説明

半導体ウェーハ及び半導体素子及びその製造方法

【課題】基板上に化合物半導体層を厚く形成することができ、バッファ領域内に生じる寄生容量を低減することができる半導体ウェーハ、半導体素子、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】バッファ領域3は、第1の層6と第2の層7とが交互に複数配置された複数の多層構造バッファ領域5、5´と、複数の多層構造バッファ領域5、5´の相互間に配置され、第1の層6及び第2の層7よりも厚く形成され、且つ第1の層6を構成する材料の格子定数と第2の層7の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に化合物半導体をエピタキシャル成長させた半導体ウェーハ、及びこの半導体ウェーハで形成されたHEMT、MESFET、SBD(ショットキーバリアーダイオード)、LED(発光ダイオード)等の半導体素子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンから成る基板(以下、シリコン基板と言う。)上に窒化物半導体をエピタキシャル成長させた半導体ウエーハは、特開2003-59948号公報(特許文献1)等に開示されている。シリコン基板はサファイア基板に比べて低コストであるという特長を有する。しかし、シリコン基板の線膨張係数は約4.70×10-6/K、窒化物半導体としてのGaNの線膨張係数は約5.59×10-6/Kであり、両者の間に比較的大きい線膨張係数の差がある。また、シリコンと窒化物半導体は格子定数が互いに相違する。なお、GaN以外の窒化物半導体も線膨張係数及び格子定数においてシリコン基板と相違する。
このため、シリコン基板上に窒化物半導体を形成すると、窒化物半導体に応力が加わり、ここにクラックや転位が発生し易い。この問題を解決するために上記特許公開公報の技術では、シリコン基板上にAlNからなる第1の層とGaNからなる第2の層とが交互に配置された多層構造バッファ領域が設けられ、このバッファ領域の上に半導体素子形成用の窒化物半導体領域がエピタキシャル成長されている。上記多層構造バッファ領域は良好な応力緩和効果を有するので、バッファ領域上に配置される半導体素子形成用の窒化物半導体領域のクラックや転位が減少する。
【0003】
また、基板の上に窒化物半導体を厚くエピタキシャル成長させるとバッファ領域や半導体素子形成用の窒化物半導体に応力が生じるが、その応力によって半導体ウェーハに生じる反りを低減する例として引用文献2が開示されている。
引用文献2の半導体ウェーハは、引用文献1のバッファ領域を、複数の多層構造バッファ領域と、複数の多層構造バッファ領域の相互間に配置された単層構造バッファ領域とで構成している。
【0004】
具体的には、AlNからなる第1の層とGaNからなる第2の層が交互に配置された多層構造バッファ領域が複数配置され、複数の多層構造バッファ領域の相互間に第2の層よりも厚く形成されたGaNからなる単層構造バッファ領域を配置する例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−59948号公報
【特許文献2】特開2008−205117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、引用文献2において、AlNからなる第1の層を構成する材料の格子定数とGaNからなる単層構造バッファ領域を構成する格子定数との違いによる応力が単層構造バッファ領域内にピエゾ分極を生じさせ、単層構造バッファ領域を低抵抗化させてしまう。また、単層構造バッファ領域内に生じる窒素空孔による欠陥によって単層構造バッファ領域が低抵抗化してしまう。これらによって、厚く形成された単層構造バッファ領域内では横方向に電流が流れやすく、バッファ領域内に生じる寄生容量が大きくなるという問題がある。
従って、本発明の目的は、基板上に化合物半導体層を厚く形成することができ、バッファ領域内に生じる寄生容量を低減することができる半導体ウェーハ、半導体素子、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の半導体ウェーハは、
基板と、基板の一方の主面上に配置され且つ化合物半導体で形成されたバッファ領域と、
バッファ領域の上に配置され且つ化合物半導体で形成された主半導体領域とを有する半導体ウェーハであって、バッファ領域は、第1の層と第2の層とが交互に複数配置された複数の多層構造バッファ領域と、複数の多層構造バッファ領域の相互間に配置された単層構造バッファ領域とから成り、第1の層は、基板を構成する材料の格子定数よりも小さい格子定数を有する化合物半導体から成り、第2の層は、基板を構成する材料の格子定数と前記第1の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成り、単層構造バッファ領域は、第1及び第2の層よりも厚く形成され、且つ第1の層を構成する材料の格子定数と第2の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成ることを特徴とする。
【0008】
また、上記課題を解決するために、本発明の半導体素子は、
基板と、基板の一方の主面上に配置され且つ化合物半導体で形成されたバッファ領域と、バッファ領域の上に配置され且つ化合物半導体で形成された主半導体領域と、主半導体領域上に配置された電極とを有する半導体素子であって、バッファ領域は、第1の層と第2の層とが交互に複数配置された複数の多層構造バッファ領域と、複数の多層構造バッファ領域の相互間に配置された単層構造バッファ領域とから成り、第1の層は、基板を構成する材料の格子定数よりも小さい格子定数を有する化合物半導体から成り、第2の層は、基板を構成する材料の格子定数と第1の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成り、単層構造バッファ領域は、第1及び第2の層よりも厚く形成され、且つ第1の層を構成する材料の格子定数と第2の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成ることを特徴とする。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明の半導体素子の製造方法は、
基板の一方の主面上に、化合物半導体で構成されたバッファ領域と、バッファ領域の上に化合物半導体で構成された主半導体領域と、主半導体領域の上に電極を形成する半導体素子の製造方法において、バッファ領域は、基板を構成する材料の格子定数よりも小さい格子定数を有する化合物半導体から成る第1の層と基板を構成する材料の格子定数と第1の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成る第2の層とが交互に複数配置された複数の多層構造バッファ領域を基板上に形成する第1の工程と、
複数の多層構造バッファ領域の上に、第1及び第2の層よりも厚く形成され、且つ第1の層を構成する材料の格子定数と第2の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成る単層構造バッファ領域を形成する第2の工程と、
単層構造バッファ領域の上に前記第1の層と前記第2の層とが交互に複数配置された複数の多層構造バッファ領域を形成する第3の工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に従う半導体ウェーハ、半導体素子、及びその製造方法によれば、第1の層と第2の層が交互に複数積層された多層構造バッファ領域の間に多層構造バッファ領域を構成する第1の層及び第2の層よりも厚く形成され、且つ第1の層を構成する材料の格子定数と第2の層を構成する材料の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成る単層構造バッファ領域とすることによって、単層構造バッファ領域に生じる応力を低減して、またはバッファ領域の応力の緩和効果をゆるやかにして、単層構造バッファ領域に生じる応力によるピエゾ分極を抑制し、単層構造バッファ領域に生じる横方向の電流成分を抑制することで、バッファ領域内の寄生容量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1に従う半導体ウエーハを概略的に示す断面図である。
【図2】図1の半導体ウエーハを詳しく示す断面図である。
【図3】図1の半導体ウエーハに基づいて形成したHEMTを概略的に示す断面図である。
【図4】反りを説明するための主半導体領域及びバッファ領域の厚みと反りとの関係を示す図である。
【図5】本発明の実施例2に従う半導体ウエーハを概略的に示す断面図である。
【図6】本発明の実施例2に従う半導体ウエーハのバッファ領域における単層構造バッファ領域を構成する材料のAlの含有割合を変更した場合の一実施形態を示す。
【図7】本発明の実施例2に従う半導体ウエーハのバッファ領域における単層構造バッファ領域を構成する材料のAlの含有割合を変更した場合の他の実施形態を示す。
【図8】本発明の実施例3に従う半導体ウエーハを概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面を参照して本発明の実施形態に従う半導体ウェーハ、半導体素子及びその製造方法を説明する。
【実施例1】
【0013】
本発明の実施例1に従う半導体素子としての高電子移動度トランジスタ即ちHEMT(
High Electron Mobility Transistor )を形成するための半導体ウエーハ1は、図1に概略的に示すようにシリコンからなる基板2と、この基板2の一方の主面上に配置され且つ窒化物半導体で形成されたバッファ領域3と、バッファ領域3の上に配置され且つ窒化物半導体で形成された半導体素子形成用の主半導体領域4とを有する。この半導体ウエーハ1は複数個のHEMTを形成できる面積を有する。
基板2は例えば350〜1000μmの厚みを有し且つバッファ領域3及び主半導体領域4よりも大きい格子定数(例えば0.543nm)を有し且つバッファ領域3の線膨張係数(例えば5.60×10-6/K)及び主半導体領域4の線膨張係数(例えば5.59×10-6/K)よりも小さい線膨張係数(例えば4.70×10-6/K)を有する単結晶シリコンから成り、バッファ領域3及び主半導体領域4の成長基板としての機能と機械的支持基板としての機能とを有する。なお、この基板2に、必要に応じて導電型決定不純物を添加することができる。また、基板2をSiC等のシリコン化合物又はサファイア等で形成することもできる。
【0014】
図1の半導体ウエーハ1をその厚み方向に拡大してバッファ領域3及び主半導体領域4を詳しく示した半導体ウエーハ1が図2に示されている。なお、図1及び図2における基板2及び各領域3,4の厚みは説明的に示されており、実際の厚みとは異なる。
【0015】
バッファ領域3は、図2に示す第1及び第2の多層構造バッファ領域5,5′を有する。
第1及び第2の多層構造バッファ領域5,5′のそれぞれは、図2において斜線を付して示す第1の層6と第2の層7との交互積層体から成る。図2では第1の多層構造バッファ領域5が第1の層6と第2の層7とのペアを4個積層されたものから成り、第2の多層構造バッファ領域5′が第1の層6と第2の層7とのペアを2個積層されたものから成る。しかし、第1の多層構造バッファ領域5における第1の層6と第2の層7とのペア数、及び第2の多層構造バッファ領域5′における第1の層6と第2の層7とのペア数を任意に変えることができる。例えば、第2の多層構造バッファ領域5′における第1の層6と第2の層7とのペア数を第1の多層構造バッファ領域5におけるそのペア数と同一にすることもできる。但し、反りの最大値を小さくするために、第2の多層構造バッファ領域5′における第1の層6と第2の層7とのペア数を第1の多層構造バッファ領域5におけるそのペア数よりも少なくすることが望ましい。
【0016】
第1の多層構造バッファ領域5における第1の層6と第2の層7とのペアの好ましい数は4〜50であり、第2の多層構造バッファ領域5′における第1の層6と第2の層7とのペアの好ましい数は2〜30である。第1の多層構造バッファ領域5における第1の層6と第2の層7とのペア数が4よりも少ない場合、又は第2の多層構造バッファ領域5′における第1の層6と第2の層7とのペア数が2よりも少ない場合、又は第1の多層構造バッファ領域5における第1の層6と第2の層7とのペア数が50よりも大きい場合、又は第2の多層構造バッファ領域5′における第1の層6と第2の層7とのペア数が30よりも大きい場合のいずれにおいても半導体ウエーハの反りの改善を良好に行うことができなくなる。
図2において、第1の多層構造バッファ領域5の厚みTaは第2の多層構造バッファ領域5′の厚みTa′よりも大きい。しかし、上記ペア数の変更に応じて厚みTa、Ta′を同一又は任意に調整することもできる。
【0017】
第1の層6は基板2を構成する材料の格子定数よりも小さく比較的絶縁性の高い材料であり、例えば、アルミニウムの含有割合が第1の割合の窒化物半導体からなり
化学式 AlxMyGa1-x-yN
ここで、前記Mは、In(インジウム)とB(ボロン)とから選択された少なくとも1種の元素、
前記x及びyは、 0<x≦1、
0≦y<1、
x+y≦1
を満足する数値、
で示される窒化半導体材料から成る。即ち、第1の層6は、例えばAlN(窒化アルミニウム)、AlInN(窒化インジウム アルミニウム)、AlGaN(窒化ガリウム アルミニウム)及びAlInGaN(窒化ガリウム インジウム アルミニウム)から選択された窒化半導体材料から成る。なお、第1の層6に必要に応じてn型又はp型の導電型決定不純物をドープすることができる。第1の層6の厚さTdは0.5〜20nmであることが望ましい。第1の層6の厚さTdが0.5nmよりの薄い場合、及び20nmよりの厚い場合には、半導体ウエーハ1の反り及び主半導体領域4の結晶性の改善効果が低下する。本実施例では第1の層6がAlNから成り、この厚さTdは5nmに設定されている。
図2では全部の第1の層6が同一の材料(AlN)で形成されているが、複数の第1の層6を互いに異なる材料で形成することができる。また、図2では全部の第1の層6が同一の厚みに形成されているが、複数の第1の層6を互いに異なる厚みに形成することもできる。第1の層6の結晶軸a及びcの格子定数はシリコンから成る基板2の格子定数よりも小さい値(例えばa軸で0.311nm、c軸で0.498nm)である。また、第1の層61の線膨張係数は基板2の線膨張係数よりも大きい値(例えば5.64×10-6/K)である。
【0018】
第1の層6の上に配置された第2の層7は、基板2を構成する材料の格子定数と第1の層6を構成する材料の格子定数との間の格子定数を有し、例えば、アルミニウムの含有割合が第2の割合(ゼロを含む)の窒化物半導体からなり、
化学式 AlaMbGa1-a-bN
ここで、前記MはIn(インジウム)とB(ボロン)とから選択された少なくとも1種の元素、
前記a及びbは、 0≦a≦1、
0≦b<1、
a+b≦1
a<x
を満足させる数値、
で示される窒化物半導体材料から成る。即ち、第2の層7は、例えば、基板2を構成する材料の格子定数と第1の層6を構成する材料の格子定数との間の格子定数、または第1の層6を構成する材料よりも小さいバンドギャップを有する材料であり、第1の層6よりも比較的絶縁性の低い材料であり、例えば、
GaN(窒化ガリウム)、InGaN(窒化ガリウム インジウム)、AlInN(窒化インジウム アルミニウム)、第1の層よりもAlの含有率が小さいAlGaN(窒化ガリウム アルミニウム)及びAlInGaN(窒化ガリウム インジウム アルミニウム)から選択された窒化半導体材料から成る。なお、第2の層7に必要に応じてn型又はp型の導電型決定不純物をドープすることができる。第2の層7の厚みTeは1〜50nmであることが望ましい。第2の層7の厚みTeが1よりも薄い場合、及び50nmよりも厚い場合、半導体ウエーハの反り及び主半導体領域4の結晶性の改善効果が低下する。本実施例では第2の層7が第1の層6よりバンドギャップエネルギーが狭く且つ第1の層6より抵抗値が低いGaNから成り、この厚さTeは3.5nmに設定されている。
なお、図2では全部の第2の層7が同一の材料(GaN)で形成されているが、複数の第2の層7を互いに異なる材料で形成することができる。また、図2では全部の第2の層7が同一の厚みに形成されているが、複数の第2の層7を互いに異なる厚みに形成することができる。第2の層7は、アルミニウムを必須成分としておらず、アルミニウムを含まなくとも良い。従って、第2の層7におけるアルミニウムの第2の割合はゼロを含む所定値である。しかしながら、第2の層7にアルミニウムを含有させることによって第2の層7の抵抗値を高めることができるため、第2の層7にもアルミニウムを含有させることが望ましい。第2の層7の結晶軸a及びcの格子定数は第1の層6の格子定数よりも大きく、且つ基板2の格子定数よりも小さい値(例えばa軸で0.318nm、c軸で0.518nm)である。また、第2の層7の線膨張係数は基板2の線膨張係数よりも大きい値(例えば5.59×10-6/K)である。
【0019】
単層構造バッファ領域8は、第1の多層構造バッファ領域5と第2の多層構造バッファ領域5´との間に配置され、この単層構造バッファ領域8は、第1の層6を構成する材料の格子定数と第2の層7を構成する材料の格子定数との間の格子定数を有する材料からなり、例えば、アルミニウムの含有割合が第1の割合と第2の割合の間の第3の割合の窒化物半導体からなり、例えば、
化学式 AlhMkGa1-h-kN
ここで、前記MはIn(インジウム)とB(ボロン)とから選択された少なくとも1種の元素、
前記h及びkは、 0<h<1、
0≦k<1、
h+k≦1
a<h<x
を満足させる数値、
で示される窒化半導体材料で形成される。なお、単層構造バッファ領域8に必要に応じてn型又はp型の導電型決定不純物をドープすることができる。
また、第1及び第2の多層構造バッファ領域5、5´は、第1の層6と第2の層7の交互積層体の上に第1の層6を更に1層余分に積層し、その上に単層構造バッファ領域8を形成しても良い。このように第1及び第2の多層構造バッファ領域5、5´の最も上の第1の層6を第1及び第2の多層構造バッファ領域5、5´に含めて示す場合には、第1及び第2の多層構造バッファ領域5、5´に含まれる第1の層6の合計は、第2の層7の合計よりも1つ多くなる。
単層構造バッファ領域8は第1の層6の厚みTd及び第2の層6の厚みTeよりも大きい厚みTbを有している。単層構造バッファ領域8は第1の層6の厚みTdと第2の層7の厚みTeの和よりも厚く形成されていることが望ましく、単層構造バッファ領域8の厚さは20〜400nmであることが望ましい。単層構造バッファ領域8の厚さ20nmよりも薄い場合、及び400nmよりも厚い場合には、半導体ウエーハの反り及び主半導体領域4の結晶性の改善効果が低下する。
本実施例では単層構造バッファ領域8がAlGaNから成り、この厚さTbは200nmに設定されている。
なお、単層構造バッファ領域8の結晶軸a及びcの格子定数は、平均的(又は巨視的)に見た格子定数である。また、第1の多層構造バッファ領域5として第1の層6と第2の層7の交互積層体の上に第1の層6を更に1層余分に積層した場合、単層構造バッファ領域8は、基板2から遠ざかるにつれて(基板2上のバッファ領域3の厚みが増す方向に)単層構造バッファ領域8を構成する材料の格子定数を徐々に第1の層6から第2の層7に近づけるようにしても良い。例えば、単層構造バッファ領域8がAlGaNから成る場合、基板2から遠ざかるにつれて、Alの含有率を徐々に小さくなるように形成しても良い。この場合、単層構造バッファ領域8を配置したことによる応力の緩和をより緩やかに実現して、半導体ウェーハ1をより厚膜化することができる。
更に、単層構造バッファ領域8に生じる応力によるピエゾ分極を抑制し、単層構造バッファ領域8に生じる横方向の電流成分を抑制することで、バッファ領域3内の寄生容量を低減することができる。
【0020】
単層構造バッファ領域8の上に配置された第2の多層構造バッファ領域5´は第1の多層構造バッファ領域5と同様にサブ多層構造バッファ領域6の積層体から成る。第2の多層構造バッファ領域5´は第1の層6と第2の層7とのペア数が第1の多層構造バッファ領域5と異なる点、及びその厚みTa´が第1の多層構造バッファ領域5と異なる点を除いて、第1の多層構造バッファ領域5と同様に構成されている。
なお、第2の多層構造バッファ領域5´の平均的に見たAlの含有割合が単層構造バッファ領域8よりも大きい条件、及び第2の多層構造バッファ領域5´の平均的に見た格子定数が単層構造バッファ領域8よりも小さい条件を満足する範囲で、第2の多層構造バッファ領域5´の中の第1の層6と第2の層7とのいずれか一方又は両方を構成する材料を変形することができる。また、第2の多層構造バッファ領域5´は第1の層6と第2の層7とのペア数を第1の多層構造バッファ領域5と同一にすることもできる。
【0021】
図1の実施例1に従う主半導体領域4は、HEMTを形成するために不純物非ドープのGaNから成る電子走行層41と、不純物非ドープのAl0.2Ga0.8Nから成る電子供給層42とを有している。なお、電子供給層42にn型不純物をドープすることもできる。
バッファ領域3の上に配置された電子走行層41はチャネル層とも呼ぶことができるものであり、例えば、1800nmの厚みを有する。電子走行層41の上に配置された電子供給層42は電子走行層41とのヘテロ接合に基づくピエゾ分極によって電子走行層41に周知の2次元キャリアガス層(2次元電子ガス層)をさせるものであって、例えば30nmの厚みを有する。
Alを含む電子供給層42はAlを含まない電子走行層41に比べて極めて薄い。従って、主半導体領域4における平均的に見たAlの割合は電子走行層41におけるAlの割合とほぼ同一になり、第1及び第2の多層構造バッファ領域5、5´よりも小さい。主半導体領域4における平均的に見た格子定数は、電子走行層41における格子定数とほぼ同一になり、第1及び第2の多層構造バッファ領域5、5´よりも大きく且つ基板2よりも小さい。
主半導体領域4の大部分を占める電子走行層41の結晶軸a及びcにおける格子定数は例えばa軸で0.318nm、c軸で0.518nmであり、第1の層6の格子定数よりも大きい。
主半導体領域4の中で最も厚い電子走行層41の線膨張係数、及び次に厚い電子供給層42の線膨張係数、及び主半導体領域4の巨視的に見た線膨張係数のいずれも、基板2の線膨張係数及び第1の層6の線膨張係数よりは大きい。従って、基板2を考慮しない場合、即ち基板2を無視して、主半導体領域4の応力を観察すれば、巨視的に見て主半導体領域4に単層構造バッファ領域8と同様に圧縮応力を生じる。
【0022】
図3は、図1〜図2に示した半導体ウエーハ1を使用して製作したHEMTを示す。説明を簡略化するために図3において図1と実質的に同一の部分に同一の符号を付し、その説明を省略する。第1の電極としてのソース電極91及び第2の電極としてのドレイン電極92は電子供給層42にオーミック(低抵抗)接触し、制御電極としてのゲート電極93は電子供給層42にショットキー接触している。なお、ソース電極91及びドレイン電極92と電子供給層42との間にn型不純物濃度の高いコンタクト層を設けることができる。また、ゲート電極92はMIS構造としても良い。HEMTの動作の安定化を図るために基板2の下面に補助電極94が設けられ、これが導体95によってソース電極91に接続されている。従って、図3のHEMTにおいてドレイン電極92と基板2の下面に設けられた補助電極94との間の耐圧が重要になる。基板2はシリコン半導体であるので、ここに耐圧をさほど期待できない。そこで、この実施例では耐圧向上のためにバッファ領域3及び主半導体領域4が比較的厚く形成されている。
【0023】
次に、図1の半導体ウエーハ1の製造方法の一例を説明する。
まず、ミラー指数で示す結晶の面方位において(111)面とされた主面を有し、シリコン基板2を用意する。
【0024】
次に、基板2を周知のMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)即ち有機金属気相成長装置の反応室に投入し、基板2の表面の酸化膜を取り除いた後、反応室にTMA(トリメチルアルミニウム)、及びアンモニアを流して、シリコン基板2の上にAlN(窒化アルミニウム)から成る第1の層6をエピタキシャル成長させる。その後、TMAの供給を止め、アンモニアの供給は継続し、これと共にTMG(トリメチルガリウム)を流してGaNから成る第2の層7をエピタキシャル成長させる。第1及び第2の層6,7の形成工程を所望回数繰返して第1の多層構造バッファ領域5を得る。
【0025】
次に、反応室にアンモニアと第1の層6の形成時よりも少ないTMA(トリメチルアルミニウム)を第1の層6の形成時よりも長く流して第1の層6及び第2の層7よりも厚いAlGaNから成る単層構造バッファ領域8をエピタキシャル成長させる。
【0026】
次に、第1の多層構造バッファ領域5と同一の方法で第2の多層構造バッファ領域5´を形成し、バッファ領域3を完成させる。
【0027】
しかる後、周知のエピタキシャル成長法で主半導体領域4を形成する。これによって半導体ウエーハが完成する。さらに半導体ウエーハ1を使用してHEMTを製作する場合、第1の電極として例えばチタン(Ti)/金(Au)からなるソース電極91及び第2の電極として例えばチタン(Ti)/金(Au)からなるドレイン電極92を主半導体領域4上に蒸着し、ソース電極91とドレイン電極92間の電子供給層42上にショットキー接触するゲート電極93を形成して完成する。
【0028】
図4は、基板2を考慮しない場合(基板2を無視した場合)における、半導体ウエーハ1の各領域5、8、5´、4に生じる応力(歪力)を概略的に示す。第1及び第2の多層構造バッファ領域5、5´は図2に示したように複数の第1の層6と第2の層7を含むが、平均的に見てAlの割合が単層構造バッファ領域8よりも大きく、平均的に見て格子定数が単層構造バッファ領域8よりも小さいので、図5で外向きの矢印で示すように引張応力を生じる。これに対して、平均的に見て格子定数が第1及び第2の多層構造バッファ領域5、5´よりも大きい単層構造バッファ領域8及び主半導体領域4には図5で内側に向いている矢印で示すように圧縮応力を生じる。各領域4、5、5´、8の応力を調整すれば引張応力と圧縮応力との相殺が生じ、半導体ウエーハ1の反りを低減することができる。なお、単層構造バッファ領域8は、第1の層6を構成する格子定数と第2の層7を構成する格子定数との間の格子定数からなる材料(例えば、AlGaN)で形成されているため、単層構造バッファ領域8をGaNで形成する場合に比べてその応力は小さく、更に、バッファ領域3の応力緩和効果をゆるやかにすることができる。
また、基板2を考慮する場合(基板2を無視しない場合)には、基板2がバッファ領域3及び主半導体領域4に及ぼす影響を考慮する必要があり、必ずしも図5のようにはならないが、実施例1の半導体ウエーハ1の各領域5、8、5´、4に生じる応力(歪力)を緩和し、半導体ウェーハ1の膜厚を厚くすることができる。
【0029】
上述から明らかなように実施例1は次の効果を有する。
(1)第1の層6を構成する材料の格子定数と第2の層7の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成る単層構造バッファ領域8を配置することによって、単層構造バッファ領域8に生じる応力を抑制し、これにより単層構造バッファ領域8内のピエゾ分極を抑制して、単層構造バッファ領域8の横方向の電流成分を抑制することで、バッファ領域3内の寄生容量を低減することができる。従って、本発明の半導体ウエーハ1を用いてスイッチング素子を形成すれば、スイッチング速度の向上を図ることができる。
更に、第1の層6及び第2の層7よりも厚く形成される単層構造バッファ領域8にGaNよりも高抵抗なAlGaNを用いているので、単層構造バッファ領域8の横方向の電流成分をより抑制し、バッファ領域3内の寄生容量を低減することができる。
【0030】
(2)第1の層6を構成する材料の格子定数と第2の層7を構成する格子定数の間の格子定数の材料からなる単層構造バッファ領域8を第1の多層構造バッファ領域5と第2の多層構造バッファ領域5´との間に配置することによって、バッファ領域3全体の応力の緩和を緩やかに実現して、半導体ウェーハ1を厚くすることができる。従って、半導体ウェーハ1の縦方向の耐圧を向上することができる。
更に、第2の層7及び単層構造バッファ領域8に生じる応力を低減することもでき、これにより単層構造バッファ領域8内のピエゾ分極を抑制して、単層構造バッファ領域8の横方向の電流成分を抑制することで、バッファ領域3内の寄生容量を低減することができる。従って、本発明の半導体ウエーハ1を用いてスイッチング素子を形成すれば、スイッチング速度の向上を図ることができる。
(3)単層構造バッファ層8に第1の層6を構成する材料の格子定数と第2の層7を構成する材料の格子定数との間の格子定数を有する材料を用いることにより、半導体ウェーハ1の反りが改善されるのみでなく、バッファ領域3及び主半導体領域4を厚くすることができる。これにより、半導体ウェーハ1の厚み方向の耐圧を向上させることが可能になる。
【0031】
(4)単層構造バッファ層8を設けることにより、主半導体領域4に加わる圧縮応力を低減でき、主半導体領域4におけるクラックを低減できる。
(5)第2の層7の組成又は厚みの少なくとも何れかを調整することで、第1及び第2の多層構造バッファ領域5、5´における応力の調整を細かく行うことができる。また、第2の層7にアルミニウムを含有させることで、第2の層7の抵抗値を高め、バッファ領域3内の寄生容量を低減することができる。
(6)第1及び第2の多層構造バッファ領域5、5´のそれぞれが比較的薄い第1及び第2の層6,7を交互に積層した構造であるので、ただ1つの層で構成されたバッファ領域に比べてクラックを抑制でき、且つバッファ領域3を厚く形成することができる。
【実施例2】
【0032】
次に、図5を参照して実施例2の半導体ウエーハ1aを説明する。但し、図5において図2と実質的に同一の部分には同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0033】
図5の半導体ウエーハ1aは、図2の第2の多層構造バッファ領域5´と主半導体領域4との間に第2の単層構造バッファ領域8´と第3の多層構造バッファ領域5″を付加し、その他は図2と同一に構成したものである。図5の変形されたバッファ領域3aに含まれる追加された第2の単層構造バッファ領域8´は第2及び第3の多層構造バッファ領域5´、5″の相互間に配置され、単層構造バッファ領域(第1の単層構造バッファ領域)8と同一材料で形成され且つ単層構造バッファ領域8の厚みTbと実質的に同一の厚みTb´を有する。しかし、2つの単層構造バッファ領域8、8´の厚みに差を付けることができる。また、2つの単層構造バッファ領域8、8´の材料に差を付けることができる。例えば、単層構造バッファ領域8を構成する材料のアルミニウムの含有割合に比べて第2の単層構造バッファ領域8´のアルミニウムの含有割合(第4の割合)を小さくすることによって、応力の緩和をより緩やかに実現することが可能となり、バッファ領域3aの厚膜化をより容易に行うことができる。
図5の第2の多層構造バッファ領域5´における第1の層6と第1の第2の層7とのペア数は図2よりも1つ多い3であり、第3の多層構造バッファ領域5″における第1の層6と第2の層7とのペア数は2である。従って、第1、第2及び第3の多層構造バッファ領域5、5´、5″における第1の層6と第2の層7とのペア数は基板2から離れるに従って少なくなっている。
第3の多層構造バッファ領域5″は、第1及び第2の多層構造バッファ領域5、5´と実質的に同一に形成され、且つ第1及び第2の多層構造バッファ領域5、5´よりも薄い厚みTa″を有する。しかし、第1、第2及び第3の多層構造バッファ領域5、5´、5″の厚みを互いに同一にすることができる。また、第1、第2及び第3の多層構造バッファ領域5、5´、5″を構成する第1の層6と第2の層7とのペアの数を同一にすることもできる。また、第1、第2及び第3の多層構造バッファ領域5、5´、5″を構成する複数のサブ多層構造バッファ領域6を互いに同一の材料で形成しないで本発明の効果を得ることができる範囲内で異なる材料で形成することができる。また、第1、第2及び第3の多層構造バッファ領域5、5´、5″を構成する複数の第2の層7を互いに同一の材料又は厚みに形成しないで本発明の効果を得ることができる範囲内で異なる材料又は厚みとすることができる。
また、図7の第3の多層構造バッファ領域5″の上に、更に、第2の単層構造バッファ領域8´と第3の多層構造バッファ領域5″と同様なものを一回又は複数回繰り返して設けることができる。
【0034】
ここで、多層構造バッファ領域に挟まれる単層構造バッファ領域が複数あり、複数の単層構造バッファ領域は基板2から離れるに従って第2の層7の格子定数に近づくことが望ましい。例えば、図7は、横軸に基板2の上面を基準として、バッファ領域3aの各層(6、7、8、8´)におけるAlの構成割合を示す図6のように、単層構造バッファ領域8を構成する材料のAlの含有割合は、第2の単層構造バッファ領域8´を構成する材料のAlの含有割合を構成する材料のAlの含有率よりも高く形成することにより、バッファ領域3aにおける応力の緩和が緩やかとなり、半導体ウェーハ1の厚膜化を実現することができる。
また、図7は、横軸に基板2の上面を基準としてそこから各層の厚みをとった時、バッファ領域3aの各層(6、7、8、8´)におけるAlの構成割合を示す。単層構造バッファ領域は基板2から離れるに従って(厚み方向に)第2の層7の格子定数に近づくことが望ましい。例えば、図7で示すように、第1の単層構造バッファ領域8及び第2の単層構造バッファ領域8´はそれぞれ厚み方向に向かって徐々にAlの含有率を下げることによって、バッファ領域3aにおける応力の緩和が緩やかとなり、半導体ウェーハ1の厚膜化を実現することができる。
また、図7で示すように、多層構造バッファ領域に挟まれる単層構造バッファ領域が複数ある場合、単層構造バッファ領域は基板2から離れるに従って第2の層7の格子定数に近づくようにし、更に、各単層構造バッファ領域において基板2から離れるに従って(半導体ウェーハ1の厚み方向に)第2の層7の格子定数に近づくことが更に望ましい。
【実施例3】
【0035】
次に、図8を参照して実施例3の半導体ウエーハ1bを説明する。但し、図8において図5の実施例2と実質的に同一の部分には同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0036】
図8の半導体ウエーハ1bは、図5の基板2とバッファ領域3a(または第1の多層構造バッファ領域5)との間に第1の層6よりも厚く形成された第3の層9と、第3の層9の上に第3の単層構造バッファ領域8´´を配置している点が異なる。なお、実施例1及び2の半導体ウェーハ1において、基板2と第1の多層構造バッファ領域5との間に第1の層6よりも厚く形成された第3の層9と、第3の層9の上に第3の単層構造バッファ領域8´´を配置しても良い。
第3の層9は基板2を構成する材料の格子定数よりも小さく且つ第2の層7よりも比較的絶縁性の高い材料であり、例えば、アルミニウムの含有割合が第1の割合の窒化物半導体からなり、
化学式 AlmMnGa1-m-nN
ここで、前記Mは、In(インジウム)とB(ボロン)とから選択された少なくとも1種の元素、
前記m及びnは、 0<m≦1、
0≦n<1、
m+n≦1
を満足する数値、
で示される窒化半導体材料からなり、
第3の単層構造バッファ領域8´´は、第1の層6を構成する材料の格子定数と第2の層7を構成する材料の格子定数との間の格子定数を有し、例えば、アルミニウムの含有割合が第1の割合と第2の割合の間の第5の割合の窒化物半導体からなり、例えば、
化学式 AlcMdGa1-c-d
ここで、前記MはIn(インジウム)とB(ボロン)とから選択された少なく
とも1種の元素、
前記c及びdは、 0<c<1、
0≦d<1、
c+d≦1
a<c<x
を満足させる数値、
で構成しても良い。ここで、第3の層9は例えばAlNで構成され、第3の単層構造バッファ領域8´´は、例えばAlGaNで構成される。また、第3の単層構造バッファ領域8´´を構成する材料のAlの含有率(第5の割合)は、単層構造バッファ領域8を構成する材料のAlの含有率(第3の割合)及び第2の単層構造バッファ領域8´を構成する材料のAlの含有率(第4の割合)よりも高く形成されていることが望ましい。
【0037】
本発明は上述の実施例1〜3に限定されるものでなく、例えば次変形が可能なものである。
(1)主半導体領域4を、HEMT以外のMESFET,SBD,LED等の別の半導体素子を構成するための半導体領域に変形することができる。
(2)主半導体領域4でHEMTを形成する場合に、電子供給層42に例えばn型不純物を添加することができる。
また電子供給層42の上にキャップ層又はコンタクト層等の補助半導体層を形成することができる。
(3)バッファ領域3,3a、及び主半導体領域4を窒化物半導体以外の化合物半導体で形成することができる。
(4)バッファ領域3,3aにおいて複数の層(6、7、8、8´、8´´、9)の格子定数に差をつけるために、第1の層6、第3の層9、及び単層構造バッファ領域8、8´、8´´にAlを含め、第2の層7にはAlを含めないか、又はAlの割合を第1の層6及び単層構造バッファ領域8、8´、8´´よりも少なくしたが、格子定数に差をつけることができる別の半導体材料(例えば、B又はInを含む材料)でバッファ領域3,3aの各層を形成することができる。
(5)第2の層7はGaNで構成される材料で示してきたが、第1の割合よりも小さいAl含有率を有するAlGaNで構成される材料としても良い。このように構成することによって、第2の層7を高抵抗化すること、更に、バッファ領域3、3aに生じる応力をなだらかに緩和することが可能であり、バッファ領域3、3aにおける寄生容量をより低減することができる。
【符号の説明】
【0038】
1,1a 半導体ウエーハ
2 シリコン基板
3、3a バッファ領域
4 主半導体領域
5,5´、5″ 第1、第2及び第3の多層構造バッファ領域
6 第1の層
7 第2の層
8,8´,8´ 単層構造バッファ領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の一方の主面上に配置され且つ化合物半導体で形成されたバッファ領域と、
バッファ領域の上に配置され且つ化合物半導体で形成された主半導体領域とを有する半導体ウェーハであって、
前記バッファ領域は、第1の層と第2の層とが交互に複数配置された複数の多層構造バッファ領域と、該複数の多層構造バッファ領域の相互間に配置された単層構造バッファ領域とから成り、
前記第1の層は、前記基板を構成する材料の格子定数よりも小さい格子定数を有する化合物半導体から成り、
前記第2の層は、前記基板を構成する材料の格子定数と前記第1の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成り、
前記単層構造バッファ領域は、前記第1及び第2の層よりも厚く形成され、且つ前記第1の層を構成する材料の格子定数と前記第2の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成ることを特徴とする半導体ウェーハ。
【請求項2】
基板と、
前記基板の一方の主面上に配置され且つ化合物半導体で形成されたバッファ領域と、
バッファ領域の上に配置され且つ化合物半導体で形成された主半導体領域とを有する半導体ウェーハであって、
前記バッファ領域は、第1の層と第2の層とが交互に複数配置された複数の多層構造バッファ領域と、該複数の多層構造バッファ領域の上に配置された単層構造バッファ領域とが交互に配置された構造を含み、
前記第1の層は、前記基板を構成する材料の格子定数よりも小さい格子定数を有する化合物半導体から成り、
前記第2の層は、前記基板を構成する材料の格子定数と前記第1の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成り、
前記単層構造バッファ領域は、前記第1及び第2の層よりも厚く形成され、且つ前記第1の層を構成する材料の格子定数と前記第2の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成ることを特徴とする半導体ウェーハ。
【請求項3】
前記複数配置されている単層構造バッファ領域は互いに異なる格子定数を有し、
前記基板側に配置された前記単層構造バッファ領域に比べて前記主半導体領域側に配置された前記単層構造バッファ領域は、第2の層の格子定数に近い組成になっていることを特徴とする請求項2の半導体ウェーハ。
【請求項4】
前記単層構造バッファ領域は、
前記単層構造バッファ領域の領域内において、前記基板側に比べて前記主半導体領域側に向かって徐々に第2の層の格子定数に近い組成になっている請求項1〜3何れか1項を満足する半導体ウェーハ。
【請求項5】
前記基板は、シリコン又はシリコン系の材料で構成され、
前記第1の層は、アルミニウムを含む窒化物半導体で構成され、
前記第2の層は、アルミニウムを第1の層よりも少ない割合で含む又はゼロの窒化物半導体で構成され、
前記単層構造バッファ領域は、アルミニウムを第1の層と第2の層との間の割合で含む窒化物系半導体で構成されることを特徴とする請求項1〜4何れか1項を満足する半導体ウェーハ。
【請求項6】
基板と、
前記基板の一方の主面上に配置され且つ化合物半導体で形成されたバッファ領域と、
バッファ領域の上に配置され且つ化合物半導体で形成された主半導体領域と、
前記主半導体領域上に配置された電極とを有する半導体素子であって、
前記バッファ領域は、第1の層と第2の層とが交互に複数配置された複数の多層構造バッファ領域と、該複数の多層構造バッファ領域の相互間に配置された単層構造バッファ領域とから成り、
前記第1の層は、前記基板を構成する材料の格子定数よりも小さい格子定数を有する化合物半導体から成り、
前記第2の層は、前記基板を構成する材料の格子定数と前記第1の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成り、
前記単層構造バッファ領域は、前記第1及び第2の層よりも厚く形成され、且つ前記第1の層を構成する材料の格子定数と前記第2の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成ることを特徴とする半導体素子。
【請求項7】
基板と、
前記基板の一方の主面上に配置され且つ化合物半導体で形成されたバッファ領域と、
バッファ領域の上に配置され且つ化合物半導体で形成された主半導体領域と、
前記主半導体領域の上に形成された電極とを備える半導体素子であって、
前記バッファ領域は、第1の層と第2の層とが交互に複数配置された複数の多層構造バッファ領域と、該複数の多層構造バッファ領域の上に配置された単層構造バッファ領域とが交互に配置された構造を含み、
前記第1の層は、前記基板を構成する材料の格子定数よりも小さい格子定数を有する化合物半導体から成り、
前記第2の層は、前記基板を構成する材料の格子定数と前記第1の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成り、
前記単層構造バッファ領域は、前記第1及び第2の層よりも厚く形成され、且つ前記第1の層を構成する材料の格子定数と前記第2の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成ることを特徴とする半導体素子。
【請求項8】
前記複数配置されている単層構造バッファ領域は互いに異なる格子定数を有し、
前記基板側に配置された前記単層構造バッファ領域に比べて前記主半導体領域側に配置された前記単層構造バッファ領域は、第2の層の格子定数に近い組成になっていることを特徴とする請求項7の半導体素子。
【請求項9】
前記単層構造バッファ領域は、
前記単層構造バッファ領域の層内における前記基板側に比べて前記主半導体領域側に向かって徐々に第2の層の格子定数に近くなる組成になっている請求項6〜8何れか1項を満足する半導体素子。
【請求項10】
前記基板は、シリコン又はシリコン系の材料で構成され、
前記第1の層は、アルミニウムを含む窒化物半導体で構成され、
前記第2の層は、アルミニウムを第1の層よりも少ない割合で含む又はゼロの窒化物半導体で構成され、
前記単層構造バッファ領域は、アルミニウムを第1の層と第2の層との間の割合で含む窒化物系半導体で構成されることを特徴とする請求項6〜9何れか1項を満足する半導体素子。
【請求項11】
基板の一方の主面上に、化合物半導体で構成されたバッファ領域と、前記バッファ領域の上に化合物半導体で構成された主半導体領域と、前記主半導体領域の上に電極を形成する半導体素子の製造方法において、
前記バッファ領域は、
前記基板を構成する材料の格子定数よりも小さい格子定数を有する化合物半導体から成る第1の層と前記基板を構成する材料の格子定数と前記第1の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成る第2の層とが交互に複数配置された複数の多層構造バッファ領域を前記基板上に形成する第1の工程と、
前記複数の多層構造バッファ領域の上に、前記第1及び第2の層よりも厚く形成され、且つ前記第1の層を構成する材料の格子定数と前記第2の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成る単層構造バッファ領域を形成する第2の工程と、
前記単層構造バッファ領域の上に前記第1の層と前記第2の層とが交互に複数配置された複数の多層構造バッファ領域を形成する第3の工程と、
を有することを特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項12】
基板の一方の主面上に、化合物半導体で構成されたバッファ領域と、前記バッファ領域の上に化合物半導体で構成された主半導体領域と、前記主半導体領域の上に電極を形成する半導体素子の製造方法において、
前記バッファ領域は、
前記基板を構成する材料の格子定数よりも小さい格子定数を有する化合物半導体から成る第1の層と前記基板を構成する材料の格子定数と前記第1の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成る第2の層とが交互に複数配置された複数の多層構造バッファ領域を前記基板上に形成する第1の工程と、
前記複数の多層構造バッファ領域の上に、前記第1及び第2の層よりも厚く形成され、且つ前記第1の層を構成する材料の格子定数と前記第2の層の格子定数との間の格子定数を有する化合物半導体から成る単層構造バッファ領域を形成する第2の工程と、
を交互に繰り返し行うことを特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項13】
前記単層構造バッファ領域は、前記基板側に比べて前記主半導体領域側に向かって徐々に第2の層の格子定数に近くなる組成を有する請求項12の半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−225703(P2010−225703A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69149(P2009−69149)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】