説明

半導体装置

【課題】トランジスタ特性に優れ、ゲート絶縁膜のゲート電極の近傍の領域中で電荷や電界の集中が起こらない半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体装置は、トランジスタを備える。トランジスタのゲート絶縁膜は窒素原子及び酸素原子を含有する。ゲート絶縁膜は、半導体層に接する第1の面及びゲート電極に接する第2の面において窒素原子を含有せず、第1の面と第2の面の間に窒素原子濃度のピークを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゲート絶縁膜として、酸素原子及び窒素原子を含有する膜が使用されている。
【0003】
特許文献1(特開2009−252895号公報)、特許文献2(特開2009−224812号公報)、及び特許文献3(特開2009−200211号公報)には、ゲート絶縁膜としてSiON膜を使用した例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−252895号公報
【特許文献2】特開2009−224812号公報
【特許文献3】特開2009−200211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の酸素原子及び窒素原子を含有するゲート絶縁膜では、厚さ方向の窒素濃度分布について、十分に検討されていなかった。従来のゲート絶縁膜の形成方法ではまず、シリコン基板の表面上にシリコン酸化膜を形成後、窒化処理によってシリコン酸化膜中に窒素原子を導入してシリコン酸窒化膜とする。SIMSによって測定した、シリコン酸窒化膜中の酸素原子と窒素原子の厚み方向の濃度分布を図1中の点線(酸化前)で示す。なお、図1において、「シリコン基板」は、ゲート絶縁膜と接し、かつSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometory:2次イオン質量分析法)によって測定した酸素原子濃度が0atom%の領域とする。図1の上部には、酸化前の酸素濃度分布を基準にして、「ゲート絶縁膜」、「シリコン基板」を示す。
【0006】
次に、シリコン酸窒化膜表面のシリコンのダングリングボンドを終端させるために酸化処理を行うことによってゲート絶縁膜を形成する。この酸化処理としては一般的に、低圧ドライ酸化処理が行われている。低圧ドライ酸化処理としては例えば、下記の条件が用いられている。
プロセスガス名及び流量:窒素(N)/酸素(O)=1000/1000sccm
加熱温度:800〜1100℃
圧力:1〜10Torr。
【0007】
この際、この低圧ドライ酸化処理後のシリコン酸窒化膜中の酸素原子と窒素原子の厚み方向の濃度分布を図1中の実線(酸化後)で示す。図1に示すように、低圧ドライ酸化処理によってシリコン酸窒化膜中の酸素原子と窒素原子の厚み方向の濃度分布は変化する。図1から、シリコン酸窒化膜を構成する窒素原子は全体的にシリコン基板側にシフトし、そのシフト量はシリコン酸窒化膜の表面近傍側(横軸の0.1nmの位置の近傍)で0.1nm程度であるのに対して、シリコン基板1の近傍側(横軸の0.9nmの位置の近傍)では0.5nm程度となっていることが分かる。また、酸素原子濃度が0atom%の領域にも窒素原子が存在しており、シリコン基板内にまで窒素原子が拡散していることが分かる。
【0008】
このような現象が起こる理由は、低圧ドライ酸化処理では窒素原子と酸素原子が反応せず、酸素原子の拡散と共に窒素原子もシリコン基板側に拡散するため、窒素原子と酸素原子が全体的にシリコン基板側にシフトしたためと考えられる。さらに、シリコン基板近傍では、酸素原子とシリコン基板間の分子間力も加算されて、拡散現象が顕著になるためと考えられる。
【0009】
図1に示したように、窒素原子がシリコン基板中にまで達すると、シリコン基板中に欠陥が生じるため、その欠陥に伴う固定電荷が発生する。このようにシリコン基板中、及びゲート絶縁膜のシリコン基板近傍に窒素原子が存在すると、固定電荷の発生によりトランジスタ特性が低下する場合があった。
【0010】
また、従来のゲート絶縁膜では、ゲート絶縁膜のゲート電極との界面近傍に窒素原子が存在する場合があった。この場合、窒素原子に起因する電荷の集中が起こったり、窒素原子による局所的なゲート絶縁膜の高誘電率化が起こり、ゲート絶縁膜とゲート電極の界面で電界集中が起こる場合があった。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明はトランジスタ特性に優れ、ゲート絶縁膜のゲート電極近傍の領域中で電荷や電界の集中が起こらない半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態は、
半導体層と、
前記半導体層上に順に設けられたゲート絶縁膜、及びゲート電極と、
前記半導体層内に設けられたソース/ドレイン領域と、
を有するトランジスタを備えた半導体装置であって、
前記ゲート絶縁膜は、窒素原子及び酸素原子を含有し、
前記ゲート絶縁膜は、前記半導体層に接する第1の面及び前記ゲート電極に接する第2の面において窒素原子を含有せず、前記第1の面と第2の面の間に窒素原子濃度のピークを有する半導体装置に関する。
【発明の効果】
【0013】
トランジスタ特性に優れ、ゲート絶縁膜のゲート電極近傍の領域中で電荷や電界の集中が起こらない半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来のゲート絶縁膜中の酸素原子と窒素原子の厚み方向の濃度分布を表す図である。
【図2A】本発明の半導体装置の一例の製造方法を表す図である。
【図2B】本発明の半導体装置の一例の製造方法を表す図である。
【図2C】本発明の半導体装置の一例の製造方法を表す図である。
【図3A】本発明の半導体装置の一例の製造方法を表す図である。
【図3B】本発明の半導体装置の一例の製造方法を表す図である。
【図4】本発明のゲート絶縁膜中の酸素原子と窒素原子の厚み方向の濃度分布を表す図である。
【図5】本発明のゲート絶縁膜中の酸素原子と窒素原子の厚み方向の濃度分布を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
半導体装置はトランジスタを有する。このトランジスタのゲート絶縁膜は窒素原子及び酸素原子を含有し、ゲート絶縁膜は半導体層に接する第1の面及びゲート電極に接する第2の面を有する。ゲート絶縁膜は第1及び第2の面において窒素原子を含有せず、第1の面と第2の面の間に、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometory:2次イオン質量分析法)によって測定した窒素原子濃度のピークを有する。
【0016】
このように第1の面において窒素原子を含有しないことによって、半導体層内に拡散する窒素原子も存在しないこととなる。この結果、半導体層内の窒素原子に起因する固定電荷が発生してトランジスタ特性が劣化することを防止できる。また、第2の面において窒素原子を含有しないことによって、窒素原子に起因する電荷の集中が起こったり、電界集中が起こることを防止できる。
【0017】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「ゲート絶縁膜」とはゲート電極と接し、かつ、窒素原子及び酸素原子を含有する層のことを表す。ゲート絶縁膜は、一部の領域中に窒素原子を含有していなくても良い。「半導体層」とはゲート絶縁膜と接し、かつSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometory:2次イオン質量分析法)によって測定した酸素原子濃度が0atom%の領域を表す。従って、ラジカル酸化処理によって酸素原子が半導体層側に拡散する場合には、半導体層及びゲート絶縁膜の占める領域、並びに第1の面の位置も変化することとなる。半導体層としては典型的には、シリコン基板を用いる。
【0018】
以下では、図面を参照して、本発明の具体的な態様を説明する。なお、下記実施例は、本発明のより一層の深い理解のために示される具体例であって、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0019】
(第1実施例)
以下に、図2及び3を用いて、本実施例の半導体装置の製造方法を説明する。まず、図2Aに示すように、シリコン基板1(半導体層に相当する)上に、熱酸化法によって1.1nm厚のシリコン酸化膜2を成膜する。熱酸化法としてはラジカル酸化法が望ましく、例えば、加熱温度を1050℃、プロセスガスとして酸素と窒素を用いて、熱酸化を行うことができる。
【0020】
次に、図2Bに示すように、シリコン酸化膜2上に下記条件のプラズマ窒化処理を行う。
装置名:東京エレクトロン社Trias SPA(lot lane ntenna)
プロセスガス名及び流量:窒素(N)/アルゴン(Ar)=1000/1000sccm
パワー:1000〜3000W
圧力:1Torr以下
ウェハ温度:400℃。
【0021】
シリコン酸化膜2中に窒化物分布層(窒化シリコン[SiN]や窒素酸化物[NO]などの混在層)を含むシリコン酸窒化膜3を形成する。図4は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometory:2次イオン質量分析法)によって、プラズマ窒化した1.1nm厚のシリコン酸窒化膜中に含まれる窒素原子(N)と酸素原子(O)の厚み方向の分布を調査した結果を表したものである。
【0022】
図4より、1.1nm厚のシリコン酸窒化膜3の両側の面近傍(横軸の0nm、1.1nm近傍)には窒素が存在せず、両側の面の間で窒素原子濃度が45atom%のピーク値を示すことが分かる。また、シリコン酸窒化膜3中の酸素濃度は60at%でほぼ一定となっているが、シリコン酸窒化膜3とシリコン基板の界面(第1の面)付近で急激に減少していることが分かる。
【0023】
上記プラズマ窒化処理によって、シリコン酸窒化膜3がプラズマに曝され、その表面にシリコンのダングリングボンドが形成される。このため、図2Cに示すように、下記条件のラジカル酸化を行って、酸素原子でダングリングボンドを終端させる。
プロセスガス名及び流量:水素(H)/酸素(O)=400/19600sccm
加熱温度:800〜1100℃
圧力:1〜10Torr。
【0024】
このラジカル酸化ではダングリングボンドを終端させるとともに、酸素がシリコン酸窒化膜3内に拡散する。この拡散した酸素は、シリコン酸窒化膜3を酸化してゲート絶縁膜12(シリコン酸窒化膜)にするとともに、シリコン基板1に到達してシリコン基板1を酸化する。
【0025】
図5の実線(酸化後)は、SIMSによって、ラジカル酸化後のプラズマ窒化した1.2nm厚のゲート絶縁膜12中に含まれる窒素(N)と酸素(O)の厚み方向の分布を調査した結果を表したものである。なお、図5の上部には、酸化前の酸素濃度分布を基準にして、「ゲート絶縁膜」、「シリコン基板」が示されている。図5に示すように、横軸の約0.5nmの位置において、窒素原子濃度は約40atom%のピーク値を示すことが分かる。
【0026】
また、シリコン酸窒化膜3中の窒素濃度分布はゲート絶縁膜12の表面近傍側(横軸の0.1nmの位置の近傍)だけがシリコン基板1側にシフトしており、シフト量は0.15nm程度となっていることが分かる。このため、ゲート絶縁膜はその表面(第1の面;横軸0nmの面)から0.25nmの領域には、窒素原子が存在しないこととなる。また、ゲート絶縁膜中のシリコン基板近傍の窒素原子はシリコン基板側に拡散しないため、そのシリコン基板と接する面(第2の面;横軸約1.2nmの面)から0.25nmの領域には、窒素原子が存在しないこととなる。また、ゲート絶縁膜の膜厚は、ラジカル酸化後に1.2nmとなっていることが分かる。ラジカル酸化後のゲート絶縁膜の膜厚が1.2nm以下の場合、特に、従来の低圧ドライ酸化処理を行うと、図1に示すように、酸素原子が存在しないシリコン基板中にまで窒素原子が拡散し易くなる。これに対して、本実施例のゲート絶縁膜ではシリコン基板側の窒素原子の分布が変化しないため、酸素原子がシリコン基板中にまで拡散せず、固定電荷の発生を効果的に防止することができる。
【0027】
このような現象が発生する理由は、ラジカル酸化では酸素がラジカル状態となっており、低圧ドライ酸化よりも酸化作用が強いため、シリコン酸窒化膜中に拡散して最初の被酸化物であるシリコン酸窒化膜の窒化物と反応したためと考えられる。この窒素原子と反応する酸素は、常にシリコン酸窒化膜の表面側に存在するため、窒素原子分布はシリコン酸窒化膜の表面近傍の窒素だけがシフトするためと考えられる。
NO+O→NO
SiN+O→SiON。
【0028】
従って、このラジカル酸化では、従来、用いられてきた低圧ドライ酸化と異なり、窒素原子がシリコン基板1に達することは無く、シリコン基板1の欠陥に伴う固定電荷も発生しなくなる。
【0029】
図3Aに示すように、ゲート絶縁膜12上に、ポリシリコンであるゲート電極4、タングステンシリサイドであるゲート電極5、タングステンであるゲート電極6を順次、積層する。さらに、窒化シリコンであるエッチングマスク層7を成膜してから、フォトリソグラフィとドライエッチングによって、ゲートパターンを形成する。例えば、Pチャネルトランジスタでは、ポリシリコン5中にボロン(B)をドープする。
【0030】
図3Bに示すように、エッチングマスク層7上に、窒化シリコンを成膜してからエッチバックして、ゲートパターンの側面部だけに窒化シリコンであるサイドウォール膜8を被覆させることによって、トランジスタを完成させる。
【0031】
上記のように、このトランジスタは、シリコン基板1中に窒素原子が存在しないため、シリコン基板1の欠陥に伴う固定電荷が発生することがない。このため、トランジスタ特性の劣化を防止することができる。また、ゲート絶縁膜中に窒素原子に起因する電荷の集中が起こったり、窒素原子による局所的なゲート絶縁膜の高誘電率化が起こり、ゲート絶縁膜とゲート電極の界面で電界集中が起こるといった問題が生じない。このため、信頼性に優れたトランジスタを得ることができる。
【0032】
層間絶縁膜9を全面に形成してゲートパターンを埋め込んだ後、CMP(hemical echanical olishing)で平坦化する。この後、ソース/ドレイン領域の一方に接続されるようにビットライン(図示していない)、ソース/ドレイン領域の他方に接続されるようにキャパシタを形成する。これにより、キャパシタ及びトランジスタをメモリセルとするDRAM(Dynamic Random Access Memory)が完成する。
【符号の説明】
【0033】
1 シリコン基板
2 シリコン酸化膜
3 シリコン酸窒化膜
4、5、6 ゲート電極
7 エッチングマスク層
8 サイドウォール膜
9 層間絶縁膜
10 第1の面
11 第2の面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層と、
前記半導体層上に順に設けられたゲート絶縁膜、及びゲート電極と、
前記半導体層内に設けられたソース/ドレイン領域と、
を有するトランジスタを備えた半導体装置であって、
前記ゲート絶縁膜は、窒素原子及び酸素原子を含有し、
前記ゲート絶縁膜は、前記半導体層に接する第1の面及び前記ゲート電極に接する第2の面において窒素原子を含有せず、前記第1の面と第2の面の間に窒素原子濃度のピークを有する半導体装置。
【請求項2】
前記ソース/ドレイン領域の一方に接続されたビット線と、
前記ソース/ドレイン領域の他方に接続されたキャパシタと、
を有し、
前記半導体装置は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)を構成する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記ゲート絶縁膜はシリコン酸窒化膜である、請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記ゲート絶縁膜の膜厚は1.2nm以下である、請求項1〜3の何れか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記ゲート絶縁膜は第1の面からその厚み方向に0.25nmまでの領域中に窒素原子を含有しない、請求項1〜4の何れか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記ゲート絶縁膜は第2の面からその厚み方向に0.25nmまでの領域中に窒素原子を含有しない、請求項1〜5の何れか1項に記載の半導体装置。


【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−165814(P2011−165814A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25520(P2010−25520)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(500174247)エルピーダメモリ株式会社 (2,599)
【Fターム(参考)】