説明

基板処理装置および基板処理方法

【課題】支持部材の先端部を基板の下面に当接して基板を略水平姿勢で支持しながら支持部材に押し付けて保持した基板に対して所定の処理を施す基板処理装置および方法において基板保持力を高める。
【解決手段】基板Wの保持モードとして、第1保持モードと第2保持モードが設けられている。第1保持モードでは、基板裏面Wbを支持ピンPNで支持しながら基板表面Wfに窒素ガスを供給して基板Wを支持ピンPNに向けて押圧力Faで押圧するのみであるが、第2保持モードでは、上記押圧力Faに加え、基板裏面Wbより基板Wに吸引力Fbを与えている。このように、吸引力Fbを付加した分だけ基板Wの保持力を高めることができ、基板Wを高速回転させる際にも安定して基板Wを保持することができ、その結果、基板処理を良好に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、略水平姿勢で保持した基板に対して所定の処理を施す基板処理装置および基板処理方法に関するものである。なお、当該基板には、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(電界放出ディスプレイ:Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板等の各種基板(以下、単に「基板」という)が含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ等の基板に対して一連の処理工程を施す製造プロセスにおいては、基板の表面にフォトレジスト等の薄膜を形成するための成膜工程を有しているが、この成膜工程では基板の裏面あるいは基板表面の周縁部にも成膜されることがある。しかしながら、一般的には基板において成膜が必要なのは基板表面の中央部の回路形成領域のみであり、基板の裏面あるいは基板表面の周縁部に成膜されてしまうと、成膜工程の後工程において、他の装置との接触により基板表面の周縁部に形成された薄膜が剥がれたりすることがある。そして、これが原因となって歩留まりの低下や基板処理装置自体のトラブルが起こることがある。
【0003】
そこで、基板表面の周縁部に形成された薄膜を除去するために、例えば特許文献1に記載された装置が提案されている。この装置では、スピンベースの上面周縁部に複数の支持部材が上方に向けて突出して設けられており、これらの支持部材の先端部を基板の下面周縁部に当接させることで基板を略水平姿勢で支持している。また、当該基板の上面に窒素ガスを供給することによって基板を支持部材に向けて押圧して保持している。そして、スピンベースを回転することで基板を回転させるとともに、当該基板の上面周縁部のみに処理液を供給することにより、基板の上面周縁部の処理(ベベル処理)を行う。
【0004】
【特許文献1】特開2006−41444号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように従来の基板処理装置では、基板を保持する方式として、基板下面を支持部材で支持しながら当該基板の表面に窒素ガスなどの気体を供給して基板を支持部材に押し付ける、いわゆる押付チャック方式を採用している。この押付チャック方式の基板処理装置における基板保持力は、基板表面に与えられる気体による押圧力と基板下面に対する支持部材の摩擦係数に応じた値となる。したがって、基板保持力を高めるためには、気体の供給量を増やしたり、より摩擦係数の大きな材質で支持部材を構成する必要がある。しかしながら、これらの対応策にも限界があり、押付チャック方式において基板保持力を高めるための技術が望まれていた。また、従来装置では気体供給量と支持部材の材質等により基板の保持力は一義的に決まっており、基板処理に応じて保持力を制御することが難しかった。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、支持部材の先端部を基板の下面に当接して基板を略水平姿勢で支持しながら支持部材に押し付けて保持した基板に対して所定の処理を施す基板処理装置および方法において基板保持力を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかる基板処理装置は、略水平姿勢で保持した基板に対して所定の処理を施す基板処理装置であって、上記目的を達成するため、先端部が基板の下面に当接して該基板を略水平姿勢で支持する、少なくとも3個以上の支持部材を有する基板支持手段と、基板支持手段に支持された基板の上面にガスを供給することによって基板を支持部材に向けて押圧可能に構成された押圧手段と、基板に対して押圧手段の反対側で基板に吸引力を与える吸引手段とを備えたことを特徴としている。
【0008】
また、この発明にかかる基板処理方法は、略水平姿勢で保持した基板に対して所定の処理を施す基板処理方法において、上記目的を達成するため、基板を保持するモードとして、少なくとも3個以上の支持部材の先端部を基板の下面に当接して該基板を略水平姿勢で支持しながら基板の上面にガスを供給することによって基板を支持部材に向けて押圧して基板を保持する第1保持モードと、基板下面側より基板に吸引力を与えて第1保持モードでの保持力よりも高い保持力で基板を保持する第2保持モードが設けられたことを特徴としている。
【0009】
このように構成された発明(基板処理装置および方法)では、基板下面を支持部材で支持しながら当該基板の表面に窒素ガスなどの気体を供給して基板を支持部材に向けて押圧するのみならず、基板下面側より基板に吸引力を与えることが可能となっている。したがって、吸引力を付加した分だけ基板保持力が高まる。また、基板に吸引力を与えるか否かにより基板保持力を簡単に変更することができる。ここで、吸引力を発生させるために、基板の下面中央部から下面周縁部に向かうガス流を形成してベルヌーイ効果を発現させてもよい。
【0010】
また、基板を回転させながら基板を処理する場合、基板の回転速度が高くなるにしたがって高い基板保持力が要求されるため、基板を支持部材に押し付ける力(基板保持力)を基板の回転速度によって制御するように構成してもよい。例えば基板を保持するモードとして第1保持モードと第2保持モードを設け、基板の回転速度に応じて保持モードを切り替えてもよい。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、少なくとも3個以上の支持部材の先端部を基板の下面に当接して該基板を略水平姿勢で支持しながら基板の上面にガスを供給することによって基板を支持部材に向けて押圧するのに加え、基板下面側より基板に吸引力を与えて基板を支持部材に押し付ける力、つまり基板保持力を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1はこの発明にかかる基板処理装置の一実施形態を示す図である。また、図2は図1の基板処理装置の主要な制御構成を示すブロック図である。この基板処理装置は、半導体ウエハ等の略円形基板Wの表面周縁部TRと該表面周縁部TRに連なる基板Wの周端面とから構成される基板Wの端部に存在する薄膜(不要物)をエッチング除去する装置である。または、この基板処理装置は、基板Wの端部および基板裏面Wbに存在する薄膜をエッチング除去する装置である。ここで、処理対象となっている基板Wには、シリコン窒化膜(SiN膜)又はシリコン酸化膜よりも比誘電率の高い絶縁膜(High―k膜)等の薬液に対して難溶性を示す薄膜が基板表面Wfに形成された基板や上記薄膜が表裏面Wf,Wbに形成された基板が含まれる。
【0013】
そこで、基板表面Wfのみに薄膜が形成されている場合には、基板Wの端部に薬液およびDIW(deionized water:脱イオン水)などのリンス液(以下、薬液およびリンス液を総称して「処理液」という)を供給して基板Wの端部から薄膜をエッチング除去するとともに、基板裏面Wbに処理液を供給して裏面Wbを洗浄する。また、基板Wの表裏面Wf,Wbに薄膜が形成されている場合には、基板Wの端部および裏面Wbに処理液を供給して基板Wの端部および裏面Wbから薄膜をエッチング除去する。なお、この実施形態では、基板表面Wfとはデバイスパターンが形成されるデバイス形成面を意味している。
【0014】
この基板処理装置は、基板表面Wfを上方に向けた状態で基板Wを略水平姿勢に保持して回転させるスピンチャック1と、スピンチャック1に保持された基板Wの下面(裏面Wb)の中央部に向けて処理液を供給する下面処理ノズル2と、基板表面側からスピンチャック1に保持された基板Wの端部に対して局部的に処理液を供給するノズル3と、スピンチャック1に保持された基板Wの表面Wfに対向配置された対向部材4とを備えている。
【0015】
スピンチャック1のスピンベース15では、図1に示すように、上面中央部に凹部が形成されている。そして、スピンベース15の上面周縁部が基板裏面Wbと近接する一方、中央部が周縁部に比べて基板裏面Wbから離間した状態でスピンベース15の中央部に対して回転支軸11の上端部が一体的にネジなどの締結部品によって連結されている。また、その下端部はモータを含むチャック回転機構13(図2)の回転軸に連結されており、チャック回転機構13の駆動により回転中心A0を中心に回転支軸11が回転可能となっている。したがって、装置全体を制御する制御ユニット5からの動作指令に応じてチャック回転機構13を駆動させることによりスピンベース15が回転中心A0を中心に回転する。
【0016】
この回転軸11は中空構造を有している。そして、その中空部には処理液供給管21が挿通され、その上端に下面処理ノズル2が結合されている。また、処理液供給管21は薬液供給ユニット61およびDIW供給ユニット62と接続されており、薬液またはリンス液としてDIWが選択的に供給される。
【0017】
一方、スピンベース15には、複数のガス案内孔16が形成されている。図3はスピンベースを上方側(基板側)から見た平面図である。各ガス案内孔16は、図1に示すように、スピンベース15の下面中央部からスピンベース15の上面周縁部に向けて設けられるとともに、スピンベース15の下面中央部に設けられたガス導入口17を介して下方側ガス供給ユニット63に接続されている。このため、制御ユニット5からの動作指令に応じて下方側ガス供給ユニット63が作動すると、基板裏面Wbと該基板裏面Wbに対向するスピンベース15の上面とに挟まれた空間に対して窒素ガスがガス案内孔16を介して供給される。こうして供給された窒素ガスはスピンベース15の径方向に流れるガス流、つまり基板Wの下面中央部から下面周縁部に向かうガス流を形成する。この実施形態では、ガス案内孔16は回転中心A0を中心として放射状に略等角度間隔で設けられている。そして、スピンベース15の上面周縁部を基板裏面Wbと近接させた状態で下方側ガス供給ユニット63を作動させることで、上記ガス流が回転中心A0を中心として放射状に形成されて基板Wの周方向全体にベルヌーイ効果が発現する。その結果、図1(c)に示すように、基板Wに対して吸引力Fbが均等に作用する。このように、本実施形態では、ガス案内孔16および下方側ガス供給ユニット63によって基板Wに対して対向部材4の反対側で吸引力Fbを基板Wに与えており、これらが本発明の「吸引手段」として機能している。
【0018】
また、スピンベース15の周縁部付近には複数個(この実施形態では12個)の支持ピンPNが、本発明の「支持部材」として、回転中心A0を中心として放射状に略等角度間隔でスピンベース15から上方に向けて突設されている。各支持ピンPNは基板裏面Wbと当接することによって、スピンベース15から所定距離だけ上方に離間させた状態で基板Wを略水平姿勢で支持可能となっている。なお、基板Wを水平に支持するためには、支持ピンPNの個数は少なくとも3個以上であればよい。このようにスピンチャック1が本発明の「基板支持手段」として機能している。
【0019】
スピンチャック1の上方には、スピンチャック1に保持された基板Wに対向する円盤状の対向部材4が水平に配設されている。図4は対向部材を下方側(基板側)から見た底面図である。この対向部材4はスピンチャック1の回転支軸11と同軸上に配置された回転支軸41の下端部に一体回転可能に取り付けられている。この回転支軸41には対向部材回転機構44が連結されており、制御ユニット5からの動作指令に応じて対向部材回転機構44のモータを駆動させることで対向部材4を回転中心A0を中心に回転させる。また、制御ユニット5は対向部材回転機構44をチャック回転機構13と同期するように制御することで、スピンチャック1と同じ回転方向および同じ回転速度で対向部材4を回転駆動できる。
【0020】
また、対向部材4は対向部材昇降機構45と接続され、対向部材昇降機構45の昇降駆動用アクチュエータ(例えばエアシリンダーなど)を作動させることで、対向部材4をスピンベース15に近接して対向させたり、逆に離間させることが可能となっている。例えば基板処理装置に対して基板Wが搬入出される際には、制御ユニット5はスピンチャック1から上方に十分に離れた離間位置に対向部材4を上昇させる。その一方で、基板Wに対して後述するベベルエッチング処理および裏面洗浄処理を施す際には、制御ユニット5はスピンチャック1に保持された基板Wの表面Wfのごく近傍に設定された近接位置まで対向部材4を下降させる。これにより、対向部材4の下面401と基板表面Wfとが近接した状態で対向配置される。
【0021】
回転支軸41の中空部には、ガス供給路47が形成されている。このガス供給路47は上方側ガス供給ユニット64と接続されており、基板表面Wfと対向部材4の下面401とに挟まれた間隙空間SPに窒素ガスを供給可能となっている。
【0022】
この対向部材4の下面401は基板Wの直径と同等以上の平面サイズを有している。このため、対向部材4が近接位置に配置されると基板表面全体を覆って基板表面Wf上の雰囲気を外部雰囲気から遮断可能となっている。この対向部材4の下面401には、複数のガス吐出口402が形成されている。これらのガス吐出口402はスピンチャック1に保持される基板Wの表面中央部、つまり表面周縁部TRより径方向内側の非処理領域NTR(図1)に対向する位置に、回転中心A0を中心とする円周に沿って等角度間隔に形成されている。これらのガス吐出口402は対向部材4の内部に形成されたガス流通空間403に連通しており、ガス流通空間403にガス供給路47を介して窒素ガスが供給されると、複数のガス吐出口402を介して窒素ガスが間隙空間SPに供給される。
【0023】
そして、対向部材4が近接位置に位置決めされた状態で、複数のガス吐出口402から間隙空間SPに窒素ガスが供給されると、間隙空間SPの内部圧力が高まり基板Wがその裏面Wbに当接する支持ピンPNに押圧力Faで押圧される。このように、この実施形態では、対向部材4の下面401、ガス吐出口402、ガス流通空間403および上方側ガス供給ユニット64が、本発明の「押圧手段」として機能している。
【0024】
この押圧状態のまま制御ユニット5の動作指令に応じてスピンベース15が回転すると、基板裏面Wbと支持ピンPNとの間に発生する摩擦力によって基板Wが支持ピンPNに支持されながらスピンベース15とともに回転する。このように上方側ガス供給ユニット64のみから窒素ガスを供給すると、基板表面Wfに与えられる窒素ガスによる押圧力Faのみが基板Wに与えられて基板Wがスピンチャック1に保持される(第1保持モード:図1(b))。一方、上記したように下方側ガス供給ユニット63からも窒素ガスを供給して基板裏面側でガス流を形成すると、基板Wに対して吸引力Fbも与えられて基板Wの保持力が増大する(第2保持モード:図1(c))。なお、この吸引力Fbは押圧力Faに比べて小さく、吸引力Fbのみにより基板Wを押付チャックすることは困難な程度である。特にスピンベース15を回転すると基板Wの横すべりによる飛び出しを防止出来ない。つまり、吸引力Fbは補助的または付加的に作用するものであり、本実施形態では押付チャック方式で基板を保持しており、いわゆるベルヌーイチャック方式の基板保持とは異なるものである。
【0025】
この対向部材4の周縁部には、対向部材4を上下方向(鉛直軸方向)に貫通するノズル挿入孔42が形成され、対向部材4の下面401に開口部421が形成されている。そして、このノズル挿入孔42にノズル3が挿入されて該挿入状態でノズル3から基板Wの表面周縁部TRに向けて処理液を吐出して基板Wの端部に対して局部的に処理液を供給することができる。この構成によれば、対向部材4が基板表面Wfを覆うことで基板Wの表面中央部(非処理領域)に処理液が付着するのを防止しながら、ノズル3をノズル挿入孔42に挿入させることでノズル3から表面周縁部TRに直接に処理液を供給することができる。ここでは、ノズル3とノズル挿入孔42の構成について図1および図2を参照しつつさらに詳述する。
【0026】
ノズル3は、図1に示すように、水平方向に延びるノズルアーム31の一方端に取り付けられている。このノズルアーム31の他方端はノズル移動機構33(図2)に接続されている。さらに、ノズル移動機構33はノズル3を水平方向に所定の回動軸回りに揺動させるとともに、ノズル3を昇降させることができる。このため、制御ユニット5からの動作指令に応じてノズル移動機構33が駆動されることで、ノズル3を対向部材4のノズル挿入孔42に挿入して表面周縁部TRに向けて薬液またはDIWを吐出可能な処理位置P31と、基板Wから離れた待機位置P32とに移動させることができる。
【0027】
次に、上記のように構成された基板処理装置の動作について詳述する。図5は図1の基板処理装置の動作を示すフローチャートである。この基板処理装置では、対向部材4をスピンチャック1の上方の退避位置に位置させて対向部材4とスピンチャック1との間隔を広げた状態で搬送手段(図示せず)が未処理の基板Wを装置内に搬入すると、制御ユニット5が装置各部を制御してベベルエッチング処理および裏面洗浄処理を実行する。なお、搬入された基板Wは、例えば基板Wの表面Wfにメタル層などの薄膜が形成された基板Wであり、薄膜形成面を上方に向けた状態で搬入されて支持ピンPN上に載置される。
【0028】
基板Wの搬入後、対向部材昇降機構45が作動して対向部材4を対向位置まで降下させて支持ピンPNに支持された基板Wに近接して対向配置する(ステップS11)。そして、上方側ガス供給ユニット64が作動して複数のガス吐出口402を介して間隙空間SPに窒素ガスを供給する(ステップS12)。つまり、制御ユニット5は保持モードを第1保持モードに設定する。これによって、対向部材4の下面401と基板表面Wfとの間に形成される空間SPの内部圧力が高められ、基板Wはその下面(裏面Wb)に当接する支持ピンPNに向けて押圧力Faで押圧され、スピンベース15に保持される。また、基板表面Wfは対向部材4の下面401にごく近接した状態で覆われることによって、基板Wの周辺の外部雰囲気から確実に遮断される。なお、この段階では、下方側ガス供給ユニット63は窒素ガスの供給を停止している。
【0029】
次に、制御ユニット5はノズル移動機構33を作動させることでノズル3を離間位置P2から処理位置P1に移動させる(ステップS13)。具体的には、ノズル3が水平方向に沿って対向部材4のノズル挿入孔42の上方位置に移動するとともに、ノズル3が降下してノズル先端面が対向部材4の下面401と面一となる位置までノズル挿入孔42に挿入される。
【0030】
それに続いて、制御ユニット5は対向部材4を停止させた状態で、チャック回転機構13を駆動してスピンベース15を回転させることにより、基板Wを回転させる(ステップS14)。具体的には、制御ユニット5はスピンベース15を比較的低速(例えば600rpm)の第1回転速度V1で回転させる。このとき、空間SPへの窒素ガスの供給により基板Wは支持ピンPNに押圧力Faで押圧され、これによって基板Wは支持ピンPNと基板Wの裏面(下面)Wbとの間に発生する摩擦力でスピンベース15に保持されながら、スピンベース15とともに回転することとなる。このように低速の第1回転速度V1で回転させているときは、基板Wに作用する遠心力は比較的小さいため、第1保持モードにより基板Wを確実に保持することができる。
【0031】
このように第1保持モードで基板Wを保持した状態で、薬液供給ユニット61からエッチング処理に適した薬液がノズル3に圧送されて、表面周縁部TRに処理液として薬液が供給される。基板Wの径方向外側に向けて吐出された薬液は基板Wの回転による遠心力を受けて基板Wの周縁に向かって流れ、基板の端面を伝って流下する。これにより、表面周縁部TRの全体に薬液が供給されて該表面周縁部TRがエッチング処理される。特に、この実施形態では、薬液を鉛直方向ではなく、基板Wの径方向外側に向けて斜めに吐出させているので、基板Wとノズル3との間の距離が一定とされることで、周縁エッチング幅が変動するのを防止することができる。
【0032】
また、基板Wの裏面Wbを支持ピンPNにより支持しているため、基板端縁をメカチャック部材により支持する、いわゆるメカチャック方式の装置で発生した問題の発生が防止される。すなわち、基板Wの端面に当接または対向して配置される部位が存在しないことから、このようなメカチャック部材による薬液の衝突による飛散が防止される。また、基板Wの周縁付近の気流を乱す要因がないことからミスト状の薬液の基板表面Wf側への巻き込みが軽減される。したがって、表面周縁部TRから不要物(薄膜)が一定の周縁エッチング幅で全周にわたって均一にエッチング除去される(ステップS15−1;上面処理工程)。
【0033】
さらに、ノズル3は対向部材4のノズル挿入孔42に挿入されるため、薬液が飛散してノズル3に向けて跳ね返ってくるような場合でも薬液は対向部材4の下面401に遮られ、ノズル3の周囲(側面)に薬液が付着するようなことがない。
【0034】
表面周縁部TRに対するエッチング処理が終了すると、リンス液がノズル3に圧送されて、表面周縁部TRにリンス液が供給される。これにより、基板Wの表面周縁部TRに付着している薬液がリンス液によって洗い流される(ステップS15−2;上面処理工程)。
【0035】
こうして、表面周縁部TRに対するリンス処理が終了すると、制御ユニット5はノズル3へのリンス液の圧送を停止して、ノズル3をノズル挿入孔42から抜き出して表面周縁部TRから離間した離間位置P2に移動させる(ステップS16)。このとき、ガス流通空間403からノズル挿入孔42に導入される窒素ガスが対向部材4の上下の開口からノズル挿入孔42の上下方向に噴出する。このため、ノズル3がノズル挿入孔42から抜き出された状態であっても、処理液がノズル挿入孔42に入り込み基板表面Wfに向けて跳ね返るのが抑制される。
【0036】
続いて、制御ユニット5は対向部材回転機構44を制御してスピンベース15の回転数とほぼ同一の回転数で同一方向に対向部材4を回転させる(ステップS17)。その後、下面処理ノズル2からスピンベース15とともに回転される基板Wの裏面Wbに処理液が供給され、裏面Wbに対して裏面洗浄処理が実行される。具体的には、下面処理ノズル2から基板裏面Wbの中央部に向けて処理液として薬液とリンス液とが順次供給されることにより、裏面全体と裏面Wbに連なる基板端面部分に対してエッチング処理(ステップS18―1)とリンス処理(ステップS18―2)が実行される(下面処理工程)。このとき、基板Wとともに対向部材4を回転させることで、対向部材4に付着する処理液がプロセスに悪影響を及ぼすのを防止するとともに、基板Wと対向部材4との間に回転に伴う余分な気流が発生するのを抑制して基板表面Wfへの処理液の巻き込みを防止することができる。
【0037】
そして、裏面Wbに対するリンス処理が終了すると、制御ユニット5は基板Wの回転を継続したまま下面処理ノズル2へのリンス液の圧送を停止して、基板Wに残留する液体成分を振り切り、基板外に排出する(ステップS19)。
【0038】
続いて、制御ユニット5はチャック回転機構13および対向部材回転機構44のモータの回転速度を高めて基板Wおよび対向部材4を高速回転させる。具体的には、制御ユニット5はスピンベース15を第1回転速度V1から該第1回転速度V1よりも高速の第2回転速度V2(例えば1500rpm)で回転させる。これにより、基板Wの乾燥(スピンドライ処理)が実行される(ステップS20;乾燥処理工程)。
【0039】
また、この実施形態では、基板Wの回転速度を増大させるのに対応して基板Wの保持モードを第1保持モードから第2保持モードに切り替える。これは、回転速度の増大により基板Wに作用する遠心力が増大し、該遠心力により基板Wが水平移動するのを防止するためである。すなわち、制御ユニット5は、上方側ガス供給ユニット64を作動させたまま、下方側ガス供給ユニット63の作動を開始させる。これによって、窒素ガスがガス案内孔16を介して基板裏面Wbとスピンベース15の上面周縁部とに挟まれた空間に対して供給されてスピンベース15の径方向に流れるガス流が形成される。この実施形態では、基板裏面Wbとスピンベース15の上面周縁部は互いに近接しており、この僅かな隙間をガス流が基板Wの下面中央部から下面周縁部に向かって流れるため、ベルヌーイ効果の発現によって基板Wに対して吸引力Fbが作用する(ステップS21)。したがって、基板Wに対して押圧力Faのみならず、吸引力Fbが追加的、あるいは補助的に作用することとなり、基板Wの保持力を高めた状態で基板Wはスピンベース15とともに回転することとなる。よって、基板Wの回転速度が増大したとしても、依然として基板Wを安定して回転させることができる。また、上記した基板表面Wfへの窒素ガス供給と併せて、基板裏面Wb側にも窒素ガスを供給することで基板Wの表裏面の乾燥が促進される。
【0040】
こうして、基板Wのスピンドライ処理が終了すると、制御ユニット5は対向部材回転機構44のモータを制御して対向部材4の回転を停止させる(ステップS22)。また、制御ユニット5はチャック回転機構13を制御して基板Wの回転を停止させる(ステップS23)とともに、下方側ガス供給ユニット63の作動を停止させて基板Wへの吸引力Fbの付加を停止させる(ステップS24)。また、制御ユニット5は下方側ガス供給ユニット63の作動を停止させて基板Wの支持ピンPNへの押圧を解消する(ステップS25)。こうして、スピンチャック1への基板Wの保持が解除され、ベベルエッチング処理および裏面洗浄処理が終了する。
【0041】
その後、制御ユニット5は、対向部材4をスピンチャック1の上方の退避位置に上昇させ(ステップS26)、この状態で搬送手段(図示せず)が処理済の基板Wを装置から搬出して、1枚の基板Wに対する洗浄処理が終了する。
【0042】
以上のように、本実施形態によれば、第2保持モードでは、基板裏面Wbを支持ピンPNで支持しながら基板表面Wfに窒素ガスを供給して基板Wを支持ピンPNに向けて押圧力Faで押圧するのみならず、基板裏面Wbより基板Wに吸引力Fbを与えている。このように、吸引力Fbを付加した分だけ基板Wの保持力を高めることができ、基板Wを高速回転させる際にも安定して基板Wを保持することができ、その結果、基板処理を良好に行うことができる。また、基板Wを高速回転させながら基板処理することができるため、処理時間を短縮することができ、高スループットの基板処理が可能となる。
【0043】
また、本実施形態では、基板Wに吸引力Fbを与えるか否かにより基板保持力を簡単に変更することができる。しかも、基板Wの回転速度に応じて保持モードを第1保持モード(図1(b))と第2保持モード(図1(c))に切り替えているので、基板Wを常に適切な保持力で保持することができる。例えば第1保持モードでは下方側ガス供給ユニット63からの窒素ガスの供給が不要であり、窒素ガスの使用量を抑制することができる。
【0044】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、ベベルエッチング処理のみならず裏面洗浄処理も行う基板処理装置に対して本発明を適用しているが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではなく、いわゆる押付チャック方式により基板を略水平姿勢で保持しながら当該基板に対して所定の処理を施す基板処理装置全般に適用することができる。例えば図6に示すように、ベベルエッチング処理のみを行う基板処理装置に対して本発明を適用してもよい。
【0045】
また、上記実施形態では、支持ピンPNをスピンベース15に固定的に配置しているが、例えば特開2007−173360号公報に記載のように、支持ピンPNを昇降自在に設けてもよい。ここでは、複数の支持ピンを複数のグループに分け、基板Wを支持する支持ピンを切り替えているが、この支持ピンの切替動作と、上記吸引力の選択動作とを組み合わせることで保持モードをさらに多段階に分けることができ、基板Wの保持力をさらに精密に調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
この発明は、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板等の各種基板に対して所定の処理を施す基板処理装置および方法に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】この発明にかかる基板処理装置の一実施形態を示す図である。
【図2】図1の基板処理装置の主要な制御構成を示すブロック図である。
【図3】スピンベースを基板側から見た平面図である。
【図4】対向部材を基板側から見た底面図である。
【図5】図1の基板処理装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】この発明にかかる基板処理装置の他の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1…スピンチャック(基板支持手段)
5…制御ユニット
16…ガス案内孔(吸引手段)
63…下方側ガス供給ユニット(吸引手段)
64…上方側ガス供給ユニット(押圧手段)
401…下面(押圧手段)
402…ガス吐出口(押圧手段)
403…ガス流通空間(押圧手段)
Fa…押圧力
Fb…吸引力
PN…支持ピン(支持部材)
W…基板
Wb…基板裏面(基板の下面)
Wf…基板表面(基板の上面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略水平姿勢で保持した基板に対して所定の処理を施す基板処理装置において、
先端部が基板の下面に当接して該基板を略水平姿勢で支持する、少なくとも3個以上の支持部材を有する基板支持手段と、
前記基板支持手段に支持された基板の上面にガスを供給することによって前記基板を前記支持部材に向けて押圧可能に構成された押圧手段と、
前記基板に対して前記押圧手段の反対側で前記基板に吸引力を与える吸引手段と
を備えたことを特徴とする基板処理装置。
【請求項2】
前記吸引手段は前記基板の下面中央部から下面周縁部に向かうガス流を形成することによりベルヌーイ効果を発現させて前記基板を吸引する請求項1記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記押圧手段により前記基板を前記支持部材に押し付ける第1保持モードと、前記前記押圧手段により前記基板を前記支持部材に押し付けるとともに前記吸引手段により前記基板を前記支持部材に引き付ける第2保持モードとを切り替える制御手段をさらに備える請求項1または2記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記基板を回転させながら前記基板を処理する請求項3記載の基板処理装置であって、
前記制御手段は前記基板の回転速度に応じて保持モードを切り替える基板処理装置。
【請求項5】
略水平姿勢で保持した基板に対して所定の処理を施す基板処理方法において、
前記基板を保持するモードとして、
少なくとも3個以上の支持部材の先端部を基板の下面に当接して該基板を略水平姿勢で支持しながら前記基板の上面にガスを供給することによって前記基板を前記支持部材に向けて押圧して前記基板を保持する第1保持モードと、
前記基板下面側より前記基板に吸引力を与えて前記第1保持モードでの保持力よりも高い保持力で前記基板を保持する第2保持モードが設けられたことを特徴とする基板処理方法。
【請求項6】
少なくとも3個以上の支持部材の先端部を基板の下面に当接して該基板を略水平姿勢で支持しながら前記支持部材に押し付けて保持した状態で前記基板を回転しながら前記基板に対して所定の処理を施す基板処理方法において、
前記基板を前記支持部材に押し付ける力を前記基板の回転速度によって制御することを特徴とする基板処理方法。
【請求項7】
前記基板を保持する保持モードとして、
前記支持部材に支持された前記基板の上面にガスを供給することによって前記基板を前記支持部材に向けて押圧して前記基板を前記支持部材に押し付ける第1保持モードと、
前記第1保持モードで実行される基板押圧に加えて前記基板の下面側から前記基板に吸引力を与えて前記基板を前記支持部材に押し付ける第2保持モードと
を設け、
前記基板の回転速度に応じて前記保持モードを切り替える請求項6記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記第2保持モードでは、前記基板の下面中央部から下面周縁部に向かうガス流を形成することによりベルヌーイ効果を発現させて前記基板に吸引力を与える請求項5または7記載の基板処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−80583(P2010−80583A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245563(P2008−245563)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】