パターン形成体の製造方法、および有機薄膜トランジスタ
【課題】 本発明は、簡易な製造工程で高精細なパターン状に導電性パターン等を効率よく形成可能なパターン形成体の製造方法、およびその方法により形成されたパターン形成体を用いた配線基板の製造方法や有機薄膜トランジスタの製造方法等を提供することを主目的としている。
【解決手段】 上記目的を達成するために、本発明は、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板の光触媒含有層と、撥水性を有する樹脂製基材とを対向させて配置し、パターン状にエネルギーを照射することにより、前記樹脂製基材上に水との接触角が低下した濡れ性変化パターンをパターン状に形成するエネルギー照射工程を有することを特徴とするパターン形成体の製造方法を提供する。
【解決手段】 上記目的を達成するために、本発明は、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板の光触媒含有層と、撥水性を有する樹脂製基材とを対向させて配置し、パターン状にエネルギーを照射することにより、前記樹脂製基材上に水との接触角が低下した濡れ性変化パターンをパターン状に形成するエネルギー照射工程を有することを特徴とするパターン形成体の製造方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタの導電性パターンや配線基板の導電性パターンの形成に用いることが可能な、高精細に機能性部を形成可能なパターン形成体の製造方法、および、その方法を用いて形成された有機薄膜トランジスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、有機薄膜トランジスタや、配線基板に用いられる導電性パターンの形成には、一般的にフォトリソグラフィー法やマスク蒸着法等が用いられている。しかしながら、上記フォトリソグラフィー法においては、基板上へ金属層を形成する工程や、金属層上にフォトレジスト層を形成する工程、上記フォトレジスト層を露光する工程、上記フォトレジスト層を現像する工程、上記金属層をエッチングする工程等、種々の工程を経る必要があり、製造方法が煩雑であるという問題があった。また、上記金属層の形成は、通常、CVD、スパッタリング等により行われており、真空系の設備や高温処理可能な設備が必要とされ、設備コスト、ランニングコスト等の負荷が非常に大きい、という問題があった。またさらに、現像時に多量に生じる廃液は有害なものであり、外部に排出するためには処理を行う必要がある等の環境面での問題もあった。
【0003】
また、上記マスク蒸着法においては、電極材料等を蒸着する必要があることから、真空系の設備等が必要であり、設備コスト、ランニングコスト等の負荷が大きく、また生産性が低い、という問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、簡易な製造工程で高精細なパターン状に導電性パターン等を効率よく形成可能なパターン形成体の製造方法、およびその方法により形成されたパターン形成体を用いた配線基板の製造方法や有機薄膜トランジスタの製造方法等の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板の光触媒含有層と、撥水性を有する樹脂製基材とを対向させて配置し、パターン状にエネルギーを照射することにより、上記樹脂製基材上に水との接触角が低下した濡れ性変化パターンをパターン状に形成するエネルギー照射工程を有することを特徴とするパターン形成体の製造方法を提供する。
【0006】
本発明によれば、エネルギー照射に伴う光触媒の作用によって、上記樹脂製基材表面に水との接触角が低下した濡れ性変化パターンを高精細に形成することができる。これにより、本発明により製造されたパターン形成体上に、例えば導電性パターン等の機能性部を形成する機能性部形成用塗工液を塗布した際、上記濡れ性変化パターン上にのみ機能性部形成用塗工液が付着するものとすることができ、容易に高精細な機能性部を形成することが可能となるのである。また本発明によれば、上記濡れ性変化パターンには、上記光触媒の作用により、表面に微細な凹凸が形成されることとなる。したがって、上記凹凸のアンカー効果によって、上記濡れ性変化パターン上に形成された機能性部と樹脂製基材との密着性が良好なものとすることができ、高品質な機能性素子を形成可能なパターン形成体とすることができるのである。
【0007】
また本発明は、上記パターン形成体の製造方法により形成されたパターン形成体の上記濡れ性変化パターン上に、導電性パターンを形成する導電性パターン形成工程を有することを特徴とする配線基板の製造方法を提供する。
【0008】
上記パターン形成体上には、上記濡れ性変化パターンが形成されていることから、上記樹脂製基材上に、導電性パターンを形成するための導電性パターン形成用塗工液を塗布すること等により、上記濡れ性変化パターン上にのみ導電性パターンを高精細に形成することができる。したがって、本発明によれば、複雑な工程や特別な装置等を必要とすることなく、配線基板を製造することができるのである。またさらに、上記濡れ性変化パターン上には、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により微細な凹凸が形成されることから、この凹凸のアンカー効果により、上記導電性パターンの密着性を良好なものとすることができる、という利点も有する。
【0009】
またさらに、本発明は、基板、上記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、上記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、上記第1導電性パターンと上記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、上記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、上記第2導電性パターンが上記ゲート電極または上記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ上記有機半導体層が上記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタの製造方法であって、上記第1導電性パターンまたは上記第2導電性パターンを、上述した配線基板の製造方法を用いて形成することを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンを、上記配線基板の製造方法を用いて形成することから、複雑な工程や特別な装置を用いることなく、高精細なパターン状に第1導電性パターンや第2導電性パターンを形成することが可能となる。したがって、製造効率やコスト等の面から優れた有機薄膜トランジスタの製造方法とすることができるのである。またさらに、上記濡れ性変化パターンには、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により微細な凹凸が形成されることから、この凹凸のアンカー効果により、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンの密着性が良好なものとすることができる、という利点も有する。
【0011】
また、本発明は、基板、上記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、上記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、上記第1導電性パターンと上記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、上記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、上記第2導電性パターンが上記ゲート電極または上記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ上記有機半導体層が上記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタの製造方法であって、上記有機半導体層を、上記パターン形成体の製造方法により製造されるパターン形成体の上記濡れ性変化パターンを利用して形成することを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、有機半導体層を上述したパターン形成体の製造方法によって形成される濡れ性変化パターンを利用して形成することから、特別な装置や複雑な工程等を必要とすることなく、高精細に有機半導体層を形成することができる。したがって、製造効率やコスト等の面からも好ましい有機薄膜トランジスタの製造方法とすることができる。またさらに、上記濡れ性変化パターンには、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により微細な凹凸が形成されることから、この凹凸のアンカー効果により、上記有機半導体層の密着性が良好なものとすることができる、という利点も有する。
【0013】
また本発明は、基板、上記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、上記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、上記第1導電性パターンと上記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、上記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、上記第2導電性パターンが上記ゲート電極または上記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ上記有機半導体層が上記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタであって、上記第1導電性パターンまたは上記第2導電性パターンのそれぞれの中央部における膜厚が、それぞれ上記第1導電性パターンまたは上記第2導電性パターンの最大膜厚の50%〜100%の範囲内であることを特徴とする有機薄膜トランジスタを提供する。
【0014】
本発明によれば、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンの中央部が凹んだ形状、もしくは平らに形成されているものとすることができる。これにより、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターン上に形成される層の膜厚を、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンの中央部近傍で均一なものとしやすくなる。また上記第1導電性パターンの膜厚が上記範囲内とされている場合には、上記第1導電性パターン状に形成される層の膜厚を均一なものとしやすくなり、ゲート電極およびソース・ドレイン電極の性能を十分に発揮させることが可能となるという利点も有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エネルギー照射に伴う光触媒の作用によって、上記樹脂製基材表面の水との接触角が低下した濡れ性変化パターンを高精細に形成することができ、本発明により製造されたパターン形成体上に、容易に高精細な機能性部を形成することが可能となる。また上記濡れ性変化パターンには、上記光触媒の作用により、表面に微細な凹凸が形成されることとなることから、上記凹凸のアンカー効果によって、上記濡れ性変化パターン上に形成された機能性部と樹脂製基材との密着性が良好なものとすることができるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のパターン形成体の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明に用いられる光触媒含有層側基板の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明に用いられる光触媒含有層側基板の他の例を示す概略断面図である。
【図4】本発明に用いられる光触媒含有層側基板の他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の配線基板の製造方法の一例を示す工程図である。
【図6】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法により製造される有機薄膜トランジスタの一例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法により製造される有機薄膜トランジスタの他の例を示す概略断面図である。
【図8】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法により製造される有機薄膜トランジスタの他の例を示す概略断面図である。
【図9】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法により製造される有機薄膜トランジスタの他の例を示す概略断面図である。
【図10】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法により製造される有機薄膜トランジスタの他の例を示す概略断面図である。
【図11】本発明の有機薄膜トランジスタの導電性パターンの形状を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、高精細に機能性部を形成可能なパターン形成体の製造方法、その製造方法により製造されたパターン形成体を用いた配線基板の製造方法、その製造方法により製造された配線基板を用いた有機薄膜トランジスタの製造方法等に関するものである。以下、それぞれについてわけて説明する。
【0018】
A.パターン形成体の製造方法
まず、本発明のパターン形成体の製造方法について説明する。本発明のパターン形成体の製造方法は、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板の光触媒含有層と、撥水性を有する樹脂製基材とを対向させて配置し、パターン状にエネルギーを照射することにより、上記樹脂製基材上に水との接触角が低下した濡れ性変化パターンをパターン状に形成するエネルギー照射工程を有することを特徴とするものである。
【0019】
本発明のパターン形成体の製造方法は、例えば図1に示すように、まず、基体11とその基体11上に形成された光触媒含有層12とを有する光触媒含有層側基板13を準備する(図1(a))。続いてこの光触媒含有層側基板13の光触媒含有層12と、樹脂製基材1とを対向させて配置し、例えばフォトマスク14等を用いてパターン状にエネルギー2を照射することにより(図1(b))、上記樹脂製基材1上に水との接触角が低下した濡れ性変化パターン3をパターン状に形成する(図1(c))エネルギー照射工程を有することを特徴とするものである。
【0020】
本発明においては、上記エネルギー照射工程において、上記光触媒含有層側基板と樹脂製基材とを対向させて配置した後、パターン状にエネルギーを照射することによって、光触媒含有層中に含有されている光触媒の作用により、上記樹脂製基材表面の水との接触角をパターン状に低下させることができる。このような光触媒の作用機構は、必ずしも明確なものではないが、エネルギーの照射によって生成したキャリアが、近傍の化合物との直接反応、あるいは、酸素、水の存在下で生じた活性酸素種によって、上記樹脂製基材にOH基が導入され、上記樹脂製基材の水との接触角が低下するものであると考えられている。
【0021】
本発明により製造されたパターン形成体には、上記樹脂製基材の水との接触角が低下した濡れ性変化パターンが形成されていることから、パターン形成体上に、例えば導電性パターン等の機能性部を形成する機能性部形成用塗工液を塗布等した際、濡れ性変化パターンにのみ上記機能性部形成用塗工液を付着させることができる。したがって、本発明によれば、複雑な工程や、特別な装置等を必要とすることなく、高精細なパターン状に機能性部を形成することが可能なパターン形成体を製造することができるのである。
【0022】
また本発明においては、上記エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、上記樹脂製基材表面にOH基が導入されるだけでなく、上記樹脂製基材表面に微細な凹凸が形成されることとなる。これにより、本発明によれば、上記樹脂製基材表面の凹凸によるアンカー効果によって、上記濡れ性変化パターン上に形成される機能性部と、上記樹脂製基材との密着性が良好なものとすることができる、という利点も有する。
以下、本発明のパターン形成体の製造方法のエネルギー照射工程について詳しく説明する。
【0023】
(エネルギー照射工程)
本発明におけるエネルギー照射工程は、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板の光触媒含有層と、撥水性を有する樹脂製基材とを対向させて配置し、パターン状にエネルギーを照射することにより、上記樹脂製基材上に水との接触角が低下した濡れ性変化パターンをパターン状に形成する工程である。以下、本工程に用いられる樹脂製基材、光触媒含有層側基板、およびエネルギーの照射方法についてそれぞれ説明する。
【0024】
a.樹脂製基材
本工程において用いられる撥水性を有する樹脂製基材としては、上記エネルギー照射に伴う光触媒含有層の作用により水との接触角が低下するものであって、撥水性を有する樹脂製の基材であれば、一般的なパターン形成体に基材として用いられるものを用いることが可能である。
【0025】
上記樹脂製基材の撥水性としては、水との接触角が60°以上、中でも70°〜180°の範囲内、特に90°〜180°の範囲内であることが好ましい。上記樹脂製基材の撥水性が低い場合には、機能性部を形成する機能性部形成用塗工液が、エネルギー照射されていない領域にも付着してしまい、上記濡れ性変化パターン上に高精細に機能性部を形成することが困難となるからである。ここでいう水との接触角は、水、またはそれと同等の表面張力を有する液体との接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴を滴下して30秒後)し、その結果から、もしくはその結果をグラフにして得たものである。
【0026】
このような撥水性を有する樹脂製基材として具体的には、ポリエチレンナフタレート(PEN)や、ポリイミド、ポリエチレンテレナフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、フッ化ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィン、アラミカ(登録商標)、トレリナ(登録商標)、環状ポリオレフィン等が挙げられる。
【0027】
また上記樹脂製基材の形状や膜厚等については、特に限定されるものではなく、例えば平板状であってもよく、またロール状であってもよい。また、例えば機能性部を形成する形状に合わせて表面に凹凸が形成されたもの等であってもよい。またさらに、上記樹脂製基材の透明性や可撓性や耐熱性、絶縁性等についても特に限定されるものではなく、パターン形成体の用途に合わせて適宜選択される。
【0028】
ここで、本発明により製造されたパターン形成体が、後述するような配線基板や、有機薄膜トランジスタ等に用いられる場合には、上記濡れ性変化パターン上に導電性パターンが形成されることから、樹脂製基材として、絶縁性を有するものが用いられることが好ましく、さらに導電性パターンの形成の際にかけられる熱に対する耐性を有するものが用いられることが好ましい。
【0029】
b.光触媒含有層基板
次に、本工程に用いられる光触媒含有層基板について説明する。本工程に用いられる光触媒含有層基板は、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有するものであり、通常、基体と、その基体上に光触媒含有層が形成されているものである。以下、本工程に用いられる光触媒含有層基板の各構成について説明する。
【0030】
(1)光触媒含有層
まず、光触媒含有層基板に用いられる光触媒含有層について説明する。本工程に用いられる光触媒含有層は、光触媒含有層中の光触媒が、近接する樹脂製基材の水との接触角を低下させることができ、樹脂製基材の表面に微細な凹凸を形成可能なものであれば、特に限定されるものではなく、光触媒とバインダとから構成されているものであってもよく、光触媒単体で製膜されたものであってもよい。また、その表面の特性は特に親液性であっても撥液性であってもよい。
【0031】
本発明で使用される光触媒としては、半導体として知られる例えば二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化ビスマス(Bi2O3)、および酸化鉄(Fe2O3)を挙げることができる。また半導体以外としては、金属錯体や銀なども用いることができる。本発明においては、これらから選択して1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
本発明においては、特に二酸化チタンが、バンドギャップエネルギーが高く、化学的に安定で毒性もなく、入手も容易であることから好適に使用される。二酸化チタンには、アナターゼ型とルチル型があり本発明ではいずれも使用することができるが、アナターゼ型の二酸化チタンが好ましい。アナターゼ型二酸化チタンは励起波長が380nm以下にある。
【0033】
このようなアナターゼ型二酸化チタンとしては、例えば、塩酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(石原産業(株)製STS−02(平均粒径7nm)、石原産業(株)製ST−K01)、硝酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(日産化学(株)製TA−15(平均粒径12nm))等を挙げることができる。
【0034】
また、上記酸化チタンとして可視光応答型のものを用いてもよい。可視光応答型の酸化チタンとは、可視光のエネルギーによっても励起されるものであり、このような可視光応答化の方法としては、酸化チタンを窒化処理する方法等が挙げられる。
【0035】
酸化チタン(TiO2)は、窒化処理をすることにより、酸化チタン(TiO2)のバンドギャップの内側に新しいエネルギー準位が形成され、バンドギャップが狭くなる。その結果、通常酸化チタン(TiO2)の励起波長は380nmであるが、その励起波長より長波長の可視光によっても、励起されることが可能となるのである。これにより、種々の光源によるエネルギー照射の可視光領域の波長も酸化チタン(TiO2)の励起に寄与させることが可能となることから、さらに酸化チタンを高感度化させることが可能となるのである。
【0036】
ここで、本発明でいう酸化チタンの窒化処理とは、酸化チタン(TiO2)の結晶の酸素サイトの一部を窒素原子での置換する処理や、酸化チタン(TiO2)結晶の格子間に窒素原子をドーピングする処理、または酸化チタン(TiO2)結晶の多結晶集合体の粒界に窒素原子を配する処理等をいう。
【0037】
酸化チタン(TiO2)の窒化処理方法は、特に限定されるものではなく、例えば、結晶性酸化チタンの微粒子をアンモニア雰囲気下で700℃の熱処理により、窒素をドーピングし、この窒素のドーピングされた微粒子と、無機バインダや溶媒等を用いて、分散液とする方法等が挙げられる。
【0038】
光触媒の粒径は小さいほど光触媒反応が効果的に起こるので好ましく、平均粒径が50nm以下であることが好ましく、20nm以下の光触媒を使用するのが特に好ましい。
【0039】
本発明における光触媒含有層は、上述したように光触媒単独で形成されたものであってもよく、またバインダと混合して形成されたものであってもよい。
【0040】
光触媒のみからなる光触媒含有層の形成方法としては、例えば、スパッタリング法、CVD法、真空蒸着法等の真空製膜法を用いる方法を挙げることができる。真空製膜法により光触媒含有層を形成することにより、均一な膜でかつ光触媒のみを含有する光触媒含有層とすることが可能である。またこの場合、光触媒のみからなることから、バインダを用いる場合と比較して効率的に樹脂製基材表面の濡れ性を変化させることができる。
【0041】
また、光触媒のみからなる光触媒含有層の形成方法の他の例としては、例えば光触媒が二酸化チタンの場合は、基体上に無定形チタニアを形成し、次いで焼成により結晶性チタニアに相変化させる方法等が挙げられる。ここで用いられる無定形チタニアとしては、例えば四塩化チタン、硫酸チタン等のチタンの無機塩の加水分解、脱水縮合、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラメトキシチタン等の有機チタン化合物を酸存在下において加水分解、脱水縮合によって得ることができる。次いで、400℃〜500℃における焼成によってアナターゼ型チタニアに変性し、600℃〜700℃の焼成によってルチル型チタニアに変性することができる。
【0042】
また、バインダを用いる場合は、バインダの主骨格が上記の光触媒の光励起により分解されないような高い結合エネルギーを有するものが好ましく、例えばオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。
【0043】
このようにオルガノポリシロキサンをバインダとして用いた場合は、上記光触媒含有層は、光触媒とバインダであるオルガノポリシロキサンとを必要に応じて他の添加剤とともに溶剤中に分散して塗布液を調製し、この塗布液を基体上に塗布することにより形成することができる。使用する溶剤としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系の有機溶剤が好ましい。塗布はスピンコート、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、ビードコート等の公知の塗布方法により行うことができる。バインダとして紫外線硬化型の成分を含有している場合、紫外線を照射して硬化処理を行うことにより光触媒含有層を形成することができる。
【0044】
また、バインダとして無定形シリカ前駆体を用いることができる。この無定形シリカ前駆体は、一般式SiX4で表され、Xはハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、またはアセチル基等であるケイ素化合物、それらの加水分解物であるシラノール、または平均分子量3000以下のポリシロキサンが好ましい。
【0045】
具体的には、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラメトキシシラン等が挙げられる。また、この場合には、無定形シリカの前駆体と光触媒の粒子とを非水性溶媒中に均一に分散させ、基体上に空気中の水分により加水分解させてシラノールを形成させた後、常温で脱水縮重合することにより光触媒含有層を形成できる。シラノールの脱水縮重合を100℃以上で行えば、シラノールの重合度が増し、膜表面の強度を向上できる。また、これらの結着剤は、単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0046】
バインダを用いた場合の光触媒含有層中の光触媒の含有量は、5〜60重量%、好ましくは20〜40重量%の範囲で設定することができる。また、光触媒含有層の厚みは、0.05〜10μmの範囲内が好ましい。
【0047】
また、光触媒含有層には上記の光触媒、バインダの他に、界面活性剤を含有させることができる。具体的には、日光ケミカルズ(株)製NIKKOL BL、BC、BO、BBの各シリーズ等の炭化水素系、デュポン社製ZONYL FSN、FSO、旭硝子(株)製サーフロンS−141、145、大日本インキ化学工業(株)製メガファックF−141、144、ネオス(株)製フタージェントF−200、F251、ダイキン工業(株)製ユニダインDS−401、402、スリーエム(株)製フロラードFC−170、176等のフッ素系あるいはシリコーン系の非イオン界面活性剤を挙げることができ、また、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることもできる。
【0048】
さらに、光触媒含有層には上記の界面活性剤の他にも、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ジアリルフタレート、エチレンプロピレンジエンモノマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリブタジエン、ポリベンズイミダゾール、ポリアクリルニトリル、エピクロルヒドリン、ポリサルファイド、ポリイソプレン等のオリゴマー、ポリマー等を含有させることができる。
【0049】
ここで本発明においては、光触媒含有層が例えば図1(a)に示すように、基体11の全面に形成されていてもよいが、例えば図2に示すように、基体11上にパターン状に光触媒含有層12が形成されていてもよい。この場合、エネルギーが光触媒含有層側基板全面に照射された場合であっても、目的とする領域のみ、樹脂製基材の水との接触角を低下させることができる。したがって、フォトマスク等を用いる必要がない、という利点を有する。このような光触媒含有層のパターニング方法は、特に限定されるものではないが、例えばフォトリソグラフィー法等により行うことが可能である。
【0050】
(2)基体
次に、光触媒含有層基板に用いられる基体について説明する。本発明においては、図1に示すように、光触媒含有層基板は、少なくとも基体11とこの基体11上に形成された光触媒含有層12とを有するものである。
【0051】
本発明に用いられる基体は、上記光触媒含有層を形成可能なものであれば、特に限定されるものではなく、例えば可撓性を有する樹脂製フィルム等であってもよいし、可撓性を有さないもの、例えばガラス基板等であってもよい。
【0052】
なお、基体表面と上記光触媒含有層との密着性を向上させるため、また光触媒の作用による基体の劣化を防ぐために基体上に中間層を形成するようにしてもよい。このような中間層としては、シラン系、チタン系のカップリング剤や、反応性スパッタ法やCVD法等により作製したシリカ膜等が挙げられる。
【0053】
(3)光触媒含有層側遮光部
本発明に用いられる光触媒含有層側基板には、パターン状に形成された光触媒含有層側遮光部が形成されたものを用いても良い。このように光触媒含有層側遮光部を有する光触媒含有層側基板を用いることにより、エネルギー照射に際して、フォトマスクを用いたり、レーザ光による描画照射を行う必要がない。したがって、光触媒含有層側基板とフォトマスクとの位置合わせが不要であることから、簡便な工程とすることが可能であり、また描画照射に必要な高価な装置も不必要であることから、コスト的に有利となるという利点を有する。
【0054】
このような光触媒含有層側遮光部を有する光触媒含有層側基板は、光触媒含有層側遮光部の形成位置により、下記の二つの態様とすることができる。
【0055】
一つが、例えば図3に示すように、基体11上に光触媒含有層側遮光部15を形成し、この光触媒含有層側遮光部15上に光触媒含有層12を形成して、光触媒含有層側基板とする態様である。もう一つは、例えば図4に示すように、基体11上に光触媒含有層12を形成し、その上に光触媒含有層側遮光部15を形成して光触媒含有層側基板とする態様である。
【0056】
いずれの態様においても、フォトマスクを用いる場合と比較すると、光触媒含有層側遮光部が、上記光触媒含有層と樹脂製基材との配置部分の近傍に配置されることになるので、基体内等におけるエネルギーの散乱の影響を少なくすることができることから、エネルギーのパターン照射を極めて正確に行うことが可能となる。
【0057】
ここで、本発明においては、図4に示すような光触媒含有層12上に光触媒含有層側遮光部15を形成する態様である場合には、後述するように光触媒含有層側基板および樹脂製基材を所定の位置に配置する際の間隙の幅と、光触媒含有層側遮光部の膜厚とを一致させておくことができる。これにより、上記光触媒含有層側遮光部を上記間隙を一定のものとするためのスペーサとしても用いることができるという利点を有する。
【0058】
すなわち、所定の間隙をおいて上記光触媒含有層と樹脂製基材とを対向させた状態で配置する際に、上記光触媒含有層側遮光部と樹脂製基材とを密着させた状態で配置することにより、上記所定の間隙を正確とすることが可能となり、そしてこの状態でエネルギーを照射することにより、樹脂製基材と遮光部とが接触している部分の樹脂製基材は、濡れ性が変化せず、濡れ性変化パターンを精度良く形成することが可能となるのである。また、この際、エネルギーの照射方向は上記基体側からに限定されず、例えば樹脂製基材の側面からであってもよい。
【0059】
このような光触媒含有層側遮光部の形成方法は、特に限定されるものではなく、光触媒含有層側遮光部の形成面の特性や、必要とするエネルギーに対する遮蔽性等に応じて適宜選択されて用いられる。
【0060】
例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等により厚み1000〜2000Å程度のクロム等の金属薄膜を形成し、この薄膜をパターニングすることにより形成されてもよい。このパターニングの方法としては、スパッタ等の通常のパターニング方法を用いることができる。
【0061】
また、樹脂バインダ中にカーボン微粒子、金属酸化物、無機顔料、有機顔料等の遮光性粒子を含有させた層をパターン状に形成する方法であってもよい。用いられる樹脂バインダとしては、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ゼラチン、カゼイン、セルロース等の樹脂を1種または2種以上混合したものや、感光性樹脂、さらにはO/Wエマルジョン型の樹脂組成物、例えば、反応性シリコーンをエマルジョン化したもの等を用いることができる。このような樹脂製の光触媒含有層側遮光部の厚みとしては、0.5〜10μmの範囲内で設定することができる。このよう光触媒含有層側遮光部のパターニングの方法は、フォトリソ法、印刷法等一般的に用いられている方法を用いることができる。
【0062】
なお、上記説明においては、光触媒含有層側遮光部の形成位置として、基体と光触媒含有層との間、および光触媒含有層表面の二つの場合について説明したが、その他、基体の光触媒含有層が形成されていない側の表面に光触媒含有層側遮光部を形成する態様も採ることが可能である。この態様においては、例えばフォトマスクをこの表面に着脱可能な程度に密着させる場合等が考えられ、濡れ性変化パターンを小ロットで変更するような場合に好適に用いることができる。
【0063】
(4)プライマー層
次に、本発明の光触媒含有層側基板に用いられるプライマー層について説明する。本発明において、上述したように基体上に光触媒含有層側遮光部をパターン状に形成して、その上に光触媒含有層を形成して光触媒含有層側基板とする場合においては、上記光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層との間にプライマー層を形成してもよい。
【0064】
このプライマー層の作用・機能は必ずしも明確なものではないが、光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層との間にプライマー層を形成することにより、プライマー層は光触媒の作用による樹脂製基材の濡れ性変化を阻害する要因となる光触媒含有層側遮光部および光触媒含有層側遮光部間に存在する開口部からの不純物、特に、光触媒含有層側遮光部をパターニングする際に生じる残渣や、金属、金属イオン等の不純物の拡散を防止する機能を示すものと考えられる。したがって、プライマー層を形成することにより、高感度で濡れ性変化の処理が進行し、その結果、高解像度の濡れ性変化パターンを得ることが可能となるのである。
【0065】
なお、本発明においてプライマー層は、光触媒含有層側遮光部のみならず光触媒含有層側遮光部間に形成された開口部に存在する不純物が光触媒の作用に影響することを防止するものであるので、プライマー層は開口部を含めた光触媒含有層側遮光部全面にわたって形成されていることが好ましい。
【0066】
本発明におけるプライマー層は、光触媒含有層側基板の光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層とが接触しないようにプライマー層が形成された構造であれば特に限定されるものではない。
【0067】
このプライマー層を構成する材料としては、特に限定されるものではないが、光触媒の作用により分解されにくい無機材料が好ましい。具体的には無定形シリカを挙げることができる。このような無定形シリカを用いる場合には、この無定形シリカの前駆体は、一般式SiX4で示され、Xはハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、またはアセチル基等であるケイ素化合物であり、それらの加水分解物であるシラノール、または平均分子量3000以下のポリシロキサンが好ましい。
【0068】
また、プライマー層の膜厚は、0.001μmから1μmの範囲内であることが好ましく、特に0.001μmから0.1μmの範囲内であることが好ましい。
【0069】
c.エネルギーの照射方法
次に、本工程におけるエネルギーの照射方法について説明する。本工程においては、上記樹脂製基材と、上記光触媒含有層基板の光触媒含有層とを、所定の間隙をおいて配置し、パターン状にエネルギーを照射する。
【0070】
ここで、上記の配置とは、実質的に光触媒の作用が樹脂製基材に及ぶような状態で配置された状態をいうこととし、上記光触媒含有層と上記樹脂製基材とが密着している状態の他、所定の間隔を隔てて上記光触媒含有層と樹脂製基材とが配置された状態とする。この間隙は、200μm以下であることが好ましい。
【0071】
本発明において上記間隙は、光触媒の感度も高く、濡れ性変化の効率が良好である点を考慮すると特に0.2μm〜10μmの範囲内、好ましくは1μm〜5μmの範囲内とすることが好ましい。このような間隙の範囲は、特に間隙を高い精度で制御することが可能である小面積の樹脂製基材に対して特に有効である。
【0072】
一方、例えば300mm×300mm以上といった大面積の樹脂製基材に対して処理を行う場合は、上述したような微細な間隙を光触媒含有層基板と上記樹脂製基材との間に形成することは極めて困難である。したがって、樹脂製基材が比較的大面積である場合は、上記間隙は、10〜100μmの範囲内、特に50〜75μmの範囲内とすることが好ましい。間隙をこのような範囲内とすることにより、パターンの精度の低下の問題や、光触媒の感度が悪化して濡れ性変化の効率が悪化する等の問題が生じることなく、さらに濡れ性の変化にムラが発生しないといった効果を有するからである。
【0073】
このように比較的大面積の樹脂製基材にエネルギー照射する際には、エネルギー照射装置内の光触媒含有層基板と樹脂製基材との位置決め装置における間隙の設定を、10μm〜200μmの範囲内、特に25μm〜75μmの範囲内に設定することが好ましい。設定値をこのような範囲内とすることにより、光触媒の感度の大幅な悪化を招くことなく配置することが可能となるからである。
【0074】
このように光触媒含有層と樹脂製基材表面とを所定の間隔で離して配置することにより、酸素と水および光触媒作用により生じた活性酸素種が脱着しやすくなる。すなわち、上記範囲より光触媒含有層と樹脂製基材との間隔を狭くした場合は、上記活性酸素種の脱着がしにくくなり、結果的に濡れ性を変化させる速度を遅くしてしまう可能性があることから好ましくない。また、上記範囲より間隔を離して配置した場合は、生じた活性酸素種が樹脂製基材に届き難くなり、この場合も濡れ性を変化させる速度を遅くしてしまう可能性があることから好ましくない。
【0075】
このような極めて狭い間隙を均一に形成して光触媒含有層と樹脂製基材とを配置する方法としては、例えばスペーサを用いる方法を挙げることができる。そして、このようにスペーサを用いることにより、均一な間隙を形成することができるからである。また、このようなスペーサを用いることにより、光触媒の作用により生じた活性酸素種が拡散することなく、高濃度で樹脂製基材表面に到達することから、効率よく樹脂製基材表面に濡れ性変化パターンを形成することができる。
【0076】
なお、上記光触媒含有層が可撓性を有する樹脂フィルム等の可撓性を有する基体上に形成された光触媒含有層基板を用いる場合においては、上述したような間隙を設けることが難しく、製造効率等の面から、上記光触媒含有層と樹脂製基材とが接触するように配置されていることが好ましい。
【0077】
本発明においては、このような光触媒含有層基板の配置状態は、少なくともエネルギー照射の間だけ維持されればよい。
【0078】
なお、本発明でいうエネルギー照射(露光)とは、光触媒含有層による樹脂製基材の濡れ性を変化させることが可能ないかなるエネルギー線の照射をも含む概念であり、可視光の照射に限定されるものではない。
【0079】
通常このようなエネルギー照射に用いる光の波長は、400nm以下の範囲、好ましくは380nm以下の範囲から設定される。これは、上述したように光触媒含有層に用いられる好ましい光触媒が二酸化チタンであり、この二酸化チタンにより光触媒作用を活性化させるエネルギーとして、上述した波長の光が好ましいからである。
【0080】
このようなエネルギー照射に用いることができる光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ、その他種々の光源を挙げることができる。このようなエネルギーをパターン状に照射する方法としては、例えばフォトマスクを用いる方法や、上述したように光触媒含有層側基板に光触媒含有層側遮光部を形成する方法等が挙げられる。
【0081】
また、上述したような光源を用いてエネルギーを照射する方法の他、エキシマ、YAG等のレーザを用いてパターン状に描画照射する方法を用いることも可能である。
【0082】
ここで、エネルギー照射に際してのエネルギーの照射量は、樹脂製基材が光触媒含有層中の光触媒の作用により濡れ性が変化するのに必要な照射量とする。またこの際、光触媒含有層を加熱しながらエネルギー照射することにより、感度を上昇させることが可能となり、効率的に濡れ性を変化させることができる点で好ましい。具体的には30℃〜80℃の範囲内で加熱することが好ましい。
【0083】
ここで、本工程においては、上記樹脂製基材表面の水との接触角が30°以下、中でも15°以下となるようにエネルギーを照射することが好ましい。上記樹脂製基材表面の濡れ性の変化が小さい場合には、機能性部を形成するための機能性部形成用塗工液を塗布した際、濡れ性変化パターン上に付着させることが困難となり、機能性部に欠け等が生じる場合があるからである。また、この際、上記樹脂製基材表面の表面粗さが0.5nm〜100nm程度、中でも0.5nm〜50nm程度となるようにエネルギー照射が行われることが好ましい。これにより、樹脂製基材表面の凹凸のアンカー効果によって、濡れ性変化パターン上に形成される機能性部と樹脂製基材との密着性が良好なものとすることができるからである。上記表面粗さは、触針式表面形状測定器(Dektak 6M(Veeco Instruments Inc.製))により測定される値である。なお、本工程により形成される濡れ性変化パターンの形状は、パターン形成体の用途等に合わせて適宜選択されることとなる。
【0084】
(その他)
また、本発明においては、上述したエネルギー照射工程だけでなく、必要に応じて例えば樹脂製基材の形状を調整する工程や、樹脂製基材上に遮光部等を形成する工程等を有していてもよい。
【0085】
なお、本発明により製造されたパターン形成体は、例えば上記濡れ性変化パターンの濡れ性の差を利用して着色層を形成するカラーフィルタの製造や、上記濡れ性変化パターンの濡れ性の差を利用してレンズを形成するマイクロレンズの製造、上記濡れ性変化パターンの濡れ性の差を利用して導電性パターンを形成する配線基板の製造等、種々の機能性部を有する機能性素子の製造に用いられるものとすることができる
【0086】
B.配線基板の製造方法
次に、本発明の配線基板の製造方法について説明する。本発明の配線基板の製造方法は、上述したパターン形成体の製造方法により形成されたパターン形成体の濡れ性変化パターン上に、導電性パターンを形成する導電性パターン形成工程を有することを特徴とするものである。
【0087】
本発明の配線基板の製造方法においては、例えば図5に示すように、上述したパターン形成体の製造方法により製造されたパターン形成体の樹脂製基材1上に、導電性パターンを形成するための導電性パターン形成用塗工液16を塗布すること等により(図5(a))、上記パターン形成体の濡れ性変化パターン3の濡れ性の差を利用して、上記濡れ性変化パターン3上にのみ、導電性パターン4を形成する(図5(b))導電性パターン形成工程を有するものである。
【0088】
本発明においては、上述したパターン形成体上に、濡れ性の低下した濡れ性変化パターンが形成されていることから、例えば上記樹脂製基材上に導電性パターンを形成する導電性パターン形成用塗工液を塗布した際、上記濡れ性変化パターン上にのみ導電性パターン形成用塗工液が付着するものとすることができる。したがって、複雑な工程や特別な装置等を必要とすることなく、高精細なパターン状に導電性パターンを形成することができ、製造効率やコストの面からも好ましい配線基板の製造方法とすることができるのである。またこの際、上記パターン形成体の濡れ性変化パターン上には、微細な凹凸が形成されていることから、この凹凸によるアンカー効果によって、上記導電性パターンと樹脂製基材との密着性が良好なものとすることができるという利点も有する。
以下、本発明の配線基板の製造方法における導電性パターン形成工程について説明する。
【0089】
(導電性パターン形成工程)
導電性パターン形成工程における導電性パターンの形成方法は、上記濡れ性変化パターンの濡れ性の差を利用して、上記濡れ性変化パターン上に導電性パターンを形成可能な方法であれば、特に限定されるものではなく、樹脂製基材の形状や導電性パターン形成用塗工液の種類等により適宜選択される。このような導電性パターンの形成方法としては、例えばブレードコート法やダイコート法、スリットコート法、スピンコート法、ビードコート法、キャピラリーコート法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、マイクロコンタクトプリント法、ディップコート法等、上記樹脂製基材全面に導電性パターン形成用塗工液を塗布する方法であってもよく、また例えばインクジェット法や、電解ジェット法、ディスペンサーを用いた塗布法等により、上記濡れ性変化パターン上にのみ、導電性パターン形成用塗工液を塗布する方法等であってもよい。
【0090】
本発明においては、上記の中でもブレードコート法やダイコート法、キャピラリーコート法、スリットコート法、ビードコート法等、樹脂製基材全面に上記導電性パターン形成体用塗工液を塗布することが可能であり、かつ塗布方向に一定の圧力がかけられる方法であることが好ましい。このような方法を用いることにより、上記濡れ性変化パターン上に、より高精細に、効率よく導電性パターンを形成することができるからである。
【0091】
ここで、本発明でいう導電性パターンとは、例えば電極や金属配線等、種々の導電性を有するパターンをいうこととし、その種類や形状等は、配線基板の用途に応じて適宜選択される。なお、本工程において形成される導電性パターンは、一種類の導電性パターンである必要はなく、複数種類の導電性パターンが上記濡れ性変化パターン上に形成されてもよい。
【0092】
また、本工程により形成される導電性パターンの膜厚としては、上記導電性パターンの用途等に応じて適宜選択されるものであるが、通常5nm〜10μm程度、中でも100nm〜3μm程度とされる。
【0093】
またさらに、上記導電性パターンを形成する材料については、上記導電性パターンの種類等に応じて適宜選択することができ、通常、金、銀、白金、ニッケル、クロム、モリブデン、タンタル、タングステン等の貴金属やこれらの合金、銅、アルミニウム、カーボン等の導電率が高い材料を含有する金属コロイドゾルゲル溶液等を用いることができる。また、例えばPEDOTやポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性ポリマーを含有する溶液等を用いることもできる。
【0094】
(その他)
本発明においては、上述した導電性パターン形成工程以外に、例えば保護層を形成する工程等、適宜他の工程を有していてもよい。また、本発明の配線基板の製造方法においては、上述した「A.パターン形成体の製造方法」におけるエネルギー照射工程と、上記配線工程とを繰り返し行い、複数種類の導電性パターンを形成するものであってもよい。
【0095】
C.有機薄膜トランジスタの製造方法
次に、本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法について説明する。本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法は、2つの実施態様がある。以下、それぞれの態様にわけて説明する。
【0096】
1.第1実施態様
まず、本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法の第1実施態様について説明する。本発明の第1実施態様におけるトランジスタの製造方法は、基板、上記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、上記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、上記第1導電性パターンと上記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、上記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、上記第2導電性パターンが上記ゲート電極または上記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ上記有機半導体層が上記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタの製造方法であって、上記第1導電性パターンまたは上記第2導電性パターンを、上述した配線基板の製造方法を用いて形成することを特徴とする方法である。
【0097】
本実施態様の有機薄膜トランジスタの製造方法は、例えば図6に示すように、樹脂製の基板21と、その基板21上に形成された第1導電性パターン24と、上記第1導電性パターン24を覆うように形成された絶縁層25と、上記第1導電性パターン24と絶縁層25を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン28と、有機半導体層27とを有する有機薄膜トランジスタを製造する方法である。ここで、上記第1導電性パターン24は、ゲート電極、または一対のソース電極およびドレイン電極のいずれか一方であり、上記第2導電性パターン28はもう一方とされる。例えば図6に示すように、第1導電性パターン24をゲート電極とし、第2導電性パターン28をソース電極またはドレイン電極としてもよく、また例えば図7に示すように、第1導電性パターン24をソース電極またはドレイン電極とし、第2導電性パターン28をゲート電極としてもよい。また、上記第2導電性パターン28は、例えば図6および図7に示されるように、後述する絶縁層25上に形成されるものであってもよく、また例えば図8に示すように、基板21上に形成されるものであってもよい。なお、上記有機半導体層は、上記ソース電極およびドレイン電極と接するように形成され、例えば図9に示すように、ソース電極およびドレイン電極である第2導電性パターン28が有機半導体層27上に形成されていてもよく、また例えば図10に示すように、ソース電極およびドレイン電極である第1導電性パターン24が有機半導体層27上に形成されていてもよい。
【0098】
ここで、本実施態様の有機薄膜トランジスタの製造方法においては、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンのいずれか一方、もしくは両方を上述した配線基板の製造方法を用いて形成する。すなわち、本実施態様の有機薄膜トランジスタの製造方法においては、第1導電性パターンまたは第2導電性パターンを形成する際、上記基板または絶縁層を、上述した「B.配線基板の製造方法」の項における樹脂製基材として用い、例えば図1に示すように、この基板または絶縁層1と、上述した光触媒含有層側基板13の光触媒含有層12とを対向させて配置し、エネルギー2を照射することにより(図1(b))、上記基板または絶縁層1上に水との接触角が低下した濡れ性変化パターン3を形成する(図1(c))エネルギー照射工程を行う。その後、例えば図5(b)に示すように、上記濡れ性変化パターン3の濡れ性を利用して、濡れ性変化パターン3上に上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターン4を形成する導電性パターン形成工程を行うのである。
【0099】
本実施態様によれば、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンを、上記配線基板の製造方法を用いて形成することから、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンを、複雑な工程や特別な装置等を必要とすることなく、高精細なパターン状に形成することができる。したがって、製造効率やコスト等の面から好ましい有機薄膜トランジスタの製造方法とすることができるのである。
【0100】
また、上記濡れ性変化パターンには、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、表面に凹凸が形成されることとなることから、本実施態様によれば、この凹凸のアンカー効果によって、上記濡れ性変化パターン上に形成された第1導電性パターンまたは第2導電性パターンと基板等との密着性が良好なものとすることができる、という利点も有する。
【0101】
ここで、本実施態様においては、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンのうち、いずれか一方を、上記方法により形成すればよく、例えば上記第1導電性パターンのみを上記エネルギー照射工程および導電性パターン形成工程を用いて形成し、第2導電性パターンを一般的な導電性パターンの形成方法により形成してもよく、また上記第1導電性パターンを一般的な導電性パターンの形成方法により形成し、上記第2導電性パターンのみを上記エネルギー照射工程および導電性パターン形成工程を用いて形成してもよい。本実施態様においては、特に第1導電性パターンおよび第2導電性パターンを上記エネルギー照射工程および導電性パターン形成工程を用いて形成することが好ましい。これにより、製造効率やコスト等の面からより好ましい有機薄膜トランジスタの製造方法とすることができるからである。
【0102】
ここで、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンの形成に用いられるエネルギー照射工程および導電性パターン形成工程については、上述した「A.パターン形成体の製造方法」および「B.配線基板の製造方法」の項で説明した工程と同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0103】
また、本実施態様の有機薄膜トランジスタの製造方法においては、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンを、上記配線基板の製造方法を用いて形成するものであれば、その他の工程については特に限定されるものではなく、例えば有機半導体層を形成する工程や、絶縁層を形成する工程等を有していてもよい。なお、上記第1導電性パターンおよび第2導電性パターンの形成の際に用いられる材料や、基板、絶縁層、および有機半導体層については、後述する「D.有機薄膜トランジスタ」で説明するものと同様のものを用いることができる。また、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターン以外の部材の形成方法としては、一般的な有機薄膜トランジスタの製造方法の際に用いられる方法と同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0104】
なお、本実施態様において、上記有機半導体層は後述する第2実施態様で説明する方法によって形成することが好ましい。これにより、上記有機半導体層形成の際に、複雑な工程や特別な装置等を必要とすることなく、製造効率やコスト等の面からより好ましい有機薄膜トランジスタの製造方法とすることができるからである。
【0105】
2.第2実施態様
次に、本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法の第2実施態様について説明する。本発明の第2実施態様における有機薄膜トランジスタの製造方法は、基板、上記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、上記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、上記第1導電性パターンと上記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、上記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、上記第2導電性パターンが上記ゲート電極または上記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ上記有機半導体層が上記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタの製造方法であって、上記有機半導体層を、上記パターン形成体の製造方法により製造されるパターン形成体の上記濡れ性変化パターンを利用して形成することを特徴とする方法である。
【0106】
本実施態様のトランジスタの製造方法は、例えば図6に示すように、樹脂製の基板21と、その基板21上に形成された第1導電性パターン24と、上記第1導電性パターン24を覆うように形成された絶縁層25と、上記第1導電性パターン24と絶縁層25を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン28と、有機半導体層27とを有する有機薄膜トランジスタを製造する方法である。ここで、上記第1導電性パターン24は、ゲート電極、または一対のソース電極およびドレイン電極のいずれか一方であり、上記第2導電性パターン28はもう一方とされる。例えば図6に示すように、第1導電性パターン24をゲート電極とし、第2導電性パターン28をソース電極またはドレイン電極としてもよく、また例えば図7に示すように、第1導電性パターン24をソース電極またはドレイン電極とし、第2導電性パターン28をゲート電極としてもよい。また、上記第2導電性パターン28は、例えば図6および図7に示されるように、後述する絶縁層25上に形成されるものであってもよく、また例えば図8に示すように、基板21上に形成されるものであってもよい。なお、上記有機半導体層は、上記ソース電極およびドレイン電極と接するように形成され、例えば図9に示すように、ソース電極およびドレイン電極である第2導電性パターン28が有機半導体層27上に形成されていてもよく、また例えば図10に示すように、ソース電極およびドレイン電極である第1導電性パターン24が有機半導体層27上に形成されていてもよい。
【0107】
ここで、本実施態様の有機薄膜トランジスタの製造方法においては、上記有機半導体層を、上述した「A.パターン形成体の製造方法」により製造されるパターン形成体の上記濡れ性変化パターンを利用して形成する。すなわち、上記基板または絶縁層を、上述した「A.パターン形成体の製造方法」の項で説明した樹脂製基材として用い、例えば図1に示すように、この基板または絶縁層1と、上述した光触媒含有層側基板13の光触媒含有層12とを対向させて配置し、エネルギー2を照射することにより(図1(b))、上記基板または絶縁層1上に水との接触角が低下した濡れ性変化パターン3を形成する(図1(c))エネルギー照射工程を行う。その後、上記濡れ性変化パターンの濡れ性を利用して、上記濡れ性変化パターン上に有機半導体層を形成する有機半導体層形成用塗工液を塗布等して、有機半導体層を形成する工程を行うものである。
【0108】
本実施態様によれば、上記有機半導体層を、上記基板上、または絶縁層上に形成された濡れ性変化パターンを利用して形成することから、高精細なパターン状に形成することができる。またこの際、上記導電性パターン形成の際に、複雑な工程や特別な装置等が必要ないことから、製造効率やコスト等の面から好ましい有機薄膜トランジスタの製造方法とすることができるのである。
【0109】
また、上記濡れ性変化パターンには、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、表面に凹凸が形成されることとなることから、この凹凸のアンカー効果によって、上記濡れ性変化パターン上に形成された有機半導体層と基板または絶縁層との密着性が良好なものとすることができる、という利点も有する。
【0110】
ここで、本実施態様において有機半導体層形成の際に行われる濡れ性変化パターンの形成等については、上述した「A.パターン形成体の製造方法」で説明したものと同様とすることができ、また上記濡れ性変化パターン上に有機半導体層を形成する方法としては、「B.配線基板の製造方法」における導電性パターン形成工程における導電性パターンの形成方法と同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0111】
また、本実施態様の有機薄膜トランジスタの製造方法は、上記有機半導体層を、上記パターン形成体の製造方法により製造されるパターン形成体の上記濡れ性変化パターンを利用して形成するものであれば、他の工程については特に限定されるものではなく、例えば第1導電性パターンや第2導電性パターンを形成する工程、絶縁層を形成する工程等を有していてもよい。なお、上記有機半導体層の形成に用いられる材料や、基板、絶縁層、第1導電性パターン、および第2導電性パターンについては、後述する「D.有機薄膜トランジスタ」で説明するものと同様のものを用いることができる。また、上記有機半導体層以外の部材の形成方法としては、一般的な有機薄膜トランジスタの製造方法の際に用いられる方法と同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0112】
D.有機薄膜トランジスタ
次に、本発明の有機薄膜トランジスタについて説明する。本発明の有機薄膜トランジスタは、基板、上記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、上記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、上記第1導電性パターンと上記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、上記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、上記第2導電性パターンが上記ゲート電極または上記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ上記有機半導体層が上記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタであって、上記第1導電性パターンまたは上記第2導電性パターンのそれぞれの中央部における膜厚が、それぞれ上記第1導電性パターンまたは上記第2導電性パターンの最大膜厚に対して所定の範囲内であることを特徴とするものである。
【0113】
本発明の有機薄膜トランジスタは、例えば図6に示すように、樹脂製の基板21と、その基板21上に形成された第1導電性パターン24と、上記第1導電性パターン24を覆うように形成された絶縁層25と、上記第1導電性パターン24と絶縁層25を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン28と、有機半導体層27とを有するものである。ここで、上記第1導電性パターン24は、ゲート電極、または一対のソース電極およびドレイン電極のいずれか一方であり、上記第2導電性パターン28はもう一方とされる。例えば図6に示すように、第1導電性パターン24をゲート電極とし、第2導電性パターン28をソース電極またはドレイン電極としてもよく、また例えば図7に示すように、第1導電性パターン24をソース電極またはドレイン電極とし、第2導電性パターン28をゲート電極としてもよい。なお、上記有機半導体層は、上記ソース電極およびドレイン電極と接するように形成され、例えば図9に示すように、ソース電極およびドレイン電極である第2導電性パターン28が有機半導体層27上に形成されていてもよく、また例えば図10に示すように、ソース電極およびドレイン電極である第1導電性パターン24が有機半導体層27上に形成されていてもよい。
【0114】
また本発明においては、例えば図11に示すように、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターン9の中央部における膜厚aが、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンの最大膜厚bに対して所定の範囲内とされるものである。なお、本発明でいう中央部とは、導電性パターンの幅を4等分した際、中央の2つの領域をいうこととする。本発明においては、この中央部内に、最大膜厚に対して所定の範囲内となる部分が含まれていればよい。本発明においては特に、上記中央部全体が、上記範囲となるように形成されていることが好ましい。
【0115】
ここで、上記第1導電性パターン等の中央部が盛り上がった形状とされている場合には、第1導電性パターン等の上に形成された層の膜厚が、上記中央部近傍で薄くなってしまう。しかしながら、本発明によれば、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンが、中央部が凹んだ形状、もしくは平らな形状とされていることから、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターン上に形成される層の膜厚を、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンの中央部近傍で均一なものとしやすくなる。また上記第1導電性パターンの膜厚が上記範囲内とされている場合には特に、上記第1導電性パターン状に形成される層の膜厚を均一なものとしやすく、ゲート電極およびソース・ドレイン電極の性能を十分に発揮させることができるという利点も有している。
【0116】
なお、本発明においては、第1導電性パターンのみが上記形状を有するものであってもよく、また第2導電性パターンのみが上記形状を有するものであってもよいが、特に、第1導電性パターンおよび第2導電性パターンの両方が、上記形状を有するものとされることが好ましい。これにより、より高品質な有機薄膜トランジスタとすることができるからである。以下、本発明の有機薄膜トランジスタの各構成ごとに詳しく説明する。
【0117】
1.第1導電性パターン
まず、本発明の有機薄膜トランジスタにおける第1導電性パターンについて説明する。本発明に用いられる第1導電性パターンは、後述する基板上にパターン状に形成されたものであって、ゲート電極、または一対のソース電極およびドレイン電極のいずれかとして用いられるものである。
【0118】
このような第1導電性パターンは、金、銀、白金、ニッケル、クロム、モリブデン、タンタル、タングステン等の貴金属やこれらの合金、銅、アルミニウム、カーボン等の導電率が高い材料により形成されたものとすることができる。また、例えばPEDOTやポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性ポリマーを用いて形成されたもの等とすることもできる。
【0119】
ここで、本発明においては、上述したように、上記第1導電性パターン中央部における膜厚が、第1導電性パターンの最大膜厚に対して50%〜100%の範囲内、中でも60%〜90%の範囲内、特に80%〜90%の範囲内とされることが好ましい。第1導電性パターンの形状を、このようなものとすることにより、上記第1導電性パターン状に形成される層の膜厚を均一なものとしやすく、ゲート電極およびソース・ドレイン電極の性能を十分に発揮させることが可能となるからである。なお、上記値は、例えば有機薄膜トランジスタを触針式表面形状測定器(Dektak 6M(Veeco Instruments Inc.製))により測定した値とすることができる。
【0120】
また上記第1導電性パターンの表面粗さは0.1nm〜100nm、程度、中でも0.1nm〜50nm程度とされることが好ましい。これにより、第1導電性パターンとその上に形成される層との境界面を平坦なものとすることができ、本発明の有機薄膜トランジスタが安定した性能を有するものとすることができるからである。上記表面粗さは上記触針式表面形状測定器により測定することができる。
【0121】
また本発明においては特に、上記第1導電性パターンの端部の立ち上がりの角度が高いことが好ましい。これにより、第1導電性パターンの性能を発揮し易いものとすることができるからである。上記端部の形状として具体的には、例えば図11に示すように、第1導電性パターン9の端部領域sにおいて、第1導電性パターンの最大膜厚bの50%(cで表される高さ)以下の膜厚となる部分tの幅が、端部領域の幅sの2/3以下、中でも1/2以下であることが好ましい。なお、上記端部領域の幅とは、基板と第1導電性パターンとの境界部分から、上記第1導電性パターンの最大膜厚となる部分までの幅をいうこととする。なお、上記形状の観察は、本発明の有機薄膜トランジスタの断面を、走査型電子顕微鏡等によって観察すること等により行うことができる。このような形状を有する第1導電性パターンは、上述した「C.有機薄膜トランジスタの製造方法」の第1実施態様で説明した方法により形成することができる。
【0122】
またこの際、上記第1導電性パターンの最大膜厚としては、有機薄膜トランジスタの種類等により、適宜選択されるものであるが、通常5nm〜10μm程度、中でも100nm〜4.0μm程度とされる。
【0123】
2.第2導電性パターン
次に、本発明の有機薄膜トランジスタに用いられる第2導電性パターンについて説明する。本発明に用いられる第2導電性パターンは、後述する絶縁層を挟んで、上記第1導電性パターンと対向して形成されるものであって、ゲート電極、または一対のソース電極およびドレイン電極のいずれかとされる。ここで上記第2導電性パターンが、上記絶縁層を挟んで第1導電性パターンと対向して形成されるとは、上記第1導電性パターンと第2導電性パターンとの間に絶縁層が形成されており、第1導電性パターンと第2導電性パターンとが接しないように形成されていることをいう。なお、本発明において、上記第2導電性パターンは、例えば図6に示すように、絶縁層25上に形成されているものであってもよく、また例えば図11に示すように、基板21上に形成されているものであってもよい。
【0124】
また、本発明においては、上述したように、上記第2導電性パターン中心部における第2導電性パターンの膜厚が、第2導電性パターンの最大膜厚に対して50%〜100%の範囲内、中でも60%〜90%の範囲内、特に80%〜90%の範囲内とされることが好ましい。これにより、上記第2導電性パターン状に形成される層の膜厚を均一なものとしやすくなるからである。なお、上記値は、上述した方法により測定することができる。
【0125】
また上記第2導電性パターンの表面粗さは、0.1nm〜100nm、程度、中でも0.1nm〜50nm程度とされることが好ましい。これにより、第2導電性パターンとその上に形成される層との境界面を平坦なものとすることができ、本発明の有機薄膜トランジスタが安定した性能を有するものとすることができるからである。上記表面粗さは上述した方法により測定することができる。
【0126】
また本発明においては特に、上記第2導電性パターンの端部の立ち上がりの角度が高いことが好ましい。これにより、第2導電性パターンの性能を発揮し易いものとすることができるからである。上記端部の形状として具体的には、例えば図11に示すように、第2導電性パターン9の端部領域sにおいて、第2導電性パターンの最大膜厚bの50%(cで表される高さ)以下の膜厚となる部分tの幅が、端部領域の幅sの2/3以下、中でも1/2以下であることが好ましい。なお、上記端部領域の幅とは、第2導電性パターンの最端部から、上記第2導電性パターンの最大膜厚となる部分までの幅をいうこととする。なお、上記形状の観察は、本発明の有機薄膜トランジスタの断面を、走査型電子顕微鏡等によって観察すること等により行うことができる。
【0127】
またこの際、上記第2導電性パターンの最大膜厚としては、有機薄膜トランジスタの種類等により、適宜選択されるものであるが、通常5nm〜10.0μm程度、中でも100nm〜4.0μm程度とされることが好ましい。
【0128】
3.絶縁層
次に、本発明の有機半導体トランジスタに用いられる絶縁層について説明する。本発明に用いられる絶縁層は、上記第1導電性パターンを覆うように形成されるものであって、絶縁性を有するものであれば、特に限定されるものではない。
【0129】
なお、上記第2導電性パターンが絶縁層上に形成される場合であって、第2導電性パターンが、上述した「B.配線基板の製造方法」で説明した方法を用いて形成される場合には特に、撥液性を有する樹脂製の層が上記絶縁層として用いられる。この際の絶縁層の水との接触角は、60°以上、中でも70°〜180°の範囲内、特に90°〜180°の範囲内とされることが好ましい。上記絶縁層の撥水性が低い場合には、第2導電性パターンを形成する第2導電性パターン形成用塗工液が、エネルギー照射されていない領域にも付着してしまい、上記濡れ性変化パターンのみに高精細に第2導電性パターンを形成することが困難となるからである。ここでいう水との接触角は上述した方法により得られるものである。
【0130】
このような絶縁層を形成する材料として具体的には、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリビニルフェノール(PVP)、アクリル、SiO2、ポリイミド、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。なお、上記絶縁層の形成方法としては、上記導電性パターンを覆うように絶縁層を形成可能な方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な有機薄膜トランジスタにおける絶縁層の形成方法と同様とすることができる。また、上記絶縁層の形状についても特に限定されるものではなく、例えば図6に示すように、上記基板の全面に形成されるものであってもよく、例えば図8に示すように、上記基板の一部にパターン状に形成されるもの等であってもよい。
【0131】
また、上記絶縁層の膜厚としては、有機薄膜トランジスタの種類等により、適宜選択されるものであるが、通常5nm〜10μm程度、中でも100nm〜4.0μm程度とされることが好ましい。
【0132】
4.基板
次に、本発明に用いられる基板について説明する。本発明に用いられる基板は、上記第1導電性パターンや上記絶縁層等が形成可能なものであり、絶縁性の高いものであれば、特に限定されるものではなく、一般的に有機薄膜トランジスタに用いられる基板と同様とすることができる。なお、本発明においては、上記基板上に少なくとも上記第1導電性パターンが形成されることから、第1導電性パターンの形成の際にかけられる熱に対する耐性を有するものが用いられることが好ましい。
【0133】
ここで、上述したように、第1導電性パターン等が、上述した「B.配線基板の製造方法」で説明した方法を用いて形成される場合には特に、撥液性を有する樹脂製のものが基板として用いられることとなる。この際の上記基板の水との接触角は、60°以上、中でも70°〜180°の範囲内、特に90°〜180°の範囲内とされることが好ましい。上記基板の撥水性が低い場合には、第1導電性パターン等を形成する導電性パターン形成用塗工液が塗布された際、エネルギー照射されていない領域にも付着してしまい、上記濡れ性変化パターンのみに高精細に第1導電性パターン等を形成することが困難となるからである。ここでいう水との接触角は上述した方法により得られるものである。
【0134】
このような撥液性を有し、上記基板に用いることが可能な樹脂としては、例えばポリエチレンナフタレート(PEN)や、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、弗化ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフォン、アラミカ(登録商標)、トレリナ(登録商標)、環状ポリオレフィン等が挙げられる。
【0135】
5.有機半導体層
次に、本発明に用いられる有機半導体層について説明する。本発明に用いられる有機半導体層としては、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンのうち、ソース電極およびドレイン電極として用いられる方と隣接して形成され、上記ソース電極およびドレイン電極とに接するように形成される。ここで、上記有機半導体層は、上記ソース電極およびドレイン電極と一部重なるように形成されていてもよく、例えば有機半導体層が、上記ソース電極やドレイン電極上に形成されていてもよく、また上記ソース電極やドレイン電極の下に形成されていてもよい。
【0136】
このような有機半導体層の材料としては、一般的な有機半導体層に用いられるものを用いることができ、例えばπ電子共役系の芳香族化合物、鎖式化合物、有機顔料、有機ケイ素化合物等からなる層が用いられる。具体的な材料としては、ペンタセン、テトラセン、チオフェンオリゴマ誘導体、フェニレン誘導体、フタロシアニン化合物、ポリアセチレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、シアニン色素等が挙げられる。
【0137】
また、上記有機半導体層の形成方法としては、一般的な有機薄膜トランジスタにおける有機半導体層の形成方法と同様とすることができるが、特に上述した「C.有機薄膜トランジスタ」の第2実施態様で説明した有機半導体層の形成方法と同様の方法により上記有機半導体層が形成されることが好ましい。これにより、有機半導体層が複雑な工程を経ることなく形成されたものとすることができ、より製造効率やコスト等の面から好ましい有機薄膜トランジスタとすることができるからである。また、上記有機半導体層と基板等との密着性も高いものとすることができ、高品質な有機薄膜トランジスタとすることもできる、という利点も有するからである。
【0138】
なお、上記有機半導体層の膜厚としては、有機薄膜トランジスタの種類等により、適宜選択されるものであるが、通常5nm〜5.0μm程度、中でも5nm〜100nm程度とされる。
【0139】
6.有機薄膜トランジスタ
本発明の有機薄膜トランジスタは、上記基板、第1導電性パターン、絶縁層、第2導電性パターン、および有機半導体層を有するものであれば特に限定されるものではなく、必要に応じて、例えば共通電極等を有するものであってもよい。また、例えば絶縁層や第1導電性パターン、第2導電性パターン等を複数層有するものであってもよい。このような有機薄膜トランジスタの構成としては、一般的な有機薄膜トランジスタの構成と同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0140】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0141】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例]
(光触媒含有層側基板の作製)
石英ガラス(基体)上に、ライン幅およびスペース幅がいずれも50μmであり、厚みが0.2μmであるクロムからなる遮光パターンが形成されたフォトマスクを準備した。このフォトマスクの遮光パターン上に下記の成分を混合後、温度25℃で24時間攪拌して調製したプライマー層形成用組成物を塗布した。その後、温度120℃で20分間加熱し、0.1μmの厚みのプライマー層を形成した。
(プライマー層形成用組成物)
・0.1規定塩酸水溶液 50g
・テトラメトキシシラン 100g
次いで、二酸化チタンを含有する光触媒無機用コーティング剤(石原産業製、商品名「ST−K03」)を、上記プライマー層上に塗布し、温度150℃で20分間加熱し、膜厚0.15μmの光触媒含有層を有する光触媒含有層側基板を形成した。
【0142】
(第1導電性パターンの作製)
続いて、PENフィルム基板(200μm厚、帝人デュポンフィルム株式会社、商品名「テオネックスフィルム」)と、上述した光触媒含有層側基板の光触媒含有層とが接触するように密着させ、光触媒含有層側より20mW/cm2の照度で、波長が365nmである紫外線を照射した。紫外線が未照射である領域は、濡れ性標準試薬(40mN/m)との接触角は70°であった。また紫外線が照射された領域については、濡れ性が変化した。この領域においては、濡れ性標準試薬(40mN/m)との接触角が30°以下となるまでに150秒かかった。
続いて、紫外線照射により濡れ性変化パターンが形成されたPENフィルム基板の表面にAgコロイド(バンドー化学)をブレードコーターにより塗布することにより、紫外線照射部にのみ、水系Agコロイドを付着させることができた。これを150℃で30分間焼成することにより、厚みが150nm、ライン幅およびスペース幅がいずれも50μmの第1導電性パターンが、PENフィルム基板上に形成された。
上記第1導電性パターンの表面形状を、触針式表面形状測定器(Dektak 6M(Veeco Instruments Inc.製))により測定したところ、第1導電性パターンの最大膜厚は108nmであり、第1導電性パターンの中心部における膜厚が87nm(最大膜厚に対して80.6%)であった。
【0143】
(絶縁層の形成)
次いで、上記第1導電性パターンが形成されたPENフィルム基板上に、絶縁材料であるカルド系アクリル樹脂(新日鐵化学社製)をスクリーン印刷法によりパターン状に塗工し、これを150℃で30分間焼成することにより、厚み1.0μmの絶縁層を形成した。
【0144】
(第2電極層パターンの形成)
次いで、上述した光触媒含有層側基板と同様の作製方法により、第2導電性パターンを形成するためのネガパターンを有する光触媒含有層側基板を準備した。上記光触媒含有層側基板の光触媒含有層と上記絶縁層とが接触するように密着させ、光触媒含有層側より20mW/cm2の照度で、波長が365nmである紫外線を照射した。紫外線が未照射である領域は、濡れ性標準試薬(40mN/m)との接触角は70°であった。また紫外線が照射された領域については、濡れ性が変化した。この領域においては、濡れ性標準試薬(40mN/m)との接触角が30°以下となるまでに900秒かかった。
続いて、紫外線照射により濡れ性変化パターンが形成された絶縁層の表面にAgコロイド(バンドー化学)をブレードコーターにより塗布することにより、紫外線照射部にのみ、水系Agコロイドを付着させることができた。これを150℃で30分間焼成することにより、厚みが150nm、ライン幅およびスペース幅がいずれも50μmの第2導電性パターンが、絶縁層上に形成された。
上記第2導電性パターンの表面形状を、触針式表面形状測定器(Dektak 6M(Veeco Instruments Inc.製))により測定したところ、第2導電性パターンの最大膜厚は98nmであり、第2導電性パターンの中心部における膜厚は52nm(最大膜厚に対して53.1%)であった。
【0145】
(有機半導体層の形成)
次いで、上記第2導電性パターンが形成された絶縁層上に、上述した方法と同様に形成され、有機半導体ネガパターンを有する光触媒含有層側基板が接触するように配置し、光触媒含有層側より20mW/cm2の照度で、波長が365nmである紫外線を照射した。紫外線が未照射である領域は、濡れ性標準試薬(40mN/m)との接触角は70°であった。また紫外線が照射された領域は、濡れ性が変化した。この領域においては、濡れ性標準試薬(40mN/m)との接触角が30°以下となるまでに150秒かかった。
次いで、紫外線照射により、有機半導体を形成するパターン状に濡れ性変化パターンが形成された絶縁層に、ポリー3−ヘキシルチオフェン(メルク株式会社)を、ブレードコーターにより塗布することにより、上記濡れ性変化パターン状にのみ塗布した。これを70℃で30分間焼成することにより、厚みが100nmの有機半導体層がパターン状に形成された有機薄膜トランジスタを得た。
【符号の説明】
【0146】
1 …樹脂製基材
2 …エネルギー
3 …濡れ性変化パターン
4 …導電性パターン
25…絶縁層
27 …有機半導体層
11…基体
12…光触媒含有層
13…光触媒含有層側基板
21…基板
24…第1導電性パターン
28…第2導電性パターン
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜トランジスタの導電性パターンや配線基板の導電性パターンの形成に用いることが可能な、高精細に機能性部を形成可能なパターン形成体の製造方法、および、その方法を用いて形成された有機薄膜トランジスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、有機薄膜トランジスタや、配線基板に用いられる導電性パターンの形成には、一般的にフォトリソグラフィー法やマスク蒸着法等が用いられている。しかしながら、上記フォトリソグラフィー法においては、基板上へ金属層を形成する工程や、金属層上にフォトレジスト層を形成する工程、上記フォトレジスト層を露光する工程、上記フォトレジスト層を現像する工程、上記金属層をエッチングする工程等、種々の工程を経る必要があり、製造方法が煩雑であるという問題があった。また、上記金属層の形成は、通常、CVD、スパッタリング等により行われており、真空系の設備や高温処理可能な設備が必要とされ、設備コスト、ランニングコスト等の負荷が非常に大きい、という問題があった。またさらに、現像時に多量に生じる廃液は有害なものであり、外部に排出するためには処理を行う必要がある等の環境面での問題もあった。
【0003】
また、上記マスク蒸着法においては、電極材料等を蒸着する必要があることから、真空系の設備等が必要であり、設備コスト、ランニングコスト等の負荷が大きく、また生産性が低い、という問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、簡易な製造工程で高精細なパターン状に導電性パターン等を効率よく形成可能なパターン形成体の製造方法、およびその方法により形成されたパターン形成体を用いた配線基板の製造方法や有機薄膜トランジスタの製造方法等の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板の光触媒含有層と、撥水性を有する樹脂製基材とを対向させて配置し、パターン状にエネルギーを照射することにより、上記樹脂製基材上に水との接触角が低下した濡れ性変化パターンをパターン状に形成するエネルギー照射工程を有することを特徴とするパターン形成体の製造方法を提供する。
【0006】
本発明によれば、エネルギー照射に伴う光触媒の作用によって、上記樹脂製基材表面に水との接触角が低下した濡れ性変化パターンを高精細に形成することができる。これにより、本発明により製造されたパターン形成体上に、例えば導電性パターン等の機能性部を形成する機能性部形成用塗工液を塗布した際、上記濡れ性変化パターン上にのみ機能性部形成用塗工液が付着するものとすることができ、容易に高精細な機能性部を形成することが可能となるのである。また本発明によれば、上記濡れ性変化パターンには、上記光触媒の作用により、表面に微細な凹凸が形成されることとなる。したがって、上記凹凸のアンカー効果によって、上記濡れ性変化パターン上に形成された機能性部と樹脂製基材との密着性が良好なものとすることができ、高品質な機能性素子を形成可能なパターン形成体とすることができるのである。
【0007】
また本発明は、上記パターン形成体の製造方法により形成されたパターン形成体の上記濡れ性変化パターン上に、導電性パターンを形成する導電性パターン形成工程を有することを特徴とする配線基板の製造方法を提供する。
【0008】
上記パターン形成体上には、上記濡れ性変化パターンが形成されていることから、上記樹脂製基材上に、導電性パターンを形成するための導電性パターン形成用塗工液を塗布すること等により、上記濡れ性変化パターン上にのみ導電性パターンを高精細に形成することができる。したがって、本発明によれば、複雑な工程や特別な装置等を必要とすることなく、配線基板を製造することができるのである。またさらに、上記濡れ性変化パターン上には、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により微細な凹凸が形成されることから、この凹凸のアンカー効果により、上記導電性パターンの密着性を良好なものとすることができる、という利点も有する。
【0009】
またさらに、本発明は、基板、上記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、上記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、上記第1導電性パターンと上記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、上記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、上記第2導電性パターンが上記ゲート電極または上記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ上記有機半導体層が上記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタの製造方法であって、上記第1導電性パターンまたは上記第2導電性パターンを、上述した配線基板の製造方法を用いて形成することを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンを、上記配線基板の製造方法を用いて形成することから、複雑な工程や特別な装置を用いることなく、高精細なパターン状に第1導電性パターンや第2導電性パターンを形成することが可能となる。したがって、製造効率やコスト等の面から優れた有機薄膜トランジスタの製造方法とすることができるのである。またさらに、上記濡れ性変化パターンには、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により微細な凹凸が形成されることから、この凹凸のアンカー効果により、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンの密着性が良好なものとすることができる、という利点も有する。
【0011】
また、本発明は、基板、上記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、上記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、上記第1導電性パターンと上記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、上記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、上記第2導電性パターンが上記ゲート電極または上記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ上記有機半導体層が上記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタの製造方法であって、上記有機半導体層を、上記パターン形成体の製造方法により製造されるパターン形成体の上記濡れ性変化パターンを利用して形成することを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、有機半導体層を上述したパターン形成体の製造方法によって形成される濡れ性変化パターンを利用して形成することから、特別な装置や複雑な工程等を必要とすることなく、高精細に有機半導体層を形成することができる。したがって、製造効率やコスト等の面からも好ましい有機薄膜トランジスタの製造方法とすることができる。またさらに、上記濡れ性変化パターンには、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により微細な凹凸が形成されることから、この凹凸のアンカー効果により、上記有機半導体層の密着性が良好なものとすることができる、という利点も有する。
【0013】
また本発明は、基板、上記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、上記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、上記第1導電性パターンと上記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、上記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、上記第2導電性パターンが上記ゲート電極または上記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ上記有機半導体層が上記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタであって、上記第1導電性パターンまたは上記第2導電性パターンのそれぞれの中央部における膜厚が、それぞれ上記第1導電性パターンまたは上記第2導電性パターンの最大膜厚の50%〜100%の範囲内であることを特徴とする有機薄膜トランジスタを提供する。
【0014】
本発明によれば、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンの中央部が凹んだ形状、もしくは平らに形成されているものとすることができる。これにより、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターン上に形成される層の膜厚を、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンの中央部近傍で均一なものとしやすくなる。また上記第1導電性パターンの膜厚が上記範囲内とされている場合には、上記第1導電性パターン状に形成される層の膜厚を均一なものとしやすくなり、ゲート電極およびソース・ドレイン電極の性能を十分に発揮させることが可能となるという利点も有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エネルギー照射に伴う光触媒の作用によって、上記樹脂製基材表面の水との接触角が低下した濡れ性変化パターンを高精細に形成することができ、本発明により製造されたパターン形成体上に、容易に高精細な機能性部を形成することが可能となる。また上記濡れ性変化パターンには、上記光触媒の作用により、表面に微細な凹凸が形成されることとなることから、上記凹凸のアンカー効果によって、上記濡れ性変化パターン上に形成された機能性部と樹脂製基材との密着性が良好なものとすることができるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のパターン形成体の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明に用いられる光触媒含有層側基板の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明に用いられる光触媒含有層側基板の他の例を示す概略断面図である。
【図4】本発明に用いられる光触媒含有層側基板の他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の配線基板の製造方法の一例を示す工程図である。
【図6】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法により製造される有機薄膜トランジスタの一例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法により製造される有機薄膜トランジスタの他の例を示す概略断面図である。
【図8】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法により製造される有機薄膜トランジスタの他の例を示す概略断面図である。
【図9】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法により製造される有機薄膜トランジスタの他の例を示す概略断面図である。
【図10】本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法により製造される有機薄膜トランジスタの他の例を示す概略断面図である。
【図11】本発明の有機薄膜トランジスタの導電性パターンの形状を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、高精細に機能性部を形成可能なパターン形成体の製造方法、その製造方法により製造されたパターン形成体を用いた配線基板の製造方法、その製造方法により製造された配線基板を用いた有機薄膜トランジスタの製造方法等に関するものである。以下、それぞれについてわけて説明する。
【0018】
A.パターン形成体の製造方法
まず、本発明のパターン形成体の製造方法について説明する。本発明のパターン形成体の製造方法は、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板の光触媒含有層と、撥水性を有する樹脂製基材とを対向させて配置し、パターン状にエネルギーを照射することにより、上記樹脂製基材上に水との接触角が低下した濡れ性変化パターンをパターン状に形成するエネルギー照射工程を有することを特徴とするものである。
【0019】
本発明のパターン形成体の製造方法は、例えば図1に示すように、まず、基体11とその基体11上に形成された光触媒含有層12とを有する光触媒含有層側基板13を準備する(図1(a))。続いてこの光触媒含有層側基板13の光触媒含有層12と、樹脂製基材1とを対向させて配置し、例えばフォトマスク14等を用いてパターン状にエネルギー2を照射することにより(図1(b))、上記樹脂製基材1上に水との接触角が低下した濡れ性変化パターン3をパターン状に形成する(図1(c))エネルギー照射工程を有することを特徴とするものである。
【0020】
本発明においては、上記エネルギー照射工程において、上記光触媒含有層側基板と樹脂製基材とを対向させて配置した後、パターン状にエネルギーを照射することによって、光触媒含有層中に含有されている光触媒の作用により、上記樹脂製基材表面の水との接触角をパターン状に低下させることができる。このような光触媒の作用機構は、必ずしも明確なものではないが、エネルギーの照射によって生成したキャリアが、近傍の化合物との直接反応、あるいは、酸素、水の存在下で生じた活性酸素種によって、上記樹脂製基材にOH基が導入され、上記樹脂製基材の水との接触角が低下するものであると考えられている。
【0021】
本発明により製造されたパターン形成体には、上記樹脂製基材の水との接触角が低下した濡れ性変化パターンが形成されていることから、パターン形成体上に、例えば導電性パターン等の機能性部を形成する機能性部形成用塗工液を塗布等した際、濡れ性変化パターンにのみ上記機能性部形成用塗工液を付着させることができる。したがって、本発明によれば、複雑な工程や、特別な装置等を必要とすることなく、高精細なパターン状に機能性部を形成することが可能なパターン形成体を製造することができるのである。
【0022】
また本発明においては、上記エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、上記樹脂製基材表面にOH基が導入されるだけでなく、上記樹脂製基材表面に微細な凹凸が形成されることとなる。これにより、本発明によれば、上記樹脂製基材表面の凹凸によるアンカー効果によって、上記濡れ性変化パターン上に形成される機能性部と、上記樹脂製基材との密着性が良好なものとすることができる、という利点も有する。
以下、本発明のパターン形成体の製造方法のエネルギー照射工程について詳しく説明する。
【0023】
(エネルギー照射工程)
本発明におけるエネルギー照射工程は、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板の光触媒含有層と、撥水性を有する樹脂製基材とを対向させて配置し、パターン状にエネルギーを照射することにより、上記樹脂製基材上に水との接触角が低下した濡れ性変化パターンをパターン状に形成する工程である。以下、本工程に用いられる樹脂製基材、光触媒含有層側基板、およびエネルギーの照射方法についてそれぞれ説明する。
【0024】
a.樹脂製基材
本工程において用いられる撥水性を有する樹脂製基材としては、上記エネルギー照射に伴う光触媒含有層の作用により水との接触角が低下するものであって、撥水性を有する樹脂製の基材であれば、一般的なパターン形成体に基材として用いられるものを用いることが可能である。
【0025】
上記樹脂製基材の撥水性としては、水との接触角が60°以上、中でも70°〜180°の範囲内、特に90°〜180°の範囲内であることが好ましい。上記樹脂製基材の撥水性が低い場合には、機能性部を形成する機能性部形成用塗工液が、エネルギー照射されていない領域にも付着してしまい、上記濡れ性変化パターン上に高精細に機能性部を形成することが困難となるからである。ここでいう水との接触角は、水、またはそれと同等の表面張力を有する液体との接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴を滴下して30秒後)し、その結果から、もしくはその結果をグラフにして得たものである。
【0026】
このような撥水性を有する樹脂製基材として具体的には、ポリエチレンナフタレート(PEN)や、ポリイミド、ポリエチレンテレナフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、フッ化ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィン、アラミカ(登録商標)、トレリナ(登録商標)、環状ポリオレフィン等が挙げられる。
【0027】
また上記樹脂製基材の形状や膜厚等については、特に限定されるものではなく、例えば平板状であってもよく、またロール状であってもよい。また、例えば機能性部を形成する形状に合わせて表面に凹凸が形成されたもの等であってもよい。またさらに、上記樹脂製基材の透明性や可撓性や耐熱性、絶縁性等についても特に限定されるものではなく、パターン形成体の用途に合わせて適宜選択される。
【0028】
ここで、本発明により製造されたパターン形成体が、後述するような配線基板や、有機薄膜トランジスタ等に用いられる場合には、上記濡れ性変化パターン上に導電性パターンが形成されることから、樹脂製基材として、絶縁性を有するものが用いられることが好ましく、さらに導電性パターンの形成の際にかけられる熱に対する耐性を有するものが用いられることが好ましい。
【0029】
b.光触媒含有層基板
次に、本工程に用いられる光触媒含有層基板について説明する。本工程に用いられる光触媒含有層基板は、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有するものであり、通常、基体と、その基体上に光触媒含有層が形成されているものである。以下、本工程に用いられる光触媒含有層基板の各構成について説明する。
【0030】
(1)光触媒含有層
まず、光触媒含有層基板に用いられる光触媒含有層について説明する。本工程に用いられる光触媒含有層は、光触媒含有層中の光触媒が、近接する樹脂製基材の水との接触角を低下させることができ、樹脂製基材の表面に微細な凹凸を形成可能なものであれば、特に限定されるものではなく、光触媒とバインダとから構成されているものであってもよく、光触媒単体で製膜されたものであってもよい。また、その表面の特性は特に親液性であっても撥液性であってもよい。
【0031】
本発明で使用される光触媒としては、半導体として知られる例えば二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化ビスマス(Bi2O3)、および酸化鉄(Fe2O3)を挙げることができる。また半導体以外としては、金属錯体や銀なども用いることができる。本発明においては、これらから選択して1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
本発明においては、特に二酸化チタンが、バンドギャップエネルギーが高く、化学的に安定で毒性もなく、入手も容易であることから好適に使用される。二酸化チタンには、アナターゼ型とルチル型があり本発明ではいずれも使用することができるが、アナターゼ型の二酸化チタンが好ましい。アナターゼ型二酸化チタンは励起波長が380nm以下にある。
【0033】
このようなアナターゼ型二酸化チタンとしては、例えば、塩酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(石原産業(株)製STS−02(平均粒径7nm)、石原産業(株)製ST−K01)、硝酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(日産化学(株)製TA−15(平均粒径12nm))等を挙げることができる。
【0034】
また、上記酸化チタンとして可視光応答型のものを用いてもよい。可視光応答型の酸化チタンとは、可視光のエネルギーによっても励起されるものであり、このような可視光応答化の方法としては、酸化チタンを窒化処理する方法等が挙げられる。
【0035】
酸化チタン(TiO2)は、窒化処理をすることにより、酸化チタン(TiO2)のバンドギャップの内側に新しいエネルギー準位が形成され、バンドギャップが狭くなる。その結果、通常酸化チタン(TiO2)の励起波長は380nmであるが、その励起波長より長波長の可視光によっても、励起されることが可能となるのである。これにより、種々の光源によるエネルギー照射の可視光領域の波長も酸化チタン(TiO2)の励起に寄与させることが可能となることから、さらに酸化チタンを高感度化させることが可能となるのである。
【0036】
ここで、本発明でいう酸化チタンの窒化処理とは、酸化チタン(TiO2)の結晶の酸素サイトの一部を窒素原子での置換する処理や、酸化チタン(TiO2)結晶の格子間に窒素原子をドーピングする処理、または酸化チタン(TiO2)結晶の多結晶集合体の粒界に窒素原子を配する処理等をいう。
【0037】
酸化チタン(TiO2)の窒化処理方法は、特に限定されるものではなく、例えば、結晶性酸化チタンの微粒子をアンモニア雰囲気下で700℃の熱処理により、窒素をドーピングし、この窒素のドーピングされた微粒子と、無機バインダや溶媒等を用いて、分散液とする方法等が挙げられる。
【0038】
光触媒の粒径は小さいほど光触媒反応が効果的に起こるので好ましく、平均粒径が50nm以下であることが好ましく、20nm以下の光触媒を使用するのが特に好ましい。
【0039】
本発明における光触媒含有層は、上述したように光触媒単独で形成されたものであってもよく、またバインダと混合して形成されたものであってもよい。
【0040】
光触媒のみからなる光触媒含有層の形成方法としては、例えば、スパッタリング法、CVD法、真空蒸着法等の真空製膜法を用いる方法を挙げることができる。真空製膜法により光触媒含有層を形成することにより、均一な膜でかつ光触媒のみを含有する光触媒含有層とすることが可能である。またこの場合、光触媒のみからなることから、バインダを用いる場合と比較して効率的に樹脂製基材表面の濡れ性を変化させることができる。
【0041】
また、光触媒のみからなる光触媒含有層の形成方法の他の例としては、例えば光触媒が二酸化チタンの場合は、基体上に無定形チタニアを形成し、次いで焼成により結晶性チタニアに相変化させる方法等が挙げられる。ここで用いられる無定形チタニアとしては、例えば四塩化チタン、硫酸チタン等のチタンの無機塩の加水分解、脱水縮合、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラメトキシチタン等の有機チタン化合物を酸存在下において加水分解、脱水縮合によって得ることができる。次いで、400℃〜500℃における焼成によってアナターゼ型チタニアに変性し、600℃〜700℃の焼成によってルチル型チタニアに変性することができる。
【0042】
また、バインダを用いる場合は、バインダの主骨格が上記の光触媒の光励起により分解されないような高い結合エネルギーを有するものが好ましく、例えばオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。
【0043】
このようにオルガノポリシロキサンをバインダとして用いた場合は、上記光触媒含有層は、光触媒とバインダであるオルガノポリシロキサンとを必要に応じて他の添加剤とともに溶剤中に分散して塗布液を調製し、この塗布液を基体上に塗布することにより形成することができる。使用する溶剤としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系の有機溶剤が好ましい。塗布はスピンコート、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、ビードコート等の公知の塗布方法により行うことができる。バインダとして紫外線硬化型の成分を含有している場合、紫外線を照射して硬化処理を行うことにより光触媒含有層を形成することができる。
【0044】
また、バインダとして無定形シリカ前駆体を用いることができる。この無定形シリカ前駆体は、一般式SiX4で表され、Xはハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、またはアセチル基等であるケイ素化合物、それらの加水分解物であるシラノール、または平均分子量3000以下のポリシロキサンが好ましい。
【0045】
具体的には、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラメトキシシラン等が挙げられる。また、この場合には、無定形シリカの前駆体と光触媒の粒子とを非水性溶媒中に均一に分散させ、基体上に空気中の水分により加水分解させてシラノールを形成させた後、常温で脱水縮重合することにより光触媒含有層を形成できる。シラノールの脱水縮重合を100℃以上で行えば、シラノールの重合度が増し、膜表面の強度を向上できる。また、これらの結着剤は、単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0046】
バインダを用いた場合の光触媒含有層中の光触媒の含有量は、5〜60重量%、好ましくは20〜40重量%の範囲で設定することができる。また、光触媒含有層の厚みは、0.05〜10μmの範囲内が好ましい。
【0047】
また、光触媒含有層には上記の光触媒、バインダの他に、界面活性剤を含有させることができる。具体的には、日光ケミカルズ(株)製NIKKOL BL、BC、BO、BBの各シリーズ等の炭化水素系、デュポン社製ZONYL FSN、FSO、旭硝子(株)製サーフロンS−141、145、大日本インキ化学工業(株)製メガファックF−141、144、ネオス(株)製フタージェントF−200、F251、ダイキン工業(株)製ユニダインDS−401、402、スリーエム(株)製フロラードFC−170、176等のフッ素系あるいはシリコーン系の非イオン界面活性剤を挙げることができ、また、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることもできる。
【0048】
さらに、光触媒含有層には上記の界面活性剤の他にも、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ジアリルフタレート、エチレンプロピレンジエンモノマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリブタジエン、ポリベンズイミダゾール、ポリアクリルニトリル、エピクロルヒドリン、ポリサルファイド、ポリイソプレン等のオリゴマー、ポリマー等を含有させることができる。
【0049】
ここで本発明においては、光触媒含有層が例えば図1(a)に示すように、基体11の全面に形成されていてもよいが、例えば図2に示すように、基体11上にパターン状に光触媒含有層12が形成されていてもよい。この場合、エネルギーが光触媒含有層側基板全面に照射された場合であっても、目的とする領域のみ、樹脂製基材の水との接触角を低下させることができる。したがって、フォトマスク等を用いる必要がない、という利点を有する。このような光触媒含有層のパターニング方法は、特に限定されるものではないが、例えばフォトリソグラフィー法等により行うことが可能である。
【0050】
(2)基体
次に、光触媒含有層基板に用いられる基体について説明する。本発明においては、図1に示すように、光触媒含有層基板は、少なくとも基体11とこの基体11上に形成された光触媒含有層12とを有するものである。
【0051】
本発明に用いられる基体は、上記光触媒含有層を形成可能なものであれば、特に限定されるものではなく、例えば可撓性を有する樹脂製フィルム等であってもよいし、可撓性を有さないもの、例えばガラス基板等であってもよい。
【0052】
なお、基体表面と上記光触媒含有層との密着性を向上させるため、また光触媒の作用による基体の劣化を防ぐために基体上に中間層を形成するようにしてもよい。このような中間層としては、シラン系、チタン系のカップリング剤や、反応性スパッタ法やCVD法等により作製したシリカ膜等が挙げられる。
【0053】
(3)光触媒含有層側遮光部
本発明に用いられる光触媒含有層側基板には、パターン状に形成された光触媒含有層側遮光部が形成されたものを用いても良い。このように光触媒含有層側遮光部を有する光触媒含有層側基板を用いることにより、エネルギー照射に際して、フォトマスクを用いたり、レーザ光による描画照射を行う必要がない。したがって、光触媒含有層側基板とフォトマスクとの位置合わせが不要であることから、簡便な工程とすることが可能であり、また描画照射に必要な高価な装置も不必要であることから、コスト的に有利となるという利点を有する。
【0054】
このような光触媒含有層側遮光部を有する光触媒含有層側基板は、光触媒含有層側遮光部の形成位置により、下記の二つの態様とすることができる。
【0055】
一つが、例えば図3に示すように、基体11上に光触媒含有層側遮光部15を形成し、この光触媒含有層側遮光部15上に光触媒含有層12を形成して、光触媒含有層側基板とする態様である。もう一つは、例えば図4に示すように、基体11上に光触媒含有層12を形成し、その上に光触媒含有層側遮光部15を形成して光触媒含有層側基板とする態様である。
【0056】
いずれの態様においても、フォトマスクを用いる場合と比較すると、光触媒含有層側遮光部が、上記光触媒含有層と樹脂製基材との配置部分の近傍に配置されることになるので、基体内等におけるエネルギーの散乱の影響を少なくすることができることから、エネルギーのパターン照射を極めて正確に行うことが可能となる。
【0057】
ここで、本発明においては、図4に示すような光触媒含有層12上に光触媒含有層側遮光部15を形成する態様である場合には、後述するように光触媒含有層側基板および樹脂製基材を所定の位置に配置する際の間隙の幅と、光触媒含有層側遮光部の膜厚とを一致させておくことができる。これにより、上記光触媒含有層側遮光部を上記間隙を一定のものとするためのスペーサとしても用いることができるという利点を有する。
【0058】
すなわち、所定の間隙をおいて上記光触媒含有層と樹脂製基材とを対向させた状態で配置する際に、上記光触媒含有層側遮光部と樹脂製基材とを密着させた状態で配置することにより、上記所定の間隙を正確とすることが可能となり、そしてこの状態でエネルギーを照射することにより、樹脂製基材と遮光部とが接触している部分の樹脂製基材は、濡れ性が変化せず、濡れ性変化パターンを精度良く形成することが可能となるのである。また、この際、エネルギーの照射方向は上記基体側からに限定されず、例えば樹脂製基材の側面からであってもよい。
【0059】
このような光触媒含有層側遮光部の形成方法は、特に限定されるものではなく、光触媒含有層側遮光部の形成面の特性や、必要とするエネルギーに対する遮蔽性等に応じて適宜選択されて用いられる。
【0060】
例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等により厚み1000〜2000Å程度のクロム等の金属薄膜を形成し、この薄膜をパターニングすることにより形成されてもよい。このパターニングの方法としては、スパッタ等の通常のパターニング方法を用いることができる。
【0061】
また、樹脂バインダ中にカーボン微粒子、金属酸化物、無機顔料、有機顔料等の遮光性粒子を含有させた層をパターン状に形成する方法であってもよい。用いられる樹脂バインダとしては、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ゼラチン、カゼイン、セルロース等の樹脂を1種または2種以上混合したものや、感光性樹脂、さらにはO/Wエマルジョン型の樹脂組成物、例えば、反応性シリコーンをエマルジョン化したもの等を用いることができる。このような樹脂製の光触媒含有層側遮光部の厚みとしては、0.5〜10μmの範囲内で設定することができる。このよう光触媒含有層側遮光部のパターニングの方法は、フォトリソ法、印刷法等一般的に用いられている方法を用いることができる。
【0062】
なお、上記説明においては、光触媒含有層側遮光部の形成位置として、基体と光触媒含有層との間、および光触媒含有層表面の二つの場合について説明したが、その他、基体の光触媒含有層が形成されていない側の表面に光触媒含有層側遮光部を形成する態様も採ることが可能である。この態様においては、例えばフォトマスクをこの表面に着脱可能な程度に密着させる場合等が考えられ、濡れ性変化パターンを小ロットで変更するような場合に好適に用いることができる。
【0063】
(4)プライマー層
次に、本発明の光触媒含有層側基板に用いられるプライマー層について説明する。本発明において、上述したように基体上に光触媒含有層側遮光部をパターン状に形成して、その上に光触媒含有層を形成して光触媒含有層側基板とする場合においては、上記光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層との間にプライマー層を形成してもよい。
【0064】
このプライマー層の作用・機能は必ずしも明確なものではないが、光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層との間にプライマー層を形成することにより、プライマー層は光触媒の作用による樹脂製基材の濡れ性変化を阻害する要因となる光触媒含有層側遮光部および光触媒含有層側遮光部間に存在する開口部からの不純物、特に、光触媒含有層側遮光部をパターニングする際に生じる残渣や、金属、金属イオン等の不純物の拡散を防止する機能を示すものと考えられる。したがって、プライマー層を形成することにより、高感度で濡れ性変化の処理が進行し、その結果、高解像度の濡れ性変化パターンを得ることが可能となるのである。
【0065】
なお、本発明においてプライマー層は、光触媒含有層側遮光部のみならず光触媒含有層側遮光部間に形成された開口部に存在する不純物が光触媒の作用に影響することを防止するものであるので、プライマー層は開口部を含めた光触媒含有層側遮光部全面にわたって形成されていることが好ましい。
【0066】
本発明におけるプライマー層は、光触媒含有層側基板の光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層とが接触しないようにプライマー層が形成された構造であれば特に限定されるものではない。
【0067】
このプライマー層を構成する材料としては、特に限定されるものではないが、光触媒の作用により分解されにくい無機材料が好ましい。具体的には無定形シリカを挙げることができる。このような無定形シリカを用いる場合には、この無定形シリカの前駆体は、一般式SiX4で示され、Xはハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、またはアセチル基等であるケイ素化合物であり、それらの加水分解物であるシラノール、または平均分子量3000以下のポリシロキサンが好ましい。
【0068】
また、プライマー層の膜厚は、0.001μmから1μmの範囲内であることが好ましく、特に0.001μmから0.1μmの範囲内であることが好ましい。
【0069】
c.エネルギーの照射方法
次に、本工程におけるエネルギーの照射方法について説明する。本工程においては、上記樹脂製基材と、上記光触媒含有層基板の光触媒含有層とを、所定の間隙をおいて配置し、パターン状にエネルギーを照射する。
【0070】
ここで、上記の配置とは、実質的に光触媒の作用が樹脂製基材に及ぶような状態で配置された状態をいうこととし、上記光触媒含有層と上記樹脂製基材とが密着している状態の他、所定の間隔を隔てて上記光触媒含有層と樹脂製基材とが配置された状態とする。この間隙は、200μm以下であることが好ましい。
【0071】
本発明において上記間隙は、光触媒の感度も高く、濡れ性変化の効率が良好である点を考慮すると特に0.2μm〜10μmの範囲内、好ましくは1μm〜5μmの範囲内とすることが好ましい。このような間隙の範囲は、特に間隙を高い精度で制御することが可能である小面積の樹脂製基材に対して特に有効である。
【0072】
一方、例えば300mm×300mm以上といった大面積の樹脂製基材に対して処理を行う場合は、上述したような微細な間隙を光触媒含有層基板と上記樹脂製基材との間に形成することは極めて困難である。したがって、樹脂製基材が比較的大面積である場合は、上記間隙は、10〜100μmの範囲内、特に50〜75μmの範囲内とすることが好ましい。間隙をこのような範囲内とすることにより、パターンの精度の低下の問題や、光触媒の感度が悪化して濡れ性変化の効率が悪化する等の問題が生じることなく、さらに濡れ性の変化にムラが発生しないといった効果を有するからである。
【0073】
このように比較的大面積の樹脂製基材にエネルギー照射する際には、エネルギー照射装置内の光触媒含有層基板と樹脂製基材との位置決め装置における間隙の設定を、10μm〜200μmの範囲内、特に25μm〜75μmの範囲内に設定することが好ましい。設定値をこのような範囲内とすることにより、光触媒の感度の大幅な悪化を招くことなく配置することが可能となるからである。
【0074】
このように光触媒含有層と樹脂製基材表面とを所定の間隔で離して配置することにより、酸素と水および光触媒作用により生じた活性酸素種が脱着しやすくなる。すなわち、上記範囲より光触媒含有層と樹脂製基材との間隔を狭くした場合は、上記活性酸素種の脱着がしにくくなり、結果的に濡れ性を変化させる速度を遅くしてしまう可能性があることから好ましくない。また、上記範囲より間隔を離して配置した場合は、生じた活性酸素種が樹脂製基材に届き難くなり、この場合も濡れ性を変化させる速度を遅くしてしまう可能性があることから好ましくない。
【0075】
このような極めて狭い間隙を均一に形成して光触媒含有層と樹脂製基材とを配置する方法としては、例えばスペーサを用いる方法を挙げることができる。そして、このようにスペーサを用いることにより、均一な間隙を形成することができるからである。また、このようなスペーサを用いることにより、光触媒の作用により生じた活性酸素種が拡散することなく、高濃度で樹脂製基材表面に到達することから、効率よく樹脂製基材表面に濡れ性変化パターンを形成することができる。
【0076】
なお、上記光触媒含有層が可撓性を有する樹脂フィルム等の可撓性を有する基体上に形成された光触媒含有層基板を用いる場合においては、上述したような間隙を設けることが難しく、製造効率等の面から、上記光触媒含有層と樹脂製基材とが接触するように配置されていることが好ましい。
【0077】
本発明においては、このような光触媒含有層基板の配置状態は、少なくともエネルギー照射の間だけ維持されればよい。
【0078】
なお、本発明でいうエネルギー照射(露光)とは、光触媒含有層による樹脂製基材の濡れ性を変化させることが可能ないかなるエネルギー線の照射をも含む概念であり、可視光の照射に限定されるものではない。
【0079】
通常このようなエネルギー照射に用いる光の波長は、400nm以下の範囲、好ましくは380nm以下の範囲から設定される。これは、上述したように光触媒含有層に用いられる好ましい光触媒が二酸化チタンであり、この二酸化チタンにより光触媒作用を活性化させるエネルギーとして、上述した波長の光が好ましいからである。
【0080】
このようなエネルギー照射に用いることができる光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ、その他種々の光源を挙げることができる。このようなエネルギーをパターン状に照射する方法としては、例えばフォトマスクを用いる方法や、上述したように光触媒含有層側基板に光触媒含有層側遮光部を形成する方法等が挙げられる。
【0081】
また、上述したような光源を用いてエネルギーを照射する方法の他、エキシマ、YAG等のレーザを用いてパターン状に描画照射する方法を用いることも可能である。
【0082】
ここで、エネルギー照射に際してのエネルギーの照射量は、樹脂製基材が光触媒含有層中の光触媒の作用により濡れ性が変化するのに必要な照射量とする。またこの際、光触媒含有層を加熱しながらエネルギー照射することにより、感度を上昇させることが可能となり、効率的に濡れ性を変化させることができる点で好ましい。具体的には30℃〜80℃の範囲内で加熱することが好ましい。
【0083】
ここで、本工程においては、上記樹脂製基材表面の水との接触角が30°以下、中でも15°以下となるようにエネルギーを照射することが好ましい。上記樹脂製基材表面の濡れ性の変化が小さい場合には、機能性部を形成するための機能性部形成用塗工液を塗布した際、濡れ性変化パターン上に付着させることが困難となり、機能性部に欠け等が生じる場合があるからである。また、この際、上記樹脂製基材表面の表面粗さが0.5nm〜100nm程度、中でも0.5nm〜50nm程度となるようにエネルギー照射が行われることが好ましい。これにより、樹脂製基材表面の凹凸のアンカー効果によって、濡れ性変化パターン上に形成される機能性部と樹脂製基材との密着性が良好なものとすることができるからである。上記表面粗さは、触針式表面形状測定器(Dektak 6M(Veeco Instruments Inc.製))により測定される値である。なお、本工程により形成される濡れ性変化パターンの形状は、パターン形成体の用途等に合わせて適宜選択されることとなる。
【0084】
(その他)
また、本発明においては、上述したエネルギー照射工程だけでなく、必要に応じて例えば樹脂製基材の形状を調整する工程や、樹脂製基材上に遮光部等を形成する工程等を有していてもよい。
【0085】
なお、本発明により製造されたパターン形成体は、例えば上記濡れ性変化パターンの濡れ性の差を利用して着色層を形成するカラーフィルタの製造や、上記濡れ性変化パターンの濡れ性の差を利用してレンズを形成するマイクロレンズの製造、上記濡れ性変化パターンの濡れ性の差を利用して導電性パターンを形成する配線基板の製造等、種々の機能性部を有する機能性素子の製造に用いられるものとすることができる
【0086】
B.配線基板の製造方法
次に、本発明の配線基板の製造方法について説明する。本発明の配線基板の製造方法は、上述したパターン形成体の製造方法により形成されたパターン形成体の濡れ性変化パターン上に、導電性パターンを形成する導電性パターン形成工程を有することを特徴とするものである。
【0087】
本発明の配線基板の製造方法においては、例えば図5に示すように、上述したパターン形成体の製造方法により製造されたパターン形成体の樹脂製基材1上に、導電性パターンを形成するための導電性パターン形成用塗工液16を塗布すること等により(図5(a))、上記パターン形成体の濡れ性変化パターン3の濡れ性の差を利用して、上記濡れ性変化パターン3上にのみ、導電性パターン4を形成する(図5(b))導電性パターン形成工程を有するものである。
【0088】
本発明においては、上述したパターン形成体上に、濡れ性の低下した濡れ性変化パターンが形成されていることから、例えば上記樹脂製基材上に導電性パターンを形成する導電性パターン形成用塗工液を塗布した際、上記濡れ性変化パターン上にのみ導電性パターン形成用塗工液が付着するものとすることができる。したがって、複雑な工程や特別な装置等を必要とすることなく、高精細なパターン状に導電性パターンを形成することができ、製造効率やコストの面からも好ましい配線基板の製造方法とすることができるのである。またこの際、上記パターン形成体の濡れ性変化パターン上には、微細な凹凸が形成されていることから、この凹凸によるアンカー効果によって、上記導電性パターンと樹脂製基材との密着性が良好なものとすることができるという利点も有する。
以下、本発明の配線基板の製造方法における導電性パターン形成工程について説明する。
【0089】
(導電性パターン形成工程)
導電性パターン形成工程における導電性パターンの形成方法は、上記濡れ性変化パターンの濡れ性の差を利用して、上記濡れ性変化パターン上に導電性パターンを形成可能な方法であれば、特に限定されるものではなく、樹脂製基材の形状や導電性パターン形成用塗工液の種類等により適宜選択される。このような導電性パターンの形成方法としては、例えばブレードコート法やダイコート法、スリットコート法、スピンコート法、ビードコート法、キャピラリーコート法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、マイクロコンタクトプリント法、ディップコート法等、上記樹脂製基材全面に導電性パターン形成用塗工液を塗布する方法であってもよく、また例えばインクジェット法や、電解ジェット法、ディスペンサーを用いた塗布法等により、上記濡れ性変化パターン上にのみ、導電性パターン形成用塗工液を塗布する方法等であってもよい。
【0090】
本発明においては、上記の中でもブレードコート法やダイコート法、キャピラリーコート法、スリットコート法、ビードコート法等、樹脂製基材全面に上記導電性パターン形成体用塗工液を塗布することが可能であり、かつ塗布方向に一定の圧力がかけられる方法であることが好ましい。このような方法を用いることにより、上記濡れ性変化パターン上に、より高精細に、効率よく導電性パターンを形成することができるからである。
【0091】
ここで、本発明でいう導電性パターンとは、例えば電極や金属配線等、種々の導電性を有するパターンをいうこととし、その種類や形状等は、配線基板の用途に応じて適宜選択される。なお、本工程において形成される導電性パターンは、一種類の導電性パターンである必要はなく、複数種類の導電性パターンが上記濡れ性変化パターン上に形成されてもよい。
【0092】
また、本工程により形成される導電性パターンの膜厚としては、上記導電性パターンの用途等に応じて適宜選択されるものであるが、通常5nm〜10μm程度、中でも100nm〜3μm程度とされる。
【0093】
またさらに、上記導電性パターンを形成する材料については、上記導電性パターンの種類等に応じて適宜選択することができ、通常、金、銀、白金、ニッケル、クロム、モリブデン、タンタル、タングステン等の貴金属やこれらの合金、銅、アルミニウム、カーボン等の導電率が高い材料を含有する金属コロイドゾルゲル溶液等を用いることができる。また、例えばPEDOTやポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性ポリマーを含有する溶液等を用いることもできる。
【0094】
(その他)
本発明においては、上述した導電性パターン形成工程以外に、例えば保護層を形成する工程等、適宜他の工程を有していてもよい。また、本発明の配線基板の製造方法においては、上述した「A.パターン形成体の製造方法」におけるエネルギー照射工程と、上記配線工程とを繰り返し行い、複数種類の導電性パターンを形成するものであってもよい。
【0095】
C.有機薄膜トランジスタの製造方法
次に、本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法について説明する。本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法は、2つの実施態様がある。以下、それぞれの態様にわけて説明する。
【0096】
1.第1実施態様
まず、本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法の第1実施態様について説明する。本発明の第1実施態様におけるトランジスタの製造方法は、基板、上記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、上記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、上記第1導電性パターンと上記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、上記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、上記第2導電性パターンが上記ゲート電極または上記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ上記有機半導体層が上記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタの製造方法であって、上記第1導電性パターンまたは上記第2導電性パターンを、上述した配線基板の製造方法を用いて形成することを特徴とする方法である。
【0097】
本実施態様の有機薄膜トランジスタの製造方法は、例えば図6に示すように、樹脂製の基板21と、その基板21上に形成された第1導電性パターン24と、上記第1導電性パターン24を覆うように形成された絶縁層25と、上記第1導電性パターン24と絶縁層25を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン28と、有機半導体層27とを有する有機薄膜トランジスタを製造する方法である。ここで、上記第1導電性パターン24は、ゲート電極、または一対のソース電極およびドレイン電極のいずれか一方であり、上記第2導電性パターン28はもう一方とされる。例えば図6に示すように、第1導電性パターン24をゲート電極とし、第2導電性パターン28をソース電極またはドレイン電極としてもよく、また例えば図7に示すように、第1導電性パターン24をソース電極またはドレイン電極とし、第2導電性パターン28をゲート電極としてもよい。また、上記第2導電性パターン28は、例えば図6および図7に示されるように、後述する絶縁層25上に形成されるものであってもよく、また例えば図8に示すように、基板21上に形成されるものであってもよい。なお、上記有機半導体層は、上記ソース電極およびドレイン電極と接するように形成され、例えば図9に示すように、ソース電極およびドレイン電極である第2導電性パターン28が有機半導体層27上に形成されていてもよく、また例えば図10に示すように、ソース電極およびドレイン電極である第1導電性パターン24が有機半導体層27上に形成されていてもよい。
【0098】
ここで、本実施態様の有機薄膜トランジスタの製造方法においては、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンのいずれか一方、もしくは両方を上述した配線基板の製造方法を用いて形成する。すなわち、本実施態様の有機薄膜トランジスタの製造方法においては、第1導電性パターンまたは第2導電性パターンを形成する際、上記基板または絶縁層を、上述した「B.配線基板の製造方法」の項における樹脂製基材として用い、例えば図1に示すように、この基板または絶縁層1と、上述した光触媒含有層側基板13の光触媒含有層12とを対向させて配置し、エネルギー2を照射することにより(図1(b))、上記基板または絶縁層1上に水との接触角が低下した濡れ性変化パターン3を形成する(図1(c))エネルギー照射工程を行う。その後、例えば図5(b)に示すように、上記濡れ性変化パターン3の濡れ性を利用して、濡れ性変化パターン3上に上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターン4を形成する導電性パターン形成工程を行うのである。
【0099】
本実施態様によれば、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンを、上記配線基板の製造方法を用いて形成することから、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンを、複雑な工程や特別な装置等を必要とすることなく、高精細なパターン状に形成することができる。したがって、製造効率やコスト等の面から好ましい有機薄膜トランジスタの製造方法とすることができるのである。
【0100】
また、上記濡れ性変化パターンには、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、表面に凹凸が形成されることとなることから、本実施態様によれば、この凹凸のアンカー効果によって、上記濡れ性変化パターン上に形成された第1導電性パターンまたは第2導電性パターンと基板等との密着性が良好なものとすることができる、という利点も有する。
【0101】
ここで、本実施態様においては、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンのうち、いずれか一方を、上記方法により形成すればよく、例えば上記第1導電性パターンのみを上記エネルギー照射工程および導電性パターン形成工程を用いて形成し、第2導電性パターンを一般的な導電性パターンの形成方法により形成してもよく、また上記第1導電性パターンを一般的な導電性パターンの形成方法により形成し、上記第2導電性パターンのみを上記エネルギー照射工程および導電性パターン形成工程を用いて形成してもよい。本実施態様においては、特に第1導電性パターンおよび第2導電性パターンを上記エネルギー照射工程および導電性パターン形成工程を用いて形成することが好ましい。これにより、製造効率やコスト等の面からより好ましい有機薄膜トランジスタの製造方法とすることができるからである。
【0102】
ここで、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンの形成に用いられるエネルギー照射工程および導電性パターン形成工程については、上述した「A.パターン形成体の製造方法」および「B.配線基板の製造方法」の項で説明した工程と同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0103】
また、本実施態様の有機薄膜トランジスタの製造方法においては、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンを、上記配線基板の製造方法を用いて形成するものであれば、その他の工程については特に限定されるものではなく、例えば有機半導体層を形成する工程や、絶縁層を形成する工程等を有していてもよい。なお、上記第1導電性パターンおよび第2導電性パターンの形成の際に用いられる材料や、基板、絶縁層、および有機半導体層については、後述する「D.有機薄膜トランジスタ」で説明するものと同様のものを用いることができる。また、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターン以外の部材の形成方法としては、一般的な有機薄膜トランジスタの製造方法の際に用いられる方法と同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0104】
なお、本実施態様において、上記有機半導体層は後述する第2実施態様で説明する方法によって形成することが好ましい。これにより、上記有機半導体層形成の際に、複雑な工程や特別な装置等を必要とすることなく、製造効率やコスト等の面からより好ましい有機薄膜トランジスタの製造方法とすることができるからである。
【0105】
2.第2実施態様
次に、本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法の第2実施態様について説明する。本発明の第2実施態様における有機薄膜トランジスタの製造方法は、基板、上記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、上記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、上記第1導電性パターンと上記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、上記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、上記第2導電性パターンが上記ゲート電極または上記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ上記有機半導体層が上記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタの製造方法であって、上記有機半導体層を、上記パターン形成体の製造方法により製造されるパターン形成体の上記濡れ性変化パターンを利用して形成することを特徴とする方法である。
【0106】
本実施態様のトランジスタの製造方法は、例えば図6に示すように、樹脂製の基板21と、その基板21上に形成された第1導電性パターン24と、上記第1導電性パターン24を覆うように形成された絶縁層25と、上記第1導電性パターン24と絶縁層25を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン28と、有機半導体層27とを有する有機薄膜トランジスタを製造する方法である。ここで、上記第1導電性パターン24は、ゲート電極、または一対のソース電極およびドレイン電極のいずれか一方であり、上記第2導電性パターン28はもう一方とされる。例えば図6に示すように、第1導電性パターン24をゲート電極とし、第2導電性パターン28をソース電極またはドレイン電極としてもよく、また例えば図7に示すように、第1導電性パターン24をソース電極またはドレイン電極とし、第2導電性パターン28をゲート電極としてもよい。また、上記第2導電性パターン28は、例えば図6および図7に示されるように、後述する絶縁層25上に形成されるものであってもよく、また例えば図8に示すように、基板21上に形成されるものであってもよい。なお、上記有機半導体層は、上記ソース電極およびドレイン電極と接するように形成され、例えば図9に示すように、ソース電極およびドレイン電極である第2導電性パターン28が有機半導体層27上に形成されていてもよく、また例えば図10に示すように、ソース電極およびドレイン電極である第1導電性パターン24が有機半導体層27上に形成されていてもよい。
【0107】
ここで、本実施態様の有機薄膜トランジスタの製造方法においては、上記有機半導体層を、上述した「A.パターン形成体の製造方法」により製造されるパターン形成体の上記濡れ性変化パターンを利用して形成する。すなわち、上記基板または絶縁層を、上述した「A.パターン形成体の製造方法」の項で説明した樹脂製基材として用い、例えば図1に示すように、この基板または絶縁層1と、上述した光触媒含有層側基板13の光触媒含有層12とを対向させて配置し、エネルギー2を照射することにより(図1(b))、上記基板または絶縁層1上に水との接触角が低下した濡れ性変化パターン3を形成する(図1(c))エネルギー照射工程を行う。その後、上記濡れ性変化パターンの濡れ性を利用して、上記濡れ性変化パターン上に有機半導体層を形成する有機半導体層形成用塗工液を塗布等して、有機半導体層を形成する工程を行うものである。
【0108】
本実施態様によれば、上記有機半導体層を、上記基板上、または絶縁層上に形成された濡れ性変化パターンを利用して形成することから、高精細なパターン状に形成することができる。またこの際、上記導電性パターン形成の際に、複雑な工程や特別な装置等が必要ないことから、製造効率やコスト等の面から好ましい有機薄膜トランジスタの製造方法とすることができるのである。
【0109】
また、上記濡れ性変化パターンには、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、表面に凹凸が形成されることとなることから、この凹凸のアンカー効果によって、上記濡れ性変化パターン上に形成された有機半導体層と基板または絶縁層との密着性が良好なものとすることができる、という利点も有する。
【0110】
ここで、本実施態様において有機半導体層形成の際に行われる濡れ性変化パターンの形成等については、上述した「A.パターン形成体の製造方法」で説明したものと同様とすることができ、また上記濡れ性変化パターン上に有機半導体層を形成する方法としては、「B.配線基板の製造方法」における導電性パターン形成工程における導電性パターンの形成方法と同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0111】
また、本実施態様の有機薄膜トランジスタの製造方法は、上記有機半導体層を、上記パターン形成体の製造方法により製造されるパターン形成体の上記濡れ性変化パターンを利用して形成するものであれば、他の工程については特に限定されるものではなく、例えば第1導電性パターンや第2導電性パターンを形成する工程、絶縁層を形成する工程等を有していてもよい。なお、上記有機半導体層の形成に用いられる材料や、基板、絶縁層、第1導電性パターン、および第2導電性パターンについては、後述する「D.有機薄膜トランジスタ」で説明するものと同様のものを用いることができる。また、上記有機半導体層以外の部材の形成方法としては、一般的な有機薄膜トランジスタの製造方法の際に用いられる方法と同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0112】
D.有機薄膜トランジスタ
次に、本発明の有機薄膜トランジスタについて説明する。本発明の有機薄膜トランジスタは、基板、上記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、上記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、上記第1導電性パターンと上記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、上記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、上記第2導電性パターンが上記ゲート電極または上記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ上記有機半導体層が上記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタであって、上記第1導電性パターンまたは上記第2導電性パターンのそれぞれの中央部における膜厚が、それぞれ上記第1導電性パターンまたは上記第2導電性パターンの最大膜厚に対して所定の範囲内であることを特徴とするものである。
【0113】
本発明の有機薄膜トランジスタは、例えば図6に示すように、樹脂製の基板21と、その基板21上に形成された第1導電性パターン24と、上記第1導電性パターン24を覆うように形成された絶縁層25と、上記第1導電性パターン24と絶縁層25を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン28と、有機半導体層27とを有するものである。ここで、上記第1導電性パターン24は、ゲート電極、または一対のソース電極およびドレイン電極のいずれか一方であり、上記第2導電性パターン28はもう一方とされる。例えば図6に示すように、第1導電性パターン24をゲート電極とし、第2導電性パターン28をソース電極またはドレイン電極としてもよく、また例えば図7に示すように、第1導電性パターン24をソース電極またはドレイン電極とし、第2導電性パターン28をゲート電極としてもよい。なお、上記有機半導体層は、上記ソース電極およびドレイン電極と接するように形成され、例えば図9に示すように、ソース電極およびドレイン電極である第2導電性パターン28が有機半導体層27上に形成されていてもよく、また例えば図10に示すように、ソース電極およびドレイン電極である第1導電性パターン24が有機半導体層27上に形成されていてもよい。
【0114】
また本発明においては、例えば図11に示すように、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターン9の中央部における膜厚aが、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンの最大膜厚bに対して所定の範囲内とされるものである。なお、本発明でいう中央部とは、導電性パターンの幅を4等分した際、中央の2つの領域をいうこととする。本発明においては、この中央部内に、最大膜厚に対して所定の範囲内となる部分が含まれていればよい。本発明においては特に、上記中央部全体が、上記範囲となるように形成されていることが好ましい。
【0115】
ここで、上記第1導電性パターン等の中央部が盛り上がった形状とされている場合には、第1導電性パターン等の上に形成された層の膜厚が、上記中央部近傍で薄くなってしまう。しかしながら、本発明によれば、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンが、中央部が凹んだ形状、もしくは平らな形状とされていることから、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターン上に形成される層の膜厚を、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンの中央部近傍で均一なものとしやすくなる。また上記第1導電性パターンの膜厚が上記範囲内とされている場合には特に、上記第1導電性パターン状に形成される層の膜厚を均一なものとしやすく、ゲート電極およびソース・ドレイン電極の性能を十分に発揮させることができるという利点も有している。
【0116】
なお、本発明においては、第1導電性パターンのみが上記形状を有するものであってもよく、また第2導電性パターンのみが上記形状を有するものであってもよいが、特に、第1導電性パターンおよび第2導電性パターンの両方が、上記形状を有するものとされることが好ましい。これにより、より高品質な有機薄膜トランジスタとすることができるからである。以下、本発明の有機薄膜トランジスタの各構成ごとに詳しく説明する。
【0117】
1.第1導電性パターン
まず、本発明の有機薄膜トランジスタにおける第1導電性パターンについて説明する。本発明に用いられる第1導電性パターンは、後述する基板上にパターン状に形成されたものであって、ゲート電極、または一対のソース電極およびドレイン電極のいずれかとして用いられるものである。
【0118】
このような第1導電性パターンは、金、銀、白金、ニッケル、クロム、モリブデン、タンタル、タングステン等の貴金属やこれらの合金、銅、アルミニウム、カーボン等の導電率が高い材料により形成されたものとすることができる。また、例えばPEDOTやポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性ポリマーを用いて形成されたもの等とすることもできる。
【0119】
ここで、本発明においては、上述したように、上記第1導電性パターン中央部における膜厚が、第1導電性パターンの最大膜厚に対して50%〜100%の範囲内、中でも60%〜90%の範囲内、特に80%〜90%の範囲内とされることが好ましい。第1導電性パターンの形状を、このようなものとすることにより、上記第1導電性パターン状に形成される層の膜厚を均一なものとしやすく、ゲート電極およびソース・ドレイン電極の性能を十分に発揮させることが可能となるからである。なお、上記値は、例えば有機薄膜トランジスタを触針式表面形状測定器(Dektak 6M(Veeco Instruments Inc.製))により測定した値とすることができる。
【0120】
また上記第1導電性パターンの表面粗さは0.1nm〜100nm、程度、中でも0.1nm〜50nm程度とされることが好ましい。これにより、第1導電性パターンとその上に形成される層との境界面を平坦なものとすることができ、本発明の有機薄膜トランジスタが安定した性能を有するものとすることができるからである。上記表面粗さは上記触針式表面形状測定器により測定することができる。
【0121】
また本発明においては特に、上記第1導電性パターンの端部の立ち上がりの角度が高いことが好ましい。これにより、第1導電性パターンの性能を発揮し易いものとすることができるからである。上記端部の形状として具体的には、例えば図11に示すように、第1導電性パターン9の端部領域sにおいて、第1導電性パターンの最大膜厚bの50%(cで表される高さ)以下の膜厚となる部分tの幅が、端部領域の幅sの2/3以下、中でも1/2以下であることが好ましい。なお、上記端部領域の幅とは、基板と第1導電性パターンとの境界部分から、上記第1導電性パターンの最大膜厚となる部分までの幅をいうこととする。なお、上記形状の観察は、本発明の有機薄膜トランジスタの断面を、走査型電子顕微鏡等によって観察すること等により行うことができる。このような形状を有する第1導電性パターンは、上述した「C.有機薄膜トランジスタの製造方法」の第1実施態様で説明した方法により形成することができる。
【0122】
またこの際、上記第1導電性パターンの最大膜厚としては、有機薄膜トランジスタの種類等により、適宜選択されるものであるが、通常5nm〜10μm程度、中でも100nm〜4.0μm程度とされる。
【0123】
2.第2導電性パターン
次に、本発明の有機薄膜トランジスタに用いられる第2導電性パターンについて説明する。本発明に用いられる第2導電性パターンは、後述する絶縁層を挟んで、上記第1導電性パターンと対向して形成されるものであって、ゲート電極、または一対のソース電極およびドレイン電極のいずれかとされる。ここで上記第2導電性パターンが、上記絶縁層を挟んで第1導電性パターンと対向して形成されるとは、上記第1導電性パターンと第2導電性パターンとの間に絶縁層が形成されており、第1導電性パターンと第2導電性パターンとが接しないように形成されていることをいう。なお、本発明において、上記第2導電性パターンは、例えば図6に示すように、絶縁層25上に形成されているものであってもよく、また例えば図11に示すように、基板21上に形成されているものであってもよい。
【0124】
また、本発明においては、上述したように、上記第2導電性パターン中心部における第2導電性パターンの膜厚が、第2導電性パターンの最大膜厚に対して50%〜100%の範囲内、中でも60%〜90%の範囲内、特に80%〜90%の範囲内とされることが好ましい。これにより、上記第2導電性パターン状に形成される層の膜厚を均一なものとしやすくなるからである。なお、上記値は、上述した方法により測定することができる。
【0125】
また上記第2導電性パターンの表面粗さは、0.1nm〜100nm、程度、中でも0.1nm〜50nm程度とされることが好ましい。これにより、第2導電性パターンとその上に形成される層との境界面を平坦なものとすることができ、本発明の有機薄膜トランジスタが安定した性能を有するものとすることができるからである。上記表面粗さは上述した方法により測定することができる。
【0126】
また本発明においては特に、上記第2導電性パターンの端部の立ち上がりの角度が高いことが好ましい。これにより、第2導電性パターンの性能を発揮し易いものとすることができるからである。上記端部の形状として具体的には、例えば図11に示すように、第2導電性パターン9の端部領域sにおいて、第2導電性パターンの最大膜厚bの50%(cで表される高さ)以下の膜厚となる部分tの幅が、端部領域の幅sの2/3以下、中でも1/2以下であることが好ましい。なお、上記端部領域の幅とは、第2導電性パターンの最端部から、上記第2導電性パターンの最大膜厚となる部分までの幅をいうこととする。なお、上記形状の観察は、本発明の有機薄膜トランジスタの断面を、走査型電子顕微鏡等によって観察すること等により行うことができる。
【0127】
またこの際、上記第2導電性パターンの最大膜厚としては、有機薄膜トランジスタの種類等により、適宜選択されるものであるが、通常5nm〜10.0μm程度、中でも100nm〜4.0μm程度とされることが好ましい。
【0128】
3.絶縁層
次に、本発明の有機半導体トランジスタに用いられる絶縁層について説明する。本発明に用いられる絶縁層は、上記第1導電性パターンを覆うように形成されるものであって、絶縁性を有するものであれば、特に限定されるものではない。
【0129】
なお、上記第2導電性パターンが絶縁層上に形成される場合であって、第2導電性パターンが、上述した「B.配線基板の製造方法」で説明した方法を用いて形成される場合には特に、撥液性を有する樹脂製の層が上記絶縁層として用いられる。この際の絶縁層の水との接触角は、60°以上、中でも70°〜180°の範囲内、特に90°〜180°の範囲内とされることが好ましい。上記絶縁層の撥水性が低い場合には、第2導電性パターンを形成する第2導電性パターン形成用塗工液が、エネルギー照射されていない領域にも付着してしまい、上記濡れ性変化パターンのみに高精細に第2導電性パターンを形成することが困難となるからである。ここでいう水との接触角は上述した方法により得られるものである。
【0130】
このような絶縁層を形成する材料として具体的には、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリビニルフェノール(PVP)、アクリル、SiO2、ポリイミド、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。なお、上記絶縁層の形成方法としては、上記導電性パターンを覆うように絶縁層を形成可能な方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な有機薄膜トランジスタにおける絶縁層の形成方法と同様とすることができる。また、上記絶縁層の形状についても特に限定されるものではなく、例えば図6に示すように、上記基板の全面に形成されるものであってもよく、例えば図8に示すように、上記基板の一部にパターン状に形成されるもの等であってもよい。
【0131】
また、上記絶縁層の膜厚としては、有機薄膜トランジスタの種類等により、適宜選択されるものであるが、通常5nm〜10μm程度、中でも100nm〜4.0μm程度とされることが好ましい。
【0132】
4.基板
次に、本発明に用いられる基板について説明する。本発明に用いられる基板は、上記第1導電性パターンや上記絶縁層等が形成可能なものであり、絶縁性の高いものであれば、特に限定されるものではなく、一般的に有機薄膜トランジスタに用いられる基板と同様とすることができる。なお、本発明においては、上記基板上に少なくとも上記第1導電性パターンが形成されることから、第1導電性パターンの形成の際にかけられる熱に対する耐性を有するものが用いられることが好ましい。
【0133】
ここで、上述したように、第1導電性パターン等が、上述した「B.配線基板の製造方法」で説明した方法を用いて形成される場合には特に、撥液性を有する樹脂製のものが基板として用いられることとなる。この際の上記基板の水との接触角は、60°以上、中でも70°〜180°の範囲内、特に90°〜180°の範囲内とされることが好ましい。上記基板の撥水性が低い場合には、第1導電性パターン等を形成する導電性パターン形成用塗工液が塗布された際、エネルギー照射されていない領域にも付着してしまい、上記濡れ性変化パターンのみに高精細に第1導電性パターン等を形成することが困難となるからである。ここでいう水との接触角は上述した方法により得られるものである。
【0134】
このような撥液性を有し、上記基板に用いることが可能な樹脂としては、例えばポリエチレンナフタレート(PEN)や、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、弗化ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフォン、アラミカ(登録商標)、トレリナ(登録商標)、環状ポリオレフィン等が挙げられる。
【0135】
5.有機半導体層
次に、本発明に用いられる有機半導体層について説明する。本発明に用いられる有機半導体層としては、上記第1導電性パターンまたは第2導電性パターンのうち、ソース電極およびドレイン電極として用いられる方と隣接して形成され、上記ソース電極およびドレイン電極とに接するように形成される。ここで、上記有機半導体層は、上記ソース電極およびドレイン電極と一部重なるように形成されていてもよく、例えば有機半導体層が、上記ソース電極やドレイン電極上に形成されていてもよく、また上記ソース電極やドレイン電極の下に形成されていてもよい。
【0136】
このような有機半導体層の材料としては、一般的な有機半導体層に用いられるものを用いることができ、例えばπ電子共役系の芳香族化合物、鎖式化合物、有機顔料、有機ケイ素化合物等からなる層が用いられる。具体的な材料としては、ペンタセン、テトラセン、チオフェンオリゴマ誘導体、フェニレン誘導体、フタロシアニン化合物、ポリアセチレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、シアニン色素等が挙げられる。
【0137】
また、上記有機半導体層の形成方法としては、一般的な有機薄膜トランジスタにおける有機半導体層の形成方法と同様とすることができるが、特に上述した「C.有機薄膜トランジスタ」の第2実施態様で説明した有機半導体層の形成方法と同様の方法により上記有機半導体層が形成されることが好ましい。これにより、有機半導体層が複雑な工程を経ることなく形成されたものとすることができ、より製造効率やコスト等の面から好ましい有機薄膜トランジスタとすることができるからである。また、上記有機半導体層と基板等との密着性も高いものとすることができ、高品質な有機薄膜トランジスタとすることもできる、という利点も有するからである。
【0138】
なお、上記有機半導体層の膜厚としては、有機薄膜トランジスタの種類等により、適宜選択されるものであるが、通常5nm〜5.0μm程度、中でも5nm〜100nm程度とされる。
【0139】
6.有機薄膜トランジスタ
本発明の有機薄膜トランジスタは、上記基板、第1導電性パターン、絶縁層、第2導電性パターン、および有機半導体層を有するものであれば特に限定されるものではなく、必要に応じて、例えば共通電極等を有するものであってもよい。また、例えば絶縁層や第1導電性パターン、第2導電性パターン等を複数層有するものであってもよい。このような有機薄膜トランジスタの構成としては、一般的な有機薄膜トランジスタの構成と同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0140】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0141】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例]
(光触媒含有層側基板の作製)
石英ガラス(基体)上に、ライン幅およびスペース幅がいずれも50μmであり、厚みが0.2μmであるクロムからなる遮光パターンが形成されたフォトマスクを準備した。このフォトマスクの遮光パターン上に下記の成分を混合後、温度25℃で24時間攪拌して調製したプライマー層形成用組成物を塗布した。その後、温度120℃で20分間加熱し、0.1μmの厚みのプライマー層を形成した。
(プライマー層形成用組成物)
・0.1規定塩酸水溶液 50g
・テトラメトキシシラン 100g
次いで、二酸化チタンを含有する光触媒無機用コーティング剤(石原産業製、商品名「ST−K03」)を、上記プライマー層上に塗布し、温度150℃で20分間加熱し、膜厚0.15μmの光触媒含有層を有する光触媒含有層側基板を形成した。
【0142】
(第1導電性パターンの作製)
続いて、PENフィルム基板(200μm厚、帝人デュポンフィルム株式会社、商品名「テオネックスフィルム」)と、上述した光触媒含有層側基板の光触媒含有層とが接触するように密着させ、光触媒含有層側より20mW/cm2の照度で、波長が365nmである紫外線を照射した。紫外線が未照射である領域は、濡れ性標準試薬(40mN/m)との接触角は70°であった。また紫外線が照射された領域については、濡れ性が変化した。この領域においては、濡れ性標準試薬(40mN/m)との接触角が30°以下となるまでに150秒かかった。
続いて、紫外線照射により濡れ性変化パターンが形成されたPENフィルム基板の表面にAgコロイド(バンドー化学)をブレードコーターにより塗布することにより、紫外線照射部にのみ、水系Agコロイドを付着させることができた。これを150℃で30分間焼成することにより、厚みが150nm、ライン幅およびスペース幅がいずれも50μmの第1導電性パターンが、PENフィルム基板上に形成された。
上記第1導電性パターンの表面形状を、触針式表面形状測定器(Dektak 6M(Veeco Instruments Inc.製))により測定したところ、第1導電性パターンの最大膜厚は108nmであり、第1導電性パターンの中心部における膜厚が87nm(最大膜厚に対して80.6%)であった。
【0143】
(絶縁層の形成)
次いで、上記第1導電性パターンが形成されたPENフィルム基板上に、絶縁材料であるカルド系アクリル樹脂(新日鐵化学社製)をスクリーン印刷法によりパターン状に塗工し、これを150℃で30分間焼成することにより、厚み1.0μmの絶縁層を形成した。
【0144】
(第2電極層パターンの形成)
次いで、上述した光触媒含有層側基板と同様の作製方法により、第2導電性パターンを形成するためのネガパターンを有する光触媒含有層側基板を準備した。上記光触媒含有層側基板の光触媒含有層と上記絶縁層とが接触するように密着させ、光触媒含有層側より20mW/cm2の照度で、波長が365nmである紫外線を照射した。紫外線が未照射である領域は、濡れ性標準試薬(40mN/m)との接触角は70°であった。また紫外線が照射された領域については、濡れ性が変化した。この領域においては、濡れ性標準試薬(40mN/m)との接触角が30°以下となるまでに900秒かかった。
続いて、紫外線照射により濡れ性変化パターンが形成された絶縁層の表面にAgコロイド(バンドー化学)をブレードコーターにより塗布することにより、紫外線照射部にのみ、水系Agコロイドを付着させることができた。これを150℃で30分間焼成することにより、厚みが150nm、ライン幅およびスペース幅がいずれも50μmの第2導電性パターンが、絶縁層上に形成された。
上記第2導電性パターンの表面形状を、触針式表面形状測定器(Dektak 6M(Veeco Instruments Inc.製))により測定したところ、第2導電性パターンの最大膜厚は98nmであり、第2導電性パターンの中心部における膜厚は52nm(最大膜厚に対して53.1%)であった。
【0145】
(有機半導体層の形成)
次いで、上記第2導電性パターンが形成された絶縁層上に、上述した方法と同様に形成され、有機半導体ネガパターンを有する光触媒含有層側基板が接触するように配置し、光触媒含有層側より20mW/cm2の照度で、波長が365nmである紫外線を照射した。紫外線が未照射である領域は、濡れ性標準試薬(40mN/m)との接触角は70°であった。また紫外線が照射された領域は、濡れ性が変化した。この領域においては、濡れ性標準試薬(40mN/m)との接触角が30°以下となるまでに150秒かかった。
次いで、紫外線照射により、有機半導体を形成するパターン状に濡れ性変化パターンが形成された絶縁層に、ポリー3−ヘキシルチオフェン(メルク株式会社)を、ブレードコーターにより塗布することにより、上記濡れ性変化パターン状にのみ塗布した。これを70℃で30分間焼成することにより、厚みが100nmの有機半導体層がパターン状に形成された有機薄膜トランジスタを得た。
【符号の説明】
【0146】
1 …樹脂製基材
2 …エネルギー
3 …濡れ性変化パターン
4 …導電性パターン
25…絶縁層
27 …有機半導体層
11…基体
12…光触媒含有層
13…光触媒含有層側基板
21…基板
24…第1導電性パターン
28…第2導電性パターン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板の光触媒含有層と、撥水性を有する樹脂製基材とを対向させて配置し、パターン状にエネルギーを照射することにより、前記樹脂製基材上に水との接触角が低下した濡れ性変化パターンをパターン状に形成するエネルギー照射工程を有することを特徴とするパターン形成体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のパターン形成体の製造方法により形成されたパターン形成体の前記濡れ性変化パターン上に、導電性パターンを形成する導電性パターン形成工程を有することを特徴とする配線基板の製造方法。
【請求項3】
基板、前記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、前記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、前記第1導電性パターンと前記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、前記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、前記第2導電性パターンが前記ゲート電極または前記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ前記有機半導体層が前記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタの製造方法であって、
前記第1導電性パターンまたは前記第2導電性パターンを、請求項2に記載の配線基板の製造方法を用いて形成することを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項4】
基板、前記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、前記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、前記第1導電性パターンと前記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、前記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、前記第2導電性パターンが前記ゲート電極または前記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ前記有機半導体層が前記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタの製造方法であって、
前記有機半導体層を、請求項1に記載のパターン形成体の製造方法により製造されるパターン形成体の前記濡れ性変化パターンを利用して形成することを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
基板、前記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、前記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、前記第1導電性パターンと前記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、前記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、前記第2導電性パターンが前記ゲート電極または前記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ前記有機半導体層が前記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタであって、
前記第1導電性パターンまたは前記第2導電性パターンのそれぞれの中央部における膜厚が、それぞれ前記第1導電性パターンまたは前記第2導電性パターンの最大膜厚の50%〜100%の範囲内であることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【請求項1】
光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板の光触媒含有層と、撥水性を有する樹脂製基材とを対向させて配置し、パターン状にエネルギーを照射することにより、前記樹脂製基材上に水との接触角が低下した濡れ性変化パターンをパターン状に形成するエネルギー照射工程を有することを特徴とするパターン形成体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のパターン形成体の製造方法により形成されたパターン形成体の前記濡れ性変化パターン上に、導電性パターンを形成する導電性パターン形成工程を有することを特徴とする配線基板の製造方法。
【請求項3】
基板、前記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、前記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、前記第1導電性パターンと前記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、前記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、前記第2導電性パターンが前記ゲート電極または前記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ前記有機半導体層が前記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタの製造方法であって、
前記第1導電性パターンまたは前記第2導電性パターンを、請求項2に記載の配線基板の製造方法を用いて形成することを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項4】
基板、前記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、前記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、前記第1導電性パターンと前記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、前記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、前記第2導電性パターンが前記ゲート電極または前記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ前記有機半導体層が前記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタの製造方法であって、
前記有機半導体層を、請求項1に記載のパターン形成体の製造方法により製造されるパターン形成体の前記濡れ性変化パターンを利用して形成することを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
基板、前記基板上にパターン状に形成された第1導電性パターン、前記第1導電性パターンを覆うように形成された絶縁層、前記第1導電性パターンと前記絶縁層を挟んで対向するように形成された第2導電性パターン、および有機半導体層を有し、前記第1導電性パターンがゲート電極または一対のソース電極およびドレイン電極のうちのいずれか一方であり、前記第2導電性パターンが前記ゲート電極または前記一対のソース電極およびドレイン電極のうちの他方であり、かつ前記有機半導体層が前記一対のソース電極およびドレイン電極と接するように形成されている有機薄膜トランジスタであって、
前記第1導電性パターンまたは前記第2導電性パターンのそれぞれの中央部における膜厚が、それぞれ前記第1導電性パターンまたは前記第2導電性パターンの最大膜厚の50%〜100%の範囲内であることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−89857(P2012−89857A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259419(P2011−259419)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【分割の表示】特願2005−269712(P2005−269712)の分割
【原出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【分割の表示】特願2005−269712(P2005−269712)の分割
【原出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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