説明

摩擦係合装置の空気抜き構造

【課題】最適なタイミングで空気抜きを行うことにより変速時の油圧の応答遅れを防止でき、油圧の応答遅れに起因したエンジンの空吹きを好適に防止できる摩擦係合装置の空気抜き構造を提供する。
【解決手段】車両のパーキングロック状態と非パーキングロック状態とを切り換えるパーキング装置20を備えた自動変速機4に設けられ、シリンダ部材16の油圧供給室23に供給された油圧によりピストン部材17が動作し外ブレーキプレート14と内ブレーキディスク15とを互いに摩擦係合させるとともに、油圧供給室23内の滞留空気を抜く空気抜き部材18を備えたブレーキB3の空気抜き構造において、空気抜き部材18は油圧供給室23と連通する空気抜き通路18cを有し、パーキングロック状態のとき、空気抜き通路18cとマニュアルシャフト42の貫通孔42aとが連通し、非パーキングロック状態のとき、空気抜き通路18cが密閉される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦係合装置の空気抜き構造に関し、特に、シフトレバーの操作に応じて回転軸が回動することにより車両のパーキングロック状態と非パーキングロック状態とが切り換わるパーキング装置を有する自動変速機に適用される摩擦係合装置の空気抜き構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動変速機に適用される摩擦係合装置においては、互いに所定の間隔を隔てて配置される摩擦板などから構成される複数の摩擦係合要素と、摩擦係合要素を押圧するピストンと、ピストンが摩擦係合要素を押圧するための油圧が供給される油圧供給室と、ピストンの押圧方向と反対方向にピストンが付勢されるリターンスプリングとを備えている。このように構成された摩擦係合装置は、油圧供給室に油圧が供給されると、リターンスプリングの付勢力に抗して供給された油圧によってピストンが摩擦係合要素を押圧する方向に摺動する。そしてピストンが摩擦係合要素を押圧することにより摩擦係合要素が互いに摩擦係合し、クラッチまたはブレーキとして機能するようになっている。
【0003】
ところで、上述のような摩擦係合装置では、例えば製造時等において油圧回路内へ作動油を供給する際に空気が混入したり、車両走行時に作動油が高温になった際に、作動油に含まれる水分が沸騰することにより油圧回路内で気泡が発生することがある。
【0004】
このように、作動油に混入した空気が油圧供給室内に溜まると、油圧供給室内に油圧を供給する際に、油圧が溜まった空気を圧縮する仕事をしてしまい、その仕事分だけ油圧の応答遅れが生じる。例えば、作動油の油圧によって摩擦係合要素の係合および解放のいずれかが切り換えられて所望の変速段を形成する自動変速機に適用される摩擦係合装置にあっては、上述のような油圧の応答遅れが生じると、摩擦係合要素の係合および解放の切り換えに要する変速時間が長くなってしまう。
したがって、油圧回路内に空気が混入した場合、変速時間を短縮するためには、例えば空気抜き構造のように、何らかの方法で空気抜きする必要がある。
【0005】
従来、自動変速機に適用される摩擦係合装置の油圧回路内に混入した空気を抜く空気抜き構造として、油圧が供給される油圧供給室に設けられ、油圧の供給に応じて作動するピストンと、ピストンの作動に応じて係合する摩擦係合要素と、油圧供給室の上部に形成された排出口と空気排出通路を介して連通するチェックボール収納室が形成され、空気よりも大きく作動油よりも小さい比重を有するチェックボールがチェックボール収納室内に収納された空気排出機構と、を備え、油圧供給室内に溜まった空気を空気排出機構の空気排出口から外部に排出するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
上述の特許文献1に記載の従来の摩擦係合装置の空気抜き構造では、油圧供給室内に溜まった空気がチェックボール収納室に流入すると、空気排出通路を封止していたチェックボールが空気に押されて上方に移動するとともに、油圧供給室内に溜まった空気が空気排出口から外部に排出されるようになっている。
【0007】
また、油圧供給室内に溜まった空気とともに作動油がチェックボール収納室に供給されると、チェックボール収納室内で作動油の上に浮かんだチェックボールがチェックボール収納室内の上部に形成された空気排出口を封止し、作動油の漏れが防止されるとともに油圧が確保されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−327620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のような従来の摩擦係合装置の空気抜き構造にあっては、チェックボール収納室内におけるチェックボールの移動により空気抜きが行われるよう構成されているため、油圧供給室に空気が溜まっている場合には、車両の走行中であっても空気抜きが行われるようになっている。
【0010】
このため、例えば油圧供給室に空気が溜まった状態で、車両の走行中に変速を行うために油圧供給室に油圧が供給されると、供給される油圧によって空気が空気排出機構を介して排出され、続いてチェックボールが空気排出口を封止するまで油圧がチェックボール収納室内に供給されることとなる。
【0011】
したがって、従来の摩擦係合装置の空気抜き構造にあっては、特に車両の走行中に行われる変速時において、油圧供給室に供給される油圧の一部が空気排出機構に供給される分だけ、油圧の応答遅れが生じる。
【0012】
この結果、変速時においては、変速後の変速段に対応する摩擦係合要素の係合が行われる前に、変速前に係合していた摩擦係合要素が係合を解除してしまうため、トルクを伝達することができなくなり、エンジンの空吹きが発生してしまうという問題があった。
【0013】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、最適なタイミングで空気抜きを行うことにより、変速時における油圧の応答遅れを防止することができ、このような油圧の応答遅れに起因したエンジンの空吹きを好適に防止できる摩擦係合装置の空気抜き構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る摩擦係合装置の空気抜き構造は、上記目的達成のため、(1)シフトレバーの操作に応じて回転軸が回動することにより、車輪がロックされるパーキングロック状態と、前記車輪のロックが解除される非パーキングロック状態とが切り換わるパーキング装置を備えた自動変速機に設けられ、油圧で動作するピストン部材と、前記ピストン部材を摺動可能に収容するとともに、前記ピストン部材を押圧するための油圧が供給される油圧供給室を有するシリンダ部材と、前記油圧供給室に供給された油圧により前記ピストン部材を介して互いに摩擦係合する摩擦係合要素と、前記油圧供給室内に溜まった滞留空気を抜く空気抜き部材と、を備えた摩擦係合装置の空気抜き構造であって、前記空気抜き部材は、前記シリンダ部材に連結された一端部と前記回転軸に連結された他端部とを有するとともに、前記油圧供給室と連通する空気抜き通路が形成され、前記回転軸は、その径方向に貫通する貫通孔を有し、前記空気抜き部材は、前記パーキング装置が前記パーキングロック状態に切り換わったとき、前記他端部で前記空気抜き通路と前記貫通孔とが連通し、前記パーキング装置が前記非パーキングロック状態に切り換わったとき、前記他端部で前記空気抜き通路が密閉されるよう構成する。
【0015】
この構成により、車両が停止し、運転者によるシフトレバーの操作に応じてパーキング装置がパーキングロック状態に切り換わったときのみ、回転軸に設けられた貫通孔と空気抜き通路とが連通し、油圧供給室内の滞留空気が空気抜き通路を介して貫通孔から外部に排出される。このため、パーキングロック状態にある車両の停止中にのみ、油圧供給室から滞留空気を排出することができる。
【0016】
一方、パーキング装置が非パーキングロック状態に切り換わったときには、回転軸が回転することにより貫通孔と空気抜き通路との連通が解除され、他端部で空気抜き通路を回転軸により密閉することができる。
【0017】
このため、例えば車両の走行中に空気抜きが行われることがなく、最適なタイミングで空気抜きを行うことにより、車両の変速時における摩擦係合装置の油圧の応答遅れを防止することができる。したがって、車両の変速時には、速やかに摩擦係合装置が動作し、前述のような油圧の応答遅れに起因して摩擦係合が遅れることによって発生するエンジンの空吹きが防止される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、最適なタイミングで空気抜きを行うことにより、変速時における油圧の応答遅れを防止することができ、このような油圧の応答遅れに起因したエンジンの空吹きを好適に防止できる摩擦係合装置の空気抜き構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る摩擦係合装置の空気抜き構造が適用される車両の概略を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る摩擦係合装置の空気抜き構造が適用される自動変速機の変速機構の一部断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る摩擦係合装置が適用される自動変速機を示す図であって、パーキング状態を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る摩擦係合装置が適用される自動変速機を示す図であって、非パーキング状態を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る摩擦係合装置の一部拡大断面図であって、油圧供給室内に空気が溜まった状態を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る摩擦係合装置とパーキング装置の接続部分を示す図であって、(a)は、空気抜き通路と貫通孔との連通状態を示す部分拡大断面図であり、(b)は、空気抜き通路と貫通孔との連通状態を示す部分拡大正面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る摩擦係合装置の一部拡大断面図であって、油圧供給室内がオイルで満たされた状態を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る摩擦係合装置とパーキング装置の接続部分を示す図であって、(a)は、空気抜き通路と貫通孔との非連通状態を示す部分拡大断面図であり、(b)は、空気抜き通路と貫通孔との非連通状態を示す部分拡大正面図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る摩擦係合装置の空気抜き構造が適用される自動変速機のパーキング装置の概略を示す斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るトランスミッションECUによって実行される空気抜き制御を示すフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態に係る摩擦係合装置の空気抜き構造をベルト式無段変速機に適用した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
図1〜図10を参照して、本発明の実施の形態に係る摩擦係合装置の空気抜き構造が適用される車両について、説明する。
まず、構成について説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態に係る摩擦係合装置の空気抜き構造が適用される車両1(全体は図示していない)は、フロントエンジン・リヤドライブ形式のいわゆるFR車であって、シフトレバー2と、シフトポジションセンサ3と、自動変速機4と、トランスミッションECU(Electronic Control Unit)5と、を含んで構成されている。なお、本実施の形態においては、自動変速機4をFR車に適用した場合について説明するが、これに限らず、他のドライブ形式の車両に適用するようにしてもよい。例えばフロントエンジン・フロントドライブ形式のFF車に適用するようにしてもよい。
【0023】
シフトレバー2は、車両1の運転席の近傍に配置され、例えば運転者の操作によりパーキングレンジ(以下、Pレンジという)、リバースレンジ(以下、Rレンジという)、ニュートラルレンジ(以下、Nレンジという)、ドライブレンジ(以下、Dレンジという)等のシフトレンジが選択されるようになっている。本実施の形態においては、シフトレンジとしてPレンジ、Rレンジ、NレンジおよびDレンジが設定されたものについて説明するが、車両1や自動変速機4の仕様等の設定諸元に応じて任意のシフトレンジ、例えばD1レンジやD2レンジが設定される。
【0024】
シフトポジションセンサ3は、シフトレバー2の操作位置を検出するものであり、例えばPレンジ、Rレンジ、NレンジおよびDレンジのうち、いずれのシフトレンジが選択されているかを検出するものである。
【0025】
自動変速機4は、トルクコンバータ6と、インプットシャフト7と、変速機構8と、油圧制御装置9と、アウトプットシャフト10と、パーキング装置20とを含んで構成されており、トランスミッションECU5により実行される変速制御に応じて、図示しないエンジンからの駆動力がトルクコンバータ6を介してインプットシャフト7に入力され、入力された駆動力を変速機構8により所望の変速比で変速するようになっている。
その後、変速後の駆動力がアウトプットシャフト10によって図示しないディファレンシャルを介して車輪に伝達されるようになっている。また、上述のトルクコンバータ6、インプットシャフト7、変速機構8、油圧制御装置9、アウトプットシャフト10およびパーキング装置20は、自動変速機4のケース4a内に収容されるようになっている。
【0026】
トルクコンバータ6は、駆動力伝達機構からなり、例えば流体式のトルクコンバータで構成されており、循環するオイルの作用により図示しないエンジンの出力軸から伝達される駆動力をインプットシャフト7を介して変速機構8に伝達するようになっている。
【0027】
変速機構8は、複数の摩擦係合装置としてのクラッチやブレーキを有しており、車両の走行状況に応じて複数のクラッチやブレーキの係合および解放が切り換えられることで所望の変速段を形成し、所望の変速段に応じた変速比でインプットシャフト7から伝達された駆動力をアウトプットシャフト10を介して図示しないディファレンシャルに伝達するようになっている。なお、上述の変速機構8は、有段式の変速機構で構成されているが、その他、例えば無段式の変速機構で構成されることも可能である。
【0028】
具体的には、図2に示すように、変速機構8は、第1プラネタリギアユニット11と、第2プラネタリギアユニット12と、第3プラネタリギアユニット13と、複数の摩擦係合装置として、クラッチC1〜C3およびブレーキB1〜B4と、ワンウェイクラッチF1〜F3と、を含んで構成されている。図2において、クラッチC1〜C3は、それぞれ図中、ブレーキB3よりも左側に配置されるが、その図示を省略している。
【0029】
このように構成された変速機構8は、クラッチC1〜C3、ブレーキB1〜B4およびワンウェイクラッチF1〜F3の係合および解放のいずれかが選択的に切り換えられることにより、1速〜5速までの前進変速段あるいは後進変速段のいずれかが形成されるようになっている。したがって、変速機構8は、インプットシャフト7(図1参照)に入力された回転を変速段に応じた変速比で第1プラネタリギアユニット11、第2プラネタリギアユニット12および第3プラネタリギアユニット13を介して、アウトプットシャフト10に出力するようになっている。
【0030】
また、クラッチC1〜C3およびブレーキB1〜B4は、それぞれ油圧制御装置9から供給される油圧によって、選択的に係合するようになっている。本実施の形態に係る摩擦係合装置の空気抜き構造においては、上述のブレーキB1〜B4が本発明に係る摩擦係合装置を構成している。
【0031】
次に、図3および図4を参照して、摩擦係合装置としてのブレーキB1〜B4について、ブレーキB3を例に挙げて詳細に説明する。
図3に示すように、ブレーキB3は、摩擦係合要素としての複数枚の外ブレーキプレート14および複数枚の内ブレーキディスク15と、シリンダ部材16と、ピストン部材17と、空気抜き部材18とを含んで構成されている。
【0032】
複数枚の外ブレーキプレート14は、自動変速機4のケース4aの内周側に相対回転不能かつ軸心方向へ移動可能にスプライン係合されるようになっている。
複数枚の内ブレーキディスク15は、前述の複数枚の外ブレーキプレート14の間に介在させられるとともに、ワンウェイクラッチF2のアウタレース21に固定されたハブ22に係合されるようになっている。
外ブレーキプレート14と内ブレーキディスク15とは、後述する油圧供給室23に供給された油圧によりピストン部材17を介して、互いに摩擦係合するようになっている。
【0033】
シリンダ部材16は、ケース4aに固定され、ピストン部材17を内部に摺動可能に収容するようになっている。また、シリンダ部材16には、シリンダ部材16の内壁面とピストン部材17の受圧面とにより環状の油圧供給室23が画成されている。
【0034】
油圧供給室23は、シリンダ部材16に形成されたオイル供給口16aを介してオイル供給路24と連通し、図示しないオイルポンプからピストン部材17を作動させるための油圧が供給されるようになっている。
【0035】
また、オイル供給路24上には、油圧制御装置9(図1参照)が有するリニアソレノイドバルブ25が設けられ、このリニアソレノイドバルブ25により油圧供給室23に供給される油圧が制御されるようになっている。すなわち、リニアソレノイドバルブ25は、例えば電磁弁で構成され、トランスミッションECU5(図1参照)によって励磁、非励磁が制御され、励磁状態においては、開状態とされて油圧供給室23に油圧を供給し、非励磁状態においては、閉状態とされて油圧供給室23への油圧の供給を遮断するようになっている。
【0036】
図5および図7に示すように、ピストン部材17は、円環形状からなり、油圧供給室23側に位置する受圧面17aと、受圧面17aと反対側、すなわち外ブレーキプレート14側に位置する先端部17bとを含んで構成されている。また、ピストン部材17は、先端部17bが外ブレーキプレート14に対向するようシリンダ部材16の内部で軸方向に摺動可能に収容されるようになっている。
【0037】
また、ピストン部材17は、先端部17bがクシ歯状に形成されており、このクシ歯状に形成された先端部17bの間に配置されたリターンスプリング27の付勢力により常時図中右方向、すなわちピストン部材17が外ブレーキプレート14を押圧する方向と反対方向に付勢されるようになっている。
【0038】
また、ピストン部材17は、油圧で動作するようになっており、具体的には、油圧供給室23に油圧が供給されると、リターンスプリング27の付勢力に抗してシリンダ部材16内を外ブレーキプレート14側に摺動し、先端部17bが外ブレーキプレート14を内ブレーキディスク15に向けて押圧するようになっている。
【0039】
このように構成されたブレーキB3は、油圧供給室23に供給される油圧に応じて、ピストン部材17を動作し、外ブレーキプレート14と内ブレーキディスク15とを選択的に摩擦係合することにより、回転部材としてのハブ22の回転を規制するようになっている。
【0040】
空気抜き部材18は、シリンダ部材16と後述するマニュアルシャフト42との間に設けられ、シリンダ部材16に連結された一端部18aと、マニュアルシャフト42に連結された他端部18bとを有している。また、空気抜き部材18には、油圧供給室23と連通する空気抜き通路18cが形成されており、この空気抜き通路18cを介して油圧供給室23内に溜まった滞留空気を抜くようになっている。
【0041】
図6(a)、(b)および図8(a)、(b)に示すように、空気抜き部材18の他端部18bには、シール部材19が設けられ、このシール部材19は、空気抜き部材18の他端部18bとマニュアルシャフト42の外周面との連結部をシールするようになっている。このシール部材19は、例えば樹脂やゴム等の弾性部材で構成されており、マニュアルシャフト42の外周面に接するシール面が、マニュアルシャフト42の外周面の曲率と同一の曲率で形成されることにより、マニュアルシャフト42の外周面に対して密着するようになっている。
【0042】
シール部材19は、例えば自動変速機4のケース4aに固定され、空気抜き部材18の他端部18bを支持するようになっている。
また、一端部18aは、空気抜き通路18cが環状の油圧供給室23内で空気が溜まり易い上方側において油圧供給室23と連通するよう、シリンダ部材16の上方側に連結されるのが好ましい。
【0043】
図1に示すように、油圧制御装置9は、変速機構8に設けられたクラッチC1〜C3およびブレーキB1〜B4の係合動作および解放動作を制御するリニアソレノイドバルブ25(図3、図4参照)を含む複数のリニアソレノイドバルブやこれら各リニアソレノイドバルブに必要に応じてオイルを供給するマニュアルバルブ9a等を含んで構成されている。例えば、油圧制御装置9は、後述するレンジ切換機構40によってマニュアルバルブ9aの作動状態が切り換えられることにより、シフトレンジに対応する油圧制御回路が成立させられるようになっている。
【0044】
アウトプットシャフト10は、図示しないデファレンシャルに連結され、このデファレンシャルを介して左右の後輪とともに回転するようになっている。
【0045】
パーキング装置20は、パーキングロック機構30と、レンジ切換機構40とを含んで構成されており、シフトレバー2の操作に応じてPレンジが選択されると、アウトプットシャフト10の回転が阻止されて車両1の停止状態が維持されるようになっている。
【0046】
図9に示すように、パーキングロック機構30は、パーキングギア31と、パーキングポール32と、パーキングロッド33とを含んで構成されており、運転者によりシフトレバー2が操作され、Pレンジが選択されると、自動変速機4のアウトプットシャフト10の回転を阻止して車両1の停止状態を維持するようになっている。
【0047】
パーキングギア31は、自動変速機4のアウトプットシャフト10に相対回転不能に固定され、アウトプットシャフト10とともに回転するようになっている。また、パーキングギア31は、その外周面に複数の嵌合歯が設けられている。
【0048】
パーキングポール32は、パーキングギア31の外周面と対向する位置に設けられ、パーキングギア31の嵌合歯に嵌合する係止部32aが形成されている。また、パーキングポール32は、係止部32aがパーキングギア31の嵌合歯に選択的に嵌合可能なように構成されている。すなわち、パーキングポール32は、その一端側が例えば自動変速機4のケース4aに回動可能に取り付けられ、前述の一端側を支点にパーキングギア31に接近および離間するいずれかの方向に回動できるようになっている。
【0049】
パーキングロッド33は、一端が後述するマニュアルバルブレバー41に連結され、他端にテーパコーン状のパーキングカム34が取り付けられている。パーキングロッド33は、マニュアルバルブレバー41の傾動に応じて、パーキングカム34を軸方向すなわちアウトプットシャフト10の軸線と略平行な方向に摺動させるようになっている。
【0050】
また、パーキングロッド33は、マニュアルバルブレバー41の時計方向への傾動に応じて、パーキングカム34をパーキングポール32側に押圧することにより、パーキングポール32がパーキングギア31側に徐々に近接して、パーキングポール32の係止部32aをパーキングギア31の嵌合歯に嵌合させるようになっている。このパーキングポール32の係止部32aとパーキングギア31の嵌合歯との嵌合により、パーキングギア31の回転が阻止されるようになっている。
【0051】
一方、パーキングロッド33は、マニュアルバルブレバー41の反時計方向への傾動に応じて、パーキングカム34をパーキングポール32から離間する方向に移動させることにより、パーキングポール32の係止部32aとパーキングギア31の嵌合歯との嵌合を解除するようになっている。
【0052】
レンジ切換機構40は、マニュアルバルブレバー41と、マニュアルシャフト42と、アクチュエータ43と、ラッチレバー44と、を含んで構成されており、運転者によるシフトレバー2(図1参照)の操作に応じて、Pレンジ、Rレンジ、NレンジおよびDレンジのいずれかのシフトレンジに対応した変速段を成立させるために、油圧制御装置9のマニュアルバルブ9aを作動させるようになっている。
【0053】
マニュアルバルブレバー41は、シフトレバー2により選択されるPレンジ、Rレンジ、NレンジおよびDレンジのそれぞれに対応する波形溝が一端側41aに形成されている。また、マニュアルバルブレバー41の他端側41bには、パーキングロッド33の一方の端部が連結されており、また突片41cには、マニュアルバルブ9のスプール9bの至端部が連結されている。
【0054】
また、マニュアルバルブレバー41は、マニュアルシャフト42の一端に一体回転可能に固定されており、Pレンジ、Rレンジ、NレンジおよびDレンジのうち、シフトレバー2により選択されたシフトレンジに対応してマニュアルシャフト42が回動すると、4段階に傾動されるようになっている。また、マニュアルバルブレバー41は、前述の傾動に応じてマニュアルバルブ9aのスプール9bを軸方向に移動させるようになっている。
【0055】
マニュアルシャフト42は、自動変速機4のケース4aに回動可能に支持されており、アクチュエータ43によって回動されるようになっている。
マニュアルシャフト42には、図3および図4に示すように、軸方向に直交する径方向に貫通する貫通孔42aが形成されている。さらに、マニュアルシャフト42の外周面には、空気抜き部材18の他端部18bが係合するようになっている。
本実施の形態に係る摩擦係合装置の空気抜き構造においては、上述のマニュアルシャフト42が本発明に係る摩擦係合装置の空気抜き構造における回転軸を構成している。
【0056】
具体的には、図3および図6(a)、(b)に示すように、マニュアルシャフト42は、車両1が停止した際に、運転者によりシフトレバー2が操作され、Pレンジが選択されると、パーキングロック状態(Pレンジ)に応じた回動位置で、貫通孔42aが空気抜き通路18cと連通するようになっている。
したがって、図5に示すように、油圧供給室23内に滞留している滞留空気(図中、Aで示す)が、空気抜き通路18cおよび貫通孔42aを介して外部に排出されるようになっている。
【0057】
一方、図4および図8(a)、(b)に示すように、マニュアルシャフト42は、運転者によりシフトレバー2が操作され、Pレンジ以外のシフトレンジ、例えばDレンジが選択されると、その回動に応じて貫通孔42aが空気抜き通路18cと非連通状態とされるようになっている。したがって、空気抜き通路18cは、パーキング装置20により車両1が非パーキングロック状態とされたとき、非パーキングロック状態(例えばDレンジ)に応じたマニュアルシャフト42の回動位置で、マニュアルシャフト42の外周面によって密閉されるようになっている。このため、図7に示すように、非パーキングロック状態においては、油圧供給室23内に満たされたオイルの油圧が確保されるようになっている。
【0058】
このように、マニュアルシャフト42の貫通孔42aは、車両1がパーキングロック状態とされたときのみ、空気抜き通路18cと連通し、ブレーキB3の油圧供給室23内に溜まった滞留空気を外部に排出するようになっている。
【0059】
なお、本実施の形態においては、空気抜き通路18cと貫通孔42aとが正確に連通するよう、あるいは空気抜き通路18cが他端部18bでマニュアルシャフト42の外周面により密閉状態とされるよう空気抜き部材18の他端部18bがシール部材19によって正確に位置決めされて保持されている。
【0060】
ここで、一般に、油圧供給室23内には、図示しないオイルポンプによるオイルの攪拌等によりオイル中に混入された多数の微小な気泡に起因した空気や、車両が長期間にわたって運転されないことによりオイルが漏れることにより混入される空気が溜まってしまうことがある。
【0061】
本実施の形態に係る摩擦係合装置の空気抜き構造は、前述のように油圧供給室23内に溜まった滞留空気を、パーキング装置20のマニュアルシャフト42の回動を利用して、マニュアルシャフト42に形成された貫通孔42aから外部に空気を排出するものである。
【0062】
また、本実施の形態においては、このような空気抜き構造をブレーキB3に適用した例について説明したが、これに限定されるものではなく、その他のブレーキB2〜B4(図2参照)に適用してもよい。
【0063】
アクチュエータ43は、図示しないモータと減速機構とを含んで構成されており、シフトポジションセンサ3により検出されたシフトレンジに応じてトランスミッションECU5(図1参照)によって駆動制御されることにより、マニュアルシャフト42を正方向または逆方向に回動するようになっている。
【0064】
ラッチレバー44は、板ばね等から構成され、一端が自動変速機4のケース4aに固定されるとともに、他端にマニュアルバルブレバー41の波形溝に係合させるピン34aが設けられている。ラッチレバー44は、ピン34aが所定の付勢力でマニュアルバルブレバー41の波形溝に係合することにより、マニュアルバルブレバー41の傾動位置を維持するようになっている。
【0065】
このように、レンジ切換機構40は、アクチュエータ43の駆動によりマニュアルシャフト42が回動されるとともにマニュアルバルブレバー41が傾動されることによって、マニュアルバルブ9aのスプール9bを軸方向に移動させ、Pレンジ、Rレンジ、NレンジおよびDレンジのうち、シフトレバー2により選択されたシフトレンジに対応した位置にマニュアルバルブ9aを切り換えるようになっている。
【0066】
このように、パーキング装置20は、運転者によりシフトレバー2が操作され、Pレンジが選択されると、アクチュエータ43によりマニュアルシャフト42が回動し、パーキングポール32の係止部32aがパーキングギア31の嵌合歯に嵌合してパーキングギア31の回転が阻止され、車両1の停止状態が維持されるパーキングロック状態を成立させるようになっている。
【0067】
一方、パーキング装置20は、運転者によりシフトレバー2が操作され、例えばPレンジからDレンジ等のPレンジ以外のシフトレンジに切り換えられると、アクチュエータ43によりマニュアルシャフト42が回動し、パーキングポール32の係止部32aとパーキングギア31の嵌合歯との嵌合が解除され、パーキングギア31の回転が許容されてパーキングロック状態が解除された非パーキングロック状態を成立させるようになっている。
【0068】
すなわち、パーキング装置20は、シフトレバー2の操作に応じてマニュアルシャフト42が回動することにより、車両1の車輪がロックされるパーキングロック状態と、車両1の車輪のロックが解除される非パーキングロック状態とを切り換えるようになっている。
【0069】
トランスミッションECU5は、公知のECUであって、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、入出力インターフェースを備えるマイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUは、RAMの一時記憶機能を利用するとともにROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うようになっている。
【0070】
トランスミッションECU5は、油圧制御装置9を制御することにより、前述の空気抜き構造における空気抜き制御や、変速機構8における所望の変速段を形成して最適な変速となるよう変速制御を実行するようになっている。
【0071】
次に、本実施の形態に係る摩擦係合装置において、トランスミッションECU5により実行される空気抜き制御について説明する。
図10に示すフローチャートは、トランスミッションECU5のROMに格納された空気抜き制御の処理プログラムの実行内容を示すもので、この処理プログラムは、制御内容を実行する単一または複数のプログラムを含んで構成されている。空気抜き制御の処理プログラムは、エンジン始動時にトランスミッションECU5のCPUによって実行される。
【0072】
図10に示すように、トランスミッションECU5は、図示しないエンジンが始動されたか否かを判定する(ステップS11)。具体的には、トランスミッションECU5は、図示しないイグニッションスイッチがONとされたか否かを検出することによりエンジンが始動されたか否かを判定する。
トランスミッションECU5は、エンジンが始動されていないと判定した場合(ステップS11でNO)には、本処理を終了する。
【0073】
一方、トランスミッションECU5は、エンジンが始動されたと判定した場合(ステップS11でYES)には、シフトレンジがPレンジであるか否かを判定する(ステップS12)。具体的には、トランスミッションECU5は、シフトポジションセンサ3から入力されるシフトレバー2の操作位置を示す信号に基づき、シフトレンジがPレンジであるか否かを判定する。
トランスミッションECU5は、シフトレンジがPレンジでないと判定した場合(ステップS12でNO)には、本処理を終了する。すなわち、エンジン始動時のシフトレンジがNレンジである場合には、マニュアルシャフト42がNレンジに対応した回動位置にあるため、空気抜き通路18cと貫通孔42aとが非連通状態である。したがって、このような場合には、空気抜き制御を実行しないこととするものである。
【0074】
一方、トランスミッションECU5は、シフトレンジがPレンジであると判定した場合(ステップS12でYES)には、リニアソレノイドバルブ25が開状態となるよう励磁状態にして(ステップS13)、ブレーキB3の油圧供給室23に油圧を供給する。このとき、図3、図5および図6(a)、(b)に示すように、空気抜き通路18cと貫通孔42aとは、パーキングロック状態(Pレンジ)に応じたマニュアルシャフト42の回動位置で連通状態とされている。したがって、ブレーキB3の油圧供給室23内に溜まっている滞留空気は、一時的に加えられた油圧の作用によって、空気抜き部材18の空気抜き通路18cおよびマニュアルシャフト42の貫通孔42aを介して、外部に排出される。
【0075】
次いで、トランスミッションECU5は、油圧供給室23に油圧を供給してから所定時間tが経過したか否かを判定する(ステップS14)。ここで、前述の所定時間tは、予め実験的に求めて記憶された所定時間であって、例えば、油圧供給室23に溜まった滞留空気を排出するための油圧の供給に要する十分な時間に設定される。
トランスミッションECU5は、所定時間tが経過していないと判定した場合(ステップS14でNO)には、所定時間tに達するまで本ステップを繰り返し実行する。
【0076】
一方、トランスミッションECU5は、所定時間tが経過したと判定した場合(ステップS14でYES)には、油圧供給室23内の滞留空気が排出されたものと判断して、リニアソレノイドバルブ25が閉状態となるよう非励磁状態とする(ステップS15)。これにより、油圧供給室23への油圧の供給が停止される。
これにより、エンジン始動時の空気抜き制御が終了する。
【0077】
次いで、上述の空気抜き制御が実行された後に、運転者によりシフトレバー2が操作され、Pレンジ以外のシフトレンジ、例えばDレンジが選択された場合には、トランスミッションECU5により、シフトポジションセンサ3から入力されるシフトレバー2の操作位置を示す信号に基づき、選択されたシフトレンジ、例えばDレンジに応じてマニュアルシャフト42を回動するようアクチュエータ43が駆動させられる。
【0078】
このとき、図4、図7および図8(a)、(b)に示すように、空気抜き通路18cと貫通孔42aとは、マニュアルシャフト42がパーキング状態における回動位置から非パーキングロック状態に応じた回動位置まで回動することにより連通が解除された非連通状態とされる。すなわち、空気抜き通路18cは、油圧供給室23内の滞留空気が排出された後、Dレンジに応じたマニュアルシャフト42の回動位置で、マニュアルシャフト42の外周面により密閉状態とされる。したがって、車両1の走行中においては、油圧供給室23からオイルが漏れることがなく、油圧供給室23内のオイルの油圧が確保される。
【0079】
以上のように、本実施の形態に係る摩擦係合装置の空気抜き構造が適用される車両1においては、車両1が停止し、運転者によるシフトレバー2の操作に応じてパーキング装置20がパーキングロック状態に切り換わったときのみ、マニュアルシャフト42に設けられた貫通孔42aと空気抜き通路18cとが連通し、油圧供給室23内の滞留空気が空気抜き通路18cを介して貫通孔42aから外部に排出される。このため、パーキングロック状態にある車両1の停止中にのみ、油圧供給室23から滞留空気を排出することができる。
【0080】
一方、パーキング装置20が非パーキングロック状態に切り換わったときには、マニュアルシャフト42が回動することにより貫通孔42aと空気抜き通路18cとの連通が解除され、他端部18bで空気抜き通路18cをマニュアルシャフト42の外周面により密閉することができる。
【0081】
このため、例えば車両1の走行中に空気抜きが行われることがなく、最適なタイミングで空気抜きを行うことにより、車両1の変速時におけるブレーキB3の油圧の応答遅れを防止することができる。したがって、車両1の変速時には、速やかにブレーキB3が動作し、前述のような油圧の応答遅れに起因して摩擦係合が遅れることによって発生するエンジンの空吹きを好適に防止することができる。
【0082】
なお、本実施の形態においては、本発明に係る摩擦係合装置の空気抜き構造を、多段式の自動変速機4が備えるブレーキB3に適用した例について説明したが、これに限らず、例えば図11に示すようなベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)80に用いられる前後進切換機構81が備える摩擦係合装置としての後進ブレーキ92に適用することも可能である。
【0083】
図11に示すように、ベルト式無段変速機(以下、単にCVTという)80は、V溝状のプーリ溝を備えた駆動側のプライマリプーリ85と従動側のセカンダリプーリ86とにベルト87を巻き掛け、一方のプーリのプーリ溝の溝幅を拡大すると同時に他方のプーリのプーリ溝の溝幅を狭くすることにより、それぞれのプーリに対するベルト87の巻き掛け半径(有効径)を連続的に変化させて変速比を無段階に設定するように構成されている。
【0084】
また、前後進切換機構81は、遊星歯車機構90と、油圧式の前進クラッチ91と、油圧式の後進ブレーキ92とによって構成されており、トルクコンバータ93の内部のインプットシャフト94に伝達されたエンジン95からのトルクを、プライマリプーリ85に伝達するようになっている。
【0085】
一方、このようなCVT80においても、トルクの伝達を機械的にロックする図示しないパーキング装置が設けられており、このようなパーキング装置が有するパーキングギアは、例えばセカンダリシャフト96において、セカンダリプーリ86とトランスアクスルリヤカバー97との間に設けられている。
【0086】
このように構成されたCVT80においても、後進ブレーキ92に本実施の形態に係る空気抜き構造を適用することにより、運転者によるシフトレバーの操作に応じてパーキング装置がパーキングロック状態に切り換わったときのみ、後進ブレーキ92の油圧供給室内に溜まった滞留空気を外部に排出することができる。
【0087】
また、本実施の形態において、パーキング装置20のレンジ切換機構40は、シフトポジションセンサ3により検出されたシフトレンジに応じた検出信号に基づいて、電動モータ等のアクチュエータ43を駆動して、選択されたシフトポジションに切り換える、いわゆるシフトバイワイヤ方式を採用しているが、これに限らず、例えばシフトリンケージ等を介してシフトレバー2とマニュアルシャフト42とを機械的に連結して、シフトレバー2の操作に連動してマニュアルシャフト42を回動させることにより、選択されたシフトポジションに切り換えるレンジ切換機構であってもよい。
【0088】
また、本実施の形態においては、上述の空気抜き制御をエンジン始動時に実行するようにしたが、これに限らず、上述の空気抜き制御が実行された後、シフトレンジが変更されることなく、長時間に亘ってPレンジのシフトレンジが維持された場合に、所定時間の経過を条件に再度、同一の空気抜き制御を実行するようにしてもよい。
【0089】
また、本実施の形態において、空気抜き部材18の一端部18aがシリンダ部材16の上方側に連結されるよう構成したが、これに限らず、油圧供給室23内の滞留空気を排出するのに適した位置であればいずれの位置に連結してもよい。
【0090】
以上説明したように、本発明に係る車両の制御装置は、最適なタイミングで空気抜きを行うことにより、変速時における油圧の応答遅れを防止することができ、このような油圧の応答遅れに起因したエンジンの空吹きを好適に防止できるという効果を有し、シフトレバーの操作に応じて回転軸が回動することにより車両のパーキングロック状態と非パーキングロック状態とが切り換わるパーキング装置を有する自動変速機に適用される摩擦係合装置の空気抜き構造全般に有用である。
【符号の説明】
【0091】
1 車両
2 シフトレバー
4 自動変速機
5 トランスミッションECU
14 外ブレーキプレート(摩擦係合要素)
15 内ブレーキディスク(摩擦係合要素)
16 シリンダ部材
17 ピストン部材
18 空気抜き部材
18a 一端部
18b 他端部
18c 空気抜き通路
20 パーキング装置
23 油圧供給室
42 マニュアルシャフト(回転軸)
80 ベルト式無段変速機
81 前後進切換機構
92 後進ブレーキ
B1〜B4 ブレーキ(摩擦係合装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シフトレバーの操作に応じて回転軸が回動することにより、車輪がロックされるパーキングロック状態と、前記車輪のロックが解除される非パーキングロック状態とが切り換わるパーキング装置を備えた自動変速機に設けられ、
油圧で動作するピストン部材と、
前記ピストン部材を摺動可能に収容するとともに、前記ピストン部材を押圧するための油圧が供給される油圧供給室を有するシリンダ部材と、
前記油圧供給室に供給された油圧により前記ピストン部材を介して互いに摩擦係合する摩擦係合要素と、
前記油圧供給室内に溜まった滞留空気を抜く空気抜き部材と、を備えた摩擦係合装置の空気抜き構造であって、
前記空気抜き部材は、前記シリンダ部材に連結された一端部と前記回転軸に連結された他端部とを有するとともに、前記油圧供給室と連通する空気抜き通路が形成され、
前記回転軸は、その径方向に貫通する貫通孔を有し、
前記空気抜き部材は、前記パーキング装置が前記パーキングロック状態に切り換わったとき、前記他端部で前記空気抜き通路と前記貫通孔とが連通し、前記パーキング装置が前記非パーキングロック状態に切り換わったとき、前記他端部で前記空気抜き通路が密閉されることを特徴とする摩擦係合装置の空気抜き構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−64302(P2011−64302A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217217(P2009−217217)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】