説明

光学素子が搭載された光導波路基板及びその製造方法

【課題】光軸のずれが抑制された高精密な光導波路基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】光学素子と、該光学素子に光学的に接続された光導波路3と、を備える光導波路基板を作製する方法において、エッチング可能な基板4と、該基板の一方の面に設けられたエッチングストップ部材2と、を有する複合基板を準備し、上記エッチング可能な基板上に、所望のパターンを有するマスクを形成する。その後、上記エッチング可能な基板に異方性エッチングを施して上記エッチングストップ部材まで上記基板を腐食させ、所望の幅となった時点でエッチングを停止して、当該基板に溝部3を形成し、上記溝部内に光伝播部5を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子若しくは受光素子等の光学素子が搭載された光導波路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子・受光素子が搭載される光導波路基板において、面発光素子を用いたチップの低背化が主流となってきており、光軸の変換に高精度なミラー面の形成が要求されている。
【0003】
一般的にこのようなミラー面には、従来ではアルカリ系水溶液によるシリコン(Si)の異方性エッチングが用いられてきたが、形成される面が54.7°({111}面)であり、高効率な光軸変換が困難であった。
【0004】
そこで、アルカリ系水溶液にさらに添加剤を加えることで、例えば水酸化カリウム(KOH)にアルコール、あるいはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)に界面活性剤を加えることで、45°のミラー面({110}面)を形成する手段が講じられてきた。
【0005】
しかしながら、{110}面は添加剤の濃度分布や攪拌具合の影響を受けやすく、エッチング溝の底平面を形成する{100}面のエッチングレートに対し、{110}面のエッチングレートが安定しないことが実験的に確認されている(例えば、図4参照)。
【0006】
エッチング溝内に光を伝播する部位を形成する方法として、感光性の光学ポリマーをフォトリソグラフィによって光導波路を形成する方法や、ファイバを溝部に配置して固定する方法があるが、{100}面によって決まる深さ寸法にばらつきがあると、前者の場合は導波路の変形が、後者の場合はファイバのz方向の位置ずれが発生し、特性の低下を招く。
【0007】
一方、{110}面の位置精度は、x−y平面上におけるミラーの位置に影響を与えるため重要な管理項目となる。つまり、図5Aのような光導波路基板では、図5Bに示すように{100}面31で決まる深さ寸法と、{110}面32で決まる開口寸法の双方を管理する必要があり、{100}面31と{110}面32のエッチングレート比のばらつきが高精度なデバイス作製の障害となっている。このため、光軸のずれが発生し高精度な光導波路基板を作製することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−072055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、光軸のずれが抑制された高精密な光導波路基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本願第1発明に係る光導波路基板の作製方法は、光学素子と、該光学素子に光学的に接続された光導波路と、を備える光導波路基板を作製する方法であって、エッチング可能な基板と、該基板の一方の面に設けられたエッチングストップ部材と、を有する複合基板を準備する工程と、上記エッチング可能な基板上に、所望のパターンを有するマスクを形成する工程と、上記エッチング可能な基板に異方性エッチングを施して上記エッチングストップ部材まで上記基板を腐食させ、所望の幅となった時点でエッチングを停止して、当該基板に溝部を形成する工程と、上記溝部内に光伝播部を形成する工程と、を備えることを特徴とする。ここで、溝部はエッチングストップ部材に達するまでは、エッチング可能な基板(シリコン基板)4の深さ方向(図1Aのz方向)及び横方向(図1Aのx方向及びy方向)に進行するが、溝部がエッチングストップ層に達すると、横方向しかエッチングが進行しない。すなわち、「上記エッチング可能な基板に異方性エッチングを施して上記エッチングストップ部材まで上記基板を腐食させ、所望の幅となった時点でエッチングを停止して、当該基板に溝部を形成する」とは、エッチング可能な基板に異方性エッチングを施してエッチングストップ部材に達するまでは深さ方向及び横方向に腐食させ、エッチングストップ部材に達した後は所望の幅となるまで横方向のみ腐食させ、所望の幅になった時点でエッチングを停止することをいう。
【0011】
また、本願第2発明に係る光導波路基板は、エッチングストップ部材と、上記エッチングストップ部材上に形成され、上記エッチングストップ部材まで達する溝部を有する基板と、上記溝部内に形成された光伝播部と、上記基板上に設けられ、上記光伝播部と光学的に接続された光学素子と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本願発明によれば、エッチングストップ部材上の基板の厚みでエッチング深さが決まるので、溝部の開口幅の管理を行うだけで精度の良い加工形状を得ることができる。
したがって、本願発明によれば、光軸のずれが抑制された高精密な光導波路基板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】図1Aは、本発明の第1の実施の形態に係る光導波路基板を部分的に示した斜視図である。
【図1B】図1Bは、図1Aに示された光導波路基板のA−A断面における断面図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実施の形態に係る光導波路基板の別の態様を示している。
【図3A】図3Aは、本発明の第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法の工程図である。
【図3B】図3Bは、本発明の第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法の工程図である。
【図3C】図3Cは、本発明の第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法の工程図である。
【図3D】図3Dは、本発明の第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法の工程図である。
【図3E】図3Eは、本発明の第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法の工程図である。
【図3F】図3Fは、本発明の第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法の工程図である。
【図3G】図3Gは、本発明の第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法の工程図である。
【図3H】図3Hは、本発明の第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法の工程図である。
【図3I】図3Iは、本発明の第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法の工程図である。
【図3J】図3Jは、本発明の第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法の工程図である。
【図3K】図3Kは、本発明の第3の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法の工程図である。
【図3L】図3Lは、本発明の第3の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法の工程図である。
【図3M】図3Mは、本発明の第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法の別の態様に係る工程図である。
【図3N】図3Nは、本発明の第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法の別の態様に係る工程図である。
【図4】図4は、{100}面と{110}面とのエッチングレート比を示したグラフである。
【図5A】図5Aは、従来の光導波路基板の斜視図である。
【図5B】図5Bは、図5Aの光導波路基板の溝部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
[第1の実施の形態]
図1A、1Bは、本発明の第1の実施の形態に係る光導波路基板1を概略的に示したものである。図1A、1Bに示すように、本発明の第1の実施の形態に係る光導波路基板1は、エッチングストップ部材(エッチングストップ層2及び支持基板6からなる部材)と、エッチングストップ部材上に形成され、エッチングストップ部材まで達する溝部3を有するシリコン基板4と、溝部3に形成された光伝播部(具体的には光導波路又は光ファイバ)5と、を備える。エッチングストップ部材としてエッチング機能を備える基板(具体的にはガラス基板等)を用いれば、当該基板はストップエッチング層としての機能と支持基板としての機能を兼ねるため単一の部材とすることができる。
【0016】
エッチングストップ層2は、光導波路基板1に対するエッチングを停止させる機能を有する。そのため、エッチングストップ層2は、シリコン基板4をエッチングするエッチャントによって腐食されない物質であれば如何なるものでもよく、例えば、窒化珪素、酸化珪素等により構成することができる。エッチングストップ層2が窒化珪素からなる場合、窒化珪素は特に耐アルカリ性が強いため、深さ方向における精密加工が良好となる。また、エッチングストップ層2が酸化珪素からなる場合、酸化珪素は屈折率が低いのでエッチングストップ層2を光導波路5の下部クラッドとしてそのまま用いることができる。そのため、コアからの光の漏れを良好に抑制することができ、光学特性に優れた光導波路基板とすることができる。
【0017】
また、エッチングストップ層2を金(Au)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)等の金属により構成してもよい。これらの金属ではスパッタ等によりエッチングストップ層2を容易に形成することができる。したがって、支持基板に形成された金属膜とシリコン基板に形成された金属膜とを接触した状態で熱圧着等により接合して複合基板7を作製できる。
【0018】
光伝播部として光導波路5を形成した場合、光導波路5は、エポキシ系感光性樹脂、又はアクリル系感光性樹脂から構成されることが好ましい。光導波路5は、図1Bに示すように、その上面が、光導波路基板1の上面と一致するように形成することが好ましい。光導波路5の上面が光導波路基板1の上面より突出している場合、光導波路5に上方向から圧力が加わりこれにより光導波路5が変形する可能性がある。しかしながら、光導波路5の上面が光導波路基板1の上面と一致するように形成することにより、光導波路5の上面に押圧力が掛かることはなく光導波路5の変形が抑えられ光学特性の低下を抑制することができる。
【0019】
光導波路5の長手方向に直交する光導波路断面における高さは、使用する光学素子の受発光面の大きさに対応させて適宜設定することができるが、20μm〜200μmであることが好ましい。さらに好ましくは35〜45μmであり、最も好ましくは約40μmである。
【0020】
また、当該断面における幅についても、20μm〜200μmであることが好ましい。さらに好ましくは35μm〜45μmであり、最も好ましくは約40μmである。
【0021】
また、溝部3は、その長手方向に対し直交する断面において図1Bに示すような逆台形状を有する。溝部3の開口側の幅長は、光導波路の高さや幅長等により最適値が変わるが、{110}面の{100}面に対する傾きが約45°であるので、溝部の幅長の最小値は、導波路の幅長+溝深さ×2となる。また、溝部の幅長の最大値は、上記最小値に100μmを加えた程度に設定することが好ましい。溝部3の深さは、20μm〜200μmであることが好ましく、さらに好ましくは35〜45μmであり、最も好ましくは約40μmである。上述したように溝部3の深さは、光導波路5の高さと一致させることが肝要である。
【0022】
また、溝部3の端部には、45°傾斜された端面の上に金属膜が形成されることによりミラー面17が形成されている。これにより、光の反射率を高めることができる。ミラー面17の上部には、例えば、受光素子又は発光素子等の光学素子が設けられ、発光素子の場合は、これから真下に発光された光をミラー面17で反射させて光導波路5を介して外部に放出する。一方、受光素子の場合は、光導波路5に入射された光をミラー面17で反射させて当該光を受光素子で受け取る。
【0023】
また、図2に示すように、光伝播部として光ファイバ5を用いこれを溝部3に固定してもよい。光ファイバ5としては如何なるものを使用しても良く、石英ファイバ、プラスチックファイバ、PCF等が挙げられる。光ファイバ5は、図2に示すように、その最上部が、光導波路基板の上面と一致するように配置することが好ましい。これにより、光ファイバ5のz方向の位置ずれを抑制し、上記同様、光学特性の低下を抑制することができる。
【0024】
第1の実施の形態に係る光導波路基板1によれば、当該光導波路基板1はエッチングストップ層2を有するため、光導波路基板1に形成される溝部3の高さのバラツキが少なく精度良く調整されたものとすることができる。そのため、第1の実施の形態に係る光導波路基板1では、光導波路5の光軸を精度良く調整することができ、光損失を抑制することができる。エッチングストップ層2として屈折率が低いものを用いればエッチングストップ層2を光伝播部(光導波路)5の下部クラッドとしてそのまま用いることができるため、光の漏れを良好に抑制することができ、光学特性に優れた光導波路基板1とすることができる。
【0025】
[第2の実施の形態]
図3A〜3Lは、本発明の第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法の工程図を示している。図3Aに示すように、本発明の第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法では、支持基板6の上にエッチングストップ層2を形成しエッチングストップ層2の上にさらにシリコン基板4を形成して複合基板7を作製する(工程1)。そして、図3Bに示すように、シリコン基板4の表面に所定のパターンを有する第1マスク8を形成する(工程2)。その後、図3Cに示すように、シリコン基板4に異方性エッチングを施して上記エッチングストップ層2までシリコン基板4を腐食させ、さらに所望の幅となるまでエッチングを継続する。これにより、所望の深さ及び幅の溝部がシリコン基板4に形成される(工程3)。その後、図3Dに示すように、マスク層を除去し(工程4)、図3Eに示すように溝部3の表面9及びシリコン基板4の表面10に絶縁膜11を形成した後(工程5)、図3F〜3Iに示すように、溝部3内に光伝播部5を形成する(工程6)。第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法では、光伝播部として光導波路5を形成する。具体的には、溝部3内に光伝播部5を形成するため、図3Fに示すように溝部3内に感光性樹脂12を充填し(工程6−1)、図3Gに示すように感光性樹脂12およびシリコン基板4を平板でプレスし、感光性樹脂面を平坦化し、かつシリコン基板4の上面を面出しし(工程6−2)、図3Hに示すように、第2のマスク13を施した状態で感光性樹脂12に所定の波長の光を照射して、感光性樹脂12を光硬化させる(工程6−3)。その後、図3Iに示すように未硬化の樹脂を除去し(工程6−4)、さらには、図3Jに示すように、未硬化の樹脂を除去した部分にクラッドとなる層を形成する(工程6−5)。
以下各工程について工程図を用いながら説明する。
【0026】
1.複合基板作製工程(工程1)
まず、図3Aに示すように、支持基板6の上にエッチングストップ層2を形成してエッチングストップ部材を作製する。支持基板6としては、その面にエッチングストップ層2を形成可能であれば如何なるものを用いても良く、具体的には、シリコン基板等が挙げられる。エッチングストップ部材としてエッチング機能を備える基板(具体的にはガラス基板等)を用いれば、当該基板はストップエッチング層としての機能と支持基板としての機能を兼ねるため単一の部材とすることができる。
【0027】
エッチングストップ層2の膜厚は、0.2μm〜5.0μmであることが好ましい。エッチャントによるエッチングストップ層2への腐食を考慮すると、エッチングストップ層2にピンホールが発生しないように、当該膜厚は0.2μm以上であることが好ましい。また、製造コストや応力の発生を考慮すると、5.0μm以下であることが好ましい。
【0028】
エッチングストップ層2は、エッチャントに対して腐食されない物質であれば如何なるものでもよく、例えば、窒化珪素、酸化珪素等により構成することができる。エッチングストップ層2が窒化珪素からなる場合、窒化珪素は特に耐アルカリ性が強いため、深さ方向における精密加工が良好となる。また、エッチングストップ層2が酸化珪素からなる場合、酸化珪素は屈折率が低いのでエッチングストップ層2を導波路の下部クラッドとしてそのまま用いることができる。また、エッチングストップ層2を金(Au)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)等の金属により構成してもよく、これらの金属ではスパッタ等によりエッチングストップ層2を容易に形成することができる。
【0029】
支持基板6へのエッチングストップ層2の形成方法としては、エッチングストップ層2として酸化物、具体的には酸化珪素を用いる場合は、例えば、熱酸化、火炎堆積法、化学気相堆積法、ゾル−ゲル法等を用いることができる。エッチングストップ層2として窒化物、具体的には窒化珪素を用いる場合は、支持基板6へのエッチングストップ層2の形成方法としては、プラズマ窒化法、ガス窒化法等を用いることができる。さらに、エッチングストップ層2として、金属膜、具体的には金(Au)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)等を用いる場合は、支持基板6へのエッチングストップ層2の形成方法としては、スパッタ法、蒸着、火炎堆積法、化学気相堆積法等を用いることができる。
【0030】
つづいて、エッチングストップ部材(エッチングストップ層2及び支持基板6)の上にシリコン基板4を形成し、複合基板7とする。
【0031】
支持基板6としてシリコン、エッチングストップ層2として酸化珪素を用いる場合は、図3Mに示すように支持基板6であるシリコンの一方の面を例えば、熱酸化、火炎堆積法、化学気相堆積法、ゾル−ゲル法等により酸化させ酸化珪素を形成してこれをエッチングストップ層2とし、エッチングストップ層2である酸化珪素がシリコン基板4に接するようにこれらを配置してエッチングストップ層2とシリコン基板4とを陽極酸化により接合してもよい。支持基板6、エッチングストップ層2の材料は上記のものに限られず、シリコン基板4及び/又は支持基板6の少なくとも一方の面に酸化膜が形成可能であり、かつシリコン基板4及び支持基板6が導電性を有しこれにより陽極酸化が可能であるものであれば如何なるものであってもよい。また、エッチングストップ層2として金(Au)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)等の金属膜を用いる場合、図3Nに示すように支持基板6及びシリコン基板4の一方の面にスパッタ法、蒸着、火炎堆積法、化学気相堆積法等により上記金属膜を形成し、当該金属膜同士を圧着、熱圧着等により接合してもよい。これにより、支持基板6にエッチングストップ層2である金属膜が形成されその上にシリコン基板4が形成された複合基板7を作製することができる。支持基板6を構成する物質としては、スパッタ法、蒸着、火炎堆積法、化学気相堆積法等によりその上に金属膜を形成可能なものであれば如何なるものであってもよい。
【0032】
シリコン基板4としては所望の厚みのものをエッチングストップ層2上に接合若しくは成長させて所望の厚さのシリコン基板4を有する複合基板7を作製してもよい。また、所望の厚さより厚いシリコン基板4を接合若しくは成長させた後、研磨等により所望の厚さとなるまで厚さを減少させて所望の厚さのシリコン基板4を有する複合基板7を作製してもよい。当該シリコン基板4の厚さは、光伝播部(光導波路若しくは光ファイバ)5の径と一致するように選択することが肝要である。これにより、上述のように、光導波路若しくは光ファイバの変形の可能性を排除することができる。
【0033】
2.第1マスク形成工程(工程2)
つづいて、図3Bに示すように、シリコン基板4の上に、所望のパターンを有する第1マスク層8を形成する。当該マスク層8の材料として酸化物、具体的には酸化珪素を用いる場合は、例えば、熱酸化、火炎堆積法、化学気相堆積法、ゾル−ゲル法等を用いることができる。マスク層8の材料として窒化物、具体的には窒化珪素を用いる場合は、プラズマ窒化法、ガス窒化法等を用いることができる。また耐アルカリ性を有したレジスト材料等を用いてもよい。
パターンの幅は、エッチャントの種類、その濃度、その温度、異方性エッチングの速度、シリコン基板4の膜厚等を考慮して決定する必要がある。パターンの幅が狭すぎると溝部3がエッチングストップ層2に達しない可能性があるので、溝部3がエッチングストップ層2に達するようにパターンの幅を設定することが好ましい。また、光素子に電気的に接続されるボンディングパッド18が溝部3に近接してこの両側に設けられるので、当該パッド18の間隔を考慮してパターンの幅を設定する必要がある。パターンの幅が広すぎると、溝部3がパッドの設置位置まで浸食してしまうので、当該位置を浸食しないようにパターンの幅を設定することが好ましい。
【0034】
3.異方性エッチングによる溝部形成工程(工程3)
つづいて、図3Cに示すように、シリコン基板4に異方性エッチングを施してエッチングストップ層2までシリコン基板4を腐食させ当該シリコン基板4に溝部3を形成する。エッチャントとしては、例えば、水酸化カリウム(KOH)にアルコールを添加したもの、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)に界面活性剤を添加したもの等を用いることができる。例えば、エッチャントが濃度15〜25%のKOHにアルコールを添加したものであり、その温度が70〜90℃のとき、深さ40μmに達するためには30〜70minを要する。この場合、溝幅の広がる速度は0.2〜0.5μm/minである。
【0035】
4.第1マスク除去工程(工程4)
その後、図3Dに示すように、シリコン基板4上の第1マスク8を除去する。第1マスク8の除去には、一般的に用いられている方法を用いることができる。例示すれば、マスク8の除去方法としては、ドライエッチング、ウェットエッチング等が挙げられる。例えば、マスク層に酸化珪素を用いた場合では、フッ酸によるウェットエッチングを施すことで、当該マスク8のみを選択的に良好に除去することができる。これにより、上部に溝部3を有する複合基板7を作製することができる。
【0036】
5.絶縁膜形成及びミラー面の形成工程(工程5)
つづいて、図3Eに示すように溝部3の表面9及びシリコン基板4の表面10に絶縁膜11を形成する(工程5)。絶縁膜11としては、酸化珪素、窒化珪素を用いることができる。好ましくは酸化珪素である。これは屈折率が低いため、導波路の下部クラッドとして有用であるからである。絶縁膜11の形成方法としては、通常用いられる周知の方法を用いることができるが、例示すれば、熱酸化、火炎堆積法、化学気相堆積法、ゾル−ゲル法等が挙げられる。
【0037】
絶縁膜11を形成した後、溝部3の端部にミラー面17を形成する。ミラー面17としては、例えば金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)等の金属膜を溝部の端部に形成することにより形成することができる。当該形成方法としては、スパッタ法、蒸着、火炎堆積法、化学気相堆積法等が挙げられる。上記方法によれば、溝部3の端部にミラー面17を良好に形成することができる。また、溝部3の端部は光導波路5の端部と一部共通することから、後述のように光導波路5を形成すれば、光導波路5の端部にミラー面17を形成することができる。
【0038】
6.光伝播部形成工程(工程6)
溝部3内に光伝播部5を形成する(工程6)。具体的には、まず図3Fに示すように溝部内に感光性樹脂12を充填する(工程6−1)。感光性樹脂12としては、エポキシ、アクリル、フッ素化樹脂、ポリイミド等を用いることができる。
【0039】
つづいて、図3Gに示すように感光性樹脂12およびシリコン基板4を平板でプレスし、感光性樹脂面を平坦化し、かつシリコン基板4の上面の面出しを行う(工程6−2)。ここで、平坦化とは、中心付近が突出した感光性樹脂12の上面を平坦にすることをいい、シリコン基板面の面出しとは、シリコン基板4を覆った感光性樹脂12を平板でプレスすることによりこれを取り除いてシリコン基板4の上面を露出させることをいう。
【0040】
つづいて、図3Hに示すように所望のパターンを有する第2マスク13を配置し、第2マスク13の上から所定の波長の光を照射して、第2マスク13のパターンの開口部14を介して感光性樹脂12に光を照射し、感光性樹脂12を光硬化させる(工程6−3)。第2マスク13は、シリコン基板4の上部に設けられた溝部3の略中心付近に開口部14が延在して配置されるようなパターンを有し、溝部3に充填された感光性樹脂12を光硬化させることにより、溝部3の略中心に延在して光導波路5を形成することができる。例えば、感光性樹脂12として、エポキシ系のSU−8(マイクロケム社)を用いる場合は、当該感光性樹脂12に対して照射される光の波長は350nm以下であることが好ましい。また、感光性樹脂12として、アクリル系のTHB151(JSR社)を用いる場合は、当該波長は300nm〜500nmであることが好ましい。より好ましくは365nm〜436nmである。
【0041】
つづいて、図3Iに示すように未硬化の樹脂を除去する(工程6−4)。未硬化の樹脂の除去は、薬液で現像することにより行う。
【0042】
その後、図3Jに示すように未硬化の樹脂を除去した部分にクラッドとなる層15を形成しても良い。これにより、コアをクラッドとなる層15により良好に固定することができるとともに、クラッドとなる層15により光の漏れを良好に抑制することができる(工程6−5)。
【0043】
第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法によれば、エッチングストップ層2を用いることにより、溝部3の開口幅の管理を行うだけで精度の良好な加工形状を得ることができる。そのため、光軸のずれが抑制された高精密な光導波路基板を提供することができる。
【0044】
[第3の実施の形態]
図3K、3Lは、本発明の第3の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法であって、光伝播部として光ファイバ5を形成する方法に関する。第3の実施の形態では、光伝播部として光導波路ではなく光ファイバを設ける点で、光導波路を形成する第2の実施の形態と異なる。
【0045】
当該実施の形態に係る光導波路基板の作製方法では、工程1〜5については、第2の実施の形態と同様であるが光伝播部形成工程が異なる。
【0046】
第3の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法では、図3Kに示すように、溝部3内に光伝播部を形成するため、溝部3に光ファイバ5を配置し、図3Lに示すように光ファイバ5を接着材16により固定する。接着材16としては、光硬化性、若しくは熱硬化性の光学接着剤等を用いることができる。接着材16は、溝部3を満たすように充填することが好ましい。これにより、光ファイバ5を強固に固定することができるとともに、接着材16がクラッドの役割を果たし光の漏れを抑制することができる。
【0047】
当該第3の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法によれば、エッチングストップ層2を用いることにより、溝部3の開口幅の管理を行うだけで精度の良い加工形状を得ることができ、光軸のずれが抑制された高精密な光導波路基板1を提供することができるとともに、光ファイバ5を溝部3に配置しこれを接着材16で固定するだけで光伝播部5を作製することができるため、第2の実施の形態に係る光導波路基板の作製方法より簡易に光導波路基板1を作製することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 光導波路基板
2 エッチングストップ層
3 溝部
4 シリコン基板
5 光伝播部(光導波路又は光ファイバ)
6 支持基板
7 複合基板
8 第1マスク
9 溝部の表面
10 シリコン基板の表面
11 絶縁膜
12 感光性樹脂
13 第2マスク
14 第2マスクのパターンの開口部
15 クラッド層
16 接着材
17 ミラー面
18 ボンディングパッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子と、該光学素子に光学的に接続された光導波路と、を備える光導波路基板を作製する方法であって、
エッチング可能な基板と、該基板の一方の面に設けられたエッチングストップ部材と、を有する複合基板を準備する工程と、
上記エッチング可能な基板上に、所望のパターンを有するマスクを形成する工程と、
上記エッチング可能な基板に異方性エッチングを施して上記エッチングストップ部材まで上記基板を腐食させ、所望の幅となった時点でエッチングを停止して、当該基板に溝部を形成する工程と、
上記溝部内に光伝播部を形成する工程と、
を備えることを特徴とする光導波路基板の製造方法。
【請求項2】
上記エッチング可能な基板の膜厚を、上記光伝播部の厚さと実質的に同一としたことを特徴とする請求項1記載の光導波路基板の製造方法。
【請求項3】
上記エッチングストップ部材が、支持基板にエッチングストップ層を形成したもの若しくはエッチングストップ機能を備える基板であることを特徴とする請求項1又は2記載の光導波路基板の製造方法。
【請求項4】
上記光伝播部を形成する工程が、
上記溝部内に感光性樹脂を充填する工程と、
上記感光性樹脂および上記エッチング可能な基板を平板でプレスし、上記感光性樹脂面を平坦化し、かつ上記基板面を面出しする工程と、
上記基板上に、上記溝部のパターン形状と対応した所望のパターンを有する第2のマスクを配置する工程と、
上記感光性樹脂に所定の波長の光を照射して、上記感光性樹脂を光硬化させる工程と、
未硬化の樹脂を除去する工程と、
を含んでなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光導波路基板の製造方法。
【請求項5】
上記光伝播部を形成する工程が、上記溝部に光ファイバを固定する工程を含んでなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光導波路基板の製造方法。
【請求項6】
上記エッチングストップ部材が、窒化珪素からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光導波路基板の製造方法。
【請求項7】
上記エッチングストップ部材が、酸化珪素からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光導波路基板の製造方法。
【請求項8】
上記エッチングストップ部材が、金、クロム、チタン、ニッケルからなる群から選択される少なくとも1つからなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光導波路基板の製造方法。
【請求項9】
エッチングストップ部材と、
上記エッチングストップ部材上に形成され、上記エッチングストップ部材まで達する溝部を有する基板と、
上記溝部内に形成された光伝播部と、
上記基板上に設けられ、上記光伝播部と光学的に接続された光学素子と、を備えることを特徴とする光導波路基板。
【請求項10】
上記エッチングストップ部材が、支持基板にエッチングストップ層を形成したもの若しくはエッチングストップ機能を備える基板であることを特徴とする請求項9記載の光導波路基板。
【請求項11】
上記エッチングストップ部材が、窒化珪素からなることを特徴とする請求項9又は10記載の光導波路基板。
【請求項12】
上記エッチングストップ部材が、酸化珪素からなることを特徴とする請求項9又は10記載の光導波路基板。
【請求項13】
上記エッチングストップ部材が、金、クロム、チタン、ニッケルからなる群から選択される少なくとも1つからなることを特徴とする請求項9又は10記載の光導波路基板。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図3H】
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【図3I】
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【図3J】
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【図3K】
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【図3L】
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【図3M】
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【図3N】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2010−266662(P2010−266662A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117583(P2009−117583)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】