説明

半導体基板の再生方法、再生半導体基板の作製方法、及びSOI基板の作製方法

【課題】半導体基板の再生に適した方法を提供する。
【解決手段】損傷半導体領域と絶縁層とを含む凸部が周縁部に存在する半導体基板に対し、絶縁層を除去するエッチング処理と、硝酸、硝酸によって酸化された半導体基板を構成する半導体材料を溶解する物質、半導体材料の酸化速度及び酸化された半導体材料の溶解速度を制御する物質、及び亜硝酸を含み、亜硝酸の濃度が10mg/l以上1000mg/l以下である混合液を用いて、未損傷の半導体領域に対して損傷半導体領域を選択的に除去するエッチング処理と、を行うことで半導体基板を再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する発明は、半導体基板の再生方法に関する。または、半導体基板の再生方法を利用した再生半導体基板の作製方法、SOI(Silicon on Insulator)基板の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バルク状のシリコンウエハに代わり、絶縁表面に薄い単結晶シリコン層が設けられたSOI基板を用いた集積回路が開発されている。絶縁表面上に形成された薄い単結晶シリコン層の特徴を活かすことで、集積回路中のトランジスタ同士を完全に分離して形成することができる。また、トランジスタを完全空乏型とすることができるため、高集積、高速駆動、低消費電力など、付加価値の高い半導体集積回路を実現することができる。
【0003】
SOI基板を作製する方法の一つとして、水素イオン注入剥離法が知られている。水素イオン注入剥離法は、水素イオンを注入した単結晶シリコン基板(ボンド基板)を、絶縁層を介して別の基板(ベース基板)に貼り合わせ、その後の熱処理によって単結晶シリコン基板(ボンド基板)をイオン注入領域において分離することで、単結晶シリコン層を得る方法である。上記水素イオン注入剥離法を用いることで、ガラス基板等の絶縁基板上に単結晶シリコン層を有するSOI基板を作製することが可能である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−87606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SOI基板の作製方法として水素イオン注入剥離法を用いる場合には、一のボンド基板から複数のSOI基板を作製できるため、SOI基板の作製に占めるボンド基板のコストを低減することができるというメリットがある。単結晶シリコン層が分離された後のボンド基板に対して再生処理を施すことで、使用後のボンド基板を、再度SOI基板の作製に用いることができるためである。
【0006】
水素イオン注入剥離法に用いられるボンド基板は、SOI基板の作製段階における化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)処理に起因して、周縁部にエッジロールオフ(Edge Roll Off:E.R.O.)と呼ばれる領域を有する。当該領域は、研磨布によってボンド基板のエッジが研磨されることにより形成されるものである。ボンド基板のエッジロールオフ領域では、その表面が曲面状になっており、また、ボンド基板の中央領域と比較して、厚みが小さくなっている。
【0007】
イオン注入剥離法を用いてSOI基板を作製する場合、ボンド基板とベース基板とを貼り合わせることになるが、当該貼り合わせは分子間力やファンデルワールス力をメカニズムとするものであるから、貼り合わせ表面には所定の平坦性が求められる。表面の平坦性が確保できないエッジロールオフ領域では、当然に、ボンド基板とベース基板との貼り合わせは行われない。
【0008】
このため、単結晶シリコン層を分離した後のボンド基板において、上記エッジロールオフ領域が存在する半導体基板周縁部には、単結晶シリコン層領域及び絶縁層が凸部として残存することになる。そして、当該凸部は、ボンド基板の再生処理の段階において問題となる。当該凸部と、それ以外の領域(貼り合わせが適切になされた領域)との高低差は、僅か数百nm程度である。しかしながら、CMP処理による表面研磨により当該凸部を除去して新たなボンド基板として再生するには、基板を板厚方向に10μm前後除去しなければならず、ボンド基板の再生回数、使用回数を十分に確保できないという問題を有している。
【0009】
上記問題に鑑み、本明細書で開示する発明の一態様は、半導体基板の再生に適した方法を提供することを目的の一とする。または、本発明の一態様では、半導体基板の再生に適した方法を用いて再生半導体基板を作製することを目的の一とする。または、本発明の一態様では、当該再生半導体基板を用いてSOI基板を作製することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様では、イオンの添加等により損傷した半導体領域(以下、損傷半導体領域とも表記する)を優先的、言い換えると、該領域を選択的に除去することが可能な方法を用いて単結晶シリコン層領域及び絶縁層よりなる凸部を除去する。または、上記方法を用いて再生半導体基板を作製し、当該再生半導体基板を用いてSOI基板を作製する。具体的には、以下の方法を適用することができる。
【0011】
本発明の一態様は、損傷半導体領域と絶縁層とを含む凸部が周縁部に存在する半導体基板に対し、絶縁層を除去するエッチング処理と、硝酸、硝酸によって酸化された半導体基板を構成する半導体材料を溶解する物質、半導体材料の酸化速度及び酸化された半導体材料の溶解速度を制御する物質、及び亜硝酸を含み、亜硝酸の濃度が10mg/l以上1000mg/l以下である混合液を用いて、未損傷の半導体領域に対して損傷半導体領域を選択的に除去するエッチング処理と、を行う半導体基板の再生方法である。
【0012】
また、本発明の他の一態様は、イオンの照射及び熱処理を経て一部を半導体層として分離することにより、周縁部に損傷半導体領域と、絶縁層とを含む凸部が残存した半導体基板に対し、絶縁層を除去するエッチング処理と、硝酸、硝酸によって酸化された半導体基板を構成する半導体材料を溶解する物質、半導体材料の酸化速度及び酸化された半導体材料の溶解速度を制御する物質、及び亜硝酸を含み、亜硝酸の濃度が10mg/l以上1000mg/l以下である混合液を用いて、未損傷の半導体領域に対して損傷半導体領域を選択的に除去するエッチング処理と、を行う半導体基板の再生方法である。
【0013】
上記において、イオンの照射は、質量分離を行わずになされたものであるのが好ましい。また、イオンは、Hを含むのが好ましい。
【0014】
また、上記の半導体基板の再生方法において、硝酸によって酸化された半導体基板を構成する半導体材料を溶解する物質としてフッ酸を用い、半導体材料の酸化速度及び溶解速度を制御する物質として酢酸を用いるのが好ましい。
【0015】
また、上記に記載の半導体基板の再生方法のいずれか一を用いて、半導体基板から再生半導体基板を作製する再生半導体基板の作製方法も本発明の一態様に含まれる。
【0016】
また、本発明の他の一態様は、上記に記載の方法で作製された再生半導体基板中にイオンを添加して脆化領域を形成し、絶縁層を介して、再生半導体基板とベース基板を貼り合わせ、熱処理によって再生半導体基板を分離して、ベース基板上に半導体層を形成するSOI基板の作製方法である。
【0017】
なお、本明細書等において、SOI基板とは、絶縁表面上に半導体層が形成された基板を指し、絶縁層上にシリコン層が設けられた構成には限定されない。例えば、ガラス基板上に直接シリコン層が形成された構成や、絶縁層上に炭化シリコン層が形成されたものなどを含む。
【0018】
なお、本明細書において損傷半導体領域とは、単結晶半導体領域が結晶を構成している原子が空間的に規則的に配列されているものであるのに対し、イオン等の打ち込みに起因して、結晶を構成している原子の配列(結晶構造)の乱れ、結晶欠陥、または結晶格子の歪み等を一部に含む領域のことをいう。また、本明細書において未損傷半導体領域とは、単結晶半導体領域が結晶を構成している原子が空間的に規則的に配列しているものをいい、イオン等が打ち込まれていない単結晶半導体領域と同等の領域のことをいう。
【発明の効果】
【0019】
本明細書で開示する発明の一態様では、損傷していない半導体領域または損傷度合いが小さい半導体領域に対して、損傷した半導体領域を選択的に除去することができる。そのため、半導体基板の再生処理において研磨等で除去されていた損失分を抑制することができ、半導体基板の再生回数、使用回数を増加させることができる。
【0020】
また、上記半導体基板の再生方法を用いて再生半導体基板を作製することで、再生処理における半導体基板の生産性を向上させることができる。そのため、再生半導体基板の作製にかかるコストを低減することができる。
【0021】
また、上記再生半導体基板を用いてSOI基板を作製することで、SOI基板の作製に掛かるコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】SOI基板の作製方法を示す断面図である。
【図2】半導体基板の再生処理方法を示す断面図である。
【図3】SOI基板の作製方法を示す断面図である。
【図4】SOI基板の作製方法を示す断面図である。
【図5】SOI基板の作製工程を示す図である。
【図6】SOI基板を用いた半導体装置を示す断面図である。
【図7】半導体基板の魔鏡評価システムによる観察像及び光学顕微鏡写真を示す図である。
【図8】半導体基板の魔鏡評価システムによる観察像及び光学顕微鏡写真を示す図である。
【図9】実施例のエッチング量とエッチング時間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施の形態1)
本実施の形態では、SOI基板の作製方法の一例と、当該SOI基板の作製に用いた半導体基板の再生方法の一例について、図1及び図2を用いて説明する。
【0024】
<SOI基板の作製工程>
SOI基板の作製工程について図1を参照して説明する。まず、ベース基板120とボンド基板とを準備する(図1(A)、図1(B)参照)。
【0025】
ベース基板120としては、絶縁体でなる基板を用いることができる。例えば、アルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスのような電子工業用に使われる各種ガラス基板、石英基板、セラミック基板、サファイア基板が挙げられる。なお、上記ガラス基板においては、一般に、酸化ホウ素(B)を多く有させることでガラスの耐熱性が向上するが、酸化ホウ素と比較して酸化バリウム(BaO)を多く含ませることで、より実用的な耐熱ガラスが得られる。このため、BよりBaOを多く含むガラス基板を用いると良い。また、ベース基板として耐熱性の高い基板を用いてもよい。耐熱性の高い基板の例としては、石英基板、サファイア基板、半導体基板(例えば、単結晶シリコン基板や多結晶シリコン基板)などがある。なお、本実施の形態では、ベース基板120としてガラス基板を用いる場合について説明する。ベース基板120として大面積化が可能で安価なガラス基板を用いることにより、低コスト化を実現できる。
【0026】
ボンド基板としては、半導体基板100を用いることができる。例えば、単結晶シリコン基板、単結晶ゲルマニウム基板、単結晶シリコンゲルマニウム基板など、第14族元素でなる単結晶半導体基板を用いることができる。また、ガリウムヒ素やガリウムヒ素リン、インジウムガリウムヒ素等の化合物半導体基板を用いることもできる。市販のシリコン基板としては、直径5インチ(125mm)、直径6インチ(150mm)、直径8インチ(200mm)、直径12インチ(300mm)、直径16インチ(400mm)サイズの円形のものが代表的である。なお、半導体基板100の形状は円形に限られず、例えば、矩形等に加工して用いることも可能である。また、半導体基板100は、CZ(チョクラルスキー)法やFZ(フローティングゾーン)法を用いて作製することができる。
【0027】
次に、半導体基板100の表面から所定の深さに脆化領域104を形成する。そして、絶縁層122、123を介してベース基板120と半導体基板100とを貼り合わせる(図1(C)参照)。
【0028】
上記において、脆化領域104は、半導体基板100に形成された絶縁層123に、例えば、水素イオンビームを照射することにより、半導体基板100中に水素イオンを打ち込むことで形成することができる。
【0029】
また、絶縁層122、123は、酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜等の絶縁層を単層で、または積層させて形成することができる。これらの膜は、熱酸化法、CVD法、スパッタリング法等を用いて形成することができる。
【0030】
なお、本明細書等において、酸化窒化物とは、その組成において、窒素よりも酸素の含有量(原子数)が多いものを示し、例えば、酸化窒化シリコンとは、酸素が50原子%以上70原子%以下、窒素が0.5原子%以上15原子%以下、シリコンが25原子%以上35原子%以下、水素が0.1原子%以上10原子%以下の範囲で含まれるものをいう。また、窒化酸化物とは、その組成において、酸素よりも窒素の含有量(原子数)が多いものを示し、例えば、窒化酸化シリコンとは、酸素が5原子%以上30原子%以下、窒素が20原子%以上55原子%以下、シリコンが25原子%以上35原子%以下、水素が10原子%以上30原子%以下の範囲で含まれるものをいう。但し、上記範囲は、ラザフォード後方散乱法(RBS:Rutherford Backscattering Spectrometry)や、水素前方散乱分析法(HFS:Hydrogen Forward scattering Spectrometry)を用いて測定した場合のものである。また、構成元素の含有比率の合計は、100原子%を超えない。
【0031】
次に、熱処理などによって、脆化領域104にて半導体基板100を半導体層124と分離後の半導体基板121とに分離することにより、ベース基板120上に半導体層124を形成する(図1(D)参照)。分離後の半導体基板121は、後述する半導体基板の再生方法によって再生半導体基板となり、再度SOI基板の作製に用いることができる。なお、図1では図示しないが、分離後の半導体基板121の周縁部には凸部が存在している。
【0032】
熱処理を行う場合、当該熱処理によって脆化領域104に形成されている微小な孔にはイオンビームを照射することにより打ち込まれた原子が析出し、微小な孔の内部の圧力が上昇する。圧力の上昇により、脆化領域104には亀裂が生じるため、脆化領域104において半導体基板100が分離することになる。絶縁層122と絶縁層123とは接合しているため、ベース基板120上には絶縁層122と絶縁層123を介して半導体基板100から分離された半導体層124が残存する。
【0033】
その後、半導体層124の表面処理等を行うことによって、平坦な半導体層124を形成する。表面処理としては、例えば、レーザビームの照射処理や、エッチング処理、CMPなどの研磨処理がある。
【0034】
以上の工程により、ベース基板120上に絶縁層122、123を介して半導体層124が設けられたSOI基板を得ることができる。
【0035】
<再生ボンド基板の形成工程>
次に、分離後の半導体基板121の再生工程について図2を参照して説明する。
【0036】
半導体基板121の周縁部には凸部126が存在する(図2(A)参照)。当該凸部126は、絶縁層123、未分離の半導体領域125、イオンが添加された半導体領域127を含む。なお、未分離の半導体領域125及びイオンが添加された半導体領域127は、SOI基板の作製工程におけるイオンの添加処理などによって、いずれも損傷し、結晶欠陥やボイドなどを多く含んでいる。このため、未分離の半導体領域125及びイオンが添加された半導体領域127をまとめて、損傷半導体領域と呼ぶことができる。
【0037】
上述の凸部126は、半導体基板のエッジロールオフ領域を含んでいる。エッジロールオフ領域は、半導体基板の表面処理(CMP処理)に起因して生じるものである。CMP処理とは、被処理物の表面を化学的・機械的な複合作用により平坦化する処理である。当該エッジロールオフ領域近傍の板厚は、半導体層が分離される前の半導体基板の中央部の板厚と比べて薄くなっており、当該エッジロールオフ領域は、SOI基板の作製の際に貼り合わせが行われない領域となる。その結果、半導体基板121のエッジロールオフ領域には、上記凸部126が残存することになる。
【0038】
なお、半導体基板121の凸部126以外の領域(特に、上記エッジロールオフ領域に囲まれる領域)には、イオンが添加された半導体領域129が存在している。イオンが添加された半導体領域129は、SOI基板の作製工程において形成されるイオンが添加された領域が、半導体層が分離された後の半導体基板121に残存することで形成されるものである。
【0039】
ここで、イオンが添加された半導体領域129は、凸部126における半導体領域(半導体領域125及びイオンが添加された半導体領域127)と比較して十分に薄い。また、イオンが添加された半導体領域129は、イオンによる損傷で発生した結晶欠陥等を多く含んでいる。このため、イオンが添加された半導体領域129も、半導体領域125及びイオンが添加された半導体領域127と同様に、損傷半導体領域と呼ぶことができる。
【0040】
図2(B)に凸部126を拡大した模式図を示す。凸部126は、上記エッジロールオフ領域に対応する領域と面取部に対応する領域とを含む。本実施の形態では、エッジロールオフ領域を、上記凸部126の表面における接平面と、基準面とのなす角θが0.5°以下となる点が集合した領域をいうものとする。ここで、基準面としては、半導体基板の表面または裏面に平行な平面が採用される。
【0041】
また、面取部を基板の端からの距離が0.2mm未満の領域とし、エッジロールオフ領域をこれより内側の貼り合わせが行われなかった領域と規定することもできる。具体的には、基板の端からの距離が0.2mm以上0.9mm以下の領域をエッジロールオフ領域と呼ぶことができる。
【0042】
なお、面取部はベース基板とボンド基板との貼り合わせには関与しないため、面取部の平坦性は基板の再生処理において問題とならない。一方で、エッジロールオフ領域の近傍はベース基板とボンド基板との貼り合わせに関与する。よって、エッジロールオフ領域の平坦性次第では、再生半導体基板をSOI基板の作製工程に用いることができないこともある。このような理由から、半導体基板の再生処理において、エッジロールオフ領域における凸部126を除去し、平坦性を向上させることが極めて重要となる。
【0043】
半導体基板の再生処理は、少なくとも、絶縁層123を除去するエッチング処理(以下、第1のエッチング処理と呼ぶ)及び、損傷半導体領域を除去するエッチング処理(以下、第2のエッチング処理と呼ぶ)の二つのエッチング処理を含む。以下、これらについて詳述する。
【0044】
はじめに、第1のエッチング処理について図2(C)を参照して説明する。第1のエッチング処理は、上述のように、半導体基板121の絶縁層123を除去するエッチング処理である。
【0045】
ここで、絶縁層123は、フッ酸を含む溶液をエッチャントとするウェットエッチング処理によって除去することができる。フッ酸を含む溶液としては、フッ酸とフッ化アンモニウムと界面活性剤を含む混合溶液(例えば、ステラケミファ社製、商品名:LAL500)などを用いることが好ましい。または、5%フッ酸溶液を用いてもよい。当該ウェットエッチング処理は、180秒間から300秒間程度行うことが好ましい。
【0046】
なお、ウェットエッチング処理は、半導体基板121を処理槽内の溶液に浸漬して行うことができるため、複数の半導体基板121を一括処理することが可能である。このため、再生処理の効率化を図ることができる。
【0047】
また、第1のエッチング処理として、ドライエッチング処理を行ってもよい。また、ウェットエッチング処理とドライエッチング処理とを組み合わせて用いてもよい。ドライエッチング処理としては、平行平板型RIE(Reactive Ion Etching)法や、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合型プラズマ)エッチング法などを用いることができる。
【0048】
次に、第2のエッチング処理について説明する。第2のエッチング処理では、損傷半導体領域、すなわち、凸部126を構成する未分離の半導体領域125、イオンが添加された半導体領域127、及び、イオンが添加された半導体領域129を選択的に除去する。
【0049】
より具体的には、半導体材料を酸化する物質である硝酸と、硝酸によって酸化された半導体材料を溶解する物質と、半導体材料の酸化速度及び酸化された半導体材料の溶解速度を制御する物質と、自己触媒として機能する亜硝酸と、を含む混合液をエッチャントとしたウェットエッチング処理を行う。混合液に含まれる亜硝酸濃度は、10mg/l以上1000mg/l以下とするのが好ましく、50mg/l以上300mg/l以下とするのがより好ましい。
【0050】
第2のエッチング処理は、30秒間以上120秒間以下程度行うことが好ましく、例えば、後述するフッ酸と硝酸と酢酸の体積比が1:2:10の混合液を用いる場合は、45秒間以上105秒間以下程度行うことが好適である。また、混合液の温度は、10℃以上40℃以下程度とすることが好ましく、例えば、30℃とすることが好適である。
【0051】
ここで、硝酸によって酸化された半導体材料を溶解する物質としては、フッ酸を用いることが好ましい。また、半導体材料の酸化速度及び酸化された半導体材料の溶解速度を制御する物質としては、酢酸を用いることが好ましい。
【0052】
上記エッチャントとして、硝酸(濃度:70重量%)、フッ酸(濃度:50重量%)、酢酸(濃度:97.7重量%)、及び亜硝酸の混合液を用いる場合、硝酸の体積は、酢酸の体積の0.01倍より大きく1倍未満とし、かつ、フッ酸の体積の0.1倍より大きく100倍未満とし、フッ酸の体積は、酢酸の体積の0.01倍より大きく0.5倍未満とすることが好ましい。例えば、フッ酸と硝酸と酢酸の体積比を1:2:10(亜硝酸濃度10mg/l以上1000mg/l以下)とすることが好ましい。
【0053】
上述したように、混合液に含まれる硝酸は、半導体基板を構成する材料の酸化を行う。例えば、半導体基板としてシリコンウエハを用いる場合、硝酸はシリコンの酸化を行い、その化学反応式は、次の式(1)のように表せる。
3Si+4HNO → 3SiO+2HO+4NO (1)
【0054】
ここで、式(1)は、以下の式(2)及び式(3)で表される素反応を含む。
HNO+HNO+HO → 2HNO+2OH+2h (2)
Si+4h+2HO → SiO+4H (3)
【0055】
上記式(2)において、HNOは、自己の合成を促進する自己触媒として機能しており、反応が進むたびにHNOが増加する。また、HNOの増加に伴いシリコンの酸化速度も増加する。シリコンウエハのエッチングは、酸化されたシリコン(SiO)を溶解することによって反応が起こるため、シリコンの酸化速度が増加することでエッチングレートも増大することとなる。
【0056】
なお、ここで、「エッチングレート」とは、単位時間あたりのエッチング量(被エッチング量)をいう。つまり、「エッチングレートが大きい」とは、よりエッチングされやすいことを意味し、「エッチングレートが小さい」とは、よりエッチングされにくいことを意味する。また、「エッチング選択比がとれる」とは、例えば、A層とB層をエッチングする場合に、A層のエッチングレートとB層のエッチングレートに十分な差が存在する条件を意味する。
【0057】
例えば、混合液中に含まれる亜硝酸が低濃度である場合、初期状態においては上記式(2)の反応の確率が低いため、エッチング時間に対するエッチング量の変化も僅かであるが、HNOの濃度がある程度以上になると、式(2)の反応速度がHNO濃度に比例して加速度的に大きくなる。したがって、一定時間を経過した混合液においては、エッチングレートが初期状態と異なるため、連続的に基板を処理する場合に安定したエッチングレートを得ることが困難となる。
【0058】
一方、本実施の形態で示す混合液は、混合液中に含まれる亜硝酸が高濃度(例えば、10mg/l以上、好ましくは50mg/l以上)であるため、初期状態においても式(2)の反応が安定的に行われる。よって、エッチング時間に対するエッチング量の増加を線形的に得ることができ、エッチングレートの安定化を実現することができる。よって、連続的に基板を処理することが可能となるため、生産性を向上させることができる。また、本実施の形態で示す混合液は、エッチングレートが大きいため、当該混合液を用いて再生処理を行うことで処理時間の短縮化を図ることができる。
【0059】
なお、混合液中に含まれる亜硝酸を高濃度とするには、例えば、硝酸と、硝酸によって酸化された半導体材料を溶解する物質と、半導体材料の酸化速度及び酸化された半導体材料の溶解速度を制御する物質とを含む混合液をエッチャントとしてダミー基板をウェットエッチング処理すればよい。
【0060】
また、混合液中の亜硝酸濃度を高くしすぎると、硝酸によって酸化された半導体材料を溶解する物質による半導体材料の溶解がウェットエッチングの律速となるため、亜硝酸濃度は1000mg/l以下好ましくは300mg/l以下とする。
【0061】
損傷半導体領域には、イオンの添加に伴って形成された結晶欠陥やボイドなどが存在しており、エッチャントが浸透しやすい。このため、損傷半導体領域では、表面のみでなく、内部からもエッチングが進行することになる。
【0062】
具体的には、エッチングは基板平面に垂直な方向に深い縦穴を形成するように進行し、その縦穴を拡大するように行われる傾向にある。つまり、損傷半導体領域では、低損傷の半導体領域または未損傷の半導体領域と比較して大きなエッチングレートでエッチング処理が進行することになる。
【0063】
なお、本明細書等において、低損傷の半導体領域とは、未分離の半導体領域125やイオンが添加された半導体領域127、イオンが添加された半導体領域129等と比較して、相対的に損傷の程度が小さい半導体領域をいう。
【0064】
上記エッチャントを用いた場合の損傷半導体領域のエッチングレートは、未損傷の半導体領域(または低損傷の半導体領域)のエッチングレートの1.7倍以上となる。すなわち、未損傷の半導体領域(または低損傷の半導体領域)に対する損傷半導体領域のエッチング選択比は1.7以上になる。
【0065】
このように、半導体材料を酸化する物質として硝酸と、硝酸によって酸化された半導体材料を溶解する物質と、半導体材料の酸化の速度及び酸化された半導体材料の溶解の速度を制御する物質と、自己触媒として機能する亜硝酸とを含む混合液をエッチャントとしてウェットエッチング処理を行うことにより、損傷半導体領域を選択的に除去することができる。
【0066】
故に、基板の再生処理において、これまで研磨等により除去されていた損失分を大幅に低減することができ、再生使用回数を増加させることができる。また、ウェットエッチング処理を用いることで、複数の半導体基板121を一括処理することが可能になるため、基板の再生処理の効率化を図ることができる。更に、第2のエッチング処理はCMP処理などに比べて短時間で行うことが可能であり、この点においても基板の再生処理の効率化が達成される。
【0067】
また、本実施の形態で示す半導体基板の再生方法に用いられるエッチャントは、亜硝酸を自己触媒として含むことで、亜硝酸を含まない、または低濃度含む混合液と比較してエッチングレートを増大させることができるため、エッチング処理をごく短時間で行うことが可能である。また、亜硝酸を高濃度(例えば、10mg/l以上)含むことで、安定したエッチングレートで基板の再生処理を行うことができる。よって、再生半導体基板のバラツキを抑制することができる。さらには、安定したエッチングレートを有するため、基板を連続的に処理することも可能である。したがって、再生半導体基板の生産性を向上させることができる。
【0068】
なお、凸部126における損傷半導体領域(半導体領域125及びイオンが添加された半導体領域127)の厚さと、それ以外の領域における損傷半導体領域(イオンが添加された半導体領域129)の厚さは、大きく異なっている。このため、凸部126(周縁部)と、それ以外の領域(中央部)とのエッチング選択比は、第2のエッチング処理の間において一定ではない。
【0069】
具体的には、次の通りである。まず、第2のエッチング処理を開始した直後は、凸部126及びそれ以外の領域において、いずれも損傷半導体領域がエッチングされることになり、エッチング選択比は1前後となる。そして、凸部126以外の損傷半導体領域(イオンが添加された半導体領域129)が除去された後には、当該領域に低損傷の半導体領域または未損傷の半導体領域が現れることになる。そのため、凸部126の損傷半導体領域が優先的に除去されることになり、エッチング選択比は1.7以上となる。そして、凸部126の損傷半導体領域(半導体領域125、イオンが添加された半導体領域127)が除去されると、当該領域にも低損傷の半導体領域または未損傷の半導体領域が表れることになるため、エッチング選択比は再び1前後となる。
【0070】
このように、第2のエッチング処理の間でエッチング選択比は変動するため、この選択比の変化をエッチング終了時の目安とすることが可能である。例えば、エッチング選択比が1.2未満に低下した段階で、エッチング処理を停止させることで、第2のエッチング処理における不必要なオーバーエッチングを抑制しつつ、損傷半導体領域を除去することができる。
【0071】
なお、エッチング選択比は、所定時間(例えば、30秒、1分など)における凸部126(周縁部)と、それ以外の領域(中央部)のそれぞれの膜厚の減少量を比較して求めたもの(差分値)であっても良いし、瞬間の膜厚の減少量を比較して求めたもの(微分値)であっても良い。
【0072】
以上により半導体基板121が再生され、図2(D)に示すように再生半導体基板132が完成する。
【0073】
なお、上記第2のエッチング処理によって、イオンが添加された半導体領域129の大部分は除去されることになるが、その一部が残存する場合もある。このような場合には、第2のエッチング処理後に別の表面処理を行ってイオンが添加された半導体領域129を完全に除去することが好ましい。上記表面処理としては、CMP処理を代表とする研磨処理、またはレーザ光の照射処理などがある。
【0074】
また、研磨処理やレーザ光の照射処理は、複数回行っても良い。処理工程の順序も限定されず適宜選択することができる。レーザ光の照射に代えて、ランプ光の照射処理を行っても良い。
【0075】
本実施の形態で示したように、第1のエッチング処理で絶縁層を除去した後、半導体材料を酸化する物質である硝酸と、硝酸によって酸化された半導体材料を溶解する物質と、半導体材料の酸化速度及び酸化された半導体材料の溶解速度を制御する物質と、自己触媒として機能する亜硝酸と、を含む混合液を用いて第2のエッチング処理を行うことにより、半導体基板の周縁部に残存する損傷半導体領域を選択的に除去することができる。従って、これまで研磨等により除去されていた基板の損失分を大幅に低減することができ、半導体基板の再生回数、使用回数を増加させることができる。
【0076】
本実施の形態に示す構成は、他の実施の形態に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
【0077】
(実施の形態2)
本実施の形態に係るSOI基板の製造方法では、ボンド基板である半導体基板から分離させた半導体層をベース基板に接合してSOI基板を製造する。そして、半導体層が分離された後の半導体基板に再生処理を施して、ボンド基板として再利用する。以下、図3乃至図5のSOI基板作製工程図を参照して、本実施の形態に係るSOI基板の製造方法の一例について説明する。
【0078】
はじめに、半導体基板100に脆化領域104を形成し、ベース基板120との貼り合わせの準備を行う工程について説明する。当該工程は、半導体基板100に対する処理に関するものであり、図5の工程Aに相当する。
【0079】
まず、半導体基板100を準備する(図3(A)および図5の工程(A−1)参照)。半導体基板100としては、例えば、シリコンなどの単結晶半導体基板または多結晶半導体基板を用いることができる。市販のシリコン基板としては、直径5インチ(125mm)、直径6インチ(150mm)、直径8インチ(200mm)、直径12インチ(300mm)、直径16インチ(400mm)サイズの円形のものが代表的である。また、シリコン基板の周縁部には、図3(A)に示すような、欠けやひび割れを防ぐための面取り部が存在する。なお、形状は円形に限られず矩形状等に加工したシリコン基板を用いることも可能である。以下の説明では、半導体基板100として、矩形状の単結晶シリコン基板を用いる場合について示す。
【0080】
なお、半導体基板100の表面は、硫酸過酸化水素水混合溶液(SPM)、アンモニア過酸化水素水混合溶液(APM)、塩酸過酸化水素水混合溶液(HPM)、希フッ酸(DHF)、オゾン水などを用いて適宜洗浄しておくのが好ましい。また、希フッ酸とオゾン水を交互に吐出して半導体基板100の表面を洗浄してもよい。
【0081】
次に、半導体基板100の表面を洗浄した後、半導体基板100上に絶縁層123を形成する(図3(B)および、図5の工程(A−2)参照)。絶縁層123は、単層であっても、複数の絶縁膜を積層して用いたものであっても良い。絶縁層123は、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜などのシリコンを組成に含む絶縁膜を用いて形成することができる。本実施の形態では、一例として、酸化シリコンを絶縁層123として用いる場合について説明する。
【0082】
酸化シリコンを絶縁層123として用いる場合、絶縁層123はシランと酸素、テトラエトキシシラン(TEOS:化学式Si(OC)と酸素等の混合ガスを用い、熱CVD、プラズマCVD、常圧CVD、バイアスECRCVD等の気相成長法によって形成することができる。この場合、絶縁層123の表面を酸素プラズマ処理で緻密化しても良い。
【0083】
また、有機シランガスを用いて化学気相成長法により作製される酸化シリコンを、絶縁層123として用いても良い。有機シランガスとしては、テトラエトキシシラン(TEOS:化学式Si(OC)、テトラメチルシラン(TMS:化学式Si(CH)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、トリエトキシシラン(SiH(OC)、トリスジメチルアミノシラン(SiH(N(CH)等のシリコン含有化合物を用いることができる。
【0084】
また、半導体基板100を酸化することで得られる酸化膜で、絶縁層123を形成することもできる。上記酸化膜を形成するための熱酸化処理には、ドライ酸化を用いても良いが、酸化雰囲気中にハロゲンを含むガスを添加しても良い。ハロゲンを含むガスとしては、HCl、HF、NF、HBr、Cl、ClF、BCl、F、Brなどから選ばれた一種または複数種のガスを用いることができる。なお、図3(B)では、半導体基板100を覆うように絶縁層123が形成されているが、本発明の一態様はこれに限定されない。半導体基板100にCVD法等を用いて絶縁層123を設ける場合、半導体基板100の一方の面にのみ絶縁層123が形成されていてもよい。
【0085】
熱酸化膜の形成条件の一例としては、酸素に対しHClを0.5〜10体積%(好ましくは3体積%)の割合で含む雰囲気中で、700℃以上1100℃以下(代表的には、950℃程度)で熱処理を行うというものがある。処理時間は0.1〜6時間、好ましくは0.5〜1時間とすればよい。形成される酸化膜の膜厚は、10nm〜1100nm(好ましくは50nm〜150nm)、例えば100nmとすることができる。
【0086】
このような、ハロゲン元素を含む雰囲気での熱酸化処理により、酸化膜にハロゲン元素を含ませることができる。ハロゲン元素を1×1017atoms/cm〜1×1021atoms/cmの濃度で酸化膜に含ませることにより、外因性の不純物である重金属(例えば、Fe、Cr、Ni、Mo等)を酸化膜が捕集するので、後に形成される半導体層の汚染を防止することができる。
【0087】
また、絶縁層123中に塩素等のハロゲン元素を含ませることにより、半導体基板100に悪影響を与える不純物(例えば、Na等の可動イオン)をゲッタリングすることができる。具体的には、絶縁層123を形成した後に行われる熱処理により、半導体基板100に含まれる不純物が絶縁層123に析出し、ハロゲン原子(例えば塩素原子)と反応して捕獲されることとなる。それにより絶縁層123中に捕集した当該不純物を固定して半導体基板100の汚染を防ぐことができる。また、絶縁層123はガラス基板と貼り合わせた場合に、ガラスに含まれるNa等の不純物を固定する膜としても機能しうる。
【0088】
特に、ハロゲンを含む雰囲気下における熱処理により、絶縁層123中に塩素等のハロゲンを含ませることは、半導体基板100の洗浄が不十分である場合や、繰り返し再生処理を施して用いられる半導体基板の汚染除去において有効である。
【0089】
また、酸化処理雰囲気に含まれるハロゲン元素により、半導体基板100の表面の欠陥が終端されるため、酸化膜と半導体基板100との界面の局在準位密度を低減することができる。
【0090】
また、絶縁層123中に含まれるハロゲン元素は、絶縁層123に歪みを形成する。その結果、絶縁層123の水分に対する吸収率が向上し、水分の拡散速度が増加する。つまり、絶縁層123の表面に水分が存在する場合に、当該表面に存在する水分を絶縁層123中に素早く吸収し、拡散させることができる。
【0091】
また、ベース基板として、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属などの半導体装置の信頼性を低下させる不純物を含むようなガラス基板を用いる場合、上記不純物がベース基板からSOI基板の半導体層に拡散することを防止できるような膜を、少なくとも1層以上、絶縁層123が含んでいることが好ましい。このような膜には、窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜などがある。このような膜を絶縁層123が有することで、絶縁層123をバリア膜(ブロッキング膜とも呼ぶ)として機能させることができる。
【0092】
窒化シリコン膜は、例えば、シランとアンモニアの混合ガスを用い、プラズマCVD等の気相成長法によって形成することができる。また、窒化酸化シリコン膜は、例えば、シランとアンモニアの混合ガス、またはシランと一酸化二窒素の混合ガスを用い、プラズマCVD等の気相成長法によって形成することができる。
【0093】
例えば、絶縁層123を単層構造のバリア膜として形成する場合、厚さ15nm以上300nm以下の窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜で形成することができる。
【0094】
絶縁層123を、バリア膜として機能する2層構造とする場合は、上層は、バリア機能の高い絶縁膜で構成する。上層の絶縁膜は、例えば厚さ15nm〜300nmの窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜で形成することができる。これらの膜は、不純物の拡散を防止するブロッキング効果が高いが、内部応力が高い。そのため、半導体基板100と接する下層の絶縁膜には、上層の絶縁膜の応力を緩和する効果のある膜を選択することが好ましい。上層の絶縁膜の応力を緩和する効果のある絶縁膜として、酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜および半導体基板100を熱酸化して形成した熱酸化膜などがある。下層の絶縁膜の厚さは5nm以上200nm以下とすることができる。
【0095】
例えば、絶縁層123をバリア膜として機能させるために、酸化シリコン膜と窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜と窒化シリコン膜、酸化シリコン膜と窒化酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜と窒化酸化シリコン膜などの組み合わせで絶縁層123を形成すると良い。
【0096】
次に、半導体基板100に、電界で加速されたイオンでなるイオンビームを、矢印で示すように絶縁層123を介して照射し、半導体基板100の表面から所望の深さの領域に脆化領域104を形成する(図3(C)および、図5の工程(A−3)参照)。脆化領域104が形成される深さは、イオンの平均侵入深さとほぼ同じ深さであり、これは、イオンビームの加速エネルギーとイオンビームの入射角によって調節することができる。また、加速エネルギーは加速電圧などにより調節できる。脆化領域104が形成される深さによって、後に半導体基板100から分離される半導体層124の厚さが決定される。脆化領域104が形成される深さは、例えば半導体基板100の表面から10nm以上500nm以下とすることができ、好ましい深さの範囲は、50nm以上200nm以下、例えば100nm程度である。なお、本実施の形態では、イオンビームの照射を絶縁層123の形成後に行っているが、これに限られず、絶縁層123の形成前にイオンビームの照射を行っても良い。
【0097】
脆化領域104の形成は、イオンドーピング処理で行うことができる。イオンドーピング処理には、イオンドーピング装置を用いて行うことができる。イオンドーピング装置の代表的な例としては、プロセスガスをプラズマ励起して生成された全てのイオン種をチャンバー内に配置された被処理体に照射する非質量分離型の装置がある。非質量分離型の装置では、プラズマ中のイオン種を質量分離しないで、全てのイオン種を含むイオンビームを被処理体に照射する。
【0098】
イオンドーピング装置の主要な構成は、被処理物を配置するチャンバー、所望のイオンを発生させるイオン源、およびイオンを加速し、照射するための加速機構である。イオン源は、所望のイオン種を生成するためのソースガスを供給するガス供給装置、ソースガスを励起して、プラズマを生成させるための電極などで構成される。プラズマを形成するための電極として、フィラメント型の電極や容量結合高周波放電用の電極などが用いられる。加速機構は、引出電極、加速電極、減速電極、接地電極等の電極など、およびこれらの電極に電力を供給するための電源などで構成される。加速機構を構成する電極には複数の開口やスリットが設けられており、イオン源で生成されたイオンは電極に設けられた開口やスリットを通過して加速される。なお、イオンドーピング装置の構成は上述したものに限定されず、必要に応じてその構成を変更することができる。
【0099】
本実施の形態では、イオンドーピング装置を用い、プラズマソースガスをプラズマ励起して生成された全てのイオン種を含むイオンビームを半導体基板100に照射する場合について説明する。プラズマソースガスとしては、水素を含むガス、例えば、Hを供給する。水素ガスを励起してプラズマを生成し、質量分離せずにプラズマ中に含まれるイオンを加速し、加速されたイオンを半導体基板100に打ち込む。
【0100】
上記イオンビームの照射処理においては、水素ガスから生成されるイオン種(H、H、H)の総量に対してHの割合を50%以上とする。より好ましくは、そのHの割合を80%以上とする。プラズマ中のHの割合を高くすることで、水素イオンを効率よく、半導体基板100に打ち込むことができるためである。なお、HはHの3倍の質量を持つことから、同じ深さに水素原子を1つ打ち込む場合、Hの加速電圧は、Hの加速電圧の3倍にすることが可能である。これにより、イオンビームの照射工程のタクトタイムを短縮することが可能となり、生産性やスループットの向上を図ることができる。また、同じ質量のイオンを打ち込むことで、半導体基板100の同じ深さに集中させてイオンを打ち込むことができる。
【0101】
イオンドーピング装置は廉価で、大面積処理に優れているため、イオンドーピング装置を用いてHを照射することで、半導体特性の向上、大面積化、低コスト化、生産性向上などの顕著な効果を得ることができる。また、イオンドーピング装置を用いた場合には、重金属も同時に導入されるおそれがあるが、塩素原子を含有する絶縁層123を介してイオンの照射を行うことによって、重金属による半導体基板100の汚染を防ぐことができる。
【0102】
脆化領域104の形成は、イオン注入装置を用いたイオン注入処理で行ってもよい。イオン注入装置は、チャンバー内に配置された被処理体に、ソースガスをプラズマ励起して生成された複数のイオン種を質量分離し、特定のイオン種を含むイオンビームを被処理体に照射する質量分離型の装置である。イオン注入装置を用いる場合には、水素ガスやPHを励起して生成されたH、H、Hを質量分離して、これらのいずれかを半導体基板100に打ち込む。
【0103】
イオン注入装置では、半導体基板100に対して単一のイオンのイオンビームを照射することが可能であり、半導体基板100の同じ深さに集中させてイオンを打ち込むことができる。このため、打ち込まれるイオンの深さ方向のプロファイルにおいて、ピークをシャープにすることが可能であり、分離される半導体層の表面平坦性を高めることが容易である。また、その電極構造から、重金属による汚染が比較的小さく、半導体層の特性悪化を抑制することができるため好適である。
【0104】
次に、絶縁層123が形成された半導体基板100を洗浄する。この洗浄工程は、純水による超音波洗浄や、純水と窒素による2流体ジェット洗浄などで行うことができる。超音波洗浄としては、メガヘルツ超音波洗浄(メガソニック洗浄)を用いることが望ましい。上述の超音波洗浄や2流体ジェット洗浄の後、半導体基板100をオゾン水で洗浄してもよい。オゾン水で洗浄することで、有機物の除去と、絶縁層123表面の親水性を向上させる表面の活性化処理を行うことができる。
【0105】
絶縁層123の表面の活性化処理は、オゾン水による洗浄の他、原子ビームまたはイオンビームの照射処理、紫外線処理、オゾン処理、プラズマ処理、バイアス印加プラズマ処理またはラジカル処理で行うことができる(図5の工程(A−4)参照)。原子ビームまたはイオンビームを利用する場合には、アルゴン等の不活性ガス中性原子ビームまたは不活性ガスイオンビームを用いることができる。
【0106】
ここで、オゾン処理の一例を説明する。例えば、酸素を含む雰囲気下で紫外線(UV)を照射することにより、被処理体表面にオゾン処理を行うことができる。酸素を含む雰囲気下で紫外線を照射するオゾン処理は、UVオゾン処理または紫外線オゾン処理などとも呼ばれる。酸素を含む雰囲気下において、紫外線のうち200nm未満の波長を含む光と200nm以上の波長を含む光を照射することにより、オゾンを生成させるとともに、オゾンから一重項酸素を生成させることができる。また、紫外線のうち180nm未満の波長を含む光を照射することにより、オゾンを生成させるとともに、オゾンから一重項酸素を生成させることもできる。
【0107】
酸素を含む雰囲気下で、200nm未満の波長を含む光および200nm以上の波長を含む光を照射することにより起きる反応例を以下に示す。
+hν(λnm)→O(P)+O(P) (1)
O(P)+O→O (2)
+hν(λnm)→O(D)+O (3)
【0108】
上記反応式(1)において、酸素(O)を含む雰囲気下で200nm未満の波長(λnm)を含む光(hν)を照射することにより基底状態の酸素原子(O(P))が生成される。次に、反応式(2)において、基底状態の酸素原子(O(P))と酸素(O)とが反応してオゾン(O)が生成される。そして、反応式(3)において、生成されたオゾン(O)を含む雰囲気下で200nm以上の波長(λnm)を含む光(hν)が照射されることにより、励起状態の一重項酸素O(D)が生成される。酸素を含む雰囲気下において、紫外線のうち200nm未満の波長を含む光を照射することによりオゾンを生成させるとともに、200nm以上の波長を含む光を照射することによりオゾンを分解して一重項酸素を生成する。上記のようなオゾン処理は、例えば、酸素を含む雰囲気下での低圧水銀ランプの照射(λ=185nm、λ=254nm)により行うことができる。
【0109】
また、酸素を含む雰囲気下で、180nm未満の波長を含む光を照射することにより起きる反応例を示す。
+hν(λnm)→O(D)+O(P) (4)
O(P)+O→O (5)
+hν(λnm)→O(D)+O (6)
【0110】
上記反応式(4)において、酸素(O)を含む雰囲気下で180nm未満の波長(λnm)を含む光(hν)を照射することにより、励起状態の一重項酸素O(D)と基底状態の酸素原子(O(P))が生成する。次に、反応式(5)において、基底状態の酸素原子(O(P))と酸素(O)とが反応してオゾン(O)が生成する。反応式(6)において、生成されたオゾン(O)を含む雰囲気下で180nm未満の波長(λnm)を含む光(hν)が照射されることにより、励起状態の一重項酸素と酸素が生成される。酸素を含む雰囲気下において、紫外線のうち180nm未満の波長を含む光を照射することによりオゾンを生成させるとともにオゾンまたは酸素を分解して一重項酸素を生成する。上記のようなオゾン処理は、例えば、酸素を含む雰囲気下でのXeエキシマUVランプの照射(λ=172nm)により行うことができる。
【0111】
上記200nm未満の波長を含む光を照射することにより被処理体表面に付着する有機物などの化学結合を切断し、オゾンまたはオゾンから生成された一重項酸素により被処理体表面に付着する有機物、または化学結合を切断した有機物などを酸化分解して除去することができる。上記のようなオゾン処理を行うことで、被処理体表面の親水性および清浄性を高めることができ、接合を良好に行うことができる。
【0112】
酸素を含む雰囲気下で紫外線を照射することによりオゾンが生成される。オゾンは、被処理体表面に付着する有機物の除去に効果を奏する。また、一重項酸素も、オゾンと同等またはそれ以上に、被処理体表面に付着する有機物の除去に効果を奏する。オゾンおよび一重項酸素は、活性状態にある酸素の例であり、総称して活性酸素とも言われる。上記反応式等で説明したとおり、一重項酸素を生成する際にオゾンが生じる、またはオゾンから一重項酸素を生成する反応もあるため、ここでは一重項酸素が寄与する反応も含めて、便宜的にオゾン処理と称する。
【0113】
次に、ベース基板120に対し、半導体基板100との貼り合わせの準備を行う工程について説明する。当該工程は、ベース基板120に対する処理に関するものであり、図5の工程Bに相当する。
【0114】
まず、ベース基板120を準備する(図5の工程(B−1)参照)。ベース基板120としては、アルミノシリケートガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラスなどの電子工業用に使われる各種ガラス基板、石英基板、セラミック基板、サファイア基板などを用いることができる。他にも、ベース基板120として単結晶半導体基板(例えば、単結晶シリコン基板)や多結晶半導体基板(例えば、多結晶シリコン基板)を用いてもよい。例えば、多結晶シリコン基板は、単結晶シリコン基板より安価であり、ガラス基板より耐熱性が高いという利点を有している。
【0115】
ベース基板120として、ガラス基板を用いる場合には、例えば、液晶パネルの製造用に開発されたマザーガラス基板を用いることが好適である。マザーガラスには、第3世代(550mm×650mm)、第3.5世代(600mm×720mm)、第4世代(680mm×880mmまたは、730mm×920mm)、第5世代(1100mm×1300mm)、第6世代(1500mm×1850mm)、第7世代(1870mm×2200mm)、第8世代(2200mm×2400mm)、第9世代(2400mm×2800mm)、第10世代(2850mm×3050mm)などのサイズのものが知られている。大面積のマザーガラス基板をベース基板120として用いてSOI基板を製造することで、SOI基板の大面積化が実現できる。SOI基板の大面積化が実現すれば、一度に複数のICを製造することができ、1枚の基板から製造される半導体装置の取り数が増加するので、生産性を飛躍的に向上させることができる。
【0116】
また、ベース基板120上には絶縁層122を形成しておくのが望ましい(図5の工程(B−2)参照)。もちろん、ベース基板120上の絶縁層122は必須の構成ではないが、例えば、ベース基板120上に絶縁層122として、バリア膜として機能する窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、窒化アルミニウム膜、または窒化酸化アルミニウム膜などを形成しておくことで、ベース基板120から半導体基板100に、アルカリ金属やアルカリ土類金属などの不純物が入り込むのを防ぐことができる。
【0117】
また、絶縁層122は接合層として用いるため、接合不良を抑制するためには絶縁層122の表面を平滑とすることが好ましい。具体的には、絶縁層122の表面の平均面粗さ(Ra)を0.50nm以下、自乗平均粗さ(Rms)を0.60nm以下、より好ましくは、平均面粗さを0.35nm以下、自乗平均粗さを0.45nm以下となるように絶縁層122を形成する。膜厚は、10nm以上200nm以下、好ましくは50nm以上100nm以下の範囲で適宜設定することができる。
【0118】
貼り合わせを行う前に、ベース基板120の表面を洗浄する。ベース基板120の表面の洗浄は、塩酸と過酸化水素水を用いた洗浄や、メガヘルツ超音波洗浄、2流体ジェット洗浄、オゾン水による洗浄などを用いて行うことができる。また、絶縁層123と同様に、絶縁層122の表面に、原子ビームまたはイオンビームの照射処理、紫外線処理、オゾン処理、プラズマ処理、バイアス印加プラズマ処理またはラジカル処理などの表面活性化処理を行ってから貼り合わせを行うと良い(図5の工程(B−3)参照)。
【0119】
次に、半導体基板100とベース基板120とを貼り合わせ、半導体基板100を、半導体層124と半導体基板121とに分離する工程について説明する。当該工程は、図5の工程Cに相当する。
【0120】
まず、上述の工程を経た半導体基板100とベース基板120を貼り合わせる(図4(A)および、図5の工程(C−1)参照)。ここでは、絶縁層123および絶縁層122を介して、半導体基板100とベース基板120を貼り合わせるが、絶縁層が形成されていない場合はこの限りでない。
【0121】
貼り合わせは、ベース基板120の端の一箇所に0.1N/cm〜500N/cm、好ましくは1N/cm〜20N/cm程度の圧力を加えることで実現される。ベース基板120の圧力をかけた部分から半導体基板100とベース基板120とが接合し始め、自発的に接合が全面におよび、ベース基板120と半導体基板100との貼り合わせが完了する。当該貼り合わせは、ファンデルワールス力などをその原理とするものであり、室温でも強固な接合状態が形成されうる。
【0122】
なお、半導体基板100の周縁部にはエッジロールオフ領域と呼ばれる領域が存在し、当該領域では、半導体基板100(絶縁層123)とベース基板120(絶縁層122)とは接触しないことがある。また、エッジロールオフ領域より外側(半導体基板100の端寄り)に存在する面取部でも、ベース基板120と半導体基板100とは接触しない。
【0123】
半導体基板100の作製に用いられるCMP法では、その原理から、半導体基板周縁部の研磨が中央部より早く進む傾向にあり、これによって、半導体基板100の周縁部には、半導体基板100の中央部より厚みが小さい領域(エッジロールオフ領域)が形成される。半導体基板100の端部が面取加工されていない場合であっても、このようなエッジロールオフ領域では、ベース基板120と貼り合わせられないことがある。
【0124】
一のベース基板120に複数の半導体基板100を貼り合わせる場合には、各半導体基板100に圧力をかけるようにすることが望ましい。半導体基板100の厚さの違いにより、ベース基板120と接触しない半導体基板100が生じうるためである。なお、半導体基板100の厚さが多少異なる場合であっても、ベース基板120のたわみなどによって半導体基板100とベース基板120とを密着させることができる場合には、貼り合わせを良好に行うことができるため、この限りでない。
【0125】
ベース基板120に半導体基板100を貼り合わせた後には、接合を強化するための熱処理を行うことが望ましい(図5の工程(C−2)参照)。当該熱処理の温度は、脆化領域104に亀裂を発生させない温度、例えば、200℃以上450℃以下とすることが好適である。また、この温度範囲で加熱した状態で、ベース基板120に半導体基板100を貼り合わせることで、同様の効果を得ることができる。なお、上述の熱処理は、貼り合わせを行った装置または場所において連続的に行うことが望ましい。熱処理前の基板の搬送による基板の剥離を防止できるためである。
【0126】
なお、半導体基板100とベース基板120とを貼り合わせる際に、接合面にパーティクルなどが付着すると、付着部分では貼り合わせが行われない。パーティクルの付着を防ぐためには、半導体基板100とベース基板120との貼り合わせは、気密性が確保された処理室内で行うことが望ましい。さらに、半導体基板100とベース基板120とを貼り合わせる際に、処理室内を減圧状態(例えば、5.0×10−3Pa程度)とし、貼り合わせ処理の雰囲気を清浄にするようにしても良い。
【0127】
次いで、熱処理を行うことで、脆化領域104において半導体基板100を分離し、ベース基板120上に半導体層124を形成すると共に、半導体基板121を形成する(図4(B)および、図5の工程(C−3)参照)。上述のエッジロールオフ領域および面取部以外の領域では、半導体基板100とベース基板120とは接合されているため、ベース基板120上には、半導体基板100から分離された半導体層124が固定されることになる。
【0128】
ここで、半導体層124を分離するための熱処理の温度は、ベース基板120の歪み点を越えない温度とする。当該熱処理は、RTA(Rapid Thermal Anneal)装置、抵抗加熱炉、マイクロ波加熱装置などを用いて行うことができる。RTA装置には、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)装置、LRTA(Lamp Rapid Thermal Anneal)装置などがある。GRTA装置を用いる場合には、温度550℃以上650℃以下、処理時間0.5分以上60分以内とすることができる。抵抗加熱炉を用いる場合は、温度200℃以上650℃以下、処理時間2時間以上4時間以内とすることができる。
【0129】
また、上記熱処理は、マイクロ波などの照射によって行っても良い。具体的には、例えば、2.45GHzのマイクロ波を900W、5〜30分程度で照射することにより、半導体基板100を分離させることができる。
【0130】
半導体層124および、半導体基板121の分離に係る界面には、イオンビームの照射処理などによって損傷した半導体領域129、半導体領域133が残存する。当該領域は、分離前の脆化領域104であったものである。このため、半導体領域129および半導体領域133は多くの水素を含み、多くの結晶欠陥やボイドを含んでいる。
【0131】
また、半導体基板121の貼り合わせが行われなかった領域(具体的には、半導体基板100のエッジロールオフ領域および面取部に対応する領域)には、凸部126が存在する。凸部126は、イオンが添加された半導体領域127、未分離の半導体領域125、および絶縁層123によって構成されている。半導体領域127は半導体領域129などと同様に脆化領域104の一部であったものであるから、多くの水素を含み、多くの結晶欠陥やボイドを含んでいる。また、半導体領域125は、半導体領域127などと比較して水素の含有量は小さいが、イオン等の打ち込みに起因する結晶欠陥が形成されている。
【0132】
次に、ベース基板120に貼り合わせられた半導体層124の表面を平坦化し、結晶性を回復する工程について説明する。当該工程は、図5の工程Dに相当する。
【0133】
ベース基板120に密着された半導体層124上の半導体領域133では、脆化領域104の形成および脆化領域104における半導体基板100の分離によって、結晶欠陥が形成され、平坦性が損なわれている。よって、半導体領域133を研磨などによって除去し、半導体層124の表面を平坦化しても良い(図4(C)および、図5の工程(D−1)参照)。平坦化は必須ではないが、平坦化を行うことで、半導体層と、後に半導体層表面に形成される層(例えば、絶縁層)との界面の特性を向上させることができる。具体的に研磨は、CMP法または液体ジェット研磨法などにより、行うことができる。ここで、半導体領域133を除去する際に、半導体層124も研磨され、半導体層124が薄膜化されることもある。
【0134】
また、半導体領域133をエッチングによって除去し、半導体層124を平坦化することもできる。上記エッチングには、例えば、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)法、ICP(Inductively Coupled Plasma)エッチング法、ECR(Electron Cyclotron Resonance)エッチング法、平行平板型(容量結合型)エッチング法、マグネトロンプラズマエッチング法、2周波プラズマエッチング法またはヘリコン波プラズマエッチング法等のドライエッチング法を用いることができる。なお、上記研磨と上記エッチングの両方を用いて、半導体領域133を除去し、半導体層124の表面を平坦化してもよい。
【0135】
また、上記研磨および上記エッチングにより、半導体層124の表面を平坦化すると共に、後に形成される半導体素子にとって最適な厚さまで半導体層124を薄膜化することができる。
【0136】
また、結晶欠陥の低減および平坦性向上のために、半導体領域133および半導体層124にレーザビームを照射しても良い(図5の工程(D−2)参照)。
【0137】
なお、レーザビームを照射する前にドライエッチングにより半導体領域133を除去し、半導体層124の表面を平坦化している場合、半導体層124の表面付近では欠陥が生じていることがある。しかし、上記レーザビームの照射により、このような欠陥を補修することが可能である。
【0138】
レーザビームの照射工程では、ベース基板120の温度上昇を小さくできるため、耐熱性の低い基板をベース基板120として用いることが可能になる。当該レーザビームの照射によって、半導体領域133を完全溶融し、半導体層124は部分溶融させることが望ましい。半導体層124を完全溶融させると、液相となった半導体層124での無秩序な核発生によって半導体層124が再結晶化することとなり、半導体層124の結晶性が低下するからである。半導体層124を部分溶融させることで、溶融されていない固相部分から結晶成長が進行し、半導体層124の結晶欠陥が減少され、結晶性が回復する。なお、半導体層124が完全溶融するとは、半導体層124が絶縁層123との界面まで溶融され、液体状態になることをいう。他方、半導体層124が部分溶融するとは、半導体層124の一部(ここでは上層)が溶融して液相となり、別の一部(ここでは下層)が固相を維持することをいう。
【0139】
レーザビームを照射した後には、半導体層124の表面をエッチングしても良い。なお、この場合には、レーザビームの照射を行う前に半導体領域133をエッチングしても良いし、しなくとも良い。当該エッチングにより、半導体層124の表面を平坦化すると共に、後に形成される半導体素子にとって最適な厚さまで半導体層124を薄膜化することができる。
【0140】
レーザビームを照射した後には、半導体層124に500℃以上650℃以下の熱処理を行うことが望ましい(図5の工程(D−3)参照)。この熱処理によって、半導体層124の欠陥をさらに低減させ、また、半導体層124の歪みを緩和させることができる。熱処理には、RTA(Rapid Thermal Anneal)装置、抵抗加熱炉、マイクロ波加熱装置などを用いることができる。RTA装置には、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)装置、LRTA(Lamp Rapid Thermal Anneal)装置などがある。例えば、抵抗加熱炉を用いる場合には、600℃で4時間程度の熱処理を行えばよい。
【0141】
上述の工程により得られたSOI基板を、その後の半導体装置の製造工程に用いて、各種の半導体装置を作製することができる(図5の工程F参照)。
【0142】
<半導体基板の再生処理>
次に、半導体基板121に再生処理を施し、再生半導体基板を製造する工程について説明する。当該工程は、図5の工程Eに相当する。なお、当該工程の詳細については、実施の形態1を参酌することができる。
【0143】
以上により、半導体基板121は再生半導体基板132へと再生される。得られた再生半導体基板132は工程Aにおいて半導体基板100として再度利用することができる。
【0144】
本実施の形態で示したように、再生処理工程を経た半導体基板を繰り返し使用することによって、SOI基板の製造コストを低減することができる。特に、本実施の形態等において説明する方法を用いる場合には、損傷半導体領域を選択的に除去することができる。また、半導体基板の再生処理において除去される半導体基板の量を十分に抑制することができる。
【0145】
本実施の形態に示す構成は、他の実施の形態に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
【0146】
(実施の形態3)
本実施の形態では、耐熱性の高いシリコン基板等をベース基板として用いてSOI基板を作製する場合について説明する。なお、本実施の形態において示す方法は、多くの部分で先の実施の形態と共通している。よって、本実施の形態では、主に相違点について説明することとする。図面については、先の実施の形態と共通であるため、ここでは特に示さない。
【0147】
ボンド基板として用いられる半導体基板に、絶縁層および脆化領域を形成する(図5の工程Aに相当)。絶縁層、脆化領域の形成を含む半導体基板に対する処理等については、先の実施の形態に示したものと同様である。よって、これらに関しては、先の実施の形態の記載を参酌すればよい。
【0148】
本実施の形態では、ベース基板として耐熱性の高い基板を用いる(図5の工程Bに相当)。耐熱性の高い基板の例としては、石英基板、サファイア基板、半導体基板(例えば、単結晶シリコン基板や多結晶シリコン基板)などがある。本実施の形態では、ベース基板として単結晶シリコン基板を用いる場合について説明する。
【0149】
単結晶シリコン基板としては、直径5インチ(125mm)、直径6インチ(150mm)、直径8インチ(200mm)、直径12インチ(300mm)、直径16インチ(400mm)サイズの円形のものが代表的である。なお、形状は円形に限られず矩形状等に加工したシリコン基板を用いることも可能である。以下の説明では、ベース基板として、矩形状の単結晶シリコン基板を用いる場合について説明する。なお、ベース基板とボンド基板の大きさは、同程度としても良いし、異ならせても良い。
【0150】
ベース基板の表面は、硫酸過酸化水素水混合溶液(SPM)、アンモニア過酸化水素水混合溶液(APM)、塩酸過酸化水素水混合溶液(HPM)、希フッ酸(DHF)、オゾン水などを用いて適宜洗浄しておくのが望ましい。また、希フッ酸とオゾン水を交互に吐出して半導体基板100の表面を洗浄してもよい。
【0151】
ベース基板上には、絶縁層を形成しても良い。ベース基板上に絶縁層を形成する場合には、ボンド基板側の絶縁層を省略した構成とすることもできる。絶縁層は、単数の絶縁膜を用いたものであっても、複数の絶縁膜を積層して用いたものであっても良い。絶縁層は、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜などのシリコンを組成に含む絶縁膜を用いて形成することができる。
【0152】
一例として、上記絶縁層を熱酸化処理によって形成することができる。熱酸化処理としては、ドライ酸化を用いることが好適であるが、酸化雰囲気中にハロゲンを含むガスを添加しても良い。ハロゲンを含むガスとしては、HCl、HF、NF、HBr、Cl、ClF、BCl、F、Brなどから選ばれた一種または複数種のガスを用いることができる。
【0153】
貼り合わせを行う前には、ベース基板の表面を洗浄する。ベース基板の表面の洗浄は、塩酸と過酸化水素水を用いた洗浄や、メガヘルツ超音波洗浄、2流体ジェット洗浄、オゾン水による洗浄などを用いて行うことができる。また、表面に、原子ビームまたはイオンビームの照射処理、紫外線処理、オゾン処理、プラズマ処理、バイアス印加プラズマ処理またはラジカル処理などの表面活性化処理を行ってから貼り合わせを行っても良い。
【0154】
次に、半導体基板(ボンド基板)とベース基板とを貼り合わせ、半導体基板を分離する(図5の工程Cに相当)。これにより、ベース基板上には、半導体層が形成されることになる。当該工程の詳細については、先の実施の形態を参酌できる。
【0155】
本実施の形態では、ベース基板として耐熱性の高い単結晶シリコン基板を用いている。このため、各種熱処理温度の上限を、単結晶シリコン基板の融点付近まで引き上げることが可能である。
【0156】
例えば、半導体基板を分離するための熱処理温度の上限を1200℃程度とすることができる。また、当該熱処理の温度を700℃以上とすることにより、ベース基板との接合が一層強化される。
【0157】
次に、ベース基板に貼り合わせられた半導体層の表面を平坦化し、結晶性を回復させる(図5の工程Dに相当)。
【0158】
ベース基板に密着された半導体層には、脆化領域の形成および脆化領域における半導体基板の分離に伴い結晶欠陥が形成され、また、その平坦性は損なわれている。よって、熱処理を行って、結晶欠陥を低減させると共に、表面の平坦性を向上させるのが好適である。上記熱処理は、800℃〜1300℃、代表的には、850℃〜1200℃の温度条件で行うことが望ましい。このような比較的高温の条件での熱処理を行うことにより、結晶欠陥を十分に低減し、表面の平坦性を向上させることが可能である。
【0159】
熱処理には、RTA(Rapid Thermal Anneal)装置、抵抗加熱炉、マイクロ波加熱装置などを用いることができる。例えば、抵抗加熱炉を用いる場合には、950℃〜1150℃で1分〜4時間程度の熱処理を行えばよい。なお、半導体基板を分離させる際の熱処理を高温で行って、当該熱処理に代えることもできる。
【0160】
熱処理前または熱処理後において、半導体層にレーザビームを照射しても良い。レーザビームを照射することによって、熱処理では修復しきれない結晶欠陥をも修復することが可能である。レーザビーム照射の詳細については、先の実施の形態を参酌できる。
【0161】
また、熱処理前または熱処理後には、半導体層上方の半導体領域を研磨等によって除去し、表面を平坦化しても良い。当該平坦化処理によって、半導体層表面を一層平坦にすることができる。具体的に研磨は、化学的機械的研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)または液体ジェット研磨などにより、行うことができる。なお、当該処理によって、半導体層が薄膜化されることもある。
【0162】
また、半導体層上方の半導体領域をエッチングによって除去し、平坦化することもできる。上記エッチングには、例えば、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)法、ICP(Inductively Coupled Plasma)エッチング法、ECR(Electron Cyclotron Resonance)エッチング法、平行平板型(容量結合型)エッチング法、マグネトロンプラズマエッチング法、2周波プラズマエッチング法またはヘリコン波プラズマエッチング法等のドライエッチング法を用いることができる。なお、上記研磨と上記エッチングの両方を用いて平坦化してもよい。
【0163】
また、上記研磨および上記エッチングにより、半導体層の表面を平坦化すると共に、後に形成される半導体素子にとって最適な厚さまで半導体層を薄膜化することができる。
【0164】
上述の工程により得られたSOI基板を、その後の半導体装置の製造工程に用いて、各種の半導体装置を作製することができる。
【0165】
次に、半導体基板121に再生処理を施し、再生半導体基板を製造する(図5の工程Eに相当)。再生処理の詳細については、先の実施の形態を参酌することができる。
【0166】
本実施の形態で示したように、再生処理工程を経た半導体基板を繰り返し使用することによって、SOI基板の製造コストを低減することができる。特に、本実施の形態等において示すような高温での熱処理を用いる場合には、ボンド基板にごくわずかな欠陥が残存する場合であっても、良好な特性を有するSOI基板を製造することが可能である。
【0167】
本実施の形態に示す構成は、他の実施の形態に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
【0168】
(実施の形態4)
先の実施の形態において作製されたSOI基板を用いた半導体装置の一例を、図6に示す。
【0169】
図6は、nチャネル型薄膜トランジスタであるトランジスタ280、およびpチャネル型薄膜トランジスタであるトランジスタ281を有する半導体装置の一例である。トランジスタ280、トランジスタ281は、絶縁層123および絶縁層122を介してベース基板120上に形成されている。このような複数の薄膜トランジスタ(TFT)を組み合わせることで、各種の半導体装置を形成することができる。以下、図6に示す半導体装置の作製方法について説明する。
【0170】
はじめに、SOI基板を用意する。SOI基板としては、先の実施の形態で作製したSOI基板を用いることができる。
【0171】
次に、エッチングにより、半導体層を分離して島状の半導体層251、半導体層252を形成する。半導体層251はnチャネル型のTFTを構成し、半導体層252はpチャネル型のTFTを構成する。
【0172】
半導体層251、半導体層252上に絶縁層254を形成した後、絶縁層254を介して、半導体層251上にゲート電極255を形成し、半導体層252上にゲート電極256を形成する。
【0173】
なお、半導体層には、TFTのしきい値電圧を制御するために、ホウ素、アルミニウム、ガリウムなどのアクセプタとなる不純物元素、またはリン、ヒ素などのドナーとなる不純物元素を添加しておくことが望ましい。例えば、nチャネル型TFTが形成される領域にアクセプタとなる不純物元素を添加し、pチャネル型TFTが形成される領域にドナーとなる不純物元素を添加する。
【0174】
次に、半導体層251にn型の低濃度不純物領域257を形成し、半導体層252にp型の高濃度不純物領域259を形成する。具体的には、まず、pチャネル型TFTとなる半導体層252をレジストマスクで覆い、不純物元素を半導体層251に添加して、半導体層251にn型の低濃度不純物領域257を形成する。添加する不純物元素としては、リンまたはヒ素を用いればよい。ゲート電極255がマスクとなることにより、半導体層251に自己整合的にn型の低濃度不純物領域257が形成される。また、半導体層251のゲート電極255と重なる領域はチャネル形成領域258となる。次に、半導体層252を覆うマスクを除去した後、nチャネル型TFTとなる半導体層251をレジストマスクで覆う。そして、不純物元素を半導体層252に添加する。添加する不純物元素としては、ホウ素、アルミニウム、ガリウム等を用いればよい。ここでは、ゲート電極256がマスクとして機能して、半導体層252に自己整合的にp型の高濃度不純物領域259が形成される。半導体層252のゲート電極256と重なる領域はチャネル形成領域260となる。なお、ここでは、n型の低濃度不純物領域257を形成した後、p型の高濃度不純物領域259を形成する方法を説明したが、先にp型の高濃度不純物領域259を形成することもできる。
【0175】
次に、半導体層251を覆うレジストマスクを除去した後、プラズマCVD法等によって、窒化シリコン等の窒化物や酸化シリコン等の酸化物を含む単層構造または積層構造の絶縁層を形成する。そして、当該絶縁層に垂直方向の異方性エッチングを適用することで、ゲート電極255、ゲート電極256の側面に接するサイドウォール絶縁層261、サイドウォール絶縁層262を形成する。なお、上記異方性エッチングにより、絶縁層254もエッチングされる。
【0176】
次に、半導体層252をレジストマスクで覆い、半導体層251に高ドーズ量で不純物元素を添加する。これにより、ゲート電極255およびサイドウォール絶縁層261がマスクとなり、n型の高濃度不純物領域267が形成される。
【0177】
不純物元素の活性化処理(熱処理)の後、水素を含む絶縁層268を形成する。絶縁層268を形成後、350℃以上450℃以下の温度による熱処理を行い、絶縁層268中に含まれる水素を半導体層251、半導体層252中に拡散させる。絶縁層268は、プロセス温度が350℃以下のプラズマCVD法により窒化シリコンまたは窒化酸化シリコンを堆積することで形成できる。半導体層251、半導体層252に水素を供給することで、半導体層251や半導体層252中、またはこれらと絶縁層254との界面での捕獲中心となるような欠陥を効果的に補償することができる。
【0178】
その後、層間絶縁層269を形成する。層間絶縁層269は、酸化シリコン、BPSG(Boron Phosphorus Silicate Glass)などの無機材料を含む絶縁膜、または、ポリイミド、アクリルなどの有機材料を含む絶縁膜、を用いた単層構造または積層構造とすることができる。層間絶縁層269にコンタクトホールを形成した後、配線270を形成する。配線270の形成には、例えば、アルミニウム膜またはアルミニウム合金膜などの低抵抗金属膜をバリアメタル膜で挟んだ3層構造の導電膜を用いることができる。バリアメタル膜は、モリブデン、クロム、チタンなどを用いて形成することができる。
【0179】
以上の工程により、nチャネル型TFTとpチャネル型TFTを有する半導体装置を作製することができる。本実施の形態の半導体装置に用いるSOI基板は、先の実施の形態で示したように、非常に低コストに製造される。このため、半導体装置の製造に係るコストを低減することが可能である。
【0180】
なお、本実施の形態では、図6に係る半導体装置およびその作製方法について説明したが、本発明の一態様に係る半導体装置の構成はこれに限定されない。半導体装置は、TFTの他、容量素子、抵抗素子、光電変換素子、発光素子などを有していても良い。
【0181】
なお、本実施の形態に示す構成は、他の実施の形態に示す構成と適宜組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0182】
本実施例では、SOI基板の作製で副生される分離後の半導体基板(ボンド基板)に対して、本発明の一態様の半導体基板の再生方法によって、残存した絶縁膜を除去した後、ウェットエッチング処理を行い、再生処理を行った。以下にその結果を示す。
【0183】
まず、本実施例で用いた半導体基板について説明する。
【0184】
本実施例では、半導体基板として5インチ角の矩形状単結晶シリコン基板を用いた。まず、半導体基板をHCl雰囲気下で熱酸化し、基板表面に100nmの厚さの熱酸化膜を形成した。熱酸化の条件は、950℃で4時間であり、熱酸化の雰囲気は、HClが酸素に対して3体積%の割合で含まれるものとした。
【0185】
次に、熱酸化膜の表面からイオンドーピング装置を用いて半導体基板にイオンビームを照射した。本実施例では、水素ガスを励起してプラズマを生成し、質量分離せずにプラズマ中に含まれるイオンを加速し、加速されたイオンを半導体基板に打ち込むことで、半導体基板に脆化領域を形成した。イオンドーピングの条件は、加速電圧を50kV、ドーズ量を2.7×1016ions/cmとした。
【0186】
そして、半導体基板を、熱酸化膜を介してガラス基板に貼り合わせた。その後、200℃で120分の熱処理を行い、さらに、600℃で120分の熱処理を行って、脆化領域において半導体基板から薄膜の単結晶シリコン層を分離した。これにより、SOI基板が作製されると共に、周縁部に凸部を有する半導体基板が作製された。
【0187】
次に、上述の半導体基板に対する処理について説明する。
【0188】
まず、半導体基板を覆うように形成されている絶縁層を除去するために、半導体基板に5%フッ酸溶液を用いたウェットエッチング処理を施した。このとき、液温は室温、エッチング時間は180秒とした。
【0189】
次に、絶縁層を除去した半導体基板に対して、フッ酸と硝酸と酢酸とを、1:2:10の体積比で混合した混合液をエッチャントとして用いてウェットエッチング処理を行った。なお、本実施例で用いたエッチャントの亜硝酸濃度を半定量イオン試験紙(QUANTOFIX Nitrite及びNitrite3000)によって評価したところ、80mg/l〜100mg/lであった。また、本実施例で用いたエッチャントにおいて、フッ酸は濃度が50重量%のもの(ステラケミファ社製)、硝酸は濃度が70重量%のもの(和光純薬株式会社製)、酢酸は、濃度が97.7重量%のもの(キシダ化学株式会社製)を用いた。また、エッチャントの液温は30℃とし、エッチング時間は15秒、30秒、45秒、60秒、75秒、90秒、105秒、120秒、135秒または180秒のいずれかとした。
【0190】
以上の方法により作製された10種類の再生半導体基板について、魔鏡評価システムによる観察と、光学顕微鏡による観察を行った。
【0191】
本実施例において、魔鏡評価システムは、コベルコ科研製魔鏡システムMIS−2000Zを用いて測定し、観察像を撮影した。魔鏡評価システムは、近くからでは容易に分からない程度の微細な凹凸を鏡の表面に刻み、光を反射させて結像させる距離を数メートルほど長くすることで光の焦点がずれ始め文様となって見える魔鏡の原理を応用して、表面の微細な凹凸を検出する装置である。魔鏡の原理により、鏡面加工された試料表面の目に見えない凹凸を、凸部は暗い像にて、凹部は明るい像にて表示することができる。この装置を利用することにより基板表面上のマクロなレベルでのわずかな面荒れ、突起、凹み、研磨痕、研磨ムラ、クラック、サーマルスリップなどを観察することができる。
【0192】
また、光学顕微鏡による観察は、オリンパス株式会社製光学顕微鏡MX61Lを用いて基板周辺部の写真撮影を行った。なお、光学顕微鏡写真は、倍率50倍のノマルスキー像で撮影した。
【0193】
魔鏡評価システムによる、再生半導体基板の観察像を図7(A1)乃至(E1)および図8(A1)乃至(E1)に示す。また、光学顕微鏡写真を図7(A2)乃至(E2)および図8(A2)乃至(E2)に示す。図7(A)乃至(E)はそれぞれ順にエッチング時間を15秒、30秒、45秒、60秒、または75秒とした再生半導体基板の観察像であり、図8(A)乃至(E)は、それぞれ順にエッチング時間を90秒、105秒、120秒、135秒または180秒とした再生半導体基板の観察像である。すなわち、図7(A1)は、エッチング時間15秒における魔鏡評価システムによる観察像であり、図7(A2)は、その光学顕微鏡による観察像である。また、図8(A1)は、エッチング時間90秒における魔鏡評価システムによる観察像であり、図8(A2)は、その光学顕微鏡による観察像である。
【0194】
図7(A1)乃至(E1)および図8(A1)乃至(E1)より、本実施例で作製した再生半導体基板は、エッチング時間を135秒又は180秒とした場合には、点線の丸で囲んだ領域において暗い像が観察され、再生半導体基板の表面に凹凸が確認されるものの、エッチング時間が15秒乃至120秒の条件においては、半導体基板表面の凹凸が少なく、平坦性が良好であることが分かる。
【0195】
また、図7(A2)乃至(E2)および図8(A2)乃至(E2)において、右側が基板周辺部を示している。本実施例で作製した再生半導体基板は、エッチング時間を15秒とした場合には、多少の段差残りが観察されるものの、エッチング時間を30秒以上とすることで欠陥などを有する残存した単結晶シリコン層に起因する段差が除去されていることが確認される。
【0196】
また、本実施例において、エッチング時間を15秒、30秒、45秒、60秒、75秒、90秒、105秒、120秒、135秒または180秒とした場合におけるシリコンウエハのエッチング量を測定した。図9に、シリコンウエハのエッチング量とエッチング時間の関係を図示する。図9において、縦軸はシリコン基板のエッチング量(μm)、横軸は処理時間(秒)を示す。
【0197】
図9より、本実施例で用いたエッチャントは、エッチング時間に対するエッチング量が線形に増加していることが確認された。よって、本実施例のエッチャントを用いることで、安定したエッチングレートを得ることができることが示された。
【符号の説明】
【0198】
100 半導体基板
104 脆化領域
120 ベース基板
121 半導体基板
122 絶縁層
123 絶縁層
124 半導体層
125 半導体領域
126 凸部
127 半導体領域
129 半導体領域
132 再生半導体基板
133 半導体領域
251 半導体層
252 半導体層
254 絶縁層
255 ゲート電極
256 ゲート電極
257 低濃度不純物領域
258 チャネル形成領域
259 高濃度不純物領域
260 チャネル形成領域
261 サイドウォール絶縁層
262 サイドウォール絶縁層
267 高濃度不純物領域
268 絶縁層
269 層間絶縁層
270 配線
280 トランジスタ
281 トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
損傷半導体領域と絶縁層とを含む凸部が周縁部に存在する半導体基板に対し、
前記絶縁層を除去するエッチング処理と、
硝酸、前記硝酸によって酸化された前記半導体基板を構成する半導体材料を溶解する物質、前記半導体材料の酸化速度及び前記酸化された半導体材料の溶解速度を制御する物質、及び亜硝酸を含み、前記亜硝酸の濃度が10mg/l以上1000mg/l以下である混合液を用いて、未損傷の半導体領域に対して前記損傷半導体領域を選択的に除去するエッチング処理と、を行う半導体基板の再生方法。
【請求項2】
イオンの照射及び熱処理を経て一部を半導体層として分離することにより、周縁部に損傷半導体領域と、絶縁層とを含む凸部が残存した半導体基板に対し、
前記絶縁層を除去するエッチング処理と、
硝酸、前記硝酸によって酸化された前記半導体基板を構成する半導体材料を溶解する物質、前記半導体材料の酸化速度及び前記酸化された半導体材料の溶解速度を制御する物質、及び亜硝酸を含み、前記亜硝酸の濃度が10mg/l以上1000mg/l以下である混合液を用いて、未損傷の半導体領域に対して前記損傷半導体領域を選択的に除去するエッチング処理と、を行う半導体基板の再生方法。
【請求項3】
前記イオンの照射は、質量分離を行わずになされたものである請求項2に記載の半導体基板の再生方法。
【請求項4】
前記イオンは、Hを含む請求項2または請求項3に記載の半導体基板の再生方法。
【請求項5】
前記硝酸によって酸化された前記半導体基板を構成する半導体材料を溶解する物質としてフッ酸を用い、
前記半導体材料の酸化速度及び溶解速度を制御する物質として酢酸を用いる請求項1乃至請求項4のいずれか一に記載の半導体基板の再生方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載の方法を用いて、前記半導体基板から再生半導体基板を作製する再生半導体基板の作製方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法で作製された再生半導体基板中にイオンを添加して脆化領域を形成し、
絶縁層を介して、前記再生半導体基板とベース基板を貼り合わせ、
熱処理によって前記再生半導体基板を分離して、前記ベース基板上に半導体層を形成するSOI基板の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−30764(P2013−30764A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−138427(P2012−138427)
【出願日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】