説明

内燃機関の運転制御方法および装置

【課題】2種類の燃料を任意の混合割合で用いる火花点火式内燃機関においては、特に冷間始動時に失火やノッキングが発生して排気エミッションの悪化を招く可能性がある。
【解決手段】ガソリンおよびアルコールの少なくとも一方を燃料として用いる本発明による火花点火式内燃機関は、燃料キャップセンサ17が燃料タンク11の燃料キャップ16の開閉動作を検出した場合、筒内圧センサ28によって検出された圧縮行程中における燃焼室14内の圧力に基づき、燃焼室14に供給された燃料中に含まれるアルコールの割合を算出するアルコール濃度算出部と、このアルコール濃度算出部にて算出されたアルコールの割合に基づき、燃焼室14に供給された燃料の供給量を補正する燃料噴射量補正部ならびに点火時期を補正する進角量補正部とを具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類の燃料を任意の混合割合で用いた火花点火式内燃機関に対する運転制御方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源枯渇および環境への懸念から、石油燃料に対する代替燃料の1つとしてアルコール燃料が有望視されており、ガソリンとアルコールとを混合した、いわゆるアルコール混合燃料として一部では実用化されている。ところが、このアルコール混合燃料はガソリン100%の燃料に比べ、その発熱量や気化特性が異なると共に、ガソリンに対する混合割合を示すそのアルコール濃度によっても特性が異なるので、ガソリン100%の燃料の使用を前提とするエンジンにそのままアルコール混合燃料を使用すると、制御空燃比が理論空燃比から外れ、排気成分が変化したり、運転性が悪化したりすることになる。
【0003】
そこで、例えば特許文献1には、燃料の比誘電率の変化でアルコール濃度を検出するアルコール濃度検出センサをガソリンタンク内やガソリンポンプの上流または下流に配設することにより、アルコール濃度を検出するガソリンの液種識別装置が開示されている。また、例えば特許文献2には、筒内圧を検出し、検出された筒内圧から求められる熱発生量に基づく低位発熱量から、燃料中に含まれるアルコール濃度を算出する技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−125465号公報
【特許文献2】特開昭64−88153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているように、ガソリンタンク内やガソリンポンプの上流または下流に配設されたアルコール濃度検出センサを用いてアルコール濃度を検出する場合には、センサによって検出された燃料性状と実際にエンジンに噴射供給される燃料性状とが異なることがあり、適切な制御ができないことがある。例えば、燃料噴射弁に至る燃料経路内に古い燃料が残留した状態で、異なるアルコール濃度の燃料が新たに補給されたような場合、エンジンに実際に噴射供給される直前の燃料のアルコール濃度を検出することができない。このため、特に厳しい着火条件が要求される冷間始動時などにおいては、このアルコール濃度の検出値が不適切なために燃焼悪化や失火が発生し易く、排気エミッションの悪化を招くおそれがある。
【0006】
また、特許文献2に開示の技術は、燃焼後のデータに基づいてアルコール濃度を算出しているため、実際に燃焼により発生した筒内圧に制御が依存することとなり、始動時の燃焼開始時点における燃料性状を検出することが本質的に不可能である。このため、上述した特許文献1と同様に、厳しい着火条件が要求される冷間始動時などにおいて、点火時期や燃料噴射量の同時補正が困難であり、失火やノッキングなどが発生し易く、排気エミッションの悪化を招くおそれがあった。
【0007】
本発明の目的は、2種類の燃料を任意の混合割合で用いる火花点火式内燃機関において、冷間始動時であっても燃焼悪化や失火による排気エミッションの悪化を低減することのできる運転制御方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の形態は、第1の成分およびこの第1の成分と異なる第2の成分の少なくとも一方を燃料として用いる火花点火式内燃機関の運転制御方法であって、燃料が供給された燃焼室内の圧力を圧縮行程中の所定のクランク角位相にて検出するステップと、検出された圧力に基づき、燃焼室に供給された燃料中に含まれる第1の成分に対する第2の成分の割合を求めるステップと、求めた第2の成分の割合に基づき、燃焼室に供給された燃料の供給量を補正するステップとを具えたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の第1の形態による内燃機関の運転制御方法において、燃料の供給量を補正するステップが燃料供給量を増やすような補正の場合、このステップは燃焼室内の圧力を検出した圧縮工程中に行われることが好ましい。
【0010】
求めた第2の成分の割合に基づき、点火時期を補正するステップをさらに具えることができる。この場合、点火時期を補正するステップは、燃焼室内の圧力を検出したサイクルと同一サイクル中で行われることが好ましい。
【0011】
燃料タンクへの燃料の補給があったか否かを判定するステップをさらに具え、第1の成分に対する第2の成分の割合を求めるステップは、燃料タンクへの燃料の補給があったと判断した場合に行われることが好ましい。この場合、燃料タンクへの燃料の補給があったか否かを判定するステップは、燃料タンクのキャップの開閉操作があったか否かを判定するステップを含むことができる。また、第1の成分に対する第2の成分の割合を求めた後の燃焼室への燃料の供給量の積算値が予め設定された所定値以上に達したか否かを判定するステップをさらに具え、第1の成分に対する第2の成分の割合を求めるステップは、燃料の積算値が所定値に到達したと判断するまで行われることが好ましい。
【0012】
燃料が供給された圧縮行程中の燃焼室内の圧力に基づいて燃料の供給量を補正するステップを少なくとも1サイクル行った後、燃料が供給された燃焼室内の圧力を圧縮行程中の所定のクランク角位相にて検出するステップに代え、燃料が供給された燃焼室内の圧力を膨張行程中の所定のクランク角位相にて検出するステップをさらに具え、燃焼室に供給された燃料中に含まれる第1の成分に対する第2の成分の割合を求めるステップは、検出された圧力に基づいて燃料の発熱量を算出するステップと、算出された燃料の発熱量から第1の成分に対する第2の成分の割合を算出するステップとを有するものであってよい。
【0013】
本発明の第2の形態は、第1の成分およびこの第1の成分と異なる第2の成分の少なくとも一方を燃料として用いる火花点火式内燃機関の運転制御装置であって、燃料タンクのキャップの開閉動作を検出するためのタンクキャップ開閉検出手段と、圧縮行程中の所定のクランク角位相における燃焼室内の圧力を検出するための筒内圧センサと、前記タンクキャップ開閉検出手段が燃料タンクのキャップの開閉動作を検出した場合、前記筒内圧センサによって検出された圧力に基づき、燃焼室に供給された燃料中に含まれる第1の成分に対する第2の成分の割合を算出する燃料成分割合算出手段と、この燃料成分割合算出手段にて算出された第2の成分の割合に基づき、燃焼室に供給された燃料の供給量を補正する燃料供給量補正手段と、前記燃料成分割合算出手段にて算出された第2の成分の割合に基づき、点火時期を補正する点火時期補正手段とを具えたことを特徴とするものである。
【0014】
本発明においては、タンクキャップ開閉検出手段が燃料タンクのキャップの開閉動作を検出した場合、燃料噴射弁から所定量の燃料が供給された燃焼室内の圧力を圧縮行程中の所定のクランク角位相にて筒内圧センサにより検出する。燃料成分割合算出手段は、筒内圧センサによって検出された圧力に基づき、燃焼室に供給された燃料中に含まれる第1の成分に対する第2の成分の割合を算出する。燃料供給量補正手段は、燃料成分割合算出手段にて算出された第2の成分の割合に基づき、燃焼室に供給された燃料の供給量を補正する。また、点火時期補正手段は、燃料成分割合算出手段にて算出された第2の成分の割合に基づき、点火時期を補正する。
【0015】
本発明の第2の形態による内燃機関の運転制御装置において、第1の成分に対する第2の成分の割合を求めた後の燃焼室への燃料の供給量を積算する燃料積算部と、この燃料積算部にて積算された値が予め設定された所定値に達したか否かを判定する比較判定手段とをさらに具え、燃料成分割合算出手段は、燃料積算部にて算出される積算値が予め設定された所定値に達するまで第2の成分の割合を算出するものであることが好ましい。この場合、予め設定した所定値は、燃料タンクから燃料噴射弁に至る燃料供給通路の容積に対応していることが好ましい。また、燃料の積算値が所定値に到達したと判断した場合、燃料タンクへの燃料の補給が次にあるまで、直前に求めた第2の成分の割合が保持されることが好ましい。
【0016】
第1の成分がガソリンを含み、第2の成分がアルコールを含むものであってよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の内燃機関の運転制御方法によると、燃料が供給された燃焼室内の圧力を圧縮行程中の所定のクランク角位相にて検出し、これに基づいて燃焼室に供給された燃料中に含まれる第1の成分に対する第2の成分の割合を求め、この第2の成分の割合に基づいて燃焼室に供給された燃料の供給量を補正するようにしたので、燃料を燃焼させずとも燃料中に含まれる第1の成分に対する第2の成分の割合を予測することが可能となる。この結果、遅くとも次サイクルでの燃焼制御に反映させることができ、場合によっては燃焼室内の圧力を検出したサイクルと同一サイクルでの燃焼制御に反映させることができる。従って、特に内燃機関の始動時に発生し易い失火やノッキングを抑制すると共にエミッションの悪化を阻止することが可能である。
【0018】
燃料の供給量を補正する際に、燃焼室内の圧力を検出した圧縮工程中に燃料供給量を増やすようにした場合、燃焼室内の圧力を検出したサイクルと同一サイクルでの燃焼制御に反映させることが可能となるため、失火やノッキングを確実に防止することができる。
【0019】
求めた第2の成分の割合に基づいて点火時期を補正する場合、さらに失火やノッキングを抑制してエミッションの悪化を阻止することができる。
【0020】
燃料タンクへの燃料の補給があった時に第1の成分に対する第2の成分の割合を求めるようにした場合、特に第1の成分に対する第2の成分の割合を求めた後の燃焼室への燃料の供給量の積算値が予め設定された所定値以上となるまで、第1の成分に対する第2の成分の割合を求めるようにした場合、燃料中に含まれる第1の成分に対する第2の成分の割合が変化しない状況下での無駄な制御を行わないようにすることができる。
【0021】
燃料が供給された圧縮行程中の燃焼室内の圧力に基づいて燃料の供給量を補正するステップを少なくとも1サイクル行った後、燃料が供給された燃焼室内の圧力を圧縮行程中の所定のクランク角位相にて検出するステップに代え、燃料が供給された燃焼室内の圧力を膨張行程中の所定のクランク角位相にて検出するステップをさらに具え、燃焼室に供給された燃料中に含まれる第1の成分に対する第2の成分の割合を求めるステップが、検出された圧力に基づいて燃料の発熱量を算出するステップと、算出された燃料の発熱量から第1の成分に対する第2の成分の割合を算出するステップとを有する場合、失火やノッキングの発生しにくい運転状況下にて第1の成分に対する第2の成分の割合をより正確に算出することができる。
【0022】
本発明の内燃機関の運転制御装置によると、タンクキャップ開閉検出手段が燃料タンクのキャップの開閉動作を検出した場合、筒内圧センサによって検出された圧縮行程中の所定のクランク角位相における燃焼室内の圧力に基づき、この燃焼室に供給された燃料中に含まれる第1の成分に対する第2の成分の割合を算出する燃料成分割合算出手段と、この燃料成分割合算出手段にて算出された第2の成分の割合に基づき、燃焼室に供給された燃料の供給量を補正する燃料供給量補正手段ならびに点火時期を補正する点火時期補正手段とを具えているので、燃料を燃焼させずとも燃料中に含まれる第1の成分に対する第2の成分の割合を予測することができる。従って、遅くとも次サイクルでの燃焼制御に反映させることが可能であり、場合によっては燃焼室内の圧力を検出したサイクルと同一サイクルでの燃焼制御に反映させることができる。この結果、特に内燃機関の始動時に発生し易い失火やノッキングを抑制すると共にエミッションの悪化を阻止することができる。
【0023】
第1の成分に対する第2の成分の割合を求めた後の燃焼室への燃料の供給量を積算する燃料積算部と、この燃料積算部にて積算された値が予め設定された所定値に達したか否かを判定する比較判定手段とをさらに具え、燃料積算部にて算出される積算値が予め設定された所定値に達するまで、燃料成分割合算出手段が第2の成分の割合を算出するようにした場合、燃料中に含まれる第1の成分に対する第2の成分の割合が変化しない状況下での無駄な制御を行わないようにすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の一実施形態について、図1〜図8を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこのような実施形態のみに限らず、本発明の精神に帰属する他の任意の技術にも応用することができる。
【0025】
本実施形態におけるエンジンシステムの概念を図1に示す。本実施形態におけるエンジン10は、燃料タンク11内に貯溜された燃料を燃料タンク11と燃料噴射弁12との間に配された燃料供給配管系13を介して燃料噴射弁12から燃焼室14内に直接噴射し、点火プラグ15によって着火させる型式のものである。本実施形態で用いられる燃料は、ガソリンに対してアルコールを任意の割合で混合したものであり、従ってガソリンに対するアルコールの混合割合が高いほど、同一出力に対して燃料供給量を増大させる必要があり、かつ点火時期を進角させる必要がある。
【0026】
燃料タンク11を開閉するための燃料キャップ16を開閉して燃料の補給が行われた場合、補給された燃料がそれまで使用していた燃料と異なる性状となる可能性がある。このため、本実施形態では燃料キャップ16の開閉が行われたことを検出するための燃料キャップセンサ17が組み込まれ、その検出信号がECU18に出力されるようになっている。
【0027】
本実施形態における燃料キャップセンサ17の概念を図2に示す。この燃料キャップセンサ17は、イグニッションキースイッチの状態に関係なく、燃料キャップ16の開閉操作を検出してこれをECU18に知らせる必要がある。そこで、本実施形態における燃料キャップセンサ17は、車両に搭載されたバッテリー19につながる近接スイッチ20と、ECU18に接続するホールド回路21とを有する。近接スイッチ20は、燃料キャップ16が燃料タンク11に装着されている場合にオフとなり、逆に燃料キャップ16が燃料タンク11から取り外された場合にオンとなるような特性を持つ。これによってバッテリー19の無駄な電力消費を回避することができる。また、ホールド回路21は、近接スイッチ20がオフ状態からオン状態に切り替わった場合、近接スイッチ20のオン信号に対応した開状態に回路が切り替わり、近接スイッチ20がオン状態からオフ状態に戻ったとしても、この開状態が保持されるような特性を持つ。ECU18がホールド回路21の開状態を認識した場合、つまり燃料キャップ16の開閉により燃料の補給が行われた可能性がある場合、近接スイッチ20がオフ信号の場合に限り、ホールド回路21は閉状態に回路が切り替えられるようになっている。この時、後述する燃料開閉フラグがセットされる(図8参照)。
【0028】
燃焼室14にそれぞれ臨む吸気ポート22および排気ポート23が形成されたシリンダヘッド24には、吸気ポート22を開閉する吸気弁25および排気ポート23を開閉する排気弁26を含む動弁機構が組み込まれている。先の燃料噴射弁12や、燃焼室14内の混合気を着火させる点火プラグ15およびこの点火プラグ15に火花を発生させるイグニッションコイル27の他に、燃焼室14内の圧力を検出するための筒内圧センサ28もシリンダヘッド24に搭載されている。筒内圧センサ28によって検出された信号は、ECU18に出力される。
【0029】
吸気ポート22に連通するようにシリンダヘッド24に連結されて吸気ポート22と共に吸気通路29を画成する吸気管30の上流端側には、大気中に含まれる塵埃などを除去して吸気通路29に導くためのエアクリーナ31が設けられている。このエアクリーナ31と、吸気管30の途中に形成されたサージタンク32との間の吸気管30の部分には、運転者によって操作されるアクセルペダル33の踏み込み量に基づき、吸気通路29の開度が調整されるスロットル弁34が組み込まれている。アクセルペダル33にはその踏み込み量を検出するためのアクセル開度センサ35が付設され、その検出情報がECU18に出力されるようになっている。本実施形態では、アクセルペダル33とスロットル弁34とを機械的に連結しているが、アクセルペダル33の踏み込み動作と、スロットル弁34の開閉動作とを切り離し、アクチュエータを用いてスロットル弁34の開閉動作を電気的に制御できるようにしたものであってもよい。また、アクセル開度センサ35に代えてスロットル弁34の開度を検出するスロットル開度センサを利用することも可能である。
【0030】
スロットル弁34とエアクリーナ31との間の吸気管30の途中には、吸気通路29内を流れる吸気流量を検出してこれをECU18に出力するエアフローメータ36が取り付けられている。吸気管30におけるエアフローメータ36の取り付け位置は、スロットル弁34の取り付け位置よりも上流側であればよく、図1の如き位置に限定されるものではない。
【0031】
排気ポート23に連通するようにシリンダヘッド24に連結されて排気ポート23と共に排気通路37を画成する排気管38の途中には、燃焼室14内での混合気の燃焼により生成する有害物質を無害化するための三元触媒39が組み込まれている。なお、この三元触媒39を排気通路37に沿って直列に複数個組み込むことも有効である。
【0032】
従って、エアクリーナ31を通って吸気管30から燃焼室14内に供給される吸気は、燃料噴射弁12から燃焼室14内に噴射される燃料と混合気を形成し、点火プラグ15の火花により着火して燃焼し、これによって生成する排気ガスが三元触媒39を通って排気管38から大気中に排出される。
【0033】
ピストン40が往復動するシリンダブロック41には、連接棒42を介してピストン40が連結されるクランク軸43の回転位相、つまりクランク角を検出してこれをECU18に出力するクランク角センサ44が取り付けられている。
【0034】
本実施形態の制御ブロックを図3に示す。上述したECU18は、上述したセンサ28,35,44およびエアフローメータ36からの検出情報などに基づき、予め設定されたプログラムに従って円滑なエンジン10の運転がなされるように、燃料噴射弁12やイグニッションコイル27などの作動を制御するようになっている。特に、燃料噴射弁12からの燃料の噴射量は、アクセル開度センサ35,エアフローメータ36,クランク角センサ44などからの情報に基づいてECU18内に組み込まれた燃料噴射量設定部45にて設定される。また、イグニッションコイル27に対する通電時期は、アクセル開度センサ35およびクランク角センサ44などからの情報に基づいてECU18の点火時期設定部46にて設定される。
【0035】
本実施形態におけるECU18は、燃料中のガソリンに対するアルコールの割合(以下、単にアルコール濃度と記述する)を推定し、これに基づいて燃料噴射量を補正すると共に点火時期を補正する機能も具えている。このため、先の燃料噴射量設定部45および点火時期設定部46の他に、アルコール濃度算出部47と、燃料噴射量積算部48と、比較判定部49とを有する。
【0036】
アルコール濃度算出部47は、筒内圧センサ28からの検出情報に基づき、燃焼室14内に供給された燃料中のアルコール濃度を算出する。この場合、筒内圧センサ28は、圧縮行程中の所定のクランク角位相における燃焼室14内の圧力を検出する。圧縮行程中の所定のクランク角位相における筒内圧と、この燃焼室14に噴射された燃料中のアルコール濃度との関係を図4に模式的に示す。このグラフから明らかなように、ガソリンとアルコールとでは、気化特性が異なるため、圧縮行程における燃焼室14内の圧力がアルコール濃度によって変わることが理解されよう。従って、燃料が供給された燃焼室14内の圧力を圧縮行程中の所定のクランク角位相にて検出することにより、ガソリン中に含まれるアルコール濃度を一義的に決定することができる。つまり、ガソリンとアルコールとの混合燃料に限らず、気化特性が異なる2種類の成分からなる燃料でありさえすれば、一方の成分に対する他方の成分の割合を予測することが可能である。本実施形態におけるアルコール濃度算出部47は、図4に示すような圧縮行程中の所定のクランク角位相における燃焼室14内の圧力と、アルコール濃度との関係をマップ化したデータとして有している。
【0037】
本実施形態におけるアルコール濃度算出部47によると、燃焼前に燃料中のアルコール濃度を算出することができるため、燃料を減量させるような補正を除き、筒内圧を検出した同一サイクル中に燃焼制御を行うことができる。このため、冷態始動時での失火やノッキングの発生を確実に抑制することが可能となる利点を有する。
【0038】
本実施形態におけるアルコール濃度算出部47は、より高精度なアルコール濃度を算出するため、熱発生量指標算出部50と、低位発熱量指標算出部51とを有する。
【0039】
熱発生量指標算出部50は、膨張行程における燃焼室14内の圧力、つまり筒内圧Pと、この筒内圧Pの検出時における燃焼室14の容積Vを所定の指数κで累乗した値との積PVκを筒内圧Pの検出時における瞬時熱発生量hに関する制御パラメータ、つまり熱発生量指標として算出する。筒内圧Pおよびこの筒内圧Pの検出時における燃焼室14の容積Vを指数κで累乗した値Vκの積(以下、これを熱発生量パラメータと呼称する)PVκと、瞬時熱発生量hとが相関を有する、つまりh∽PVκとなることは、特開2005−36754号公報などで詳述されており、周知である。この熱発生量指標算出部50にて算出された熱発生量パラメータPVκは、低位発熱量指標算出部51に出力される。
【0040】
低位発熱量指標算出部51は、熱発生量パラメータPVκを燃料噴射量設定部45にて設定された1つの気筒への1サイクル当たりの燃料の供給量(以下、これを設定噴射量と呼称する)τで除算した値を真の燃料の発熱量である低位発熱量Qに関する制御パラメータ、つまり低位発熱量指標h/τとして算出する。低位発熱量Qは、瞬時熱発生量hを設定噴射量τで除算したものであるが、上述したh∽PVκの関係から、Q∽PVκ/τとして表すことができる。この低位発熱量Qは、アルコール濃度が高くなるほど少なくなる傾向があり、図5に示すような右下がりのグラフとなる。本実施形態における低位発熱量指標算出部51は、図5に示すような低位発熱量Qとアルコール濃度との関係をマップ化したデータとして有している。
【0041】
熱発生量指標算出部50と、低位発熱量指標算出部51とを用いてアルコール濃度を検出する場合、燃料を燃焼させる必要があるため、燃焼制御を次回以降の燃焼サイクルに反映させるしかなく、筒内圧を検出したサイクルでの燃焼制御を行うことが基本的にできない。しかしながら、燃料の燃焼前にアルコール濃度を算出する場合に対してより高精度にアルコール濃度を算出することができるため、エンジン10を始動して最初の1サイクルに関して燃料の燃焼前にアルコール濃度を算出し、同じサイクル中に燃焼制御を行うことで失火やノッキングの発生を確実に抑制し、2サイクル以降の燃焼制御において熱発生量指標算出部50と、低位発熱量指標算出部51とを用いてアルコール濃度を検出することが好ましい方法と言えよう。
【0042】
燃料噴射量積算部48は、燃料噴射量設定部45からの噴射情報に基づき、この燃焼制御を開始してから燃焼室14への燃料の噴射量を積算し、これを比較判定部49に出力する。
【0043】
比較判定部49は、燃料噴射量積算部48からの燃料積算情報と、燃料タンク11と燃料噴射弁12との間の燃料供給配管系13に介在する燃料の容積とを比較し、燃料積算量が燃料供給配管系13の燃料の容積以上となった場合、この燃焼制御を停止させるためのものである。従って、比較判定部49は、燃料供給配管系13に介在する燃料の容積を本発明の所定値である閾値FRとして記憶している。このように、燃料タンク内に新たな燃料が供給され、これが燃料噴射弁12に達するまで燃料の性状が不安定となることが見込まれるため、燃料タンク11内の新たな燃料が燃料噴射弁12に達するまで本発明の燃焼制御を継続することにより、失火やノッキングの発生を確実に抑制することができる。
【0044】
燃料噴射量設定部45には、アルコール濃度算出部47によって算出された燃料中のアルコール濃度に基づいて燃料噴射量を補正する燃料噴射量補正部52が組み込まれている。この燃料噴射量補正部52は、図6に示すような燃料噴射補正量とアルコール濃度との関係をマップ化したデータとして有している。
【0045】
また、点火時期設定部46には、アルコール濃度算出部47によって算出された燃料中のアルコール濃度に基づいて点火進角量を補正する進角量補正部53が組み込まれている。この進角量補正部53は、図7に示すような点火進角補正量とアルコール濃度との関係をマップ化したデータとして有している。
【0046】
以上のような本実施形態による燃焼制御の手順について、図8を参照しつつ説明する。まず、S11のステップにて燃料キャップ開閉フラグがセットされているか否かを判定する。燃料タンク11への燃料の補給が継続的に行われていない場合、通常は燃料キャップ開閉フラグがセットされていないので、この場合には何もせずに終了する。
【0047】
S11のステップにて燃料キャップ開閉フラグがセットされている、つまり燃料キャップ16の開閉があった(燃料が燃料タンク11に供給された可能性がある)と判断した場合には、S12のステップに移行して燃焼制御回数Cnを1つカウントアップし、S13のステップにて燃焼制御回数Cnが1、つまり初回であるか否かを判定する。
【0048】
エンジン10を始動した場合、最初は燃焼制御回数Cnが1回目であるので、S14のステップに移行し、圧縮行程における筒内圧からアルコール濃度をアルコール濃度算出部47にて算出する。そして、算出されたアルコール濃度から、S15のステップにて燃料噴射補正量および点火進角補正量を燃料噴射量設定部45の燃料噴射量補正部52および点火時期設定部46の進角量補正部53にて算出し、少なくとも同じサイクル中に点火進角を補正して燃料の燃焼を行う。燃料噴射補正量が燃料の追加を必要とする場合、つまり燃料中のアルコール濃度が高くなっていると判断した場合、点火前の同じサイクル中に燃料を燃焼室14に追加噴射する。逆に、燃料噴射補正量が燃料の減量を必要とする場合、つまり燃料中のアルコール濃度が低くなっていると判断した場合、次回の燃焼サイクルにて燃料噴射量の補正を行う。
【0049】
さらにS16のステップにて燃料噴射量の積算を燃料噴射量積算部48にて行い、S17のステップにて積算燃料噴射量FCが予め設定した閾値FR以上であるか否かを比較判定部49にて判定する。最初は積算燃料噴射量FCが閾値FRよりも小さいので、S11のステップに戻り、上述した処理が繰り返される。ただし、2回目以降の燃焼サイクルの場合、S13のステップからS14のステップではなく、S18のステップへと移行する。このS18のステップでは、膨張行程での筒内圧からアルコール濃度をアルコール濃度算出部47の熱発生量指標算出部50および低位発熱量指標算出部51にて算出する。そして、先のS15のステップに移行して燃料噴射補正量および点火進角補正量を算出する。
【0050】
このようにして、燃料供給配管系13に新たな燃料が満たされるまで燃焼制御が繰り返され、S17のステップにて積算燃料噴射量FCが閾値FR以上に達した時点でS19のステップに移行して燃料キャップ開閉フラグをリセットし、さらにS20のステップにて燃焼制御回数Cnを0にリセットすると共に燃料噴射量の積算値FCを0にリセットしてこの燃焼制御を終了する。
【0051】
上述した実施形態においては、直噴形式の火花点火式内燃機関が搭載された車両について説明したが、ポート噴射形式のものにも本発明を適用することが可能である。また、燃料としてガソリンに対してアルコールが任意の割合で混合されるものについて説明したが、性状が異なる2種類の成分からなる燃料であれば、本発明の適用が可能である。
【0052】
このように、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明を火花点火式内燃機関が搭載された車両に応用した一実施形態の主要部の概念図である。
【図2】図1に示した実施形態における燃料キャップセンサの概略構造を表す概念図である。
【図3】図1に示した実施形態における制御ブロック図である。
【図4】図1に示した実施形態において、所定クランク角位相における筒内圧とアルコール濃度との関係を模式的に表すグラフである。
【図5】図1に示した実施形態において、低位発熱量とアルコール濃度との関係を模式的に表すグラフである。
【図6】図1に示した実施形態において、燃料噴射補正量とアルコール濃度との関係を模式的に表すグラフである。
【図7】図1に示した実施形態において、点火進角補正量とアルコール濃度との関係を模式的に表すグラフである。
【図8】図1に示した実施形態における燃料噴射量および点火時期制御のためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0054】
10 エンジン
11 燃料タンク
12 燃料噴射弁
13 燃料供給配管系
14 燃焼室
15 点火プラグ
16 燃料キャップ
17 燃料キャップセンサ
18 ECU
19 バッテリー
20 近接スイッチ
21 ホールド回路
22 吸気ポート
23 排気ポート
24 シリンダヘッド
25 吸気弁
26 排気弁
27 イグニッションコイル
28 筒内圧センサ
29 吸気通路
30 吸気管
31 エアクリーナ
32 サージタンク
33 アクセルペダル
34 スロットル弁
35 アクセル開度センサ
36 エアフローメータ
37 排気通路
38 排気管
39 三元触媒
40 ピストン
41 シリンダブロック
42 連接棒
43 クランク軸
44 クランク角センサ
45 燃料噴射量設定部
46 点火時期設定部
47 アルコール濃度算出部
48 燃料噴射量積算部
49 比較判定部
50 熱発生量指標算出部
51 低位発熱量指標算出部
52 燃料噴射量補正部
53 進角量補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の成分およびこの第1の成分と異なる第2の成分の少なくとも一方を燃料として用いる火花点火式内燃機関の運転制御方法であって、
燃料が供給された燃焼室内の圧力を圧縮行程中の所定のクランク角位相にて検出するステップと、
検出された圧力に基づき、燃焼室に供給された燃料中に含まれる第1の成分に対する第2の成分の割合を求めるステップと、
求めた第2の成分の割合に基づき、燃焼室に供給された燃料の供給量を補正するステップと
を具えたことを特徴とする内燃機関の運転制御方法。
【請求項2】
燃料の供給量を補正するステップが燃料供給量を増やすような補正の場合、このステップは燃焼室内の圧力を検出した圧縮工程中に行われることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の運転制御方法。
【請求項3】
求めた第2の成分の割合に基づき、点火時期を補正するステップをさらに具えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関の運転制御方法。
【請求項4】
燃料タンクへの燃料の補給があったか否かを判定するステップをさらに具え、
第1の成分に対する第2の成分の割合を求めるステップは、燃料タンクへの燃料の補給があったと判断した場合に行われることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の内燃機関の運転制御方法。
【請求項5】
第1の成分に対する第2の成分の割合を求めた後の燃焼室への燃料の供給量の積算値が予め設定された所定値以上に達したか否かを判定するステップをさらに具え、
第1の成分に対する第2の成分の割合を求めるステップは、燃料の積算値が所定値に到達したと判断するまで行われることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の運転制御方法。
【請求項6】
燃料が供給された圧縮行程中の燃焼室内の圧力に基づいて燃料の供給量を補正するステップを少なくとも1サイクル行った後、燃料が供給された燃焼室内の圧力を圧縮行程中の所定のクランク角位相にて検出するステップに代え、燃料が供給された燃焼室内の圧力を膨張行程中の所定のクランク角位相にて検出するステップをさらに具え、燃焼室に供給された燃料中に含まれる第1の成分に対する第2の成分の割合を求めるステップは、検出された圧力に基づいて燃料の発熱量を算出するステップと、算出された燃料の発熱量から第1の成分に対する第2の成分の割合を算出するステップとを有することを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の内燃機関の運転制御方法。
【請求項7】
第1の成分およびこの第1の成分と異なる第2の成分の少なくとも一方を燃料として用いる火花点火式内燃機関の運転制御装置であって、
燃料タンクのキャップの開閉動作を検出するためのタンクキャップ開閉検出手段と、
圧縮行程中の所定のクランク角位相における燃焼室内の圧力を検出するための筒内圧センサと、
前記タンクキャップ開閉検出手段が燃料タンクのキャップの開閉動作を検出した場合、前記筒内圧センサによって検出された圧力に基づき、燃焼室に供給された燃料中に含まれる第1の成分に対する第2の成分の割合を算出する燃料成分割合算出手段と、
この燃料成分割合算出手段にて算出された第2の成分の割合に基づき、燃焼室に供給された燃料の供給量を補正する燃料供給量補正手段と、
前記燃料成分割合算出手段にて算出された第2の成分の割合に基づき、点火時期を補正する点火時期補正手段と
を具えたことを特徴とする内燃機関の運転制御装置。
【請求項8】
第1の成分に対する第2の成分の割合を求めた後の燃焼室への燃料の供給量を積算する燃料積算部と、この燃料積算部にて積算された値が予め設定された所定値に達したか否かを判定する比較判定手段とをさらに具え、
前記燃料成分割合算出手段は、燃料積算部にて算出される積算値が予め設定された所定値に達するまで第2の成分の割合を算出することを特徴とする請求項7に記載の内燃機関の運転制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−202540(P2008−202540A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40992(P2007−40992)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】