説明

メモリ

【課題】同じ構成の記憶素子を用いて、ROMとRAMとを共に実現することができるメモリを提供する。
【解決手段】磁化M1の向きが反転可能な磁化自由層18と、絶縁体からなるトンネルバリア層17と、磁化自由層18に対してトンネルバリア層17を介して配置され、磁化M14,M16の向きが固定された磁化固定層13とを含む、トンネル磁気抵抗効果素子から構成された記憶素子1を複数個含み、記憶素子1の磁化自由層18の磁化M1の向きによって情報が記録される、ランダムアクセスメモリ領域と、記憶素子1のトンネルバリア層17の絶縁破壊の有無によって情報が記録される、リードオンリーメモリ領域とを含むメモリを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記憶素子を有して成るメモリに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来のメモリを使用するシステムでは、通常、電源を切っても情報を記憶しているリードオンリーメモリ(ROM)と、電源を切ると情報が揮発するが、高速かつ無限回の繰り返し記録・読み出しが可能なランダムアクセスメモリ(RAM)とを使用している。
これら従来のメモリは、フラッシュメモリ等のROMか、ダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)やスタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)等のRAMの二種に分かれ、それぞれ独自の構造を持っている。
【0003】
最近、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)や強誘電体ランダムアクセスメモリ(FeRAM)といった、いわゆる不揮発RAMと呼ばれるメモリが出現している。
この不揮発RAMは、高速で繰り返し書き込みが可能であり、かつ、ランダムアクセス読み出しも可能である、といったRAMと同等の性能を持ちながら、電源を切っても情報を忘れない。
【0004】
不揮発RAMを使用すれば、従来ROMとRAMを併用していたシステムを単純化することができ、その結果として低価格化することが可能になると考えられる。
その場合、従来はROMに置いていたシリアル番号やネットワークのID等のシステムの固有情報や、通信用の暗号鍵等を、書き換え可能なRAM領域に保存することになる。
【0005】
また、新しい不揮発RAMとして、トンネル磁気抵抗効果素子の強磁性層の磁化の向きをスピン注入によって反転させる、スピン注入方式の記憶素子の構成が提案されている(例えば、特許文献1や非特許文献1を参照)。
この構成の場合、前述したMRAMと同様に、高速で繰り返し書き込みが可能であり、かつ、ランダムアクセス読み出しも可能である、といったRAMと同等の性能を持ちながら、電源を切っても情報を忘れない、という特性を有している。
従って、スピン注入方式の記憶素子を使用しても、前述したMRAMと同様に、従来ROMとRAMを併用していたシステムを単純化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−17782号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日経エレクトロニクス 2001.2.12号(第164頁−171頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、RAMとして使用できるといわれている不揮発メモリとして、例えば、前述したFeRAMとMRAMとが挙げられる。
【0009】
通常の使用状態であれば、FeRAMやMRAMに書き込まれた情報は、電源を切っても保持される。
しかしながら、ROMの代わりにFeRAMやMRAMを使用した場合には、情報の書き換え可能なRAM領域に置かれている。そのため、プログラムのバグや外来ノイズ等によってデータが変化してしまう可能性がわずかながらもあり、システムを稼働させる上で必須の情報が消失してしまう危険性がある。
【0010】
FeRAMはチップを半田付けする際等の熱によって、MRAMは強力な外部磁界によって、ともに情報が消失する可能性のあることが知られている。
そのため、決して情報を消失しない完全なROMの機能と、自由に読み書きできるというRAMの機能とを、同一のメモリ中において容易に並立させることができない。
【0011】
また、スピン注入方式の記憶素子を、そのままROMの代わりに使用した場合にも、FeRAMやMRAMを使用した場合と同様に、情報が消失する可能性がある。
【0012】
上述した問題の解決のために、本発明においては、同じ構成の記憶素子を用いて、ROMとRAMとを共に実現することができるメモリを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のメモリは、磁化の向きが反転可能な磁化自由層と、絶縁体からなるトンネルバリア層と、磁化自由層に対してトンネルバリア層を介して配置され、磁化の向きが固定された磁化固定層とを含む、トンネル磁気抵抗効果素子から構成された記憶素子を含む。
そして、この構成の記憶素子を複数個含み、記憶素子の磁化自由層の磁化の向きによって情報が記録される、ランダムアクセスメモリ領域と、記憶素子のトンネルバリア層の絶縁破壊の有無によって情報が記録される、リードオンリーメモリ領域とを含む。
【0014】
上述の本発明のメモリの構成によれば、記憶素子の磁化自由層の磁化の向きによって情報が記録される、ランダムアクセスメモリ領域と、記憶素子のトンネルバリア層の絶縁破壊の有無によって情報が記録される、リードオンリーメモリ領域とを含んでいる。
ランダムアクセスメモリ領域の記憶素子では、磁化自由層の磁化の向きにより、抵抗の高い第1の抵抗状態と、抵抗の低い第2の抵抗状態とのいずれかの状態を示す。リードオンリーメモリ領域の記憶素子では、トンネルバリア層が絶縁破壊していない場合には、前記第1の抵抗状態或いは前記第2の抵抗状態を示す。一方、トンネルバリア層が絶縁破壊している場合には、第2の抵抗状態よりも充分に抵抗が低い第3の抵抗状態を示す。
そして、上述の3つの抵抗状態を検知することにより、記録された情報の内容を読み出すことができる。これにより、同じ構成の記憶素子を使用して、ランダムアクセスメモリ(RAM)とリードオンリーメモリ(ROM)とを共に実現することが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
上述の本発明によれば、同じ構成の記憶素子を使用して、ランダムアクセスメモリ(RAM)とリードオンリーメモリ(ROM)とを共に実現することが可能になる。これにより、従来は別々に製造していたROMのチップとRAMのチップとを、1つのチップで置き換えることが可能になる。
同じ構成の記憶素子を使用してRAMとROMとを共に実現することが可能になるので、回路部品の種類を削減することや、製造コストを削減することが、可能になる。
また、従来の独立したROMチップとRAMチップの2つのチップで構成していた回路を1つのチップで構成できるため、メモリの回路構成の簡略化やメモリの小型化を図ることも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のメモリの一実施の形態の概略構成図(メモリセルの断面図)である。
【図2】図1の記憶素子の概略断面図である。
【図3】印加電圧と記憶素子の素子抵抗との関係を示す図である。
【図4】印加電圧を上げていったときの記憶素子の素子抵抗の変化を示す図である。
【図5】本発明のメモリの一実施の形態の回路構成の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明を実施するための最良の形態(以下、実施の形態とする)について説明する。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.本発明の概要
2.メモリの一実施の形態の記憶素子の構成
3.記憶素子の実験例
4.メモリの一実施の形態の回路構成
5.変形例
【0018】
<1.本発明の概要>
本発明の具体的な実施の形態の説明に先立ち、本発明の概要を説明する。
本発明においては、トンネル磁気抵抗効果素子から構成された記憶素子を複数個使用して、メモリ(記憶装置)を構成する。
そして、メモリを構成する複数個の記憶素子を、ランダムアクセスメモリ(RAM)領域と、リードオンリーメモリ(ROM)領域とに振り分ける。
ランダムアクセスメモリ(RAM)領域では、トンネル磁気抵抗効果素子から構成された記憶素子の磁化自由層の磁化の向きで情報を記録する。リードオンリーメモリ(ROM)領域では、トンネル磁気抵抗効果素子から構成された記憶素子のトンネル絶縁層の絶縁破壊の有無で情報を記録する。
【0019】
ランダムアクセスメモリ(RAM)領域では、記憶素子の磁化自由層の磁化の向きで情報が記録されるので、磁化自由層が記憶層として作用する。
リードオンリーメモリ(ROM)領域では、記憶素子のトンネル絶縁層の絶縁破壊の有無で情報が記録される。そのため、記憶素子の磁化自由層の磁化の向きは任意であり、磁化自由層は情報を記憶させる記憶層としては使用されない。
【0020】
ランダムアクセスメモリ(RAM)領域の記憶素子に情報を記録する際には、スピン注入により磁化自由層の磁化の向きを反転させる大きさの電流を記憶素子に供給する、もしくは、磁化自由層に磁化の向きを反転させる大きさの外部磁界を印加する。このうち、外部磁界は、記憶素子の磁化自由層の近傍に磁界印加用の配線を設けて、この配線に電流を流して電流磁界を発生させることにより、容易に印加することができる。
そして、情報を記録する際には、記憶素子の抵抗を、高抵抗の第1の抵抗状態と、低抵抗の第2の抵抗状態との間で、変化させる。トンネル磁気抵抗効果素子において、これら2つの抵抗状態は、材料的疲労、即ち素子の破壊を起こすことなく、可逆的に変化させることができるということが、前記特許文献1や前記非特許文献1等で述べられている。
従って、本発明のメモリに用いられる、トンネル磁気抵抗効果素子から構成される記憶素子は、RAMとして使用する際に必要となる、繰り返し記録耐性に優れていることになる。
【0021】
リードオンリーメモリ(ROM)領域の記憶素子に情報を記録する際には、記憶素子にトンネルバリア層の絶縁破壊耐圧よりも高い電圧を与えて、トンネルバリア層を絶縁破壊させる。このような電圧を与えるために、記憶素子の上下に接続された配線等の電圧供給部を設ける。
このようにトンネルバリア層を絶縁破壊させて情報を記録するので、トンネルバリア層の絶縁破壊が非可逆変化であることから、情報が消えることない。即ち、絶縁破壊により情報を記録した記憶素子を、リードオンリーメモリ(ROM)として使用することができる。
【0022】
また、記憶素子に記録された情報の読み出しには、記憶素子に読み出し用の電圧を与えることにより素子の抵抗を検出する。ランダムアクセスメモリ(RAM)領域の記憶素子では、高抵抗の第1の抵抗状態であるか、低抵抗の第2の抵抗状態であるかを、センスアンプ等によって判別する。リードオンリーメモリ(ROM)領域の記憶素子では、第1の抵抗状態又は第2の抵抗状態であるか、トンネルバリア層が絶縁破壊した第3の抵抗状態であるかを、センスアンプ等によって判別する。
なお、記憶素子を、スピン注入により磁化自由層の磁化の向きを反転させる構成とする場合には、読み出し用の電圧を、磁化の向きを反転させる大きさの電流を記憶素子に供給するための電圧(書き込み電圧)よりも低い電圧とする。
【0023】
本発明のメモリに使用する記憶素子において、磁化自由層、トンネル絶縁層、磁化固定層、反強磁性層等の記憶素子の各層の材料は、トンネル磁気抵抗効果素子に使用される、従来から知られている材料を使用することができる。
【0024】
また、記憶素子を、スピン注入により磁化自由層の磁化の向きを反転させる構成とする場合には、ランダムアクセルメモリ(RAM)領域の記憶素子に対しては、情報を記録するために記憶素子に電流を供給する電流供給部を設ける。この電流供給部としては、例えば、記憶素子の上下に接続された配線等が挙げられる。
【0025】
本発明のメモリでは、同じ構成の記憶素子を使用して、ランダムアクセスメモリ(RAM)とリードオンリーメモリ(ROM)とを共に実現することが可能になる。
従って、ランダムアクセルメモリ(RAM)領域の記憶素子と、リードオンリーメモリ(ROM)領域の記憶素子とが、同一のチップ内に収納された構成とすることも可能になる。これにより、従来は別々に製造していたROMのチップとRAMのチップとを、1つのチップで置き換えることが可能になる。
【0026】
そして、同じ構成の記憶素子を使用して、RAMとROMとを共に実現することが可能になるので、回路部品の種類を削減することや、製造コストを削減することが、可能になる。
また、従来の独立したROMチップとRAMチップの2つのチップで構成していた回路を1つのチップで構成できるため、回路構成の簡略化やメモリの小型化を図ることも可能になる。
【0027】
なお、ROM領域とRAM領域との区別は、予め製造時に決めておくことも、ユーザが使用時に設定することも、どちらにすることも可能である。
ユーザが使用時に設定する場合には、例えば、記憶素子を複数個有するメモリのチップに対して、外部から情報を入力する入力部を設ける。そして、実際に使用するときには、入力部に入力された情報の内容に対応して、複数個の記憶素子から一部の記憶素子がRAM領域に割り当てられ、他の一部の記憶素子がROM領域に割り当てられるように動作させる。このとき、入力部に対して、入力部に入力された情報を表示する表示部(例えば、液晶やLEDを用いたディスプレイ)を設けても良い。
【0028】
<2.メモリの一実施の形態の記憶素子の構成>
続いて、本発明の具体的な実施の形態を説明する。
本発明のメモリの一実施の形態の概略構成図(メモリセルの断面図)を、図1に示す。
図1に示すように、シリコン基板等の半導体基体10に、各メモリセルを選択するための選択用トランジスタを構成する、ソース領域4、ドレイン領域5、並びにゲート電極7が、それぞれ形成されている。このうち、ゲート電極7は、紙面に垂直な方向に延びる一方のアドレス配線(例えばワード線)を兼ねている。
ドレイン領域5には、コンタクト層2を介して、配線6が接続されている。
そして、ソース領域4と、上方に配置された、図中左右方向に延びる他方のアドレス配線(例えばビット線)3との間に、記憶素子1が配置されている。この記憶素子1は、スピン注入により磁化の向きが反転する強磁性層から成る磁化自由層(記憶層)を有するトンネル磁気抵抗効果素子により構成されている。
また、この記憶素子1は、2種類のアドレス配線3,7の交点付近に配置されている。
この記憶素子1は、ビット線3と、ソース領域4とに、それぞれ上下のコンタクト層2を介して接続されている。
これにより、アドレス配線3から選択用トランジスタを経由して配線6に至る経路で記憶素子1に電流を供給することができ、記憶素子1に上下方向(記憶素子1の積層方向)の電流を流して、スピン注入により記憶層の磁化の向きを反転させることができる。即ち、アドレス配線3及び配線6は、記憶素子1に電流を供給するための、前述した電流供給部となる。
【0029】
本実施の形態のメモリでは、特に、図1に示した記憶素子1を複数個有して、メモリを構成する。そして、メモリを構成する同じ構成の複数個の記憶素子1を、ランダムアクセスメモリ(RAM)領域と、リードオンリーメモリ(ROM)領域とに振り分ける。
ランダムアクセスメモリ(RAM)領域では、トンネル磁気抵抗効果素子から構成された記憶素子1の磁化自由層の磁化の向きで情報を記録する。
リードオンリーメモリ(ROM)領域では、トンネル磁気抵抗効果素子から構成された記憶素子1のトンネル絶縁層の絶縁破壊の有無で情報を記録する。
それぞれの領域の記憶素子1での情報の記録の詳細については、後述する記憶素子1の詳細な構成と共に説明する。
【0030】
また、本実施の形態のメモリの記憶素子1の概略断面図を、図2に示す。
図2に示すように、この記憶素子1は、スピン注入により磁化M1の向きが反転する磁化自由層18に対して、下層に磁化固定層13を設けている。磁化固定層13の下に反強磁性層12が設けられ、この反強磁性層12により、磁化固定層13の磁化の向きが固定される。
磁化自由層18と下層の磁化固定層13との間には、トンネルバリア層(トンネル絶縁層)17が設けられている。
また、反強磁性層12の下には下地層11が形成され、磁化自由層18の上にはキャップ層19が形成されている。
即ち、この図2に示す記憶素子1は、磁化自由層18とトンネルバリア層(トンネル絶縁層)17と磁化固定層13とから成るトンネル磁気抵抗効果素子(TMR素子)によって構成されている。
【0031】
また、磁化固定層13は、積層フェリ構造となっている。
具体的には、磁化固定層13は、2層の強磁性層14,16が、非磁性層15を介して積層されて反強磁性結合した構成である。
磁化固定層13の各強磁性層14,16が積層フェリ構造となっているため、強磁性層14の磁化M14が右向き、強磁性層16の磁化M16が左向きとなっており、互いに反対向きになっている。これにより、磁化固定層13の各強磁性層14,16から漏れる磁束が、互いに打ち消し合う。
【0032】
磁化固定層13を形成する強磁性層14,16には、Fe,Ni,Coの1種もしくは2種以上からなる合金材料を用いることができる。さらに、これらの磁性層の合金に、NbやZr等の遷移金属元素、BやC等の軽元素、Gd,Tb,Y等の希土類元素を含有させることもでき、さらにはこれらの酸化物や窒化物も使用することができる。
磁化固定層13に用いる非磁性層15の材料としては、Ru,Cu,Rh,Cr等の、磁性層間に反強磁性層間結合を生じる材料が使用できる。
磁化自由層18の材料としては、Fe,Ni,Coの1種もしくは2種以上からなる強磁性体の合金材料を用いることができる。さらに、これらの磁性合金に、NbやZr等の遷移金属、BやC等の軽元素、Gd,Tb,Y等の希土類元素を含有させることもでき、さらにはこれらの酸化物や窒化物も使用することができる。
トンネルバリア層17の材料としては、Al,MgO,HfO,SiO,SiO,SiN等の材料や、これらの混合物を用いることができる。
反強磁性層12の材料としては、PtMn,RhMn,RuMn,FeMn,IrMn等のMn化合物等が使用できる。
下地層11とキャップ層19の材料には、特に制限がないが、一般的には、Ta,Cr,Ti,W,Al,Cu,TiN,CuN等の金属や金属窒化物等の導体が使用できる。
【0033】
本実施の形態の記憶素子1は、下地層11からキャップ層19までを真空装置内で連続的に形成して、その後エッチング等の加工により記憶素子1のパターンを形成することにより、製造することができる。
【0034】
上述の本実施の形態のメモリにおいては、図1及び図2に示した構成の記憶素子1を複数個有して、メモリを構成する。そして、前述したように、メモリを構成する同じ構成の複数個の記憶素子1を、ランダムアクセスメモリ(RAM)領域と、リードオンリーメモリ(ROM)領域とに振り分ける。
【0035】
ランダムアクセスメモリ(RAM)領域では、トンネル磁気抵抗効果素子から構成された記憶素子1において、その磁化自由層18の磁化M1の向きで情報を記録する。
ランダムアクセスメモリ(RAM)領域の記憶素子1に情報を記録する際には、スピン注入により、磁化自由層18の磁化M1の向きを反転させる大きさの電流を記憶素子1に供給する。そして、情報を記録する際には、記憶素子1の抵抗を、高抵抗の第1の抵抗状態と、低抵抗の第2の抵抗状態との間で、変化させる。具体的には、磁化固定層13の最も磁化自由層18に近い強磁性層16の磁化M16の向きと、磁化自由層18の磁化M1の向きとが、反平行の場合に高抵抗の第1の抵抗状態になり、平行の場合に低抵抗の第2の抵抗状態になる。
【0036】
リードオンリーメモリ(ROM)領域では、トンネル磁気抵抗効果素子から構成された記憶素子1において、そのトンネルバリア層17の絶縁破壊の有無で情報を記録する。
リードオンリーメモリ(ROM)領域の記憶素子1に情報を記録する際には、記憶素子1のトンネルバリア層17の絶縁耐圧よりも高い電圧を与える。これにより、トンネルバリア層17を絶縁破壊させて、記憶素子1を低抵抗の第2の抵抗状態よりもさらに抵抗の低い第3の抵抗状態として、情報を記録する。記憶素子1のトンネルバリア層17の絶縁耐圧よりも高い電圧を与えるには、記憶素子1の上下に接続された配線(図1のアドレス配線3,7)を通じて電圧を供給する。即ち、これらアドレス配線3,7が記憶素子1に絶縁破壊を生じさせるための電圧を供給する、前述した電圧供給部となる。
【0037】
なお、通常使用されるICチップへの供給電源電圧である電源電圧1.8V〜3.3Vを使用する場合には、この電圧でスピン注入記録を可能とするために、素子抵抗と面積との積が5〜30Ω・μmになるようにトンネルバリア層17の膜厚を調整する。この条件を満たすトンネルバリア層17の膜厚は、おおよそ0.7〜1.2nmとなる。
この膜厚範囲のトンネルバリア層17の絶縁耐圧は1.5〜2.5V程度である。
そして、製品寿命中に素子が破壊してはいけないRAM用途として記憶素子1を使用する場合には、書き込み時の電圧印加によって絶縁破壊して素子不良が生じることがないように、この絶縁耐圧以下の書き込み電圧で使用する必要がある。
【0038】
一方、ROM用途として記憶素子1を使用する場合には、一回の書き込みのみ可能であればよく、絶縁耐圧以上の電圧で書き込むことによってトンネルバリア層17を破壊し、通常の低抵抗状態より小さな抵抗を持つ第3の抵抗状態を作る。
絶縁破壊を生じさせたトンネルバリア層17は、元に戻すことができず、経時変化によってもこの状態の抵抗は変化しない。そのため、この第3の抵抗状態は永続的であり、一回のみ書き込み可能なROMの素子として使用することができる。
【0039】
<3.記憶素子の実験例>
ここで、実際に、図2に示した構成の記憶素子1を作製した。
具体的には、図2に示した構成の記憶素子1において、各層の材料及び膜厚を、下記の膜構成に示すように選定した。即ち、下地膜11を膜厚3nmのTa膜、反強磁性層12を膜厚20nmのPtMn膜、磁化固定層13を構成する強磁性層14を膜厚2nmのCoFe膜、非磁性層15を膜厚0.8nmのRu膜、強磁性層16を膜厚4nmのCoFeB膜とした。また、トンネルバリア層17を膜厚0.9nmの酸化マグネシウム膜、磁化自由層18を膜厚2nmのCoFeB膜、キャップ層19を膜厚5nmのTa膜とした。また、下地膜11と反強磁性層12との間に図示しない膜厚50nmのCu膜(後述するワード線となるもの)を設けた。なお、磁化自由層18及び強磁性層16のCoFeB膜の組成はCo40Fe20B(原子%)、反強磁性層12のPtMn膜の組成はPt50Mn50(原子%)、強磁性層14のCoFe膜の組成はCo90Fe10(原子%)とした。
このようにして、記憶素子1の各層を形成した。
膜構成:Ta(3nm)/Cu(50nm)/PtMn(20nm)/CoFe(2nm)/Ru(0.8nm)/CoFeB(4nm)/MgO(0.9nm)/CoFeB(2nm)/Ta(5nm)
【0040】
酸化マグネシウム膜から成るトンネルバリア層17以外の各層は、DCマグネトロンスパッタ法を用いて成膜した。
酸化マグネシウム(MgO)膜から成るトンネルバリア層17は、RFマグネトロンスパッタ法を用いて成膜した。
そして、記憶素子1の各層を、真空装置内で連続的に、スパッタリングにより形成した。
その後、磁場中熱処理炉で、10kOe・360℃・2時間の熱処理を行い、反強磁性層12のPtMn膜の規則化熱処理を行った。
【0041】
次に、ワード線部分をフォトリソグラフィによってマスクした後に、ワード線以外の部分の積層膜に対してArプラズマにより選択エッチングを行うことにより、ワード線(下部電極)を形成した。この際に、ワード線部分以外は、基板の深さ5nmまでエッチングされた。
その後、電子ビーム描画装置により記憶素子1のパターンのマスクを形成し、積層膜に対して選択エッチングを行い、記憶素子1を形成した。記憶素子1部分以外は、ワード線のCu層直上までエッチングした。このとき、記憶素子1のパターンを、短軸80nm×長軸240nmの楕円形状とした。
【0042】
次に、記憶素子1部分以外を、Alのスパッタリングによって絶縁した。
その後、フォトリソグラフィを用いて、上部電極となるビット線及び測定用のパッドを形成した。
このようにして、実施例1の記憶素子1の試料を作製した。
【0043】
この実施例1の試料の1つの記憶素子1について、記憶素子1への印加電圧を−1V〜+1Vの範囲で変化させて、記憶素子1の抵抗を測定した。
測定結果として、記憶素子1への印加電圧と記憶素子1の素子抵抗との関係を、図3に示す。
【0044】
図3からわかるように、トンネル磁気抵抗効果素子から成る記憶素子1に流す電流の向きを変化させることにより、スピン注入磁化反転効果により磁化自由層(記憶層)18の磁化M1の向きを変化させることができる。これにより、磁化自由層(記憶層)18の磁化M1の向きを、磁化固定層13の強磁性層16の磁化M16の向きに対して、平行もしくは反平行に変化させることができる。この磁化自由層(記憶層)18の磁化M1の向きの変化に伴い、磁気抵抗効果により記憶素子1の抵抗が変化していることがわかる。
【0045】
次に、実施例1の試料の数個の記憶素子1のそれぞれに対して、電圧パルスを印加し、その後に素子の抵抗を計る測定を、印加パルスの電圧をRAMとしての動作電圧範囲以上まで上げながら測定した。なお、測定前に、記憶素子1の抵抗が高抵抗状態になるように設定した。
測定結果として、数個の記憶素子1の素子抵抗の変化を重ねて、図4に示す。
【0046】
図4に示すように、印加パルスの電圧が低い領域では、初期状態の高抵抗の第1の抵抗状態R1を示している。印加電圧を上げていくと、スピン注入による磁化反転が生じて、低抵抗の第2の抵抗状態R2になる。さらに印加電圧を上げていくと、トンネルバリア層17が絶縁破壊を生じて、第2の抵抗状態R2からさらに素子抵抗が下がり、バリアが導通した状態である第3の抵抗状態R3となる。
これら記憶素子1の3つの抵抗状態(第1の抵抗状態R1、第2の抵抗状態R2、第3の抵抗状態R3)を利用することにより、図2の記憶素子1を複数個有するメモリに、ROMとRAMとを混在させることができる。
【0047】
<4.メモリの一実施の形態の回路構成>
次に、本実施形態のメモリの回路構成について説明する。
本実施形態(本発明のメモリの一実施形態)の回路構成の概略構成図を、図5に示す。
図5に示すように、記憶素子21(図2の記憶素子1に相当)にセル選択トランジスタ22が直列接続されており、これら記憶素子21及びセル選択トランジスタ22により、各メモリセルが構成される。
各メモリセルが行列状に多数配置されており、行毎にメモリセルのセル選択トランジスタ22が、横方向の配線に接続されている。
この横方向の配線の後段には、記憶素子21の抵抗状態を識別するための、センスアンプ28が接続されている。センスアンプ28には、2つの電圧を切り替えて発生できる閾値発生回路23が接続されている。
図中左下には、同じく2つの電圧を切り替えて発生できる書き込み電圧発生回路24が設けられている。
図中左上には、入力されたアドレスデータを判別して、領域選択信号S1として、ROM領域選択信号及びRAM領域選択信号を発生させる機能選択アドレスデコーダ25が設けられている。
また、各行のメモリセルが接続された横方向の配線に対して、行アドレスデコーダ26が設けられている。
各列のメモリセルでは、メモリセルのセル選択トランジスタ22のゲート電極に接続して縦方向の配線が設けられている。そして、この縦方向の配線は、列アドレスデコーダ27に接続されている。
【0048】
機能選択アドレスデコーダ25は、アドレスデータとして、あらかじめ設定したROMとして用いるアドレス範囲を入力した場合に、ROM領域選択信号をイネーブルにする。このROM領域選択信号は、閾値発生回路23及び書き込み電圧発生回路24に入力される。
同様に、機能選択アドレスデコーダ25は、アドレスデータとして、あらかじめ設定したRAMとして用いるアドレス範囲を入力した場合に、RAM領域選択信号をイネーブルにする。このRAM領域選択信号は、閾値発生回路23及び書き込み電圧発生回路24に入力される。
そして、閾値発生回路23及び書き込み電圧発生回路24は、ROM領域選択信号或いはRAM領域選択信号を用いて、ROM領域もしくはRAM領域のどちらが選択されたのかを判別し、その選択された領域に応じて発生する電圧を制御する。
【0049】
閾値発生回路23は、閾値電圧を発生させる。この閾値電圧を利用して、センスアンプ28において抵抗を識別することができる。
閾値電圧は、RAM領域においては、記憶素子21の第1の抵抗状態R1及び第2の抵抗状態R2でそれぞれ発生するセンスアンプ28への入力電圧の間にある、第1の閾値電圧に設定される。また、ROM領域においては、記憶素子21の第3の抵抗状態R3及び第2の抵抗状態R2でそれぞれ発生するセンスアンプ28への入力電圧の間にある、第2の閾値電圧に設定される。
【0050】
RAM領域の記憶素子21に情報を記録する場合には、書き込み電圧発生回路24が、書き込み電圧として、トンネルバリア層17の破壊電圧より低い第1の書き込み電圧を発生する。
一方、ROM領域の記憶素子21に情報を書き込む際には、書き込み電圧発生回路24は、トンネルバリア層17の破壊電圧より高い第2の書き込み電圧を発生する。
また、読み出し時には、書き込み電圧発生回路24は、書き込みが行われないように、第1の書き込み電圧より十分に低い電圧を発生する。
【0051】
本実施の形態においては、記憶素子21及びセル選択トランジスタ22に接続される書き込み電圧発生回路24及びセンスアンプ28は、RAM領域もROM領域も同一回路である。そのため、回路設計時及びウエハ製造時に、記憶素子21の部分について、RAM領域とROM領域とを区別する必要がない。
【0052】
RAM領域とROM領域との区分別けは、動作時に、書き込み電圧発生回路24で発生させる書き込み電圧と、閾値発生回路23で発生させてセンスアンプ28に入力される閾値電圧とについて、それぞれ電圧の設定を変更するだけでよい。
例えば、通常は、RAM動作のための第1の書き込み電圧及び第1の閾値電圧を与えておく。そして、ROM領域として使用したいアドレスをアクセスする場合に、機能選択アドレスデコーダ25から領域選択信号S1としてROM領域選択信号を発生させるように、アドレスデコーダ回路のみを修正する。そして、そのROM領域選択信号を用いて、書き込み電圧発生回路24に第2の書き込み電圧を与えると共に、センスアンプ28に第2の閾値電圧を与えるようにすればよい。
【0053】
上述の本実施の形態のメモリによれば、ランダムアクセスメモリ(RAM)領域では、記憶素子1の磁化自由層18の磁化M1の向きを反転させて、情報を記録している。また、リードオンリーメモリ(ROM)領域では、記憶素子1のトンネルバリア層17の絶縁耐圧よりも高い電圧を与えて、トンネルバリア層17を絶縁破壊させて、第3の抵抗状態R3として、情報を記録している。
これにより、図2に示した記憶素子1を、ランダムアクセスメモリ(RAM)としても使用することができ、リードオンリーメモリ(ROM)としても使用することが可能になる。
【0054】
このようにして、同じ構成の記憶素子1を使用して、ランダムアクセスメモリ(RAM)とリードオンリーメモリ(ROM)とを共に実現することが可能になる。これにより、従来は別々に製造していたROMのチップとRAMのチップとを、1つのチップで置き換えることが可能になる。
そして、同じ構成の記憶素子1を使用してRAMとROMとを共に実現することが可能になるので、回路部品の種類を削減することや、製造コストを削減することが、可能になる。
また、従来の独立したROMチップとRAMチップの2つのチップで構成していた回路を1つのチップで構成できるため、メモリの回路構成の簡略化やメモリの小型化を図ることも可能になる。
【0055】
<5.変形例>
上述の実施の形態では、記憶素子1の磁化固定層13を、2層の強磁性層14,16とその間に挟まれる非磁性層15による積層フェリ構造としていた。
本発明では、1層の強磁性層のみで磁化固定層を構成しても、また、3層以上の強磁性層を有する積層フェリ構造で磁化固定層を構成しても構わない。
【0056】
上述の実施の形態では、記憶素子1に対して、スピン注入方式で磁化自由層18の磁化M1の向きを反転させる場合であった。
本発明では、トンネル磁気抵抗効果素子からなる記憶素子に対して、従来のMRAMのように磁化自由層に外部磁界を印加して、磁化自由層の磁化の向きを反転させる場合も、含む。この場合、記憶素子に接続された配線(抵抗値を検知して記録された情報の内容を読み出す読み出し用配線、もしくはその他の配線)を通じて、ROM領域の記憶素子のトンネル絶縁層を絶縁破壊させる電圧を、記憶素子に印加する。
【0057】
また、本発明のメモリの他の実施の形態として、以下に述べるような構成を採用することも可能である。
まず、複数個の記憶素子が形成され、ROM領域とRAM領域とを全く区別していないチップを準備する。
このチップに対して、外部から情報を入力する入力部を設ける。
そして、実際に使用するときには、入力部に入力された情報の内容に対応して、例えば、ROM領域として使用する領域の信号を外部信号で与える。これによって、複数個の記憶素子から一部の記憶素子がRAM領域に割り当てられ、他の一部の記憶素子がROM領域に割り当てられるように動作させる。
このようにしても、チップ内にROM領域とRAM領域とを並立させることができる。
【0058】
そして、この構成とした場合には、従来のRAMチップ及びROMチップを有する構成と比較して、記憶素子や回路部品の種類を削減したり、製造のためのマスクの種類を削減したりすることが可能になる。これにより、材料コストや製造コストを削減することが可能となる。
【0059】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【符号の説明】
【0060】
1,21 記憶素子、2 コンタクト層、3 ビット線(アドレス配線)、4 ドレイン領域、5 ソース領域、6 配線、7 ゲート電極(アドレス配線)、10 半導体基体、11 下地層、12 反強磁性層、13 磁化固定層、14,16 強磁性層、15 非磁性層、17 トンネルバリア層、18 磁化自由層(記憶層)、19 キャップ層、22 セル選択トランジスタ、23 閾値発生回路、24 書き込み電圧発生回路、25 機能選択アドレスデコーダ、26 行アドレスデコーダ、27 列アドレスデコーダ、28 センスアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化の向きが反転可能な磁化自由層と、
絶縁体からなるトンネルバリア層と、
前記磁化自由層に対して、前記トンネルバリア層を介して配置され、磁化の向きが固定された磁化固定層とを含む、トンネル磁気抵抗効果素子から構成された記憶素子を、複数個含み、
前記記憶素子の前記磁化自由層の磁化の向きによって情報が記録される、ランダムアクセスメモリ領域と、
前記記憶素子の前記トンネルバリア層の絶縁破壊の有無によって情報が記録される、リードオンリーメモリ領域とを含む
メモリ。
【請求項2】
前記ランダムアクセルメモリ領域の前記記憶素子と、前記リードオンリーメモリ領域の前記記憶素子とが、同一のチップ内に収納されている、請求項1に記載のメモリ。
【請求項3】
前記リードオンリーメモリ領域の前記記憶素子に対して、前記トンネルバリア層の絶縁耐圧よりも高い電圧を印加して絶縁破壊を生じさせるための電圧を供給する電圧供給部をさらに含む、請求項1に記載のメモリ。
【請求項4】
前記ランダムアクセルメモリ領域の前記記憶素子に対して、スピン注入方式により前記磁化自由層の磁化の向きを反転させて、情報を記録するために、前記記憶素子に電流を供給する電流供給部をさらに含む、請求項1に記載のメモリ。
【請求項5】
さらに外部から情報を入力する入力部を含み、前記入力部に入力された情報の内容に対応して、複数個の前記記憶素子から、一部の記憶素子が前記ランダムアクセルメモリ領域に割り当てられ、他の一部の記憶素子が前記リードオンリーメモリ領域に割り当てられる、請求項1に記載のメモリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−8861(P2011−8861A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151515(P2009−151515)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】