説明

半導体装置の製造方法

【課題】InAlN電子供給層上にGaN層を形成する場合でも、InAlN電子供給層の品質の悪化を抑制することが可能な半導体装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、基板10上にGaN電子走行層14を形成する工程と、GaN電子走行層14上にInAlN電子供給層18を形成する工程と、InAlN電子供給層18を形成した後、In含有ガスを供給しつつ、基板10を昇温させる工程と、昇温が終了した後、InAlN電子供給層18上にGaN層20を形成する工程と、を有する半導体装置の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた半導体装置は、高周波かつ高出力で動作するパワー素子などに用いられている。例えば、非特許文献1には、半絶縁性基板上に、バッファ層、GaN電子走行層、AlGaN電子供給層を順次積層し、AlGaN電子供給層との界面近傍でGaN電子走行層に発生する2次元電子ガスを利用して動作するHEMT(High Electron Mobility Transistor)構造の半導体装置が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】高橋清監修、「ワイドギャップ半導体光・電子デバイス」、森北出版、2006年3月31日、p.242−243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に開示された半導体装置では、2次元電子ガスを発生させるために、GaN電子走行層とAlGaN電子供給層との間の自発分極とピエゾ分極を利用している。ここで、より高濃度の2次元電子ガスを発生させるには、AlGaN電子供給層のAl組成比を上げることが考えられる。しかしながら、高Al組成のAlGaNはGaNに対して格子歪みが大きいため、高結晶品質で、高Al組成のAlGaNとGaNの積層構造を形成することは難しい。
【0005】
そこで、AlGaN電子供給層の代わりに、GaNと格子整合をするInAlNからなる電子供給層を用いることを検討した。InAlN電子供給層を用いると、InAlNとGaNの大きな自発分極差と、伝導帯の大きな不連続により、2×1013cm−2のシートキャリア濃度が理論上得られる。
【0006】
しかしながら本発明者の検討によると、InAlNは、高温で成長を行うと、Inが優先的に昇華してしまい、Inが欠損した結晶となるため、高品質のInAlN電子供給層が得られない。したがって、InAlN電子供給層は、例えば600℃から800℃の低温で形成することが重要であるという結論に至った。
【0007】
また、InAlN電子供給層がデバイスの最表面となる場合、Alを含んでいるために、大気中で表面酸化が進み易く、部分的かつ経時的に酸化アルミニウムなどが形成されてしまう。これは、デバイス全体のバンド構造に影響を与えることになるため、大きな不良要因となってしまう。そこで、InAlN電子供給層上に、GaN層を設けることが考えられる。しかしながら、GaN層は通常1000℃程度の高温で形成されるため、InAlN電子供給層を形成した後、GaN層の形成温度まで昇温させると、InAlN電子供給層の表面からInNが優先的に昇華してしまい、InAlN電子供給層の品質が悪化してしまう。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、InAlN層上にGaN層を形成する場合でも、InAlN層の品質の悪化を抑制することが可能な半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基板上に窒化物半導体からなる電子走行層を形成する工程と、前記電子走行層上にInAlN層を形成する工程と、前記InAlN層を形成した後、In含有ガスを供給しつつ、前記基板を昇温させる工程と、前記昇温が終了した後、前記InAlN層上にGaN層を形成する工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法である。本発明によれば、InAlN層を形成した後の基板の昇温過程において、基板はIn含有ガス中に置かれるため、InAlN層の表面からInNが昇華することを抑制でき、InAlN層の品質の悪化を抑制することができる。
【0010】
上記構成において、前記基板の温度の上昇に従い、前記In含有ガスの供給量を増やす構成とすることができる。基板の温度が高くなるに従い、InAlN層の表面からのInNの昇華の進行速度が速くなるが、この構成によれば、InAlN層の表面からInNが昇華することをより抑制できる。
【0011】
上記構成において、前記In含有ガスとともに、Al含有ガスを供給しつつ、前記基板を昇温させる構成とすることができる。この構成によれば、InAlN層を形成した後における基板の昇温過程において、基板はIn含有ガスおよびAl含有ガス中に置かれるため、InAlN層の表面からInNとAlNが昇華することを抑制でき、InAlN層の品質の悪化をより抑制することができる。
【0012】
上記構成において、前記基板の温度の上昇に従い、前記In含有ガスと前記Al含有ガスの供給量を増やす構成とすることができる。基板の温度が高くなるに従い、InAlN層の表面からのInNやAlNの昇華の進行速度が速くなるが、この構成によれば、InAlN層の表面からInNやAlNが昇華することをより抑制できる。
【0013】
上記構成において、前記基板の昇温は、900℃以上である構成とすることができる。この構成によれば、より高品質のInAlN層を得ることができると共に、デバイスの電気特性の悪化を抑制することができる。
【0014】
上記構成において、前記InAlN層は、600℃から800℃の範囲で成長される構成とすることができる。この構成によれば、InAlN層の成長においてInが優先的に昇華してしまうことを抑制でき、高品質のInAlN層を得ることができる。
【0015】
上記構成において、前記In含有ガスは、トリメチルインジウムである構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記Al含有ガスは、トリメチルアルミニウムまたはトリエチルアルミニウムである構成とすることができる。
【0017】
本発明は、基板上にInAlN層を成長する工程と、In含有ガスを供給しつつ、前記基板を900℃以上に昇温する工程と、前記InAlN層上に半導体層を成長する工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法である。本発明によれば、InAlN層を形成した後の基板の昇温過程において、基板はIn含有ガス中に置かれるため、InAlN層の表面からInNが昇華することを抑制でき、InAlN層の品質の悪化を抑制することができる。
【0018】
上記構成において、前記半導体層は、GaN層である構成とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、InAlN層を形成した後の基板の昇温過程において、基板はIn含有ガス中に置かれるため、InAlN層の表面からInNが昇華することを抑制でき、InAlN層の品質の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、実施例1に係る半導体装置のエピタキシャル層を示す断面図の例である。
【図2】図2は、各層の成長温度および供給ガスを示す模式図の例である。
【図3】図3(a)は、InAlN電子供給層の成長終了時におけるO濃度プロファイル、図3(b)は、GaN層の上面からInAlN電子供給層までのO濃度プロファイル、図3(c)は、低温で成長させたGaN層の上面からInAlN電子供給層までのO濃度プロファイルの模式図の例である。
【図4】図4は、実施例1に係る半導体装置の断面図の例である。
【図5】図5は、各層の成長温度および供給ガスを示す模式図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は、実施例1に係る半導体装置のエピタキシャル層を示す断面図の例である。図2は、図1に示すエピタキシャル層の製造において、各層の成長温度および供給ガスを示す模式図の例であり、経過時間に対して成長温度を示している。エピタキシャル層は、MOCVD法(有機金属気相成長法)を用いて成長される。図1および図2を参照して、まず、SiC基板である基板10をMOCVD装置の水素雰囲気中の成長炉内に装着する。その後、基板10を1050℃まで昇温した後、TMA(トリメチルアルミニウム)とNH(アンモニア)を成長炉内に供給して、基板10上に、AlNからなるシード層12を成長させる。シード層12の膜厚は、例えば20nmである。
【0023】
基板10の温度を1050℃で維持したまま、TMG(トリメチルガリウム)とNHを成長炉内に供給して、シード層12上に、GaN電子走行層14を成長させる。GaN電子走行層14の膜厚は、例えば1μmである。
【0024】
基板10の温度を1050℃で維持したまま、TMAとNHを成長炉内に供給して、GaN電子走行層14上に、AlNからなるスペーサ層16を成長させる。スペーサ層16の膜厚は、例えば1nmである。
【0025】
基板10の温度を1050℃から700℃に下げた後、TMI(トリメチルインジウム)とTMAとNHを成長炉内に供給して、スペーサ層16上に、InAlN電子供給層18を成長させる。InAlN電子供給層18の膜厚は、例えば5nmであり、In組成比は、例えば17%である。
【0026】
次に、TMIを成長炉内に供給したまま、基板10の温度を700℃から1050℃に昇温させる。このように、基板10を1050℃の高温に昇温する過程において、In含有ガスのTMIを供給して成長炉内をIn含有ガス雰囲気とすることで、圧力などの条件を適切にすると、InAlN電子供給層18の表面からInNが昇華することを抑制できると共に、InAlN電子供給層18上にInNが成長することを抑制できる。
【0027】
基板10の温度が1050℃に到達した後、TMIの供給を停止し、TMGとNHを成長炉内に供給して、InAlN電子供給層18上に、GaN層20を成長させる。GaN層20の膜厚は、例えば5nmである。以上により、実施例1に係る半導体装置のエピタキシャル層が完成する。
【0028】
MOCVD法による成長では、供給ガスに含まれるO(酸素)が、成長層に取り込まれる。そこで、図3(a)に、InAlN電子供給層18の成長が終了した時点でのInAlN電子供給層18のO濃度プロファイルの模式図の例を、図3(b)に、図1に示したエピタキシャル層の表面(GaN層20の上面)からInAlN電子供給層18までのO濃度プロファイルの模式図の例を示す。また、比較のために、図3(c)に、InAlN電子供給層18上に、InAlN電子供給層18の成長温度から±100℃以内の低温でGaN層を成長させた場合の、GaN層の上面からInAlN電子供給層18までのO濃度プロファイルの模式図の例を示す。
【0029】
図3(a)を参照して、InAlN電子供給層18の成長終了時点でのInAlN電子供給層18のO濃度は、例えば7×1018cm−3と高い。これは、InAlN電子供給層18は、Alを含んでいるためOを取り込み易いことと、低温で成長されているため取り込まれたOが抜け難いことによるものである。図3(b)を参照して、InAlN電子供給層18上に、1050℃の高温でGaN層20を成長させることで、InAlN電子供給層18に取り込まれていたOが拡散し、GaN層20の成長終了後には、InAlN電子供給層18のO濃度は、例えば1×1017cm−3に低下する。また、GaN層20を1050℃の高温で成長しているため、GaN層20のO濃度は低くなり、例えば1×1015cm−3となる。一方、図3(c)を参照して、InAlN電子供給層18上に、InAlN電子供給層18の成長温度から±100℃以内のような低温でGaN層を成長させた場合は、InAlN電子供給層18に取り込まれていたOは拡散し難く、InAlN電子供給層18のO濃度はあまり低下しない。また、GaN層を低温で成長しているため、GaN層のO濃度はあまり低くならず、例えば1×1017cm−3となる。
【0030】
このように、InAlN電子供給層18はOを取り込み易いが、InAlN電子供給層18上に、高温でGaN層20を成長させることで、InAlN電子供給層18に取り込まれたOを拡散させて、O濃度を低下させることができる。なお、図3(a)から図3(c)では、InAlN電子供給層18にOが取り込まれる場合を例に説明したが、MOCVD法による成長では、Oの他にC(炭素)も成長層に取り込まれる。したがって、InAlN電子供給層18上に、高温でGaN層20を成長させることで、InAlN電子供給層18に取り込まれたCを拡散させて、C濃度を低下させることもできる。
【0031】
また、GaN層20を成長させる工程で、InAlN電子供給層18から拡散するOやCは、GaN層20側に拡散される。これは、InAlN電子供給層18下にスペーサ層16が設けられているため、GaN電子走行層14側には拡散され難いためである。
【0032】
図4は、実施例1に係る半導体装置の断面図の例である。図4を参照して、図1で説明したエピタキシャル層の最上層であるGaN層20上に、ゲート電極22と、ゲート電極22を挟むソース電極24およびドレイン電極26と、が設けられている。ゲート電極22、ソース電極24、およびドレイン電極26が設けられていない領域のGaN層20上には、例えばSiN(窒化シリコン)からなる保護膜28が設けられている。ゲート電極22は、例えばGaN層20側からNi(ニッケル)、Au(金)が順次積層された2層構造をしている。ソース電極24およびドレイン電極26は、例えばGaN層20側からTi(チタン)、Al(アルミニウム)が順次積層された2層構造をしている。
【0033】
即ち、実施例1に係る半導体装置は以下のHEMT構造を有している。SiC基板からなる基板10上に、AlNからなり、膜厚が20nmのシード層12が設けられている。シード層12上に、膜厚が1μmのGaN電子走行層14が設けられている。GaN電子走行層14上に、AlNからなり、膜厚が1nmのスペーサ層16が設けられている。スペーサ層16上に、膜厚が5nm、In組成比が17%で、GaN電子走行層14に2次元電子ガス30を生成するInAlN電子供給層18が設けられている。InAlN電子供給層18上に膜厚が5nmのGaN層20が設けられている。GaN層20上に、ゲート電極22、ソース電極24、およびドレイン電極26が設けられ、且つゲート電極22、ソース電極24、およびドレイン電極26が設けられていない領域には保護膜28が設けられている。
【0034】
ゲート電極22、ソース電極24、ドレイン電極26、および保護膜28は以下の方法により形成される。まず、GaN層20上に、例えば蒸着法およびリフトオフ法を用いて、ゲート電極22と、ゲート電極22を挟むソース電極24およびドレイン電極26と、を形成する。次いで、例えばプラズマCVD法(プラズマ化学気相成長法)を用いて、ゲート電極22、ソース電極24、およびドレイン電極26が形成された領域を除いたGaN層20上に、保護膜28を形成する。
【0035】
以上説明してきたように、実施例1によれば、基板10上にGaN電子走行層14を形成した後、GaN電子走行層14上にInAlN電子供給層18を形成する。そして、InAlN電子供給層18の形成が終了した後、In含有ガスを供給しつつ、基板10を昇温させる。昇温が終了した後、InAlN電子供給層18上にGaN層20を形成する。これにより、InAlN電子供給層18を形成した後の基板10の昇温過程において、基板10はIn含有ガス中に置かれるため、InAlN電子供給層18の表面からInNが昇華することを抑制できる。よって、InAlN電子供給層18の品質の悪化を抑制することができる。
【0036】
InAlN電子供給層18の形成が終了した後の基板10の昇温は、In含有ガスを供給しつつ、GaN層20の成長温度まで昇温させることが好ましい。GaN層20は通常高温で形成されるが、高温で形成されるGaN層20の温度まで昇温させる場合でも、In含有ガスを供給することで、InAlN電子供給層18の表面からInNが昇華することを抑制できる。
【0037】
基板10の昇温過程において、供給量を一定にして、In含有ガスを供給する場合でもよいが、基板10の温度の上昇に従い、In含有ガスの供給量を増やすことが好ましい。これは、基板10の温度が高くなるに従い、InAlN電子供給層18の表面からのInNの昇華の進行速度が速くなるためである。したがって、基板10の温度が上昇するに従い、In含有ガスの供給量を増やすことで、InAlN電子供給層18の表面からInNが昇華することをより抑制できる。例えば、実施例1において、InAlN電子供給層18の成長工程では、TMIを35μmol/min供給する。その後、InAlN電子供給層18の成長が終了した後の昇温工程(700℃から1050℃への昇温)において、昇温開始時はTMIを10μmol/min供給し、基板10の温度の上昇に従い、TMIの供給量を増やしていき、昇温終了時ではTMIを50μmol/min供給するようにすることができる。
【0038】
なお、In含有ガスの供給量は、基板10の温度の上昇に従い、線形的に増やしていく場合でもよいし、階段状に増やしていく場合でもよいし、その他の方法で増やしていく場合でもよい。
【0039】
図3で説明したように、InAlN電子供給層18上に、高温でGaN層20を形成することで、InAlN電子供給層18のO濃度やC濃度を低下させることができる。これにより、より高品質のInAlN電子供給層18を得ることができる。また、InAlN電子供給層18とゲート電極22などとの間のGaN層20のO濃度やC濃度が高いと、デバイスの電気特性が悪化するが、高温でGaN層20を形成することで、GaN層20のO濃度やC濃度を低くすることができ、デバイスの電気特性の悪化を抑制することができる。このように、InAlN電子供給層18の品質およびデバイスの電気特性を考慮すると、GaN層20は高温で形成する場合が好ましい。例えば、GaN層20は、900℃以上で形成する場合が好ましく、1000℃以上で形成する場合がより好ましく、1050℃以上で形成する場合がさらに好ましい。即ち、基板10の昇温は、900℃以上である場合が好ましく、1000℃以上である場合がより好ましく、1050℃以上である場合がさらに好ましい。また、表面異常の一種であるヒロックの発生を防ぐために、GaN層20は1100℃以下で形成することが好ましい。
【0040】
InAlN電子供給層18は、600℃から800℃の範囲の成長温度で成長される場合が好ましい。InAlNは高温で成長を行うと、Inが優先的に昇華してしまい、Inが欠損した結晶となり高品質のInAlN電子供給層が得られない。よって、600℃から800℃の範囲で成長をすることで、Inが優先的に昇華することを抑制でき、高品質のInAlN電子供給層を得ることができる。
【0041】
実施例1では、図2のように、InAlN電子供給層18を形成した後、In含有ガスを供給し続けたまま、基板10を昇温させる場合を例に示したが、これに限られる訳ではない。InAlN電子供給層18の形成が終了した後、In含有ガスの供給を一旦止め、基板10を昇温させる工程で、再度In含有ガスの供給を再開する場合でもよい。しかしながら、成長炉内の雰囲気を考慮すると、InAlN電子供給層18を形成した後、In含有ガスの供給を停止することなく、供給をし続けたまま、基板10を昇温させることが好ましい。
【0042】
また、図2のように、InAlN電子供給層18の形成が終了した後、In含有ガスを供給して基板10を昇温させ、昇温が終了した後においても、一定時間In含有ガスを供給する場合が好ましい。昇温が終了した後は、温度が安定するための安定時間を設けた後にGaN層20を形成することが好ましいことから、この安定時間中はIn含有ガスを供給し続けて、InAlN電子供給層18の表面からのInNの昇華を抑制することが好ましい。
【実施例2】
【0043】
実施例2は、InAlN電子供給層18の形成が終了した後、In含有ガスに加えてAl含有ガスも供給して、基板10を昇温させる場合の例である。実施例2に係る半導体装置のエピタキシャル層の構造は、実施例1と同じであるため、図1を参照しながら説明をする。図5は、実施例2に係る半導体装置のエピタキシャル層の製造において、各層の成長温度および供給ガスを示す模式図の例であり、経過時間に対して成長温度を示している。エピタキシャル層は、MOCVD法(有機金属気相成長法)を用いて成長される。
【0044】
図1および図5を参照して、まず、SiC基板である基板10をMOCVD装置の水素雰囲気中の成長炉内に装着する。その後、基板10を1050℃まで昇温した後、TMAとNHを成長炉内に供給して、基板10上に、AlNからなるシード層12を成長させる。シード層12の膜厚は、例えば20nmである。
【0045】
基板10の温度を1050℃で維持したまま、TMGとNHを成長炉内に供給して、シード層12上に、GaN電子走行層14を成長させる。GaN電子走行層14の膜厚は、例えば1μmである。
【0046】
基板10の温度を1050℃で維持したまま、TMAとNHを成長炉内に供給して、GaN電子走行層14上に、AlNからなるスペーサ層16を成長させる。スペーサ層16の膜厚は、例えば1nmである。
【0047】
基板10の温度を1050℃から700℃に下げた後、TMIとTMAとNHを成長炉内に供給して、スペーサ層16上に、InAlN電子供給層18を成長させる。InAlN電子供給層18の膜厚は、例えば5nmであり、In組成比は、例えば17%である。
【0048】
次に、TMIとTMAを成長炉内に供給したまま、基板10の温度を700℃から1050℃に昇温させる。このように、基板10の温度を1050℃の高温に上昇させる昇温過程において、In含有ガスのTMIとAl含有ガスのTMAを供給して成長炉内をIn含有ガスおよびAl含有ガス雰囲気とすることで、圧力などの条件を適切にすると、InAlN電子供給層18の表面からInNとAlNが昇華することを抑制できると共に、InAlN電子供給層18上にInAlNが成長することを抑制できる。
【0049】
基板10の温度が1050℃に到達した後、TMIとTMAの供給を停止し、TMGとNHを成長炉内に供給して、InAlN電子供給層18上に、GaN層20を成長させる。GaN層20の膜厚は、例えば5nmである。以上により、実施例2に係る半導体装置のエピタキシャル層が完成する。
【0050】
実施例2に係る半導体装置のHEMT構造は、実施例1と同じであり、図4で説明しているため、ここでは説明を省略する。
【0051】
以上説明してきたように、実施例2によれば、GaN電子走行層14上にInAlN電子供給層18を形成した後、In含有ガスとともに、Al含有ガスを供給しつつ、基板10を昇温させる。基板10の温度が高くなると、InAlN電子供給層18の表面からInNが昇華するが、AlNも若干ではあるが昇華する。したがって、InAlN電子供給層18を形成した後における基板10の昇温過程において、In含有ガスとAl含有ガスを供給することで、基板10はIn含有ガスおよびAl含有ガス中に置かれるため、InAlN電子供給層18の表面からInNとAlNが昇華することを抑制できる。これにより、InAlN電子供給層18の品質の悪化をより抑制することができる。
【0052】
基板10の昇温過程において、供給量を一定にして、In含有ガスとAl含有ガスを供給する場合でもよいが、基板10の温度が高くなるに従い、InAlN電子供給層18の表面からのInNやAlNの昇華の進行速度が速くなることから、基板10の温度の上昇に従い、In含有ガスとAl含有ガスの供給量を増やすことが好ましい。これにより、InAlN電子供給層18の表面からInNやAlNが昇華することをより抑制できる。例えば、実施例2において、InAlN電子供給層18の成長工程では、TMIを35μmol/min供給し、TMAを25μmol/min供給する。その後、InAlN電子供給層18の成長が終了した後の昇温工程(700℃から1050℃への昇温)において、昇温開始時はTMIを10μmol/min、TMAを5μmol/min供給し、昇温終了時ではTMIを50μmol/min、TMAを7μmol/min供給するようにすることができる。
【0053】
なお、In含有ガスおよびAl含有ガスの供給量は、基板10の温度の上昇に従い、線形的に増やしていく場合でもよいし、階段状に増やしていく場合でもよいし、その他の方法で増やしていく場合でもよい。
【0054】
実施例2では、図5のように、InAlN電子供給層18を形成した後、In含有ガスとAl含有ガスを供給し続けたまま、基板10を昇温させる場合を例に示したが、これに限られる訳ではない。InAlN電子供給層18の形成が終了した後、In含有ガスとAl含有ガスの供給を一旦止め、基板10を昇温させる工程で、再度In含有ガスとAl含有ガスの供給を再開する場合でもよい。しかしながら、成長炉内の雰囲気を考慮すると、InAlN電子供給層18を形成した後、In含有ガスとAl含有ガスの供給を停止することなく、供給をし続けたまま、基板10を昇温させることが好ましい。
【0055】
また、図5のように、InAlN電子供給層18の形成が終了した後、In含有ガスとAl含有ガスを供給して基板10を昇温させ、昇温が終了した後においても、一定時間In含有ガスとAl含有ガスを供給する場合が好ましい、昇温が終了した後は、温度が安定するための安定時間を設けた後にGaN層20を形成することが好ましいことから、この安定時間中はIn含有ガスとAl含有ガスを供給し続けて、InAlN電子供給層18の表面からのInNとAlNの昇華を抑制することが好ましい。
【0056】
実施例1および実施例2では、図4のように、GaN層20に凹部を設けず、GaN層20の上面にゲート電極22、ソース電極24、およびドレイン電極26を設ける場合を例に示したが、これに限られる訳ではない。例えば、GaN層20に凹部を設けて、この凹部にゲート電極22を設けるゲートリセス構造の場合でもよく、またオーミックリセス構造の場合でもよい。
【0057】
実施例1および実施例2では、InAlN電子供給層18のIn組成比が17%である場合を例に示したが、これに限られない。In組成比は、12%以上35%以下の範囲内であることが好ましく、17%以上18%以下の範囲内であることがより好ましい。In組成比が17%以上18%以下である場合は、InAlNはGaNと格子整合するため格子歪みが発生しないためである。また、In組成比が12%より小さいまたは35%より大きい場合は、a軸方向の格子歪みが大きくクラックが生じてしまうためである。
【0058】
GaN層20は、i型の場合でもn型の場合でもよい。n型の場合は、表面電荷が安定し易く、さらに高温でn型のGaNを成長することでドーパントの活性化率が上がり、より表面電荷が安定されるため、デバイス全体のバンド構造が安定化し不良が低減する。なお、nドーパントとしてはSiH(シラン)を用いることができる。
【0059】
実施例1および実施例2では、基板10はSiC基板である場合を例に示したが、その他に、Si基板、GaN基板、サファイア基板、Ga基板を用いることができる。また、供給ガスは、上述したガスの他に、Al含有ガスとしてTEA(トリエチルアルミニウム)、Ga含有ガスとしてTEG(トリエチルガリウム)を用いることができる。
【0060】
さらに、スペーサ層16は、AlGa1−yN(0≦y≦1)を用いることができる。また、電子走行層は、BαAlβGaγIn1−α−β−γNからなる窒化物半導体であって、電子供給層のInAl1−xNとa軸格子定数が合うように下記の式を満たす材料を用いることができる。
2.55α+3.11β+3.19γ+3.55(1−α−β−γ)=3.55x+3.11(1−x)
【0061】
実施例1および実施例2では、InAlN層からなる電子供給層の場合を例に示したが、この場合に限らず、InAlN層を含む電子供給層であれば、InAlN層と他の層とで構成される電子供給層の場合でもよい。また、InAlN層が電子供給層でない場合でも、InAlN層上に高温で半導体層を形成する場合であれば、本発明を適用することができる。つまり、基板上にInAlN層を成長させた後、In含有ガスを供給しつつ基板を900℃以上に昇温させ、その後、InAlN層上に半導体層を形成する場合であってもよい。この場合でも、InAlN層の表面からInNが昇華することを抑制でき、InAlN層の品質の悪化を抑制することができる。InAlN層上に形成する半導体層の例としては、通常900℃以上で成長されるGaN層が挙げられるが、900℃以上で成長する半導体層であればGaN層に限られない。
【0062】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 基板
12 シード層
14 GaN電子走行層
16 スペーサ層
18 InAlN電子供給層
20 GaN層
22 ゲート電極
24 ソース電極
26 ドレイン電極
28 保護膜
30 2次元電子ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に窒化物半導体からなる電子走行層を形成する工程と、
前記電子走行層上にInAlN層を形成する工程と、
前記InAlN層を形成した後、In含有ガスを供給しつつ、前記基板を昇温させる工程と、
前記昇温が終了した後、前記InAlN層上にGaN層を形成する工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記基板の温度の上昇に従い、前記In含有ガスの供給量を増やすことを特徴とする請求項1記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記In含有ガスとともに、Al含有ガスを供給しつつ、前記基板を昇温させることを特徴とする請求項1または2記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記基板の温度の上昇に従い、前記In含有ガスと前記Al含有ガスの供給量を増やすことを特徴とする請求項3記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記基板の昇温は、900℃以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記InAlN層は、600℃から800℃の範囲で成長されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記In含有ガスは、トリメチルインジウムであることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記Al含有ガスは、トリメチルアルミニウムまたはトリエチルアルミニウムであることを特徴とする請求項3または4記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
基板上にInAlN層を成長する工程と、
In含有ガスを供給しつつ、前記基板を900℃以上に昇温する工程と、
前記InAlN層上に半導体層を成長する工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記半導体層は、GaN層であることを特徴とする請求項9記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−256705(P2012−256705A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128649(P2011−128649)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】