説明

交換バイアスを有する磁気デバイス

【課題】所与の厚さの反強磁性層に対する交換バイアスが増加した磁気デバイスを提案することによって従来技術の欠点を克服すること。
【解決手段】本発明は、自由層として知られている、可変磁化方向を有する磁気層と、前記自由層と接触している、前記自由層の磁化方向をトラップすることができる第1の反強磁性層とを備えた磁気デバイスに関する。磁気デバイスは、さらに、安定化層として知られている、自由層とは反対側の面を介して第1の反強磁性層と接触している、強磁性体から作製される層を備えており、前記自由層および安定化層の磁化方向は実質的に垂直である。前記自由層および安定化層のうちの第1の層は磁化を有しており、その方向は、前記第1の層の平面内に配向されており、一方、前記自由層および安定化層のうちの2つの層の第2の層も磁化を有しており、その方向は、前記第2の層の平面外に配向されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気材料の分野に関し、より詳細には、強磁性体と反強磁性体の間に交換バイアスを有する磁気デバイスに関する。本発明によるデバイスは、とりわけ、熱によって書込みが促進される磁気記憶装置内、磁場センサ内、または磁気記録をサポートするための読取りヘッド内、等々で実施されることが意図されている。
【背景技術】
【0002】
本発明のとりわけ重要な用途は、熱によって書込みが促進される記憶セルおよびMRAM(磁気ランダムアクセスメモリまたは磁気直接アクセスメモリ)タイプのメモリの形成に見出される。
【0003】
MRAM磁気記憶装置は、周囲温度で強力な磁気抵抗効果を有する磁気接合トンネルの開発に伴って関心が回復している。MRAMメモリは、いくつかの記憶セルを備えている。前記記憶セルは、一般に、
−「基準層」として知られている、磁化方向が一定である磁化を有する磁気層と、
−「記憶層」として知られている、磁化方向が可変であり、かつ、基準層の磁化方向に対して平行または反平行のいずれかに自から配向させることができる磁化を有する磁気層と、
−基準層と記憶層を分離する絶縁材料または半導体材料から作製されるスペーサと
を備えた磁気デバイスである。
【0004】
特許文献1に、例えばこのような磁気デバイスが記述されている。前記磁気デバイスは、「読取り」モードおよび「書込み」モードの2つの動作モードを有している。書込みモードでは、電子の流れまたは磁界が層を介して送られ、それにより記憶層の磁化方向が反転し、次に基準層の磁化方向に対して平行または反平行になる。記憶層の磁化方向が基準層の磁化方向に対して平行であるか、あるいは反平行であるかどうかに応じて、「1」または「0」が記憶層に記憶される。
【0005】
読取りモードでは、電子の流れが磁気デバイスを介して注入され、それによりその抵抗が読み取られる。基準層の磁化方向および記憶層の磁化方向が平行である場合、接合の抵抗は小さく、一方、基準層および記憶層の磁化方向が反平行である場合、接合の抵抗は大きい。基準抵抗と比較することにより、記憶層に記憶されている値(「0」または「1」)を決定することができる。
【0006】
特許文献2は、さらに、上で説明したデバイスに加えて、記憶層と接触している反強磁性層を提案している。読取りモードでは、前記反強磁性層が記憶層の磁化方向の固定を可能にしており、そのため、記憶層に記憶されている情報が変化することはない。一方、書込みモードでは、反強磁性層が常磁性になるか、あるいは少なくとも反強磁性層の温度が反強磁性層の制止温度として知られている温度を超えるよう、反強磁性層が加熱される。交換バイアスとして知られているこの現象は、以下の原理に基づいている。強磁性体が反強磁性体と接触して置かれると、単一方向の異方性が出現する可能性があり、次に強磁性体のヒステリシスループが、あたかも印加された外部場の上に定常場が重畳したかの如くに場シフトを有し、反強磁性体との界面を介した交換相互作用によって前記定常場が生じる。
【0007】
制止温度は、通常、反強磁性体のネール温度未満であるが、加熱の継続期間が数ナノ秒程度の時間に向かって短くなるにつれて、次第にネール温度に近づく。反強磁性体のネール温度は、反強磁性順序が消滅する温度であり、それより高い温度では、材料は常磁性材料のように挙動する。反強磁性層の温度が制止温度より高くなると、磁化方向がもはや反強磁性層によってトラップされないため、記憶層の磁化方向が修正されることになる。記憶層の磁化方向が修正されると、反強磁性層の加熱が停止される。次に、反強磁性層が再び反強磁性になる。次に記憶層の磁化方向が、書込みプロセスの終了時に見出された方向にトラップされる。このような反強磁性層を備え、かつ、情報の書込み時に前記層の一時的な加熱を実施する磁気デバイスは、「熱によって書込みが促進される」デバイスとして知られているデバイスの一部である。
【0008】
熱によって書込みが促進される磁気デバイスは、記憶層に含まれている情報を読み取っている間の、偶然による書込みの危険を少なくすることができるため、有利である。さらに、これらの磁気デバイスは、熱促進を実施しないデバイスよりはるかに良好な保存を有しており、言い換えると、これらの磁気デバイスは、常により良好な書込み情報保存能力を有している。
【0009】
それにもかかわらず、熱によって書込みが促進されるこれらのデバイスには、一般に面心立方結晶学的構造を有する反強磁性層と、MgOトンネル障壁と接触しているときに一般に中心立方結晶学的構造を有する記憶層と、の間の構造的非互換性に起因するかなりの構造的欠陥が観察されている。前記構造的欠陥は、反強磁性層による記憶層のトラッピング品質に直接影響を及ぼしている。
【0010】
これらの欠点を克服するために、特許文献2は、記憶層に加えて、例えばタンタルから作製される非晶質層または準非晶質層(quasi−amorphous)、ならびに面心立方結晶学的構造を有する、例えばパーマロイNiFeから作製される強磁性層を提案している。前記層を追加することにより、反強磁性層と、中心立方結晶学的構造を有する層との間の構造的移行を構築することができる。
【0011】
しかしながら、従来技術による、熱によって書込みが促進される磁気デバイスは、反強磁性層の厚さを薄くし、あるいは前記デバイスの横方向のサイズを小さくする場合、多くの欠点を有している。
【0012】
したがって既に言及したように、熱によって書込みが促進される、記憶層をトラップするためのデバイスに使用される反強磁性層は、面を中心にして立方体網で結晶化する(化合物FeMnおよびIrMnの場合)。前記材料は、通常、稠密平面の軸[111]に沿って成長し、例えばNiFeの場合のように、また、より一般的には陰極スパッタリングによって形成されるCoベースの合金の場合のようにバッファ層が同じ軸に従う場合、成長軸はより一層際立つ。平面(111)内では、反強磁性網を構成している磁気モーメントは、結果として得られる総モーメントがゼロになるように配向され、これらの化合物は、モーメントが補償された反強磁性体として知られている(化合物FeMnに対しては非特許文献1および非特許文献2を、また、IrMnに対しては非特許文献3を参照されたい)。
【0013】
非補償モーメントのこのセットにより、理論的には、強磁性層と反強磁性層の間の交換バイアスの欠落が間違いなく導かれるが、上で言及したように多結晶反強磁性層にモザイク性が存在し、そのために、強磁性層100と、複数の粒子(ここでは粒子結合300によって分離された2つの粒子200Aおよび200Bが示されている)から構成された粒状反強磁性層200との間の界面の断面図を概略的に示す図1に示されているように、これらの層の平面に対して垂直のz軸の周りに軸[111]が分散することになる。したがって成長がコヒーレントである個々の反強磁性粒子の内部では、反強磁性層200の磁化方向は、強磁性層100と反強磁性層200の間の界面400Aおよび400Bに対して概ね平行に配向され、かつ、成長軸[111]の分散のために層全体にわたって分散している完全に補償された網を形成している。したがって強磁性層100と反強磁性層200の間の交換バイアスは、他のどの部分(第1の反強磁性層の成長がコヒーレントである部分)も、反強磁性界面モーメントの成果がゼロであり、強磁性層100とのバイアスが平均するとほとんど誘導されないか、さらには全く誘導されないため、本質的には、例えば粒子結合部分、あるいは界面部分に皺だらけの状態を構成している原子階段(界面400Aと400Bの間の原子階段500参照)のレベルの部分に見られる、界面部分の非補償磁気モーメント(以下、等しく良好に磁化ベクトルまたは磁化と呼ばれる)を介して生じる。
【0014】
さらに、反強磁性モーメントは、特定の容易軸に沿って自から優先的に配向され、前記異方性は、KAFで表される、erg/cmで表される反強磁性層の定異方性を特徴としている。
【0015】
円筒状の幾何構造を有し、厚さがtAFで、かつ、表面積がSである単一の反強磁性粒子を考察すると、前記粒子と接触している強磁性層のヒステリシスループの移動を観察するためには、KAF×S×tAF>J×S(1)であることが必要であり、J0は、erg/cmで表される、強磁性層と反強磁性層の間の界面における相互作用のエネルギーを表している。この不等式(1)は、粒子の反強磁性モーメントは、交換異方性に寄与するために反強磁性モーメントが回転している間、強磁性モーメントを追従してはならないことを意味している。したがってデバイスの厚さの低減を誘導することができる小型化の観点から、臨界厚さ未満ではバイアス効果はもはや観察されないことが分かる。さらに、反強磁性層の制止温度は、反強磁性層の厚さに伴って低くなることが分かっており、また、強磁性記憶層の磁化方向を修正するためには、この制止温度を達成しなければならないことが分かっている(非特許文献4)。したがって制止温度の前記低減(書込みフェーズの間、エネルギーを節約することができる)は、それ以下ではバイアス効果がもはや観察されない前記臨界厚さの存在によって制限されている。コストが高い反強磁性体の厚さを薄くすることにより、さらには製造費を節約することも可能である。
【0016】
さらに、粒状多結晶反強磁性層の場合、粒子のサイズが広範囲にわたって分散している。実例による説明を目的としたものにすぎないが、図2は、反強磁性層AFおよび強磁性層Fを構成している構造におけるサイズが異なる複数の粒子を概略的に示したものである。この図には、表面がS1からS3まで減少している3つの粒子が示されている。上の段落で示した不等式(1)によれば、最も大きい粒子のみが交換磁界に寄与していると考えられる。相互作用のエネルギーは粒子の表面積で決まることが分かっており、相互作用のエネルギーは、前記表面積が広いほど小さく、また、逆に前記表面積が狭いほど大きい(非特許文献5)。したがって図2の場合、表面S1ないしS3に対応している交換エネルギーJ1ないしJ3は、最も小さい粒子の交換異方性の効果の重要性がより低くなるよう、徐々に小さくなっている。
【0017】
従来技術による、熱によって書込みが促進されるデバイスのサイズを小さくする場合、反強磁性層による記憶層のトラッピングの場合と同様、反強磁性層の安定性が損なわれることになる。実際、反強磁性層は多結晶粒状構造を有しており、また、層を構成している粒子は、互いに磁気的に弱く結合されている。さらに、磁気デバイスのサイズを小さくする場合、反強磁性層の粒子のうち、反強磁性層の周辺に位置する粒子の割合が増加する。その上、前記周辺の粒子は、エッチングプロセスによってその一部が浸食され、そのためにそれらの磁化の安定性が損なわれることになる。前記周辺の粒子は、浸食された部分が粒子の元の表面の浸食された部分の特定の割合を超えると、磁気的に不安定であると見なされることになる。デバイスのサイズが小さくなると、反強磁性層を構成している粒子のサイズ分散が広くなる傾向を示す。そのため、デバイス毎にトラッピング特性が著しく変動し、例えば磁気記憶装置の場合、メモリポイント毎にトラッピング特性が著しく変動することになる。したがって従来技術による、寸法が小さいデバイスをエッチングする場合、前記周辺粒子の体積が減少し、そのため、とりわけ微小粒子の存在と結合した反強磁性層の磁気干渉性が小さくなる。反強磁性層の磁気干渉性の前記低減は、多少なりとも反強磁性層による記憶層のトラッピング品質の重大な低下をもたらし、また、ポイント毎のトラッピング特性のばらつきが大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】仏国特許第2817999号明細書
【特許文献2】仏国特許第2924851号明細書
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】J.Phys.Soc.Jpn(1966) 21,1281
【非特許文献2】J.Appl.Phys. (1994) 75,6659
【非特許文献3】J.Appl.Phys. (1999) 86,3853
【非特許文献4】J.Appl.Phys. (1998) 83,7216
【非特許文献5】J.Appl.Phys. (1998) 83,6888
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、所与の厚さの反強磁性層に対する交換バイアスが増加した磁気デバイスを提案することによって従来技術の欠点を克服することであり、前記デバイスにより、交換バイアスが観察される臨界厚さを薄くすることができ、また、制止温度低減の達成により、強磁性層の磁化の書込みフェーズの間、製造費およびエネルギー消費の両方を節約することができる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
そのために、本発明によれば、
−自由層として知られている、可変磁化方向を有する磁気層と、
−前記自由層と接触している、前記自由層の磁化方向をトラップすることができる第1の反強磁性層と
を備えた磁気デバイスが提案され、この磁気デバイスは、前記自由層とは反対側の面を介して前記第1の反強磁性層と接触している安定化層として知られている、強磁性体から作製される層をさらに備え、前記自由層および安定化層の磁化方向が実質的に垂直であり、前記自由層および安定化層のうちの第1の層が磁化を有し、その方向が前記第1の層の平面に沿って配向され、一方、前記自由層および安定化層のうちの2つの層の第2の層も磁化を有し、その方向が前記第2の層の平面外に配向されることを特徴としている。
【0022】
柱状成長として知られている成長の場合(磁気層のスタックの特徴であり、磁気層の堆積は、しばしば陰極スパッタリングによって実施される)、異なる層の粒子は、自から底部から頂部まで整列する。したがって実質的に垂直の磁化方向とは、それぞれ安定化層および自由層に属している(つまり互いに一方の上、または一方の下に位置している)、反強磁性層の粒子によって互いに分離された2つの整列した粒子の各々の間の垂直磁化を意味している。
【0023】
本発明によれば、反強磁性トラッピング層と接触している強磁性体から作製される安定化層が、強磁性自由層(通常、MRAMメモリの場合であれば記憶層)の側とは反対側に加えられる。安定化層は、デバイスを使用するステップがどのようなステップであっても(つまりすべての書込みプロセスおよび読取りプロセスの間)、その磁化が自由層の磁化に対して垂直を維持するよう、単軸磁気異方性を有している。自由層および安定化層は、反強磁性網によってステップバイステップで伝搬される逆相互作用を及ぼし、前記相互作用は、その作用が大きいほど反強磁性層の厚さが薄くなる(一般的には5nm未満)。この状況では、安定化層は、反強磁性層との第1の界面で、それらの異方性軸に対して反強磁性層の磁化方向を傾斜させる効果を有する交換相互作用を及ぼす。「傾斜」とは、磁気モーメントの、それらの異方性軸またはそれらの元の位置からの方向を見失った配向を意味している。反強磁性層の厚さ中では、前記傾斜は、交換相互作用を介して自由層まで網内を伝搬する。自由層との界面では、誘導される反強磁性層の磁化方向の傾斜により、自由層と反強磁性層の間の界面の相互作用のエネルギーJ0を正のΔJ値だけ小さくすることができる。前記効果は、反強磁性層の厚さが十分に薄く、したがって反強磁性層の磁化方向がそれらの異方性軸に向かって弛緩しない場合、より一層大きくなり、言い換えると、安定化層によって生じる、反強磁性層の磁気異方性軸に対する磁化方向の傾斜の効果が、反強磁性層と自由層との界面まで伝搬するように反強磁性層の厚さを選択するよう、有利に助言することができる。
【0024】
反強磁性トラッピング層は、とりわけ、層の平面内に磁化を有する自由層の磁化をトラップするために使用される。この場合、安定化層は、平面外の磁化方向を有している。したがって自由層に対して垂直の異方性を有する安定化層を追加することにより、反強磁性層との交換相互作用をΔJだけ小さくすることができる。本発明において開発された論拠は、反強磁性層の成長平面に沿って非補償磁気モーメントを有する反強磁性体にも適用されることに留意することは重要である。Jを小さくすることにより、自由強磁性層のヒステリシスループの移動が観察される臨界厚さを薄くすることができる。ヒステリシスループの移動が出現する臨界厚さを薄くすることは、自由層の書込みのためには間接的に有利である。実際、反強磁性層の制止温度は、反強磁性層の厚さに伴って低くなることが分かっており、また、自由層に書き込むためには前記制止温度を達成しなければならないことが分かっている(J. Appl. Phys. 83, 7216 (1998))。したがってこの実施形態の範囲内の安定化層によれば、より低い温度で書き込むことができる、より薄い反強磁性層を使用することができ、したがって書込みフェーズの間、エネルギーを節約することができる。
【0025】
さらに、この安定化層によれば、反強磁性層を構成している粒子間の実効バイアスを強化することによって反強磁性層の磁気粘着を強くすることができる。強磁性体から作製される前記安定化層を存在させることにより、反強磁性層内の粒子から粒子へのバイアスを補強することができる。実際、反強磁性体から作製される層のみの場合、層を構成している粒子は、互いに磁気的に極めて弱く結合される。一方、それとは全く逆に、強磁性体から作製される層では、粒子は互いに極めて強く結合されている。強磁性層および反強磁性層が接触して置かれると、強磁性層の粒子の磁化は、反強磁性体から作製される層の粒子の界面スピンの最終平面と自から整列する傾向を示す。そのため、強磁性安定化層の個々の粒子は、確実に、該強磁性安定化層と接触している反強磁性層の粒子に磁気的に強力に結合される。さらに、強磁性体から作製される安定化層の粒子は、第1の反強磁性層の粒子が強磁性層の粒子の介在を介して同じく互いに結合されるよう、互いに極めて強力に結合される。したがって安定化層は、反強磁性層内の粒子間の結合を間接的な方法で誘導することによって反強磁性層の磁気粘着を強くすることができる。したがって横方向の寸法が1ミクロンよりはるかに小さいデバイスでは、デバイスの周辺に位置している、元々は不安定であった粒子が、この間接的な粒子間結合によって安定化される。そのため、前記安定化層は、反強磁性層と記憶層の間の交換バイアスを確実に大きくすることができる。したがって書込み事象以外、言い換えると反強磁性層がその制止温度より高い温度に加熱されていない限り、隣接する反強磁性層による自由層のトラッピングは、横方向の寸法が1ミクロンよりはるかに小さいデバイスに対しても依然として有効である。
【0026】
また、本発明による磁気デバイスは、個々に考察された、あるいは技術的に可能な任意の組合せで考察された以下の特徴のうちの1つまたは複数を有することができる。
−前記安定化層は、前記安定化層の平面外に配向された磁化方向を有しており、また、前記自由層は、前記自由層の平面内に磁化方向を有している。
−前記安定化層は、以下のレイアウトまたは材料のうちの1つに従って形成される。
周期(Pt/Co)、(Pd/Co)、(Co/Ni)またはXがTaあるいはPである(Co/Pt/Cr/X)の多層
FePtまたはFePdの規則合金
CoPtまたはCoPdの合金
希土類/遷移金属合金
−前記第1の反強磁性層の厚さは3nmと5nmの間である。
−前記自由層は、
第1の反強磁性層と接触している面心立方結晶学的構造を有する強磁性体で構成された遷移層
前記遷移層と接触している非晶質層または準非晶質層
強磁性層
で形成された少なくとも1つのスタックを備えている。
−前記自由層は、非磁気伝導層によって分離された第1および第2の磁気層を備えた合成3層反強磁性スタックで構成されている。
−本発明によるデバイスは、その平面内に形状異方性を有している。
−本発明によるデバイスは、
「基準層」として知られている磁気層であって、前記自由層が記憶層である磁気層と
前記基準層と前記記憶層の間に位置しているスペーサと
を備えた、熱によって書込みが促進される磁気デバイスである。
−前記基準層は、基準層と接触して配置された第2の反強磁性層によってトラップされた磁化方向を有している。
−基準層は可変磁化方向を有している。
【0027】
また、本発明は、熱によって書込みが促進される磁気記憶装置に関しており、個々のメモリポイントは、本発明による磁気デバイスを備えている。
【0028】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図を参照して以下の説明を読むことにより、より明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来技術による、強磁性層と粒状反強磁性層の間の界面の断面図を概略的に示す図である。
【図2】従来技術による反強磁性層および強磁性層を備えた構造における、サイズが異なる複数の粒子を概略的に示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による磁気デバイスの断面図である。
【図4】図3の磁気デバイスの上面図である。
【図5】図3のデバイスの第1の反強磁性層と、一方は安定化層との間、また、他方は記憶層との間の界面の略断面図である。
【図6】本発明によるデバイスの安定化層を備えた交換磁界、または本発明によるデバイスの安定化層を備えていない交換磁界の変化を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態による磁気デバイスの断面図である。
【図8】記憶層に情報を書き込んでいる間の図7のデバイスの断面図である。
【0030】
より明確にするために、全く同じ部材または同様の部材には、すべての図において全く同じ参照符号が付されている。
【0031】
すべての図において、「D」が付されている矢印は、それらが位置している層の磁化方向を示している。「I」が記されている矢印は電子の流れを示している。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1および2は、従来技術を参照して既に説明した。
【0033】
図3および4は、本発明の一実施形態による磁気デバイス24を示したものである。前記磁気デバイス24は、磁気デバイスの他の層の成長に対するベースとして作用するバッファ層1を備えている。前記バッファ層1は、非磁気材料から作製されることが好ましい。バッファ層1は、例えば、少なくとも20%のCrまたは窒化銅を含有したニッケル−鉄−クロム合金で構築することができ、あるいは銅の層およびタンタルの層の交互層で構成された多層構造を有することができる。当然のことではあるが、前記材料は、単に説明のためのものにすぎず、本発明を制限するものではない。
【0034】
また、磁気デバイス24は、磁気デバイスの層のスタックを酸化から保護し、あるいは必要に応じてスタックをスタックの上部電極に確実に電気接続することができるカバー層8を備えている。前記カバー層8は、例えばタンタル、窒化銅で構成することができ、あるいは銅層およびタンタル層の交互層で構成された多層構造を有することができる。
【0035】
磁気デバイスは、次に、バッファ層1とカバー層8の間に、バッファ層1に対して配置される第2の反強磁性層2を備えている。前記第2の反強磁性層2は、例えば厚さが12nmと30nmの間のPtMnで構築することができ、あるいは厚さが20nmと50nmの間のNiMnで構築することができる。第2の反強磁性層2は、ネール温度が高い、一般的には350℃以上の反強磁性体から作製されることが好ましい。反強磁性層2に対して上で挙げた材料は、単に説明のためのものにすぎず、本発明の範囲を逸脱することなく他の材料を使用することも可能である。
【0036】
磁気デバイスは、次に、第2の反強磁性層2と接触している基準層3を備えている。基準層3は、単一層にすることも、あるいは複数の層のスタックで構成することも可能であり、また、基準層3は、とりわけ、図3に示されているように合成3層反強磁性スタックで構成することができる。図3に示されている合成3層反強磁性スタックは、隣接する磁気層の磁化と磁化の間に反平行整列を誘導することができる非磁気伝導層10によって分離された2つの磁気層9および11で構成されている。磁気層9は、例えばコバルト−鉄合金で構成することができ、一方、磁気層11はコバルト−鉄−ホウ素合金で構成することができ、あるいはその逆も可能である。また、同じ磁気合金の2つの磁気層9および11を構築することも可能である。個々の磁気層9および11は、1nmと4nmの間の厚さを有していることが好ましい。2つの磁気層9および11は、2つの磁気層9および11のセットによって記憶層5のレベルで放射される磁界が可能な限り弱くなるよう、同様の厚さを有していることが好ましい。非磁気伝導層10は、例えば厚さが0.5nmと0.9nmの間のルテニウムで構築することができ、この厚さは、ルテニウムが、隣接する磁気層の磁化と磁化の間に反平行バイアスを誘導する厚さとして知られている。2つの磁気層9および11は、非磁気伝導層10を介して反平行方式で結合される。2つの磁気層9および11の磁化方向は、磁気デバイスの温度が第2の反強磁性層2を構成している反強磁性体のネール温度未満である限り、第2の反強磁性層2によって固定される。基準層の構成材料は当業者によく知られており、ここでは単に指標として与えられたものにすぎず、本発明を何ら制限するものではない。
【0037】
基準層3は、基準層の平面内に磁化方向を有している。
【0038】
磁気デバイスは、次に、スペーサ4によって基準層3から分離された自由記憶層5を備えている。スペーサ4は、アルミニウムの酸化物AlO、チタンの酸化物TiOおよび酸化マグネシウムMgOからなる群から選択されるトンネル障壁であってもよい。別法としては、スペーサ4は半導体で構成することも可能である。したがってスペーサは、ケイ素、ゲルマニウムまたはGaAsで構成することができる。また、スペーサ4は、例えば厚さ2nmのアルミナから作製される絶縁障壁で構成された拘束電流経路を備えた層などの非均質金属/酸化物層で構築することも可能であり、絶縁障壁には、例えば典型的には1nmと4nmの間であるナノメートル単位の直径の銅から作製される導電チャネルが貫かれている。スペーサ4は、0.6nmと5nmの間の厚さを有していることが好ましい。
【0039】
記憶層5は、自由層の平面内に可変磁化方向を有する磁気自由層である。前記記憶層5は、単一磁気層であっても、あるいは複数の層のスタックであってもよい。記憶層5は、例えば、
−第1の反強磁性層と接触している面心立方結晶学的構造を有する強磁性体で構成された遷移層と、
−遷移層と接触している非晶質層または準非晶質層と、
−中心立方結晶学的構造の強磁性記憶層と、
を備えた複数の層のスタックで構成することができる。
【0040】
スペーサ4がMgOをベースとするトンネル障壁であり、その結晶学的構造が中心立方である場合、このタイプの記憶層はとりわけ重要である。
【0041】
また、記憶層5は、非磁気伝導層によって分離された第1および第2の磁気層を備えた合成3層反強磁性スタックで構成することも可能である。
【0042】
図3の例では、記憶層5は単一層で構成されている。前記単一層は、例えばコバルトまたはコバルト−鉄−ホウ素合金で構成することができる。記憶層は、1nmと7nmの間の厚さを有していることが好ましい。
【0043】
記憶層5は、記憶層の平面内に磁化方向を有しており、前記方向は可変であり、また、基準層3の磁化方向に対して平行であっても、あるいは反平行であってもよい。
【0044】
明らかなことではあるが、記憶層の特徴は、ここでは単に指標として与えられたものにすぎず、当業者には、本発明を他のタイプの記憶層に適合させる方法が認識される。
【0045】
磁気デバイスは、次に、記憶層5と接触している、読取りの間、記憶層5の磁化方向をトラップすることができ、また、書込みの間、記憶層5の磁化方向を自由にすることができる第1の合成反強磁性層6を備えている。第1の反強磁性層6は、例えば厚さが3nmと5nmの間のIrMn(例えばIr20Mn80合金)で構築することができる。
【0046】
磁気デバイスは、さらに、第1の反強磁性層6と接触している、強磁性体から作製される安定化層7を備えている。前記安定化層7は、安定化層7の平面外で、かつ、記憶層5の磁化方向に対して垂直の強い単軸異方性を有している。安定化層7は、例えば、一般形式が(Pt/Co)mであり、mがPt/Coユニットの反復数に対応している白金/コバルトタイプの多層の形態(重畳した白金の層およびコバルトの層)で製造することができ、例えば(Pt1.8mm/Co0.6nmで製造することができる。
【0047】
安定化層には他の材料を使用することも可能である。これらの材料は、例えばCoPtCr合金またはCoPtCrX合金であってもよく、XはTaまたはPである。一般形式が(Co/Pd)nであるコバルト/パラジウムの多層、または一般形式が(Co/Ni)pであるコバルト/ニッケルの多層を使用することも可能であり、nおよびpは、それぞれユニットCo/PdおよびCo/Niの反復数に対応している。また、平面に対して垂直の異方性が大きい任意のタイプの強磁性体を使用することも可能であり、例えば、同じく平面外異方性を有する、CoPtまたはCoPdなどの合金、FePtまたはFePdなどの化学的規則合金、あるいはTbCoなどの特定の希土類/遷移金属合金を使用することができる。
【0048】
磁気デバイス24は、図4により正確に示されているように楕円断面を有していることが好ましく、あるいは磁気デバイス24の平面内に少なくとも形状異方性を有していることが好ましい。
【0049】
以下で分かるように、安定化層7により、自由層5のヒステリシスループの移動が出現する反強磁性層6の臨界厚さを薄くすることができる。
【0050】
この現象について、記憶層5、第1の反強磁性層6および安定化層7を顕微鏡レベルで概略的に示す図5を参照してより詳細に説明する。これらの層の各々は、それぞれ5aおよび5b、6aおよび6b、ならびに7aおよび7bである粒子で構成されている(ここでは層毎に2つの粒子が示されている)。個々の粒子5a、5b、6a、6b、7aおよび7bは、実質的に同じ結晶学的配向を有する単結晶領域である。
【0051】
柱状成長として知られている成長の場合(本発明による磁気層のスタックの特徴であり、磁気層の堆積は、しばしば陰極スパッタリングによって実施される)、異なる層の粒子は、底部から頂部まで自己整列し、したがって粒子5a、6aおよび7aは、底部から頂部まで整列し、同様の方法で粒子5b、6bおよび7bも底部から頂部まで整列する。
【0052】
同じ層内、例えば第1の反強磁性層6内では、隣接する2つの粒子6aおよび6bが粒子結合6cによって分離されている。それぞれ粒子5aおよび5bならびに粒子7aおよび7bを分離している粒子結合5cおよび7cについても同様である。したがって粒子結合5c、6cおよび7cは、ある結晶学的配向から他の結晶学的配向へ一回通過するゾーンである。
【0053】
層5、6および7は、通常、軸[111]に沿って成長する。
【0054】
自由層5の個々の粒子5aおよび5b内では、磁化方向D5は、すべて同じ方向に互いに平行であり、かつ、自由層5の平面内に存在している。
【0055】
安定化層7の個々の粒子7aおよび7b内では、磁化方向D7は、すべて同じ方向に互いに平行であり、安定化層7の平面外に存在している。さらに、粒子7aの磁化D7は、粒子5aの磁化D5に対して垂直である。同じ方法で、粒子7bの磁化D7は、粒子5bの磁化D5に対して垂直である。より一般的には、磁化は、それぞれ安定化層7および自由層5に属し、かつ、反強磁性層6の粒子によって互いに分離された、整列した2つの粒子の各々の間で垂直である。
【0056】
図1を参照して喚起したように、安定化層がない場合、反強磁性層6の磁化(点線で示されている)は、軸[111]に対して垂直の異方性の容易軸に沿って自己配向されることになり、前記異方性は、KAFで表される定異方性を特徴としている。
【0057】
反強磁性層6の厚さが十分に薄い場合(一般的には5nm未満)、記憶層(自由層)5および安定化層7は、反強磁性網によってステップバイステップで伝搬される逆相互作用を及ぼす。この状況では、安定化層7は、反強磁性層6との第1の界面(それぞれ粒子7aと6aの間、および粒子7bと6bの間の界面67aおよび67b)で、それらの異方性の軸に対して反強磁性モーメントを傾斜させる効果を有する交換相互作用を及ぼす。前記傾斜は、点線の異方性のそれらの容易軸に対する反強磁性層の磁化方向D6の傾斜によって現れる。反強磁性層6の厚さ中では、前記傾斜は、交換相互作用を介して記憶層5まで網内を伝搬する。記憶層5との反強磁性層6の界面(それぞれ粒子5aと6aの間、および粒子5bと6bの間の界面56aおよび56b、ならびに界面56aと56bの間の原子階段56c)では、誘導される反強磁性モーメントの傾斜により、相互作用のエネルギーJ(交換エネルギー表面密度としても知られている)を正のΔJ値だけ小さくすることができる。この効果は、反強磁性層6の厚さが十分に薄く、したがって反強磁性モーメントがそれらの異方性の軸に向かって弛緩しない場合、より一層効果的になる。したがって、平面外の磁化を有し、かつ、自由層5に対して垂直の異方性を有する安定化層7を追加することにより、反強磁性層との交換相互作用をΔJだけ小さくすることができる。本発明において開発された論拠は、反強磁性層の成長平面に沿った非補償反強磁性体(つまり自由層と正味非ゼロ磁化を有する反強磁性層との間の界面の場合)にも適用されることに留意することは重要である。
【0058】
上で与えられた不等式(1)を適用すると、反強磁性層の厚さtAFは、安定化層7がない場合より薄い厚さを選択することができ、その一方で依然として強磁性自由層5のヒステリシスループの移動を観察することができ、円筒状幾何構造を有する単一反強磁性粒子を考察する場合、不等式(1)は、KAF×S×tAF>(J−ΔJ)×Sになり、その厚さはtAFであり、また、表面積はSであることが容易に理解される。前記不等式は、粒子の反強磁性モーメントは、交換バイアスに寄与するために反強磁性モーメントが回転している間、強磁性モーメントを追従してはならないことを示している。この単純なモデルでは、Jを小さくすることにより、不等式が検証される臨界厚さtAFCriを薄くすることができることが分かる。ヒステリシスループの移動が存在している場合、自由層は、あたかも追加内部単一方向実効磁界である交換バイアス磁界Hexが存在しているかの如くに挙動する。
【0059】
図6は、安定化層がある場合(曲線VH1)および安定化層がない場合(曲線VH2)の自由層上で測定した、交換バイアス磁界Hexにおける、反強磁性層の厚さの関数としての変化VH1およびVH2を示したものである。反強磁性層の第2の界面に安定化層を追加することにより、交換バイアスが出現する臨界厚さを著しく薄くすることができることに留意されたい。例えば反強磁性の厚さが3nmの場合、安定化層がない記憶層上で測定した交換磁界は1.33mTであり、一方、安定化層が存在する場合は18mTであり、つまり10倍改善される。この実験による立証の範囲内では、記憶層は、平面磁化を有する厚さ5nmのCoから構成され、安定化層は、平面に対して垂直であり、したがって記憶層の磁化に対して垂直の強い単軸異方性を有する多層(Pt1.8nm/Co0.6nmであり、また、反強磁性層は、厚さが可変のIr20Mn80合金で構成された。さらに、安定化層が存在する場合、2.25nmの臨界厚さから交換バイアス磁界Hexが存在することが観察され、一方、安定化層がない場合、前記交換バイアス磁界が出現するのは3nmの臨界厚さからである。
【0060】
ヒステリシスループの移動が出現する臨界厚さを薄くすることは、可変磁化を有する自由層の書込みのためには間接的に有利である。実際、反強磁性層の制止温度は、反強磁性層の厚さに伴って低くなることが分かっており、また、記憶層に書き込むためには前記制止温度を達成しなければならないことが分かっている(非特許文献4)。したがってこの実施形態の範囲内の安定化層によれば、より低い温度で書き込むことができる、より薄い反強磁性層を使用することができ、したがって書込みフェーズの間、エネルギーを節約することができる。
【0061】
図2を参照して説明したように、最も大きい粒子のみが交換磁界に寄与している。相互作用のエネルギーは粒子の表面積で決まることが分かっており、相互作用のエネルギーは、この表面積が広いほど小さく、また、逆にこの表面積が狭いほど大きい(非特許文献5)。この特定のケースでは、安定化層7を使用して相互作用のエネルギーを小さくすることにより、反強磁性層の最も小さい粒子が同じく自から安定する。
【0062】
安定化層7は、さらに、第1の反強磁性層6の磁気干渉性を補強することができ、また、第1の反強磁性層6による記憶層5の磁化方向のトラッピングを強化することができる。
【0063】
安定化層がない場合、第1の反強磁性層6の隣接する2つの粒子は、磁気的に極めて弱く結合され、それは、第1の反強磁性層6の磁気干渉性が小さいことを意味している。言い換えると、安定化層がない場合の第1の反強磁性層の2つの粒子間の結合エネルギーAAF/AFは極めて小さい。
【0064】
本明細書では、2つの粒子結合間の「結合エネルギー」は、単位表面当たりの結合エネルギーを表している。前記エネルギーはerg/cmで表される。
【0065】
強磁性である安定化層7内では、粒子は極めて強く結合される。したがって安定化層の隣接する2つの粒子間の結合エネルギーAF/Fは、安定化層がない場合の第1の反強磁性層の2つの粒子間の結合エネルギーAAF/AFより約10倍ないし10倍強い。
【0066】
したがって本発明は、第1の反強磁性層6の粒子間の結合を強くするために、第1の反強磁性層6の上に強磁性安定化層7を追加することを提案している。
【0067】
図5に概略的に示されているように、安定化層の個々の粒子、例えば7aは、安定化層の下に存在している、第1の反強磁性層6の上に見出される第1の反強磁性層6の粒子6aに磁気的に結合されている。したがって第1の反強磁性層6の粒子は、安定化層の粒子と第1の反強磁性層の粒子の間の界面結合、および安定化層の粒子間の粒子間結合の介在を介して互いに結合されている。
【0068】
したがって強磁性安定化層を存在させることにより、第1の反強磁性層の粒子間に有効な結合を存在させることができる。前記結合により、安定化層がない場合に磁気的に不安定になる第1の反強磁性層の粒子を磁気的に確実に安定させることができるが、それは、安定化層が存在している場合、その安定化層によって誘導される粒子間結合が出現することによるものである。これは、とりわけ、デバイスのエッチングプロセスの間にそのサイズを著しく小さくすることができるデバイスの縁部分の粒子に関している。
【0069】
図7は、本発明の第2の実施形態による磁気デバイス240の断面図を示したものである。
【0070】
デバイス240は、事実上、図3のデバイス24と全く同じであり、異なっているのは、デバイス240は、磁化方向が反強磁性層によって固定されない基準層3を備えていることのみである。基準層3は可変磁化方向を有している。前記基準層3は、単一層であっても、あるいは多層であってもよい。
【0071】
また、図7の磁気デバイスは、磁化方向が可変である記憶層5を備えている。記憶層5は、単一層であっても、あるいは多層であってもよい。
【0072】
基準層3および記憶層5はスペーサ4によって分離されている。
【0073】
磁気デバイス240は、さらに、第1の反強磁性層6と接触している、強磁性体から作製される安定化層7を備えている。前記安定化層7は、安定化層7の平面外で、かつ、記憶層5の磁化方向に対して垂直の強い単軸異方性を有している。さらに、磁気デバイスは、デバイスの両側にバッファ層1およびカバー層8を備えることも可能である。
【0074】
図8は、記憶層に情報を書き込んでいる間の図7のデバイスの断面図を示したものである。
【0075】
記憶層への情報の書込みを可能にするために、磁気デバイスは、書込みモードでは導体であるトランジスタ12を備えている。さらに、磁気デバイスは、磁気スタックの下方に位置している導電線13を備えている。第1の導体13は、電流が流れると、安定化層の磁化方向に対して平行または反平行の磁界を生成する方法で配置されている。書込み時にはトランジスタ12は導通モードであり、したがってスタックを通って電流が流れ、それによりジュール効果によって記憶層および第1の反強磁性層が加熱される。前記加熱により、第1の反強磁性層の制止温度以上の温度が達成される。本発明のおかげで前記制止温度は、安定化層7がない場合の前記同じ反強磁性層の制止温度未満である。
【0076】
記憶層に情報を書き込むために、導体13およびスタックを通して電流が送られ、トランジスタ12は導通モードである。次にスタックの温度が第1の反強磁性層6の制止温度より高い温度になり、それにより第1の反強磁性層6が常磁性になり、記憶層5の磁化方向がもはやトラップされなくなる。
【0077】
それと同時に、第1の導体13によって磁界Bが生成される。前記磁界は、層の平面に垂直な強い異方性を有する安定化層7に影響を及ぼさない。
【0078】
この磁界Bにより、記憶層の磁化を所望の方向に向けることができる。
【0079】
記憶層5の磁化方向が所望の方向に向けられると、スタックを通って流れている電流が停止され、したがって磁界の存在下でスタックを冷却することができ、次に導体13を通って流れる電流が停止され、それにより印加されている磁界が除去される。第1の反強磁性層6が再び反強磁性になり、記憶層5の磁化方向を見出される方向にトラップする。
【0080】
前記書込みの間、基準層は、同じく、導体13によって生成され、また、他の磁気層によって部分的に放射される局部磁界の方向に切り換えるが、前記層の磁化は、次に読取り時に所定の方向に再配向されるため、これは何ら重要ではないことに留意されたい。
【0081】
次に、記憶層5に含まれている情報を読み取るために、基準層3のおかげで差動読取りを実行することができる。そのために、磁気デバイスによって形成される接合トンネルの抵抗のレベルが、基準層3の磁化方向の2つの異なる配向に対して比較される。そのために、導体13を通って流れる電流の第1のパルスによって生成される磁界の第1のパルスを使用して、基準層3の磁化方向が第1の所定の方向に配向される。基準層3の磁化方向の前記配向は、スタックの温度が高くなって記憶層5の磁化方向を修正することがないよう、スタックに電流を流さない状態で実施される。次に、書込み時に使用される加熱電流より低い、一般的には加熱電流の1/2の読取り電流によって磁気デバイスの抵抗が測定される。次に、基準層3の磁化方向を第1の所定の方向とは逆の方向に配向するために、依然として加熱することなく、第2の電流パルスによって生成される磁界の第2のパルスが、第1のパルスとは逆に導体13に印加される。次に磁気デバイスの抵抗がもう一度測定される。個々の電流パルスが印加されると、印加された磁界のパルスの方向が分かっているため、基準層3の磁化方向が分かる。したがって第1の電流パルスが印加された後、および第2の電流パルスが印加された後の磁気デバイスの抵抗を比較することにより、その比較から記憶層5の磁化方向が推測され、したがって記憶層5に含まれている情報が推測される。
【0082】
図3に示されているように、本発明は、その磁化方向がトラップされる基準層にも同様に適用される。
【0083】
記憶層に情報を書き込むために、次に基準層を使用することができる。そのために、図8に関連して説明したように、例えば磁気デバイスの外部の磁界を印加することができる。しかしながら、電子の流れを磁気デバイスの層を通して、層に対して垂直に、いずれか一方の方向、言い換えると、記憶層の磁化を基準層の磁化に対して平行にすることが望ましいか、あるいは反平行にすることが望ましいかどうかに応じて、底部から頂部へ、あるいは頂部から底部へ流すことによって書き込むことも可能である。前記流れは、二重の効果を有している。第1の効果は、ジュール効果によってトンネル障壁のレベルで、流れの方向に無関係に、反強磁性層の制止温度より高い温度に構造を加熱することである。これは、反強磁性層との相互作用によってはもはやトラップされない記憶層の磁化を自由にする効果を有している。さらに、前記電子の流れが磁気である基準層を通過すると、電子が分極スピンで前記基準層から出るよう、電子のスピンがスピン分極されることになる。前記電子が記憶層を通過すると、それらの電子は、記憶層を磁化させるスピンと交換相互作用することになる。電流密度が十分に高い場合、この交換相互作用によって前記層の磁化が再配向され、また、記憶層の磁気モーメントへの分極電子の角モーメントの転移によって記憶層の磁化が整列することになる。この現象は、スピン転移という名称で知られている。したがって電子の流れが基準層から記憶層へ流れると、スピン転移によって記憶層および基準層の磁化が平行に配向されることになる。一方、電子の流れが記憶層から基準層へ流れると、記憶層および基準層の磁化は反平行に整列することになる。前記書込みモードでは、スピン転移は、とりわけ記憶層の磁化に対して働く。
【0084】
読取りモードでは、層を介して電子の流れが送られ、磁気デバイスの抵抗が測定される。前記読取り電流は、読取り時における記憶層の磁気配向がスピン転移によって摂動する危険がないよう、書込み電流より強度が小さい電流である(一般的には少なくとも50%)。次に、測定された抵抗が標準基準値と比較される。測定された抵抗が前記標準基準値より大きい場合、そのことから、記憶層が基準層の磁化方向に対して反平行の磁化方向を有していることが推測される。測定された抵抗が前記標準基準値より小さい場合、そのことから、記憶層および基準層が平行磁化方向を有していることが推測される。
【0085】
当然、本発明は、図を参照して説明した実施形態に限定されず、本発明の範囲を逸脱することなく変形形態を想定することが可能である。詳細には、バッファ層、基準層、記憶層およびスペーサを形成するために選択された材料および厚さは、ここでは単に説明のために与えられたものにすぎず、他の材料または厚さを使用することも可能である。
【0086】
上で説明した、本発明によるデバイスの実施形態には、より詳細には、熱によって書込みが促進される磁気記憶装置の中で実施されることが意図されているが、本発明によるデバイスは、これらのデバイスが自由層の磁化をトラッピングするための反強磁性層の使用を必要とする時点から磁気記録をサポートするための磁場センサまたは読取りヘッドなどの他の磁気デバイスの中でも実施することができることを理解されたい。
【0087】
図を参照して説明したすべての実施形態では、磁気記憶層(自由層)は平面内に磁化方向を有しており、言い換えると、磁気自由層の磁化は、自由層が見出される平面に対して平行または反平行であり、一方、磁気安定化層は平面外の磁化を有しており、言い換えると、磁気安定化層の磁化は、磁気安定化層が見出される平面に対して垂直である。しかしながら、本発明による磁気デバイスは、自由層に関しては平面外の磁化を使用して製造し、また、安定化層に関しては平面内磁化を使用して製造することも可能である。この場合、自由層の磁化を切り換えることができる磁界の方向は、明らかに層の平面に対して垂直でなければならない。
【符号の説明】
【0088】
D5、D6、D7 磁化方向(磁化)
1 バッファ層
2、200 反強磁性層
3 基準層
4 スペーサ
5 記憶層(自由層)
5a、5b、6a、6b、7a、7b 粒子
6 合成反強磁性層
5c、6c、7c、300 粒子結合
7 安定化層
8 カバー層
9、11 磁気層
10 非磁気伝導層
12 トランジスタ
13 導電線(導体)
24、240 磁気デバイス
56a 粒子5aと6aの間の界面
56b 粒子5bと6bの間の界面
56c 原子階段
67a 粒子7aと6aの間の界面
67b 粒子7bと6bの間の界面
100 強磁性層
200A、200B 粒子
400A、400B 界面
500 原子階段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−自由層として知られている、可変磁化方向を有する磁気層(5)と、
−前記自由層(5)と接触している、前記自由層(5)の磁化方向をトラップすることができる第1の反強磁性層(6)と、
を備える磁気デバイス(24、240)であって、前記自由層(5)とは反対側の面を介して前記第1の反強磁性層(6)と接触している安定化層(7)として知られている、強磁性材料で作製されたから作製される層(7)をさらに備え、前記自由層(5)および安定化層(7)の磁化方向が実質的に垂直であり、前記自由層(5)および安定化層(7)のうちの第1の層(5)が磁化を有し、その方向が前記第1の層(5)の平面に沿って配向され、一方、前記自由層(5)および安定化層(7)のうちの2つの層の第2の層(7)が磁化を有し、その方向が前記第2の層(7)の平面外に配向されることを特徴とする磁気デバイス(24、240)。
【請求項2】
前記安定化層(7)が前記安定化層(7)の平面外に配向された磁化方向を有し、また、前記自由層(5)が前記自由層(5)の平面内に磁化方向を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気デバイス(24、240)。
【請求項3】
前記安定化層(7)が、
−周期(Pt/Co)、(Pd/Co)、(Co/Ni)またはXがTaあるいはPである(Co/Pt/Cr/X)の多層、
−FePtまたはFePdの規則合金、
−CoPtまたはCoPdの合金、
−希土類/遷移金属合金、
のレイアウトまたは材料のうちの1つに従って形成されていることを特徴とする請求項2に記載の磁気デバイス(24、240)。
【請求項4】
前記第1の反強磁性層(6)の厚さが3nmから5nmの間を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のデバイス(24、240)。
【請求項5】
前記自由層が、
−前記第1の反強磁性層と接触している面心立方結晶学的構造を有する強磁性材料で構成された遷移層、
−前記遷移層と接触している非晶質層または準非晶質層、
−強磁性層、
で形成された少なくとも1つのスタックを備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の磁気デバイス。
【請求項6】
前記自由層が、非磁気伝導層によって分離された第1および第2の磁気層を備えた合成3層反強磁性スタックで構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の磁気デバイス。
【請求項7】
その平面内に形状異方性を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気デバイス(24)。
【請求項8】
前記デバイス(24、240)が、
−「基準層」として知られている磁気層(3)であって、前記自由層(5)が記憶層である磁気層(3)と、
−前記基準層(3)と前記記憶層(5)の間に位置しているスペーサ(4)と、
を備えた、熱によって書込みが促進される磁気デバイスであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の磁気デバイス(24、240)。
【請求項9】
前記基準層(3)が、前記基準層(3)と接触して配置された第2の反強磁性層(2)によってトラップされた磁化方向を有することを特徴とする請求項8に記載の磁気デバイス(24)。
【請求項10】
前記基準層(3)が可変磁化方向を有することを特徴とする請求項8に記載の磁気デバイス(240)。
【請求項11】
個々の記憶セルが請求項8から10のいずれか一項に記載の磁気デバイスを備える、熱によって書込みが促進される磁気記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−253357(P2012−253357A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−129387(P2012−129387)
【出願日】平成24年6月6日(2012.6.6)
【出願人】(502124444)コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ (383)
【Fターム(参考)】