説明

内燃機関の始動制御装置

【課題】エタノール濃度に関わらず良好な始動性を得ることができる内燃機関の始動制御装置を提供する。
【解決手段】ガソリンとエタノールとの混合燃料によってエンジン20を運転すると共に、モータ68によって吸入空気量を調整するスロットルバルブ69を駆動するようにした内燃機関の始動制御装置において、モータ68および燃料噴射装置66を制御する制御部38と、混合燃料のエタノール混合比率としてのエタノール濃度Cを検知するエタノール濃度センサ61と、燃料噴射を禁止したままクランキングを行う空クランキング制御を実行する回数Nを少なくともエタノール濃度Cに基づいて導出する空クランキング回数設定部51とを具備する。制御部38は、エンジン20の始動時に、スロットルバルブ69を予め定められた所定開度θ1に駆動すると共に、空クランキング制御を導出された回数Nだけ実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の始動制御装置に係り、特に、ガソリンとエタノールとの混合燃料で走行可能な車両に適用される内燃機関の始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガソリンとエタノールとの混合燃料で走行可能なFFM(Flex Fuel Motorcycle)車両が知られている。エタノールは、ガソリンに比して引火下限温度が高く、また、気化潜熱が大きいという特性を有するため、FFM車両では、エタノールの混合比率(以下、エタノール濃度)にかかわらず適切な燃焼が実現されるように、エタノール濃度に応じて燃料噴射量や点火時期等を自動調整するシステムを備えることがある。
【0003】
特許文献1には、モータでスロットルバルブを駆動するTBW(Throttle By Wire)システムを備えたFFM車両において、エタノール濃度に応じて、スロットルバルブの開度変化量の上下限値を規制するようにした制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−293400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、エンジン始動直後におけるスロットルバルブの開度制御に関するものであり、エンジンの始動性を向上させるために、エタノール濃度に応じてエンジンの始動時に実行する制御に関しては考慮されていなかった。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、エタノール濃度に関わらず良好な始動性を得ることができる内燃機関の始動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、ガソリンとエタノールとの混合燃料によってエンジン(20)を運転すると共に、モータ(68)によって吸入空気量を調整するスロットルバルブ(69)を駆動するようにした内燃機関の始動制御装置において、前記モータ(68)および燃料噴射装置(66)を制御する制御部(38)と、前記混合燃料のエタノール混合比率としてのエタノール濃度(C)を検知するエタノール濃度センサ(61)と、燃料噴射を禁止したままクランキングを行う空クランキング制御を実行する回数(N)を、少なくとも前記エタノール濃度(C)に基づいて導出する空クランキング回数設定部(51)とを具備し、前記制御部(38)は、前記エンジン(20)の始動時に、前記スロットルバルブ(69)を予め定められた所定開度(θ1)に駆動すると共に、前記空クランキング制御を前記空クランキング回数設定部(51)によって導出された回数(N)だけ行う点に第1の特徴がある。
【0008】
また、前記制御部(38)は、前記空クランキング制御が前記導出された回数(N)に到達すると、前記スロットルバルブ(69)を予め定められた始動時開度(θ2)に設定して燃料噴射の禁止を解除するように設定されており、前記始動時開度(θ2)は、前記所定開度(θ1)より小さく、かつ前記エンジン(20)のアイドリング運転に適した値である点に第2の特徴がある。
【0009】
また、前記導出された回数(N)は、前記エンジン(20)が前回停止する際に記憶された前記エタノール濃度(C)に基づいて導出され、前記所定開度(θ1)は、前記エンジン(20)のシリンダ内空気量に対する吸入空気量の比率としての吸入空気量比が、前記スロットルバルブ(69)の全閉時に比して大きくなるように設定された開度である点に第3の特徴がある。
【0010】
また、前記導出された回数(N)は、前記エタノール濃度(C)、前記エンジン(20)を代表するエンジン温度(TE)および吸入空気の吸入空気温度(TA)を、前記制御部(38)に収納される三次元マップ(51a)に適用することで導出される点に第4の特徴がある。
【0011】
また、前記導出された回数(N)は、前記エタノール濃度(C)の増加に応じて増える点に第5の特徴がある。
【0012】
また、前記所定開度(θ1)は、可能な限り小さな値で前記吸入空気量比が得られる開度である点に第6の特徴がある。
【0013】
また、前記空クランキング制御の実行を知らせる報知手段(76,83)を備える点に第7の特徴がある。
【0014】
また、前記空クランキング制御は、クランキングを実行するためのスタータボタンの押圧操作に伴って開始され、その後の乗員の操作にかかわらず、前記導出された回数(N)に到達するまで継続される点に第8の特徴がある。
【0015】
さらに、前記三次元マップ(51a)は、前記エタノール濃度(C)が増えるにつれて前記導出された回数(N)が増加すると共に、エンジン温度(TE)および吸入空気温度(TA)が低くなるにつれて前記導出された回数(N)が増加するように設定されている点に第9の特徴がある。
【発明の効果】
【0016】
第1の特徴によれば、モータおよび燃料噴射装置を制御する制御部と、混合燃料のエタノール混合比率としてのエタノール濃度を検知するエタノール濃度センサと、燃料噴射を禁止したままクランキングを行う空クランキング制御を実行する回数を、少なくともエタノール濃度に基づいて導出する空クランキング回数設定部とを具備し、制御部は、エンジンの始動時にスロットルバルブを予め定められた所定開度に駆動すると共に、空クランキング制御を空クランキング回数設定部によって導出された回数だけ行うので、エタノール濃度が高いほか、外気温が低い等でエンジンの始動性が低下していると推測される場合に、燃料噴射を伴わない空クランキングによる圧縮断熱でシリンダの温度を上昇させることができる。これにより、燃料噴射開始時に混合燃料の気化が促進されて始動性が向上するため、エンジンが始動するまでのクランキング時間を短縮し、スタータモータやバッテリの負担を低減することが可能となる。
【0017】
また、空クランキング制御時に、スロットルバルブが自動的に所定開度に駆動されるので、乗員のスロットル操作にかかわらず圧縮断熱が効率よく実行される開度で空クランキング制御を実行することが可能となる。
【0018】
第2の特徴によれば、制御部は、空クランキング制御が導出された回数に到達すると、スロットルバルブを予め定められた始動時開度に設定して燃料噴射の禁止を解除するように設定されており、始動時開度は、所定開度より小さく、かつエンジンのアイドリング運転に適した値であるので、空クランキング制御が完了すると、スロットルバルブ開度が空クランキング時の所定開度から始動時開度に直ちに変更されることとなり、速やかな始動が可能となる。
【0019】
第3の特徴によれば、導出された回数は、エンジンが前回停止する際に記憶されたエタノール濃度に基づいて導出され、所定開度は、エンジンのシリンダ内空気量に対する吸入空気量の比率としての吸入空気量比が、スロットルバルブの全閉時に比して大きくなるように設定された開度であるので、メインスイッチをオンにした際に、新たにエタノール濃度を検知せずに、すでに記憶されているエタノール濃度を用いることで空クランキング回数を迅速に導出できる。また、空クランキング制御中のスロットルバルブの所定開度を予め実験等で定めることにより、断熱圧縮の効果が最も高いスロットルバルブ開度で空クランキング制御を実行することが容易となる。
【0020】
第4の特徴によれば、導出された回数は、エタノール濃度、エンジンを代表するエンジン温度および吸入空気の吸入空気温度を、制御部に収納される三次元マップに適用することで導出されるので、予め定められた三次元マップを用いることにより、空クランキング制御の回数を容易に導出することが可能となる。
【0021】
第5の特徴によれば、導出された回数は、エタノール濃度の増加に応じて増えるので、エタノール濃度の増加に伴って、混合燃料がより気化しにくくなっても、これに応じて断熱圧縮の回数が増えるため、良好な始動性を保つことができる。
【0022】
第6の特徴によれば、所定開度は、可能な限り小さな値で吸入空気量比が得られる開度であるので、空クランキング制御中に適用されるスロットルバルブ所定開度と、始動時開度との差異を可能な限り小さくすることで、空クランキング制御が終了して通常運転に移行する際に、スロットルバルブの駆動に要する時間を短縮することが可能となる。これにより、空クランキング制御から通常運転へのスムーズな移行が可能となる。
【0023】
第7の特徴によれば、空クランキング制御の実行を知らせる報知手段を備えるので、空クランキング制御の実行条件が満たされていることや、空クランキング制御が実行中であることを乗員に認識させて、スタータボタンを操作してもなかなかエンジンがかからないという違和感を乗員に与えることを防ぐことができる。また、空クランキング制御が導出された回数実行される前にスタータボタンが放された場合にも、迅速な継続操作を促して、エンジンが始動する前に再び冷えてしまうことを防止できる。
【0024】
第8の特徴によれば、空クランキング制御は、クランキングを実行するためのスタータボタンの押圧操作に伴って開始され、その後の乗員の操作にかかわらず、導出された回数に到達するまで継続されるので、空クランキング制御が導出された回数に到達する前にスタータボタンが離されることによって温まりかけたシリンダが再び冷えてしまうことを防止できる。
【0025】
第9の特徴によれば、三次元マップは、エタノール濃度が増えるにつれて導出された回数が増加すると共に、エンジン温度および吸入空気温度が低くなるにつれて導出された回数が増加するように設定されているので、混合燃料が気化しにくくなるにつれて空クランキングの回数が増えることとなり、エタノール濃度、エンジン温度および吸入空気温度の変化にかかわらず良好な始動性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の始動制御装置を適用した自動二輪車の側面図である。
【図2】本実施形態に係る内燃機関の始動制御装置の全体構成を示すブロック図である。
【図3】本実施形態に係る始動時空クランキング制御の手順を示すフローチャートである。
【図4】空クランキング時開度を設定するための内燃機関の特性グラフである。
【図5】空クランキング回数とエンジン温度と吸入空気温度との関係を示す三次元マップである。
【図6】エタノール濃度と空クランキング回数との関係を示すグラフである。
【図7】メータ装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関の始動制御装置を適用した自動二輪車1の側面図である。自動二輪車1は、ガソリンとエタノールとの混合燃料によって走行可能なFFM車両である。モノバックボーン形のメインフレーム2の前端部に設けられたヘッドパイプ5には、不図示のステアリングステムが回動自在に軸支されている。該ステアリングステムには、前輪WFを回転可能に軸支する左右一対のフロントフォーク13が、トップブリッジ11およびボトムブリッジ12を介して回動自在に取り付けられている。前輪WFは、トップブリッジ11の上部に取り付けられたハンドルバー14によって操舵可能に構成されている。ハンドルバー14の両端部にはハンドルグリップ35が取り付けられている。
【0028】
中空構造とされるメインフレーム2は、プレス鋼板で形成された上側部材と下側部材とを車体上下方向でスポット溶接することで形成されている。メインフレーム2の前方には、車幅方向中央で下方に延びる前側エンジンハンガ7が取り付けられている。プレス鋼板で形成される前側エンジンハンガ7は、その上縁部をメインフレーム2の下側部材に車幅方向でスポット溶接することでメインフレーム2に接合されている。前側エンジンハンガ7の下端部には、エンジン20を支持するエンジンマウント10が設けられている。
【0029】
前側エンジンハンガ7の後方には、車幅方向中央で下方に延びる後側エンジンハンガ6が取り付けられている。また、ピボット軸30の周囲で、後側エンジンハンガ6の車幅方向外側には、左右一対のリヤクッションユニット支持フレーム8がスポット溶接によって接合されている。リヤクッションユニット支持フレーム8は、シートフレーム9の後端部まで延びる形状とされており、メインフレーム2の上側部材と接合されることでシートフレーム9の下面側を構成する。さらに、ピボット軸30の周囲で、リヤクッションユニット支持フレーム8の車幅方向外側には、車幅方向の最も外側でピボット軸30を支持する左右一対のピボットプレート31が取り付けられている。
【0030】
メインフレーム2の後方下部には、後輪WRを回転可能に軸支するスイングアーム32が、ピボット軸30によって揺動自在に軸支されている。スイングアーム32の後部は、リヤクッションユニット34によってシートフレーム9に吊り下げられている。エンジン20の回転動力は、ドライブチェーン33を介して後輪WRに伝達される。
【0031】
ピボット軸30の前方かつメインフレーム2の下方には、シリンダ21およびシリンダヘッド22を有するエンジン20が配設されている。シリンダヘッド22の後方には、吸気量を制御するバタフライ式のスロットルバルブや燃料噴射装置のインジェクタが収納されたスロットルボディ25が取り付けられている。
【0032】
スロットルボディ25の後方には、エアクリーナボックス24が接続されている。また、スロットルボディ25の車幅方向左側には、エタノールとの混合燃料を使用する際に生じる不純物を除去する二次燃料フィルタ26が配設されており、エアクリーナボックス24の車幅方向左側には、バッテリ23が配設されている。エンジン20の前方側には、燃焼ガスを車体後端部に配設されたマフラ28に導く排気管27が取り付けられている。排気管27の排気ポートには、ヒータレスの空燃比センサあるいは酸素センサからなるエタノール濃度センサ61が取り付けられている。
【0033】
ヘッドパイプ5の前方側には、左右一対のライトステー18によって正面視略円形の前照灯17が配設されている。ライトステー18と一体のメータ支持ステー16には、メータ装置15が支持されている。また、前輪WFの上方にはフロントフェンダ19が配設されている。メインフレーム2の上部には燃料タンク36が配設され、その後方にはシート37が取り付けられている。メインフレーム2と一体に形成されるシートフレーム9の後端部には、シートカウル39、尾灯装置40、リヤフェンダ41が支持されている。シートフレーム9の上面には、エンジン制御装置としてのECU38が配設されている。
【0034】
図2は、本実施形態に係る内燃機関の始動制御装置の全体構成を示すブロック図である。エンジン制御装置としてのECU38に収納される内燃機関の始動制御装置は、エタノール濃度が高かったり外気温が低いために、混合燃料が気化しにくくエンジンの始動性が低下している状態であると判定されると、燃料噴射を禁止した状態でクランキングさせる「空クランキング制御」を実行するように構成されている。この空クランキング制御によれば、吸入空気が断熱圧縮されることでシリンダ内壁の温度が上がり、その後に噴射された混合燃料が気化しやすくなって始動性を向上させることができる。
【0035】
また、本実施形態に係る自動二輪車1には、ステッピングモータ等からなるモータ68でスロットルバルブ69を駆動するTBWシステムが適用されている。TBWシステムは、エンジン20の運転中に、乗員が操作するスロットルグリップの開度や各センサ情報を予め定められたデータマップに適用することで、スロットルバルブ69を最適な開度に制御するものであるが、本発明では、エンジン始動時の空クランキング制御中において、乗員のスロットル操作等にかかわらず、スロットルバルブ69を空クランキング制御に適した固定開度に駆動するように構成されている。
【0036】
ECU38は、車両の主電源をオンオフするメインスイッチ60のオン操作に伴って起動する。ECU38には、エタノール濃度記憶部50、空クランキング回数設定部51、噴射禁止設定部52、燃料噴射量設定部53およびスロットルバルブ開度設定部55が含まれる。
【0037】
エタノール濃度記憶部50には、エンジン20の排気管27に取り付けられるエタノール濃度センサ61(図1参照)からの情報が入力される。エタノール濃度記憶部50は、エタノール濃度センサ61で検知される排気ガスの酸素濃度に基づいて燃料中のエタノール濃度(混合比率)を推測検知することができる。そして、メインスイッチ60がオフにされた際には、その時点でのエタノール濃度の値を記憶し、メインスイッチ60が再びオンとなるまで保持するように構成されている。なお、エタノール濃度センサは、混合燃料に直接触れて濃度を検出するセンサとしてもよい。
【0038】
空クランキング回数設定部51には、エンジン温度TEとしてエンジン20の油温を検知するエンジン温度センサ62、エアクリーナボックス24の内部等に配設されて吸入空気温度TAを検知する吸入空気温度センサ63、大気圧PAを検知する大気圧センサ64およびスロットルバルブ69の開度θを検知するスロットルバルブ開度センサ65からの情報がそれぞれ入力される。なお、エンジン温度センサ62は、エンジン20の冷却水温度あるいはエンジンオイル温度を検知するものであってもよい。
【0039】
エンジン20は、メインスイッチ60をオンにした後、ハンドルスイッチに設けられたスタータボタン(不図示)を押すことにより、セルモータがクランクシャフトを回してクランキングが行われるように構成されている。
【0040】
ECU38内の空クランキング回数設定部51は、メインスイッチ60がオンにされると、エタノール濃度記憶部50に保持されたエタノール濃度(例えば、50%)のほか、エンジン温度TEおよび吸入空気温度TAを、予め定められたデータマップとしての三次元マップ51aに適用することで、空クランキング制御の所定の回数である空クランキング回数Nを算出する。
【0041】
噴射禁止設定部52は、空クランキング制御の開始後、カウンタ52aによって計測されるクランキング回数が空クランキング回数N(例えば、クランクシャフト100回転)に到達するまでの間、燃料噴射装置66による燃料噴射を禁止する。これにより、燃料を噴射せずにクランキングを行う空クランキング制御を、所定期間の間のみ実行することができる。空クランキング回数Nの導出方法の詳細は後述する。
【0042】
また、燃料噴射量設定部53は、予め定められたデータマップに基づいて、通常運転中の燃料噴射量(噴射タイミング)を設定するものであり、空クランキング制御期間が終了すると、このマップに基づいた燃料噴射量で燃料噴射装置66およびインジェクタ67が通常駆動される。また、点火タイミング設定部54は、予め定められた点火マップに基づいて、通常運転中に点火装置70を駆動する点火タイミングを設定するものである。なお、本実施形態では、空クランキング制御中も点火装置70は通常駆動する設定とされているが、空クランキング制御中に点火も禁止する設定としてもよい。
【0043】
スロットルバルブ開度設定部55は、予め定められたデータマップに、乗員が操作するスロットルグリップの開度やエンジン回転数等を適用することで、通常運転中のスロットルバルブ開度θを設定するものであるが、本実施形態では、空クランキング制御中に、スロットルバルブ69を予め設定された固定開度に駆動する点に特徴がある。
【0044】
なお、噴射禁止設定部52からの情報はメータ装置15にも入力されており、空クランキング制御の実行条件が満たされていることや空クランキング制御が実行中であることを、メータ装置15内のインジケータ等を用いて乗員に報知することができる。
【0045】
図3は、本実施形態に係る始動時空クランキング制御の手順を示すフローチャートである。ステップS1では、メインスイッチ60がオンにされてECU38が起動する。ステップS2では、前回のエンジン停止時にエタノール濃度記憶部50に記憶されたエタノール濃度Cが読み込まれ、続くステップS3では、エンジン温度TE、吸入空気温度TAおよび大気圧PAが検知される。
【0046】
ステップS4では、エタノール濃度C、エンジン温度TEおよび吸入空気温度TAの値を三次元マップ51aに適用することで、空クランキング回数Nが導出される。なお、大気圧PAは、三次元マップ51aの補正等に用いられる。続くステップS5では、空クランキング制御中に適用される固定開度としての空クランキング時開度θ1と、空クランキング制御が終了して燃料噴射が開始される際に適用される固定開度としての始動時開度θ2と、この燃料噴射開始時に適用される始動時燃料噴射量Aとが導出される。
【0047】
なお、空クランキング時開度θ1および始動時開度θ2は、スロットルバルブ開度設定部55(図2参照)からそれぞれ読み出される。また、始動時燃料噴射量Aは燃料噴射量設定部53から読み出される。
【0048】
ステップS6では、スロットルバルブ69が、空クランキング時スロットル開度θ1に設定され、続くステップS7では、燃料噴射装置66による燃料噴射が禁止される。また、ステップS8では、ハンドルスイッチ(不図示)等に設けられたスタータボタンが押されてクランキングが開始されたか否かが判定され、肯定判定されるとステップS9に進み、一方、否定判定されるとステップS8の判定に戻る。
【0049】
そして、ステップS9では、空クランキング回数Nが実行済であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS10に進む。この空クランキング制御によれば、断熱圧縮されることでシリンダ内空気の温度が上昇し、熱エネルギーが燃焼室壁へ伝達されて燃焼室壁温を上昇させるため、燃料噴射が行われた際に吸入混合気の温度低下が低減し、点火による着火性を向上させることができる。なお、ステップS9で否定判定されると、ステップS9の判定に戻る。
【0050】
続くステップS10では、スロットルバルブ69が始動時開度θ2に設定される。ステップS11では、空クランキング回数Nの実行完了に伴って、禁止されていた燃料噴射が許可され、始動時燃料噴射量Aでの噴射が開始される。そして、ステップS12では、エンジン20が始動したか否かが判定され、否定判定されるとステップS12の判定に戻り、一方、肯定判定されると一連の制御を終了する。
【0051】
通常、エンジン20をクランキングさせるセルモータは、スタータボタンを押している間だけ回転するように構成されており、クランキング回数が空クランキング回数Nに到達する前にスタータボタンを離すと、セルモータの停止に伴ってカウンタ52aの計測も一次停止し、再度のスタータボタン操作を待機する状態となる。これと異なる設定として、断熱圧縮を連続的に実行してシリンダを効果的に昇温するため、一度スタータボタンを押したら、途中でスタータボタンが離されても、空クランキング回数Nに到達するまでは自動的にクランキングが継続されるように構成してもよい。
【0052】
図4は、空クランキング時開度θ1を設定するための内燃機関の特性グラフである。空クランキング時開度θ1は、所定のクランキング速度において最も高い圧縮圧力が得られる開度として予め実験等で定められる固定値である。グラフ(a)は、所定のクランキング速度における吸入空気量比(シリンダ内空気量に対する吸入空気量の比率)とスロットルバルブ開度との関係を示している。クランキング速度は、セルモータの出力等からなるエンジンの設計事項として定められており、このとき、スロットルバルブ開度をa,b,cと変化させると、吸入空気量比は開度cのあたりで上限に近づき、それ以上開度を大きくしても増加度合は小さくなる。したがって、比較的小さなスロットルバルブ開度で大きな吸入空気量比を得られるバランスのとれた値として、開度cを選択することができる。
【0053】
これに対し、グラフ(b)は、スロットルバルブ開度をa,b,cと変化させた際の燃焼室表面温度と空クランキング回数との関係を示している。燃焼室表面の温度は、空クランキングの回数が多いほど高くなるが、クランキング回数が増えると車載バッテリの負担が大きくなるため、できる限り少ない空クランキング回数で効果的に昇温できるスロットルバルブ開度が選択されることが好ましい。グラフ(b)の場合では、開度cとした場合に、同じ空クランキング回数での燃焼室表面温度が最大となり、かつ空クランキング回数に対する温度上昇比率も高くなる。以上より、空クランキング時開度θ1としては、開度cの選択が適切であるといえる。
【0054】
なお、始動時開度θ2は、アイドリング運転に適した開度として予め実験等で定めることができる。また、エンジンが始動した後のスロットルバルブ開度θは、各種センサの出力値およびスロットルグリップ開度情報に基づいてフィードバック制御される。
【0055】
図5は、空クランキング回数Nとエンジン温度TEと吸入空気温度TAとの関係を示す三次元マップ51aである。この図では、基準エタノール濃度25%,50%,75%,100%に対応する4枚のマップを示している。前記したように、空クランキング回数Nは、エタノール濃度C、エンジン温度TEおよび吸入空気温度TAの各値を三次元マップ51aに適用することで導出される。空クランキング回数Nは、各温度が固定されているならエタノール濃度Cが高くなるにつれて多くなり、また、エタノール濃度Cが固定されているなら各温度が低くなるにつれて多くなる。
【0056】
図6は、エタノール濃度Cと空クランキング回数Nとの関係を示すグラフである。グラフ(a)に示すように、昇温に必要な空クランキング回数Nはエタノール濃度Cが高くなるほど多くなる傾向にあり、グラフ(b)に示すような補完処理を行うと、基準エタノール濃度として示した25%,50%,75%,100%の間の値においても、適切なクランキング回数Nを導出することが可能となる。
【0057】
図7は、メータ装置15の正面図である。樹脂等からなるハウジング70の中央にはアナログ式の速度計71が配置されており、その上部左右には、ウインカ装置作動灯75L,75Rが設けられている。速度計71の左側には、液晶表示による燃料計72、機能選択ボタン73およびリセットボタン74が配置され、一方の右側には、距離計や時計等を表示する液晶表示部76が配置されている。また、燃料計72の下方には、ABS警告灯77、前照灯上向き表示78およびニュートラルランプ79が配置され、液晶表示部76の下方には、オイル警告灯80、水温警告灯81、エンジン警告灯82およびFI警告灯83が配置されている。
【0058】
前記したように、メータ装置15には、噴射禁止設定部52からの情報が入力されており、報知手段としての液晶表示部76やFI警告灯83を用いて空クランキング制御の状態を乗員に知らせることができる。例えば、空クランキング制御の実行条件が満たされている場合には、液晶表示部76に「START」の文字を表示させたり、FI警告灯83を点灯させることができる。また、その後スタータボタンが押されて空クランキング制御が実行中である場合には、液晶表示部76に表示した「START」の文字を点滅させたり、FI警告灯83を点滅させることができる。
【0059】
なお、ECU内の各手段の構成、空クランキング回数の設定、三次元マップの設定、空クランキング制御の実行条件、TBWシステムの構造、空クランキング時開度の設定値、メータ装置の構造等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。例えば、空クランキング期間は、回数ではなく時間によって規定してもよい。また、空クランキング制御の実行条件が満たされていることや空クランキング制御中であることの報知は、メータ装置内の警告灯類に限られずアラーム等で実行してもよい。本発明に係る内燃機関の始動制御装置は、自動二輪車に限られず、鞍乗型の三/四輪車等の各種車両、発電機用エンジン等の内燃機関に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…自動二輪車、15…メータ装置、20…エンジン、25…スロットルボディ、38…ECU(内燃機関の始動制御装置)50…エタノール濃度記憶部、51…空クランキング回数設定部、51a…三次元マップ、52…噴射禁止設定部、52a…カウンタ、54…点火タイミング設定部、55…スロットルバルブ開度設定部、60…メインスイッチ、61…エタノール濃度センサ、62…エンジン温度センサ、63…吸入空気温度センサ、64…大気圧センサ、65…スロットルバルブ開度センサ、66…燃料噴射装置、67…インジェクタ、68…モータ、69…スロットルバルブ、70…点火装置、76…液晶表示部(報知手段)、83…FI警告灯(報知手段)、θ1…空クランキング時開度(所定開度)、θ2…始動時開度、N…空クランキング回数(空クランキング回数設定部によって導出された空クランキング制御の回数)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガソリンとエタノールとの混合燃料によってエンジン(20)を運転すると共に、モータ(68)によって吸入空気量を調整するスロットルバルブ(69)を駆動するようにした内燃機関の始動制御装置において、
前記モータ(68)および燃料噴射装置(66)を制御する制御部(38)と、
前記混合燃料のエタノール混合比率としてのエタノール濃度(C)を検知するエタノール濃度センサ(61)と、
燃料噴射を禁止したままクランキングを行う空クランキング制御を実行する回数(N)を、少なくとも前記エタノール濃度(C)に基づいて導出する空クランキング回数設定部(51)とを具備し、
前記制御部(38)は、前記エンジン(20)の始動時に、前記スロットルバルブ(69)を予め定められた所定開度(θ1)に駆動すると共に、前記空クランキング制御を前記空クランキング回数設定部(51)によって導出された回数(N)だけ行うことを特徴とする内燃機関の始動制御装置。
【請求項2】
前記制御部(38)は、前記空クランキング制御が前記導出された回数(N)に到達すると、前記スロットルバルブ(69)を予め定められた始動時開度(θ2)に設定して燃料噴射の禁止を解除するように設定されており、
前記始動時開度(θ2)は、前記所定開度(θ1)より小さく、かつ前記エンジン(20)のアイドリング運転に適した値であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項3】
前記導出された回数(N)は、前記エンジン(20)が前回停止する際に記憶された前記エタノール濃度(C)に基づいて導出され、
前記所定開度(θ1)は、前記エンジン(20)のシリンダ内空気量に対する吸入空気量の比率としての吸入空気量比が、前記スロットルバルブ(69)の全閉時に比して大きくなるように設定された開度であることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項4】
前記導出された回数(N)は、前記エタノール濃度(C)、前記エンジン(20)を代表するエンジン温度(TE)および吸入空気の吸入空気温度(TA)を、前記制御部(38)に収納される三次元マップ(51a)に適用することで導出されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項5】
前記導出された回数(N)は、前記エタノール濃度(C)の増加に応じて増えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項6】
前記所定開度(θ1)は、可能な限り小さな値で前記吸入空気量比が得られる開度であることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項7】
前記空クランキング制御の実行を知らせる報知手段(76,83)を備えることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項8】
前記空クランキング制御は、クランキングを実行するためのスタータボタンの押圧操作に伴って開始され、その後の乗員の操作にかかわらず、前記導出された回数(N)に到達するまで継続されることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の内燃機関の始動制御装置。
【請求項9】
前記三次元マップ(51a)は、前記エタノール濃度(C)が増えるにつれて前記導出された回数(N)が増加すると共に、エンジン温度(TE)および吸入空気温度(TA)が低くなるにつれて前記導出された回数(N)が増加するように設定されていることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−96363(P2013−96363A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242291(P2011−242291)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】