説明

排ガスのNOX低減方法及び装置

【課題】過給機を備えた舶用ディーゼル機関の排ガス中のNOをSCRシステムで除去する場合に、燃焼効率を悪化させることなく、排ガス中のNO除去を可能とする。
【解決手段】2サイクル舶用ディーゼル機関本体12の排ガス経路に過給機18が設けられ、過給機18の下流側にSCR触媒コンバータ28が設けられている。過給機18のタービン出口排ガス温度の目標値と計測値との差、及び機関負荷信号を機関本体制御器36に入力する。機関本体制御器36で、予め設定された相関マップに基づいて、排気弁及び燃料噴射弁のアクチュエータ38を制御し、排気弁開閉時期及び燃料噴射時期を含む燃料噴射モードを補正することにより、SCR触媒コンバータ28に流入する排ガス温度をSCR触媒の活性温度に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機を設けたディーゼル機関、特に舶用ディーゼル機関に適用される排ガスのNO低減方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル機関は、ガソリン機関よりも燃費に優れていることから、輸送業界などで舶用、自動車用などに広く用いられている。しかし、排気ガス中に含まれている未燃焼燃料などの粒子状物質(PM;Paticulate Matter)や、窒素酸化物として知られているNO(NO、NO等)などが問題になっている。そこで、排気ガスからこのNOを除去するための手段として、尿素水の加水分解によって得られたアンモニアガスにより、排気ガス中に含まれるNOを触媒上で還元して除去する方法が知られている。この方法は、SCR(Selective Catalytic Reduction;選択性還元触媒)システムとして知られている。
【0003】
特許文献1には、このSCRシステムが開示されている。このSCRシステムは、排気経路中の前段側において、ディーゼル機関の排気ガス中のPMと気体状の炭化水素成分とを取り除いた後、後段側に設けられたSCR触媒上でアンモニアガスとNOとを反応させることによって、NOを還元して窒素と水とに変換するものである。
【0004】
アンモニアガスは毒性を有するため、取り扱いが容易ではなく、そのため二重配管としたり、あるいはアンモニアの蒸発を防ぐため、配管や容器を低温に保持する必要があった。そのため、排気ガスに尿素水溶液(CO(NH・aq)をミスト状に噴霧し、排気ガスの熱により尿素水溶液を気化させると共に、この尿素水溶液を加水分解してアンモニアガスを得るようにしている。
【0005】
また、大気に放出できるアンモニアガスの濃度は、例えば10ppmといった極めて厳しい基準に規定されているため、排ガス中のNOに対するアンモニアガス量が当量以下となるように、尿素水溶液の供給量を調整し、還元反応後にアンモニアが残留しないようにする必要がある。
【0006】
舶用ディーゼル機関では、排気経路に過給機が設けられている場合、後述する理由により、過給機の排気経路下流側にSCR触媒が配置されていた。以下、2サイクル舶用ディーゼル機関の排ガス系統の構成を図7により簡単に説明する。
図7において、2サイクル舶用ディーゼル機関100のシリンダ102の出口に排気弁104が設けられ、該出口に排ガス経路106が接続されている。この排ガス経路106に過給機108のタービン110が設けられ、排ガスeによってタービン110が駆動される。
【0007】
タービン110の下流側排ガス経路116には、尿素水溶液やアンモニア水溶液等の還元剤水溶液rが噴霧される。排ガス経路116には、SCR触媒を内蔵したSCR触媒コンバータ118が設けられている。過給機108のタービン110とコンプレッサ112とが回転軸114で一体に接続され、コンプレッサ112はタービン110の回転と共に回転する。
【0008】
排ガスeによりタービン110が回転されると、コンプレッサ112に被圧縮空気aが吸入されて圧縮される。この圧縮空気は、掃気管120を介してインタクーラ122で冷却された後、シリンダ102に供給される。シリンダ102では燃料が噴霧され、圧縮空気と共に圧縮されて燃焼し、舶用ディーゼル機関100が駆動する。
【0009】
燃焼後の排ガスeは、開放された排気弁104を通って排気管106に排出され、過給機108のタービン110を駆動する。排ガスeは、タービン110の下流側で、SCR触媒を内蔵したSCR触媒コンバータ118に達する。排気管106に尿素水溶液又はアンモニア水溶液等の還元剤水溶液rが噴霧され、尿素水溶液が噴霧された場合は、尿素水溶液は排ガスの温度で加水分解してアンモニアガスに変わる。
【0010】
SCR触媒コンバータ118に内蔵されたSCR触媒上でアンモニアガスと排ガス中のNOとが反応し、NOが還元されて窒素と水に変換される。こうしてNOが除去された排ガスeが外部に排出される。図中の数値は、排気管106又は116を流れる排ガスeの温度を示す。
【0011】
SCR触媒は、その機能を発揮できる好適な温度(活性温度)範囲があり、この温度範囲を外れると、その機能を発揮できない。
特許文献2には、自動車などに搭載され、排ガス経路にNO除去用触媒システムを設けた内燃機関が開示されている。この内燃機関は、吸・排気弁を開閉駆動する電磁駆動式動弁機構を備え、この電磁駆動式動弁機構を作動させて、排気弁の動作タイミングを変更させることで、シリンダから排出される排気ガスの温度を下げ、排ガス浄化用触媒に流入する排ガス温度を該排ガス浄化用触媒の活性温度に入るようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−209896号公報
【特許文献2】特開2001−271663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
2サイクル舶用ディーゼル機関100では、シリンダ102に供給される空気の一部が未燃焼空気として排ガス経路106に流れるため、排ガス温度は、他の内燃機関と比べて低下する傾向にある。そのため、過給機108の下流側排気管116にSCR触媒コンバータ118を配置した場合、排気温度が250℃程度と低くなり、SCR触媒の活性温度である320℃程度に達しない。従って、排ガス経路に追い焚きバーナ等を付設して排ガス温度を高くする必要があった。
【0014】
特に、毒性があるアンモニアに比べてハンドリングが比較的容易な尿素水を用いる場合、尿素水からアンモニアに変換する化学反応は、さらに高い温度(350℃以上)が必要になる。
このため、タービン112の上流側の排気管106にSCR触媒コンバータ118を設けた場合、排気温度は条件を満たすが、熱容量が大きいSCR触媒がタービン112に供給されるべき熱量を奪い去るため、舶用ディーゼル機関100の過度特性の悪化が懸念される。
【0015】
排ガス中のNO規制は、年々強化されてきており、それは海上でも例外ではない。特に、特定海域でNO排出が厳しく制限されつつある。
なお、特許文献2に開示された技術は、電磁駆動式動弁機構を備えた吸・排気弁の動作タイミングを変更することで、内燃機関の排ガス温度の上昇を抑制するものであるが、排ガス経路に過給機を備えた舶用ディーゼル機関における前述の問題を解決するものではない。
【0016】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、過給機を備えた舶用ディーゼル機関の排ガス中のNOをSCRシステムで除去する場合に、燃焼効率を悪化させることなく、排ガス中のNO除去を可能とすることを目的とする。
また、舶用ディーゼル機関を搭載した船舶が、排ガス規制が特に厳しい海域を航行する場合に、該排ガス規制値を満たすことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる目的を達成するため、本発明の排ガスのNO低減方法は、過給機が設けられたディーゼル機関の排ガス経路に還元剤を供給し、過給機下流側の排ガス経路に設けられた還元触媒で該還元剤と排ガス中のNOを反応させてNOを除去するようにした排ガスのNO低減方法において、排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードと、排ガス温度及び燃料消費率との相関を示す相関マップを予め作成するマップ作成工程と、該相関マップに基づいて排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードの少なくとも一方を変更し、燃料消費率の悪化を抑制しながら前記還元触媒に流入する排ガス温度を該還元触媒の活性温度に調整する排ガス温度調整工程と、からなるものである。
【0018】
本発明方法では、前記相関マップに基づいて、燃料消費率が良好で、かつ排ガス温度を還元触媒の活性温度に維持できる排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードに変更する。例えば、排気弁の開放時期を遅らせたり、あるいは燃料噴射時期を遅らせる等の操作をすることにより、排ガス温度を上昇させる。
かかる操作によって、燃料消費率を良好に維持しながら、還元触媒の機能を維持して、排ガス中のNOを低減できる。
【0019】
従って、追い焚きバーナなどの付設が不要となり、ディーゼル機関の設備費増加を防ぐことができると共に、NO低減のための運転が容易になり、運転にかかるコストを低減できる。
【0020】
本発明方法において、ディーゼル機関が舶用ディーゼル機関であり、舶用ディーゼル機関を搭載した船舶が位置計測装置により排ガス規制海域に入ったかどうかを検知し、船舶が排ガス規制海域に入った時に排ガス温度調整工程を行なうようにするとよい。
前記排ガス温度調整工程を行なうと、舶用ディーゼル機関の負荷が大きくなり、燃料消費率が悪化する。そのため、排ガス規制海域でのみ排ガス温度調整工程を行なうようにすることで、燃料消費率の悪化を抑制することができる。
【0021】
前記本発明方法の実施に直接使用可能な本発明の排ガスのNO低減装置は、過給機が設けられたディーゼル機関の排ガス経路に設けられた還元剤供給部と、過給機下流側の排ガス経路に設けられ還元触媒により排ガスと還元剤とを反応させてNOを低減する還元部とを備えた排ガスのNO低減装置において、前記還元部の入口側排ガス経路に設けられ該排ガス経路を流れる排ガスの温度を検出する温度センサと、該温度センサの検出値が予め設定された目標値となるように、排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードの少なくとも一方を変更するコントローラと、を備え、排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードと、排ガス温度及び燃料消費率との相関を示す相関マップを予め作成しておき、前記コントローラによって該相関マップに基づいて排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードの少なくとも一方を変更し、燃料消費率の悪化を抑制しながら前記還元触媒に流入する排ガス温度を該還元触媒の活性温度に調整するように構成したものである。
【0022】
本発明装置では、前記コントローラにより、排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードと、排ガス温度及び燃料消費率との相関を示す相関マップに基づいて、排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードを変更する。これによって、燃料消費率を良好に維持しながら、還元触媒の機能を発揮させ、排ガス中のNOを低減できる。従って、追い焚きバーナなどの付設が不要となり、舶用ディーゼル機関の設備費増加を防ぐことができると共に、NO低減のための運転が容易になり、運転にかかるコストを低減できる。
【0023】
本発明装置において、ディーゼル機関が舶用ディーゼル機関であり、舶用ディーゼル機関を搭載した船舶において、船舶に船舶の位置を計測する位置計測装置を備え、該位置計測装置により該船舶が排ガス規制海域に入ったことを検知した時に、自動的に前記コントローラを作動させて、排ガス温度を還元触媒の活性温度となるように構成するとよい。
これによって、船舶が排ガス規制海域に入った時、自動的に排ガス温度が還元触媒の活性温度となるので、排ガス規制海域でのNO排出を低減して、規制量以下にすることができる。
【0024】
本発明装置において、ディーゼル機関が2サイクル舶用ディーゼル機関であるとよい。前述のように、2サイクル舶用ディーゼル機関では、燃焼シリンダに供給される空気の一部が未燃焼空気として排ガス経路に流れるため、排ガス温度は低下する傾向にあり、SCR触媒の活性温度に達しない。
本発明装置を2サイクル舶用ディーゼル機関に適用することによって、排ガス温度調整を容易にでき、排ガス中のNO低減を可能とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明方法によれば、過給機が設けられたディーゼル機関の排ガス経路に還元剤を供給し、過給機下流側の排ガス経路に設けられた還元触媒で該還元剤と排ガス中のNOを反応させてNOを除去するようにした排ガスのNO低減方法において、排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードと、排ガス温度及び燃料消費率との相関を示す相関マップを予め作成するマップ作成工程と、該相関マップに基づいて排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードの少なくとも一方を変更し、燃料消費率の悪化を抑制しながら前記還元触媒に流入する排ガス温度を該還元触媒の活性温度に調整する排ガス温度調整工程と、からなるので、燃料消費率を良好に維持しながら、還元触媒の機能を維持して、排ガス中のNOを低減できる。
【0026】
従って、追い焚きバーナなどの付設が不要となり、ディーゼル機関の設備費増加を防ぐことができると共に、NO低減のための運転が容易になり、運転にかかるコストを低減できる。
【0027】
本発明装置によれば、過給機が設けられたディーゼル機関の排ガス経路に設けられた還元剤供給部と、過給機下流側の排ガス経路に設けられ還元触媒により排ガスと還元剤とを反応させてNOを低減する還元部とを備えた排ガスのNO低減装置において、還元部の入口側排ガス経路に設けられ該排ガス経路を流れる排ガスの温度を検出する温度センサと、該温度センサの検出値が予め設定された目標値となるように、排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードの少なくとも一方を変更するコントローラと、を備え、排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードと、排ガス温度及び燃料消費率との相関を示す相関マップを予め作成しておき、前記コントローラによって該相関マップに基づいて排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードの少なくとも一方を変更し、燃料消費率の悪化を抑制しながら前記還元触媒に流入する排ガス温度を該還元触媒の活性温度に調整するように構成したので、前記本発明方法と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明方法及び装置の第1実施形態に係る2サイクル舶用ディーゼル機関の排気系統を示す系統図である。
【図2】前記第1実施形態に係る排ガス温度制御装置のブロック線図である。
【図3】前記第1実施形態に係る機関負荷とタービン出口温度目標値との関係を示す線図である。
【図4】前記第1実施形態で、補正された排気弁の開閉時期と燃料噴射時期との関係を示す線図である。
【図5】前記第1実施形態で設定された燃料噴射モードの一例を示す線図である。
【図6】本発明方法及び装置の第2実施形態に係る2サイクル舶用ディーゼル機関の操作手順を示すフロー図である。
【図7】舶用ディーゼル機関の排ガス系統を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0030】
(実施形態1)
本発明方法及び本発明装置を2サイクル舶用ディーゼル機関に適用した第1実施形態を図1及び図2により説明する。図1及び図2において、該舶用ディーゼル機関10は、複数の燃焼シリンダ、掃気室、及び排気集合管等を含む機関本体12と、その排ガス経路とからなる。排ガス経路は、掃気管14及び排気管16を備え、これらに過給機18が介設されている。過給機18は、排気管16に介設されたタービン20と、掃気管14に介設されたコンプレッサ2とからなり、タービン20とコンプレッサ22とは回転軸24で一体に接続されている。
【0031】
タービン20の下流側排ガス経路26には、SCR触媒を内蔵したSCR触媒コンバータ28が介設されている。SCR触媒コンバータ28の入口側の排ガス経路26には、排ガス温度を検知する温度センサ32が装着されている。タービン20に供給される排気ガスeによってタービン2が回転する。タービン20の回転によってコンプレッサ22が回転し、被圧縮空気aを吸入して圧縮する。コンプレッサ22で圧縮された圧縮空気と燃料とは、掃気管14を経て機関本体12の図示省略された燃焼シリンダに供給され、そこで燃焼して機関本体12を駆動する。
【0032】
機関本体12から排出された排ガスeは、排気管16及び26を経てSCR触媒コンバータ28に達する。SCR触媒コンバータ28より上流側の排ガス経路26には、尿素水溶液又はアンモニア水溶液等の還元剤水溶液rが供給される。排ガスの温度でアンモニア水溶液は蒸発してアンモニアガスに変わり、尿素水溶液は蒸発し加水分解してアンモニアガスに変わる。SCR触媒コンバータ28に内蔵されたSCR触媒上でアンモニアガスと排ガス中のNOとが反応し、NOが窒素と水に還元される。こうしてNOが除去された排ガスが排気管30を経て外部に排出される。
【0033】
次に、本実施形態の制御系を図2〜図5で説明する。まず、図3に示すように、舶用ディーゼル機関10の異なる負荷に対して、タービン20の下流側排ガス経路26を通る排ガス温度の目標値を設定した目標値マップを作成しておく。
【0034】
次に、図2に示すように、機関本体制御器36に機関負荷信号を入力すると共に、前記目標値マップで設定した排ガス温度の目標値と、温度センサ32で計測した排ガス温度計測値とを比較器34で比較する。機関本体制御器36で、この両者の偏差と入力された機関負荷信号に基づいて、機関本体12に設けられた図示省略の排気弁(図7の排気弁104に相当)の開閉時期及び燃料噴射時期を含む燃料噴射モードを通常運転時の設定から補正する。
【0035】
排気弁の開閉時期及び燃料噴射時期の補正の仕方を図4により説明する。図4に示すように、排気弁閉鎖時期、燃料噴射時期、及び排気弁開放時期を夫々X軸、Y軸及びZ軸に取った3次元マップを作成する。この座標上で、SCR触媒コンバータ28に流入する排ガスの温度が、通常運転時より高く、SCR触媒の活性温度範囲に属する等温線T〜T等を設定する。これらの等温線から、舶用ディーゼル機関10の燃費が最低となる条件の等温線を選択する。
【0036】
図5は、本実施形態で設定される燃料噴射モードの一例を示したものである。図5において、メイン噴射mの後で、間隔iを置いてポスト噴射pを行なうようにする。通常運転時はメイン噴射mのみ行なうが、排ガス温度を上げて、SCR触媒の活性温度とするために、ポスト噴射pを行なう。
このようにして、機関本体制御器36で、排気弁の開閉時期及び燃料噴射時期を含む燃料噴射モードを補正し、これらの補正値に従って、排気弁や燃料噴射弁のアクチュエータ38を制御する。
【0037】
本実施形態によれば、図4及び図5に示す相関マップに基づいて、燃料消費率が良好で、かつ排ガス温度を還元触媒の活性温度範囲に維持できる排気弁開閉時期及び燃料噴射モードに変更するようにしているので、燃料消費率を良好に維持しながら、還元触媒の触媒機能を維持して、排ガス中のNOを低減できる。
従って、追い焚きバーナなどの付設が不要となり、舶用ディーゼル機関10の設備費増加を防ぐことができると共に、NO低減のための運転が容易になり、運転にかかるコストを低減できる。
【0038】
(実施形態2)
次に、本発明方法及び本発明装置の第2実施形態を図6により説明する。本実施形態は、2サイクル舶用ディーゼル機関を搭載した船舶が、排ガス規制が特に厳しい特定海域を航行する場合の例である。本実施形態に係るNO低減装置の構成は、第1実施形態と同一の装置構成を具備し、図6は本実施形態におけるNO低減装置の操作手順を示すフロー図である。
【0039】
図6において、まず、船舶の位置をGPS等の位置計測装置で検出する(ステップ1)。次に、検出した船舶の位置を、特定海域マップと照合し、特定海域でない場合は、通常の排ガス規制に対応した運転とし、特定海域に接近しているのであれば、機関負荷信号とタービン20の出口排ガス温度実測値とを図2に示す比較器34に入力し、排ガス温度の目標値と実測値との差を演算する(ステップ2)。
【0040】
船舶が特定海域に近づいている場合、排ガス温度の目標値<実測値であれば、その状態のまま運転を続行する。目標値>実測値であれば、図4に示す相関マップの中で、目標値と実測値との差に応じて、最適な等温線を選択する。そして、選択した等温線に基づいて、排気弁の開閉時期及び燃料噴射時期を補正する(ステップ3)。
【0041】
その後、排ガス温度の目標値<実測値であれば、そのまま運転を続行し、この海域での制御を終了する(ステップ5)。目標値>実測値であれば、例えば、図5に示す燃料噴射モードのように、間隔iを拡大すると共に、ポスト噴射量qを増加する等の補正を行なって、SCR触媒コンバータ28に流入する排ガス温度を上昇させる。これによって、該排ガス温度をSCR触媒の活性温度範囲とする(ステップ4)。
【0042】
本実施形態によれば、GPS等の位置計測装置を用いて船舶の航行位置を検知し、船舶が排ガス規制が厳しい特定海域に入れば、自動的に機関本体制御器36を作動させ、排ガス温度をSCR触媒の活性温度範囲内にすることができる。これによって、排ガス中のNO濃度を自動的に該特定海域の排ガス規制を満足する範囲内にすることができる。
【0043】
なお、前記実施形態は、いずれも本発明を2サイクル舶用ディーゼル機関に適用したものであるが、本発明は、4サイクル舶用ディーゼル機関にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、過給機を設けたディーゼル機関において、過給機の性能を低減することなく、かつ燃料消費率を低減することなく、SCRシステムを用いて、排ガス中のNOを効率良く除去できる。
【符号の説明】
【0045】
10,100 2サイクル舶用ディーゼル機関
12 機関本体
14,120 掃気管
16、26,30,106,116 排気管
18,108 過給機
20、110 タービン
22、112 コンプレッサ
24、114 回転軸
28、118 SCR触媒コンバータ
32 温度センサ
34 比較器
36 機関本体制御器(コントローラ)
38 アクチュエータ
102 シリンダ
104 排気弁
122 インタクーラ
a 被圧縮空気
e 排ガス
r 還元剤水溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機が設けられたディーゼル機関の排ガス経路に還元剤を供給し、過給機下流側の排ガス経路に設けられた還元触媒で該還元剤と排ガス中のNOを反応させてNOを除去するようにした排ガスのNO低減方法において、
排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードと、排ガス温度及び燃料消費率との相関を示す相関マップを予め作成するマップ作成工程と、
該相関マップに基づいて排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードの少なくとも一方を変更し、燃料消費率の悪化を抑制しながら前記還元触媒に流入する排ガス温度を該還元触媒の活性温度に調整する排ガス温度調整工程と、からなることを特徴とする排ガスのNO低減方法。
【請求項2】
前記ディーゼル機関が舶用ディーゼル機関であり、舶用ディーゼル機関を搭載した船舶が位置計測装置により排ガス規制海域に入ったかどうかを検知し、船舶が排ガス規制海域に入った時に前記排ガス温度調整工程を行なうようにしたことを特徴とする請求項1に記載の排ガスのNO低減方法。
【請求項3】
過給機が設けられたディーゼル機関の排ガス経路に設けられた還元剤供給部と、過給機下流側の排ガス経路に設けられ還元触媒により排ガスと還元剤とを反応させてNOを低減する還元部とを備えた排ガスのNO低減装置において、
前記還元部の入口側排ガス経路に設けられ該排ガス経路を流れる排ガスの温度を検出する温度センサと、
該温度センサの検出値が予め設定された目標値となるように、排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードの少なくとも一方を変更するコントローラと、を備え、
排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードと、排ガス温度及び燃料消費率との相関を示す相関マップを予め作成しておき、前記コントローラによって該相関マップに基づいて排気弁開閉時期又は燃料噴射時期を含む燃料噴射モードの少なくとも一方を変更し、燃料消費率の悪化を抑制しながら前記還元触媒に流入する排ガス温度を該還元触媒の活性温度に調整するように構成したことを特徴とする排ガスのNO低減装置。
【請求項4】
前記ディーゼル機関が舶用ディーゼル機関であり、舶用ディーゼル機関を船舶に搭載すると共に、該船舶の位置を計測する位置計測装置を備え、
該位置計測装置により該船舶が排ガス規制海域に入ったことを検知した時に、前記コントローラを作動させるように構成したことを特徴とする請求項3に記載の排ガスのNO低減装置。
【請求項5】
前記ディーゼル機関が2サイクル舶用ディーゼル機関であることを特徴とする請求項3又は4に記載の排ガスのNO低減装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−112005(P2011−112005A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270761(P2009−270761)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】