説明

ステアリング装置

【課題】 乗心地性を損なわずにレイアウト性および商品性を向上できるステアリング装置を提供すること。
【解決手段】 車輪FLが取り付けられたハブHを回転自在に支持するアクスルハウジング30と、一端(支持部21)で車体に対して揺動自在に軸支され、他端に設けられた転舵部23でアクスルハウジング30を旋回自在に支持するロアアーム20と、ロアアーム20に設置され、その駆動力によりアクスルハウジング30を旋回させるモータ50と、を備え、モータ50の回転軸とアクスルハウジング30の旋回軸(キングピン軸)とを互いにずらして配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステアリング(操舵)装置に関し、特に転舵用アクチュエータにより複数の転舵輪を独立して転舵可能なステアバイワイヤシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイール(ハンドル)から機械的に切り離された転舵用アクチュエータを備え、複数の転舵輪を独立して転舵可能ないわゆるステアバイワイヤのステアリング装置として、特許文献1、2に開示された装置がある。特許文献1の装置は、転舵用アクチュエータと車輪側部品(ハブキャリア等)との干渉を防止するため、転舵軸(キングピン軸)と略同軸上に、転舵用アクチュエータ(モータおよび減速機構)の回転軸を設けている。また、特許文献2の装置は、装置をコンパクト化してエンジン部品等のレイアウト性を向上するため、転舵用アクチュエータを車体側に固定し、この転舵用アクチュエータが揺動回転運動を出力することでタイロッドを移動させることとしている。
【特許文献1】特開2007−55409号公報
【特許文献2】特開2007−01564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、モータの回転を転舵用トルクに変換するためには、大幅な減速比を実現する減速機構を必要とする。逆に言えば、減速機構を小型化しようとすれば、大きなトルクを出力できる大型のモータが必要となる。例えば、ダイレクトドライブ方式のモータを用いて減速機構を省略しても、モータ自体が大型化する。このように、モータおよび減速機構からなる転舵用アクチュエータ全体としては、どうしても所定の大きさおよび重量が必要となる。
【0004】
特許文献1の装置では、キングピン軸のロア側のピボット点を構成する、サスペンション装置のロアアームにおける車幅方向外側の先端部分に、転舵用アクチュエータ(モータおよび減速機構)を設置している。しかし、モータおよび減速機構が一体となった転舵用アクチュエータ(ダイレクトドライブ方式のモータを含む。以下同様)は、上記のように所定の大きさを必要とする。よって、サスペンションアームの先端位置に、キングピン軸と同軸上に、ハブキャリアやタイヤ等の車輪側部品との干渉を防止しつつ、上記のような転舵用アクチュエータを設置するのは、現実的には困難である。言い換えれば、十分な減速比および転舵トルクを確保しつつ、上記位置に転舵用アクチュエータを設置するのは困難である。
【0005】
また、モータおよび減速機構が一体となった転舵用アクチュエータは、上記のように所定の重量を必要とするところ、ロアアームの車輪側取付位置に転舵用アクチュエータを設置すれば、車輪がその分だけ重くなるのと同様の結果になる。すなわち、ロアアームに作用する荷重のモーメントが大きくなって、車両のバネ下重量が大きくなり、乗心地性や操縦安定性能が悪化する。
【0006】
一方、特許文献2の装置では、上記のような問題は生じないものの、転舵用アクチュエータを車体側に設けているため、以下のような別の問題がある。すなわち、モータおよび減速機構が一体となった転舵用アクチュエータは、上記のように所定の大きさを必要とするところ、これを(特許文献1の装置のようにロアアーム上ではなく)車体側に設けているため、転舵用アクチュエータとエンジン等の車体側部品との干渉が発生するおそれがある。このため、レイアウト性の向上には限界があった。
【0007】
また、タイロッドが車体側(の転舵用アクチュエータ)に取り付けられているため、タイロッドとサスペンションアームとの位置関係(サスペンションジオメトリ)に応じてサスペンションストローク時にトー変化が発生することは、従来の装置と同様である。ここで、転舵用アクチュエータを制御することで上記トー変化を補正することは可能であるものの、そのためには新たな制御ロジックを設ける必要があり、装置が複雑化する。
【0008】
本発明は上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、乗心地性を損なわずにレイアウト性および商品性を向上できるステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のステアリング装置は、車輪が取り付けられたハブを回転自在に支持するアクスルハウジングと、一端で車体に対して揺動自在に軸支され、他端に設けられた転舵部で前記アクスルハウジングを旋回自在に支持するロアアームと、前記ロアアームに設置され、その駆動力により前記アクスルハウジングを旋回させるモータと、を備え、前記モータの回転軸と前記アクスルハウジングの旋回軸とを互いにずらして配置した。
【発明の効果】
【0010】
よって、モータがロアアーム上に設置されているため、転舵用アクチュエータとエンジン等の車体側部品との干渉が発生するおそれがなく、レイアウト性を向上できる。また、モータの回転軸が転舵軸(キングピン軸)に対してずれるように配置されている。このため、モータの回転軸と転舵軸との間に減速機構を設けることが可能であり、転舵用アクチュエータとハブキャリアやタイヤ等の車輪側部品との干渉を防止しつつ、十分な転舵トルクを確保できる。すなわち、商品性を確保できる。さらに、ロアアームに作用する荷重のモーメントを小さくできるため、車両のバネ下重量の増加を抑制でき、乗心地性や操縦安定性能を損なうこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のステアリング装置を実現する最良の形態を、図面に基づき説明する。
【実施例1】
【0012】
本実施例1のステアリング装置1は、いわゆるステアバイワイヤシステム(以下、SBWシステムという)に適用されるものであり、サスペンション装置2に支持された転舵輪(前輪FL,FR)を、転舵用アクチュエータ(モータおよび減速機構)の駆動力により転舵する。
【0013】
SBWシステムは、操舵入力装置(ステアリングホイールやハンドル)と、操舵入力装置に対して機械的に切り離された転舵輪(前輪FL,FR)と、操舵入力装置に入力される操舵角および操舵トルクを電気的に検出する操舵角センサおよび操舵トルクセンサと、その駆動力により各転舵輪(前輪FL,FR)を転舵させる転舵用アクチュエータ(以下、転舵アクチュエータという)と、操舵角センサ等の検出信号に基づき転舵輪の転舵角を算出し、各転舵アクチュエータの駆動を制御する操舵制御装置ECUと、を有している。なお、操舵入力装置は、操舵反力を発生させる反力アクチュエータに機械的に接続されている。
【0014】
操舵制御装置ECUは、転舵アクチュエータ(モータ50)および反力アクチュエータと電気的に接続されている。操舵制御装置ECUは、車両制御装置とも電気的に接続されている。車両制御装置は、サスペンション装置2に設けられたサスペンションストロークセンサや、ハブHに設けられた車輪速センサ等からの信号の入力を受け、車速、車輪速、ヨーレートなどを制御する。また操舵制御装置ECUに車速等の車両情報や目標転舵角などの信号を送信する。
【0015】
操舵制御装置ECUは、操舵角センサや操舵トルクセンサ等の検出信号および車両制御装置からの信号の入力を受け、転舵アクチュエータ(モータ50)に制御信号を出力する。また、転舵アクチュエータ(モータ50)の電流や回転角等および車両情報に基づき路面反力を算出し、反力アクチュエータに制御信号を出力する。
【0016】
このようなSBWシステムを採用した場合、ステアリングシステムを構成する各種装置の配置や設計自由度が拡大し、システム全体としての小型化・コンパクト化を図りやすい。また、左右前輪FL,FRを独立に転舵可能なため、左右前輪FL,FRそれぞれのコーナリング力が最大となるように左右転舵角比率を能動的に変更する等により、車両の運動性能を向上できる。また、例えば前輪駆動車でトー変化を能動的に変更することで、駆動力とサスペンション弾性によって生じるトーインをアクティブ補正し、前輪の転がり抵抗を減らして、燃費を向上できる。
【0017】
(ステアリング装置の構成)
以下、前輪駆動車に適用されたSBWシステムの一部を構成する、本実施例1のステアリング装置1を説明する。図1は、左前輪FL(転舵輪)におけるステアリング装置1を車両の正面から見た部分断面図を示す。
【0018】
サスペンション装置2はいわゆるストラット式であり、コイルバネおよびショックアブソーバを備えて車両上下方向の衝撃を吸収するストラット10と、車輪FLを車両上下方向揺動可能に車体に支持するロアアーム20と、車軸(アクスルシャフトAS)を回転自在に支持するアクスルハウジング30と、を有している。
【0019】
ドライブシャフトDSの先端側には、ブーツに収容された等速ジョイントJを介して、アクスルシャフトASが設けられている。アクスルシャフトASの外周には、アクスルシャフトASと一体にハブHが結合されている。ハブHとアクスルハウジング30との間にはホイールベアリング31が介装されており、ハブHは、アクスルハウジング30に回転自在に支持されている。ホイールベアリング31よりも車幅方向外側で、ハブHには左前輪FLが取り付けられている。アクスルハウジング30は、車両上方に向かって延びる第1アーム32と、車両下方に向かって延びる第2アーム33と、を有している。
【0020】
ストラット10の下端は、第1アーム32に設置されている。ストラット10の上端は、インシュレータを介して車体に設置されている。ストラット10はストラット軸周りで回転可能に設けられており、転舵時に第1アーム32(アクスルハウジング30)の旋回に応じて軸回転する。
【0021】
ロアアーム20は、一般のストラット式フロントサスペンション装置に用いられるΓ型またはA型のロアアームであり、車体に形成された2箇所の支持部21,21の間で車体に軸支されている。各支持部21は、一般の(転舵アクチュエータが設けられていないΓ型またはA型ロアアームの)支持部と同様の構造を有し、また同様の位置で車体側へ取り付けられている。本実施例1では、支持部21は、外筒210および内筒211を有する円筒型の弾性ブッシュであり、ブッシュ軸が車両前後方向に設けられている。
【0022】
外筒210はロアアーム20(後述のアーム部22)と一体に設けられている。外筒210の内周側には、ゴム212を介して内筒211が設けられている。内筒211は車体側に固定されている。2つの支持部21,21は車両前後方向で重なって(略同軸上に)設けられているため、図1では、手前の支持部21のみ現れている。すなわち、2つの支持部21,21を結ぶ直線は、地面と略平行に設けられている。ロアアーム20は、2つの支持部21,21を結ぶ直線(≒各支持部の軸)の周りで(車両上下方向に)揺動自在に車体に支持されている。
【0023】
ロアアーム20は、車体側の支持部21,21から車幅方向外側に向かって延びるアーム部22と、ロアアーム20の車幅方向外側の端に設けられた転舵部23と、を有している。転舵部23には、ユニバーサルジョイント40を介して、アクスルハウジング30の第2アーム33が連結されている。本実施例1では、上記ユニバーサルジョイント40としてフックジョイントを用いている。
【0024】
アーム部22の内部には、減速機構60を構成する複数の歯車61〜63が設けられている。転舵部23には、第3歯車63の回転軸631が設けられている。第3歯車63の上面側には、回転軸631と同軸方向に延びる駆動側ヨーク41が、第3歯車63と一体に形成されている。
【0025】
一方、第2アーム33の先端部には、被駆動側ヨーク42が、第2アーム33と一体に形成されている。駆動側ヨーク41および被駆動側ヨーク42は、十字軸(スパイダ43)を介して連結されている。第3歯車63と一体に駆動側ヨーク41が回転すると、この回転がスパイダ43を介して被駆動側ヨーク42に伝達される。これにより、第2アーム33が旋回する。すなわち、ロアアーム20は、転舵部23においてアクスルハウジング30を旋回自在に支持しており、ユニバーサルジョイント40の中心が左前輪FLのロア側アウタピボット点となっている。
【0026】
よって、アッパ側アウタピボット点であるストラット10の上端の車体側取付部と、上記ロア側アウタピボット点とを結ぶ直線が、左前輪FLの転舵軸(キングピン軸)となる。
【0027】
なお、車両走行中に左前輪FLが路面凹凸を通過すると、ロアアーム20が揺動し、左前輪FLが車体に対して上下動する。このときストラット10により路面凹凸による衝撃が吸収される。また、ロアアーム20の揺動に伴って、アクスルハウジング30とロアアーム20との間の角度が僅かに変化する。この角度の変化は、ユニバーサルジョイント40により吸収される。
【0028】
(転舵アクチュエータ)
ステアリング装置1の転舵アクチュエータは、モータ50と減速機構60とを有し、ロアアーム20の上面ないしロアアーム20の内部に設置されている。減速機構60は、それぞれの回転軸が平行となるように設けられた第1〜第3歯車61〜63からなる平行歯車列を有している。第1〜第3歯車61〜63は平歯車であり、2段歯車機構を構成している。第1、第2歯車61,62は円形歯車であり、第3歯車63はセクタ(扇形)歯車である。なお第1〜第3歯車61〜63として、はすば歯車を用いてもよい。
【0029】
以下、ロアアーム20の面とは、ロアアーム20を車両上下方向から見たときに現れるロアアーム20の面を指す。また上面および下面とは、ロアアーム20を車両上方および下方から見たときにそれぞれ現れる面を指す。
【0030】
ロアアーム20は、ロアアーム20の下面を構成する第1ケース201と、ロアアーム20の上面を構成する第2ケース202と、を有している。第1ケース201および第2ケース202は、減速機構60のケースを構成しており、第1ケース201と第2ケース202により挟まれた空間R内には減速機構60が収容されている。
【0031】
モータ50はDCブラシレスモータである。モータ50には、モータ50に流される電流を検出する電流センサ、およびモータ回転角を検出するモータ回転センサが設けられ、配線を介して操舵制御装置ECUに接続されている。なお、モータ50のユニットとして、例えば電動パワーステアリング装置において従来使用されているユニットを流用することができる。
【0032】
モータ50は、第1ケース202の上面に嵌合して設置されている。モータ50は、車両上方から見たとき、ドライブシャフトDSと重なることがないように設けられている。よって、サスペンションストローク時、ロアアーム20が揺動してもモータ50とドライブシャフトDSとが接触することはない。モータ50の出力軸51は、ロアアーム20の面(ロアアーム20の揺動軸心Aと、ロアアーム20の車幅方向外側の端Bとを通る面)と直交するように、空間R内に突出している。出力軸51の先端には、出力軸51と一体に第1歯車61が設けられている。
【0033】
空間R内には、モータ50に対して車幅方向外側に、第2歯車62が設置されている。第2歯車62は、第1ケース201に設けられたベアリングBRG1と第2ケース202に設けられたベアリングBRG2により軸支されており、その回転軸はモータ50の出力軸と平行に設けられている。第2歯車62の回転軸上には、大径歯車621と小径歯車622が2段に設けられている。小径歯車622に対して車両下方に設けられた大径歯車621は、第1歯車61と噛合っている。
【0034】
第3歯車63は、第2歯車62に対して車幅方向外側の空間R内に設置されている。第3歯車63は、第1ケース201に設けられたベアリングBRG3と第2ケース202に設けられたベアリングBRG4により軸支されており、その回転軸は第2歯車62の回転軸と平行に設けられている。セクタ歯車である第3歯車63の歯は、第2歯車62の小径歯車622と噛合っている。第3歯車63の上面側には、第3歯車63の回転軸に沿って、第3歯車63と一体に駆動側ヨーク41が形成されている。駆動側ヨーク41は、第2ケース202に形成された貫通孔207を通ってロアアーム20の上面側に突出するように設けられている。
【0035】
なお、第1ケース201および第2ケース202から構成されるケースには、第3歯車63がいずれかの回転方向に所定角度以上回転しようとしたときに、扇形である第3歯車63の2本の半径部分と当接して、その回転を規制するストッパ機構が設けられている。上記所定角度は、転舵限界時における第3歯車63の回転角と一致するように設定されている。なお、第3歯車63をセクタ歯車とすることで、ロアアーム20の車両幅方向および車両前後方向の寸法を短くすることが可能である。これによりモータ回転を十分に減速しつつ、ロアアーム20が必要以上に長くなることを抑制し、装置をコンパクト化できる。
【0036】
モータ50(出力軸51)の回転数は、第1歯車61の回転数と等しい。第1歯車61と第2歯車62の大径歯車621との歯数の比だけ、モータ回転が減速されて第2歯車62に伝達される。また、第2歯車62の小径歯車622と(円形歯車に換算した後の)第3歯車63との歯数の比だけ、第2歯車62の回転が減速されて第3歯車63に伝達される。第3歯車63は、転舵角の範囲内で回転すればよく、360°回転する必要がないため、扇型のセクタ歯車が用いられている。
【0037】
このようにモータ50の回転は、第1〜第3歯車61〜63からなる減速機構60により減速されて駆動側ヨーク41の回転に変換される。このとき、モータ50の出力トルクは、減速機構60の減速比に比例して増幅され、駆動側ヨーク41へ出力される。駆動側ヨーク41の回転およびトルクは、スパイダ43を介して被駆動側ヨーク42に伝達され、アクスルハウジング30(左前輪FL)をキングピン軸周りに旋回させる。すなわち、ロアアーム20に設置されたモータ50の駆動力により、アクスルハウジング30(左前輪FL)が旋回する。
【0038】
なお、ロアアーム20には、モータ50を制御する操舵制御装置ECUが、モータ50に隣接して搭載されている。
【0039】
右前輪FR(転舵輪)についても、上記左前輪FLと同様に設けられている。すなわち、ステアリング装置1の転舵アクチュエータ(モータ50および減速機構60)は、車両の左右の前輪FL,FRごとに別々に設けられ、SBWシステムの一部を構成している。
【0040】
[実施例1の作用効果]
以下、本実施例1から把握される本発明のステアリング装置1の作用効果を列挙する。
【0041】
(1)車輪FLが取り付けられたハブHを回転自在に支持するアクスルハウジング30と、一端(支持部21)で車体に対して揺動自在に軸支され、他端に設けられた転舵部23でアクスルハウジング30を旋回自在に支持するロアアーム20と、ロアアーム20に設置され、その駆動力によりアクスルハウジング30を旋回させるモータ50と、を備え、モータ50の回転軸とアクスルハウジング30の旋回軸(キングピン軸)とを互いにずらして配置した。
【0042】
よって、SBWシステムを構成するステアリング装置1において、モータ50が車体側ではなくロアアーム20上に設置されているため、転舵アクチュエータ(モータ50等)と車体側の部品(エンジン等)との干渉が発生するおそれがなく、レイアウト性を向上できる。また、サスペンションストローク時にトー変化が発生せず、トー変化を補正する新たな制御ロジックを設ける必要がないため、操舵制御装置ECUが複雑化しない。
また、モータ50の回転軸が、アクスルハウジング30の旋回軸、すなわち転舵軸(キングピン軸)に対してずれるように配置されている。このため、第1に、モータ50の回転軸とキングピン軸との間に減速機構60を設けることが可能である。よって、転舵アクチュエータ(モータ50等)と車輪側の部品(ハブHや車輪FL等)との干渉を防止しつつ、十分な転舵トルクを確保できるため、商品性を確保できる。第2に、ロアアーム20に作用するモータ荷重のモーメントを小さくできるため、車両のバネ下重量の増加を抑制でき、乗心地性や操縦安定性能を損なうこともない、という効果を有する。
【0043】
(2)モータ50の回転軸は転舵部23よりも車体寄りに位置することとした。言い換えれば、モータ50をアクスルハウジング30の旋回軸(キングピン軸)よりも車体近傍に設けた。
【0044】
よって、転舵アクチュエータ(モータ50等)と車輪側の部品(ハブHや車輪FL等)との干渉を確実に防止できる。また、モータ50の設置位置とロアアーム20の揺動軸(支持部21,21を結ぶ直線)との距離が短くなるため、ロアアーム20に作用するモータ荷重のモーメントを小さくでき、車両のバネ下重量の増加を確実に抑制できる、という効果を有する。
【0045】
(3)モータ50の回転を減速する減速機構60を備え、減速機構60は、ロアアーム20上であってモータ50(の回転軸)と転舵部23との間に設けられていることとした。言い換えれば、車体側からモータ50、減速機構60の順番に転舵アクチュエータを配置した。
【0046】
よって、減速機構60をモータ50(の回転軸)と同軸に、言い換えればモータ50と一体に設けた場合に比べ、モータ50を小型化できる。すなわち、モータ50と転舵部23との間の十分なスペースにおいて減速機構60を設けることができるため、モータ50を小型化しても、減速機構60により十分な減速比すなわち転舵トルクを得ることができる。また、ロアアーム20上に、モータ50および減速機構60がロアアーム20と一体に設けられている。すなわち、ロアアーム20を構成する第1、第2ケース201,202内に減速機構60が収容されるとともに、第1ケース201上にモータ50が設置されている。このため、ロアアーム20と転舵アクチュエータ(モータ50、減速機構60)とをまとめて一部品として取り扱うことが可能となり、商品性を向上できる、という効果を有する。
【0047】
(4)モータ50の回転を減速する波動歯車装置を備えることとしてもよい。
【0048】
すなわち、ウェーブジェネレータ、フレクスプライン、およびサーキュラスプラインを一段同軸上に備えた周知の波動歯車装置は、比較的高い減速比を実現し、装置がコンパクトであり回転精度も高い。この波動歯車装置を、例えばモータ50の回転軸と同軸に(言い換えればモータ50と一体に)備えた場合、モータ出力軸51の回転を波動歯車装置により減速できる。また、モータ50の回転軸がキングピン軸に対してずれるように配置されているため、モータ50の回転軸とキングピン軸との間にさらに別の減速機構60を設けることが可能である。よって、波動歯車装置により減速されたモータ50の出力回転をさらに減速することが可能である。したがって、この場合、モータ50の回転軸とキングピン軸との間に設ける上記減速機構60の構成を簡素化しつつ、高い減速比すなわち転舵トルクを得ることができる。
一方、波動歯車装置の軸を、モータ50の回転軸とずらして(言い換えればモータ50と一体でなく)設けた場合、モータ50をさらに小型化できる、という効果を有する。
【0049】
(5)転舵部23はユニバーサルジョイント40を介してアクスルハウジング30に連結されていることとした。
【0050】
すなわち、ユニバーサルジョイント40は、転舵アクチュエータ(転舵部23の駆動側ヨーク41)からアクスルハウジング30(第2アーム33の被駆動側ヨーク42)へ転舵トルクを伝達しつつ、アクスルハウジング30をロアアーム20に対して旋回可能に連結することで、ステアリング機能を実現させる。すなわち、ユニバーサルジョイント40は、車輪FLのロア側アウタピボット点となる。また、ユニバーサルジョイント40は、車輪FLが車体に対して車両上下方向で揺動可能なように、アクスルハウジング30とロアアーム20とを連結することで、サスペンション機能を実現させる。よって、1つのユニバーサルジョイント40という簡素な構成でこれら両機能を円滑に実現できる、という効果を有する。
【0051】
(6)モータ50はロアアーム20の上面に取り付けられていることとした。
【0052】
よって、ロアアーム20の下面に取り付けた場合と異なり、路面(の障害物)と転舵アクチュエータ(モータ50)との干渉を確実に排除しつつ、電子制御される精密機器であるモータ50に対する路面からの影響を防止できる、という効果を有する。なお、モータ50と切り離された減速機構60を別途設けることでモータ50の小型化が可能である。このため、前輪駆動車において、ロアアーム20の上面にモータ50を取り付けた場合でも、ドライブシャフトDSとモータ50が干渉することを防止できる。
【0053】
(7)モータ50および減速機構60は操舵輪=転舵輪(前輪FL,FR)毎に設けられていることとした。
【0054】
よって、転舵アクチュエータが転舵輪(前輪FL,FR)毎に設けられることで、ステアリングシステムを構成する各種装置のレイアウトや設計の自由度が拡大し、システム全体としての小型化・コンパクト化を図りやすい。また、左右前輪FL,FRを独立に転舵可能なため、車両の運動性能等を向上できる。さらに、転舵輪(前輪FL,FR)毎に、サスペンション装置2の構成部材(ロアアーム20)とステアリング装置1の構成部材(転舵アクチュエータ)とをまとめて一部品・一ユニットとして取り扱うことが可能となり、商品性を向上できる、という効果を有する。
【0055】
なお、各転舵輪(前輪FL,FR)の転舵アクチュエータをケーブル等により機械的に接続したフェイルセーフ機構を設けることとしてもよい。この場合、一方の転舵アクチュエータが失陥したときは他方の転舵アクチュエータの動作を機械的に伝達することで、各転舵輪(前輪FL,FR)の正常な転舵が可能となる。
【0056】
(8)ロアアーム20にモータ50を制御する操舵制御装置ECUを搭載することとした。
【0057】
よって、ロアアーム20と転舵アクチュエータ(モータ50等)と操舵制御装置ECUとをまとめて一部品・一ユニットとして取り扱うことが可能となり、商品性を向上できる、という効果を有する。
【実施例2】
【0058】
本実施例2のステアリング装置1は、実施例1と同様のSBWシステムに適用され、サスペンション装置2に支持された転舵輪(左前輪FL)を、転舵アクチュエータ(モータ50、減速機構70、リンク機構80)の駆動力により転舵する。
【0059】
(ステアリング装置の構成)
以下、本実施例2のステアリング装置1を、図2および図3に基づき説明する。実施例1と同様の構成については実施例1(図1)と同じ符号を付して説明を省略する。図2は、左前輪FL(転舵輪)におけるステアリング装置1を車両の正面から見た部分断面図であり、図3のC-C線近傍で切った断面を示す。図3は、図2のステアリング装置1を車両上方から見た部分断面図である。なお、図2ではリンク機構80を省略し、図3ではドライブシャフトDS等を省略して描いている。
【0060】
ストラット式のフロントサスペンション装置2の構成は、実施例1と同様である。
【0061】
ロアアーム20は、一般のストラット式サスペンション装置に用いられるΓ型のロアアームであり、車体に形成された2箇所の支持部21a,21bの間で車体に軸支されている(図3参照)。各支持部21a,21bの構成は実施例1と同様である。
【0062】
ロアアーム20の転舵部23は、車両前後方向において、アクスルシャフトAS(左前輪FLの中心)と略同位置に設けられ、また、車両後方の支持部21bよりも車両前方の支持部21aのほうに近い位置に設けられている。転舵部23には、ボールジョイント90を介して、アクスルハウジング30の第2アーム33が連結されている。ボールジョイント90は、一般の(転舵アクチュエータが設けられていない)ロアアームの車輪側支持部と同様の構造を有し、また同様の位置で車輪側(アクスルハウジング30)へ取り付けられている。ボールジョイント90のボールスタッド91の軸は、略車両上下方向に設けられている。ボールジョイント90は、ロアアーム20の揺動に伴うアクスルハウジング30とロアアーム20との間の角度変化を吸収する。
【0063】
ロアアーム20の車幅方向内側には、アーム部22の内部に、減速機構70を構成する複数の歯車71〜73が設けられている。ロアアーム20の車幅方向外側には、アーム部22の外部に、リンク機構80を構成する複数のアームおよびロッドが設けられている(図3参照)。リンク機構80は、減速機構70により減速された回転およびトルクを伝達し、転舵部23においてアクスルハウジング30(第2アーム33)を旋回させる。
【0064】
すなわち、ロアアーム20は、転舵部23においてアクスルハウジング30を旋回自在に支持しており、ボールジョイント90が左前輪FLのロア側アウタピボット点となっている。アッパ側アウタピボット点であるストラット10の上端の車体側取付部と、上記ロア側アウタピボット点とを結ぶ直線が、左前輪FLの転舵軸(キングピン軸)となる。
【0065】
(転舵アクチュエータ)
実施例2の転舵アクチュエータは、モータ50と減速機構70とリンク機構80とを有しており、ロアアーム20の上面ないし側面およびロアアーム20の内部に設置されている。なお、実施例1と同様、ロアアーム20に(例えばモータ50と隣接して)モータ50を制御する操舵制御装置ECUを搭載することとしてもよい。
【0066】
ロアアーム20は、ロアアーム20の下面を構成する第1ケース221と、第1ケース221の上面に取り付けられる第2ケース222と、第2ケース222の上面に取り付けられる第3、第4ケース223,224と、を有している。これらの第1〜第4ケース221〜224は、減速機構70を収容するケースを構成している。
【0067】
減速機構70は、ウォームギア機構を用いた2段歯車機構から成っている。第1歯車71はウォームギアである。第2歯車72はウォームホイール(大径歯車721)を有している。第3歯車63はセクタ歯車である。
【0068】
モータ50は、実施例1と同様のDCブラシレスモータである。モータ50の回転軸心は、ロアアーム20を揺動自在に支持する軸心に沿って、車両前後方向に配置されている。すなわち、2箇所の支持部21a,21bを結ぶ直線とモータ50の出力軸51とが略平行になり、かつ上記直線と出力軸51との距離が小さくなるように、ロアアーム揺動軸の近傍にモータ50が設置されている。モータ50は、支持部21a,21bの間における車両後方側(支持部21b寄り)の位置で、第1ケース221の上面に設置されている。
【0069】
モータ50の出力軸51は、第3ケース223内に収容されている。出力軸51の先端には、出力軸51と一体に第1歯車71が設けられている。第3ケース223内には、出力軸51に対して車幅方向外側に、第2歯車72が設置されている。第2歯車72は、第2ケース222に設けられたベアリングBRG11と第1ケース221に設けられたベアリングBRG12とにより軸支されている。第2歯車72の回転軸720は、モータ50の出力軸51に対して車幅方向外側で、ロアアーム20の面と直交するように、車両上下方向に設けられている。回転軸720上には、ウォームホイールである大径歯車721と平歯車である小径歯車722が2段に設けられている。大径歯車721は第1歯車71(ウォームギア)と噛合っている。
【0070】
第3歯車73は、第2歯車72に対して車幅方向外側に設置されている。第3歯車73は、第1ケース221に設けられたベアリングBRG13と第4ケース224に設けられたベアリングBRG14とにより軸支されており、その回転軸730は第2歯車72の回転軸720と平行に設けられている。セクタ歯車である第3歯車73の歯は、第2歯車72の小径歯車722と噛合っている。第3歯車73の回転軸730は車両上方に延び、第2ケース222および第4ケース224を貫通して、ロアアーム20の上面側に突出するように設けられている。
【0071】
第1ケース221における第3歯車73の収容部225も扇形に形成されており、その2本の半径部分S1,S2は、第3歯車73がいずれかの回転方向に所定角度だけ回転したときに、第3歯車73の2本の半径部分731,732とそれぞれ当接する。これにより、それ以上の回転を規制する。なお、図3では転舵角が0のときの第3歯車73の中立位置を示す。このように収容部225は、第3歯車73が所定角度以上回転することを規制するストッパ機構(半径部分S1,S2)を有している。上記所定角度は、転舵限界時における第3歯車73の回転角と一致するように設定されている。
【0072】
以上のような減速機構70により、実施例1と同様、モータ50の回転が減速されて第3歯車73に伝達される。このとき、モータ50の出力トルクは、減速機構70の減速比に比例して増幅され、第3歯車73へ出力される。第3歯車73の回転およびトルクは、リンク機構80を介して第2アーム33に伝達され、アクスルハウジング30(左前輪FL)をキングピン軸周りに旋回させる。すなわち、ロアアーム20に設置されたモータ50の駆動力により、アクスルハウジング30(左前輪FL)が旋回する。
【0073】
なお、第3歯車73をセクタ歯車とすることで、ロアアーム20における第3歯車73の収容部225も扇形とすることができ、よってロアアーム20の車両幅方向および車両前後方向の寸法を短くすることが可能である。これによりモータ回転を十分に減速しつつ、ロアアーム20が必要以上に長くなることを抑制し、装置をコンパクト化できる。
【0074】
また、モータ50は、車両前後方向から見たときの正面投影面積が最小となるように、第1ケース221の上面に設置されている。よって、モータ50とエンジン等の車体側部品との干渉によるレイアウト性の低下のおそれが少ない。さらにモータ50は、ロアアーム20の支持部21a,21bの間における車両後方側(支持部21b寄り)の位置に設置されており、車両上方から見たとき、ドライブシャフトDSと重なることがない。よって、サスペンションストローク時、ロアアーム20が揺動してもモータ50とドライブシャフトDSとが接触することはない。
【0075】
また、図2に示すように、車両上下方向でロアアーム20の最上面に位置する第3ケース223と、サスペンションのフルリバウンド時におけるドライブシャフトDSの下端との間には、隙間αができるように設けられている。よって、サスペンションストローク時、ロアアーム20が揺動しても、ロアアーム20の上端(第3ケース223)とドライブシャフトDSとが接触することはない。
【0076】
また、車両上下方向でロアアーム20の最下面に位置する第1ケース221(の車幅方向内側)と、転舵部23の最下端を通る水平面との間には、隙間βができるように設けられている。すなわち、ロアアーム20の下端面は必要以上に車両下方に突出せず、ロアアーム20と路面(の障害物)とが干渉するおそれは少ない。
【0077】
次に、リンク機構80について説明する。リンク機構80は、一般の(SBWシステムでない、例えばラック&ピニオン式の)ステアリング装置に用いられるリンク機構と同様のものであり、ピットマンアーム81とタイロッド82とナックルアーム83とを有している。リンク機構80は、減速機構70により減速された(第3歯車73の)回転運動を、転舵部23におけるアクスルハウジング30の旋回運動に変換する。
【0078】
ロアアーム20の上面側に突出した第3歯車73の回転軸730の先端には、ピットマンアーム81の一端81aが一体に結合されている。図3に示すように、ピットマンアーム81は、転舵角ゼロの中立状態では車両前後方向に沿って設置されており、一端81aを中心に回転可能に設けられている。ピットマンアーム81の他端81bは、ボールジョイントを介してタイロッド82の一端82aと連結されている。
【0079】
タイロッド82は車幅方向に沿って設置されている。タイロッド82の他端82bは、ボールジョイントを介してナックルアーム83の一端83aと連結されている。
【0080】
ナックルアーム83は、転舵角ゼロの中立状態では車両前後方向に沿って設置されている。ナックルアーム83の他端83bはアクスルハウジング30の第2アーム33に一体に結合されている。
【0081】
ナックルアーム83の長さはピットマンアーム81の長さと略同じに設けられている。ピットマンアーム81の一端81aとナックルアーム83の他端83bとは、車両前後方向で略同位置に設けられている。また、タイロッド82(他端82b)とナックルアーム83(一端83a)の連結部(ボールジョイントの回転中心D)と、ロアアーム20(転舵部23)とアクスルハウジング30(第2アーム33)の連結部(ボールジョイント90の回転中心E)とを結ぶ直線Lは、転舵角ゼロの中立状態では、ロアアーム20の揺動軸と略平行に設けられている。
【0082】
次に、リンク機構80の作用について説明する。ピットマンアーム81は、第3歯車73の回転に応じて揺動回転する。タイロッド82は、ピットマンアーム81の揺動回転に応じて車体幅方向に移動する。ナックルアーム83は、タイロッド82の移動に応じて揺動回転する。ナックルアーム83と一体に設けられたアクスルハウジング30(第2アーム33)は、ナックルアーム83の揺動回転に応じて、ボールジョイント90を中心として(ロアアーム20に対して)旋回する。なお、この旋回の角度、すなわち転舵角の最大値(限界値)は、図3に示すように、中立状態に対して約40°となるように設定されている。
【0083】
右前輪FR(転舵輪)についても、上記左前輪FLと同様に設けられている。すなわち、ステアリング装置1の転舵アクチュエータ(モータ50、減速機構70、リンク機構80)は、車両の左右の前輪FL,FRごとに別々に設けられ、SBWシステムの一部を構成している。
【0084】
[実施例2の作用効果]
以下、本実施例2から把握される本発明のステアリング装置1の作用効果を列挙する。
【0085】
実施例2のステアリング装置1は、実施例1の上記(1)(2)(3)(6)(7)と同様の構成および作用効果を有している。
【0086】
(9)ロアアーム20は車体に形成された2箇所の支持部21a,21bの間で車体に軸支されているとともに、モータ50は支持部21a,21bの間に配置されていることとした。
【0087】
このように、転舵アクチュエータにおける主要な重量物であるモータ50をロアアーム20の揺動軸(支持部21a,21bを結ぶ直線)の近傍に設けることで、モータ50の設置位置とロアアーム20の揺動軸との距離が極めて短くなる。よって、ロアアーム20に作用するモータ荷重のモーメントを大幅に小さく(ほとんどゼロに)でき、車両のバネ下重量の増加を確実に抑制できる、という効果を有する。
【0088】
(10)モータ50の回転軸心(出力軸51)はロアアーム20を揺動自在に支持する軸心に沿って配置され、減速機構70はウォーム(第1歯車71)とウォームホイール(第2歯車72)を有していることとした。
【0089】
よって、ウォーム減速機構により大きな減速比を得ることができるとともに、モータ50の回転軸心をロアアーム20の揺動軸に沿って配置することで、モータ50の正面投影面積が最小となり、モータ50とエンジン等の車体側部品との干渉によるレイアウト性の低下を防止できる。また、ウォームホイール(第2歯車72)を水平面に対して平行に設けることができ、このためロアアーム20の車両上下方向寸法が長くなることを抑制できる。よって、例えば、ロアアーム20の第3ケース223と、サスペンションのフルリバウンド時におけるドライブシャフトDSの下端との間に隙間αを設け、ロアアーム20の上端(第3ケース223)とドライブシャフトDSとの接触を防止できる。また、ロアアーム20の第1ケース221と、転舵部23の最下端を通る水平面との間に隙間βを設け、ロアアーム20の下端と路面(の障害物)との接触を防止できる。したがって、上記(9)の効果に加え、大きな減速比を得つつ、従来通りのサスペンション機能を得ることができる、という効果を有する。
【0090】
(11)減速機構70はケース(第1〜第4ケース221〜224)内に収容されるとともに、セクタ歯車(第3歯車73)を有し、セクタ歯車(第3歯車73)が所定以上回動したときにセクタ歯車(第3歯車73)と当接するストッパ機構(S1,S2)をケース(第1ケース221)に設けた。
【0091】
よって、減速機構70に用いる第3歯車73をセクタ歯車とすることで、ロアアーム20の収容部225も扇形とすることができ、ロアアーム20の車幅方向および車両前後方向の寸法を短くすることが可能である。これによりモータ回転を十分に減速しつつ、ロアアーム20が必要以上に長くなることを抑制し、装置全体をコンパクト化できる。また、第1ケース221の収容部225に、第3歯車73が所定角度以上回転することを規制するストッパ機構(半径部分S1,S2)を設けた。上記所定角度は、転舵限界時における第3歯車73の回転角と一致するように設定されている。よって、減速機構70が、減速機能の他に、転舵角の限界を機械的に設定するストッパ機能を有することとなる。したがって、ストッパ装置を別途設ける必要がないため、部品点数を削減しつつステアリング装置のフェイルセーフ機能を向上できる、という効果を有する。
【0092】
なお、本実施例2の減速機構70において、第2歯車72を省略し、第3歯車73(セクタ歯車)をウォームセクタとして設け、この第3歯車73を直接に第1歯車71(ウォームギア)に噛合わせることとしてもよい。この場合、部品点数を削減しつつ、上記と同様の効果を得ることができる。
【0093】
(12)モータ50の回転に応じて車体幅方向に移動可能なタイロッド82と、アクスルハウジング30と一体に設けられ、タイロッド82に連結されたナックルアーム83と、を備え、タイロッド82とナックルアーム83の連結部(ボールジョイントの回転中心D)と、ロアアーム20とアクスルハウジング30の連結部(ボールジョイント90の回転中心E)とを結ぶ直線Lは、ロアアーム20の揺動軸と略平行であることとした。
【0094】
このように、タイロッド82とナックルアーム83とを有するリンク機構80を備えることで、ロアアーム20の車幅方向外側に減速機構70を設ける必要がない。言い換えれば、ロアアーム20の揺動軸と減速機構70との距離を小さくできるため、ロアアーム20に作用する減速機構70の荷重のモーメントを小さくでき、車両のバネ下重量の増加を抑制できる。
また、転舵角ゼロの中立位置では、タイロッド82とナックルアーム83とがなす角度が略直角となる。このため、タイロッド82が中立状態からいずれの方向に移動するときにも、タイロッド82からナックルアーム83に入力される力のモーメントが最大となる。また、タイロッド82の所定移動量に対するナックルアーム83の回転量が、タイロッド82の移動方向によって偏ることもない。よって、減速機構70からアクスルハウジング30へ効率的にトルクを伝達できるとともに、転舵角を安定的に制御できる。よって、モータ50や減速機構70の小型化を図ることができるとともに、操舵制御ロジックを簡略化できる、という効果を有する。
なお、タイロッド82の車幅方向内側での取り付け位置は、ロアアーム20上(に設けられたピットマンアーム81)であるため、上記(1)に記載のように、サスペンションストローク時にトー変化が発生しない。よって、上記(12)のような構成としても不都合は生じない。
【0095】
(13)実施例1と同様に、実施例2のステアリング装置1においても、モータ50の回転を減速する波動歯車装置を備えることとしてもよい。
【0096】
この場合、第1、第2歯車71,72からなるウォームギア機構を省略し、装置を簡略化することも可能である。例えば、波動歯車装置をモータ50の回転軸と同軸に(言い換えればモータ50と一体に)設け、その出力軸が第2歯車の回転軸722の位置と一致するようにモータ50をロアアーム20の上面に設置し、上記出力軸に設けたギアが第3歯車73と噛合うように構成してもよい(リンク機構80を除けば、実施例1と同様の構成となる)。この場合、モータ50の設置位置を車両前後方向で適宜調整することで、ドライブシャフトDSとモータ50との干渉を回避できる。また、後輪駆動車の前輪に適用すれば、ドライブシャフトDSとの干渉を考慮せずにモータ50の設置位置を最適化できる。
【0097】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例1、2に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例1、2に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0098】
例えば、実施例1では、本発明のステアリング装置1をストラット式のサスペンション装置2に適用することとしたが、ダブルウィッシュボーン式その他の、ロアアームを有するサスペンション装置に適用することとしてもよい。
【0099】
実施例1では、ロアアーム20の転舵部23に用いるユニバーサルジョイント40としてフックジョイントを用いたが、等速ジョイントその他のジョイントを用いることとしてもよい。
【0100】
実施例2では、タイロッド82(リンク機構80)をロアアーム20に対して車両前方側に設けたが、ロアアーム20に対して車両後方側にタイロッド82(リンク機構80)を設けることとしてもよい。なお、車両上下方向でのタイロッド82とロアアーム20との位置関係は、適宜設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】実施例1のステアリング装置(左前輪FL)を車両正面から見た部分断面図。
【図2】実施例2のステアリング装置(左前輪FL)を車両正面から見た部分断面図(図3のC-C断面)。
【図3】実施例2のステアリング装置(左前輪FL)を車両上方から見た部分断面図。
【符号の説明】
【0102】
1 ステアリング装置
2 サスペンション装置
20 ロアアーム
21 支持部
21a 支持部
21b 支持部
23 転舵部
30 アクスルハウジング
40 ユニバーサルジョイント
50 モータ
51 出力軸
60 減速機構
70 減速機構
71 第1歯車(ウォーム)
72 第2歯車(ウォームホイール)
73 第3歯車(セクタ歯車)
80 リンク機構
82 タイロッド
83 ナックルアーム
90 ボールジョイント
201 第1ケース
202 第2ケース
221 第1ケース
222 第2ケース
223 第3ケース
224 第4ケース
H ハブ
ECU 操舵制御装置
S1,S2 ストッパ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪が取り付けられたハブを回転自在に支持するアクスルハウジングと、
一端で車体に対して揺動自在に軸支され、他端に設けられた転舵部で前記アクスルハウジングを旋回自在に支持するロアアームと、
前記ロアアームに設置され、その駆動力により前記アクスルハウジングを旋回させるモータと、を備え、
前記モータの回転軸と前記アクスルハウジングの旋回軸とを互いにずらして配置したステアリング装置。
【請求項2】
前記モータの回転軸は前記転舵部よりも車体寄りに位置することを特徴とする請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記モータの回転を減速する減速機構を備え、前記減速機構は、前記ロアアーム上であって前記モータの回転軸と前記転舵部との間に設けられていることを特徴とする請求項2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記モータの回転を減速する波動歯車装置を備えていることを特徴とする請求項2に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記転舵部はユニバーサルジョイントを介して前記アクスルハウジングに連結されていることを特徴とする請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記モータは前記ロアアームの上面に取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載のステアリング装置。
【請求項7】
前記モータの回転軸心は前記ロアアームを揺動自在に支持する軸心に沿って配置され、
前記減速機構はウォームとウォームホイールを有していることを特徴とする請求項3に記載のステアリング装置。
【請求項8】
前記減速機構はケース内に収容されるとともに、セクタ歯車を有し、
前記セクタ歯車が所定以上回動したときに前記セクタ歯車と当接するストッパ機構を前記ケースに設けたことを特徴とする請求項7に記載のステアリング装置。
【請求項9】
前記モータは前記ロアアームの上面に取り付けられていることを特徴とする請求項7に記載のステアリング装置。
【請求項10】
前記ロアアームは車体に形成された2箇所の支持部の間で車体に軸支されているとともに、前記モータは前記2箇所の支持部の間に配置されていることを特徴とする請求項9に記載のステアリング装置。
【請求項11】
前記モータの回転に応じて車体幅方向に移動可能なタイロッドと、
前記アクスルハウジングと一体に設けられ、前記タイロッドに連結されたナックルアームと、を備え、
前記タイロッドと前記ナックルアームの連結部と、前記ロアアームと前記アクスルハウジングの連結部とを結ぶ直線は、前記ロアアームの揺動軸と略平行であることを特徴とする請求項9に記載のステアリング装置。
【請求項12】
前記モータおよび前記減速機構は操舵輪毎に設けられていることを特徴とする請求項3に記載のステアリング装置。
【請求項13】
車輪が取り付けられたハブを回転自在に支持するアクスルハウジングと、
一端で車体に対して揺動自在に軸支され、他端に設けられた転舵部で前記アクスルハウジングを旋回自在に支持するロアアームと、
前記ロアアームに設置され、その駆動力により前記アクスルハウジングを旋回させるモータと、を備え、
前記モータを前記アクスルハウジングの旋回軸よりも車体近傍に設けたステアリング装置。
【請求項14】
前記モータの回転を減速する減速機構を備え、前記減速機構は、前記ロアアーム上であって前記モータと前記転舵部との間に設けられていることを特徴とする請求項13に記載のステアリング装置。
【請求項15】
前記モータの回転を減速する波動歯車装置を備えていることを特徴とする請求項13に記載のステアリング装置。
【請求項16】
前記モータは前記ロアアームの上面に取り付けられていることを特徴とする請求項14に記載のステアリング装置。
【請求項17】
前記モータおよび前記減速機構は操舵輪毎に設けられていることを特徴とする請求項14に記載のステアリング装置。
【請求項18】
前記ロアアームには前記モータを制御する制御装置が搭載されていることを特徴とする請求項16に記載のステアリング装置。
【請求項19】
車輪が取り付けられたハブを回転自在に支持するアクスルハウジングと、
一端で車体に対して揺動自在に軸支され、他端で前記アクスルハウジングを旋回自在に軸支するロアアームと、
前記ロアアームに設置され、その駆動力により前記アクスルハウジングを旋回させるモータと、
前記モータの回転を減速する減速機構と、を備え、
車体側から前記モータ、前記減速機構の順番に配置したステアリング装置。
【請求項20】
前記モータは前記ロアアームの上面に取り付けられていることを特徴とする請求項19に記載のステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−51376(P2009−51376A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220691(P2007−220691)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】