説明

ソース−ドレイン電極、トランジスタ基板およびその製造方法、並びに表示デバイス

【課題】下部バリアメタル層の省略を可能にすると共に、工程数を増やすことなく簡略化し、Al系合金膜を薄膜トランジスタの半導体層に対し直接かつ確実に接続することができ、しかも、Al合金膜に対して低い熱プロセス温度を適用した場合でも、透明画素電極間の低電気抵抗率化を達成し得るソース−ドレイン電極を提供する。
【解決手段】薄膜トランジスタの半導体層33と、ソース−ドレイン電極34と、透明画素電極5とを有する薄膜トランジスタ基板において、ソース−ドレイン電極34は、合金成分としてNiを0.1〜6原子%含有するAl合金の薄膜からなり、Al合金の薄膜は薄膜トランジスタの半導体層33と直接接続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ、半導体、光学部品などに使用される薄膜トランジスタ用ソース−ドレイン電極、トランジスタ基板およびその製法、並びに表示デバイスに関し、特に、Al合金薄膜を構成要素として含む新規なソース−ドレイン電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型の携帯電話から、30インチを超す大型のテレビに至るまで様々な分野に用いられる液晶表示装置は、画素の駆動方法によって、単純マトリクス型液晶表示装置とアクティブマトリクス型液晶表示装置とに分けられる。このうちスイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transitor、以下、TFTと呼ぶ。)を有するアクティブマトリクス型液晶表示装置は、高精度の画質を実現でき、高速の画像などにも対応できるため、汎用されている。
【0003】
図1を参照しながら、アクティブマトリクス型液晶表示装置に適用される代表的な液晶パネルの構成および動作原理を説明する。ここでは、活性半導体層として水素アモルファスシリコンを用いたTFT基板(以下、アモルファスシリコンTFT基板と呼ぶ場合がある。)の例を代表的に説明するが、これに限定されず、ポリシリコンを用いたTFT基板であっても良い。
【0004】
図1に示すように、液晶パネル100は、TFT基板1と、TFT基板1に対向して配置された対向基板2と、TFT基板1と対向基板2との間に配置され、光変調層として機能する液晶層3とを備えている。TFT基板1は、絶縁性のガラス基板1a上に配置されたTFT4、透明画素電極5、走査線や信号線を含む配線部6を有している。透明画素電極5は、酸化インジウム(In)中に酸化錫(SnO)を10質量%程度含む酸化インジウム錫(ITO)膜などから形成されている。TFT基板1は、TABテープ12を介して連結されたドライバ回路13および制御回路14によって駆動される。
【0005】
対向基板2は、TFT基板1側に、絶縁性のガラス基板1bの全面に形成された共通電極7と、透明画素電極5に対向する位置に配置されたカラーフィルタ8と、TFT基板1上のTFT4および配線部6に対向する位置に配置された遮光膜9とを有している。対向基板2は、液晶層3に含まれる液晶分子(不図示)を所定の向きに配向させるための配向膜11を更に有している。
【0006】
TFT基板1および対向基板2の外側(液晶層3側とは反対側)には、それぞれ、偏光板10a,10bが配置されている。
【0007】
液晶パネルで100は、対向電極2と透明画素電極5との間に形成される電界によって液晶層3における液晶分子の配向方向が制御され、液晶層3を通過する光が変調される。これにより、対向基板2を透過する光の透過量が制御されて画像が表示される。
【0008】
次に、図2を参照しながら、液晶パネルに好適に用いられる従来のアモルファスシリコンTFT基板の構成および動作原理を詳しく説明する。図2は、図1中、Aの要部拡大図である。
【0009】
図2に示すように、ガラス基板(不図示)上には、走査線(ゲート薄膜配線)25が形成され、走査線25の一部は、TFTのオン・オフを制御するゲート電極26として機能する。ゲート電極26を覆うようにしてゲート絶縁膜(シリコン窒化膜)27が形成されている。ゲート絶縁膜27を介して走査線25と交差するように信号線(ソース−ドレイン配線)34が形成され、信号線34の一部は、TFTのソース電極28として機能する。ゲート絶縁膜27上に、アモルファスシリコンチャネル膜(活性半導体膜)33、信号線(ソース−ドレイン配線)34、層間絶縁シリコン窒化膜(保護膜)30が順次形成されている。このタイプは一般にボトムゲート型とも呼ばれる。
【0010】
アモルファスシリコンチャネル膜33は、P(リン)がドープされていないイントリンシック層(i層、ノンドーピング層とも呼ばれる。)と、Pがドープされたドープト層(n層)とから構成されている。ゲート絶縁膜27上の画素領域には、例えばIn中にSnOを含むITO膜によって形成された透明画素電極5が配置されている。TFTのドレイン電極29は、透明画素電極5に直接コンタクトして電気的に接続される。
【0011】
走査線25を介してゲート電極26にゲート電圧が供給されると、TFT4はオン状態となり、予め信号線34に供給された駆動電圧は、ソース電極28から、ドレイン電極29を介して透明画素電極5へ供給される。そして、透明画素電極5に所定レベルの駆動電圧が供給されると、図1で説明したように、透明画素電極5と対向電極2との間に電位差が生じる結果、液晶層3に含まれる液晶分子が配向して光変調が行われる。
【0012】
TFT基板1において、透明画素電極5に電気的に接続される信号線(画素電極用信号線)、ソース電極28−ドレイン電極29に電気的に接続されるソース−ドレイン配線34、ゲート電極26に電気的に接続される走査線25は、比抵抗が低く、加工が容易であるなどの理由により、いずれも、純AlまたはAl−NdなどのAl合金(以下、これらをまとめてAl系合金と呼ぶ。)の薄膜から形成されており、その上およびその下には、図2に示すように、Mo、Cr,Ti,W等の高融点金属からなるバリアメタル層51、52、53、54が形成されている。
【0013】
まず、透明画素電極5に対し、バリアメタル層51、52を介してAl系合金薄膜を接続する理由は、Al系合金薄膜を透明画素電極と直接接続すると接触抵抗が上昇し、画面の表示品位が低下するからである。すなわち、透明画素電極用配線を構成するAlは非常に酸化され易く、液晶パネルの成膜過程で生じる酸素や成膜時に添加する酸素などにより、Al系合金薄膜と透明画素電極との界面にAl酸化物の絶縁層が生成するためである。また、透明画素電極を構成するITOは導電性の金属酸化物であるが、上記のようにして生成したAl酸化物層により、電気的なオーミック接続を行うことができない。
【0014】
ところが、バリアメタル層を形成するためには、ゲート電極やソース電極、更にはドレイン電極の形成に必要な成膜用スパッタ装置に加えて、バリアメタル形成用の成膜チャンバーを余分に装備しなければならない。液晶パネルの大量生産に伴って低コスト化が進むにつれて、バリアメタル層の形成に伴う製造コストの上昇や生産性の低下は軽視できなくなっている。
【0015】
そこで、バリアメタル層の形成を省略でき、Al系合金薄膜を透明画素電極に直接接続させることが可能な電極材料や製造方法が提案されている。
【0016】
例えば、特許文献1には、透明画素電極の材料として、酸化インジウムに酸化亜鉛を10質量%程度含む酸化インジウム亜鉛(IZO)膜を用いた技術が開示されている。しかし、この技術によれば、現在、最も普及しているITO膜をIZO膜に変更しなければならないため、材料コストが上昇する。
【0017】
特許文献2には、ドレイン電極にプラズマ処理やイオン注入を行い、ドレイン電極の表面を改質する方法が開示されている。しかし、この方法によれば、表面処理のための工程が付加されるため、生産性が低下する。
【0018】
また、特許文献3には、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極として、純AlまたはAlの第1層と、純AlまたはAlにN,O,Si,C等の不純物を含む第2層とを用いる方法が開示されている。この方法によれば、ゲート電極、ソース電極、およびドレイン電極を構成する薄膜を同じ成膜チャンバーを用いて連続して形成できるという利点はあるが、上述した不純物を含む第2層を形成する工程が余分に増える。しかも、ソース−ドレイン配線に不純物を導入する過程で、不純物が混入した膜と混入していない膜との熱膨張係数の差に起因して、チャンバーの壁面からソース−ドレイン配線の堆積物がフレークとして剥がれ落ちる現象が頻発する。この現象を防ぐため、成膜工程を頻繁に停止してメンテナンスを行う必要があり、生産性が著しく低下する。
【0019】
このような事情に鑑み、本願出願人は、バリアメタル層の省略を可能にすると共に、工程数を増やすことなく簡略化し、Al系合金膜を透明画素電極に対して直接かつ確実に接続させ得る方法を開示している(特許文献4)。特許文献4では、合金成分として、Au、Ag、Zn、Cu、Ni、Sr、Ge、Sm、およびBiよりなる群から選ばれる少なくとも一種を0.1〜6原子%含むAl系合金を使用しており、これら合金成分の少なくとも一部を当該Al系合金膜と透明画素電極との界面で析出物または濃化層として存在させることによって上記課題を解決している。
【特許文献1】特開平11−337976号公報
【特許文献2】特開平11−283934号公報
【特許文献3】特開平11−284195号公報
【特許文献4】特開2004−214606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
このように特許文献4によれば、Al系合金膜を透明画素電極と直接接続することができる。
【0021】
一方、Al系合金からなるソース−ドレイン配線をアモルファスシリコン薄膜と直接接続することができる技術は、未だ、開示されていない。
【0022】
前述したように、これまでは、ソース−ドレイン配線として、Al系合金の上および下にバリアメタル層54、53が積層された配線が用いられており、代表的には、例えば、厚さ約50nmのMo層(下部バリアメタル層)、厚さ約150nmの純AlやAl−Nd合金薄膜、および厚さ約50nmのMo層(上部バリアメタル層)が順次形成された三層構造の積層配線が挙げられる。このように下部バリアメタル層が形成される主な理由は、Al合金薄膜とアモルファスシリコン薄膜との界面において、シリコンとアルミニウムとの相互拡散を防止するためであり、一方、上部バリアメタル層が形成される主な理由は、Al合金薄膜の表面にヒロック(コブ状の突起物)が形成されるのを防止するためである。詳細なメカニズムは後述する。
【0023】
しかし、上部および下部のバリアメタル層を形成するためには、バリアメタル形成用の成膜チャンバーをそれぞれ余分に装備した成膜装置(代表的には、複数の成膜チャンバーがトランスファーチャンバーに接続されたクラスタツール)を用いなければならず、製造コストの上昇や生産性の低下を招く。
【0024】
また、三層構造の積層配線をウェットエッチング処理法でテーパー加工するためには、バリアメタル用およびAl系合金用のエッチャント(エッチング液)をそれぞれ用意しなければならず、更に、それぞれに適したエッチング用バスが必要になるなど、コストが上昇する。なお、例えば、上部バリアメタル層として純Moを、下部バリアメタル層としてMo合金を形成するなどして、同じエッチャントを用いて積層配線を加工することも試みられているが、高精度の加工を行うことは困難である。
【0025】
従って、下部バリアメタル層、更には上部バリアメタル層を省略し得、ソース−ドレイン配線用のAl系合金薄膜をアモルファスシリコン薄膜と直接接続し得るソース−ドレイン電極の提供が切望されている。
【0026】
更に、最近、表示デバイスを製造する際のプロセス温度は、歩留りの改善および生産性向上の観点から、ますます低温化する傾向にある。例えば、アモルファスシリコンTFTのソース−ドレイン電極材料には、低電気抵抗率と耐熱性とが求められており、その要求スペックは、これまでは、電気抵抗率で8μΩ・cm程度以下、耐熱温度で350℃程度とされていた。この耐熱温度は、ソースおよびドレイン電極に対し製造工程で加わる最高温度によって決まり、この最高温度は、電極上に保護膜として形成する絶縁膜の形成温度とされている。最近では、成膜技術の向上によって低温でも所望の絶縁膜を得ることが可能となり、特にソースおよびドレイン電極上の保護膜では、200℃程度での成膜も可能になってきている。
【0027】
そのため、ソース−ドレイン電極材料として、耐熱温度は200℃レベルで電気抵抗率の十分に低いものが求められている。
【0028】
上記では、液晶表示装置を代表的に取上げて説明したが、前述した課題は液晶表示装置に限定されず、アモルファスシリコンTFT基板に共通して見られる。
【0029】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、下部バリアメタル層の省略を可能にすると共に、工程数を増やすことなく簡略化し、Al系合金膜をアモルファスシリコンチャネル膜に対し直接かつ確実に接続することができ、しかも、Al合金膜に対し、例えば、約100℃以上300℃以下の低い熱プロセス温度を適用した場合でも、低電気抵抗率化を達成することのできるソース−ドレイン電極を提供することにある。具体的には、約200℃×20分といった低温の熱処理を施した場合でも、当該Al合金膜の電気抵抗率で8Ω・cm以下を確実に達成することができ、処理温度の低温化に適合し得る様なソース−ドレイン電極を提供することにある。
【0030】
本発明の他の目的は、下部バリアメタル層だけでなく上部バリアメタル層の省略を可能にすることにより、Al系合金膜を、アモルファスシリコンチャネル膜に対してだけでなく透明画素電極に対しても直接かつ確実に接続し得る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記課題を解決することのできた本発明に係るソース−ドレイン電極は、合金成分としてNiを0.1〜6原子%含有するAl合金の薄膜からなり、該Al合金の薄膜は、該薄膜トランジスタの半導体層と直接接続しているところに要旨が存在する。
【0032】
好ましい実施形態において、前記Al合金は、合金成分として、更に、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,およびWよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を0.1〜1.0原子%含有する。
【0033】
好ましい実施形態において、前記Al合金は、合金成分として、更に、Mg,Cr,Mn,Ru,Rh,Pd,Ir,Pt,La,Gd,Tb,Dy,Nd,Y,Co,Fe,Ce,およびPrよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を0.1〜2.0原子%含有する。
【0034】
好ましい実施形態において、前記Al合金の薄膜と前記薄膜トランジスタの半導体層との界面に、Niを含有する化合物を含む。
【0035】
好ましい実施形態において、前記Niを含有する化合物は、前記Al合金に含まれるAlとNiとの金属間化合物、前記Al合金に含まれるNiと前記薄膜トランジスタの半導体層に含まれるSiとのシリサイドまたはシリコン化合物、および前記Al合金に含まれるAlとNiと前記薄膜トランジスタの半導体層に含まれるSiとの金属間化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の化合物である。
【0036】
好ましい実施形態において、前記Al合金の薄膜と前記薄膜トランジスタの半導体層との界面にNi濃化層が存在し、該Ni濃化層中の平均Ni濃度は、該Al合金中の平均Ni濃度の2倍以上である。
【0037】
好ましい実施形態において、前記Al合金の薄膜は、8μΩ・cm以下の電気抵抗率を有している。
【0038】
好ましい実施形態において、前記Al合金の薄膜は、更に、前記透明画素電極と直接接続している。
【0039】
好ましい実施形態において、前記Al合金の薄膜と前記透明画素電極との界面にAlOx(0<x≦0.8)を有している。
【0040】
好ましい実施形態において、前記Al合金の薄膜と前記透明画素電極との界面にNi濃化層が存在し、該Ni濃化層中の平均Ni濃度は、該Al合金中の平均Ni濃度の2倍以上である。
【0041】
好ましい実施形態において、前記透明画素電極は、酸化インジウム錫(ITO)または酸化インジウム亜鉛(IZO)から形成されている。
【0042】
本発明の薄膜トランジスタ基板は、上記のいずれかのソース−ドレイン電極を備えている。
【0043】
本発明の表示デバイスは、上記の薄膜トランジスタ基板を備えている。
【0044】
本発明に係る薄膜トランジスタ基板の製造方法は、上記の薄膜トランジスタ基板を製造する方法であって、薄膜トランジスタの半導体層が形成された基板を用意する工程(a)と、前記薄膜トランジスタの半導体層上に前記Al合金の薄膜を形成する工程(b)と、前記Al合金の薄膜上にシリコン窒化膜を堆積する工程(c)と、を含み、前記工程(c)は、100℃以上300℃以下の温度で加熱する工程を含む。
好ましい実施形態において、前記工程(b)はスパッタリング法を含む。
【発明の効果】
【0045】
本発明のソース−ドレイン電極は以上の様に構成されているため、Al系合金薄膜を薄膜トランジスタの半導体層と直接接続することができ、好ましくは、更に、当該Al系合金薄膜を透明画素電極とを直接接続することができる。そのため、本発明によれば、生産性に優れ、安価で且つ高性能の表示デバイスを提供することができる。
【0046】
更に、本発明によれば、約200℃程度といった比較的低い熱処理温度を適用したときでも十分に低い電気抵抗率を確保することができる。ここで言う熱処理温度とは、例えばTFTアレイの製造工程で最も高温となる処理温度を指し、一般的な表示デバイスの製造工程においては、各種膜形成のためのCVD成膜時の基板の加熱温度や、保護膜を熱硬化させる際の熱処理炉の温度などがこれに該当する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
本発明者は、薄膜トランジスタの半導体層に対し、ソース−ドレイン電極用のAl系合金薄膜を直接かつ確実に接続し得る新規な技術を提供するため、鋭意検討してきた。その結果、ソース−ドレイン電極として、Niを0.1〜6.0原子%含有するAl系合金(以下、Al−Ni合金と呼ぶ場合がある。)を用いれば、上記Al−Ni合金と薄膜トランジスタの半導体層との界面におけるAlとシリコンとの相互拡散を防止できるため、所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成した。本発明によれば、前述した下部バリアメタル層を省略できるだけでなく、更には、上部バリアメタル層をも省略できるため、上記のAl−Ni合金の薄膜を薄膜トランジスタの半導体層と直接接続できるだけでなく、透明画素電極とも直接接続することができる。
【0048】
本明細書において、「ソース−ドレイン電極」は、ソース−ドレイン電極自体と、ソース−ドレイン配線の両方を含んでいる。すなわち、本発明のソース−ドレイン電極は、ソース−ドレイン電極とソース−ドレイン配線とが一体に形成されたものであり、ソース−ドレイン配線はソース−ドレイン電極に接している。
【0049】
本発明の構成を詳しく説明する前に、前述した特許文献4の技術を踏まえて、本発明に到達した経緯を説明する。
【0050】
本発明者は、液晶表示装置に用いられる配線材料の特性や生産性などを改善すべく、研究を重ねてきた。
【0051】
はじめに、本発明者は透明画素電極用配線に着目し、透明画素電極と直接接続し得るAl系合金として、合金成分として、AuやAgの貴金属などを微量に含む合金薄膜を開発した(前述した特許文献4)。特許文献4に記載のAl系合金を用いれば、当該Al系合金薄膜と透明画素電極との界面に導電性の析出物が形成され、この析出物を通して大部分のコンタクト電流が流れるようになるため、従来のように、上記界面にAl酸化物の絶縁層が生成するのを防止することができる。
【0052】
次に、本発明者はソース−ドレイン配線に着目し、TFT基板において、従来のようにMoなどのバリアメタル層を介在させることなしに、薄膜トランジスタの半導体層と直接接続し得るAl系合金を提供するために、更に研究を重ねてきた。上記目的を達成するためには、前述した特許文献4の場合とは異なり、ソース−ドレイン配線用Al系合金薄膜と薄膜トランジスタの半導体層との界面において、シリコンとAlとの相互拡散(詳細なメカニズムは後記する。)を防止する必要がある。このような観点に基づき、本発明者は多くの実験を検討した結果、Al中に添加し得る多数の合金元素のうちNiが、上述したシリコンとAlとの相互拡散を有効に防止し得る作用を有することを見出し、本発明に到達した。
【0053】
ここで、Al系合金薄膜と薄膜トランジスタの半導体層との界面(以下、単に界面と呼ぶ場合がある。)における、シリコンとAlとの相互拡散を説明する。
【0054】
従来、薄膜トランジスタの半導体層と接続されるAl系合金薄膜の下にMoなどの下部バリアメタル層が形成される理由は、主に、上記界面において、TFTの成膜過程における熱処理によってシリコンがAl系合金薄膜へ拡散し、当該Al系合金薄膜の電気抵抗が上昇するためである。すなわち、シリコンがAl系合金薄膜の内部に侵入するとシリコンの析出物が生成され、これが固相成長して絶縁性のシリコンアイランドが形成されるため、ソース−ドレイン電極の電気抵抗が上昇してしまう。
【0055】
上記界面では、上述したシリコンの拡散と同時に、薄膜トランジスタの半導体層へのAlの拡散も起こる。薄膜トランジスタの半導体層へ拡散されたAlは、当該半導体層にドープされたPのキャリアを補償してしまい、上記界面の接触抵抗が上昇してしまう。
【0056】
薄膜トランジスタの半導体層に拡散されたAlは、更に、シリコンの空乏層(電荷がゼロになる領域)内にも拡散して欠陥準位が形成されるため、半導体層を流れる電流の異常が見られる。その結果、特に、TFTのスイッチングのオフ時に流れるリーク電流(オフ電流)が増加し、スイッチングが不可能となってしまう。また、オフ時の消費電力が大きくなってしまう。
【0057】
従って、本発明と前述した特許文献4とは、Al中に添加し得る合金元素に要求される特性が相違している。すなわち、特許文献4では、透明画素電極に直接接続し得る配線材料として、Al系合金薄膜と透明画素電極との界面におけるAlの酸化を防止するという観点から、Al合金中に添加し得る元素を特定しているのに対し、本発明では、薄膜トランジスタの半導体層と直接接続し得るソース−ドレイン配線材料として、Al系合金薄膜と半導体層との界面におけるシリコンの拡散を防止するという観点から、Al合金中に添加し得る元素を特定しており、両者は、配線材料に要求される特性が相違している。
【0058】
次に、本発明に用いられるAl−Ni合金を説明する。
【0059】
上述したように、本発明では、ソース−ドレイン電極として、Niを0.1〜6原子%含有するAl合金を用いている。これにより、比較的低い熱処理温度で、Al−Ni合金と薄膜トランジスタの半導体層との接触界面に、上記界面におけるシリコンやAlの拡散を防止するNi含有析出物もしくはNi濃化層を形成させることができ、オフ電流を低減できる(後記する実施例を参照)。
【0060】
ここで、「Ni含有析出物」とは、上記Al−Ni合金に含まれるAlとNiとの金属間化合物、上記Al−Ni合金に含まれるNiと薄膜トランジスタの半導体層に含まれるSiとのシリサイドまたはシリコン化合物、および上記Al−Ni合金に含まれるAlとNiと薄膜トランジスタの半導体層に含まれるSiとの金属間化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の化合物を意味する。
【0061】
また、「Ni濃化層」とは、上記Al−Ni合金薄膜と薄膜トランジスタの半導体層との界面に存在しており、当該Ni濃化層中の平均Ni濃度が、上記Al−Ni合金中の平均Ni濃度の2倍以上(好ましくは2.5倍以上)であるものを意味する。Ni濃化層の好ましい厚さは0.5nm以上、より好ましくは1.0nm以上で、10nm以下、より好ましくは5nm以下である。
【0062】
後記する実施例に示すように、Niが0.1原子%未満では、Al−Ni合金とアモルファスシリコン薄膜との界面におけるシリコンやAlの拡散を有効に防止することができない。ただし、Niの含有量が6原子%を超えると、Al−Ni合金薄膜の電気抵抗が高くなって画素の応答速度が遅くなり、消費電力が増大してディスプレイとしての品位が低下し、実用に供し得なくなる。これらの利害得失を考慮して上記範囲を定めた。Niの含有量は、0.3原子%以上5原子%以下であることが好ましく、0.5原子%以上であることがより好ましい。
【0063】
本発明に用いられるAl−Ni合金は、合金成分として、更に、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,およびWよりなる群(以下、グループαということがある。)から選択される少なくとも一種の元素を0.1〜1.0原子%含有することが好ましい。このようにグループαに属する元素を含有するAl−Ni合金(以下、Al−Ni−α合金と呼ぶ場合がある。)を用いることにより、前述したシリコンとアルミニウムとの相互拡散防止作用が一層発揮されるだけでなく、Al系合金薄膜の表面にヒロック(コブ状の突起物)が形成されるのも有効に防止できる。上記グループαに属する元素の含有量が0.1原子%未満の場合、上記作用を有効に発揮することができない。一方、上記グループαに属する元素の含有量が1.0原子%を超えると、上記作用は向上する反面、膜素材に対する電気抵抗率が上昇してしまう。これらの両面を考慮すると、グループαに属する元素の含有量は、0.2原子%以上、0.8原子%以下であることが好ましい。これらの元素は、単独で添加しても良く、2種以上を併用してもよい。2種以上の元素を添加するときは、各元素の合計の含有量が上記範囲を満足すればよい。
【0064】
あるいは、本発明に用いられるAl−Ni合金は、合金成分として、更に、Mg,Cr,Mn,Ru,Rh,Pd,Ir,Pt,La,Gd,Tb,Dy,Nd,Y,Co,Fe,Ce,およびPrよりなる群(以下、グループβということがある。)から選択される少なくとも一種の元素を0.1〜2.0原子%含有することが好ましい。このようにグループβに属する元素を含有するAl−Ni合金(以下、Al−Ni−β合金と呼ぶ場合がある。)を用いることにより、前述したシリコンとアルミニウムとの相互拡散防止作用が一層発揮されるだけでなく、Al系合金薄膜の表面にヒロック(コブ状の突起物)が形成されるのも有効に防止できる。上記グループβに属する元素の含有量が0.1原子%未満の場合、上記作用が有効に発揮されない。ただし、上記グループβに属する元素の含有量が2.0原子%を超えると、上記作用は向上する反面、膜素材に対する電気抵抗率が上昇してしまう。これらの両面を考慮すると、グループβに属する元素の含有量は、0.3原子%以上、1.8原子%以下であることが好ましい。これらの元素は、単独で添加しても良く、2種以上を併用してもよい。2種以上の元素を添加するときは、各元素の合計の含有量が上記範囲を満足すればよい。
【0065】
本発明では、上記Al−Ni合金に、これらグループαの元素およびグループβの元素を両方添加したAl−Ni−α−β合金を用いることもできる。
【0066】
ここで、ヒロックが形成される理由を説明する。
【0067】
ヒロックは、TFT基板の製造工程において、純AlやAl−Nd合金薄膜を形成した後、シリコン窒化膜(保護膜)を形成するときに施される加熱処理(一般に、約300℃から400℃)によって形成されると考えられている。すなわち、Al系合金薄膜が形成された基板は、その後、CVD法などによってシリコン窒化膜(保護膜)が形成されるが、このとき、Al系合金薄膜に施される高温の熱によってガラス基板との間に熱膨張の差が生じ、ヒロックが形成されると推察されている。
【0068】
前述したように、上記グループα,βに属する元素は、いずれも、耐熱性と電気抵抗率の低減効果との観点から選択したものであるが、耐熱性に対するメカニズムは、上記グループαとグループβとの間で、若干相違している。以下、図12を用いて詳しく説明する。
【0069】
図12は、Al薄膜の温度と応力(ストレス)との関係を模式的に説明する図である。図12において、「A」は純Alを、「B」はグループβに属する元素が添加されたAl−β合金を、「C」はグループαに属する元素が添加されたAl−α合金を、それぞれ、示している。
【0070】
図12に示すように、グループβに属する元素が添加されたAl−β合金膜「B」は、温度の上昇と共に圧縮応力が増大する。温度上昇の初期には粒成長抑制効果を示すものの、比較的低い温度で粒成長が開始し、狭い温度域で急激にストレスが緩和される。このときに、当該合金中に含まれる固溶元素が短時間のうちに金属間化合物として析出し、それに合わせてAlの粒成長が進行し電気抵抗率が低下すると考えられる。即ち、相対的に低い加熱温度で十分な電気抵抗率の低減化が達成される。一方、完全にストレスが緩和した状態で更に加熱すると、薄膜内部で発生した圧縮応力で結晶粒が押し出され、ヒロック等が発生し易くなる。当該合金の耐熱温度は、このストレスが緩和される温度付近であると考えられる。
【0071】
一方、グループαに属する元素が添加されたAl−α合金膜も、Al−β合金膜と同様に温度の上昇と共に圧縮応力が高まり、上記と同様の温度域でAlの粒成長が開始される。しかしながら、図12に示すように、グループαに属する元素は、固溶状態から拡散し金属間化合物として析出する速度が相対的に遅く、広い温度域で徐々に金属間化合物が析出し、この析出に伴ってストレスが徐々に緩和される。そのため、ストレスが十分に緩和されて固溶元素の殆どが金属間化合物として析出し、同時にAlの粒成長が進行して膜母材が十分に電気伝導率が低減されるまでには、かなりの加熱と時間を必要とし、その分、耐熱性は高まる。即ち、グループαに属する元素は、上記グループβに属する元素に較べると、金属間化合物の析出が遅れる分だけ耐熱性を高める効果がより高いと考えられ、よって添加量を相対的に少なく抑えても十分な耐熱性改善効果が得られる。
【0072】
このようにグループαとグループβに属する元素は、耐熱性のメカニズムが相違するため、添加量(上限)も相違している。
【0073】
また、コンタクト抵抗率についても、グループαに属する元素は、グループβに属する元素より添加量を少なくしてもコンタクト抵抗率を基準値レベルまで下げることができる。このような作用は、相対的に低い加熱温度で処理した場合でも、同様に見られた。
【0074】
しかもグループαに属する元素は、グループβに属する元素に比べると、添加量をあまり多くすることはできないが、電極膜にボイド(空孔)が生成し難いという特徴を有している。即ち、グループβに属する元素の如く、加熱時の狭い温度域で一気に金属間化合物が析出する元素を選択した場合、粒成長が進むほど、加熱後に室温まで降温したときに膜内部に強い引張応力が生じてボイド発生の原因になる恐れがある。しかし、グループβに属する元素の如く、昇温と共に金属間化合物が時間をかけて徐々に析出する合金系では、グループβと同じ温度域まで加熱すると析出と粒成長が中断されるので応力の緩和が十分に進まず、その後に室温まで降温したときの当該膜に残る引張応力は小さくなる。引張応力に起因するボイドの発生を防止するという観点に基づけば、グループαに属する元素を選択することが好ましい。
【0075】
これらのAl−Ni合金薄膜は、蒸着法やスパッタリング法などによって形成することが好ましく、スパッタリング法によって形成することがより好ましい。
【0076】
前述したソース−ドレイン配線用のAl−Ni合金薄膜は、透明画素電極と直接接続していることが好ましく、このようなTFT基板も本発明の範囲内に包含される。
【0077】
ここで、Al−Ni合金薄膜と透明画素電極との界面にはAlOx(0<x≦0.8)を有していることが好ましい。このような導電性の酸化物を上記界面に形成することによって上記界面のコンタクト抵抗率を約8×10−5Ω・cm以下に低減することができる。
【0078】
上記AlOxの厚さは、1〜10nmの範囲内であることが好ましく、2〜8nmの範囲内であることがより好ましく、おおむね、5nm前後であることが最も好ましい。
【0079】
ちなみに従来法では、純AlやAl−Nd合金などを透明導電膜と直接コンタクトさせているため、コンタクト抵抗が高くて非オーミック接触となる。その理由は、接触界面に形成される酸化アルミニウム層が、化学量論組成の酸化Al(Al23)とほぼ同程度の酸素を含む高抵抗の膜となり、且つ当該酸化アルミニウム層も厚くなるためと思われる。
【0080】
このような導電性の酸化皮膜(AlOx)は、具体的には、例えば、下記の方法を用いて形成される。まず、基板温度を好ましくは100〜200℃の範囲に設定し、アルゴン等の非酸化性ガスを用い、例えば厚さ5〜20nm(好ましくは10nm程度)の成膜を行う。この間、すなわち、透明画素電極を構成するITO膜の成膜初期段階では、Al−Ni合金薄膜の表面を極力酸化しないよう、酸素無添加の雰囲気下で成膜する。なお、酸素無添加の雰囲気下で成膜を行うと、スパッタリング法によって形成されるITO膜内の酸素含量が少なくなり、当該ITO膜そのものの導電率は低下する。しかし、このときに、基板に対して適度の加熱を行なうとITOの結晶性が高まり、ITO膜としての導電率の低下を補うことができる。
【0081】
次に、上記基板の温度を維持しつつ、雰囲気ガスを、非酸化性ガスから、非酸化性ガスに酸素を混入した酸素含有ガスに変更し、例えば厚さ20〜200nm程度(好ましくは40nm前後)の成膜を行う。このとき雰囲気ガスへの酸素の添加量は特に制限されないが、代表的な条件としては、例えばアルゴン1〜5mTorr程度(好ましくは3mTorr前後)に対し、酸素10〜50μTorr(好ましくは20μTorr前後)に制御することが好ましい。この様な条件を採用すると、形成されるITO膜の電気抵抗率は最も低くなり、1×10-4Ω・cm程度以下になることを実験によって確認している。尚、酸素を添加する代わりに、水蒸気を添加することによっても同様の効果が得られる。このようにスパッタリング法によるITO膜の形成を、雰囲気ガスの酸素含量を変えて2段階(または多段回)で行うことにより、ITO成膜初期のAl合金膜の酸化を抑制しつつ、一方でITO膜自体は十分な高導電率を確保することが可能となる。
【0082】
更に、Al−Ni合金薄膜と透明画素電極との界面にはNi濃化層が存在し、Ni濃化層中の平均Ni濃度は、当該Al−Ni合金中の平均Ni濃度の2倍以上(より好ましくは2.5倍以上)であることが好ましい。これにより、上記界面のコンタクト抵抗率を更に約8×10−5Ω・cm以下まで低減することができる。Ni濃化層の厚さは、0.5nm以上、10nm以下であることが好ましく、1.0nm以上、5nm以下であることがより好ましい。
【0083】
上述したAl−Ni合金薄膜を用いて液晶表示装置を試作したところ、後記する実施例に示すように、Moなどのバリアメタル層を介在させた従来のAl系合金薄膜を用いた場合と同等レベル以上のTFT特性を実現できることが確認された。従って、本発明によれば、バリアメタル層の省略によって製造工程を簡略化することができ、製造コストを低減できる。しかも、本発明によれば、約200℃といった比較的低い熱プロセス温度で十分な低電気抵抗率化を達成できるので、表示デバイス構成素材の種類や処理条件の選択の幅を一段と拡大することが可能となる。
【0084】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るTFT基板の好ましい実施形態を説明する。以下では、アモルファスシリコンTFT基板を備えた液晶表示装置を代表的に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。本発明に用いられるAl−Ni合金薄膜は、例えば、反射型液晶表示デバイス等の反射電極、外部への信号入出力のために使用されるTAB(タブ)接続電極にも同様に適用できることを実験により確認している。
【0085】
(実施形態1)
図3を参照しながら、アモルファスシリコンTFT基板の実施形態を詳細に説明する。
【0086】
図3は、本発明に係るTFT基板の好ましい実施形態を説明する概略断面説明図である。図3では、従来のTFT基板を示す前述した図2と同じ参照番号を付している。
【0087】
図2と図3とを対比すると明らかなように、従来のTFT基板では、図2に示すように、ソース−ドレイン電極の下にMoなどのバリアメタル層(下部バリアメタル層)53が形成されているのに対し、本発明のTFT基板では、下部バリアメタル層53を省略することができる。本実施形態によれば、従来のように下部バリアメタル層を介在させることなく、ソース−ドレイン配線をアモルファスシリコン薄膜と直接接続することができ、これによっても、従来のTFT基板と同程度以上の良好なTFT特性を実現できる(後記する実施例1から2を参照)。
【0088】
図3では、ソース−ドレイン配線の上に上部バリアメタル層54が形成された実施形態を示しているが、後記する実施形態2に示すように、上部バリアメタル層54を省略することもできる。
【0089】
更に、図3に示すTFT基板において、走査線25およびゲート電極26の上に、それぞれ、形成されたバリアメタル層51、52を省略することもできる。
【0090】
従って、本発明によれば、配線材料に不可欠であったバリアメタル層をすべて省略することが可能である。
【0091】
次に、図4を参照しながら、図3に示す本発明に係るTFT基板の製造方法を説明する。ここでは、ソース−ドレイン電極として、2.0原子%のNiを含有するAl−Ni合金を使用している。図4には、図3と同じ参照符号を付している。
【0092】
まず、ガラス基板1a上に、スパッタリング法を用いて、厚さ250nm程度のAl系合金薄膜(Al−2.0原子%Nd)および厚さ50nm程度のMo薄膜52を順次積層する。スパッタリングの成膜温度は、室温とした。この積層薄膜をパターニングすることにより、ゲート電極26および走査線25を形成する(図4(a))。このとき、後記する図4(b)に示す工程において、ゲート絶縁膜27のカバレッジ性が良くなるように、上記積層薄膜の周縁を約30°〜60°のテーパー状にエッチングしておくのがよい。
【0093】
次いで、図4(b)に示すように、例えばプラズマCVD法などの方法を用いて、厚さ約300nm程度のシリコン窒化膜(ゲート絶縁膜)27を形成する。プラズマCVD法の成膜温度は、約350℃とした。続いて、例えばプラズマCVD法を用いて、シリコン窒化膜(ゲート絶縁膜)27の上に、厚さ200nm程度のノンドーピング水素化アモルファスシリコン膜(a−Si−H)55および厚さ約80nmのリンをドーピングしたn型水素化アモルファスシリコン膜(na−Si−H)56を順次積層する。n型水素化アモルファスシリコン膜は、例えば、PHガスを所定分圧添加したプラズマCVD法を行うことによって形成される。
【0094】
このようにして形成された水素化アモルファスシリコン膜55およびn型水素化アモルファスシリコン膜56を、図4(c)に示すようにパターニングする。
【0095】
次に、図4(d)に示すように、スパッタリング法を用いて、厚さ300nm程度のAl−2.0原子%Ni合金膜と厚さ50nm程度のMo膜53とを順次積層する。スパッタリングの成膜温度は、室温とした。本実施例によれば、従来のように、アモルファスシリコン薄膜の下にMoの下部バリアメタル層を介在させなくても、下部バリアメタル層を介在させたときとほぼ同程度のオフ電流を実現することができる。なお、本実施例では、Al−2.0原子%Ni合金膜の上にMo膜53を積層しているが、後記する実施例2に示すように、Mo膜53を省略することもできる。
【0096】
このような積層薄膜をパターニングすることにより、信号線と一体のソース電極28と、ドレイン電極29とが形成される(図4(d))。更に、ソース電極28およびドレイン電極29をマスクとして、n型水素化アモルファスシリコン膜56をドライエッチングして除去する(図4(d))。
【0097】
そして、図4(e)に示すように、例えばプラズマCVD装置などを用いて厚さ300nm程度のシリコン窒化膜(保護膜)30を形成する。このときの成膜は、約200℃で行なった。次に、シリコン窒化膜30にドライエッチング等を行うことによってコンタクトホール57を形成する。
【0098】
次に、例えば酸素プラズマによるアッシング工程を経た後、例えばアミン系等の剥離液を用いてフォトレジスト層(不図示)を剥離する。最後に、図4(f)に示すように厚さ50nm程度のITO膜(酸化インジウムに10質量%の酸化スズを添加)を成膜する。次いで、ウェットエッチングによるパターニングを行って透明画素電極5を形成すると、TFT基板が完成する。
【0099】
上記では、透明画素電極5として、ITO膜を用いたが、IZO膜を用いてもよい。また、活性半導体層として、アモルファスシリコンの代わりにポリシリコンを用いてもよい。
【0100】
このようにして得られるTFT基板を使用し、例えば、以下に記載の方法によって、前述した図1に示す液晶表示装置を完成させる。
【0101】
まず、上記のようにして作製したTFT基板1の表面に、例えばポリイミドを塗布し、乾燥してからラビング処理を行って配向膜を形成する。
【0102】
一方、対向基板2は、ガラス基板上に、例えばクロムをマトリックス状にパターニングすることによって遮光膜9を形成する。次に、遮光膜9の間隙に、樹脂製の赤、緑、青のカラーフィルタ8を形成する。遮光膜9とカラーフィルタ8上に、ITO膜のような透明導電性膜を共通電極7として配置することによって対向電極を形成する。そして、対向電極の最上層に例えばポリイミドを塗布し、乾燥した後、ラビング処理を行って配向膜11を形成する。
【0103】
次いで、TFT基板1と対向基板2の配向膜11が形成されている面とを夫々対向するように配置し、樹脂製などのシール材16により、液晶の封入口を除いてTFT基板1と対向基板22枚とを貼り合わせる。このとき、TFT基板1と対向基板2との間には、スペーサー15を介在させるなどして2枚の基板間のギャップを略一定に保つ。
【0104】
このようにして得られる空セルを真空中に置き、封入口を液晶に浸した状態で徐々に大気圧に戻していくことにより、空セルに液晶分子を含む液晶材料を注入して液晶層を形成し、封入口を封止する。最後に、空セルの外側の両面に偏光板10を貼り付けて液晶パネルを完成させる。
【0105】
次に、図1に示したように、液晶表示装置を駆動するドライバ回路13を液晶パネルに電気的に接続し、液晶パネルの側部あるいは裏面部に配置する。そして、液晶パネルの表示面となる開口を含む保持フレーム23と、面光源をなすバックライト22と導光板20と保持フレーム23によって液晶パネルを保持し、液晶表示装置を完成させる。
【0106】
(実施形態2)
実施形態2のTFT基板は、図2に示すTFT基板において、上部バリアメタル層54および下部バリアメタル層53の両方が省略されている点で、前述した実施形態1のように下部バリアメタル層53のみが省略されたTFT基板と相違している。その他の構成は、同じである。
【0107】
本実施形態のTFT基板は、実施形態1において、ガラス基板1a上に、厚さ300nm程度のAl系合金薄膜(Al−2,0原子%Nd)のみを形成し、Moを形成しなかったことを除き、前述した実施形態1と同様の方法によって作製することができる。本実施形態によれば、Al−Ni合金薄膜は、アモルファスシリコン薄膜と直接接続されており、かつ、透明画素電極とも直接接続されている。このように、本実施形態によれば、透明画素電極に接続される配線上のバリアメタル層も省略できるだけでなく、従来のTFT基板と同程度以上の良好なTFT特性を実現できる(後記する実施例3から4を参照)。
【実施例】
【0108】
実施例1
実施例1および後記する実施例2では、前述した実施形態1のTFT基板を用い、下部バリアメタル層を省略しても優れたTFT特性などが得られることを確認する目的で、種々の実験を行った。これらの実施例では、すべて、ソース−ドレイン電極として、Al−2.0原子%Ni合金を用いており、以下では、Al−Ni合金薄膜と略記する。
【0109】
本実施例および後記する実施例において、Ni量はGD−OES(グロー放電発光分光分析法)により、Ni濃化層およびAl酸化皮膜の厚さは断面TEM観察により、Ni濃化層中のNi含有量およびAl酸化皮膜中の酸素含有量は断面TEM観察試料をEDXで組成分析することによって、それぞれ調べた。
【0110】
(アモルファスシリコン薄膜とAl−Ni合金薄膜との界面付近の観察)
はじめに、本発明によれば、アモルファスシリコン薄膜とソース−ドレイン電極用Al−Ni合金薄膜との界面付近に、導電性に優れたNi濃化層が形成されることを、TFTの製造工程を追って調べた。
【0111】
まず、アモルファスシリコン薄膜上にAl−Ni合金を室温で成膜した直後における上記界面付近の状況を調べた。図5Aは、上記界面の断面TEM写真であり、図5Bは、TEM写真と同じ観察位置におけるHAADF−STEM(高角度暗視野走査型電子顕微鏡)像である。TEM写真によって界面の組成が分かり、HAADF−STEMによってNiの分布状態が分かる。
【0112】
図5Aに示すように、Al−Ni合金薄膜は、柱状の結晶粒界を有していることが分かる。上記界面をEDX(エネルギー分散型X線分光法)によって分析した結果、SiとAlとの相互拡散は見られなかった。
【0113】
図5Bにおいて、白く光っている部分(図中、矢印部分)はNiである。すなわち、アモルファスシリコン薄膜上にAl−Ni合金を成膜した直後において、すでに、上記界面のAl−Ni合金薄膜側にNiの濃化が認められた。
【0114】
次に、TFTの製造工程をすべて完了したときにおける、アモルファスシリコン薄膜とAl−Ni合金薄膜との界面付近の状況を同様に調べた。図6Aは、上記界面の断面TEM写真であり、図6Bは、TEM写真と同じ観察位置におけるHAADF−STEM像を示す写真である。
【0115】
前述したとおり、本実施形態のTFT基板を作製するに当たっては、アモルファスシリコン薄膜上にAl−Ni合金を成膜した後にも、種々の成膜工程が施されるが、そのうち、熱履歴が最高温度になる工程は、シリコン窒化膜(保護膜)の成膜工程であり、予備加熱も含めて200℃で20分間の熱処理を行っている。
【0116】
図6Aに示すように、本実施形態によれば、この様な成膜工程を経た後においても、上記界面において、Niは、柱状の結晶粒界を維持していることが分かった。更に、アモルファスシリコン薄膜とAl−Ni合金薄膜との界面は、前述した図5Aと同様、平坦に保たれており、EDXによる分析によっても、シリコンとAlとの相互拡散は見られなかった。
【0117】
また、図6Bに示すように、上記界面には、Niを含む析出物や金属間化合物が形成されていることが分かる。
【0118】
更に、TFTの製造工程をすべて完了したときにおける、アモルファスシリコン薄膜とAl−Ni合金薄膜との界面付近のNi濃度分布をGD−OES(グロー放電発光分光分析法)を用いて調べた。GD−OESでは、Arグロー放電によるスパッタ現象を利用し、スパッタされた元素の固有発光を測定することによって当該元素の濃度を測定している。ここでは、スパッタ領域を3mmφとし、3mmφでの面空間の平均Ni濃度を調べた。その結果を図7(b)に示す。
【0119】
比較のために、アモルファスシリコン薄膜上にAl−Ni合金を室温で成膜した直後における上記界面付近のNi濃度分布を上記と同様に調べた。その結果を図7(a)に示す。
【0120】
図7(a)と図7(b)とを対比すると明らかなように、Al−Ni合金薄膜を成膜した直後は、上記界面付近のNi濃度は、ほぼ、一定であったのに対し、すべての成膜工程を完了した後には、上記界面近傍にNi濃化層の形成が認められた。この結果は、前述した図6Bに示すHAADF−STEM像の結果と一致しており、Ni濃化層は、おそらく、AlNiの金属間化合物の形態で析出していると考えられる。詳細には、このようなNi濃化層は、Al−Ni合金薄膜の上記界面側約50nm以内の範囲に形成されており、Ni量の最大値は約4.0原子%であった。
【0121】
(TFT特性)
次に、本実施形態におけるTFT基板上のTFTのドレイン電流−ゲート電圧のスイッチング特性を調べた。これによっても、アモルファスシリコン薄膜へのAlの拡散を評価することができる。ここでは、TFTのスイッチングのオフ時に流れるリーク電流(ゲート電圧に負電圧を印加したときのドレイン電流値、すなわち、オフ電流)の変化量と、TFTのスイッチングのオン時に流れるしきい値(ゲート電圧値)の変化量とを以下のようにして測定した。
【0122】
ゲート長(L)3μm、ゲート幅(W)30μm、W/Lの比が10のTFTを用い、ドレイン電流およびゲート電圧を測定した。測定時のドレイン電圧は10Vとした。オフ電流はゲート電圧(−5V)を印加したときの電流と定義し、しきい値はドレイン電流が10−8Aとなるときのゲート電圧と定義した。
【0123】
オフ電流の評価は、従来のソース−ドレイン配線(Al−Nd合金の上および下に、それぞれ、Moのバリアメタル層を形成した積層配線)を用いたときのオフ電流(3×10−12A)を基準値とし、上記基準値に対して1桁の増加の範囲内(3×10−11A)に含まれるものを良好、上記範囲を超えるものを不良とした。
【0124】
その結果、上記TFTのオフ電流は5×10−12Aであり、従来のソース−ドレイン配線(Al−Nd合金の上および下に、それぞれ、Moのバリアメタル層を形成した積層配線)を用いたときのオフ電流(3×10−12A)と、ほぼ、同程度であった。また、上記TFTのしきい値は0.45Vであり、上述した従来の積層配線を用いたときの値(0.45V)と同じであった。
【0125】
以上の結果より、本実施形態のTFT基板を用いれば、下部バリアメタル層を省略しても、従来のソース−ドレイン配線を用いて形成されたTFT基板と同程度のTFT特性を実現できることが確認された。
【0126】
(比較例)
比較のために、前述した実施形態1において、ソース−ドレイン配線として、Al−2.0原子%Ni合金の代わりに純Alを用いたこと以外は実施形態1と同様にしてTFT基板を作製した。次に、前述した実施例1と同様にして、アモルファスシリコン薄膜とソース−ドレイン電極用純Al薄膜との界面付近をTEMで観察した。
【0127】
はじめに、アモルファスシリコン薄膜上に純Alを室温で成膜した直後における上記界面付近の状況を調べた。図8Aは、上記界面の断面を示すTEM写真であり、図8Bは、倍率を高めたときの界面の断面を示すTEM写真である。図8Bには、EDX分析の結果を併記している。
【0128】
図8Aおよび図8Bに示すように、純Al薄膜は、不規則な結晶粒界を有している。上記界面をEDXで分析したところ、当該界面のアモルファスシリコン側10nm付近にわたって10原子%程度のAlの存在が確認された。すなわち、本比較例によれば、アモルファスシリコン薄膜上に純Al合金を成膜した直後において、すでに、上記界面にAlの拡散が認められた。
【0129】
次に、TFTの製造工程をすべて完了したときにおける、アモルファスシリコン薄膜と純Al薄膜との界面付近の状況を同様に調べた。図9Aは、上記界面の断面を示すTEM写真であり、図9Bは、TEM写真と同じ観察位置をEDXで分析したときのマッピング像(SiマップおよびAlマップ)である。
【0130】
図9Aに示すように、本比較例によれば、すべての成膜工程を経た後では、Alの拡散は更に進んでおり、上記界面付近で、AlとSiとは相互拡散していることが分かる。
【0131】
詳細には、図9BのSiマップおよびAlマップから明らかなように、Alは上記界面のアモルファスシリコン側100nm付近にわたって拡散しており、Siは上記界面の純Al側250nm付近にわたって拡散していることが確認された。
【0132】
更に、前述した実施例1と同様にして比較例のTFT特性を調べた。その結果、上記TFTのオフ電流は1×10−8Aであり、従来の積層配線を用いたときのオフ電流(3×10−12A)に比べて著しく上昇した。同様に、上記TFTのしきい値は2.5Vであり、従来の積層配線を用いたときの値(0.45V)よりも著しく上昇した。
【0133】
以上の結果より、ソース−ドレイン配線として純Alを用いた場合、下部バリアメタル層を省略してTFTを作製すると、TFTのスイッチング特性は全く機能しないことが分かった。従って、純Alを用いてTFTを作製するときは、バリアメタル層の形成が不可欠であることが確認された。
【0134】
(実施例2)
本実施例では、Al合金に添加されるNi量を表1に示す範囲で変化させた種々のAl−Ni合金を用い、前述した実施例1と同様にしてTFT特性(オフ電流およびしきい値の各変化量)を測定した。更に、Al−2.0原子%Niに対し、第三成分としてLaまたはNdを表1に示す範囲で添加したAl−2.0原子%Ni−La合金若しくはAl−2.0原子%Ni−Nd合金、またはAl−0.1原子%Niに対し、第三成分としてLaを表1に示す範囲で添加したAl−0.1原子%Ni−La合金を用い、同様にTFT特性を調べた。
【0135】
比較のため、Al−Ni合金の代わりに、純Al、Mo、およびAl−1原子%Siを用いたときのTFT特性を同様に測定した。
【0136】
オフ電流の評価は、従来のソース−ドレイン配線(Al−Nd合金の上および下に、それぞれ、Moのバリアメタル層を形成した積層配線)を用いたときのオフ電流(3×10−12A)を基準値とし、上記基準値に対して1桁の増加の範囲内(3×10−11A)に含まれるものを良好、上記範囲を超えるものを不良とした。
【0137】
また、しきい値の評価は、Moのしきい値に対して±0.2Vの範囲内に含まれるものを良好とし、上記範囲を超えるものを不良とした。
【0138】
TFT特性は、このようにして評価されるオフ電流およびしきい値を総合的に判断し、いずれの特性も良好なものを「○」、いずれかの特性が不良またはいずれの特性も不良なものを「×」と評価した。
【0139】
(耐熱性)
更に、本実施例に使用した純Alおよび各種Al合金について、以下のようにして耐熱性を評価した。
【0140】
まず、ガラス基板上に、スパッタリング法によって厚さ約200nmの前記純Al膜またはAl合金膜の試料を作製した。これらの試料に対し、10μm幅のラインアンドスペースパターンを形成した。次に、これらの試料を1×10−3Torr以下の真空下で、200℃×1時間または300℃×1時間の加熱処理を、それぞれ行い、薄膜表面の変化を光学顕微鏡(倍率400倍)で観察した。ヒロックの発生が1×10個/m超見られたものを「×」とし、それ以外を「○」とした。
【0141】
これらの結果を表1にまとめて示す。
【0142】
【表1】

【0143】
表1より、Al合金中にNiを0.1原子%以上添加すると、良好なTFT特性が得られることが分かる。
【0144】
また、Al−2.0原子%Niに対し、Laを0.1原子%から2.0原子%、またはNdを0.1原子%から1.0原子%の範囲内でそれぞれ添加すると、良好なTFT特性が得られるだけでなく、耐熱性も高められた。同様の傾向は、Al−0.1原子%Niに対し、Laを添加した場合にも見られた。
【0145】
これに対し、純Al、Mo、およびAl−1原子%Siを用いたときは、いずれも、TFT特性および耐熱性が著しく低下した。
【0146】
(実施例3)
実施例3および後記する実施例4では、前述した実施形態2のTFT基板を用い、下部バリアメタル層および上部バリアメタル層の両方を省略しても優れたTFT特性などが得られることを確認する目的で、以下の実験を行った。
【0147】
(TFT特性)
まず、上記TFTを用い、前述した実施例1と同様にしてTFT特性を調べた。その結果、上記TFTのオフ電流は4×10−12Aであり、従来のソース−ドレイン配線を用いたときのオフ電流(3×10−12A)と、ほぼ、同程度であった。また、上記TFTのしきい値は0.45Vであり、上述した従来の積層配線を用いたときの値(0.45V)と同じであった。
【0148】
次に、Al−2.0原子%Ni合金薄を透明画素電極に直接接続したときのダイレクト接触抵抗(コンタクト抵抗)を以下の方法によって測定した。
【0149】
1)透明画素電極:酸化インジウムに10質量%の酸化スズを加えた酸化インジウム錫(ITO)を使用した。
2)薄膜形成条件:雰囲気ガス=アルゴン、圧力=3mTorr、厚さ=200nm、
3)加熱条件:200℃×20分
4)コンタクト抵抗率の測定法:
図10に示すケルビンパターン(コンタクトホールサイズ:10μm角)を作製し、4端子測定[ITO−Al合金に電流を流し、別の端子でITO(またはIZO)−Al合金間の電圧降下を測定する方法]を行った。すなわち、図10のI―I間に電流Iを流し、V1−V2間の電圧Vをモニターすることにより、接触部Cのダイレクト接触抵抗率Rを[R=(V2−V1)/I2]として求めた。コンタクト抵抗率は、Cr薄膜とITO
とのコンタクト抵抗率(2×10−4Ω・cm以下)を基準値とし、上記基準値の範囲内にあるものを良好(○)、上記基準値を超えるものを不良(×)とした。
【0150】
その結果、コンタクト抵抗率は8×10−5Ω・cm以下であり、良好なTFT特性を有することが分かった。
【0151】
(ITO膜(透明画素電極)とAl−Ni合金薄膜との界面付近の観察)
次に、ITO膜とAl−Ni合金薄膜との界面を断面TEMで観察するとともに、EDXで組成分析を行った。その結果を図10に示す。
【0152】
図11より、上記界面には、約5nm程度の酸化Al(AlOx)の導電層が形成されていることが分かる。更に、AlOxの導電層とバルクのAl−Ni合金薄膜との界面には、厚さ1nm程度のNi濃化層(Ni含有量は約8原子%)も形成されていた。これは、Alの酸化が進行するにつれてAlは酸化皮膜方向へ拡散し、Niはバルク方向へ拡散すること、また、コンタクトホールをドライエッチングする際にNiの方が残渣として残り易いことが原因と考えられる。これらの影響によってNi濃化層が形成されると、Al合金バルクからのAlイオンの拡散が抑えられ、Alの酸化抑制効果が期待される。
【0153】
(実施例4)
本実施例では、Al合金に添加されるNi量を表2に示す範囲で変化させた種々のAl−Ni合金を用い、前述した実施例3と同様にしてTFT特性(オフ電流およびしきい値の各変化量)を測定した。更に、Al−2.0原子%Niに対し、第三成分としてLaまたはNdを表2に示す範囲で添加したAl−2.0原子%Ni−La合金若しくはAl−2.0原子%Ni−Nd合金、またはAl−0.1原子%Niに対し、第三成分としてLaを表2に示す範囲で添加したAl−0.1原子%Ni−La合金を用い、同様にTFT特性を調べた。
【0154】
比較のため、Al−Ni合金の代わりに、純Al、Mo、およびAl−1原子%Siを用いたときのTFT特性を同様に測定した。オフ電流の評価基準は、前述した実施例2と同じである。これらの結果を表2にまとめて示す。
【0155】
【表2】

【0156】
表2より、Al合金中にNiを0.1原子%以上添加すると、良好なTFT特性が得られることが分かる。
【0157】
また、Al−2.0原子%Niに対し、Laを0.1原子%から2.0原子%、またはNdを0.1原子%から1.0原子%の範囲内でそれぞれ添加すると、いずれも、良好なTFT特性が得られた。同様の傾向は、Al−0.1原子%Niに対し、Laを添加した場合にも見られた。
【0158】
これに対し、純Al、Mo、およびAl−1原子%Siを用いたときは、いずれも、TFT特性は著しく低下した。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】図1は、アモルファスシリコンTFT基板が適用される代表的な液晶パネルの構成を示す概略断面拡大説明図である。
【図2】図2は、従来の代表的なアモルファスシリコンTFT基板の構成を示す概略断面説明図である。
【図3】図3は、本発明の第1の実施例に係るTFT基板の構成を示す概略断面説明図である。
【図4】図4は、図3に示すTFT基板の製造工程を示す工程図である。
【図5A】図5Aは、本発明の第1の実施形態において、アモルファスシリコン薄膜上にAl−Ni合金を室温で成膜した直後における、Al−Ni合金薄膜とアモルファスシリコン薄膜との界面の断面TEM写真である。
【図5B】図5Bは、本発明の第1の実施形態に係るTFT基板において、Al−Ni合金薄膜とアモルファスシリコン薄膜との界面のHAADF−STEM像である。
【図6A】図6Aは、本発明の第1の実施形態に係るTFT基板において、Al−Ni合金薄膜とアモルファスシリコン薄膜との界面の断面TEM写真である。
【図6B】図6Bは、本発明の第1の実施形態に係るTFT基板において、Al−Ni合金薄膜とアモルファスシリコン薄膜との界面のHAADF−STEM像である。
【図7】図7(a)は、本発明の第1の実施形態において、アモルファスシリコン薄膜上にAl−Ni合金を室温で成膜した直後における、Al−Ni合金薄膜とアモルファスシリコン薄膜との界面付近の元素濃度の深さ方向分布を示す図であり、図7(b)は、本発明の第1の実施形態に係るTFT基板において、Al−Ni合金薄膜とアモルファスシリコン薄膜との界面付近の元素濃度の深さ方向分布を示す図である。
【図8A】図8Aは、本発明の第2の実施形態において、アモルファスシリコン薄膜上にAl−Ni合金を室温で成膜した直後における、Al−Ni合金薄膜とアモルファスシリコン薄膜との界面の断面TEM写真である。
【図8B】図8Bは、本発明の第2の実施形態に係るTFT基板において、Al−Ni合金薄膜とアモルファスシリコン薄膜との界面のHAADF−STEM像である。
【図9A】図9Aは、本発明の第2の実施形態に係るTFT基板において、アモルファスシリコン薄膜と純Al薄膜との界面の断面TEM写真である。
【図9B】図9Bは、図9Aに示すTEM写真と同じ観察位置をEDXで分析したときのマッピング像(SiマップおよびAlマップ)である。
【図10】図10は、Al合金薄膜と透明画素電極との間のコンタクト抵抗率の測定に用いたケルビンパターンを示す図である。
【図11】図11は、実施例4において、透明画素電極とAl−Ni合金との接触界面を示す断面TEM写真である。
【図12】図12は、Al薄膜の温度と応力(ストレス)との関係を模式的に説明する図である。
【符号の説明】
【0160】
1 TFT基板
2 対向電極
3 液晶層
4 薄膜トランジスタ(TFT)
5 透明画素電極
6 配線部
7 共通電極
8 カラーフィルタ
9 遮光膜
10a、10b 偏光板
11 配向膜
12 TABテープ
13 ドライバ回路
14 制御回路
15 スペーサー
16 シール材
17 保護膜
18 拡散板
19 プリズムシート
20 導光板
21 反射板
22 バックライト
23 保持フレーム
24 プリント基板
25 走査線
26 ゲート電極
27 ゲート絶縁膜(シリコン窒化膜)
28 ソース電極
29 ドレイン電極
30 保護膜(シリコン窒化膜)
31 フォトレジスト
32 コンタクトホール
33 アモルファスシリコンチャネル膜(活性半導体膜)
34 信号線(ソース−ドレイン配線)
51、52、53、54 バリアメタル層
55 ノンドーピング水素化アモルファスシリコン膜(a−Si−H)
56 n型水素化アモルファスシリコン膜(na−Si−H)
100 液晶パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金成分としてNiを0.1〜6原子%含有するAl合金の薄膜からなり、
該Al合金の薄膜は、薄膜トランジスタの半導体層と直接接続していることを特徴とするソース−ドレイン電極。
【請求項2】
前記Al合金は、合金成分として、更に、Ti,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,およびWよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を0.1〜1.0原子%含有する請求項1に記載のソース−ドレイン電極。
【請求項3】
前記Al合金は、合金成分として、更に、Mg,Cr,Mn,Ru,Rh,Pd,Ir,Pt,La,Gd,Tb,Dy,Nd,Y,Co,Fe,Ce,およびPrよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を0.1〜2.0原子%含有する請求項1または2に記載のソース−ドレイン電極。
【請求項4】
前記Al合金の薄膜と前記薄膜トランジスタの半導体層との界面に、Niを含有する化合物を含む請求項1〜3のいずれかに記載のソース−ドレイン電極。
【請求項5】
前記Niを含有する化合物は、前記Al合金に含まれるAlとNiとの金属間化合物、前記Al合金に含まれるNiと前記薄膜トランジスタの半導体層に含まれるSiとのシリサイドまたはシリコン化合物、および前記Al合金に含まれるAlとNiと前記薄膜トランジスタの半導体層に含まれるSiとの金属間化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の化合物である請求項4に記載のソース−ドレイン電極。
【請求項6】
前記Al合金の薄膜と前記薄膜トランジスタの半導体層との界面にNi濃化層が存在し、該Ni濃化層中の平均Ni濃度は、該Al合金中の平均Ni濃度の2倍以上である請求項1〜5のいずれかに記載のソース−ドレイン電極。
【請求項7】
前記Al合金の薄膜は、8μΩ・cm以下の電気抵抗率を有している請求項1〜6のいずれかに記載のソース−ドレイン電極。
【請求項8】
前記Al合金の薄膜は、更に、前記透明画素電極と直接接続している請求項1〜7のいずれかに記載のソース−ドレイン電極。
【請求項9】
前記Al合金の薄膜と前記透明画素電極との界面にAlOx(0<x≦0.8)を有している請求項8に記載のソース−ドレイン電極。
【請求項10】
前記Al合金の薄膜と前記透明画素電極との界面にNi濃化層が存在し、該Ni濃化層中の平均Ni濃度は、該Al合金中の平均Ni濃度の2倍以上である請求項8または9に記載のソース−ドレイン電極。
【請求項11】
前記透明画素電極は、酸化インジウム錫(ITO)または酸化インジウム亜鉛(IZO)から形成されている請求項1〜10のいずれかに記載のソース−ドレイン電極。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のソース−ドレイン電極を備えた薄膜トランジスタ基板。
【請求項13】
請求項12に記載の薄膜トランジスタ基板を備えた表示デバイス。
【請求項14】
請求項12に記載の薄膜トランジスタ基板を製造する方法であって、
薄膜トランジスタの半導体層が形成された基板を用意する工程(a)と、
前記薄膜トランジスタの半導体層上に前記Al合金の薄膜を形成する工程(b)と、
前記Al合金の薄膜上にシリコン窒化膜を堆積する工程(c)と、を含み、
前記工程(c)は、100℃以上300℃以下の温度で加熱する工程を含む、薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【請求項15】
前記工程(b)はスパッタリング法を含む、請求項14に記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図10】
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【図12】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−81385(P2007−81385A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220633(P2006−220633)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】