説明

加減速制御装置

【課題】運転者の加減速意図に沿う制御量で車両を加減速させる加減速制御装置を提供する。
【解決手段】加減速制御装置6は、自車両1の前後加減速度を制御する前後加減速制御部400と、前後加減速制御部400に制御介入して前後加減速度を補正する補正制御部500と、補正制御部500による制御介入を許可または禁止する制御介入許可判断部300を有する。そして、自車両1の横加々速度に基づき自車両1の前後加減速度を補正し、自車両1の前後加減速度の補正を所定条件に基づき許可または禁止する処理を行う。これにより、自車両1の動作を、より運転者の加減速意図に沿ったものとし、前後加減速度の補正制御に起因した運転者の違和感を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者に違和感を与えないように自車両の加減速度を制御する加減速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両の運動制御装置として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。この技術の目的は、アクセル、ステア、ブレーキ操作についての具体的な制御タイミングの指針を明確化し、これに基づいた運動制御を行える車両の運動制御装置を提供することである。
【0003】
具体的には、車両の操舵を制御する装置を有する車両の運動制御装置において、少なくとも車両の前後方向もしくは横方向の加々速度情報を用いて、車両の操舵もしくは前後加減速制御する制御手段を備えるようにしたものである。また、非特許文献2では、車両の横加々速度に応じて、車両前後の加減速度を設定する指針に関して記述されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006-123354号公報
【非特許文献1】山門、安部:加々速度情報を用いた操舵と連係して加減速する運転者モデルの提案、自動車技術会学術講演会前刷集No.108-07、pp21-26、2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のような車両の運動制御装置にあっては、例えば車両の前後加減速度を制御する制御装置において、車両の前後加速度の制御が開始もしくは終了されるタイミングは、横加々速度が0近傍のときに行うとしている。
【0006】
また、非特許文献1では、特許文献1の加減速制御のタイミングを加味した車両の横加々速度に応じて車両の前後加速度を算出する基本方針に関して記述されている。これは車両運動の観点から言えば、例えばコーナーに突入する際、横加速度が増加するときに減速することで後輪から前輪に荷重を移動させ、前輪のコーナリングスティフネスを向上させる一方で、後輪の荷重が抜け、後輪のコーナリングスティフネスを低下させる。これにより、操縦性を向上させることができる。またコーナーから脱出する際、横加速度が減少するときに加速することで、後輪側に荷重を移動し、車両の安定化を図るものである。
【0007】
しかし、常にこのように前後・横加々速度が0近傍のタイミングで制御が介入することは、必ずしも「運転者の加減速意図」を考慮した制御となっているとは言い切れない。例えば、旋回中に運転者がアクセルを踏み増すなどにより車両が加速した場合、横加々速度が増加する。従って、従来の制御では減速補正制御が介入されることになり、運転者が加速を意図しているにもかかわらず、減速補正がなされるという問題がある。また、車両の前後加速度を介入させる具体的なタイミングは示されているが、その制御すべき加減速度の大きさ(ゲイン)に関しては明記されていない。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決することを課題としてなされたものであり、より安全に、運転者の加減速意図に沿う適切な制御量で車両を加減速させる加減速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成する本発明の加減速制御装置は、自車両の横加々速度に基づき自車両の前後加減速度を補正し、自車両の前後加減速度の補正を所定条件に基づき許可または禁止する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、自車両の横加々速度に基づき自車両の前後加減速度を補正し、その自車両の前後加減速度の補正を所定条件に基づき許可または禁止するので、自車両の動作を、より運転者の加減速意図に沿ったものとし、補正制御に起因した運転者の違和感を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[第1実施の形態]
<ハンドル操作とアクセル開度に応じて加減速補正制御を実現する車両構成>
運転者は減速したい時にアクセルを離し、加速したい時にはアクセルを踏むという基本操作を考慮し、違和感の少ない制御介入許可の条件を考えると、アクセルを踏んでいる間だけ加速補正制御の介入を許可し、アクセルを踏んでいない間だけ減速補正制御の介入を許可することを考慮すべきである。以下、これを実現する第1実施の形態を示す。
【0012】
図1は、本実施の形態における自車両1の全体構成図である。車両1は、車輪1a、1b、1c、1d、車輪速センサ2a、2b、2c、2d、車速算出器3、操舵角センサ4、アクセルペダル開度検出センサ5、加減速制御装置6、駆動力発生手段7、ブレーキ8a、8b、8c、8dで構成される。
【0013】
車輪1a、1b、1c、1dの回転数は、車輪速センサ2a、2b、2c、2dによって検出される。車速算出器3は、車輪速センサ2a、2b、2c、2dで検出した各車輪1a、1b、1c、1dの回転数に基づいて、車両1の進行方向の速度である車速Vを算出する。
【0014】
車速算出器3では、まず、各車輪1a、1b、1c、1dの角速度に車輪の回転半径を乗じて各車輪1a、1b、1c、1dの進行方向の車速Va、Vb、Vc、Vdを計算する。車速Vは、Va、Vb、Vc、Vdの平均値であっても良いし、車輪1a、1b、1c、1dのいくつかが空転している可能性を考慮して、車速Va、Vb、Vc、Vdの中の1番低い値としても良いし、2番目に低い値としても良いし、1番低い値と2番目に低い値の平均値としても良い。車速算出器3で算出された車速Vは、加減速制御装置6に送信される。
【0015】
操舵角センサ4は、一般的に公知なロータリーエンコーダ式のものであり、ステアリングホイールの操作量を検出し、操舵角δの情報として加減速制御装置6に送信する。アクセルペダル開度検出センサ5は運転者によるアクセルペダルの踏み込み量を、センサ内のホール素子などにより電気信号に置き換え電圧として出力する。
【0016】
加減速制御装置6は、電気回路とマイコン、もしくは、マイコンのみで構成し、後述するロジックに基づいて、車速Vや横加々速度dGなどを用いて、駆動力発生手段7や、ブレーキ8a、8b、8c、8dを制御するための制御指令値を算出する。駆動力発生手段7は、自車両1を駆動させるための手段で、例えば、エンジン(内燃機関)と変速ギアで構成される。また、電動モータとギアで構成しても良い。
【0017】
<制御手法>
図2は、本実施の形態における加減速制御装置6の構成図である。加減速制御装置6は、前後加減速制御手段400、加減速補正制御手段500、制御介入許可判断手段300を備えており、その入力側には自車情報取得手段100が接続されている。
【0018】
自車情報取得手段(自車情報取得部)100は、自車両状態量の情報を取得するものであり、本実施の形態では、自車両状態量として車両1の操舵角δとアクセル開度aと車速Vの情報を取得する。車両1の操舵角δとアクセル開度aと車速Vの情報は、各種公知のセンサから取得される。
【0019】
前後加減速制御手段(前後加減速制御部)400では、自車情報取得手段100によって検出されるアクセル開度aに基づいて、運転者の要求する加減速度(加速度または減速度)を算出する処理が行われる。そして、加減速補正制御手段(補正制御部)500では、前後加減速制御手段400に制御介入して、車両1の加減速度を補正する処理が行われる。加減速補正制御手段500は、自車情報取得手段100からの自車両状態量の情報に基づいて加減速補正量を算出する。制御介入許可判断手段(制御介入許可判断部)300では、所定条件に応じて加減速補正制御手段500による制御介入の許可または禁止が判断される。
【0020】
図3は、制御介入許可判断手段300における処理の流れを示すフローチャートである。まず、ステップS310では、自車両1の車速Vが予め設定された車速閾値Vr以上か否かが判断される。そして、車速Vが車速閾値Vr以上である場合(ステップS310でYES)は、アクセル開度aに基づく判断を行うべく、ステップS320以降に移行する。そして、車速Vが車速閾値Vrより小さい場合(ステップS310でNO)は、加減速補正制御手段500による制御介入を禁止すべくステップS350へ進み、制御介入許可フラグf_aを0にセットする(f_a=0)。
【0021】
ステップS320では、運転者によるアクセル開度aと予め設定された閾値αとが比較され、アクセル開度aが閾値α以上であるか否かが判断される。ここで、アクセル開度aが閾値α以上である場合は(ステップS320でYES)、運転者による加速意思があるものと判断し、加減速補正制御手段500による制御介入を許可すべくステップS330に進み、制御介入許可フラグf_aを2にセットする(f_a=2)。
【0022】
一方、アクセル開度aが閾値αより小さい場合は(ステップS320でNO)、運転者には減速意思があるものと判断し、加減速補正制御手段500による制御介入を許可すべくステップS340に進み、制御介入許可フラグf_aを1にセットする(f_a=1)。ここで閾値αを適当な値とする事で、エンジンブレーキによる減速分が考慮された、運転者の加減速意思を判断することができる。
【0023】
図4は、加減速補正制御手段500における処理の流れを示すフローチャートである。まず、ステップS510では、横加々速度dG、横加速度Gに基づいて前後加減速度補正値Gxcを算出する。前後加減速度補正値Gxcとは、車両1の前後方向の加減速度を補正する加減速度補正量である。ここでは、前後加減速度補正値Gxcを算出する方法の一例として、非特許文献1に記載された横運動に連係した加減速度の指針を用いており、横加速度Gおよび横加々速度dGを入力として、前後加減速度補正値Gxcを算出する。
【0024】
本実施の形態では、車両状態量の情報として操舵角δと車速Vを用いているため、ステップS510にて、これら操舵角δと車速Vから横加速度G、横加々速度dGを算出し、前後加減速度補正値Gxcを算出する。
【0025】
操舵角δから横加々速度dGを算出するには、加速度センサと同じように、横加々速度dGを算出し、その信号を微分する必要がある。ところで、操舵角信号は、車両運動に重要な低周波領域では横加速度Gよりも位相が進んでいるため、車両1に発生した横加速度Gを微分して横加々速度dGを得る場合に比べて、より時定数の大きいローパスフィルタを掛けても応答遅れが少なくて済む。
【0026】
図5は、操舵角δと車速Vに基づいて横加速度Gと横加々速度dGを算出する方法を説明する図である。車両モデルS501は、操舵角δ[deg]、車速V[m/s]を入力として、速度の依存性を有するヨーレイトr[rad/s]を出力する。このヨーレイトrは下記の式(1)で表される車両の二次応答遅れを考慮しないヨー角速度ゲイン定数Grδ(0)と、操舵角δに対する二次遅れ応答で表される。
【0027】
【数1】

【0028】
この式において、T、ζ、ω、Aは車両固有のパラメータであり、実験的に予め同定した値である。次にゲイン定数Grδ(0)から、横加速度Gは以下の式で表される。
【0029】
【数2】

【0030】
上記の式(2)でβは、横滑り角の変化速度であるが、タイヤ力の線形領域内での運動であれば、βは小さく、ほぼ無視しても良い。従って、本実施の形態では、ヨーレイトGr δ(0)と車速Vを乗じて操舵角δによる横加速度Gを算出できる。
【0031】
次に、算出した横加速度Gを離散微分しローパス特性フィルタS503に通して横加々速度dGとする。このときのローパス特性フィルタS502の時定数Tlpfは、先の二次の応答遅れを考慮する。また、位相を合わせるために同じ時定数Tlpfのローパス特性フィルタS504に通した横加速度Gを用いる。
【0032】
以上のように算出した横加速度Gと横加々速度dGを用いて、以下の式(3)に従ってステップS510において車両の前後加減速補正値Gxcを算出する。
【0033】
【数3】

【0034】
この式(3)は、基本的に横加々速度dGとゲインCxyを乗算し、一次遅れを付与した値を前後加減速補正値Gxcとしている。このような形態の式に限らず、横加々速度dGに比例したような、下記の式(4)で代表される形態でも、横運動に連係した違和感の少ない車両1の加減速を実現することができる。
【0035】
【数4】

【0036】
次に、ステップS520では、ステップS510で算出された前後加減速度補正値Gxcの符号が正で且つ図2の制御介入許可判断手段300にて計算された制御介入許可フラグf_aの値が2である場合、または、前後加減速度補正値Gxcの符号が負で且つ制御介入許可フラグf_aの値が1である場合のいずれか一方に該当するかが判断される。
【0037】
例えば、前述の通り、制御介入許可フラグf_aの値が2ならば(f_a=2)、運転者には加速意思があると判断され、横加々速度dGより算出した前後加減速度補正値Gxcのうち、加速成分のみを前後加減速度補正値Gxcとする処理が行われる。ここで、横加々速度dGより算出した前後加減速度補正値Gxcの符号が正の場合(Gxc>0)は(ステップS520でYES)、ステップS530に進み、ステップS510で算出された前後加減速度補正値Gxcが出力される。
【0038】
そして、横加々速度dGより算出した前後加減速度補正値Gxcの符号が負の場合(Gxc<0、f_a=2)は(ステップS520でNO)、ステップS531に進み、前後加減速度補正値Gxcを0とされる。
【0039】
一方、制御介入許可フラグf_aの値が1ならば(f_a=1)、運転者には減速意思があるものと判断され、同様に横加々速度dGより算出した前後加減速度補正値Gxcのうち、減速成分のみを前後加減速度補正値Gxcとする処理が行われる。ここで、横加々速度dGより算出した前後加減速度補正値Gxcの符号が負の場合(Gxc<0)は(ステップS520でYES)、ステップS530に進み、ステップS510で算出された前後加減速度補正値Gxcが出力される。
【0040】
そして、横加々速度dGより算出した前後加減速度補正値Gxcの符号が正の場合(Gxc>0、f_a=1)は(ステップS520でNO)、ステップS531に進み、前後加減速度補正値Gxcを0とされる。
【0041】
加減速制御装置6は、図2に示すように、加減速補正制御手段500で横加々速度dGから算出された前後加減速度補正値Gxcと、前後加減速制御手段400でアクセル開度aから算出された運転者要求制駆動力(Gx_DC)とを加算し、駆動力発生手段7や、ブレーキ8a、8b、8c、8dを制御するための制御指令値を出力する。
【0042】
<具体的な走行シーン:アクセルペダルによる運転者の加減速意思判断>
図6は、車両1がカーブ(旋回路)に進入して脱出するまでの走行経路Lを模擬的に示した図であり、直進区間L1、緩和曲線からなる過渡区間L2、定常旋回区間L3、過渡区間L4、直進区間L5を想定している。
【0043】
そして、図7は、図6に示す走行経路Lにおいて、運転者がパターンAとパターンBのアクセル操作をした場合における車両状態量及び制御介入許可フラグf_aの時間遷移図である。パターンA、及びBは、地点P1にて運転者がアクセルペダルから足を離し、地点P3から徐々にアクセルを踏み、地点P4から地点P5までは一定のアクセル開度にする。ここからパターンAとBでは異なる。
【0044】
パターンAでは、図7(b)に実線で示すように、地点P5を過ぎても、速度を維持するためアクセル開度aを一定のままにする(a>α)。一方、パターンBでは、図7(b)に破線で示すように、地点P5において、アクセル開度を0とし、その後もアクセルペダルを踏み込まないとする。
【0045】
まず、パターンAでは、運転者は直線区間L1から過渡区間L2に突入する前に、カーブ前の減速のためにアクセルペダルを離す(図7(b)を参照)。この行動は一般的な運転者の操作として良くみられる行動である。このとき、アクセル開度aは閾値αよりも下回り、制御フラグf_aの値は2から1へ移行し(図7(d)を参照)、制御介入許可判断手段300では、加減速補正制御手段500による減速補正制御の介入が許可される。
【0046】
車両1が過渡区間L2(地点P1〜P3)に突入すると、運転者はステアリングホイールによって徐々に操舵を切増しする操作を行い、その操舵の切増しに応じて、図7(a)に点線で示すように、車両1の横加速度Gが増加する。
【0047】
ここでは、加減速補正制御手段500による減速補正制御の介入が許可されているので、上記の式(3)に従って前後加減速度補正値Gxcが算出される。前後加減速度補正値Gxcは、図7(a)に実線または破線で示されるように、車両1の加速度を減速側に補正する減速補正量が算出される(図7(a)の下向太矢印を参照)。そして、前後加減速度補正値Gxcに従って、加減速制御装置6からブレーキ8a、8b、8c、8dに加減速制御指令値が送られ、車両1は減速補正される。
【0048】
その後、車両1が定常旋回区間L3(地点P3〜P5)に突入すると、運転者は操舵の切増しを止め、操舵角を一定に保つ。タイヤ力が線形領域内であれば、操舵一定により横加々速度dGは図7(a)に二点差線で示すように0になり、前後加減速度補正値Gxcも図7(a)に実線または破線で示すように0となる。
【0049】
パターンAでは、定常旋回中に車両1の速度を保つ、もしくは車両1の速度をあげるため、アクセルペダルを閾値α以上となるように踏み込む。これにより、制御フラグf_aは1から2へ移行し(f_a=2)、加速補正制御の介入が許可される状態になる。
【0050】
この後、過渡区間L4(地点P5〜P7)では、加速補正制御の介入が許可された状態で、横加速度Gが減少し、横加々速度dGは負になる。従って、式(3)より前後加減速度補正値Gxcは正となり(Gxc>0)、図7(a)に実線で示されるように、車両1の加速度を加速側に補正する加速補正量が算出され(図7(a)の上向き太矢印を参照)、車両1は加速補正される。また直進区間L5では、横加々速度dGが0となるため、加減速補正制御手段500による車両1の加減速補正制御は実行されない。
【0051】
従って、運転者がアクセル操作を行えば、加減速補正制御の介入が適切に行われ、操舵開始のターンイン時(地点P1)からクリッピングポイント(地点P3)にかけて減速補正され、定常円旋回中(地点P3〜P5)は加減速補正が行われず、操舵切戻し開始時(地点P5)からコーナー脱出時(地点P7)では加速補正されるという運動が半自動的に実現される。従って、運転者に違和感を与えることなく車両1の前後加減速度を円滑に加減速補正することができる。
【0052】
次に、パターンBについて説明する。パターンBでは、前述の通り、地点P5までパターンAと同様のアクセル操作を行うが、その後は何らかの減速理由によりアクセル開度aを0にしている。
【0053】
この減速理由としては、例えば車両1の車線逸脱、先行車両の出現などが考えられる。一般的に運転者は、減速すべき大きさはわからないがとりあえず速度を落としたいという意思があるとき、アクセルペダルを戻すことによる減速(エンジンブレーキ)をすることがある。また、ブレーキ操作を行う場合も、アクセルペダルから足を離し、ブレーキペダルを踏むことから、アクセルペダルは運転者の加減速意思を読み取ることができる。
【0054】
従来技術であれば、アクセルペダルから足を離していても、また、ブレーキペダルを踏み増していても、地点P5〜P7にわたる過渡区間L4の操舵切戻しによって横加速度Gが減少し、横加々速度dGは負であるため、式(3)に従い、加速補正がされてしまう。このようなシーンにおける加速補正は、減速意思のある運転者にとって違和感や恐怖感を与えるおそれがある。
【0055】
これに対し、本発明では、パターンBにおいて、アクセルペダルから足を離すので、図7(b)に示すように、アクセル開度aが閾値αを下回る。従って、図7(d)に示すように制御介入許可フラグf_aの値が2から1へ移行し、制御介入許可判断手段300では、加減速補正制御手段500による加速補正制御の介入が禁止される。これにより、不要な加速補正制御の介入がなくなり、車速Vは、図7(c)に示すように、アクセルペダルの動きに応じて減速され、運転者の違和感を軽減させることができる。
【0056】
図8は、前後加速度と横加速度の遷移を示すダイアグラムであり、図8(a)は、図6に示す走行経路をパターンAで走行した場合に車両1に作用する車両前後加速度Gと車両横加速度Gの変化を示し、図8(b)は、図6に示す走行経路をパターンBで走行した場合に車両1に作用する車両前後加速度Gと車両横加速度Gの変化を示す。
【0057】
車両1に作用する車両前後加速度Gと車両横加速度Gは、図8(a)、(b)に示すように、パターンA及びパターンBのいずれの場合でも、地点P0、P1から地点P2を通過して地点P3、P4、P5に円滑に移行している。これは、車両1に作用する加速度の急激な変化が少なく、乗り心地がよいことを示している。
【0058】
<定常旋回からの加速>
次に、定常旋回区間L3で加速した場合における本発明と従来技術の明確な差(本発明の効果)について、図9、図10を用いて説明する。図9は、従来技術における車両状態量の変化を示す時間遷移図、図10は、本実施の形態における車両状態量の変化を示す時間遷移図である。
【0059】
地点P3〜5の定常旋回区間L3は、旋回半径が変化しない走行軌道であるため(図6を参照)、車速Vが一定であれば車両1の横加々速度dGは変化しない。しかし、定常旋回区間L3において、運転者がアクセルペダルを踏み増し操作して、車速Vが増加すると、横加速度Gが増加する。式(3)に従えば、横加速度Gが増加する(横加々速度dGは正)と、加減速補正制御手段500によって減速補正制御がなされることになる。
【0060】
従って、制御介入許可判断手段300が存在しない従来技術の場合は、運転者がアクセルペダルを踏み増ししたにもかかわらず、図9(a)に実線で示すように、地点P3〜P5において、加速を鈍らせる方向に減速補正制御がなされ、運転者に対して車両1のもたつき感等の違和感を与えるおそれがある。
【0061】
しかし、制御介入許可判断手段300を有する本実施の形態の場合は、アクセル開度aが閾値α以上にされると、制御介入許可判断手段300によって減速補正制御の介入が禁止されるため、図9(a)に実線で示すように、地点P3〜P5の定常旋回区間L3において減速補正制御は行われず、図9(b)、(c)に示すように、アクセル開度aに応じて車速Vも円滑に上昇させることができ、運転者に対して違和感を与えることはない。
【0062】
また、上記のような減速補正に限らず、定常旋回区間L3で運転者がアクセルを離して減速する場合を考えると、横加速度Gは減少する(横加々速度dGは負)ため、式(3)に従えば、車両1は加速補正されることになる。
【0063】
従って、制御介入許可判断手段300が存在しない従来技術の場合は、定常旋回区間L3において運転者がアクセルペダルから足を離したにもかかわらず、車両1を加速させる方向に補正制御がなされる。これも運転者の意思に合わないため、運転者に違和感を与えるおそれがあり、もしくは意図しないタイミングで加速補正制御が介入することで、運転者に恐怖感を与えることが懸念される。
【0064】
これに対し、本実施の形態における加減速制御装置6を適用すれば、アクセルペダルを戻してアクセル開度aを閾値α以下にすることで、制御介入許可判断手段300によって加速補正制御の介入が禁止される。従って、定常旋回区間L3において加速補正制御は行われず、運転者に対して上記のような違和感や恐怖感を与えることはない。
【0065】
さらに、本実施の形態においてその効果が明確となるのは、車線変更するシーンが考えられる。例えば、走行車線から追い越し車線へ車線変更するとき、運転者はアクセルを踏み増し、加速しながら変更することがある。
【0066】
このとき、従来技術であれば、車線変更の操舵によって、横加速度Gの増加に伴う減速補正制御が介入され、その後に、横加速度Gの減少に伴う加速補正制御が介入されることになるため、車両1の挙動はギクシャクとしたものとなる。
【0067】
これに対して、本実施の形態では、アクセルペダルを踏んでいることで減速補正制御の介入が禁止されるので、車線変更後半における操舵切戻し時の横加速度Gの減少に伴う加速制御のみを介入させることができる。従って、アクセルペダルの踏み込みに応じて車両1を円滑に加速させることができ、運転者に違和感を与えることはない。
【0068】
[第2実施の形態]
<アクセル開度の閾値αの制御>
次に、図11を用いて、アクセル開度aの閾値αを設定する方法について具体的に説明する。図11は、アクセル開度aの閾値αを設定する方法を説明する図であり、図11(a)は、前後加速度Gxとアクセル開度aとの関係における閾値αの値を示すグラフで、図11(b)は、閾値αと車速Vとの関係を示すグラフである。
【0069】
運転者は一般的に一定の車速を保つために、一定のアクセル開度で走行する。この均衡が崩れるのは車両1に外力が働いたときであり、顕著になるのは坂道を走行したときである。
【0070】
例えば、平坦路から登坂路へ移動すると、平坦路で一定走行が可能であったアクセル開度では車両1が減速する場合がある。このとき、運転者は、アクセルペダルを踏んでいるが速度が低下してくることを容認している場合、アクセルペダルによって減速度を調節していると考えられる。従って、アクセルペダルを踏んでいても、この場合は減速補正制御を介入する必要がある。
【0071】
一方、下り坂のようにアクセルペダルを離していても車両1が加速していくような走行では、運転者には加速意思があると判断し、加速補正制御を介入する必要がある。これらを考慮すると、アクセル開度のみでは、運転者の加減速意思を判断するには十分でない。また、車速Vが高いときに加速補正制御をすることは、アクセルペダルを踏んでいたとしても運転者が違和感を覚える可能性がある。また、車速Vが低いにもかかわらず、加速補正制御が介入しない、もしくは減速補正制御が介入することも、運転者に違和感を与えることとなる。
【0072】
これらを解決するために、閾値αを、そのときの車速Vをおおよそ維持するためのアクセル開度と定義するのが適当と考えられる。言い換えれば、閾値αを車速Vの関数とし、車速Vが大きければ大きいほど、閾値αを大きくし、車速Vが小さければ小さいほど、閾値αを小さくする。
【0073】
これに従えば、登坂路の場合、平坦路を走行するときよりもアクセル開度を大きくしなければ車速を維持、もしくは加速しないため、運転者に車速を維持、もしくは加速するためのアクセル踏み増しがなければ、減速意思と判断することになる。このように、坂道においても運転者の加減速意思を判断することができ、より運転者の加減速意思に沿った、違和感のない加減速補正制御が可能となる。
【0074】
[第3実施の形態]
<先行車両、歩行者などがいる場合>
図12は、アクセル開度以外の情報に基づいて加速補正制御の介入を判断する実施の形態を示す図である。制御介入許可判断手段300では、基本的には、アクセル開度aが0にされることによって、加速補正制御の介入を禁止する処理を行う。
【0075】
しかしながら、運転者の反応速度や、運転者が前方からの接近物体に気づかない場合には、外界認識センサ10、11を用いて認識対象との相対関係を検出し、アクセルペダルを戻すことよりも先に加速補正制御の介入を禁止することも有効と考えられる。ここでは、アクセル開度aの閾値αをそのときの車速Vをおおよそ維持するためのアクセル開度よりも低い値と定義する。
【0076】
本実施の形態では、車両1に、新たに人や障害物、自転車、先行車両を検出できる外界認識センサ10、11を搭載する。これにより、本発明を実現する車両構成は、図2のようにこれまでのアクセル開度aに基づいて制御介入の判断をしていた制御構造から、図13のように周囲情報取得手段(周囲情報取得部)200が追加された構造となる。
【0077】
図14は、本実施の形態における加減速制御装置6の構成図である。周囲情報取得手段200は、自車両周囲の情報を取得する外界認識センサ10、11を備えている。外界認識センサ10は、レーダセンサ10であり、例えば車両前方に電磁波や音波を発射し、その反射波との位相差や時間差などから、認識対象との相対関係を検出する。
【0078】
また、外界認識センサ11は、単眼カメラやステレオカメラ等のカメラセンサ11であり、カメラセンサ11で撮像した映像を処理することで、同じように相対関係を算出することができる。カメラセンサ11で算出されたデータは加減速制御装置6に送信される。
【0079】
図12において、図6と同様のアクセル操作を行う。運転者がアクセルペダルを一定に保ちながら車両1が地点P5を通過すると、通常は横加々速度dGの減少に伴い加速補正制御が介入される。
【0080】
ここで、センサ10により前方の障害物M(認識対象)を検知し、一定のリスク以上であると算出された場合には、加速補正制御の介入が禁止される。このリスクの算出方法は、さまざまな公知の手段によって実現される。
【0081】
ところで、この障害物Mの例として、先行車、対向車、人、自転車などが挙げられ、前述したセンサ10によって検出される。加えて、信号機(特に赤信号)、交差点、横断歩道なども、加速補正制御の介入の禁止に該当すると考えられる。この場合、自車両の位置、交差点、横断歩道の位置情報を持ったカーナビゲーションシステムを利用することができる。
【0082】
また、これらが前方に位置することを示唆する標識を、カメラセンサ11の画像処理によって検出してもよい。または信号機にあっては、カメラセンサ11の画像処理による認識の他、信号機に通信機を搭載し、車両1と通信を行って、信号の状態を検出する方法を採用してもよい。これら加速補正制御の介入を禁止すべき対象は、搭載する車両1の制御コンセプトに依存する。
【0083】
[第4実施の形態]
<道幅が狭い場合、ナビによる経路案内>
例えば、カーナビゲーションシステムやカメラセンサ11により、自車周囲の道路情報を取得することができる場合、道路の形状等の情報に基づいて、加減速補正制御の介入を許可または禁止してもよい。例えば、道幅が狭い道路や市街地の道路を走行している場合では、加速補正制御の介入を禁止し、減速補正制御の介入のみを行うこととしてもよい。
【0084】
[第5実施の形態]
<アクセルの踏み込み量、ブレーキの踏み込み量に応じたゲイン>
制御ゲインCxyは、固定値とされる。しかし、運転者のアクセル操作を考慮すると、大きく加速したいときには当然にアクセル開度aが大きくなる。同じようにブレーキペダルを踏むことはそれだけ減速意思が大きい。従って、図15に示すように、アクセル開度aやブレーキ開度に応じて変化させてもよい。また、日常、運転者の踏み込み量を学習し、その傾向と合うように補正してもよい。
【0085】
[第6実施の形態]
<カーブ前減速との共存>
上記した式(3)は、実際に車両1に作用している横加々速度dGに連係して、前後加減速度を補正するものである。従って、車両1の運動エネルギーを低下させるために、カーブ路(旋回路)前(この場合、過渡区間に入らない直進路を示す)で減速を行うような制御には対応していない。
【0086】
しかし、車速Vが非常に大きい場合には、上述の加減速補正制御では対応できないことから、カーブ路前(直進区間)での減速は重要となる。従って、以下、カーブ路前における減速補正制御の実施例に関して説明する。
【0087】
本実施例で必要となるセンサは、車両前方にカーブ路があると検知できるものである。例えばカーブミラーに搭載した通信機により、車両1から車両前方のカーブ路までの進入距離やカーブ路半径(定常旋回路半径)の情報を、車両1に送信するものなどが考えられる。本実施例では、カメラセンサ11のステレオカメラによって、車両前方のレーンマーカや障害物の配置からカーブの形状を推定する方法に関して説明する。
【0088】
図16は、直進区間(地点P0〜P1、区間長Lin)から過渡区間(地点P1〜P3、区間長Lc)を経てカーブ路(地点P3〜P4、半径R)に進入するシーンを想定している。カメラセンサ11は、車両1の車両中心線を前方に延長した延長線Cm上に一定間隔で設定される参照点(セグメントと呼ばれる)の各点(X、X、X、X、X・・・)から、左右の道路端までの距離を検出する。
【0089】
そして、この距離データから、延長線Cmと道路中央線(レーンマーカ)Crとの距離を算出し、それぞれy、y、y、y・・・とする。図16では、X、Xの地点において道路中央線Crとの乖離はないため、変数を割り振らない。ここで、算出すべき情報は、過渡区間までの距離Linと定常旋回路半径R、過渡区間距離Lである。
【0090】
過渡区間(地点P1〜P3)は、一般的な道路においてはクロソイド曲線で近似される。これは、地点P1を原点とした座標系で道路中央線Crの軌跡を表すと、
【数5】

【数6】

で表すことができる。
【0091】
半径Rが緩和曲線長Lより十分大きいとすれば、式(5)、式(6)の第二項以降は無視できる。従って、xとyの関係は以下の三次関数で表される。
【0092】
【数7】

【0093】
Aはクロソイド曲線のパラメータであり、半径Rとクロソイド曲線長Lの積の根で表される。ここで、この三次関数は下記のような関係を持つ。
【0094】
【数8】

【0095】
この関係を用いて、過渡区間までの進入距離Lin、および半径Rは以下の式で表される。
【0096】
【数9】

【数10】

【0097】
ここで、過渡区間の長さLはクロソイド曲線の特性上、不確定となる。カメラセンサ11やレーダ10などでは、この過渡区間の長さLを検出する事は不可能であり、実用上は道路の構造から推定することになる。
【0098】
例えば、道路構造例によれば、図17に示すように、走行道路には予め設計速度がそれぞれ設定されており、設計速度に応じた過渡区間長(緩和曲線長)、旋回半径(曲率半径)が設定されている。旋回半径は道路によって大きな差が見られるが、過渡区間長は比較的その変化が小さいため、積極的に活用しても問題はないと考えられる。
【0099】
一方で、カーナビゲーションシステムなどで、地図情報から車両前方にあるカーブ路のカーブ半径R等の形状情報を得られれば、過渡区間長Lを算出でき、精度良く一連のカーブ路の特性を把握することもできる。また本実施例では、過渡区間をクロソイド曲線に近似し、さらに三次関数に近似したが、過渡区間までの距離、過渡区間長、カーブ路半径を算出する方法は他にも公知の方法があり、この限りではない。
【0100】
カーブ路前における減速補正制御の介入のタイミングは、直進路を走行している間に、アクセル開度aを閾値α以下にした時のタイミングであり、カーブ路までの進入距離Linに応じて減速を開始する。このタイミングであれば、運転者の減速タイミングと同等と考えることができ、違和感は少ないと考えられる。
【0101】
ここで、前方注視モデル(参考文献:安部正人:「自動車の運動と制御」pp209-pp227、山海堂、1992)と呼ばれるドライバモデルを応用して減速度を算出する。前方注視モデルとは、図18(a)に示すように、車両前方に制御基準点Xpを設け、この制御基準点Xpからレーンマーカや道路端までの道路幅方向距離の偏差eに応じて操舵をするドライバモデルである。
【0102】
図18は、本実施の形態における車両状態量および制御フラグの時間遷移図である。図18(a)に示すように、車両1から車両前方のカーブ開始位置(地点P1)までを、進入距離Linとする。まず、セグメントの情報から、制御基準点Xpにおける車両前方の延長線Cmと道路中央線Crとの偏差eを算出する。この偏差eと操舵角δの関係は以下のような単純な式(11)で表される。
【0103】
【数11】

【0104】
ここでKは比例ゲインである。このような式に限らず、偏差の微分項、積分項を加えたものでもよい。また、人の動作遅れを考慮した無駄時間を入れても良い。
【0105】
次に数式11、数式1、数式2から、将来、進入距離Lin先でカーブ路に進入した際に、車両1に発生するであろう横加々速度dGy_preおよび横加速度Gy_preを算出する。これらを数式3に代入すると、将来の横運動に連係した加減速度Gxc_preを算出することができる。
【0106】
従って、図18(b)に示すように、車両前方のカーブ路における横加々速度dGの変化に応じてカーブ路前にて車両1を減速させることができる。また、前方注視モデルを用いたカーブ前減速度Gxc_preと実際の操舵による前後加減速度補正値Gxcは、操舵を切り始める地点P1において、制御の応答遅れやアクチュエータや車両1の応答遅れを考慮しなければ一致するため、減速度の繋がりが滑らかになる。実際には、それぞれの減速度を一次フィルタに通したり、下記のようにどちらか大きい方を出力したりすることが望ましい。
【0107】
【数12】

【0108】
または、下記のように線形和としても良い。
【0109】
【数13】

【0110】
また、カーブ路から遠く離れた場所で減速制御介入が許可された場合に、カーブ路手前までに過剰な減速がされてしまうのを防ぐために、前方注視モデルから算出したカーブ前減速度のゲインCxy_preはカーブ路までの距離(前方注視距離)Lin及び車両速度Vの関数であることが望ましい。
【0111】
以上のように、本発明によれば、運転者の加減速意思を、車両状態量の情報と車両周囲の情報の少なくとも一方から判断し、運転者が意図する適切なタイミングで加減速補正制御を介入させることができる。
【0112】
特に、アクセル開度aが閾値α以上の場合は加速補正制御の介入を許可し、閾値αを下回っている場合は減速補正制御の介入を許可することで、定常旋回からの加減速、車線変更時の加減速の際に、不要な補正制御の介入を抑え、運転者の違和感を低減することができる。
【0113】
次に、直線区間150m、旋回路半径20mのいわゆるオーバル形状を有するテストコースを、車速を変えて走行した走行テストの結果と効果について、図19、図20を用いて説明する。
【0114】
図19は、前後加減速度Gxと横加速度Gyの遷移状態を示すダイアグラムであり、図中(a)は時速50km/h、図中(b)は時速60km/h、図中(c)は時速70km/hの場合を示す。
【0115】
そして、図20、図21、図22は、テストコースの走行時における車両1のピッチレイトPRとロールレイトRRの変化を示すグラフである。この走行テストでは、旋回前までにそれぞれ50km/h、60km/h、70km/hの速度で走行し、旋回中は軌跡を辿るように操舵し、ブレーキ操作はしていない。
【0116】
前後加速度と横加速度は、図19のダイアグラムに示すように、運転者の意思によって滑らかに遷移する。また、同走行で、図20から図22に示すように、本発明の加減速制御装置6を搭載したもの(図中(b))と搭載しないもの(図中(a))とを比較すると、旋回中のロールレイトRRとピッチレイトPRが、加減速制御装置6を搭載しない場合に比べ、減少する。従って、運転者の頭部が前後左右に振られる速度を低下させることができ、乗り心地を向上させることができる。
【0117】
また、アクセル開度aの閾値αを、そのときの車速Vを維持する値とすることで、登坂路や下り坂などで好適な加減速補正制御の介入を実現でき、運転者の違和感を低減させることができる。また、式(3)で示される横加速度と横加々速度として、操舵角δを入力とする車両モデルS501により算出したものを用いることで、よりノイズと遅れの少ない制御を実現し、運転者の違和感を低減させることができる。
【0118】
さらに、前方のカーブに合わせて操舵をする仮想的な運転者モデルを用いて仮想の操舵角δを算出し、その操舵角δから上記横加速度Gと横加々速度dGに応じて減速度を付加することで、カーブ前において好適な減速を実現することができる。
【0119】
尚、本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上述の各実施の形態では、自車情報取得手段100により自車両状態量の情報として車速V等を取得する場合を例に説明したが、この自車両状態量の情報として、ブレーキペダルの操作量や方向指示器(ウィンカ)の操作状態の情報を用いてもよい。同様に周囲情報取得手段200により自車周囲の情報としてカーナビゲーション装置等から道路形状の情報を取得する場合を例に説明したが、先行車との相対関係、道路勾配などの情報を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】第1実施の形態における自車両の全体構成図。
【図2】第1実施の形態における加減速制御装置の構成図。
【図3】制御介入許可判断手段における処理の流れを示すフローチャート。
【図4】加減速補正制御手段における処理の流れを示すフローチャート。
【図5】操舵角と車速に基づいて横加速度と横加々速度を算出する方法を説明する図。
【図6】車両がカーブに進入して脱出する走行経路を模擬的に示した図。
【図7】図6に示す走行経路Lにおいて、運転者がパターンAとパターンBのアクセル操作をした場合における車両状態量及び制御介入許可フラグの時間遷移図。
【図8】前後加速度と横加速度の遷移を示すダイアグラム。
【図9】従来技術における車両状態量の変化を示す時間遷移図。
【図10】本実施の形態における車両状態量の変化を示す時間遷移図。
【図11】アクセル開度の閾値を設定する方法を説明する図。
【図12】アクセル開度以外の情報に基づいて制御介入を判断する実施の形態を示す図。
【図13】第3実施の形態における自車両の全体構成図。
【図14】第3実施の形態における加減速制御装置の構成図。
【図15】制御ゲインCxyの設定方法を説明するグラフ。
【図16】第6実施の形態においてカーブに車両が進入する状態を示すモデル図。
【図17】道路構造例による設計速度と過渡区間長、曲線半径の関係を示す図。
【図18】第6実施の形態における車両状態量および制御フラグの時間遷移図。
【図19】所定の走行コースを走行速度を変えて走行したときの前後加減速度Gxと横加速度Gyの遷移状態を示すダイアグラム。
【図20】オーバル形状のテストコースを速度50km/hで走行したときのピッチレイトとロールレイトの変化を示す図。
【図21】オーバル形状のテストコースを速度60km/hで走行したときのピッチレイトとロールレイトの変化を示す図。
【図22】オーバル形状のテストコースを速度70km/hで走行したときのピッチレイトとロールレイトの変化を示す図。
【符号の説明】
【0121】
1 車両
1a、1b、1c、1d 車輪
2a、2b、2c、2d 車輪速センサ
3 車速算出器
4 操舵角センサ
5 アクセルペダル開度検出センサ
6 加減速制御装置
7 駆動力発生手段
8 ブレーキ
10 レーダセンサ
11 カメラセンサ
100 自車情報取得手段(自車情報取得部)
200 周囲情報取得手段(周囲情報取得部)
300 制御介入許可判断手段(制御介入許可判断部)
400 前後加減速制御手段(前後加減速制御部)
500 加減速補正制御手段(補正制御部)
S501 車両モデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の加減速度を制御する加減速制御装置であって、
前記自車両の横加々速度に基づき前記自車両の前後加減速度を補正し、
該自車両の前後加減速度の補正を所定条件に基づき許可または禁止することを特徴とする加減速制御装置。
【請求項2】
自車両周囲の情報と自車両状態量の情報の少なくとも一方に基づき自車両の加減速度を制御する加減速制御装置であって、
前記自車両の前後加減速度を制御する前後加減速制御部と、
該前後加減速制御部に制御介入して前記前後加減速度を補正する補正制御部と、
該補正制御部による制御介入を許可または禁止する制御介入許可判断部と、
を有することを特徴とする加減速制御装置。
【請求項3】
前記制御介入許可判断部は、前記自車両状態量の情報と前記自車両周囲の情報の少なくとも一方に基づき前記制御介入の許可または禁止を判断することを特徴とする請求項2に記載の加減速制御装置。
【請求項4】
前記自車両状態量の情報を取得する自車情報取得部を有し、
該自車情報取得部は、前記自車両状態量の情報として、前記自車両のアクセル開度、前後加減速度、ブレーキ開度、車速の情報の少なくとも一つを取得することを特徴とする請求項3に記載の加減速制御装置。
【請求項5】
前記制御介入許可判断部は、前記自車両のアクセル開度が予め設定された閾値以上の値のときに、前記補正制御部による前記前後加減速度を加速補正する加速補正制御の介入の許可と、前記補正制御部による前記前後加減速度を減速補正する減速補正制御の介入の禁止の少なくとも一方を決定することを特徴とする請求項4に記載の加減速制御装置。
【請求項6】
前記制御介入許可判断部は、前記自車両のアクセル開度が予め設定された閾値よりも小さい値のときに、前記補正制御部による前記前後加減速度を加速補正する加速補正制御の介入の禁止と、前記補正制御部による前記前後加減速度を減速補正する減速補正制御の介入の許可の少なくとも一方を決定することを特徴とする請求項4に記載の加減速制御装置。
【請求項7】
前記制御介入許可判断部は、前記自車両の横加速度の絶対値が増加傾向にある場合に、前記アクセル開度と予め設定された閾値とを比較し、前記アクセル開度が前記閾値よりも小さい値であるときは前記補正制御部による前記前後加減速度を減速補正する減速補正制御の介入を許可し、前記アクセル開度が前記閾値以上の値であるときは前記補正制御部による前記減速補正制御の介入を禁止することを特徴とする請求項4に記載の加減速制御装置。
【請求項8】
前記制御介入許可判断部は、前記自車両の横加速度の絶対値が減少傾向にある場合に、前記アクセル開度と予め設定された閾値とを比較し、前記アクセル開度が前記閾値以上の値であるときは前記補正制御部による前記前後加減速度を加速補正する加速補正制御の介入を許可し、前記アクセル開度が前記閾値よりも小さい値であるときは前記補正制御部による前記加速補正制御の介入を禁止することを特徴とする請求項4に記載の加減速制御装置。
【請求項9】
前記閾値は、車速に応じて設定され、車速の増加に応じて大きい値が設定され、車速の減少に応じて小さい値が設定されることを特徴とする請求項5から請求項8のいずれか一つに記載の加減速制御装置。
【請求項10】
前記自車両周囲の情報を取得する周囲情報取得部を有し、
前記制御介入許可判断部は、前記周囲情報取得部によって前記自車両の前方に障害物、先行車、駐車車両、歩行者、自転車、信号、交差点、横断歩道の少なくとも一つを検出した場合に、前記補正制御部による前記前後加減速度を加速補正する加速補正制御の介入を禁止することを特徴とする請求項2に記載の加減速制御装置。
【請求項11】
前記補正制御部は、前記自車両の横加々速度に基づいて前記前後加減速度を補正することを特徴とする請求項2に記載の加減速制御装置。
【請求項12】
前記自車両情報取得部により取得した前記自車両の操舵角に基づいて前記横加々速度を算出する車両モデルを有し、
前記補正制御部は、前記車両モデルにより算出した横加々速度に基づいて前記前後加減速度を補正することを特徴とする請求項11に記載の加減速制御装置。
【請求項13】
前記周囲情報取得手段により取得した前記自車の前方に存在する旋回路の情報に基づいて前記自車両の前記旋回路における操舵角を推定するドライバモデルを有し、
前記車両モデルは、前記ドライバモデルにより推定した操舵角に基づいて前記自車両の前記旋回路における横加々速度を推定し、
前記補正制御部は、前記車両モデルにより推定した横加々速度に基づいて前記前後加減速度を補正することを特徴とする請求項12に記載の加減速制御装置。
【請求項14】
前記周囲情報取得部は、前記旋回路を、過渡区間路と定常旋回路に分けて検出し、前記自車両から前記過渡区間路までの進入距離、過渡区間路長、定常旋回路半径の情報の少なくとも一つを取得し、
前記補正制御部は、前記進入距離、前記過渡区間路長、前記定常旋回路半径の情報の少なくとも一つに基づいて前記自車両の減速補正量を算出することを特徴とする請求項13に記載の加減速制御装置。
【請求項15】
前記補正制御部は、アクセルペダルもしくはブレーキペダルの踏み込み量が大きいほど前記自車両の前後加減速度を補正する加減速補正のゲインを大きくし、前記踏み込み量が小さいほど前記前後加減速補正のゲインを小さくすることを特徴とする請求項11から請求項14のいずれか一つに記載の加減速制御装置。
【請求項16】
前記補正制御部は、旋回時に前記車両のピッチレイトもしくはロールレイトの絶対値の少なくとも一つを小さくするように、前記自車両の前後加減速度を補正することを特徴とする請求項11から請求項14のいずれか一つに記載の加減速制御装置。
【請求項17】
前記補正制御部は、横軸に前記前後加減速度、縦軸に前記自車両の横加速度をとるダイアグラムで、前記前後加減速度及び前記横加速度が時間の経過とともに曲線的な遷移をするように、前記自車両の前後加減速度を補正することを特徴とする請求項11から請求項14のいずれか一つに記載の加減速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−76584(P2010−76584A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246763(P2008−246763)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】