説明

排気バルブ

【課題】 内燃機関の排気ガスが流通する流通経路に装着される排気バルブにおいて、ボア部の各部位のうち少なくとも弁体と対向する部位の耐食性向上を図るのに有効な技術を提供する。
【解決手段】 本発明に係る排気バルブ100は、ディーゼルエンジン100の排気ガスの流通経路に装着されるものであって、排気ガスの流通経路に連通するボア部の各部位のうち少なくとも弁体と対向する部位に、ニッケルを98重量%以上含有するメッキ被膜を備える構成とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気ガスが流通する流通経路に装着される排気バルブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンやタービンなどにおいては、排気部や熱交換部のように特に高温ガスが流通する金属部分の腐食劣化や熱劣化が問題視されている。特に、内燃機関の排気ガスが流通する流通経路に装着される排気バルブに関しては、バルブハウジングの各部位のうち弁体と対向するボア部周辺の金属部位の耐食性が低下すると、ボア部の腐食による増肉や減肉によって弁体との間の所定のクリアランス精度を維持するのが難しくなり、内燃機関の所望の運転制御を遂行するのに不具合を生じることとなる。
【0003】
そこで、このような問題を解消するべく、高温ガスが流通する金属部分を耐食性の高いセラミック材料によりコーティング処理したり、金属部分自体をステンレス材料によって構成する技術が種々提案されている。ところが、セラミック材料によるコーティング処理を用いる場合には急激な温度変化によるセラミック材料の割れが懸念され、また高価なステンレス材料を用いる場合にはコスト低減を図るのが難しい。一方、下記特許文献1には、高温ガスが流通する金属部分にメッキ処理を施すことで腐食劣化や熱劣化を抑えようとする技術として、金属基体上にニッケル−リン系合金メッキ被膜を設ける構成が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載のようなニッケル−リン系合金メッキ被膜は、特に400℃を超えるような高温領域においてNiP等の脆弱な化合物を形成する。この化合物が形成されるとメッキ被膜が剥離して減肉され、或いはクラックが生じる。また、被膜の剥離部およびクラックの発生した部位より母材が酸化し、ボアが増肉する。従って、ニッケル−リン系合金メッキ被膜を用いる場合には、ボア部と弁体との間の所定のクリアランス精度を維持することができないという問題が生じ、このことによりバルブハウジングの金属部位の耐食性確保が難しくなる。
【特許文献1】特開2001−140095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、内燃機関の排気ガスが流通する流通経路に装着される排気バルブにおいて、ボア部の各部位のうち少なくとも弁体と対向する部位の耐食性向上を図るのに有効な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するため、各請求項記載の発明が構成される。これら各請求項に記載の発明は、自動車、船舶、作業用機械などに搭載されるエンジンや、その他の内燃機関に装着される排気バルブの構成に適用され得る。本明細書における「排気バルブ」は、内燃機関の排気ガスが流通する排気経路に装着される形態のバルブを広く含むものとし、例えば排気ガスの流量を調整する流量調整用のバルブや、排気ガスの流路を切り替える流路切替用のバルブなどが当該排気バルブに相当する。典型的には、自動車や船舶などのディーゼルエンジンにおいて、触媒の再生処理を行うべく排気ガスの流路を絞り調整する絞り調整バルブや、EGR装置(排気ガス再循環装置)のEGRクーラーの排気ガス流路を切り替える流路切替バルブや、EGR装置(排気ガス再循環装置)において吸気系へと再循環される排気ガスの再循環量を調整する調整バルブなどの構成に、本発明を適用することができる。
【0006】
(本発明の第1発明)
前記課題を解決する本発明の第1発明は、請求項1に記載されたとおりの排気バルブである。
請求項1に記載の排気流路バルブは、内燃機関の排気ガスが流通する排気経路に装着されるバルブであって、バルブハウジング、弁体を少なくとも備える。
本発明のバルブハウジングは、排気ガスが流通経路に連通するボア部を有する構成とされる。本発明の弁体は、ボア部に収容されるバルブ部材として構成される。
ところで、このような排気バルブにおいては、バルブハウジングの各部位のうち少なくとも弁体と対向するボア部周辺の部位の耐食性が低下すると、当該部位の腐食による増肉や減肉によって弁体との間の所定のクリアランス精度を維持するのが難しくなる。そこで、本発明では、弁体と、ボア部の各部位のうち当該弁体と対向する部位との少なくとも一方に、ニッケルを98重量%以上含有するメッキ被膜を設けるように構成される。本構成に関しては、弁体と、ボア部の各部位のうち当該弁体と対向する部位の両方にメッキ被膜が形成されてもよいし、或いは弁体と、ボア部の各部位のうち当該弁体と対向する部位のいずれか一方にメッキ被膜が形成されてもよい。また、ボア部に関しては、少なくとも弁体との対向部位にメッキ被膜が形成されればよく、当該対向部位のみにメッキ被膜が形成されてもよいし、或いは当該対向部位を含むバルブハウジング全体にメッキ被膜が形成されてもよい。本発明のメッキ被膜のように、高純度ニッケルを含有するメッキ被膜を、「高ニッケルメッキ被膜」或いは「純ニッケルメッキ被膜」と称呼することもできる。
【0007】
本構成によれば、排気ガス温度が700℃を超えるような高温領域においてもこのメッキ被膜に脆弱な化合物が形成されて、ボア部の領域がこの脆弱な化合物において剥離して減肉され、或いはクラックが生じるのを防止することが可能となる。これにより、ボア部と弁体との間の所定のクリアランス精度を維持することができる。また、メッキ被膜の剥離やクラック発生が防止されることで、バルブハウジングのハウジング素地(母材)の高温酸化や、排気ガス中の水蒸気凝縮に起因する水錆びの発生を防止することが可能となる。かくして、排気バルブのボア部領域の耐食性向上が図られる。
【0008】
なお、本発明のメッキ被膜におけるニッケル含有量に関しては、排気バルブのボア部領域の耐食性をより高めるべく、ニッケル含有量を極力100重量%に近づけるように構成するのが好ましい。この場合、メッキ被膜に含まれるニッケル以外の含有物は、ニッケル精製の過程で残留する残留物であってもよいし、或いはメッキ被膜に更なる機能を付与するべく添加された添加物、例えば耐摩耗性向上を図るべく添加される第1の添加物や、潤滑性向上を図るべく添加される第2の添加物であってもよい。そして、第1の添加物や第2の添加物は、メッキ処理中に固体粒子としてメッキ皮膜中に析出する。第1の添加物に由来の固体粒子としては、SiO,Al,ZnO,WO,TiO等の酸化物や、SiC,Cr,WC,BC等の炭化物などが挙げられる。また、第2の添加物に由来の固体粒子としては、B,C,BNなどが挙げられる。
【0009】
(本発明の第2発明)
前記課題を解決する本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの排気バルブである。
請求項2に記載の排気バルブでは、請求項1に記載のメッキ被膜の膜厚が20μm以上とされる。このような構成によれば、メッキ被膜の膜厚を20μm以上に厚くすることによって、メッキ処理において発生し得るピンホールを減らし、バルブハウジングのハウジング素地への酸素の透過を抑えることができる。従って、バルブハウジングの耐酸化性向上を図ることが可能となる。なお、メッキ被膜の形成に関しては、メッキ膜厚の調節が可能で、ハウジング素地(母材)に対しメッキ被膜の密着性の良い電気メッキ法を用いるのが好ましい。
【0010】
(本発明の第3発明)
前記課題を解決する本発明の第3発明は、請求項3に記載されたとおりの排気バルブである。
請求項3に記載の排気バルブは、内燃機関の排気ガスが流通する流通経路に、内燃機関から排出された排気ガス中のパティキュレート(カーボンを主成分とする粒子状物質)を捕集する捕集手段を備える排気処理装置において、捕集手段の所定の温度領域での再生処理を行うべく当該捕集手段よりも下流の流通経路を絞り調整する排気バルブである。この排気バルブを用いた再生処理においては、捕集手段におけるパティキュレートの捕集量が増大した場合に、このパティキュレートを燃焼させるべく、弁体を絞り調整して排気ガス温度を上昇させる制御が行われることとなる。この再生処理では、排気バルブ周辺の排気ガス温度が、700℃を超えるような温度領域に達することが想定される。そこで、本発明では、この排気バルブとして、請求項1または請求項2に記載の排気バルブを用いる構成とされる。
従って、本構成によれば、排気ガス中のパティキュレートを捕集する捕集手段の再生処理を行う際に用いる絞り調整用の排気バルブにおいて、当該排気バルブのボア部領域の耐食性向上が図られる。
【0011】
(本発明の第4発明)
前記課題を解決する本発明の第4発明は、請求項4に記載されたとおりの排気バルブである。
請求項4に記載の排気バルブは、内燃機関の排気ガスを冷却するEGRクーラーを有するEGR冷却管と、EGR冷却管をバイパスするEGRバイパス管と、を備える排気処理装置において、弁体の切り替え動作により、排気ガスをEGR冷却管とEGRバイパス管とに切り替えて供給する排気バルブである。この排気バルブを用いた切り替え制御においては、排気バルブ周辺の排気ガス温度が高温領域に達することが想定される。そこで、本発明では、この排気バルブとして、請求項1または請求項2に記載の排気バルブを用いる構成とされる。
従って、本構成によれば、排気ガスをEGR冷却管とEGRバイパス管とに切り替えて供給する排気バルブにおいて、当該排気バルブのボア部領域の耐食性向上が図られる。
【0012】
(本発明の第5発明)
前記課題を解決する本発明の第5発明は、請求項5に記載されたとおりの排気バルブである。
請求項5に記載の排気バルブは、内燃機関の排気ガスの一部を吸気系へと再循環させる再循環経路を備える排気処理装置において、排気ガスの再循環量を調整するべく再循環経路に配設される排気バルブである。この排気バルブを用いた再循環量調整制御においては、排気バルブ周辺の排気ガス温度が高温領域に達することが想定される。そこで、本発明では、この排気バルブとして、請求項1または請求項2に記載の排気バルブを用いる構成とされる。
従って、本構成によれば、排気ガスの再循環量を調整するべく再循環経路に配設される排気バルブにおいて、当該排気バルブのボア部領域の耐食性向上が図られる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、内燃機関の排気ガスが流通する流通経路に装着される排気バルブにおいて、特に排気ガスの流通経路に連通するボア部の各部位のうち少なくとも弁体と対向する部位に、ニッケルを98重量%以上含有するメッキ被膜を設けることによって、ボア部の各部位のうち少なくとも弁体と対向する部位の耐食性向上を図ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ詳細に説明する。まず、図1を用いて、本発明における「内燃機関」の一実施の形態であるディーゼルエンジン100の構成を説明する。ここで、図1には本実施の形態のディーゼルエンジン100の概略構成が示される。
【0015】
図1に示すディーゼルエンジン100は、自動車、船舶、作業用機械などに搭載されるディーゼルエンジン(内燃機関)である。このディーゼルエンジン100は、図1に示すように、エンジン本体101、吸気通路103、排気通路105、ターボチャージャー107、排気浄化装置110、圧力センサ120、温度センサ122、排気バルブ130、ECU(電子制御ユニット)140を主体として構成されている。
【0016】
吸気通路103は、エンジン本体101へ吸気される吸気ガスが流通する通路であり、吸気管103a、吸気管103b、吸気マニホールド103cの順で吸気(新気)が流れるように構成されている。ターボチャージャー107を構成するコンプレッサ107aによって、吸気管103a内に吸気(新気)が流入し、コンプレッサ107aを経由して吸気管103b内へと流れる。このコンプレッサ107aは、後述するタービン107bによって駆動されるようになっている。吸気管103b内を流通した吸気(新気)は、吸気マニホールド103cへと流入し、エンジン本体101の各気筒へ吸気されることとなる。
【0017】
排気通路105は、エンジン本体101から排気された排気ガスが流通する通路であり、排気マニホールド105a、排気管105b、排気管105cの順で排気ガスが流れるように構成されている。この排気通路105が、本発明における「内燃機関の排気ガスが流通する流通経路」を構成している。エンジン本体101の各気筒から排気マニホールド105aへ流入した排気ガスは、排気管105bを通じてタービン107b側へと流れ、タービン107bを回転させたのち、排気管105cへと流入する。この排気管105cに、排気浄化装置110、圧力センサ120、温度センサ122及び排気バルブ130が配置されている。
【0018】
排気浄化装置110は、ケーシング112に酸化触媒114及びフィルター116を収容する。酸化触媒114は、排気ガス中のNOを酸化してNOに転換する機能を有する触媒として構成される。フィルター116は、ディーゼルエンジン100から排出されたパティキュレート(カーボンを主成分とする粒子状物質)を捕集するフィルターとして構成される。このフィルター116が、本発明における「捕集手段」を構成しており、このフィルター116を備える排気浄化装置110が、本発明における「排気処理装置」に相当する。
【0019】
酸化触媒114にて生成したNOは、フィルター116に捕集されたパティキュレート中のカーボンと反応してNO,CO,COを生成する。これにより大気へのパティキュレートの排出量が抑えられることとなる。この排気浄化装置110に関する圧力が圧力センサ120によって検出され、排気浄化装置110に関する温度が温度センサ122によって検出される。図1に示す形態では、酸化触媒114及びフィルター116の差圧を圧力センサ120が検出し、その下流の温度を温度センサ122が検出する構成とされる。これら圧力センサ120及び温度センサ122によって検出された検出情報は、ECU140へと送られ、排気バルブ130の制御に用いられる。なお、圧力センサ120の構成に関しては、図1に示すような構成にかえて、排気浄化装置110の上流の圧力を検出するように構成することもできる。また、温度センサ122の構成に関しては、図1に示すような構成にかえて、排気浄化装置110の上流の温度を検出するように構成することもできる。
【0020】
排気バルブ130は、排気通路105の各領域のうち、排気浄化装置110の下流の経路に配設された排気絞り弁として構成される。この排気バルブ130が、本発明における「排気バルブ」に相当する。図1中に示すこの排気バルブ130の具体的構成が図2に示される。
図2に示すように、排気バルブ130は、排気管105cに連通するボア部132を有する金属製のバルブハウジング131、バルブハウジング131に対しバルブシャフト135を介して支持される弁体134を備える。この弁体134は、「バタフライバルブ」とも称呼される。また、特に図示しないものの、バルブシャフト135は、更にレバー及びロッドを介してアクチュエータに接続されている。このアクチュエータとしては、電動式のアクチュエータや負圧式のアクチュエータなどが用いられる。なお、ここでいうバルブハウジング131が本発明における「バルブハウジング」に相当し、ボア部132が本発明における「ボア部」に相当し、弁体134が本発明における「弁体」に相当する。
【0021】
バルブハウジング131は、鉄、鉄合金(炭素鋼、特殊鋼、耐熱鋼、ステンレス鋼など)、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金などの金属材料によって適宜構成される。弁体134は、フェライト系やオーステナイト系のステンレス材料を主体として構成される。この弁体134は、再生運転時(再生処理時)に、ECU140からの制御信号に基づいて、ボア部132を絞り調整するように動作する。具体的には、排気浄化装置110におけるパティキュレートの捕集量が増大して圧力センサ120による検出値が基準値(しきい値)に達した場合に、排気ガス温度を上昇させて排気浄化装置110の再生処理を行う。この再生処理では、フィルター116に捕集したパティキュレートを燃焼させる処理が行われることとなる。このとき、温度センサ122によって検出された排気ガス温度が所望の温度よりも低い場合には、弁体134の閉動作によってボア部132を絞り調整して排気圧力を上昇させ、断熱圧縮による温度上昇効果によって排気ガス温度を上昇させる。
【0022】
ところで、排気浄化装置110のこの再生処理においては、排気ガス温度が700℃を超えるような高温領域にまで上昇する運転モードが想定される。このような高温領域での運転モードにおいては、特に金属製のバルブハウジング131のボア部132に腐食劣化や熱劣化が起こり得る。そこで、本実施の形態では、ボア部132を形成するバルブハウジング131の内周面、すなわち排気ガスとの接触部位に、メッキ被膜133を設けている。このメッキ被膜133は、ニッケル(Ni)を98重量%以上含有するメッキ被膜として構成される。このメッキ被膜133は、電気メッキ法或いは無電解メッキ法によって形成される。このメッキ被膜133が、本発明における「ニッケルを98重量%以上含有するメッキ被膜」に相当する。
【0023】
なお、本実施の形態では、バルブハウジング131の少なくとも内周面にメッキ被膜133が形成されればよく、バルブハウジング131の内周面のみにメッキ被膜133が形成されてもよいし、或いはバルブハウジング131全体にメッキ被膜133が形成されてもよい。また、ボア部132の各部位のうち弁体134と対向する部位に、メッキ被膜133を集中的に形成させるように構成することもできる。また、本発明においてメッキ被膜133のような被膜を、弁体と、ボア部の各部位のうち当該弁体と対向する部位との少なくとも一方に設けることができ、ボア部132に形成されるこのメッキ被膜133を、ボア部132にかえて或いはボア部132に加えて、弁体134に設けるようにすることもできる。このような高純度ニッケルを含有するメッキ被膜133を、「高ニッケルメッキ被膜」或いは「純ニッケルメッキ被膜」と称呼することもできる。
【0024】
メッキ被膜133に含まれるニッケル以外の含有物は、ニッケル精製の過程で残留する残留物であってもよいし、或いはメッキ被膜に更なる機能を付与するべく添加された添加物、例えば耐摩耗性向上を図るべく添加される第1の添加物や、潤滑性向上を図るべく添加される第2の添加物であってもよい。そして、第1の添加物や第2の添加物は、メッキ処理中に固体粒子としてメッキ皮膜中に析出する。第1の添加物に由来の固体粒子としては、SiO,Al,ZnO,WO,TiO等の酸化物や、SiC,Cr,WC,BC等の炭化物などが挙げられる。また、第2の添加物に由来の固体粒子としては、B,C,BNなどが挙げられる。
【0025】
なお、本実施の形態におけるメッキ被膜133の形成に際しては、金属部位に対するメッキ被膜133の密着性向上を図るべく、金属部位のメッキ処理領域に予めストライクメッキを施すのが好ましい。また、メッキ被膜133の更なる耐熱性向上を図るべく、当該メッキ被膜133に対し、更に種々の薬品を用いた化成処理(薬品処理)を施して、メッキ皮膜表面に不動態被膜を形成させるのが好ましい。
【0026】
本構成によれば、ニッケルを98重量%以上含有するメッキ被膜133を用いることによって、排気ガス温度が700℃を超えるような高温領域においてもこのメッキ被膜133に脆弱な化合物が形成されて、ボア部132の各部位のうち少なくとも弁体134との対向部位がこの脆弱な化合物において剥離して減肉され、或いはクラックが生じるのを防止することが可能となる。これにより、ボア部132と弁体134との間の所定のクリアランス精度を維持することができ、排気浄化装置110の再生運転(昇温処理)を良好に遂行させることが可能となる。また、メッキ被膜133の剥離やクラック発生を防止することによって、バルブハウジング131のハウジング素地(「母材」ともいう)の高温酸化や、排気ガス中の水蒸気凝縮に起因する水錆びの発生を防止することが可能となる。特に、メッキ被膜形成に電気メッキ法を用いることによって、膜厚の調節が可能で、ハウジング素地(母材)に対し密着性の良いメッキ被膜133を形成させることが可能となる。なお、メッキ被膜133の膜厚を20[μm]以上、好ましくは50[μm]以上とすることによって、メッキ処理において発生し得るピンホールを減らし、バルブハウジング131のハウジング素地への酸素の透過を抑えることができ、バルブハウジング131の耐酸化性向上を図ることが可能となる。
【0027】
これに対し、従来技術のメッキ被膜であるニッケル−リン系合金メッキ被膜を用いる場合には、400℃を超えるような高温領域においてNiP等の脆弱な化合物を形成され、ボア部の領域がこの脆弱な化合物において剥離して減肉され、或いはクラックが生じるため、更に被膜の剥離、クラックの発生した部位より母材が酸化し増肉するため、ボア部と弁体との間の所定のクリアランス精度を維持することができず、これによりバルブハウジングの維耐食性確保が難しくなる。
【0028】
ここで、本発明者は、本実施の形態のメッキ被膜133(以下「実施例」とする)が、従来技術のメッキ被膜(以下「比較例」とする)に比して有利であることを具体的に説明するべく比較テストを実施した。この比較テストでは、実施例及び比較例に係る各メッキ被膜を、700[℃]及び750[℃]の高温条件下にて熱間放置した場合の増肉厚さを比較するとともに、熱間放置後の様子を電子顕微鏡撮影による断面観察にて比較した。なお、実施例に係るメッキ被膜は、膜厚60[μm]の電気ニッケルメッキとされ、比較例に係るメッキ被膜は、膜厚20[μm]の無電解ニッケル−リンメッキとされる。図3には、実施例及び比較例に係る各メッキ被膜の増肉厚さ[μm]を示すグラフが示される。また、図4には、実施例に係る各メッキ被膜(750[℃]にて熱間放置)の断面の様子が模式的に示され、図5には、比較例に係る各メッキ被膜(750[℃]にて熱間放置)の断面の様子が模式的に示される。
【0029】
図3に示すように、700[℃]及び750[℃]の高温条件下において、実施例に係るメッキ被膜は、比較例に係るメッキ被膜よりも増肉厚さが相対的に小さい(薄い)ことが確認された。また、図4に示すように、比較例に係るメッキ被膜は、脆弱な化合物であるNiPを含むとともに、このメッキ被膜の母材側には酸化被膜(Fe)が形成されていることが確認された。一方、実施例に係るメッキ被膜は、NiP等の脆弱な化合物を含まないことが確認された。
【0030】
図3及び図4に示す結果から、比較例に係るメッキ被膜では、NiPが形成され、更に酸素を透過させ易いこのNiPによって母材側に酸化被膜(Fe)が形成されることで、メッキ被膜全体としての膜厚が実施例に係るメッキ被膜よりも厚くなることが判る。従って、比較例に係るニッケル−リン系合金メッキ被膜をボア部に施した場合には、ボア部の領域が脆弱な化合物において剥離して減肉され、或いはクラックが生じ、更に被膜の剥離、クラックの発生した部位より母材が酸化し増肉する現象を招くこととなる。
これに対し、実施例に係るメッキ被膜では、NiP等の脆弱な化合物を含まず被膜自体が安定化していることが判る。従って、実施例に係るニッケル被膜をボア部に施した場合には、ボア部の領域が脆弱な化合物において剥離して減肉され、或いはクラックが生じ、更に被膜の剥離、クラックの発生した部位より母材が酸化し増肉するのを防止することが可能となるのである。
【0031】
なお、本発明では、上記排気バルブ130の構成を、排気絞り弁以外の他のバルブに対し適用することもできる。この別の実施の形態を、図6及び図7を参照しながら説明する。図6には、別の実施の形態のディーゼルエンジン200の概略構成が示される。
【0032】
図6に示すディーゼルエンジン200は、図1に示す構成要素と同様のエンジン本体101、吸気通路103、排気通路105、ターボチャージャー107を備える。これらの構成要素については、詳細な説明を省略する。このディーゼルエンジン200は、更にEGR装置210を備える。このEGR装置210は、排気ガスをディーゼルエンジン200の吸気系に再循環させるEGR(Exhaust Gas Recirculation:排気ガス再循環)機能を有する装置であり、EGR通路211、EGRクーラー213、EGRクーラー切替バルブ230、制御部(コントローラ)240等を備えている。このEGR装置110が、本発明における「排気処理装置」を構成している。
【0033】
EGR通路211は、エンジン本体101から排気された排気ガスが流通する通路であり、EGR管211a、このEGR管211aが分岐したEGR冷却管211b及びEGRバイパス管211c、これらEGR冷却管211b及びEGRバイパス管211cが合流したEGR管211dによって構成されている。このEGR通路211が、本発明における「排気経路」を構成している。
【0034】
EGRクーラー切替バルブ230は、排気ガスが流通する排気流路であって、EGR管211aがEGR冷却管211bとEGRバイパス管211cとに分岐する箇所に設置されている。このEGRクーラー切替バルブ230が、本発明における「排気バルブ」に相当する。このEGRクーラー切替バルブ230は、EGR運転時において、制御部240からの制御信号によって制御され、エンジン本体101から排気された排気ガスをEGR冷却管211bとEGRバイパス管211cとに切り替えて供給する構成になっている。
【0035】
EGRクーラー213は、EGR冷却管211bに設置されて、このEGR冷却管211bを流れる排気ガスの冷却を冷却水を介して行う排気ガス冷却用のクーラーとして構成される。制御部240がEGRクーラー切替バルブ230を制御することによって、EGRクーラー213において冷却される排気ガス量が変わり、結果としてEGR管211dを流通して吸気と合流する排気ガスの温度が制御されることとなる。なお、EGR冷却管211bが本発明における「EGR冷却管」に対応しており、EGRバイパス管211cが本発明における「EGRバイパス管」に対応しており、EGRクーラー213が本発明における「EGRクーラー」に対応している。
【0036】
このEGRクーラー切替バルブ230の具体的な構造が図7に示される。
図7に示すように、このEGRクーラー切替バルブ230は、バルブハウジング231のボア部232に、弁体234が設けられている。弁体234は、バルブシャフト235を介してバルブハウジング231側に支持されており、2つの弁翼片によって略L字形に形成されたバルブ部材として構成される。バルブシャフト235は、レバー236及びロッド237を介してアクチュエータ238に接続されている。このアクチュエータ238は、特に図示しないものの、内部にダイヤフラムを設けたダイヤフラム室を有し、当該ダイヤフラム室に負圧管238aを通じて負圧が付与される構成になっている。このアクチュエータ238に負圧が付与されることでバルブシャフト235が一方向へと回転駆動され、当該負圧がパージされることによってバルブシャフト235が他方向へと回転駆動される。
【0037】
バルブシャフト235が一方向へと回転駆動され、EGR冷却管211b側のポートが弁体234一方の弁翼片によって閉鎖されると、EGR管211aを流れる排気ガスは、EGRクーラー213を通ることなくEGRバイパス管211cを通して直接吸気マニホールド103c側へと再循環される。反対に、バルブシャフト235が他方向へと回転駆動され、EGR冷却管211b側のポートが弁体234一方の弁翼片によって閉鎖されると、EGR管211aを流れる排気ガスは、EGRクーラー213を通ることなくEGRバイパス管211cを通して直接吸気マニホールド103c側へと再循環される。なお、ここでいうバルブハウジング231が本発明における「バルブハウジング」に相当し、ボア部232が本発明における「ボア部」に相当し、弁体234が本発明における「弁体」に相当し、バルブシャフト235が本発明における「バルブシャフト」に相当する。
【0038】
本実施の形態のEGRクーラー切替バルブ230では、ボア部232を形成するバルブハウジング231の内周面、すなわち排気ガスとの接触部位に、メッキ被膜233が設けられている。このメッキ被膜233は、図2に示すメッキ被膜133と同様の組成を有し、ニッケル(Ni)を98重量%以上含有するメッキ被膜として構成される。このメッキ被膜233が、本発明における「ニッケルを98重量%以上含有するメッキ被膜」に相当する。なお、本実施の形態では、バルブハウジング231の少なくとも内周面にメッキ被膜233が形成されればよく、バルブハウジング231全体にメッキ被膜233が形成されるようにしてもよい。
【0039】
本構成によれば、ニッケルを98重量%以上含有するメッキ被膜233を用いることによって、前述のメッキ被膜133と同様の作用効果を奏することとなる。すなわち、排気ガス温度が700℃を超えるような高温領域においてもこのメッキ被膜233に脆弱な化合物が形成されて、ボア部232の各部位のうち少なくとも弁体234との対向部位が脆弱な化合物において剥離して減肉され、或いはクラックが生じるのを防止することが可能となる。これにより、ボア部232と弁体234との間の所定のクリアランス精度を維持することができ、EGR装置210におけるEGR運転(バルブ切り替え制御)を良好に遂行させることが可能となる。また、メッキ被膜233の剥離やクラック発生を防止することによって、バルブハウジング231のハウジング素地の高温酸化や、排気ガス中の水蒸気凝縮に起因する水錆びの発生を防止することが可能となる。特に、メッキ被膜形成に電気メッキ法を用いることによって、膜厚の調節が可能で、ハウジング素地に対し密着性の良いメッキ被膜233を形成させることが可能となる。なお、メッキ被膜233の膜厚を20[μm]以上、好ましくは50[μm]以上とすることによって、メッキ処理において発生し得るピンホールを減らし、バルブハウジング231のハウジング素地への酸素の透過を抑えることができ、バルブハウジング231の耐酸化性向上を図ることが可能となる。
【0040】
図6及び図7に示す実施の形態は、EGR装置210のEGRクーラー切替バルブ230に対し本発明を適用する場合について記載したが、EGR装置において単に排気ガスの再循環量を調整する調整バルブの構成に本発明を適用することもできる。具体的には、図6中において、EGR冷却管211b及びEGRクーラー213を省略し、EGRクーラー切替バルブ230にかえて、EGRバイパス管211cにおける排気ガス量を調整する調整バルブを設ける。この調整バルブが、本発明において、「排気ガスの再循環量を調整するべく再循環経路に配設される排気バルブ」に相当する。このような構成の調整バルブにおいても、EGRクーラー切替バルブ230と同様に、ボア部領域の耐食性向上が図られる。
また、排気ガスの排気経路に配置された排気ブレーキ装置につき、排気経路を遮断することによって排気ガスを閉じ込めて背圧を増大させ、ポンピングフリクションを増大させることで車両に制動をかける排気制御バルブの構成に本発明を適用することもできる。
【0041】
(他の実施の形態)
なお、本発明は上記の実施の形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0042】
上記実施の形態では、自動車、船舶、作業用機械などに搭載されるディーゼルエンジン100,200において、排気ガスが流通する排気経路に装着される排気バルブに本発明を適用する場合について記載したが、ディーゼルエンジンを含む種々の内燃機関において、排気ガスが流通する排気経路に装着される各種の排気バルブに、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本実施の形態のディーゼルエンジン100の概略構成を示す図である。
【図2】図1中に示す排気バルブ130の具体的構成を示す図である。
【図3】実施例及び比較例に係る各メッキ被膜の増肉厚さ[μm]を示すグラフである。
【図4】実施例に係る各メッキ被膜(750[℃]にて熱間放置)の断面の様子を模式的に示す図である。
【図5】比較例に係る各メッキ被膜(750[℃]にて熱間放置)の断面の様子を模式的に示す図である。
【図6】別の実施の形態のディーゼルエンジン200の概略構成を示す図である。
【図7】図6中のEGRクーラー切替バルブ230の具体的構成を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
100,200…ディーゼルエンジン
101…エンジン本体
103…吸気通路
103a,103b…吸気管
103c…吸気マニホールド
105…排気通路
105a…排気マニホールド
105b,105c…排気管
107…ターボチャージャー
107a…コンプレッサ
107b…タービン
110…排気浄化装置
112…ケーシング
114…酸化触媒
116…フィルター
120…圧力センサ
122…温度センサ
130…排気バルブ
131…バルブハウジング
132…ボア部
133…メッキ皮膜
134…弁体
135…バルブシャフト
140…ECU
210…EGR装置
211…EGR通路
211a,211d…EGR管
211b…EGR冷却管
211c…EGRバイパス管
213…EGRクーラー
230…EGRクーラー切替バルブ
231…バルブハウジング
232…ボア部
233…メッキ皮膜
234…弁体
235…バルブシャフト
236…レバー
237…ロッド
238…アクチュエータ
240…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気ガスが流通する流通経路に装着される排気バルブであって、
前記流通経路に連通するボア部を有するバルブハウジングと、
前記ボア部に収容される弁体と、を備え、
前記弁体と、前記ボア部の各部位のうち当該弁体と対向する部位との少なくとも一方に、ニッケルを98重量%以上含有するメッキ被膜が設けられていることを特徴とする排気バルブ。
【請求項2】
請求項1に記載の排気バルブであって、
前記メッキ被膜の膜厚が20μm以上とされることを特徴とする排気バルブ。
【請求項3】
内燃機関の排気ガスが流通する流通経路に、前記内燃機関から排出された排気ガス中のパティキュレートを捕集する捕集手段を備える排気処理装置において、前記捕集手段の所定の温度領域での再生処理を行うべく当該捕集手段よりも下流の流通経路を絞り調節する排気バルブであって、
請求項1または2に記載の排気バルブを用いて構成されることを特徴とする排気バルブ。
【請求項4】
内燃機関の排気ガスを冷却するEGRクーラーを有するEGR冷却管と、前記EGR冷却管をバイパスするEGRバイパス管と、を備える排気処理装置において、排気ガスを前記EGR冷却管と前記EGRバイパス管とに切り替えて供給する排気バルブであって、
請求項1または2に記載の排気バルブを用いて構成されることを特徴とする排気バルブ。
【請求項5】
内燃機関の排気ガスの一部を吸気系へと再循環させる再循環経路を備える排気処理装置において、排気ガスの再循環量を調整するべく前記再循環経路に配設される排気バルブであって、
請求項1または2に記載の排気バルブを用いて構成されることを特徴とする排気バルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−113395(P2007−113395A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302380(P2005−302380)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】