説明

内燃機関の制御装置

【課題】EGR装置を備え、燃料カット条件やアイドルストップ条件等が成立して燃焼停止要求が発生した場合にエンジンの燃焼を停止させる燃焼停止制御を実行するシステムにおいて、燃焼停止制御の実行後の再始動性を向上させる。
【解決手段】筒内流入EGRガス量(筒内に流入するEGRガス量)を推定し、その筒内流入EGRガス量を正常燃焼判定閾値と比較して、燃焼停止制御の実行後(燃焼停止後)の再始動時に正常燃焼可能であるか否かを判定し、燃焼停止制御の実行後の再始動時に正常燃焼可能ではない(燃焼状態が不安定になる可能性がある)と判定した場合には、燃焼停止制御の実行を遅延する燃焼停止遅延制御を実行する。その後、燃焼停止遅延制御の実行中に筒内流入EGRガス量に基づいて燃焼停止制御の実行後の再始動時に正常燃焼可能であると判定したときに、燃焼停止遅延制御を解除して燃焼停止制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排出ガスの一部をEGRガスとして吸気通路へ還流させるEGR装置を備えた内燃機関の制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される内燃機関においては、燃費節減や排気エミッション低減等を目的として、排出ガスの一部をEGRガスとして吸気通路へ還流させるEGR装置を搭載するようにしたものがある。また、車両走行中の減速時等に燃料カット条件が成立したときに燃料噴射を停止して内燃機関の燃焼を停止させる燃料カット制御や、車両の停車直前の減速時や停車時等にアイドルストップ条件が成立したときに燃料噴射や点火を停止して内燃機関の燃焼を停止させるアイドルストップ制御を行うようにしたものもある。
【0003】
しかし、EGR装置を搭載した内燃機関は、燃料カット制御やアイドルストップ制御のように内燃機関の燃焼を停止させる燃焼停止制御を実行した場合に、EGR弁が閉弁されても吸気通路内にEGRガスが残留するため、燃焼停止制御の実行後(燃焼停止後)の再始動時に多量のEGRガスが筒内に流入する可能性があり、再始動時に筒内に流入するEGRガス量がEGR限界(正常燃焼可能なEGRガス量の上限値)を越えると、燃焼状態が不安定になって再始動性が悪化する可能性がある。
【0004】
そこで、特許文献1(特開2009−191643号公報)に記載されているように、車両が走行する道路状況に基づいて燃料カット条件が成立するタイミングを予測し、燃料カット条件が成立すると予測したタイミングよりも所定時間前の時点で、内燃機関の吸気系内に存在するEGRガス量を減少させる処理(例えばEGR弁の開度を閉じ側に制御する処理)を行うようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−191643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1の技術では、吸気系内に存在するEGRガス量を減少させる処理を行うようにしているが、実際に筒内に流入するEGRガス量を判定する機能がないため、燃焼停止制御の実行後の再始動時に筒内に流入するEGRガス量が十分に減少していない可能性もあり、このような場合、燃焼状態が不安定になって再始動性が悪化する可能性がある。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、燃焼停止制御の実行後の再始動時に燃焼状態が不安定になることを防止して再始動性を向上させることができる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、内燃機関の排出ガスの一部をEGRガスとして吸気通路へ還流させるEGR装置と、所定の燃焼停止要求が発生した場合に内燃機関の燃焼を停止させる燃焼停止制御を実行する燃焼停止制御手段とを備えた内燃機関の制御装置において、内燃機関の筒内に流入するEGRガス量又はこれに関連性のある情報(以下これらを「筒内流入EGRガス量情報」と総称する)を推定又は検出する筒内流入EGRガス量判定手段と、筒内流入EGRガス量判定手段で推定又は検出した筒内流入EGRガス量情報に基づいて燃焼停止制御の実行を遅延する燃焼停止遅延制御を実行する燃焼停止遅延制御手段とを備えた構成としたものである。
【0009】
この構成では、筒内流入EGRガス量情報を推定又は検出することで、筒内流入EGRガス量(筒内に流入するEGRガス量)を判定することが可能となり、その推定又は検出した筒内流入EGRガス量情報に基づいて燃焼停止制御の実行を遅延する燃焼停止遅延制御を実行することで、燃焼停止要求が発生しても、吸気通路内に残留するEGRガスが掃気されて筒内流入EGRガス量が十分に減少するまでは燃焼停止制御の実行を遅延して、筒内流入EGRガス量が十分に減少してから燃焼停止制御を実行して内燃機関の燃焼を停止させるようにできる。これにより、燃焼停止制御の実行後(燃焼停止後)の再始動時に筒内流入EGRガス量がEGR限界(正常燃焼可能なEGRガス量の上限値)を越えることを回避して、燃焼状態が不安定になることを防止することができ、再始動性を向上させることができる。
【0010】
この場合、請求項2のように、筒内流入EGRガス量情報に基づいて燃焼停止制御の実行後の再始動時に正常燃焼可能であるか否かを判定し、該再始動時に正常燃焼可能ではない(燃焼状態が不安定になる可能性がある)と判定した場合に燃焼停止遅延制御を実行するようにすると良い。このようにすれば、燃焼停止制御の実行後の再始動時に燃焼状態が不安定になることを確実に防止することができる。
【0011】
更に、請求項3のように、燃焼停止遅延制御の実行中に筒内流入EGRガス量情報に基づいて燃焼停止制御の実行後の再始動時に正常燃焼可能であると判定したときに燃焼停止遅延制御を解除するようにすると良い。このようにすれば、燃焼停止遅延制御が必要以上に長くなる(つまり燃焼停止制御の実行を必要以上に遅延する)ことを防止することができる。
【0012】
また、請求項4のように、運転者により内燃機関の停止操作が行われた場合及び/又はエアバッグを作動させるためのエアバック信号が出力された場合に燃焼停止遅延制御を禁止するようにしても良い。このようにすれば、運転者により内燃機関の停止操作(例えばイグニッションスイッチのオフ)が行われた場合や、車両が衝突してエアバック信号が出力された場合には、筒内流入EGRガス量情報に拘らず、速やかに燃焼停止制御を実行して、内燃機関の燃焼を速やかに停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の一実施例における過給機付きエンジン制御システムの概略構成を示す図である。
【図2】図2は燃焼停止遅延制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】図3は筒内流入EGRガス流量の演算方法を説明するブロック図である。
【図4】図4はEGR弁モデルを説明する図である。
【図5】図5はEGRガス遅れモデルを説明するブロック図である。
【図6】図6は吸気管移流遅れモデルを説明する図である。
【図7】図7は燃焼停止遅延制御の実行例を示すタイムチャートである。
【図8】図8は従来の燃焼停止制御の実行例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を過給機付きの内燃機関に適用して具体化した一実施例を説明する。
まず、図1に基づいて過給機付きのエンジン制御システムの構成を概略的に説明する。
内燃機関であるエンジン11の吸気管12(吸気通路)の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に、吸入空気(新気)の流量を検出するエアフローメータ14が設けられている。一方、エンジン11の排気管15(排気通路)には、排出ガス中のCO,HC,NOx等を浄化する三元触媒等の触媒16が設置されている。
【0015】
このエンジン11には、吸入空気を過給する排気タービン駆動式の過給機17が搭載されている。この過給機17は、排気管15のうちの触媒16の上流側に排気タービン18が配置され、吸気管12のうちのエアフローメータ14の下流側にコンプレッサ19が配置されている。この過給機17は、排気タービン18とコンプレッサ19とが一体的に回転するように連結され、排出ガスの運動エネルギで排気タービン18を回転駆動することでコンプレッサ19を回転駆動して吸入空気を過給するようになっている。
【0016】
吸気管12のうちのコンプレッサ19の下流側には、モータ20によって開度調節されるスロットルバルブ21と、このスロットルバルブ21の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ22とが設けられている。
【0017】
更に、スロットルバルブ21の下流側には、吸入空気を冷却するインタークーラがサージタンク23(吸気通路)と一体的に設けられている。尚、サージタンク23やスロットルバルブ21の上流側にインタークーラを配置するようにしても良い。サージタンク23には、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド24(吸気通路)が設けられ、各気筒毎に筒内噴射又は吸気ポート噴射を行う燃料噴射弁(図示せず)が取り付けられている。エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ(図示せず)が取り付けられ、各点火プラグの火花放電によって各気筒内の混合気に着火される。
【0018】
エンジン11の各気筒の排気口には排気マニホールド25が接続され、各気筒の排気マニホールド25の下流側の集合部が排気タービン18の上流側の排気管15に接続されている。また、排気タービン18の上流側と下流側とをバイパスさせる排気バイパス通路26が設けられ、この排気バイパス通路26に、排気バイパス通路26を開閉するウェイストゲートバルブ27が設けられている。
【0019】
このエンジン11には、排気管15から排出ガスの一部をEGRガスとして吸気管12へ還流させるLPL方式(低圧ループ方式)のEGR装置28が搭載されている。このEGR装置28は、排気管15のうちの触媒16の下流側と吸気管12のうちのコンプレッサ19の上流側(スロットルバルブ21の上流側の吸気通路)との間にEGR配管29(EGR通路)が接続され、このEGR配管29に、EGRガスを冷却するEGRクーラ30と、EGRガス流量を調節するEGR弁31が設けられている。このEGR弁31は、モータ等のアクチュエータ(図示せず)によって開度が調整され、EGR弁31を開弁することで排気管15のうちの触媒16の下流側から吸気管12のうちのコンプレッサ19の上流側(スロットルバルブ21の上流側の吸気通路)へEGRガスを還流させるようになっている。
【0020】
また、エンジン11には、吸気バルブ(図示せず)のバルブタイミング(開閉タイミング)を変化させる吸気側可変バルブタイミング機構32と、排気バルブ(図示せず)のバルブタイミングを変化させる排気側可変バルブタイミング機構33が設けられている。その他、エンジン11には、冷却水温を検出する冷却水温センサ34や、クランク軸(図示せず)が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ35等が設けられ、クランク角センサ35の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0021】
これら各種センサの出力は、電子制御ユニット(以下「ECU」と表記する)36に入力される。このECU36は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御用のプログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて、燃料噴射量、点火時期、スロットル開度(吸入空気量)等を制御する。
【0022】
その際、ECU36は、エンジン運転状態(例えばエンジン負荷とエンジン回転速度等)に応じて目標EGR率を算出し、この目標EGR率を実現するようにEGR弁31の開度を制御する。
【0023】
また、ECU36は、車両走行中の減速時等に燃料カット条件が成立して燃焼停止要求が発生したときに燃料噴射を停止してエンジン11の燃焼を停止させる燃料カット制御を実行し、車両の停車直前の減速時や停車時等にアイドルストップ条件が成立して燃焼停止要求が発生したときに燃料噴射及び/又は点火を停止してエンジン11の燃焼を停止させるアイドルストップ制御を実行する。これらの機能が特許請求の範囲でいう燃焼停止制御手段としての役割を果たす。
【0024】
しかし、EGR装置28を搭載したエンジン11は、燃料カット制御やアイドルストップ制御のようにエンジン11の燃焼を停止させる燃焼停止制御を実行した場合に、EGR弁31が閉弁されても吸気管12内にEGRガスが残留するため、燃焼停止制御の実行後(燃焼停止後)の再始動時に多量のEGRガスが筒内に流入する可能性があり、再始動時に筒内に流入するEGRガス量がEGR限界(正常燃焼可能なEGRガス量の上限値)を越えると、燃焼状態が不安定になって再始動性が悪化する可能性がある。
【0025】
この対策として、本実施例では、ECU36により後述する図2の燃焼停止遅延制御ルーチンを実行することで、後述する推定方法(図3乃至図6参照)により筒内流入EGRガス量(筒内に流入するEGRガス量)を推定し、その筒内流入EGRガス量を正常燃焼判定閾値と比較して、燃焼停止制御の実行後(燃焼停止後)の再始動時に正常燃焼可能であるか否かを判定する。その結果、燃焼停止制御の実行後の再始動時に正常燃焼可能ではない(燃焼状態が不安定になる可能性がある)と判定した場合には、燃焼停止制御の実行を遅延する燃焼停止遅延制御を実行する。その後、燃焼停止遅延制御の実行中に筒内流入EGRガス量に基づいて燃焼停止制御の実行後の再始動時に正常燃焼可能であると判定したときに、燃焼停止遅延制御を解除して燃焼停止制御を実行する。
【0026】
以下、本実施例でECU36が実行する図2の燃焼停止遅延制御ルーチンの処理内容を説明する。
図2に示す燃焼停止遅延制御ルーチンは、ECU36の電源オン期間中に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう燃焼停止遅延制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、図示しない筒内流入EGRガス量推定ルーチンを実行することで、後述する推定方法(図3乃至図6参照)により筒内流入EGRガス量を推定する。このステップ101の処理が特許請求の範囲でいう筒内流入EGRガス量判定手段としての役割を果たす。
【0027】
この後、ステップ102に進み、エンジン運転状態(例えばエンジン負荷とエンジン回転速度)と冷却水温に応じた正常燃焼判定閾値をマップ又は数式等により算出する。この正常燃焼判定閾値は、燃焼停止制御の実行後(燃焼停止後)の再始動時に正常燃焼可能な筒内流入EGRガス量の上限値又はそれよりも所定量だけ小さい値に設定される。
【0028】
正常燃焼判定閾値のマップ又は数式等は、例えば、エンジン負荷(例えば吸入空気量や吸気管圧力)が小さくなるほど正常燃焼判定閾値が小さくなると共に、エンジン回転速度が低くなるほど正常燃焼判定閾値が小さくなり、更に、冷却水温が低くなるほど正常燃焼判定閾値が小さくなるように設定されている。この正常燃焼判定閾値のマップ又は数式等は、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU36のROMに記憶されている。
【0029】
この後、ステップ103に進み、筒内流入EGRガス量を正常燃焼判定閾値と比較して、燃焼停止制御の実行後の再始動時に正常燃焼可能であるか否かを判定する。
このステップ103で、筒内流入EGRガス量が正常燃焼判定閾値よりも大きいと判定された場合には、燃焼停止制御の実行後の再始動時に正常燃焼可能ではない(燃焼状態が不安定になる可能性がある)と判断するが、ステップ104に進み、運転者によりエンジン停止操作(例えばイグニッションスイッチのオフ)が行われたか否か又はエアバッグを作動させるためのエアバック信号が出力されたか否かを判定する。
【0030】
このステップ104で、運転者によりエンジン停止操作が行われたと判定された場合又はエアバック信号が出力されたと判定された場合には、ステップ106に進み、燃焼停止制御を許可して、燃焼停止遅延制御を禁止する。これにより、運転者によりエンジン停止操作が行われて燃焼停止要求が発生した場合や、車両が衝突してエアバック信号が出力されて燃焼停止要求が発生した場合には、速やかに燃焼停止制御を実行して、エンジン11の燃焼を速やかに停止させる。
【0031】
一方、上記ステップ104で、運転者によりエンジン停止操作が行われていないと判定され、且つ、エアバック信号が出力されていないと判定された場合には、ステップ105に進み、燃焼停止制御を禁止する。これにより、燃料カット条件やアイドルストップ条件が成立して燃焼停止要求が発生していても、燃焼停止制御の実行を遅延する燃焼停止遅延制御を実行して、エンジン11の燃焼(燃料噴射及び点火)を継続する。
【0032】
その後、燃焼停止遅延制御の実行中に、上記ステップ103で、筒内流入EGRガス量が正常燃焼判定閾値以下である判定された場合には、燃焼停止制御の実行後の再始動時に正常燃焼可能であると判断して、ステップ106に進み、燃焼停止制御を許可する。これにより、燃焼遅延制御を解除して、燃料噴射や点火を停止してエンジン11の燃焼を停止させる燃焼停止制御を実行する。
【0033】
次に、図3乃至6を用いて筒内流入EGRガス量の推定方法を説明する。
本実施例のように、吸気管12のうちのコンプレッサ19の上流側(スロットルバルブ21の上流側の吸気通路)にEGRガスを還流させるLPL方式のEGR装置28を採用したシステムの場合には、ECU36により筒内流入EGRガス流量を次のようにして演算(推定)する。
【0034】
図3に示すように、筒内流入総ガス流量演算部37では、まず、吸気管12内を流れる気体がスロットルバルブ21を通過する挙動を模擬したスロットルモデル39を用いて、スロットル通過総ガス流量(スロットルバルブ21を通過する総ガス流量)を演算する。尚、スロットルモデル39として、例えば特許文献1(特開2008−101626号公報)に記載されたスロットルモデルを使用しても良い。
【0035】
この後、スロットルバルブ21を通過した気体がスロットルバルブ21の下流側の吸気通路(サージタンク23や吸気マニホールド24等)内に充填される挙動を模擬したインマニモデル40を用いて、スロットル通過総ガス流量と筒内流入総ガス流量の前回値とに基づいてインマニ圧力(スロットルバルブ21の下流側の吸気通路内の圧力)を演算する。尚、インマニモデル40として、例えば特許文献1(特開2008−101626号公報)に記載された吸気管モデルを使用しても良い。
【0036】
この後、スロットルバルブ21の下流側の吸気通路に充填された気体が筒内に吸入される挙動を模擬した吸気弁モデル41を用いて、インマニ圧力に基づいて筒内流入総ガス流量(=筒内流入新気流量+筒内流入EGRガス流量)を演算する。尚、吸気弁モデル41として、例えば特許文献1(特開2008−101626号公報)に記載された吸気弁モデルを使用しても良い。
【0037】
一方、筒内流入EGRガス流量演算部38では、まず、EGR配管29内を流れるEGRガスがEGR弁31を通過する挙動を模擬したEGR弁モデル42を用いて、EGR弁通過ガス流量(EGR弁31を通過するEGRガス流量)を演算する。
【0038】
図4に示すように、EGR弁モデル42は、EGR弁31の開度とスロットル通過総ガス流量とEGR弁通過ガス流量との関係を規定するマップにより構築され、このEGR弁通過ガス流量のマップを用いて、EGR弁31の開度とスロットル通過総ガス流量とに応じたEGR弁通過ガス流量を演算する。EGR弁通過ガス流量のマップは、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU36のROMに記憶されている。
【0039】
或は、EGR弁モデル42を、EGR弁31の開度とEGR弁31の上流側の圧力Pin及び下流側の圧力Pout とEGR弁通過ガス流量Megr との関係を規定する物理式により構築するようにしても良い。
具体的には、次の絞りの式(オリフィスの式)でEGR弁モデル42を近似する。
【0040】
【数1】

【0041】
ここで、Cは流量係数で、AはEGR弁31の開度に応じて変化するEGR配管29の開口断面積である。また、Rは気体定数で、Tegr はEGR弁31の上流側のEGRガスの温度であり、Φ(Pout /Pin)は(Pout /Pin)を変数とする関数である。
【0042】
この場合、上記の絞りの式(オリフィスの式)を用いて、EGR弁31の開度とEGR弁31の上流側の圧力Pin及び下流側の圧力Pout とEGRガスの温度とに基づいてEGR弁通過ガス流量Megr を演算する。
【0043】
この後、EGR弁31を通過したEGRガスがスロットルバルブ21を通過して筒内に流入するまでの挙動を模擬したEGRガス遅れモデル43(図3参照)を用いて、EGR弁通過ガス流量の演算値に基づいて筒内流入EGRガス流量を演算する。
【0044】
図5に示すように、EGRガス遅れモデル43は、EGR弁31を通過したEGRガスがスロットルバルブ21の上流側の吸気通路(吸気管12のうちのコンプレッサ19の上流側)に流入する挙動を模擬した新気合流遅れモデル44と、スロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入したEGRガスがスロットルバルブ21を通過するまでの挙動を模擬した吸気管移流遅れモデル45と、スロットルバルブ21を通過したEGRガスがスロットルバルブ21の下流側の吸気通路(サージタンク23や吸気マニホールド24等)に充填される挙動を模擬したインマニ充填遅れモデル46と、スロットルバルブ21の下流側の吸気通路に充填されたEGRガスが吸気ポートを通過して筒内に流入するまでの挙動を模擬した吸気ポート移流遅れモデル47とから構成されている。
【0045】
これにより、EGRガスがスロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入する際の遅れと、スロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入したEGRガスがスロットルバルブ21を通過するまでの移流遅れと、スロットルバルブ21を通過したEGRガスがスロットルバルブ21の下流側の吸気通路に充填される際の充填遅れと、スロットルバルブ21の下流側の吸気通路に充填されたEGRガスが吸気ポートを通過して筒内に流入するまでの移流遅れを、筒内流入EGRガス流量の演算に反映させることができ、筒内流入EGRガス流量の推定精度を高めることができる。
【0046】
筒内流入EGRガス流量を演算する場合には、まず、新気合流遅れモデル44を用いて、EGR弁通過ガス流量Megr(a)に基づいてスロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入するEGRガス流量Megr(b)を演算する。
【0047】
新気合流遅れモデルは、下記(1)式で近似されている。
Megr(b)={K1 /(τ1 +1)}×Megr(a) ……(1)
上記(1)式の係数K1 と時定数τ1 は、それぞれEGR配管29(EGR弁31から吸気管12との合流部までの部分)の配管径と長さ、吸気管12の配管径等によって決まる値であり、予め試験データや設計データ等に基づいて算出される。
【0048】
この後、吸気管移流遅れモデル45を用いて、スロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入するEGRガス流量Megr(b)とスロットル通過総ガス流量Mthとに基づいてスロットルバルブ21を通過するEGRガス流量Megr(c)を演算する。
【0049】
図6に示すように、吸気管移流遅れモデル45は、スロットルバルブ21の上流側の吸気通路に流入したEGRガスがスロットルバルブ21を通過するまでの連続時間系の挙動を任意時間で離散化した行列(例えばサンプル時間16ms毎に離散化した32個の行列)により構築され、データを先入れ先出しのリスト構造で保持するキューを備えている。一般に、吸気管12内のEGRガスの移送速度は、ECU36の演算処理速度と比較して十分に遅いため、任意時間で離散化した行列により吸気管移流遅れモデル45を構築することができる。この吸気管移流遅れモデル45で用いる各種の係数は、それぞれ吸気管12(EGR配管29との合流部からスロットルバルブ21までの部分)の配管径と長さ等によって決まる値であり、予め試験データや設計データ等に基づいて算出される。
【0050】
この後、図5に示すように、インマニ充填遅れモデル46を用いて、スロットルバルブ21を通過するEGRガス流量Megr(c)に基づいてスロットルバルブ21の下流側の吸気通路(サージタンク23や吸気マニホールド24等)に充填されるEGRガス流量Megr(d)を演算する。
【0051】
インマニ充填遅れモデル46は、下記(2)式で近似されている。
Megr(d)={K2 /(τ2 +1)}×Megr(c) ……(2)
【0052】
上記(2)式の係数K2 とインマニ充填遅れ時定数τ2 は、それぞれスロットルバルブ21の下流側の吸気通路(吸気管12のうちのスロットルバルブ21の下流側の部分、サージタンク23、吸気マニホールド24等)の配管径と長さと容積等によって決まる値であり、予め試験データや設計データ等に基づいて算出される。尚、インマニモデル40でインマニ充填遅れ時定数を用いる場合には、インマニモデル40で用いたインマニ充填遅れ時定数をインマニ充填遅れモデル46で使用するようにしても良い。
【0053】
この後、吸気ポート移流遅れモデル47を用いて、スロットルバルブ21の下流側の吸気通路に充填されるEGRガス流量Megr(d)と筒内流入総ガス流量の前回値とに基づいて筒内流入EGRガス流量Megr(e)を演算する。
【0054】
吸気ポート移流遅れモデル47は、スロットルバルブ21の下流側の吸気通路に充填されたEGRガスが吸気ポートを通過して筒内に流入するまでの連続時間系の挙動を任意時間で離散化した行列により構築され、データを先入れ先出しのリスト構造で保持するキューを備えている。この吸気ポート移流遅れモデル47で用いる各種の係数は、それぞれ吸気ポートの配管径と長さ等によって決まる値であり、予め試験データや設計データ等に基づいて算出される。
【0055】
図8に示すように、従来の燃焼停止制御では、例えばアクセル開度の全閉時にアイドルストップ条件が成立して燃焼停止要求が発生した時点t1 で、燃焼停止フラグをON(オン)して、燃料噴射や点火を停止してエンジン11の燃焼を停止させる燃焼停止制御を実行する。この場合、EGR弁31が閉弁されても吸気管12内にEGRガスが残留するため、燃焼停止制御の実行後(燃焼停止後)に再始動条件が成立して再始動する時点t2 で、多量のEGRガスが筒内に流入する可能性があり、再始動時に筒内に流入するEGRガス量がEGR限界(正常燃焼可能なEGRガス量の上限値)を越えると、燃焼状態が不安定になって失火が発生して再始動性が悪化する可能性がある。
【0056】
これに対して、図7に示すように、本実施例では、例えばアクセル開度の全閉時にアイドルストップ条件が成立して燃焼停止要求が発生した時点t1 で、筒内流入EGRガス量が正常燃焼判定閾値よりも大きい場合には、燃焼停止制御の実行後(燃焼停止後)の再始動時に正常燃焼可能ではない(燃焼状態が不安定になる可能性がある)と判断して、燃焼停止フラグをOFF(オフ)に維持して燃焼停止制御を禁止する。これにより、燃焼停止要求が発生していても、燃焼停止制御の実行を遅延する燃焼停止遅延制御を実行して、エンジン11の燃焼(燃料噴射及び点火)を継続する。
【0057】
その後、燃焼停止遅延制御の実行中に、筒内流入EGRガス量が正常燃焼判定閾値以下になった時点t2 で、燃焼停止制御の実行後の再始動時に正常燃焼可能であると判断して、燃焼停止フラグをON(オン)して燃焼停止制御を許可する。これにより、燃焼遅延制御を解除して、燃料噴射や点火を停止してエンジン11の燃焼を停止させる燃焼停止制御を実行する。
【0058】
以上説明した本実施例では、筒内流入EGRガス量(筒内に流入するEGRガス量)を推定するようにしたので、筒内流入EGRガス量を判定することが可能となり、その推定した筒内流入EGRガス量に基づいて燃焼停止制御の実行を遅延する燃焼停止遅延制御を実行するようにしたので、燃焼停止要求が発生しても、吸気管12内に残留するEGRガスが掃気されて筒内流入EGRガス量が十分に減少するまでは燃焼停止制御の実行を遅延して、筒内流入EGRガス量が十分に減少してから燃焼停止制御を実行してエンジン11の燃焼を停止させるようにできる。これにより、燃焼停止制御の実行後(燃焼停止後)の再始動時に筒内流入EGRガス量がEGR限界(正常燃焼可能なEGRガス量の上限値)を越えることを回避して、燃焼状態が不安定になることを防止することができ、再始動性を向上させることができる。
【0059】
また、本実施例では、筒内流入EGRガス量を正常燃焼判定閾値と比較して、燃焼停止制御の実行後の再始動時に正常燃焼可能であるか否かを判定し、再始動時に正常燃焼可能ではない(燃焼状態が不安定になる可能性がある)と判定した場合に、燃焼停止遅延制御を実行するようにしたので、燃焼停止制御の実行後の再始動時に燃焼状態が不安定になることを確実に防止することができる。
【0060】
更に、本実施例では、燃焼停止遅延制御の実行中に筒内流入EGRガス量が正常燃焼判定閾値以下になって、燃焼停止制御の実行後の再始動時に正常燃焼可能であると判定したときに、燃焼停止遅延制御を解除して、燃焼停止制御を実行するようにしたので、燃焼停止遅延制御が必要以上に長くなる(つまり燃焼停止制御の実行を必要以上に遅延する)ことを防止することができる。
【0061】
また、本実施例では、運転者によりエンジン停止操作(例えばイグニッションスイッチのオフ)が行われた場合やエアバッグを作動させるためのエアバック信号が出力された場合に、燃焼停止遅延制御を禁止するようにしたので、運転者によりエンジン停止操作が行われた場合や、車両が衝突してエアバック信号が出力された場合には、筒内流入EGRガス量に拘らず、速やかに燃焼停止制御を実行して、エンジン11の燃焼を速やかに停止させることができる。
【0062】
尚、上記実施例では、EGRガス流量の挙動を模擬したモデルを用いて筒内流入EGRガス量を演算(推定)するようにしたが、筒内流入EGRガス量の推定方法は、これに限定されず、適宜変更しても良く、例えば、吸気管圧力センサやエアフローメータの出力信号等に基づいて筒内流入EGRガス量を演算(推定)するようにしても良い。また、筒内流入EGRガス量の情報として、吸気管12内に残留するEGRガス量をセンサで検出するようにしても良い。或は、筒内流入EGRガス量の情報として、筒内流入EGR率、筒内流入CO量、筒内流入CO濃度等を推定又は検出するようにしても良い。
【0063】
また、上記実施例では、燃料カット条件やアイドルストップ条件が成立して燃焼停止要求が発生した場合に燃焼停止制御を実行するシステムに本発明を適用したが、これに限定されず、例えば、エンジンとモータの両方を動力源とするハイブリッド車において、モータの動力のみで走行するモータ走行条件等が成立して燃焼停止要求が発生した場合に燃焼停止制御を実行するシステムに本発明を適用するようにしても良い。
【0064】
また、上記実施例では、排気管15のうちの触媒16の下流側から吸気管12のうちのコンプレッサ19の上流側へEGRガスを還流させるLPL方式(低圧ループ方式)のEGR装置28を採用した過給機付きエンジンに本発明を適用したが、これに限定されず、例えば、排気管のうちの排気タービンの上流側から吸気管のうちのスロットルバルブの下流側へEGRガスを還流させるHPL方式(高圧ループ方式)のEGR装置を採用した過給機付きエンジンに本発明を適用しても良い。
【0065】
更に、本発明は、排気タービン駆動式の過給機(いわゆるターボチャージャ)を搭載したエンジンに限定されず、機械駆動式の過給機(いわゆるスーパーチャージャ)や電動式の過給機を搭載したエンジンに適用しても良い。
【0066】
その他、本発明は、過給機付きエンジンに限定されず、過給機を搭載していない自然吸気エンジン(NAエンジン)に適用しても良い。
【符号の説明】
【0067】
11…エンジン(内燃機関)、12…吸気管(吸気通路)、15…排気管、17…過給機、21…スロットルバルブ、23…サージタンク、24…吸気マニホールド、28…EGR装置、29…EGR配管(EGR通路)、31…EGR弁、36…ECU(燃焼停止制御手段,筒内流入EGRガス量判定手段,燃焼停止遅延制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排出ガスの一部をEGRガスとして吸気通路へ還流させるEGR装置と、所定の燃焼停止要求が発生した場合に内燃機関の燃焼を停止させる燃焼停止制御を実行する燃焼停止制御手段とを備えた内燃機関の制御装置において、
内燃機関の筒内に流入するEGRガス量又はこれに関連性のある情報(以下これらを「筒内流入EGRガス量情報」と総称する)を推定又は検出する筒内流入EGRガス量判定手段と、
前記筒内流入EGRガス量判定手段で推定又は検出した筒内流入EGRガス量情報に基づいて前記燃焼停止制御の実行を遅延する燃焼停止遅延制御を実行する燃焼停止遅延制御手段と
を備えていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記燃焼停止遅延制御手段は、前記筒内流入EGRガス量情報に基づいて前記燃焼停止制御の実行後の再始動時に正常燃焼可能であるか否かを判定し、該再始動時に正常燃焼可能ではないと判定した場合に前記燃焼停止遅延制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記燃焼停止遅延制御手段は、前記燃焼停止遅延制御の実行中に前記筒内流入EGRガス量情報に基づいて前記燃焼停止制御の実行後の再始動時に正常燃焼可能であると判定したときに前記燃焼停止遅延制御を解除することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記燃焼停止遅延制御手段は、運転者により内燃機関の停止操作が行われた場合及び/又はエアバッグを作動させるためのエアバック信号が出力された場合に前記燃焼停止遅延制御を禁止する手段を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−246849(P2012−246849A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119728(P2011−119728)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】