バイオフィルム中の細菌細胞における生理学的分散応答の誘導
本発明の一つの局面は、組成物に関する。組成物は、式中、===が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターであるH3C-(CH2)n-CHm===CHmRを含む分散誘導剤を含む。組成物は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群のうちの一つまたは複数より選択される付加的な成分をさらに含有している。組成物は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムと接触した際に、分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、バイオフィルムを分散させるためにマトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するよう製剤化される。本発明は、この化合物を使用する方法にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる2007年5月14日出願の米国仮特許出願第60/917,791号および2008年1月2日出願の第61/018,639号の恩典を主張する。
【0002】
本発明は、NIHおよびNSFにより授与されたグラント番号NSF MCB-0321672およびNIH R15 AI055521-01の下で政府の支援を受けて作成された。政府は、本発明における一定の権利を有する。
【0003】
発明の領域
本発明は、バイオフィルム中の細菌細胞における生理学的分散応答を誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
バイオフィルム構造の緻密な性質、バイオフィルム細菌の生理学的状態の推定される低下、およびバイオフィルムマトリックスポリマーにより付与される保護のため、天然および人工の化学的薬剤は、感染性バイオフィルム集団を充分に攻撃し破壊することができない(Costerton et al., "Bacterial Biofilms in Nature and Disease," Annu. Rev. Microbiol. 41:435-464 (1987)(非特許文献1);Hoiby et al., "The Immune Response to Bacterial Biofilms," In Microbial Biofilms, Lappin-Scott et al., eds., Cambridge: Cambridge University Press (1995)(非特許文献2))。抗生物質に対する抵抗性の増加は、バイオフィルム細菌に関連した一般的な形質である。接着した場合、細菌は著しい抵抗性を示し、バイオフィルム細胞の様々な抗微生物剤に対する感受性は、浮遊(遊離浮遊)培養で培養された同一の細菌より10〜1000倍低くなる。例えば、最も効率的な抗菌剤のうちの一つであると考えられている酸化的殺生物剤である(次亜塩素酸ナトリウムとしての)塩素は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)のバイオフィルム細胞を死滅させるために、同一種の浮遊性細胞と比較して600倍の濃度の増加を必要とすることが示されている(Luppens et al., "Development of a Standard Test to Assess the Resistance of Staphylococcus aureus Biofilm Cells to Disinfectants," Appl Environ Microbiol. 68:4194-200 (2002)(非特許文献3))。抗生物質に対するバイオフィルム細菌の異常な抵抗性を説明するために、以下のものを含むいくつかの仮説が提案されている:(i)バイオフィルム細菌(特に、バイオフィルム内深部のもの)により示される代謝および分裂の速度の低下;(ii)バイオフィルムEPSマトリックスが、吸着剤または反応体として作用し、バイオフィルム細胞と相互作用することができる薬剤の量を低下させ得る。さらに、バイオフィルム構造は、バイオフィルムの領域への接近を遮断することにより物理的に抗微生物剤の浸透を低下させ得る;(iii)バイオフィルム細胞は、多剤排出ポンプおよびストレス応答レギュロンのような特定の防御因子を発現しており、浮遊性細菌とは生理学的に異なる(Brown et al., "Resistance of Bacterial Biofilms to Antibiotics: A Growth-Rate Related Effect? " J. Antimicrob. Chemotherapy 22:777-783 (1988)(非特許文献4);Anwar et al., "Establishment of Aging Biofilms: Possible Mechanism of Bacterial Resistance to Antimicrobial Therapy," Antimicrob. Agents Chemother. 36: 1347-1351 (1992)(非特許文献5);Mah et al., "Mechanisms of Biofilm Resistance to Antimicrobial Agents," Trends Microbiol. 9:34-39 (2001)(非特許文献6);Sauer et al., "Pseudomonas aeruginosa Displays Multiple Phenotypes During Development as a Biofilm," J. Bacteriol. 184:1140-1154 (2002)(非特許文献7);Stewart, P.S., "Mechanisms of Antibiotic Resistance in Bacterial Biofilms," Int. J. Med. Microbiol. 292:107-113 (2002)(非特許文献8);Donlan et al., "Biofilms: Survival Mechanisms of Clinically Relevant Microorganisms," Clinical Microbiol. Reviews 15:167-193 (2002)(非特許文献9);Gilbert et al., "The Physiology and Collective Recalcitrance of Microbial Biofilm Communities," Adv. Microb. Physiol. 46:202-256 (2002)(非特許文献10);Gilbert et al., "Biofilms In vitro and In vivo: Do Singular Mechanisms Imply Cross-Resistance?" J. Appl. Microbiol. Suppl. 98S-110S (2002)(非特許文献11))。詳細な分子的研究が出現したため、抗微生物薬に対するバイオフィルムの異常な抵抗性においてこれらの因子の各々が役割を果たすことが明白になりつつある。最初の処理は、通常、バイオフィルムマイクロコロニーの端部でのみ細菌を死滅させる効果を有する。これらのマイクロコロニー内深部の細菌は、抗生物質により影響を受けず、感染の継続的な蔓延のための巣を形成する。
【0005】
感染および産業的な系における微生物バイオフィルムは、効率的な処理に対する不応性のために重大な問題を提示する。
【0006】
剥離とは、バイオフィルムまたは基層からの(個々の、または群での)細胞の除去を記載するために使用される一般化された用語である。Bryers, J. D., "Modeling Biofilm Accumulation," In: Physiology Models in Microbiology. Bazin et al., eds., Boca Raton, FL., Vol. 2, pp. 109-144 (1988)(非特許文献12)は、細菌がバイオフィルムから剥離する四種の別個の剥離機序を分類した。これらはアブレージョン(abrasion)、グレージング(grazing)、エロージョン(erosion)、およびスラウイング(sloughing)である。これらの機序は、主に、バイオフィルム細菌に作用する化学的環境および物理的環境の視点から記載されている。生理学的に調節された事象としての能動的な剥離が、多くの著者らにより暗示されているが、バイオフィルムからの細菌の剥離のための生物学的基礎を証明する研究はほとんど実施されていない。
【0007】
剥離の生理学的調節に関する一つの研究は、P.アエルギノサ(aeruginosa)に対して、Peyton et al., "Microbial Biofilms and Biofilm Reactors," Bioprocess Technol. 20: 187-231 (1995) (非特許文献13)により実施された。それらの研究において、基質の制限が、おそらく増殖速度の低下の結果として、剥離速度の減少をもたらすことが観察された。Allison et al., "Extracellular Products as Mediators of the Formation and Detachment of Pseudomonas fluorescens Biofilms," FEMS Microbiol. Lett. 167: 179-184 (1998)(非特許文献14)は、延長されたインキュベーションの後、P.フルオレセンス(fluorescens)バイオフィルムが、EPSの低下と一致して剥離を経験することを示した。クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)においては、定常期の開始が、基層からの剥離の増加と相関していた(Lamed et al., "Contact and Cellulolysis in Clostridium thermocellum via Extensive Surface Organelles," Experientia 42:72-73 (1986)(非特許文献15))。飢餓は、栄養素がより豊富な生息地を細菌が探求することを可能にする未知の機序による剥離に通じ得ると仮定されている(O'Toole et al., "Biofilm Formation as Microbial Development," Ann. Rev. Microbiol. 54:49-79 (2000)(非特許文献16))。
【0008】
流動系から回分培養系への移行は、バイオフィルム剥離をもたらすことが多くの研究室により観察されている。ある研究室は、連続培養系において流れが抑止された際のP.アエルギノサのバイオフィルム細胞の再現性のある剥離を観察した(Davies, D.G., "Regulation of Matrix Polymer in Biofilm Formation and Dispersion," In Microbial Extracellular Polymeric Substances, pp. 93-112, Wingender et al., eds., Berlin: Springer (1999)(非特許文献17))。
【0009】
分解性酵素の放出を提唱している者もいる。そのような一つの例は、細胞エンベロープからのタンパク質の放出を媒介することが示された表面タンパク質放出酵素(SPRE)を産生するグラム陽性生物ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)で見出される(Lee et al., "Detachment of Streptococcus mutans Biofilm Cells by an Endogenous Enzymatic Activity," Infect. Immun. 64:1035-1038 (1996)(非特許文献18))。Boyd et al., "Role of Alginate Lyase in Cell Detachment of Pseudomonas aeruginosa," Appl. Environ. Microbiol. 60:2355-2359 (1995)(非特許文献19)は、アルギン酸リアーゼの過剰発現がアルギン酸の分解を引き起こすことを示した。P.アエルギノサのムコイド株がアルギン酸リアーゼを過剰発現するよう誘導された場合、細胞は、軽く濯ぐことにより固形培地からより容易に除去された。
【0010】
細胞密度依存性の調節も、細菌がバイオフィルムから分散することを可能にするバイオフィルムマトリックスポリマーを分解し得る酵素の放出を担っているかもしれない。Montana State University, USAのCenter for Biofilm Engineering(Davies, D. G. and Costerton, J. W.)およびUniversity of Exeter, UKのDr. Lapin-Scottの研究室において、ある種の細菌(P.アエルギノサを含む)がバイオフィルム細胞クラスタにおいて高い細胞密度に達すると、細菌がしばしば剥離事象を受けることが観察された。クオラムセンシング自己誘導物質である3OC12-HSLを合成する能力を欠いたP.アエルギノサの変異体は、穏和な界面活性剤による処理の後、剥離に対して感受性であった(Davies et al., "The Involvement of Cell-to-Cell Signals in the Development of a Bacterial Biofilm," Science 280:295-298 (1998)(非特許文献20))。その他の研究者らは、ホモセリンラクトンが剥離において役割を果たし得ることを証明した。Lynch et al., "Investigation of Quorum Sensing in Aeromonas hydrophila Biofilms Formed on Stainless Steel,: In: Biofilms - The Good, the Bad and the Ugly, Wimpenny et al., eds. Bioline, Cardiff, pp. 209-223 (1999)(非特許文献21)は、バイオフィルムからのアエロモナス・ヒドロフィラ(Aeromonas hydrophila)の剥離の増加を報告し、Puckas et al., "A Quorum Sensing system in the Free-Living Photosynthetic Bacterium Rhodobacter sphaeroides," J. Bacteriol. 179:7530-7537 (1997)(非特許文献22)は、ホモセリンラクトン産生がロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)において細胞クラスタ形成と負に相関していることを報告した。
【0011】
P.アエルギノサのバイオフィルムは、回分培養フラスコにおいて(ガラス液体界面で)巨視的なバイオフィルム構造へと発達しないことが認識されている。しかし、そのようなフラスコに継続的に培地がポンプで送り込まれた場合には(ケモスタットの場合のように)、見事なバイオフィルムがガラス表面を完全に覆って発達する。そのような系において流れを停止させた場合、バイオフィルムは、数日後、一般にはおよそ72時間後に脱落する(Davies et al., "The Involvement of Cell-to-Cell Signals in the Development of a Bacterial Biofilm," Science 280:295-298 (1998)(非特許文献20))。回分培養においてバイオフィルムが発達し得ないことは、多数のグラム陰性菌およびグラム陽性菌、そして混合細菌培養物でも観察されている。この現象は、バイオフィルム発達に対して阻害性の回分増殖の何らかの局面が存在することを証明している。
【0012】
バイオフィルム発達の最終段階において、細菌のタンパク質プロファイルは、成熟IIと呼ばれる前段階のバイオフィルム細菌より、浮遊性細胞のタンパク質プロファイルとより密接に一致している(本願の図3、およびSauer et al., "Pseudomonas aeruginosa Displays Multiple Phenotypes During Development as a Biofilm," J. Bacteriol. 184:1140-1154 (2002)(非特許文献7)を参照のこと)。
【0013】
バイオフィルム構造の緻密な性質、バイオフィルム細菌の生理学的状態の推定される低下、およびバイオフィルムマトリックスポリマーにより付与される保護のため、現在の天然および人工の化学的薬剤は、感染性バイオフィルム集団を充分に攻撃し破壊することができていない(Costerton et al., "Bacterial Biofilms in Nature and Disease," Annu. Rev. Microbiol. 41 :435-464 (1987)(非特許文献1);Hoiby et al., "The Immune Response to Bacterial Biofilms," In Microbial Biofilms, Lappin-Scott et al., eds., Cambridge: Cambridge University Press (1995)(非特許文献2))。
【0014】
本発明は、当技術分野におけるこれらおよびその他の欠陥を克服することを目的とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Costerton et al., "Bacterial Biofilms in Nature and Disease," Annu. Rev. Microbiol. 41:435-464 (1987)
【非特許文献2】Hoiby et al., "The Immune Response to Bacterial Biofilms," In Microbial Biofilms, Lappin-Scott et al., eds., Cambridge: Cambridge University Press (1995)
【非特許文献3】Luppens et al., "Development of a Standard Test to Assess the Resistance of Staphylococcus aureus Biofilm Cells to Disinfectants," Appl Environ Microbiol. 68:4194-200 (2002)
【非特許文献4】Brown et al., "Resistance of Bacterial Biofilms to Antibiotics: A Growth-Rate Related Effect? " J. Antimicrob. Chemotherapy 22:777-783 (1988)
【非特許文献5】Anwar et al., "Establishment of Aging Biofilms: Possible Mechanism of Bacterial Resistance to Antimicrobial Therapy," Antimicrob. Agents Chemother. 36: 1347-1351 (1992)
【非特許文献6】Mah et al., "Mechanisms of Biofilm Resistance to Antimicrobial Agents," Trends Microbiol. 9:34-39 (2001)
【非特許文献7】Sauer et al., "Pseudomonas aeruginosa Displays Multiple Phenotypes During Development as a Biofilm," J. Bacteriol. 184:1140-1154 (2002)
【非特許文献8】Stewart, P.S., "Mechanisms of Antibiotic Resistance in Bacterial Biofilms," Int. J. Med. Microbiol. 292:107-113 (2002)
【非特許文献9】Donlan et al., "Biofilms: Survival Mechanisms of Clinically Relevant Microorganisms," Clinical Microbiol. Reviews 15:167-193 (2002)
【非特許文献10】Gilbert et al., "The Physiology and Collective Recalcitrance of Microbial Biofilm Communities," Adv. Microb. Physiol. 46:202-256 (2002)
【非特許文献11】Gilbert et al., "Biofilms In vitro and In vivo: Do Singular Mechanisms Imply Cross-Resistance?" J. Appl. Microbiol. Suppl. 98S-110S (2002)
【非特許文献12】Bryers, J. D., "Modeling Biofilm Accumulation," In: Physiology Models in Microbiology. Bazin et al., eds., Boca Raton, FL., Vol. 2, pp. 109-144 (1988)
【非特許文献13】Peyton et al., "Microbial Biofilms and Biofilm Reactors," Bioprocess Technol. 20: 187-231 (1995)
【非特許文献14】Allison et al., "Extracellular Products as Mediators of the Formation and Detachment of Pseudomonas fluorescens Biofilms," FEMS Microbiol. Lett. 167: 179-184 (1998)
【非特許文献15】Lamed et al., "Contact and Cellulolysis in Clostridium thermocellum via Extensive Surface Organelles," Experientia 42:72-73 (1986)
【非特許文献16】O'Toole et al., "Biofilm Formation as Microbial Development," Ann. Rev. Microbiol. 54:49-79 (2000)
【非特許文献17】Davies, D.G., "Regulation of Matrix Polymer in Biofilm Formation and Dispersion," In Microbial Extracellular Polymeric Substances, pp. 93-112, Wingender et al., eds., Berlin: Springer (1999)
【非特許文献18】Lee et al., "Detachment of Streptococcus mutans Biofilm Cells by an Endogenous Enzymatic Activity," Infect. Immun. 64:1035-1038 (1996)
【非特許文献19】Boyd et al., "Role of Alginate Lyase in Cell Detachment of Pseudomonas aeruginosa," Appl. Environ. Microbiol. 60:2355-2359 (1995)
【非特許文献20】Davies et al., "The Involvement of Cell-to-Cell Signals in the Development of a Bacterial Biofilm," Science 280:295-298 (1998)
【非特許文献21】Lynch et al., "Investigation of Quorum Sensing in Aeromonas hydrophila Biofilms Formed on Stainless Steel,: In: Biofilms - The Good, the Bad and the Ugly, Wimpenny et al., eds. Bioline, Cardiff, pp. 209-223 (1999)
【非特許文献22】Puckas et al., "A Quorum Sensing system in the Free-Living Photosynthetic Bacterium Rhodobacter sphaeroides," J. Bacteriol. 179:7530-7537 (1997)
【発明の概要】
【0016】
本発明の一つの局面は、組成物に関する。組成物は、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスター(biostere)である下記式:
を有する一つまたは複数の分散誘導剤を含む。組成物は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群より選択される一つまたは複数の付加的な成分をさらに含有する。組成物は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムと接触した際に、分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、バイオフィルムを分散させるためにマトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するよう製剤化される。
【0017】
本発明のもう一つの局面は、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態を処置または防止する方法に関する。この方法は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムにより媒介される状態を有する対象か、またはそのような状態に感受性の対象を提供する工程を含む。分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤が対象に施される。結果として、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態が、処置または防止される。
【0018】
本発明のさらなる局面は、表面におけるバイオフィルムの形成を処理または阻害する方法に関する。この方法は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムの形成を有する表面か、またはそのような形成に感受性の表面を提供する工程を含む。分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤が表面に施される。結果として、表面におけるバイオフィルムの形成が、処理または阻害される。
【0019】
本願のもう一つの局面は、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸である下記式:
を有する分散誘導剤を含む溶液に関する。ここで、誘導剤は0.5重量パーセント未満の濃度で存在し、かつ溶液は5を超えるpHを有する。
【0020】
本発明のさらなる局面は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群の一つまたは複数より選択される成分を含む組成物に関する。さらに、組成物は、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸である
を含む分散誘導剤を含む。誘導剤は、非塩型で製剤化される。
【0021】
本発明は、スキンクリーム、歯磨き剤、および口腔洗浄剤からなる群より選択され、実質的に2-デセン酸のトランス異性体を含まない、2-デセン酸のシス異性体を含む溶液にも関する。
【0022】
本願のもう一つの形態は、スキンクリーム、歯磨き剤、および口腔洗浄剤からなる群より選択され、トランス異性体を含まない、2-デセン酸のシス異性体を含む溶液に関する。
【0023】
本願のもう一つの形態は、コンタクトレンズ、および、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤を0.5重量%未満の濃度で含む溶液、を提供する工程を含む方法に関する。次いで、コンタクトレンズが該溶液で処理される。
【0024】
本発明のさらなる形態は、ある皮膚状態を有する対象、および、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤を0.5重量%未満の濃度で含み、5を超えるpHを有する溶液、を提供する工程を含む方法に関する。次いで、皮膚状態が溶液で処置される。
【0025】
本発明のさらなる局面は、熱傷を有する対象の処置;歯垢、齲歯、歯肉疾患、および口腔感染の処置および/または防止;コンタクトレンズの浄化および/または消毒;対象の皮膚上のざ瘡またはその他のバイオフィルム関連皮膚感染の処置および/または防止、ならびに対象における慢性バイオフィルム関連疾患の処置および/または防止:の方法に関する。方法は、それぞれの各課題を果たすために有効な条件の下で、本発明に係る分散誘導剤を施す工程を含む。有利には、バイオフィルム分散誘導剤はバイオフィルム内の微生物に対する高度の生理活性を有しており、従って、薬学的に許容される製剤は、直接マトリックスを破壊するための化学的または機械的な活性を有している必要はない。従って、組成物は、温和なpHを有し、非刺激性であり得る。
【0026】
本発明は、一つまたは複数の分散誘導剤および一つまたは複数の付加的な成分を含む組成物にも関する。これらの付加的な成分は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群より選択される。組成物は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムと接触した際に、分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、バイオフィルムを破壊するための直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するよう製剤化される。
【0027】
本発明のもう一つの局面は、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態を処置または防止する方法に関する。この方法は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムにより媒介される状態を有する対象か、またはそのような状態に感受性の対象を提供する工程を含む。分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、分散誘導剤が対象に施され、それにより、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態が、処置または防止される。
【0028】
本発明のさらなる局面は、表面におけるバイオフィルムの形成を処理または阻害する方法に関する。方法は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムの形成を有する表面か、またはそのような形成に感受性の表面を提供する工程を含む。分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、分散誘導剤が表面に施され、それにより、表面におけるバイオフィルムの形成が、処理または阻害される。
【0029】
本発明は、生理学的なバイオフィルム分散の過程を受けるよう細菌を人工的に誘導することにより、「バイオフィルム問題」を解決する。分散を誘導する能力は、直接バイオフィルムの制御を可能にし、殺生物剤、局所抗生物質、界面活性剤等による既存の処理を改善するであろう。人工的な分散が有益であろう状況の例には、コンタクトレンズおよび歯の改善された浄化、家庭、産業、および医療分野における改善された防腐作業、ならびにシュードモナスアエルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)に感染した熱傷患者の処置のような既存の抗生物質処置の増強された殺菌活性が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1A〜Bは、抗生物質および/または分散誘導剤により処理されたバイオフィルムの模式図である。図1Aに示されるように、抗生物質による処理の後、バイオフィルムの表面上の細胞のみが死滅する。図1Bは、抗生物質による処理と共に、分散誘導されたバイオフィルムの模式図である。分散した細胞は、処理の間に完全に死滅する。
【図2】図2A〜Cは、分散誘導化合物を含有しているクロロホルム抽出消費培養培地(CSM)の、シュードモナスアエルギノサの成熟バイオフィルムへの添加の効果を示す。図2Aは、フローセル内のガラススライド上の連続培養において増殖中のバイオフィルムを示す。図2Bは、分散誘導剤の添加から5分後のバイオフィルムの同一の区域を示す。図2Cは、分散誘導剤による30分の初期処理の後のバイオフィルムの完全な脱凝集を示す。
【図3】図3Aは、バイオフィルムの生活環の模式図である。1、浮遊性細菌が基層に(能動および受動)輸送される。2、細胞表面分子が基層と相互作用し、可逆性の表面接着をもたらす。3、細菌細胞の表現型変化が、細胞表面修飾および細胞外ポリマー性物質の産生をもたらし、それにより、細胞が表面に不可逆的に固着する。4、バイオフィルム成熟が起こる間、代謝、細胞間シグナル伝達、および形態学の改変による生理学的変化が継続する。5、バイオフィルム剥離が起こる間、細胞は、マトリックスポリマー材料を消化し、表面付属物を改変する分解性酵素を放出する。下方の図3Bの一連の顕微鏡写真は、フローセル内の連続培養において培養され顕微鏡検により画像化された、P.アエルギノサによるバイオフィルム発達の五つの段階の位相差顕微鏡写真を順番に示している。(本明細書にその全体が組み入れられるSauer et al., "Pseudomonas aeruginosa Displays Multiple Phenotypes During Development as a Biofilm," J. Bacteriol. 184:1140-1154 (2002)は)。
【図4】図4A〜Bは、流れの中断により誘導されたバイオフィルム20分散の位相差顕微鏡写真である。図4Aは、流動条件下での初期のバイオフィルム発達を示し、図4Bは、流れを72時間中止した後の同一の位置である。
【図5】消費培地の分散活性に対するクロロホルム抽出の効果を示すグラフである。バイオフィルムは、バイオフィルムチューブリアクターにおけるEPRI培地中での連続培養で6日間培養され(参照により本明細書にその全体が組み入れられるSauer et al., "Pseudomonas aeruginosa Displays Multiple Phenotypes During Development as a Biofilm," J. Bacteriol. 184: 1140-1154 (2002))、消費培地(対照)およびクロロホルム抽出消費培地(CSM)により処理された。細胞分散は、培養チューブの末端部で収集された培養物流出液の光学密度として決定された。エラーバーは、三回の反復実験の標準偏差を表す。
【図6】図6Aは、ネイティブの分散応答を証明する、連続培養で培養されたP.アエルギノサのバイオフィルムのマイクロコロニーを示す。バイオフィルム発達の分散段階において、細菌は細胞クラスタ内で運動性になり、マイクロコロニー壁の破損箇所を通ってバルク液体へと脱出する。各顕微鏡写真は、このようにして内部が空になったマイクロコロニーを示す。矢印は空隙の位置を示す。1000倍の拡大率で撮影された画像;バーは10μmを表す。図6Bは透過光画像であり、図6Cは分散応答のサイズ依存性を示す蛍光画像である。直径40μm×厚み10μmより大きい寸法を有する連続培養で増殖中のバイオフィルムマイクロコロニー(左3枚)は分散を示している。この最低寸法より小さいマイクロコロニーは「固形」のままである(右2枚の顕微鏡写真)。蛍光は細胞の存在を示す(染色体上のlacZレポーター)。全ての画像が、500倍の拡大率の同一相対サイズである;バーは40μmを表す。矢印はマイクロコロニー内の空隙区域を示す。
【図7】図7A〜Dは、消費培地、CSM、およびシス-2-デセン酸によるP.アエルギノサ成熟バイオフィルムの処理を示す。図7Aに示されるように、30分目に、シリコン管で培養されたバイオフィルムを、消費培地または新鮮培地に曝露した。流出液中の細菌を100分間連続的に収集し、細胞密度をOD600により決定した。図7Bに示されるように、4日間シリコン管における連続培養で培養され、新鮮培地に1時間、またはCSMに1時間、切り替えられたバイオフィルム。対照チューブの押し出された内容物は完全なバイオフィルムを示している。CSMで処理されたバイオフィルムの押し出された内容物は分散を示している。図7Cに示されるように、顕微鏡写真は、顕微鏡にマウントされたフローセルにおける連続培養で培養された成熟バイオフィルムへのCSMの添加を示す。マイクロコロニー脱凝集が、7分目に開始することが示されている。30分の曝露の後、マイクロコロニーは完全に脱凝集した。分散した細胞は活発に運動性であり(静止画像において可視でなかった)、このことは、(CSM添加前の)完全なマイクロコロニーの中の細胞と比較して表現型が変化したことを示している。図7Dに示されるように、顕微鏡にマウントされたフローセルにおける連続培養で培養された成熟バイオフィルムへの10μMシス-2-デセン酸(シスDA)の添加。マイクロコロニー脱凝集は11分目に開始することが示されている。完全なマイクロコロニー脱凝集が、曝露30分以内に示される。担体液体により処理された対照バイオフィルムは、1時間まで、処理により影響を受けなかった。
【図8】図8A〜Bは、修飾EPRIで消費培地の濃度にまで希釈されたCSMの連続的な存在下でのバイオフィルム発達を示す。CSMの存在下で培養されたバイオフィルムの厚み(図8A)および表面積(図8B)の平均は、未処理のバイオフィルムより有意に小さかった。灰色バー、CSMにより処理されたバイオフィルム。黒色バー、分散誘導剤の非存在下で培養されたバイオフィルム。エラーバーは、20個のランダムに選択されたマイクロコロニーについてのひとつの標準偏差を表す。
【図9】マイクロタイタープレート分散バイオアッセイを使用した、P.アエルギノサCSMによる異なる細菌バイオフィルムの分散を示す。Y軸は、CSMまたは無菌培地を含有している担体対照(-)による1時間の処理の後の、三回の反復実験における16個のレプリケートウェルのバルク液体へ放出された細胞の数を示す。点線は、担体対照試料における分散のレベルを示す。CSM試料と対照との間の差は、全て、スチューデントT検定により決定されたように、示されたP値で統計的に有意である。
【図10】図10A〜Cは、マイクロタイタープレート分散バイオアッセイを示す。図10Aは、バイオフィルムを含有しているマイクロタイタープレートウェルから放出された細胞の光学密度を示す。白色バー、EPRI単独により処理された対照試料。灰色バー、CSMにより処理された試料。黒色バーは、2%から75%までのアセトニトリル勾配で溶出したCSMのC-18逆相HPLC画分により処理されたバイオフィルムを表す。結果は16個のレプリケートウェルの平均であり、エラーバーは標準偏差を表す。スチューデントT検定からの結果は、CSMおよび22分HPLC試料についてP<0.001であることを示す。図10Bは、様々な濃度のシス-2-デセン酸を消費培地と比較したマイクロタイタープレートバイオフィルム分散バイオアッセイを示す。バイオフィルムを含有しているマイクロタイタープレートウェルから放出された細胞の光学密度。陰性対照ウェルは、EPRI中の10%エタノールにより処理されたP.アエルギノサを含有していた。灰色バーは、消費培地により処理されたバイオフィルムを表す。黒色バーは、10%エタノール中の増加する濃度のシス-2-デセン酸により処理されたバイオフィルムを表す。結果は16個のレプリケートウェルの平均であり、エラーバーはひとつの標準偏差を表す。スチューデントT検定は、対照と比較された全てのシス-2-デセン酸試料についてP<0.001であることを示した。図10Cは、シス-2-デセン酸の構造を示す。
【図11】マイクロタイタープレート分散バイオアッセイを使用したシス-2-デセン酸による異なる細菌バイオフィルムの分散を示す。Y軸は、0.01μMシス-2-デセン酸(CDA)または培地+10%エタノールを含有している担体対照(-)による1時間の処理の後の、三回の反復実験における16個のレプリケートウェルのバルク液体へ放出された細胞の数を示す。点線は、担体対照試料における分散のレベルを示す。シス-2-デセン酸で処理された試料と対照との間の差は、全て、スチューデントT検定により決定されたように、示されたP値で統計的に有意である。
【図12】図12A〜Cは、P.アエルギノサCSMおよびシス-2-デセン酸の分光分析を示す。図12Aは、活性HPLC CSM画分に検出された171M/Z分子、および合成シス-2-デセン酸についての生成物イオン量ピークを示す。Y軸は強度を示し;X軸は陽イオンモードでのM/Zを示す。CSM試料は、合成シス-2-デセン酸からのピークと一致する。質量分析において、ピーク強度は濃度の直接の指標ではないことに注意すること。図12Bは、P.アエルギノサCSMおよびシス-2-デセン酸のGC-MSスペクトルを示している。15.9分のCSM試料ピークは溶媒担体を示す。Y軸は強度を示し;X軸は分単位の時間を示す。図12Cは、P.アエルギノサCSMおよびシス-2-デセン酸のFT-IRスペクトルを示している。Y軸は吸光度を示し;X軸はセンチメートルの逆数を示す。
【図13】顕微鏡にマウントされたフローセルにおける連続培養で培養された成熟バイオフィルムへの10μMシス-2-デセン酸(シスDA)の添加を示す。マイクロコロニー脱凝集が11分目に開始することが示されている。完全なマイクロコロニー脱凝集が、曝露15分以内に示される。担体液体により処理された対照バイオフィルムは、1時間まで、処理により影響を受けなかった。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
本発明の一つの局面は組成物に関する。組成物は、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む一つまたは複数の分散誘導剤を含む。組成物は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群より選択される一つまたは複数の付加的な成分をさらに含有する。組成物は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムと接触した際に、分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、バイオフィルムを分散させるためにマトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するよう製剤化される。この結果の達成において、本発明の分散誘導剤は、好ましくは、マトリックスに直接作用してもよい。または、分散誘導剤が微生物に作用し、次に、微生物がマトリックスを破壊するよう作用してもよい。この効果は、マトリックスに対する直接の効果に頼らないことも含み得る。典型的には、バイオフィルム誘導剤は、直接マトリックスに対する効果を有しないか、またはマトリックスに対する直接の効果が明白でない濃度で存在しているであろう。他方、有効濃度の範囲は、分散誘導剤が細胞間コミュニケーション組成物を模倣する、微生物における生化学的応答機序を示唆している。組成物は、細菌による分散応答を誘導するよう作用し、次に、それが、バイオフィルムからの細菌の放出を担う。さらに、組成物は、バイオフィルム内にない細菌(浮遊性細菌)に作用して、これらの細菌が、バイオフィルムの形成を防止する生理学的応答を開始することを誘導することができる。組成物の追加の成分は、表面または基質からのマトリックスの破壊または除去を目的とする。例えば、組成物には、研磨により歯からプラークを除去するのに適した歯磨剤が含まれ得る。
【0032】
上記の誘導剤のR基は、
からなる群より選択され得る。または、Rはホモセリンラクトン基またはフラノン基であり得る。組成物は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物のうちの一つまたは複数のような付加的な成分も含む。
【0033】
本発明の分散誘導剤は、望ましくは、7〜10個の炭素原子を含む。この誘導剤は、カルボン酸(例えば、一不飽和脂肪酸)であることが好ましい。分散誘導剤が、
を含むことはより好ましい。この分散誘導剤の適当な非塩型は、以下のそれぞれのシス異性体およびトランス異性体:
である。これらのうち、シス異性体が好ましい。
【0034】
その他の適当なアルカン酸には、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、およびノナデカン酸が含まれる。
【0035】
有用なアルケン酸には、2-ヘキセン酸、2-ヘプテン酸、2-オクテン酸、2-ノネン酸、2-ウンデセン酸、2-ドデセン酸、2-トリデセン酸、2-テトラデセン酸、2-ペンタデセン酸、2-ヘキサデセン酸、2-ヘプタデセン酸、2-オクタデセン酸、および2-ノナデセン酸が含まれる。これらはシス異性体またはトランス異性体であり得る。
【0036】
本発明の組成物は、以下のように、異なる型の細菌を処理するために多数のpH範囲で製剤化され得る:好酸性の細菌には1.5〜4.5;耐酸性の細菌には4.5〜8.0;実質的に中性のpHを好む細菌には6.8〜7.4;そして耐アルカリ性の細菌には8.0〜9.8。本質的に中性のpHは、酸逆流を有する対象のため特に望ましい。分散誘導剤の濃度は、0.01μM〜30mMであり得る。
【0037】
組成物は、完全にまたは実質的に(即ち、10wt%未満)エタノールを含まず、かつ/またはホルムアルデヒドを含まない。
【0038】
組成物によりコーティングされた表面(または基質)も、本発明に包含される。
【0039】
本発明のもう一つの局面は、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態を処置または防止する方法に関する。方法は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムにより媒介される状態を有する対象か、またはそのような状態に感受性の対象を提供する工程を含む。分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤が対象に施される。結果として、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態が処置または防止される。バイオフィルムを分散させる方法は、分散誘導剤を施すことと併せて、抗微生物処理をバイオフィルムに施す工程をさらに含んでいてもよい。処理は、殺生物剤(例えば、過酸化水素)、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、咀嚼可能製造物、超音波処理、放射線処理、温熱処理、および/または機械的処理を施すことであり得る。
【0040】
本発明のさらなる局面は、表面におけるバイオフィルムの形成を処理または阻害する方法に関する。方法は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムの形成を有する表面か、またはそのような形成に感受性の表面を提供する工程を含む。分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤が表面に施される。結果として、表面におけるバイオフィルムの形成が処理または阻害される。
【0041】
一つの態様において、処理される表面には、カテーテル、人工呼吸器、および換気装置のような留置医用装置が含まれる。さらに、表面は、ステント、人工弁、ジョイント、ピン、骨移植片、縫合糸、ステープル、ペースメーカー、およびその他の一時的または永久的な装置を含む植え込み医用装置であってもよい。本発明の分散誘導剤は、外科用接着剤にも含まれ得る。もう一つの態様において、処理される表面には、排水管、タブ、キッチン器具、調理台、シャワーカーテン、グラウト、トイレ、産業用食品飲料生産設備、床板、および食品加工機器が含まれる。さらなる態様において、処理される表面は、熱交換器表面またはフィルター表面である。従って、処理は、熱交換器またはフィルターの生物付着の程度を低下させるための手段を提供する。最後の態様において、処理される表面は、ボート、桟橋、油掘削プラットフォーム、取水ポート、シーブ、およびビューポートを含む海洋構造物である。または、表面は、水の処理および/または分配のための系(例えば、飲料水の処理および/または分配のための系、プールおよび温泉の水の処理のための系、製造作業における水の処理および/または分配のための系、ならびに歯科用水の処理および/または分配のための系)に関連していてもよい。表面は、石油の採掘、保管、分離、精製、および/または分配のための系(例えば、石油分離トレーン、石油コンテナ、石油分配管、および石油採掘機器)に関連していてもよい。分散誘導剤は、油およびガスを保持している地質学的岩層のような多孔質媒体におけるバイオフィルム沈着または生物付着を低下させるか、または排除することを目的とした製剤にも含まれ得る。処理は、塗料のようなコーティングを表面に施すことにより達成され得る。
【0042】
表面上のバイオフィルムの形成を阻害する方法は、分散誘導剤を施すことと併せて、抗微生物処理を表面に施すことをさらに含み得る。処理は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、消毒剤、薬品、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、超音波処理、放射線処理、温熱処理、および機械的処理を施すことであり得る。一つの態様において、分散誘導剤および抗微生物処理は同時に施される。もう一つの態様において、分散誘導剤および抗微生物処理は別々に施される。
【0043】
分散誘導剤は、表面上のバイオフィルムの形成を阻害するため、表面に含浸されていてもよい。または、分散誘導剤は、表面をコーティングするコポリマーまたはゲルに含まれていてもよい。
【0044】
本発明は、熱傷を有する対象を処置する方法にも関する。方法は、対象における熱傷を処置するために有効な条件の下で、本発明に係る分散誘導剤を投与する工程を含む。本発明の特定の適用は、感染性バイオフィルムの発達を防止するか、または既存の感染性バイオフィルムの細胞を分散させるための、分散誘導分子またはそれらの天然もしくは合成のアナログを含む熱傷患者用の局所包帯材を提供する。
【0045】
本発明は、対象における歯垢、齲歯、歯肉疾患、歯周疾患、および口腔感染を処置および/または防止する方法にさらに関する。方法は、本発明に係る分散誘導剤により対象の口腔を処置する工程を含む。処置は、分散誘導剤を含有している歯磨剤、口腔洗浄剤、デンタルフロス、ガム、ストリップ、歯磨き剤、歯ブラシ、および分散誘導剤を含有しているその他の調製物により実施され得る。組成物は、歯科用組成物に典型的に添加される歯科分野において公知のその他の化合物も含有していてもよい。例えば、分散誘導剤組成物は、フッ化物、減感剤、抗歯石剤、抗菌剤、再石灰化剤、漂白剤、および抗齲歯剤も含むことができる。
【0046】
存在する分散誘導剤の量は、分散誘導剤を含有している歯科用組成物に依存して変動するであろう。分散誘導剤は、口内細菌に対して広範囲の濃度で活性であることが見出された。例えば、分散誘導剤は、0.1nM〜10mMの範囲の量で存在し得る。しかしながら、歯科用組成物、分散誘導剤組成物中に存在するその他の成分、および当業者により認識される様々なその他の因子に依って、より低いか、またはより高い濃度が使用されてもよい。脂肪酸の特徴およびその疎水性のような分散誘導剤の公知の特性は、どの程度の量の分散誘導剤が使用されるべきかの決定、どのように化合物が他の成分と化学的に相互作用するのかの決定、および化合物に関するその他の有用な情報の提供において、当業者を支援するであろう。
【0047】
特定の歯科的適用および歯科用組成物が、本発明において企図される。これに関して、本発明は、分散誘導剤組成物を含有している歯ブラシに関する。歯ブラシは、当技術分野において周知であるように、複数の毛、および毛がはめ込まれた固体支持体を含有しており、固体支持体は、毛を受容する複数のタフトホールを有するブラシヘッドを含んでいる。基本的な歯ブラシの変動および修飾は、当技術分野において周知である。例えば、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第7,251,849号を参照すること。
【0048】
本発明の分散誘導剤は、上に示されたような化学式を有する。分散誘導剤組成物に含まれ得る追加の成分も上に示されている。分散誘導剤組成物は、当技術分野において公知の手段により、歯ブラシの様々な部分に組み入れられ得る。例えば、分散誘導剤組成物は歯ブラシのタフトホールに含有され得る。どのように組成物が歯ブラシのタフトホール内に含有され得るかの例に関しては、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第5,141,290号を参照すること。または、分散誘導剤組成物は歯ブラシの毛にコーティングされるか、または埋め込まれてもよい。
【0049】
毛を補足し、口腔と接触するよう設計されている歯ブラシの部分を含む、歯ブラシのその他の部分に、分散誘導剤組成物がコーティングされるか、または埋め込まれてもよい。例えば、歯ブラシは、ゴムパドル、タングクリーナー、または歯、舌、歯肉、もしくは口腔のその他の区域と接触する目的のためのヘッドから延長されたその他の部品を含有していることが一般的である。これらの部分に、分散誘導剤組成物が埋め込まれ得、任意で、界面活性物質、殺生物剤、および/またはその他の上記の添加剤が埋め込まれてもよい。
【0050】
歯ブラシからの分散誘導剤の放出の制御を補助するため、分散誘導剤組成物は、放出制御を補助するための分散誘導剤と相互作用する薬剤を含有していてもよい。薬剤は、放出が、所望の使用に依って、加速されるか、または延長されるような様式で、分散誘導剤と相互作用し得る。放出制御のレベルは、分散誘導剤が適用される歯ブラシの部分への分散誘導剤の付着が、どの程度容易または困難であるかにも依るかもしれない。好ましい態様において、分散誘導剤は、ブラッシングが繰り返されるにつれ、歯ブラシから徐々に放出される。活性要素の徐放を可能にする薬剤は、当業者に周知である。
【0051】
放出制御は、放出制御を可能にする封入系へと分散誘導剤を封入することによっても実現され得る。この態様において、分散誘導剤組成物は、好ましくは、分散誘導剤を封入する複数の小さなマイクロスフェアの形態をとっている。マイクロスフェアは、ブラッシングが繰り返されるにつれ分散誘導剤が徐々に放出されることを可能にする溶解可能材料の外側コーティングを有することができる。適当なマイクロスフェアには、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第5,061,106号に開示されたものが含まれる。
【0052】
本発明は、(a)フッ化物および/または再石灰化剤;(b)経口的に許容される媒体;および(c)分散誘導剤組成物を含有している歯磨き剤組成物にも関する。本発明の分散誘導剤は、上に示されたような化学式を有する。分散誘導剤組成物に含まれ得る追加の成分も上に示されている。しばしば、歯磨き剤は、ラウリル硫酸ナトリウムまたはその他のスルフェートも含有する。
【0053】
様々な形態のフッ化物は、虫歯を防止し、かつ歯エナメル質および骨の形成を促進するための歯磨き剤中の一般的な活性要素である。フッ化物塩のような任意のフッ化物源が、本発明の歯磨き剤において使用され得る。好ましくは、フッ化物は、フッ化ナトリウム(NaF)またはモノフルオロリン酸ナトリウム(Na2PO3F)である。典型的には、歯磨き剤中に存在するフッ化物の量は、100〜5000ppmのフッ化物イオン、好ましくは1000〜1100ppmの範囲である。
【0054】
ある種の場合において、フッ化物を再石灰化剤に交換するか、またはフッ化物に再石灰化剤を補足することが好ましい。歯科的な用法に関して、再石灰化とは、一般に、齲歯を防止するか、または齲歯が発生する確率を減少させ、他には、それらが元の健康な状態に戻ることができるよう歯を増強するための歯の処理をさす。フッ化物は再石灰化剤と見なされ得るが、しばしば、より強力な浄化特性または再石灰化特性を歯磨き剤に提供するため、フッ化物がその他の薬剤に交換されるか、またはフッ化物にその他の薬剤が補足される。一般的な再石灰化剤は、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、無水硫酸カルシウム、硫酸カルシウム半水和物、硫酸カルシウム二水和物、リンゴ酸カルシウム、酒石酸カルシウム、マロン酸カルシウム、およびコハク酸カルシウムのようなカルシウム塩である。ハイドロキシアパタイトナノ結晶および亜鉛化合物も、有効な再石灰化剤であることが示されている。
【0055】
経口的に許容される媒体は、フッ化物および/または再石灰化剤ならびに分散誘導剤を患者の歯に送達するために使用され得る当技術分野において公知の任意の媒体であり得る。経口的に許容される媒体は、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリグリセリド、ジグリセリド、鉱油、有機油、精油、脂肪族植物油、およびそれらの組み合わせであってもよい。しばしば、これらの媒体は、水または水性溶媒と組み合わせて使用される。
【0056】
歯磨き剤組成物は、当技術分野において周知の歯磨き剤のその他の成分を含有し得る。例えば、歯磨き剤組成物は、重曹、酵素、ビタミン、薬草、リンケイ酸カルシウムナトリウムのようなカルシウム化合物、着色剤、および/または風味剤を含有し得る。減感剤も添加され得る。当技術分野において公知であるように、減感剤は、脱ミネラル化により引き起こされる過敏を処置するか、または神経の減感により過敏症状を抑制することにより、歯における過敏を低下させることができる。組成物は、抗菌剤また抗プラーク剤も含有し得る。抗菌剤は、好ましくは、歯肉炎、歯周炎、およびその他の経口疾患を防止するために組成物に含まれる。適当な抗菌剤には、トリクロサン、塩化亜鉛、クロルヘキシジン、塩化ベンゼトニウム、および塩化セチルピリジニウムが含まれる。
【0057】
本発明は、歯垢、歯肉疾患、歯周疾患、および/または口腔感染を防止および/または処置するための経口組成物にも関する。経口組成物は経口的に許容される媒体および分散誘導剤組成物を含有している。本発明の分散誘導剤は、上に示されるような化学式を有する。分散誘導剤組成物に含まれ得る追加の成分も、上に示されている。
【0058】
経口組成物は、当業者に公知の歯科衛生領域における様々な組成物であり得る。例えば、経口組成物は、口腔洗浄剤、口臭予防スプレー、歯磨剤、歯磨粉、漂白ストリップ、または予防ペーストであり得る。当技術分野において周知であるように、口腔洗浄剤は、口腔または喉における粘液および食品片の除去を補助するために一般的に使用される。口腔洗浄剤は、典型的には、齲歯、歯肉炎、および口臭を引き起こす細菌プラークを死滅させるための防腐成分および/または抗プラーク成分を含有している。それらは、歯の齲食を防御するためにフッ化物のような抗虫歯成分も含有し得る。適当な口腔洗浄剤成分は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第5,968,480号に見出され得る。
【0059】
同様に、同一または類似の防腐成分、抗プラーク成分、および抗虫歯成分が、口臭予防スプレー、ゲル歯磨剤を含む歯磨剤、歯磨粉、漂白ストリップ、および予防ペーストにおいても使用され得る。適当な口臭予防スプレー組成物は米国特許第7,297,327号に開示されており;歯退色組成物において使用されるもののような適当な歯磨粉組成物は、米国特許第5,989,526号に開示されており;適当な漂白ストリップは米国特許第6,514,483号に開示されており;歯研摩剤を含む適当な歯磨剤および予防ペースト組成物は米国特許第5,939,051号に開示されており、これらは、全て、参照により本明細書にその全体が組み入れられる。
【0060】
経口的に許容される媒体の要素は、上記のものに類似している。しかしながら、経口的に許容される媒体は、経口組成物の所望のコンシステンシーおよび所望の最終生成物に依って変動するであろう。例えば、口腔洗浄剤は液状であり、従って、液状の担体、典型的には、高い割合の水を有する担体が使用されるべきである。他方、ゲル歯磨剤は、ゲル状であり、最終生成物がゲル状になることを可能にするゲル化剤またはその他の担体を利用するであろう。経口的に許容される媒体は、分散誘導剤組成物が送達されることを可能にする一方で、最終生成物に所望のコンシステンシーも提供する特性を有するべきである。
【0061】
経口組成物は、チューインガム、口臭予防ストリップ、ロゼンジ、または口臭予防ミントの形態をとっていてもよい。チューインガムは、典型的には、非水溶性の相またはガム基剤と、甘味剤、風味剤、および/または食品着色剤の水溶性の相との組み合わせである。亜鉛およびリン酸塩のような呼吸清新添加剤、シリカのような歯漂白添加剤、ならびに歯垢を緩和するためのプラーク低下添加剤を含む、その他の成分も、ガムに添加され得る。適当なガム組成物は、米国特許第6,416,744号および第6,592,849号に見出され得、これらはいずれも参照により本明細書にその全体が組み入れられる。
【0062】
口臭予防ストリップは、ストリップが口内で溶解し、しばしば舌から吸収されるよう設計されていることを除き、チューインガムに類似している。ストリップは、ビタミン、ミネラル、補助剤、薬、およびワクチンのような機能性の生理活性要素と共に、口内を清新するための生理活性要素を送達することができる。
【0063】
ロゼンジおよび口臭予防ミントは、典型的には、風味剤を含む基剤の中に治療剤を含有している円盤形の固形物である。基剤は、ハードシュガーキャンディ、グリセリンゼラチン、または組成物に必要な形態を与える十分な粘液との糖の組み合わせであり得る。分散誘導剤が治療剤であってもよいし、または当技術分野において公知の治療剤に加えて分散誘導剤が添加されてもよい。適当なロゼンジおよび口臭予防ミント組成物は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第7,025,950号に開示される。
【0064】
経口組成物は、口腔内に置かれる歯科用具のための浄化調製物の形態をとっていてもよい。義歯、デンタルダム、およびある種の型の歯列矯正器のような歯科用具は、一定期間口腔内に置かれ、次いで浄化のために除去される。歯科用具を浄化するために使用される浄化組成物は、用具を浄化する慣習的な様式で機能するべきであるが、歯科用具が口腔に接している際の歯垢、歯肉疾患、歯周疾患、および口腔感染の処置または防止を補助することができる治療剤も含有していることができる。塩素化合物を含有しているアルカリ混合物等で作成された発泡性クレンザーのような浄化組成物は、当技術分野において公知である。歯科用具のための適当な浄化組成物は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第3,936,385号に開示されている。分散誘導剤は、接触時に歯科用具をコーティングし得るような様式で浄化組成物に添加され得る。歯科用具が口腔へ導入された後、分散誘導剤は、治療的に有効な様式で、即ち、歯垢、歯肉疾患、歯周疾患、および/または口腔感染を防止するよう、歯および口腔のその他の要素と相互作用することができる。
【0065】
本発明は、歯科用品および分散誘導剤を含む経口使用のための用品にも関する。分散誘導剤は、上に示された化学式を有し、歯科用品にコーティングされるか、封入されるか、または含浸させられる。分散誘導剤組成物に含まれ得る追加の成分も上に示される。
【0066】
当技術分野において公知の様々な歯科用品が、本発明のこの態様において使用され得る。一つの態様において、歯科用品はデンタルフロスである。当技術分野において公知の任意の繊維が、デンタルフロスにおいて使用され得る。適当な繊維には、(ナイロンのような)ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース、および綿が含まれる。ナイロンおよびポリテトラフルオロエチレンの繊維はデンタルフロスにおいて使用される最も一般的な繊維であり、好ましい繊維である。適当なデンタルフロスは、米国特許第6,270,890号および第6,289,904号に開示されており、これらはいずれも参照により本明細書にその全体が組み入れられる。分散誘導剤組成物は、繊維へ含浸させらせるか、繊維にコーティングされるか、またはその他の方式でデンタルフロスに組み入れられ得る。
【0067】
デンタルフロスは、フロス使用過程中の使いやすさのため、ロウまたはその他の疎水性物質でコーティングされるか、またはそれらを含浸させられ得る。適当なロウには、微晶質ロウ、密蝋、パラフィンロウ、カルナウバロウ、およびポリエチレンロウが含まれる。分散誘導剤組成物は、ロウ層の一部として、またはロウ層と関連した第二のもしくは追加の層として、デンタルフロスへコーティングされてもよいし、または上記のような繊維に適用されてもよい。
【0068】
歯科用品は、分散誘導剤組成物が含浸している、または分散誘導剤組成物でコーティングされた爪楊枝であり得る。爪楊枝は、木のような天然生成物から作成されていてもよいし、または様々なプラスチックを含む人工成分から作成されていてもよい。適当な爪楊枝は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第7,264,005号に開示されている。
【0069】
歯科用品は、歯科用吸引器、咬合阻止器、デンタルダム、舌安定化装置、舌デフレクター、または歯科医もしくは歯科助手が患者の口内で使用する歯科用機器のその他の部品のような歯科用器具であってもよい。歯科用器具の考察は、米国特許第4,865,545号および第5,152,686号に見出され得、これらはいずれも参照により本明細書に組み入れられる。患者の口腔と接触する歯科用器具の部分が、分散誘導剤組成物でコーティングされ得る。
【0070】
歯科用品は、歯の上に置かれるベニヤ、クラウン、インレー、アンレー、またはブリッジのような歯科用構築物であるかもしれない。歯科用構築物は、典型的には、合金、磁器、セラミックス、アマルガム、アクリレートポリマー、またはこれらの材料の組み合わせから作成される。適当な歯科用構築物は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第7,229,286号に開示されている。分散誘導剤組成物は、歯科用構築物を作成するために使用される組成物に埋め込まれ得る。または、分散誘導剤組成物は、調製された後の歯科用構築物にコーティングされてもよい。
【0071】
本発明は、水および分散誘導剤組成物を含む、歯科用品を使用して口腔に適用される水性組成物にも関する。水が歯科用品を通って分配され、次いで、歯科用品から対象の口腔へと送られるよう、様々な歯科用品が、送水管に取り付けられるか、または送水管と共に使用されるよう設計されている。適当な歯科用品には、歯科用送水管、歯科用ウォーターピック等が含まれる。
【0072】
水道水または精製水がこれらの型の歯科用装置において使用され得るが、水源に添加剤を補足し、水が歯科用品と共に使用された時に対象の口腔に添加剤を送達するようにしてもよい。この場合、水に補足される添加剤は、分散誘導剤組成物である。
【0073】
歯科用送水管および歯科用ウォーターピックは、当技術分野において公知であり、歯科医および歯科助手により一般的に使用されている。異なる型の歯科用送水管およびそれらの異なる適用の考察は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第5,785,523号に見出され得る。適当なウォーターピックは、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第4,257,433号に開示されている。
【0074】
本発明は、コンタクトレンズの浄化および/または消毒の方法にも関する。方法は、本発明に係る分散誘導剤を含有している浄化溶液および/または消毒溶液でコンタクトレンズを処理する工程を含む。コンタクトレンズは、溶液に保存されている間、またはインビボ使用される間に、このようにして処理され得る。または、分散誘導剤は点眼剤において使用され得る。
【0075】
本発明は、さらに、対象の皮膚上のざ瘡またはその他のバイオフィルム関連皮膚感染を処置および/または防止する方法に関する。方法は、ざ瘡またはバイオフィルム関連皮膚感染を処置および/または防止するために有効な条件の下で、本発明に係る分散誘導剤により対象の皮膚を処置する工程を含む。分散誘導剤は、軟膏、クリーム、リニメント、膏薬、シェービングローション、またはアフターシェーブローションであり得る。それは、皮膚に接触するかまたは接近することを目的とした粉末、化粧品、軟膏、クリーム、液体、ソープ、ゲル、化粧用アプリケータ、および/または固形の織物材料もしくは不織材料の中に存在してもよい。
【0076】
本発明は、対象における慢性バイオフィルム関連疾患を処置および/または防止する方法にも関する。方法は、慢性バイオフィルム関連疾患を処置および/または防止するために有効な条件の下で、本発明に係る分散誘導剤を対象に投与する工程を含む。処置および/または防止される慢性バイオフィルム関連疾患には、中耳感染、骨髄炎、前立腺炎、大腸炎、腟炎、尿道炎、動脈粥腫、滑膜感染、組織筋膜感染、気道感染(例えば、嚢胞性繊維症患者の肺感染に関連した感染、肺炎、胸膜炎、心膜感染)、尿生殖器感染、および胃潰瘍感染または十二指腸潰瘍感染が含まれるが、これらに限定はされない。ヘリコバクターピロリにより引き起こされる胃潰瘍または十二指腸潰瘍のためには、分散誘導剤は5.5未満のpHで機能することが必要であろう。分散誘導剤は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、または毒性因子阻害剤のような抗微生物剤と組み合わせて投与され得る。胃治療の場合には、制酸剤、プロトンポンプ阻害剤、抗ヒスタミン薬等のような酸低下治療も利用され得る。
【0077】
本願のもう一つの局面は、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸である
を含む分散誘導剤を含む溶液に関する。ここで、誘導剤は0.5重量パーセント未満の濃度で存在し、溶液は5を超えるpHを有する。
【0078】
本発明のさらなる面は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群の一つまたは複数より選択される成分を含む組成物にも関する。さらに、組成物は、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸である
を含む分散誘導剤を含む。誘導剤は非塩型で製剤化される。
【0079】
本発明は、スキンクリーム、歯磨き剤、および口腔洗浄剤からなる群より選択され、実質的に2-デセン酸のトランス異性体を含まない、2-デセン酸のシス異性体を含む溶液にも関する。本明細書において解釈されるように、この溶液は、(シス異性体の変化を伴わない)トランス異性体濃度の低下が生理活性を増加させないのであれば、実質的にトランス異性体を含まない。シスとトランスとのモル比は少なくとも2であることがより好ましい。
【0080】
本願のもう一つの形態は、スキンクリーム、歯磨き剤、および口腔洗浄剤からなる群より選択され、トランス異性体を含まない、2-デセン酸のシス異性体を含む溶液に関する。
【0081】
本願のもう一つの形態は、コンタクトレンズ、および、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤を0.5重量%未満の濃度で含む溶液、を提供する工程を含む方法に関する。次いで、コンタクトレンズが該溶液で処理される。
【0082】
本発明のもう一つの形態は、ある皮膚状態を有する対象に提供する工程、および、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤を0.5重量%未満の濃度で含み、5を超えるpHを有する溶液を提供する工程、を含む方法に関する。次いで、皮膚状態が溶液で処置される。
【0083】
本発明は、一つまたは複数の分散誘導剤および一つまたは複数の付加的な成分を含む組成物にも関する。これらの付加的な成分は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群より選択される。組成物は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムと接触した際に、分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、バイオフィルムを破壊するためにマトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するよう製剤化される。
【0084】
本発明のもう一つの局面は、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態を処置または防止する方法に関する。この方法は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムにより媒介される状態を有する対象か、またはそのような状態に感受性の対象を提供する工程を含む。分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、分散誘導剤が対象に施され、それにより、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態が処置または防止される。
【0085】
本願のさらなる態様は、表面上のバイオフィルムの形成を処理または阻害する方法に関する。これは、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムの形成を有する表面か、またはそのような形成に感受性の表面を提供する工程を含む。分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、分散誘導剤が表面に施され、それにより、表面上のバイオフィルムの形成が処理または阻害される。
【0086】
実施例
以下の実施例は、本発明の態様を例示するために提供され、その範囲を制限することを目的としたものでは決してない。
【0087】
実施例1−細菌株および培地
この研究において使用された微生物には、B. H. Hollowayからのシュードモナス・アエルギノサPAO1、大腸菌(Escherichia coli)(ATCC 10798)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)(ATCC 25933)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)(ATCC 10273)、スタフィロコッカス・アウレウス(ATCC 12602)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(pyogenes)(ATCC 19615)、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)(ATCC 6633)、およびカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)(ATCC 20260)、ならびに空気中の雑菌混入を介してR2Aプレート上に収集された不定混合物の培養物が含まれていた。示された場合以外は、全ての実験が、0.2%グルコースが補足された、0.005%硝酸アンモニウム、0.00019%KH2PO4、0.00063%K2HPO4(pH7.0)、および0.001%Hutner塩を含有している修飾EPRI培地(Cohen-Bazire et al., J. Cell. Comp. Physiol. 49:35 (1957)は参照により本明細書にその全体が組み入れられる)において実施された。C.アルビカンスは、0.2%グルコースおよび0.1%ペプトンが補足された修飾EPRI培地において培養された。K.ニューモニエ、P.ミラビリス、S.アウレウス、およびB.ズブチリスは、0.1%ペプトンが補足された修飾EPRI培地において培養された。S.ピオゲネスは、10%ブレインハートインフュージョンブロスにおいて培養された。
【0088】
実施例2−P.アエルギノサ消費培地の調製
無細胞消費培養培地を調製するため、30℃で修飾EPRI培地で培養されたP.アエルギノサPAO1の一夜培養物6mLを、4リットルの修飾EPRI培地へ接種し、連続的に攪拌しながら室温で10日間インキュベートした。細菌細胞を、4℃で15分間13,000×gでの遠心分離(Sorvall RC 5B Plus Centrifuge, GSA Rotor;Thermo Electron Co., Ashville, NC)により沈降させた。上清を取り、真空下で0.45μm Millipore Type HAフィルター(Millipore. Co., Billerica, MA)で濾過し、続いて、0.2μm Acrodisc 32mmシリンジフィルター(PALL Co., East Hills, NY)でろ過した。消費培地は、4℃で保存された。
【0089】
実施例3−CSMの調製
分液漏斗において、ろ過された消費培地250mLにクロロホルム80mLを添加することにより、消費培地の有機成分を抽出した。1時間の分離時間の後にクロロホルム画分を除去した。クロロホルムを、Rotavapor R-3000ロータリーエバポレーター(Buchi Laboratories, Flawil, Switzerland)を使用して、40℃で蒸発させ、残存する有機材料を、ろ過されたナノピュア水6mLに再懸濁させ、Speed-Vacエバポレーターシステム(Savant Instruments, Inc., Hicksville, NY)を使用して乾燥状態にまで蒸発させるか、または凍結乾燥させた。次いで、これらの試料を培養培地または精製水に再懸濁させた。最終生成物はクロロホルム抽出消費培地(CSM)と呼ばれる。示された場合を除き、CSMは、消費培地に見出されるより125倍高い最終クロロホルム抽出有機炭素濃度で、実験において使用された。
【0090】
実施例4−CSMのHPLC分画
CSMを、C18 Microsorb-mv逆相カラム(Varian Inc.)(寸法250×4.6mm)を使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(Varian Prostar model 320, Varian Inc., Palo Alto, CA)により分画した。カラムに100μLのCSMを負荷し、29分間、1mL/分の流速でアセトニトリル/水勾配(2〜75%)で溶出させた。2分目から開始して1分毎に試料を収集した。HPLC画分をプールし、Speed Vac濃縮装置(Savant Instruments, Inc., Hicksville, NY)で濃縮し、修飾EPRI培地または精製水0.5mLに再懸濁させた。活性HPLC画分は、70%アセトニトリル/30%水においてカラムから溶出することが見出された。各HPLC分離の活性画分を、マイクロタイタープレート分散バイオアッセイにより決定した。
【0091】
実施例5−マイクロタイタープレート分散バイオアッセイ
バイオフィルム分散を外因的に誘導する能力について、様々な調製物を試験するため、マイクロタイタープレート分散バイオアッセイを使用した。ネイティブの分散誘導因子の蓄積を低下させるため、各ウェル内の培地を定期的に交換する半回分培養法を使用して、マイクロタイタープレートウェルの内表面上でバイオフィルムを培養した。バルク液体へ細胞を放出させ、光学密度を測定することにより分散した細胞の数を評価するため、このようにして培養されたバイオフィルムを、分散誘導剤または無菌培地により処理した。簡単に説明すると、微生物細胞の接着のための粗表面を作出するため、無菌のポリスチレン96穴プレートを10秒間アセトンによりエッチングした。24時間の乾燥の後、予め増殖培地で1:20に希釈された、試験生物を含有している一夜培養物150μL/ウェルを、プレートに接種し、200rpmで振とうしながら30℃でインキュベートした。ウェル中の培地を、5日間は24時間毎に、6日目および7日目は12時間毎に交換した。次いで、7時間後に培地を交換した。30℃で1時間、分散誘導剤を含有している増殖培地150μLを添加することにより、または対照として無菌培地を添加することにより、分散誘導を試験した。次いで、分散した細胞を含有している培地を、エッチングされていないマイクロタイタープレートにピペットにより移し、光学密度(OD570)を決定した(ELx808 Absorbance Microplate Reader;BioTek Instruments, Inc., Winooski, VT)。処理は、様々な濃度の消費培地、CSM、シス-2-デセン酸、トランス-デセン酸、デカン酸、およびDSFからなっていた。エタノール(10%)を脂肪酸誘導剤試料のための担体として使用したところ、分散に対する影響を有していないことが決定された。この方法の使用からの結果は、異なる処理の比較を行い、分散活性が統計的に有意であるか否かを決定するために有意義である。注:半回分系においては、対照試料および試験試料が、外因性の誘導の活性が測定される天然の分散に感受性であるため、マイクロタイタープレート分散バイオアッセイは、誘導された分散応答の絶対的な大きさを決定するためには適当でなかった。効率の研究は、全て、バイオフィルムチューブリアクターまたはフローセル連続培養系を使用して実施され、全細胞数および生細胞数の両方に基づいていた。
【0092】
実施例6−バイオフィルムチューブリアクターにおける分散バイオアッセイ
P.アエルギノサPAO1バイオフィルム培養物を、Sauerらにより以前に記載されたようなチューブリアクターで培養した(参照により本明細書にその全体が組み入れられるK. Sauer, et al., J. Bacteriol. 184: 1140 (2002))。追加のシリコン管を介して8ローラーヘッド蠕動ポンプおよび培地リザーバに接続された8本のシリコンリアクターチューブ(長さ81.5cm×ID 14mm)を使用して、連続貫通チューブリアクター系を構成した。培地は、管を通して、閉鎖された流出培地リザーバにポンプで送り込まれた。組み立てられた系を、接種前にオートクレーブ処理することにより、滅菌した。P.アエルギノサの一夜培養物2mL(およそ1×108CFU/mLを含有している)を、各リアクターチューブから1cm上流の隔壁を通して、注射器注入により、シリコンチューブに接種した。細菌細胞を、1時間、管に接着させ(静止インキュベーション)、その後、10.8mL/hrの溶出速度で流動を開始させた。96時間のP.アエルギノサPAO1バイオフィルム培養の後、処理を実施した。連続条件および静止条件の下で処理を実施した。
【0093】
連続処理下では(図17A)、試験ライン中の流入培地を、新鮮培地から、添加前に中性に調整され一夜通気された、2%グルコースにより修正された消費培地に変更した。対照ラインは、新鮮な修飾EPRI培地を含有している新たなラインに切り替えた。0分目から開始して1分間隔で試料を収集し、光学密度についてアッセイした。30分目に消費培地を添加した。試料を氷上の試験チューブに収集し、続いて、細胞の分離を確実にするためにTissue Tearor Model 985370(Biospec Products, Inc.)を用いて5000rpmで30秒間ホモジナイズした。Ultrospec 3000分光光度計(Amersham Pharmacia Biotech, Inc.)を用いて、600nmにおける光学密度により細胞密度を決定した。
【0094】
静止処理条件下では、リアクター容量を、誘導剤を含有している培地に置換することにより、チューブリアクターの始点から2cm上流の接種ポートを通して、注射器注入により、分散誘導剤を添加した。消費培地は直接添加された。CSMまたは合成分散誘導剤(例えば、シス-2-デセン酸)は、修飾EPRIで調製され、添加された。非流動条件下での1時間の曝露の後、長さ81.5cmの各シリコンチューブリアクターを切り出し、(放出されたバイオフィルム細胞を含有している)液体画分を氷上の試験チューブに収集し、チューブの管腔に残存している細胞を押し出すために、金属桿を用いて実験台上でチューブを回転させることにより、バイオフィルム画分を収集した(参照により本明細書にその全体が組み入れられるK. Sauer, et al., J. Bacteriol. 184:1140 (2002))。試料を氷上に収集し、上記のようにホモジナイズした。Standard Plate Count寒天培地(Difco, Detroit, MI)上でのスプレッドプレート法により、または全細胞数により微視的に決定されるような細胞数についての標準曲線に対する校正により細胞数へと調整されたOD600における光学密度により、細胞数を決定した。分散効力を、光学密度または生存性測定のいずれかを使用して計算した:
【0095】
実施例7−顕微鏡分析
ガラス基底に接着したバイオフィルムの増殖および発達を観察するために、連続培養貫通フローセルを構成した。フローセルは、カバーガラスにより蓋をされた1.0mm×1.4cm×4.0cmのチャンバーを含有しているアルミニウムから構築されていた。無菌修飾EPRI培地を、0.13mL/分の流速で、Masterflex 8ローラーヘッド蠕動ポンプを使用して、10リットルのベッセルからシリコン管を通してフローセルにポンプで送り込んだ。チャンバー内の流れは、層流であり、0.17のレイノルズ数を有し、4.3分の液体滞留時間を有していた。フローセルを去る培地は、シリコン管を介して、流出液リザーバに排出された。系全体は外部環境に対して閉鎖されていたが、各ベッセルに取り付けられた孔径0.2μmの気体透過性フィルターにより大気圧と平衡に維持されていた。対数期のP.アエルギノサ(およそ108CFU/mL)を、流動条件下で、フローセルから4cm上流の隔壁を通して3.0mLのスラグ(slug)用量として接種した。カバーガラスの内表面に接着した細胞を、Olympus BX60顕微鏡および100×拡大率A100PL対物レンズまたは50×拡大率ULWD MSPlan長作動距離Olympus対物レンズを使用して、透過光またはepi-UVの照射により観察した。全ての画像を、Magnafire冷却3チップ電荷結合素子(CCD)カメラ(Optronics Inc., Galena, CA)を使用して取得し、その後の回収および分析のため別々のディジタルファイルとして保存した。P.アエルギノサは、最長12日間フローセルで培養された。本出願人の以前の研究は、P.アエルギノサが7〜9日の連続培養期間の後、定常状態バイオフィルムを発達させることを示した。定常状態とは、剥離したバイオフィルム細胞に起因する流出液中の細胞数(CFU)の無変化により定義され;定常状態において、バイオフィルムの増殖は、分散または剥離を通した細胞の喪失と釣り合っている。各実験の過程において個々の細胞クラスタを調査し、グリッド座標を割り当て、実験の過程において定期的に再調査した。ランダムに選択された顕微鏡ステージ座標に最も近いクラスタを突き止めることにより、ランダムな細胞クラスタのサイズ測定を行った。クラスタの基底から頂端まで焦点を合わせることにより、高さを決定し、ステージミクロメーターを使用した細胞クラスタの底部における測定により、厚みを決定するため、各細胞クラスタを測定した。細胞クラスタとは、基底に接着し、運動性を欠く菌体外多糖マトリックス内に埋め込まれた細胞と定義され;細胞クラスタ内の空隙区域は、細胞クラスタ内の空間において自由に遊泳する細菌の観察により決定された。
【0096】
実施例8−バイオフィルム発達の阻害
ガラス基底の表面上で細菌を培養するためにフローセルを使用した(上記)。P.アエルギノサのバイオフィルムを、修飾EPRI培地中の(消費培地中に見出されるクロロホルム抽出有機材料の濃度と一致するよう1:125に希釈された)CSMの存在下および非存在下で、99時間にわたり室温で培養した。実験の過程において、各時点について、50×ULWD MSPlan対物レンズを使用して20個の顕微鏡視野を計数することにより、表面上の細菌の全細胞被覆度および平均バイオフィルム厚を決定した。画像分析ソフトウェアImagePro Plusを使用して、1cm2当たりの全細胞面積を、72時間目および99時間目に決定した。厚みは、増殖の72時間目および99時間目に、20個のランダムな細胞クラスタの平均最大高さを測定することにより決定された。対照試料は、CSM無添加の修飾EPRI培地の存在下で培養され試験された。これらの実験からの結果は、EPRI培地単独で培養されたバイオフィルムと比較して、CSMの存在下でバイオフィルムが培養された場合、増殖するバイオフィルムの表面積被覆度が有意に低下することを示した。CSMの添加は、CSMにより処理されていない試料と比較して、99時間の増殖の後の平均バイオフィルム細胞クラスタ厚の有意な低下も引き起こした(図18)。
【0097】
実施例9−P.アエルギノサCSMおよびシス-2-デセン酸の分光分析
精製水で調製された全てのCSM試料を、各分光分析のため、凍結乾燥させ、適切な担体に再懸濁させた。全ての実験におけるCSM対照は、マイクロタイタープレート分散バイオアッセイにより決定されたように分散を誘導しないCSM HPLC生成物、およびCSMを含有していない担体溶液からなっていた。
【0098】
実施例10−質量分析
試料を担体溶液(50%水、50%メタノール、および0.01%ギ酸)に再懸濁させた。高性能ハイブリッド四極子飛行時間型質量分析計QSTAR(登録商標)XL Hybrid LC/MS/MS System(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を使用して、API 150EX(商標)、API 3000(商標)、およびQSTAR(商標)Systems(Applied Biosystems)のためのIonSpray源を用いて、室温において、陽イオンモードで、質量分析を実施した。Analyst QSバージョン1.1を使用してデータを分析した。
【0099】
実施例11−核磁気共鳴(NMR)
CSMおよびシス-2-デセン酸の試料を、重水素化アセトニトリル1mLに再懸濁させ、薄壁NMRサンプルチューブ(VWR)に挿入した。300 MHz Proton NMR-Bruker AC 300(Bruker Daltonics Inc., Vilarica, MA, USA)において分析を実施した。24時間スペクトルを蓄積させた。
【0100】
実施例12−ガスクロマトグラフィ-質量分析(GC-MS)
CSM、および0.01mg/mL〜10mg/mLの濃度のシス-2-デセン酸の試料を、アセトニトリル2mLに再懸濁させた。3工程連続のヘキサン抽出を、可溶性の有機試料材料を除去するために実施した。ヘキサンを水浴(55〜70℃)中で乾燥状態にまで蒸発させた。続いて、プリジン(Puridine)(250μL)をGCへの注入のため試料を可溶化するために添加した。1mL/分の流速で、担体としてヘリウムを使用し、Restek(Columbia、MD)XTI-5 GCカラム(30m、0.25 mm i.d.、0.25 μmフィルム厚)を使用して、Shimadzu QP5050A GC-MSシステムを用いて、スペクトルを入手した。全ての分析に、スプリットレスインジェクションおよび電子衝撃イオン化を組み入れた。GCとMSとの間の界面温度は310℃に維持した。プログラムLab Solutions, GCMS solutionバージョン1.2を使用してデータを分析した。
【0101】
実施例13−赤外分光法(IR)
各試料に添加するべきKBrの量を決定するために、CSMおよびシス-2-デセン酸の試料を凍結乾燥の前後に計量した。KBrを試料重量の10倍で添加し、乳鉢および乳棒を使用して混合した。得られた粉末を、Carver 4350 Manual Pellet Press(Carver Inc., Wabash, IN, USA)を使用して、ペレットへと成形した。10分間10トンの圧力を適用した。1cm-1の分解能で、3500cm-1〜400cm-1の範囲で、室温でBruker Equinox 55 FT-IR分光計を使用してIRスペクトルを入手した。最終的なスペクトルは、128回のスキャンの平均値を表す。各試料をトリプリケートで測定した。
【0102】
実施例14−バイオフィルム細菌は抗生物質に対して抵抗性である
図1Aは、バイオフィルム細菌が抗生物質の添加に対して抵抗性であり、殺生物剤およびその他の抗微生物処理について類似した抵抗性が示される様子を模式的に例示している。図1Bは、抗生物質に加えて分散誘導剤が添加された場合、分散した細菌が抵抗性を失い、抗生物質に対して感受性になることを例示している。
【0103】
実施例15−分散誘導化合物の効果
図2は、シュードモナス・アエルギノサ培養物に由来する本発明に係る分散誘導化合物により処理された実際のバイオフィルム試料を示す。この実験においては、貫流フローセルを使用して6日間P.アエルギノサを培養した後、CSMを添加して試験した。
【0104】
フローセルは、カバーガラスにより蓋をされた1.0mm×1.4cm×4.0cmのチャンバーを含有している陽極酸化アルミから構築されていた。0.13ml/分の流速で、Masterflex 8ローラーヘッド蠕動ポンプを使用して、2リットルベッセルからシリコン管を通してフローセルへと無菌EPRI培地をポンプで送り込んだ。チャンバー内の流れは層流であり、0.17のレイノルズ数を有し、4.3分という液体滞留時間を有していた。フローセルを去る培地は、シリコン管を介して流出液リザーバに排出された。系全体は外部環境に対して閉鎖されていたが、各ベッセルに取り付けられた孔径0.2μmの気体透過性フィルターにより大気圧と平衡に維持されていた。対数期のP.アエルギノサ(およそ108CFU/ml)を、流動条件下で、フローセルから4cm上流の隔壁を通して3.0mlのスラグ用量として接種した。カバーガラスの内表面に接着した細胞を、Olympus BX60顕微鏡および50×拡大率ULWD MSPlan長作動距離Olympus対物レンズを使用して、透過光により観察した。全ての画像を、Magnafire冷却3チップ電荷結合素子(CCD)カメラ(Optronics Inc., Galena, Calif.)を使用して取得し、その後の回収および分析のために別々のディジタルファイルとして保存した。フローセル内の成熟バイオフィルムの発達の後、培地の流れを中止し、無菌EPRI培地中のろ過されたCSM 3mLをフローセルに添加した。フローセル内の単一の位置の透過光画像を、CSMによる処理の前および途中に撮影した。図2は、CSM添加の1分前、CSM添加の5分後、およびCSM添加の30分後に、そのような実験から撮影された画像を示す。対照試料も、CSMが含まれずEPRI培地6mLが添加されたことを除いて、試験試料と同一の様式で実行した。対照試料からの結果は、バイオフィルム細胞数またはバイオフィルム構造の変化を示さず、分散は認められなかった。
【0105】
実施例16−バイオフィルム細菌は表現型の切り替えを受ける
正常なバイオフィルム発達の過程において、バイオフィルム細菌は、成熟II段階の最後に、主にバイオフィルム型であった生理学が、主に浮遊型へと変化する、表現型の切り替えを受ける(図3)。分散期の過程におけるバイオフィルムの微視的観察は、細胞クラスタ内の細菌が運動性になるが(成熟期P.アエルギノサは非運動性である)、その一方でクラスタの端部周辺の細菌は固定されたままであることを証明した。細菌が泳ぐ/微動することができる細胞クラスタの領域は、(通常)中心の位置から容量が増大し、最終的には、クラスタ壁に破損箇所が作成される。細菌はこの破損箇所を通って泳ぎ、バルク液体相に入り、細胞クラスタ内に空隙を残すことができる。
【0106】
分散応答の継続的な研究は、細胞クラスタが、増殖および分散のエピソードを通じて変遷し;しばしば、何回ものそのようなサイクルの間、同一の細胞クラスタが持続することを明らかにした。複数の分散および再生の事象は、一般に、分散が発生した回数を示すことができる年輪に類似したパターンで、細胞クラスタの発達につながる。しばしば、細胞クラスタは、分散事象の間に完全に基底から剥離するであろう(参照により本明細書にその全体が組み入れられるStoodley et al., "Growth and Detachment of Cell Clusters from Mature Mixed-species Biofilms," Appl. Environ. Microbiol. 67:5608-5613 (2001))。この効果は、細胞クラスタの底部における接着構造が弱まり、液体剪断によるクラスタの剥離が可能になるためと考えられる。
【0107】
実施例17−培地停滞後の細胞剥離
図4は、72時間の培地停滞の後の細胞の剥離を示す位相差顕微鏡写真の時系列を示す。上記実施例3に記載された方法に従って、フローセルにP.アエルギノサPAO1を接種し、3日間にわたり培養した。これらのバイオフィルムの培養のために3日を選んだのは、連続流の下で、P.アエルギノサのバイオフィルム内の細胞クラスタが、9日のインキュベーションの後、自発的な分散事象を受けることが観察された観察に基づいていた。連続流の下での72日の培養の後、培地の流れを中止し、96時間にわたり2時間毎に細胞クラスタの画像を記録した。72時間の培地停滞の後、フローセル内の細胞クラスタは脱凝集し、細胞が浮遊性細菌としてバルク液体培地に入るのが観察された(図4)。これらの実験は、流れの中断が、バイオフィルムの分散応答を誘導することを証明した。これらの実験において、分散は、細胞クラスタ内のみならず、バイオフィルム中の全クラスタの至る所で起こった。図4に例示されるように、基底に直接接着した細胞のみが、バルク液体へ泳ぐのが観察されなかった。
【0108】
実施例18−クロロホルム抽出法の開発
分散誘導活性を有する消費培養培地の活性画分を抽出する信頼性のある方法を開発するために、様々な増殖および抽出の手法を試験した。クロロホルムは、(質量分析法により決定されたように)狭い範囲の抽出可能な有機化合物をもたらし、生理活性を有する量の分散誘導剤を回収することができたため、HPLC分画手法との適合性のためにクロロホルムを最良の抽出溶媒として選んだ。消費培地のクロロホルム抽出のため現在使用された方法は、以下の通りである:P.アエルギノサPAO1の細菌培養物を、連続的に攪拌しながら、室温で、6日間、回分培養ベッセルで、(乳酸ナトリウム0.05g/l、コハク酸ナトリウム0.05g/l、硝酸アンモニウム50.381g/l、KH2PO4 0.19g/l、K2HPO4 0.63g/l、Hutner塩金属溶液1ml、およびグルコース2.0g/lを含有している)EPRI培地4リットルにおいて培養した。増殖後、10,000×gでの20分間の遠心分離、それに続く孔径0.22μmのフィルターによる消費培地の濾過により、培養培地から細菌を除去した。バッチ内で、ろ過された消費培地250mlを分液漏斗中でクロロホルム80mlと混合した。10分の分離時間の後、クロロホルム画分を除去した。次いで、クロロホルム試料を、rotavapor R-3000(Biichi Laboratories, Flawil, Switzerland)を使用して70℃で乾燥状態にまで蒸発させ、ろ過されたナノピュア水またはEPRI培地6mLに再懸濁させた。クロロホルム抽出手法から得られた最終生成物を、ここで、濃縮消費培地またはCSMと呼ぶ。図15は、バイオフィルムチューブリアクターで培養された連続培養バイオフィルムに対するCSMおよび消費培地の効果を比較する結果を示す。1リットル当たり2.0グラムのグルコースが補足されたEPRI培地において9日間22℃で培養されたP.アエルギノサPAO1の培養物から、以前に記載されたようにしてCSMおよび消費培地を調製した。P.アエルギノサPAO1のバイオフィルムを、32cm二酸化シリコンMasterflexサイズ14管からなるバイオフィルムチューブリアクターにおいて22℃で6日間培養した。6日間の終了時、1リットル当たり2.0グラムのグルコースが各々補足されたCSM、消費培地、または無菌EPRI培地6mLをチューブに添加した。20分間にわたり、チューブから流出液を収集し、各処理についてプールした。プールされた試料を、各処理から分散した相対細胞数を決定するために570nmにおける光学密度についてアッセイした。各実験を五つのレプリケートを用いて実施した。これらの実験からの結果は、クロロホルム抽出された消費培養培地CSMが、消費培地と比較して、P.アエルギノサのバイオフィルムを分散させる、より大きな活性を示したことを証明した。
【0109】
出願人は、培地の流れが数時間中止された後、フローセルリアクター中のガラス基底上で培養された連続培養バイオフィルムからP.アエルギノサPAO1が分散することを観察した。この観察から、バイオフィルム分散が、バイオフィルム脱凝集の誘導剤として作用する細胞外メッセンジャーの蓄積に起因し得るという仮説が導かれた。この仮説は、P.アエルギノサのバイオフィルムが、回分培養フラスコにおいては形成されないが、ケモスタットの壁上には形成されるという観察により支持される。これは、分散のためのシグナルの蓄積がバイオフィルム発達を防止し得ることを示す。さらに、連続培養で培養された場合、P.アエルギノサのマイクロコロニーは、最低40ミクロンの直径および10ミクロンの厚みに達した時、中心に空隙を形成する(図6)。しかしながら、これらの空隙が形成されるマイクロコロニーサイズは、液体の流速に依存する。バイオフィルムリアクター内の流れが増加すると、マイクロコロニー空隙形成が起こる直径および厚みも増加し、このことから、分散誘導と輸送との間の関係が示された。これらの観察は、P.アエルギノサにより産生される細胞外物質が、バイオフィルム分散の誘導を担っていることを暗示した。
【0110】
出願人は、P.アエルギノサが細胞外分散誘導化合物を産生するのであれば、成熟したP.アエルギノサのバイオフィルムへの無細胞消費培養培地の添加が、バルク液体培地への細胞の放出を引き起こすはずであると仮定した。これらの細菌は、リアクター流出液中に回収される細胞の数の増加として検出可能であるはずである。図7Aは、P.アエルギノサが24時間懸濁培養された無細胞消費培地により、連続流の下で、70分間、バイオフィルムを処理した代表的な実験からの結果を例示している;対照バイオフィルムには新鮮培地を添加した。飢餓、酸素欠乏、またはpH変化が、細菌の放出を担っているのではないことを確実にするため、添加前に、消費培地を通気し、グルコースを補足し、pHを中性に調整した。消費培地の添加から20分以内に、対照ラインと比較して、流出液中の細胞数の大きなスパイクが検出可能であった。このことから、消費培地により処理された培養物の流出液へのバイオフィルム細菌の放出が示された。また、放出された細胞の小さなスパイクが、対照試料においても検出可能であったが、これは、新鮮培地リザーバへの切り替えラインに関連した物理的または機械的な効果に対する応答を表している可能性が高い。
【0111】
消費培地の活性分散誘導画分を精製するため、P.アエルギノサの無細胞定常期回分培養物をクロロホルムを使用して抽出し、続いて、ロータリーエバポレータによるクロロホルムの蒸発、および新鮮培地または緩衝溶液への有機画分の再懸濁を行った(これは、クロロホルムに可溶性の有機画分の125倍の増加をもたらした)。この調製物はCSMと呼ばれる。CSMの分散誘導活性を試験するため、P.アエルギノサのバイオフィルムをシリコン管における連続培養で培養し、バイオフィルムを、CSMにより修正された培地に、1時間曝露した。新鮮培地により処理された対照ラインにおいて、押し出されたチューブリアクターの内容物は、概して完全なバイオフィルムを示したが(図7B)、CSMにより処理されたチューブの内容物は、バイオフィルムが完全に脱凝集していることを示した(図7C)。シリコン管における連続培養で培養された4日齢のバイオフィルムの研究は、CSM含有培地による1時間の処理が、流出液中に放出されたコロニー形成単位により決定されるように、バイオフィルム細胞の平均87.4%(±1.4%)を放出させる効果を有することを明らかにした。消費培地は、32.4%(±5.5%)の平均分散効力を有することが示された。
【0112】
顕微鏡にマウントされたフローセルのガラス基底上での連続培養で6日間培養されたバイオフィルムマイクロコロニーに対するCSMの効果を評価するため、顕微鏡検を使用した(参照により本明細書にその全体が組み入れられるK. Sauer et al., J. Bacteriol. 184: 1140 (2002))。CSMの添加前、高度に発達したマイクロコロニーは、定常期にあり、運動性の兆候を示さない細胞を含有していることが観察された(図7D)。CSM含有培地との7分間の接触の後、マイクロコロニー内の細胞は、微動し始め、活発な運動性を示し始めた(図7E)。30分後、マイクロコロニーは完全に脱凝集し、細胞が培地中を自由に泳ぐのが観察された(図7F)。天然の分散と比較した場合、外因的に誘導された分散は、マイクロコロニーの外側から内側に向かって進行し、中心の空隙を作出するのではなく、マイクロコロニーの完全な脱凝集をもたらすことが観察された。
【0113】
フローセルに継続的に添加された時、消費培地の濃度に調整されたCSMは、99時間にわたりバイオフィルム発達の有意な阻害を示し、バイオフィルムの平均厚みおよび表面積被覆度の両方の低下を示した(図8)。予め形成されたバイオフィルムのCSMによる外因性の分散誘導は、1日目(バイオフィルムマイクロコロニー形成の開始)から6日目までの全ての時点で測定可能であり、その後、天然の分散が起こり始めた。CSMの活性は、低温保存された場合、有意な低下なしに最大6ヶ月持続することが示された。(アシル-ホモセリンラクトンを回収するための)酢酸エチルによる消費培地の抽出は、分散活性を有する調製物をもたらさなかった。
【0114】
P.アエルギノサにより形成された成熟バイオフィルムおよび発達中のバイオフィルムに対する分散誘導が証明されたため、次に、大腸菌、P.アエルギノサと混合された大腸菌、空気中の雑菌混入に由来する不定混合物の細菌バイオフィルム、のバイオフィルム培養物において分散を誘導するCSMの能力、ならびにクレブシエラ・ニューモニエ、プロテウス・ミラビリス、ストレプトコッカス・ピオゲネス、バチルス・ズブチリス、スタフィロコッカス・アウレウス、およびカンジダ・アルビカンスにより形成されたバイオフィルムに対する能力を試験した。CSMは試験された全ての試料において対照と比較して有意な分散を刺激することが示された。これらの実験からの結果は、図9に要約される。P.アエルギノサ分散誘導剤の、異なる細菌種および酵母において分散を活性化する能力は、それが、門および界を越えて活性を保有していることを示す。
【0115】
バイオフィルム分散の誘導剤としてのCSMの役割が確立されたため、CSM中に存在する活性分子を同定した。C-18逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用してアセトニトリルおよび水の均一濃度勾配により分離されたCSMの複数の画分の分散活性をアッセイすることにより、これを開始した。(1分間隔で収集された)溶出したHPLC画分を、残余のアセトニトリルを除去するためにSpeedvacで乾燥させ、精製水に再懸濁させ、分散活性を決定するためにマイクロタイタープレート分散バイオアッセイにより試験した。図10Aは、CSM分画バイオフィルム分散アッセイの結果を示す。結果は、最高活性を示すCSMのHPLC画分が、22分、70%/30%のアセトニトリル/水比率で溶出することを示した。
【0116】
活性HPLC CSM画分の質量分析は、171M/Z(mw=170)で低いイオン化活性を有する一貫した分子ピークを示した。このピークは分散活性を示す全ての試料に存在し、分散活性のない全ての試料に欠けていた。このピークは、(新鮮培養培地を含む)CSMの調製において使用された全ての担体液体および溶媒にも欠けていることが示された。170mwピークの質量分析−生成物イオン分析、溶解度分析、H1およびC13核磁気共鳴(NMR)分光法、ならびに赤外(IR)分光法により、170mw分子が、2位炭素に二重結合が位置している単不飽和C10脂肪酸;2-デセン酸であることが証明された。
【0117】
22分CSM HPLC画分からの170mw分子(M/Z=171)が2-デセン酸と同一であることを確認するため、元の分子を、生成物イオンピークを作成するため、質量分析において断片化した。活性CSM画分および2-デセン酸からの生成物イオンを、これら二つの分子の切断の差異を評価するために、四極子ms/msにより分析した。図12Aは、171M/Z CSM試料が、2-デセン酸との同一性を有していることを示す。GC-MSにより分析した場合、未分画CSMは、2-デセン酸のものと同一の7.6分という保持時間を有する単一の主要ピークを示した(図12B)。赤外分光法により、2-デセン酸のシス異性体が、CSMから単離された有機化合物であることが確認された(図12C)。
【0118】
この同定の後、様々な分子量の単不飽和脂肪酸分子を合成し、分散活性について試験した。X.カンペストリス(campestris)の細胞塊を破壊することが示されたDSFは、P.アエルギノサの分散を促進しないことが示された。最高活性を有する化合物は、2-デセン酸の二つの異性体であった。トランス異性体(トランス-2-デセン酸)は、ミリモル濃度でのみ活性を有することが、マイクロタイタープレート分散バイオアッセイにより示された。この濃度は、典型的には、細胞間シグナル伝達分子としての資格を得るほど十分には低くない。図10Bは、マイクロタイタープレートで培養されたP.アエルギノサのバイオフィルム培養物に対する、増加する濃度のシス-2-デセン酸の分散活性を示す。これらの結果は、シス異性体(シス-2-デセン酸)が、1.0ナノモル〜10ミリモルの濃度範囲で活性を有し、1.0ナノモルにおいて、未濃縮の消費培養培地より大きな分散活性を示す(即ち: 天然に存在する誘導剤より高い)ことを証明した。顕微鏡検は、図13に示されるように、分散誘導剤としてのシス-2-デセン酸の活性がCSM活性に類似しており、バイオフィルムマイクロコロニーを完全に破壊することを明らかにした。シス-2-デセン酸の活性を、大腸菌、S.ニューモニエ、P.ミラビリス、S.ピオゲネス、B.ズブチリス、S.アウレウス、およびC.アルビカンスのバイオフィルム培養物に対しても試験したところ、CSMについて入手されたものと類似した結果が得られた(図11)。
【0119】
この研究は、小さなメッセンジャー脂肪酸分子シス-2-デセン酸が、回分培養およびバイオフィルム培養においてP.アエルギノサにより産生されることを示した。この分子は、P.アエルギノサ、ならびにある範囲のグラム陰性菌およびグラム陽性菌、ならびに酵母により形成されたバイオフィルムにおいて、分散応答を誘導することが証明された。分散応答は、固定された細胞がより好都合な環境に移動し、残存する集団を少なくする機会を与え、細胞が増加した栄養素を入手することを可能にする、集団内の飢餓条件を回避するための機序である。バイオフィルムマイクロコロニーが小さい時、細胞外マトリックスに蓄積される誘導剤は、拡散輸送および移流輸送により除去される。この除去は回分系においては不可能である。誘導剤が内部から十分に洗浄されない(拡散速度より産生速度が優っている)寸法に細胞クラスタが達した時、誘導剤は、分散応答の活性化のために必要な濃度に達し、バイオフィルムから細胞を放出することができるようになる。バイオフィルム分散を担っている細胞間シグナル伝達分子の発見は、バイオフィルム細菌の浮遊性状態への変遷の外因性の誘導を可能にする。この分散誘導剤の使用は、バイオフィルムと関係のある感染に対抗するため、そして微生物の生物付着を制御するための、処理の改善された選択肢をもたらす可能性が高い。
【0120】
好ましい態様が本明細書に示され、詳細に記載されたが、様々な修飾、追加、置換等が本発明の本旨を逸脱することなく成され得、従って、これらは、以下の特許請求の範囲において定義されるような本発明の範囲内にあると見なされることが、当業者には明白であろう。
【技術分野】
【0001】
本願は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる2007年5月14日出願の米国仮特許出願第60/917,791号および2008年1月2日出願の第61/018,639号の恩典を主張する。
【0002】
本発明は、NIHおよびNSFにより授与されたグラント番号NSF MCB-0321672およびNIH R15 AI055521-01の下で政府の支援を受けて作成された。政府は、本発明における一定の権利を有する。
【0003】
発明の領域
本発明は、バイオフィルム中の細菌細胞における生理学的分散応答を誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
バイオフィルム構造の緻密な性質、バイオフィルム細菌の生理学的状態の推定される低下、およびバイオフィルムマトリックスポリマーにより付与される保護のため、天然および人工の化学的薬剤は、感染性バイオフィルム集団を充分に攻撃し破壊することができない(Costerton et al., "Bacterial Biofilms in Nature and Disease," Annu. Rev. Microbiol. 41:435-464 (1987)(非特許文献1);Hoiby et al., "The Immune Response to Bacterial Biofilms," In Microbial Biofilms, Lappin-Scott et al., eds., Cambridge: Cambridge University Press (1995)(非特許文献2))。抗生物質に対する抵抗性の増加は、バイオフィルム細菌に関連した一般的な形質である。接着した場合、細菌は著しい抵抗性を示し、バイオフィルム細胞の様々な抗微生物剤に対する感受性は、浮遊(遊離浮遊)培養で培養された同一の細菌より10〜1000倍低くなる。例えば、最も効率的な抗菌剤のうちの一つであると考えられている酸化的殺生物剤である(次亜塩素酸ナトリウムとしての)塩素は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)のバイオフィルム細胞を死滅させるために、同一種の浮遊性細胞と比較して600倍の濃度の増加を必要とすることが示されている(Luppens et al., "Development of a Standard Test to Assess the Resistance of Staphylococcus aureus Biofilm Cells to Disinfectants," Appl Environ Microbiol. 68:4194-200 (2002)(非特許文献3))。抗生物質に対するバイオフィルム細菌の異常な抵抗性を説明するために、以下のものを含むいくつかの仮説が提案されている:(i)バイオフィルム細菌(特に、バイオフィルム内深部のもの)により示される代謝および分裂の速度の低下;(ii)バイオフィルムEPSマトリックスが、吸着剤または反応体として作用し、バイオフィルム細胞と相互作用することができる薬剤の量を低下させ得る。さらに、バイオフィルム構造は、バイオフィルムの領域への接近を遮断することにより物理的に抗微生物剤の浸透を低下させ得る;(iii)バイオフィルム細胞は、多剤排出ポンプおよびストレス応答レギュロンのような特定の防御因子を発現しており、浮遊性細菌とは生理学的に異なる(Brown et al., "Resistance of Bacterial Biofilms to Antibiotics: A Growth-Rate Related Effect? " J. Antimicrob. Chemotherapy 22:777-783 (1988)(非特許文献4);Anwar et al., "Establishment of Aging Biofilms: Possible Mechanism of Bacterial Resistance to Antimicrobial Therapy," Antimicrob. Agents Chemother. 36: 1347-1351 (1992)(非特許文献5);Mah et al., "Mechanisms of Biofilm Resistance to Antimicrobial Agents," Trends Microbiol. 9:34-39 (2001)(非特許文献6);Sauer et al., "Pseudomonas aeruginosa Displays Multiple Phenotypes During Development as a Biofilm," J. Bacteriol. 184:1140-1154 (2002)(非特許文献7);Stewart, P.S., "Mechanisms of Antibiotic Resistance in Bacterial Biofilms," Int. J. Med. Microbiol. 292:107-113 (2002)(非特許文献8);Donlan et al., "Biofilms: Survival Mechanisms of Clinically Relevant Microorganisms," Clinical Microbiol. Reviews 15:167-193 (2002)(非特許文献9);Gilbert et al., "The Physiology and Collective Recalcitrance of Microbial Biofilm Communities," Adv. Microb. Physiol. 46:202-256 (2002)(非特許文献10);Gilbert et al., "Biofilms In vitro and In vivo: Do Singular Mechanisms Imply Cross-Resistance?" J. Appl. Microbiol. Suppl. 98S-110S (2002)(非特許文献11))。詳細な分子的研究が出現したため、抗微生物薬に対するバイオフィルムの異常な抵抗性においてこれらの因子の各々が役割を果たすことが明白になりつつある。最初の処理は、通常、バイオフィルムマイクロコロニーの端部でのみ細菌を死滅させる効果を有する。これらのマイクロコロニー内深部の細菌は、抗生物質により影響を受けず、感染の継続的な蔓延のための巣を形成する。
【0005】
感染および産業的な系における微生物バイオフィルムは、効率的な処理に対する不応性のために重大な問題を提示する。
【0006】
剥離とは、バイオフィルムまたは基層からの(個々の、または群での)細胞の除去を記載するために使用される一般化された用語である。Bryers, J. D., "Modeling Biofilm Accumulation," In: Physiology Models in Microbiology. Bazin et al., eds., Boca Raton, FL., Vol. 2, pp. 109-144 (1988)(非特許文献12)は、細菌がバイオフィルムから剥離する四種の別個の剥離機序を分類した。これらはアブレージョン(abrasion)、グレージング(grazing)、エロージョン(erosion)、およびスラウイング(sloughing)である。これらの機序は、主に、バイオフィルム細菌に作用する化学的環境および物理的環境の視点から記載されている。生理学的に調節された事象としての能動的な剥離が、多くの著者らにより暗示されているが、バイオフィルムからの細菌の剥離のための生物学的基礎を証明する研究はほとんど実施されていない。
【0007】
剥離の生理学的調節に関する一つの研究は、P.アエルギノサ(aeruginosa)に対して、Peyton et al., "Microbial Biofilms and Biofilm Reactors," Bioprocess Technol. 20: 187-231 (1995) (非特許文献13)により実施された。それらの研究において、基質の制限が、おそらく増殖速度の低下の結果として、剥離速度の減少をもたらすことが観察された。Allison et al., "Extracellular Products as Mediators of the Formation and Detachment of Pseudomonas fluorescens Biofilms," FEMS Microbiol. Lett. 167: 179-184 (1998)(非特許文献14)は、延長されたインキュベーションの後、P.フルオレセンス(fluorescens)バイオフィルムが、EPSの低下と一致して剥離を経験することを示した。クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)においては、定常期の開始が、基層からの剥離の増加と相関していた(Lamed et al., "Contact and Cellulolysis in Clostridium thermocellum via Extensive Surface Organelles," Experientia 42:72-73 (1986)(非特許文献15))。飢餓は、栄養素がより豊富な生息地を細菌が探求することを可能にする未知の機序による剥離に通じ得ると仮定されている(O'Toole et al., "Biofilm Formation as Microbial Development," Ann. Rev. Microbiol. 54:49-79 (2000)(非特許文献16))。
【0008】
流動系から回分培養系への移行は、バイオフィルム剥離をもたらすことが多くの研究室により観察されている。ある研究室は、連続培養系において流れが抑止された際のP.アエルギノサのバイオフィルム細胞の再現性のある剥離を観察した(Davies, D.G., "Regulation of Matrix Polymer in Biofilm Formation and Dispersion," In Microbial Extracellular Polymeric Substances, pp. 93-112, Wingender et al., eds., Berlin: Springer (1999)(非特許文献17))。
【0009】
分解性酵素の放出を提唱している者もいる。そのような一つの例は、細胞エンベロープからのタンパク質の放出を媒介することが示された表面タンパク質放出酵素(SPRE)を産生するグラム陽性生物ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)で見出される(Lee et al., "Detachment of Streptococcus mutans Biofilm Cells by an Endogenous Enzymatic Activity," Infect. Immun. 64:1035-1038 (1996)(非特許文献18))。Boyd et al., "Role of Alginate Lyase in Cell Detachment of Pseudomonas aeruginosa," Appl. Environ. Microbiol. 60:2355-2359 (1995)(非特許文献19)は、アルギン酸リアーゼの過剰発現がアルギン酸の分解を引き起こすことを示した。P.アエルギノサのムコイド株がアルギン酸リアーゼを過剰発現するよう誘導された場合、細胞は、軽く濯ぐことにより固形培地からより容易に除去された。
【0010】
細胞密度依存性の調節も、細菌がバイオフィルムから分散することを可能にするバイオフィルムマトリックスポリマーを分解し得る酵素の放出を担っているかもしれない。Montana State University, USAのCenter for Biofilm Engineering(Davies, D. G. and Costerton, J. W.)およびUniversity of Exeter, UKのDr. Lapin-Scottの研究室において、ある種の細菌(P.アエルギノサを含む)がバイオフィルム細胞クラスタにおいて高い細胞密度に達すると、細菌がしばしば剥離事象を受けることが観察された。クオラムセンシング自己誘導物質である3OC12-HSLを合成する能力を欠いたP.アエルギノサの変異体は、穏和な界面活性剤による処理の後、剥離に対して感受性であった(Davies et al., "The Involvement of Cell-to-Cell Signals in the Development of a Bacterial Biofilm," Science 280:295-298 (1998)(非特許文献20))。その他の研究者らは、ホモセリンラクトンが剥離において役割を果たし得ることを証明した。Lynch et al., "Investigation of Quorum Sensing in Aeromonas hydrophila Biofilms Formed on Stainless Steel,: In: Biofilms - The Good, the Bad and the Ugly, Wimpenny et al., eds. Bioline, Cardiff, pp. 209-223 (1999)(非特許文献21)は、バイオフィルムからのアエロモナス・ヒドロフィラ(Aeromonas hydrophila)の剥離の増加を報告し、Puckas et al., "A Quorum Sensing system in the Free-Living Photosynthetic Bacterium Rhodobacter sphaeroides," J. Bacteriol. 179:7530-7537 (1997)(非特許文献22)は、ホモセリンラクトン産生がロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)において細胞クラスタ形成と負に相関していることを報告した。
【0011】
P.アエルギノサのバイオフィルムは、回分培養フラスコにおいて(ガラス液体界面で)巨視的なバイオフィルム構造へと発達しないことが認識されている。しかし、そのようなフラスコに継続的に培地がポンプで送り込まれた場合には(ケモスタットの場合のように)、見事なバイオフィルムがガラス表面を完全に覆って発達する。そのような系において流れを停止させた場合、バイオフィルムは、数日後、一般にはおよそ72時間後に脱落する(Davies et al., "The Involvement of Cell-to-Cell Signals in the Development of a Bacterial Biofilm," Science 280:295-298 (1998)(非特許文献20))。回分培養においてバイオフィルムが発達し得ないことは、多数のグラム陰性菌およびグラム陽性菌、そして混合細菌培養物でも観察されている。この現象は、バイオフィルム発達に対して阻害性の回分増殖の何らかの局面が存在することを証明している。
【0012】
バイオフィルム発達の最終段階において、細菌のタンパク質プロファイルは、成熟IIと呼ばれる前段階のバイオフィルム細菌より、浮遊性細胞のタンパク質プロファイルとより密接に一致している(本願の図3、およびSauer et al., "Pseudomonas aeruginosa Displays Multiple Phenotypes During Development as a Biofilm," J. Bacteriol. 184:1140-1154 (2002)(非特許文献7)を参照のこと)。
【0013】
バイオフィルム構造の緻密な性質、バイオフィルム細菌の生理学的状態の推定される低下、およびバイオフィルムマトリックスポリマーにより付与される保護のため、現在の天然および人工の化学的薬剤は、感染性バイオフィルム集団を充分に攻撃し破壊することができていない(Costerton et al., "Bacterial Biofilms in Nature and Disease," Annu. Rev. Microbiol. 41 :435-464 (1987)(非特許文献1);Hoiby et al., "The Immune Response to Bacterial Biofilms," In Microbial Biofilms, Lappin-Scott et al., eds., Cambridge: Cambridge University Press (1995)(非特許文献2))。
【0014】
本発明は、当技術分野におけるこれらおよびその他の欠陥を克服することを目的とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Costerton et al., "Bacterial Biofilms in Nature and Disease," Annu. Rev. Microbiol. 41:435-464 (1987)
【非特許文献2】Hoiby et al., "The Immune Response to Bacterial Biofilms," In Microbial Biofilms, Lappin-Scott et al., eds., Cambridge: Cambridge University Press (1995)
【非特許文献3】Luppens et al., "Development of a Standard Test to Assess the Resistance of Staphylococcus aureus Biofilm Cells to Disinfectants," Appl Environ Microbiol. 68:4194-200 (2002)
【非特許文献4】Brown et al., "Resistance of Bacterial Biofilms to Antibiotics: A Growth-Rate Related Effect? " J. Antimicrob. Chemotherapy 22:777-783 (1988)
【非特許文献5】Anwar et al., "Establishment of Aging Biofilms: Possible Mechanism of Bacterial Resistance to Antimicrobial Therapy," Antimicrob. Agents Chemother. 36: 1347-1351 (1992)
【非特許文献6】Mah et al., "Mechanisms of Biofilm Resistance to Antimicrobial Agents," Trends Microbiol. 9:34-39 (2001)
【非特許文献7】Sauer et al., "Pseudomonas aeruginosa Displays Multiple Phenotypes During Development as a Biofilm," J. Bacteriol. 184:1140-1154 (2002)
【非特許文献8】Stewart, P.S., "Mechanisms of Antibiotic Resistance in Bacterial Biofilms," Int. J. Med. Microbiol. 292:107-113 (2002)
【非特許文献9】Donlan et al., "Biofilms: Survival Mechanisms of Clinically Relevant Microorganisms," Clinical Microbiol. Reviews 15:167-193 (2002)
【非特許文献10】Gilbert et al., "The Physiology and Collective Recalcitrance of Microbial Biofilm Communities," Adv. Microb. Physiol. 46:202-256 (2002)
【非特許文献11】Gilbert et al., "Biofilms In vitro and In vivo: Do Singular Mechanisms Imply Cross-Resistance?" J. Appl. Microbiol. Suppl. 98S-110S (2002)
【非特許文献12】Bryers, J. D., "Modeling Biofilm Accumulation," In: Physiology Models in Microbiology. Bazin et al., eds., Boca Raton, FL., Vol. 2, pp. 109-144 (1988)
【非特許文献13】Peyton et al., "Microbial Biofilms and Biofilm Reactors," Bioprocess Technol. 20: 187-231 (1995)
【非特許文献14】Allison et al., "Extracellular Products as Mediators of the Formation and Detachment of Pseudomonas fluorescens Biofilms," FEMS Microbiol. Lett. 167: 179-184 (1998)
【非特許文献15】Lamed et al., "Contact and Cellulolysis in Clostridium thermocellum via Extensive Surface Organelles," Experientia 42:72-73 (1986)
【非特許文献16】O'Toole et al., "Biofilm Formation as Microbial Development," Ann. Rev. Microbiol. 54:49-79 (2000)
【非特許文献17】Davies, D.G., "Regulation of Matrix Polymer in Biofilm Formation and Dispersion," In Microbial Extracellular Polymeric Substances, pp. 93-112, Wingender et al., eds., Berlin: Springer (1999)
【非特許文献18】Lee et al., "Detachment of Streptococcus mutans Biofilm Cells by an Endogenous Enzymatic Activity," Infect. Immun. 64:1035-1038 (1996)
【非特許文献19】Boyd et al., "Role of Alginate Lyase in Cell Detachment of Pseudomonas aeruginosa," Appl. Environ. Microbiol. 60:2355-2359 (1995)
【非特許文献20】Davies et al., "The Involvement of Cell-to-Cell Signals in the Development of a Bacterial Biofilm," Science 280:295-298 (1998)
【非特許文献21】Lynch et al., "Investigation of Quorum Sensing in Aeromonas hydrophila Biofilms Formed on Stainless Steel,: In: Biofilms - The Good, the Bad and the Ugly, Wimpenny et al., eds. Bioline, Cardiff, pp. 209-223 (1999)
【非特許文献22】Puckas et al., "A Quorum Sensing system in the Free-Living Photosynthetic Bacterium Rhodobacter sphaeroides," J. Bacteriol. 179:7530-7537 (1997)
【発明の概要】
【0016】
本発明の一つの局面は、組成物に関する。組成物は、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスター(biostere)である下記式:
を有する一つまたは複数の分散誘導剤を含む。組成物は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群より選択される一つまたは複数の付加的な成分をさらに含有する。組成物は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムと接触した際に、分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、バイオフィルムを分散させるためにマトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するよう製剤化される。
【0017】
本発明のもう一つの局面は、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態を処置または防止する方法に関する。この方法は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムにより媒介される状態を有する対象か、またはそのような状態に感受性の対象を提供する工程を含む。分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤が対象に施される。結果として、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態が、処置または防止される。
【0018】
本発明のさらなる局面は、表面におけるバイオフィルムの形成を処理または阻害する方法に関する。この方法は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムの形成を有する表面か、またはそのような形成に感受性の表面を提供する工程を含む。分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤が表面に施される。結果として、表面におけるバイオフィルムの形成が、処理または阻害される。
【0019】
本願のもう一つの局面は、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸である下記式:
を有する分散誘導剤を含む溶液に関する。ここで、誘導剤は0.5重量パーセント未満の濃度で存在し、かつ溶液は5を超えるpHを有する。
【0020】
本発明のさらなる局面は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群の一つまたは複数より選択される成分を含む組成物に関する。さらに、組成物は、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸である
を含む分散誘導剤を含む。誘導剤は、非塩型で製剤化される。
【0021】
本発明は、スキンクリーム、歯磨き剤、および口腔洗浄剤からなる群より選択され、実質的に2-デセン酸のトランス異性体を含まない、2-デセン酸のシス異性体を含む溶液にも関する。
【0022】
本願のもう一つの形態は、スキンクリーム、歯磨き剤、および口腔洗浄剤からなる群より選択され、トランス異性体を含まない、2-デセン酸のシス異性体を含む溶液に関する。
【0023】
本願のもう一つの形態は、コンタクトレンズ、および、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤を0.5重量%未満の濃度で含む溶液、を提供する工程を含む方法に関する。次いで、コンタクトレンズが該溶液で処理される。
【0024】
本発明のさらなる形態は、ある皮膚状態を有する対象、および、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤を0.5重量%未満の濃度で含み、5を超えるpHを有する溶液、を提供する工程を含む方法に関する。次いで、皮膚状態が溶液で処置される。
【0025】
本発明のさらなる局面は、熱傷を有する対象の処置;歯垢、齲歯、歯肉疾患、および口腔感染の処置および/または防止;コンタクトレンズの浄化および/または消毒;対象の皮膚上のざ瘡またはその他のバイオフィルム関連皮膚感染の処置および/または防止、ならびに対象における慢性バイオフィルム関連疾患の処置および/または防止:の方法に関する。方法は、それぞれの各課題を果たすために有効な条件の下で、本発明に係る分散誘導剤を施す工程を含む。有利には、バイオフィルム分散誘導剤はバイオフィルム内の微生物に対する高度の生理活性を有しており、従って、薬学的に許容される製剤は、直接マトリックスを破壊するための化学的または機械的な活性を有している必要はない。従って、組成物は、温和なpHを有し、非刺激性であり得る。
【0026】
本発明は、一つまたは複数の分散誘導剤および一つまたは複数の付加的な成分を含む組成物にも関する。これらの付加的な成分は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群より選択される。組成物は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムと接触した際に、分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、バイオフィルムを破壊するための直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するよう製剤化される。
【0027】
本発明のもう一つの局面は、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態を処置または防止する方法に関する。この方法は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムにより媒介される状態を有する対象か、またはそのような状態に感受性の対象を提供する工程を含む。分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、分散誘導剤が対象に施され、それにより、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態が、処置または防止される。
【0028】
本発明のさらなる局面は、表面におけるバイオフィルムの形成を処理または阻害する方法に関する。方法は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムの形成を有する表面か、またはそのような形成に感受性の表面を提供する工程を含む。分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、分散誘導剤が表面に施され、それにより、表面におけるバイオフィルムの形成が、処理または阻害される。
【0029】
本発明は、生理学的なバイオフィルム分散の過程を受けるよう細菌を人工的に誘導することにより、「バイオフィルム問題」を解決する。分散を誘導する能力は、直接バイオフィルムの制御を可能にし、殺生物剤、局所抗生物質、界面活性剤等による既存の処理を改善するであろう。人工的な分散が有益であろう状況の例には、コンタクトレンズおよび歯の改善された浄化、家庭、産業、および医療分野における改善された防腐作業、ならびにシュードモナスアエルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)に感染した熱傷患者の処置のような既存の抗生物質処置の増強された殺菌活性が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1A〜Bは、抗生物質および/または分散誘導剤により処理されたバイオフィルムの模式図である。図1Aに示されるように、抗生物質による処理の後、バイオフィルムの表面上の細胞のみが死滅する。図1Bは、抗生物質による処理と共に、分散誘導されたバイオフィルムの模式図である。分散した細胞は、処理の間に完全に死滅する。
【図2】図2A〜Cは、分散誘導化合物を含有しているクロロホルム抽出消費培養培地(CSM)の、シュードモナスアエルギノサの成熟バイオフィルムへの添加の効果を示す。図2Aは、フローセル内のガラススライド上の連続培養において増殖中のバイオフィルムを示す。図2Bは、分散誘導剤の添加から5分後のバイオフィルムの同一の区域を示す。図2Cは、分散誘導剤による30分の初期処理の後のバイオフィルムの完全な脱凝集を示す。
【図3】図3Aは、バイオフィルムの生活環の模式図である。1、浮遊性細菌が基層に(能動および受動)輸送される。2、細胞表面分子が基層と相互作用し、可逆性の表面接着をもたらす。3、細菌細胞の表現型変化が、細胞表面修飾および細胞外ポリマー性物質の産生をもたらし、それにより、細胞が表面に不可逆的に固着する。4、バイオフィルム成熟が起こる間、代謝、細胞間シグナル伝達、および形態学の改変による生理学的変化が継続する。5、バイオフィルム剥離が起こる間、細胞は、マトリックスポリマー材料を消化し、表面付属物を改変する分解性酵素を放出する。下方の図3Bの一連の顕微鏡写真は、フローセル内の連続培養において培養され顕微鏡検により画像化された、P.アエルギノサによるバイオフィルム発達の五つの段階の位相差顕微鏡写真を順番に示している。(本明細書にその全体が組み入れられるSauer et al., "Pseudomonas aeruginosa Displays Multiple Phenotypes During Development as a Biofilm," J. Bacteriol. 184:1140-1154 (2002)は)。
【図4】図4A〜Bは、流れの中断により誘導されたバイオフィルム20分散の位相差顕微鏡写真である。図4Aは、流動条件下での初期のバイオフィルム発達を示し、図4Bは、流れを72時間中止した後の同一の位置である。
【図5】消費培地の分散活性に対するクロロホルム抽出の効果を示すグラフである。バイオフィルムは、バイオフィルムチューブリアクターにおけるEPRI培地中での連続培養で6日間培養され(参照により本明細書にその全体が組み入れられるSauer et al., "Pseudomonas aeruginosa Displays Multiple Phenotypes During Development as a Biofilm," J. Bacteriol. 184: 1140-1154 (2002))、消費培地(対照)およびクロロホルム抽出消費培地(CSM)により処理された。細胞分散は、培養チューブの末端部で収集された培養物流出液の光学密度として決定された。エラーバーは、三回の反復実験の標準偏差を表す。
【図6】図6Aは、ネイティブの分散応答を証明する、連続培養で培養されたP.アエルギノサのバイオフィルムのマイクロコロニーを示す。バイオフィルム発達の分散段階において、細菌は細胞クラスタ内で運動性になり、マイクロコロニー壁の破損箇所を通ってバルク液体へと脱出する。各顕微鏡写真は、このようにして内部が空になったマイクロコロニーを示す。矢印は空隙の位置を示す。1000倍の拡大率で撮影された画像;バーは10μmを表す。図6Bは透過光画像であり、図6Cは分散応答のサイズ依存性を示す蛍光画像である。直径40μm×厚み10μmより大きい寸法を有する連続培養で増殖中のバイオフィルムマイクロコロニー(左3枚)は分散を示している。この最低寸法より小さいマイクロコロニーは「固形」のままである(右2枚の顕微鏡写真)。蛍光は細胞の存在を示す(染色体上のlacZレポーター)。全ての画像が、500倍の拡大率の同一相対サイズである;バーは40μmを表す。矢印はマイクロコロニー内の空隙区域を示す。
【図7】図7A〜Dは、消費培地、CSM、およびシス-2-デセン酸によるP.アエルギノサ成熟バイオフィルムの処理を示す。図7Aに示されるように、30分目に、シリコン管で培養されたバイオフィルムを、消費培地または新鮮培地に曝露した。流出液中の細菌を100分間連続的に収集し、細胞密度をOD600により決定した。図7Bに示されるように、4日間シリコン管における連続培養で培養され、新鮮培地に1時間、またはCSMに1時間、切り替えられたバイオフィルム。対照チューブの押し出された内容物は完全なバイオフィルムを示している。CSMで処理されたバイオフィルムの押し出された内容物は分散を示している。図7Cに示されるように、顕微鏡写真は、顕微鏡にマウントされたフローセルにおける連続培養で培養された成熟バイオフィルムへのCSMの添加を示す。マイクロコロニー脱凝集が、7分目に開始することが示されている。30分の曝露の後、マイクロコロニーは完全に脱凝集した。分散した細胞は活発に運動性であり(静止画像において可視でなかった)、このことは、(CSM添加前の)完全なマイクロコロニーの中の細胞と比較して表現型が変化したことを示している。図7Dに示されるように、顕微鏡にマウントされたフローセルにおける連続培養で培養された成熟バイオフィルムへの10μMシス-2-デセン酸(シスDA)の添加。マイクロコロニー脱凝集は11分目に開始することが示されている。完全なマイクロコロニー脱凝集が、曝露30分以内に示される。担体液体により処理された対照バイオフィルムは、1時間まで、処理により影響を受けなかった。
【図8】図8A〜Bは、修飾EPRIで消費培地の濃度にまで希釈されたCSMの連続的な存在下でのバイオフィルム発達を示す。CSMの存在下で培養されたバイオフィルムの厚み(図8A)および表面積(図8B)の平均は、未処理のバイオフィルムより有意に小さかった。灰色バー、CSMにより処理されたバイオフィルム。黒色バー、分散誘導剤の非存在下で培養されたバイオフィルム。エラーバーは、20個のランダムに選択されたマイクロコロニーについてのひとつの標準偏差を表す。
【図9】マイクロタイタープレート分散バイオアッセイを使用した、P.アエルギノサCSMによる異なる細菌バイオフィルムの分散を示す。Y軸は、CSMまたは無菌培地を含有している担体対照(-)による1時間の処理の後の、三回の反復実験における16個のレプリケートウェルのバルク液体へ放出された細胞の数を示す。点線は、担体対照試料における分散のレベルを示す。CSM試料と対照との間の差は、全て、スチューデントT検定により決定されたように、示されたP値で統計的に有意である。
【図10】図10A〜Cは、マイクロタイタープレート分散バイオアッセイを示す。図10Aは、バイオフィルムを含有しているマイクロタイタープレートウェルから放出された細胞の光学密度を示す。白色バー、EPRI単独により処理された対照試料。灰色バー、CSMにより処理された試料。黒色バーは、2%から75%までのアセトニトリル勾配で溶出したCSMのC-18逆相HPLC画分により処理されたバイオフィルムを表す。結果は16個のレプリケートウェルの平均であり、エラーバーは標準偏差を表す。スチューデントT検定からの結果は、CSMおよび22分HPLC試料についてP<0.001であることを示す。図10Bは、様々な濃度のシス-2-デセン酸を消費培地と比較したマイクロタイタープレートバイオフィルム分散バイオアッセイを示す。バイオフィルムを含有しているマイクロタイタープレートウェルから放出された細胞の光学密度。陰性対照ウェルは、EPRI中の10%エタノールにより処理されたP.アエルギノサを含有していた。灰色バーは、消費培地により処理されたバイオフィルムを表す。黒色バーは、10%エタノール中の増加する濃度のシス-2-デセン酸により処理されたバイオフィルムを表す。結果は16個のレプリケートウェルの平均であり、エラーバーはひとつの標準偏差を表す。スチューデントT検定は、対照と比較された全てのシス-2-デセン酸試料についてP<0.001であることを示した。図10Cは、シス-2-デセン酸の構造を示す。
【図11】マイクロタイタープレート分散バイオアッセイを使用したシス-2-デセン酸による異なる細菌バイオフィルムの分散を示す。Y軸は、0.01μMシス-2-デセン酸(CDA)または培地+10%エタノールを含有している担体対照(-)による1時間の処理の後の、三回の反復実験における16個のレプリケートウェルのバルク液体へ放出された細胞の数を示す。点線は、担体対照試料における分散のレベルを示す。シス-2-デセン酸で処理された試料と対照との間の差は、全て、スチューデントT検定により決定されたように、示されたP値で統計的に有意である。
【図12】図12A〜Cは、P.アエルギノサCSMおよびシス-2-デセン酸の分光分析を示す。図12Aは、活性HPLC CSM画分に検出された171M/Z分子、および合成シス-2-デセン酸についての生成物イオン量ピークを示す。Y軸は強度を示し;X軸は陽イオンモードでのM/Zを示す。CSM試料は、合成シス-2-デセン酸からのピークと一致する。質量分析において、ピーク強度は濃度の直接の指標ではないことに注意すること。図12Bは、P.アエルギノサCSMおよびシス-2-デセン酸のGC-MSスペクトルを示している。15.9分のCSM試料ピークは溶媒担体を示す。Y軸は強度を示し;X軸は分単位の時間を示す。図12Cは、P.アエルギノサCSMおよびシス-2-デセン酸のFT-IRスペクトルを示している。Y軸は吸光度を示し;X軸はセンチメートルの逆数を示す。
【図13】顕微鏡にマウントされたフローセルにおける連続培養で培養された成熟バイオフィルムへの10μMシス-2-デセン酸(シスDA)の添加を示す。マイクロコロニー脱凝集が11分目に開始することが示されている。完全なマイクロコロニー脱凝集が、曝露15分以内に示される。担体液体により処理された対照バイオフィルムは、1時間まで、処理により影響を受けなかった。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
本発明の一つの局面は組成物に関する。組成物は、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む一つまたは複数の分散誘導剤を含む。組成物は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群より選択される一つまたは複数の付加的な成分をさらに含有する。組成物は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムと接触した際に、分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、バイオフィルムを分散させるためにマトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するよう製剤化される。この結果の達成において、本発明の分散誘導剤は、好ましくは、マトリックスに直接作用してもよい。または、分散誘導剤が微生物に作用し、次に、微生物がマトリックスを破壊するよう作用してもよい。この効果は、マトリックスに対する直接の効果に頼らないことも含み得る。典型的には、バイオフィルム誘導剤は、直接マトリックスに対する効果を有しないか、またはマトリックスに対する直接の効果が明白でない濃度で存在しているであろう。他方、有効濃度の範囲は、分散誘導剤が細胞間コミュニケーション組成物を模倣する、微生物における生化学的応答機序を示唆している。組成物は、細菌による分散応答を誘導するよう作用し、次に、それが、バイオフィルムからの細菌の放出を担う。さらに、組成物は、バイオフィルム内にない細菌(浮遊性細菌)に作用して、これらの細菌が、バイオフィルムの形成を防止する生理学的応答を開始することを誘導することができる。組成物の追加の成分は、表面または基質からのマトリックスの破壊または除去を目的とする。例えば、組成物には、研磨により歯からプラークを除去するのに適した歯磨剤が含まれ得る。
【0032】
上記の誘導剤のR基は、
からなる群より選択され得る。または、Rはホモセリンラクトン基またはフラノン基であり得る。組成物は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物のうちの一つまたは複数のような付加的な成分も含む。
【0033】
本発明の分散誘導剤は、望ましくは、7〜10個の炭素原子を含む。この誘導剤は、カルボン酸(例えば、一不飽和脂肪酸)であることが好ましい。分散誘導剤が、
を含むことはより好ましい。この分散誘導剤の適当な非塩型は、以下のそれぞれのシス異性体およびトランス異性体:
である。これらのうち、シス異性体が好ましい。
【0034】
その他の適当なアルカン酸には、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、およびノナデカン酸が含まれる。
【0035】
有用なアルケン酸には、2-ヘキセン酸、2-ヘプテン酸、2-オクテン酸、2-ノネン酸、2-ウンデセン酸、2-ドデセン酸、2-トリデセン酸、2-テトラデセン酸、2-ペンタデセン酸、2-ヘキサデセン酸、2-ヘプタデセン酸、2-オクタデセン酸、および2-ノナデセン酸が含まれる。これらはシス異性体またはトランス異性体であり得る。
【0036】
本発明の組成物は、以下のように、異なる型の細菌を処理するために多数のpH範囲で製剤化され得る:好酸性の細菌には1.5〜4.5;耐酸性の細菌には4.5〜8.0;実質的に中性のpHを好む細菌には6.8〜7.4;そして耐アルカリ性の細菌には8.0〜9.8。本質的に中性のpHは、酸逆流を有する対象のため特に望ましい。分散誘導剤の濃度は、0.01μM〜30mMであり得る。
【0037】
組成物は、完全にまたは実質的に(即ち、10wt%未満)エタノールを含まず、かつ/またはホルムアルデヒドを含まない。
【0038】
組成物によりコーティングされた表面(または基質)も、本発明に包含される。
【0039】
本発明のもう一つの局面は、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態を処置または防止する方法に関する。方法は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムにより媒介される状態を有する対象か、またはそのような状態に感受性の対象を提供する工程を含む。分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤が対象に施される。結果として、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態が処置または防止される。バイオフィルムを分散させる方法は、分散誘導剤を施すことと併せて、抗微生物処理をバイオフィルムに施す工程をさらに含んでいてもよい。処理は、殺生物剤(例えば、過酸化水素)、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、咀嚼可能製造物、超音波処理、放射線処理、温熱処理、および/または機械的処理を施すことであり得る。
【0040】
本発明のさらなる局面は、表面におけるバイオフィルムの形成を処理または阻害する方法に関する。方法は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムの形成を有する表面か、またはそのような形成に感受性の表面を提供する工程を含む。分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤が表面に施される。結果として、表面におけるバイオフィルムの形成が処理または阻害される。
【0041】
一つの態様において、処理される表面には、カテーテル、人工呼吸器、および換気装置のような留置医用装置が含まれる。さらに、表面は、ステント、人工弁、ジョイント、ピン、骨移植片、縫合糸、ステープル、ペースメーカー、およびその他の一時的または永久的な装置を含む植え込み医用装置であってもよい。本発明の分散誘導剤は、外科用接着剤にも含まれ得る。もう一つの態様において、処理される表面には、排水管、タブ、キッチン器具、調理台、シャワーカーテン、グラウト、トイレ、産業用食品飲料生産設備、床板、および食品加工機器が含まれる。さらなる態様において、処理される表面は、熱交換器表面またはフィルター表面である。従って、処理は、熱交換器またはフィルターの生物付着の程度を低下させるための手段を提供する。最後の態様において、処理される表面は、ボート、桟橋、油掘削プラットフォーム、取水ポート、シーブ、およびビューポートを含む海洋構造物である。または、表面は、水の処理および/または分配のための系(例えば、飲料水の処理および/または分配のための系、プールおよび温泉の水の処理のための系、製造作業における水の処理および/または分配のための系、ならびに歯科用水の処理および/または分配のための系)に関連していてもよい。表面は、石油の採掘、保管、分離、精製、および/または分配のための系(例えば、石油分離トレーン、石油コンテナ、石油分配管、および石油採掘機器)に関連していてもよい。分散誘導剤は、油およびガスを保持している地質学的岩層のような多孔質媒体におけるバイオフィルム沈着または生物付着を低下させるか、または排除することを目的とした製剤にも含まれ得る。処理は、塗料のようなコーティングを表面に施すことにより達成され得る。
【0042】
表面上のバイオフィルムの形成を阻害する方法は、分散誘導剤を施すことと併せて、抗微生物処理を表面に施すことをさらに含み得る。処理は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、消毒剤、薬品、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、超音波処理、放射線処理、温熱処理、および機械的処理を施すことであり得る。一つの態様において、分散誘導剤および抗微生物処理は同時に施される。もう一つの態様において、分散誘導剤および抗微生物処理は別々に施される。
【0043】
分散誘導剤は、表面上のバイオフィルムの形成を阻害するため、表面に含浸されていてもよい。または、分散誘導剤は、表面をコーティングするコポリマーまたはゲルに含まれていてもよい。
【0044】
本発明は、熱傷を有する対象を処置する方法にも関する。方法は、対象における熱傷を処置するために有効な条件の下で、本発明に係る分散誘導剤を投与する工程を含む。本発明の特定の適用は、感染性バイオフィルムの発達を防止するか、または既存の感染性バイオフィルムの細胞を分散させるための、分散誘導分子またはそれらの天然もしくは合成のアナログを含む熱傷患者用の局所包帯材を提供する。
【0045】
本発明は、対象における歯垢、齲歯、歯肉疾患、歯周疾患、および口腔感染を処置および/または防止する方法にさらに関する。方法は、本発明に係る分散誘導剤により対象の口腔を処置する工程を含む。処置は、分散誘導剤を含有している歯磨剤、口腔洗浄剤、デンタルフロス、ガム、ストリップ、歯磨き剤、歯ブラシ、および分散誘導剤を含有しているその他の調製物により実施され得る。組成物は、歯科用組成物に典型的に添加される歯科分野において公知のその他の化合物も含有していてもよい。例えば、分散誘導剤組成物は、フッ化物、減感剤、抗歯石剤、抗菌剤、再石灰化剤、漂白剤、および抗齲歯剤も含むことができる。
【0046】
存在する分散誘導剤の量は、分散誘導剤を含有している歯科用組成物に依存して変動するであろう。分散誘導剤は、口内細菌に対して広範囲の濃度で活性であることが見出された。例えば、分散誘導剤は、0.1nM〜10mMの範囲の量で存在し得る。しかしながら、歯科用組成物、分散誘導剤組成物中に存在するその他の成分、および当業者により認識される様々なその他の因子に依って、より低いか、またはより高い濃度が使用されてもよい。脂肪酸の特徴およびその疎水性のような分散誘導剤の公知の特性は、どの程度の量の分散誘導剤が使用されるべきかの決定、どのように化合物が他の成分と化学的に相互作用するのかの決定、および化合物に関するその他の有用な情報の提供において、当業者を支援するであろう。
【0047】
特定の歯科的適用および歯科用組成物が、本発明において企図される。これに関して、本発明は、分散誘導剤組成物を含有している歯ブラシに関する。歯ブラシは、当技術分野において周知であるように、複数の毛、および毛がはめ込まれた固体支持体を含有しており、固体支持体は、毛を受容する複数のタフトホールを有するブラシヘッドを含んでいる。基本的な歯ブラシの変動および修飾は、当技術分野において周知である。例えば、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第7,251,849号を参照すること。
【0048】
本発明の分散誘導剤は、上に示されたような化学式を有する。分散誘導剤組成物に含まれ得る追加の成分も上に示されている。分散誘導剤組成物は、当技術分野において公知の手段により、歯ブラシの様々な部分に組み入れられ得る。例えば、分散誘導剤組成物は歯ブラシのタフトホールに含有され得る。どのように組成物が歯ブラシのタフトホール内に含有され得るかの例に関しては、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第5,141,290号を参照すること。または、分散誘導剤組成物は歯ブラシの毛にコーティングされるか、または埋め込まれてもよい。
【0049】
毛を補足し、口腔と接触するよう設計されている歯ブラシの部分を含む、歯ブラシのその他の部分に、分散誘導剤組成物がコーティングされるか、または埋め込まれてもよい。例えば、歯ブラシは、ゴムパドル、タングクリーナー、または歯、舌、歯肉、もしくは口腔のその他の区域と接触する目的のためのヘッドから延長されたその他の部品を含有していることが一般的である。これらの部分に、分散誘導剤組成物が埋め込まれ得、任意で、界面活性物質、殺生物剤、および/またはその他の上記の添加剤が埋め込まれてもよい。
【0050】
歯ブラシからの分散誘導剤の放出の制御を補助するため、分散誘導剤組成物は、放出制御を補助するための分散誘導剤と相互作用する薬剤を含有していてもよい。薬剤は、放出が、所望の使用に依って、加速されるか、または延長されるような様式で、分散誘導剤と相互作用し得る。放出制御のレベルは、分散誘導剤が適用される歯ブラシの部分への分散誘導剤の付着が、どの程度容易または困難であるかにも依るかもしれない。好ましい態様において、分散誘導剤は、ブラッシングが繰り返されるにつれ、歯ブラシから徐々に放出される。活性要素の徐放を可能にする薬剤は、当業者に周知である。
【0051】
放出制御は、放出制御を可能にする封入系へと分散誘導剤を封入することによっても実現され得る。この態様において、分散誘導剤組成物は、好ましくは、分散誘導剤を封入する複数の小さなマイクロスフェアの形態をとっている。マイクロスフェアは、ブラッシングが繰り返されるにつれ分散誘導剤が徐々に放出されることを可能にする溶解可能材料の外側コーティングを有することができる。適当なマイクロスフェアには、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第5,061,106号に開示されたものが含まれる。
【0052】
本発明は、(a)フッ化物および/または再石灰化剤;(b)経口的に許容される媒体;および(c)分散誘導剤組成物を含有している歯磨き剤組成物にも関する。本発明の分散誘導剤は、上に示されたような化学式を有する。分散誘導剤組成物に含まれ得る追加の成分も上に示されている。しばしば、歯磨き剤は、ラウリル硫酸ナトリウムまたはその他のスルフェートも含有する。
【0053】
様々な形態のフッ化物は、虫歯を防止し、かつ歯エナメル質および骨の形成を促進するための歯磨き剤中の一般的な活性要素である。フッ化物塩のような任意のフッ化物源が、本発明の歯磨き剤において使用され得る。好ましくは、フッ化物は、フッ化ナトリウム(NaF)またはモノフルオロリン酸ナトリウム(Na2PO3F)である。典型的には、歯磨き剤中に存在するフッ化物の量は、100〜5000ppmのフッ化物イオン、好ましくは1000〜1100ppmの範囲である。
【0054】
ある種の場合において、フッ化物を再石灰化剤に交換するか、またはフッ化物に再石灰化剤を補足することが好ましい。歯科的な用法に関して、再石灰化とは、一般に、齲歯を防止するか、または齲歯が発生する確率を減少させ、他には、それらが元の健康な状態に戻ることができるよう歯を増強するための歯の処理をさす。フッ化物は再石灰化剤と見なされ得るが、しばしば、より強力な浄化特性または再石灰化特性を歯磨き剤に提供するため、フッ化物がその他の薬剤に交換されるか、またはフッ化物にその他の薬剤が補足される。一般的な再石灰化剤は、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、無水硫酸カルシウム、硫酸カルシウム半水和物、硫酸カルシウム二水和物、リンゴ酸カルシウム、酒石酸カルシウム、マロン酸カルシウム、およびコハク酸カルシウムのようなカルシウム塩である。ハイドロキシアパタイトナノ結晶および亜鉛化合物も、有効な再石灰化剤であることが示されている。
【0055】
経口的に許容される媒体は、フッ化物および/または再石灰化剤ならびに分散誘導剤を患者の歯に送達するために使用され得る当技術分野において公知の任意の媒体であり得る。経口的に許容される媒体は、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリグリセリド、ジグリセリド、鉱油、有機油、精油、脂肪族植物油、およびそれらの組み合わせであってもよい。しばしば、これらの媒体は、水または水性溶媒と組み合わせて使用される。
【0056】
歯磨き剤組成物は、当技術分野において周知の歯磨き剤のその他の成分を含有し得る。例えば、歯磨き剤組成物は、重曹、酵素、ビタミン、薬草、リンケイ酸カルシウムナトリウムのようなカルシウム化合物、着色剤、および/または風味剤を含有し得る。減感剤も添加され得る。当技術分野において公知であるように、減感剤は、脱ミネラル化により引き起こされる過敏を処置するか、または神経の減感により過敏症状を抑制することにより、歯における過敏を低下させることができる。組成物は、抗菌剤また抗プラーク剤も含有し得る。抗菌剤は、好ましくは、歯肉炎、歯周炎、およびその他の経口疾患を防止するために組成物に含まれる。適当な抗菌剤には、トリクロサン、塩化亜鉛、クロルヘキシジン、塩化ベンゼトニウム、および塩化セチルピリジニウムが含まれる。
【0057】
本発明は、歯垢、歯肉疾患、歯周疾患、および/または口腔感染を防止および/または処置するための経口組成物にも関する。経口組成物は経口的に許容される媒体および分散誘導剤組成物を含有している。本発明の分散誘導剤は、上に示されるような化学式を有する。分散誘導剤組成物に含まれ得る追加の成分も、上に示されている。
【0058】
経口組成物は、当業者に公知の歯科衛生領域における様々な組成物であり得る。例えば、経口組成物は、口腔洗浄剤、口臭予防スプレー、歯磨剤、歯磨粉、漂白ストリップ、または予防ペーストであり得る。当技術分野において周知であるように、口腔洗浄剤は、口腔または喉における粘液および食品片の除去を補助するために一般的に使用される。口腔洗浄剤は、典型的には、齲歯、歯肉炎、および口臭を引き起こす細菌プラークを死滅させるための防腐成分および/または抗プラーク成分を含有している。それらは、歯の齲食を防御するためにフッ化物のような抗虫歯成分も含有し得る。適当な口腔洗浄剤成分は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第5,968,480号に見出され得る。
【0059】
同様に、同一または類似の防腐成分、抗プラーク成分、および抗虫歯成分が、口臭予防スプレー、ゲル歯磨剤を含む歯磨剤、歯磨粉、漂白ストリップ、および予防ペーストにおいても使用され得る。適当な口臭予防スプレー組成物は米国特許第7,297,327号に開示されており;歯退色組成物において使用されるもののような適当な歯磨粉組成物は、米国特許第5,989,526号に開示されており;適当な漂白ストリップは米国特許第6,514,483号に開示されており;歯研摩剤を含む適当な歯磨剤および予防ペースト組成物は米国特許第5,939,051号に開示されており、これらは、全て、参照により本明細書にその全体が組み入れられる。
【0060】
経口的に許容される媒体の要素は、上記のものに類似している。しかしながら、経口的に許容される媒体は、経口組成物の所望のコンシステンシーおよび所望の最終生成物に依って変動するであろう。例えば、口腔洗浄剤は液状であり、従って、液状の担体、典型的には、高い割合の水を有する担体が使用されるべきである。他方、ゲル歯磨剤は、ゲル状であり、最終生成物がゲル状になることを可能にするゲル化剤またはその他の担体を利用するであろう。経口的に許容される媒体は、分散誘導剤組成物が送達されることを可能にする一方で、最終生成物に所望のコンシステンシーも提供する特性を有するべきである。
【0061】
経口組成物は、チューインガム、口臭予防ストリップ、ロゼンジ、または口臭予防ミントの形態をとっていてもよい。チューインガムは、典型的には、非水溶性の相またはガム基剤と、甘味剤、風味剤、および/または食品着色剤の水溶性の相との組み合わせである。亜鉛およびリン酸塩のような呼吸清新添加剤、シリカのような歯漂白添加剤、ならびに歯垢を緩和するためのプラーク低下添加剤を含む、その他の成分も、ガムに添加され得る。適当なガム組成物は、米国特許第6,416,744号および第6,592,849号に見出され得、これらはいずれも参照により本明細書にその全体が組み入れられる。
【0062】
口臭予防ストリップは、ストリップが口内で溶解し、しばしば舌から吸収されるよう設計されていることを除き、チューインガムに類似している。ストリップは、ビタミン、ミネラル、補助剤、薬、およびワクチンのような機能性の生理活性要素と共に、口内を清新するための生理活性要素を送達することができる。
【0063】
ロゼンジおよび口臭予防ミントは、典型的には、風味剤を含む基剤の中に治療剤を含有している円盤形の固形物である。基剤は、ハードシュガーキャンディ、グリセリンゼラチン、または組成物に必要な形態を与える十分な粘液との糖の組み合わせであり得る。分散誘導剤が治療剤であってもよいし、または当技術分野において公知の治療剤に加えて分散誘導剤が添加されてもよい。適当なロゼンジおよび口臭予防ミント組成物は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第7,025,950号に開示される。
【0064】
経口組成物は、口腔内に置かれる歯科用具のための浄化調製物の形態をとっていてもよい。義歯、デンタルダム、およびある種の型の歯列矯正器のような歯科用具は、一定期間口腔内に置かれ、次いで浄化のために除去される。歯科用具を浄化するために使用される浄化組成物は、用具を浄化する慣習的な様式で機能するべきであるが、歯科用具が口腔に接している際の歯垢、歯肉疾患、歯周疾患、および口腔感染の処置または防止を補助することができる治療剤も含有していることができる。塩素化合物を含有しているアルカリ混合物等で作成された発泡性クレンザーのような浄化組成物は、当技術分野において公知である。歯科用具のための適当な浄化組成物は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第3,936,385号に開示されている。分散誘導剤は、接触時に歯科用具をコーティングし得るような様式で浄化組成物に添加され得る。歯科用具が口腔へ導入された後、分散誘導剤は、治療的に有効な様式で、即ち、歯垢、歯肉疾患、歯周疾患、および/または口腔感染を防止するよう、歯および口腔のその他の要素と相互作用することができる。
【0065】
本発明は、歯科用品および分散誘導剤を含む経口使用のための用品にも関する。分散誘導剤は、上に示された化学式を有し、歯科用品にコーティングされるか、封入されるか、または含浸させられる。分散誘導剤組成物に含まれ得る追加の成分も上に示される。
【0066】
当技術分野において公知の様々な歯科用品が、本発明のこの態様において使用され得る。一つの態様において、歯科用品はデンタルフロスである。当技術分野において公知の任意の繊維が、デンタルフロスにおいて使用され得る。適当な繊維には、(ナイロンのような)ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース、および綿が含まれる。ナイロンおよびポリテトラフルオロエチレンの繊維はデンタルフロスにおいて使用される最も一般的な繊維であり、好ましい繊維である。適当なデンタルフロスは、米国特許第6,270,890号および第6,289,904号に開示されており、これらはいずれも参照により本明細書にその全体が組み入れられる。分散誘導剤組成物は、繊維へ含浸させらせるか、繊維にコーティングされるか、またはその他の方式でデンタルフロスに組み入れられ得る。
【0067】
デンタルフロスは、フロス使用過程中の使いやすさのため、ロウまたはその他の疎水性物質でコーティングされるか、またはそれらを含浸させられ得る。適当なロウには、微晶質ロウ、密蝋、パラフィンロウ、カルナウバロウ、およびポリエチレンロウが含まれる。分散誘導剤組成物は、ロウ層の一部として、またはロウ層と関連した第二のもしくは追加の層として、デンタルフロスへコーティングされてもよいし、または上記のような繊維に適用されてもよい。
【0068】
歯科用品は、分散誘導剤組成物が含浸している、または分散誘導剤組成物でコーティングされた爪楊枝であり得る。爪楊枝は、木のような天然生成物から作成されていてもよいし、または様々なプラスチックを含む人工成分から作成されていてもよい。適当な爪楊枝は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第7,264,005号に開示されている。
【0069】
歯科用品は、歯科用吸引器、咬合阻止器、デンタルダム、舌安定化装置、舌デフレクター、または歯科医もしくは歯科助手が患者の口内で使用する歯科用機器のその他の部品のような歯科用器具であってもよい。歯科用器具の考察は、米国特許第4,865,545号および第5,152,686号に見出され得、これらはいずれも参照により本明細書に組み入れられる。患者の口腔と接触する歯科用器具の部分が、分散誘導剤組成物でコーティングされ得る。
【0070】
歯科用品は、歯の上に置かれるベニヤ、クラウン、インレー、アンレー、またはブリッジのような歯科用構築物であるかもしれない。歯科用構築物は、典型的には、合金、磁器、セラミックス、アマルガム、アクリレートポリマー、またはこれらの材料の組み合わせから作成される。適当な歯科用構築物は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第7,229,286号に開示されている。分散誘導剤組成物は、歯科用構築物を作成するために使用される組成物に埋め込まれ得る。または、分散誘導剤組成物は、調製された後の歯科用構築物にコーティングされてもよい。
【0071】
本発明は、水および分散誘導剤組成物を含む、歯科用品を使用して口腔に適用される水性組成物にも関する。水が歯科用品を通って分配され、次いで、歯科用品から対象の口腔へと送られるよう、様々な歯科用品が、送水管に取り付けられるか、または送水管と共に使用されるよう設計されている。適当な歯科用品には、歯科用送水管、歯科用ウォーターピック等が含まれる。
【0072】
水道水または精製水がこれらの型の歯科用装置において使用され得るが、水源に添加剤を補足し、水が歯科用品と共に使用された時に対象の口腔に添加剤を送達するようにしてもよい。この場合、水に補足される添加剤は、分散誘導剤組成物である。
【0073】
歯科用送水管および歯科用ウォーターピックは、当技術分野において公知であり、歯科医および歯科助手により一般的に使用されている。異なる型の歯科用送水管およびそれらの異なる適用の考察は、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第5,785,523号に見出され得る。適当なウォーターピックは、参照により本明細書にその全体が組み入れられる米国特許第4,257,433号に開示されている。
【0074】
本発明は、コンタクトレンズの浄化および/または消毒の方法にも関する。方法は、本発明に係る分散誘導剤を含有している浄化溶液および/または消毒溶液でコンタクトレンズを処理する工程を含む。コンタクトレンズは、溶液に保存されている間、またはインビボ使用される間に、このようにして処理され得る。または、分散誘導剤は点眼剤において使用され得る。
【0075】
本発明は、さらに、対象の皮膚上のざ瘡またはその他のバイオフィルム関連皮膚感染を処置および/または防止する方法に関する。方法は、ざ瘡またはバイオフィルム関連皮膚感染を処置および/または防止するために有効な条件の下で、本発明に係る分散誘導剤により対象の皮膚を処置する工程を含む。分散誘導剤は、軟膏、クリーム、リニメント、膏薬、シェービングローション、またはアフターシェーブローションであり得る。それは、皮膚に接触するかまたは接近することを目的とした粉末、化粧品、軟膏、クリーム、液体、ソープ、ゲル、化粧用アプリケータ、および/または固形の織物材料もしくは不織材料の中に存在してもよい。
【0076】
本発明は、対象における慢性バイオフィルム関連疾患を処置および/または防止する方法にも関する。方法は、慢性バイオフィルム関連疾患を処置および/または防止するために有効な条件の下で、本発明に係る分散誘導剤を対象に投与する工程を含む。処置および/または防止される慢性バイオフィルム関連疾患には、中耳感染、骨髄炎、前立腺炎、大腸炎、腟炎、尿道炎、動脈粥腫、滑膜感染、組織筋膜感染、気道感染(例えば、嚢胞性繊維症患者の肺感染に関連した感染、肺炎、胸膜炎、心膜感染)、尿生殖器感染、および胃潰瘍感染または十二指腸潰瘍感染が含まれるが、これらに限定はされない。ヘリコバクターピロリにより引き起こされる胃潰瘍または十二指腸潰瘍のためには、分散誘導剤は5.5未満のpHで機能することが必要であろう。分散誘導剤は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、または毒性因子阻害剤のような抗微生物剤と組み合わせて投与され得る。胃治療の場合には、制酸剤、プロトンポンプ阻害剤、抗ヒスタミン薬等のような酸低下治療も利用され得る。
【0077】
本願のもう一つの局面は、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸である
を含む分散誘導剤を含む溶液に関する。ここで、誘導剤は0.5重量パーセント未満の濃度で存在し、溶液は5を超えるpHを有する。
【0078】
本発明のさらなる面は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群の一つまたは複数より選択される成分を含む組成物にも関する。さらに、組成物は、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸である
を含む分散誘導剤を含む。誘導剤は非塩型で製剤化される。
【0079】
本発明は、スキンクリーム、歯磨き剤、および口腔洗浄剤からなる群より選択され、実質的に2-デセン酸のトランス異性体を含まない、2-デセン酸のシス異性体を含む溶液にも関する。本明細書において解釈されるように、この溶液は、(シス異性体の変化を伴わない)トランス異性体濃度の低下が生理活性を増加させないのであれば、実質的にトランス異性体を含まない。シスとトランスとのモル比は少なくとも2であることがより好ましい。
【0080】
本願のもう一つの形態は、スキンクリーム、歯磨き剤、および口腔洗浄剤からなる群より選択され、トランス異性体を含まない、2-デセン酸のシス異性体を含む溶液に関する。
【0081】
本願のもう一つの形態は、コンタクトレンズ、および、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤を0.5重量%未満の濃度で含む溶液、を提供する工程を含む方法に関する。次いで、コンタクトレンズが該溶液で処理される。
【0082】
本発明のもう一つの形態は、ある皮膚状態を有する対象に提供する工程、および、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤を0.5重量%未満の濃度で含み、5を超えるpHを有する溶液を提供する工程、を含む方法に関する。次いで、皮膚状態が溶液で処置される。
【0083】
本発明は、一つまたは複数の分散誘導剤および一つまたは複数の付加的な成分を含む組成物にも関する。これらの付加的な成分は、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群より選択される。組成物は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムと接触した際に、分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、バイオフィルムを破壊するためにマトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するよう製剤化される。
【0084】
本発明のもう一つの局面は、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態を処置または防止する方法に関する。この方法は、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムにより媒介される状態を有する対象か、またはそのような状態に感受性の対象を提供する工程を含む。分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、分散誘導剤が対象に施され、それにより、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態が処置または防止される。
【0085】
本願のさらなる態様は、表面上のバイオフィルムの形成を処理または阻害する方法に関する。これは、表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムの形成を有する表面か、またはそのような形成に感受性の表面を提供する工程を含む。分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、分散誘導剤が表面に施され、それにより、表面上のバイオフィルムの形成が処理または阻害される。
【0086】
実施例
以下の実施例は、本発明の態様を例示するために提供され、その範囲を制限することを目的としたものでは決してない。
【0087】
実施例1−細菌株および培地
この研究において使用された微生物には、B. H. Hollowayからのシュードモナス・アエルギノサPAO1、大腸菌(Escherichia coli)(ATCC 10798)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)(ATCC 25933)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)(ATCC 10273)、スタフィロコッカス・アウレウス(ATCC 12602)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(pyogenes)(ATCC 19615)、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)(ATCC 6633)、およびカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)(ATCC 20260)、ならびに空気中の雑菌混入を介してR2Aプレート上に収集された不定混合物の培養物が含まれていた。示された場合以外は、全ての実験が、0.2%グルコースが補足された、0.005%硝酸アンモニウム、0.00019%KH2PO4、0.00063%K2HPO4(pH7.0)、および0.001%Hutner塩を含有している修飾EPRI培地(Cohen-Bazire et al., J. Cell. Comp. Physiol. 49:35 (1957)は参照により本明細書にその全体が組み入れられる)において実施された。C.アルビカンスは、0.2%グルコースおよび0.1%ペプトンが補足された修飾EPRI培地において培養された。K.ニューモニエ、P.ミラビリス、S.アウレウス、およびB.ズブチリスは、0.1%ペプトンが補足された修飾EPRI培地において培養された。S.ピオゲネスは、10%ブレインハートインフュージョンブロスにおいて培養された。
【0088】
実施例2−P.アエルギノサ消費培地の調製
無細胞消費培養培地を調製するため、30℃で修飾EPRI培地で培養されたP.アエルギノサPAO1の一夜培養物6mLを、4リットルの修飾EPRI培地へ接種し、連続的に攪拌しながら室温で10日間インキュベートした。細菌細胞を、4℃で15分間13,000×gでの遠心分離(Sorvall RC 5B Plus Centrifuge, GSA Rotor;Thermo Electron Co., Ashville, NC)により沈降させた。上清を取り、真空下で0.45μm Millipore Type HAフィルター(Millipore. Co., Billerica, MA)で濾過し、続いて、0.2μm Acrodisc 32mmシリンジフィルター(PALL Co., East Hills, NY)でろ過した。消費培地は、4℃で保存された。
【0089】
実施例3−CSMの調製
分液漏斗において、ろ過された消費培地250mLにクロロホルム80mLを添加することにより、消費培地の有機成分を抽出した。1時間の分離時間の後にクロロホルム画分を除去した。クロロホルムを、Rotavapor R-3000ロータリーエバポレーター(Buchi Laboratories, Flawil, Switzerland)を使用して、40℃で蒸発させ、残存する有機材料を、ろ過されたナノピュア水6mLに再懸濁させ、Speed-Vacエバポレーターシステム(Savant Instruments, Inc., Hicksville, NY)を使用して乾燥状態にまで蒸発させるか、または凍結乾燥させた。次いで、これらの試料を培養培地または精製水に再懸濁させた。最終生成物はクロロホルム抽出消費培地(CSM)と呼ばれる。示された場合を除き、CSMは、消費培地に見出されるより125倍高い最終クロロホルム抽出有機炭素濃度で、実験において使用された。
【0090】
実施例4−CSMのHPLC分画
CSMを、C18 Microsorb-mv逆相カラム(Varian Inc.)(寸法250×4.6mm)を使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(Varian Prostar model 320, Varian Inc., Palo Alto, CA)により分画した。カラムに100μLのCSMを負荷し、29分間、1mL/分の流速でアセトニトリル/水勾配(2〜75%)で溶出させた。2分目から開始して1分毎に試料を収集した。HPLC画分をプールし、Speed Vac濃縮装置(Savant Instruments, Inc., Hicksville, NY)で濃縮し、修飾EPRI培地または精製水0.5mLに再懸濁させた。活性HPLC画分は、70%アセトニトリル/30%水においてカラムから溶出することが見出された。各HPLC分離の活性画分を、マイクロタイタープレート分散バイオアッセイにより決定した。
【0091】
実施例5−マイクロタイタープレート分散バイオアッセイ
バイオフィルム分散を外因的に誘導する能力について、様々な調製物を試験するため、マイクロタイタープレート分散バイオアッセイを使用した。ネイティブの分散誘導因子の蓄積を低下させるため、各ウェル内の培地を定期的に交換する半回分培養法を使用して、マイクロタイタープレートウェルの内表面上でバイオフィルムを培養した。バルク液体へ細胞を放出させ、光学密度を測定することにより分散した細胞の数を評価するため、このようにして培養されたバイオフィルムを、分散誘導剤または無菌培地により処理した。簡単に説明すると、微生物細胞の接着のための粗表面を作出するため、無菌のポリスチレン96穴プレートを10秒間アセトンによりエッチングした。24時間の乾燥の後、予め増殖培地で1:20に希釈された、試験生物を含有している一夜培養物150μL/ウェルを、プレートに接種し、200rpmで振とうしながら30℃でインキュベートした。ウェル中の培地を、5日間は24時間毎に、6日目および7日目は12時間毎に交換した。次いで、7時間後に培地を交換した。30℃で1時間、分散誘導剤を含有している増殖培地150μLを添加することにより、または対照として無菌培地を添加することにより、分散誘導を試験した。次いで、分散した細胞を含有している培地を、エッチングされていないマイクロタイタープレートにピペットにより移し、光学密度(OD570)を決定した(ELx808 Absorbance Microplate Reader;BioTek Instruments, Inc., Winooski, VT)。処理は、様々な濃度の消費培地、CSM、シス-2-デセン酸、トランス-デセン酸、デカン酸、およびDSFからなっていた。エタノール(10%)を脂肪酸誘導剤試料のための担体として使用したところ、分散に対する影響を有していないことが決定された。この方法の使用からの結果は、異なる処理の比較を行い、分散活性が統計的に有意であるか否かを決定するために有意義である。注:半回分系においては、対照試料および試験試料が、外因性の誘導の活性が測定される天然の分散に感受性であるため、マイクロタイタープレート分散バイオアッセイは、誘導された分散応答の絶対的な大きさを決定するためには適当でなかった。効率の研究は、全て、バイオフィルムチューブリアクターまたはフローセル連続培養系を使用して実施され、全細胞数および生細胞数の両方に基づいていた。
【0092】
実施例6−バイオフィルムチューブリアクターにおける分散バイオアッセイ
P.アエルギノサPAO1バイオフィルム培養物を、Sauerらにより以前に記載されたようなチューブリアクターで培養した(参照により本明細書にその全体が組み入れられるK. Sauer, et al., J. Bacteriol. 184: 1140 (2002))。追加のシリコン管を介して8ローラーヘッド蠕動ポンプおよび培地リザーバに接続された8本のシリコンリアクターチューブ(長さ81.5cm×ID 14mm)を使用して、連続貫通チューブリアクター系を構成した。培地は、管を通して、閉鎖された流出培地リザーバにポンプで送り込まれた。組み立てられた系を、接種前にオートクレーブ処理することにより、滅菌した。P.アエルギノサの一夜培養物2mL(およそ1×108CFU/mLを含有している)を、各リアクターチューブから1cm上流の隔壁を通して、注射器注入により、シリコンチューブに接種した。細菌細胞を、1時間、管に接着させ(静止インキュベーション)、その後、10.8mL/hrの溶出速度で流動を開始させた。96時間のP.アエルギノサPAO1バイオフィルム培養の後、処理を実施した。連続条件および静止条件の下で処理を実施した。
【0093】
連続処理下では(図17A)、試験ライン中の流入培地を、新鮮培地から、添加前に中性に調整され一夜通気された、2%グルコースにより修正された消費培地に変更した。対照ラインは、新鮮な修飾EPRI培地を含有している新たなラインに切り替えた。0分目から開始して1分間隔で試料を収集し、光学密度についてアッセイした。30分目に消費培地を添加した。試料を氷上の試験チューブに収集し、続いて、細胞の分離を確実にするためにTissue Tearor Model 985370(Biospec Products, Inc.)を用いて5000rpmで30秒間ホモジナイズした。Ultrospec 3000分光光度計(Amersham Pharmacia Biotech, Inc.)を用いて、600nmにおける光学密度により細胞密度を決定した。
【0094】
静止処理条件下では、リアクター容量を、誘導剤を含有している培地に置換することにより、チューブリアクターの始点から2cm上流の接種ポートを通して、注射器注入により、分散誘導剤を添加した。消費培地は直接添加された。CSMまたは合成分散誘導剤(例えば、シス-2-デセン酸)は、修飾EPRIで調製され、添加された。非流動条件下での1時間の曝露の後、長さ81.5cmの各シリコンチューブリアクターを切り出し、(放出されたバイオフィルム細胞を含有している)液体画分を氷上の試験チューブに収集し、チューブの管腔に残存している細胞を押し出すために、金属桿を用いて実験台上でチューブを回転させることにより、バイオフィルム画分を収集した(参照により本明細書にその全体が組み入れられるK. Sauer, et al., J. Bacteriol. 184:1140 (2002))。試料を氷上に収集し、上記のようにホモジナイズした。Standard Plate Count寒天培地(Difco, Detroit, MI)上でのスプレッドプレート法により、または全細胞数により微視的に決定されるような細胞数についての標準曲線に対する校正により細胞数へと調整されたOD600における光学密度により、細胞数を決定した。分散効力を、光学密度または生存性測定のいずれかを使用して計算した:
【0095】
実施例7−顕微鏡分析
ガラス基底に接着したバイオフィルムの増殖および発達を観察するために、連続培養貫通フローセルを構成した。フローセルは、カバーガラスにより蓋をされた1.0mm×1.4cm×4.0cmのチャンバーを含有しているアルミニウムから構築されていた。無菌修飾EPRI培地を、0.13mL/分の流速で、Masterflex 8ローラーヘッド蠕動ポンプを使用して、10リットルのベッセルからシリコン管を通してフローセルにポンプで送り込んだ。チャンバー内の流れは、層流であり、0.17のレイノルズ数を有し、4.3分の液体滞留時間を有していた。フローセルを去る培地は、シリコン管を介して、流出液リザーバに排出された。系全体は外部環境に対して閉鎖されていたが、各ベッセルに取り付けられた孔径0.2μmの気体透過性フィルターにより大気圧と平衡に維持されていた。対数期のP.アエルギノサ(およそ108CFU/mL)を、流動条件下で、フローセルから4cm上流の隔壁を通して3.0mLのスラグ(slug)用量として接種した。カバーガラスの内表面に接着した細胞を、Olympus BX60顕微鏡および100×拡大率A100PL対物レンズまたは50×拡大率ULWD MSPlan長作動距離Olympus対物レンズを使用して、透過光またはepi-UVの照射により観察した。全ての画像を、Magnafire冷却3チップ電荷結合素子(CCD)カメラ(Optronics Inc., Galena, CA)を使用して取得し、その後の回収および分析のため別々のディジタルファイルとして保存した。P.アエルギノサは、最長12日間フローセルで培養された。本出願人の以前の研究は、P.アエルギノサが7〜9日の連続培養期間の後、定常状態バイオフィルムを発達させることを示した。定常状態とは、剥離したバイオフィルム細胞に起因する流出液中の細胞数(CFU)の無変化により定義され;定常状態において、バイオフィルムの増殖は、分散または剥離を通した細胞の喪失と釣り合っている。各実験の過程において個々の細胞クラスタを調査し、グリッド座標を割り当て、実験の過程において定期的に再調査した。ランダムに選択された顕微鏡ステージ座標に最も近いクラスタを突き止めることにより、ランダムな細胞クラスタのサイズ測定を行った。クラスタの基底から頂端まで焦点を合わせることにより、高さを決定し、ステージミクロメーターを使用した細胞クラスタの底部における測定により、厚みを決定するため、各細胞クラスタを測定した。細胞クラスタとは、基底に接着し、運動性を欠く菌体外多糖マトリックス内に埋め込まれた細胞と定義され;細胞クラスタ内の空隙区域は、細胞クラスタ内の空間において自由に遊泳する細菌の観察により決定された。
【0096】
実施例8−バイオフィルム発達の阻害
ガラス基底の表面上で細菌を培養するためにフローセルを使用した(上記)。P.アエルギノサのバイオフィルムを、修飾EPRI培地中の(消費培地中に見出されるクロロホルム抽出有機材料の濃度と一致するよう1:125に希釈された)CSMの存在下および非存在下で、99時間にわたり室温で培養した。実験の過程において、各時点について、50×ULWD MSPlan対物レンズを使用して20個の顕微鏡視野を計数することにより、表面上の細菌の全細胞被覆度および平均バイオフィルム厚を決定した。画像分析ソフトウェアImagePro Plusを使用して、1cm2当たりの全細胞面積を、72時間目および99時間目に決定した。厚みは、増殖の72時間目および99時間目に、20個のランダムな細胞クラスタの平均最大高さを測定することにより決定された。対照試料は、CSM無添加の修飾EPRI培地の存在下で培養され試験された。これらの実験からの結果は、EPRI培地単独で培養されたバイオフィルムと比較して、CSMの存在下でバイオフィルムが培養された場合、増殖するバイオフィルムの表面積被覆度が有意に低下することを示した。CSMの添加は、CSMにより処理されていない試料と比較して、99時間の増殖の後の平均バイオフィルム細胞クラスタ厚の有意な低下も引き起こした(図18)。
【0097】
実施例9−P.アエルギノサCSMおよびシス-2-デセン酸の分光分析
精製水で調製された全てのCSM試料を、各分光分析のため、凍結乾燥させ、適切な担体に再懸濁させた。全ての実験におけるCSM対照は、マイクロタイタープレート分散バイオアッセイにより決定されたように分散を誘導しないCSM HPLC生成物、およびCSMを含有していない担体溶液からなっていた。
【0098】
実施例10−質量分析
試料を担体溶液(50%水、50%メタノール、および0.01%ギ酸)に再懸濁させた。高性能ハイブリッド四極子飛行時間型質量分析計QSTAR(登録商標)XL Hybrid LC/MS/MS System(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を使用して、API 150EX(商標)、API 3000(商標)、およびQSTAR(商標)Systems(Applied Biosystems)のためのIonSpray源を用いて、室温において、陽イオンモードで、質量分析を実施した。Analyst QSバージョン1.1を使用してデータを分析した。
【0099】
実施例11−核磁気共鳴(NMR)
CSMおよびシス-2-デセン酸の試料を、重水素化アセトニトリル1mLに再懸濁させ、薄壁NMRサンプルチューブ(VWR)に挿入した。300 MHz Proton NMR-Bruker AC 300(Bruker Daltonics Inc., Vilarica, MA, USA)において分析を実施した。24時間スペクトルを蓄積させた。
【0100】
実施例12−ガスクロマトグラフィ-質量分析(GC-MS)
CSM、および0.01mg/mL〜10mg/mLの濃度のシス-2-デセン酸の試料を、アセトニトリル2mLに再懸濁させた。3工程連続のヘキサン抽出を、可溶性の有機試料材料を除去するために実施した。ヘキサンを水浴(55〜70℃)中で乾燥状態にまで蒸発させた。続いて、プリジン(Puridine)(250μL)をGCへの注入のため試料を可溶化するために添加した。1mL/分の流速で、担体としてヘリウムを使用し、Restek(Columbia、MD)XTI-5 GCカラム(30m、0.25 mm i.d.、0.25 μmフィルム厚)を使用して、Shimadzu QP5050A GC-MSシステムを用いて、スペクトルを入手した。全ての分析に、スプリットレスインジェクションおよび電子衝撃イオン化を組み入れた。GCとMSとの間の界面温度は310℃に維持した。プログラムLab Solutions, GCMS solutionバージョン1.2を使用してデータを分析した。
【0101】
実施例13−赤外分光法(IR)
各試料に添加するべきKBrの量を決定するために、CSMおよびシス-2-デセン酸の試料を凍結乾燥の前後に計量した。KBrを試料重量の10倍で添加し、乳鉢および乳棒を使用して混合した。得られた粉末を、Carver 4350 Manual Pellet Press(Carver Inc., Wabash, IN, USA)を使用して、ペレットへと成形した。10分間10トンの圧力を適用した。1cm-1の分解能で、3500cm-1〜400cm-1の範囲で、室温でBruker Equinox 55 FT-IR分光計を使用してIRスペクトルを入手した。最終的なスペクトルは、128回のスキャンの平均値を表す。各試料をトリプリケートで測定した。
【0102】
実施例14−バイオフィルム細菌は抗生物質に対して抵抗性である
図1Aは、バイオフィルム細菌が抗生物質の添加に対して抵抗性であり、殺生物剤およびその他の抗微生物処理について類似した抵抗性が示される様子を模式的に例示している。図1Bは、抗生物質に加えて分散誘導剤が添加された場合、分散した細菌が抵抗性を失い、抗生物質に対して感受性になることを例示している。
【0103】
実施例15−分散誘導化合物の効果
図2は、シュードモナス・アエルギノサ培養物に由来する本発明に係る分散誘導化合物により処理された実際のバイオフィルム試料を示す。この実験においては、貫流フローセルを使用して6日間P.アエルギノサを培養した後、CSMを添加して試験した。
【0104】
フローセルは、カバーガラスにより蓋をされた1.0mm×1.4cm×4.0cmのチャンバーを含有している陽極酸化アルミから構築されていた。0.13ml/分の流速で、Masterflex 8ローラーヘッド蠕動ポンプを使用して、2リットルベッセルからシリコン管を通してフローセルへと無菌EPRI培地をポンプで送り込んだ。チャンバー内の流れは層流であり、0.17のレイノルズ数を有し、4.3分という液体滞留時間を有していた。フローセルを去る培地は、シリコン管を介して流出液リザーバに排出された。系全体は外部環境に対して閉鎖されていたが、各ベッセルに取り付けられた孔径0.2μmの気体透過性フィルターにより大気圧と平衡に維持されていた。対数期のP.アエルギノサ(およそ108CFU/ml)を、流動条件下で、フローセルから4cm上流の隔壁を通して3.0mlのスラグ用量として接種した。カバーガラスの内表面に接着した細胞を、Olympus BX60顕微鏡および50×拡大率ULWD MSPlan長作動距離Olympus対物レンズを使用して、透過光により観察した。全ての画像を、Magnafire冷却3チップ電荷結合素子(CCD)カメラ(Optronics Inc., Galena, Calif.)を使用して取得し、その後の回収および分析のために別々のディジタルファイルとして保存した。フローセル内の成熟バイオフィルムの発達の後、培地の流れを中止し、無菌EPRI培地中のろ過されたCSM 3mLをフローセルに添加した。フローセル内の単一の位置の透過光画像を、CSMによる処理の前および途中に撮影した。図2は、CSM添加の1分前、CSM添加の5分後、およびCSM添加の30分後に、そのような実験から撮影された画像を示す。対照試料も、CSMが含まれずEPRI培地6mLが添加されたことを除いて、試験試料と同一の様式で実行した。対照試料からの結果は、バイオフィルム細胞数またはバイオフィルム構造の変化を示さず、分散は認められなかった。
【0105】
実施例16−バイオフィルム細菌は表現型の切り替えを受ける
正常なバイオフィルム発達の過程において、バイオフィルム細菌は、成熟II段階の最後に、主にバイオフィルム型であった生理学が、主に浮遊型へと変化する、表現型の切り替えを受ける(図3)。分散期の過程におけるバイオフィルムの微視的観察は、細胞クラスタ内の細菌が運動性になるが(成熟期P.アエルギノサは非運動性である)、その一方でクラスタの端部周辺の細菌は固定されたままであることを証明した。細菌が泳ぐ/微動することができる細胞クラスタの領域は、(通常)中心の位置から容量が増大し、最終的には、クラスタ壁に破損箇所が作成される。細菌はこの破損箇所を通って泳ぎ、バルク液体相に入り、細胞クラスタ内に空隙を残すことができる。
【0106】
分散応答の継続的な研究は、細胞クラスタが、増殖および分散のエピソードを通じて変遷し;しばしば、何回ものそのようなサイクルの間、同一の細胞クラスタが持続することを明らかにした。複数の分散および再生の事象は、一般に、分散が発生した回数を示すことができる年輪に類似したパターンで、細胞クラスタの発達につながる。しばしば、細胞クラスタは、分散事象の間に完全に基底から剥離するであろう(参照により本明細書にその全体が組み入れられるStoodley et al., "Growth and Detachment of Cell Clusters from Mature Mixed-species Biofilms," Appl. Environ. Microbiol. 67:5608-5613 (2001))。この効果は、細胞クラスタの底部における接着構造が弱まり、液体剪断によるクラスタの剥離が可能になるためと考えられる。
【0107】
実施例17−培地停滞後の細胞剥離
図4は、72時間の培地停滞の後の細胞の剥離を示す位相差顕微鏡写真の時系列を示す。上記実施例3に記載された方法に従って、フローセルにP.アエルギノサPAO1を接種し、3日間にわたり培養した。これらのバイオフィルムの培養のために3日を選んだのは、連続流の下で、P.アエルギノサのバイオフィルム内の細胞クラスタが、9日のインキュベーションの後、自発的な分散事象を受けることが観察された観察に基づいていた。連続流の下での72日の培養の後、培地の流れを中止し、96時間にわたり2時間毎に細胞クラスタの画像を記録した。72時間の培地停滞の後、フローセル内の細胞クラスタは脱凝集し、細胞が浮遊性細菌としてバルク液体培地に入るのが観察された(図4)。これらの実験は、流れの中断が、バイオフィルムの分散応答を誘導することを証明した。これらの実験において、分散は、細胞クラスタ内のみならず、バイオフィルム中の全クラスタの至る所で起こった。図4に例示されるように、基底に直接接着した細胞のみが、バルク液体へ泳ぐのが観察されなかった。
【0108】
実施例18−クロロホルム抽出法の開発
分散誘導活性を有する消費培養培地の活性画分を抽出する信頼性のある方法を開発するために、様々な増殖および抽出の手法を試験した。クロロホルムは、(質量分析法により決定されたように)狭い範囲の抽出可能な有機化合物をもたらし、生理活性を有する量の分散誘導剤を回収することができたため、HPLC分画手法との適合性のためにクロロホルムを最良の抽出溶媒として選んだ。消費培地のクロロホルム抽出のため現在使用された方法は、以下の通りである:P.アエルギノサPAO1の細菌培養物を、連続的に攪拌しながら、室温で、6日間、回分培養ベッセルで、(乳酸ナトリウム0.05g/l、コハク酸ナトリウム0.05g/l、硝酸アンモニウム50.381g/l、KH2PO4 0.19g/l、K2HPO4 0.63g/l、Hutner塩金属溶液1ml、およびグルコース2.0g/lを含有している)EPRI培地4リットルにおいて培養した。増殖後、10,000×gでの20分間の遠心分離、それに続く孔径0.22μmのフィルターによる消費培地の濾過により、培養培地から細菌を除去した。バッチ内で、ろ過された消費培地250mlを分液漏斗中でクロロホルム80mlと混合した。10分の分離時間の後、クロロホルム画分を除去した。次いで、クロロホルム試料を、rotavapor R-3000(Biichi Laboratories, Flawil, Switzerland)を使用して70℃で乾燥状態にまで蒸発させ、ろ過されたナノピュア水またはEPRI培地6mLに再懸濁させた。クロロホルム抽出手法から得られた最終生成物を、ここで、濃縮消費培地またはCSMと呼ぶ。図15は、バイオフィルムチューブリアクターで培養された連続培養バイオフィルムに対するCSMおよび消費培地の効果を比較する結果を示す。1リットル当たり2.0グラムのグルコースが補足されたEPRI培地において9日間22℃で培養されたP.アエルギノサPAO1の培養物から、以前に記載されたようにしてCSMおよび消費培地を調製した。P.アエルギノサPAO1のバイオフィルムを、32cm二酸化シリコンMasterflexサイズ14管からなるバイオフィルムチューブリアクターにおいて22℃で6日間培養した。6日間の終了時、1リットル当たり2.0グラムのグルコースが各々補足されたCSM、消費培地、または無菌EPRI培地6mLをチューブに添加した。20分間にわたり、チューブから流出液を収集し、各処理についてプールした。プールされた試料を、各処理から分散した相対細胞数を決定するために570nmにおける光学密度についてアッセイした。各実験を五つのレプリケートを用いて実施した。これらの実験からの結果は、クロロホルム抽出された消費培養培地CSMが、消費培地と比較して、P.アエルギノサのバイオフィルムを分散させる、より大きな活性を示したことを証明した。
【0109】
出願人は、培地の流れが数時間中止された後、フローセルリアクター中のガラス基底上で培養された連続培養バイオフィルムからP.アエルギノサPAO1が分散することを観察した。この観察から、バイオフィルム分散が、バイオフィルム脱凝集の誘導剤として作用する細胞外メッセンジャーの蓄積に起因し得るという仮説が導かれた。この仮説は、P.アエルギノサのバイオフィルムが、回分培養フラスコにおいては形成されないが、ケモスタットの壁上には形成されるという観察により支持される。これは、分散のためのシグナルの蓄積がバイオフィルム発達を防止し得ることを示す。さらに、連続培養で培養された場合、P.アエルギノサのマイクロコロニーは、最低40ミクロンの直径および10ミクロンの厚みに達した時、中心に空隙を形成する(図6)。しかしながら、これらの空隙が形成されるマイクロコロニーサイズは、液体の流速に依存する。バイオフィルムリアクター内の流れが増加すると、マイクロコロニー空隙形成が起こる直径および厚みも増加し、このことから、分散誘導と輸送との間の関係が示された。これらの観察は、P.アエルギノサにより産生される細胞外物質が、バイオフィルム分散の誘導を担っていることを暗示した。
【0110】
出願人は、P.アエルギノサが細胞外分散誘導化合物を産生するのであれば、成熟したP.アエルギノサのバイオフィルムへの無細胞消費培養培地の添加が、バルク液体培地への細胞の放出を引き起こすはずであると仮定した。これらの細菌は、リアクター流出液中に回収される細胞の数の増加として検出可能であるはずである。図7Aは、P.アエルギノサが24時間懸濁培養された無細胞消費培地により、連続流の下で、70分間、バイオフィルムを処理した代表的な実験からの結果を例示している;対照バイオフィルムには新鮮培地を添加した。飢餓、酸素欠乏、またはpH変化が、細菌の放出を担っているのではないことを確実にするため、添加前に、消費培地を通気し、グルコースを補足し、pHを中性に調整した。消費培地の添加から20分以内に、対照ラインと比較して、流出液中の細胞数の大きなスパイクが検出可能であった。このことから、消費培地により処理された培養物の流出液へのバイオフィルム細菌の放出が示された。また、放出された細胞の小さなスパイクが、対照試料においても検出可能であったが、これは、新鮮培地リザーバへの切り替えラインに関連した物理的または機械的な効果に対する応答を表している可能性が高い。
【0111】
消費培地の活性分散誘導画分を精製するため、P.アエルギノサの無細胞定常期回分培養物をクロロホルムを使用して抽出し、続いて、ロータリーエバポレータによるクロロホルムの蒸発、および新鮮培地または緩衝溶液への有機画分の再懸濁を行った(これは、クロロホルムに可溶性の有機画分の125倍の増加をもたらした)。この調製物はCSMと呼ばれる。CSMの分散誘導活性を試験するため、P.アエルギノサのバイオフィルムをシリコン管における連続培養で培養し、バイオフィルムを、CSMにより修正された培地に、1時間曝露した。新鮮培地により処理された対照ラインにおいて、押し出されたチューブリアクターの内容物は、概して完全なバイオフィルムを示したが(図7B)、CSMにより処理されたチューブの内容物は、バイオフィルムが完全に脱凝集していることを示した(図7C)。シリコン管における連続培養で培養された4日齢のバイオフィルムの研究は、CSM含有培地による1時間の処理が、流出液中に放出されたコロニー形成単位により決定されるように、バイオフィルム細胞の平均87.4%(±1.4%)を放出させる効果を有することを明らかにした。消費培地は、32.4%(±5.5%)の平均分散効力を有することが示された。
【0112】
顕微鏡にマウントされたフローセルのガラス基底上での連続培養で6日間培養されたバイオフィルムマイクロコロニーに対するCSMの効果を評価するため、顕微鏡検を使用した(参照により本明細書にその全体が組み入れられるK. Sauer et al., J. Bacteriol. 184: 1140 (2002))。CSMの添加前、高度に発達したマイクロコロニーは、定常期にあり、運動性の兆候を示さない細胞を含有していることが観察された(図7D)。CSM含有培地との7分間の接触の後、マイクロコロニー内の細胞は、微動し始め、活発な運動性を示し始めた(図7E)。30分後、マイクロコロニーは完全に脱凝集し、細胞が培地中を自由に泳ぐのが観察された(図7F)。天然の分散と比較した場合、外因的に誘導された分散は、マイクロコロニーの外側から内側に向かって進行し、中心の空隙を作出するのではなく、マイクロコロニーの完全な脱凝集をもたらすことが観察された。
【0113】
フローセルに継続的に添加された時、消費培地の濃度に調整されたCSMは、99時間にわたりバイオフィルム発達の有意な阻害を示し、バイオフィルムの平均厚みおよび表面積被覆度の両方の低下を示した(図8)。予め形成されたバイオフィルムのCSMによる外因性の分散誘導は、1日目(バイオフィルムマイクロコロニー形成の開始)から6日目までの全ての時点で測定可能であり、その後、天然の分散が起こり始めた。CSMの活性は、低温保存された場合、有意な低下なしに最大6ヶ月持続することが示された。(アシル-ホモセリンラクトンを回収するための)酢酸エチルによる消費培地の抽出は、分散活性を有する調製物をもたらさなかった。
【0114】
P.アエルギノサにより形成された成熟バイオフィルムおよび発達中のバイオフィルムに対する分散誘導が証明されたため、次に、大腸菌、P.アエルギノサと混合された大腸菌、空気中の雑菌混入に由来する不定混合物の細菌バイオフィルム、のバイオフィルム培養物において分散を誘導するCSMの能力、ならびにクレブシエラ・ニューモニエ、プロテウス・ミラビリス、ストレプトコッカス・ピオゲネス、バチルス・ズブチリス、スタフィロコッカス・アウレウス、およびカンジダ・アルビカンスにより形成されたバイオフィルムに対する能力を試験した。CSMは試験された全ての試料において対照と比較して有意な分散を刺激することが示された。これらの実験からの結果は、図9に要約される。P.アエルギノサ分散誘導剤の、異なる細菌種および酵母において分散を活性化する能力は、それが、門および界を越えて活性を保有していることを示す。
【0115】
バイオフィルム分散の誘導剤としてのCSMの役割が確立されたため、CSM中に存在する活性分子を同定した。C-18逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用してアセトニトリルおよび水の均一濃度勾配により分離されたCSMの複数の画分の分散活性をアッセイすることにより、これを開始した。(1分間隔で収集された)溶出したHPLC画分を、残余のアセトニトリルを除去するためにSpeedvacで乾燥させ、精製水に再懸濁させ、分散活性を決定するためにマイクロタイタープレート分散バイオアッセイにより試験した。図10Aは、CSM分画バイオフィルム分散アッセイの結果を示す。結果は、最高活性を示すCSMのHPLC画分が、22分、70%/30%のアセトニトリル/水比率で溶出することを示した。
【0116】
活性HPLC CSM画分の質量分析は、171M/Z(mw=170)で低いイオン化活性を有する一貫した分子ピークを示した。このピークは分散活性を示す全ての試料に存在し、分散活性のない全ての試料に欠けていた。このピークは、(新鮮培養培地を含む)CSMの調製において使用された全ての担体液体および溶媒にも欠けていることが示された。170mwピークの質量分析−生成物イオン分析、溶解度分析、H1およびC13核磁気共鳴(NMR)分光法、ならびに赤外(IR)分光法により、170mw分子が、2位炭素に二重結合が位置している単不飽和C10脂肪酸;2-デセン酸であることが証明された。
【0117】
22分CSM HPLC画分からの170mw分子(M/Z=171)が2-デセン酸と同一であることを確認するため、元の分子を、生成物イオンピークを作成するため、質量分析において断片化した。活性CSM画分および2-デセン酸からの生成物イオンを、これら二つの分子の切断の差異を評価するために、四極子ms/msにより分析した。図12Aは、171M/Z CSM試料が、2-デセン酸との同一性を有していることを示す。GC-MSにより分析した場合、未分画CSMは、2-デセン酸のものと同一の7.6分という保持時間を有する単一の主要ピークを示した(図12B)。赤外分光法により、2-デセン酸のシス異性体が、CSMから単離された有機化合物であることが確認された(図12C)。
【0118】
この同定の後、様々な分子量の単不飽和脂肪酸分子を合成し、分散活性について試験した。X.カンペストリス(campestris)の細胞塊を破壊することが示されたDSFは、P.アエルギノサの分散を促進しないことが示された。最高活性を有する化合物は、2-デセン酸の二つの異性体であった。トランス異性体(トランス-2-デセン酸)は、ミリモル濃度でのみ活性を有することが、マイクロタイタープレート分散バイオアッセイにより示された。この濃度は、典型的には、細胞間シグナル伝達分子としての資格を得るほど十分には低くない。図10Bは、マイクロタイタープレートで培養されたP.アエルギノサのバイオフィルム培養物に対する、増加する濃度のシス-2-デセン酸の分散活性を示す。これらの結果は、シス異性体(シス-2-デセン酸)が、1.0ナノモル〜10ミリモルの濃度範囲で活性を有し、1.0ナノモルにおいて、未濃縮の消費培養培地より大きな分散活性を示す(即ち: 天然に存在する誘導剤より高い)ことを証明した。顕微鏡検は、図13に示されるように、分散誘導剤としてのシス-2-デセン酸の活性がCSM活性に類似しており、バイオフィルムマイクロコロニーを完全に破壊することを明らかにした。シス-2-デセン酸の活性を、大腸菌、S.ニューモニエ、P.ミラビリス、S.ピオゲネス、B.ズブチリス、S.アウレウス、およびC.アルビカンスのバイオフィルム培養物に対しても試験したところ、CSMについて入手されたものと類似した結果が得られた(図11)。
【0119】
この研究は、小さなメッセンジャー脂肪酸分子シス-2-デセン酸が、回分培養およびバイオフィルム培養においてP.アエルギノサにより産生されることを示した。この分子は、P.アエルギノサ、ならびにある範囲のグラム陰性菌およびグラム陽性菌、ならびに酵母により形成されたバイオフィルムにおいて、分散応答を誘導することが証明された。分散応答は、固定された細胞がより好都合な環境に移動し、残存する集団を少なくする機会を与え、細胞が増加した栄養素を入手することを可能にする、集団内の飢餓条件を回避するための機序である。バイオフィルムマイクロコロニーが小さい時、細胞外マトリックスに蓄積される誘導剤は、拡散輸送および移流輸送により除去される。この除去は回分系においては不可能である。誘導剤が内部から十分に洗浄されない(拡散速度より産生速度が優っている)寸法に細胞クラスタが達した時、誘導剤は、分散応答の活性化のために必要な濃度に達し、バイオフィルムから細胞を放出することができるようになる。バイオフィルム分散を担っている細胞間シグナル伝達分子の発見は、バイオフィルム細菌の浮遊性状態への変遷の外因性の誘導を可能にする。この分散誘導剤の使用は、バイオフィルムと関係のある感染に対抗するため、そして微生物の生物付着を制御するための、処理の改善された選択肢をもたらす可能性が高い。
【0120】
好ましい態様が本明細書に示され、詳細に記載されたが、様々な修飾、追加、置換等が本発明の本旨を逸脱することなく成され得、従って、これらは、以下の特許請求の範囲において定義されるような本発明の範囲内にあると見なされることが、当業者には明白であろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムと接触した際に、分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、バイオフィルムを破壊するためにマトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するよう製剤化されている、以下を含む組成物:
式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスター(biostere)である
を含む一つまたは複数の分散誘導剤、ならびに
殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群より選択される一つまたは複数の付加的な成分。
【請求項2】
分散誘導剤が、
を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
分散誘導剤が、
を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
分散誘導剤が、
を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
Rが、
からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
Rがホモセリンラクトン基またはフラノン基である、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
分散誘導剤が1μM〜30mMの濃度で組成物中に存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
分散誘導剤がシス異性体である、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
1.5〜4.5のpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
4.5〜8.0のpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
6.8〜7.4のpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
8.0〜9.8のpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
分散誘導剤が15個以下の炭素原子を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
歯磨剤または口腔洗浄剤である、請求項1記載の組成物。
【請求項15】
前記分散誘導剤が非殺菌性であるように製剤化されている、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
分散誘導剤が0.5重量パーセント未満の濃度で組成物中に存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
実質的にエタノールを含まない、請求項1記載の組成物。
【請求項18】
実質的にホルムアルデヒドを含まない、請求項1記載の組成物。
【請求項19】
外科用接着剤を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項20】
請求項1記載の組成物でコーティングされた表面。
【請求項21】
デンタルフロスである、請求項20記載の表面。
【請求項22】
コンタクトレンズである、請求項20記載の表面。
【請求項23】
骨移植片である、請求項20記載の表面。
【請求項24】
以下の工程を含む、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態を処置または防止する方法:
表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムにより媒介される状態を有する対象か、またはそのような状態に感受性の対象を提供する工程、ならびに
分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤を対象に施し、それによって対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態が処置または防止される工程。
【請求項25】
前記分散誘導剤を施すことと併せて、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、超音波処理、放射線処理、温熱処理、および機械的処理のうちの一つまたは複数からなる群より選択される抗微生物処理を対象に施す工程をさらに含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
熱傷を有する対象が処置される、請求項24記載の方法。
【請求項27】
歯垢、齲歯、歯肉疾患、および/または口腔感染を有する対象が処置される、請求項24記載の方法。
【請求項28】
施す工程が、歯磨剤、口腔洗浄剤、デンタルフロス、ガム、ストリップ、またはブラシで実施される、請求項27記載の方法。
【請求項29】
皮膚上のざ瘡またはその他のバイオフィルム関連皮膚感染を有する対象が処置される、請求項24記載の方法。
【請求項30】
慢性バイオフィルム関連疾患を有する対象が処置される、請求項24記載の方法。
【請求項31】
慢性バイオフィルム関連疾患が、中耳感染、骨髄炎、前立腺炎、嚢胞性繊維症、大腸炎、腟炎、尿道炎、および胃潰瘍または十二指腸潰瘍からなる群より選択される、請求項30記載の方法。
【請求項32】
分散誘導剤が0.01μM〜30mMの濃度で施される、請求項24記載の方法。
【請求項33】
分散誘導剤が1.5〜4.9のpHを有する組成物として施される、請求項24記載の方法。
【請求項34】
分散誘導剤が4.5〜8.0のpHを有する組成物として施される、請求項24記載の方法。
【請求項35】
組成物が6.8〜7.4のpHを有する、請求項24記載の方法。
【請求項36】
組成物が8.0〜9.8のpHを有する、請求項24記載の方法。
【請求項37】
分散誘導剤が15個以下の炭素原子を有する、請求項24記載の方法。
【請求項38】
分散誘導剤がシス異性体である、請求項24記載の方法。
【請求項39】
前記分散誘導剤が非殺菌性であるように製剤化された組成物として、分散誘導剤が施される、請求項24記載の方法。
【請求項40】
分散誘導剤が0.5重量パーセント未満の濃度で施される、請求項24記載の方法。
【請求項41】
以下の工程を含む、表面上のバイオフィルムの形成を処理または阻害する方法:
表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムの形成を有する表面か、またはそのような形成に感受性の表面を提供する工程、ならびに
分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤を表面に施し、それによって表面上のバイオフィルムの形成が処理または阻害される工程。
【請求項42】
表面がコンタクトレンズである、請求項41記載の方法。
【請求項43】
表面がカテーテル、人工呼吸器、および換気装置からなる群より選択される、留置医用装置である、請求項41記載の方法。
【請求項44】
表面がステント、人工弁、ジョイント、縫合糸、ステープル、ペースメーカー、骨移植片、およびピンからなる群より選択される植え込み医用装置である、請求項41記載の方法。
【請求項45】
表面が排水管、タブ、キッチン器具、調理台、シャワーカーテン、グラウト、トイレ、産業用食品飲料生産設備、床板、および食品加工機器からなる群より選択される、請求項41記載の方法。
【請求項46】
表面が熱交換器表面またはフィルター表面である、請求項41記載の方法。
【請求項47】
表面がボート、桟橋、油掘削プラットフォーム、取水ポート、シーブ、およびビューポートからなる群より選択される海洋構造物である、請求項41記載の方法。
【請求項48】
表面が水の処理および/または分配のための系に関連している、請求項41記載の方法。
【請求項49】
水の処理および/または分配のための系が、飲料水の処理および/または分配のための系、プールおよび温泉の水の処理のための系、製造作業における水の処理および/または分配のための系、ならびに歯科用水の処理および/または分配のための系からなる群より選択される、請求項47記載の方法。
【請求項50】
表面が石油の採掘、保管、分離、精製、分配のための系、および/または石油が抽出される多孔質媒体に関連している、請求項41記載の方法。
【請求項51】
石油の採掘、保管、分離、および/または分配のための系が、石油分離トレーン、石油コンテナ、石油分配管、および石油採掘機器からなる群より選択される、請求項49記載の方法。
【請求項52】
分散誘導剤を施すことと併せて、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、超音波処理、放射線処理、温熱処理、および機械的処理からなる群より選択される少なくとも一つの抗微生物処理を表面に施す工程をさらに含む、請求項41記載の方法。
【請求項53】
分散誘導剤および抗微生物処理が同時に施される、請求項52記載の方法。
【請求項54】
分散誘導剤および抗微生物処理が別々に施される、請求項52記載の方法。
【請求項55】
分散誘導剤が表面に含浸されている、請求項52記載の方法。
【請求項56】
分散誘導剤が表面をコーティングするコポリマーまたはゲルに含まれて施される、請求項52記載の方法。
【請求項57】
分散誘導剤が0.01μM〜30mMの濃度で施される、請求項52記載の方法。
【請求項58】
組成物が1.5〜4.9のpHを有する組成物として施される、請求項52記載の方法。
【請求項59】
組成物が4.5〜8.0のpHを有する組成物として施される、請求項58記載の方法。
【請求項60】
組成物が6.8〜7.4のpHを有する、請求項52記載の方法。
【請求項61】
組成物が8.0〜9.8のpHを有する、請求項52記載の方法。
【請求項62】
分散誘導剤が15個以下の炭素原子を有する、請求項41記載の方法。
【請求項63】
分散誘導剤がシス異性体である、請求項41記載の方法。
【請求項64】
分散誘導剤が非殺菌性であるように製剤化された組成物として、分散誘導剤が施される、請求項41記載の方法。
【請求項65】
分散誘導剤が0.5重量パーセント未満の濃度で施される、請求項41記載の方法。
【請求項66】
表面が骨移植片である、請求項41記載の方法。
【請求項67】
式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸である
を含む分散誘導剤を含み、5を超えるpHを有する溶液であって、該誘導剤が0.5重量パーセント未満の濃度で存在する溶液。
【請求項68】
分散誘導剤が
を含む、請求項67記載の溶液。
【請求項69】
分散誘導剤が
を含む、請求項67記載の溶液。
【請求項70】
分散誘導剤が
を含む、請求項67記載の溶液。
【請求項71】
エタノールを含まない、請求項67記載の溶液。
【請求項72】
ホルムアルデヒドを含まない、請求項67記載の溶液。
【請求項73】
pHが実質的に中性である、請求項67記載の溶液。
【請求項74】
スキンクリーム、歯磨き剤、および口腔洗浄剤からなる群より選択される、請求項67記載の溶液。
【請求項75】
誘導剤が非塩型で製剤化されている、請求項67記載の溶液。
【請求項76】
殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群の一つまたは複数より選択される成分をさらに含む、請求項67記載の溶液。
【請求項77】
殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群の一つまたは複数より選択される成分、ならびに
式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸である下記式:
を有する分散誘導剤
を含む組成物であって、該誘導剤が非塩型で製剤化されている組成物。
【請求項78】
分散誘導剤が
を含む、請求項77記載の組成物。
【請求項79】
分散誘導剤が
を含む、請求項77記載の組成物。
【請求項80】
分散誘導剤が
を含む、請求項77記載の組成物。
【請求項81】
実質的にエタノールを含まない溶液中にある、請求項77記載の組成物。
【請求項82】
溶液が実質的にホルムアルデヒドも含まない、請求項81記載の組成物。
【請求項83】
溶液が実質的にpH中性である、請求項81記載の組成物。
【請求項84】
スキンクリーム、歯磨き剤、および口腔洗浄剤からなる群より選択される製剤中にある、請求項77記載の組成物。
【請求項85】
2-デセン酸のシス異性体を含む溶液であって、スキンクリーム、歯磨き剤、および口腔洗浄剤からなる群より選択され、かつ実質的に2-デセン酸のトランス異性体を含まない溶液。
【請求項86】
2-デセン酸のシス異性体を含む溶液であって、スキンクリーム、歯磨き剤、および口腔洗浄剤からなる群より選択され、かつトランス異性体を含まない溶液。
【請求項87】
以下の工程を含む方法:
(a)コンタクトレンズ、および、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤を0.5重量%未満の濃度で含む溶液、を提供する工程;ならびに
(b)該コンタクトレンズを該溶液で処理する工程。
【請求項88】
分散誘導剤が
を含む、請求項87記載の方法。
【請求項89】
分散誘導剤が
を含む、請求項87記載の方法。
【請求項90】
分散誘導剤が
を含む、請求項87記載の方法。
【請求項91】
溶液が実質的にエタノールを含まない、請求項87記載の方法。
【請求項92】
溶液が実質的にホルムアルデヒドを含まない、請求項87記載の方法。
【請求項93】
溶液のpHが実質的に中性である、請求項87記載の方法。
【請求項94】
コンタクトレンズが前記溶液中に保存される、請求項87記載の方法。
【請求項95】
誘導剤が非塩型で製剤化される、請求項87記載の方法。
【請求項96】
溶液が殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、および毒性因子阻害剤からなる群より選択される成分を少なくとも一つさらに含む、請求項87記載の方法。
【請求項97】
以下の工程を含む方法:
(a)ある皮膚状態を有する対象、および、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであって、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤を0.5重量%未満の濃度で含み、5を超えるpHを有する溶液を提供する工程;ならびに
(b)該皮膚状態を該溶液で処置する工程。
【請求項98】
分散誘導剤が
を含む、請求項97記載の方法。
【請求項99】
分散誘導剤が
を含む、請求項95記載の方法。
【請求項100】
分散誘導剤が
を含む、請求項97記載の方法。
【請求項101】
溶液が実質的にエタノールを含まない、請求項97記載の方法。
【請求項102】
溶液が実質的にホルムアルデヒドを含まない、請求項97記載の方法。
【請求項103】
溶液のpHが実質的に中性である、請求項97記載の方法。
【請求項104】
溶液がクリームとして製剤化される、請求項97記載の方法。
【請求項105】
誘導剤が非塩型で製剤化される、請求項97記載の方法。
【請求項106】
溶液が殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、および毒性因子阻害剤からなる群より選択される成分を少なくとも一つさらに含む、請求項97記載の方法。
【請求項107】
表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムと接触した際に、分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスを破壊するためにマトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するよう製剤化されている、
一つまたは複数の分散誘導剤、ならびに
殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群より選択される一つまたは複数の付加的な成分
を含む組成物。
【請求項108】
以下の工程を含む、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態を処置または防止する方法:
表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムにより媒介される状態を有する対象か、またはそのような状態に感受性の対象を提供する工程、および
分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、分散誘導剤を対象に施し、それにより対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態が処置または防止される工程。
【請求項109】
以下の工程を含む、表面上のバイオフィルムの形成を処理または阻害する方法:
表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムの形成を有する表面か、またはそのような形成に感受性の表面を提供する工程、および
分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、分散誘導剤を表面に施し、それにより表面上のバイオフィルムの形成が処理または阻害される工程。
【請求項1】
表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムと接触した際に、分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、バイオフィルムを破壊するためにマトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するよう製剤化されている、以下を含む組成物:
式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスター(biostere)である
を含む一つまたは複数の分散誘導剤、ならびに
殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群より選択される一つまたは複数の付加的な成分。
【請求項2】
分散誘導剤が、
を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
分散誘導剤が、
を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
分散誘導剤が、
を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
Rが、
からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
Rがホモセリンラクトン基またはフラノン基である、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
分散誘導剤が1μM〜30mMの濃度で組成物中に存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
分散誘導剤がシス異性体である、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
1.5〜4.5のpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
4.5〜8.0のpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
6.8〜7.4のpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
8.0〜9.8のpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
分散誘導剤が15個以下の炭素原子を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
歯磨剤または口腔洗浄剤である、請求項1記載の組成物。
【請求項15】
前記分散誘導剤が非殺菌性であるように製剤化されている、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
分散誘導剤が0.5重量パーセント未満の濃度で組成物中に存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
実質的にエタノールを含まない、請求項1記載の組成物。
【請求項18】
実質的にホルムアルデヒドを含まない、請求項1記載の組成物。
【請求項19】
外科用接着剤を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項20】
請求項1記載の組成物でコーティングされた表面。
【請求項21】
デンタルフロスである、請求項20記載の表面。
【請求項22】
コンタクトレンズである、請求項20記載の表面。
【請求項23】
骨移植片である、請求項20記載の表面。
【請求項24】
以下の工程を含む、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態を処置または防止する方法:
表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムにより媒介される状態を有する対象か、またはそのような状態に感受性の対象を提供する工程、ならびに
分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤を対象に施し、それによって対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態が処置または防止される工程。
【請求項25】
前記分散誘導剤を施すことと併せて、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、超音波処理、放射線処理、温熱処理、および機械的処理のうちの一つまたは複数からなる群より選択される抗微生物処理を対象に施す工程をさらに含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
熱傷を有する対象が処置される、請求項24記載の方法。
【請求項27】
歯垢、齲歯、歯肉疾患、および/または口腔感染を有する対象が処置される、請求項24記載の方法。
【請求項28】
施す工程が、歯磨剤、口腔洗浄剤、デンタルフロス、ガム、ストリップ、またはブラシで実施される、請求項27記載の方法。
【請求項29】
皮膚上のざ瘡またはその他のバイオフィルム関連皮膚感染を有する対象が処置される、請求項24記載の方法。
【請求項30】
慢性バイオフィルム関連疾患を有する対象が処置される、請求項24記載の方法。
【請求項31】
慢性バイオフィルム関連疾患が、中耳感染、骨髄炎、前立腺炎、嚢胞性繊維症、大腸炎、腟炎、尿道炎、および胃潰瘍または十二指腸潰瘍からなる群より選択される、請求項30記載の方法。
【請求項32】
分散誘導剤が0.01μM〜30mMの濃度で施される、請求項24記載の方法。
【請求項33】
分散誘導剤が1.5〜4.9のpHを有する組成物として施される、請求項24記載の方法。
【請求項34】
分散誘導剤が4.5〜8.0のpHを有する組成物として施される、請求項24記載の方法。
【請求項35】
組成物が6.8〜7.4のpHを有する、請求項24記載の方法。
【請求項36】
組成物が8.0〜9.8のpHを有する、請求項24記載の方法。
【請求項37】
分散誘導剤が15個以下の炭素原子を有する、請求項24記載の方法。
【請求項38】
分散誘導剤がシス異性体である、請求項24記載の方法。
【請求項39】
前記分散誘導剤が非殺菌性であるように製剤化された組成物として、分散誘導剤が施される、請求項24記載の方法。
【請求項40】
分散誘導剤が0.5重量パーセント未満の濃度で施される、請求項24記載の方法。
【請求項41】
以下の工程を含む、表面上のバイオフィルムの形成を処理または阻害する方法:
表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムの形成を有する表面か、またはそのような形成に感受性の表面を提供する工程、ならびに
分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが2〜15であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤を表面に施し、それによって表面上のバイオフィルムの形成が処理または阻害される工程。
【請求項42】
表面がコンタクトレンズである、請求項41記載の方法。
【請求項43】
表面がカテーテル、人工呼吸器、および換気装置からなる群より選択される、留置医用装置である、請求項41記載の方法。
【請求項44】
表面がステント、人工弁、ジョイント、縫合糸、ステープル、ペースメーカー、骨移植片、およびピンからなる群より選択される植え込み医用装置である、請求項41記載の方法。
【請求項45】
表面が排水管、タブ、キッチン器具、調理台、シャワーカーテン、グラウト、トイレ、産業用食品飲料生産設備、床板、および食品加工機器からなる群より選択される、請求項41記載の方法。
【請求項46】
表面が熱交換器表面またはフィルター表面である、請求項41記載の方法。
【請求項47】
表面がボート、桟橋、油掘削プラットフォーム、取水ポート、シーブ、およびビューポートからなる群より選択される海洋構造物である、請求項41記載の方法。
【請求項48】
表面が水の処理および/または分配のための系に関連している、請求項41記載の方法。
【請求項49】
水の処理および/または分配のための系が、飲料水の処理および/または分配のための系、プールおよび温泉の水の処理のための系、製造作業における水の処理および/または分配のための系、ならびに歯科用水の処理および/または分配のための系からなる群より選択される、請求項47記載の方法。
【請求項50】
表面が石油の採掘、保管、分離、精製、分配のための系、および/または石油が抽出される多孔質媒体に関連している、請求項41記載の方法。
【請求項51】
石油の採掘、保管、分離、および/または分配のための系が、石油分離トレーン、石油コンテナ、石油分配管、および石油採掘機器からなる群より選択される、請求項49記載の方法。
【請求項52】
分散誘導剤を施すことと併せて、殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、超音波処理、放射線処理、温熱処理、および機械的処理からなる群より選択される少なくとも一つの抗微生物処理を表面に施す工程をさらに含む、請求項41記載の方法。
【請求項53】
分散誘導剤および抗微生物処理が同時に施される、請求項52記載の方法。
【請求項54】
分散誘導剤および抗微生物処理が別々に施される、請求項52記載の方法。
【請求項55】
分散誘導剤が表面に含浸されている、請求項52記載の方法。
【請求項56】
分散誘導剤が表面をコーティングするコポリマーまたはゲルに含まれて施される、請求項52記載の方法。
【請求項57】
分散誘導剤が0.01μM〜30mMの濃度で施される、請求項52記載の方法。
【請求項58】
組成物が1.5〜4.9のpHを有する組成物として施される、請求項52記載の方法。
【請求項59】
組成物が4.5〜8.0のpHを有する組成物として施される、請求項58記載の方法。
【請求項60】
組成物が6.8〜7.4のpHを有する、請求項52記載の方法。
【請求項61】
組成物が8.0〜9.8のpHを有する、請求項52記載の方法。
【請求項62】
分散誘導剤が15個以下の炭素原子を有する、請求項41記載の方法。
【請求項63】
分散誘導剤がシス異性体である、請求項41記載の方法。
【請求項64】
分散誘導剤が非殺菌性であるように製剤化された組成物として、分散誘導剤が施される、請求項41記載の方法。
【請求項65】
分散誘導剤が0.5重量パーセント未満の濃度で施される、請求項41記載の方法。
【請求項66】
表面が骨移植片である、請求項41記載の方法。
【請求項67】
式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸である
を含む分散誘導剤を含み、5を超えるpHを有する溶液であって、該誘導剤が0.5重量パーセント未満の濃度で存在する溶液。
【請求項68】
分散誘導剤が
を含む、請求項67記載の溶液。
【請求項69】
分散誘導剤が
を含む、請求項67記載の溶液。
【請求項70】
分散誘導剤が
を含む、請求項67記載の溶液。
【請求項71】
エタノールを含まない、請求項67記載の溶液。
【請求項72】
ホルムアルデヒドを含まない、請求項67記載の溶液。
【請求項73】
pHが実質的に中性である、請求項67記載の溶液。
【請求項74】
スキンクリーム、歯磨き剤、および口腔洗浄剤からなる群より選択される、請求項67記載の溶液。
【請求項75】
誘導剤が非塩型で製剤化されている、請求項67記載の溶液。
【請求項76】
殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群の一つまたは複数より選択される成分をさらに含む、請求項67記載の溶液。
【請求項77】
殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群の一つまたは複数より選択される成分、ならびに
式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸である下記式:
を有する分散誘導剤
を含む組成物であって、該誘導剤が非塩型で製剤化されている組成物。
【請求項78】
分散誘導剤が
を含む、請求項77記載の組成物。
【請求項79】
分散誘導剤が
を含む、請求項77記載の組成物。
【請求項80】
分散誘導剤が
を含む、請求項77記載の組成物。
【請求項81】
実質的にエタノールを含まない溶液中にある、請求項77記載の組成物。
【請求項82】
溶液が実質的にホルムアルデヒドも含まない、請求項81記載の組成物。
【請求項83】
溶液が実質的にpH中性である、請求項81記載の組成物。
【請求項84】
スキンクリーム、歯磨き剤、および口腔洗浄剤からなる群より選択される製剤中にある、請求項77記載の組成物。
【請求項85】
2-デセン酸のシス異性体を含む溶液であって、スキンクリーム、歯磨き剤、および口腔洗浄剤からなる群より選択され、かつ実質的に2-デセン酸のトランス異性体を含まない溶液。
【請求項86】
2-デセン酸のシス異性体を含む溶液であって、スキンクリーム、歯磨き剤、および口腔洗浄剤からなる群より選択され、かつトランス異性体を含まない溶液。
【請求項87】
以下の工程を含む方法:
(a)コンタクトレンズ、および、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであり、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤を0.5重量%未満の濃度で含む溶液、を提供する工程;ならびに
(b)該コンタクトレンズを該溶液で処理する工程。
【請求項88】
分散誘導剤が
を含む、請求項87記載の方法。
【請求項89】
分散誘導剤が
を含む、請求項87記載の方法。
【請求項90】
分散誘導剤が
を含む、請求項87記載の方法。
【請求項91】
溶液が実質的にエタノールを含まない、請求項87記載の方法。
【請求項92】
溶液が実質的にホルムアルデヒドを含まない、請求項87記載の方法。
【請求項93】
溶液のpHが実質的に中性である、請求項87記載の方法。
【請求項94】
コンタクトレンズが前記溶液中に保存される、請求項87記載の方法。
【請求項95】
誘導剤が非塩型で製剤化される、請求項87記載の方法。
【請求項96】
溶液が殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、および毒性因子阻害剤からなる群より選択される成分を少なくとも一つさらに含む、請求項87記載の方法。
【請求項97】
以下の工程を含む方法:
(a)ある皮膚状態を有する対象、および、式中、
が一重または二重の炭素間結合であり、mが1または2であり、nが4〜7であり、かつRがカルボン酸、塩、エステル、またはアミドであって、ここでエステルまたはアミドはカルボン酸のアイソスターまたはバイオスターである
を含む分散誘導剤を0.5重量%未満の濃度で含み、5を超えるpHを有する溶液を提供する工程;ならびに
(b)該皮膚状態を該溶液で処置する工程。
【請求項98】
分散誘導剤が
を含む、請求項97記載の方法。
【請求項99】
分散誘導剤が
を含む、請求項95記載の方法。
【請求項100】
分散誘導剤が
を含む、請求項97記載の方法。
【請求項101】
溶液が実質的にエタノールを含まない、請求項97記載の方法。
【請求項102】
溶液が実質的にホルムアルデヒドを含まない、請求項97記載の方法。
【請求項103】
溶液のpHが実質的に中性である、請求項97記載の方法。
【請求項104】
溶液がクリームとして製剤化される、請求項97記載の方法。
【請求項105】
誘導剤が非塩型で製剤化される、請求項97記載の方法。
【請求項106】
溶液が殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、および毒性因子阻害剤からなる群より選択される成分を少なくとも一つさらに含む、請求項97記載の方法。
【請求項107】
表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムと接触した際に、分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスを破壊するためにマトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するよう製剤化されている、
一つまたは複数の分散誘導剤、ならびに
殺生物剤、界面活性物質、抗生物質、防腐剤、界面活性剤、キレート化剤、毒性因子阻害剤、ゲル、ポリマー、ペースト、食用製造物、および咀嚼可能製造物からなる群より選択される一つまたは複数の付加的な成分
を含む組成物。
【請求項108】
以下の工程を含む、対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態を処置または防止する方法:
表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムにより媒介される状態を有する対象か、またはそのような状態に感受性の対象を提供する工程、および
分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、分散誘導剤を対象に施し、それにより対象におけるバイオフィルムにより媒介される状態が処置または防止される工程。
【請求項109】
以下の工程を含む、表面上のバイオフィルムの形成を処理または阻害する方法:
表面上の、マトリックスおよび微生物を含む、微生物により産生されたバイオフィルムの形成を有する表面か、またはそのような形成に感受性の表面を提供する工程、および
分散誘導剤が微生物に選択的に作用し、マトリックスに対する直接の効果を必要とすることなく適当な生物学的応答を有するために有効な条件の下で、分散誘導剤を表面に施し、それにより表面上のバイオフィルムの形成が処理または阻害される工程。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2010−529952(P2010−529952A)
【公表日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508415(P2010−508415)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/006171
【国際公開番号】WO2008/143889
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(509314596)リサーチ ファウンデーション オブ ステイト ユニバーシティ オブ ニューヨーク (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/006171
【国際公開番号】WO2008/143889
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(509314596)リサーチ ファウンデーション オブ ステイト ユニバーシティ オブ ニューヨーク (1)
【Fターム(参考)】
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