説明

回生協調ブレーキ制御装置

【課題】いわゆるインライン系の回生協調ブレーキ制御装置において、回生すり替え時の制動トルクの変動を抑制することを可能とする。
【解決手段】実効回生トルクT(t)と目標摩擦制動トルクF(t)の和を目標減速度G(t)となるように制御する。実効回生トルクT(t)が変化すると、その変化分だけ上記目標摩擦制動トルクF(t)を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧に応じた摩擦制動トルクと回生制動トルクとによって目標減速度を発生させる回生協調ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の回生協調ブレーキ制御装置としては、例えば特許文献1に記載した技術がある。この技術では、ブレーキペダルの踏み込みによるブレーキ操作状態に対応した基礎液圧をマスタシリンダにて発生する。その発生した基礎液圧を、当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに直接付与する。これによって、上記各車輪に上記基礎液圧に対応した基礎液圧制動トルクを発生させる液圧ブレーキ装置を備える。また、上記ブレーキ操作状態に基づいた回生制動トルクを車輪に発生させる回生ブレーキ装置を備える。そして、上記液圧ブレーキ装置と上記回生ブレーキ装置とを協調動作させることで、上記基礎液圧制動トルクと上記回生制動トルクとの和が、上記ブレーキ操作状態に対応して算出する目標制動トルクとなるように制御する。
【0003】
ここで、回生制動が可能なように、上記基礎液圧制動トルクを制限することが行われる。
なお、ブレーキバイワイヤ方式によって基礎液圧制動トルクを制御する回生協調ブレーキ制御装置もある。ただし、上述のような、マスタシリンダとホイールシリンダとを接続する、いわゆるインライン系の回生協調ブレーキ制御装置の方が安価となる。
【特許文献1】特開2006―96218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようないわゆるインライン系の回生協調ブレーキ制御装置では、基礎液圧制動トルクと上記回生制動トルクとの比率を変化させるために、例えば回生制動トルクを小さくすると、その分、基礎液圧制動トルクを増大するように制御する。このとき、ホイールシリンダの液圧増大制御を行うことは、マスタシリンダから作動液を吸引することになるので、運転者がペダル操作を変化させなくても、ブレーキペダルのストローク量が変化する、すなわち具体的にはストローク量が減少する。またこのことは、マスタシリンダ圧の変動に繋がる、すなわち、マスタシリンダ圧が減少する。このときに、運転者は、回生制動が機能していることを認識しないため、ブレーキペダルの変位量を一定に保とうとする結果、ブレーキ配管中の圧力変動がホイールユニット側に伝達される、つまり、減速度が変化することになる。
【0005】
このように、ブレーキペダルのストローク量やマスタシリンダ圧が変動することは、その分、目標減速度が変動する。上述の場合には、運転者の意志よりも減速度が低くなる。
本発明は、上述のような点に着目してなされたもので、いわゆるインライン系の回生協調ブレーキ制御装置において、回生すり替え時の制動トルクの変動を抑制することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のインライン系の回生協調ブレーキ制御装置は、回生制動トルクの変化に応じて目標減速度若しくは目標摩擦制動トルクを補正する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、回生制動トルクの変化に応じて目標減速度若しくは目標摩擦制動トルクを補正することで、回生すり替え時の制動トルクの変動を抑制することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(第1実施形態)
次に、本発明の第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(構成)
まず、ハイブリッド車の駆動系構成を説明する。
図1は、本実施形態の回生協調ブレーキ制御装置を適用するハイブリッド車の駆動系を示す全体システム図である。
このハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1モータジェネレータMG1(発電機)と、第2モータジェネレータMG2と、出力スプロケットOS、動力分割機構TMと、を有する。
上記エンジンEは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブ37のバルブ37開度等を制御する。
【0009】
上記第1モータジェネレータMG1と第2モータジェネレータMG2は、ロータに永久磁石を埋設し、ステータにステータコイルを巻き付けた同期型モータジェネレータである。その第1モータジェネレータMG1と第2モータジェネレータMG2を、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、パワーコントロールユニット3により作り出した三相交流を印加することにより、それぞれ独立に制御する。
【0010】
上記両モータジェネレータMG1,MG2は、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできる(以下、この状態を「力行」と呼ぶ。)。また、上記両モータジェネレータMG1,MG2は、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を回生と呼ぶ。)。
【0011】
上記動力分割機構TMは、サンギヤSと、ピニオンPと、リングギヤRと、ピニオンキャリアPCと、を有する単純遊星歯車により構成する。
その単純遊星歯車の3つの回転要素(サンギヤS、リングギヤR、ピニオンキャリアPC)に対する入出力部材の連結関係について説明する。上記サンギヤSには、第1モータジェネレータMG1を連結する。上記リングギヤRには、第2モータジェネレータMG2と出力スプロケットOSとを連結する。上記ピニオンキャリアPCには、エンジンダンパEDを介してエンジンEを連結する。なお、上記出力スプロケットOSは、チェーンベルトCBや図外のディファレンシャルやドライブシャフトを介して左右前輪に連結する。
【0012】
上記連結関係により、図2に示す共線図上において、第1モータジェネレータMG1(サンギヤS)、エンジンE(プラネットキャリアPC)、第2モータジェネレータMG2及び出力スプロケットOS(リングギヤR)の順に配列し、単純遊星歯車の動的な動作を簡易的に表せる剛体レバーモデル(3つの回転数が必ず直線で結ばれる関係)を導入することができる。
ここで、「共線図」とは、差動歯車のギヤ比を考える場合、式により求める方法に代え、より簡単で分かりやすい作図により求める方法で用いられる速度線図である。そして、縦軸に各回転要素の回転数(回転速度)をとり、横軸に各回転要素をとり、各回転要素の間隔をサンギヤSとリングギヤRの歯数比λに基づく共線図レバー比(1:λ)になるように配置したものである。
【0013】
次に、制動系の液圧ブレーキ装置の構成について、図3を参照して説明する。
図1中、符号1は、運転者が要求する制動トルクを指示するために操作されるブレーキペダル30である。そのブレーキペダル30は、負圧ブースタ31を通じてマスタシリンダ34に連結している。上記負圧ブースタ31は、ブレーキペダル30の踏み込み量に応じた制動圧(ペダル踏力)を倍力してマスタシリンダ34に供給する。ただし、本実施形態では、負圧ブースタ31による倍力を制限して、マスタシリンダ34への制動圧を、ペダル踏力よりも小さくなるように調整している。符号35は制御流体のリザーバである。
【0014】
上記マスタシリンダ34は、油圧回路36を構成する管路を通じて各車輪のホイールシリンダ20〜23に接続する。その管路の上流側には、流体圧制御用比例型電磁バルブ37を介挿する。図1は、流体圧制御用比例型電磁バルブ37が非通電時の状態を示し、マスタシリンダ34の流体がそのままホイールシリンダ20〜23に供給される状態を図示している。
この流体圧制御用比例型電磁バルブ37は、ブレーキコントローラ5からの制御電流によってマスタシリンダ34からホイールシリンダ20〜23への供給する流体(流体圧)を調整する。
【0015】
また、上記管路には、制動制御用ポンプ38を備える、その制動制御用ポンプ38は、吸入口をマスタシリンダ34に接続すると共に、吐出口をホイールシリンダ20〜23に連通している。この制動制御用ポンプ38は、ブレーキコントローラ5からの制御指令に基づいて、ホイールシリンダ20〜23のシリンダ圧を増圧する。
なお、上記管路に対して、ABS制御その他の制御のための増圧用の流体圧制御用比例型電磁バルブ(以下、増圧用電磁バルブと呼ぶ)や、減圧用の流体圧制御用比例型電磁バルブ(以下、減圧用電磁バルブと呼ぶ)を設けて、各ホイールシリンダ20〜23の制動流体圧を個別に制御可能としても良い。
また、マスタシリンダ34の出力圧(マスタシリンダ圧MCP:運転者の制動要求量)を、マスタシリンダ圧センサで検出し、その検出信号をブレーキコントローラに供給する。また、各ホイールシリンダ20〜23の制動流体圧を圧力センサ40で検出し、その検出信号もブレーキコントローラ5に供給する。
【0016】
次に、ハイブリッド車の制御系を説明する。
本実施形態におけるハイブリッド車の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、パワーコントロールユニット3と、バッテリ4(二次電池)と、ブレーキコントローラ5と、統合コントローラ6と、を有して構成する。
統合コントローラ6には、アクセル開度センサ7と、車速センサ8と、エンジン回転数センサ9と、第1モータジェネレータ回転数センサ10と、第2モータジェネレータ回転数センサ11と、から入力情報を入力する。
【0017】
上記統合コントローラ6は、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うものである。すなわち、統合コントローラ6は、加速走行時等において、エンジンコントローラ1への制御指令によりエンジン動作点制御を行い。また、停止時や走行時や制動時等において、モータコントローラ2への制御指令によりモータジェネレータ動作点制御を行う。この統合コントローラ6には、各センサ7,8,9,10,11からのアクセル開度APと車速VSPとエンジン回転数Neと第1モータジェネレータ回転数N1と第2モータジェネレータ回転数N2とを入力する。そして、これらの入力情報に基づいて、所定の演算処理を実行し、その処理結果による制御指令をエンジンコントローラ1とモータコントローラ2へ出力する。なお、統合コントローラ6とエンジンコントローラ1、統合コントローラ6とモータコントローラ2、統合コントローラ6とブレーキコントローラ5などは、情報交換のためにそれぞれ双方向通信線24,25,26により接続する。
【0018】
上記エンジンコントローラ1は、統合コントローラ6からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。ここで、統合コントローラ6は、アクセル開度センサ7からのアクセル開度APとエンジン回転数センサ9からのエンジン回転数Neに基づき目標エンジントルク指令等を演算する。
【0019】
上記モータコントローラ2は、統合コントローラ6からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、第1モータジェネレータMG1のモータ動作点(N1,T1)を制御する指令を演算する。また独立して、上記目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、第2モータジェネレータMG2のモータ動作点(N2,T2)を制御する指令を演算する。そして、これら演算した指令をパワーコントロールユニット3へ出力する。なお、モータコントローラ2は、バッテリ4の充電状態をあらわすバッテリSOCの情報を用いる。また、統合コントローラ6は、レゾルバによる両モータジェネレータ回転数センサ10,11からのモータジェネレータ回転数N1,N2に基づき、上記目標モータジェネレータトルク指令等を求める。
【0020】
上記パワーコントロールユニット3は、不図示のジョイントボックスと昇圧コンバータと駆動モータ用インバータと発電ジェネレータ用インバータとを有する。そして、パワーコントロールユニット3は、より少ない電流で両モータジェネレータMG1,MG2への電力供給が可能な電源系高電圧システムを構成する。上記第2モータジェネレータMG2のステータコイルには、駆動モータ用インバータを接続する。上記第1モータジェネレータMG1のステータコイルには、発電ジェネレータ用インバータを接続する。また、上記ジョイントボックスには、力行時に放電し回生時に充電するバッテリ4を接続する。
【0021】
また、パワーコントロールユニット3は、実効回生トルクT(t)を求め、該実効回生トルクT(t)を、ブレーキコントローラ5に出力する。
上記ブレーキコントローラ5には、前左車輪速センサ12と、前右車輪速センサ13と、後左車輪速センサ14と、後右車輪速センサ15と、マスタシリンダ圧センサ17と、ブレーキストロークセンサ18と、から入力情報を入力する。そして、この上記ブレーキコントローラ5は、エンジンブレーキやブレーキペダル30の操作による制動時、統合コントローラ6への制御指令とブレーキ液圧ユニット19への制御指令を出すことで回生ブレーキ協調制御を行う。
【0022】
このブレーキコントローラの処理を、図4を参照して説明する。
このブレーキコントローラは、所定のサンプリング周期で作動し、まず、ステップS10にて、各車輪速センサ12,13,14,15からの車輪速情報や、マスタシリンダ圧センサ17やブレーキストロークセンサ18からの制動操作量情報を入力する。
次に、ステップS20にて、マスタシリンダ圧MCP及びブレーキペダル30のペダルストロー量に基づき、目標減速度G(t)を算出する。
次に、ステップS30にて、車速から回生トルクの上限値である最大回生トルクTmax(t)を算出して制御指令を統合コントローラ6に出力して、ステップS40に移行する。
【0023】
ここで、このステップS30にて行う最大回生トルクTmax(t)を算出について説明する。この処理は、図5に示すような回生制御ブロックにて行われる。
この回生制御ブロックは、図5に示すように、要求回生トルク演算モジュール41と、要求回生トルク制限演算部42と、要求回生トルク制限選択モジュール43と、を備えている。
上記要求回生トルク演算モジュール41は、マスタシリンダ圧MCPと、ブレーキストロークSを入力し、これらの情報により要求回生トルクREGEを演算する。
【0024】
上記要求回生トルク制限演算部42は、車速情報等に基づき回生トルク上限値REGELIMを演算する。例えばアクセルオフとなり、コースト制動からクリープ状態に移行する場合には、回生トルクの上限を徐々にゼロに向けて小さくなるように演算する。また、バッテリの充電率や温度などによって回生トルクの上限値の制限が掛かる。
上記要求回生トルク制限選択モジュール43は、要求回生トルクREGEと回生トルク上限値REGELIMとを入力し、セレクトローにより制限後回生トルクREGEMINを選択し、これに上限値と下限値によるフィルタをかけて最大回生トルクTmax(t)を算出し、これを統合コントローラ6に出力する。
【0025】
また、ステップS40では、実効回生トルクT(t)を入力してステップS50に移行する。
ステップS50では、下記式に基づき摩擦制動トルクF(t)を算出して、ステップS60に移行する。
F(t) =目標減速度G(t) − 実効回生トルクT(t)
ステップS60では、実効回生トルクT(t)の変化量ΔTから、目標減速度G(t)の変化量ΔGを推定して、ステップS70に移行する。この推定は、実験その他によって得た実効回生トルクT(t)の変化量と目標減速度G(t)の変化量ΔGとのマップを使用して求める。この実効回生トルクT(t)の変化量ΔTと目標減速度G(t)の変化量ΔGは、図6に示すような関係となっている。
【0026】
ステップS70では、目標減速度G(t)が、所定の閾値以上であるか否かを判定する。所定の閾値以上と判定した場合にはステップS80に移行し、所定の閾値未満と判定した場合にはステップS100に移行する。
所定の閾値は、例えばマスタシリンダ34のピストンストロークがポートアイドル相当の目標減速度G(t)より若干大きめの値とする。このような目標減速度G(t)が小さい状態では、ペダルストロークによるマスタシリンダ圧MCPの変動依存度が大きく、運転者の操作による変動の可能性が大きいので、運転者の実際の操作とみなすものである。
【0027】
ステップS80では、下記式のように、目標減速度G(t)を上記変化量ΔGだけ補正してステップS90に移行する。
補正目標減速度G′(t) = 目標減速度G(t) +変化量ΔG
ステップS90では、下記式に基づき摩擦制動トルクF(t)を再度、算出して、ステップS100に移行する。
【0028】
F(t) =補正目標減速度G(t)G′(t) − 実効回生トルクT(t)T(t)
ステップS100では、上記摩擦制動トルクF(t)に相当するホイールシリンダ20〜23の目標制御流体圧を算出してステップS110に移行する。
【0029】
ステップS110では、上記目標制動流体圧からマスタシリンダ圧MCPを減算して目標ポンプ圧BPuを算出し、その目標ポンプ圧に相当する指令値をブレーキ液圧ユニット19の制動制御用ポンプ38に出力した後に、復帰する。なお、流体圧制御用比例型電磁バルブ37によってホイールシリンダ20〜23の目標制御流体圧を小さく調整することが可能となっている。
このように、各ホイールシリンダ20〜23の制御流体圧を個々に制御することで、所望の大きさの摩擦負荷による制動トルクをディスクロータを介して車輪に付与する。
【0030】
図7に、上記処理の制御ブロック例を示す。
ここで、制動制御用ポンプ38が液圧調整手段を構成する。パワーコントロールユニット3が実効回生量検出手段を構成する。モータジェネレータMG1、MG2、パワーコントロールユニット3,モータコントローラ、バッテリ4が回生制動手段を構成する。ステップS20が目標減速度G(t)算出を構成する。ステップS50が摩擦制動トルクF(t)算出手段を構成する。ステップS100が液圧制御手段を構成する。変化量ΔGが減速度補正量を構成する。ステップS80,S90が補正手段を構成する。ステップS30は、最大回生トルク推定手段を構成する。
【0031】
(動作)
まず、駆動力性能について説明する。
上記のハイブリッド車の駆動力は、図8(b)に示すように、エンジン直接駆動力(エンジン総駆動力から発電機駆動分を差し引いた駆動力)とモータ駆動力(両モータジェネレータMG1,MG2の総和による駆動力)との合計で示される。その最大駆動力の構成は、図8(a)に示すように、低い車速ほどモータ駆動力が多くを占める。このように、変速機を持たず、エンジンEの直接駆動力と電気変換したモータ駆動力を加えて走行させる。このため、低速から高速まで、定常運転のパワーの少ない状態からアクセルペダル全開のフルパワーまで、運転者の要求に対しシームレスに応答良く駆動力をコントロールすることができる(トルク・オン・デマンド)。
【0032】
そして、上記のハイブリッド車では、動力分割機構TMを介し、エンジンEと両モータジェネレータMG1,MG2と左右前輪のタイヤとがクラッチ無しで繋がっている。また、上記のように、エンジンパワーの大部分を発電機で電気エネルギーに変換し、高出力かつ高応答のモータで車両を走らせている。このため、例えば、アイスバーン等の滑りやすい路面での走行時において、タイヤのスリップやブレーキ時のタイヤのロック等で車両の駆動力が急変する場合、過剰電流からのパワーコントロールユニット3の保護、あるいは、動力分割機構TMのピニオン過回転からの部品保護を行う必要がある。これに対し、高出力・高応答のモータ特性を活かし、部品保護の機能から発展させて、タイヤのスリップを瞬時に検出し、そのグリップを回復させ、車両を安全に走らせるためのモータトラクションコントロールを採用している。
【0033】
次に、車両モードについて説明する。
上記のハイブリッド車での車両モードとしては、図2の共線図に示すように、「停車モード」、「発進モード」、「エンジン始動モード」、「定常走行モード」、「加速モード」を有する。
「停車モード」では、図2(1)に示すように、エンジンEと発電機MG1とモータMG2は止まっている。「発進モード」では、図2(2)に示すように、モータMG2鑿の駆動で発進する。「エンジン始動モード」では、図2(3)に示すように、エンジンスタータとしての機能を持つ発電機MG1によって、サンギヤSが回ってエンジンEを始動する。「定常走行モード」では、図2(4)に示すように、主にエンジンEにて走行し、効率を高めるために発電を最小にする。「加速モード」では、図2(5)に示すように、エンジンEの回転数を上げると共に、発電機MG1による発電を開始し、その電力とバッテリ4の電力を使ってモータMG2の駆動力を加え、加速する。
【0034】
なお、後退走行は、図2(4)に示す「定常走行モード」において、エンジンEの回転数上昇を抑えたままで、発電機MG1の回転数を上げると、モータMG2の回転数が負側に移行し、後退走行を達成することができる。
始動時は、イグニッションキーを回すとエンジンEが始動し、エンジンEを暖機した後、直ぐにエンジンEは停止する。発進時や軽負荷時は、発進時やごく低速で走行する緩やかな坂を下るときなどは、エンジン効率の悪い領域は燃料をカットし、エンジンは停止してモータMG2により走行する。通常走行時は、エンジンEの駆動力は、動力分割機構TMにより一方は車輪を直接駆動し、他方は発電機MG1を駆動し、モータTM2をアシストする。全開加速時は、バッテリ4からパワーが供給され、さらに、駆動力を追加する。
【0035】
減速時や制動時には、車輪がモータTM2を駆動し、発電機として作用することで回生発電を行う。回収した電気エネルギーはバッテリ4に蓄えられる。バッテリ4の充電量が少なくなると、発電機MG1をエンジンEにより駆動し、充電を開始する。車両停止時には、エアコン使用時やバッテリ充電時等を除き、エンジンEを自動的に停止する。
【0036】
次に、制動トルク性能について説明する。
上記のハイブリッド車では、エンジンブレーキやフットブレーキによる制動時には、モータとして作動している第2モータジェネレータMG2を発電機として作動させることにより、車両の運動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリ4に回収し、再利用する回生ブレーキシステムを採用している。
ここで、本実施形態のハイブリッド車で採用する回生ブレーキ協調制御は、図9および図10に示すように、ブレーキペダル30の踏み込み量に対するマスタシリンダ34のマスタシリンダ圧MCPを制限する。これによって、運転者の要求制動トルクに対し回生ブレーキ(実効回生トルクT(t))を優先し、回生分で賄える限りは、最大限まで回生分の領域を拡大している。これにより、特に加減速を繰り返す走行パターンにおいて、エネルギー回収効率が高く、より低い車速まで回生制動によるエネルギーの回収を実現している。
【0037】
また本実施形態では、装置を安価な構成とするために、マスタシリンダ34とホイールシリンダ20〜23とを接続している。このとき、マスタシリンダ34からホイールシリンダ20〜23に供給する流体圧は、抑えられていると共に、その圧が制御不能な状態となっている。また、実効回生トルクT(t)が最大回生トルクTmax(t)との間に乖離がある場合がある。このため、本実施形態では、制動制御用ポンプ38を制御することで、要求制動トルク(目標減速度G(t))を確保している。
【0038】
ここで、図11に示すタイムチャートのように、ブレーキペダル30のストローク量が一定の状態で、例えばアクセルオフとなって実効回生トルクT(t)が制限されると、その不足分を補うために上記制動制御用ポンプ38の吐出圧が増圧する。このとき、マスタシリンダ34の作動液を制動制御用ポンプ38が吸引することから、マスタシリンダ圧MCPが、ブレーキペダル30のストロークが変化しないにもかかわらず減少する。このため、目標減速度G(t)が減少して、そのままでは、運転者の要求する減速度に対して減少方向に変動が発生する。同様に、実効回生トルクT(t)が増加方向に変化する場合には、そのままでは、運転者の要求する減速度に対して増加方向に変動が発生する。
【0039】
これに対し、本実施形態では、上記実効回生トルクT(t)の変動分だけ目標減速度G(t)を補正することで、運転者の要求する減速度に対する制動の変動を抑える。すなわち、実効回生トルクT(t)が小さくなる方向に変化した場合には、目標減速度G(t)を増加する補正を行う。一方、実効回生トルクT(t)が大きくなる方向に変化した場合には、目標減速度G(t)を減少する補正を行う。
【0040】
(本実施形態の効果)
(1)目標減速度G(t)に対する回生制動と摩擦制動の比率が変わるいわゆる回生のすり替えが行われることで、マスタシリンダ圧MCPが変動しても、実際に運転者が要求する減速度に対する目標減速度G(t)の変化が抑えることが出来る。この結果、マスタシリンダ34とホイールシリンダ20〜23とを連通させた流体制動システム(BBW系でない制動システム)を用いた回生協調ブレーキシステムであっても、減速度の変動を抑えることが可能となる。
(2)また、実効回生トルクT(t)に変動があっても、目標減速度G(t)が小さい状態では上記補正を実施しない。目標減速度G(t)が小さい場合には、上記ペダルストロークによる変動依存度が高いことから、運転者が実際にブレーキペダル30を操作した可能性が高いので、必要以上に補正を行うことを回避出来る。
【0041】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記実施形態と同様な部品などについては同一の符号を付して説明する。
(構成)
本実施形態の基本構成は、上記第1実施形態と同様である。ただし、ブレーキコントローラ5の処理の一部が異なる。
図12に、本実施形態の処理のフローを示す。
図12中、ステップS10〜S50までの処理は、上記第1実施形態と同様である。
ステップS50では、下記式に基づき摩擦制動トルクF(t)を算出して、ステップS160に移行する。
F(t) =目標減速度G(t) − 実効回生トルクT(t)
【0042】
ステップS160では、実効回生トルクT(t)の変化量ΔTから、摩擦制動トルクF(t)の変化量ΔFを推定して、ステップS170に移行する。この推定は、実験その他によって得た実効回生トルクT(t)の変化量ΔTと摩擦制動トルクF(t)の変化量ΔFとのマップを使用して求める。この実効回生トルクT(t)の変化量と摩擦制動トルクF(t)の変化量ΔFは、図13に示すような関係となっている。
【0043】
ステップS170では、目標減速度G(t)が、所定の閾値以上であるか否かを判定する。所定の閾値以上と判定した場合にはステップS190に移行し、所定の閾値未満と判定した場合にはステップS100に移行する。
所定の閾値は、例えばマスタシリンダ34のピストンストロークがポートアイドル相当の目標減速度G(t)より若干大きめの値とする。このような目標減速度G(t)が小さい状態では、ペダルストロークによるマスタシリンダ圧MCPの変動依存度が大きく、運転者の操作による変動の可能性が大きいので、運転者の操作とみなすものである。
【0044】
ステップS190では、下記式のように、摩擦制動トルクF(t)を上記変化量ΔFだけ補正してステップS100に移行する。
摩擦制動トルクF(t) ← 摩擦制動トルクF(t) −変化量ΔF
ステップS100では、上記摩擦制動トルクF(t)に相当するホイールシリンダ20〜23の目標制御流体圧を算出してステップS110に移行する。
ステップS110では、上記目標制動流体圧からマスタシリンダ圧MCPを減算して目標ポンプ圧を算出し、その目標ポンプ圧に相当する指令値をブレーキ液圧ユニット19の制動制御用ポンプ38に出力した後に、復帰する。なお、流体圧制御用比例型電磁バルブ37によってホイールシリンダ20〜23の目標制御流体圧を小さくすることが可能となっている。
【0045】
このように、各ホイールシリンダ20〜23の制御流体圧を個々に制御することで、所望の大きさの摩擦負荷による制動トルクをディスクロータ30を介して車輪に付与する。
図7に破線で第2実施形態の場合の補正位置(補正量ΔF)を示す。なお、ポンプ圧を直接に補正する場合には、図7中、マルDの部分で補正を行う。
その他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
ここで、変化量ΔFが制動補正量を構成する。ステップS190が補正手段を構成する。
【0046】
(本実施形態の効果)
(1)目標減速度G(t)に対する回生制動と摩擦制動の比率が変わるいわゆる回生のすり替えが行われることで、マスタシリンダ圧MCPが変動しても、実際に運転者が要求する減速度に対する摩擦制動の変化が抑えることが出来る。この結果、マスタシリンダ34とホイールシリンダ20〜23とを連通させた流体制動システム(BBW系でない制動システム)を用いた回生協調ブレーキシステムであっても、減速度の変動を抑えることが可能となる。
(2)その他の効果は上記第1実施形態と同様である。
【0047】
(変形例)
(1)ここで、摩擦制動トルクF(t)を補正しているが、目標ポンプ圧BPuを実効回生トルクの変化量ΔTに基づき補正しても良い。
(2)また、上記全実施形態では、目標減速度G(t)から実効回生トルクT(t)を減算して、目標摩擦制動トルクF(t)を求めた後に、その目標摩擦制動トルクF(t)からポンプの制御量を演算する場合を例示している。これに代えて、図14に示す制御ブロックのような構成としても良い。すなわち、目標減速度G(t)から先にマスタシリンダ圧MCPを減算して、回生トルクとポンプによる摩擦制動トルクF(t)分の和を求め、その後にポンプの制御量(目標ポンプ圧BPu)を演算しても良い。
この構成に、第1実施形態の発明を適用する場合には、図14中、矢印Aの部分で目標減速度G(t)の変化分の補正を行えばよい。
また、第2実施形態の発明を適用する場合には、図14中、矢印B若しくはCの部分で目標減速度G(t)の変化分の補正を行えばよい。
(3)また、上記実施形態では、回生を行うモータがエンジンと連結する場合を例示しているが、回生を行うモータがエンジンと独立していても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】第1実施形態の回生協調ブレーキ制御装置が適用されたハイブリッド車を示す全体システム図である。
【図2】第1実施形態の回生協調ブレーキ制御装置が適用されたハイブリッド車における各車両モードを示す共線図である。
【図3】液圧ブレーキ装置の構成を示す図である。
【図4】第1実施形態に係るブレーキコントローラの処理を説明する図である。
【図5】回生制動の目標値を求める制御ブロック図である。
【図6】実効回生トルクT(t)の変化と目標減速度G(t)の補正量との関係の一例を示す図である。
【図7】第1実施形態に係るブレーキコントローラの制御ブロックの一例を示す図である。
【図8】第1実施形態の回生協調ブレーキ制御装置が適用されたハイブリッド車における駆動力性能特性図と駆動力概念図である。
【図9】第1実施形態の回生協調ブレーキ制御装置が適用されたハイブリッド車における回生協調による制動トルク性能をあらわす図である。
【図10】第1実施形態の回生協調ブレーキ制御装置が適用されたハイブリッド車における回生協調による制動トルク性能をあらわす図である。
【図11】従来のタイムチャート例を示す図である。
【図12】第1実施形態に係るブレーキコントローラの処理を説明する図である。
【図13】実効回生トルクT(t)の変化と目標摩擦制動トルクF(t)の補正量との関係の一例を示す図である。
【図14】本実施形態に係るブレーキコントローラの制御ブロックの別例を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
2 モータコントローラ
3 パワーコントロールユニット
4 バッテリ
5 ブレーキコントローラ
6 統合コントローラ
17 マスタシリンダ圧センサ
18 ブレーキストロークセンサ
19 ブレーキ液圧ユニット
20〜23 ホイールシリンダ
30 ブレーキペダル
31 負圧ブースタ
34 マスタシリンダ
36 油圧回路
38 制動制御用ポンプ
F 上記摩擦制動トルク
G 目標減速度
MCP マスタシリンダ圧
MG1,MG2 モータジェネレータ
S ブレーキストローク
T 実効回生トルク
TM 動力分割機構
VSP 車速
ΔF 変化量(制動補正量)
ΔG 変化量(減速度補正量)
ΔT 変化量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルのペダルストロークに応じたマスタシリンダ圧を発生するマスタシリンダと、マスタシリンダの液圧を対象とする車輪のホイールシリンダに供給可能な油圧回路と、その油圧回路に設けられてマスタシリンダからホイールシリンダに供給する液圧を増減可能な液圧調整手段と、車輪に対し電気的負荷を作用させて回生制動を発生する回生制動手段と、回生制動手段による実効回生トルクを求める実効回生量検出手段と、
上記ペダルストローク及びマスタシリンダ圧に基づき目標減速度を算出する目標減速度算出手段と、
上記目標減速度算出手段の算出した目標減速度から上記実効回生トルク分だけ減算した目標摩擦制動トルクを算出する摩擦制動トルク算出手段と、
摩擦制動トルク算出手段が算出した目標摩擦制動トルクに対応するホイールシリンダ圧となるように液圧調整手段を介して液圧を増減する液圧制御手段と、を備える回生協調ブレーキ制御装置において、
上記実効回生トルクの変化量に基づき減速度補正量を推定し、上記目標減速度算出手段が算出した目標減速度を上記減速度補正量によって補正する補正手段を備えることを特徴とする回生協調ブレーキ制御装置。
【請求項2】
ブレーキペダルのペダルストロークに応じたマスタシリンダ圧を発生するマスタシリンダと、マスタシリンダの液圧を対象とする車輪のホイールシリンダに供給可能な油圧回路と、その油圧回路に設けられてマスタシリンダからホイールシリンダに供給する液圧を増減可能な液圧調整手段と、車輪に対し電気的負荷を作用させて回生制動を発生する回生制動手段と、回生制動手段による実効回生トルクを求める実効回生量検出手段と、
上記ペダルストローク及びマスタシリンダ圧に基づき目標減速度を算出する目標減速度算出手段と、
上記目標減速度算出手段の算出した目標減速度から上記実効回生トルク分だけ減算した目標摩擦制動トルクを算出する摩擦制動トルク算出手段と、
摩擦制動トルク算出手段が算出した目標摩擦制動トルクに対応するホイールシリンダ圧となるように液圧調整手段を介して液圧を増減する液圧制御手段と、を備える回生協調ブレーキ制御装置において、
上記実効回生トルクの変化量に基づき制動補正量を推定し、摩擦制動トルク算出手段が算出した目標摩擦制動トルクを上記制動補正量によって補正する補正手段を備えることを特徴とする回生協調ブレーキ制御装置。
【請求項3】
上記補正手段は、目標減速度が所定閾値以上の場合に補正を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した回生協調ブレーキ制御装置。
【請求項4】
車速に基づき最大回生トルクを推定する最大回生トルク推定手段を備え、
回生制動手段は、最大回生トルク推定手段が推定した最大回生トルクを上限値として回生を行うことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した回生協調ブレーキ制御装置。
【請求項5】
上記液圧調整手段は、吸引側をマスタシリンダに接続すると共に吐出側をホイールシリンダに接続する制動制御用ポンプを備え、液圧制御手段は制動制御用ポンプを制御することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した回生協調ブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−208600(P2009−208600A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53394(P2008−53394)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】