説明

多層基材およびプリフォーム

【課題】
多方向に強化繊維糸条が配向しながら曲面追従性に優れた多層基材と、それからなるプリフォームを提供する。
【解決手段】
強化繊維糸条が並列にシート状に配列されて強化繊維層を形成し、その強化繊維層の複数層が、それぞれの強化繊維層を構成する強化繊維糸条の配列方向が異なる角度で積層された状態で一体化されてなる多層基材において、(1)前記の強化繊維層を構成する強化繊維糸条の80重量%以上が強化繊維糸条を横切る方向に切断端を有すると共に、その切断端を有する強化繊維糸条の長さが10〜300mmの有限長であること、または(2)前記の強化繊維層を構成する強化繊維糸条の80重量%以上が10〜300mmの有限長の不連続繊維からなる紡績糸であって、その紡績糸の繊度が300〜5,000texであり、かつ、糸幅/厚み比が2〜20であることを特徴とする多層基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維糸条から構成される多層基材に関するものである。より詳しくは、本発明は、面内の多方向に強化繊維糸条が配列されステッチ糸や樹脂材料による接着により一体化された多層基材を用い、繊維強化樹脂(以下、FRPと記すことがある。)を製造するにあたり好適に用いられる賦型性に優れた多層基材ならびにその多層基材からなるプリフォームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、炭素繊維などの強化繊維糸条は、比強度および比弾性率が高いことから、FRPとして軽量化効果の大きいスポーツ・レジャー用品をはじめ、航空機用途や一般産業用に多く使われている。
【0003】
近年、これらの分野においてFRPの成形コストを低減させるべく、強化繊維糸条を面内の多方向に配列させ、ステッチ糸や樹脂材料の接着により一体化した多層基材が提案されている。これらの多層基材は、面内の多方向に強化繊維糸条が配向して配置されていることから、疑似等方性が得られることや、多数層の強化繊維層を一体化できることから、積層作業コストを低減できるなどの利点がある。
【0004】
しかしながら、面内の多方向に強化繊維糸条を配向させステッチ糸で一体化した多軸ステッチ基材は、多数層の強化繊維層がステッチ糸で拘束されていることから、二次曲面を有する形状に賦型させることが非常に困難な材料であるという問題があった。すなわち、この多軸ステッチ基材を雄型と雌型の中に入れ無理やり深絞り賦型しようとしても、賦型できなかったり、または、仮に賦型できたとしても皺が入ったり、脱型する際に多軸ステッチ基材が元の平面状態に回復しようとすることから、正確な形状を保持できないという問題があった。
【0005】
この問題を改善すべく、低融点ポリマーであるステッチ糸を用いた多軸ステッチ基材(特許文献1参照。)や、融点が異なるポリマーであるステッチ糸を用いた多軸ステッチ基材(特許文献2参照。)が提案されている。これらの多軸ステッチ基材は、低融点ポリマーでステッチ糸が構成されていることから、賦型時に多軸ステッチ基材を加熱し、ステッチ糸を溶融させることにより見かけ上の賦型性を向上させることができる。しかしながら、ステッチ糸を完全に溶融させてしまうと強化繊維糸条を拘束するものがなくなり、強化繊維層がばらばらになって形態を保持することができず、取り扱えなくなるという問題があった。
【0006】
一方、強化繊維織物においては、賦形性を向上させる方法として、織物プリプレグに切れ目を入れることにより、この切れ目が開くことにより賦形性を向上させることが提案されている(特許文献3参照。)。この提案では、切れ目と切れ目周辺では賦型時の変形挙動が異なることから、プリプレグのように樹脂を含浸させたものでなければ皺が入りやすいという問題がある。また別に、紡績糸からなる織物を用いて賦形性を向上させることが提案されている(特許文献4参照。)。この織物は、細繊度の紡績糸を用いた目付が100g/m2以下の低目付の織物であることから賦形性は優れているが、高目付化すると賦形性は低下してしまうという問題がある。このように、多軸ステッチ基材のみならず強化繊維織物においても賦形性に優れた材料が得られておらず、かかる従来の技術により得られた多軸基材は、二次曲面への追従性が劣ると共に無理やり曲面へ追従させようとすると、強化繊維がばらけ、繊維蛇行や繊維量の粗密が発生し、FRPに成形した場合に高い力学的特性が発揮できないばかりか、表面平滑性に優れた成形品を得ることができないという課題があった。
【特許文献1】特開2002−227066号公報
【特許文献2】特開2002−227068号公報
【特許文献3】特開昭63−267523号公報
【特許文献3】特開平10−280246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、多方向に強化繊維糸条が配向しながら曲面追従性に優れた多層基材ならびにそれからなるプリフォームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用するものである。すなわち、本発明の多層基材は、強化繊維糸条が並列にシート状に配列されて強化繊維層を形成し、その強化繊維層の複数層が、それぞれの強化繊維層を構成する強化繊維糸条の配列方向が異なる角度で積層された状態で一体化されてなる多層基材において、前記の強化繊維層を構成する強化繊維糸条の80重量%以上が強化繊維糸条を横切る方向に切断端を有すると共に、その切断端を有する強化繊維糸条の長さが10〜300mmの有限長であることを特徴とする多層基材である。
【0009】
また、本発明の多層基材は、強化繊維糸条が並列にシート状に配列されて強化繊維層を形成し、その強化繊維層の複数層が、それぞれの強化繊維層を構成する強化繊維糸条の配列方向が異なる角度で積層された状態で一体化されてなる多層基材において、前記の強化繊維層を構成する強化繊維糸条の80重量%以上が10〜300mmの有限長の不連続繊維からなる紡績糸であって、その紡績糸のトータル繊度が300〜5,000texであり、かつ、糸幅/厚み比が2〜20であることを特徴とする多層基材である。
【0010】
本発明の多層基材の好ましい態様によれば、前記の強化繊維糸条の切断端は、強化繊維糸条の長さ方向において少なくとも10〜300mmの間隔をおいて配置されている。
【0011】
本発明の多層基材の好ましい態様によれば、多層基材は、ステッチ糸または強化繊維層の層間に配置された樹脂材料により一体化されているものである。
【0012】
本発明の多層基材の好ましい態様によれば、前記のシート状の強化繊維層における1箇所あたりの切断端の長さは、ステッチ糸のステッチ長Sないしゲージ長Gのいずれか小さい間隔の1〜5倍である。
【0013】
本発明の多層基材の好ましい態様によれば、前記のシート状の強化繊維層における1箇所あたりの切断端の長さは、強化繊維糸条の一糸条あたりの平均糸幅の2〜15倍である。
【0014】
本発明の多層基材の好ましい態様によれば、前記の紡績糸の撚数は200ターン/m以下であり、また、その紡績糸は、実質的に無撚りでかつ補助糸でカバリングされ集束されてなるものである。
【0015】
本発明の多層基材の好ましい態様によれば、前記の紡績糸は実質的に無撚りでかつ結合剤により集束されてなるものである。
【0016】
本発明の多層基材の好ましい態様によれば、前記の80重量%以上が切断端を有する強化繊維糸条、または、前記の80重量%以上が不連続繊維からなる紡績糸である強化繊維糸条が並列に配列されてなる強化繊維層が、樹脂材料により一体化されてなるものである。
【0017】
本発明の多層基材の好ましい態様によれば、前記のシート状の強化繊維層1層あたりの目付は100〜1,000g/m2である。
【0018】
本発明の多層基材は、それを賦形してプリフォーム等の成形品とすることができる。具体的に、前記の多層基材は、1枚でまたは複数枚積層されて二次曲面を有する形状等に賦型されプリフォーム等の成形品とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、多層基材においてステッチ糸や樹脂材料などで強化繊維糸条を拘束しつつ、強化繊維層を構成する強化繊維糸条の80%以上が、前記強化繊維糸条を横切る方向に切断端を有すると共に、その切断端を有する強化繊維糸条が10〜300mmの有限長であるか、もしくは、その強化繊維糸条の80重量%以上が10〜300mmの有限長の不連続繊維からなる紡績糸であることから、多層基材を二次曲面に賦型させる際に、強化繊維糸条の切断端が開く、または、紡績糸での不連続繊維のす抜けにより多層基材が擬似的に伸びることにより、賦形性を向上させることができる。
【0020】
不連続繊維からなる紡績糸の場合においては、トータル繊度が300〜5,000texで、かつ、糸幅/厚み比が2〜20であることから、多層基材の補強繊維糸条として使用しても、表面平滑な多層基材を得ることができる。
【0021】
さらに、その多層基材得られたプリフォームは、賦型時にシート状の強化繊維層を構成する強化繊維糸条がステッチ糸や樹脂材料で一体化された状態で賦型できるので強化繊維糸条がばらけることなく賦型することができ、FRPに成形した場合、高い強度および弾性率などの力学的特性を発現するだけでなく、優れた外観品位を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の多層基材を、図面に基づいてさらに詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の多層基材を例示説明するための一部切り欠き概略斜視図であり、この図1は、本発明に係る一実施例として、強化繊維糸条を横切る方向に切断端17(第二層のみ図示)を有する多層基材である多軸ステッチ基材を例示説明するものである。図1に示すように、多層基材1は、下面から、まず第一層が多層基材1の長さ方向イに対して斜め方向に多数本の強化繊維糸条2が並行に配列して+α゜の強化繊維層3を構成し、次いで第二層が多層基材1の幅方向に多数本の強化繊維糸条4が並行に配列して長さ方向イに対して90゜の強化繊維層5を構成し、次いで第三層が多層基材1の斜め方向に多数本の強化繊維糸条6が並行に配列して長さ方向イに対して−α゜の強化繊維層7を構成し、次いで第四層が多層基材1の長さ方向に多数本の強化繊維糸条8が並行に配列して0゜の強化繊維層9を構成し、次いで第五層が多層基材1の斜め方向に多数本の強化繊維糸条10が並行に配列して長さ方向イに対して−α゜の強化繊維層11を構成し、次いで第六層が多層基材1の幅方向に多数本の強化繊維糸条12が並行に配列して長さ方向イに対して90゜の強化繊維層13を構成し、次いで第七層が多層基材1の斜め方向に多数本の強化繊維糸条14が並行に配列して長さ方向イに対して+α゜の強化繊維層15を構成し、互いに配列方向が異なる上記の第一層〜第七層の7層が積層され積層体を構成している。
【0024】
この積層体の表面、すなわち多層基材1の長さ方向イに対して+α゜の強化繊維層15の強化繊維糸条14の上部に、ステッチ糸16が多層基材1の長さ方向に配置され、7層の強化繊維層3、5、7、9、11、13、15からなる積層体がステッチ糸16で1/1のトリコット編み組織で縫合一体化されている。ここで、ステッチにおけるステッチ糸の編組織はトリコット編組織に限定されるものではなく、単環縫い組織など他の編組織であってもよい。
【0025】
多層基材1において、シート状の強化繊維層を構成する強化繊維糸条2、4、6、8、10、12、14は、(1)シート状の強化繊維層を構成する強化繊維糸条の80重量%以上が強化繊維糸条を横切る方向に切断端17を有し、その切断端17を有する強化繊維糸条が10〜300mmの有限長のものであるか、または(2)シート状の強化繊維層を構成する強化繊維糸条の80重量%以上が、10〜300mmの有限長の不連続繊維からなる紡績糸であり、その紡績糸のトータル繊度が300〜5,000texであり、かつ、糸幅/厚み比が2〜20のものである。
【0026】
多層材料1における複数層のシート状の強化繊維層を一体化させる手段としては、ステッチ糸を用いたステッチによる一体化、シート状の強化繊維層間に配置された樹脂材料の接着による一体化、およびニードルパンチングによる繊維の交絡による一体化などの手段が挙げられるが、好ましい手段は、ステッチ糸を用いたステッチによる一体化および樹脂材料を用いた接着による一体化である。
【0027】
ステッチ糸を用いたステッチによる一体化によれば、賦型する製品の形状に合わせてステッチのピッチや間隔を調整することにより強化繊維糸条の拘束状態を調整することができ、賦型し易くすることができる。また、樹脂材料を用いた接着による一体化であっても、シート状の強化繊維層表面に付着させる樹脂量を調整することにより多層基材を構成する強化繊維層の層間の接着強さ調整できると共に、賦型させる際の加熱温度を調整することによりプリフォームを容易に加工することができる。
【0028】
図2は、図1の多層基材1を二次曲面に賦型させる前の図1のA−A´断面における7層部分を示す概略部分断面図である。また、図3は図2に示す概略部分断面図の一部の拡大図である。また、図4は、図1の多層基材を曲面形状に賦型させたプリフォーム20の概略部分断面図である。
【0029】
図2の積層基材1において、シート状の強化繊維層3、5、7、9、11、13、15を構成する強化繊維糸条の80重量%以上が、前記強化繊維糸条を横切る方向に切断端17(第二層のみ図示)を有すると共に、その切断端17を有する強化繊維糸条が10〜300mmの有限長のものである。すなわち、強化繊維糸条の80重量%以上が切断端を有するとともに、その切断端を有する強化繊維糸条が10〜300mmの有限長であることから、図2の多層基材1を図4に示すように二次曲面形状に賦型しようとすると、図3に示す強化繊維糸条を横切る方向の切断端17(第二層のみ図示)の切断箇所を起点に、切断により不連続となった強化繊維糸条の切断端と切断端の間隔が広がりながら強化繊維糸条が移動することによって、二次曲面形状に賦型することができる。
【0030】
ここで、強化繊維糸条の80重量%以上が切断端を有するとは、少なくとも80重量%以上が切断端を有しておれば良く、100重量%であっても構わない。そうすることにより、よりいっそう二次曲面に賦形しやすくなる。
【0031】
本発明の多層基材においては、シート状の強化繊維層を構成する強化繊維糸条は強化繊維糸条を横切る方向に切断端を有し、切断端を有する強化繊維糸条は10〜300mmの有限長のものである。強化繊維糸条の長さが10mm未満では、切断長さが小さすぎてステッチ糸や樹脂材料で強化繊維糸条を拘束する箇所が少なく、強化繊維糸条が多層基材から脱落しやすくなる。一方、強化繊維糸条の長さが300mmを超えると、ステッチ糸や樹脂材料で強化繊維糸条を拘束する箇所が増えることから、強化繊維糸条が多層基材である多軸ステッチ基材から脱落することはなくなるものの、間隔が大きすぎて切断した箇所で強化繊維糸条が適度に滑らず、賦型が困難となる。そのため、強化繊維糸条は10〜300mmの範囲の有限長である。より好ましい強化繊維糸条の長さは、10〜100mmであり、この範囲であれば強化繊維糸条が適度に滑ることにより本発明の効果を最も有効に発揮することができる。本発明で使用される強化繊維糸条の太さは、トータル繊度が300〜5,000tex程度のマルチフィラメントであることが好ましい。また、強化繊維糸条のフィラメント数は、3,000〜80,000本程度であることが好ましい。
【0032】
また、本発明の多層基材における別の実施態様としては、シート状の強化繊維層を構成する強化繊維糸条の80重量%以上が10〜300mmの有限長の不連続繊維からなる紡績糸である。シート状の強化繊維層を構成する強化繊維糸条の80重量%以上、すなわち、ほとんどの強化繊維糸条が紡績糸であると共に、紡績糸が10〜300mmの有限長の不連続繊維から構成されることから、多層基材を賦型する際に適度に紡績糸をす抜けさせることによって変形性能を大きくすることができる。
【0033】
ここで、強化繊維糸条の80重量%以上が不連続繊維からなる紡績糸とは、少なくとも80重量%以上が不連続繊維からなる紡績糸であれば良く、100重量%であっても構わない。そうすることにより、よりいっそう二次曲面に賦形しやすくなる。
【0034】
ここで、紡績糸を構成する不連続繊維の長さが、10mm未満であれば、繊維長が短いことから多層基材から脱落しやすくなる。一方、不連続繊維の長さが300mmを超えると、多層基材からの脱落の心配はなくなるものの、繊維長が長すぎることからす抜けにくくなり賦型が困難となる。そのため、紡績糸を構成する不連続繊維の繊維長は10〜300mmの範囲の有限長である。より好ましい不連続繊維の長さは、10〜100mmであり、この範囲であれば強化繊維糸条が適度にす抜けて本発明の効果を最も有効に発揮することができる。
【0035】
さらに、シート状の強化繊維層を構成する強化繊維糸条の80重量%以上が10〜300mmの有限長の不連続繊維からなる紡績糸の場合においては、紡績糸のトータル繊度が300〜5,000texで、かつ、紡績糸の糸幅/厚み比が2〜20であれば、太繊度の強化繊維糸条にもかかわらず扁平状であることから、多層基材の表面凹凸を小さくすることができる。
【0036】
紡績糸のトータル繊度が300tex未満では繊度が小さすぎて補強繊維糸条が多数必要となり、一方紡績糸のトータル繊度が5,000texを超えると繊度が大きすぎて強化繊維糸条の糸幅をコントロールするのが困難となる。また、紡績糸の糸幅/厚み比が2未満では、紡績糸の断面形状が円に近くなることから多層基材にした場合に表面凹凸が大きくなる。また、紡績糸の糸幅/厚み比が20を超えると扁平糸の形態を保持することが困難となる。これらのことから、紡績糸のトータル繊度は300〜5,000texであり、かつ、糸幅/厚み比は2〜20の範囲である。
【0037】
ここで、糸幅と糸厚みは、多層基材から強化繊維糸条の断面形状が変わらないように取り出した状態で測定されるものである。測定方法としては、ノギスやマイクロメータなどを用いた接触式であっても構わないが、測定時に糸の断面形状が変化しやすいことから、好ましくは変位センサなどを用いた非接触式で測定する。ここで、糸幅と糸厚みは、取り出した糸の断面における最小直径を糸厚みとし、最大直径を糸幅とする。
【0038】
本発明では、強化繊維糸条の80%以上が強化繊維糸条を横切る方向に切断端を有することにより、ほとんどの強化繊維糸条が切断端を有することから変形性能を大きくすることができ、強化繊維糸条の長さ方向における切断端と切断端の間隔が10〜300mmの有限長であることから特定箇所の切断端間隔のみが広がることなく、さまざまな形状に賦型させるにあたって対応することができる。
【0039】
また、本発明における多層基材の一体化の好ましい態様として、前述のステッチによる一体化が挙げられる。ステッチの場合においては、強化繊維糸条を横切る方向に切断端を設ける際にステッチ糸の一部が切断されるだけであるから、強化繊維層の各層を構成している強化繊維糸条がばらけたりすることがないので、多層基材として一体化を維持しつつ賦型することが可能である。ここで、強化繊維糸条がばらけるとは、強化繊維糸条を拘束しているステッチがなくなることにより、多層基材の表面から強化繊維糸条がはずれてしまうことや、多層基材内部での繊維蛇行や、層内での強化繊維量の粗密が生じることを指す。通常、強化繊維糸条からなるシート状の複数層の強化繊維層をステッチ糸で一体化した多層基材を二次曲面形状に賦型しようとすると、ステッチ糸で強化繊維糸条が拘束されていることから強化繊維糸条が移動できず、多層基材を変形させようとしても強化繊維がつっぱることから二次曲面に追従させることが困難となる。そのため、強化繊維糸条は強化繊維糸条を横切る方向に切断端を有すると共に切断端を有する強化繊維糸条が10〜300mmの有限長であることにより、ステッチ糸が適度に強化繊維糸条を拘束しつつ、必要に応じて強化繊維糸条の切断箇所の間隔が広がるように強化繊維束が滑ることにより強化繊維糸条の移動が可能となり、多層基材であるにも関わらず、その変形量を大きくすることができるのである。
【0040】
また、本発明における多層基材の一体化の好ましい別の実施態様として、前述のシート状の強化繊維層の層間に配置された樹脂材料の接着により複数層の強化繊維層が一体化されている。この態様においては、多層基材は、常温では多層基材を構成する強化繊維層が樹脂材料により接着されていることからその形態が保持されているが、多層基材を加熱し、樹脂材料を軟化させることによって、多層基材を賦型させることができる。
【0041】
この場合においても、強化繊維糸条の長さは10〜300mmの範囲の有限長である。強化繊維糸条の長さが10mm未満では、切断長さが小さすぎて切断端の数が多くなり、多層基材の取扱時に強化繊維糸条が多層基材から脱落しやすくなる。一方、強化繊維糸条の長さが300mmを超えると、切断端の数が少なくなることから強化繊維糸条が多層基材から脱落することはなくなるものの、間隔が大きすぎて切断した箇所で強化繊維糸条が適度に滑らず、賦型が困難となる。そのため、接着により一体化した多層基材においても、強化繊維糸条の長さは10〜300mmの範囲の有限長である。より好ましい強化繊維糸条の長さは、10〜100mmであり、この範囲であれば強化繊維糸条が適度にす抜けて本発明の効果を最も有効に発揮することができる。
【0042】
ここで使用される樹脂材料としては、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂またはそれらの混合物が挙げられ、その形態は液体、粉体、繊維および不織布などいずれの形態であっても構わない。多層基材として接着性のみが要求される場合においては、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂をそれぞれ単独で用いてもよいが、耐衝撃性が要求される場合においては、適度の靭性を有しながら強化繊維層への適度な接着性を有することから、靭性の優れた熱可塑性樹脂と低粘度化しやすく強化繊維層への接着が容易な熱硬化性樹脂との混合物を用いることが好ましい。
【0043】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂およびフェノール樹脂などが挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボナート、ポリアセターアル、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフイド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリエチレン、ポリプロピレン、酢酸セルロースおよび酪酸セルロースなどが挙げられる。
【0044】
ここで樹脂材料の付着量は、強化繊維糸条から構成され一体化されるシート状の複数層の強化繊維層の重量に対して、好ましくは0.5〜15重量%である。付着量がこの範囲であれば、強化繊維糸条が一体となり、適度なコシをもつ強化繊維糸条ないし強化繊維層ににすることができる。樹脂材料の付着量が0.5重量%未満では繊維を一体にすることが困難であり、付着量が15重量%を超えると樹脂量が多すぎて強化繊維束をす抜けさせることが困難となる。そのため樹脂材料の付着量は、強化繊維束もしくは強化繊維束から構成されるシートの重量に対して、0.5〜15重量%であることが好ましい。
【0045】
また、本発明における好ましい別の実施態様として、シート状の強化繊維層を構成する強化繊維糸条の切断端が、強化繊維糸条の長さ方向において少なくとも10〜300mmの間隔を有するように配置されている。
【0046】
強化繊維糸条の長さ方向における切断端と切断端の間隔、すなわち切断端を有する強化繊維糸条の長さが10mm未満では、切断長さが小さすぎてステッチ糸や樹脂材料で強化繊維糸条を拘束する箇所が少なく、強化繊維糸条が多層基材から脱落しやすくなる。一方、強化繊維糸条の長さ方向における切断端と切断端の間隔が300mmを超えると、ステッチ糸や樹脂材料で強化繊維糸条を拘束する箇所が増えることから、強化繊維糸条が多軸ステッチ基材から脱落することはなくなるものの、間隔が大きすぎて切断した箇所で強化繊維糸条が適度に滑らず、賦型が困難となることがある。そのため、強化繊維糸条の切断端と切断端の間隔は10〜300mmの範囲であることが好ましい。切断端と切断端の間隔は、より好ましくは10〜100mmであり、このようにすることにより、よりいっそう二次曲面に賦形しやすくなる。
【0047】
また、本発明における好ましい別の実施態様として、シート状の強化繊維層における1箇所あたりの切断端の長さ(切込幅)は、好適にはステッチ糸のステッチ長Sないしゲージ長Gのいずれか小さい間隔の1〜5倍である。切断端の長さ(切込幅)がステッチ長Sないしゲージ長Gのいずれか小さい間隔の1倍未満では、強化繊維糸条をステッチ糸で拘束することができず、脱落する可能性が高くなる。また、切断端の長さ(切込幅)が5倍を超えると切断されるステッチ糸の数が多くなることから、多層基材における強化繊維糸条の拘束が甘くなり、強化繊維糸条が多層基材から脱落しやすくなる。そのため、シート状の強化繊維層における1箇所あたりの切断端の長さ(切込幅)は、ステッチ糸のステッチ長Sないしゲージ長Gのいずれか小さい間隔の1〜5倍であることが好ましい。
【0048】
ここで言うステッチ長Sとは、多層基材の長手方向に連続したステッチの間隔であり、ループ1コースあたりの長さに相当する。また、ゲージ長Gとは、多層基材の幅方向におけるステッチの間隔であり、編成幅をウエル数で割り返した距離に相当する。
【0049】
また、本発明における好ましい別の実施態様として、シート状の強化繊維層における1箇所あたりの切断端の長さ、すなわち切断端とそれに隣接する切断端との距離(切込幅)は、好適には強化繊維糸条の一糸条あたりの平均糸幅の2〜15倍である。切断端の長さ(切込幅)が糸幅の2倍未満では、糸幅変動があったとしても少なくとも1本の強化繊維糸条は完全に切断されていることになり、二次曲面に賦型させてプリフォームとする際に、強化繊維糸条の切断端の箇所が開くことで強化繊維糸条の移動により移動することで賦形性を向上させることができる。一方、切断端の長さ(切込幅)が15倍を超えると二次曲面に賦型させてプリフォームとする際に、賦形しやすくはなるものの、切断端の箇所で強化繊維が幅方向に連続して切断される長さが大きくなりすぎることから、複合材料にした場合に機械的特性の低下に繋がる。そのため、シート状の強化繊維層における1箇所あたりの切断端の長さは、強化繊維糸条の一糸条あたりの平均糸幅の2〜15倍であることが好ましい。
【0050】
ここで、基材における強化繊維糸条の切断は、シート状の強化繊維層毎に異なる箇所で切断されていてもよいし、多層基材の厚み方向に貫通した切り込みによる切断であってもかまわない。
【0051】
また、本発明における別の好ましい実施態様として、10〜300mmの有限長の不連続繊維からなる紡績糸においては、撚り数は200ターン/m以下であり、無撚りの紡績糸であっても良い。撚り数が200ターン/m以下であれば、撚り数が小さいことから紡績糸が小さな負荷です抜けやすくなり、賦形性が優れる基材を得ることができる。
【0052】
また、本発明における好ましい別の実施態様として、不連続繊維である短繊維からなる紡績糸は、実質的に無撚りで、かつ、補助糸でカバリングすることにより集束させたものとすることができる。紡績糸を無撚り状態で補助糸でカバリング処理することにより、紡績糸には撚りが掛かっていないことから、紡績糸をニップローラなどを介して加圧処理することにより、容易に扁平化処理を行うことができる。さらに、カバリングする補助糸が熱可塑性樹脂繊維糸であれば、カバリング状態で熱溶融させることにより、扁平状態で紡績糸の形状を保持することができる。
【0053】
ここで、カバリングする補助糸を構成する繊維は、ガラス繊維や炭素繊維などの無機繊維や、ナイロン、ポリエステルおよびポリウレタンなどの有機繊維のいずれであっても構わないが、なかでも、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂など繊維強化樹脂におけるマトリックス樹脂との接着性が良好なことから、共重合ナイロン繊維が好ましく用いられる。また、カバリングする補助糸のトータル繊度は、10〜500dtex範囲であることが好ましい。
【0054】
また、本発明における好ましい別の実施態様として、不連続繊維である短繊維からなる紡績糸は、実質的に無撚りで、かつ、結合剤で集束させたものとすることができる。無撚り状態で結合剤により集束させることにより、多層基材を作製する際は糸条の取扱性が良好であり、多層基材作製後はこの結合剤を溶融ないし除去することにより、紡績糸を適度にす抜けさせることができ、多層基材の賦型性を向上させることができる。
【0055】
ここで、結合剤は、液体や粉体などいずれの形態であっても構わない。結合剤が液状であれば、水溶性のポリビニルアルコール、水溶性ポリビニルピロリドンおよび可溶性ポリエステルなどのポリマーを紡績糸に付与した後乾燥することにより、糸条を集束させることができる。また、結合剤が粉体であれば、熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の混合ポリマーを加熱し紡績糸に付着させることにより、糸条を集束させることができる。
【0056】
また、本発明における好ましい別の実施態様として、80重量%以上が切断端を有する強化繊維糸条、または、80重量%以上が不連続繊維からなる紡績糸である強化繊維糸条が並列に配列された強化繊維層が、樹脂材料により一体化されているものである。
【0057】
このように強化繊維層を構成する強化繊維糸条を並列に配列し樹脂材料により一体化することにより、多層基材を製造する際に並行する強化繊維糸条が樹脂材料で強化繊維シートの取扱性が向上することや多層基材を賦型させようとした場合に、多層基材を加熱し、樹脂材料を軟化させることによって、容易に賦型させることができる。
【0058】
ここで使用する樹脂材料は、前述した強化繊維層間に配置する樹脂材料と同じであり、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂またはそれらの混合物であり、液体、粉体、繊維および不織布などいずれの形態であっても構わない。樹脂材料が繊維の場合においては、無機繊維糸に熱可塑性繊維糸をカバリングしたカバリング糸や、融点が異なる2種類の糸からなる芯鞘糸を、接着糸として、強化繊維層を構成する強化繊維糸条の配列方向と直角方向に所定間隔で幅方向に配置し、熱融着により一体化させることができる。
【0059】
また、本発明における好ましい別の実施態様として、多層基材を構成するシート状の強化繊維層の1層あたりの目付は、好ましくは100〜1,000g/m2である。強化繊維層の目付が100g/m2未満では、目付が小さくて積層枚数が多くなることから、強化繊維糸条の切断端の数が多くなり作業性が低下してしまう。また、強化繊維層の目付が1,000g/m2を超えると積層枚数が少なくなり、作業性は良好になるものの強化繊維糸条を切断した影響が顕著に出やすくなる。そのため、多層基材を構成する強化繊維層の1層あたりの目付は100〜1,000g/m2であることが好ましい。
【0060】
図1ないし図3においては、多層基材1枚から構成される多層基材とプリフォームを示したが、本発明では、この多層基材1を一つのユニット(以下、多層基材ユニットと呼称することがある。)とし、これを複数枚積層し、更にステッチ糸などにより一体化した多層基材であってもよい。このような態様にすることにより、一つの多層基材ユニットが多数層のシート状の強化繊維層から構成されていても、各強化繊維層を構成する強化繊維糸条が切断端を有することから各層内で強化繊維糸条の位置がずれることができるだけでなく、多層基材ユニットの層間で多層基材ユニット同士の位置もずれることができることにより、二次曲面形状への賦型性を更に高めることができる。また、上記効果以外にも、単独で賦型性に優れる多層基材ユニットを、更に積層して一体化することから、多層基材としての賦型性を維持しつつ、取り扱い性が優れ、二次曲面(場合によっては深絞り部分)を有した形状に賦型されたプリフォームを得ることができる。
【0061】
上述の単独で賦型性に優れる多層基材ユニットとしては、強化繊維糸条が多層基材の長手方向(0°方向)とその垂直方向(90°方向)とに積層された0°/90°の2軸多層基材であることが好ましい。このような構成の多層基材ユニットは、多層基材ユニット単独として賦型性に非常に優れている。すなわち、変形性能が優れる強化繊維基材を得ようとすると、強化繊維糸条の交錯角が大きく、かつ、繊維の配列方向が少ないほど基材の変形性能を大きくすることができることから、0°/90°の2軸に強化繊維糸条が配向された多層基材であることが好ましい。
【0062】
さらに、多層基材がステッチの場合においては、強化繊維糸条の配列方向とステッチラインを同じ方向にすることにより、ステッチ糸が存在することによる変形を阻害する影響を小さくすることができる。このようなことから、積層基材ユニットとしては、強化繊維糸条が基材の長手方向(0°方向)とその垂直方向(90°方向)とに積層された0°/90°の2軸基材であることが好ましい。
【0063】
本発明で使用されるステッチ糸としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリアラミド繊維、ビニロン繊維、ガラス繊維および炭素繊維などからなるステッチ糸を選択することができる。
【0064】
また、多層基材である多軸ステッチ基材におけるステッチ糸の配列間隔は2〜20mm程度であり、ピッチは2〜20mm程度であることが好ましい。より好ましくは、ステッチ糸の配列間隔は2〜10mmであり、ピッチは2〜10mmである。
【0065】
ステッチ糸の配列間隔やピッチがこれより小さいと、ステッチ糸による強化繊維糸条の拘束が強くなり、形成されるプリフォームの賦型性が低下し、曲面形状への追従性が損なわれる。また、配列間隔やピッチをこれより大きくすると、プリフォームの賦型性は良くなり、深絞り賦型が可能となるが、ステッチ間隔が広くなることによりプリフォームの形態保持しにくくなることや、ステッチ糸で拘束されている範囲内において強化繊維糸条が部分的に曲がったり、偏ったりし繊維が偏在することになる。
【0066】
また、ステッチ糸の太さは、細すぎるとステッチする際に糸切れしやすくなり、また、太すぎるとステッチ糸は多層基材の表面に位置するから、成形後のFRP表面が凸凹することになる。そのため、ステッチ糸のトータル繊度は、3〜50texであることが好ましい。ステッチ糸のトータル繊度は、より好ましくは7〜40texである。
【0067】
ステッチ糸の形態は、モノフィラメントや紡績糸などいずれであってよいが、好ましくは多層基材表面の平滑性を得るためにマルチフイラメント糸であることが好ましい。マルチフィラメント糸であれば、賦型時や成形時にプリフォームを加圧することにより、各フィラメントの配列位置が移動し、マルチフィラメント糸の厚みを薄くすることができるからである。
【0068】
また、本発明で使用される強化繊維層表面に付着させる強化繊維層接着用の好ましい樹脂材料としては、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂またはそれらの混合物が挙げられる。プリフォームとしての接着性のみが要求される場合においては、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂をそれぞれ単独で用いてもよいが、耐衝撃性が要求される場合においては、靭性の優れた熱可塑性樹脂と低粘度化しやすく強化繊維基材への接着が容易な熱硬化性樹脂との混合物を用いると、適度の靭性を有しながら強化繊維層への適度な接着性を付与することができる。
【0069】
上記の熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂およびフェノール樹脂などが挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボナート、ポリアセターアル、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフイド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリエチレン、ポリプロピレン、酢酸セルロースおよび酪酸セルロースなどが挙げられる。
【0070】
樹脂材料の強化繊維層への付着形態は、点状、線状または不連続線状である。樹脂材料を点状に付着させるためには、粉体状の樹脂材料を強化繊維基材表面に散布し、熱融着させるとよい。また、樹脂材料を線状または不連続線状に付着させるためには、樹脂材料からなる不織布や織物などの連続繊維からなる布帛をいったん作製した後、その樹脂材料からなる布帛を強化繊維基材表面に貼り合わせ、熱融着させることよい。このようにすることにより、プリフォーム作製において適度な接着性を有するとともにFRPの成形時には強化繊維基材の厚み方向への樹脂の含浸を阻害することがない。
【0071】
本発明で使用される強化繊維糸条としては、ガラス繊維、ポリアラミド繊維や炭素繊維からなる糸条が挙げられるが、なかでも炭素繊維糸条は、マトリックス樹脂との接着性が良く引張強度や引張弾性率も高く、FRP成形体の軽量化が図られるので好ましく用いられる。
【0072】
ここで炭素繊維は、ポリアクリロニトリルを炭素化して得られる炭素繊維(以下、PAN系炭素繊維と記す)、あるいは、ピッチプリカーサー(コールタールまたは石油重質分を原料として得られるピッチ繊維)を炭素化して得られる炭素繊維(ピッチ系炭素繊維)のいずれであっても構わない。
【0073】
本発明で使用される強化繊維糸条の太さは、トータル繊度が300〜5,000tex程度であることが好ましい。特に、太い強化繊維糸条を用いると、強化繊維糸条が安くなるので安価な多層基材が得られる。しかしながら、強化繊維層一層当たりの強化繊維糸条の目付が小さいと、層内において糸条と糸条の間に隙間ができ、ステッチ糸や樹脂材料で一体化した際に繊維密度が部分的に不均一となり、成形すると繊維密度が大きなところはFRPが厚くなり、また繊維密度が小さなところはFRPが薄くなり、表面が凸凹したFRPとなる。さらに、トータル繊度が700〜5,000texのような太い強化繊維糸条を用いる場合は、ステッチ糸や樹脂材料で一体化する前に、強化繊維糸条をローラの揺動操作やエアー・ジェット噴射で薄く拡げるなどの処理により、面内の全面にわたり強化繊維糸条の密度が均一となり、表面が平滑なFRPが得られるので好ましい態様である。
【0074】
図1に示した多層基材の強化繊維糸条の構成は、+α゜層/90゜層/−α゜層/0゜層/−α゜層/90゜層/+α゜層の7層からなる強化繊維層構成について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくとも、多層基材の長さ方向に対して−α゜層と+α゜層のバイアス(±α゜)の方向に強化繊維層が層構成をなしておればよい。さらに、多層基材における強化繊維層の層構成は、FRPに成形した際にそりを生じないように鏡面対称積層にすることが好ましい。
【0075】
また、強化繊維層の層構成の順番も、−α゜/90゜/+α゜/0゜/+α゜/90゜/−α゜の順番に限定するものではなく、0゜/−α゜/+α゜/90゜/+α゜/−α゜/0゜にするなど、適宜設計することができる。また、−α゜の強化繊維層と+α゜の強化繊維層がバイアス方向のみに強化繊維糸条が配列された多層基材にすると、多層基材を長さ方向に引っ張った場合、簡単に強化繊維糸条の方向がずれてしまい多層基材の幅方向が狭くなるなど、形態が不安定である。このようなときには、例えば、0゜方向または90゜方向に、細いガラス繊維、炭素繊維やポリアラミド繊維などからなる補助糸を20〜100g/m2程度配列し、−α゜の強化繊維層と+α゜の強化繊維層とをステッチ糸や接着樹脂で一体化すると形態を安定させることができる。
【0076】
本発明の多層基材は、必ずしも一方向に強化繊維糸条が配列し層構成をなした強化繊維層の積層体のみからなる必要はなく、賦形性を阻害しない範囲で織物やチョップド・ストランド・マットやコンティニュアス・ストランド・マットなどの層を有していてもよい。
【0077】
バイアス角α゜は、多層基材をFRP成形体の長さ方向に積層し、強化繊維による剪断補強を効果的に行う観点から45゜±10°の範囲が好ましく、より好ましくは45°である。
【0078】
本発明において、強化繊維糸条が有限長になるように切断端を設ける方法としては、カッターを用いて手作業や裁断機により切り込みを入れる方法(A法)、所定の位置に刃を配置した打ち抜き刃により打ち抜く方法(B法)、および所定の位置に刃を配置した回転ローラなどを介して連続的に切り込みを入れる方法(C法)などが挙げられる。簡易に強化繊維糸条に切断端を設ける場合には(A法)が、生産効率を考慮して多量に作製する場合には(B法)が、さらに大量生産する際には(C法)が適している。そして、各層毎に切り込みを入れるもしくは多層状態で切り込みを入れることにより、強化繊維糸条を所定の有限長になるように切断端を設けることができる。
【0079】
また、本発明のプリフォームは、図4のように多層基材を1枚でまたは複数枚積層して二次曲面を有する形状等に賦型することにより製造することができる。このような態様にすることにより、各層において、強化繊維糸条が切断端を有することや有限長の不連続繊維から構成されることから、多層基材としての賦形性を維持しつつ、取り扱い性が優れ、二次曲面への賦形性が優れるようになる。
【0080】
本発明の多層基材およびプリフォームは、構造物の補修・補強、自動車、船舶、航空機、自転車などの輸送機器、スポーツ用品およびFRP型をはじめ、その他の一般産業に用いられるFRPの強化材として好適に用いられる。
【実施例】
【0081】
(実施例1)
強化繊維糸条として、引張強度が4,900MPaであり、引張弾性率が230GPaであり、フィラメント数が12,000本のPAN系炭素繊維糸条(東レ株式会社製、登録商標:“トレカ”、トータル繊度:800tex)を用い、ステッチ糸には24本フィラメントからなるトータル繊度5.6texのポリエステル糸(東レ株式会社製、登録商標:“テトロン”、品番:56T−24−262)を用いた。PAN系炭素繊維糸条からなる繊維強化層を、PAN系炭素繊維糸条が多層基材の長手方向に対して、−45゜/90゜/+45゜/0゜/+45゜/90゜/−45゜となるように配列積層し、ステッチ糸で一体にした多層基材Aを作製した。ここで、強化繊維糸条である炭素繊維糸条からなる強化繊維層の各層において、炭素繊維糸条の配列密度が3.75本/cmで炭素繊維糸条の目付が300g/mになるようにすると共に、ステッチ糸の配列間隔を5mmとし、ステッチのピッチを5mmとした。
【0082】
また、多層基材を構成する強化繊維層の各層の炭素繊維糸条は、各層においてそれぞれ80重量%に炭素繊維糸条を横切る方向に切断端を有するとともに、この切断端を有する炭素繊維糸条の繊維長が50mmになるように50mm間隔で切断端を有するようにした。ここで切断端は、各層毎にカッターを用いて手作業で切り込みを入れることにより切断端を設け、7層積層した。また、炭素繊維糸条の切り込み長さは、26.7mm(強化繊維糸条10本)毎に21.3mm(強化繊維糸条8本)切断することにより強化繊維糸条の80重量%が切断端を有するようにした。切断端長さは、ステッチ間隔の4.3倍で、平均糸幅の8倍であった。
【0083】
そして、この多層基材Aを100cm×100cmの大きさに裁断した後、2枚重ね合わせた。これを、曲率半径が30cmの曲面を有する雄型と曲率半径が30.5cmの曲面を有する雌型との間に挟んで加圧し、曲面形状に賦型させたプリフォームAを得た。このプリフォームAにおいては、多層基材を構成する炭素繊維糸条の20重量%が連続繊維であり、残り80重量%の強化繊維糸条が50mm間隔で切断端を有することから、この切断箇所の間隔が広がることで皺など発生することなくプリフォームを作製することができた。
【0084】
(実施例2)
実施例1において、下記の点を変更したこと以外は実施例1と同じようにして、多層基材BおよびプリフォームBを得た。
1)ステッチ糸の配列間隔を10mmとし、ステッチのピッチをそれぞれ10mmとする。
2)多層基材を構成する強化繊維層の各層の炭素繊維糸条は、各層においてそれぞれ90重量%に炭素繊維糸条を横切る方向に切断端を有するとともに、この切断端を有する炭素繊維糸条の繊維長が200mmになるように200mm間隔で切断端を有するようにする。
3)炭素繊維糸条の切り込み長さは、26.7mm(強化繊維糸条10本)毎に24.0mm(強化繊維糸条9本)切断することにより強化繊維糸条の90重量%が切断端を有するようにする。
【0085】
得られた多層基材Bにおいては、切断端長さは、ステッチ間隔の2.4倍で、平均糸幅の9.0倍であった。そして、この多層基材Bを実施例1と同様にし、曲面形状に賦型させたプリフォームBを得た。このプリフォームBにおいては、多層基材を構成する炭素繊維糸条の10重量%が連続繊維であり、残り90重量%の強化繊維糸条が250mm間隔で切断端を有することから、この切断箇所の間隔が広がることで皺など発生することなくプリフォームを作製することができた。
【0086】
(実施例3)
実施例1において、引張強度が4,900MPaであり、引張弾性率が230GPaであり、フィラメント数が12,000本の連続したPAN系炭素繊維糸条(東レ株式会社製、登録商標:“トレカ”、総繊度:800tex)および引張強度が4,900MPaであり、引張弾性率が230GPaのPAN系炭素繊維(東レ株式会社製、登録商標:“トレカ”)を50mm長さにカットした不連続繊維からなる撚り数100ターン/mの紡績糸(トータル繊度800tex)を用い、各層において10本枚に2本(20重量%)が連続した繊維糸条、8本(80重量%)が紡績糸になるように配置した他は、実施例1と同じようにして多層基材CおよびプリフォームCを得た。ここで、紡績糸は糸幅/厚み比が10になるようにローラ間でニップし扁平化処理を行った。
【0087】
プリフォームCにおいては、多層基材を構成する炭素繊維糸条の20重量%が連続繊維であり、残りの80重量%が紡績糸からなることから、紡績糸を構成する短繊維がす抜けさせるのに大きな荷重が必要であったもののることで皺など発生することなくプリフォームCを作製することができた。また、糸幅/厚み比が10になるように扁平化処理を行っていることから連続繊維とほぼ糸厚みが同じになることから表面平滑なプリフォームが得られた。
【0088】
(実施例4)
実施例2において、炭素繊維を50mm長さにカットした不連続繊維からなる撚り数150ターン/mの紡績糸(トータル繊度800tex)を用い、各層において10本枚に1本(10重量%)が連続した繊維糸条、9本(90重量%)が紡績糸になるように配置したこと以外は、実施例2と同じようにして多層基材DおよびプリフォームDを得た。ここで、紡績糸は、糸幅/厚み比が10になるようにローラ間でニップし扁平化処理を行った。
【0089】
プリフォームDにおいては、多層基材を構成する炭素繊維糸条の10重量%が連続繊維であり、残りの90重量%が紡績糸からなり、かつ、撚り数が50ターン/mと小さかったことから、紡績糸を構成する短繊維が容易にす抜けることで皺など発生することなくプリフォームDを作製することができた。また、糸幅/厚み比が10になるように扁平化処理を行っていることから、連続繊維とほぼ糸厚みが同じになることから表面平滑なプリフォームが得られた。
【0090】
(実施例5)
実施例1において、強化繊維層の一体化手段が、樹脂材料による接着になるようにした他は、実施例1と同じようにして、多層基材EおよびプリフォームEを得た。ここで、接着に使用した樹脂材料は、ポリエーテルスルホン(住友化学工業株式会社製、登録商標:“スミカエクセル”、品番:5003P)とエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、登録商標:“エピコート”、品番:806を21重量部、日本化薬株式会社製、商品名:NC−3000を12.5重量部、および、日産化学工業株式会社製、商品名:TEPIC−P4重量部を、100℃で均一になるまで攪拌したもの)の配合割合が60:40の混合樹脂を粉砕した接着樹脂の粉体であり、この粉体を強化繊維層表面に散布した後、熱融着させることにより多層基材Eを作製した。強化繊維層に対する樹脂材料の付着量は、20g/mであった。プリフォームEにおいては、多層基材を構成する炭素繊維糸条の20重量%が連続繊維であり、残りの80重量%が切断端を有するとともに各シートが接着樹脂で接着されていることから、樹脂材料を加熱し軟化させることにより、強化繊維糸条が滑り、切断端の間隔が広がることで皺など発生することなくプリフォームを作製することができた。
【0091】
(実施例6)
実施例1において、引張強度が4,900MPaであり、引張弾性率が230GPaであり、フィラメント数が12,000本の連続したPAN系炭素繊維糸条(東レ株式会社製、登録商標:“トレカ”、総繊度:800tex)および引張強度が4,900MPaであり、引張弾性率が230GPaの炭素繊維(東レ株式会社製、登録商標:“トレカ”)を50mm長さにカットした不連続繊維からなる紡績糸(トータル繊度800tex)を用いると共に、各層において20重量%が連続繊維糸条で、80重量%が紡績糸になるように配置した他は、実施例1と同じようにして多層基材FとプリフォームFを得た。この紡績糸は無撚りとし、融点が110℃でトータル繊度が5.6texの共重合ナイロン糸(東レ株式会社製、登録商標:“エルダー”、品番:56T−10−G100)を200ターン/mでカバリングし、糸幅/厚み比が10になるように扁平化処理を行い、共重合ナイロン糸を溶融接着させることにより形態保持させると共に、賦型時には120℃の温度に加熱しながら賦型を行った。プリフォームFにおいては、多層基材Fを構成する炭素繊維糸条の20%が連続繊維糸条であり、残りの80%が熱可塑性樹脂繊維でカバリングした紡績糸からなり、カバリング糸を溶融させながら賦型させることにより、紡績糸を構成する短繊維がす抜けながらずれることで皺などの発生することなくプリフォームを作製することができた。また、糸幅/厚み比が10になるように扁平化処理を行うことにより、連続繊維糸条とほぼ糸厚みが同じになることから表面平滑なプリフォームが得られた。
【0092】
(実施例7)
実施例1において、引張強度が4,900MPaであり、引張弾性率が230GPaであり、フィラメント数が12,000本の連続したPAN系炭素繊維糸条(東レ株式会社製、登録商標:“トレカ”、総繊度:800tex)および引張強度が4,900MPaであり、引張弾性率が230GPaの炭素繊維(東レ株式会社製、登録商標:“トレカ”)を50mm長さにカットした不連続繊維からなる紡績糸(トータル繊度800tex)を用いるとともに、各層において10重量%が連続繊維糸条で、90重量%が紡績糸になるように配置した他は、実施例1と同じようにして多層基材GとプリフォームGを得た。この紡績糸は無撚りとし、ポリエーテルスルフォンとエポキシ樹脂の配合割合が60:40の混合樹脂を粉砕した接着樹脂(ガラス転移点:62℃)の粉体を紡績糸の表面に付着させ、糸幅/厚み比が10になるように扁平化処理を行い、接着樹脂を溶融接着させることにより形態保持させるとともに、賦型時には120℃の温度に加熱しながら賦型を行った。プリフォームGにおいては、多層基材を構成する炭素繊維糸条の10重量%が連続繊維糸条であり、残りの90重量%が熱可塑性樹脂/熱硬化性樹脂の混合粒子で集束させた紡績糸からなり、混合粒子を溶融させながら賦型させることにより、紡績糸を構成する短繊維(不連続繊維)がす抜けながらずれることで皺などの発生することなくプリフォームを作製することができた。また、糸幅/厚み比が10になるように扁平化処理を行っていることから連続繊維とほぼ糸厚みが同じになることから表面平滑なプリフォームが得られた。
【0093】
(比較例1)
強化繊維糸条に切断端を設けなかった他は、実施例1と同じようにして多層基材HおよびプリフォームHを製造した。プリフォームHにおいては、連続した強化繊維糸条がステッチ糸で拘束されており強化繊維糸条が移動できなかったことから、曲面形状に追従させることができず、皺が多数発生した。
【0094】
(比較例2)
実施例1において、連続繊維糸条と切断端を有する強化繊維糸条がそれぞれ8本毎に交互に配列し、それぞれの割合が50重量%ずつにした他は、実施例1と同じようにして多層基材IおよびプリフォームIを製造した。切断端長さは、ステッチ間隔の4.3倍、糸幅の8倍であった。プリフォームIにおいては、曲面形状に賦型できたものの部分的に炭素繊維糸条が移動できず、つっぱる箇所が存在したことから賦型後の形態を保持できなかった。
【0095】
(比較例3)
実施例1において、切断端を有する強化繊維糸条の繊維長が4mmになるように4mm間隔で各層毎にカッターを用いて手作業で切り込みを入れた他は、実施例1と同じようにして多層基材JおよびプリフォームJを製造した。切断端の長さは、ステッチ間隔の0.8倍、糸幅の1.5倍であった。プリフォームJにおいては、曲面形状に賦型できたものの切断端を有する炭素繊維の長さが4mmとステッチの間隔より小さかったことから多層基材からの炭素繊維糸条の脱落が多数発生した。
【0096】
上記の各実施例および各比較例の結果を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
表1と表2に示す結果から明らかなように、実施例1〜7のプリフォームは、多層基材においてステッチ糸や樹脂材料などで強化繊維糸条を拘束しつつ、強化繊維層を構成する強化繊維糸条の80重量%以上が、前記強化繊維糸条を横切る方向に切断端を有すると共に、その切断端を有する強化繊維糸条が10〜300mmの有限長であるか、もしくは、その強化繊維糸条の80重量%以上が10〜300mmの有限長の不連続繊維からなる紡績糸であることから、多層基材を二次曲面に賦型させる際に、強化繊維糸条の切断端が開く、または、紡績糸での不連続繊維のす抜けにより多層基材が擬似的に伸びることにより賦形性を向上させることができた。一方、比較例1のプリフォームにおいては、多層基材が連続した強化繊維糸条がステッチ糸で拘束されており強化繊維糸条が移動できなかったことから、曲面形状に追従させることができず、皺が多数発生した。また、比較例2のプリフォームにおいては、多層基材が連続繊維糸条と切断端を有する強化繊維糸条の割合が50重量%ずつであることから曲面形状に賦型できたものの部分的に炭素繊維糸条が移動できず、つっぱる箇所が存在したことから賦型後の形態を保持できなかった。さらに、比較例3のプリフォームにおいては、多層基材を曲面形状に賦型できたものの切断端を有する炭素繊維の長さが4mmとステッチの間隔より小さかったことから多層基材からの炭素繊維糸条の脱落が多数発生した。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の多層基材およびプリフォームは、多層基材を構成する強化繊維糸条の80重量%以上が強化繊維糸条を横切る方向に切断端を有すると共に、切断端を有する強化繊維糸条が10〜300mmの有限長であるか、または、多層基材を構成する強化繊維糸条の80重量%が10〜300mmの有限長の不連続繊維からなる紡績糸であることから、プリフォーム製造過程において皺が発生や強化繊維のバラケが発生することなく曲面形状に賦型が可能である。
【0101】
本発明のプリフォームは、賦型時に多層基材に皺が入ることもなく、強化繊維が真直に配向されているので、FRPに成形した場合、高い強度と弾性率などの力学的特性を発現するだけでなく、優れた外観品位を達成することができる。かかるプリフォームは、構造物の補修・補強、自動車、船舶、航空機、自転車などの輸送機器、スポーツ用品およびFRP型をはじめ、その他の一般産業に用いられるFRPの強化材として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、本発明の多層基材を例示説明するための一部切り欠き概略斜視図である。
【図2】図2は、図1の多層基材のA−A´における概略部分断面図である。
【図3】図3は、図2の概略部分断面図の拡大図である。
【図4】図4は、図1の多層基材を曲面形状に賦型させたプリフォームの概略部分断面図である。
【符号の説明】
【0103】
1:多層基材
2:+α゜の強化繊維層を構成する強化繊維糸条
3:+α゜の強化繊維層
4:90゜の強化繊維層を構成する強化繊維糸条
5:90゜の強化繊維層
6:−α゜の強化繊維層を構成する強化繊維糸条
7:−α゜の強化繊維層
8:0゜の強化繊維層を構成する強化繊維糸条
9:0゜の強化繊維層
10:−α゜の強化繊維層を構成する強化繊維糸条
11:−α゜の強化繊維層
12:90゜の強化繊維層を構成する強化繊維糸条
13:90゜の強化繊維層
14:+α゜の強化繊維層を構成する強化繊維糸条
15:+α゜の強化繊維層
16:ステッチ糸
17:切断端
20:プリフォーム
イ:多層基材の長手方向
A−A´:断面基準線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維糸条が並列にシート状に配列されて強化繊維層を形成し、その強化繊維層の複数層が、それぞれの強化繊維層を構成する強化繊維糸条の配列方向が異なる角度で積層された状態で一体化されてなる多層基材において、前記の強化繊維層を構成する強化繊維糸条の80%重量以上が強化繊維糸条を横切る方向に切断端を有すると共に、その切断端を有する強化繊維糸条の長さが10〜300mmの有限長であることを特徴とする多層基材。
【請求項2】
強化繊維糸条が並列にシート状に配列されて強化繊維層を形成し、その強化繊維層の複数層が、それぞれの強化繊維層を構成する強化繊維糸条の配列方向が異なる角度で積層された状態で一体化されてなる多層基材において、前記の強化繊維層を構成する強化繊維糸条の80重量%以上が10〜300mmの有限長の不連続繊維からなる紡績糸であって、その紡績糸のトータル繊度が300〜5,000texであり、かつ、糸幅/厚み比が2〜20であることを特徴とする多層基材。
【請求項3】
強化繊維糸条の切断端が、強化繊維糸条の長さ方向において少なくとも10〜300mmの間隔をおいて配置されていることを特徴とする請求項1記載の多層基材。
【請求項4】
ステッチ糸により一体化されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の多層基材。
【請求項5】
シート状の強化繊維層の層間に配置された樹脂材料により一体化されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の多層基材。
【請求項6】
1箇所あたりの切断端の長さが、ステッチ糸のステッチ長Sないしゲージ長Gのいずれか小さい間隔の1〜5倍であることを特徴とする請求項4記載の多層基材。
【請求項7】
1箇所あたりの切断端の長さが、強化繊維糸条の一糸条あたりの平均糸幅の2〜15倍であることを特徴とする請求項1、3ないし6のいずれかに記載の多層基材。
【請求項8】
紡績糸の撚数が200ターン/m以下であることを特徴とする請求項2、4ないし5のいずれかに記載の多層基材。
【請求項9】
紡績糸が、実質的に無撚りでかつ補助糸でカバリングされ集束されてなることを特徴とする請求項2、4ないし5のいずれかに記載の多層基材。
【請求項10】
紡績糸が、実質的に無撚りでかつ結合剤により集束されてなることを特徴とする請求項2、4ないし5のいずれかに記載の多層基材。
【請求項11】
80重量%以上が切断端を有する強化繊維糸条、または、80重量%以上が不連続繊維からなる紡績糸である強化繊維糸条が並列に配列されてなるシート状の強化繊維層が、樹脂材料により一体化されてなることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の多層基材。
【請求項12】
強化繊維層1層あたりの目付が100〜1,000g/m2であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の多層基材。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載の多層基材が、1枚でまたは複数枚積層されて二次曲面を有する形状に賦型されてなるプリフォーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−132775(P2008−132775A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280476(P2007−280476)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】