説明

真空処理方法

【課題】基体ホルダー外周面に残留したダストが円筒状補助基体と円筒状基体の端面間の隙間から飛散することを防ぐことができる真空処理方法を提供し、画像欠陥の原因となる電子写真感光体の球状突起を低減することにある。
【解決手段】真空処理方法であって、チャッキング部材の一部と円筒状補助基体の円筒状基体とは反対側の端面とが接触することによりチャッキング部材が円筒状補助基体を加圧し、円筒状補助基体が円筒状基体を押圧して両者の端面同士を密着させる工程と、円筒状基体と円筒状補助基体の端面同士が密着した状態で、搬送容器内を真空排気する排気工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体上に堆積膜、とりわけ機能性膜、特に電子写真感光体に用いられる堆積膜を形成する真空処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、真空処理方法には、プラズマCVD法、イオンプレーティング法、プラズマエッチング法等、高周波電力により生成されるプラズマを用いた堆積膜形成法が知られており、そのための装置も数多く実用化されている。真空処理方法は、電子写真感光体、半導体デバイス、画像入力ラインセンサー、撮影デバイス、光起電力デバイス等を形成するために用いられる。
【0003】
例えば、プラズマCVD法を用いた堆積膜形成方法、つまり、グロー放電により原料ガスのプラズマを生成し、その分解種を基板上に堆積させることによって堆積膜を形成する方法がある。この方法を用いた場合、例えば、原料ガスにシランガスを用いることで、アモルファスシリコン薄膜の形成が容易であることが知られており、その製造装置も各種提案されている。
【0004】
このような堆積膜形成装置により高品質な堆積膜の形成が行われているが、堆積膜の更なる品質向上のために基体もしくは基体を設置するための基体ホルダーを保持、搬送するためのチャッキング部の改良が進められている。具体的には、基体ホルダーに設置した基体を搬送容器に設置し、それをチャッキング部材で固定した状態で搬送容器内を大気状態から真空状態に排気する工程に関して更なる改良が進められている。そのための手段として、基体ホルダーの凹状のチャッキング部位に残留した、液体ホーニング用研磨材などのダストが円筒状基体の表面に付着しないように、基体ホルダーの凹状のチャッキング部位の一部に貫通孔を形成する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−7654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来技術によれば、真空処理方法を用いて良好な堆積膜の形成を行うことができる。しかしながら、このような真空処理方法を用いて作製された電子写真感光体であってもまだ改善の余地があるのが現状である。
【0007】
特許文献1に記載の技術によれば、基体ホルダーの凹状のチャッキング部位の一部に貫通孔を形成して残留するダストの影響を防止することが可能となる。しかし、補助基体と円筒状基体とが接触する端面間に微小な隙間が残ると、搬送容器内を大気状態から真空状態に排気する際に隙間からダストが飛散してしまう場合がある。飛散したダストが円筒状基体の表面に少しでも付着すると、製造した電子写真感光体の表面には堆積膜の異常成長で生じる球状突起が発生してしまう。そして、表面に球状突起が発生した電子写真感光体を用いて出力された電子写真画像に画像欠陥が生じる場合がある。画像欠陥に対する市場の要求レベルは日々高まっており、この要求に応えるべく、より高品質な画像を出力可能な電子写真感光体を製造することができる真空処理方法の開発が求められるようになっている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、基体ホルダーの外周面に残留したダストが、接触し合う補助基体と円筒状基体の端面間の隙間から飛散することを防ぐことができる真空処理方法を提供し、画像欠陥の原因となる電子写真感光体の表面上の球状突起を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、基体ホルダーに円筒状基体と円筒状補助基体とを順にそれぞれの端面が接するように設置し、円筒状基体と円筒状補助基体が装着された基体ホルダーをチャッキング部材により保持し真空排気可能な搬送容器内に搬入し、円筒状基体を真空状態で搬送する真空処理方法において、
該基体ホルダーを該チャッキング部材で保持する際、該チャッキング部材の一部を該円筒状補助基体の円筒状基体とは反対側の端面に接触させることにより該チャッキング部材が該円筒状補助基体を加圧し、該円筒状補助基体が該円筒状基体を押圧して円筒状補助基体と円筒状基体の端面同士を密着させる工程と、
円筒状基体と円筒状補助基体の端面同士が密着した状態で、該搬送容器内を真空排気する排気工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基体ホルダーの外周面に残留したダストが円筒状補助基体と円筒状基体の端面間の隙間から飛散することを防ぐことができる真空処理方法を提供し、画像欠陥の原因となる電子写真感光体の表面上の球状突起を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る、円筒状基体と円筒状補助基体とを設置した基体ホルダーをチャッキング部材でチャッキングした状態を示す模式図である。
【図2】本発明に係る方法を実施する電子写真感光体の連続生産装置の一例を示す模式的な構成図である。
【図3】本発明に係る方法を実施する電子写真感光体用堆積膜形成装置の模式的な構成図である。
【図4】本発明の実施形態に係る、円筒状基体と円筒状補助基体とを設置した基体ホルダーをチャッキング部材でチャッキングした状態を示す模式図である。
【図5】従来技術に係る、円筒状基体と円筒状補助基体とを設置した基体ホルダーをチャッキング部材でチャッキングした状態を示す模式図である。
【図6】アモルファスシリコン電子写真感光体の層構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、真空処理方法において、堆積膜の球状突起の発生を抑制するために、基体ホルダーに装着した円筒状基体を搬送容器に設置し、円筒状基体をチャッキング部材で固定した状態で大気状態から真空状態に搬送容器内を真空排気する工程に関して鋭意検討を行った。その結果、基体ホルダーの外周面に残留したダストが真空排気中に円筒状補助基体の端部と円筒状基体の端部の間の隙間から飛散して円筒状基体の外周面に付着しないような態様で電子写真感光体を作製することが重要であることがわかった。
【0013】
上述したような従来技術の構成では、円筒状基体と円筒状補助基体の端面間は接触はしているが密着した状態となっていないことが判った。図5で示すように、基体ホルダー502のチャッキング側端部502aと円筒状補助基体504のチャッキング側端部504aは、略同じ高さである。この場合には、チャッキング部材503で基体ホルダー502を保持した際、チャッキング部材503が加圧する力が矢印513のように基体ホルダー502と円筒状補助基体504の両方に分散してしまう。特に、接触面積の小さい円筒状補助基体504の側への加圧が不十分な状態となり、円筒状補助基体504が円筒状基体501を押圧する力が小さくて円筒状補助基体504の下端部504bと円筒状基体501の上端部501aとの間の隙間が残ったままになってしまう。円筒状補助基体504の下端部504bと円筒状基体501の上端部501aの端面は、機械加工によりある程度の平滑性は保たれてはいるものの微視的な粗さを持っていることから、十分押圧されない時は微視的に見て隙間がある状態となる。
【0014】
そのため、基体ホルダー502の外周面と円筒状基体501の内周面との隙間に存在するダスト508が、矢印514のように真空排気中に円筒状補助基体504の下端部504bと円筒状基体501の上端部501aの端面間の隙間からの飛散するのを抑えられなかった。
【0015】
そこで、本発明者らは、チャッキング部材で基体ホルダーを保持する際、チャッキング部材503が加圧する力が円筒状補助基体504側のみに直接かかるような構成とした。その結果、円筒状基体501と円筒状補助基体504の端面同士が容易に十分に密着した状態にすることが可能となり、ダストの飛散を抑制出来ることを見出し、本発明に至った。
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の方法により、円筒状基体と円筒状補助基体を設置した基体ホルダーをチャッキング部材でチャッキングした状態を示す模式図である。
【0018】
円筒状基体101は、基体ホルダー102に設置され、チャッキング部材103により搬送容器(不図示)内に大気状態で設置され、その後、搬送容器内はチャッキング部材103で基体ホルダー102を保持したまま所定の圧力になるまで減圧される。
【0019】
まず、チャッキング部材103で保持された基体ホルダー102と円筒状基体101及び円筒状補助基体104の構成について説明する。
【0020】
基体ホルダー102は、円筒状基体101を基体ホルダー102の下部に設けられたフランジ部102bの上に設置する構成である。基体ホルダー102は、円筒状基体101の内周面に対向する位置に、円筒状基体101の内周面との間に隙間をおいて配置されている。また、円筒状補助基体104が、円筒状基体101の上方であって基体ホルダー102の外周面に対向する位置に、基体ホルダー102の外周面との間に隙間をおいて配置されている。
【0021】
ここで、円筒状補助基体104と基体ホルダー102は、円筒状補助基体104の円筒状基体とは反対側のチャンキング側端部104aが、基体ホルダー102のチャッキング側端部102aよりも上方位置(高い位置)にくるように構成されている。
【0022】
次に、チャッキング部材103の構成について説明する。
チャッキング部材103は、圧縮ばね112、爪部107及びシャフト106を備えている。チャッキング部材103は、下部にフランジ部を備えた筒状のケース110をさらに有している。そして、円盤105がケースの下部のフランジ部に取り付けられている。シャフト106はケース110の筒状部内に挿通されており、リンク機構111を介して先端には2つの爪部107が設けられている。2本の爪部107は、シャフト106を上下に移動することによりリンク機構111によって矢印107aの方向に移動して2本の爪部107同士が近づいたり離れたりできる。図1に示すようにチャッキング部材103が基体ホルダー102をチャッキングした状態は、2本の爪部107が離れた状態である。
【0023】
次に、チャッキング部材103による基体ホルダー102のチャッキング工程について説明する。図1を参照すると、まず、2本の爪部107同士が近づいた状態で、円筒状基体101が設置された基体ホルダー102の上端の頭部115をクランプ可能な位置までチャッキング部材103を下降させる。この時、圧縮ばね112の作用により円盤105に接触する円筒状補助基体104はチャッキング部材103により長手方向(矢印114)に加圧され、円筒状補助基体104が円筒状基体101を押圧して端面同士(104b、101a)が密着される。その後、2本の爪部107同士をリンク機構111によって離した状態にし、2本の爪部107を基体ホルダー102上端の頭部115にクランプさせる。これにより、基体ホルダー102上端の頭部115が2つの爪部107とチャッキング部材103の円盤105との間に固定され、チャッキング部材による基体ホルダーのチャッキング工程が完了する。
【0024】
続いて、図1に示した基体ホルダーとチャッキング部材の特徴について説明する。
基体ホルダー102に設置する円筒状基体101と円筒状補助基体104は、円筒状補助基体104のチャッキング側端部104aのほうが基体ホルダー102のチャッキング側端部102aよりも上方位置(高い位置)に設置された構成である。これより、チャッキング部材103の円盤105が円筒状補助基体104の円筒状基体とは反対側の端面、すなわち、チャッキング側端部104aの端面のみに接触し、チャッキング部材103の圧縮ばね112による強い圧力が円筒状補助基体104のみに直接作用する。その結果、円筒状補助基体104が円筒状基体101を押圧して円筒状基体101の上端部101aと円筒状補助基体104の下端部104bの端面同士が十分密着された状態で、搬送容器内を真空排気することが可能となり、ダストの飛散を抑制することができる。
【0025】
チャッキング部材103を構成する種々の部材の材質は、基体ホルダー102などの重量物を繰り返し搬送可能な強度を持つものであれば特に制限はない。例えば、ステンレスあるいは鉄が好ましく、その表面にニッケルあるいはクロムによるメッキ被膜処理したものがより好ましい。
【0026】
円筒状基体101の材質は、使用目的に応じたものであればよい。円筒状基体101の材質としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、チタン又はこれらの合金を用いることができる。中でも加工性や製造コストを考慮するとアルミニウムが優れている。この場合、Al−Mg系合金、Al−Mn系合金のいずれかを用いることが好ましい。
【0027】
また、基体ホルダー102及び円筒状補助基体104の材質としては円筒状基体101に用いられるものと同様のものが挙げられる。
【0028】
基体ホルダー102の形状に関しては円筒状基体101を真空反応容器の中に運搬ならびに保持することができるような形状であれば特に制限はない。しかし、円筒状基体101の設置がし易いことから、図1のように円筒状基体101の下端を保持するような形状が好適である。
【0029】
図1に示すように、円筒状補助基体104及び円筒状基体101は、チャッキング部材103の圧縮ばね112により長手方向に加圧されている。円筒状補助基体104及び円筒状基体101の変形強度は、長手方向が径方向に比べてはるかに高いため円筒状基体101は歪みにくい。そのため、円筒状補助基体104及び円筒状基体101の長手方向へ押圧する力を十分高く加えることができるため、円筒状基体101の下端部101aと円筒状補助基体104の下端部104bの端面同士を全周に渡って十分に密着させることが可能となる。
【0030】
円筒状補助基体104を加圧するチャッキング部材の構成は円筒状補助基体104を円筒状基体101の長手方向に加圧できれば特に制限はない。図1に示すような圧縮ばね112を用いた駆動機構以外に、モータとギアを用いた駆動機構及びシリンダによる駆動機構も好適な例として挙げられる。
【0031】
圧縮ばね112により加圧する場合は、ばねのバネ定数及び押し込み長さを適宜選択することで、円盤105と円筒状補助基体104との接触面に加圧する力を適切に調整することが可能となる。
【0032】
円筒状補助基体104を加圧する力が強すぎると円筒状補助基体104によって円筒状基体101が長手方向に押圧されたとしても、円筒状基体101に発生する歪みにより所望の電子写真特性が得られない場合がある。円筒状補助基体104を加圧する力が弱すぎると、円筒状基体101の下端部101aと円筒状補助基体104の下端部104bの端面同士が十分に密着されない場合がある。これらの点に留意して、円筒状補助基体104が円筒状基体101との接触部分に加える押圧する力を適宜決めることが好ましい。
【0033】
また、上述したようにチャッキング部材103が加圧する力を円筒状補助基体側のみに直接かかるような構成として、図1に示す構成以外に、図4に示す構成が好適な例として挙げられる。図4は、チャッキング部材403の円盤405が円筒状補助基体404の端面とのみに接触するように円盤405に突起部413を設けた構成である。突起部413の形状は、基体ホルダー402上端部に接触しなければ特に制限はない。突起部413の材質は、加圧状態を維持できる強度を持つものであれば特に制限はないが、例えば、ステンレスあるいは鉄が好ましく、その表面にニッケルあるいはクロムによるメッキ被膜処理したものがより好ましい。
【0034】
図2は、本発明に係る方法を実施する電子写真感光体の連続生産装置の一例を示す模式的な構成図である。図2に示す生産装置の構成は以下の通りである。この装置は大別すると、投入装置2100、加熱装置2200、反応装置2300、冷却及び排出装置2400、及びこれらの装置間で移動可能な搬送装置2500を備えている。
【0035】
搬送装置2500の搬送容器2502内には、基体ホルダー2510に設置された円筒状基体2508を掴むための爪及び、固定用の円盤、上下移動用のシャフト、圧縮ばね等を備えたチャッキング部材2507が設けられている。
【0036】
上記各装置の加熱容器2202、反応容器2302、冷却及び排出容器2402、搬送容器2502は真空に減圧可能な円筒状の縦型容器である。それらの容器の各々には容器内を真空排気する排気ポンプ2205、2305、2405、2505が設けられている。さらに、それらの容器の各々には、排気バルブ2203、2303、2403、2503、2509が設けられている。さらに、各容器には開閉ゲート2201、2301、2401、2501が設置されている。搬送装置2500の開閉ゲート2501は、他の各容器の開閉ゲート2201、2301、2401に接続可能になっている。
【0037】
投入容器2102には開閉ゲート2101が設けられている。投入容器2102内には、その内部を大気状態としたまま円筒状基体2508が設置される。加熱容器2202には加熱時に使用するガスを流入させる補助バルブ2204が設けられており、冷却及び排出容器2402には容器内を大気に戻すためのリークバルブ2404が設けられている。反応容器2302には、反応ガスを流入させる補助バルブ2304、2306、高周波マッチングボックス(不図示)、及び高周波電源(不図示)が接続されている。
【0038】
搬送容器2502には、容器内を真空に減圧するための排気バルブ2503、ゲート間を真空に減圧するための排気バルブ2509、ゲート間を大気圧に戻すためのリークバルブ2504が設けられており、内部空間を真空排気可能である。さらに、搬送容器2502には、基体ホルダー2510に設置された円筒状基体2508を移動させるためのチャッキング部材2507が設けられている。チャッキング部材2507は、基体ホルダー2510を保持して搬送容器2502内に対する基体ホルダー2510の搬入及び搬出を行う。搬送装置2500は、シャフトにより上下に移動可能であり、移動用レール2506の上を移動可能である。
【0039】
投入容器2102、加熱容器2202、反応容器2302、冷却及び取り出し容器2402の数は、それぞれの処理時間に応じた組み合わせが選択される。また、搬送容器2502は、同時に複数の基体を移送出来るように複数設けることも可能である。
【0040】
図2に示すような装置を用いた連続生産は、例えば以下のように行われる。
【0041】
作業者が基体ホルダー2510に設置された円筒状基体2508を投入容器2102内に設置した後に、搬送容器2502が、投入容器2102上に移動し、更に下降して、開閉ゲート2501が開閉ゲート2101に接続する。
【0042】
双方の開閉ゲート2501、2101を開き、円筒状基体2508を設置した基体ホルダー2510をチャッキング部材2507により搬送容器2502内に移動させた後、双方の開閉ゲートを閉じ、搬送容器2502を所定の位置まで上昇させる。この状態で搬送容器2502内を搬送容器2502の下部側から排気ポンプ2505及び排気バルブ2503によって排気し、大気圧から所定の真空度になるまで減圧する。所定の真空度に到達した時点で、搬送容器2502を、排気バルブ2203及び排気ポンプ2205により予め真空保持した加熱容器2202上に移動させる。その後、開閉ゲート2501を開閉ゲート2201に接続させ、排気バルブ2509を開けて排気ポンプ2505にて開閉ゲート間を真空にする。なお、搬送容器2502内が所定の真空度でない場合は、排気バルブ2503を開けて排気ポンプ2505にて減圧を行う。
【0043】
開閉ゲート2501、2201間が所定の真空度に到達した段階で、双方の開閉ゲートを開き、基体ホルダー2510に設置された円筒状基体2508をチャッキング部材2507により加熱容器2202内に移動させる。円筒状基体2508を加熱容器2202内に設置し、チャッキング部材2507を搬送容器2502内に引き上げた後、双方の開閉ゲートを閉じ、開閉ゲート間リークバルブ2504からリーク用ガスを流し、開閉ゲート間を大気圧にする。その後、搬送容器2502の開閉ゲート2501は開閉ゲート2201から切り離される。
【0044】
加熱容器2202内では、加熱用ガスを補助バルブ2204から所定の圧力になるまで加熱容器2202内に供給し、容器内に設置されているヒーター(不図示)を用いて円筒状基体2508を所定の温度に加熱する。
【0045】
加熱された円筒状基体2508は、搬送容器2502の開閉ゲート2501を再び開閉ゲート2201に接続させ、排気バルブ2509を開けて排気ポンプ2505にて開閉ゲート2501、2201間を真空にする。開閉ゲート間が所定の真空度に到達した段階で、双方の開閉ゲートを開き、基体ホルダー2510に設置された円筒状基体2508をチャッキング部材2507により搬送容器2502内に移動させる。移動後、双方の開閉ゲートを閉じ、開閉ゲート間リークバルブ2504からリーク用ガスを流し、開閉ゲート間を大気圧にする。その後、搬送容器2502の開閉ゲート2501は開閉ゲート2201から切り離され、後工程へ移動する。
【0046】
後工程においては、反応容器2302、冷却及び排出容器2402と搬送容器2502との間で円筒状基体2508の受け渡しは、上記と同様の操作で行う。
【0047】
反応容器2302内では、所定の手段により円筒状基体2508上に堆積膜が形成される。冷却及び排出容器2402内では、基体ホルダー2510に設置された円筒状基体2508が所定の温度になるまで冷却される。そして、冷却及び排出容器2402内には、冷却及び排出容器2402内が大気圧になるまでリーク用ガスをリークバルブ2404から流した後、円筒状基体2508が搬出される。
【0048】
次に、図3に示す堆積膜形成装置を使った堆積膜の形成方法について説明する。まず、あらかじめ脱脂洗浄した円筒状基体3112を基体ホルダー3123上にセットし、図2で説明した搬送装置を用いて、反応容器3100内に設置する。反応容器3100内は排気ポンプ(図示せず)により予め真空保持されている。また、基体加熱用ヒーター3113には予め電力を供給し、加熱容器で加熱された円筒状基体3112を、例えば50℃から350℃の所望の温度に保たれるよう加熱する。このとき、ガス供給装置3200より、Ar、He等の不活性ガスを反応容器3100に供給して、不活性ガス雰囲気中で加熱を行うこともできる。
【0049】
次に、ガス供給装置3200より堆積膜形成に用いるガスを反応容器3100に供給する。すなわち、補助バルブ3210を開けて、必要に応じバルブ3231〜3236、3241〜3246、3251〜3256を開き、マスフローコントローラ3211〜3216の流量設定を行う。各マスフローコントローラ3211〜3216の流量が安定したところで、真空計3119の表示を見ながら反応容器3100内の圧力が所望の圧力になるように調整する。反応容器3100内の圧力を調整するためには、例えばメカニカルブースターポンプの回転数を操作することが挙げられる。
【0050】
所望の圧力が得られたところで高周波電源3120より高周波電力を印加すると同時に高周波マッチングボックス3115を操作し、反応容器3100内にプラズマ放電を生起する。その後、速やかに高周波電力を所望の電力に調整し、堆積膜の形成を行う。
【0051】
所定の堆積膜の形成が終わったところで、高周波電力の印加を停止し、バルブ3231〜3236、3241〜3246、3251〜3256、及び補助バルブ3210を閉じ、原料ガスの供給を終える。同時に、メインバルブ3118を全開にし、反応容器3100内を1Pa以下の圧力まで排気する。
【0052】
以上で、堆積層の形成を終えるが、複数の堆積層を形成する場合、再び上記の手順を繰り返してそれぞれの層を形成すれば良い。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0054】
[実施例1]
図2の連続生産装置及び図3の堆積膜形成装置を用いて、Al-Mg系合金5052よりなる外径84mm、長さ381mm、肉厚3mmの円筒状基体の上に表1に示す条件で図6に示す層構成の、アモルファスシリコンからなる電子写真感光体を5本作製した。図6中の符号601は基体、602は下部電荷注入阻止層、603は光導電層、604は表面層をそれぞれ示す。
本実施例では、図1に示す円筒状基体及び円筒状補助基体の設置方法及びチャッキング部材を使用した。
本実施例では、Al-Mg系合金5052よりなる外径84mm、長さ100mm、肉厚3mmの円筒状の補助基体104とAl-Mg系合金5052よりなる基体ホルダー102を用いた。
【0055】
円筒状補助基体104の上端部104aのみをチャッキング部材103の円盤105に接触させることによりチャッキング部材103が円筒状補助基体104のみを直接加圧する構成とした。
具体的には、基体ホルダー102に円筒状基体101及び円筒状補助基体104を設置する際、基体ホルダー102の上端部102aの高さが円筒状補助基体104の上端部104aより低くなる長さの円筒状補助基体104を用いた。そして、円筒状基体101の上端部101aと円筒状補助基体104の下端部104bの端面同士が十分な密着状態となるように、チャッキング部材103の圧縮ばね112のバネ定数や圧縮される長さを設定してチャッキング部材103により円筒状補助基体104を加圧した。
チャッキング部材103を構成するすべての部材の材質は、母材が鉄からなり表面に厚さ3μmのニッケルメッキ被膜処理を施したものである。
【0056】
また、本実施例では、搬送容器2502内の大気状態から真空状態への排気は、図2のように搬送容器2502内に円筒状基体2508を設置し、チャッキング部材2507でクランプ固定したままで行った。具体的には、大気状態の搬送容器2502内から排気バルブ2509及び排気ポンプ2505によって排気を行い、15分後に搬送容器2502内の圧力が2.67kPaに達する排気速度で真空排気を行った。
【0057】
【表1】

【0058】
<比較例1>
図5に示す構成の基体ホルダー502の上端部502aと円筒状補助基体504の上端部504aの高さが同じとなる長さの円筒状補助基体504を用いること以外は、実施例1と同様に表1に示す条件で、電子写真感光体を5本作製した。
【0059】
本比較例では、基体ホルダー502の上端部502aと円筒状補助基体504の上端部504aがチャッキング部材503の円盤505に接触することにより、チャッキング部材503が基体ホルダー502と円筒状補助基体504の両方を加圧する構成となる。そのため、チャッキング部材503の圧縮ばね512のバネ定数や圧縮される長さの設定は実施例1と同じであるため、円筒状基体501の上端部501aと円筒状補助基体504の下端部504bの端面同士が十分な密着状態とはならなかった。
【0060】
実施例1及び比較例1で作製した電子写真感光体に対して、「球状突起」の評価を以下の方法で行った。
作製した電子写真感光体に対して、長手方向の電子写真感光体の中心から±170mmの領域を光学顕微鏡で観察し、電子写真感光体の表面に存在する直径10μm以上の球状突起の個数を調べた。
作製した5本の電子写真感光体の球状突起の個数の平均値を「球状突起数」とし、比較例1で得られた平均値を100とした相対比較を行った。値が小さいほど球状突起の個数が少なく画質に優れていることを示す。その結果を表2に示す。
【0061】
[実施例2]
図4に示すチャッキング部材403を構成する突起部413を有した円盤405及び基体ホルダー402の上端部402aと円筒状補助基体404の上端部404aの高さが同じとなる長さの円筒状補助基体404を用いる以外は、実施例1と同様の条件で電子写真感光体を5本作製した。
本実施例では、チャッキング部材403が円筒状補助基体404のみを直接加圧するために円筒状補助基体404の上端部404aが接触する突起部413を円盤405に設ける構成とした。
突起部413の部材の材質は、母材が鉄からなり表面にニッケルメッキ被膜処理を施したものである。
また、チャッキング部材403の圧縮ばね412のバネ定数や圧縮される長さの設定は実施例1と同じであるため、円筒状基体401の上端部401aと円筒状補助基体404の下端部404bの端面同士が十分な密着状態となる。
【0062】
作製した電子写真感光体に対し実施例1と同様の方法で球状突起の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に示す結果から、実施例1及び実施例2の真空処理方法によって作製した電子写真感光体は、表面上の球状突起数が改善されており、本発明の効果が明らかとなった。
【符号の説明】
【0065】
101、401、501 円筒状基体
102、402、502 基体ホルダー
103、403、503 チャッキング部材
104、404、504 円筒状補助基体
105、405、505 円盤
112、412、512 圧縮ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体ホルダーに円筒状基体と円筒状補助基体とを順にそれぞれの端面が接するように設置し、円筒状基体と円筒状補助基体が装着された基体ホルダーをチャッキング部材により保持し真空排気可能な搬送容器内に搬入し、円筒状基体を真空状態で搬送する真空処理方法において、
該基体ホルダーを該チャッキング部材で保持する際、該チャッキング部材の一部を該円筒状補助基体の円筒状基体とは反対側の端面に接触させることにより該チャッキング部材により該円筒状補助基体を加圧し、該円筒状補助基体が該円筒状基体を押圧して円筒状補助基体と円筒状基体の端面同士を密着させる工程と、
円筒状基体と円筒状補助基体の端面同士が密着した状態で、該搬送容器内を真空排気する排気工程とを有することを特徴とする真空処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−241278(P2012−241278A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115889(P2011−115889)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】