は,アンドゲート25の出力端子と接続されている。異常判別部13にはまた,Dフリップフロップ27が設けられている。そのD端子には,オアゲート26の出力信号が入力されている。そのクロック端子には動作クロックが入力されている。その出力端子Qの出力信号は,オアゲート26の他方の入力端子に入力されるとともに,動作停止信号101として図1中の動作停止用トランジスタ14のゲート電極へ入力される。
【0020】
そして異常判別部13には,オアゲート28が設けられている。その一方の入力端子は,カウンタ22の出力端子Qm(n<m)と接続されている。出力端子Qmは,必ずしも最終番の出力端子でなくてもよい。異常判別部13にはさらに,アンドゲート29が設けられている。その一方の入力端子には,デューティ制限自己復帰信号が入力されている。デューティ制限自己復帰信号は,動作クロックより長周期なパルス信号である。異常判別部13にはまた,アンドゲート30が設けられている。これには,オアゲート28の出力とアンドゲート29の反転出力とが入力される。アンドゲート29の反転出力は前述のように,カウンタ22のクリア端子にも入力される。そして異常判別部13には,Dフリップフロップ31が設けられている。そのD端子は,アンドゲート30の出力端子と接続されている。そのクロック端子には動作クロックが入力されている。その出力端子Qの出力信号は,オアゲート28およびアンドゲート29の他方の入力端子に入力されるとともに,最大デューティ低下信号103として図1中の最大デューティ低下操作部16へ入力される。
【0021】
さらに異常判別部13には,オアゲート32が設けられている。その一方の入力端子は,Dフリップフロップ31の出力端子と接続されている。その出力信号は負荷遮断信号102として,図1中のレベルシフタ17を介して負荷遮断用トランジスタ15のゲート電極へ入力される。異常判別部13にはまた,Dフリップフロップ33が設けられている。そのD端子には,オアゲート32の出力信号が入力されるようになっている。そのクロック端子には動作クロックが入力されている。その出力端子Qの出力信号は,オアゲート32の他方の入力端子に入力されている。
【0022】
そして異常判別部13には,多入力アンドゲート34が設けられている。これには,コンパレータ12の出力信号,Dフリップフロップ24の出力端子Qの出力信号,Dフリップフロップ31の出力端子Qの出力の反転信号,Dフリップフロップ33の出力端子Qの出力の反転信号,の4つの信号が入力されるようになっている。異常判別部13にはさらに,オアゲート35が設けられている。その一方の入力端子は,多入力アンドゲート34の出力端子と接続されている。異常判別部13にはまた,Dフリップフロップ36が設けられている。そのD端子は,オアゲート35の出力端子と接続されている。そのクロック端子には動作クロックが入力されている。その出力端子Qの出力信号は,オアゲート35の他方の入力端子に入力されるとともに,過電圧検知信号104とされる。
【0023】
図1中の最大デューティ低下操作部16の回路図を図3に示す。最大デューティ低下操作部16は,トランジスタ41を中心に構成されている。トランジスタ41のエミッタが図1中のコンパレータ7の正入力端子に接続されている。そして,トランジスタ41のベース電圧は,サブ電源42の電圧を分圧した電圧とされるようになっている。そして,トランジスタ41のベース電圧を操作するトランジスタ43が設けられている。トランジスタ43のベース電圧は,最大デューティ低下信号103によって変更されるようになっている。そして,最大デューティ低下信号103がローであるときに図1中のエラーアンプ出力がコンパレータ7に正常に入力されるように,図3中の各抵抗の抵抗値が設定されている。
【0024】
次に,本形態のスイッチング電源装置100の動作を説明する。スイッチング電源装置100の動作は,元電源1から負荷5,6への電流供給を,出力トランジスタ2のスイッチングによりコントロールすることである。すなわち,コンパレータ7の作用により,エラーアンプ出力のレベルに応じたデューティ比のパルス波が出力される。レベルシフタ8を介してこれを出力トランジスタ2のゲート電極に入力することにより,電流をデューティ制御するのである。電流は,コイル3およびコンデンサ4により平滑化される。
【0025】
ここで,出力トランジスタ2を流れる電流は,抵抗10により検出電圧としてコンパレータ11,12へ出力される。コンパレータ11,12ではこれを第1,第2の基準値と比較する。通常の動作状態では検出電圧が第1,第2の基準値のいずれをも上回ることはないので,コンパレータ11,12の出力はいずれもローである。このため異常判別部13が作動することはない。すなわち,動作停止信号101,負荷遮断信号102,最大デューティ低下信号103はいずれもローのままである。動作停止信号101がローであることにより,動作停止用トランジスタ14はオフ状態である。このため,出力トランジスタ2のゲート電極にレベルシフタ8の出力が入力される。負荷遮断信号102がローであることにより,負荷遮断用トランジスタ15はオフ状態である。このため,負荷5のみならず負荷6にも電流が供給される。最大デューティ低下信号103がローであることにより,エラーアンプ出力がコンパレータ7に正常に入力される。
【0026】
続いて,異常時の動作を説明する。ここでは異常として,出力トランジスタ2を流れる電流が過大になった場合を想定する。出力トランジスタ2の電流が過大となる主な原因としては,図1中の負荷5または負荷6に異常が生じることと,図1中のコイル3が短絡することとの2通りがある。
【0027】
まず,負荷5または負荷6に異常が生じて過電流となる場合(以下,負荷異常という)を考える。この場合には,図4に示すように,電流が次第に増加してくる。コイル3のインダクタンスが効いているからである。このため,出力トランジスタ2の電流が第1の基準値に達して(時刻t1)から第2の基準値に達する(時刻t2)までの間に若干のタイムラグがある。過電流の程度によっては,出力トランジスタ2の電流が第2の基準値に達しないこともありうるが,その場合でも処置は同じである。負荷異常が起こった際の図1のスイッチング電源装置100の動作を,図5のタイミングチャートを参照して説明する。
【0028】
出力トランジスタ2の電流が第1の基準値に達すると(時刻t1),コンパレータ11の出力がハイアップする。これにより,図2のSRフリップフロップ21の出力がハイアップする。このためカウンタ22によるクロック信号のカウントアップが開始される。負荷異常の場合には,時刻t2でコンパレータ12の出力がハイアップするより先に,カウンタ22の出力端子QnおよびQmの出力がハイアップする。前述のように時刻t1から時刻t2までの間に若干のタイムラグがあるからである。言い替えると,負荷異常の場合のタイムラグの間にハイアップする出力端子が出力端子Qmとして選択されている。出力端子Qnとしては当然,出力端子Qmより先にハイアップする出力端子が選択されている。
【0029】
カウンタ22のカウント値が2n-1 を超えると出力端子Qnの出力がハイアップする。これによりこれ以後Dフリップフロップ24の出力がハイに維持される。すなわち,アンドゲート25への一方の入力がこれ以後ローに維持される。このため,その後の時刻t2でコンパレータ12の出力がハイアップしても,アンドゲート25の出力がハイアップすることはない。よって,動作停止信号101がハイアップすることはない。
【0030】
カウンタ22のカウント値が2m-1 を超えると出力端子Qmの出力がハイアップする。これにより,アンドゲート30の出力がハイアップする。続くクロックでこれがDフリップフロップ31にラッチされる。かくして,最大デューティ低下信号103がハイアップする。すなわち図1中の最大デューティ低下操作部16により,最大デューティを低下させるデューティ制限操作が行われる。
【0031】
また,Dフリップフロップ31の出力がハイアップすることにより,オアゲート32の出力,すなわち負荷遮断信号102もハイアップする。このため,負荷遮断用トランジスタ15がオフされる。これにより,負荷6が出力トランジスタ2から遮断される。なお,遮断されるのは負荷6のみで,負荷5は遮断されない。
【0032】
その後,デューティ制限自己復帰信号のパルスにより,アンドゲート29の反転出力が一時的にローダウンする。これにより,カウンタ22のカウント値がリセットされるとともに,Dフリップフロップ31の出力がローダウンする。
【0033】
なお,負荷異常の場合には,Dフリップフロップ27の出力,すなわち動作停止信号101がハイアップすることはない。時刻t2までコンパレータ12の出力がローであり,その一方で時刻t2より早くにDフリップフロップ24の出力がハイアップしてしまう。このため,アンドゲート25の出力がハイアップすることがないからである。また,Dフリップフロップ36の出力,すなわち過電圧検知信号104がハイアップすることもない。時刻t2までコンパレータ12の出力がローであり,その一方で時刻t2より早くにオアゲート32の出力がハイアップしてしまう。このため,多入力アンドゲート34の出力がハイアップすることがないからである。
【0034】
以上が,負荷異常の際の動作である。これから明らかなように負荷異常の際には,一部の負荷の遮断と,最大デューティ低下操作とが行われる。このうちの最大デューティ低下操作について,図3と図6とを参照して説明する。図6は,コンパレータ7の入出力信号と最大デューティ低下信号103との関係を示すタイミングチャートである。
【0035】
図6中の左半分の部分は,最大デューティ低下操作が行われる前の状況を示している。エラーアンプ出力のレベルに応じてデューティ比が定まる。最大デューティ低下信号103がハイアップすると,それに伴って,図3中のトランジスタ43のベース電圧が上昇する。これによりトランジスタ43がオンして,トランジスタ41のベース電圧が下がる。すると,トランジスタ41のベース−エミッタ間電圧が一定であるため,トランジスタ41のエミッタ電圧も下がることとなる。このため,コンパレータ7の正入力端子への入力電圧が強制的に下げられ,図6中の右半分の状況となる。これが最大デューティ低下操作である。すなわち,エラーアンプ出力を通常時より強制的に下げることによって,コンパレータ7の出力パルスのデューティ比を低下させるである。これにより,出力トランジスタ2の電流を下げて,過電流状態が続くのを防ぐのである。
【0036】
負荷異常の際には,異常が生じても電流が急峻に上昇するわけではない。このため,スイッチング電源装置の動作そのものを停止させてしまう必要はない。そこで本形態では前述のように,一部の負荷の遮断と最大デューティ低下操作とに止めているのである。これにより,過電流異常への対処中であっても,負荷5への電流供給は続行される。よって,可能な限り電流供給を停止したくない負荷は,負荷遮断用トランジスタ15を介さず直接に接続すればよい。これが負荷5である。逆に,そこまでして電流供給を続ける必要のない負荷は,負荷遮断用トランジスタ15を介して接続すればよい。これが負荷6である。あるいは,故障しやすい負荷を負荷6とし,故障しにくい負荷を負荷5としてもよい。その場合には,故障したと思われる負荷6への電流供給を停止しつつ,故障していないと思われる負荷5へは電流供給が続行されることとなる。
【0037】
次に,図1中のコイル3が短絡して過電流となる場合(以下,コイル異常という)を考える。この場合には,図7に示すように,異常発生とともに急峻に電流値が立ち上がる。コイル3のインダクタンスが作用しないからである。このため,出力トランジスタ2の電流が第1の基準値に達してから第2の基準値に達するまでのタイムラグが非常に短く,図7中ではほとんど同時のように見える。コイル異常が起こった際の図1のスイッチング電源装置100の動作を,図8のタイミングチャートを参照して説明する。
【0038】
出力トランジスタ2の電流が第1の基準値に達すると(時刻t1),コンパレータ11の出力がハイアップする。これにより,図2のSRフリップフロップ21の出力がハイアップする。このためカウンタ22によるクロック信号のカウントアップが開始される。コイル異常の場合には,カウンタ22の出力端子QnおよびQmの出力がハイアップしないうちに,時刻t2でコンパレータ12の出力がハイアップする。前述のように時刻t1から時刻t2までのタイムラグがごく僅かだからである。言い替えると,コイル異常の場合のタイムラグの間にはハイアップしない出力端子が出力端子Qnとして選択されている。出力端子Qmとしては当然,出力端子Qnより後でハイアップする出力端子が選択されている。
【0039】
よって,時刻t2まででカウンタ22のカウントアップは停止する。このため,カウンタ22の出力端子Qnの出力がハイアップすることはない。したがって,Dフリップフロップ24の出力がハイアップすることはない。このため,コンパレータ12の出力がハイアップした時刻t2にてアンドゲート25の出力がハイアップする。続くクロックでこれがDフリップフロップ27にラッチされる。かくして,動作停止信号101がハイアップする。これにより,図1中の動作停止用トランジスタ14がオンし,出力トランジスタ2のゲート電圧が接地レベルとなる。このため出力トランジスタ2がオフされる。すなわち,スイッチング電源装置の動作自体が停止するのである。
【0040】
また,コイル異常の場合には,カウンタ22の出力端子Qmの出力もハイアップすることはない。このため,オアゲート28およびアンドゲート30の出力もハイアップすることはない。したがって,Dフリップフロップ31の出力がハイアップすることはない。すなわち,負荷遮断信号102および最大デューティ低下信号103がハイアップすることはない。
【0041】
なお,Dフリップフロップ24の出力がハイアップしないことにより,多入力アンドゲート34の出力がハイアップすることがない。このため,Dフリップフロップ36の出力,すなわち過電圧検知信号104がハイアップすることもない。
【0042】
以上が,コイル異常の際の動作である。これから明らかなようにコイル異常の際には,スイッチング電源装置の動作自体が停止させられる。コイル異常の場合には,前述のように電流値が急峻に立ち上がるので,最大デューティ低下や一部の負荷の切り離し等では保護が不十分だからである。
【0043】
次に,出力トランジスタ2の電流が第1の基準値に達して(時刻t1)から第2の基準値に達する(時刻t2)までのタイムラグが,負荷異常の場合とコイル異常の場合との中間的な値である場合を考える。この場合には,カウンタ22の出力端子Qnの出力は時刻t2にてハイアップするが,出力端子Qmの出力はハイアップしない。このような異常が起こる原因としては例えば,図1中の元電源1に何らかの異常が生じてその電圧が上昇することが考えられる。以下これを過電圧異常という。過電圧異常が起こった際の図1のスイッチング電源装置100の動作を,図9のタイミングチャートを参照して説明する。
【0044】
出力トランジスタ2の電流が第1の基準値に達すると(時刻t1),コンパレータ11の出力がハイアップする。これにより,図2のSRフリップフロップ21の出力がハイアップする。このためカウンタ22によるクロック信号のカウントアップが開始される。過電圧異常の場合には,カウンタ22の出力端子Qnの出力がハイアップした後であって,出力端子Qmの出力がハイアップしないうちに,時刻t2でコンパレータ12の出力がハイアップする。よって,時刻t2まででカウンタ22のカウントアップは停止する。このため,カウンタ22の出力端子Qmの出力がハイアップすることはない。
【0045】
カウンタ22のカウント値が2n-1 を超えると出力端子Qnの出力がハイアップする。これによりこれ以後Dフリップフロップ24の出力がハイに維持される。よって,時刻t2でコンパレータ12の出力がハイアップするとともに,多入力アンドゲート34の出力がハイアップする。続くクロックでこれがDフリップフロップ36にラッチされる。かくして,過電圧検知信号104がハイアップする。これにより,過電圧異常が起こったことが検知される。
【0046】
なお,過電圧異常の場合には,Dフリップフロップ27の出力,すなわち動作停止信号101がハイアップすることはない。時刻t2までコンパレータ12の出力がローであり,その一方で時刻t2より早くにDフリップフロップ24の出力がハイアップしてしまう。このため,アンドゲート25の出力がハイアップすることがないからである。また,カウンタ22の出力端子Qmの出力がハイアップしないことから,Dフリップフロップ31の出力,すなわち最大デューティ低下信号103がハイアップすることもない。同様の理由により,オアゲート32の出力,すなわち負荷遮断信号102がハイアップすることもない。以上が,過電圧異常の際の動作である。
【0047】
以上詳細に説明したように本形態に係るスイッチング電源装置では,出力トランジスタ2の出力電流による検出電圧を,2水準の基準値と比較することとしている。そして,検出電圧が第1の基準値に達してから第2の基準値に達するまでの間に限り,カウンタ22によりクロック信号がカウントされるようにしている。
【0048】
そして,カウンタ22のカウント値が2n-1 に達しない(出力端子Qnがハイアップしない)うちに,検出電圧が第2の基準値に達した場合には,スイッチング電源装置の動作自体を停止するようにしている。すなわち,コイル異常のように急峻に電流が立ち上がる異常の場合には,速やかに電流供給を強制的に停止するのである。これにより,コイル3以外の各部を保護するのである。
【0049】
また,検出電圧が第2の基準値に達する前にカウンタ22のカウント値が2m-1 に達した(出力端子Qmがハイアップした)場合には,最大デューティ低下操作と負荷の一部切り離しを行うようにしている。すなわち,負荷異常のように電流の立ち上がりがさほど急激でない場合には,電流を抑制しつつ,一部の負荷(負荷5)にのみ電流供給を続行するのである。
【0050】
これにより,過電流の際に,その原因に応じて,過剰にならない適切な対処ができるようにしたスイッチング電源装置が実現されている。
【0051】
なお,本形態は単なる例示であり,本発明を何ら限定するものではない。本発明は当然に,その趣旨を逸脱しない範囲内で様々な変形・改良が可能なものである。例えば図1等の回路図において,回路の具体的構成は図示の通りでなくてもよい。同様の機能を有する他の構成であってもよい。また,過電圧異常が検出された場合に何らかの具体的な処置を講ずる(最大デューティ低下等)ようにしてもよい。
【0052】
あるいは逆に,過電圧異常の検出をしないこととしてもよい。その場合には,図2に示した異常判別部13に代えて,図10の異常判別部53を用いればよい。異常判別部53は,図2の異常判別部13から,オアゲート23,Dフリップフロップ24,多入力アンドゲート34,オアゲート35,Dフリップフロップ36を除去し,アンドゲート25の反転入力端子にDフリップフロップ31の出力端子Qの出力信号を入力させたものである。図10の異常判別部53を用いたスイッチング電源装置の動作は,過電圧異常の検出以外は本形態で説明したのと同じである。
【0053】
また,異常の判定方法を変更することもできる。具体的には,図4のような異常により最大デューティ低下操作を行った場合に,それでも異常が収まらないことも考えられる。その場合にコイル異常と判断して動作停止することとしてもよい。また,図7のような異常が検出された場合に,まずは最大デューティ低下操作を行い,それでも異常が収まらない場合にコイル異常と判断して動作停止することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施の形態に係るスイッチング電源装置の回路図である。
【図2】異常判別部の回路図である。
【図3】最大デューティ低下操作部の回路図である。
【図4】負荷異常による過電流のグラフである。
【図5】負荷異常の際のスイッチング電源装置の動作を説明するタイミングチャートである。
【図6】コンパレータの入出力信号と第3異常信号との関係を示すタイミングチャートである。
【図7】コイル異常による過電流のグラフである。
【図8】コイル異常の際のスイッチング電源装置の動作を説明するタイミングチャートである。
【図9】過電圧異常の際のスイッチング電源装置の動作を説明するタイミングチャートである。
【図10】変形例に係る異常判別部の回路図である。
【符号の説明】
【0055】
2 出力トランジスタ(スイッチング素子)
3 コイル
11 コンパレータ(第1過電流検知手段)
12 コンパレータ(第2過電流検知手段)
13 異常判別部
14 動作停止用トランジスタ(出力停止操作部)
15 負荷遮断用トランジスタ(負荷切り離し操作部)
16 最大デューティ低下操作部
22 カウンタ
26 オアゲート(第1異常信号出力部)
27 Dフリップフロップ(同)
30 アンドゲート(第2異常信号出力部)
31 Dフリップフロップ(同)
32 オアゲート(同)
34 多入力アンドケート(第3異常信号出力部)
35 オアゲート(同)
36 Dフリップフロップ(同)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス信号に応じて電流供給をスイッチングするスイッチング素子と,前記スイッチング素子によりスイッチングされる電流経路上のコイルとを備えたスイッチング電源装置において,
前記スイッチング素子の過電流を,第1の基準値との比較により検知する第1過電流検知手段と,
前記スイッチング素子の過電流を,第1の基準値に対応する電流より大きい電流に対応する第2の基準値との比較により検知する第2過電流検知手段と,
前記第1過電流検知手段および前記第2過電流検知手段による過電流検知の時間差に応じて2種類以上の異常信号のいずれかを出力する異常判別部と,
前記異常判別部の異常信号に応じて異なる保護動作を行う保護部とを有することを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスイッチング電源装置において,
前記異常判別部は,
時間差が第1の基準時間より短い場合に異常信号を出力する第1異常信号出力部と, 前記第1過電流検知手段による過電流の検出後,第1の基準時間より短くない第2の基準時間が経過しても前記第2過電流検知手段が過電流を検知しない場合に異常信号を出力する第2異常信号出力部とを有し,
前記保護部は,
前記第1異常信号出力部の異常信号により前記スイッチング素子をオフさせる出力停止操作部と,
前記第2異常信号出力部の異常信号により前記スイッチング素子へのパルス信号のデューティ比を低下させるデューティ低下操作部とを有することを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項3】
請求項1に記載のスイッチング電源装置において,
前記異常判別部は,
時間差が第1の基準時間より短い場合に異常信号を出力する第1異常信号出力部と, 前記第1過電流検知手段による過電流の検出後,第1の基準時間より短くない第2の基準時間が経過しても前記第2過電流検知手段が過電流を検知しない場合に異常信号を出力する第2異常信号出力部とを有し,
前記保護部は,
前記第1異常信号出力部の異常信号により前記スイッチング素子をオフさせる出力停止操作部と,
前記第2異常信号出力部の異常信号により少なくとも一部の負荷への電流供給を遮断する負荷切り離し操作部を有することを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のスイッチング電源装置において,
第2の基準時間が第1の基準時間より長く,
前記異常判別部は,時間差が第1の基準時間より長く第2の基準時間より短い場合に異常信号を出力する第3異常信号出力部を有することを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載のスイッチング電源装置において,
前記第1過電流検知手段による過電流の検知から前記第2過電流検知手段による過電流の検知までカウントを行うカウンタを有し,
前記第1異常信号出力部は,前記カウンタのカウント値が第1の基準時間に相当する値に達する前に前記第2過電流検知手段が過電流を検知すると異常信号を出力するものであり,
前記第2異常信号出力部は,前記カウンタのカウント値が第2の基準時間に相当する値に達すると異常信号を出力するものであることを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項6】
請求項4に記載のスイッチング電源装置において,
前記第1過電流検知手段による過電流の検知から前記第2過電流検知手段による過電流の検知までカウントを行うカウンタを有し,
前記第3異常信号出力部は,前記カウンタのカウント値が第1の基準時間に相当する値に達してから第2の基準時間に相当する値に達するまでの間に前記第2過電流検知手段が過電流を検知すると異常信号を出力するものであることを特徴とするスイッチング電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−25547(P2006−25547A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−202017(P2004−202017)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】