説明

モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置

【課題】実回転角に基づく回転角速度検出を行うことなく、精度よく、電力供給経路における通電不良の発生を検出することが可能なモータ制御装置を提供すること。
【解決手段】通電不良検出部は、誘起電圧二乗和Esq_αβが、所定の閾値E1を超えるか否かを判定する(ステップ602)。また、モータ回転角速度推定値ωm_eが所定の閾値ω1よりも低いか否かを判定する(ステップ603)。そして、その誘起電圧二乗和Esq_αβが最高速回転状態に対応する最大領域にあるにもかかわらず(Esq_αβ>E1、ステップ602:YES)、モータ回転角速度推定値ωm_eは非回転状態を示す最小領域にある(ωm_e<ω1、ステップ603:YES)という矛盾を検知した場合に、何れかの相に通電不良の発生を示す異常があると判定する(ステップ604)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、駆動電力の供給を通じてモータの作動を制御するモータ制御装置には、その電力供給経路における通電不良の発生を検出する機能が備えられている。即ち、三相(U,V,W)の駆動電力に基づき回転するブラシレスモータを制御対象とするモータ制御装置では、通電状態にあるべき相の電流値が非通電状態を示す値である場合には、当該相に通電不良(断線状態)が生じたものと判定することができる(例えば、特許文献1参照)。尚、検出対象相が「通電状態にあるべき相」であるか否かについては、例えば当該相の電流指令値や電圧指令値(若しくはDuty)等に基づいて判定することが可能である。そして、更にモータ回転角速度について条件を付加し、誘起電圧の影響によりモータコイルに電流を流し込めなくなる、即ちモータ電流が極小化する高速回転領域を除外することによって、より精度よく、その通電不良検出を行うことができる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/112033号パンフレット
【特許文献2】特開2007−244028号公報
【特許文献3】特開2010−11709号公報
【特許文献4】特開2010−29031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ブラシレスモータを制御対象とするモータ制御装置にも、モータの実回転角を検出することなく、その駆動電力の供給を行うものがある(例えば、特許文献3,4参照)。このため、こうした所謂レゾルバレス制御を行うものについては、実回転角速度を用いて上記速度条件判定を行うことができず、当該速度条件の付加による検出精度の向上が望めないという課題があり、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、実回転角速度の検出を行うことなく、精度よく、電力供給経路における通電不良の発生を検出することのできるモータ制御装置及び電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段と、前記モータ制御信号の入力により作動して電源電圧に基づく三相の駆動電力をモータに供給する駆動回路と、前記モータへの電流供給経路における通電不良の発生を検出する異常検出手段とを備え、前記モータ制御信号出力手段は、演算周期毎のモータ回転角変化量に相当する加算角を演算し、該加算角を積算することにより制御上のモータ回転角を演算するとともに、該制御上のモータ回転角に従う回転座標系において電流フィードバック制御を実行することにより前記モータ制御信号を出力するモータ制御装置において、前記三相の各相電流値及び各相電圧値を二相固定座標系の各軸電流値及び各軸電圧値に変換する変換手段と、前記各軸電流値及び各軸電圧値に基づき前記二相固定座標系の各軸誘起電圧推定値を演算する誘起電圧推定手段と、前記各軸誘起電圧推定値に基づきモータ回転角推定値を演算し、該モータ回転角推定値の変化量に基づきモータ回転角速度推定値を演算する回転角速度推定手段とを備え、前記異常検出手段は、前記各軸誘起電圧推定値の二乗和が最大領域にあり、且つ前記モータ回転角速度推定値が最小領域にある場合には、前記通電不良の発生を示す異常があると判定すること、を要旨とする。
【0007】
即ち、何れかの相に通電不良が発生した場合、電流フィードバック制御により、各相電圧値は、その通電パターンを固定して行う所謂相固定通電時に極めて近い状態になる。そして、このとき、各相電流値の何れかは、その通電不良の発生により、理論上の値が「0」となっている。このため、二相固定座標系における各軸誘起電圧推定値が略一定の値となり、その結果、当該各軸誘起電圧推定値に基づくモータ回転角推定値もまた、その通電パターンによる相固定通電時に生ずる回転角(電気角)近傍において略一定の値となる(固着状態)。そして、そのモータ回転角推定値に基づきモータ回転角速度推定値が演算されることにより、当該モータ回転角速度推定値と各軸誘起電圧推定値の二乗和との間に矛盾が生ずる。従って、上記構成のように、モータ回転角速度推定値と各軸誘起電圧推定値の二乗和との間の矛盾を監視することにより、モータの実回転角速度を用いないレゾルバレス制御の実行時においても、精度よく、電力供給経路における通電不良の発生を検出することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記モータ制御信号出力手段は、前記モータ回転角速度推定値に基づいて前記加算角を演算するものであって、前記異常検出手段は、前記通電不良の発生を示す異常が継続する場合に、該異常を確定すること、を要旨とする。
【0009】
即ち、モータ回転角推定値が固着し、モータ回転角速度推定値が略「0」となることで、当該モータ回転角速度推定値に基づき演算される加算角もまた小さな値となる。そして、その制御上の仮想的なモータ回転角の変化が小さくなることにより、当該モータ回転角推定値が固着した状態もまた継続することになる。従って、上記構成によれば、より精度よく、通電不良の発生を検出することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置を備えた電動パワーステアリング装置であること、を要旨とする。
上記構成によれば、実回転角速度を用いないレゾルバレス制御の実行時においても、精度よく、通電不良の発生を検出することができる。そして、これにより、その通電不良の発生後、速やかにモータ駆動を停止してフェールセーフを図ることによって、操舵フィーリングに優れた電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、実回転角に基づく回転角速度検出を行うことなく、精度よく、電力供給経路における通電不良の発生を検出することが可能なモータ制御装置及び電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】EPSの電気的構成を示すブロック図。
【図3】駆動回路の回路図。
【図4】第1制御部の概略構成図。
【図5】第2制御部の概略構成図。
【図6】外乱オブザーバの概略構成を示すブロック線図。
【図7】回転角速度推定の処理手順を示すフローチャート。
【図8】加算角調整演算の処理手順を示すフローチャート。
【図9】第2制御部側の電流指令値演算部の概略構成図。
【図10】検出対象相となる特定相の選択及び当該特定相における通電不良の発生を検出する処理手順を示すフローチャート。
【図11】通常通電不良判定の処理手順を示すフローチャート。
【図12】通電不良判定の態様を切り替える際の処理手順を示すフローチャート。
【図13】代替通電不良判定の処理手順を示すフローチャート。
【図14】異常継続判定の処理手順を示すフローチャート。
【図15】通電不良発生を特定する際の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。そして、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
【0014】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
【0015】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されている。尚、本実施形態では、モータ12には、三相(U,V,W)の駆動電力に基づき回転するブラシレスモータが採用されている。そして、EPSアクチュエータ10は、このモータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクに基づくアシスト力を操舵系に付与する構成となっている。
【0016】
一方、ECU11には、トルクセンサ14が接続されており、ECU11は、同トルクセンサ14の出力信号に基づいて、ステアリングシャフト3を伝達する操舵トルクτを検出する。また、本実施形態のECU11には、車輪速センサ15により検出される左右の車輪速Wr,Wl及び同車輪速Wr,Wlに基づき検出される車速Vが入力される。そして、本実施形態のECU11は、これらの各状態量に基づいて、操舵系に付与すべき目標アシスト力を演算し、これに相当するモータトルクを発生させるべく駆動電力を供給することにより、そのモータ12を駆動源とするEPSアクチュエータ10の作動、即ち操舵系に付与するアシスト力を制御する構成となっている(パワーアシスト制御)。
【0017】
次に、本実施形態のEPSの電気的構成について説明する。
図2は、本実施形態のEPSの制御ブロック図である。同図に示すように、ECU11は、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段としてのマイコン17と、同マイコン17の出力するモータ制御信号に基づいてモータ12に三相の駆動電力を供給する駆動回路18とを備えている。
【0018】
尚、以下に示す各制御ブロックは、マイコン17が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。そして、同マイコン17は、所定のサンプリング周期で上記各状態量を検出し、所定周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することにより、モータ制御信号を生成する。
【0019】
図3に示すように、本実施形態の駆動回路18は、スイッチング素子としての複数のFET18a〜18fを接続することにより形成されている。具体的には、FET18a,18d、FET18b,18e、及びFET18c,18fの各組の直列回路が並列に接続されている。尚、本実施形態では、これらの各FET18a〜18fには、NチャネルMOSFETが用いられている。そして、その直列接続されたスイッチング素子対の各接続点、即ちFET18a,18d、FET18b,18e、FET18c,18fの各接続点19u,19v,19wは、それぞれ、動力線20u,20v,20wを介してモータ12の各相モータコイル12u,12v,12wに接続されている。
【0020】
このように、本実施形態の駆動回路18は、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(スイッチングアーム)として、各相に対応する3つのスイッチングアーム18u,18v,18wを並列に接続してなる周知のPWMインバータとして構成されている。そして、上記モータ制御信号の入力により作動して、その印加される電源電圧V_pigに基づく三相の駆動電力をモータに供給する構成となっている。
【0021】
即ち、マイコン17の出力するモータ制御信号は、駆動回路18を構成する各相スイッチング素子のオン/オフ状態(各相スイッチングアームのDuty)を規定するものとなっている。そして、そのモータ制御信号に応答して各FET18a〜18fがオン/オフし、各相モータコイル12u,12v,12wに対する通電パターンが切り替わることにより、その駆動回路18に印加された電源電圧V_pigが三相(U,V,W)の駆動電力に変換されて、モータ12へと出力されるようになっている。
【0022】
また、ECU11には、モータ12の各相電流値Iu,Iv,Iwを検出するための電流センサ21(21u,21v,21w)が設けられている。具体的には、これらの各電流センサ21u,21v,21wは、モータ12の各相に対応する上記各スイッチングアーム18u,18v,18wの低電位側(接地側、図3中下側)に、それぞれ、シャント抵抗を接続することにより形成されている。そして、本実施形態のマイコン17は、これら各電流センサ21u,21v,21wの出力信号(シャント抵抗の端子間電圧)に基づいて、各相モータコイル12u,12v,12wに流れる相電流値Iu,Iv,Iwを検出する構成となっている。
【0023】
更に、本実施形態のマイコン17は、モータレゾルバ23の出力信号に基づいて、モータ12の実回転角(モータ回転角θm)を検出する(図1及び図2参照)。尚、本実施形態では、モータレゾルバ23には、そのセンサ信号として、モータ回転角θm(電気角)に応じて振幅が変化する二相の正弦波状信号(正弦信号S_sin及び余弦信号S_cos)を出力する巻線型のレゾルバが採用されている。そして、本実施形態のマイコン17は、これらモータ12の各相電流値Iu,Iv,Iw及びモータ回転角θmに基づいて、電流フィードバック制御を実行することにより、その駆動回路18に出力するモータ制御信号を生成する。
【0024】
詳述すると、図2に示すように、マイコン17のモータ制御部24には、回転座標系における電流制御の実行によりモータ12の各相に印加すべき相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*(Vu**,Vv**,Vw**)を演算する第1制御部25及び第2制御部26、並びに、その相電圧指令値をモータ制御信号に変換するPWM変換部27が設けられている。そして、本実施形態のマイコン17は、このモータ制御部24において生成されたモータ制御信号を駆動回路18に出力する構成となっている。
【0025】
図4に示すように、第1制御部25は、上記のようにECU11が取得する操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、目標アシスト力に対応した電流指令値を演算する電流指令値演算部31を備えている。また、第1制御部25は、d/q変換部32を備えており、同d/q変換部32は、各相電流値Iu,Iv,Iwを、モータレゾルバ23により検出される上記モータ回転角θm、即ちモータ12の実回転角に従う回転座標系(d/q座標系)の直交座標上に写像することにより、d軸電流値Id及びq軸電流値Iqを演算する。そして、第1制御部25は、そのd/q座標系において電流フィードバック制御を実行することにより、モータ12の各相に印加すべき電圧を示す相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する構成となっている。
【0026】
即ち、上記電流指令値演算部31は、電流指令値としてq軸電流指令値Iq*を演算する。具体的には、同電流指令値演算部31は、入力される操舵トルクτが大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きなアシスト力を発生させるようなq軸電流指令値Iq*を演算する。尚、d軸電流指令値Id*は「0」に固定される(Id*=0)。そして、これらd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*は、d/q変換部32の出力するd軸電流値Id及びq軸電流値Iqとともに、その対応する減算器33d,33qに入力される。
【0027】
次に、これら各減算器33d,33qが演算する各軸の電流偏差ΔId,ΔIqは、それぞれ、対応するF/B制御部(フィードバック制御部)34d,34qに入力される。そして、各F/B制御部34d,34qは、その入力される電流偏差ΔId,ΔIq及び所定のフィードバックゲイン(比例:P、積分:I)に基づくフィードバック制御演算を実行することにより、d/q座標系の電圧指令値であるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を演算する。
【0028】
具体的には、各F/B制御部34d,34qは、それぞれ、その入力される電流偏差ΔId,ΔIqに比例ゲインを乗ずることにより得られる比例成分、及び当該電流偏差ΔId,ΔIqの積分値に積分ゲインを乗ずることにより得られる積分成分を演算する。そして、これらの比例成分及び積分成分を加算することにより、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を生成する。
【0029】
次に、これらのd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*は、d/q逆変換部35において、三相(U,V,W)の交流座標上に写像される。そして、第1制御部25は、このd/q逆変換部35が実行する逆変換により得られる相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を、上記PWM変換部27に出力する構成となっている。
【0030】
一方、図5に示すように、第2制御部26は、演算周期毎のモータ回転角変化量に相当する加算角θa(θa´)を演算する加算角演算部41と、その加算角θaを演算周期毎に積算することにより制御上の仮想的なモータ回転角としての制御角θcを演算する制御角演算部42とを備えている。そして、第2制御部26は、その制御角θcに従う回転座標系(γ/δ座標系)において電流フィードバック制御を実行することにより、相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する構成となっている。
【0031】
詳述すると、本実施形態の加算角演算部41には、上記のようにECU11が取得する操舵トルクτ及び車速Vが入力される。また、本実施形態のマイコン17は、上記車輪速センサ15により検出される左右の車輪速Wr,Wlに基づいて、ステアリング2に生じた操舵角θsを推定する操舵角推定演算部43を備えており(図2参照)、加算角演算部41には、この推定された操舵角θsが入力される。尚、本実施形態の操舵角推定演算部43は、以下に示す周知の演算式に左右の車輪速Wr,Wlを代入することにより得られる転舵輪の舵角(転舵角θt)を換算することにより、操舵角θsを推定する。
【0032】
θt=(2×WB×(Wl−Wr))/(RW×(Wl+Wr))×(180/π)
・・・(1)
尚、上記(1)式中、「WB」は車両のホイールベース長、「RW」は車両のトレッド長である。
【0033】
更に、加算角演算部41は、ステアリング2に生じた操舵角θs及び車速Vに基づいて、操舵トルクτの目標値に対応した目標トルクτ*を演算する目標トルク演算部45を備えており、この目標トルク演算部45において演算された目標トルクτ*は、操舵トルクτとともに減算器46に入力される。そして、本実施形態の加算角演算部41は、その操舵トルクτから目標トルクτ*を減算することにより得られるトルク偏差Δτに基づいて上記加算角θaを演算する。
【0034】
即ち、モータトルクに基づくアシスト力を操舵系に付与するEPS1において、目標トルクτ*は、モータ12が発生すべきモータトルクに対応するパラメータであり、操舵トルクτは、モータ12の実トルクに対応するパラメータである。そして、本実施形態の加算角演算部41は、そのトルク偏差Δτに基づくトルクフィードバック制御を実行することにより、モータ12が発生すべき目標トルクと実トルクとの間のトルク偏差に対応した加算角θaを演算する。
【0035】
具体的には、減算器46において演算されたトルク偏差Δτは、F/B制御部47に入力される。そして、F/B制御部47は、そのトルク偏差Δτに比例ゲインを乗ずることにより得られる比例成分、及び当該トルク偏差Δτの積分値に積分ゲインを乗ずることにより得られる積分成分の加算値を、各演算周期におけるモータ回転角の第1変化成分dθτとして演算する。
【0036】
また、本実施形態では、第2制御部26には、モータ回転角速度を推定する回転角速度推定演算部50が設けられており、上記加算角演算部41には、この回転角速度推定演算部50の推定するモータ回転角速度(モータ回転角速度推定値ωm_e)が、各演算周期におけるモータ回転角の第2変化成分dθωとして入力される。そして、本実施形態の加算角演算部41は、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτとともに、モータ回転角速度推定値ωm_eに基づく第2変化成分dθωを用いて、上記加算角θaを演算する。
【0037】
詳述すると、第2制御部26には、上記PWM変換部27がモータ制御信号を生成する際に用いる相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*(Vu**,Vv**,Vw**)に対応した内部指令値、即ちDutyが入力される。また、本実施形態のECU11には、駆動回路18に印加される電源電圧V_pigを検出する電圧検出手段としての電圧センサ51が設けられている(図2参照)。そして、第2制御部26には、その検出される電源電圧V_pig及び上記Dutyに基づいて、モータ12の各相電圧値Vu,Vv,Vwを演算する相電圧演算部52が備えられている。
【0038】
第2制御部26において、各相電圧値Vu,Vv,Vw、及び上記電流センサ21により検出されたモータ12の各相電流値Iu,Iv,Iwは、更に、変換手段としてのα/β変換部53により、それぞれ、二相固定座標系(α/β座標系)のα軸電圧値Vα及びβ軸電圧値Vβ並びにα軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβに変換される。そして、モータ回転角速度推定手段としての回転角速度推定演算部50は、これらα軸電圧値Vα及びβ軸電圧値Vβ並びにα軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβに示されるモータ電圧及びモータ電流に基づいて、モータ回転角速度推定値ωm_eを演算する。
【0039】
さらに詳述すると、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、モータモデルに基づいて、そのモータ12に生ずる誘起電圧を外乱として推定する外乱オブザーバ54を備えている。
【0040】
図6に示すように、ブロック線図において、モータ12は、モータ電圧(Vα,Vβ)及び誘起電圧(Eα,Eβ)に基づいてモータ電流(Iα,Iβ)を生じせしめるモータモデルM1に表される。従って、そのモータ電流(Iα,Iβ)を入力とする逆モータモデルM2、及び当該逆モータモデルM2の出力及びモータ電圧(Vα,Vβ)を入力とする差分器55によって、その誘起電圧推定値Eα_e,Eβ_eを外乱として出力する外乱オブザーバ54を形成することができる。尚、例えば、モータモデルM1を「1/(R+pL)」とすると、逆モータモデルM2は「R+pL」となる(但し、R:電機子巻線抵抗、L:インダクタンス、p:微分演算子)。そして、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、この誘起電圧推定手段としての外乱オブザーバ54が出力する二相固定座標系の各軸誘起電圧推定値(誘起電圧推定値Eα_e,Eβ_e)に基づいて、モータ回転角速度推定値ωm_eを演算する。
【0041】
即ち、α/β座標系の誘起電圧(Eα,Eβ)は、それぞれ、次の(2)(3)式に表される。尚、各式中、「Ke」は誘起電圧定数、「ω」はモータ回転角速度である。
Eα=−Ke×ω×sinθ ・・・(2)
Eβ=Ke×ω×cosθ ・・・(3)
更に、これら(2)(3)式を角度「θ」について解くことにより、次の(4)式を得る。尚、同式中、「arctan」は「正接逆関数:アークタンジェント」である。
【0042】
θ=arctan(−Eα/Eβ) ・・・(4)
従って、外乱オブザーバ54が出力する誘起電圧推定値Eα_e,Eβ_eからモータ回転角(モータ回転角推定値θm_e)を推定することができる。そして、本実施形態の回転角速度推定演算部50は、そのモータ回転角推定値θm_eを微分する、即ち単位時間当たりの変化量を求めることにより、モータ回転角速度推定値ωm_eを演算する。
【0043】
具体的には、図7のフローチャートに示すように、回転角速度推定演算部50は、上記外乱オブザーバ54によりモータ12の誘起電圧を推定すると(Eα_e,Eβ_e、ステップ101)、先ず、その誘起電圧推定値Eα_e,Eβ_eにフィルタ処理を施す(LPF:ローパスフィルタ、ステップ102)。次に、回転角速度推定演算部50は、上記(4)式を用いることにより、その誘起電圧推定値Eα_e,Eβ_eから、モータ回転角推定値θm_eを演算し(回転角推定、ステップ103)、更に、その推定されたモータ回転角推定値θm_eを微分することにより、モータ回転角速度推定値ωm_eを演算する(回転角速度推定、ステップ104)。そして、そのモータ回転角速度推定値ωm_eを、各演算周期におけるモータ回転角の第2変化成分dθωとして、上記加算角演算部41に出力する(ステップ105)。
【0044】
図5に示すように、本実施形態の加算角演算部41において、上記F/B制御部47の演算するトルク偏差Δτに基づくモータ回転角の第1変化成分dθτ、及び上記回転角速度推定演算部50において演算されたモータ回転角速度推定値ωm_eに基づくモータ回転角の第2変化成分dθωは、ともに加算角調整演算部58に入力される。また、本実施形態では、上記回転角速度推定演算部50は、その外乱オブザーバ54が出力する誘起電圧推定値Eα_e,Eβ_eの二乗和(誘起電圧二乗和Esq_αβ)を演算し(Esq_αβ=(Eα_e)^2+(Eβ_e)^2、但し「^2」は二乗を示す)、その誘起電圧二乗和Esq_αβを加算角調整演算部58に出力する。そして、本実施形態の加算角演算部41は、この誘起電圧二乗和Esq_αβの値に応じて、その上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及び上記モータ回転角速度推定値ωm_eに基づく第2変化成分dθωを用いた加算角θaの演算形態を変更する。
【0045】
詳述すると、本実施形態の加算角調整演算部58は、その入力される誘起電圧二乗和Esq_αβを所定の閾値(E0)と比較する。そして、当該誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値(E0)を超える場合には、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及び上記モータ回転角速度推定値ωm_eに基づく第2変化成分dθωの加算値を加算角θaとし、閾値(E0)以下である場合には、そのトルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτを加算角θaとする構成になっている。
【0046】
即ち、一演算周期を基本単位とするモータ回転角速度は、その一演算周期あたりのモータ回転角変化量と等価的な意味を有する。そして、上記のような外乱オブザーバ54を用いたモータ電流及びモータ電圧に基づく誘起電圧の推定は、当該誘起電圧が増大する高速回転領域において、より高い精度が確保される。
【0047】
この点を踏まえ、本実施形態では、上記誘起電圧二乗和Esq_αβと閾値(E0)との比較により、モータ12の回転状態が、上記モータ回転角速度推定値ωm_eをモータ回転角の第2変化成分dθωとして利用可能な推定精度が担保される高速回転領域にあるか否かを判定する。そして、その要求される推定精度が担保される高速回転領域にある場合にのみ、上記モータ回転角速度推定値ωm_eに基づく第2変化成分dθωを用いる構成となっている。
【0048】
次に、この加算角調整演算部58の出力する加算角θaは、加算角制限部59に入力される。そして、本実施形態の加算角演算部41は、この加算角制限部59において加算角制限処理(後述)が施された後の加算角θa(θa´)を、制御角演算部42へと出力する構成となっている。
【0049】
即ち、図8のフローチャートに示すように、本実施形態の加算角演算部41は、上記第1変化成分dθτの演算に用いる状態量として、車速V、操舵角θs、及び操舵トルクτを取得すると(ステップ201)、先ず、その操舵角θs及び車速Vに基づいて、上記目標トルクτ*を演算する(ステップ202)。次に、加算角演算部41は、その目標トルクτ*と操舵トルクτとの差分をとることによりトルク偏差Δτを演算する(ステップ203)。そして、そのトルク偏差Δτに基づくトルクフィードバック制御演算を実行することにより、上記第1変化成分dθτを演算する(ステップ204)。
【0050】
また、加算角演算部41は、上記のように回転角速度推定演算部50が演算するモータ回転角速度推定値ωm_eに基づく第2変化成分dθωを取得すると(ステップ205)、続いて、当該回転角速度推定演算部50から、上記誘起電圧二乗和Esq_αβを取得する(ステップ206)。そして、加算角演算部41は、その誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0を超えるか否かを判定する(ステップ207)。
【0051】
次に、このステップ207において、その誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0を超えると判定した場合(Esq_αβ>E0、ステップ207:YES)、加算角演算部41は、続いて、既に当該誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0を超える状態にあったことを示す超過フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ208)。そして、当該超過フラグがセットされていない場合(ステップ208:NO)には、当該超過フラグをセットし(ステップ209)、上記ステップ201において演算した第1変化成分dθτの値をクリアする(dθτ=0、ステップ210)。
【0052】
また、上記ステップ208において、既に超過フラグがセットされている場合(ステップ208:YES)には、上記ステップ209及びステップ210の処理は実行しない。そして、このように上記ステップ207において誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0を超えると判定された場合(ステップ207:YES)には、その超過フラグの如何にかかわらず、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及び上記モータ回転角速度推定値ωm_eに基づく第2変化成分dθωを加算することにより加算角θaを演算する(ステップ211)。
【0053】
一方、上記ステップ207において、誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0以下であると判定した場合(Esq_αβ≦E0、ステップ207:NO)もまた、加算角演算部41は、超過フラグがセットされているか否かを判定し(ステップ212)、セットされている場合(ステップ212:YES)には、当該超過フラグをリセットする(ステップ213)。尚、超過フラグがセットされていない場合(ステップ212:NO)には、このステップ213の処理は実行されない。そして、その上記ステップ204において演算した第1変化成分dθτを加算角θaとして演算する(ステップ214)。
【0054】
即ち、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτは、モータ12の実回転角と制御上の仮想的なモータ回転角との乖離の大きさに応じた値となる。従って、上記モータ回転角速度推定値ωm_eに基づく第2変化成分dθωよりも、その値がモータ回転状態に左右されにくい。
【0055】
この点を踏まえ、本実施形態では、上記のように、モータ回転状態が低速領域にある場合(Esq_αβ≦E0、ステップ207:NO)には、当該第1変化成分dθτを加算角θaとする。尚、上記モータ回転角速度推定値ωm_eに基づく第2変化成分dθωを用いて加算角θaを演算する最初の演算周期(ステップ207:YES、及びステップ208:NO)において、第1変化成分dθτをクリアする(ステップ209)のは、当該第1変化成分dθτが、第2変化成分dθωを用いなかった前回演算周期の状態を反映するものだからである。そして、本実施形態では、これにより、そのモータ回転状態に依らず、高精度な加算角演算が可能となっている。
【0056】
また、加算角演算部41は、上記ステップ211において、上記第1変化成分dθτ及び第2変化成分dθωの加算により加算角θaを演算した場合、その加算角θa(の絶対値)が上記第2変化成分dθω(の絶対値)に所定の閾値bを加えた値を超えないよう、同加算角θaの制限処理を実行する(第1制限処理:|θa|≦|dθω|+b、ステップ215)。尚、上記ステップ214において、上記第1変化成分dθτを加算角θaとした場合には、このステップ215の処理は実行されない。そして、本実施形態の加算角演算部41は、更に、その値が所定の閾値bを超えないように第2の制限処理(第2制限処理:|θa|≦B、ステップ216)を施した後の加算角θa(θa´)を、上記制御角演算部42へと出力する構成となっている。
【0057】
一方、図5に示すように、制御角演算部42は、前回の演算周期において演算した制御角θcの前回値を記憶領域(図示略)に保持するとともに、当該前回値に上記加算角θaを加算することにより新たな制御角θcを演算する。そして、その当該新たな制御角θcにて、上記記憶領域に保持する前回値を更新することにより、その演算周期毎に、加算角θaの積算による制御角θcの演算を実行する構成となっている。
【0058】
第2制御部26において、このようにして演算された制御上の仮想的なモータ回転角としての制御角θcは、上記α/β変換部53が出力する二相固定座標系(α/β座標系)のα軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβとともに、γ/δ変換部60に入力される。そして、γ/δ変換部60は、当該α軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβを、その制御角θcに従う回転座標系、即ちγ/δ座標系の直交座標上に写像することにより、当該γ/δ座標系の実電流値として、γ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδを演算する。
【0059】
また、第2制御部26は、そのγ/δ座標系の電流指令値として、γ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*を演算する電流指令値演算部61を備えている。
詳述すると、本実施形態の電流指令値演算部61には、上記加算角演算部41において演算されたトルク偏差Δτ及び目標トルクτ*が入力されるようになっている。そして、電流指令値演算部61は、これらトルク偏差Δτ及び目標トルクτ*に基づいて、γ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*を演算する。
【0060】
図9に示すように、本実施形態の電流指令値演算部61は、トルク偏差Δτに基づいて、各演算周期におけるγ軸電流指令値Iγ*の増減値(γ軸電流増減値η)を演算するγ軸電流増減値演算部62と、そのγ軸電流増減値ηを演算周期毎に積算する積算制御部63とを備えている。そして、電流指令値演算部61は、その積算制御部63の制御出力をγ軸電流指令値Iγ*とし、δ軸電流指令値Iδ*としては「0」を出力する構成となっている。
【0061】
さらに詳述すると、本実施形態のγ軸電流増減値演算部62には、トルク偏差Δτとγ軸電流増減値ηが関連付けられた二つのマップ(62a,62b)が設けられている。本実施形態では、第1マップ62aは、目標トルクτ*の符号(方向)が正である場合(τ*>0)に対応して形成されている。そして、同第1マップ62aにおいて、γ軸電流増減値ηは、そのトルク偏差Δτの増加に伴って線形増加するように設定されている。一方、第2マップ62bは、目標トルクτ*の符号が負である場合(τ*<0)に対応して形成されている。そして、同第2マップ62bにおいて、γ軸電流増減値ηは、そのトルク偏差Δτの増加に伴って線形減少するように設定されている。
【0062】
尚、本実施形態では、第1マップ62a及び第2マップ62bには、ともにトルク偏差Δτがゼロとなる点を中心とした所定範囲(-A<Δτ<A)に、当該トルク偏差Δτの値にかかわらずγ軸電流増減値ηが「0」となるような不感帯が設定されている。そして、本実施形態のγ軸電流増減値演算部62は、目標トルクτ*の符号に応じて参照するマップを切り替えつつ、その入力されるトルク偏差Δτに基づいて、各演算周期におけるγ軸電流増減値ηを演算する。
【0063】
一方、積算制御部63は、前回の演算周期における制御出力、即ちγ軸電流指令値Iγ*の前回値を記憶領域(図示略)に保持するとともに、当該前回値に上記γ軸電流増減値ηを加算することにより新たなγ軸電流指令値Iγ*を演算する。そして、その新たなγ軸電流指令値Iγ*にて、上記記憶領域に保持する前回値を更新することにより、その演算周期毎に、γ軸電流指令値Iγ*の積算によるγ軸電流指令値Iγ*の演算を実行する構成となっている。
【0064】
図5に示すように、このようにして電流指令値演算部61が演算するγ軸電流指令値Iγ*は、上記γ軸電流値Iγとともに、その対応する減算器64aに入力される。同様に、δ軸電流指令値Iδ*もまた、δ軸電流値Iδとともに、その対応する減算器64bに入力される。そして、これら各減算器64a,64bにおいて演算される電流偏差ΔIγ,ΔIδは、それぞれ、その対応する各F/B制御部65a,65bに入力される。
【0065】
次に、各F/B制御部65a,65bは、その電流偏差ΔIγ,ΔIδ及び所定のフィードバックゲイン(比例:P、積分:I)に基づくフィードバック制御演算を実行することにより、γ/δ座標系の電圧指令値であるγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*を演算する。尚、これら各F/B制御部65a,65bの実行するフィードバック制御演算の態様については、上記第1制御部25側の各F/B制御部34d,34qと同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0066】
更に、これらのγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*は、2相/3相変換部66において、三相(U,V,W)の交流座標上に写像される。そして、第2制御部26は、この2相/3相変換部66において生成された相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を、上記PWM変換部27に出力する構成となっている。尚、このように、第2制御部26が実行するレゾルバレス制御の原理についての詳細は、例えば、上記特許文献3及び特許文献4の記載等を参照されたい。
【0067】
また、図2に示すように、本実施形態のマイコン17は、実回転角として上記モータレゾルバ23により検出されるモータ回転角θmの異常を検出する回転角異常検出部68を備えている。具体的には、本実施形態の回転角異常検出部68は、そのモータレゾルバ23が出力する正弦信号S_sin及び余弦信号S_cosの二乗和が適正範囲内にあるか否かを判定する。そして、その判定結果に基づいて、実回転角であるモータ回転角θmの異常を検出する。尚、このような回転角異常検出の詳細については、例えば、特開2006−177750号公報等の記載を参照されたい。
【0068】
更に、本実施形態では、この回転角異常検出部68による異常検出の結果は、回転角異常検出信号S_rsfとして上記モータ制御部24に入力されるようになっている。そして、本実施形態のモータ制御部24は、モータレゾルバ23が実回転角として検出するモータ回転角θmに異常のない場合には、上記第1制御部25が演算する相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいてモータ制御信号を出力し、そのモータ回転角θmに異常が生じた場合には、上記第2制御部26が演算する相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づいてモータ制御信号の出力を実行する。
【0069】
即ち、上記のように、第2制御部26は、実回転角としてモータレゾルバ23が検出するモータ回転角θmを用いることなく、制御上の仮想的なモータ回転角である制御角θcを用いて、その相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する。そして、本実施形態では、その第2制御部26が演算する相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づいてモータ制御信号を生成することにより、実回転角であるモータ回転角θmに異常が検出された後においても、安定的に、そのモータ制御を継続することが可能となっている。
【0070】
(通電不良検出)
次に、本実施形態における通電不良検出の態様について説明する。
図2に示すように、本実施形態のマイコン17には、モータ12に駆動電力を供給する電力供給経路に生じた通電不良、即ちその何れかの相に電流が流れない状態を検出する通電不良検出部71が設けられている。尚、通電不良の態様としては、上記駆動回路18(を構成する各相のスイッチングアーム18u,18v,18w)と各相モータコイル12u,12v,12wとの間を接続する動力線20u,20v,20wの断線故障、或いは駆動回路18を構成する各FET18a〜18fのオープン故障(開固定故障)等が挙げられる。また、上記モータ制御部24には、この通電不良検出部71による判定結果が通電不良検出信号S_pdeとして入力されるようになっている。そして、本実施形態のモータ制御部24は、その通電不良検出信号S_pdeにより上記のような通電不良が検出された場合には、同モータ制御部24がモータ12を停止させるべき旨のモータ制御信号を出力することにより、速やかに、そのフェールセーフを図る構成となっている。
【0071】
詳述すると、本実施形態では、上記通電不良検出部71には、上記電流センサ21により検出されたモータ12の各相電流値Iu,Iv,Iw、及び上記モータレゾルバ23により実回転角として検出されるモータ回転角θmに基づき演算された実際のモータ回転角速度(実回転角速度ωm)が入力される。尚、本実施形態では、この実回転角速度ωmは、モータ回転角θmを微分することにより演算される。また、通電不良検出部71には、モータ制御信号を生成する際に用いる相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*(Vu**,Vv**,Vw**)に対応した内部指令値、即ちDuty(Du,Du,Dw)、及び上記電圧センサ51により検出された駆動回路18に印加される電源電圧V_pigが入力される。そして、異常検出手段としての通電不良検出部71は、これら各状態量の相互関係に基づいて、各相毎に、その通電不良の発生を検出する。
【0072】
具体的には、通電不良検出部71は、「U,V,W」の各相のうちの一相を特定相(X相)として、その特定相に異常があるか否かを判定する。そして、当該相に異常のない場合には、その判定対象とする特定相を遷移することにより、各相毎に、順次、その通電不良の発生を検出する構成となっている。
【0073】
即ち、図10のフローチャートに示すように、通電不良検出部71は、先ず、U相を特定相として当該U相に異常があるか否かを判定し(ステップ301)、その異常が確定した場合(ステップ301:YES)には、当該U相における通電不良の発生を検出する(ステップ302)。一方、U相に異常がない場合(ステップ301:NO)、次にV相を特定相として当該V相に異常があるか否かを判定し(ステップ303)、その異常が確定した場合(ステップ303:YES)には、当該V相における通電不良の発生を検出する(ステップ304)。更に、V相に異常がない場合(ステップ303:NO)、次にW相を特定相として当該W相に異常があるか否かを判定し(ステップ305)、その異常が確定した場合(ステップ305:YES)には、当該W相における通電不良の発生を検出する(ステップ306)。そして、上記ステップ305において、W相に異常がないと判定した場合(ステップ305:NO)には、各相に異常なしと判定する(ステップ307)。
【0074】
そして、本実施形態の通電不良検出部71は、このステップ301〜ステップ307の処理を所定の演算周期で実行することにより、各相毎に、順次、その通電不良の発生を検出する。
【0075】
尚、本実施形態の通電不良検出部71は、上記通電不良判定を実行するにあたり、電源電圧V_pigを所定の閾値と比較することにより、当該電源電圧V_pigが適正な値(例えば、9V以上)を有しているか否かを判定する。そして、その電源電圧V_pigが適正な値を下回るような電圧低下時には、上記ステップ301〜ステップ307に示される通電不良判定を実行しない。
【0076】
さらに詳述すると、図11のフローチャートに示すように、通電不良検出部71は、検出対象相として選択した特定相(X相)について通電不良判定を実行するにあたり、先ずその通電不良判定に用いる各状態量、即ち当該特定相の相電流値Ix及びDuty(Dx)、並びにモータ12の実回転角速度ωmを取得する(ステップ401)。
【0077】
次に、通電不良検出部71は、特定相のDuty(Dx)が当該特定相を通電状態とすべき値にあるか否かを判定する。具体的には、本実施形態の通電不良検出部71は、そのDuty(Dx)が、明らかに特定相を通電状態とすべき旨を示す値、即ち通常制御における下限値D_loよりも小さい又は上限値D_hiよりも大きいか否かを判定する(ステップ402)。そして、このステップ402の判定条件を満たす場合(Dx<D_lo又はDx>D_hi、ステップ402:YES)には、続いて特定相の相電流値Ix(の絶対値)が、非通電状態を示す値であるか否かを判定する。具体的には、特定相の相電流値Ixが、その検出誤差を考慮した上で非通電状態を示す理論上の値である「0」を基準に設定された所定の閾値I1よりも小さいか否かを判定する(ステップ403)。
【0078】
更に、通電不良検出部71は、このステップ403において、その相電流値Ixが閾値I1よりも小さいと判定した場合(|Ix|<I1、ステップ403:YES)、続いて実回転角速度ωm(の絶対値)が、その検出誤差を考慮した上でモータ12の最高回転速度を基準に設定された所定の閾値ω0よりも小さいか否かを判定する(ステップ404)。そして、実回転角速度ωmが閾値ω0よりも小さいと判定した場合(ωm<ω0、ステップ404:YES)、即ち誘起電圧の影響によりモータ電流が極小化する高速回転領域にはない場合には、特定相であるX相に通電不良の発生を示す異常が生じていると判定する(ステップ405)。
【0079】
このように、本実施形態の通電不良検出部71は、上記ステップ402〜ステップ404の全ての判定条件を満たす場合においてのみ、特定相であるX相に通電不良の発生を示す異常が生じていると判定する。そして、上記ステップ402〜ステップ404の何れかの条件を満たさない場合(D_lo≦Dx≦D_hi,ステップ402:NO、又は|Ix|≧I1,ステップ403:NO、若しくはωm≧ω0,ステップ404:NO)には、特定相であるX相に異常はないと判定する(ステップ406)。
【0080】
即ち、基本的に、検出対象相である特定相(X相)が通電状態にあるべき相であるにもかかわらず(ステップ402:YES)、当該特定相の相電流値Ixが非通電状態を示す場合(ステップ403:YES)には、その矛盾をもって、特定相に通電不良を示す異常が生じていると判定することが可能である。そして、本実施形態では、これにステップ404の速度条件を付加し、その誘起電圧の影響によりモータ電流が極小化する高速回転領域を除外することにより、精度よく通電不良検出を行うことが可能となっている。
【0081】
また、図2に示すように、本実施形態の通電不良検出部71には、図11のフローチャートに示す通電不良判定に用いる各状態量、即ち各相電流値Iu,Iv,Iw、実回転角速度ωm、Duty(Du,Du,Dw)、及び電源電圧V_pigとともに、上記回転角異常検出部68の出力する回転角異常検出信号S_rsfが入力される。更に、同通電不良検出部71には、上記回転角速度推定演算部50が演算するモータ回転角速度推定値ωm_e、及び誘起電圧推定値Eα_e,Eβ_eの二乗和、即ち誘起電圧二乗和Esq_αβが入力される。そして、本実施形態の通電不良検出部71は、モータレゾルバ23が実回転角として検出するモータ回転角θmに異常が生じた場合には、これら各状態量を用いることにより、上記のように第2制御部26が実行する上記レゾルバレス制御の実行時においても、その通電不良検出を継続することが可能な構成となっている。
【0082】
即ち、実回転角としてモータレゾルバ23の検出するモータ回転角θmが正常でない場合には、当該モータ回転角θmに基づき演算される実回転角速度ωmを用いた通電不良判定の精度もまた低下することになる。
【0083】
この点を踏まえ、本実施形態の通電不良検出部71は、その通電不良判定を実行するにあたり、図12のフローチャートに示すように、上記回転角異常検出部68から入力される回転角異常検出信号S_rsfに基づいて、モータレゾルバ23が実回転角として検出するモータ回転角θmが正常であるか否かを判定する(ステップ501)。そして、その判定結果に基づいて、通電不良判定の実行形態を切り替える。
【0084】
即ち、その実回転角としてのモータ回転角θmが正常である場合(ステップ501:YES)には、図11のフローチャートに示されるような実回転角速度ωmを用いた通常通電不良判定を実行する(ステップ502)。そして、実回転角が正常ではないと判定した場合(ステップ501:NO)には、上記モータ回転角速度推定値ωm_e、及び誘起電圧二乗和Esq_αβに基づく代替通電不良判定を実行する(ステップ503)。
【0085】
詳述すると、図13のフローチャートに示すように、本実施形態の通電不良検出部71は、その代替通電不良判定を実行するための状態量として、特定相(X相)の相電流値Ixとともに、上記モータ回転角速度推定値ωm_e、及び誘起電圧二乗和Esq_αβを取得する(ステップ601)。
【0086】
次に、通電不良検出部71は、先ず、誘起電圧二乗和Esq_αβが所定の閾値E1を超えるか否かを判定する(ステップ602)。そして、このステップ602において、誘起電圧二乗和Esq_αβが所定の閾値E1を超えると判定した場合(ステップ602:YES)には、続いて、モータ回転角速度推定値ωm_eが所定の閾値ω1よりも低いか否かを判定する(ステップ603)。
【0087】
ここで、上記ステップ602における閾値E1は、誤差を考慮した上で、モータ12が最高速回転状態にあることを示す最大領域に対応して設定される。尚、この閾値E1は、上記モータ回転角速度推定値ωm_eをモータ回転角の第2変化成分dθωとして利用可能か否かを判定する際の閾値E0(図8参照、ステップ207)よりも高い値が設定される。また、上記ステップ603における閾値ω1は、誤差を考慮した上で非回転状態を示す理論上の値である「0」を基準とする最小領域に対応して設定される。そして、本実施形態の通電不良検出部71は、上記ステップ603において、モータ回転角速度推定値ωm_eが閾値ω1よりも低いと判定した場合(ステップ603:YES)に、モータ12の何れかの相に通電不良の発生を示す異常が生じていると判定する(ステップ604)。
【0088】
そして、上記ステップ602において、誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E1以下である場合(Esq_αβ≦E1、ステップ602:NO)、又はモータ回転角速度推定値ωm_eが閾値ω1以上であると判定した場合(ωm_e≧ω1、ステップ603:NO)には、モータ12に通電不良の発生を示す異常はないと判定する(ステップ605)。
【0089】
即ち、電流フィードバック制御によるモータ駆動において、その三相のうちの何れかに通電不良が生じた場合、当該通電不良発生相のDutyは、その相電流の符号に応じて、最大値まで上昇(符号「+」の場合)、又は最小値まで降下(符号「−」の場合)する。尚、本実施形態における理論上のDutyの最大値は「100%」、最小値は「0%」である。そして、残る二相のDutyは、上記通電不良発生相とは反対側の極限領域(通電不良発生相が最大値となる場合には最小値近傍、同じく通電不良発生相が最小値となる場合には最大値近傍)の値を示す。
【0090】
つまり、通電不良発生時の各相電圧値Vu,Vv,Vwは、その通電パターンを固定して行う所謂相固定通電時と極めて近い状態になる。そして、このとき、各相電流値Iu,Iv,Iwの何れかは、その通電不良の発生により、理論上の値が「0」となっている。
【0091】
このため、上記回転角速度推定演算部50において演算される誘起電圧推定値Eα_e,Eβ_eが略一定の値となり、その結果、当該誘起電圧推定値Eα_e,Eβ_eに基づくモータ回転角推定値θm_eもまた、その通電パターンによる相固定通電時に生ずる回転角(電気角)近傍において略一定の値となる(固着状態)。そして、その固着したモータ回転角推定値θm_eに基づきモータ回転角速度推定値ωm_eが演算されることにより、当該モータ回転角速度推定値ωm_eと誘起電圧二乗和Esq_αβとの間に上記のような矛盾が発生するのである。
【0092】
詳述すると、例えば、U相の相電流(の符号)が「−」となる回転角領域(180°〜360°)において当該U相の通電不良が発生したとすると、そのDutyは最小値まで降下し、残る二相のDutyは最大値近傍まで上昇する。即ち、「V,W相からU相」への相固定通電状態、つまりは、U相に対して最大レベルの負電圧が印加される状態となる。
【0093】
ここで、三相の各相電流値Iu,Iv,Iwは、次の(5)(6)式により、それぞれα軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβに変換される。
Iα=Iu−(1/2)×Iv−(1/2)×Iw ・・・(5)
Iβ=(√3/2)×Iv−(√3/2)×Iw ・・・(6)
同様に、各相電圧値Vu,Vv,Vwは、次の(7)(8)式により、それぞれα軸電圧値Vα及びβ軸電圧値Vβに変換される。
【0094】
Vα=Vu−(1/2)×Vv−(1/2)×Vw ・・・(7)
Vβ=(√3/2)×Vv−(√3/2)×Vw ・・・(8)
また、キルヒホッフの法則より、通電不良発生時、残る二相の相電流値は、その符号が反対となる。そして、上記「V,W相からU相」への相固定通電状態において、その「V−W」線間電圧は最小化する。
【0095】
従って、通電不良発生時におけるα軸電流値Iα及びβ軸電流値Iβは、ともに略ゼロとなる一方、α軸電圧値Vαは最大化し、β軸電圧値Vβは略ゼロとなる。尚、この関係は、通電不良発生相がV相又はW相である場合にも同一である。
【0096】
また、本実施形態の回転角速度推定演算部50に設けられた外乱オブザーバ54において、その基礎となるモータ電圧方程式は、次の(8)(9)式に表される。
Vα=R×Iα+Eα ・・・(9)
Vβ=R×Iβ+Eβ ・・・(10)
このため、通電不良発生時、外乱オブザーバ54の出力、即ち誘起電圧推定値Eα_e,Eβ_eは、「Eα=最大」「Eβ=0」で略一定となり、当該誘起電圧推定値Eα_e,Eβ_eに基づき演算されるモータ回転角推定値θm_eは、その通電パターンによる相固定通電時に生ずる回転角(電気角)付近に固着する。
【0097】
即ち、この例に示すようなU相の相電流が「−」となる領域において当該U相に通電不良が発生した場合、モータ回転角推定値θm_eは、上記(4)式に示される正接逆関数より、その「−Eα/Eβ」(の絶対値)が無限大となる「270°」付近に固着する。同様に、U相の相電流が「+」となる領域において当該U相に通電不良が発生した場合には、同じく「−Eα/Eβ」(の絶対値)が無限大となる「90°」付近に固着する。尚、モータ回転角推定値θm_eが完全な一定値とはならずに「…付近に固着」となるのは、電流フィードバック制御の実行により、V相及びW相への印加電圧が変動するためである。そして、V相、W相が通電不良発生相である場合には、このU相が通電不良である場合の回転角「270°」「90°」を2/3πづつ位相をずらした角度、即ち「30°」「210°」及び「150°」「330°」が、それぞれ、そのモータ回転角推定値θm_eが固着する回転角となる。
【0098】
そして、この固着したモータ回転角推定値θm_eに基づきモータ回転角速度推定値ωm_eが演算されることにより、当該モータ回転角速度推定値ωm_eと誘起電圧二乗和Esq_αβとの間に矛盾が生ずる。
【0099】
即ち、上記のように「Eα=最大」より、誘起電圧二乗和Esq_αβが最高速回転状態に対応する最大領域にある(Esq_αβ>E1)にもかかわらず、モータ回転角速度推定値ωm_eは非回転状態を示す最小領域にある(ωm_e<ω1)という事態が生ずる。そして、本実施形態の通電不良検出部71は、その代替通電不良判定により、このような矛盾を検知した場合(図13参照、ステップ602:YES且つステップ603:YES)に、モータ12の何れかの相に通電不良の発生を示す異常が生じていると判定する構成となっている。
【0100】
さらに詳述すると、本実施形態の通電不良検出部71は、上記のようにモータ回転角速度推定値ωm_eと誘起電圧二乗和Esq_αβとの間の矛盾に基づいて通電不良の発生を示す異常が生じていると判定した場合には、その異常が継続的なものである否かを監視する。そして、その異常状態が継続的であると判定した場合に、当該異常を確定、つまり通電不良の発生を検出する。
【0101】
即ち、上記のように、本実施形態の加算角演算部41は、モータ回転角速度推定値ωm_eをモータ回転角の第2変化成分dθωとして利用可能な場合には、当該モータ回転角速度推定値ωm_eに基づく第2変化成分dθωを用いて加算角θaを演算する。そして、その利用可能であるか否かを判定する際に用いる誘起電圧二乗和Esq_αβの閾値E0は、上記代替異常判定に用いる閾値E1よりも低く設定されている。従って、モータ回転角推定値θm_eが固着し、モータ回転角速度推定値ωm_eが略「0」となることで、当該モータ回転角速度推定値ωm_eに基づく加算角θaもまた小さな値となり、その制御上の仮想的なモータ回転角である制御角θcの変化が小さくなることによって、当該モータ回転角推定値θm_eが固着した状態もまた継続することになる。そして、本実施形態の通電不良検出部71は、その継続を検知することにより、精度よく、通電不良の発生を検出することが可能となっている。
【0102】
具体的には、図14に示すように、本実施形態の通電不良検出部71は、上記通電不良判定を実行し(ステップ701)、その判定結果が、異常があるとするものである場合(ステップ702:YES)には、異常カウンタ及びインターバルカウンタをインクリメントする(ステップ703及びステップ704)。
【0103】
尚、上記ステップ702において、異常はないと判定した場合(ステップ702:NO)には、上記ステップ703における異常カウンタのインクリメント処理を実行しない。そして、ステップ704においてインターバルカウンタをインクリメントする。
【0104】
次に、通電不良検出部71は、異常カウンタのカウント値nが所定の閾値n0を超えるか否かを判定する(ステップ705)。そして、そのカウント値nが閾値n0を超える場合(n>n0、ステップ705:YES)には、その通電不良の発生を示す異常を確定する(ステップ706)。
【0105】
また、上記ステップ705において、異常カウンタのカウント値nが閾値n0以下である場合(n≦n0、ステップ705:NO)には、続いてインターバルカウンタのカウント値Nが所定の閾値N0を超えるか否かを判定する(ステップ707)。そして、そのカウント値Nが閾値N0を超える場合(N>N0、ステップ707:YES)には、上記二つのカウンタの双方をクリアする(N=0及びn=0、ステップ708)。
【0106】
尚、上記ステップ707において、インターバルカウンタのカウント値Nが閾値N0以下である場合(N≦N0、ステップ707:NO)には、上記ステップ708の処理は実行されない。
【0107】
即ち、その通電不要の発生を示す異常が継続するならば、所定周期(N0)でインターバルカウンタとともに異常カウンタをクリア(N=0及びn=0)しても、何れは、そのインターバルカウンタの更新周期内において、その異常を確定可能な水準(閾値n0)に異常カウンタ(のカウント値n)が達する。そして、本実施形態では、これにより、簡素な構成にて、精度よく通電不良の発生を検出することが可能となっている。
【0108】
尚、本実施形態では、上記のように、モータ回転角速度推定値ωm_eに基づく加算角θaの演算は、当該モータ回転角速度推定値ωm_eに基づく第2変化成分dθωの加算値と上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτとを加算することにより行われる(図8参照、ステップ211)。そのため、モータ回転角速度推定値ωm_eがゼロであっても、トルク偏差Δτが生ずることで、モータ回転角推定値θm_eは徐々に遷移する。従って、上記の閾値N0は、そのトルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτによって、当該モータ回転角推定値θm_eが固着した状態を脱するまでに要する想定時間よりも短い時間に対応して設定されている。
【0109】
また、本実施形態では、実回転角として検出されるモータ回転角θmが正常である場合、即ち実回転角速度ωmを用いた通常通電不良判定を実行する状況においても、上記異常継続判定を実行するが、この場合にまた、図14に示すフローチャートと同様の処理手順で行うため、その詳細な説明は省略する。
【0110】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)通電不良検出部71は、誘起電圧二乗和Esq_αβが、所定の閾値E1を超えるか否かを判定する(ステップ602)。また、通電不良検出部71は、モータ回転角速度推定値ωm_eが所定の閾値ω1よりも低いか否かを判定する(ステップ603)。そして、その誘起電圧二乗和Esq_αβが最高速回転状態に対応する最大領域にあるにもかかわらず(Esq_αβ>E1、ステップ602:YES)、モータ回転角速度推定値ωm_eは非回転状態を示す最小領域にある(ωm_e<ω1、ステップ603:YES)という矛盾を検知した場合に、何れかの相に通電不良の発生を示す異常があると判定する(ステップ604)。
【0111】
即ち、何れかの相に通電不良が発生した場合、電流フィードバック制御により、その通電不良発生相のDutyは、相電流の符号に応じて最大値まで上昇又は最小値まで降下し、残る二相のDutyは、その通電不良発生相とは反対側の極限領域の値を示す。つまり、通電不良発生時の各相電圧値Vu,Vv,Vwは、その通電パターンを固定して行う所謂相固定通電時に極めて近い状態になる。そして、このとき、各相電流値Iu,Iv,Iwの何れかは、その通電不良の発生により値が「0」となっている。
【0112】
このため、上記回転角速度推定演算部50において演算される誘起電圧推定値Eα_e,Eβ_eが略一定の値となり、その結果、当該誘起電圧推定値Eα_e,Eβ_eに基づくモータ回転角推定値θm_eもまた、その通電パターンによる相固定通電時に生ずる回転角(電気角)近傍において略一定の値となる(固着状態)。そして、そのモータ回転角推定値θm_eに基づきモータ回転角速度推定値ωm_eが演算されることにより、当該モータ回転角速度推定値ωm_eと誘起電圧二乗和Esq_αβとの間に矛盾が生ずる。
【0113】
従って、上記構成のように、モータ回転角速度推定値ωm_eと誘起電圧二乗和Esq_αβとの間の矛盾を監視することにより、モータ12の実回転角速度ωmを用いないレゾルバレス制御の実行時においても、精度よく、電力供給経路における通電不良の発生を検出することができる。
【0114】
(2)加算角演算部41は、誘起電圧二乗和Esq_αβが十分に大きな領域においては、モータ回転角速度推定値ωm_eに基づく第2変化成分dθωを用いて加算角θaを演算する。また、通電不良検出部71は、上記モータ回転角速度推定値ωm_eと誘起電圧二乗和Esq_αβとの間の矛盾に基づき通電不良の発生を示す異常が生じていると判定した場合には、その異常が継続的なものである否かを監視する。そして、その異常状態が継続的であると判定した場合に、当該異常を確定する。
【0115】
即ち、モータ回転角推定値θm_eが固着し、モータ回転角速度推定値ωm_eが略「0」となることで、当該モータ回転角速度推定値ωm_eに基づく加算角θaもまた小さな値となる。そして、その制御上の仮想的なモータ回転角である制御角θcの変化が小さくなることにより、当該モータ回転角推定値θm_eが固着した状態もまた継続することになる。従って、上記構成によれば、より精度よく、通電不良の発生を検出することができる。
【0116】
(3)通電不良検出部71は、異常があると判定(ステップ702:YES)する毎に異常カウンタ(カウント値n)をインクリメントする(ステップ703)とともに、その異常判定の如何にかかわらず、各演算周期においてインターバルカウンタ(カウント値N)をインクリメントする(ステップ704)。そして、所定周期(N>N0、ステップ707:YES)で、インターバルカウンタ及び異常カウンタの双方をクリアしつつ(N=0及びn=0、ステップ708)、その異常を確定可能な水準に異常カウンタが達する(n>n0、ステップ706)ことにより、当該異常を確定する(ステップ711)。これにより、簡素な構成にて、その異常の継続を判定することができる。
【0117】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、本発明をEPSアクチュエータ10の駆動源であるモータ12の作動を制御するモータ制御装置としてのECU11に具体化した。しかし、これに限らず、EPS以外の用途に適用してもよい。
【0118】
・また、EPSに適用する場合であっても、上記各実施形態のような所謂コラム型に限らず、例えば所謂ピニオン型やラックアシスト型等のEPSに適用してもよい。
・上記実施形態では、実回転角として検出されるモータ回転角θmに異常のない場合には、上記第1制御部25が演算する相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいてモータ制御信号を出力する。そして、そのモータ回転角θmに異常が生じた場合には、制御上の仮想的なモータ回転角である制御角θcを用いて上記第2制御部26が演算する相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づいて、そのモータ制御信号の出力を実行することとした。しかし、これに限らず、当初から、モータの実回転角を検出することなくレゾルバレス制御を実行するものに適用してもよい。
【0119】
・上記実施形態では、誘起電圧二乗和Esq_αβを所定の閾値E0と比較する。そして、当該誘起電圧二乗和Esq_αβが閾値E0を超える場合には、上記トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及び上記モータ回転角速度推定値ωm_eに基づく第2変化成分dθωの加算値を加算角θaとし、閾値E0以下である場合には、そのトルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτを加算角θaとすることとした。しかし、これに限らず、常に、上記モータ回転角速度推定値ωm_eに基づく第2変化成分dθωを加算角θaとする構成に具体化してもよい。そして、常にトルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτ及び上記モータ回転角速度推定値ωm_eに基づく第2変化成分dθωの加算値を加算角θaとする構成に具体化してもよい。尚、常に、トルク偏差Δτに基づく第1変化成分dθτを加算角θaとする構成に具体化してもよいが、その通電不良検出の高精度化という観点からは、モータ回転角速度推定値ωm_eに基づいて加算角θaを演算する構成に適用した方が、より顕著な効果を得ることができる。
【0120】
・上記実施形態では、その代替通電不良判定(図13参照)において通電不良発生相の特定は行わないこととしたが、その通電不良発生時に固着するモータ回転角推定値θm_eに基づいて、当該通電不良発生相を特定する構成としてもよい。
【0121】
即ち、上記のように、通電不良発生時、そのモータ回転角推定値θm_eが固着する回転角(電気角)は、当該通電不良発生相(及び発生時の符号)に固有の値を有する。従って、そのモータ回転角推定値θm_eに基づいて、通電不良発生相を特定することが可能である。
【0122】
具体的には、図15のフローチャートに示すように、モータ回転角推定値θm_eが「270°」又は「90°」(の付近)に固着した場合(ステップ801:YES)には、U相を通電不良発生相と特定する(ステップ802)。そして、モータ回転角推定値θm_eが「30°」又は「210°」(の付近)に固着した場合(ステップ803:YES)には、V相を通電不良発生相と特定し(ステップ804)、「150°」又は「330°」(の付近)に固着した場合(ステップ805:YES)には、W相を通電不良発生相と特定する(ステップ806)。
【0123】
・また、その相電流値が非通電状態を示す値(略ゼロ)である相を通電不良発生相として特定する構成であってもよい。
・上記実施形態では、通電不良検出部71は、通電不良の発生を示す異常があると判定する毎に異常カウンタをインクリメントするとともに、その異常判定の如何にかかわらず、各演算周期においてインターバルカウンタをインクリメントする。そして、所定周期で、インターバルカウンタ及び異常カウンタの双方をクリアしつつ、その異常を確定可能な水準に異常カウンタが達することにより、当該異常を確定することとした(図14参照)。しかし、その通電不良の発生を示す異常が継続的なものである否かの異常継続判定の方法については、必ずしもこれに限るものではなく、例えば、その異常が所定時間以上継続するか否かを判定することにより行う等としてもよい。
【0124】
・上記実施形態では、代替通電不良判定(図13参照)においては、通電状態の矛盾、即ち、通電状態にあるべきにもかかわらず、モータ電流が非通電状態を示すものとなっているか否かの判定は行わないこととした。しかし、これに限らず、このような通電状態の矛盾に関する判定を組み合わせてもよい。これにより、より精度よく、通電不良の発生を検出することができる。
【0125】
具体的には、例えば、上記通常通電不良判定(図11参照)と同様に、「通電状態にあるべきか否かの判定(ステップ402)」「非通電状態にあるか否かの判定(ステップ403)」を実行するとよい。そして、「通電状態にあるべきか否か」については、Dutyの他、電圧指令値や電流指令値を用いて行う構成であってもよい。
【0126】
・上記実施形態では、駆動回路18は、寄生ダイオードを有した複数のスイッチング素子(FET18a〜18f、NチャネルMOSFET)を接続することにより形成されることとした。しかし、これに限らず、例えば、リレー等、寄生ダイオードを有しないスイッチング素子により駆動回路18を形成する構成に具体化してもよい。
【0127】
・上記実施形態では、左右の車輪速Wr,Wlに基づき操舵角θsを推定することとしたが、ステアリングセンサ等の回転角センサを用いて実際の操舵角θsを検出する構成であってもよい。尚、本実施形態のように、左右の車輪速Wr,Wlに基づき操舵角θsを推定する構成において、前輪車輪速及び後輪車輪速を独立に検出可能である場合には、その前輪車輪速に基づく推定値と後輪車輪速に基づく推定値との平均値を操舵角θsとするとよい。
【0128】
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を効果とともに記載する。
(イ)前記異常検出手段は、前記モータ回転角推定値に基づいて、前記通電不良の発生を示す異常がある相を特定すること、を特徴とするモータ制御装置。
【0129】
即ち、通電不良発生時、そのモータ回転角推定値が固着する回転角(電気角)は、当該通電不良発生相(及び発生時の符号)に固有の値を有する。従って、上記構成によれば、簡素な構成にて、その通電不良発生を特定することができる。
【0130】
(ロ)前記異常検出手段は、前記相電流値が非通電状態にあることを示す相を異常発生相として特定すること、を特徴とするモータ制御装置。これにより、簡素な構成にて、その通電不良発生を特定することができる。
【符号の説明】
【0131】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、10…EPSアクチュエータ、11…ECU、12…モータ、12u,12v,12w…モータコイル、17…マイコン、18…駆動回路、18a〜18f…FET、D…寄生ダイオード、18u,18v,18w…スイッチングアーム、20u,20v,20w…動力線、21(21u,21v,21w)…電流センサ、23…モータレゾルバ、24…モータ制御部、25…第1制御部、26…第2制御部、27…PWM変換部、31…電流指令値演算部、32…d/q変換部、34d,34q…F/B制御部、35…d/q逆変換部、41…加算角演算部、42…制御角演算部、43…操舵角推定演算部、45…目標トルク演算部、46…減算器、47…F/B制御部、50…回転角速度推定演算部、51…電圧センサ、52…相電圧演算部、53…α/β変換部、54…外乱オブザーバ、58…加算角調整演算部、59…加算角制限部、60…γ/δ変換部、61…電流指令値演算部、62…γ軸電流増減値演算部、63…積算制御部、65a,65b…F/B制御部、66…2相/3相変換部、68…回転角異常検出部、71…通電不良検出部、Iu,Iv,Iw,Ix…相電流値、I1…閾値、θm…モータ回転角、ωm…実回転角速度、ω0…閾値、Id…d軸電流値、Iq…q軸電流値、Id*…d軸電流指令値、Iq*…q軸電流指令値、ΔId,ΔIq…電流偏差、Vu*,Vv*,Vw*…相電圧指令値、Dx,Du,Dv,Dw…Duty、τ…操舵トルク、τ*…目標トルク、Δτ…トルク偏差、η…γ軸電流増減値、dθτ…第1変化成分、Iα…α軸電流値、Iβ…β軸電流値、Vα…α軸電圧値、Vβ…β軸電圧値、Eα,Eβ…誘起電圧、Eα_e,Eβ_e…誘起電圧推定値、Esq_αβ…誘起電圧二乗和、E0,E1…閾値、ωm_e…モータ回転角速度推定値、ωm_e…モータ回転角速度推定値、ω1…閾値、dθω…第2変化成分、θa,θa´…加算角、b,B…閾値、θc…制御角、Iγ…γ軸電流値、Iδ…δ軸電流値、Iγ*…γ軸電流指令値、Iδ*…δ軸電流指令値、ΔIγ,ΔIδ…電流偏差、Vu**,Vv**,Vw**…相電圧指令値、Vu,Vv,Vw…相電圧値、n,N…カウンタ値、n0,N0…閾値、S_rsf…回転角異常検出信号、S_pde…通電不良検出信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段と、前記モータ制御信号の入力により作動して電源電圧に基づく三相の駆動電力をモータに供給する駆動回路と、前記モータへの電流供給経路における通電不良の発生を検出する異常検出手段とを備え、前記モータ制御信号出力手段は、演算周期毎のモータ回転角変化量に相当する加算角を演算し、該加算角を積算することにより制御上のモータ回転角を演算するとともに、該制御上のモータ回転角に従う回転座標系において電流フィードバック制御を実行することにより前記モータ制御信号を出力するモータ制御装置において、
前記三相の各相電流値及び各相電圧値を二相固定座標系の各軸電流値及び各軸電圧値に変換する変換手段と、
前記各軸電流値及び各軸電圧値に基づき前記二相固定座標系の各軸誘起電圧推定値を演算する誘起電圧推定手段と、
前記各軸誘起電圧推定値に基づきモータ回転角推定値を演算し、該モータ回転角推定値の変化量に基づきモータ回転角速度推定値を演算する回転角速度推定手段とを備え、
前記異常検出手段は、前記各軸誘起電圧推定値の二乗和が最大領域にあり、且つ前記モータ回転角速度推定値が最小領域にある場合には、前記通電不良の発生を示す異常があると判定すること、を特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記モータ制御信号出力手段は、前記モータ回転角速度推定値に基づいて前記加算角を演算するものであって、
前記異常検出手段は、前記通電不良の発生を示す異常が継続する場合に、該異常を確定すること、を備えた電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置を備えた電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−5318(P2012−5318A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140507(P2010−140507)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】