説明

内燃機関の排気ブレーキ制御方法及び装置

【課題】エンジンの吸気系に電動過給機が接続された車両で排気ブレーキ制御を行うに際し、排気管内圧力を上昇させて制動力を増加させることができる内燃機関の排気ブレーキ制御方法を提供する。
【解決手段】エンジン10の吸気系に電動過給機11が接続された車両で排気ブレーキ制御を行うに際し、排気ブレーキ制御時に電動過給機11を駆動してそのコンプレッサ回転速度を所定の回転数まで上げて吸入空気量を増加させる方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気管内圧力を上昇させて吸排気抵抗を増加させ、エンジンの回転抵抗を大きくして制動力を得るための内燃機関の排気ブレーキ制御方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主に車両重量3.5t以上のトラックやバスなどで補助ブレーキの一種として搭載される排気ブレーキは、エンジン下流の排気管に取り付けられた開閉式の弁(開閉弁)で構成され、この開閉弁を閉として排気管を閉じることによって制動力を作用させるものである。
【0003】
開閉弁は、圧縮や負圧の空気による力、又は電気などにより開閉され、通常はクラッチを接続した状態で、且つアクセルを踏んでいないときだけ閉とし、排気ブレーキとして使用する。
【0004】
作動原理は、開閉弁を閉とすると排気管内圧力が高まり、エンジンがコンプレッサのように作動するので吸排気抵抗(ポンピング損失)が増加し、これがエンジンの回転抵抗を大きくして制動力を大きくすることによる。つまり、排気ブレーキは、エンジンブレーキの制動力を増幅させる装置と言っても良い。
【0005】
次に、排気ブレーキの派生的な使い方について説明する。
【0006】
乗用車や軽量トラックなどにおいては、前述した開閉弁の制御システムを使用せず、可変容量過給機(VGT:Variable Geometry Turbo)を用いて排気ブレーキを実施することがある。
【0007】
作動原理の基本は前述の排気ブレーキと同様であり、通常タービン回転数を制御している可変ノズル(VGTベーン(タービン上流側に設置))を閉方向に制御すると吸排気抵抗が増加し、エンジンの回転抵抗が増えるので制動力が働くというものである。つまり、可変容量過給機のVGTベーンを閉とすると、タービン回転速度が上昇して同軸上のコンプレッサ回転速度が上昇して吸入空気量が増加し、その空気がエンジンより排出されると排気管内圧力が上昇し、エンジンフリクションが増加する。また、エンジン回転速度を上昇させても同様にエンジンフリクションが増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−118433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、可変容量過給機による排気ブレーキは、専用の開閉弁を用いない構造のためシステムを簡素化できる反面、制動力が弱くなる問題が生じる。これは、閉弁時に排気ガスが通過する有効面積が大きいのが原因であり、排気管内圧力を大きくできないためである。
【0010】
また、過給機本体の部品点数が多い分、密閉性が悪くなり、VGTベーンを閉弁しても隙間などから多くのガスが流出し、排気管内圧力が上昇しにくいのも要因の一つである。
【0011】
更に、可変容量過給機のタービン回転速度がエンジンから排出される空気量で決まっており、この空気量がエンジン回転速度に依存していることから、エンジン回転速度が小さい場合には、排気管内圧力が上昇しにくいという問題もある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、エンジンの吸気系に電動過給機が接続された車両で排気ブレーキ制御を行うに際し、排気管内圧力を上昇させて制動力を増加させることができる内燃機関の排気ブレーキ制御方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために創案された本発明は、エンジンの吸気系に電動過給機が接続された車両で排気ブレーキ制御を行うに際し、排気ブレーキ制御時に電動過給機を駆動してそのコンプレッサ回転速度を所定の回転数まで上げて吸入空気量を増加させる内燃機関の排気ブレーキ制御方法である。
【0014】
排気ブレーキ作動スイッチがONとされ、指示燃料噴射量が設定した閾値以下で、且つ、クラッチが接続されているときに、排気ブレーキ制御を実行すると共に電動過給機を駆動してそのコンプレッサ回転速度を上げると良い。
【0015】
排気ブレーキ制御時に、更に、電動過給機のタービン上流に設けられたVGTベーンを閉とし、吸気側に設けられた吸気スロットルバルブを開とすると良い。
【0016】
排気ブレーキ制御は、指示燃料噴射量が設定した閾値を超えたとき、或いはクラッチが切断されたときに終了すると良い。
【0017】
また、本発明は、エンジンの吸気系に電動過給機が接続された車両で排気ブレーキ制御を行う排気ブレーキ制御装置において、排気ブレーキ制御時に電動過給機を駆動してそのコンプレッサ回転速度を所定の回転数まで上げて吸入空気量を増加させる排気ブレーキ制御部を備える内燃機関の排気ブレーキ制御装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エンジンの吸気系に電動過給機が接続された車両で排気ブレーキ制御を行うに際し、排気管内圧力を上昇させて制動力を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の対象となるエンジンの一例を示す概略図である。
【図2】本発明に係る内燃機関の排気ブレーキ制御方法を示すフローチャートである。
【図3】コンプレッサ回転速度と吸排気圧力の関係を示す図である。
【図4】コンプレッサ回転速度とポンピング損失の関係を示す図である。
【図5】コンプレッサ回転速度とエンジンフリクションの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0021】
図1は、本発明の対象となるエンジンの一例を示す概略図である。
【0022】
図1に示すように、本発明の対象となるエンジン10は、吸気系に電動過給機11が接続されており、排気エネルギにより電動過給機11のタービン(排気タービン)12を駆動させてコンプレッサ(吸気コンプレッサ)13により過給するようになっている。
【0023】
電動過給機11は、モータ14によって同一軸上のタービン12とコンプレッサ13を回転させることができ、排ガスの流速によらず任意の回転が得られるものである。電動過給機11としては、例えば、電動機を備えた可変容量過給機や、任意にコンプレッサ回転速度を制御できるスーパーチャージャなどが挙げられる。ここでは、電動過給機11として電動機を備えた可変容量過給機を用いる。
【0024】
コンプレッサ13で圧縮され高温となった空気は、チャージエアクーラ15にて一気に冷却され、後述するEGRバルブ22の前段に設けられた吸気スロットルバルブ16で吸気量が調整された後、吸気弁17を介して燃焼室18に供給されて燃焼に使用される。
【0025】
その後、燃焼に使用された排ガスは、排気弁19を介して排気され、その排気エネルギによってタービン12を駆動する。タービン12の前段には、エンジン回転数に応じてタービンブレードの開口面積を可変させることで排ガスの流量を変化させ、過給効率や排気圧力を調節するVGTベーン20が設けられている。
【0026】
排気の際には、排気の一部を吸気に戻すことにより、排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)を行うようになっている。EGRを行うことでNOXの排出量を低減することができる。
【0027】
EGRでは、高温の排気を直接吸気すると吸気温度が上昇して、吸気充填効率の低下を招いてしまうことから、排ガスはEGRクーラ21で一旦冷却されてから吸気に投入される。EGRクーラ21の後段には、EGRバルブ22が設けられており、その開度を制御することにより、EGR量を調節できるようになっている。
【0028】
エンジン10の制御を行うためのECU(Engine Control Unit)23には、吸気流量を検出するためのエアフローセンサ24、吸気スロットルバルブ16、燃焼室18に燃料を噴射するための燃料インジェクタ25、VGTベーン20、EGRバルブ22、ピストン26に接続されたクランクシャフト27のクランク角度を検出するためのクランク角度センサ28、電動過給機11のモータ14、アクセル開度を検出するためのスロットルペダルセンサ29、エンジン10の動力を駆動系に伝達する手段であるクラッチの接続、切断を検出するためのクラッチペダルセンサ30、排気ブレーキを作動させるための排気ブレーキ作動スイッチ31などが接続されている。
【0029】
さて、本発明は、エンジン10の吸気系に電動過給機11が接続された車両で排気ブレーキ制御を行うに際し、排気管内圧力を強制的に上昇させて排気ブレーキによる制動力を大きくする内燃機関の排気ブレーキ制御方法であり、排気管内圧力を強制的に上昇させるべく、電動過給機11のコンプレッサ回転数を制御して新規吸入空気量を増加させる点に特徴がある。
【0030】
以下、本発明に係る内燃機関の排気ブレーキ制御方法を図2を用いて説明する。
【0031】
先ず、排気ブレーキ作動スイッチ31のON−OFF判定を行う(S101)。排気ブレーキ作動スイッチ31は、ドライバーが操作するON−OFFのスイッチであり、スイッチがON状態で排気ブレーキを使用可能とし、スイッチがOFFの状態で排気ブレーキを使用不可とするものである。そのため、この排気ブレーキ作動スイッチ31のON−OFF判定を行うことで、ドライバーが排気ブレーキの使用を意図しているか否かが分かる。
【0032】
この判定において、排気ブレーキ作動スイッチ31がOFFのときは、通常制御(排気ブレーキOFF)に移行する(S105)。
【0033】
一方、排気ブレーキ作動スイッチ31がONのときは、排気ブレーキ作動条件の判定を行う(S102)。この排気ブレーキ作動条件の判定は、クラッチを接続した状態で、且つアクセルを踏んでいないときに、排気ブレーキを作動させるために行うものである。
【0034】
具体的には、指示燃料噴射量が設定した閾値(燃料無噴射となる状態に設定しても良い)以下であるか否か、及びクラッチペダルセンサ30がOFFであるか否かを判定する。
【0035】
いずれかの条件を満たさないときは、通常制御に移行し(S105)、指示燃料噴射量が設定した閾値以下で、且つ、クラッチが接続されているとき、即ち、いずれの条件も満たすときは、排気ブレーキ制御を開始する(S103)。
【0036】
排気ブレーキ制御では、エンジン回転速度から決まるマップより得られた指示開度でVGTベーン20を閉として排気の流出を抑え、エンジン回転速度から決まるマップより得られた指示開度で吸気スロットルバルブ16を開として排気管内に積極的に吸気し、EGRバルブ22を全閉とすることで、排気管内圧力を上昇させる。
【0037】
本発明においては、この排気ブレーキ制御を行うに際し、排気ブレーキ制御時に電動過給機11を駆動してそのコンプレッサ回転速度を所定の回転数まで上げて吸入空気量を増加させる。このときのコンプレッサ回転速度は、エンジン回転速度から決まるマップより定められる。
【0038】
その後、排気ブレーキ制御停止の判定を行う(S104)。具体的には、指示燃料噴射量が設定した閾値(燃料噴射している状態に設定しても良い)を超えたとき、又は排気ブレーキ作動スイッチ31がOFFとされたとき、或いはクラッチペダルセンサ30がONとされたとき、即ちクラッチが切断されたとき、排気ブレーキ制御を停止して通常制御に移行し(S105)、それ以外の場合には排気ブレーキ制御を継続する(S103)。
【0039】
このように本発明では、排気ブレーキ制御を行うに際し、排気ブレーキ制御時に電動過給機11を駆動してそのコンプレッサ回転速度を所定の回転数まで上げる。これにより、図3〜5に示すように、吸排気圧力が上昇すると共にポンピング損失が増加し、エンジントルク(モータリングトルク)が増加してエンジン単体のフリクションが増加すると共に電動過給機トルク(EAP駆動用トルク)が増加してコンプレッサ13の仕事量が増加する。これにより、全体での仕事量が増加してエンジンフリクションが増え、大きな制動力が得られる。
【0040】
これらの制御は、排気ブレーキ制御部32を備える排気ブレーキ制御装置によって行われる。排気ブレーキ制御部32は、例えば、図1に示すように、ECU23の一部として搭載される。この排気ブレーキ制御部32は、モータ14を駆動するための図示しないインバータを介してコンプレッサ回転速度の制御を行う。
【0041】
以上要するに、本発明によれば、エンジン10の吸気系に電動過給機11が接続された車両で排気ブレーキ制御を行うに際し、排気管内圧力を上昇させて制動力を増加させることができる。
【0042】
なお、電動過給機11として任意にコンプレッサ回転速度を制御できるスーパーチャージャなどを用いる場合には、VGTベーン20に代えて排気管内に設けたシャッターバルブを閉じて、排気ブレーキ制御を行うと良い。
【符号の説明】
【0043】
10 エンジン
11 電動過給機
12 タービン
13 コンプレッサ
14 モータ
15 チャージエアクーラ
16 吸気スロットルバルブ
17 吸気弁
18 燃焼室
19 排気弁
20 VGTベーン
21 EGRクーラ
22 EGRバルブ
23 ECU
24 エアフローセンサ
25 燃料インジェクタ
26 ピストン
27 クランクシャフト
28 クランク角度センサ
29 スロットルペダルセンサ
30 クラッチペダルセンサ
31 排気ブレーキ作動スイッチ
32 排気ブレーキ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸気系に電動過給機が接続された車両で排気ブレーキ制御を行うに際し、排気ブレーキ制御時に電動過給機を駆動してそのコンプレッサ回転速度を所定の回転数まで上げて吸入空気量を増加させることを特徴とする内燃機関の排気ブレーキ制御方法。
【請求項2】
排気ブレーキ作動スイッチがONとされ、指示燃料噴射量が設定した閾値以下で、且つ、クラッチが接続されているときに、排気ブレーキ制御を実行すると共に電動過給機を駆動してそのコンプレッサ回転速度を上げる請求項1に記載の内燃機関の排気ブレーキ制御方法。
【請求項3】
排気ブレーキ制御時に、更に、電動過給機のタービン上流に設けられたVGTベーンを閉とし、吸気側に設けられた吸気スロットルバルブを開とする請求項1又は2に記載の内燃機関の排気ブレーキ制御方法。
【請求項4】
排気ブレーキ制御は、指示燃料噴射量が設定した閾値を超えたとき、或いはクラッチが切断されたときに終了する請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の排気ブレーキ制御方法。
【請求項5】
エンジンの吸気系に電動過給機が接続された車両で排気ブレーキ制御を行う排気ブレーキ制御装置において、
排気ブレーキ制御時に電動過給機を駆動してそのコンプレッサ回転速度を所定の回転数まで上げて吸入空気量を増加させる排気ブレーキ制御部を備えることを特徴とする内燃機関の排気ブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−97604(P2012−97604A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244384(P2010−244384)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】