説明

モータ制御装置及び車両用操舵装置

【課題】モータの駆動時においても、相開放スイッチのオープン故障を検出することのできるモータ制御装置及び車両用操舵装置を提供する。
【解決手段】異常検出部は、モータ21と駆動回路32との間で一方向への通電が可能、且つモータ21が高速回転していない状態で、判定対象となる特定相の相誘起電圧値が継続して異常判定閾値以下となった場合に、該特定相のリレーFETにオープン故障が発生したと判定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置及び車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用操舵装置等に用いられるブラシレスモータを制御対象とするモータ制御装置には、モータと駆動回路(インバータ)とを接続する動力線の途中に、各相を通電不能な開放状態とするための相開放スイッチが設けられたものがある。こうした相開放スイッチとして、近年では、小型化やコストの低減等の観点から、機械式のリレー接点に代えてFET(電界効果型トランジスタ)が広く用いられるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、FETには、その構造上、寄生ダイオードが存在するため、相開放スイッチとしてのFET(リレーFET)にオープン故障(開固定故障)が発生しても、該寄生ダイオードにより一方向への通電は許容される。そのため、モータと駆動回路との間の電力供給経路における断線等の通電不良の検出する方法(例えば、特許文献2参照)では、リレーFETのオープン故障を検出することができないことがある。そこで、例えば上記特許文献1では、寄生ダイオードの存在を踏まえ、すべてのリレーFETをオン作動させるべく制御するとともに、特定の一相にのみ電圧を印加した状態で、特定相以外の相にその印加電圧に基づく電圧が発生するか否かによってオープン故障の判定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−261067号公報
【特許文献2】特開2007−244028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1の構成では、駆動回路は、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(スイッチングアーム)として、各相のモータコイルに対応する3つのスイッチングアームを並列に接続することにより構成されている。そして、オープン故障の判定を行う際には、特定相のスイッチングアームにおける電源側のスイッチング素子のみをオン状態とすることで、特定相にのみ電圧を印加している。
【0006】
このように従来の構成では、モータの駆動時とは異なる特殊な態様でモータに電圧を印加するため、同モータを駆動しながらオープン故障の判定を行うことができず、イグニッションオン時等の限られた状況でのみ同判定を行うことになる。従って、例えば走行中にオープン故障が発生した場合には、その異常を速やかに検出することができないという問題があり、この点においてなお改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、モータの駆動時においても、相開放スイッチのオープン故障を検出することのできるモータ制御装置及び車両用操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段と、前記モータ制御信号に基づいてモータに三相の駆動電力を供給する駆動回路と、前記モータと前記駆動回路とを接続する各相の動力線に設けられる相開放スイッチと、前記モータに印加される印加電圧に相当する電圧パラメータに基づいて前記相開放スイッチのオープン故障を検出する異常検出手段とを備え、前記モータ制御信号出力手段は、前記モータに供給する電流の目標値である電流指令値に実電流値を追従させるべく電流フィードバック制御を実行することにより前記モータ制御信号を出力するモータ制御装置において、前記相開放スイッチは、当該相への通電を遮断するオフ状態においても一方向への通電を許容する寄生ダイオードを含むものであって、前記異常検出手段は、前記モータと前記駆動回路との間で前記一方向への通電が可能、且つ前記モータが高速回転していない状態で、判定対象となる特定相の前記電圧パラメータが、前記寄生ダイオードにより通電が許容されない他方向に電流を流そうとする側に異常判定閾値を超えて大きくなった場合に、該特定相の相開放スイッチにオープン故障が発生したと判定することを要旨とする。
【0009】
すなわち、相開放スイッチにオープン故障が発生しても、その寄生ダイオードの存在により一方向への通電は許容され、他方向への通電のみが遮断される。そのため、電流フィードバック制御を実行する構成においてオープン故障が発生すると、電圧パラメータは、少なくとも他方向に電流を流そうとする側には大きくなる。また、モータが高速回転している状態では、オープン故障が発生していなくても、誘起電圧の影響により電流をモータに流し込めなくなるため、電圧パラメータが大きくなる。
【0010】
つまり、モータと駆動回路との間で一方向への通電が可能、且つモータが高速回転していない状態で、特定相の電圧パラメータが他方向へ電流を流そうとする側に異常判定閾値を超えて大きくなった場合に、該特定相の相開放スイッチにオープン故障が発生した判定することが可能になる。そして、この判定は、特殊な態様でモータに電圧を印可するものではなく、電流フィードバック制御時の電圧パラメータの変化に基づくものであるため、モータの駆動時に行うことが可能になる。従って、上記構成によれば、モータを駆動しながらオープン故障を検出することができ、速やかにフェールセーフを図ることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のモータ制御装置において、前記異常検出手段は、前記特定相の電圧パラメータの符号が前記一方向に電流を流そうとすることを示すものから前記他方向に電流を流そうとすることを示すものに変化する際に前記モータが高速回転しているか否かを判定するものであり、前記特定相の電圧パラメータが前記他方向に電流を流そうとすることを示すものに変化する前の電気角一周期の間に、前記特定相以外の他相のうちの少なくとも一相の電圧パラメータが、高速回転時に生じる誘起電圧に基づく高速判定閾値を超えた場合には、前記モータが高速回転していると判定することを要旨とする。
【0012】
上記のようにモータの高速回転時には、誘起電圧の影響により電圧パラメータが大きくなる。従って、上記構成のように、電圧パラメータが高速判定閾値を超えるか否かを判定することで、回転角センサを用いることなく、簡易な構成でモータが高速回転しているか否かを判定することができる。また、上記構成では、電圧パラメータの符号が他方向に電流を流そうとすることを示すものに変化する際に、高速回転しているか否かの判定を行うため、電圧パラメータが異常判定閾値を超える可能性のある状態となる前に、高速回転しているか否かを判定できる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のモータ制御装置において、前記異常検出手段は、前記電気角一周期における前記特定相の電圧パラメータの符号が前記一方向に電流を流そうとすることを示すものである間に、前記他相のうちの少なくとも一相の電圧パラメータが前記高速判定閾値を超えた場合には、前記モータが高速回転していると判定することを要旨とする。
【0014】
上記のように特定相の相開放スイッチにオープン故障が発生している状態では、他方向に電流を流そうとする際に、電圧パラメータが異常な値となるため、特定相の電圧パラメータの符号が他方向に電流を流そうとすることを示す間は、他相の電圧パラメータの変化が不安定になる虞がある。この点、上記構成によれば、特定相の電圧パラメータの符号が一方向に電流を流そうとすることを示す間、すなわち特定相の電圧パラメータが異常な値とならない状態で、他相の電圧パラメータが高速判定閾値を超えるか否かを判定する。そのため、他相の電圧パラメータの変化が不安定になり難く、精度良く高速回転の判定を行うことができるようになる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、前記異常検出手段は、前記電圧パラメータとして、前記モータの各相電流値及び各相電圧値に基づいて演算される各相誘起電圧値を用いることを要旨とする。
【0016】
すなわち、各相に印加される印加電圧である相電圧値は、モータに供給される実電流値である相電流値と当該相の抵抗値との乗算値、及び各相誘起電圧値の和である。そのため、モータに供給される電流が大きい場合には、オープン故障が発生していなくても、電圧パラメータが他方向に電流を流そうとする側に異常判定閾値を超えて大きくなる虞がある。この点、上記構成によれば、電圧パラメータとして各相電圧値から上記乗算値を差し引いた各相誘起電圧値を用いるため、精度良くオープン故障の判定をできるようになる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4いずれか一項に記載のモータ制御装置を備えた車両用操舵装置であることを要旨とする。
上記構成によれば、モータの駆動時においても相開放スイッチのオープン故障を検出することができるため、速やかにフェールセーフを図ることで、例えば操舵フィーリングの低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、モータの駆動時においても、相開放スイッチのオープン故障を検出することのできるモータ制御装置及び車両用操舵装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】ECUの制御ブロック図。
【図3】マイコンの制御ブロック図。
【図4】(a)モータが高速回転していない状態での特定相の相誘起電圧値を示す波形図、(b)モータが高速回転している状態での各相誘起電圧値を示す波形図。
【図5】異常検出部による異常判定の処理手順を示すフローチャート。
【図6】異常検出部によるオープン故障判定の処理手順を示すフローチャート。
【図7】異常検出部による高速回転判定の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を操舵力補助装置を備えた車両用操舵装置(電動パワーステアリング装置)に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。これにより、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。なお、ステアリングシャフト3は、コラム軸8、中間軸9、及びピニオン軸10を連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪12の舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0021】
また、EPS1は、モータ21を駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ22と、同EPSアクチュエータ22の作動を制御するモータ制御装置としてのECU23とを備えている。
【0022】
EPSアクチュエータ22は、所謂コラムアシスト型のEPSアクチュエータとして構成されており、モータ21は、ウォーム&ホイール等からなる減速機構25を介してコラム軸8と駆動連結されている。なお、本実施形態のモータ21には、ブラシレスモータが採用されており、ECU23から三相(U,V,W)の駆動電力が供給されることにより駆動される。そして、EPSアクチュエータ22は、モータ21の回転を減速してコラム軸8に伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0023】
一方、ECU23には、操舵トルクTを検出するトルクセンサ27及び車速SPDを検出する車速センサ28が接続されている。そして、ECU23は、これら操舵トルクT及び車速SPDに基づいて目標アシスト力を演算し、これに相当するモータトルクを発生させるべく駆動電力をモータ21に供給することにより、EPSアクチュエータ22の作動を制御する構成となっている(パワーアシスト制御)。
【0024】
次に、本実施形態のEPSの電気的構成について説明する。
図2に示すように、ECU23は、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段としてのマイコン31と、マイコン31の出力するモータ制御信号に基づいてモータ21に三相の駆動電力を供給する駆動回路32とを備えている。なお、以下に示す各制御ブロックは、マイコン31が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。そして、マイコン31は、所定のサンプリング周期(検出周期)で各状態量を検出し、所定の演算周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することにより、モータ制御信号を出力する。
【0025】
駆動回路32は、スイッチング素子としての複数のFET(電界効果型トランジスタ)33a〜33fを接続してなる。詳しくは、駆動回路32は、FET33a,33d、FET33b,33e、及びFET33c,33fの各組の直列回路を並列に接続してなる。そして、FET33a,33d、FET33b,33e、FET33c,33fの各接続点は、動力線34u,34v,34wを介してそれぞれモータ21の各相のモータコイル35u,35v,35wに接続されている。つまり、駆動回路32は、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(スイッチングアーム)として、各相に対応する3つのスイッチングアームを並列に接続してなる周知のPWMインバータとして構成されている。また、マイコン31の出力するモータ制御信号は、各FET33a〜33fのスイッチング状態を規定するゲートオン/オフ信号となっている。
【0026】
そして、それぞれのゲート端子に印加されるモータ制御信号に応答して各FET33a〜33fがオン/オフし、各相のモータコイル35u,35v,35wへの通電パターンが切り替わることにより、車載電源(バッテリ)36の電源電圧が三相(U,V,W)の駆動電力に変換され、モータ21へと出力される。
【0027】
動力線34u,34v,34wの途中には、モータ21の各相電流値Iu,Iv,Iwを検出するための電流センサ37u,37v,37w、及びモータ21の各相電圧値Vu,Vv,Vwを検出するための電圧センサ38u,38v,38wが設けられている。また、動力線34u,34v,34wの途中には、各相を通電不能な開放状態とするための相開放スイッチとしてのリレーFET39u,39v,39wが設けられている。
【0028】
これら各リレーFET39u,39v,39wは、マイコン31の出力するリレー制御信号に応答してオン/オフし、オン状態となることで当該相への通電を可能にするとともに、オフ状態となることで当該相への通電を遮断するようになっている。また、各リレーFET39u,39v,39wには、その構造上、寄生ダイオードDが存在しており、該各リレーFET39u,39v,39wは、寄生ダイオードDが駆動回路32からモータ21方向への通電を許容するように設けられている。なお、本実施形態では、各リレーFET39u,39v,39wには、MOSFETが採用されている。
【0029】
マイコン31には、上記電流センサ37u,37v,37w及び電圧センサ38u,38v,38wとともに、モータ21のモータ回転角θmを検出するための回転角センサ(レゾルバ)40が接続されている。図3に示すように、マイコン31は、モータ21の制御に係るモータ制御部41と、各リレーFET39u,39v,39wの制御に係るリレー制御部42とを備えている。なお、リレー制御部42には、車両のイグニッションスイッチ(IG)のオン/オフ状態を示すイグニッション信号S_IGが入力される。そして、リレー制御部42は、入力されたイグニッション信号S_IGがIGオンを示す場合には、上記各リレーFET39u,39v,39wをオン作動させるリレー制御信号を出力する一方、イグニッション信号S_IGがIGオフを示す場合には、各リレーFET39u,39v,39wをオフ作動させるリレー制御信号を出力するようになっている。
【0030】
モータ制御部41は、モータ21に対する電力供給の目標値、すなわち目標アシスト力に対応する電流指令値(q軸電流指令値Iq*)を演算する電流指令値演算部44と、電流指令値に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部45とを備えている。
【0031】
電流指令値演算部44には、上記操舵トルクT及び車速SPDが入力される。そして、電流指令値演算部44は、これら操舵トルクT及び車速SPDに基づいて、モータ回転角θmに従う二相回転座標系(d/q座標系)におけるq軸電流指令値Iq*を電流指令値として演算する。具体的には、電流指令値演算部44は、操舵トルクT(の絶対値)が大きいほど、また車速SPDが遅いほど、より大きな値(絶対値)を有するq軸電流指令値Iq*を演算する。また、d軸電流指令値Id*はゼロに固定される(Id*=0)。
【0032】
モータ制御信号出力部45には、上記電流指令値演算部44の演算するq軸電流指令値Iq*とともに、各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角センサ40により検出されるモータ回転角θmが入力される。そして、モータ制御信号出力部45は、これら各状態量に基づいてd/q座標系における電流フィードバック制御を実行することによりモータ制御信号を生成する。
【0033】
具体的には、モータ制御信号出力部45に入力された各相電流値Iu,Iv,Iwは、d/q変換部51に入力される。d/q変換部51は、モータ回転角θmに基づいて、各相電流値Iu,Iv,Iwをd/q座標上に写像することにより、d軸電流値Id及びq軸電流値Iqを演算する。続いて、q軸電流値Iqは、電流指令値演算部44から入力されたq軸電流指令値Iq*とともに減算器52qに入力され、d軸電流値Idは、d軸電流指令値Id*とともに減算器52dに入力される。そして、各減算器52d,52qは、d軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqを演算する。
【0034】
これらd軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqは、それぞれ対応するF/B(フィードバック)制御部53d,53qに入力される。そして、これら各F/B制御部53d,53qは、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*に実電流値であるd軸電流値Id及びq軸電流値Iqを追従させるべくフィードバック演算を実行することにより、d/q座標系の電圧指令値であるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を演算する。より具体的には、F/B制御部53d,53qは、d軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqにそれぞれ比例ゲインを乗ずることにより得られる比例成分、及びこれらd軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqの積分値にそれぞれ積分ゲインを乗ずることにより得られる積分成分を演算する。そして、これらの各比例成分及び各積分成分をそれぞれ加算することにより、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を演算する。
【0035】
これらd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*は、モータ回転角θmとともにd/q逆変換部54に入力される。d/q逆変換部54は、モータ回転角θmに基づいて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を三相の交流座標上に写像することにより三相の相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する。続いて、これら各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は、PWM指令値演算部55に入力される。PWM指令値演算部55は、これら各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づく各相のDUTY指令値αu,αv,αwを演算する。そして、PWM出力部56は、PWM指令値演算部55から出力される各DUTY指令値αu,αv,αwに示されるオンDUTY比を有するモータ制御信号を生成し、上記駆動回路32に出力する。これにより、モータ制御信号に応じた駆動電力がモータ21に出力され、同駆動電力(通電電流量)に応じたモータトルクがアシスト力として操舵系に付与される。
【0036】
(異常検出)
次に、本実施形態のECUによる異常検出について説明する。
図3に示すように、マイコン31には、モータ21に駆動電力を供給する電力供給経路の通電不良及び各リレーFET39u,39v,39wがオフ状態のままオン状態とならなくなるオープン故障(開固定故障)を検出する異常検出手段としての異常検出部71が設けられている。なお、通電不良の態様としては、上記動力線34u,34v,34wの断線故障や、駆動回路32を構成するFET33a〜33fのオープン故障等がある。そして、図2に示すように、通電不良が発生した相では、駆動回路32からモータ21方向(一方向)、及びモータ21から駆動回路32方向(他方向)のいずれにも通電が遮断された状態となる。また、リレーFET39u,39v,39wにオープン故障が発生した場合には、上記寄生ダイオードDの存在により一方向への通電が許容された状態となる。
【0037】
図3に示すように、異常検出部71には、各相電流値Iu,Iv,Iw及び各相電圧値Vu,Vv,Vwが入力される。異常検出部71は、次の(1)〜(3)式を用いることにより各相電流値Iu,Iv,Iw及び各相電圧値Vu,Vv,Vwに基づき、モータ21に印可される印加電圧に相当する電圧パラメータとして各相誘起電圧値eu,ev,ewを演算する。
【0038】
eu=Vu−Iu・Ru ・・・(1)
ev=Vv−Iv・Rv ・・・(2)
ew=Vw−Iw・Rw ・・・(3)
なお、上記(1)〜(3)式は周知のモータ電圧方程式であり、「Ru」、「Rv」、「Rw」は各相のモータコイル35u,35v,35wの抵抗値を示している。
【0039】
そして、該各相誘起電圧値eu,ev,ewに基づいて三相のうちの一相を特定相として相毎に異常があるか否かを判定し、その判定結果を示す異常検出信号S_pdeをモータ制御部41及びリレー制御部42に出力する。なお、本実施形態では、異常検出部71は、各相の異常検出を並列して同時に実行する。これにより、何らかの異常が発生した旨の異常検出信号S_pdeが出力された場合には、モータ制御部41はモータ21を停止させるとともに、リレー制御部42は各リレーFET39u,39v,39wをオフ作動させることにより、速やかに、そのフェールセーフを図る構成となっている。
【0040】
ここで、図4(a)において実線で示すように、オープン故障が発生しておらず、モータ21が高速回転していない状態では、判定対象となる特定相(X相)の相誘起電圧値exは、いずれの方向に電流を流そうとする側にも大きくならない。なお、「X」は、U,V,Wの三相のいずれかの相を示すものである。また、本実施形態では、相誘起電圧値exの符号は、電流を一方向に流そうとする場合をプラスとし、他方向に流そうとする場合をマイナスとする。
【0041】
一方、特定相のリレーFET39xにオープン故障が発生した状態では、上記のように寄生ダイオードDの存在により一方向への通電は許容され、他方向への通電のみが遮断される。そのため、本実施形態のように電流フィードバック制御を実行する構成においてオープン故障が発生しても、電流を一方向に流す際には、d軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqが大きくならず、相誘起電圧値exがプラス側に大きくならない。これに対し、電流を他方向に流す際には、例えば同図において破線で示すように、d軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqが大きくなることで、相誘起電圧値exがマイナス側に大きくなる。
【0042】
つまり、特定相の相誘起電圧値exは、オープン故障が発生した状態でも一方向には通電が許容されるため、通常、プラスの値に設定された通電判定閾値e_pd以上とはならないのに対し、他方向には通電が遮断されるため、マイナスの値に設定された異常判定閾値e_er以下となる。ここで、通電判定閾値e_pd及び異常判定閾値e_erは、モータ21が高速回転しておらず他方向への通電が許容される状態では、通常取り得ない大きさをそれぞれ有している。なお、これら通電判定閾値e_pd及び異常判定閾値e_erの大きさは同一でも異なっていてもよい。
【0043】
また、図4(b)に示すように、モータ21が高速回転している状態では、各リレーFET39u,39v,39wのオープン故障が発生していなくとも、各相誘起電圧値eu,ev,ewは、プラスの値に設定された高速判定閾値e_hip以上、又はマイナスの値に設定された高速判定閾値e_him以下となる。なお、各高速判定閾値e_hip,e_himは、モータ21が安定回転していると見なせる高速回転時に生じる誘起電圧に基づく値であり、通電判定閾値e_pd及び異常判定閾値e_erよりも小さな値に設定されている。
【0044】
この点を踏まえ、異常検出部71は、リレーFET39xがオフ作動すべく制御されるとともに、一方向への通電が可能、且つモータ21が高速回転していないと判定される状態で、継続して特定相の相誘起電圧値exがマイナス側に異常判定閾値e_erを超えて大きくなった場合、すなわち継続して相誘起電圧値exが異常判定閾値e_er以下となった場合に、該特定相のリレーFET39xにオープン故障が発生した判定する。なお、上記のように各リレーFET39u,39v,39wは、IGオン時にオン作動すべく制御されているため、異常検出部71は、オープン故障の判定時において、各リレーFET39u,39v,39wはオン作動すべく制御されているものとして当該判定を行う。
【0045】
詳述すると、異常検出部71は、特定相の相誘起電圧値exが通電判定閾値e_pd以下である場合に、一方向への通電が可能な状態であると判定する。そして、一方向への通電が可能な状態である場合には、当該相のリレーFET39xにオープン故障が発生しているか否かの判定を行う。このオープン故障の判定に際して、異常検出部71は、先ず各相誘起電圧値eu,ev,ewに基づいてモータ21が高速回転しているか否かの高速回転判定を行う。
【0046】
具体的には、異常検出部71は、特定相の相誘起電圧値exの符号がプラスの間に他相(Y相,Z相)の各相誘起電圧値ey,ezが高速判定閾値e_him以下となるか否かを判定する。なお、「Y」は、U,V,Wの三相のうち「X」以外の一相を示すものであり、「Z」は、U,V,Wの三相のうち「X」、「Y」以外の残りの一相を示すものである。そして、他相の各相誘起電圧値ey,ezの少なくとも一方が高速判定閾値e_himを超えた場合には、該特定相の相誘起電圧値exの符号がプラスからマイナスに変化する際に、モータ21が高速回転していると判定する。なお、異常検出部71は、相誘起電圧値exが符号判定閾値e_0よりも大きい場合にその符号がプラスであり、符号判定閾値e_0以下の場合にその符号がマイナスであると判定する。この符号判定閾値e_0は、検出誤差等を考慮してゼロ近傍の値に設定されている。
【0047】
そして、異常検出部71は、モータ21が高速回転していないと判定した場合には、相誘起電圧値exがマイナスの値に設定された異常判定閾値e_er以下となる異常回数を計測し、その異常回数が所定回数を超えた場合に、オープン故障が発生したと判定する。これに対し、異常検出部71は、モータ21が高速回転していると判定した場合には、異常回数をクリアして再度計測し直す。また、本実施形態では、一旦相誘起電圧値exが異常判定閾値e_er以下となってから所定時間以上、異常回数が増加しない場合にも、同異常回数をクリアするようになっている(タイムオーバー)。これにより、ノイズ等の影響により相誘起電圧値exが異常判定閾値e_er以下となる回数が積算されてオープン故障が発生したと誤判定されることが防止される。
【0048】
一方、異常検出部71は、特定相の相誘起電圧値exが通電判定閾値e_pdよりも大きく、一方向への通電が遮断されており、通電不良が発生している可能性がある場合には、通電不良の判定を行う。この通電不良の判定は、モータ21に電流を流そうとしているにも関わらず、電流が流れていない状態であるか否かに基づく周知の方法により行う。なお、本実施形態では、相電流値Ixが所定電流値Ith以下である場合に、DUTY指令値αxが所定電流値Ithに対応する所定範囲外の値となると、通電不良が発生したと判定する。ここで、所定電流値Ithは、非通電状態であることを示す値であり、検出誤差等を考慮してゼロよりも大きな値に設定されている。また、所定範囲は、誘起電圧が高くない状態で相電流値Ixが所定電流値Ith以下となるはずのDUTY指令値αxの範囲であり、同様に検出誤差等を考慮して設定されている。
【0049】
次に、異常検出部による異常判定の処理手順を図5〜図7に示すフローチャートに従って説明する。
図5に示すように、異常検出部71は、各相電流値Iu,Iv,Iw及び各相電圧値Vu,Vv,Vwを取得すると(ステップ201)、上記(1)〜(3)式に基づいて各相誘起電圧値eu,ev,ewを演算する(ステップ202)。続いて、特定相であるX相(例えばU相)の相誘起電圧値exが通電判定閾値e_pd以下であるか否かを判定し(ステップ203)、該相誘起電圧値exが通電判定閾値e_pd以下である場合には(ステップ203:YES)、リレーFET39xのオープン故障が発生したが否かを判定する(ステップ204)。これに対し、相誘起電圧値exが通電判定閾値e_pdよりも大きい場合には(ステップ203:NO)、通電不良が発生したか否かを判定する(ステップ205)。なお、通電不良判定は、周知の方法であるため、詳細な処理手順の説明を省略する。
【0050】
次に、ステップ204におけるオープン故障判定の処理手順について説明する。
図6に示すように、異常検出部71は、先ずモータ21が高速回転しているか否かの高速回転判定を行い(ステップ301)、その結果、モータ21が高速回転していることを示す高速回転フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ302)。そして、高速回転フラグがセットされていない場合には(ステップ302:NO)、特定相の相誘起電圧値exが異常判定閾値e_er以下であるか否かを判定する(ステップ303)。
【0051】
続いて、異常検出部71は、相誘起電圧値exが異常判定閾値e_er以下である場合には(ステップ303:YES)、該相誘起電圧値exが異常判定閾値e_er以下となる状態が継続していることを示す継続フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ304)。継続フラグがセットされていない場合には(ステップ304:NO)、継続フラグをセットし(ステップ305)、異常カウンタをクリアしてから(ステップ306:C=0)、異常カウンタをインクリメントする(ステップ307:C=C+1)。一方、継続フラグがセットされている場合には(ステップ304:YES)、ステップ305,306の処理を実行せずに、ステップ307に移行して異常カウンタをインクリメントする。続いて、異常検出部71は、異常カウンタがインクリメントされる時間間隔を計測するための図示しないタイマのタイマ値tをクリアし(ステップ308)、異常カウンタのカウント値Cが所定回数Cth以上であるか否かを判定する(ステップ309)。そして、カウント値Cが所定回数Cth以上である場合には(ステップ309:YES)、オープン故障が発生したと判定する(ステップ310)。なお、カウント値Cが所定回数Cth未満である場合には(ステップ309:NO)、オープン故障が発生したと判定しない。
【0052】
一方、異常検出部71は、特定相の相誘起電圧値exが異常判定閾値e_erより大きい場合には(ステップ303:NO)、継続フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ311)。継続フラグがセットされている場合には(ステップ311:YES)、タイマ値tを取得し(ステップ312)、タイマ値tが所定時間を示す所定タイマ値tthよりも大きいか否かを判定する(ステップ313)。そして、タイマ値tが所定タイマ値tthよりも大きい場合には(ステップ313:YES)、継続フラグをクリアし(ステップ314)、異常カウンタをクリアする(ステップ315:C=0)。また、高速回転フラグがセットされている場合にも(ステップ302:YES)、ステップ314,315に移行して継続フラグ及び異常カウンタをクリアする。これに対し、継続フラグがセットされていない場合(ステップ311:NO)、及びタイマ値tが所定タイマ値tth以下の場合には(ステップ313:NO)、継続フラグ及び異常カウンタのカウント値Cを保持する。
【0053】
次に、ステップ301における高速回転判定の処理手順について説明する。
図7に示すように、異常検出部71は、先ず高速回転フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ401)。高速回転フラグがセットされていない場合には(ステップ401:NO)、他相であるY相(例えば、V相)の相誘起電圧値eyが高速判定閾値e_him以下となったことを示すY相履歴フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ402)。Y相履歴フラグがセットされていない場合には(ステップ402:NO)、他相であるZ相(例えば、W相)の相誘起電圧値ezが高速判定閾値e_him以下となったことを示すZ相履歴フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ403)。そして、Z相履歴フラグがセットされていない場合には(ステップ403:NO)、特定相の相誘起電圧値exが符号判定閾値e_0よりも大きいか否かを判定する(ステップ404)。
【0054】
続いて、異常検出部71は、相誘起電圧値exが符号判定閾値e_0よりも大きい場合、すなわちその符号がプラスの場合には(ステップ404:YES)、Y相の相誘起電圧値eyがマイナスの値に設定された高速判定閾値e_him以下であるか否かを判定する(ステップ405)。この相誘起電圧値eyが高速判定閾値e_him以下である場合には(ステップ405:YES)、Y相履歴フラグをセットし(ステップ406)、ステップ407に移行して、Z相の相誘起電圧値ezが高速判定閾値e_him以下であるか否かを判定する(ステップ407)。なお、相誘起電圧値eyが高速判定閾値e_himよりも大きい場合には(ステップ405:NO)、Y相履歴フラグをセットせずに、ステップ407に移行する。続いて、相誘起電圧値ezが高速判定閾値e_him以下である場合には(ステップ407:YES)、Z相履歴フラグをセットする(ステップ408)。一方、相誘起電圧値ezが高速判定閾値e_himよりも大きい場合には(ステップ407:NO)、Z相履歴フラグをセットしない。また、特定相の相誘起電圧値exが符号判定閾値e_0以下の場合、すなわちその符号がマイナスの場合には(ステップ404:NO)、ステップ405〜408の処理を実行しない。
【0055】
続いて、異常検出部71は、Y相履歴フラグがセットされている場合(ステップ402:YES)、及びZ相履歴フラグがセットされている場合には(ステップ403:YES)、特定相の相誘起電圧値exの符号が反転したか否かを判定する。具体的には、図示しないメモリに記憶された相誘起電圧値exの前回値ex_bが符号判定閾値e_0よりも大きいか否かを判定し(ステップ409)、前回値ex_bが符号判定閾値e_0よりも大きい場合には(ステップ409:YES)、最新の値である相誘起電圧値exが符号判定閾値e_0以下であるか否かを判定する(ステップ410)。そして、相誘起電圧値exが符号判定閾値e_0以下である場合には(ステップ410:YES)、高速回転フラグをセットし(ステップ411)、Y相履歴フラグ及びZ相履歴フラグの各フラグをクリアする(ステップ412,413)。なお、前回値ex_bが符号判定閾値e_0以下の場合(ステップ409:NO)、及び相誘起電圧値exが符号判定閾値e_0よりも大きい場合には(ステップ410:NO)、ステップ411〜413の処理を実行しない。
【0056】
続いて、異常検出部71は、高速回転フラグがセットされている場合には(ステップ401:YES)、特定相の相誘起電圧値exが符号判定閾値e_0よりも大きいか否かを判定する(ステップ414)。そして、相誘起電圧値exが符号判定閾値e_0よりも大きい場合には(ステップ414:YES)、高速回転フラグをクリアする(ステップ415)。なお、相誘起電圧値exが符号判定閾値e_0以下の場合には(ステップ414:NO)、高速回転フラグをクリアしない。
【0057】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)異常検出部71は、モータ21と駆動回路32との間で一方向への通電が可能、且つモータ21が高速回転していない状態で、特定相の相誘起電圧値exが継続して異常判定閾値e_er以下となった場合に、該特定相のリレーFET39xにオープン故障が発生したと判定するようにした。
【0058】
上記構成によれば、特殊な態様でモータ21に電圧を印可せず、電流フィードバック制御時の相誘起電圧値exの変化に基づいて判定できるため、モータ21を駆動しながらオープン故障を検出することができる。これにより、速やかにフェールセーフを図ることが可能になり、操舵フィーリングの低下を抑制できる。
【0059】
(2)異常検出部71は、特定相の相誘起電圧値exの符号がプラスの間に他相の各相誘起電圧値ey,ezが高速判定閾値e_himを超えるか否かを判定する。そして、他相の各相誘起電圧値ey,ezの少なくとも一方が高速判定閾値e_himを超えた場合には、該特定相の相誘起電圧値exの符号がプラスからマイナスに変化する際に、モータ21が高速回転していると判定するようにした。上記構成によれば、回転角センサを用いることなく、簡易な構成でモータ21が高速回転しているか否かを判定することができる。また、相誘起電圧値exの符号がマイナスに変化する際に、高速回転しているか否かの判定を行うため、特定相の相誘起電圧値exが異常判定閾値e_erを超える可能性のある状態となる前に、高速回転しているか否かを判定できる。
【0060】
ここで、上記のように特定相のリレーFET39xにオープン故障が発生している状態では、他方向に電流を流そうとする際には、特定相の相誘起電圧値exが異常判定閾値e_er以下となる(異常な値となる)ため、相誘起電圧値exの符号がマイナスである間は、他相の各相誘起電圧値ey,ezの変化が不安定になる虞がある。この点、上記構成によれば、特定相の相誘起電圧値exの符号がプラスの間に、すなわち特定相の相誘起電圧値exが異常な値とならない状態で、他相の各相誘起電圧値ey,ezが高速判定閾値e_himを超えるか否かを判定するため、精度良く高速回転の判定を行うことができる。
【0061】
(4)異常検出部71は、上記(1)〜(3)式を用いることにより各相電流値Iu,Iv,Iw及び各相電圧値Vu,Vv,Vwに基づいて演算される各相誘起電圧値eu,ev,ewをモータ21に印加される印加電圧に相当する電圧パラメータとして用いた。
【0062】
すなわち、各相電圧値Vu,Vv,Vwは、各相電流値Iu,Iv,Iwと各抵抗値Ru,Rv,Rwとの乗算値、及び各相誘起電圧値eu,ev,ewの和である(上記(1)〜(3)式参照)。そのため、例えば電圧パラメータとして各相電圧値Vu,Vv,Vwを用いると、モータ21に供給される電流が大きい場合には、オープン故障が発生していなくても、該各相電圧値Vu,Vv,Vwはマイナス側に異常判定閾値e_erを超えて大きくなる虞がある。この点、上記構成によれば、電圧パラメータとして各相電圧値Vu,Vv,Vwから上記乗算値を差し引いた各相誘起電圧値eu,ev,ewを用いるため、精度良くオープン故障の判定をできるようになる。
【0063】
(5)異常検出部71は、相誘起電圧値exが通電判定閾値e_pd以下の場合に、モータ21と駆動回路32との間で一方向への通電が可能であると判定するため、容易に一方向への通電が可能であるか否かの判定を行うことができる。
【0064】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、相誘起電圧値exが通電判定閾値e_pd以下である場合に、一方向への通電が可能な状態であると判定した。しかし、これに限らず、オープン故障の検出に先立って通電不良の判定を行い、通電不良が発生していないことを持って、一方向への通電が可能な状態であると判定してもよい。この構成では、通電不良の判定結果を用いることで、別途一方向への通電が可能であるか否かの判定を行わなくてもよくなる。
【0065】
・上記実施形態において、通電不良の判定に車載電源36の電源電圧が十分な電圧をモータ21に印加可能な値以上であるか等、他の条件を加えて判定するようにしてもよい。
・上記実施形態では、モータ21に印加する印加電圧に相当する電圧パラメータとして各相誘起電圧値eu,ev,ewを用いたが、これに限らず、例えば各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*、各DUTY指令値αu,αv,αw又は電圧センサ38u,38v,38wにより検出される相電圧値Vu,Vv,Vw等を用いてもよい。
【0066】
・上記実施形態では、異常検出部71は、特定相の相誘起電圧値exの符号がマイナスに変化する前の電気角一周期のうち、該相誘起電圧値exの符号がプラスの間に他相の各相誘起電圧値ey,ezが高速判定閾値e_him以下となるか否かを判定し、その判定結果に応じて高速回転の判定を行った。しかし、これに限らず、相誘起電圧値exの符号がプラスの間の判定に加えて、その符号がマイナスの間に他相の各相誘起電圧値ey,ezが高速判定閾値e_hip以上となるか否かを判定するようにしてもよい。
【0067】
・上記実施形態では、各相誘起電圧値eu,ev,ewに基づいてモータ21が高速回転しているか否かを判定したが、これに限らず、例えば回転角センサ40により検出されるモータ回転角θmに基づいてモータ回転角速度を推定し、同モータ回転角速度に基づいてモータ21が高速回転しているか否かを判定してもよい。
【0068】
・上記実施形態では、各高速判定閾値e_hip,e_himを通電判定閾値e_pd及び異常判定閾値e_erよりも小さな値に設定したが、これら通電判定閾値e_pd及び異常判定閾値e_er以上の値に設定してもよい。
【0069】
・上記実施形態では、相開放スイッチとしての各リレーFET39u,39v,39wに、MOSFETを用いたが、これに限らず、寄生ダイオードを含むものあればよく、例えばジャンクションFET等を用いてもよい。
【0070】
・上記実施形態では、寄生ダイオードDが一方向への通電を許容するように各リレーFET39u,39v,39wを設けたが、これに限らず、寄生ダイオードDが他方向への通電を許容するように各リレーFET39u,39v,39wを設けてもよい。
【0071】
・上記実施形態では、異常検出部71が異常検出を並列して三相同時に実行するようにしたが、これに限らず、相毎に順次異常検出を実行するようにしてもよい。
・上記実施形態では、本発明をEPSアクチュエータ22の駆動源であるモータ21を制御するモータ制御装置としてのECU23に具体化した。しかし、これに限らず、例えば差動機構を用いてステアリング操作に基づく入力軸の回転にモータ駆動に基づく回転を上乗せして出力軸に伝達する伝達比可変装置のモータ等、他のモータを制御するモータ制御装置に具体化してもよい。
【0072】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)前記異常検出手段は、前記電圧パラメータが前記一方向へ電流を流そうとする側に通電判定閾値を超えて大きくならない場合に、前記モータと前記駆動回路との間で前記一方向への通電が可能であると判定することを特徴とする。上記構成によれば、容易に一方向への通電が可能であるか否かの判定を行うことができる。
【0073】
(ロ)前記異常検出手段は、前記モータと前記駆動回路との間の電力供給経路において通電不良が発生していない場合に、前記モータと前記駆動回路との間で前記一方向への通電が可能であると判定することを特徴とする。上記構成によれば、通電不良の判定結果を用いることで、別途一方向への通電が可能であるか否かの判定を行わなくてもよくなる。
【符号の説明】
【0074】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、2…ステアリング、3…ステアリングシャフト、21…モータ、22…EPSアクチュエータ、23…ECU、27…トルクセンサ、28…車速センサ、31…マイコン、32…駆動回路、34u,34v,34w…動力線、35u,35v,35w…モータコイル、37u,37v,37w…電流センサ、38u,38v,38w…電圧センサ、39u,39v,39w,39x…リレーFET、40…回転角センサ、41…モータ制御部、42…リレー制御部、44…電流指令値演算部、45…モータ制御信号出力部、71…通電不良検出部、C…カウント値、Cth…所定カウント値、D…寄生ダイオード、t…タイマ値、tth…所定タイマ値、eu,ev,ew,ex,ey,ez…相誘起電圧値、e_0…符号判定閾値、e_er異常判定閾値、e_pd…電判定閾値、ex_b…前回値、e_him,e_hip…高速判定閾値、Iu,Iv,Iw,Ix…相電流値、S_IG…イグニッション信号、S_pde:異常検出信号、Vu,Vv,Vw…相電圧値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段と、前記モータ制御信号に基づいてモータに三相の駆動電力を供給する駆動回路と、前記モータと前記駆動回路とを接続する各相の動力線に設けられる相開放スイッチと、前記モータに印加される印加電圧に相当する電圧パラメータに基づいて前記相開放スイッチのオープン故障を検出する異常検出手段とを備え、前記モータ制御信号出力手段は、前記モータに供給する電流の目標値である電流指令値に実電流値を追従させるべく電流フィードバック制御を実行することにより前記モータ制御信号を出力するモータ制御装置において、
前記相開放スイッチは、当該相への通電を遮断するオフ状態においても一方向への通電を許容する寄生ダイオードを含むものであって、
前記異常検出手段は、前記モータと前記駆動回路との間で前記一方向への通電が可能、且つ前記モータが高速回転していない状態で、判定対象となる特定相の前記電圧パラメータが、前記寄生ダイオードにより通電が許容されない他方向に電流を流そうとする側に異常判定閾値を超えて大きくなった場合に、該特定相の相開放スイッチにオープン故障が発生したと判定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記異常検出手段は、前記特定相の電圧パラメータの符号が前記一方向に電流を流そうとすることを示すものから前記他方向に電流を流そうとすることを示すものに変化する際に前記モータが高速回転しているか否かを判定するものであり、
前記特定相の電圧パラメータが前記他方向に電流を流そうとすることを示すものに変化する前の電気角一周期の間に、前記特定相以外の他相のうちの少なくとも一相の電圧パラメータが、高速回転時に生じる誘起電圧に基づく高速判定閾値を超えた場合には、前記モータが高速回転していると判定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ制御装置において、
前記異常検出手段は、前記電気角一周期における前記特定相の電圧パラメータの符号が前記一方向に電流を流そうとすることを示すものである間に、前記他相のうちの少なくとも一相の電圧パラメータが前記高速判定閾値を超えた場合には、前記モータが高速回転していると判定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、
前記異常検出手段は、前記電圧パラメータとして、前記モータの各相電流値及び各相電圧値に基づいて演算される各相誘起電圧値を用いることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のモータ制御装置を備えたことを特徴とする車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−17304(P2013−17304A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148313(P2011−148313)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】