説明

光導波路、光導波路作製方法、および光モジュール

【課題】モニタ光が安定に取り出せると同時に外部出力光の損失を最小限に抑えられる光導波路、前記光導波路の作製方法、および前記光導波路を有する光モジュールの提供。
【解決手段】コア10と、前記コアを囲繞するように形成されたクラッド11とを備え、コア10は、VCSEL3からの光を外部に出力する主コア10Aと、主コアを透過する光の一部を、VCSEL3の出力をモニタするためのモニタ用光ダイオード4に伝達する副コア10Bとを有し、主コア10Aは、法線が、主コア10Aの光軸Aに対して2.5〜30度の角度をなし、且つ相対する側壁面13A、13Bが互いに平行に形成された溝13によって分断されているとともに、副コア10Aは、クラッド11によって主コア10Aから分離され、主コア10Aを透過する光が溝13で反射して生じるフレネル反射光が導入される位置に形成されている光導波路。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路、光導波路作製方法、および光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子やLEDなどの発光素子を用いた光モジュールにおいては、温度変化による光出力ドリフトを防ぐために、発光素子からの出力光の一部を受光素子で受光して発光素子の光出力をモニタし、発光素子の光出力が一定になるようにフィードバック制御を行うことが一般的に行われている。
【0003】
半導体レーザ素子として従来から一般的に用いられてきた端面発光型レーザ素子は、信号光を出力する側の端面だけでなく、反対側の端面からも光を出射するから、前記反対側の端面からモニタ光を容易に取り出すことができる。
【0004】
しかしながら、近年、低価格型、低消費電力型の素子として注目を集めている面発光型レーザ素子(VCSEL)においては、レーザ光は発光面のみから出射されるから、端面発光型レーザ素子に比較してモニタ光を取り出すのが困難である。そこで、VCSELを用いた光モジュールにおいては、モニタ光を取り出すための構造をパッケージ内部に設けることが検討された。
【0005】
たとえば、カンパッケージの内部にVCSELとモニタ用受光素子とを収容するとともに、前記カンパッケージにおいてVCSELからのレーザ光を出射するキャップガラスをVCSELの光軸に対して斜めになるように設け、VCSELからのレーザ光の一部を前記キャップガラスで反射させてモニタ用受光素子でモニタする半導体レーザ装置が検討された(特許文献1)。
【0006】
前記半導体レーザ装置のような光モジュールにおいては、前述のように斜めに配設されたキャップガラスによって反射した反射光をモニタしているだけであるから、反射光の光路が拘束されていない。したがって、モニタ光が効率的に利用されない故に、外部に出力される信号光の強度が大幅に、たとえば3dB以上減衰する。
【0007】
従来のVCSELでは、消費電力および光出力が大きかったので、出力光が目に入っても目を損傷させないようにするために出力光を減衰させる必要があった。したがって、光モジュールにおける出力光の減衰は余り問題視されることはなかった。
【0008】
しかしながら、近年、VCSELの改良が進み、たとえば波長850nmのマルチモードVCSELにおいて3mAの電流を流したときに、数Gbpsの変調を行い、1mWの光出力が得られるようになった。光出力が1mWであれば、JIS C 6802で規定する安全基準を満たすから、特に出力光を減衰処理させる必要はない。
【0009】
したがって、モニタ光を取り出す際の外部出力光の減衰を極力抑えることにより、光モジュール全体として電力消費量を低減させることが検討された。
【0010】
このような光モジュールとしては、たとえば、特許文献2に記載の導波路型光モジュールのように、VCSELのような発光素子と、コアと前記コアを囲繞するクラッドと、前記発光素子からの信号光を導出する導波路とを有し、前記導波路には、コアの光軸に対して斜めであってしかも前記コアに達する切り込み部が形成され、前記導波路の近傍に、前記切り込み部で信号光を反射させてモニタするものがある(特許文献2)。
【0011】
また、面型光素子からの信号光を導出する光導波路を分岐させて前記信号光の一部をモニタ用の受光素子に導く形態の光モジュールもある(特許文献3)。
【0012】
更に、特許文献4に記載の光導波路モジュールのように、平面導波路型の光導波路を有する平面導波路型回路に、前記光導波路の所定部位を横切るように、前記光導波路の光軸に直交する垂直軸に対して所定の傾き角度を有する溝を形成し、前記溝に反射フィルタを挿入したものもある。前記光モジュールにおいては、光導波路を伝達される信号光は、前記反射フィルタで所定の反射率で反射されてモニタ用の光検出器によって検出される(特許文献4)。
【0013】
加えて、特許文献5に記載の半導体装置のように、半導体レーザから発生したレーザ光を変調器側へ導波する主導波路から副導波路を分岐させ、前記班相対レーザから発生したレーザ光の光量をモニタする光検出素子を前記副導波路に設けたものもある(特許文献5)。
【特許文献1】特開平05−327122号公報
【特許文献2】特開2006−017885号公報
【特許文献3】特開2006−201313号公報
【特許文献4】特開2002−182051号公報
【特許文献5】特開平11−330624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、これらの光モジュールには以下のような問題がある。たとえば特許文献2に記載の光モジュールにおいては、信号光は光導波路をマルチモードで伝達される故に、VCSELの出力によって信号光のモードが変化し、VCSELの出力とモニタ光量との関係が非線形になることがある。そのため、信号光を正確にモニタしようとすると、前記非線形性を補正する必要がある。
【0015】
特許文献3および5に記載の光モジュールにおいては、導波路を分岐させてモニタ光を取り出しているから、導波路が分岐する部分における分岐部欠陥で損失が生じる。
【0016】
また、特許文献4に記載の光モジュールには、反射フィルタで信号光が反射されて生じたモニタ光を光検出器に直接導くための導波路がないから、モニタ光の減衰が大きいという問題がある。
【0017】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたものであり、モニタ光が安定に取り出せると同時に外部出力光の損失を最小限に抑えられる光導波路、前記光導波路の作製方法、および前記光導波路を有する光モジュールの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1に記載の発明は、コアと、前記コアを囲繞するように形成されたクラッドとを備え、前記コアは、発光素子からの光を外部に出力する主コアと、主コアを透過する光の一部を、前記発光素子の出力をモニタするためのモニタ用受光素子に伝達する副コアとを有し、前記主コアは、法線が、主コアの光軸に対して2.5〜30度の角度をなし、且つ相対する側壁面が互いに平行に形成された溝によって分断されているとともに、前記副コアが、前記クラッドによって前記主コアから分離され、前記主コアを透過する光が前記溝で反射して生じるフレネル反射光が導入される位置に形成されている光導波路に関する。
【0019】
請求項1に記載の光導波路においては、主コアは空気に満たされた溝によって分断されているから、前記主コアに導入された光の一部が主コアと溝との界面でフレネル反射されて副コアに導入される。したがって、モニタ用受光素子では、前記界面での反射で生じたフレネル反射光を検出する。ここで、フレネル反射光は、主コアと溝との発光素子側の界面で生じた反射光であり、主コアと溝との発光素子側の界面で生じた一次反射光と、主コアと溝との外部出力側の界面で生じた二次反射光とに分けられる。
【0020】
フレネル反射光と発光素子から出射した光との強度比は、主コアを透過する光のモードに依らず、一定であるから、主コアの断面における光強度分布が変化しても、副コアを透過する光の強度と、発光素子から出射した光の強度との比率は一定である。
【0021】
また、前記溝は、法線が、主コアの光軸に対して2.5〜30度の角度をなすように形成されているから、前記主コアに導入された光のうち、前記界面でのフレネル反射により損失するものの割合を最小限に抑えることができる。
【0022】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光導波路において、前記副コアの反射光が導入される側の端部が前記溝の側壁面に露出しているものに関する。
【0023】
請求項2に記載の光導波路においては、副コアの一次反射光または二次反射光が導入される側の端部が溝の側壁面に露出しているから、主コアと溝との界面で生じたフレネル反射光は、前記端部から直接に副コアに導入される。
【0024】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の光導波路において、前記溝の幅は1〜50μmであるものに関する。
【0025】
請求項3に記載の光導波路においては、溝の幅が1μm以上あるから、前期光導波路を有する光モジュールにおいて温度が上昇しても、溝の対抗面が互いに当接することが防止される。また、前記溝の幅が50μm以下であるから、溝内を通過する光の自由伝搬状態における損失を無視できる程度に抑えることができる。
【0026】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載の光導波路において、前記主コアは、前記溝を透過する際に光が屈折する方向に沿って溝を挟んでコア中心軸がずらされて配置されているとともに、前記溝の法線が前記溝の中心軸となす角度をθ、前記主コアの屈折角をn、前記溝の幅をs、前記コア中心軸のずれの大きさをxとすると、ずれの大きさxが、以下の式
x=s×sin(φ−θ)/cosφ
但し、φ=sin−1(n×sinθ)
で設定されるものに関する。
【0027】
請求項4に記載の光導波路においては、主コアの光軸、即ちコア中心軸が、溝を挟んで光の屈折方向に沿ってずらされて配置されているとともに、前記ずれの大きさxを上のように設定することにより、コア軸のずれの大きさは、発光素子からの光のうち、主コアの光軸に対して平行な成分が前記溝で屈折することによって生じる光軸のずれの大きさに等しくなる。
【0028】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載の光導波路において、前記主コアのうち、溝を挟んで発光素子側に位置する部分の幅をd1、外部出力側に位置する部分の幅をd2とし、前記溝の法線が前記溝の中心線となす角度をθ、前記主コアと溝との界面における光の屈折角をφ、前記溝の幅をsとすると、前記幅d2は、
d2=d1+s×sin(φ−θ)/cosθ
但し、φ=sin−1(n×sinθ)

となるように設定されているものに関する。
【0029】
請求項5に記載の光導波路においては、主コアのうち、溝を挟んで外部出力側に位置する部分が、発光素子側に位置する部分に比較して、溝を挟んだ光路のずれの大きさだけ幅が広く形成されている。
【0030】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5の何れか1項に記載の光導波路において、前記副コアの幅は、前記モニタ用受光素子の受光径よりも小さいものに関する。
【0031】
請求項6に記載の光導波路においては、副コアの幅が、モニタ用受光素子の受光径よりも小さいから、副コアを透過した光をモニタ用受光素子の受光面に集光させるためのレンズなどの光学部品が不要になる。
【0032】
請求項7に記載の発明は、発光素子からの光を外部に出力する主コアと、主コアを透過する光の一部を、前記発光素子の出力をモニタするためのモニタ用受光素子に伝達する副コアとを形成するコア形成工程と、前記コア形成工程で形成された主コアを分断する溝を形成する溝形成工程とを有し、前記溝形成工程においては、溝の法線が主コアの光軸に対して2.5〜30度の角度を有し、前記溝の相対する側壁面が互いに平行になるとともに、前記主コアと副コアとが互いに分離されるように前記溝を形成することを特徴とする光導波路作製方法に関する。
【0033】
請求項7に記載の光導波路作製方法によれば、主コアと副コアと前記主コアおよび副コアを囲繞するクラッドとを形成したのち、溝を形成し、主コアを分断すると同時に主コアと副コアとを分断することにより、請求項1に記載の光導波路を作製できる。
【0034】
請求項8に記載の発明は、発光素子と、前記発光素子からの光が主コアに導入されるように配設された請求項1〜6の何れか1項に記載の導波路と、前記導波路の有する副コアを伝達した反射光を受光して前記発光素子の出力をモニタするモニタ用受光素子とを備えることを特徴とする光モジュールに関する。
【0035】
請求項8に記載の光モジュールにおいては、発光素子から出射した光は主コアに入射する。主コアに入射した光の大部分は、溝を透過して主コアの外部出力側の部分に入社するが、前記光の一部は、主コアと溝との界面で反射して副コアに入射する。副コアに入射した光は、副コアを伝達してモニタ用受光素子で受光される。
【0036】
ここで、前記界面で反射した反射光と発光素子から出射した光との強度比は、主コアを透過する光に極端に高次モードが増加しない限りは、発光素子の出力に依らず、一定であるから、主コアの断面における光強度分布が変化しても、モニタ用受光素子で検出される光の強度と、発光素子から出射した光の強度との比率は一定である。
【0037】
また、請求項1でも述べたように、光導波路には、法線が主コアの光軸に対して2.5〜30度の角度をなすように溝が形成されているから、主コアに導入された光のうち、主コアと溝との界面でのフレネル反射により損失するものの割合を最小限に抑えることができる。
【発明の効果】
【0038】
請求項1に記載の発明によれば、上述したように副コアを透過するモニタ光の強度と、発光素子から出射した光の強度との比率は一定であるから、発光素子の出力が変動して主コア内部の光強度分布が変化しても、発光素子の光出力とモニタ光の強度との比例関係は一定に保持される。したがって、前記モニタ光を利用して発光素子の出力をフィードバック制御することにより、発光素子の光出力が大きな場合も小さな場合も、発光素子の光出力を高精度に制御できる。
【0039】
また、主コアと溝との界面でのフレネル反射による光の損失を最小限に抑えることができるから、前記光導波路を有する光モジュールにおいては、発光素子として光出力の小さなものを使用できる。
【0040】
請求項2に記載の発明によれば、主コアと溝との界面で生じたフレネル反射光は、前記端部から直接に副コアに導入されるから、前記フレネル反射光をモニタする際の損失を最小限に抑えることができる。
【0041】
請求項3に記載の発明によれば、溝内を通過する光の自由伝搬状態における損失を最小限に抑えることができるから、発光素子からの光を外部に出射するときの損失を最小限に抑えることができる。また、光導波路が高温になっても主コアと溝との界面ではフレネル反射光が生じるから、発光素子のモニタリングおよびフィードバック制御を安定に行うことができる。
【0042】
請求項4および5に記載の発明によれば、コア軸のずれの大きさは、発光素子からの光のうち、主コアの光軸に対して平行な成分が前記溝で屈折することによって生じる光軸のずれの大きさに等しくなるように設定されているから、前記光が溝を透過することによって生じる損失を最小限に抑えることができる。
【0043】
請求項6の発明によれば、上述のように副コアを透過したモニタ光をモニタ用受光素子に集光させるための光学部品が不要になるから、請求項1の導波路に比較してさらに安価に光モジュールを構成できる。
【0044】
請求項7の発明によれば、たとえば従来と同様の方法でコアとクラッドとからなる光導波路を形成した後、たとえばダイシングソーなどによって溝を形成すればよいから、請求項1〜6に記載の光導波路を安価に製造できる。
【0045】
請求項8の発明によれば、請求項1のところで述べたのと同様に、発光素子の光出力とモニタ光の強度との比例関係は一定に保持されるから、前記モニタ光の強度に基いて発光素子の光出力を高精度でフィードバック制御できる。
【0046】
また、前記請求項に係る光モジュールの備える光導波路においては、主コアと溝との界面での反射による光の損失を最小限に抑えることができるから、発光素子からの光が外部に出力されるときの損失を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
1.実施形態1
以下、本発明に係る光導波路および光モジュールの一例について説明する。
【0048】
[構成]
実施形態1に係る光モジュール100は、図1に示すように、本発明の発光素子の一例であるVCSEL3と、モニタ用受光素子の一例であってVCSEL3の光出力をモニタするモニタ用光ダイオード4と、VCSEL3からの出力光を外部出力側に導光するとともに、その一部をモニタ用光ダイオード4側に分岐させる光導波路1と、VCSEL3、モニタ用光ダイオード4、光導波路1を支持する基板5と、基板5に設けられ、光導波路1、VCSEL3、モニタ用光ダイオード4を内部に収容する保護キャップ7と、基板5における光導波路1、VCSEL3、モニタ用光ダイオード4、保護キャップ7が設けられた側とは反対側の面から突出し、VCSEL3およびモニタ用光ダイオード4に接続されたピン状の端子6と、保護キャップ7の外側に被せられているとともに、VCSEL3からの出力光を外部に導出する光ファイバ(図示せず。)の一端が装着される光ファイバ接続孔8Aが形成された光ファイバ装着筒8とを備える。保護キャップ7には、VCSEL3から出射された出力光の透過を妨げないように頂面に開口部7Aが設けられている。光ファイバ装着筒8の内側には、光ファイバ接続孔8Aに挿着された光ファイバの一端にVCSEL3からの出力光を収束させるためのレンズ9が設けられている。
【0049】
図1〜図3に示すように、光導波路1は、板状の部材であってコア10とコア10を囲繞するクラッド11とからなる。コア10は、VCSEL3からの出力光を外部に向かって導出する主コア10Aと、VCSEL3からの出力光の一部をモニタ用光ダイオード4に向かって伝達する副コア10Bとからなる。
【0050】
図2および図3(B)に示すように、主コア10Aは、溝13によってVCSEL3側に位置するVCSEL側コア12Aと、外部出力側に位置する外部出力側コア12Bとに分断されている。なお、図3(A)は光導波路1の平面図であり、図3(B)は、図3(A)における平面A−Aに沿って光導波路1を切断した断面を示す。VCSEL側コア12Aと外部出力側コア12Bとは、互いに平行であるとともに、溝13を挟んで互いに食い違うように配設されている。VCSEL側コア12Aおよび外部出力側コア12Bの端面は、何れも溝13の側壁面13Aおよび13B上に露出している。なお、溝13の側壁面13A、13Bは互いに平行である。
【0051】
副コア10Bは、溝13のVCSEL側の側壁面13AにおいてVCSEL側コア12Aに隣接するように形成されている。
【0052】
図4に示すように、溝13の法線、即ち側壁面13A、13Bに直交する方向の直線をhとし、主コア10Aの光軸をAとし、法線hと光軸Aとのなす角度をθとすると、溝13は、角度θ=2.5〜30度になるように形成されている。角度θは、10〜25度が好ましく、特に15〜20度が好ましい。角度θが2.5度よりも小さいと、VCSEL3から出射され主コア10A(VCSEL側コア12A)を透過した出力光であって溝13の壁面13Aでフレネル反射した光のうち、VCSEL側コア12A内をそのままVCSEL3まで戻ってしまう成分が無視できないほど多くなり、VCSEL3の出力変動を招く問題がある。一方、角度θが30度を超えると、溝13を透過する間の減衰が無視できなくなり、主コア10A全体でも損失が3dBを超えるから好ましくない。
【0053】
また、溝13を挟んだ主コア10Aの光軸Aのずれの大きさ(即ち、VCSEL側コア12Aと外部出力側コア12Bとのコア中心軸のずれの大きさ)xは、溝13の幅をsとすると、光軸Aのずれの大きさxを、以下の式:
x=s×sin(φ−θ)/cosφ
但し、φ=sin−1(n×sinθ)
に従って設定されている。ここで、φは、光軸Aに平行な光線が溝13に入るときの屈折角を意味している。光軸Aのずれの大きさxをこのように設定することにより、溝13における前記出力光のずれの大きさと等しくなるように設定できるから、出力光が溝13を透過するときの損失を最小限に抑えることができる。
【0054】
溝13の幅は、1〜50μmの範囲に設定されている。
【0055】
主コア10A(VCSEL側コア12A)を透過した出力光が溝13で反射して生じるフレネル光のうち、前記出力光が溝13の手前側の側壁面13Aで反射して生じる一次反射光と、前記出力光が溝13を透過して反対側の側壁13Bで反射して生じる二次反射光とは、互いに平行であり、しかも、溝13の法線hを挟んで出力光とは反対側に同じ反射角θで反射する。したがって、前記フレネル反射光と主コア10Aの光軸Aとがなす角度は2θである。副コア10Bは、溝13の側壁面13Aにおける前記二次反射光が入射する位置に副コア10Bの光軸Bが主コア10Aの光軸Aと角度2θをなすように配設されている。しかも、副コア10Bは、モニタ用光ダイオード4に向かって主コア10Aとの間隔が広がるように形成されているとともに、溝13側の端部においてもクラッド11で主コア10Aとは隔てられている。したがって、副コア10Bは何れの部分においても主コア10Aとは繋がっていないから、主コア10Aおよび副コア10Bの全長に亘って出力光および二次反射光の閉じ込め構造が成立する。したがって、主コア10Aの外側に漏洩する出力光および副コア10Bの外側に漏洩する二次反射光に起因する損失の発生を防止できる。
【0056】
副コア10Bは、モニタ用光ダイオード4側の端面は、光導波路1の側面に露出しているとともに、前記断面の高さおよび幅がモニタ用光ダイオード4の受光面の高さ及び幅よりも夫々小さくなるように形成されている。これにより、副コア10Bから導出されたモニタ光をモニタ用光ダイオード4の受光面上に集光させるためのレンズなどの光学部品が不要になる。
【0057】
[作製手順]
以下、光導波路1の作製手順について説明する。
【0058】
先ず、図5(A)および(B)に示すように、クラッド11の一部を構成するクラッド用フィルム11Aを用意する。次に、図5(C)および(D)に示すように、クラッド用フィルム11Aの一方の面にコア10(主コア10A、副コア10B、および主コア10Aと副コア10Bとを接続する接続部10C)を形成する。なお、図5(D)は、図5(C)に示す作製中の光導波路1を主コア10Aに対して直交する平面B−Bに沿って切断した断面を示す。コア10の材質としてはクラッド11よりも屈折率の大きな光透過性樹脂が使用される。コア10を形成する方法としては、本発明者が既に特開2004−086144号に係る出願などで提案している液状のシリコーン系樹脂、たとえばポリジメチルシロキサンをコア10に対応する形状の凸部が形成された原盤に塗布し、光または熱などによってゴム状に硬化させて凹型を形成し、その凹型であるシリコーンゴム鋳型をクラッドとなるフィルムに密着させてできるコア形状のトンネルにコアとなる紫外線硬化樹脂、あるいは熱硬化樹脂を流し込んで硬化させ、シリコーンゴム鋳型を剥がす複製法が挙げられるが、その他にも透明な光硬化性樹脂を直接露光して硬化させる直接露光法、光酸化を利用するフォトブリーチング法、およびスタンパ法なども好適に用いることができる。
【0059】
コア10が形成されたら、図5(E)および(F)に示すように、コア10の上からクラッド形成用の光硬化性樹脂を流延して光硬化させ、クラッド層11Bを形成する。クラッド用フィルム11Aおよびクラッド層11Bによってクラッド11が構成される。なお、図5(F)は、図5(E)に示す作製中の光導波路1を主コア10Aに対して直交する平面B−Bに沿って切断した断面を示す。
【0060】
クラッド11が形成されたら、図6(A)および(B)に示すように、コア10の接続部10Cに沿ってダイシングソーによってハーフカットすることにより、溝13を形成する。なお、図6(B)は、図6(A)に示す作製中の光導波路1を主コア10Aに沿った平面C−Cに沿って切断した断面を示す。
【0061】
再度に、図6(C)に示すように破線Dに沿って周囲をダイシングソーで切断、除去して光導波路1が得られる。
【0062】
[作用]
以下、光モジュール100の作用について説明する。VCSEL3から出射された出力光は、光導波路1の主コア10AにおけるVCSEL側コア12Aに入射され、溝13に向かって伝搬される。そして、図4に示すように、出力光の大部分は、溝13の側壁面13Aで光軸Aに対して屈折角φで屈折して溝13の内部を透過し、再び屈折角φで反対方向に屈折して主コア10Aの外部出力側コア12Bに入射し、光軸Aに沿って伝搬され、保護キャップの開口部7Aからレンズ9を通って光ファイバ(図示せず)に向かって出射される。
【0063】
一方、出力光の一部は、VCSEL側コア12Aと溝13の側壁13Aとの界面および溝13の側壁13Bと外部出力側コア12Bとの界面で夫々角度2θで反射してフレネル反射光が生じる。ここで、副コア10Bは、光軸Bが主コア10Aの光軸Aに対して角度2θをなすとともに、側壁13Aにおいて前記フレネル反射光のうち二次反射光が入射する位置に設けられているから、一次反射光と二次反射光とのうち、二次反射光が副コア10Bに入射し、副コア10B内を伝搬してモニタ用光ダイオード4で検出される。
【0064】
2.実施形態2
以下、光モジュール100に使用される光導波路の別の例について説明する。
【0065】
図7に示すように、実施形態2に係る光導波路2においては、主コア10AのVCSEL側コア12Aと外部出力側コア12Bとの間に食い違いが設けられていない。そして、副コア10Bは、主コア10Aにおける一次反射光が出射する位置に、一次反射光の出射方向に対して平行に設けられている。そして、副コア10Bの一次反射光が入射する側の端面は、主コア10Aの側面に対して平行に仕上られているとともに、クラッド11によって主コア10Aの前記側面から隔てられている。
【0066】
以上の点を除いて光導波路2は、実施形態1に係る光導波路1と同様の構成を有している。
【実施例】
【0067】
1.実施例1
図5及び図6に示すプロセスに従って縦横1mm、厚さ0.5mm、コア径50μmの実施形態1に示す構成を有する光導波路を形成した。
【0068】
先ず、クラッド用フィルムとしてJSR株式会社製のアートン(登録商標)フィルム(屈折率1.51、厚さ188μm)を用い、複製法によってコア10を形成した。コア10には紫外線硬化樹脂(屈折率1.53)を用いるとともに、主コア10Aと副コア10Bとが繋がった状態でコア10を形成した。
【0069】
コア10を形成したら、その上からもう1枚のアートンフィルムを重ね、屈折率1.51の紫外線硬化樹脂で下側のアートンフィルムおよびコア10と貼り合わせてコア10がクラッド11内に埋包された埋め込み型導波路構造を形成した。
【0070】
次に、ダイシングソーを用い、前記埋め込み型導波路構造の主コア10Aと副コア10Bとが繋がった部分を含むように幅30μ、深さ0.35mmの溝13をハーフカットで形成し、主コア10Aを2本に分断するとともに、主コア10Aと副コア10Bとを分断した。
【0071】
最後に、周囲をダイシングソーで切落し、光導波路1とした。
【0072】
光導波路1の特性を単体で測定した。測定方法は、ファイバ端のモードフィールド径およびNAが、想定した発光素子であるVCSELに近い測定用レーザおよびシングルモードファイバを組み合わせ、マッチングオイルを介して光導波路の発光素子接続端に接続し、さらに光導波路からの出力をコア径62.5μmのGI型マルチモードファイバで受光して評価した。その結果、溝13の法線と主コア10Aの光軸10Aとのなす角度θを15度から20度まで変化させたパターンにおいては、外部出力側の損失は1dB以下であり、しかも、モニタ用光ダイオード4においては15〜16dB程度の損失でモニタ光を取ることができた。また、主コア10Aのうち、外部出力側コア12Bの幅を60μmに増加させるか、またはコア径は50μmのままでVCSEL側コア12Aと外部出力側コア12Bとの光軸を5μmずらすことにより、外部出力側での損失を0.2dB減少させることができた。また、溝13の幅を30μmから15μmに減少させることによっても外部出力側での損失を0.2dB減少させることができた。
【0073】
2.比較例1
図8に示すように主コア10Aと副コア10Bとが溝13の手前側で繋がっている光導波路を作製した。コア径は50μm、溝13の法線と主コア10Aの光軸との角度θを20度、主コア10Aと副コア10Bとが繋がった部分の長さを100μmとした。作製手順は実施例1のところで述べたとおりである。
【0074】
得られた光導波路について実施例1と同様の手順で測定したところ、外部出力側での損失が1.8dBと、実施例1よりも明らかに大きかった。これは、図8に示すように、VCSEL3からの出力光のうち、主コア10Aの光軸に対して斜めに伝搬された光が、主コア10Aと副コア10Bとが繋がった部分において副コア10Bの壁面から直角に近い角度でクラッド11に向かって透過したことによると考えられる。
【0075】
3.実施例2
実施例1で作製した光導波路1(コア径50μm、角度θ=20度、溝幅30μ、溝13を挟んだ主コア10Aのずれの大きさx=5μm、VCSEL接続端とモニタ用光ダイオード接続端とのピッチ=750μm)を用い、図1に示すような構成の光モジュール100を構成した。モニタ用光ダイオード4としては受光系が300μmのものを用いた。VCSEL3の発光スポット径は10μmであったので、VCSEL3、モニタ用光ダイオード4、および光導波路1の実装は容易に行うことができた。
【0076】
VCSEL3単体は、3mAの電流を流したときに1mWの光出力が発生する性能を有していた。そして、光モジュール100全体では、電流3mAに対して0.8mWの光出力を達成した。このとき、モニタ用光ダイオード4では0.03mAの光出力が得られたので、前記光出力により、VCSEL3のフィードバック制御を行うことができた。
【0077】
この状態で、光モジュール100からは2.3Gbpsの信号を安定して発信することができた。
【0078】
4.比較例2
実施例2の光モジュールにおいて、実施例1で作製した光導波路1を用いる代わりに、特許文献1にあるようにVCSEL3の光軸に対して斜めに配設されたガラス板を保護キャップの開口部7Aに嵌装し、前記硝子盤によって反射された出力光をモニタ用光ダイオードで検出するようにしたところ、3mAの電流を流したときの光出力は0.3mWと、実施例2に比較して圧倒的に低かった。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、実施形態1に係る光モジュールの構成を示す概略断面図である。
【図2】図2は、図1に示す光モジュールに使用される光導波路の一例について構成を示す斜視図である。
【図3】図3は、図2に示す光導波路の平面図および断面図である。
【図4】図4は、図2に示す光導波路における主コア、副コア、および溝の相互の配置、および主コアに導入された出力光の経路を示す説明図である。
【図5】図5は、図2に示す光導波路を作製する手順の一部を示すプロセス図である。
【図6】図6は、図2に示す光導波路を作製する手順の残りを示すプロセス図である。
【図7】図7は、実施形態2に係る光モジュールの構成を示す概略平面図である。
【図8】図8は、比較例1で用いた光導波路の構成を示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0080】
1 光導波路
2 光導波路
3 VCSEL
4 モニタ用光ダイオード
5 基板
6 端子
7 保護キャップ
8 光ファイバ装着筒
10 コア
10A 主コア
10B 副コア
10C 接続部
11 クラッド
11A クラッド用フィルム
11B クラッド層
12A VCSEL側コア
12B 外部出力側コア
13 溝
13A 側壁
13B 側壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コアを囲繞するように形成されたクラッドとを備え、
前記コアは、発光素子からの光を外部に出力する主コアと、主コアを透過する光の一部を、前記発光素子の出力をモニタするためのモニタ用受光素子に伝達する副コアとを有し、
前記主コアは、法線が、主コアの光軸に対して2.5〜30度の角度をなし、且つ相対する側壁面が互いに平行に形成された溝によって分断されているとともに、
前記副コアは、前記クラッドによって前記主コアから分離され、前記主コアを透過する光が前記溝で反射して生じるフレネル反射光が導入される位置に形成されている光導波路。
【請求項2】
前記副コアの反射光が導入される側の端部は、前記溝の側壁面に露出している請求項1に記載の光導波路。
【請求項3】
前記溝の幅は1〜50μmである請求項1または2に記載の光導波路。
【請求項4】
前記主コアは、前記溝を透過する際に光が屈折する方向に沿って溝を挟んでコア中心軸がずらされて配置されているとともに、前記溝の法線が前記主コアの中心軸となす角度をθ、前記主コアの屈折率をn、前記溝の幅をs、前記主コアのコア中心軸のずれの大きさをxとすると、ずれの大きさxは、以下の式
x=s×sin(φ−θ)/cosφ
但し、φ=sin−1(n×sinθ)
で設定される請求項1〜3の何れか1項に記載の光導波路。
【請求項5】
前記主コアのうち、溝を挟んで発光素子側に位置する部分の幅をd1、外部出力側に位置する部分の幅をd2とし、前記溝の法線が前記溝の中心線となす角度をθ、前記主コアと溝との界面における光の屈折角をφ、前記溝の幅をsとすると、前記幅d2は、
d2=d1+s×sin(φ−θ)/cosθ
但し、φ=sin−1(n×sinθ)
となるように設定されている請求項1〜3の何れか1項に記載の光導波路。
【請求項6】
前記副コアの幅は、前記モニタ用受光素子の受光径よりも小さい請求項1〜5の何れか1項に記載の光導波路。
【請求項7】
発光素子からの光を外部に出力する主コアと、主コアを透過する光の一部を、前記発光素子の出力をモニタするためのモニタ用受光素子に伝達する副コアとを形成するコア形成工程と、前記コア形成工程で形成された主コアを分断する溝を形成する溝形成工程とを有し、前記溝形成工程においては、溝の法線が主コアの光軸に対して2.5〜30度の角度を有し、前記溝の相対する側壁面が互いに平行になるとともに、前記主コアと副コアとが互いに分離されるように溝を形成することを特徴とする光導波路作製方法。
【請求項8】
発光素子と、前記発光素子からの光が主コアに導入されるように配設された請求項1〜6の何れか1項に記載の導波路と、前記導波路の有する副コアから出射したフレネル反射光を受光して前記発光素子の出力をモニタするモニタ用受光素子とを備えることを特徴とする光モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−69470(P2009−69470A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237647(P2007−237647)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】