説明

熱欠陥発生がなくかつ密着力に優れた液晶表示装置用配線および電極

【課題】液晶表示装置の配線および電極を形成するための銅合金薄膜を提供する。
【解決手段】Zn:0.05〜5原子%含有し、さらにSi、Ti、YおよびAlの内の1種または2種以上を合計で0.01〜0.5原子%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金薄膜からなる熱欠陥発生がなくかつ密着力に優れた液晶表示装置用配線および電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガラス基板表面に対する密着力に優れ、さらにヒロックおよびボイドなどの熱欠陥の発生がない銅合金薄膜からなる液晶表示装置用配線および電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、フラットパネルディスプレイなどの液晶表示装置にはガラス基板表面に格子状に銅合金薄膜からなる配線が密着して形成されており、この銅合金薄膜からなる格子状配線の交差点にTFTトランジスターが設けられており、このTFTトランジスターのゲート電極にも銅合金薄膜が使用されている。これらガラス基板表面に形成された銅合金薄膜からなる配線およびTFTトランジスターのゲート電極は液晶表示装置の製造工程においてアモルファスシリコンや窒化珪素等をPECVD(プラズマ化学蒸着)で成膜する工程で熱履歴を受けることが知られている。そして前記配線およびゲート電極を構成する銅合金薄膜の一種として、Znおよび/またはMgが総量で0.1〜3.0原子%を含有し、残部がCuからなる成分組成を有する銅合金薄膜が使用されることも知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−17926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、液晶表示装置は益々大型化しており、50インチ以上の大型液晶パネルが量産されるようになって来た。そのためにガラス基板表面に形成されている配線が長くなり、さらに液晶表示装置は益々高精細化しているためにガラス基板表面に形成される配線を益々細くすることが求められている。そのために配線の比抵抗を低くするとともに配線が剥離することのないようにガラス基板表面に対する密着力に一層優れた銅合金薄膜で構成されることが必要となり、さらに、液晶表示装置の配線および電極はその製造中に熱処理が施されるが、かかる熱処理工程で高温に曝されてもヒロックおよびボイドなどの熱欠陥が発生しない銅合金薄膜で構成されることが要求されている。
これらの要求に対して、前記従来の銅合金薄膜は比抵抗が低いもののガラス基板表面に対する密着力が十分でなく、さらに高温に曝されるとヒロックおよびボイドが発生することがあるので好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者等は、比抵抗が低く、しかもガラス基板表面に対する密着力に優れ、さらに高温に曝されてもヒロックおよびボイドなどの熱欠陥の発生が極めて少ない銅合金薄膜を開発し、これを液晶表示装置における配線および電極に適用すべく研究を行った。
その結果、純銅(特に純度:99.99%以上の無酸素銅)にZn:0.05〜5原子%を含有した銅合金薄膜はガラス基板表面に対する密着性に優れているが、これにさらに微量のSi、Ti、YおよびAlの内の1種または2種以上を合計で0.01〜0.5原子%を添加した銅合金薄膜は、比抵抗を上昇させること無くガラス基板表面に対する密着力を更に向上させることができ、また高温に曝されてもヒロックおよびボイドの熱欠陥が発生することがなく、かかる成分組成を有する銅合金薄膜は液晶表示装置用配線および電極として使用した場合に一層優れた効果を奏する、という研究結果が得られたのである。
【0005】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
(1)Zn:0.05〜5原子%含有し、さらにSi、Ti、YおよびAlの内の1種または2種以上を合計で0.01〜0.5原子%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金薄膜からなる熱欠陥発生がなくかつ密着力に優れた液晶表示装置用配線、
(2)Zn:0.05〜5原子%含有し、さらにSi、Ti、YおよびAlの内の1種または2種以上を合計で0.01〜0.5原子%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金薄膜からなる熱欠陥発生がなくかつ密着力に優れた液晶表示装置用電極、に特徴を有するものである。
【0006】
この発明の液晶表示装置の配線および電極を構成する銅合金薄膜は、Zn:0.05〜5原子%含有し、さらにSi、Ti、YおよびAlの内の1種または2種以上を合計で0.01〜0.5原子%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有するターゲットを用い、不活性ガス雰囲気中でスパッタリングすることにより形成することができる。したがって、この発明は、
(3)Zn:0.05〜5原子%含有し、さらにSi、Ti、YおよびAlの内の1種または2種以上を合計で0.01〜0.5原子%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する前記(1)記載の配線および前記(2)記載の銅合金薄膜を成膜するためのスパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
そして、このターゲットは、まず純度:99.99%以上の無酸素銅を、不活性ガス雰囲気中、高純度グラファイトモールド内で高周波溶解し、得られた純銅溶湯にZn:0.05〜5原子%を添加し、さらにSi、Ti、YおよびAlの内の1種または2種以上を合計で0.01〜0.5原子%を添加して溶解し、得られた溶湯を不活性ガス雰囲気中で鋳造し急冷凝固させたのち、さらに熱間圧延し、最後に歪取り焼鈍を施すことにより作製する。このようにして得られたターゲットをバッキングプレートに接合し、不活性ガス雰囲気中でスパッタリングすることにより形成することができる。
【0007】
この発明の液晶表示装置における配線および電極を構成する銅合金薄膜の成分組成の範囲を前述のごとく限定した理由を説明する。
(a)Zn:
この発明の配線および電極を構成する銅合金薄膜に含まれるZnはガラス基板表面に対する密着性を向上させると共にヒロックおよびボイドなどの熱欠陥の発生を一層抑制する作用を有するが、Znが0.05原子%未満添加しても所望の効果が得られず、一方、5原子%を越えて添加すると、配線および電極を構成する銅合金薄膜の比抵抗が上昇するので好ましくない。したがって、配線および電極を構成する銅合金薄膜に含まれるZnを0.05〜5原子%に定めた。
(b)Si、Ti、YおよびAl:
これら成分は、Znと共存することによりガラス基板表面に対する密着力を一層向上させ、さらに結晶粒を微細化して銅合金薄膜からなる液晶表示装置における配線および電極のヒロックおよびボイドなどの熱欠陥の発生を一層抑制する作用を有するので添加するが、その含有量が0.01原子%未満では所望の効果が得られないので好ましくなく、一方、0.5原子%を越えて含有すると比抵抗が増加するとともにかえってヒロックおよびボイドが多く発生するようになるので好ましくない。したがって、この発明の配線および電極を構成する銅合金薄膜に含まれるこれら成分の含有量は0.01〜0.5原子%に定めた。
【発明の効果】
【0008】
この発明の液晶表示装置における配線および電極は、ガラス基板表面に対する密着力に一層優れ、高温に曝されてもヒロックおよびボイドなどの熱欠陥の発生がなく、さらに比抵抗が低いことから高精細化し大型化した液晶表示装置の配線および電極に使用しても消費電力を少なくすることができるなど優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施例1
純度:99.99質量%の無酸素銅を用意し、この無酸素銅をArガス雰囲気中、高純度グラファイトモールド内で高周波溶解し、得られた溶湯にZnを添加し、さらにSi、Ti、YおよびAlのうちの1種もしくは2種以上を添加し溶解して表1に示される成分組成を有する溶湯となるように成分調整し、得られた溶湯を冷却されたカーボン鋳型に鋳造し、さらに熱間圧延したのち最終的に歪取り焼鈍し、得られた圧延体の表面を旋盤加工して外径:200mm×厚さ:5mmの寸法を有し、表1に示される成分組成を有する本発明ターゲット1〜21、比較ターゲット1〜8および従来ターゲット1を作製した。
【0010】
【表1】

さらに、無酸素銅製バッキングプレートを用意し、この無酸素銅製バッキングプレートに表1に示される本発明ターゲット1〜21、比較ターゲット1〜8および従来ターゲット1を重ね合わせ、温度:200℃でインジウムはんだ付けすることにより本発明ターゲット1〜21、比較ターゲット1〜8および従来ターゲット1を無酸素銅製バッキングプレートに接合してバッキングプレート付きターゲットを作製した。
【0011】
これら無酸素銅製バッキングプレートにはんだ付けして得られたバッキングプレート付きターゲットを、ターゲットとガラス基板(縦:50mm、横:50mm、厚さ:0.7mmの寸法を有するコーニング社製1737)との距離:70mmとなるようにセットし、
電源:直流方式、
スパッタパワー:600W、
到達真空度:4×10−5Pa、
雰囲気ガス組成:Ar混合ガス、
Arガス圧:0.67Pa、
ガラス基板加熱温度:150℃、
の条件でスパッタリングすることによりガラス基板の表面に厚さ:300nmを有し、表2〜3に示される成分組成を有する本発明銅合金薄膜1〜21、比較銅合金薄膜1〜6および従来銅合金薄膜1を形成した。これら本発明銅合金薄膜1〜21、比較銅合金薄膜1〜6および従来銅合金薄膜1をそれぞれ赤外線加熱炉に装入し、到達真空度:4×10−4Paの真空雰囲気中、昇温速度:5℃/min、最高温度:150℃、30分間保持の熱処理を施したのち真空冷却した。
これら熱処理を施し真空冷却することにより得られた本発明銅合金薄膜1〜21、比較銅合金薄膜1〜6および従来銅合金薄膜1について下記の通常の密着試験1および前記密着試験1よりも密着力を正確に数値化できる密着試験2を行い、ガラス基板に対する膜の密着力を評価した。
密着試験1
JIS-K5400に準じ、1mm間隔で碁盤目状に切れ目を入れた後、3M社製スコッチテープで引き剥がす碁盤目付着試験を実施し、ガラス基板中央部の10mm角内でガラス基板に付着していた100個の碁盤目の内で密着している碁盤目の数を測定し、その結果を(密着数/100)として表2〜3に示し、ガラス基板に対する密着性を評価した。
密着試験2
ガラス基板の表面に形成された本発明銅合金薄膜1〜21、比較銅合金薄膜1〜6および従来銅合金薄膜1の上に幅:10mmの粘着テープ(3MScotch #3305)を張り、粘着テープの両端に沿って本発明銅合金薄膜1〜21、比較銅合金薄膜1〜6および従来銅合金薄膜1に切れ目を入れることによりガラス基板の表面に付着している本発明銅合金薄膜1〜21、比較銅合金薄膜1〜6および従来銅合金薄膜1の幅と粘着テープの幅を一致させ、前記粘着テープを前記ガラス基板の厚さ方向に島津製作所製EZ Graph(ロードセル容量20N)にて引張り速度:1mm/分を用いて引っ張ることにより安定して剥離が起こっている区間の試験力平均値(N)を求め、この試験力平均値(N)を粘着テープの幅で割った値を表2〜3に示すことによりガラス基板に対する密着力を評価した。
また、これらとは別に先の条件と同じ条件で成膜して得られた本発明銅合金薄膜1〜21、比較銅合金薄膜1〜6および従来銅合金薄膜1をそれぞれ赤外線加熱炉に装入し、到達真空度:4×10−4Paの真空雰囲気中、昇温速度:5℃/min、最高温度:350℃、30分間保持の熱処理を施したのち真空冷却し、これら熱処理を施し真空冷却した本発明銅合金薄膜1〜21、比較銅合金薄膜1〜6および従来銅合金薄膜1の表面を1000倍の光学顕微鏡で5個所の膜表面を観察し、ヒロック、ボイドの発生の有無を観察し、その結果を表2〜3に示し、さらにTEMで膜の5個所の断面を観察して膜内ボイドの発生の有無を観察し、その結果を表2〜3に示した。さらにこれら熱処理を施し真空冷却することにより得られた本発明銅合金薄膜1〜21、比較銅合金薄膜1〜6および従来銅合金薄膜1の5点の比抵抗を四探針法により測定し、その平均値を求め、それらの結果を表2〜3に示した。
【0012】
【表2】

【0013】
【表3】

表1〜3に示される結果から、本発明銅合金薄膜1〜21と従来銅合金薄膜1を比較すると、共にZnを含有する銅合金薄膜であるが、Znの他にさらにSi、Ti、YおよびAlの内の1種または2種以上を合計で0.01〜0.5原子%を含む本発明銅合金薄膜1〜21はこれら成分を含まない従来銅合金薄膜1に比べて密着試験1では差が見られないが、密着試験2では本発明銅合金薄膜1〜21は従来銅合金薄膜1に比べて密着力が一層優れていることが分かる。しかしこの発明の条件から外れてSi、Ti、Y、Alを含む比較銅合金薄膜1〜6は比抵抗が大きくなり過ぎたり、密着力が低下することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn:0.05〜5原子%含有し、さらにSi、Ti、YおよびAlの内の1種または2種以上を合計で0.01〜0.5原子%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金薄膜からなることを特徴とする熱欠陥発生がなくかつ密着力に優れた液晶表示装置用配線。
【請求項2】
Zn:0.05〜5原子%含有し、さらにSi、Ti、YおよびAlの内の1種または2種以上を合計で0.01〜0.5原子%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金薄膜からなることを特徴とする熱欠陥発生がなくかつ密着力に優れた液晶表示装置用電極。
【請求項3】
Zn:0.05〜5原子%含有し、さらにSi、Ti、YおよびAlの内の1種または2種以上を合計で0.01〜0.5原子%を含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する請求項1記載の配線および請求項2記載の銅合金薄膜を成膜するためのスパッタリングターゲット。
【請求項4】
請求項1記載の配線および請求項2記載の電極を形成した液晶表示装置。

【公開番号】特開2009−185323(P2009−185323A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25297(P2008−25297)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】