内燃機関の制御装置
【課題】 内燃機関のアイドル状態における吸入空気量をより適切に制御し、機関回転数を目標回転数に安定的に維持することができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】 要求吸入空気量GAIRCMDが比較的小さいゲージ圧制御領域では、吸気弁の目標リフト量LFTCMDが下限リフト量LFTMINに設定される。アイドル運転状態において、機関回転数NEが目標回転数NOBJと一致するように要求吸入空気量GAIRCMDを補正する回転数フィードバック制御が実行されるとともに、吸気ゲージ圧PBGAが目標ゲージ圧PBGACMDと一致するようにスロットル弁開度を制御する吸気圧フィードバック制御が実行される。下限リフト量LFTMINが増加するほど吸気圧フィードバック制御の応答速度が低下するように制御される。
【解決手段】 要求吸入空気量GAIRCMDが比較的小さいゲージ圧制御領域では、吸気弁の目標リフト量LFTCMDが下限リフト量LFTMINに設定される。アイドル運転状態において、機関回転数NEが目標回転数NOBJと一致するように要求吸入空気量GAIRCMDを補正する回転数フィードバック制御が実行されるとともに、吸気ゲージ圧PBGAが目標ゲージ圧PBGACMDと一致するようにスロットル弁開度を制御する吸気圧フィードバック制御が実行される。下限リフト量LFTMINが増加するほど吸気圧フィードバック制御の応答速度が低下するように制御される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に吸気弁の最大リフト量を連続的に変更可能な動弁機構を備える内燃機関の吸入空気量制御を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、吸気弁の最大リフト量を連続的に変更可能な動弁機構と、スロットル弁とを備える内燃機関のアイドル回転数制御装置が示されている。この装置によれば、アイドル状態において、スロットル弁の開度を制御することにより、機関回転数を目標回転数に一致させるフィードバック制御が行われ、その際、吸気弁の最大リフト量に応じてフィードバック制御の制御ゲインが補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−139940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の制御装置では、機関回転数を目標回転数に一致させる回転数フィードバック制御が行われるが、アイドル状態で機関に吸入される空気量は、吸気圧(スロットル弁下流側の吸気管内圧力)に依存して変化する。したがって、機関回転数を目標回転数に安定的に維持するためには、上記回転数フィードバック制御とともに、吸気圧を目標吸気圧にフィードバック制御する吸気圧フィードバック制御を実行し、さらに吸気弁の最大リフト量の設定を考慮したスロットル弁開度制御を行うことが望ましい。
【0005】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、機関のアイドル状態における吸入空気量をより適切に制御し、機関回転数を目標回転数に安定的に維持することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関の吸気弁の最大リフト量を連続的に変更可能な動弁機構(41)と、前記機関の吸入空気量を制御するスロットル弁(3)とを備える内燃機関の制御装置において、前記吸気弁の下限リフト量(LFTMIN)を算出する下限リフト量算出手段と、前記機関の要求吸入空気量(GAIRCMD)を算出する要求吸入空気量算出手段と、前記要求吸入空気量(GAIRCMD)に応じて前記吸気弁の最大リフト量(LFT)を制御するリフト量制御手段と、前記機関の運転状態に応じて前記吸気弁の最大リフト量(LFT)を前記下限リフト量(LFTMIN)に制限するリフト量制限手段と、前記機関の回転数(NE)を検出する機関回転数検出手段と、前記機関のアイドル運転状態において、検出される機関回転数(NE)が目標回転数(NOBJ)と一致するように前記要求吸入空気量(GAIRCMD)を補正する回転数フィードバック制御を実行する回転数フィードバック制御手段と、前記機関の吸気圧(PBGA)を検出する吸気圧検出手段と、検出される吸気圧(PBGA)と目標吸気圧(PBGACMD)との偏差である吸気圧偏差(DPBGA)、及び前記要求吸入空気量(GAIRCMD)に応じて、前記スロットル弁の開度(TH)を制御するスロットル弁開度制御手段とを備え、前記スロットル弁開度制御手段は、前記吸気圧偏差(DPBGA)を「0」に収束させる吸気圧フィードバック制御を実行する吸気圧フィードバック制御手段と、前記吸気圧フィードバック制御の応答速度を前記下限リフト量(LFTMIN)に応じて変更する応答速度変更手段とを備え、前記応答速度変更手段は、前記下限リフト量(LFTMIN)が増加するほど前記前記吸気圧フィードバック制御の応答速度を低下させることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記下限リフト量(LFTMIN)が最小値に設定されているときにおける、前記吸気圧フィードバック制御の応答速度は、前記回転数フィードバック制御の応答速度より低い値に設定されることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置において、前記リフト量制限手段は、前記要求吸入空気量(GAIRCMD)が設定空気量(GAPBPARX)以下となる機関運転状態では、前記吸気弁の最大リフト量(LFT)を前記下限リフト量(LFTMIN)に設定することを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記吸気圧フィードバック制御手段は、前記吸気圧偏差(DPBGA)、及び前記吸気圧偏差の過去値(DPBGA(k-1))に設定係数(VPOLEPB)を乗算した値を用いて、切換関数値(σ(k))を算出する切換関数値算出手段を備え、前記切換関数値(σ(k))及び所定ゲイン(KRCH,KADP)を用いて、前記吸気圧フィードバック制御を実行し、前記応答速度変更手段は、前記設定係数(VPOLEPB)を変更することにより前記吸気圧フィードバック制御の応答速度を変更することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記吸気圧フィードバック制御手段は、前記下限リフト量(LFTMIN)が所定閾値(LFTMINTH)以上であるときは、前記吸気圧フィードバック制御を停止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、機関の要求吸入空気量が算出され、要求吸入空気量に応じて吸気弁の最大リフト量が制御されるとともに、機関の運転状態に応じて吸気弁の最大リフト量が下限リフト量に制限される。そして機関のアイドル運転状態において、検出される機関回転数が目標回転数と一致するように要求吸入空気量を補正する回転数フィードバック制御が実行されるとともに、検出される吸気圧と目標吸気圧との偏差である吸気圧偏差、及び要求吸入空気量に応じて、スロットル弁の開度が制御され、吸気圧偏差を「0」に収束させる吸気圧フィードバック制御が実行される。このとき、吸気弁の下限リフト量が増加するほど吸気圧フィードバック制御の応答速度が低下するように制御される。吸気弁の下限リフト量が増加すると、スロットル弁開度の変化に対する吸入空気量の変化感度が増加するので、下限リフト量が増加するほど吸気圧フィードバック制御の応答速度を低下させることにより、回転数フィードバック制御と吸気圧フィードバック制御の干渉を防止し、2つのフィードバック制御の収束性を向上させることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、下限リフト量が最小値に設定されているときにおける吸気圧フィードバック制御の応答速度が、回転数フィードバック制御の応答速度より低い値に設定されるので、回転数フィードバック制御が吸気圧フィードバック制御より優先され、2つのフィードバック制御の干渉を確実に回避することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、要求吸入空気量が設定空気量以下となる機関運転状態では、吸気弁の最大リフト量が下限リフト量に設定される。設定空気量を適切に設定することにより、アイドル運転状態より若干吸入空気量が大きい運転状態においても、下限リフト量に応じて適切な吸気圧フィードバック制御を実行することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、吸気圧偏差、及び吸気圧偏差の過去値に設定係数を乗算した値を用いて、切換関数値が算出され、切換関数値及び所定ゲインを用いて、吸気圧フィードバック制御が実行され、設定係数を変更することにより吸気圧フィードバック制御の応答速度が変更される。通常のPI(比例積分)制御では、比例項ゲインと積分項ゲインを両者のバランスを考慮しつつ変更することにより、フィードバック制御の応答速度の変更を行う必要がある。そのため、応答速度の変更のために複数の比例項ゲイン及び積分項ゲインが設定されたマップを予め用意しておく必要がある。これに対し、切換関数値を用いるフィードバック制御では、切換関数値の算出に適用される設定係数を変更することにより、応答速度を容易に変更することができるので、PI制御によるフィードバック制御に比べて、ゲイン設定のための工数やメモリに格納すべきデータ量を低減することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、下限リフト量が所定閾値以上であるときは、吸気圧フィードバック制御が停止される。吸気弁の下限リフト量が大きい状態では、スロットル弁開度を変更することによる吸気圧の変化感度が増加し、制御の不安定化を招き易くなる。よって、吸気圧フィードバック制御を停止させることにより、制御の不安定化を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】図1に示す弁作動特性可変装置の構成を示す図である。
【図3】図2に示す第1弁作動特性可変機構の概略構成を説明するための図である。
【図4】吸気弁の弁作動特性を示す図である。
【図5】本実施形態における制御の概要を説明するための図である。
【図6】要求吸入空気量(GAIRCMD)を算出する処理のフローチャートである。
【図7】ゲージ圧制御領域において吸気弁の目標リフト量を算出する処理のフローチャートである。
【図8】目標ゲージ圧(PBGACMD)を算出する処理のフローチャートである。
【図9】図7または図8の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図10】目標スロットル弁開度(THCMD)を算出する処理のフローチャートである。
【図11】図10の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図12】応答速度設定パラメータ(VPOLEPB)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関とその制御装置の構成を示す図であり、図2は弁作動特性可変装置の構成を示す図である。図1において、例えば4気筒を有する内燃機関(以下単に「エンジン」という)1は、吸気弁及び排気弁と、これらを駆動するカムを備えるとともに、吸気弁の弁リフト量(最大リフト量)及び開角(開弁期間)を連続的に変更する第1弁作動特性可変機構41と、吸気弁を駆動するカムの、クランク軸回転角度を基準とした作動位相を連続的に変更するカム位相可変機構としての第2弁作動特性可変機構42とを有する弁作動特性可変装置40を備えている。第2弁作動特性可変機構42により吸気弁を駆動するカムの作動位相が変更され、吸気弁の作動位相が変更される。
【0018】
エンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配されている。また、スロットル弁3にはスロットル弁開度(TH)センサ4が連結されており、当該スロットル弁3の開度に応じた電気信号を出力して電子コントロールユニット(以下(ECU)という)5に供給する。スロットル弁3には、スロットル弁3を駆動するアクチュエータ7が接続されており、アクチュエータ7は、ECU5によりその作動が制御される。
【0019】
燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にECU5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。
【0020】
エンジン1の各気筒の点火プラグ15は、ECU5に接続されており、ECU5は点火プラグ15に点火信号を供給し、点火時期制御を行う。
スロットル弁3の下流には吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ8及び吸気温TAを検出する吸気温センサ9が取付けられている。またエンジン1の本体には、エンジン冷却水温TWを検出するエンジン冷却水温センサ10が取り付けられている。これらのセンサの検出信号は、ECU5に供給される。
【0021】
ECU5には、エンジン1のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度位置センサ11及び、エンジン1の吸気弁を駆動するカムが固定されたカム軸の回転角度を検出するカム角度位置センサ12が接続されており、クランク軸の回転角度及びカム軸の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ11は、一定クランク角周期毎(例えば30度周期)に1パルス(以下「CRKパルス」という)と、クランク軸の所定角度位置を特定するパルスを発生する。また、カム角度位置センサ12は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)と、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)でパルス(以下「TDCパルス」という)を発生する。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御及びエンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。なお、カム角度位置センサ12より出力されるTDCパルスと、クランク角度位置センサ11より出力されるCRKパルスとの相対関係からカム軸の実際の作動位相CAINが検出される。
【0022】
ECU5には、エンジン1によって駆動される車両のアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ31、当該車両の走行速度(車速)VPを検出する車速センサ32、及び大気圧PAを検出する大気圧センサ33が接続されている。これらのセンサの検出信号は、ECU5に供給される。
【0023】
弁作動特性可変装置40は、図2に示すように、吸気弁の最大リフト量及び開角(以下単に「リフト量」という)を連続的に変更する第1弁作動特性可変機構41と、吸気弁の作動位相を連続的に変更する第2弁作動特性可変機構42と、吸気弁のリフト量LFTを連続的に変更するためのモータ43と、吸気弁の作動位相を連続的に変更するために、その開度が連続的に変更可能な電磁弁44とを備えている。吸気弁の作動位相を示すパラメータとして、上記カム軸の作動位相CAINが用いられる。電磁弁44には、オイルパン46の潤滑油がオイルポンプ45により、加圧されて供給される。なお、第2弁作動特性可変機構42の具体的な構成は、例えば特開2000−227013号公報に示されている。
【0024】
第1弁作動特性可変機構41は、図3(a)に示すように、カム52が設けられたカム軸51と、シリンダヘッドに軸55aを中心として揺動可能に支持されるコントロールアーム55と、コントロールアーム55を揺動させるコントロールカム57が設けられたコントロール軸56と、コントロールアーム55に支軸53bを介して揺動可能に支持されるとともに、カム52に従動して揺動するサブカム53と、サブカム53に従動し、吸気弁60を駆動するロッカアーム54とを備えている。ロッカアーム54は、コントロールアーム55内に揺動可能に支持されている。
【0025】
サブカム53は、カム52に当接するローラ53aを有し、カム軸51の回転により、軸53bを中心として揺動する。ロッカアーム54は、サブカム53に当接するローラ54aを有し、サブカム53の動きが、ローラ54aを介して、ロッカアーム54に伝達される。
【0026】
コントロールアーム55は、コントロールカム57に当接するローラ55bを有し、コントロール軸56の回動により軸55aを中心として揺動する。図3(a)に示す状態では、サブカム53の動きはロッカアーム54にほとんど伝達されないため、吸気弁60はほぼ全閉の状態を維持する。一方同図(b)に示す状態では、サブカム53の動きがロッカアーム54を介して吸気弁60に伝達され、吸気弁60の上限リフト量LFTMAX(例えば12mm)まで開弁する。
【0027】
したがって、モータ43によりコントロール軸56を回動させることにより、吸気弁60のリフト量LFTを連続的に変更することがきる。本実施形態では、第1弁作動特性可変機構41に、コントロール軸56の回転角度(以下「CS角度」という)CSAを検出するコントロール軸回転角度センサ(以下「CS角度センサ」という)14が設けられており、検出されるCS角度CSAからリフト量LFTが算出される。
【0028】
なお、第1弁作動特性可変機構41の詳細な構成は、特開2008−25418号公報に示されている。
第1弁作動特性可変機構41により、図4(a)に示すように吸気弁のリフト量LFT(及び開角)が変更される。また第2弁作動特性可変機構42により、吸気弁は、同図(b)に実線L3及びL4で示す特性を中心として、カムの作動位相CAINの変化に伴って破線L1,L2で示す最進角位相から、一点鎖線L5,L6で示す最遅角位相までの間の位相で駆動される。
【0029】
ECU5は各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)、CPUで実行される演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路のほか、アクチュエータ7、燃料噴射弁6、モータ43、電磁弁44に駆動信号を供給する出力回路等から構成される。
【0030】
ECU5のCPUは、上記センサの検出信号に応じて、スロットル弁3の開度制御、エンジン1に供給する燃料量(燃料噴射弁6の開弁時間)の制御、並びにモータ43及び電磁弁44による弁作動特性(吸入空気量)の制御を行う。より具体的には、主としてアクセルペダル操作量APに応じてエンジン1の要求吸入空気量GAIRCMDが算出され、吸入空気量GAIRが要求吸入空気量GAIRCMDと一致するように、スロットル弁の目標開度THCMD及び吸気弁の目標リフト量LFTCMDが算出される。そして、スロットル弁開度TH及び吸気弁リフト量LFTが、それぞれ目標開度THCMD及び吸気弁の目標リフト量LFTCMDと一致するようにアクチュエータ7及びモータ43が駆動される。
【0031】
図5は本実施形態における吸入空気量制御の概要を説明するための図であり、図5(a)は、要求吸入空気量GAIRCMDと目標ゲージ圧PBGACMDとの関係を示し、図5(b)は、要求吸入空気量GAIRCMDと吸気弁の目標リフト量LFTCMDの関係を示す。
【0032】
要求吸入空気量GAIRCMDが境界吸入空気量GAPBPARX以下となる運転状態では、吸気弁の目標リフト量LFTCMDが下限リフト量LFTMINに維持され、吸気ゲージ圧PBGA(=PBA−PA)が目標ゲージ圧PBGACMDと一致するように、スロットル弁3の開度THが制御される。以下この制御を行う領域を「ゲージ圧制御領域」という。
【0033】
また要求吸入空気量GAIRCMDが境界吸入空気量GAPBPARXを超える運転状態では、目標ゲージ圧PBGACMDは、基準ゲージ圧PBGASTD(例えば−13.3kPa(−100mmHg))に維持され、吸気弁のリフト量LFTを変更することにより、吸入空気量が制御される。
【0034】
ゲージ圧制御領域では、要求吸入空気量GAIRCMDと目標ゲージ圧PBGACMDとの関係は、下記式(1)で表される。下記式(1)のRGPは、傾きを示す傾きパラメータであり、PBAGA0は図5(a)に示すように要求吸入空気量GAIRCMDが「0」である状態に対応する目標ゲージ圧を示す切片パラメータである。
PBGACMD=RGP×GAIRCMD+PBGA0 (1)
【0035】
エンジンのアイドル運転状態及びアイドル運転状態より若干吸入空気量が大きい低負荷運転状態が、ゲージ圧制御領域に対応する。
【0036】
また本実施形態では、下限リフト量LFTMINは、大気圧PAが低下するほど増加するように変更される。下限リフト量LFTMINの変更により、要求吸入空気量GAIRCMDと目標リフト量LFTCMDとの関係は、図5(b)に破線で示すように変化する。
【0037】
図6は、要求吸入空気量GAIRCMDを算出する処理のフローチャートであり、この処理は所定時間TCAL(例えば10msec)毎にECU5のCPUで実行される。
【0038】
ステップS11では、アクセルペダル操作量AP及びエンジン回転数NEに応じて基本要求吸入空気量GAIRCMDBを算出する。基本要求吸入空気量GAIRCMDBは、アクセルペダル操作量APが増加するほど増加するように設定される。ステップS12ではアイドルフラグFIDLが「1」であるか否かを判別する。アイドルフラグFIDLは、エンジン1がアイドル運転状態にあるとき「1」に設定される。この答が否定(NO)であるときは、要求吸入空気量GAIRCMDを基本要求吸入空気量GAIRCMDBに設定する(ステップS13)。
【0039】
ステップS12でFIDL=1であって、エンジン1がアイドル運転状態にあるときは、エンジン回転数NE及びアイドル運転状態における目標回転数NOBJを下記式(2)に適用し、回転数偏差DNEを算出する。
DNE=NE−NOBJ (2)
【0040】
ステップS15では、回転数偏差DNEを下記式(3)に適用し、回転数偏差積算値IDNEを算出する。式(3)の「k」は、本処理の実行周期で離散化した離散化時刻である。なお、今回値であることをしめす(k)は通常は省略されている。IDNE(k-1)は前回算出値である。
IDNE=IDNE(k-1)+DNE (3)
【0041】
ステップS16では、回転数偏差DNE及び回転数偏差積算値IDNEを下記式(4)に適用し、回転数フィードバック補正項GAIRCMDFBを算出する。式(4)のKPは例えば「0.3」に設定される比例項ゲインであり、KIは例えば「0.01」に設定される積分項ゲインである。
GAIRCMDFB=KP×DNE+KI×IDNE (4)
【0042】
ステップS17では、基本要求吸入空気量GAIRCMDBに回転数フィードバック補正項GAIRCMDFBを加算することにより(下記式(5))、要求吸入空気量GAIRCMDを算出する。
GAIRCMD=GAIRCMDB+GAIRCMDFB (5)
【0043】
図7は、ゲージ圧制御領域において吸気弁の目標リフト量LFTCMDを算出する処理のフローチャートであり、この処理はTDCパルスの発生に同期してECU5のCPUで実行される。
【0044】
ステップS21では、下記式(11)及び(12)により、基準吸入空気量GALTHCMDを補正し、第1補正基準吸入空気量GALTHCMDA及び第2補正基準吸入空気量GALTHCMDFを算出する。基準吸入空気量GALTHCMDは、ゲージ圧制御領域において目標リフト量LFTCMDを設定するために、例えばエンジン冷却水温TWに応じて設定される吸入空気量である。下記式のPASTD及びTASTDは、所定基準状態における大気圧及び吸気温であり、例えば101.3kPa(760mmHg)及び25℃に設定される。
【数1】
式(11)は大気圧PAに応じてた補正を行うものであり、式(12)は大気圧PA及び吸気温TAに応じた補正を行うものである。これらの補正は、大気圧PA及び吸気温TAに依存して空気密度が変化することを考慮して行われる。
【0045】
ステップS22では、目標回転数NOBJ及び基準吸入空気量GALTHCMDに応じて、基準目標リフト量LFTCMDSTDを算出する。本実施形態では、複数の所定エンジン回転数、吸気弁の複数の所定作動位相、及び複数の所定吸気ゲージ圧に対応して、要求吸入空気量GAIRCMDから目標リフト量LFTCMDを算出するための複数のLFTCMDテーブルが予めECU5の記憶回路に格納されている。したがって、ステップS22では、例えば図9(a)に示すように設定された、目標回転数NOBJ、吸気弁の基準作動位相(最遅角位相)CAINSTD、及び基準ゲージ圧PBGASTDに対応するテーブルを選択し、その選択したテーブルを基準吸入空気量GALTHCMDに応じて検索し、基準目標リフト量LFTCMDSTDを算出する。
【0046】
ステップS23では、第1補正基準吸入空気量GALTHCMDAに応じて、図9(a)に示すLFTCMDテーブルを検索し、第1目標リフト量LFTCMDPAを算出する。第1目標リフト量LFTCMDPAは、後述する目標ゲージ圧PBGACMDの算出に適用される。
【0047】
ステップS24では、第2補正基準吸入空気量GALTHCMDFに応じて、図9(a)に示すLFTCMDテーブルを検索し、第2目標リフト量LFTCMDPATAを算出する。第2目標リフト量LFTCMDPATAは、吸気弁のリフト量制御(図示せず)に適用され、実際のリフト量LFTが第2目標リフト量LFTCMDPATAと一致するように、モータ43が制御される。
【0048】
リフト量制御に第2目標リフト量LFTCMDPATAが適用され、大気圧PA及び吸気温TAに応じた制御が行われるため、目標ゲージ圧PBGACMDを吸気温TAに応じて変更する必要がない。よって、大気圧PAに応じた補正のみが行われた第1補正基準吸入空気量GALTHCMDAに対応する第1目標リフト量LFTCMDPAが、目標ゲージ圧PBGACMDの算出に適用される。
【0049】
図8は、目標ゲージ圧PBGACMDを算出する処理のフローチャートであり、この処理は所定時間TCAL毎にECU5のCPUで実行される。
ステップS31では、エンジン回転数NE及び吸気弁作動位相CAINに応じて、基準ゲージ圧PBGASTDに対応するLFTCMDテーブルを選択し、第1目標リフト量LFTCMDPAに応じて、選択したLFTCMDテーブルを逆検索することにより、第1吸入空気量GAIR1を算出する。選択されたLFTCMDテーブルの一例が図9(b)において、実線L11で示されている。
【0050】
ステップS32では、エンジン回転数NE及び吸気弁作動位相CAINに応じて、基準ゲージ圧PBGASTDより低い所定ゲージ圧PBGARL(例えば−66.7kPa(−500mmHg))に対応するLFTCMDテーブルを選択し、第1目標リフト量LFTCMDPAに応じて、選択したLFTCMDテーブルを逆検索することにより、第2吸入空気量GAIR2を算出する。選択されたLFTCMDテーブルの一例が図9(b)において、破線L12で示されている。
【0051】
ステップS33では、基準目標リフト量LFTCMDSTDに応じて境界吸入空気量GAPBPARXを算出する。具体的には、エンジン回転数NE及び吸気弁作動位相CAINに応じて、基準ゲージ圧PBGASTDに対応するLFTCMDテーブルを選択し、基準目標リフト量LFTCMDSTDに応じて、選択したLFTCMDテーブルを逆検索することにより、境界吸入空気量GAPBPARXを算出する。
【0052】
ステップS34では、基準ゲージ圧PBGASTD、所定ゲージ圧PBGARL、第1及び第2吸入空気量GAIR1,GAIR2を、下記式(13)に適用し、前記式(1)の傾きパラメータRGPを算出するとともに、算出した傾きパラメータRGP、境界吸入空気量GAPBPARX、及び基準ゲージ圧PBGASTDを下記式(14)に適用し、切片パラメータPBGA0を算出する。
RGP=(PBGASTD−PBGARL)/(GAIR1−GAIR2)
(13)
PBGA0=PBGASTD−RGP×GAPBPARX (14)
【0053】
ステップS35では、算出された傾きパラメータRGP及び切片パラメータPBGA0と、要求吸入空気量GAIRCMDとを前記式(1)に適用し、目標ゲージ圧PBGACMDを算出する。ステップS36では、算出した目標ゲージ圧PBGACMDが基準ゲージ圧PBGASTDを超えないようにリミット処理を行う。
【0054】
図10は、目標スロットル弁開度THCMDを算出する処理のフローチャートであり、この処理は所定時間TCAL毎にECU5のCPUで実行される。
【0055】
ステップS41では、吸気圧フィードバック制御許可フラグFPBGAFBが「1」であるか否かを判別する。吸気圧フィードバック制御許可フラグFPBGAFBは、吸気弁の下限リフト量LFTMINが所定閾値LFTMINTH(例えば、5mm)より小さい時「1」に設定される。
【0056】
ステップS41の答が否定(NO)、すなわち下限リフト量LFTMINが所定閾値LFTMINTH以上であるときは、吸気圧フィードバック制御項DTHDEGSLDを「0」に設定し(ステップS42)、ステップS48に進む。
【0057】
ステップS41でFPBGAFB=1であるときは、吸気ゲージ圧PBGA及び目標ゲージ圧PBGACMDを下記式(21)に適用し、吸気圧偏差DPBGAを算出する(ステップS43)。
DPBGA=PBGA−PBGACMD (21)
【0058】
ステップS44では、下限リフト量LFTMINに応じて図11(a)に示すVPOLEPBテーブルを検索し、応答速度設定パラメータVPOLEPBを算出する。VPOLEPBテーブルは、応答速度設定パラメータVPOLEPBが「−1」より大きく「0」より小さい範囲において、下限リフト量LFTMINが増加するほど応答速度設定パラメータVPOLEPBが減少するように設定されている。応答速度設定パラメータVPOLEPBは、後述するスライディングモード制御における制御偏差である吸気圧偏差DPBGAの、時間変化に対する減衰特性(応答速度)を指定するパラメータであり、応答速度設定パラメータVPOLEPBが減少するほど、スライディングモード制御の応答速度が低下する。
【0059】
図12は、応答速度設定パラメータVPOLEPBと、吸気圧偏差DPBGAの減衰特性との関係を示すタイムチャートであり、実線L20は、応答速度設定パラメータVPOLEPBが「−1」であるときの特性を示す。また実線L21〜L23は、それぞれ応答速度設定パラメータVPOLEPBが所定値VPL1,VPL2,VPL3に設定されたときの特性を示し、ー1<VPL1<VPL2<VPL3<0なる関係が成立する。
【0060】
本実施形態では、下限リフト量LFTMINが最小値に設定されたときの応答速度設定パラメータVPOLEPBの値、すなわち図11(a)に示す所定パラメータ値VPOLEPB0(応答速度設定パラメータVPOLEPBの最大値)は、吸気圧フィードバック制御の応答速度が回転数フィードバック制御の応答速度より低くなるように設定されている。
【0061】
ステップS45では、下記式(22)により、切換関数値σ(k)を算出する。
σ(k)=DPBGA(k)+VPOLEPB×DPBGA(k-1) (22)
ステップS46では、下記式(23)により切換関数値σ(k)を積算し、積算切換関数値Iσを算出する。
Iσ=Iσ(k-1)+σ(k) (23)
【0062】
ステップS47では、切換関数値σ(k)及び積算切換関数値Iσを下記式(24)に適用し、吸気圧フィードバック制御項DTHDEGSLDを算出する。式(2)のKRCHは例えば「0.3」に設定される到達則ゲインであり、KADPは例えば「0.01」に設定される適応則ゲインである。
DTHDEGSLD=KRCH×σ(k)+KADP×Iσ (24)
【0063】
ステップS48では、要求吸入空気量GAIRCMDに応じて図11(b)に示すABASEテーブルを検索し、スロットル弁3の基本開口面積ABASEを算出する。ステップS49では、基本開口面積ABASEを下記式(25)に適用し、基本目標開口面積ATHCMDBを算出する。
【数2】
【0064】
なお、基本目標開口面積ATHCMDBは、吸気温TA、吸気管開口面積、及び吸気管径に応じた補正係数により補正するようにしてもよい。要求吸入空気量GAIRCMDから基本目標開口面積ATHCMDBを算出する手法は、特開2008−196474号公報に示されている。
【0065】
ステップS50では、吸気圧フィードバック制御項DTHDEGSLD及び基本目標開口面積ATHCMDBを下記式(26)に適用し、スロットル弁3の目標開口面積ATHCMDを算出する。
ATHCMD=ATHCMDB+DTHDEGSLD (26)
【0066】
ステップS51では、目標開口面積ATHCMDに応じて図11(c)に示すTHCMDテーブルを検索し、目標スロットル弁開度THCMDを算出する。
【0067】
ECU5のCPUは、検出されるスロットル弁開度THが目標スロットル弁開度THCMDと一致するように、アクチュエータ7の駆動制御を行う。したがって、上述した回転数フィードバック制御及び吸気圧フィードバック制御を並行して実行することによるスロットル弁開度制御が行われる。
【0068】
以上詳述したように本実施形態では、要求吸入空気量GAIRCMDが算出され、要求吸入空気量GAIRCMDに応じて吸気弁の目標リフト量LFTCMDが算出されるとともに、ゲージ圧制御領域では、目標リフト量LFTCMDが下限リフト量LFTMINに設定される。そしてエンジンのアイドル運転状態において、検出されるエンジン回転数NEが目標回転数NOBJと一致するように算出される回転数フィードバック補正項GAIRCMDFBを用いて回転数フィードバック制御が実行されるとともに、検出される吸気ゲージ圧PBGAと目標ゲージ圧PBGACMDとの偏差である吸気圧偏差DPBGA、及び要求吸入空気量GAIRCMDに応じて、スロットル弁の開度THが制御され、吸気圧偏差DPBGAを「0」に収束させる吸気圧フィードバック制御が実行される。このとき、吸気弁の下限リフト量LFTMINが増加するほど応答速度設定パラメータVPOLEPBが減少するように設定され、吸気圧フィードバック制御の応答速度が低下するように制御される。吸気弁の下限リフト量LFTMINが増加すると、スロットル弁開度THの変化に対する吸入空気量GAIRの変化感度が増加するので、下限リフト量LFTMINが増加するほど吸気圧フィードバック制御の応答速度を低下させることにより、回転数フィードバック制御と吸気圧フィードバック制御の干渉を防止し、2つのフィードバック制御の収束性を向上させることができる。
【0069】
また下限リフト量LFTMINが最小値に設定されているときにおける吸気圧フィードバック制御の応答速度、すなわち吸気圧フィードバック制御応答速度の最大値は、回転数フィードバック制御の応答速度より低い値に設定されるので、回転数フィードバック制御が吸気圧フィードバック制御より常に優先され、2つのフィードバック制御の干渉を確実に回避することができる。
【0070】
また要求吸入空気量GAIRCMDが境界吸入空気量GAPBPARX以下となるゲージ圧制御領域では、吸気弁の目標リフト量LFTCMDが下限リフト量LFTMINに設定される。境界吸入空気量GAPBPARXを適切に設定することにより、アイドル運転状態より若干吸入空気量が大きい運転状態(エンジン回転数NEを目標回転数NOBJに一致させるフィードバック制御を行わない運転状態)においても、下限リフト量LFTMINに応じて適切な吸気圧フィードバック制御を実行することができる。
【0071】
また吸気圧偏差DPBGA、及び吸気圧偏差の過去値DPBGA(k-1)に応答速度設定パラメータVPOLEPBを乗算した値を用いて、切換関数値σ(k)が算出され、切換関数値σ(k)及び制御ゲインKRCH、KADPを用いて、吸気圧フィードバック制御が実行され、応答速度設定パラメータVPOLEPBを変更することにより吸気圧フィードバック制御の応答速度が変更される。通常のPI(比例積分)制御では、比例項ゲインと積分項ゲインを両者のバランスを考慮しつつ変更することにより、フィードバック制御の応答速度の変更を行う必要がある。そのため、応答速度の変更のために複数の比例項ゲイン及び積分項ゲインが設定されたマップを予め用意しておく必要がある。これに対し、切換関数値σ(k)を用いるスライディングモード制御では、切換関数値σ(k)の算出に適用される応答速度設定パラメータVPOLEPBを変更することにより、応答速度を容易に変更することができるので、PI制御によるフィードバック制御に比べて、ゲイン設定のための工数やメモリに格納すべきデータ量を低減することができる。
【0072】
また下限リフト量LFTMINが所定閾値LFTMINTH以上であるときは、吸気圧フィードバック制御項DTHDEGSLDが「0」に設定され(図10,ステップS42)、吸気圧フィードバック制御が停止される。吸気弁の下限リフト量LFTMINが大きい状態では、スロットル弁開度THを変更することによる吸気圧PBAの変化感度が増加し、制御の不安定化を招き易くなる。よって、吸気圧フィードバック制御を停止させることにより、制御の不安定化を回避することができる。
【0073】
本実施形態では、クランク角度位置センサ11及び吸気圧センサ8が、それぞれ機関回転数検出手段及び吸気圧検出手段に相当し、ECU5及びモータ43がリフト量制御手段を構成し、ECU5及びアクチュエータ7がスロットル弁開度制御手段を構成する。さらにECU5が、下限リフト量算出手段、要求吸入空気量算出手段、リフト量制限手段、回転数フィードバック制御手段、吸気圧フィードバック制御手段、応答速度変更手段、及び切換関数値算出手段を構成する。具体的には、図6の処理が要求吸入空気量算出手段に相当し、図8のステップS31〜S33がリフト量制限手段の一部に相当し、図6のステップS14〜S17が回転数フィードバック制御手段に相当する。また図10のステップS43〜S47が吸気圧フィードバック制御手段に相当し、図10のステップS44が応答速度変更手段に相当し、ステップS45が切換関数値算出手段に相当する。
【0074】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、吸気圧フィードバック制御項DTHDEGSLDは、検出される吸気ゲージ圧PBGAを目標ゲージ圧PBGACMDと一致させるように算出するようにしたが、吸気圧PBAを目標吸気圧PBACMD(=PBGACMD+PA)と一致させるように算出するようにしてもよい。
【0075】
また吸気圧フィードバック制御には、スライディングモード制御を適用するようにしたが、他の応答指定型制御であるバックステッピング制御を適用してもよい。また通常のPI(比例積分)制御を適用してもよい。ただし、PI制御を適用する場合には、比例項ゲイン及び積分項ゲインをともに下限リフト量LFTMINに応じて変更することにより、応答速度を変更する必要がある。
【0076】
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの制御にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 内燃機関
2 吸気管
3 スロットル弁
5 電子制御ユニット(スロットル弁開度制御手段、リフト量制御手段、下限リフト量算出手段、要求吸入空気量算出手段、リフト量制限手段、回転数フィードバック制御手段、吸気圧フィードバック制御手段、応答速度変更手段、及び切換関数値算出手段)
7 アクチュエータ(スロットル弁開度制御手段)
8 吸気圧センサ(吸気圧検出手段)
9 吸気温センサ
11 クランク角度位置センサ(機関回転数検出手段)
33 大気圧センサ
41 弁作動特性可変機構(動弁機構)
43 モータ(リフト量制御手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に吸気弁の最大リフト量を連続的に変更可能な動弁機構を備える内燃機関の吸入空気量制御を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、吸気弁の最大リフト量を連続的に変更可能な動弁機構と、スロットル弁とを備える内燃機関のアイドル回転数制御装置が示されている。この装置によれば、アイドル状態において、スロットル弁の開度を制御することにより、機関回転数を目標回転数に一致させるフィードバック制御が行われ、その際、吸気弁の最大リフト量に応じてフィードバック制御の制御ゲインが補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−139940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の制御装置では、機関回転数を目標回転数に一致させる回転数フィードバック制御が行われるが、アイドル状態で機関に吸入される空気量は、吸気圧(スロットル弁下流側の吸気管内圧力)に依存して変化する。したがって、機関回転数を目標回転数に安定的に維持するためには、上記回転数フィードバック制御とともに、吸気圧を目標吸気圧にフィードバック制御する吸気圧フィードバック制御を実行し、さらに吸気弁の最大リフト量の設定を考慮したスロットル弁開度制御を行うことが望ましい。
【0005】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、機関のアイドル状態における吸入空気量をより適切に制御し、機関回転数を目標回転数に安定的に維持することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関の吸気弁の最大リフト量を連続的に変更可能な動弁機構(41)と、前記機関の吸入空気量を制御するスロットル弁(3)とを備える内燃機関の制御装置において、前記吸気弁の下限リフト量(LFTMIN)を算出する下限リフト量算出手段と、前記機関の要求吸入空気量(GAIRCMD)を算出する要求吸入空気量算出手段と、前記要求吸入空気量(GAIRCMD)に応じて前記吸気弁の最大リフト量(LFT)を制御するリフト量制御手段と、前記機関の運転状態に応じて前記吸気弁の最大リフト量(LFT)を前記下限リフト量(LFTMIN)に制限するリフト量制限手段と、前記機関の回転数(NE)を検出する機関回転数検出手段と、前記機関のアイドル運転状態において、検出される機関回転数(NE)が目標回転数(NOBJ)と一致するように前記要求吸入空気量(GAIRCMD)を補正する回転数フィードバック制御を実行する回転数フィードバック制御手段と、前記機関の吸気圧(PBGA)を検出する吸気圧検出手段と、検出される吸気圧(PBGA)と目標吸気圧(PBGACMD)との偏差である吸気圧偏差(DPBGA)、及び前記要求吸入空気量(GAIRCMD)に応じて、前記スロットル弁の開度(TH)を制御するスロットル弁開度制御手段とを備え、前記スロットル弁開度制御手段は、前記吸気圧偏差(DPBGA)を「0」に収束させる吸気圧フィードバック制御を実行する吸気圧フィードバック制御手段と、前記吸気圧フィードバック制御の応答速度を前記下限リフト量(LFTMIN)に応じて変更する応答速度変更手段とを備え、前記応答速度変更手段は、前記下限リフト量(LFTMIN)が増加するほど前記前記吸気圧フィードバック制御の応答速度を低下させることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記下限リフト量(LFTMIN)が最小値に設定されているときにおける、前記吸気圧フィードバック制御の応答速度は、前記回転数フィードバック制御の応答速度より低い値に設定されることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置において、前記リフト量制限手段は、前記要求吸入空気量(GAIRCMD)が設定空気量(GAPBPARX)以下となる機関運転状態では、前記吸気弁の最大リフト量(LFT)を前記下限リフト量(LFTMIN)に設定することを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記吸気圧フィードバック制御手段は、前記吸気圧偏差(DPBGA)、及び前記吸気圧偏差の過去値(DPBGA(k-1))に設定係数(VPOLEPB)を乗算した値を用いて、切換関数値(σ(k))を算出する切換関数値算出手段を備え、前記切換関数値(σ(k))及び所定ゲイン(KRCH,KADP)を用いて、前記吸気圧フィードバック制御を実行し、前記応答速度変更手段は、前記設定係数(VPOLEPB)を変更することにより前記吸気圧フィードバック制御の応答速度を変更することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記吸気圧フィードバック制御手段は、前記下限リフト量(LFTMIN)が所定閾値(LFTMINTH)以上であるときは、前記吸気圧フィードバック制御を停止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、機関の要求吸入空気量が算出され、要求吸入空気量に応じて吸気弁の最大リフト量が制御されるとともに、機関の運転状態に応じて吸気弁の最大リフト量が下限リフト量に制限される。そして機関のアイドル運転状態において、検出される機関回転数が目標回転数と一致するように要求吸入空気量を補正する回転数フィードバック制御が実行されるとともに、検出される吸気圧と目標吸気圧との偏差である吸気圧偏差、及び要求吸入空気量に応じて、スロットル弁の開度が制御され、吸気圧偏差を「0」に収束させる吸気圧フィードバック制御が実行される。このとき、吸気弁の下限リフト量が増加するほど吸気圧フィードバック制御の応答速度が低下するように制御される。吸気弁の下限リフト量が増加すると、スロットル弁開度の変化に対する吸入空気量の変化感度が増加するので、下限リフト量が増加するほど吸気圧フィードバック制御の応答速度を低下させることにより、回転数フィードバック制御と吸気圧フィードバック制御の干渉を防止し、2つのフィードバック制御の収束性を向上させることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、下限リフト量が最小値に設定されているときにおける吸気圧フィードバック制御の応答速度が、回転数フィードバック制御の応答速度より低い値に設定されるので、回転数フィードバック制御が吸気圧フィードバック制御より優先され、2つのフィードバック制御の干渉を確実に回避することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、要求吸入空気量が設定空気量以下となる機関運転状態では、吸気弁の最大リフト量が下限リフト量に設定される。設定空気量を適切に設定することにより、アイドル運転状態より若干吸入空気量が大きい運転状態においても、下限リフト量に応じて適切な吸気圧フィードバック制御を実行することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、吸気圧偏差、及び吸気圧偏差の過去値に設定係数を乗算した値を用いて、切換関数値が算出され、切換関数値及び所定ゲインを用いて、吸気圧フィードバック制御が実行され、設定係数を変更することにより吸気圧フィードバック制御の応答速度が変更される。通常のPI(比例積分)制御では、比例項ゲインと積分項ゲインを両者のバランスを考慮しつつ変更することにより、フィードバック制御の応答速度の変更を行う必要がある。そのため、応答速度の変更のために複数の比例項ゲイン及び積分項ゲインが設定されたマップを予め用意しておく必要がある。これに対し、切換関数値を用いるフィードバック制御では、切換関数値の算出に適用される設定係数を変更することにより、応答速度を容易に変更することができるので、PI制御によるフィードバック制御に比べて、ゲイン設定のための工数やメモリに格納すべきデータ量を低減することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、下限リフト量が所定閾値以上であるときは、吸気圧フィードバック制御が停止される。吸気弁の下限リフト量が大きい状態では、スロットル弁開度を変更することによる吸気圧の変化感度が増加し、制御の不安定化を招き易くなる。よって、吸気圧フィードバック制御を停止させることにより、制御の不安定化を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】図1に示す弁作動特性可変装置の構成を示す図である。
【図3】図2に示す第1弁作動特性可変機構の概略構成を説明するための図である。
【図4】吸気弁の弁作動特性を示す図である。
【図5】本実施形態における制御の概要を説明するための図である。
【図6】要求吸入空気量(GAIRCMD)を算出する処理のフローチャートである。
【図7】ゲージ圧制御領域において吸気弁の目標リフト量を算出する処理のフローチャートである。
【図8】目標ゲージ圧(PBGACMD)を算出する処理のフローチャートである。
【図9】図7または図8の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図10】目標スロットル弁開度(THCMD)を算出する処理のフローチャートである。
【図11】図10の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図12】応答速度設定パラメータ(VPOLEPB)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関とその制御装置の構成を示す図であり、図2は弁作動特性可変装置の構成を示す図である。図1において、例えば4気筒を有する内燃機関(以下単に「エンジン」という)1は、吸気弁及び排気弁と、これらを駆動するカムを備えるとともに、吸気弁の弁リフト量(最大リフト量)及び開角(開弁期間)を連続的に変更する第1弁作動特性可変機構41と、吸気弁を駆動するカムの、クランク軸回転角度を基準とした作動位相を連続的に変更するカム位相可変機構としての第2弁作動特性可変機構42とを有する弁作動特性可変装置40を備えている。第2弁作動特性可変機構42により吸気弁を駆動するカムの作動位相が変更され、吸気弁の作動位相が変更される。
【0018】
エンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配されている。また、スロットル弁3にはスロットル弁開度(TH)センサ4が連結されており、当該スロットル弁3の開度に応じた電気信号を出力して電子コントロールユニット(以下(ECU)という)5に供給する。スロットル弁3には、スロットル弁3を駆動するアクチュエータ7が接続されており、アクチュエータ7は、ECU5によりその作動が制御される。
【0019】
燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にECU5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。
【0020】
エンジン1の各気筒の点火プラグ15は、ECU5に接続されており、ECU5は点火プラグ15に点火信号を供給し、点火時期制御を行う。
スロットル弁3の下流には吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ8及び吸気温TAを検出する吸気温センサ9が取付けられている。またエンジン1の本体には、エンジン冷却水温TWを検出するエンジン冷却水温センサ10が取り付けられている。これらのセンサの検出信号は、ECU5に供給される。
【0021】
ECU5には、エンジン1のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度位置センサ11及び、エンジン1の吸気弁を駆動するカムが固定されたカム軸の回転角度を検出するカム角度位置センサ12が接続されており、クランク軸の回転角度及びカム軸の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ11は、一定クランク角周期毎(例えば30度周期)に1パルス(以下「CRKパルス」という)と、クランク軸の所定角度位置を特定するパルスを発生する。また、カム角度位置センサ12は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)と、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)でパルス(以下「TDCパルス」という)を発生する。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御及びエンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。なお、カム角度位置センサ12より出力されるTDCパルスと、クランク角度位置センサ11より出力されるCRKパルスとの相対関係からカム軸の実際の作動位相CAINが検出される。
【0022】
ECU5には、エンジン1によって駆動される車両のアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ31、当該車両の走行速度(車速)VPを検出する車速センサ32、及び大気圧PAを検出する大気圧センサ33が接続されている。これらのセンサの検出信号は、ECU5に供給される。
【0023】
弁作動特性可変装置40は、図2に示すように、吸気弁の最大リフト量及び開角(以下単に「リフト量」という)を連続的に変更する第1弁作動特性可変機構41と、吸気弁の作動位相を連続的に変更する第2弁作動特性可変機構42と、吸気弁のリフト量LFTを連続的に変更するためのモータ43と、吸気弁の作動位相を連続的に変更するために、その開度が連続的に変更可能な電磁弁44とを備えている。吸気弁の作動位相を示すパラメータとして、上記カム軸の作動位相CAINが用いられる。電磁弁44には、オイルパン46の潤滑油がオイルポンプ45により、加圧されて供給される。なお、第2弁作動特性可変機構42の具体的な構成は、例えば特開2000−227013号公報に示されている。
【0024】
第1弁作動特性可変機構41は、図3(a)に示すように、カム52が設けられたカム軸51と、シリンダヘッドに軸55aを中心として揺動可能に支持されるコントロールアーム55と、コントロールアーム55を揺動させるコントロールカム57が設けられたコントロール軸56と、コントロールアーム55に支軸53bを介して揺動可能に支持されるとともに、カム52に従動して揺動するサブカム53と、サブカム53に従動し、吸気弁60を駆動するロッカアーム54とを備えている。ロッカアーム54は、コントロールアーム55内に揺動可能に支持されている。
【0025】
サブカム53は、カム52に当接するローラ53aを有し、カム軸51の回転により、軸53bを中心として揺動する。ロッカアーム54は、サブカム53に当接するローラ54aを有し、サブカム53の動きが、ローラ54aを介して、ロッカアーム54に伝達される。
【0026】
コントロールアーム55は、コントロールカム57に当接するローラ55bを有し、コントロール軸56の回動により軸55aを中心として揺動する。図3(a)に示す状態では、サブカム53の動きはロッカアーム54にほとんど伝達されないため、吸気弁60はほぼ全閉の状態を維持する。一方同図(b)に示す状態では、サブカム53の動きがロッカアーム54を介して吸気弁60に伝達され、吸気弁60の上限リフト量LFTMAX(例えば12mm)まで開弁する。
【0027】
したがって、モータ43によりコントロール軸56を回動させることにより、吸気弁60のリフト量LFTを連続的に変更することがきる。本実施形態では、第1弁作動特性可変機構41に、コントロール軸56の回転角度(以下「CS角度」という)CSAを検出するコントロール軸回転角度センサ(以下「CS角度センサ」という)14が設けられており、検出されるCS角度CSAからリフト量LFTが算出される。
【0028】
なお、第1弁作動特性可変機構41の詳細な構成は、特開2008−25418号公報に示されている。
第1弁作動特性可変機構41により、図4(a)に示すように吸気弁のリフト量LFT(及び開角)が変更される。また第2弁作動特性可変機構42により、吸気弁は、同図(b)に実線L3及びL4で示す特性を中心として、カムの作動位相CAINの変化に伴って破線L1,L2で示す最進角位相から、一点鎖線L5,L6で示す最遅角位相までの間の位相で駆動される。
【0029】
ECU5は各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)、CPUで実行される演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路のほか、アクチュエータ7、燃料噴射弁6、モータ43、電磁弁44に駆動信号を供給する出力回路等から構成される。
【0030】
ECU5のCPUは、上記センサの検出信号に応じて、スロットル弁3の開度制御、エンジン1に供給する燃料量(燃料噴射弁6の開弁時間)の制御、並びにモータ43及び電磁弁44による弁作動特性(吸入空気量)の制御を行う。より具体的には、主としてアクセルペダル操作量APに応じてエンジン1の要求吸入空気量GAIRCMDが算出され、吸入空気量GAIRが要求吸入空気量GAIRCMDと一致するように、スロットル弁の目標開度THCMD及び吸気弁の目標リフト量LFTCMDが算出される。そして、スロットル弁開度TH及び吸気弁リフト量LFTが、それぞれ目標開度THCMD及び吸気弁の目標リフト量LFTCMDと一致するようにアクチュエータ7及びモータ43が駆動される。
【0031】
図5は本実施形態における吸入空気量制御の概要を説明するための図であり、図5(a)は、要求吸入空気量GAIRCMDと目標ゲージ圧PBGACMDとの関係を示し、図5(b)は、要求吸入空気量GAIRCMDと吸気弁の目標リフト量LFTCMDの関係を示す。
【0032】
要求吸入空気量GAIRCMDが境界吸入空気量GAPBPARX以下となる運転状態では、吸気弁の目標リフト量LFTCMDが下限リフト量LFTMINに維持され、吸気ゲージ圧PBGA(=PBA−PA)が目標ゲージ圧PBGACMDと一致するように、スロットル弁3の開度THが制御される。以下この制御を行う領域を「ゲージ圧制御領域」という。
【0033】
また要求吸入空気量GAIRCMDが境界吸入空気量GAPBPARXを超える運転状態では、目標ゲージ圧PBGACMDは、基準ゲージ圧PBGASTD(例えば−13.3kPa(−100mmHg))に維持され、吸気弁のリフト量LFTを変更することにより、吸入空気量が制御される。
【0034】
ゲージ圧制御領域では、要求吸入空気量GAIRCMDと目標ゲージ圧PBGACMDとの関係は、下記式(1)で表される。下記式(1)のRGPは、傾きを示す傾きパラメータであり、PBAGA0は図5(a)に示すように要求吸入空気量GAIRCMDが「0」である状態に対応する目標ゲージ圧を示す切片パラメータである。
PBGACMD=RGP×GAIRCMD+PBGA0 (1)
【0035】
エンジンのアイドル運転状態及びアイドル運転状態より若干吸入空気量が大きい低負荷運転状態が、ゲージ圧制御領域に対応する。
【0036】
また本実施形態では、下限リフト量LFTMINは、大気圧PAが低下するほど増加するように変更される。下限リフト量LFTMINの変更により、要求吸入空気量GAIRCMDと目標リフト量LFTCMDとの関係は、図5(b)に破線で示すように変化する。
【0037】
図6は、要求吸入空気量GAIRCMDを算出する処理のフローチャートであり、この処理は所定時間TCAL(例えば10msec)毎にECU5のCPUで実行される。
【0038】
ステップS11では、アクセルペダル操作量AP及びエンジン回転数NEに応じて基本要求吸入空気量GAIRCMDBを算出する。基本要求吸入空気量GAIRCMDBは、アクセルペダル操作量APが増加するほど増加するように設定される。ステップS12ではアイドルフラグFIDLが「1」であるか否かを判別する。アイドルフラグFIDLは、エンジン1がアイドル運転状態にあるとき「1」に設定される。この答が否定(NO)であるときは、要求吸入空気量GAIRCMDを基本要求吸入空気量GAIRCMDBに設定する(ステップS13)。
【0039】
ステップS12でFIDL=1であって、エンジン1がアイドル運転状態にあるときは、エンジン回転数NE及びアイドル運転状態における目標回転数NOBJを下記式(2)に適用し、回転数偏差DNEを算出する。
DNE=NE−NOBJ (2)
【0040】
ステップS15では、回転数偏差DNEを下記式(3)に適用し、回転数偏差積算値IDNEを算出する。式(3)の「k」は、本処理の実行周期で離散化した離散化時刻である。なお、今回値であることをしめす(k)は通常は省略されている。IDNE(k-1)は前回算出値である。
IDNE=IDNE(k-1)+DNE (3)
【0041】
ステップS16では、回転数偏差DNE及び回転数偏差積算値IDNEを下記式(4)に適用し、回転数フィードバック補正項GAIRCMDFBを算出する。式(4)のKPは例えば「0.3」に設定される比例項ゲインであり、KIは例えば「0.01」に設定される積分項ゲインである。
GAIRCMDFB=KP×DNE+KI×IDNE (4)
【0042】
ステップS17では、基本要求吸入空気量GAIRCMDBに回転数フィードバック補正項GAIRCMDFBを加算することにより(下記式(5))、要求吸入空気量GAIRCMDを算出する。
GAIRCMD=GAIRCMDB+GAIRCMDFB (5)
【0043】
図7は、ゲージ圧制御領域において吸気弁の目標リフト量LFTCMDを算出する処理のフローチャートであり、この処理はTDCパルスの発生に同期してECU5のCPUで実行される。
【0044】
ステップS21では、下記式(11)及び(12)により、基準吸入空気量GALTHCMDを補正し、第1補正基準吸入空気量GALTHCMDA及び第2補正基準吸入空気量GALTHCMDFを算出する。基準吸入空気量GALTHCMDは、ゲージ圧制御領域において目標リフト量LFTCMDを設定するために、例えばエンジン冷却水温TWに応じて設定される吸入空気量である。下記式のPASTD及びTASTDは、所定基準状態における大気圧及び吸気温であり、例えば101.3kPa(760mmHg)及び25℃に設定される。
【数1】
式(11)は大気圧PAに応じてた補正を行うものであり、式(12)は大気圧PA及び吸気温TAに応じた補正を行うものである。これらの補正は、大気圧PA及び吸気温TAに依存して空気密度が変化することを考慮して行われる。
【0045】
ステップS22では、目標回転数NOBJ及び基準吸入空気量GALTHCMDに応じて、基準目標リフト量LFTCMDSTDを算出する。本実施形態では、複数の所定エンジン回転数、吸気弁の複数の所定作動位相、及び複数の所定吸気ゲージ圧に対応して、要求吸入空気量GAIRCMDから目標リフト量LFTCMDを算出するための複数のLFTCMDテーブルが予めECU5の記憶回路に格納されている。したがって、ステップS22では、例えば図9(a)に示すように設定された、目標回転数NOBJ、吸気弁の基準作動位相(最遅角位相)CAINSTD、及び基準ゲージ圧PBGASTDに対応するテーブルを選択し、その選択したテーブルを基準吸入空気量GALTHCMDに応じて検索し、基準目標リフト量LFTCMDSTDを算出する。
【0046】
ステップS23では、第1補正基準吸入空気量GALTHCMDAに応じて、図9(a)に示すLFTCMDテーブルを検索し、第1目標リフト量LFTCMDPAを算出する。第1目標リフト量LFTCMDPAは、後述する目標ゲージ圧PBGACMDの算出に適用される。
【0047】
ステップS24では、第2補正基準吸入空気量GALTHCMDFに応じて、図9(a)に示すLFTCMDテーブルを検索し、第2目標リフト量LFTCMDPATAを算出する。第2目標リフト量LFTCMDPATAは、吸気弁のリフト量制御(図示せず)に適用され、実際のリフト量LFTが第2目標リフト量LFTCMDPATAと一致するように、モータ43が制御される。
【0048】
リフト量制御に第2目標リフト量LFTCMDPATAが適用され、大気圧PA及び吸気温TAに応じた制御が行われるため、目標ゲージ圧PBGACMDを吸気温TAに応じて変更する必要がない。よって、大気圧PAに応じた補正のみが行われた第1補正基準吸入空気量GALTHCMDAに対応する第1目標リフト量LFTCMDPAが、目標ゲージ圧PBGACMDの算出に適用される。
【0049】
図8は、目標ゲージ圧PBGACMDを算出する処理のフローチャートであり、この処理は所定時間TCAL毎にECU5のCPUで実行される。
ステップS31では、エンジン回転数NE及び吸気弁作動位相CAINに応じて、基準ゲージ圧PBGASTDに対応するLFTCMDテーブルを選択し、第1目標リフト量LFTCMDPAに応じて、選択したLFTCMDテーブルを逆検索することにより、第1吸入空気量GAIR1を算出する。選択されたLFTCMDテーブルの一例が図9(b)において、実線L11で示されている。
【0050】
ステップS32では、エンジン回転数NE及び吸気弁作動位相CAINに応じて、基準ゲージ圧PBGASTDより低い所定ゲージ圧PBGARL(例えば−66.7kPa(−500mmHg))に対応するLFTCMDテーブルを選択し、第1目標リフト量LFTCMDPAに応じて、選択したLFTCMDテーブルを逆検索することにより、第2吸入空気量GAIR2を算出する。選択されたLFTCMDテーブルの一例が図9(b)において、破線L12で示されている。
【0051】
ステップS33では、基準目標リフト量LFTCMDSTDに応じて境界吸入空気量GAPBPARXを算出する。具体的には、エンジン回転数NE及び吸気弁作動位相CAINに応じて、基準ゲージ圧PBGASTDに対応するLFTCMDテーブルを選択し、基準目標リフト量LFTCMDSTDに応じて、選択したLFTCMDテーブルを逆検索することにより、境界吸入空気量GAPBPARXを算出する。
【0052】
ステップS34では、基準ゲージ圧PBGASTD、所定ゲージ圧PBGARL、第1及び第2吸入空気量GAIR1,GAIR2を、下記式(13)に適用し、前記式(1)の傾きパラメータRGPを算出するとともに、算出した傾きパラメータRGP、境界吸入空気量GAPBPARX、及び基準ゲージ圧PBGASTDを下記式(14)に適用し、切片パラメータPBGA0を算出する。
RGP=(PBGASTD−PBGARL)/(GAIR1−GAIR2)
(13)
PBGA0=PBGASTD−RGP×GAPBPARX (14)
【0053】
ステップS35では、算出された傾きパラメータRGP及び切片パラメータPBGA0と、要求吸入空気量GAIRCMDとを前記式(1)に適用し、目標ゲージ圧PBGACMDを算出する。ステップS36では、算出した目標ゲージ圧PBGACMDが基準ゲージ圧PBGASTDを超えないようにリミット処理を行う。
【0054】
図10は、目標スロットル弁開度THCMDを算出する処理のフローチャートであり、この処理は所定時間TCAL毎にECU5のCPUで実行される。
【0055】
ステップS41では、吸気圧フィードバック制御許可フラグFPBGAFBが「1」であるか否かを判別する。吸気圧フィードバック制御許可フラグFPBGAFBは、吸気弁の下限リフト量LFTMINが所定閾値LFTMINTH(例えば、5mm)より小さい時「1」に設定される。
【0056】
ステップS41の答が否定(NO)、すなわち下限リフト量LFTMINが所定閾値LFTMINTH以上であるときは、吸気圧フィードバック制御項DTHDEGSLDを「0」に設定し(ステップS42)、ステップS48に進む。
【0057】
ステップS41でFPBGAFB=1であるときは、吸気ゲージ圧PBGA及び目標ゲージ圧PBGACMDを下記式(21)に適用し、吸気圧偏差DPBGAを算出する(ステップS43)。
DPBGA=PBGA−PBGACMD (21)
【0058】
ステップS44では、下限リフト量LFTMINに応じて図11(a)に示すVPOLEPBテーブルを検索し、応答速度設定パラメータVPOLEPBを算出する。VPOLEPBテーブルは、応答速度設定パラメータVPOLEPBが「−1」より大きく「0」より小さい範囲において、下限リフト量LFTMINが増加するほど応答速度設定パラメータVPOLEPBが減少するように設定されている。応答速度設定パラメータVPOLEPBは、後述するスライディングモード制御における制御偏差である吸気圧偏差DPBGAの、時間変化に対する減衰特性(応答速度)を指定するパラメータであり、応答速度設定パラメータVPOLEPBが減少するほど、スライディングモード制御の応答速度が低下する。
【0059】
図12は、応答速度設定パラメータVPOLEPBと、吸気圧偏差DPBGAの減衰特性との関係を示すタイムチャートであり、実線L20は、応答速度設定パラメータVPOLEPBが「−1」であるときの特性を示す。また実線L21〜L23は、それぞれ応答速度設定パラメータVPOLEPBが所定値VPL1,VPL2,VPL3に設定されたときの特性を示し、ー1<VPL1<VPL2<VPL3<0なる関係が成立する。
【0060】
本実施形態では、下限リフト量LFTMINが最小値に設定されたときの応答速度設定パラメータVPOLEPBの値、すなわち図11(a)に示す所定パラメータ値VPOLEPB0(応答速度設定パラメータVPOLEPBの最大値)は、吸気圧フィードバック制御の応答速度が回転数フィードバック制御の応答速度より低くなるように設定されている。
【0061】
ステップS45では、下記式(22)により、切換関数値σ(k)を算出する。
σ(k)=DPBGA(k)+VPOLEPB×DPBGA(k-1) (22)
ステップS46では、下記式(23)により切換関数値σ(k)を積算し、積算切換関数値Iσを算出する。
Iσ=Iσ(k-1)+σ(k) (23)
【0062】
ステップS47では、切換関数値σ(k)及び積算切換関数値Iσを下記式(24)に適用し、吸気圧フィードバック制御項DTHDEGSLDを算出する。式(2)のKRCHは例えば「0.3」に設定される到達則ゲインであり、KADPは例えば「0.01」に設定される適応則ゲインである。
DTHDEGSLD=KRCH×σ(k)+KADP×Iσ (24)
【0063】
ステップS48では、要求吸入空気量GAIRCMDに応じて図11(b)に示すABASEテーブルを検索し、スロットル弁3の基本開口面積ABASEを算出する。ステップS49では、基本開口面積ABASEを下記式(25)に適用し、基本目標開口面積ATHCMDBを算出する。
【数2】
【0064】
なお、基本目標開口面積ATHCMDBは、吸気温TA、吸気管開口面積、及び吸気管径に応じた補正係数により補正するようにしてもよい。要求吸入空気量GAIRCMDから基本目標開口面積ATHCMDBを算出する手法は、特開2008−196474号公報に示されている。
【0065】
ステップS50では、吸気圧フィードバック制御項DTHDEGSLD及び基本目標開口面積ATHCMDBを下記式(26)に適用し、スロットル弁3の目標開口面積ATHCMDを算出する。
ATHCMD=ATHCMDB+DTHDEGSLD (26)
【0066】
ステップS51では、目標開口面積ATHCMDに応じて図11(c)に示すTHCMDテーブルを検索し、目標スロットル弁開度THCMDを算出する。
【0067】
ECU5のCPUは、検出されるスロットル弁開度THが目標スロットル弁開度THCMDと一致するように、アクチュエータ7の駆動制御を行う。したがって、上述した回転数フィードバック制御及び吸気圧フィードバック制御を並行して実行することによるスロットル弁開度制御が行われる。
【0068】
以上詳述したように本実施形態では、要求吸入空気量GAIRCMDが算出され、要求吸入空気量GAIRCMDに応じて吸気弁の目標リフト量LFTCMDが算出されるとともに、ゲージ圧制御領域では、目標リフト量LFTCMDが下限リフト量LFTMINに設定される。そしてエンジンのアイドル運転状態において、検出されるエンジン回転数NEが目標回転数NOBJと一致するように算出される回転数フィードバック補正項GAIRCMDFBを用いて回転数フィードバック制御が実行されるとともに、検出される吸気ゲージ圧PBGAと目標ゲージ圧PBGACMDとの偏差である吸気圧偏差DPBGA、及び要求吸入空気量GAIRCMDに応じて、スロットル弁の開度THが制御され、吸気圧偏差DPBGAを「0」に収束させる吸気圧フィードバック制御が実行される。このとき、吸気弁の下限リフト量LFTMINが増加するほど応答速度設定パラメータVPOLEPBが減少するように設定され、吸気圧フィードバック制御の応答速度が低下するように制御される。吸気弁の下限リフト量LFTMINが増加すると、スロットル弁開度THの変化に対する吸入空気量GAIRの変化感度が増加するので、下限リフト量LFTMINが増加するほど吸気圧フィードバック制御の応答速度を低下させることにより、回転数フィードバック制御と吸気圧フィードバック制御の干渉を防止し、2つのフィードバック制御の収束性を向上させることができる。
【0069】
また下限リフト量LFTMINが最小値に設定されているときにおける吸気圧フィードバック制御の応答速度、すなわち吸気圧フィードバック制御応答速度の最大値は、回転数フィードバック制御の応答速度より低い値に設定されるので、回転数フィードバック制御が吸気圧フィードバック制御より常に優先され、2つのフィードバック制御の干渉を確実に回避することができる。
【0070】
また要求吸入空気量GAIRCMDが境界吸入空気量GAPBPARX以下となるゲージ圧制御領域では、吸気弁の目標リフト量LFTCMDが下限リフト量LFTMINに設定される。境界吸入空気量GAPBPARXを適切に設定することにより、アイドル運転状態より若干吸入空気量が大きい運転状態(エンジン回転数NEを目標回転数NOBJに一致させるフィードバック制御を行わない運転状態)においても、下限リフト量LFTMINに応じて適切な吸気圧フィードバック制御を実行することができる。
【0071】
また吸気圧偏差DPBGA、及び吸気圧偏差の過去値DPBGA(k-1)に応答速度設定パラメータVPOLEPBを乗算した値を用いて、切換関数値σ(k)が算出され、切換関数値σ(k)及び制御ゲインKRCH、KADPを用いて、吸気圧フィードバック制御が実行され、応答速度設定パラメータVPOLEPBを変更することにより吸気圧フィードバック制御の応答速度が変更される。通常のPI(比例積分)制御では、比例項ゲインと積分項ゲインを両者のバランスを考慮しつつ変更することにより、フィードバック制御の応答速度の変更を行う必要がある。そのため、応答速度の変更のために複数の比例項ゲイン及び積分項ゲインが設定されたマップを予め用意しておく必要がある。これに対し、切換関数値σ(k)を用いるスライディングモード制御では、切換関数値σ(k)の算出に適用される応答速度設定パラメータVPOLEPBを変更することにより、応答速度を容易に変更することができるので、PI制御によるフィードバック制御に比べて、ゲイン設定のための工数やメモリに格納すべきデータ量を低減することができる。
【0072】
また下限リフト量LFTMINが所定閾値LFTMINTH以上であるときは、吸気圧フィードバック制御項DTHDEGSLDが「0」に設定され(図10,ステップS42)、吸気圧フィードバック制御が停止される。吸気弁の下限リフト量LFTMINが大きい状態では、スロットル弁開度THを変更することによる吸気圧PBAの変化感度が増加し、制御の不安定化を招き易くなる。よって、吸気圧フィードバック制御を停止させることにより、制御の不安定化を回避することができる。
【0073】
本実施形態では、クランク角度位置センサ11及び吸気圧センサ8が、それぞれ機関回転数検出手段及び吸気圧検出手段に相当し、ECU5及びモータ43がリフト量制御手段を構成し、ECU5及びアクチュエータ7がスロットル弁開度制御手段を構成する。さらにECU5が、下限リフト量算出手段、要求吸入空気量算出手段、リフト量制限手段、回転数フィードバック制御手段、吸気圧フィードバック制御手段、応答速度変更手段、及び切換関数値算出手段を構成する。具体的には、図6の処理が要求吸入空気量算出手段に相当し、図8のステップS31〜S33がリフト量制限手段の一部に相当し、図6のステップS14〜S17が回転数フィードバック制御手段に相当する。また図10のステップS43〜S47が吸気圧フィードバック制御手段に相当し、図10のステップS44が応答速度変更手段に相当し、ステップS45が切換関数値算出手段に相当する。
【0074】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、吸気圧フィードバック制御項DTHDEGSLDは、検出される吸気ゲージ圧PBGAを目標ゲージ圧PBGACMDと一致させるように算出するようにしたが、吸気圧PBAを目標吸気圧PBACMD(=PBGACMD+PA)と一致させるように算出するようにしてもよい。
【0075】
また吸気圧フィードバック制御には、スライディングモード制御を適用するようにしたが、他の応答指定型制御であるバックステッピング制御を適用してもよい。また通常のPI(比例積分)制御を適用してもよい。ただし、PI制御を適用する場合には、比例項ゲイン及び積分項ゲインをともに下限リフト量LFTMINに応じて変更することにより、応答速度を変更する必要がある。
【0076】
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの制御にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 内燃機関
2 吸気管
3 スロットル弁
5 電子制御ユニット(スロットル弁開度制御手段、リフト量制御手段、下限リフト量算出手段、要求吸入空気量算出手段、リフト量制限手段、回転数フィードバック制御手段、吸気圧フィードバック制御手段、応答速度変更手段、及び切換関数値算出手段)
7 アクチュエータ(スロットル弁開度制御手段)
8 吸気圧センサ(吸気圧検出手段)
9 吸気温センサ
11 クランク角度位置センサ(機関回転数検出手段)
33 大気圧センサ
41 弁作動特性可変機構(動弁機構)
43 モータ(リフト量制御手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気弁の最大リフト量を連続的に変更可能な動弁機構と、前記機関の吸入空気量を制御するスロットル弁とを備える内燃機関の制御装置において、
前記吸気弁の下限リフト量を算出する下限リフト量算出手段と、
前記機関の要求吸入空気量を算出する要求吸入空気量算出手段と、
前記要求吸入空気量に応じて前記吸気弁の最大リフト量を制御するリフト量制御手段と、
前記機関の運転状態に応じて前記吸気弁の最大リフト量を前記下限リフト量に制限するリフト量制限手段と、
前記機関の回転数を検出する機関回転数検出手段と、
前記機関のアイドル運転状態において、検出される機関回転数が目標回転数と一致するように前記要求吸入空気量を補正する回転数フィードバック制御を実行する回転数フィードバック制御手段と、
前記機関の吸気圧を検出する吸気圧検出手段と、
検出される吸気圧と目標吸気圧との偏差である吸気圧偏差、及び前記要求吸入空気量に応じて、前記スロットル弁の開度を制御するスロットル弁開度制御手段とを備え、
前記スロットル弁開度制御手段は、
前記吸気圧偏差を「0」に収束させる吸気圧フィードバック制御を実行する吸気圧フィードバック制御手段と、
前記吸気圧フィードバック制御の応答速度を前記下限リフト量に応じて変更する応答速度変更手段とを備え、
前記応答速度変更手段は、前記下限リフト量が増加するほど前記吸気圧フィードバック制御の応答速度を低下させることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記下限リフト量が最小値に設定されているときにおける、前記吸気圧フィードバック制御の応答速度は、前記回転数フィードバック制御の応答速度より低い値に設定されることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記リフト量制限手段は、前記要求吸入空気量が設定空気量以下となる機関運転状態では、前記吸気弁の最大リフト量を前記下限リフト量に設定することを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記吸気圧フィードバック制御手段は、前記吸気圧偏差、及び前記吸気圧偏差の過去値に設定係数を乗算した値を用いて、切換関数値を算出する切換関数値算出手段を備え、前記切換関数値及び所定ゲインを用いて、前記吸気圧フィードバック制御を実行し、
前記応答速度変更手段は、前記設定係数を変更することにより前記吸気圧フィードバック制御の応答速度を変更することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記吸気圧フィードバック制御手段は、前記下限リフト量が所定閾値以上であるときは、前記吸気圧フィードバック制御を停止することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項1】
内燃機関の吸気弁の最大リフト量を連続的に変更可能な動弁機構と、前記機関の吸入空気量を制御するスロットル弁とを備える内燃機関の制御装置において、
前記吸気弁の下限リフト量を算出する下限リフト量算出手段と、
前記機関の要求吸入空気量を算出する要求吸入空気量算出手段と、
前記要求吸入空気量に応じて前記吸気弁の最大リフト量を制御するリフト量制御手段と、
前記機関の運転状態に応じて前記吸気弁の最大リフト量を前記下限リフト量に制限するリフト量制限手段と、
前記機関の回転数を検出する機関回転数検出手段と、
前記機関のアイドル運転状態において、検出される機関回転数が目標回転数と一致するように前記要求吸入空気量を補正する回転数フィードバック制御を実行する回転数フィードバック制御手段と、
前記機関の吸気圧を検出する吸気圧検出手段と、
検出される吸気圧と目標吸気圧との偏差である吸気圧偏差、及び前記要求吸入空気量に応じて、前記スロットル弁の開度を制御するスロットル弁開度制御手段とを備え、
前記スロットル弁開度制御手段は、
前記吸気圧偏差を「0」に収束させる吸気圧フィードバック制御を実行する吸気圧フィードバック制御手段と、
前記吸気圧フィードバック制御の応答速度を前記下限リフト量に応じて変更する応答速度変更手段とを備え、
前記応答速度変更手段は、前記下限リフト量が増加するほど前記吸気圧フィードバック制御の応答速度を低下させることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記下限リフト量が最小値に設定されているときにおける、前記吸気圧フィードバック制御の応答速度は、前記回転数フィードバック制御の応答速度より低い値に設定されることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記リフト量制限手段は、前記要求吸入空気量が設定空気量以下となる機関運転状態では、前記吸気弁の最大リフト量を前記下限リフト量に設定することを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記吸気圧フィードバック制御手段は、前記吸気圧偏差、及び前記吸気圧偏差の過去値に設定係数を乗算した値を用いて、切換関数値を算出する切換関数値算出手段を備え、前記切換関数値及び所定ゲインを用いて、前記吸気圧フィードバック制御を実行し、
前記応答速度変更手段は、前記設定係数を変更することにより前記吸気圧フィードバック制御の応答速度を変更することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記吸気圧フィードバック制御手段は、前記下限リフト量が所定閾値以上であるときは、前記吸気圧フィードバック制御を停止することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−270593(P2010−270593A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120446(P2009−120446)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]