説明

内燃機関システムの制御装置

【課題】 パルス過給と協調させて可変容量型ターボチャージャを制御することでより高い慣性過給効果を得ることが可能な、さらには慣性過給効果で旋回気流の強度を適度に向上させることが可能な内燃機関システムの制御装置を提供する。
【解決手段】 内燃機関50と、内燃機関50に連通する吸気通路を連通、遮蔽してパルス過給を行うパルスチャージ弁17と、内燃機関50に対して排気エネルギーを利用して過給を行う可変容量型ターボチャージャである過給機30とを有して構成される内燃機関システム100で、過給機30を過給機30のタービン容量を変更するように制御するECU1Aであって、パルスチャージ弁17がパルス過給を行うように制御される運転状態に応じて、過給機30のタービン容量を小さく変更するパルス過給協調制御手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関システムの制御装置に関し、特にパルス過給手段と可変容量型ターボチャージャとを備えた内燃機関システムの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気弁よりも上流側の吸気通路に該吸気通路を連通、遮蔽してパルス過給を行うパルス過給手段を備えた内燃機関が知られている。吸気工程で吸気を行う際にこのパルス過給手段が吸気通路を全閉に遮蔽していると、吸気弁が開弁した後も燃焼室の負圧は増大する。さらに負圧が増大した状態でパルス過給手段が吸気通路を全開に連通すると、燃焼室に流入する吸気の流速(以下、単にパルス過給時の吸気流速とも称す)が高められる。そしてこのとき吸気は一気に燃焼室に流入するため、一種の慣性過給効果が得られる。パルス過給はこのように吸気通路を連通、遮蔽することで行われ、例えば排気駆動式過給機による過給と比較して応答性が優れているという特徴を有している。このパルス過給に関し、例えば特許文献1ではパルス過給手段の構成例が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−248946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、パルス過給は吸気の充填量を向上させることに利用できるが、筒内に旋回気流が生成される内燃機関にあっては、旋回気流の強度を向上させることにも利用できる。例えば混合気のミキシング性を向上させるべく旋回気流を生成している場合には、旋回気流の強度を適度に向上させることで燃焼状態の改善を図ることができる。ところが、筒内に旋回気流が生成される内燃機関では不用意にパルス過給を行うと旋回気流の生成が阻害されることなどから、却って燃焼状態を悪化させてしまう場合がある。これに対して、例えば適度な強度の旋回気流が生成されるようにパルス過給を行うタイミングを適宜変更することで、パルス過給を利用して燃焼状態の改善を図ることができる。しかしながら、パルス過給で得られる慣性過給効果は、そのときの内燃機関の運転状態に適した強度の旋回気流を生成するに十分足るものとならない場合があり、結果的に燃焼状態に改善の余地が残されるものとなっていた。
【0005】
そこで、本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、パルス過給と協調させて可変容量型ターボチャージャを制御することでより高い慣性過給効果を得ることが可能な、さらには慣性過給効果で旋回気流の強度を適度に向上させることが可能な内燃機関システムの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、内燃機関と、該内燃機関に連通する吸気通路を連通、遮蔽してパルス過給を行うパルス過給手段と、前記内燃機関に対して排気エネルギーを利用して過給を行う可変容量型ターボチャージャとを有して構成される内燃機関システムで、前記可変容量型ターボチャージャを該可変容量型ターボチャージャのタービン容量を変更するように制御する内燃機関システムの制御装置であって、前記パルス過給手段がパルス過給を行うように制御される運転状態に応じて、前記可変容量型過給機のタービン容量を小さく変更するパルス過給協調制御手段を備えることを特徴とする。ここで、パルス過給時の吸気流速は、パルス過給手段の上流側の圧力(以下、単に上流圧とも称す)と下流側の圧力(以下、単に下流圧とも称す)との圧力比(式:上流圧/下流圧)に比例する。これに対して本発明によれば、排気エネルギーが小さい領域でタービン容量を小さく変更することで過給圧、すなわちパルス過給手段の上流圧を高めることができる。したがって本発明によれば上述の圧力比を大きくすることができ、その結果、パルス過給時の吸気流速を高めることができることから、より大きな慣性過給効果を得ることが可能である。
【0007】
また本発明は、前記運転状態が、さらに部分負荷運転領域で前記内燃機関が運転される状態であってもよい。ここで、パルス過給が行われる運転状態としては種々の運転状態が考えられるが、筒内に旋回気流が生成される内燃機関にあっては、部分負荷運転領域で必要とする旋回気流の強度が得られるか否かが、旋回気流を利用した燃焼を好適に実現するにあたって重要になる。すなわち、旋回気流の強度が不足するといった場合には、燃焼状態に改善の余地が残されることとなる。本発明は係る点に鑑みたものであり、排気エネルギーが小さい部分負荷運転領域でより大きな慣性過給効果を得られる本発明によれば、特に旋回気流を利用した燃焼を好適に実現できるようになる。なお、部分負荷運転領域とは例えばガソリンエンジンにおいては、スロットル弁の開度をそれ以上開いても吸気流量の増大を図ることができなくなる運転領域(全負荷運転領域)以外の運転領域である。
【0008】
また本発明は、前記パルス過給手段が前記吸気通路を遮蔽しているときの該パルス過給手段の上流側の圧力と、目標過給圧との差が所定値よりも小さくなるまで、前記パルス過給協調制御手段が前記可変容量型過給機のタービン容量を次第に小さく変更してもよい。本発明によれば、目標過給圧を例えばパルス過給時の吸気流速を適度に増大させることができるように予め設定しておくことで、すなわち旋回気流の強度を適度に向上させることができるように予め設定しておくことで、旋回気流を利用した燃焼を好適に実現できる。
【0009】
また本発明は、さらに前記内燃機関の燃料噴射時期を遅角させる燃料噴射時期遅角手段を備えるとともに、該燃料噴射時期遅角手段が、前記パルス過給手段が前記吸気通路を遮蔽しているときの該パルス過給手段の上流側の圧力と、目標過給圧との差が所定値よりも小さくなるまで、前記内燃機関の燃料噴射時期を次第に遅角させてもよい。本発明によれば、燃料噴射時期を遅角させることで、排気ガスの温度を上昇させるとともに排気エネルギーを増大させることができることから、同一のタービン容量でさらに過給圧を高めることが可能である。すなわち本発明によれば、タービン容量の小容量化だけでは過給圧を十分に高めることができない場合などにもさらに過給圧を高めることができることから、或いはタービン容量の小容量化と相乗的に過給圧を高めることができることから、より好適にパルス過給時の吸気流速を適度に増大させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パルス過給と協調させて可変容量型ターボチャージャを制御することでより高い慣性過給効果を得ることが可能な、さらには慣性過給効果で旋回気流の強度を適度に向上させることが可能な内燃機関システムの制御装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、ECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)1Aで実現されている本実施例に係る内燃機関システムの制御装置を、内燃機関システム100とともに模式的に示す図である。内燃機関システム100は吸気系10と、排気系20と、過給機30と、内燃機関50とを有して構成されている。吸気系10は、エアクリーナ11と、エアフロメータ12と、インタークーラ13と、電動スロットル14と、サージタンク15と、インテークマニホールド16と、パルスチャージ弁17と、内燃機関50の各気筒(図示省略)に連通する吸気ポート52aを含む図示しない吸気ポートと、これらの構成の間に適宜配設される吸気管などを有して構成されている。エアクリーナ11は内燃機関50の各気筒に供給される吸気を濾過するための構成であり、図示しないエアダクトを介して大気に連通している。エアフロメータ12は吸気流量を計測するための構成であり吸気流量に応じた信号を出力する。インタークーラ13は、過給機30によって圧縮された吸気を冷却するための構成である。
【0013】
電動スロットル14は、ECU1Aの制御のもと、内燃機関50に供給する全吸気流量を調整するための構成であり、図示しないスロットル弁及び電動モータやスロットル開度センサ18などを有して構成されている。但し、これに限られず、例えば電動スロットル14の代わりにワイヤなどを介してアクセルペダル(図示省略)と連動し、スロットル弁の開度が変更されるような機械式スロットル機構を適用してもよい。サージタンク15は吸気を一時的に貯蔵するための構成であり、インテークマニホールド16はサージタンク15から吸気を内燃機関50の各気筒に分配するための構成である。なお、インテークマニホールド16は各気筒に連通する吸気ポート毎に吸気を分配するように構成されていてもよい。
【0014】
パルスチャージ弁17夫々は、インテークマニホールド16の各気筒に対応する吸気通路各々に弁軸を介して回動自在に配設されている。但し、これに限られず、例えばインテークマニホールド16が吸気ポート毎に吸気を分配するように構成されている場合には、パルスチャージ弁17夫々を各吸気ポートに対応する吸気通路毎に配設してもよい。パルスチャージ弁17夫々は吸気通路を連通、遮蔽してパルス過給を行うための構成である。パルスチャージ弁17夫々の弁軸は互いに独立しており、これら弁軸にはパルスチャージ弁17用のアクチュエータ17a各々が個別に連結されている。このアクチュエータ17aは、ECU1Aの制御のもとパルスチャージ弁17を駆動し、これにより、パルスチャージ弁17はパルス過給を行うように制御される。本実施例ではこのアクチュエータ17aにステップモータを採用しているが、これに限られず、他の適宜のアクチュエータをアクチュエータ17aとして適用してよい。サージタンク15には、パルスチャージ弁17夫々の上流圧P0を検知するための圧力センサ19が配設されている。なお、パルスチャージ弁17の代わりに吸気通路を連通、遮蔽することでパルス過給を行うことが可能な他の適宜の構成を適用してもよい。本実施例ではパルスチャージ弁17でパルス過給手段を実現している。
【0015】
排気系20は、内燃機関50の各気筒に連通する排気ポート52bを含む各排気ポート(図示省略)と、エキゾーストマニホールド21と、三元触媒22と、図示しない消音器と、これらの構成の間に適宜配設される排気管などを有して構成されている。エキゾーストマニホールド21は、各気筒からの排気を合流させるための構成であり、各気筒に対応させて分岐した排気通路を下流側で一つの排気通路に集合させている。三元触媒22は排気を浄化するための構成であり、炭化水素HC及び一酸化炭素COの酸化と、窒素酸化物NOxの還元を行う。
【0016】
過給機30は可変容量型ターボチャージャであり、コンプレッサロータ31と、タービンロータ32と、VN(Variable Nozzle)33と、VNアクチュエータ34とを有して構成されている。過給機30は、コンプレッサロータ31を収納するコンプレッサ部が吸気系10に、タービンロータ32を収納するタービン部が排気系20に、夫々介在するようにして配設されている。コンプレッサロータ31とタービンロータ32とは回転軸35で連結されており、タービンロータ32が排気によって駆動されると、回転軸35を介してコンプレッサロータ31が駆動し吸気を圧縮する。過給機30はタービン部にVN33を備えている。VN33はタービン容量を変更するための構成である。VNアクチュエータ34はECU1Aの制御のもと、VN33を駆動するための構成である。本実施例ではVNアクチュエータ34をステップモータで実現しているが、これに限られず、VNアクチュエータ34は他の適宜のアクチュエータで実現されてよい。
【0017】
図2は過給機30のタービン部の詳細を模式的に示す図である。VN33は、具体的にはタービン部のスクロール入口に設けられている。ECU1Aの制御のもと、VNアクチュエータ34がVN33を駆動すると、VN33のノズル開度が変更される。これにより過給機30はタービン容量を変更するように制御される。例えばVN33がスクロール入口の流路を絞るように制御されているときには、タービンロータ32に導くことができる排気の風量がより小さく制限されるようになる。すなわちタービン容量が小さくなる。その一方で、スクロール入口の流路を絞るとタービンロータ32に導く排気の流速を高めることができることから、回転数NEが低い領域でも所定の過給圧を得ることができるようになる。また、可変容量型ターボチャージャではVN33で流路を開放することで、タービン容量を大きくすることができる。このため、排気量が大きい高回転数領域ではVN33でスクロール入口の流路を全開にすることでより大きな過給圧を得ることができるようになっている。なお、過給機30は図2に示すような可変容量型ターボチャージャに限られず、例えばタービンロータ32の外周周りに複数の可変ノズルを備えた可変容量型ターボチャージャであってもよい。係る可変容量型ターボチャージャでは、一般にタービンロータ32に排気を導くための流路が隣り合う可変ノズル間夫々に形成されており、これら流路夫々の面積を可変ノズルで同時に変更することでタービン容量が変更されるようになっている。また、可変容量型ターボチャージャはその他の適宜の構造を備えた可変容量型ターボチャージャであってよい。
【0018】
内燃機関50は、シリンダブロック51と、シリンダヘッド52と、ピストン53と、吸気弁54と、排気弁55と、点火プラグ56と、燃料噴射弁57と、コネクティングロッド58と、クランクシャフト59とを有して構成されている。本実施例に示す内燃機関50は直列4気筒の過給式直噴ガソリンエンジンである。但し、これに限られず、内燃機関50は他の適宜の気筒配列構造及び気筒数を有していてもよい。また、内燃機関50は本発明を実施可能な内燃機関であれば特に限定されず、他の適宜の内燃機関であってよい。なお、筒内に旋回気流が生成される内燃機関としては、直噴ガソリンエンジンのほか、リーンバーンエンジンやディーゼルエンジンなどが一般によく知られている。また、図1では内燃機関50に関し、各気筒の代表としてシリンダ51aについて要部を示しているが他の気筒についても同様の構造となっている。
【0019】
シリンダブロック51には、略円筒状のシリンダ51aが形成されている。シリンダ51a内には、ピストン53が収容されている。ピストン53頂面には旋回気流を案内するための図示しないキャビティが形成されている。シリンダブロック51の上面にはシリンダヘッド52が固定されている。燃焼室60は、シリンダブロック51、シリンダヘッド52及びシリンダ53に囲まれた空間として形成されている。シリンダヘッド52には、燃焼室60に吸気を導くための吸気ポート52aのほか、燃焼したガスを燃焼室60から排気するための排気ポート52bが形成され、これら吸排気ポート52a及び52bの流路を開閉するための吸気弁54及び排気弁55が配設されている。なお、内燃機関50は吸排気弁54、55ともに1気筒あたり2弁構造となっているが、これに限られず適宜の吸排気弁構造であってよい。また図示省略してある動弁機構については適宜のものが適用されてよい。
【0020】
吸気ポート52aはヘリカルポートとなっており、ヘリカルポートを流通した吸気は燃焼室60内でスワール流に生成される。なお、吸気ポート52aをヘリカルポートに形成する代わりに例えばタンジェンシャルポートに形成してもよく、燃焼室60内に旋回気流を生成するための適宜の旋回気流生成手段を備えてもよい。旋回気流生成手段としては、具体的には例えば吸気ポート52a内で吸気を偏流させて燃焼室60内に旋回気流を生成する気流制御弁などが一般によく知られているが、これに限られず他の適宜の手段であってよい。また、燃焼室60内で生成される旋回気流はスワール流に限られず、例えばタンブル流やタンブル流とスワール流とを複合させた斜めタンブル流など適宜の旋回気流であってよい。
【0021】
点火プラグ56は、燃焼室60の上方略中央に電極を突出させた状態でシリンダヘッド52に配設されている。燃料噴射弁57は、燃焼室60の上方吸気ポート52a側から燃焼室60内に噴射孔を突出させた状態でシリンダヘッド52に配設されている。燃料噴射弁57は燃料を噴射するための構成であり、ECU1Aの制御のもと、適宜の燃料噴射時期に開弁されて燃料を噴射する。また、燃料噴射量はECU1Aの制御のもと燃料噴射弁57が閉弁されるまでの間の開弁時間の長さで調節される。燃料噴射ポンプ61は燃料の噴射圧を調節するための構成であり、ECU1Aの制御のもと噴射圧を適宜の噴射圧に調節する。ピストン53は、コネクティングロッド58を介してクランクシャフト59に連結されており、ピストン53の往復運動はクランクシャフト59で回転運動に変換される。また内燃機関50には、回転数NEに比例した出力パルスを発生するクランク角センサ62など、各種のセンサが配設されている。
【0022】
ECU1Aは、図示しないCPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、入出力回路などを有して構成されている。ECU1Aは主として内燃機関50を制御するための構成であり、本実施例では燃料噴射弁57や燃料噴射ポンプ61のほか、アクチュエータ17aやVNアクチュエータ34なども制御している。ECU1Aにはこれら燃料噴射弁57、燃料噴射ポンプ61、アクチュエータ17a及びVNアクチュエータ34のほか、各種の制御対象が駆動回路(図示省略)を介して接続されている。また、内燃機関50や車両の運転状態を検出するために、ECU1Aにはスロットル開度センサ18や、圧力センサ19や、クランク角センサ62や図示しない車速センサなどの各種のセンサが接続されている。
【0023】
ROMはCPUが実行する種々の処理が記述されたプログラムを格納するための構成であり、本実施例では燃料噴射弁57の燃料噴射時期を制御するための燃料噴射時期制御用プログラムなどで構成された内燃機関50制御用のプログラムのほか、パルス過給を行うためのパルスチャージ弁17制御用プログラムや、パルス過給に協調させて過給機30、より具体的にはVNアクチュエータ34を制御するためのパルス過給協調制御用プログラムなども格納している。但し、これらのプログラムは一体として組み合わされていてもよい。本実施例ではパルスチャージ弁17制御用プログラムは、所定の運転状態でパルスチャージ弁17夫々を制御してパルス過給を行うためのプログラムとなっている。このため本実施例では、内燃機関50の運転状態(本実施例では回転数NEと負荷)に応じて定義されたパルス過給用のマップデータをROMに格納しており、パルスチャージ弁17制御用プログラムは、このマップデータを参照してパルス過給を行うか否かを判定するように作成されている。
【0024】
パルス過給を行う場合には、さらにこのプログラムに基づき、パルスチャージ弁17はまず吸気弁54が閉弁しているときに、吸気通路を全閉に遮蔽するように制御される。これにより吸気弁54が開弁した後、ピストン53の下降とともに下流圧P1が小さくなる。続いてパルスチャージ弁17は、吸気弁54が開かれる途中の適宜のタイミングで吸気通路を連通するように高速で全開に制御され、さらに適宜のタイミングで吸気通路を遮蔽するように高速で全閉に制御される。
【0025】
また、これら開閉タイミングはパルスチャージ弁17制御用プログラムにより、内燃機関50の運転状態に応じて実際に生成されるスワール流の強度(以下、単に実スワール比とも称す)と、同じく内燃機関50の運転状態に応じて形成されるべきスワール流の強度(以下、単に要求スワール比とも称す)とが等しくなるような開閉タイミングに変更される。このため、本実施例では内燃機関50の運転状態(本実施例では回転数NEと負荷)に応じて定義された要求スワール比と実スワール比のマップデータを夫々ROMに格納している。また本実施例ではさらに吸気弁54のバルブリフト量に応じて変化するスワール比のマップデータもROMに格納している。これらのマップデータ及びパルスチャージ弁17制御用プログラムに基づき、パルスチャージ弁17は要求スワール比が得られるような最適の開閉タイミングで制御される。なお、パルスチャージ弁17はパルス過給が行われる運転状態においては、パルス過給時以外には吸気通路を遮蔽するように全閉に制御される。一方、パルスチャージ弁17はパルス過給が行われない運転状態においては、基本的に吸気通路を連通するように全開に制御される。
【0026】
図3は、パルス過給を行ったときの下流圧P1の変化の一例を模式的に示す図である。図3では縦軸が下流圧P1、横軸がクランク角度を夫々示しており、さらに理解を容易にすべく横軸のクランク角度に対応させた吸気弁54のバルブリフト量も同時に示している。ピストン53はクランク角度が0度のときに上死点に位置しており、その後クランク角度が大きくなるにつれて次第に下降し、クランク角度が180度のときに下死点に到達する。この間、吸気弁54は図示のようなバルブリフト量で駆動される。下流圧P1は吸気弁54が開かれるとともに低下し、さらにピストン53の下降に伴って次第に低下する。これにより上流圧P0と下流圧P1との圧力比(式P0/P1)が次第に大きくなる。さらに図示のタイミングでパルスチャージ弁17が全開に制御されると、燃焼室60内に吸気が一気に流入する。これにより慣性過給効果が得られるとともに下流圧P1は急激に上昇する。さらに図示のタイミングでパルスチャージ弁17が全閉に制御されると、燃焼室60内の圧力は慣性過給効果が保たれた分向上する。
【0027】
なお、パルス過給時の吸気流速Vと圧力比(式P0/P1)との比例関係は、比例式(式V∝√[(P0/P1)^{(k−1)/k}−1]。kは比熱比)によって示される。この比例式によれば、吸気流速Vは圧力比(式P0/P1)が大きくなるほど増大することがわかる。また、圧力比(式P0/P1)は下流圧P1が低下するほど、或いは上流圧P0が上昇するほど大きくなることから、上流圧P0を高めることで吸気流速Vの増大を図れることがわかる。また、吸気流速Vが増大すればそれだけ大きなスワール比を得ることができる。
【0028】
パルス過給協調制御用プログラムは、パルスチャージ弁17、より具体的にはアクチュエータ17aがパルス過給を行うように制御される運転状態に応じて、過給機30のタービン容量を小さく変更するためのプログラムとなっている。パルス過給が行われる運転状態であることは前述のパルス過給用のマップデータを参照することで確認され、パルス過給協調制御用プログラムは、このマップデータを参照してパルス過給が行われる運転状態であるか否かを判定するように作成されている。またパルス過給協調制御用プログラムは、さらに部分負荷運転領域において過給機30のタービン容量を小さく変更するためのプログラムとなっている。部分負荷運転領域であることは内燃機関50の運転状態(本実施例では回転数NEと負荷)に応じて定義された運転領域のマップデータを参照することで確認され、パルス過給協調制御用プログラムは、このマップデータを参照して部分負荷運転領域であるか否かを判定するように作成されている。本実施例ではこの運転領域のマップデータもROMに格納されている。
【0029】
さらにパルス過給協調用プログラムは、過給機30のタービン容量を小さく変更するにあたって、パルスチャージ弁17が吸気通路を遮蔽して貯圧を行っているときの上流圧P0と、内燃機関50の運転状態に応じて予め設定した目標過給圧Pmとの差が所定値Plimitよりも小さくなるまで、過給機30のタービン容量を次第に小さく変更するためのプログラムとなっている。
【0030】
目標過給圧Pmは、具体的には本実施例では回転数NEと負荷に応じたマップデータで定義されており、この目標過給圧PmのマップデータもROMに格納されている。また本実施例では、目標過給圧Pmはパルス過給を行うタイミングの最適化が図られた状態で適度な旋回気流の強度、すなわち要求スワール比が得られるように設定されている。但し、これに限られず、適宜設定されたパルスチャージ弁17の開閉タイミングで、要求スワール比が得られるように目標過給圧Pmを設定してもよい。また、目標過給圧Pmをある程度の大きさに適宜設定した上で、この目標過給圧Pmを基準としてパルスチャージ弁17の開閉タイミングを変更することで、最終的に要求スワール比が得られるようにプログラムを構成することも可能である。本実施例ではCPUとROMとRAM(以下、単にCPU等と称す)と内燃機関50制御用のプログラムとで、各種の検出手段や判定手段や制御手段などが実現されており、特にCPU等とパルス過給協調制御用プログラムとでパルス過給協調制御手段が実現されている。
【0031】
次に、部分負荷運転領域でパルス過給が行われる運転状態において、要求スワール比が得られるように過給機30を制御すべく、ECU1Aで行われる処理を図4に示すフローチャートを用いて詳述する。ECU1Aは、ROMに格納された上述のパルス過給協調制御用プログラム等に基づき、CPUがフローチャートに示す処理を極短い時間で繰り返し実行することで、過給機30を制御する。CPUはクランク角センサ62の出力信号に基づき回転数NEを検出する処理を実行するとともに、スロットル開度センサ18の出力信号に基づき負荷を検出する処理を実行する(ステップ11)。続いてCPUは圧力センサ19からの出力信号に基づき上流圧P0を検出する処理を実行する(ステップ12)。
【0032】
続いてCPUは目標過給圧Pmのマップデータから目標過給圧Pmを読み出すとともに、読み出した目標過給圧Pmとステップ12で検出した上流圧P0との差(式Pm−P0)が所定値Plimitよりも大きいか否かを判定する処理を実行する(ステップ13)。この所定値Plimitは目標過給圧Pmに対する上流圧P0の許容差圧として設定される。すなわち、本ステップでは上流圧P0が目標過給圧Pm程度になったか否かが判定される。ステップ13で肯定判定であれば、上流圧P0は目標過給圧Pm程度になっていないと判定され、CPUはVN33を閉じるように制御する(ステップ14a)。本ステップで、VN33のノズル開度は所定開度αだけ減じられる。
【0033】
続いてCPUは再びステップ12及び13に示す処理を実行し、ステップ13で否定判定されるまでステップ12、13及び14aに示す処理を繰り返し実行する。これにより、VN33は所定開度αづつ次第に閉じられるように制御される。その結果、ステップ13で否定判定であれば、上流圧P0は目標過給圧Pm程度になったと判定され、CPUはステップ11に示す処理を実行する。なお、ステップ12から14aまでに示す処理は詳細には例えば燃焼サイクル毎に繰り返し行われるようにすることができる。また、ステップ14aに示す処理を実行した後にステップ12に示す処理を実行する代わりに、ステップ11に示す処理を実行するようにしてもよい。
【0034】
図5はパルス過給を行わない場合と、VN33を開いた状態でパルス過給を行った場合と、図4に示すフローチャートに従ってVN33を閉じた状態でパルス過給を行った場合とに対応するスワール比夫々の変化を模式的に示す図である。図5では、これらのスワール比の変化を横軸をクランク角度として、部分負荷運転領域で内燃機関50を1,200rpmで運転した場合について示している。この図からパルス過給を行った場合にはパルス過給を行わない場合と比較して、より大きなスワール比が得られることがわかる。また、一般的なSCV(スワールコントロールバルブ)でスワール比を高めた場合と比較しても、パルス過給を行った場合には、より大きなスワール比が得られることがわかる。
【0035】
さらにパルス過給を行った場合でも、VN33を開いた状態よりもVN33を閉じた状態のほうがさらに大きなスワール比が得られることがわかる。すなわち、回転数NEが1、200rpmといった低い回転数であっても、VN33を閉じるように制御することでさらに大きなスワール比がパルス過給で得られることがわかる。またこのスワール比は図4に示すフローチャートに従ってVN33を閉じた状態で生成されたものであるため、この運転状態において適度なものとなっている。以上により、パルス過給と協調させて過給機30を制御することでより高い慣性過給効果を得ることが可能な、さらには慣性過給効果でスワール比を適度に向上させることが可能なECU1Aを実現可能である。
【実施例2】
【0036】
本実施例に係るECU1Bは、燃料噴射時期制御用プログラムが、パルスチャージ弁17、より具体的にはアクチュエータ17aがパルス過給を行うように制御される運転状態において、さらには部分負荷運転領域において、燃料噴射時期を遅角させるように変更する燃料噴射時期遅角用プログラムを有して構成されている以外、実施例1に係るECU1Aと同一のものとなっている。なお、燃料噴射時期制御用プログラムは、ROMに格納された前述のマップデータを参照してパルス過給が行われる運転状態であるか否かと、部分負荷運転領域であるか否かを判定するように作成されている。さらにこの燃料噴射時期遅角用プログラムは、燃料噴射時期を遅角させるにあたって、パルスチャージ弁17が吸気通路を遮蔽して貯圧を行っているときの上流圧P0と、内燃機関50の運転状態に応じて設定した目標過給圧Pmとの差(式Pm−P0)が所定値Plimitよりも小さくなるまで、燃料噴射時期を次第に遅角させるためのプログラムとなっている。本実施例ではCPU等と燃料噴射時期遅角用プログラムとで燃料噴射時期遅角手段が実現されている。
【0037】
次に、部分負荷運転領域でパルス過給が行われる運転状態において、要求スワール比が得られるように燃料噴射時期を遅角させるべく、ECU1Bで行われる処理を図6に示すフローチャートを用いて詳述する。なお、本フローチャートはステップ14aがステップ14bに置き換えられているほか、図4で示したフローチャートと同一のものとなっている。このため、本実施例では特にステップ14bについて詳述する。CPUはステップ11から13までに示す処理を実行する。ステップ13で肯定判定であれば、CPUは燃料噴射時期を遅角させるように制御する(ステップ14b)。本ステップで、燃料噴射時期は所定量βだけ遅角される。続いてCPUは再びステップ12に示す処理を実行し、ステップ13で否定判定されるまでステップ12、13及び14bに示す処理を繰り返し実行する。これにより、燃料噴射時期は所定量βづつ次第に遅角されるように制御される。その結果、ステップ13で否定判定であれば上流圧P0は目標過給圧Pm程度になったと判定され、CPUはステップ11に示す処理を実行する。
【0038】
また、本フローチャートの処理と図4で示したフローチャートの処理とは並列的に同時進行する。したがって、本フローチャートで燃料噴射時期を次第に遅角させることで、同一タービン容量でさらに上流圧P0を高めることができるようになることから、より早い段階でステップ13で否定判定されることになる。すなわち、より早く上流圧P0を目標過給圧Pm程度まで高めることができる。また、仮にタービン容量の小容量化では十分に上流圧P0を高めることができない場合であっても、燃料噴射時期を遅角させることでさらに上流圧P0を高めることができるようになることから、より好適に適度のスワール比を得ることができるようになる。
【0039】
なお、直噴ガソリンエンジンやリーンバーンエンジンに本発明を適用した場合には、具体的には旋回気流の強度を適度に高めることで希薄燃焼を好適に実現できるようになるほか、希薄燃焼領域を拡大することもできる。また、均質燃焼時には混合気のミキシング性を向上させて燃焼状態の改善を図ることもできる。同様にディーゼルエンジンに本発明を適用した場合にも、混合気のミキシング性を向上させて燃焼状態の改善を図ることが可能である。また筒内に旋回気流が意図的に生成されない内燃機関に本発明を適用した場合にも、吸気充填効率をさらに向上させることができることから出力性能の向上が期待できる。以上により、パルス過給と協調させて過給機30を制御することでより高い慣性過給効果を得ることが可能な、さらには慣性過給効果でスワール比を適度に向上させることが可能なECU1Bを実現可能である。
【0040】
上述した実施例は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ECU1Aを内燃機関システム100とともに模式的に示す図である。
【図2】過給機30のタービン部の詳細を模式的に示す図である。
【図3】パルス過給を行ったときの下流圧P1の変化の一例を模式的に示す図である。
【図4】ECU1Aで行われる処理をフローチャートで示す図である。
【図5】パルス過給を行わない場合と、VN33を開いた状態でパルス過給を行った場合と、VN33を閉じた状態でパルス過給を行った場合とに対応するスワール比夫々の変化を模式的に示す図である。
【図6】ECU1Bで行われる処理をフローチャートで示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 ECU
10 吸気系
17 パルスチャージ弁
19 圧力センサ
20 排気系
30 過給機
50 内燃機関
57 燃料噴射弁
100 内燃機関システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、該内燃機関に連通する吸気通路を連通、遮蔽してパルス過給を行うパルス過給手段と、前記内燃機関に対して排気エネルギーを利用して過給を行う可変容量型ターボチャージャとを有して構成される内燃機関システムで、前記可変容量型ターボチャージャを該可変容量型ターボチャージャのタービン容量を変更するように制御する内燃機関システムの制御装置であって、
前記パルス過給手段がパルス過給を行うように制御される運転状態に応じて、前記可変容量型過給機のタービン容量を小さく変更するパルス過給協調制御手段を備えることを特徴とする内燃機関システムの制御装置。
【請求項2】
前記運転状態が、さらに部分負荷運転領域で前記内燃機関が運転される状態であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関システムの制御装置。
【請求項3】
前記パルス過給手段が前記吸気通路を遮蔽しているときの該パルス過給手段の上流側の圧力と、目標過給圧との差が所定値よりも小さくなるまで、前記パルス過給協調制御手段が前記可変容量型過給機のタービン容量を次第に小さく変更することを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関システムの制御装置。
【請求項4】
さらに前記内燃機関の燃料噴射時期を遅角させる燃料噴射時期遅角手段を備えるとともに、該燃料噴射時期遅角手段が、前記パルス過給手段が前記吸気通路を遮蔽しているときの該パルス過給手段の上流側の圧力と、目標過給圧との差が所定値よりも小さくなるまで、前記内燃機関の燃料噴射時期を次第に遅角させることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の内燃機関システムの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−327379(P2007−327379A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158121(P2006−158121)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】