説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】太陽電池の反射防止膜の成膜において成膜速度を向上しつつ、高い水素パッシベーション効果を得ることができる成膜装置を提供する。
【解決手段】チャンバ101と、チャンバ101内に配置され、シリコン(Si)を含む下地層が設けられた被処理体100を保持するアノード電極106と、チャンバ内にアノード電極106と対向して配置された筒状のホローカソード電極102と、ホローカソード電極102に水素(H2)、窒素(N)及びシリコン(Si)を含む材料ガスを供給するガス供給管109と、ホローカソード電極102とアノード電極106との間に低周波を印加し、ホローカソード放電によるプラズマPを生成させる電源105とを備え、プラズマPで励起された材料ガスを下地層上に供給してシリコン窒化膜を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の反射防止膜を成膜する成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、太陽光を効率よく吸収するために、通常、太陽電池の受光面を反射防止膜で被覆している。反射防止膜の形成方法の一つとして、プラズマ化学気相成長(CVD)法によりシリコン窒化膜(Si34膜)を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。又、物理気相成長(PVD)法、蒸着法、スピンオン法、スプレー法及びディップ法等によりシリコン酸化膜(SiO2膜)等の反射防止膜を形成する手法が知られている。
【0003】
又、太陽電池には高い光電変換効率が要求されるが、シリコン基板にpn接合を形成する場合、シリコン基板の表面には未結合手(ダングリングボンド)が存在する。ダングリングボンドが多く存在すると、受光したときに発生するキャリアがダングリングボンドに捕捉されて光電変換効率が低下する。この光電変換効率の低下を抑制するものとして、反射防止膜であるシリコン窒化膜(Si34膜)中の水素(H2)によりシリコン基板中のダングリングボンドを終端する「水素パッシベーション効果」が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
又、太陽電池の製造プロセスにおいて、反射防止膜の成膜速度の向上が要求されている。そこで、ホローカソード放電により生成した高密度プラズマを利用する場合には、通常の平行平板型プラズマCVD装置と比較して解離能力が高いので、成膜速度を向上することはできる。しかしながら、高密度プラズマを利用する場合、高いH2パッシベーション効果を得ることが困難である。
【特許文献1】特開2000−299482号公報
【特許文献2】特開2003−273382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、太陽電池の反射防止膜の成膜において成膜速度を向上しつつ高い水素パッシベーション効果を得ることができる成膜装置及び成膜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、(イ)チャンバと、(ロ)チャンバ内に配置され、シリコンを含む下地層が設けられた被処理体を保持するアノード電極と、(ハ)チャンバ内にアノード電極と対向して配置された筒状のホローカソード電極と、(ニ)ホローカソード電極に水素、窒素及びシリコンを含む材料ガスを供給するガス供給管と、(ホ)ホローカソード電極とアノード電極との間に低周波を印加し、ホローカソード放電によるプラズマを生成させる電源とを備え、プラズマで励起された材料ガスを下地層上に供給してシリコン窒化膜を成膜する成膜装置が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、(イ)チャンバ内に配置されたアノード電極に、シリコンを含む下地層が設けられた被処理体を載置するステップと、(ロ)チャンバ内にアノード電極と対向して配置された筒状のホローカソード電極に、水素、窒素及びシリコンを含む材料ガスを供給するステップと、(ハ)ホローカソード電極とアノード電極との間に低周波を印加し、ホローカソード放電によるプラズマを生成させるステップと、(ニ)プラズマで励起された材料ガスを下地層上に供給してシリコン窒化膜を成膜するステップとを含む成膜方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、太陽電池の反射防止膜の成膜において成膜速度を向上しつつ高い水素パッシベーション効果を得ることができる成膜装置及び成膜方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものである。また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
(成膜装置)
チャンバ101と、チャンバ101内に配置され、シリコン(Si)を含む下地層が設けられた被処理体100を保持するアノード電極106と、チャンバ内にアノード電極106と対向して配置された筒状のホローカソード電極102と、ホローカソード電極102に水素(H2)、窒素(N)及びシリコン(Si)を含む材料ガスを供給するガス供給管109と、ホローカソード電極102とアノード電極106との間に低周波を印加し、ホローカソード放電によるプラズマPを生成させる電源105とを備え、プラズマPで励起された材料ガスを下地層上に供給してシリコン窒化膜を成膜する。本発明の実施の形態において、「低周波」とは、450kHz以下の交流信号と定義する。
【0011】
被処理体100としては、太陽電池のpn接合を構成するシリコン(Si)を含む半導体層が下地層として形成されたシリコン基板等が使用可能である。チャンバ101は、被処理体100の表面(下地層)に成膜するための密閉容器である。
【0012】
アノード電極106はプラズマPを発生させるための電極であり、基板ステージの機能も兼ねている。アノード電極106は図示を省略した昇降機構により上下方向の移動と回転が可能であり、必要に応じて、被処理体100の加熱や冷却等も可能なように構成されている。
【0013】
ホローカソード電極102にはガス供給管109が接続されている。ガス供給管109は、窒素(N2)ガス、アンモニア(NH3)ガス及びシラン(SiH4)ガス等の材料ガスを供給する。本発明の実施の形態における「材料ガス」とは、成膜される膜の材料となるガスの他に、希ガスや反応性活性種となるガスを含むものを意味する。
【0014】
ホローカソード電極102は、ガス供給管109から材料ガスが供給される筒状の中空部110と、アノード電極106側に設けられ、ホローカソード放電を発生させる凹部104と、凹部104に設けられ、中空部110と凹部104を貫通し、材料ガスを中空部110側から凹部104側へ放出する開口部103を有する。凹部104は、円筒形状、ストライプの溝部等の種々の形状が採用可能であり、ホローカソード放電を発生し得る形状であれば特に限定されない。
【0015】
アノード電極106は接地電位とされ、ホローカソード電極102には電源105が接続されている。電源105は、反射防止膜としてのシリコン窒化膜(Si34膜)の成膜時には、ホローカソード電極102とアノード電極106との間に低周波を印加する。チャンバ101の底部には、図示を省略した真空排気ポンプに接続される真空排気管108が設けられている。
【0016】
(太陽電池の反射防止膜の成膜方法)
次に、本発明の実施の形態に係る太陽電池の反射防止膜の成膜方法の一例を、図1を用いて説明する。
【0017】
まず、アノード電極106に被処理体100を載置し、チャンバ101を密閉後、真空状態にする。ガス供給管109からホローカソード電極102内の中空部110へSiH4ガスを3.04×10-2Pa・m3/s程度、NH3ガスを3.38×10-2Pa・m3/s程度、N2ガスを1.35×10-1Pa・m3/s程度で供給する。材料ガスは開口部103を介してチャンバ101内に供給される。そして、真空排気管108から排気を行いチャンバ101内の圧力を66.66Pa程度に保持する。図示を省略したヒータにより加熱し、成膜温度を450℃程度とする。
【0018】
電源105によりパワー700W程度で、250kHz程度の低周波をホローカソード電極102とアノード電極106との間に印加する。これにより負電位に保たれた凹部104においては電子が閉じ込められ電離・イオン化が促進されてホローカソード放電による高密度のプラズマPが生成される。この高密度のプラズマPのラジカルにより、開口部103を介して放出されたSiH4、NH3、N2を解離させ、被処理体100のシリコンを含む下地層上に屈折率2.00〜2.20程度、膜厚80nm程度のシリコン窒化膜(Si34膜)からなる反射防止膜を成膜する。
【0019】
本発明の実施の形態においては、高密度のプラズマPを用いて成膜を行うので、通常の平行平板型プラズマCVD装置と比して成膜速度を向上させることができる。更に、ホローカソード電極102とアノード電極106との間に低周波を印加することにより、イオン照射率を高めてH+イオンを被処理体100の下地層に照射し、下地層に拡散させ、粒界パッシベーションを促進させることができる。よって成膜速度を向上しつつ、下地層において高い水素パッシベーション効果を得ることができる。なお、低周波は、50〜450kHzの範囲であることが好ましい。50kHzよりも小さいと放電が不安定であり、450kHzよりも大きいと水素パッシベーション効果が少なくなる。
【0020】
(太陽電池)
次に、本発明の実施の形態に係る成膜装置を用いて反射防止膜が形成される太陽電池の一例を説明する。
【0021】
本発明の実施の形態に係る太陽電池は、図2に示すように、p型半導体層11と、p型半導体層11上に配置されたn型拡散層12と、n型拡散層12上に配置された反射防止膜14と、n型拡散層12上に配置された表面電極15a,15bと、p型半導体層11の裏面に配置されたp型拡散層13と、p型拡散層13の裏面に配置された裏面電極16a,16bとを備える。表面電極15a,15bの表面には半田層17a,17bが配置され、裏面電極16a,16bの裏面には半田層18a,18bが配置されている。
【0022】
p型半導体層11とn型拡散層12によりpn接合を構成している。反射防止膜14としてはシリコン窒化膜(Si34膜)が使用可能であり、本発明の実施の形態に係る成膜装置を用いて形成される。表面電極15a,15b及び裏面電極16a,16bとしては銀(Ag)やアルミニウム(Al)等が使用可能である。
【0023】
(太陽電池の製造方法)
次に、本発明の実施の形態に係る太陽電池の製造方法について、図3のフローチャートを参照しながら説明する。
【0024】
(イ)ステップS1で、p型シリコン基板を用意する。アルカリ水溶液によるエッチングや反応性イオンエッチング(RIE)法等により表面処理を行い、p型シリコン基板の表面に微細凹凸構造を形成する。これにより、p型シリコン基板表面の光の反射を抑えることができる。
【0025】
(ロ)ステップS2で、オキシ塩化リン(POCl3)を用いた気相拡散法、燐酸(P25)を用いた塗布拡散法、リン(P)イオンを直接拡散させるイオン注入法等により、リン(P)をn型ドーパントとしてp型シリコン基板の表面から拡散させ、n型拡散層12を形成する。ステップS3で、n型ドーパントを拡散したp型シリコン基板の一方の面のn型拡散層をエッチング処理を行い除去する。
【0026】
(ハ)ステップS4で、エッチングしたp型シリコン基板の表面にAlペーストを塗布し、熱処理することによって、エッチングしたp型シリコン基板の表面からアルミニウム(Al)等のp型ドーパントを拡散させ、p型拡散層13を形成する。
【0027】
(ニ)ステップS5で、図1に示した本発明の実施の形態に係る成膜装置を用いて、ホローカソード電極102とアノード電極106との間に250kHz程度の低周波を印加しながら、ホローカソード放電による高密度のプラズマPを生成し、n型拡散層12の表面にシリコン窒化膜(Si34膜)を反射防止膜14として成膜する。低周波を印加することにより、イオン照射率を高めてH+イオンをn型拡散層12、p型半導体層11及びp型拡散層13に照射することにより、粒界パッシベーションを促進させることができる。
【0028】
(ホ)ステップS6で、Ag粉、バインダ、フリットからなるAgペーストをスクリーン印刷することにより、Agペーストのパターニングを行う。Agペーストは、太陽電池の効率を高めるために例えば櫛型パターンに形成される。ステップS7で、印刷されたAgペーストが焼成され、表面電極15a,15b及び裏面電極16a,16bがそれぞれ形成される。ステップS8で、半田ディップ法により表面電極15a,15bの表面に半田層17a,17bを形成し、裏面電極16a,16bの裏面に半田層18a,18bを形成する。
【0029】
本発明の実施の形態に係る太陽電池の製造方法によれば、反射防止膜の成膜プロセスにおいて成膜速度を向上しつつ、高いH2パッシベーション効果を得ることができる。よって、太陽電池の製造工程全体としても生産性が向上し、高い光電変換効率の太陽電池を製造可能となる。
【0030】
上記のように、本発明は実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態に係る成膜装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る太陽電池の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る太陽電池の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0032】
11…p型半導体層
12…n型拡散層
13…i型拡散層
14…反射防止膜(シリコン窒化膜)
15a,15b…表面電極
16a,16b…裏面電極
17a,17b,18a,18b…半田層
100…被処理体
101…チャンバ
102…ホローカソード電極
103…開口部
104…凹部
105…電源
106…アノード電極
108…真空排気管
109…ガス供給管
110…中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、
前記チャンバ内に配置され、シリコンを含む下地層が設けられた被処理体を保持するアノード電極と、
前記チャンバ内に前記アノード電極と対向して配置された筒状のホローカソード電極と、
前記ホローカソード電極に水素、窒素及びシリコンを含む材料ガスを供給するガス供給管と、
前記ホローカソード電極と前記アノード電極との間に低周波を印加し、ホローカソード放電によるプラズマを生成させる電源
とを備え、前記プラズマで励起された前記材料ガスを、前記下地層上に供給してシリコン窒化膜を成膜することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記電源が、50〜450kHzの低周波を前記ホローカソード電極と前記アノード電極との間に印加することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記ホローカソード電極が、
前記材料ガスが供給される筒状の中空部と、
前記アノード電極側に設けられた凹部と、
前記中空部と前記凹部を貫通し、前記材料ガスを前記中空部側から前記凹部側へ放出する開口部
とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜装置。
【請求項4】
チャンバ内に配置されたアノード電極に、シリコンを含む下地層が設けられた被処理体を載置するステップと、
前記チャンバ内に前記アノード電極と対向して配置された筒状のホローカソード電極に、水素、窒素及びシリコンを含む材料ガスを供給するステップと、
前記ホローカソード電極と前記アノード電極との間に低周波を印加し、ホローカソード放電によるプラズマを生成させるステップと、
前記プラズマで励起された前記材料ガスを前記下地層上に供給してシリコン窒化膜を成膜するステップ
とを含むことを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−40978(P2010−40978A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205364(P2008−205364)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】